(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】超合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/20 20060101AFI20230609BHJP
C22B 23/06 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C22B9/20
C22B23/06
(21)【出願番号】P 2019556817
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 IB2019050602
(87)【国際公開番号】W WO2019202408
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】102018000004541
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516165376
【氏名又は名称】フォロニ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】フォロニ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】フォロニ,ルカ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525842(JP,A)
【文献】特表2017-503085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属超合金(10)を製造する方法であって、
・金属材料の充填物(2)を用意する工程;
・前記金属材料の充填物(2)を電気アーク炉(3)内で溶解して、前記金属材料の充填物(2)の第1の溶湯(3A)を得る工程;
・前記第1の溶湯(3A)を凝固(5)させて第1のインゴット(5A)を得る工程;
・前記第1のインゴット(5A)をVIDP炉(6)内で溶解して第2の溶湯(6A)を得る工程;
・前記第2の溶湯(6A)を凝固(7)させて第2のインゴット(7A)を得る工程;
・前記第2のインゴット(7A)をVAR炉(8)内で溶解して第3の溶湯(8A)を得る工程;
・前記第3の溶湯(8A)を凝固(9)させて金属超合金(10)を得る工程;
を含み;
前記金属材料の充填物(2)は40~60トンの範囲の重量を有することを特徴とし;
前記第1の溶湯(3A)をAOD処理(4)して脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)を得る工程を含み、前記AOD処理(4)から得られる前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)について、前記VIDP炉(6)内の溶解、及び前記VAR炉(8)内の溶解を連続して行
い、前記金属超合金(10)が、変動量のクロム、コバルト、ニオブ、チタン、及び/又は他の元素を含む鉄基又はニッケル基のタイプのものである、上記方法。
【請求項2】
前記第1の溶湯(3A)に対して、それが前記電気アーク炉(3)内での溶解工程の結果として溶解状態にある間にAOD処理を行うことによって、前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の溶湯(6A)の前記凝固工程(7)が、前記溶湯を鋳型中に注型する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)及び前記第2の溶湯(6A)を凝固させる前記工程が、前記溶湯をインゴット鋳型中に注型した後に冷却する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記インゴット鋳型が、前記第1及び第2のインゴットが円筒形状を有するような形状を有する、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の溶湯(8A)を凝固させる工程(9)の後、前記超合金(10)をプレス鍛造工程を含む加工熱処理にかける、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに規定される金属超合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超合金という用語は、場合によっては1000℃を超える高温に耐えることができ、主に鉄及びニッケルから構成され、様々な量のクロム、コバルト、ニオブ、チタン、及び他の元素が添加された材料を指すことを意図している。
【0003】
超合金は、例えば、硫黄(S)、鉛(Pb)、及びビスマス(Bi)のような不純物とみなされる元素に対して高い精製度を有していなければならない材料として知られており、それらの存在は、超合金に要求される機械的性能、耐食性、及び熱的性能を危うくする。
【0004】
前述の性能を有する材料は、様々な用途、すなわち、限定するものではないが、航空機産業、例えばターボジェット用のプロペラ及びローターブレードの製造のために使用することができる。
【0005】
このような材料は、機械的性能の改善、並びに有害な元素、すなわち、上述の硫黄、鉛、及びビスマスを低減するために、溶解、好適なインゴット鋳型中での冷却、更なる溶解及び精製の工程を含む多くのタイプの製造方法を使用して製造される。
【0006】
現在の方法では、「トリプルメルト」プロセスによる超合金の製造は、その総重量が25トンを超えない母材の充填物を、真空誘導溶解(VIM)炉として知られる真空誘導炉内で第1の溶解工程にかけ、次いで、溶解した材料を円形のインゴット鋳型中に注型し、そこからインゴットをESR(エレクトロスラグ再溶解)として知られる第2の溶解工程に移して、可能な限り多くの不純物、特にS(硫黄)、Pb(鉛)、Sn(スズ)、及びBi(ビスマス)の量を除去することを試みることを含む。このような第2の溶解工程の後に、VAR(真空アーク再溶解)として知られる第3の溶解工程を行う。
【0007】
而して、このプロセスは最初の充填物の3つの溶湯を含むことが知られており、第2の溶湯において、ESR(エレクトロスラグ再溶解)として知られる不純物除去が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
3つの溶解工程の提供(その1つはESRである)にかかわらず、本方法の最終成果は超合金の製造である。超合金においては、少量ではあるが不純物が市販品中に不均一な量で存在している。これは、当該技術において知られているように、それぞれが25トンを超えない当初溶湯のVIMから得られる材料の充填物の間で不純物が相違するからである。
【0009】
また、充填物に与えられるこの量的制限によって、AOD(アルゴン酸素脱炭)として知られる遙かにより有効な精製手順(これにより不純物の更なる減少がもたらされるであろう)を使用することができない。これは、上述のような約25トンの充填物の量は、AOD手順においてS、Pb、Sn、及びBiなどの不純物を除去するために必要な反応に適合させるためには不十分であるためである。
【0010】
本発明の目的は、超合金を構成する材料の単一の充填物及び異なる複数の充填物の両方において、最終生成物中のS、Sn、Pb、及びBi系の不純物の高度の除去、並びにその高度の均一性を提供することができる、超合金を製造するためのトリプルメルト法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的及び他の目的は、下記でよりよく説明するように、下記の請求項1によって特徴付けられる超合金の製造方法によって達成される。
本発明は、AODプロセス中に吹き込まれるガスによって引き起こされる液体浴の乱流攪拌によって高い均質性を有する超合金を与える、超合金を製造する方法を提供することができる。
【0012】
更に、本発明は、極めて高レベルの脱硫(5ppm未満の硫黄)、及び脱酸、不純物の最小化(Bi及びSeを揮発させて1ppm未満のレベルに減少させること)、並びに高い介在物除去を有する超合金を与える超合金の製造方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、超合金の製造方法において、関与する反応の化学量論によって化学組成の厳密な制御及び高い再現性を提供することができる。
最後に、本発明は、高度に安定な再溶解速度を有し、ガス、介在物、及び偏析が最小限の超合金を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明による超合金の製造のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の更なる特徴及び利点は、超合金を製造する方法の好ましい非排他的な実施形態の例示的な非限定的記載、及び本発明による超合金の製造のフローチャートを示す添付の
図1に示す方法によって得られる超合金からより明確になるであろう。
【0016】
これが明示的に述べられていない場合でも、特定の実施形態を参照して記載された個々の特徴は、他の例示的な実施形態を参照して記載された他の特徴に対して補助的であり、及び/又はそれと交換可能であると意図される。
【0017】
添付の図面を参照すると、数字1は、金属超合金10、すなわち、変動量のクロム、コバルト、チタン、及び他の元素が加えられた主として鉄及びニッケルから構成される金属合金を製造する方法を示す。
【0018】
特に、方法1は、以下に更に説明するように、母材2の充填物を溶解及び再溶解するためのトリプルメルトプロセスを含むトリプルメルト法である。
方法1は、40~60トンの範囲、好ましくは50トンの量の前述の材料の充填物2を用意する第1の工程3を含む。
【0019】
この第1の工程3は、電気アーク炉内で前述の材料の充填物を溶解して第1の溶湯3Aを得ることを含む。
電気アーク炉は通常の炉であり、これ以上は記載しない。
【0020】
電気アーク炉3によって材料の全充填物2の第1の溶湯3Aが得られたら、その液状の溶湯を、当該技術において知られている(これ以上は記載しない)AOD(アルゴン酸素脱炭)処理4にかける。
【0021】
すなわち、電気炉3によって溶解された第1の溶湯3AをAOD処理4にかけて、精製された第1の溶湯4Aを得る。
本方法の有利な態様によれば、AOD処理4は、第1の溶湯3Aが未だ液体状態にある時点で第1の溶湯3Aに対して行う。
【0022】
すなわち、AOD処理4は、S、Pb、及びSnのような不純物が最小限で極めて高い脱酸が与えられた脱炭及び精製された溶湯4Aを与えることができる。
第1の溶湯4Aは、電気炉3中に導入される材料の充填物2と同じ量を有し、すなわち、材料の充填物2が50トンであれば、第1の溶湯4Aも50トンになることに留意されたい。
【0023】
AOD処理4中において、第1の溶湯3Aの液塊が、処理中に吹き込まれたガス(AOD処理の段階に応じて様々な割合のアルゴン、窒素、及び酸素)による激しい撹拌にかけられ、これによって第1の溶湯4Aに高い均質性が与えられる。
【0024】
AOD処理4の後に、第1の溶湯4Aの凝固工程5を行う。
一態様においては、凝固工程5は、溶湯をインゴット鋳型中に注型し、その後に冷却して、好ましくは円筒形状を有するインゴット5Aを得る工程を含む。
【0025】
次に、インゴット5AをVIDP(真空脱気誘導・注入)炉6内で溶解にかけて、第2の溶湯6Aを得る。
VIDP炉6内での処理の終了時において、第2の溶湯6を、未だVIDP炉内において凝固工程7にかける。
【0026】
一態様においては、凝固工程7は、溶湯をインゴット鋳型中に注型し、その後に冷却して、好ましくは円筒形状を有するインゴット7Aを得る工程を含む。
凝固工程7から得られるインゴット7Aは、VAR(真空アーク再溶解)炉8内で溶解にかけて第3の溶湯8Aを得る。
【0027】
VAR炉8内での溶解が完了したら、第3の溶湯8AをVAR炉内での凝固工程9にかけて金属超合金10を得る。
トリプルメルト4、6、及び8によって得られる超合金10は、その後、従来技術のプラントにおいて及び従来技術の装置によって、均質化、加工熱処理、及び熱処理にかける。
【0028】
すなわち、凝固工程9の後、超合金10を、好ましくは油圧プレスによるプレス鍛造工程を含む加工熱処理にかける。
250~300mm未満の厚さが所望される場合、凝固工程及びプレス鍛造工程の後、超合金10を、油圧RUMX機を使用するラジアル4ダイ鍛造工程、及び好ましくは油圧タイプの圧延プラントにおける連続ラジアル変形鍛造工程を含む追加の加工熱処理にかける。
【0029】
この超合金10は、それらを使用するために求められる高い化学的均質性、並びに均一な機械特性、熱特性、及び耐食性を有する。
方法1で得られる超合金10は、高い化学的均質性、5ppm未満の残留硫黄の非常に高い脱硫度、同様に高い脱酸度、並びに1ppm未満のBi及びSe不純物レベルを有することが見出された。
【0030】
これは、40~60トンの範囲の当初充填物2が、有効なAOD処理4のために必要な化学物理的条件を確立して、高い不純物除去度をもたらすことに起因すると考えられる。更に、第1の溶湯3Aの後のAOD処理は、プロセスガスを吹き込むことによって生成する溶解塊の高い乱流を伴って実施され、その結果、化学プロセス反応、及びしたがって溶解合金の化学組成の高い均一性がもたらされる。
【0031】
本発明の方法の変形実施形態によれば、AOD処理4から排出される充填物は、その後のVIDP及びVAR溶解工程6、7のために、合金10の必要な供給量に応じて複数の部分に分割して、それによって、いくらかの時間が経過した後においても材料の高度に均一な供給を確実にすることができる。
【0032】
当業者であれば、下記の特許請求の範囲において規定される発明の範囲から逸脱することなく、特定の要件を満たすために上述の多くの変更及び変形を行うことができることを明らかに認識するであろう。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
金属超合金(10)を製造する方法であって、
・金属材料の充填物(2)を用意する工程;
・前記金属材料の充填物(2)を電気アーク炉(3)内で溶解して、前記金属材料の充填物(2)の第1の溶湯(3A)を得る工程;
・前記第1の溶湯(3A)を凝固(5)させて第1のインゴット(5A)を得る工程;
・前記第1のインゴット(5A)をVIDP炉(6)内で溶解して第2の溶湯(6A)を得る工程;
・前記第2の溶湯(6A)を凝固(7)させて第2のインゴット(7A)を得る工程;
・前記第2のインゴット(7A)をVAR炉(8)内で溶解して第3の溶湯(8A)を得る工程;
・前記第3の溶湯(8A)を凝固(9)させて金属超合金(10)を得る工程;
を含み;
前記金属材料の充填物(2)は40~60トンの範囲の重量を有することを特徴とし;
前記第1の溶湯(3A)をAOD処理(4)して脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)を得る工程を含み、前記AOD処理(4)から得られる前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)について、前記VIDP炉(6)内の溶解、及び前記VAR炉(8)内の溶解を連続して行う、上記方法。
[2]
前記第1の溶湯(3A)に対して、それが前記電気アーク炉(3)内での溶解工程の結果として溶解状態にある間にAOD処理を行うことによって、前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)を得る、[1]に記載の方法。
[3]
前記VIDP炉(6)内で前記第2の溶解工程にかけられる前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)が10~20トンの範囲の重量を有する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記第2の溶湯(6A)の前記凝固工程(7)が、前記溶湯を鋳型中に注型する工程を含む、[1]に記載の方法。
[5]
前記脱炭及び精製された第1の溶湯(4A)及び前記第2の溶湯(6A)を凝固させる前記工程が、前記溶湯をインゴット鋳型中に注型した後に冷却する工程を含む、[1]に記載の方法。
[6]
前記インゴット鋳型が、前記第1及び第2のインゴットが円筒形状を有するような形状を有する、[5]に記載の方法。
[7]
前記金属超合金(10)が、変動量のクロム、コバルト、ニオブ、チタン、及び/又は他の元素を含む鉄基又はニッケル基のタイプのものである、[1]に記載の方法。
[8]
前記第3の溶湯(8A)を凝固させる工程(9)の後、前記超合金(10)をプレス鍛造工程を含む加工熱処理にかける、[1]に記載の方法。
[9]
前記第3の溶湯(8A)を凝固させる工程(9)及びプレス鍛造工程を含む加工熱処理の工程の後、250~300mm未満の厚さが必要とされる場合には、前記超合金(10)を、油圧RUMX機を使用するラジアル4ダイ鍛造工程及び圧延プラントにおける連続ラジアル変形鍛造工程を含む更なる加工熱処理にかける、[8]に記載の方法。