(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】前もって歯が加工された工作物の超硬精密加工のためのスカイビング加工工具(Waelzschaelwerkzeug)及び方法
(51)【国際特許分類】
B23F 21/10 20060101AFI20230609BHJP
B23F 5/16 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
B23F21/10
B23F5/16
(21)【出願番号】P 2019520415
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2017075792
(87)【国際公開番号】W WO2018073047
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】599172531
【氏名又は名称】ライシャウァー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ハニ
(72)【発明者】
【氏名】フランク ハウフェ
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー キルシュ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトムート マルクス
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第10308234(DE,A1)
【文献】特開2015-044282(JP,A)
【文献】特開2016-016514(JP,A)
【文献】実開平02-053302(JP,U)
【文献】特開平05-084603(JP,A)
【文献】独国実用新案第202009009518(DE,U1)
【文献】実開平02-043107(JP,U)
【文献】実開昭53-002790(JP,U)
【文献】特表2008-521636(JP,A)
【文献】特開昭60-071114(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02570218(EP,A2)
【文献】特開2014-104578(JP,A)
【文献】特開2014-039971(JP,A)
【文献】国際公開第2016/096451(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 21/10、14
B23F 5/16
B23B 27/14、18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前もって歯が加工された工作物(2)をスカイビング加工するための工具であって、
工具軸(B1)を画定し、かつ、端面にて歯先円(Dk)を画定する歯車形状の本体(1.1)と、
前記歯先円(Dk)の領域の端面にて前記本体(1.1)上に配置される1又は複数の切削インサート(1.2;1.3;1.4)であって、前記切削インサート(1.2;1.3;1.4)のそれぞれは、少なくとも1つの切削歯(1.2.1)を含み、前記切削歯(1.2.1)は、少なくとも前記切削歯(1.2.1)の1つの歯面に沿って、前記切削歯(1.2.1)の歯先から歯元まで延びる切れ刃(6)を形成し、前記切削歯は、前記切れ刃(6)と関連するすくい面(5.5)と、前記切れ刃(6)と関連する逃げ面(5.1~5.4)とを有する1又は複数の切削インサート(1.2;1.3;1.4)と、を備える工具において、
前記すくい面(5.5)には、前記切れ刃(6)に沿って、前記すくい面(5.5)に対して面取り角度(γ1、γ2)だけ傾斜するように延びるすくい面面取り部(7)が設けられ、
前記面取り角度(γ1、γ2)は前記切れ刃(6)に沿って変化し、
前記すくい面面取り部(7)は、前記工作物(2)が工作物軸(C1)を中心に回転され、前記工具(1)が前記工作物(2)と転がり係合して工具軸(B1)を中心に回転されるときに、前記切れ刃(6)が前記工作物(2)の歯溝を通り抜ける間に生じる切り屑が、もっぱら前記すくい面面取り部(7)を通って流れ去るように構成され、前記工具は、前記工作物軸(C1)に対して傾けて整列され、前記すくい面(5.5)が基準面としてのみ機能し、
前記面取り角度(γ1、γ2)は、前記切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間に、前記切れ刃(6)の各点において、前記すくい面面取り部に関する面取り部すくい角が形成されるように、前記切れ刃に沿って変化し、前記面取り部すくい角は事実上のすくい角として機能し、前記切れ刃上の各点の前記面取り部すくい角は、切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間の転がり角に依存し、
前記面取り角度(γ1、γ2)は、前記切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間をとおして、前記切れ刃(6)の各固定点で計算される面取り部すくい角の基準値
の切れ刃に沿った変化が、すくい面面取り部が存在せずに切り屑が直接すくい面(5.5)を通って流れ去る場合のすくい角に対する対応する基準値よりもその変化の程度が小さくなるように、前記切れ刃(6)に沿って変化
し、前記基準値が、加重平均値、非加重平均値、又は、数値的最大値であることを特徴とする工具。
【請求項2】
前記面取り角度(γ1、γ2)は、切れ刃全体に沿った前記面取り部すくい角が負であり、かつ前記面取り部すくい角の数値的最大値が-5°~-40°の範囲にあるように、前記切れ刃に沿って変化することを特徴とする、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記切れ刃(6)全体に沿う前記すくい面面取り部(7)は、前記切れ刃(6)が前記工作物(2)の歯溝を通り抜ける間に生じる切り屑の最大厚さより大きい幅(Bre,Bli)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の工具。
【請求項4】
前記切れ刃(6)に沿う前記面取り角度(γ1、γ2)は、前記歯面の少なくとも1つに沿って歯先(Xk)から歯元(Xf)まで、連続的に増加するか、又は連続的に減少することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の工具。
【請求項5】
前記すくい面面取り部(7)は少なくとも50マイクロメートルの幅を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の工具。
【請求項6】
前記すくい面面取り部(7)は、前記切れ刃(6)に沿って変化する幅(Bre、Bli)を有し、前記幅(Bre、Bli)は、前記歯面の少なくとも1つに沿って歯先(Xk)から歯元(Xf)まで連続的に増加するか、又は連続的に減少することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の工具。
【請求項7】
前記切削歯の切れ刃(6)は少なくとも15マイクロメートルの半径(R)で丸められていることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の工具。
【請求項8】
前記全ての切削歯(1.2.1)のすくい面(5.5)は、1つの共通な平面に配置され、前記共通な平面は前記工具軸(B1)に直交するように延びることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の工具。
【請求項9】
前記切削インサート(1.2;1.3;1.4)は、接続層(1.7)を形成したうえで、前記本体(1.1)に一体的に結合されることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の工具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の工具を用いたスカイビング加工によって、前もって歯が加工された工作物を精密加工するための方法において、
前記工作物(2)は工作物軸(C1)を中心に回転され、
前記工具(1)は、前記工作物(2)と転がり係合して、前記工作物軸(C1)に対して傾けて整列される工具軸(B1)を中心に回転され、前記転がり係合が転がり角を画定し、
前記工具(1)は、前記工作物軸(C1)と平行又は逆平行の方向に軸方向に送られ、
前記切れ刃(6)に沿った各切削歯(1.2.1)の前記すくい面(5.5)は、前記すくい面(5.5)に対して面取り角度(γ1、γ2)で傾斜するように延びるすくい面面取り部(7)を備え、前記面取り角度(γ1、γ2)は前記切れ刃(6)に沿って変化し、
前記すくい面面取り部(7)は、前記切れ刃(6)が前記工作物(2)の歯溝を通り抜ける間に生じる切り屑は、もっぱら前記すくい面面取り部(7)を通って流れ去るように構成され、前記すくい面(5.5)が基準面としてのみ機能し、
前記面取り角度(γ1、γ2)は、前記切れ刃(6)が前記工作物(2)の前記歯溝を通り抜ける間に、前記切れ刃(6)の各点において、前記すくい面面取り部に関する面取り部すくい角が形成され、前記面取り部すくい角は事実上のすくい角として機能し、
前記切れ刃上の各点の前記面取り部すくい角は、切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間の転がり角に依存し、
前記面取り角度(γ1、γ2)は、前記切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間をとおして、前記切れ刃(6)の各固定点で計算される面取り部すくい角の基準値の切れ刃に沿った変化が、すくい面面取り部が存在せずに切り屑が直接すくい面(5.5)を通って流れ去る場合のすくい角に対する対応する基準値よりもその変化の程度が小さくなるように、前記切れ刃(6)に沿って変化するように形成され
、前記基準値が、加重平均値、非加重平均値、又は、数値的最大値であることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記面取り角度(γ1、γ2)は、切れ刃全体に沿った前記面取り部すくい角が負であり、かつ前記面取り部すくい角の数値的最大値が-5°~-40°の範囲にあるように、前記切れ刃に沿って変化することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記切れ刃(6)全体に沿う前記すくい面面取り部(7)は、前記切れ刃(6)が前記歯溝を通り抜ける間に生じる切り屑の最大厚さより大きい幅(Bre,Bli)を有する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
スカイビング加工による、前もって歯が加工された工作物(2)の超硬精密加工のための、請求項1~9のいずれかに記載の工具の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前もって歯が加工された、回転する、特に硬化又は高張力工作物をスカイビング加工するための工具、そのような工具を製造する方法、及びそのような工具を用いてのスカイビング加工による超硬精密加工法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、切れ刃(ドイツ語:Schneide)、主切れ刃(ドイツ語:Hauptschneide)、副切れ刃(ドイツ語:Nebenschneide)、すくい面(ドイツ語:Spanflaeche)、すくい面面取り部(ドイツ語:Spanflaechenfase)、逃げ面(ドイツ語:Freiflaeche)、逃げ面面取り部(ドイツ語:Freiflaechenfase)、切削ウェッジ(ドイツ語:Schneidkeil)、すくい角(ドイツ語:Spanwinkel)、面取り部すくい角(ドイツ語:Fasenspanwinkel)などの用語は、DIN規格6580:1985-10及びDIN規格6581:1985-10に従って使用される。同様に、切削運動(ドイツ語:Schnittbewegung)、送り運動(ドイツ語:Vorschubbewegung)、及び作用運動(ドイツ語:Wirkbewegung)などの運動、並びに、工具基準面(ドイツ語:Werkzeugbezugsebene)、切削面(ドイツ語:Schneidenebene)、ウェッジ測定面(ドイツ語:Keilmessebene)、及び加工面(Arbeitsebene)などの基準面も、前記規格に従って使用される。
【0003】
スカイビング加工は、歯切り法として少なくとも1910年から知られており、非常に古い方法である。特許文献1にこの方法についての最初の記載がある。スカイビング加工法は、軸対称の周期的構造を製造するための、連続的に切り屑を除去する方法であり、歯車型の工具が使用される。これらの工具の歯はそれらの端面に切れ刃を有する。工具と工作物は回転するスピンドル上に取り付けられる。工具の回転軸と工作物の回転軸は傾けて配置される。これら回転軸を中心とした工具及び工作物の回転運動を連結することによって、この方法に特徴的な転がり運動(Waelzbewegung)が起こる。スカイビング加工の間、この転がり運動、及び、工作物軸に沿った工具もしくは工作物の送り運動によって、前進及び後退の両方向に切削運動を生み出すことができる。この切り屑除去方法によって、外歯及び内歯を加工することができる。
【0004】
スカイビング加工法の不利な点は、複雑で工作物特異的な工具の、複雑な製造、及び、急速な摩耗にある。工具の後加工(nachbearbeitung)を容易にするために、交換可能なブレードバーを有するスカイビング加工工具が特許文献2に提案されている。このブレードバーは、着脱可能な固定手段によって本体内に保持され、個別に後加工することができる。
【0005】
交換可能な切削要素を有するスカイビング加工工具は、特許文献3からも公知である。この切削要素は個々に工具収容部に接続される。特許文献4に、交換可能な切削要素を有するさらなるスカイビング加工工具が開示されている。この歯形状の切削要素は、個々に本体にねじ止めされている。
【0006】
上述の工具の場合、切れ刃の位置の正確さは、個々の切削要素を別々に設置することによって制限される。さらに、上記工具はそれぞれ、製造及び構造が非常に複雑である。
【0007】
特許文献5では、スカイビング加工の際、工作物に対する工具の軌道運動によって、係合の各時点で異なるすくい角と異なる逃げ角が生じることがわかった。この文献によれば、切削係合の間のすくい角は、プロセスに伴って次第に変化し、-50°にもなる大きな負の値さえとり得る。好ましくない切削条件を回避するために、この文献は、逃げ面の輪郭を決定するための方法を提案するが、すくい面の位置や設計に関する詳細は提供しない。
【0008】
非特許文献1では、切り屑形成におけるプロセス特有の条件と、それから結果として生じるスカイビング加工技術の欠点が包括的に論じられている。
【0009】
スカイビング加工では、切り屑は、入り面、先端、及び外向き面から相互に連結して構成されて、歯車製造技術で知られている三面切り屑(Dreiflankenspan)を形成する。これは、さらに、切り屑生成における方法特有の擾乱を特徴とする。切削処理の間、切れ刃は工作物表面と線接触している。切れ刃は、切れ刃上の多数の点を用いて個々の領域に細分化して、点の集まりと見なすことができる。切れ刃上のこれらの点それぞれに対して、対応する運動経路を表すことができる。切れ刃上の各点において、切削運動の方向ベクトルと切れ刃のすくい面は異なるすくい角を形成し、これはさらに切削運動の過程で変化する。すなわち、すくい角は、一方で切れ刃に沿って空間的に変化し、他方で歯溝を通って切れ刃が移動する間に時間的に変化する。
【0010】
従って、切削処理中の切り屑形成は、例えば旋盤加工の場合のように均一でなく、各切れ刃部分の受ける応力は異なり経時的に変化する。特に、超硬精密加工においては、その比較的大きい加工力を考えると、様々な切れ刃部分にこうした大幅に異なる応力がかかることは不都合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許発明第243514号明細書
【文献】米国特許第8950301号明細書
【文献】独国特許発明第10 2012 011 956号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0063927号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0314382号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】クリストフ キューレヴァイン(Christoph Kuehlewein)、「3D-FEM-シミュレーションを用いたスカイビング加工法の考察と最適化」、研究報告書174巻、カールスルーエ大学wbk研究所、2013、8~51頁、109~112頁、149~146頁、155~176頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
第1の態様において、本発明の目的は、前もって歯が加工された工作物の超精巧な超硬精密加工に適し、単純であるものの非常に精巧に製造することのできるスカイビング加工工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載のスカイビング加工工具によって達成される。さらなる実施形態は従属請求項に記載される。
【0015】
従って、本発明は、前もって歯が加工された工作物をスカイビング加工するための工具を提供する。この工具は、工具軸を画定し、かつ、端面にて歯先円を画定する歯車形状の本体と、前記歯先円の領域の端面にて前記本体上に配置される1又は複数の切削インサートとを備える。前記切削インサートのそれぞれは、少なくとも1つの切削歯を有する。前記切削歯は、少なくとも切削歯の歯面のうちの1つに沿って延びる切れ刃を形成する。これにより、前記切削歯は、前記切れ刃と関連するすくい面と、前記切れ刃と関連する逃げ面とを有する。用語切れ刃(ドイツ語:Schneide)、すくい面(ドイツ語:Spanflaeche)、及び逃げ面(ドイツ語:Freiflaeche)に関しては上記DIN規格を参照のこと。特に、上記切削インサートは硬質の耐摩耗材料から作られる。
【0016】
本発明によれば、切削歯のすくい面に、切れ刃に沿って延び、かつすくい面に対して面取り角度で傾斜するすくい面面取り部が設けられ、前記面取り角度が切れ刃に沿って変化する(すなわち、面取り角度は切れ刃の全長にわたって一定ではなく、切れ刃の少なくとも一部分において変化する)。特に、この面取り角度は、切削歯の少なくとも1つの歯面に沿って変化する。この変化は、好ましくは連続的であり、すなわち段状でない。
【0017】
本明細書における面取り角度は、切れ刃の長さに沿って、特に切削歯の1つの歯面の長さに沿って、少なくとも1°変化する場合に可変であるとみなす。いくつかの実施形態では、面取り角度は、切れ刃の長さに沿って、又は上記歯面の長さに沿って、2°を超えて、又は5°をも超えて変化し得る。
【0018】
切れ刃に、面取り角度を変えることのできるすくい面面取り部が設けられることによって、切れ刃の各点において適切な面取り角度を選択することで、切り屑除去状況に狙い通りの影響を与えることが可能になる。特に、すくい面面取り部が存在しない場合よりも、切れ刃に沿ってより均一な切り屑除去状況を達成することが可能になる。これに関連するより詳細な考察は、
図3~5との関連において以下で検討する。
【0019】
すくい面面取り部は、生成される切り屑が、DINに従って定義されるすくい面ではなく、もっぱらすくい面面取り部で流れ去る(ablaufen)ことができるように十分に広く構成されることが好ましい。これにより、すくい面は、DIN規格によって与えられている特徴を失い、すくい面上に面取り部を設計して作るための基準面としてのみ関連し続ける。従って、切削工程に関連するのは、もはや、主として、すくい面の空間的な向きではなく、すくい面面取り部の向きである。従って、すくい角(DINに従ってすくい面に対して測定される)ももはや関連がなく、面取り部すくい角(すなわち、すくい面面取り部に対して測定されるすくい角)に関連する。この面取り部すくい角は、以下で事実上のすくい角とも呼ばれる。
【0020】
超硬精密加工での切り屑がもっぱらすくい面面取り部を通って流れ去ることを確実にするために、すくい面面取り部は少なくとも50マイクロメートル、好ましくは少なくとも100マイクロメートル、又は数学的に予測される切り屑厚さの少なくとも2倍の幅(工具切れ刃の法平面(Werkzeug-Schneidennormalebene)で測定された)を有することが有利である。
【0021】
切れ刃は、好ましくは、右側歯面と左側歯面の両方に沿った部分を有する。これにより、同じ作業工程で工作物の歯部の両歯面を加工することが可能になる。このとき、切り刃上のすくい面面取り部は、左側歯面と右側歯面の両方に沿って構成されることが好ましい。この場合、すくい面面取り部の面取り角度は、これら歯面のうちの少なくとも一方に沿って変化するが、他方の歯面上のすくい面面取り部の面取り角度は場合によって一定であってもよい。しかしながら、工具を用いて片側歯面加工のみが行われる実施形態も考えられる。この場合、この歯面に沿って1つのすくい面面取り部が設けられれば十分である。さらに、切削歯は、歯先に切れ刃領域を有し、任意に歯元にも切れ刃領域を有することができ、これらの領域に切れ刃面取り部を設けることもできる。好ましくは、歯元から左側歯面に沿って歯先及び右側歯面を経て次の歯元まで途切れることなく延びる連続する切れ刃が、切削歯上に形成される。この場合、好ましくは、すくい面面取り部は、少なくとも左側歯面、歯先、及び右側歯面に沿って連続的に延びる。
【0022】
工作物の幾何学的形状、工具の幾何学的形状、及び機械の運動学的設定に応じて、切れ刃に沿った面取り角度が、歯面の少なくとも一方に沿って連続的に増加又は連続的に減少する、例えば、歯先から歯元まで少なくとも20%増加又は減少する、ことが特に有利である。切れ刃が他方の歯面にもわたって延びる場合、第2の歯面に沿った面取り角度は一定であってもよいし、第1の歯面と同様に変化することもできる(すなわち、同様に連続的に増加又は減少する)。第2の歯面に沿った面取り角度の変化の方式は逆であってもよく、又は任意の別の方式で変化してもよい。既に説明したように、個々の場合に最適な面取り角度の変化の方式は、工作物の幾何学的形状、工具の幾何学的形状、及び運動学的設定等の各種パラメータに依存する。
【0023】
すくい面面取り部の幅もまた切れ刃に沿って変化することができる。これは、多くの場合、すくい面面取り部の面取り角度が切れ刃に沿って変化するということによって、製造技術上の理由から既に余儀なくされる。具体的には、使用者の観点から、少なくとも1つの歯面に沿った切れ刃は、常に、すくい面と一定の距離をおいて平行に延びる単一の切削面にあることが望ましい場合もある。しかしながら、このような状況においては、必然的に、この歯面に沿ったすくい面の面取り部の幅は、すくい面に対する面取り角度が小さいほど大きい。しかしながら、すくい面面取り部の面取り幅を固定して、すくい面面取り部の面取り角度のみを変化させることも考えられる。しかしながら、この場合、切れ刃は単一の平面内には存在せず、湾曲した空間的輪郭を呈するであろう。
【0024】
工作物の幾何学的形状、工具の幾何学的形状、及び機械の運動学的設定に応じて、切れ刃に沿ったすくい面面取り部の幅は、歯面のうちの少なくとも一方に沿って、歯先から歯元まで連続的に増加又は連続的に減少する場合、特に有利であり得る。他方の歯面のすくい面面取り部の幅は一定でもよいし、又は任意の方式で変化してもよい。
【0025】
切れ刃の製作を簡単にし、かつウェッジの角度を局所的に(切れ刃のすぐ近くで)大きくするために、切れ刃に沿った切削歯の逃げ面に、逃げ面面取り部を設けることができる。本明細書における逃げ面面取り部は、切れ刃の一部に沿ってのみ、又は切れ刃全体に沿って設けることができる。逃げ面面取り部は、一定の面取り角度(逃げ面と逃げ面面取り部との間の角度として切れ刃の法平面において測定される)を有することができ、又はそれぞれの面取り角度を切れ刃に沿って変化させることができる。
【0026】
切削歯の切れ刃は、ある半径で丸めることができる。この場合、この半径が、予測される切り屑厚さの10%から40%の間に相当すると有利である。絶対数で示せば、半径は有利には少なくとも15マイクロメートル、実際には多くの場合、15~50マイクロメートルである。前記半径は、切れ刃に沿って変化することができ、特に、歯元から歯先まで増加することができる。
【0027】
好ましくは、工具の全ての切削歯のすくい面は、工具に対して固定される1つの共通な平面内に配置され、この共通な平面は工具軸に直交するように延びる。切り屑は実質的にもっぱらすくい面面取り部を通って流れ去り、すくい面はもはや切り屑形成に関与しないので、既に上述したようにすくい面は単なる基準面となる。従って、この基準面の空間的な向きは自由に選ぶことができる。この向きを工具軸に直交するように選択することにより、切削インサートの極めて簡単な製造と組み立てが可能になる。全ての切削インサートを1つの共通の平面に配置し、この平面に対して非常に簡単な方法で整列させて、一緒に組み立てることができ、複数の切削歯を単一の切削インサートに形成することができる。
【0028】
このとき、前記工具に、特に螺旋状に歯をつける(schraegverzahnt)ことができる、すなわち、歯車形状の本体の歯及び切削インサートの切削歯は工具軸と平行に延びずに、工具軸に対し傾斜して延びる。螺旋状に歯のついた工具に関する従来技術とは対照的に、この場合、全ての切削歯のすくい面は、それでもなお好ましくは1つの共通な平面にあり、一方、従来技術のすくい面は、通常、段状に互いにずれて配置される。
【0029】
硬質で耐摩耗性の切削インサートは、好ましくは、接続層を形成したうえで、例えば接着結合又ははんだ付け/ろう付け、あるいは他の最新もしくは将来の接続技術によって、より柔らかい本体に材料的に一体的に結合される。これにより、切削インサートをしっかりと固定することができる。これらの切削インサートは、いったん切削インサートが本体に一体的に結合された後、切削インサートが工作物の加工に使用される前に、工具上で最終的に加工されるのが好ましい。
【0030】
加工力が変化することによって生じる振動を減衰させるために、接続層は、切削歯の歯先の領域において、歯元の領域より厚く、特に10~200マイクロメートル、より好ましくは20~100マイクロメートル、特に好ましくは30~50マイクロメートルだけ厚くなるように構成されると有利である。この場合、歯先の領域における接続層は減衰層を形成し、これは振動を直接、発生場所で減少させる。
【0031】
減衰層を簡単な方法で形成するために、本体は、歯先円の領域に、例えば旋盤等で削った(Abdrehung)形での端面凹部を有することができ、凹部は10~200マイクロメートル、特に20~100マイクロメートル、特に好ましくは30~50マイクロメートルの対応する深さを有し、好ましくは本体の最外周まで延びる。この場合、接続層は、凹部の領域内に延在し、そこに減衰層を形成する。
【0032】
切断要素を本体上に簡単な方法で位置決めするために、前記工具は位置決めディスクと、位置決めディスクの外周に形成される位置決め要素とを任意に備えることができる。この場合、切削インサートは、位置決めディスクの外周に配置され、切削インサートの内側に保持要素が設けられ、保持要素は、位置決め要素と相補的であるように設計され、かつ、半径方向及び/又は接線方向に関して、前記位置決めディスクと切削インサートとの間に、好ましくは形状嵌合又は単純な位置決めのみを確立する。このようにして、切削インサートは、材料的に一体的な接続が確立される前に非常に簡単な方法で予め位置決めすることができる。あるいは、このタイプの位置決め要素を本体上に構成することもでき、それによって、追加の位置決めディスクを省くことができる。しかしながら、現在の製造方法を用いて、この追加のディスクを非常に費用効果的な方法で製造することができるので、上記スカイビング加工工具もより費用効果的な方法で製造することが可能になる。
【0033】
この点で、本発明はまた、前もって歯が加工された、回転する工作物をスカイビング加工するための、以下を備えた工具を提供する:
工具軸を画定し、かつ、端面にて歯先円を画定する歯車形状の本体と、
前記歯先円の領域の端面にて前記本体上に配置される1又は複数の切削インサートであって、前記切削インサートのそれぞれは、少なくとも1つの切削歯を有し、
前記切削インサートは前記本体に一体的に結合され、好ましくは接着接合され、
前記工具は、追加の位置決めディスクの外周又は歯車形状の本体に配置される位置決め要素を含み、
前記切削インサートは前記工具の外周に配置され、
前記工具は及び
前記切削インサートの内側に保持要素が設けられ、これらは、前記位置決め要素と相補的であり、かつ、半径方向及び/又は接線方向に関して、前記位置決め要素と前記切削インサートとの間に、位置決め又は形状嵌合を確立するように形成される。
【0034】
位置決めディスクの軸方向(すなわち工具軸に沿って測定したとき)の厚さは、切削インサートより小さいか又は最大でも同じであることが好ましい。
【0035】
切削インサートの固定を改善するために、上記工具は歯車形状の補助ディスクを有することができ、切削インサートを本体と補助ディスクとの間に軸方向に配置して、本体及び補助ディスクの両方に一体的に結合、好ましくは接着結合又ははんだ付け/ろう付けする。
【0036】
有利な実施形態では、切削インサートはそれぞれ複数の歯、例えば2、3、4、5、6、7、又はそれ以上の歯を有する。切削インサートは、好ましくは円弧形状であり、切削インサートの外周に円弧に沿って切削歯が配置される。この場合、切削インサートは、全体で、本体上に環を形成する。
【0037】
別の有利な実施形態では、工具は単一の環状の切削インサートを有し、この切削インサートの外周に切削歯が配置される。
【0038】
硬質の耐摩耗性切削インサートは、以下の硬質材料のうちの1つから作製されることが好ましい:コーティングを有する又はコーティングのない超硬合金、立方晶窒化ホウ素(CBN)、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)、又は多結晶ダイヤモンド(PCD)。本発明は、前もって歯が加工された工作物をスカイビング加工するための工具にさらなる硬質材料が将来利用可能になるとき、又は、それぞれの硬質材料が3Dプリンティング技術によって本体に用いられるときにも適用できる。
【0039】
スカイビング加工工具の本体内又は本体上に、RFIDモジュールを配置することができる。このモジュールのメモリーには、スカイビング加工工具を明確に識別するための識別コードを格納することができ、非接触に検索することができる。これにより、すくい面面取り部の幾何学的形状に関するデータを含む工具の幾何学的形状に関する工具固有のデータを、データベースから検索したり、データベース内で修正したりすることができる。あるいは、そのようなデータをメモリーに直接保存することもでき、メモリーから非接触に検索することができ、必要に応じてメモリー内で修正することができる。この幾何学的形状データは、機械を制御する上で非常に重要である。これにより、幾何学的形状データの手作業による複雑でエラーを起こしやすい入力及び/又は修正、あるいは容易に紛失又は取り違える恐れのある別個のデータキャリアからの伝送を省くことができる。
【0040】
さらに、前記RFIDモジュール内に、温度、振動、又は衝撃音等の動作パラメータを検出するための少なくとも1つのセンサを配置することができ、前記センサは同様に非接触にアクセス可能であり、必要に応じて作動可能である。
【0041】
適切なRFIDモジュールの設計及び取り付け、並びに信号の信頼性の高い非接触伝送に関しては、国際公開第2015/036519号を参照されたい。
【0042】
上述した種類の工具を製造するための1つの有利な方法では、切削インサートは、前記切削インサートの最終的な輪郭に関して好ましくは100~500マイクロメートルだけ大きくなるように作られる。切削インサートは端面で本体に一体的に結合され、引き続き最終加工される。最終加工は、特に、本体上での同心円状及び軸方向の振れに対する基準面又はベース面、並びに切削インサート上での、すくい面面取り部を含むすくい面、逃げ面面取り部を含む逃げ面、及び半径に関係するものであってよい。特に、すくい面面取り部、及び存在する場合には同様に半径、及び任意で逃げ面面取り部を含む逃げ面が加工されることが好ましい。
【0043】
前もって歯が加工された工作物を精密加工するための本発明による方法では、スカイビング加工処理が上述の種類の工具を使用して実行される。このために、工作物は工作物軸を中心に回転され、工具は、工作物と転がり係合(Waelzeingriff)して、工作物軸に対して傾けて整列される工具軸を中心に回転され、そして工具は工作物軸に対し平行に又は逆平行に軸方向に送られる。既に上に記載したように、切れ刃に沿った各切削歯のすくい面には、すくい面に対して面取り角度で傾斜するように延びるすくい面面取り部が設けられており、この面取り角度は切れ刃に沿って変化する。工作物と工具は、切削歯の切れ刃が工作物を通る間係合し、切削刃の切れ刃が工作物の歯溝を通る間に形成される切り屑は、もっぱらすくい面面取り部を通って流れ去る。
【0044】
切削歯の切れ刃が工作物の歯溝を通る間に、切れ刃の各点において、すくい面面取り部に関する面取り部すくい角が形成され、面取り部すくい角は時間とともに変化する。この面取り部すくい角は事実上のすくい角として機能する。切れ刃に沿った面取り角度は、切れ刃が歯溝を通り抜ける間をとおして、切れ刃上の各固定点で測定される面取り部すくい角の基準値、例えば、(場合により重み付けされた)平均値又は数値的最大値(betragsmaessiger Maximalwert)の切り刃に沿った変化が、すくい面面取り部が存在せず、切り屑が直接すくい面を通って流れ去る場合のすくい角に対する対応する基準値よりも変化の程度が小さくなるように、変化するよう形成することができる。
【0045】
面取り角度の変化は、上記基準値がほぼ一定であるようにさえ選択することができる。基準値としては、非加重平均値、又は、加重平均値を用いることができ、加重平均値の場合、例えば、切削される材料への切れ刃の入りは、切れ刃の出よりも大きく重み付けされる。さらに、すくい面面取り部の幅を、こうした基準値の切れ刃に沿った変化ができるだけ小さくなるように設計することもできる。
【0046】
切れ刃に沿った面取り角度は、切れ刃の全長に沿った面取り部すくい角の数値的最大値が負であり、-5°~-40°、好ましくは-20°~-35°の範囲にあるように変化するよう形成されることが好ましい。
【0047】
すくい面面取り部は、好ましくは、切れ刃の全輪郭において、切れ刃が工作物の歯溝を通り抜ける間に生じる切り屑の最大厚さより大きい幅を有する。好ましくは、切れ刃の全長に沿ったすくい面面取り部の幅は、最大切り屑厚さの少なくとも2倍である。これにより、切り屑が、実際のすくい面を通らずに、もっぱらすくい面面取り部を通って流れ去ることが保証される。
【0048】
上述した種類の工具は、特に、スカイビング加工による、前もって歯が加工された工作物の硬材精密加工、すなわち予め硬化された、又は、例えば熱処理された鋼等の高張力材料から製作された、前もって歯が加工された工作物を加工するのに適している。本発明による工具は、前進及び後退方向の両方の加工に使用することができる。すなわち、工具に対する工作物の軸方向送りは、転がり運動による切削速度の軸方向成分に対応する方向、又はこれに反対の方向に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明の好ましい実施形態を、図に基づいて以下に説明するが、これらは、説明のためだけのものであって、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0050】
【
図1】
図1は、従来技術(独国特許発明第243514号明細書)のスカイビング加工の原理の概略図である。
【
図2】
図2は、関連する工作物と工具を備えたスカイビング加工の原理の概略図である。
【
図3】
図3(a)には、切れ刃上の複数の点がマークされた、すくい面面取り部のない切削歯を、(b)~(d)には、それぞれ、切れ刃上のこれらの点のそれぞれにおいて、転がり角(Waelzwinkel)ξの関数としてすくい角γの変化を例示する。
【
図4】
図4は、前もって歯が加工された外歯をスカイビング加工する際の、切れ刃に沿った数値的に最大のすくい角の典型的な変化の概略図である。
【
図5】
図5(a)には、
図3と同じ切り刃上の点がマークされた、可変のすくい面面取り部を有する切削歯を示し、(b)~(d)には、転がり角ξの関数として、本来のすくい角γと面取り部すくい角の変化を示し、(e)には、数値的に最大の本来のすくい角の変化と、数値的に最大の面取り部すくい角の変化を示す。
【
図6】
図6は、スカイビング加工のための工具の部分斜視図である。
【
図9】
図9は、追加の補助ディスクと第2の接続層を有する完全な工具の部分斜視図である。
【
図13】
図13は、単一の歯を備える切削インサートのブランクの斜視図であり、すくい面が上、これに平行な面が下にある。
【
図14】
図14は、3つの切削歯を備える円弧形状の切削インサートセグメントのブランクの斜視図であり、すくい面が上にある。
【
図15】
図15は、切削歯を全て備える完全な環状の切削インサートのブランクの斜視図であり、すくい面が上にある。
【
図16】
図16は、単一の歯を備える切削インサートの斜視図であり、一方の歯面に沿っては、幅が増加するすくい面面取り部が設けられ、他方の歯面に沿っては、幅が減少するすくい面面取り部が設けられ、逃げ面面取り部も設けられている。
【
図18】
図18は、
図17の平面E-Eにおける切削インサートの拡大断面図を示し、これにより、特に、すくい面面取り部と逃げ面面取り部が良く分かる。
【
図19】
図19は、単一の歯を備える切削インサートの斜視図であり、両方の歯面に沿って、幅の増加するすくい面面取り部と、逃げ面面取り部が設けられている。
【
図20】
図20は、単一の歯を備える切削インサートの斜視図であり、両方の歯面に沿って、幅の減少するすくい面面取り部と、逃げ面面取り部が設けられている。
【
図21】
図21は、単一の歯を備える切削インサートの斜視図であり、一方の歯面に沿って、幅の増加するすくい面面取り部が設けられ、他方の歯面に沿って、幅の減少するすくい面面取り部が設けられ、逃げ面面取り部は設けられていない。
【
図23】
図23は、
図22の面F-Fにおける切削インサートの拡大断面図を示し、これにより、特に、すくい面面取り部が良く分かる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
既に上で説明したように、以下の切削形状への言及は、DIN 6580及びDIN 6581のそれと同様の方法で行われる。これらの規格は、切削運動(送りを考慮しない)と作用運動(送りを考慮する)とを区別する。これらの規格は、当初、例えば旋盤加工やフライス加工で発生するような単純な切り屑除去状況を記述するために考え出された。そのような方法の場合には、通常、切削運動と作用運動との間の区別は問題なく可能である。これとは対照的に、スカイビング加工法は、転がり運動に加えて、工作物軸と平行又は逆平行に、工具又は工作物を軸方向に送ることをも含む極めて複雑な方法である。スカイビング加工の場合、軸方向送りは通常、切り屑除去処理に比較的大きな影響を及ぼす。従って、転がり運動は軸方向の送り運動と切り離して考えるべきではない。この理由のために、次の約束事を用いる:前記軸方向送りは、言及したDIN規格の意味における送りと見なされるべきではなく、むしろ、DIN規格の意味における切削運動の一部と見なされるべきである。従って、以下では、転がり運動と軸方向の送り運動の重ね合わせから生じる運動を、DIN規格の意味における切削運動と考える。これとは対照的に、工作物軸に垂直な半径方向における工具又は工作物の可能性のある半径方向の送り運動は、切削運動の一部と見なさない。
【0052】
全ての図において、同じ又は同等の面、切れ刃、面取り部、又は他の要素に対し、同一の参照符号が使用される。
【0053】
図1は、内歯を有する工作物のためのスカイビング加工法の原理の概略図であり、この図は、独国特許発明第243514号明細書から借用したものである。この特許文献は、1910年に出願されたものである。この文献は、スカイビング加工の基本原理を説明する。内歯を有する工作物「a」は、ベッド「b」上の回転可能なスピンドルを介して工作物軸の周りを回転する。スピンドル「d」内の工具「c」は工具軸を中心に回転し、この工具軸は工作物軸に対して傾いている(この例では45°の角度で)。工具は同時に工作物軸に沿って送られる。工具の歯は、工具の歯と工作物の歯が噛み合うように選択されるねじれ角(Schraegungswinkel)を有する。本実施例では、工作物は内側に真っ直ぐな歯があり、工具上のねじれ角は対応して45°である。工具の歯は、それぞれ、工具の端面に、連続的な切れ刃を形成し、これは、2つの歯面と歯先に沿って延びる。
【0054】
図2は、この例では外歯を有する工作物に対するスカイビング加工に関するさらなる概略図である。工作物2は、工作物軸C1を中心に回転する(回転数n-C1)。工具1は工具軸B1を中心に回転する(回転数n-B1)。工具軸B1は、工作物軸C1に対して傾斜している。この傾斜は、少なくとも1つの角度Σ1によって表すことができる。初めは、工作物軸と工具軸は互いに平行であると想像できる。この想像上の状況において、工作物基準面Cxと工具基準面Bxは工作物軸C1と工具軸B1の両方を含む。第1の平面Cxに垂直な第2の工作物基準面Cyは工作物軸C1を含む。第2の工具基準面Byは工具軸B1を含み、第1の工具基準面Bxに対して垂直である。初期状態では、平面CxとBxは一致し、平面Cyと平面Byは平行である。今、工具軸B1は、基準面Cx内で少なくとも傾斜角Σ1だけ傾斜している。その後、平面Cxと平面Bxは一致し続けるものの、平面Cyと平面Byは互いにΣ1だけ傾いている。この傾斜のために、転がり(Abwaelzen)中、工作物軸に沿った相対速度、すなわち最初の場所での切削を可能にする速度成分が生まれる。必要であれば、工具軸B1は続いて基準面By内でさらなる傾斜角だけ傾斜させることができる。第2の傾斜の効果は、いわゆるすくい面のオフセットと等価であるが、この場合、平面Cxと平面Bxとが離間している。この第2の傾斜は、逃げ角の状態を増大又は減少させるために使用される。このような傾斜は、工具又は工具ホルダと、工作物、機械又は他の要素との間の衝突を回避するためにも、一部必要とされる。工具1及び工作物2の回転は、CNC制御ユニット3によって同期される。さらに、軸方向送りZ1は工作物軸C1と平行又は逆平行に行われる。そのための設定は、操作パネル4でオペレータによって行われる。さらなる軸及び付属品を含む対応するスカイビング加工機は図示されていない。
【0055】
図3(a)は、以下でより詳細に説明されるスカイビング加工工具の単一の切削歯1.2.1を示す。切削歯は、すくい面5.5と逃げ面5.3とを画定し、切れ刃6がそれらの間に形成される。この場合、切れ刃6は、歯の左側歯元から左側歯面、歯先、及び右側歯面を経て歯の右側歯元まで連続的に延びる。切れ刃6上には、左側歯面に沿って、3つの切れ刃上の点S1、S2、S3がマークされている。
【0056】
図3の(b)~(d)は、切削歯が前もって歯が加工された工作物の歯溝を通り抜けるときのすくい角の変化を、非常に概略的かつ例示的に示す。ここでは、点S1~S3がマークされている左側歯面が入り面を形成すると仮定する。この場合、点S1は通常、点S2の前に工作物と係合し、その後初めて点S3が係合する。
【0057】
図3(b)は、点S1でのすくい角を表す曲線を定性的に示す。転がり角ξ1aで、点S1は初めて工作物と係合し、転がり角ξ1bまで係合したままである。すくい角γは常に負である。点S1が初めて係合する転がり角ξ1aにおいて、すくい角γは値γ1aを有し、転がり角が増大するにつれてより負になり、点S1が再び工作物から外れる転がり角で、数値的最大値γ1bに達する。正確な変化は、特定の状況(工具形状や工作物形状、機械の運動学等)によって大きく異なる。
【0058】
点S2は、転がり角ξ2aで初めて係合し、転がり角ξ2bまで係合したままである。ここで、ξ2a>ξ1a及びξ2b>ξ1bである。すくい角は、この範囲で、γ2aからγ2bまで変化する。ここで|γ2a|>|γ1a|及び|γ2b|>|γ1b|である。視覚的には、点S2でのすくい角を表す曲線は、「右に」(より大きな転がり角の方に)、そして「下に」(より負のすくい角の方に)移動する。
【0059】
それに応じて、点S3でのすくい角を表す曲線は、さらにそれ以上大きな転がり角及びより負のすくい角の方にさらに移動する(よって、ξ3a>ξ2a>ξ1a、ξ3b>ξ2b>ξ1b、|γ3a|>|γ2a|>|γ1a|及び|γ3b|>|γ2b|>|γ1b|)。
【0060】
よって、すくい角は一方で切れ刃6上の点S1、S2、S3に依存し、他方でこれら各点でのすくい角は転がり角に応じて変化する。これら各点でのすくい角は、異なる数値的最大値γb、具体的には点S1では数値的最大値γ1bに、点S2では数値的最大値γ2bに、及び点S3では数値的最大値γ3bに達する。
【0061】
図4は、実際の切削状況に対するこの数値的最大値の変化を示す曲線を表す。入り面での数値的最大値は、最初はほぼ一定であり、その後、歯先領域では大きな負となり、外向き面への移行部でほとんどゼロに落ち、そして外向き面で再び大幅に変化することが分かる。具体的な製造状況に対する正確なすくい角の推移は、さまざまなパラメータ、特に工具の幾何学的形状、工作物の幾何学的形状、歯部の状態(内歯/外歯、ねじれ角(Schraegungswinkel))、及び機械の運動学に大きく依存する。すくい角の推移は、数学的方法又は3Dシミュレーションを用いて計算することができる。適切な計算方法は、Kuehleweinによる論文に要約されている。このように、すくい角の具体的な変化は様々な要因に大きく依存するが、たいていの変化の推移には、すくい角の数値的最大値が切れ刃に沿って大きく変化するという共通点がある。
【0062】
切れ刃に沿ってすくい角γの数値的最大値が非常に大きく変化することは、工具の摩耗を不均一にし、機械加工の結果を不均一にし、大きな繰り返し応力をもたらす恐れがあるので不利である。従って、本発明は、いわば、この変化を平滑化することを提案する。
図5に、これがどのように達成され得るかを示す。
図5の(a)に見られるように、すくい面5.5と切れ刃6との間にすくい面面取り部7を設ける。この面取り部は、面取り角度γF、すなわち、いわゆるDINによる工具切れ刃の法平面(Werkzeug-Schneidennormalebene)又はウェッジ測定面、つまり、切れ刃の観測点において切れ刃に垂直な面における、すくい面5.5とすくい面面取り部7との間の角度によって特徴づけられる。面取り角度γFは切れ刃の長さに沿って変化する。切削歯の面取り部は、大体において、概略的に拡大して図に示されている。実際には、面取り部の幅は通常最大で数百マイクロメートルであるので、図では現実的に示すことができない。
【0063】
この場合、面取り角度γFは、点S1と点S3との間で、γF1>γF2>γF3というように次第に減少する。すくい面面取り部7は全ての場所において、切り屑がもっぱらすくい面面取り部を通って流れ去るように幅広である。このために、すくい面面取り部7は切り屑厚さの少なくとも2倍の幅である。これにより、事実上、すくい面面取り部7は切り屑を除去する際に、すくい面5.5がこれまで行ったのと同様に機能する。よって、すくい面面取り部を機械加工することによって形成される面取り部すくい角は、事実上、すくい角のように機能する。従って、この面取り部すくい角を、以下では、事実上のすくい角γ0とも呼ぶ。本来のすくい面5.5は単なる基準面となり、もはや切り屑除去プロセスに直接影響を及ぼさない。さらに、逃げ面面取り部8が設けられており、切れ刃6はある半径で丸められている。しかしながら、当面、これらの態様は無視することができる。
【0064】
図5の(b)~(d)には、すくい面面取り部7が事実上のすくい角の変化に与える影響が示されている。点S1、S2、及びS3のそれぞれにおいて、生成される事実上のすくい角は、すくい面面取り部が存在しない場合のすくい角よりもそれぞれの面取り角度γFだけより負となる。従って、
図5(b)から5(d)の事実上のすくい角を示す曲線(点線で示す)は、
図3(b)から
図3(d)の本来のすくい角の変化を示す曲線(実線で示す)に対して、それぞれの面取り角度γF1、γF2又はγF3だけ、「下へ」移動する(
図5(b)から
図5(d)の矢印を参照)。
【0065】
本実施例における面取り角γF1、γF2及びγF3は、3点S1、S2、S3の全てにおける事実上のすくい角の数値的最大値が同一となるように選択されている。これは
図5(e)に示される。図中では、
図3の状況に対するすくい角の数値的最大値γbの変化が実線で示されている。
図5の状況に対する事実上のすくい角の数値的最大値の変化は破線によって示されている。事実上のすくい角の数値的最大値は、切れ刃上の3つの点S1、S2、S3全てにおいて同一であり、値γbmodをとることが分かる。これは、すくい面面取り部7の面取り角度γFを対応して変化させる、この実施例では、切削歯の歯元から歯先に向かって適切な方法で面取り角を減少させることによって達成される。
【0066】
こうして、数値的最大値の変化を所望の方法で「平滑化」することができ、さらにほぼ一定に保つことさえできる。
【0067】
数値的最大値の推移を「平滑化すること」、又はほぼ一定に保ちさえする代わりに、切れ刃上の各点に対して、すくい角の適当な平均値を形成することもでき、すくい面面取り部を、事実上のすくい角の平均値が、すくい面の面取り部が存在しない場合よりも小さい程度で変化するか、又は一定にさえなるように、選択することができる。このために、
図3(b)~
図3(d)及び
図5(b)~
図5(d)に、それぞれ転がり角ξ1m、ξ2m又はξ3mにおいてとられる平均値γ1m、γ2m又はγ3mを、各切削点S1、S2、S3に対して例示的に示す。図の面取り角度の選択により、この平均値はまた切れ刃S1、S2、S3上の3つの点全てにおいてほぼ同一になることが明らかである。
【0068】
上記平均値を形成する際には、適当な重み付けを行うことができる。例えば、切れ刃上の各点に最初に係合する転がり角でのすくい角は、他の転がり角でのすくい角よりも重み付けを大きくすることができる。極端な場合、重み付けは、転がり角の特定の値に対するすくい角に重み1を割り当て、他のすべての値に対しては重みゼロを割り当てる(従って、重み付けは、いわばデルタ関数を表す)。例えば、すくい角の数値的最大値のみに重み1が割り当てられ、他の全てのすくい角に重みゼロが割り当てられる場合、平均値の形成は、すくい角の数値的最大値の選択と等価になる。この点において、ここに記載した重み付けを行った平均値の形成は、数値的最大値の選択の一般化と見なすことができる。
【0069】
上の実施例では、切れ刃上の点が3点だけ選択された。もちろん、これらの考察は、切れ刃上の任意の数の点に適用するように一般化され得る。
【0070】
図6及び
図7は、多数の切削歯を有するスカイビング加工工具1を示す。
図8には、工具1の分解図が示されており、これにより工具の構造がさらによく分かる。工具は、歯車形状の本体1.1と、前記本体1.1に固定される多数の切削インサート1.2とを有し、切削インサートについては以下で詳細に説明する。本体1.1は、本体1.1内に基準面又はベース面F1、F2を備えた中央穴を有しており、これらの面を用いて、工具は、工具軸B1の周りを回転するためにスカイビング加工機のスピンドルノーズ(それ自体は周知である)の上にチャックされる。切削インサート1.2は、その切削歯によって、本体1.1の歯の中心にくるように位置決めされ固定される。位置決めディスク1.5は切削インサートを位置決めするのに役立つ。厚さDsを有する位置決めディスクは、その外周に、位置決め要素1.5.1を有し、位置決め要素は、切削インサートの対応する保持要素(以下でより詳細に説明する)と相補的になるように構成される。切削インサート1.2は、位置決め要素1.5.1及び保持要素を用いて、位置決めディスク1.5の外周に配置され、歯先円直径Dkを画定する。このとき、半径方向及び円周方向では、各保持要素と位置決めディスク1.5との間に形状嵌合が形成される。切削インサート1.2は、切削インサートの目的とする後加工を容易にするために、位置決めディスクの厚さDsよりも幾分大きい厚さを有する。前記切削インサートは、接続層1.7を介して恒久的かつ固定的に本体1.1に接続される。接続層1.7は、接着結合、はんだ付け/ろう付け、又は他の接合技術によって実現することができる。前記接続層1.7は厚さDdを有する。
【0071】
本体1.1の歯先領域には、好ましくは約0.03~0.05ミリメートルの深さまで旋盤等で削った(Abdrehung)形での凹部を、任意に設けることができる。これにより、この領域における接続層1.7の厚さDdは、同じ量だけ増える。この厚くなった部分は、材料ダンパ及び接合ダンパとして、切り屑形成に良い効果をもたらす。
【0072】
接続層は、電気的及び熱的に伝導性であることが好ましい。これにより、工具1での切削中に、熱の蓄積及び切り屑の邪魔な堆積をほとんど回避することができる。これらの現象の理由は、切れ刃の激しい摩擦とそこから発生する帯電にある。これらの課題に適した接着剤及びはんだは市販されている。
【0073】
工具の最終加工は、接着結合又ははんだ付け/ろう付けが行われた後に初めて行われる。このとき、最初に、本体上の基準面F1、F2が、同心性及び軸方向振れに対して後加工される。その後、切削インサート1.2が最終的な形状に加工される。
【0074】
図7には、さらに、センサ10を有するRFIDモジュール9を示す。RFIDモジュール9は、工具の幾何学的形状、特に切削歯1.2の面取り部の幾何学的形状に関するデータ、又は対応するデータをデータベースから検索することのできるコード(例えばシリアル番号)を送信する。センサ10は、温度、振動、及び衝撃音を測定する。前記センサ10は、RFIDモジュール及びそのアンテナシステムに動作可能に接続されており、非接触にアクセスすることができる。
【0075】
図9~
図12は、追加の歯車形状の補助ディスク1.6を有する工具1の構成を
図6~
図8と同様に示す。追加の補助ディスク1.6は、第2の接続層1.8を用いて位置決めディスク1.5及び切削インサート1.2の上に取り付けられ、これにより、特に切削インサート1.2の切削歯の少なくとも基部領域をも覆う。補助ディスク1.6は、さらに、接続要素1.9によって本体1.1に接続されているので、工具の安定性を高める。
【0076】
図13は、切削インサート1.2用のブランクを示す。この切削インサートは単一の切削歯1.2.1を持っている。切削歯の以下の領域が示されている:歯先Xk、歯元Xf、左側歯面Zli、右側歯面Zre、すくい面5.5、歯先逃げ面5.1、左側歯先コーナー逃げ面5.2l、左側主逃げ面5.3l、及び、左側歯元逃げ面5.4l。ブランクの内周には、位置決めディスク1.5の位置決め要素1.5.1と相互作用する、既に述べた保持要素5.9が配置される。保持要素5.9間に、弓状領域5.10がある。
【0077】
図13の切削インサートは単一の切削歯のみを持っているが、複数の切削歯が単一の共通の切削インサート上に構成されることも考えられる。
図14は、切削インサート1.3用のブランクを示し、これは、環の一部分(Kreisringsegment)の形状を有し、3つの切削歯を持っている。ブランクの内周には、やはり保持要素5.9が配置され、それらの間に円の一部分(Kreissegment)5.11がある。
【0078】
図15は、切削インサート1.4用のブランクを示し、これは、完全な環状であり、工具の全ての切削歯を持っている。内周5.12、位置決め補助部5.13、歯先円直径Dk、及び次の逃げ面、すなわち右側刃先コーナー逃げ面5.2r、右側主逃げ面5.3r、及び、右側歯元逃げ面5.4rがさらに示されている。この切削インサートの形状は、比較的小さい工具、例えば歯先円直径Dk<60mmの工具に使用するのが好ましい。これに対し、Dk>60mmの工具には、図
13の単一の歯を有する切削インサートか、又は図
14の歯数の限られたセグメント状の切削インサートが好ましい。
【0079】
切削インサート当たりの歯数とは無関係に、切削インサートは、好ましくは、例えば、コーティングを有する又はコーティングのない硬質金属、PCBN、CBN、又はPCD等の超硬材料からなる。切削インサートは、最終的な輪郭に対して過大寸法を最小にして、半仕上げ製品から切り取られる。切削インサートの厚さは、0.5~2mmが好ましく、コスト上の理由から5mmを超えてはならない。
【0080】
図16~
図18は、本発明の一実施形態による単一の切削歯を有する切削インサート1.2を示す。切削歯は、切れ刃6全体に沿って、変化する切れ刃面取り部7と、逃げ面面取り部8と、変化する半径Rとを有する。
【0081】
すくい面5.5、すくい面面取り部7、逃げ面5.1、5.2l、5.2r、5.3l、5.3r、5.4l、5.4r、逃げ面面取り部8及び半径Rは、切れ刃6上の各点に対して、それぞれの工具切れ刃の法平面において、すなわち、切れ刃6との交点において切れ刃6上で垂直な、工具に対して固定される切断面において、最もよく特徴づけることができる。
図17には、例示的に、8つのこうした平面が示されている。第1の切断面E0は、歯先で切れ刃6と交差する。さらなる切断面は、左側半平面1つと右側半平面1つとから構成され、これら半平面は歯の中心でつながっており、一般に角度を成す。
図16の実施例では、前記半平面は、左側半平面E1l、E2l、E3l、E4l、E5l、E6l、E7l及び右側半平面E1r、E2r、E3r、E4r、E5r、E6r、E7rである。各半平面は、切れ刃6と直交する。実際には、もちろんより多くの切断面を用いることができる。
【0082】
図18に、切断面E-Eにおける切削インサートの断面図(半平面E2l、E2rに対応する)を示す。切削歯は、その上側ですくい面5.5を画定する。すくい面は工具軸B1に対して直角に延びる。切削歯はさらに、左側主逃げ面5.3l及び右側主逃げ面5.3rを画定する。これらの逃げ面は、切削歯が下に向かって楔形に先細になるように、工具軸B1に対して内側に傾斜している。切削歯は、その下側にベース面5.6を有し、これは、すくい面5.5と平行に延び、本体1.1に接続するための接合面として機能する。
【0083】
すくい面5.5には、左側歯面に沿って、すくい面面取り部7の一部として、左側すくい面面取り部7.3lが設けられる。左側すくい面面取り部7.3lは、幅Bli(上記規格ではこの幅をbfγとも呼ぶ)を有し、すくい面5.5に対して面取り角度γ1で傾斜している。幅Bliは、超硬精密加工において、切り屑がもっぱらすくい面面取り部7を通って流れ去るように、切り屑の厚さが幅Bliよりも常に小さくなるように選択される。好ましくは、幅Bliは、少なくとも切り屑厚さの2倍か、又は少なくとも100マイクロメートルである。右側歯面に沿って、すくい面5.5上に、すくい面面取り部7の一部として、右側すくい面面取り部7.3rが形成される。右側すくい面面取り部7.3rは、幅Bliと異なってもよい幅Breと、左側面取り角度γ1と異なってもよい右側面取り角度γ2とを有する。
【0084】
さらに、左側主逃げ面5.3l上に、逃げ面面取り部8の一部として、左側逃げ面面取り部8.3lが設けられる。逃げ面面取り部8.3lは、幅bli(上記規格ではbfαとも呼ぶ)を有し、左側主逃げ面5.3lに対して角度α1で傾斜している。対応して、右側主逃げ面5.3r上に、逃げ面面取り部8の一部として、右側逃げ面面取り部8.3rが形成される。右側逃げ面面取り部8.3rは幅breを有し、右側主逃げ面5.3rに対して角度α2で傾斜している。主逃げ面の両方は、工具軸B1に対して角度αで傾斜している。
【0085】
切れ刃6は、すくい面面取り部7と逃げ面面取り部8との間に形成される。特に、左側すくい面面取り部7.3lと左側逃げ面面取り部8.3lとの間には、左側主切れ刃6.3lが形成される。対応して、右側すくい面面取り部7.3rと右側逃げ面面取り部8.3rとの間には、右側主切れ刃6.3rが形成される。すくい面面取り部の面取り角度γ1、γ2、及び幅Bli、Breは、切れ刃6に沿って連続的に変化する。切れ刃6はここでは、すくい面5.5の下側で、すくい面5.5に平行に延びる平面Esにある。
【0086】
図16~
図18の実施形態では、左側すくい面面取り部7.3lの幅Bliは、左側歯面に沿って、歯先Xkから歯元Xfまで、連続的に増加する。左側すくい面面取り部7.3lとすくい面5.5との間の面取り角度γ1は、歯先Xkから歯元Xfまで連続的に減少する。これに対し、右側歯面に沿っては、状況は完全に逆転する。つまり、右側すくい面面取り部7.3
rの幅Breは、右側歯面に沿って、歯先Xkから歯元Xfまで、わずかではあるが連続的に減少する。これに対し、右側すくい面面取り部7.3
rとすくい面5.5との間の面取り角度γ2は、歯先Xkから歯元Xfに向かってわずかに増加する。切れ刃6は半径Rで丸められ、この半径は数学的に予想される切り屑厚さの10%から40%の間の値であることが好ましいと考えられる。
【0087】
歯先では、そこに配置されるすくい面面取り部7.2l、7.2r、及び7.1が歯面に沿ってすくい面面取り部7.3l及び7.3rに連続的につながる。歯元でもすくい面面取り部7.4l、7.4rに対して同じことが当てはまる。さらに、すくい面面取り部7の境界曲線7.5がプロットされている。この境界曲線7.5は、様々なすくい面面取り部に関するすくい面又は基準面を画定する。
【0088】
図19及び
図20に、さらなる変形例を例示的に示す。
図19の実施形態においては、すくい面面取り部7の幅Bli、Breは、左側歯面及び右側歯面の両方に沿って、歯先Xkから歯元Xfまで連続的に増加するが、
図20では、前記幅Bli及びBreは、2つの歯面に沿って連続的に減少する。対応して、
図19では、すくい面面取り部7の面取り角度γ1及びγ2は、歯先Xkから歯元Xfまで連続的に減少し、一方、
図20では、これら面取り角度γ1及びγ2は連続的に増加する。
【0089】
図21~
図23は、逃げ面面取り部8が存在しない変形例を、各種図に例示的に示す。この変形例は、その他の点では
図16~
図18の実施形態に対応する。切れ刃6は、ここでは、すくい面面取り部と逃げ面との間に形成される。
【0090】
本発明を、例示的な実施形態によって上で説明した。もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく多数の修正を行うことができる。
【0091】
例えば、切削インサートを位置決めするための、保持要素と、これに相補的な位置決め要素を、異なる方法で設計することもできる。位置決め要素を、位置決めディスク上ではなく本体上に直接形成することもできる。保持要素は、形状嵌合で位置決め要素と係合する必要はなく、保持要素が単なる位置決め補助として役立つだけでも十分な場合もある。
【符号の説明】
【0092】
1 スカイビング加工工具
1.1 本体
1.2 単一の歯を備える切削インサート
1.2.1 切削歯
1.3 環の一部分の形をした切削インサート
1.4 全ての切削歯を備える完全な環としての切削インサート
1.5 位置決めディスク
1.5.1 位置決め要素
1.6 補助ディスク
1.7 接続層と減衰層
1.8 接続層
1.9 接続要素
2 歯部を有する工作物
3 CNC制御ユニット
4 操作パネル
5.1 歯先逃げ面
5.2l,5.2r 歯先コーナー逃げ面左側、歯先コーナー逃げ面右側
5.3l,5.3r 主逃げ面左側、主逃げ面右側
5.4l,5.4r 歯元逃げ面左側、歯元逃げ面右側
5,5 すくい面
5.6 ベース面
5.9 保持要素
5.10 弓状領域
5.11 円の一部分
5.12 内周
5.13 位置決め補助部
6 切れ刃
6.3l 左側主切れ刃
6.3r 右側主切れ刃
7 すくい面面取り部
7.l すくい面面取り部、歯先切れ刃
7.2l,7.2r すくい面面取り部、左側歯先コーナー;すくい面面取り部、右側歯先コーナー
7.3l,7.3r すくい面面取り部、左側主切れ刃;すくい面面取り部、右側主切れ刃
7.4l,7.4r すくい面面取り部、左側歯元切れ刃;すくい面面取り部、右側歯元切れ刃
7.5 すくい面面取り部とすくい面との間の境界曲線
8 逃げ面面取り部
8.l 逃げ面面取り部、歯先切れ刃
8.2l,8.2r 逃げ面面取り部、左側歯先コーナー;逃げ面面取り部、右側歯先コーナー
8.3l,8.3r 逃げ面面取り部、左側主切れ刃;逃げ面面取り部、右側主切れ刃
8.4l,8.4r 逃げ面面取り部、左側歯元切れ刃;逃げ面面取り部、
右側歯元切れ刃
9 アンテナを備えたRFIDモジュール
10 温度、振動及び衝撃音用センサ
A…F 図中の詳細領域もしくは切断面、又は小部分
Bli すくい面面取り部の幅、左側歯面
Bre すくい面面取り部の幅、右側歯面
bli 逃げ面面取り部の幅、左側歯面
bre 逃げ面面取り部の幅、右側歯面
B1 工具スピンドルの回転軸(工具軸)
Bx X方向の工具基準面
By Y方向の工具基準面
Cx X方向の工作物基準面
Cy Y方向の工作物基準面
C1 工作物スピンドルの回転軸(工作物軸)
Ds 切削インサートの厚さ
Dd 接続及び減衰層の増加した厚さ
Dk 工具の歯先円直径
E1l…E7l、E0 切断面、切れ刃の左側及び中央で切れ刃に垂直
E1r…E7r 切断面、切れ刃の右側で切れ刃に垂直
Es 切れ刃のある、すくい面と平行な面
F1、F2、F3 工具上の基準面
R 半径
S1、S2、S3 切れ刃上の点
Xk 歯先領域
Xf 歯元領域
Z1 軸方向送り運動
Zli 左側歯面
Zre 右側歯面
α 逃げ角
α1 面取り部逃げ角、左側歯面
α2 面取り部逃げ角、右側歯面
β ウェッジの角度
γ すくい角
γ0 事実上のすくい角
γ1 面取り角度、左側歯面
γ2 面取り角度、右側歯面
γ1a、γ2a、γ3a 初めての係合時のすくい角
γ1b、γ2b、γ3b 係合完了時のすくい角
γ1m、γ2m、γ3m すくい角の重み付け平均値
γF 面取り角度
γF1、γF2、γF3 面取り角度
γbmod 面取り部すくい角の数値的最大値
Σ1 平面Cxに対する工具調整角度
ξ 転がり角
ξ1a、ξ2a、ξ3a 初めての係合時の転がり角
ξ1b、ξ2b、ξ3b 係合完了時の転がり角
ξ1m、ξ2m、ξ3m 重み付け平均値が得られる転がり角