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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】処置に対する応答をモニターする方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230609BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230609BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230609BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230609BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230609BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C12N15/13
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020555818
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 AU2019050334
(87)【国際公開番号】W WO2019195897
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】2018901242
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】502386053
【氏名又は名称】バイオノミックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ティナ・ラブラノス
(72)【発明者】
【氏名】クリステン・ジョルジウ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0199324(US,A1)
【文献】特表2002-541481(JP,A)
【文献】Lucidone Promotes the Cutaneous Wound Healing Process via Activation of the Pl3K/AKT, Wnt/beta-Catenin and NF-kappaB SIgnaling Pathways,Biochimica et Biophysica Acta,2017年,Vol.1864,pp.151-168,DOI: 10.1016/j.bbamcr.2016.10.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
)対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること;ここで、対象はサンプル採取前にWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が投与されている;
b)前記MMP-9とTIMP-1の発現レベル比を、対照サンプルにおけるMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較すること;ここで、対照サンプルは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与前に対象から採取されたサンプルである
を含み、ここで、対照サンプルと比較して、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が投与されている対象から採取されたサンプルにおいて発現レベル比が変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す、方法。
【請求項2】
対象が過剰増殖性疾患を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
過剰増殖性疾患が癌である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
癌が、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、胃癌、肝臓癌または肺癌を包含する癌である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、LGR5受容体のアロステリック調節剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、AB1抗体またはそのフラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
NT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を有効成分として含む医薬組成物であって、請求項1~6のいずれかに記載の方法によってWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して応答性であることが示された対象に投与される、医薬組成物
【請求項8】
対象において過剰増殖性疾患を処置するための、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
処置される過剰増殖性疾患が癌である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
処置される癌が、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、胃癌、肝臓癌または肺癌を包含する癌である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
有効成分として含まれるWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、LGR5受容体のアロステリック調節剤である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項12】
有効成分として含まれるWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、Ab1抗体またはそのフラグメントである、請求項11に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファーマコゲノミクスの分野に関する。特に、癌処置に対する対象の応答をモニターする方法における薬力学マーカーの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸癌は米国において診断される癌のなかで4番目に多い種類の癌であり、2017年の症例数は米国だけで約95000であった。結腸直腸癌は、米国における癌関連死の原因として、女性では3番目、男性では2番目に多い。結腸直腸癌は、結腸または直腸において発症しうる。症状はしばしば、結腸または直腸の内壁上に生じうるポリープとして始まる。そのようなポリープのいくつかが、時間の経過につれ癌に発展する。
【0003】
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(LGR5)は、活発に分裂する腸幹細胞の表面に見られる7回膜貫通タンパク質で、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路のアゴニストである。そのようなLGR5陽性幹細胞は、延長された寿命を有し、コンスタントなターンオーバーを示し、それゆえ癌を引き起こす変異を獲得する確率が高い。そのような変異は娘細胞に受け継がれ、これが癌を生じうる。LGR5はステージIV転移性結腸直腸癌患者において高発現することがわかっており、癌治療の標的とされる。
【0004】
治療薬を投与される患者の応答をモニターするために、薬力学(PD)マーカーが用いられうる。患者が治療に適切に応答していないことをPDマーカーが示す場合、該治療薬の投与量を増加もしくは減少するか、または投与を中断することができる。したがって、LGR5標的化治療に関するPDマーカーを開発する必要がある。このアプローチによって、患者が確実に最適な治療を受けられるようにすることができる。適当なPDマーカーの同定は、投与後の作用メカニズムを理解するためにも役立ちうる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法を開示する。
【0006】
一側面において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;および
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0007】
他の一側面において、過剰増殖性疾患を有する対象をWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で処置する方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す;および
c)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0008】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、LGR5受容体アゴニストまたはアンタゴニストである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、AB1用量別にグループ分けされた患者において、処置時点毎に群として分析したMMP-9/TIMP-1比の評価を示すグラフである。A)投与レベル2.5mg/kgの患者における各時点の血漿MMP-9/TIMP-1比の平均±SEM。B)投与レベル5mg/kgの患者における各時点の血漿MMP-9/TIMP-1比の平均±SEM。C)投与レベル10mg/kgの患者における各時点の血漿MMP-9/TIMP-1比の平均±SEM。D)投与レベル15mg/kgの患者における各時点の血漿MMP-9/TIMP-1比の平均±SEM。15mg/kgのAB1による処置群において、ベースラインと22日目の比較、およびベースラインとサイクル2の1日目の比較において有意差が認められた。統計学的分析は、一元ANOVAおよびTukeyの多重比較検定によって行い、p≦0.05、およびp≦0.01**であった。
図2図2は、15mg/kgのAB1が投与されたKRAS野生型とKRAS変異型の患者におけるMMP-9/TIMP-1比の評価を示すグラフである。A)1処置サイクルにわたり分析したKRAS野生型群の血漿MMP-9/TIMP-1比。B)1処置サイクルにわたり分析したKRAS変異型群の血漿MMP-9/TIMP-1比。有意差は、15mg/kgのAB1で処置されたKRAS変異型群におけるベースラインとサイクル2の1日目の比較においてのみ認められた。統計学的分析は、一元ANOVAおよびTukeyの多重比較検定によって行い、p≦0.05、およびp≦0.01**であった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法を開示する。
【0011】
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;および
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ組織物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0012】
他の一側面において、過剰増殖性疾患を有する対象をWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で処置する方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す;および
c)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0013】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤を対象に投与すること;および
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤に対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0014】
他の一態様において、過剰増殖性疾患を有する対象をWNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤で処置する方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤に対して対象が応答性であることを示す;および
WNT/β-カテニンシグナル伝達阻害剤に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0015】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストによる処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストを対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストを対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニスト投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストに対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0016】
一態様において、LGR5受容体アゴニストによる処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)LGR5受容体アゴニストを対象に投与すること;
b)LGR5受容体アゴニストを対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、LGR5受容体アゴニスト投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、LGR5受容体アゴニストに対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0017】
一態様において、過剰増殖性疾患を有する対象をLGR5受容体アゴニストで処置する方法であって、
a)LGR5受容体アゴニストを対象に投与すること;
b)LGR5受容体アゴニストを対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、LGR5受容体アゴニスト投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、LGR5受容体アゴニストに対して対象が応答性であることを示す;および
c)LGR5受容体アゴニストに対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0018】
一態様において、AB1抗体による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
c)AB1抗体を対象に投与すること;
b)AB1抗体を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、AB1抗体投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して低下していることは、AB1抗体に対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0019】
一態様において、過剰増殖性疾患を有する対象をAB1抗体で処置する方法であって、
a)AB1抗体を対象に投与すること;
b)AB1抗体を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、AB1抗体投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して低下していることは、AB1抗体に対して対象が応答性であることを示す;および
c)AB1抗体に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0020】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
c)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;および
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比の変化は、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す、方法、が提供される。
【0021】
一態様において、過剰増殖性疾患を有する対象をWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で処置する方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比の変化は、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す;および
c)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法、が提供される。
【0022】
一態様において、対象は過剰増殖性疾患を患っている。過剰増殖性疾患は癌でありうる。
【0023】
用語「癌」および「癌の」は、典型的には、制御されない細胞増殖によって部分的に特徴付けられる哺乳動物の生理学的状態をさすか、またはそれについて述べるものである。本書において、用語「癌」は、初期および末期を包含する非転移性および転移性の癌をさす。用語「前癌」とは、典型的に癌に先行するまたは癌に発展する状態または増殖をいう。「非転移性」とは、良性であるか、または原発部位に留まりリンパもしくは血管系または原発部位以外の組織に浸潤していない癌を意味する。通常、非転移性癌は、ステージ0、IまたはIIの任意の癌、および場合によりステージIIIの癌である。「初期癌」とは、浸潤性もしくは転移性でない癌、またはステージ0、IもしくはIIの癌として分類される癌を意味する。「末期癌」とは通常、ステージIIIまたはステージIVの癌をさすが、ステージIIの癌またはステージIIの癌のサブステージをもさしうる。当業者は、ステージIIの癌の、初期癌であるか末期癌であるかの分類は、癌の種類によることを理解しうる。
【0024】
一態様において、癌はLGR5+細胞を有する器官の癌である。一態様において、癌はLGR5+幹細胞を有する器官の癌である。一態様において、癌はLGR5+幹細胞を有する器官の癌からの転移癌である。
【0025】
一態様において、癌は、例えば肝細胞癌(肝臓癌)および胃癌といった、LGR5を過剰発現することが知られ、したがってLGR5標的化抗体により処置される可能性のある癌である。
【0026】
一態様において、癌は、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、肝臓癌、胃癌または肺癌を包含する癌である。
【0027】
いくつかの態様において、癌は、結腸癌、転移性結腸直腸癌、転移性膵臓癌、トリプルネガティブ乳癌、または小細胞肺癌を包含する癌である。
【0028】
いくつかの態様において、癌は、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、または肺癌を包含する癌である。いくつかの態様において、癌は、APC変異を含む結腸癌、KRAS変異を含む結腸癌、転移性結腸直腸癌、転移性膵臓癌、トリプルネガティブ乳癌、または小細胞肺癌を包含する癌である。
【0029】
一態様において、癌は結腸直腸癌である。用語「結腸直腸癌」は、結腸癌または直腸癌をさしうる。他の一態様において、癌は、膵臓癌または胃癌である。
【0030】
用語「投与する」とは、本発明の組成物を対象に接触させるか、適用するか、または提供することをいう。
【0031】
本書において、用語「処置する」とは、(1)疾患の1つまたはそれ以上の症状の出現を防止または遅延すること;(2)疾患または1つもしくはそれ以上の疾患症状の発症を抑止すること;(3)疾患を軽減すること、すなわち、疾患または少なくとも1つもしくはそれ以上の疾患症状の改善をもたらすこと;および/または(4)1つまたはそれ以上の疾患症状の重篤度の低下をもたらすこと、を意味しうる。
【0032】
本明細書を通して、用語「対象」とは、ヒトを意味すると理解されるか、または家畜もしくはコンパニオンアニマルでありうる。本発明の方法はヒトの処置用であることが特に意図されるが、イヌおよびネコといったコンパニオンアニマル、ならびにウマ、ウシおよびヒツジといった家畜、または霊長類、ネコ科、イヌ科、ウシ科および有蹄類といった動物園動物の処置を包含する動物の処置にも適用可能である。「対象」は、人、患者または個体を包含し得、任意の年齢または性別のものであり得る。
【0033】
本書において「発現」とは、DNAがmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNAがその後ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳されるプロセスをさす。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来である場合、発現は、真核生物細胞におけるmRNAのスプライシングを包含しうる。
【0034】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、LGR5のアロステリック調節剤である。一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、LGR5受容体阻害剤(またはアンタゴニスト)である。一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、LGR5受容体アンタゴニストである。LGR5受容体阻害剤またはアンタゴニストは、WNT/β-カテニンシグナル伝達の下流シグナル伝達の低下をもたらしうる。
【0035】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、LGR5受容体アゴニストである。LGR5受容体アゴニストは、LGR5受容体に結合し、LGR5受容体を介してWNT/β-カテニンシグナル伝達の下流シグナル伝達の増加をもたらしうる。一態様において、LGR5受容体アゴニストは、R-Spondinリガンドである。一態様において、LGR5受容体アゴニストは、抗LGR5抗体またはそのフラグメントである。一態様において、LGR5受容体アゴニストは、AB1抗体またはそのフラグメントである。
【0036】
一態様において、本発明の方法は、AB1を15mg/kgの用量で対象に投与することを含む。
【0037】
本書において、用語「抗体」は、合成抗体、モノクローナル抗体、組換えにより作製された抗体、イントラボディ、多重特異性抗体(二重特異性抗体を包含する)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、合成抗体、一本鎖Fv(scFv)、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド架橋Fv(sdFv)(二重特異性sdFvを包含する)、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体、ならびに前記任意のもののエピトープ結合フラグメントを包含するが、それに限定されない。本書に記載されるいくつかの態様の抗体は、単一の特異性、二重特異性、三重特異性またはより多重の特異性を有しうる。多重特異性抗体は、あるポリペプチドの複数の異なるエピトープに特異的でありうるか、またはポリペプチドと異種エピトープ、例えば異種ポリペプチドもしくは固体支持体材料とに特異的でありうる。
【0038】
一態様において、抗体は、抗体フラグメント(例えばscFv、ds-Fv、ds-ScFv、sdAbおよびディアボディ)である。
【0039】
本書において、LGR5は、NCBI受託番号NP003658.1のポリペプチドまたはそのフラグメント(NM003667.2中のコーディングヌクレオチド配列またはそのフラグメントによりコードされる)を包含するヒトLGR5を包含するが、それに限定されない。NCBI受託番号NP003658.1のアミノ酸配列および全エントリーならびにNM003667.2のヌクレオチド配列および全エントリーの全部を、参照により本書の一部とする。ここで意図されるLGR5フラグメントの例は、LGR5のエクトドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞内ドメイン、およびその一部を包含する。
【0040】
いくつかの態様は、US9546214B2(その全体が参照により本書に組み込まれる)に詳細に記載される18G7H6A3および18G7H6A1と称される抗LGR5抗体を包含する抗LGR5抗体の軽鎖および/または重鎖を生産するハイブリドーマに関する。
【0041】
さまざまな態様が、US9546214B2(その全体が参照により本書に組み込まれる)に詳細に記載される18G7H6A3および18G7H6A1と称される抗LGR5抗体の任意のものを包含する抗LGR5抗体の軽鎖および/または重鎖をコードする核酸分子を含むベクターに関する。
【0042】
さまざまな態様において、抗体のグリコシル化が改変されうる。例えば、アグリコシル化抗体が作製されうる(すなわち、抗体がグリコシル化を欠く)。例えば標的抗原に対する抗体の親和性を高めるように、グリコシル化が改変されうる。そのような炭水化物改変は、例えば抗体配列中の1つまたはそれ以上のグリコシル化部位の改変によって達成されうる。例えば、1つまたはそれ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の排除をもたらす1つまたはそれ以上のアミノ酸置換がなされ得、それによって該部位でのグリコシル化が排除され得る。そのようなアグリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が高められうる。
【0043】
いくつかの態様において、本書に記載される抗LGR5抗体は、GYSFTAYW(配列番号1)を含む重鎖CDR1、ILPGSDST(配列番号2)を含む重鎖CDR2、およびARSGYYGSSQY(配列番号3)を含む重鎖CDR3を含む。いくつかの態様において、本書に記載される抗LGR5抗体は、ESVDSYGNSF(配列番号4)を含む軽鎖CDR1、LTS(配列番号5)を含む軽鎖CDR2配およびQQNAEDPRT(配列番号6)を含む軽鎖CDR3を含む。
【0044】
いくつかの態様において、本書に記載される抗LGR5抗体(AB1と称されるもの)は、GYSFTAYW(配列番号1)を含む重鎖CDR1列、ILPGSDST(配列番号2)を含む重鎖CDR2、ARSGYYGSSQY(配列番号3)を含む重鎖CDR3、ESVDSYGNSF(配列番号4)を含む軽鎖CDR1、LTS(配列番号5)を含む軽鎖CDR2、およびQQNAEDPRT(配列番号6)を含む軽鎖CDR3を含む。
【0045】
一態様において、抗LGR5抗体は、
【化1】
の配列を有する重鎖可変ドメインを含む。
【0046】
一態様において、抗LGR5抗体は、
【化2】
の配列を有する軽鎖可変ドメインを含む。
【0047】
他の一態様は、抗LGR5抗体、例えばAB1の任意の部分における保存的アミノ酸置換の導入を含む。「保存的アミノ酸置換」が、機能的に等価なアミノ酸を置換するアミノ酸置換をいうことは、当分野でよく知られている。保存的アミノ酸変異は、その結果であるペプチドのアミノ酸配列においてサイレントな変化をもたらす。例えば、同様の極性を有する1つまたはそれ以上のアミノ酸は機能的等価物として作用し、ペプチドのアミノ酸配列中にサイレントな変化をもたらす。荷電が中性である置換、およびある残基の、より小さい残基による置換も、それら残基が属性の異なるものであったとしても、「保存的置換」と考えうる(例えばフェニルアラニンの、より小さいイソロイシンによる置換)。
【0048】
本書において、用語「核酸」、およびポリヌクレオチドといった等価な用語は、任意の長さの重合形態のヌクレオチド、例えばリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはペプチド核酸(PNA)で、プリンおよびピリミジン塩基、または他の天然の、化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然のまたは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むものをさす。核酸は、二本鎖または一本鎖でありうる。一本鎖核酸というとき、センスまたはアンチセンス鎖のことをいうことを包含する。ポリヌクレオチドの骨格は、RNAまたはDNAに典型的に見られうるように糖およびリン酸基を含みうるか、または修飾もしくは置換された糖もしくはリン酸基を含みうる。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化されたヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含みうる。ヌクレオチドの配列中に非ヌクレオチド成分が介在しうる。用語ヌクレオシド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオシドおよびデオキシヌクレオチドは全般に、当該ヌクレオシド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオシドおよびデオキシヌクレオチドの相補体、フラグメントおよびバリアント、またはそのアナログを包含する。
【0049】
本書に記載されるWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、非経口投与されうる。WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は、血流中、組織中、筋肉中、または内部臓器中に直接投与されうる。投与は全身的であり得、例えば注射または点滴によるものでありうる。投与は局所的でありうる。適当な投与方法は、静脈内、動脈内、髄腔内、心室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、網膜下、硝子体内、前房内、筋肉内、滑膜内部および皮下を包含する。適当な投与用デバイスは、有針(マイクロ針を包含する)注射器、無針注射器、および点滴技術を包含する。
【0050】
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤は通常、1つまたはそれ以上の薬学的に許容しうる賦形剤を伴う製剤として投与されうるが、必ずしもその必要はない。用語「賦形剤」は、本開示の化合物、他の脂質成分および生物学的活性物質以外の任意の成分を包含する。賦形剤は、機能的特性(例えば薬物放出速度調節)および/または非機能的特性(調製用の助剤または希釈剤)を製剤に付与しうる。賦形剤の選択は、特定の投与様式、溶解性および安定性に対する賦形剤の効果、ならびに投与形態の性質といった因子に大きく依存しうる。
【0051】
非経口製剤は典型的には、水性または油性の溶液または懸濁液である。製剤が水性である場合、糖(グルコース、マンニトール、ソルビトール等を包含するがそれに限定されない)、塩、炭水化物および緩衝剤(好ましくはpHを3~9とする)といった賦形剤が使用されうるが、適用によっては、製剤は、非水性の無菌溶液で、または無菌パイロジェン不含有水(WFI)といった適当なベヒクルと組み合わせて用いられる乾燥形態で、より適切に調製されうる。
【0052】
用語「サンプル」は、任意の生物学的組織または流体のものでありうる。サンプルは、患者に由来するサンプルでありうる。そのようなサンプルは、血液、血清、血漿、尿、唾液、精液、乳房滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ、サイトゾル、腹水、胸膜滲出液、腹腔液、羊水、膀胱洗浄液、および気管支肺胞洗浄液、血液細胞(例えば白血球)、組織もしくは生検サンプル(例えば腫瘍生検)、またはそれに由来する細胞を包含するがそれに限定されない。生物学的サンプルは、組織切片、例えば組織学的目的で採取された凍結切片をも包含しうる。
【0053】
一態様において、方法は、対象から採取されたサンプルにおけるMMP-9およびTIMP-1の発現レベルを測定することを伴う。これには、対象から生物学的材料のサンプルを当分野で知られる方法を用いて採取することを伴いうる。MMP-1およびTIMP-1の発現レベルを測定するステップは、ELISA、ウエスタンブロッティング、RIA(ラジオイムノアッセイ)、核酸ベース(例えばポリメラーゼ連鎖反応ベースの技術)またはタンパク質ベースのアプタマー技術、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)、SPR(表面プラズモン共鳴)、質量分析を包含する適当な手段によって行いうる。その後、MMP-9とTIMP-1の発現レベル比(MMP-9/TIMP-1)を決定しうる。
【0054】
一態様において、方法は、対象から、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与の前にサンプルを採取し、該サンプルにおけるMMP-9およびTIMP-1発現レベルの比を決定することを含む。
【0055】
他の一態様において、方法は、対象から、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与の後にサンプルを採取し、該サンプルにおけるMMP-9およびTIMP-1発現レベルの比を決定することを含む。
【0056】
一態様において、方法は、対象へのWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与後に採取されたサンプルにおけるMMP-9およびTIMP-1発現レベル比と、対象へのWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与前に採取されたサンプルにおけるMMP-9およびTIMP-1発現レベル比とを比較することを含む。
【0057】
MMP-9およびTIMP-1に加えて、1つまたはそれ以上のさらなるバイオマーカーを測定しうる。
【0058】
一態様において、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の変化は、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の増加である。
【0059】
一態様において、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の増加は、対象がWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対し応答性であることを示す。MMP-9およびTIMP-1比の増加は、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍、21倍、22倍、23倍、24倍、25倍、26倍、27倍、28倍、29倍、30倍、31倍、32倍、33倍、34倍、35倍、36倍、37倍、38倍、39倍、40倍、41倍、42倍、43倍、44倍、45倍、46倍、47倍、48倍、49倍、50倍、51倍、52倍、53倍、54倍、55倍、56倍、57倍、58倍、59倍、60倍、61倍、62倍、63倍、64倍、65倍、66倍、67倍、68倍、69倍、70倍、71倍、72倍、73倍、74倍、75倍、76倍、77倍、78倍、79倍、80倍、81倍、82倍、83倍、84倍、85倍、86倍、87倍、88倍、89倍、90倍、91倍、92倍、93倍、94倍、95倍、96倍、97倍、98倍、99もしくは100倍またはその間の増加である。
【0060】
一態様において、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の変化は、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の低下である。
【0061】
一態様において、MMP-9およびTIMP-1発現レベル比の低下は、対象がWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対し応答性であることを示す。MMP-9およびTIMP-1比の低下は、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍、21倍、22倍、23倍、24倍、25倍、26倍、27倍、28倍、29倍、30倍、31倍、32倍、33倍、34倍、35倍、36倍、37倍、38倍、39倍、40倍、41倍、42倍、43倍、44倍、45倍、46倍、47倍、48倍、49倍、50倍、51倍、52倍、53倍、54倍、55倍、56倍、57倍、58倍、59倍、60倍、61倍、62倍、63倍、64倍、65倍、66倍、67倍、68倍、69倍、70倍、71倍、72倍、73倍、74倍、75倍、76倍、77倍、78倍、79倍、80倍、81倍、82倍、83倍、84倍、85倍、86倍、87倍、88倍、89倍、90倍、91倍、92倍、93倍、94倍、95倍、96倍、97倍、98倍、99もしくは100倍またはその間の低下である。
【0062】
一態様において、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)および組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比は、対象へのWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与後の適当な時間内に決定される。該時間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、43日、44日、45日、46日、47日、48日、49日、50日、51日、52日、53日、54日、55日、56日、57日、58日、59日、60日、61日、62日、63日、64日、65日、66日、67日、68日、69日、70日、71日、72日、73日、74日、75日、76日、77日、78日、79日、80日、81日、82日、83日、84日、85日、86日、87日、88日、89日もしくは90日またはその間でありうる。
【0063】
本書において、対象を処置する方法も提供される。一態様において、方法は、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で対象を処置することをさらに含み、ここで、対象はWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に応答性であることがわかっている。
【0064】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤(例えばAB1抗体)での処置に応答性である対象のサブセットを特定する方法が提供される。例えば、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与後のMMP-9およびTIMP-1発現レベル比の変化に基づいて、Kras変異を有する対象の中の特定の対象が、AB1抗体による処置に特に応答性であることが示される。
【0065】
一態様において、過剰増殖性疾患を有する対象を処置する方法が提供され、該方法はWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤(例えばAB1抗体)を対象に投与することを含み、ここで、対象はKras変異を有することが確認されている。
【0066】
一態様において、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤(例えばAB1抗体)による処置の処置有効用量を決定する方法が提供される。これは、ある特定の用量のWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与し、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与後にMMP-9およびTIMP-1発現レベル比に変化があるかを調べることによって決定されうる。
【0067】
本書において、サンプルにおけるマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)および組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)発現レベルの比を決定するための組成物が提供される。一態様において、抗MMP-9抗体およびTIMP-1抗体を含む組成物が提供される。抗体は、MMP-9およびTIMP-1の検出を可能にするよう、1つまたはそれ以上の標識(例えば蛍光標識)と結合されうる。一態様において、MMP-9およびTIMP-1を増幅し検出するための核酸プライマーを含む組成物が提供される。核酸プライマーは、検出を可能にするよう、1つまたはそれ以上の標識(例えば蛍光標識)と結合されうる。
【0068】
本書において、サンプルにおけるマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)および組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)発現レベルの比を決定するためのキットが提供される。一態様において、キットは、抗MMP-9抗体または抗TIMP-1抗体を含む1つまたはそれ以上のコンパートメントを含む。抗体は、MMP-9およびTIMP-1の検出を可能にするよう、1つまたはそれ以上の標識(例えば蛍光標識)と結合されうる。
【0069】
一態様において、診断アッセイの製作における抗MMP-9抗体および抗TIMP-1抗体の使用が提供される。診断アッセイは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置の後の処置における応答のモニタリングのために使用され得、ここで、MMP-9およびTIMP-1の発現レベル比の変化は、対象がWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に応答性であることを示す。
【0070】
一態様において、対象における過剰増殖性疾患処置用の医薬の製造における、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤(例えばAB1抗体)の使用が提供される。一態様において、過剰増殖性疾患は癌である。一態様において、癌は、Kras変異を伴う癌である。
【0071】
本発明の態様をさらに記載する:
[項1]
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤による処置に対する対象の応答をモニターする方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)と組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP-1)の発現レベルの比を決定すること
を含み、ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して変化していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す、方法。
[項2]
対象が過剰増殖性疾患を患っている、上記項1に記載の方法。
[項3]
過剰増殖性疾患が癌である、上記項1に記載の方法。
[項4]
癌が、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、胃癌、肝臓癌または肺癌を包含する癌である、上記項3に記載の方法。
[項5]
対照サンプルは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与前に対象から採取されるサンプルである、上記項1に記載の方法。
[項6]
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、LGR5受容体のアロステリック調節剤である、上記項1に記載の方法。
[項7]
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、AB1抗体またはそのフラグメントである、上記項1に記載の方法。
[項8]
該方法が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で対象を処置することをさらに含み、ここで、対象はWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に応答性であることがわかっている、上記項1に記載の方法。
[項9]
過剰増殖性疾患を有する対象をWNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤で処置する方法であって、
a)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与すること;
b)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤を対象に投与した後に対象から採取されたサンプルにおいて、MMP-9とTIMP-1の発現レベルの比を決定すること;ここで、このMMP-9とTIMP-1の発現レベル比が、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤投与前のMMP-9とTIMP-1の発現レベル比と比較して増加または低下していることは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して対象が応答性であることを示す;および
c)WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤に対して応答性であることがわかった対象を処置すること
を含む方法。
[項10]
過剰増殖性疾患が癌である、上記項9に記載の方法。
[項11]
癌が、結腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、乳癌、胃癌、肝臓癌または肺癌を包含する癌である、上記項10に記載の方法。
[項12]
対照サンプルは、WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤の投与前に対象から採取されるサンプルである、上記項9に記載の方法。
[項13]
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、LGR5受容体のアロステリック調節剤である、上記項9に記載の方法。
[項14]
WNT/β-カテニンシグナル伝達調節剤が、Ab1抗体またはそのフラグメントである、上記項13に記載の方法。
本願において、単数形での記載は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数のものを包含する。

【0072】
本明細書および特許請求の範囲を通して、用語「含む」および「含んでいる」といったその変化形は、文脈からそうでない必要がない限り、それに係る整数もしくはステップまたは整数もしくはステップ群を包含すること、そして任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップ群を除外するものではないことを意味すると理解される。
【0073】
本明細書における、任意の先行文献(またはそれから導かれる情報)または任意の既知の事項の引用は、先行文献(またはそれから導かれる情報)または既知の事項が、本明細書が関連する技術分野における一般的知識の一部をなすものであるとの認識または任意の形の示唆であるとして解釈されるものでも、解釈されるべきものでもない。
【実施例
【0074】
材料および方法
患者血漿サンプル採取
各施設の患者において、各週の最初のAB1処置サイクルの投与前時点で採血を行い、その後、後続の各サイクルの1日目の投与前時点で採血を行った。血液をStreck-BCT管に取り、採血から通常24時間後に、血漿を調製するために1900xgで10分間遠心分離した。血漿サンプルを700μlのアリコートとして-80℃で保存した。健常志願者からの対照全血をStreck-BCT管に採取し、患者サンプルと同様に血漿を調製した。
【0075】
MMP-9 ELISA
MMP-9ELISAプレートを、製造者の指示書にしたがって使用した。血漿MMP-9タンパク質濃度を、作成した標準曲線の傾きを用いて定量した。各ELISAプレートについて作成された標準曲線を添付書類において示す。各プレートに新鮮な解凍血漿を使用した。健常対照およびさらなるスクリーニング不適格者ベースラインサンプルを、陽性対照として各ELISAプレートにかけた。製造者の指示書に基づいて、患者血漿を推奨される希釈剤で適当な濃度まで希釈して用いた場合の各ELISAプレートについて、標準曲線を作成した。初期最適化プレートに基づいて、MMP-9検出のために、希釈剤中で1:300の血漿希釈を用いた。
【0076】
TIMP-1 ELISA
TIMP-1 ELISAプレートを、製造者の指示書にしたがって使用した。血漿TIMP-1タンパク質濃度を、作成した標準曲線の傾きを用いて定量した。各ELISAプレートについて作成された標準曲線を添付書類において示す。各プレートに新鮮な解凍血漿を使用した。健常対照および患者S03-006-1からのさらなるスクリーニング不適格者ベースラインサンプルを、陽性対照として各ELISAプレートにかけた。製造者の指示書に基づいて、患者血漿を推奨される希釈剤で適当な濃度まで希釈して用いた場合の各ELISAプレートについて、標準曲線を作成した。初期最適化プレートに基づいて、TIMP-1検出のために1:100の血漿希釈を用いた。
【0077】
MMP-9/TIMP-1比
患者血漿を、MMP-9およびTIMP-1タンパク質濃度の決定のために調製した。目的は、まずは、ベースライン、15日目、22日目およびサイクル2の1日目(処置前)の血漿サンプルを分析して、1サイクルの処置の間に起こりうるMMP-9/TIMP-1比のインバランスを決定することにあった。また、サイクル2を超えて処置期間が延長された患者が、MMP-9/TIMP-1比の持続的変化を示すかを決定することにも関心が持たれた。したがって、サイクル2を越えて試験された任意のコホートから選択された患者1、2、5、9、10および13を含む患者を評価した。個々のELISAプレートにおいて血漿MMP-9およびTIMP-1濃度を決定し、各患者について各時点でのMMP-9/TIMP-1比を計算した(生データは参照エクセルシートに記載される)。毎回患者を経時的に調べ、全てのサンプルは新鮮に解凍し、内部プレート標準曲線に対して分析した。すべての患者コホート(コホート1: 2.5mg/kg、コホート2: 5mg/kg、コホート3: 10mg/kg、コホート4および拡大コホート: 15mg/kg)をGraphpad Prism 7.02を用いて統計学的に分析し、それによりANOVAおよびTukeyの多重比較検定によってp≦0.05で有意差が示された。
【実施例1】
【0078】
AB1患者血漿サンプルにおける、可溶性タンパク質MMP-9およびTIMP-1のELISAによる分析を記載する。腫瘍微小環境における変化の指標でありうる、これら2つのタンパク質におけるインバランスがあるかを決定するために、MMP-9/TIMP-1比を調べた。MMP-9およびTIMP-1の血漿レベル比の統計学的に有意な低下が見られ、これは、15mg/kgのAB1による処置の薬力学的効果を、特に、臨床試験における患者の選択のために有用でありうるKRAS変異を有する患者において、支持するものである。
【0079】
AB1は、結腸直腸癌(CRC)患者において高発現することがわかっているWnt/β-カテニンシグナル伝達アゴニストLGR5に結合するモノクローナル抗体である。ステージIVの転移性CRC患者においてmAbでLGR5を標的化することの結果は知られておらず、本第I相試験は、安全性および忍容性を示すために実施されたものであり、また、AB1で処置される患者についての有用な情報を提供するかまたは新規な薬力学(PD)マーカーを明らかにする方法の、開発の機会を提供するものでもあった。本AB1試験における患者は全員がステージIV転移性CRC患者であったが、治療歴、変異プロファイル、性別、年齢および転移部位は実にさまざまであった。このように変数が多いことは、データ分析の能力にとっては負担であった。
【0080】
興味深いことに、AB1で処置された2患者からの患者腫瘍転移組織の遺伝子発現の予備分析により、22日目のMMP-9および/またはTIMP-1 mRNA発現において変化が示された。AB1が、処置後TMEの変化を示唆しうる患者血漿MMP-9/TIMP-1比に影響するかが問われた。MMP-9およびTIMP-1は、血漿中に高濃度で存在する可溶性タンパク質で、ELISAにより容易に検出可能である。MMP-9/TIMP-1比が、AB1試験患者において起こりうるインバランス、およびAB1処置が腫瘍微小環境にもたらしうる影響を決定するために調べられた。
【実施例2】
【0081】
ELISAによる血漿中のMMP-9およびTIMP-1タンパク質濃度
1処置サイクルにわたり、AB1処置された患者のサンプルにおいて、血漿のMMP-9およびTIMP-1タンパク質濃度を比で表した。図1に示されるように、各患者が個々に、第1処置サイクルにわたって追跡され得、ベースライン、22日目およびサイクル2の1日目(投与前)の主要時点がグラフに示される。AB1が2.5mg/kgまたは5mg/kgの用量(図1A)および10mg/kgの用量(図1B)で投与された患者は、第1処置サイクルにわたって一定したMMP-9/TIMP-1比を有したことがわかるが、AB1が15mg/kgの用量で投与された患者は、サイクル2の1日目の時点でMMP-9/TIMP-1比の低下の傾向を有したことがわかる(図1C)。
【0082】
より長期間の処置の間に観察可能な変化があったかを決定するために、3サイクルまたはそれ以上にわたり試験を続けたAB1用量2.5~15mg/kgの範囲のコホートからの患者について、血漿中MMP-9およびTIMP-1タンパク質濃度を分析した(図1D)。AB1処置後の患者において、腫瘍微小環境中のMMP-9タンパク質分解活性の調節において起こりうる変化を決定するために、MMP-9/TIMP-1比を計算した。
【0083】
AB1用量15mg/kgのコホートは、サイクル2の1日目においてMMP-9/TIMP-1比の低下を示したので、この患者群をKRAS野生型と変異型とにさらに分けた(図2)。KRAS変異型群において、MMP-9/TIMP-1比はサイクル2の1日目の時点においてベースラインと比較して有意に低下したが(p<0.01)、KRAS野生型群においてはそうではなかった。
【0084】
結論
本書に記載されるデータに基づけば、15mg/kgのAB1で処置された患者は、個々の患者ではなく群として分析されるとき(平均±SEM)、AB1処置の22日目およびサイクル2の1日目の両方においてMMP-9/TIMP-1比の低下を示す。この群をさらに分析すると、KRAS変異を有する患者は、観察される血漿MMP-9/TIMP-1低下の要因保有者であることがわかる。ELISAによる血漿MMP-9およびTIMP-1タンパク質濃度の評価ならびにMMP-9/TIMP-1比の分析は、AB1処置の薬力学マーカーとして有用であることが示された。
図1
図2
【配列表】
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