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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230609BHJP
   A61M 60/109 20210101ALI20230609BHJP
   A61M 60/37 20210101ALI20230609BHJP
   A61M 60/279 20210101ALI20230609BHJP
【FI】
A61M1/36 123
A61M60/109
A61M60/37
A61M60/279
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021098773
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190446
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】辻 和也
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-500094(JP,A)
【文献】特開2005-040394(JP,A)
【文献】特開2016-165402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 60/109
A61M 60/37
A61M 60/279
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路内の残液を排出する血液浄化装置であって、
相互に接続された脱血側回路および返血側回路を含む密閉式の血液回路と、
前記血液回路に接続され、前記血液回路内の残液を排出する排液回路と、
前記血液回路に接続され、前記血液回路に空気を送り込む空気導入部と、
前記血液回路および前記排液回路の少なくとも一方に設けられ、回転することによって、前記送り込まれた空気を、前記残液を押し出すための媒体として、前記血液回路から前記排液回路に前記残液を送液する送液ポンプと、
前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部と、
前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、空気の送り込みを停止させる制御装置と、
を備えたことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記送液ポンプは、前記血液回路に設けられ、前記残液を引き込み、前記残液を前記排液回路に押し出す、ことを特徴とする請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記空気導入部は、回転することによって前記血液回路に前記空気を送り込む空気ポンプを含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記空気導入部は、前記脱血側回路に接続され、前記空気ポンプは、前記送液ポンプが前記残液を送液する方向と同一の方向に前記空気を送り込む、ことを特徴とする請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記空気導入部は、前記返血側回路に接続され、前記空気ポンプは、前記送液ポンプが前記残液を送液する方向と同一の方向に前記空気を送り込む、ことを特徴とする請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記圧力が前記閾値を上回ったかどうかを複数回判定し、
1回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に前記空気の送り込みを停止させ、
2回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回っていないと判定した場合、前記空気導入部に、前記空気の送り込みを再開させる、
ことを特徴とする、請求項に記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記空気ポンプは、第1の回転をすることによって前記血液回路に前記空気を送り込み、第2の回転をすることによって前記血液回路から前記空気を引き込み、
前記血液浄化装置は、
前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部と、
前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、前記血液回路から前記空気を引き込ませる制御装置と、
を更に備えたことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記圧力が前記閾値を上回ったかどうかを複数回判定し、
1回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、前記血液回路から前記空気を引き込ませ、
2回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、前記血液回路から、1回目の判定時よりも多くの前記空気を引き込ませる、
ことを特徴とする、請求項に記載の血液浄化装置。
【請求項9】
前記送液ポンプは、単位時間当たりの第1の引き込み量により前記残液を引き込み、
前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部と、
前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記送液ポンプに、前記血液回路から、前記第1の引き込み量よりも多い単位時間当たりの第2の引き込み量により前記残液を引き込ませる制御装置と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至5、および乃至のいずれか一項に記載の血液浄化装置。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記圧力が前記閾値を上回ったかどうかを複数回判定し、
1回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、前記血液回路から前記空気を引き込ませ、
2回目の判定において、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記送液ポンプに、前記血液回路から、前記第2の引き込み量よりも多い単位時間当たりの第3の引き込み量により前記残液を引き込ませる、
ことを特徴とする、請求項に記載の血液浄化装置。
【請求項11】
前記送液ポンプが第1の回転をすることによって、第1の方向に、前記残液を引き込みおよび押し出す第1の排液工程、ならびに前記送液ポンプが第2の回転をすることによって、前記第1の方向と反対の第2の方向に、前記残液を引き込みおよび押し出す第2の排液工程のいずれか一方を実行し、その後、前記第1の排液工程および前記第2の排液工程のもう一方を実行するよう前記血液浄化装置を制御する制御装置を更に備えた、ことを特徴とする請求項2乃至10のいずれか一項に記載の血液浄化装置。
【請求項12】
血液浄化装置によって実行される、回路内の残液を排出する方法であって、前記血液浄化装置は、
相互に接続された脱血側回路および返血側回路を含む密閉式の血液回路と、
前記血液回路に接続され、前記血液回路内の残液を排出する排液回路と、を含み、
前記血液回路に空気を送り込むステップと、
前記送り込まれた空気を、前記残液を押し出すための媒体として、前記血液回路から前記排液回路に前記残液を送液するステップと、
を備え、
前記血液浄化装置は、前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部を更に含み、
前記方法は、
前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、空気の送り込みを停止させるステップ、
を更に備えことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の臓器の一部である腎臓が正常に機能しなくなると(腎不全)、体内の余分な水分を尿にし、体内の不要な老廃物を排出するなどの機能が働かなくなる。腎不全に対応するために、患者からの血液を体外循環させて、血液浄化器により血液中の老廃物および水分を漉す治療(透析治療)を行うための血液浄化装置(透析装置)が使用される。
【0003】
透析治療では、血液浄化装置は、血液回路を通じて患者から血液を抜き取り、血液浄化器に血液を導入すると共に、透析液の供給源(透析液供給部)から、透析液回路を通じて血液浄化器に透析液を導入する。そして、血液浄化装置は、血液浄化器を介して血液と透析液との間で老廃物や電解質等の成分を交換して血液を浄化し、浄化した血液を体内に戻す。血液回路は、血液浄化器を介して、患者の動脈側に接続された回路(動脈側血液回路)および患者の静脈側に接続された回路(静脈側血液回路)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4160754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透析治療が終了すると、血液回路に残存した液体(残液)を排出する工程が行われる(排液工程)。排液工程では、動脈側血液回路および静脈側血液回路を連結し、血液回路を閉ループとして構成することによって、残液を排出する技術が存在する。特許文献1は、上述した構成を採用して血液回路内の残液を排出する技術を開示している。
【0006】
特許文献1に開示された技術は、血液回路を閉鎖し、血液ポンプを動作させることによって、閉ループ内の残液を排出パイプから廃棄している。特許文献1に開示された技術は、血液回路から/に空気が流通しない、密閉式チューブから構成された血液回路を採用している(第0027段落の記載の「軟質袋27が迅速に空になり、つぶれる」との記載から、血液回路が密閉式チューブから構成されていることが明らかである)。
【0007】
そして、特許文献1に開示された技術は、閉ループ内の残液を排出するために、血液ポンプ(つまり、回路内の残液を送液するための送液ポンプ)を動作させているにすぎないので(つまり、ポンプの駆動により生じる圧力のみによって液体を押し出す)、閉ループ内で残液を押し出すための媒体(つまり、空気)が存在しない。特許文献1に開示された技術は、区画5内部の圧力を大気圧と等しくしているが、このことは、2つの区画を有する透析器に空気を送り込むことを意味するものであり、血液回路に空気を送り込むことを意味していない。つまり、特許文献1は、血液回路内の残液を排出する際に、血液回路に空気を送り込む構成を明確に記載していない。
【0008】
密閉式チューブから構成された血液回路を採用した構成では、排液工程において送液ポンプを駆動するのみでは、血液回路に上述した媒体を送り込まずに回路内の残液を排出することになる(つまり、血液回路が真空状態に近づく)。よって、送液ポンプを駆動することのみでは、残液を十分に押し出すことができないことがあり、その結果、特許文献1に開示された技術では、閉ループ内の残液を排出するために、高い出力で送液ポンプを駆動する必要がある。本実施形態は、排液工程において、高い出力で送液ポンプを駆動することなく、血液回路内の残液を排出することが可能な血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る血液浄化装置は、回路内の残液を排出する血液浄化装置であって、相互に接続された脱血側回路および返血側回路を含む密閉式の血液回路と、前記血液回路に接続され、前記血液回路内の残液を排出する排液回路と、前記血液回路に接続され、前記血液回路に空気を送り込む空気導入部と、前記血液回路および前記排液回路の少なくとも一方に設けられ、回転することによって、前記送り込まれた空気を、前記残液を押し出すための媒体として、前記血液回路から前記排液回路に前記残液を排液する排液ポンプと、前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部と、前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、前記空気導入部に、空気の送り込みを停止させる制御装置と、を含む。
【0010】
別の実施形態に係る方法は、血液浄化装置によって実行される、回路内の残液を排出する方法であって、前記血液浄化装置は、相互に接続された脱血側回路および返血側回路を含む密閉式の血液回路と、前記血液回路に接続され、前記血液回路内の残液を排出する排液回路と、を含み、前記血液回路に空気を送り込むステップと、前記送り込まれた空気を、前記残液を押し出すための媒体として、前記血液回路から前記排液回路に前記残液を送液するステップと、を含み、前記血液浄化装置は、前記血液回路に送り込まれた前記空気の圧力を計測する圧力計測部を更に含み、前記方法は、前記圧力計測部によって測定された圧力が、予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定し、前記圧力が前記閾値を上回ったと判定した場合、空気の送り込みを停止させるステップ、を更に含む。
【発明の効果】
【0011】
実施形態に係る血液浄化装置によれば、血液回路に送り込まれる空気が残液を押し出すための媒体の役割を果たすので、特許文献1に開示された技術と比較して、低い出力で送液ポンプを駆動しても、血液回路内の残液を排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る血液浄化装置の構成を示す回路図である。
図2】第1の実施形態に係る透析治療を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図5】第2の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図6】第2の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図7】第3の実施形態に係る血液浄化装置の構成を示す回路図である。
図8】第3の実施形態に係る血液浄化装置の処理を示すフローチャートである。
図9】第3の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
図10】第4の実施形態に係る血液浄化装置の処理を示すフローチャートである。
図11】第4の実施形態に係る排液工程を行うときの構成要素の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る血液浄化装置を説明する。以下で説明する実施形態は、血液透析治療および血液濾過透析治療など(以下、透析治療と記載する。)が終了した後に行われる排液工程に適用される。排液工程では、透析治療などにおいて血液回路内に残存した液体(残液)を排出する。これにより、血液回路内の残液が減少するため、血液回路の廃棄コストを削減できる。
【0014】
密閉式チューブから構成された血液回路を採用した構成における従来技術では、排液工程において、回路内の残液を送液するための送液ポンプを駆動するのみでは、血液回路に媒体(液体および空気など)を送り込まず、血液回路内の残液を扱き出すことになる。よって、従来技術では、血液回路が真空状態に近い状態になることもあり得、その結果、残液を十分に押し出すことができないことがある。本実施形態に係る血液浄化装置は、このような課題に対処する。
【0015】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態を説明する。第1の実施形態では、血液回路の返血側回路に設けられた空気ポンプを駆動して血液回路に空気を送り込むことによって、血液回路内の残液を排出する例を説明する。血液回路に送り込まれた空気は、血液回路内の残液を押し出すための媒体としての役割を果たす。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る血液浄化装置100の構成を示す回路図である。血液浄化装置100は、主に、血液回路(血液ライン)BL、血液浄化器BM、透析液回路(透析液ライン)DIL、排液回路(排液ライン)DRL、および制御装置Cを含む。これらの構成要素は例示にすぎず、図示しない他の構成要素が含まれてもよい。図1では、血液回路BL、透析液回路DIL、および排液回路DRLはそれぞれ、厳密に区画されるわけではないが、一点鎖線により囲んだ領域に相当する。
【0017】
血液回路BLは、透析治療のとき、患者Pから脱血した血液を血液浄化器BMに導入すると共に、血液浄化器BMから導出した血液(浄化された血液)を体内に戻す流路である。血液は、患者Pの脱血側(動脈)に穿刺された脱血側穿刺針ANから患者Pの返血側(静脈)に穿刺された返血側穿刺針VNに、血液回路BLを通じて流れる。血液回路BLは、脱血側回路(動脈側回路)ALおよび返血側回路(静脈側回路)VLを含む。図1では、脱血側回路ALおよび返血側回路VLはそれぞれ、厳密に区画されるわけではないが、一点鎖線により囲んだ領域に相当する。
【0018】
血液回路BLは、透析液および血液が通ることが可能な可撓性チューブによって密閉式の流路(密閉式回路)を形成する。密閉式回路は、以下で説明する空気導入部から/への空気の流通を除き、回路から/に空気が流通しないように構成(密閉)された回路である。つまり、本実施形態では、空気導入部が動作していないときは、血液回路BLは、回路から/に空気が流通しないよう密閉される。血液回路BL内の液体は、以下で説明する血液ポンプによって扱き出される。
【0019】
脱血側回路ALは、患者Pから脱血した血液を血液浄化器BMに導入する流路である。脱血側回路ALの一端は、脱血側穿刺針ANに取り付けられ、他端は、血液浄化器BMに結合される。返血側回路VLは、血液浄化器BMから導出された血液を体内に戻す流路である。返血側回路VLの一端は、返血側穿刺針VNに取り付けられ、他端は、血液浄化器BMに結合される。
【0020】
脱血側回路ALには、開閉弁(電磁弁)V1、血液ポンプBP、および脱血側チャンバACが設けられる。開閉弁V1の開閉によって、脱血側回路AL内の血液の流れが制御される。
【0021】
血液ポンプBPは、脱血側回路ALから返血側回路VLに進行する方向(以下、送液正方向と称する)、または返血側回路VLから脱血側回路ALに進行する方向(以下、送液逆方向と称する)に血液回路BL内で液体を送液する。血液ポンプBPは、固定子および回転子を有する扱き型ポンプから構成され、回転子が回転するよう駆動する。回転子は、制御装置Cによる制御の下、電動モータなどのアクチュエータ(図示しない)によって回転する。
【0022】
血液ポンプBPが正回転(第1の回転)することによって、固定子および回転子に挟持された脱血側回路ALを扱き、送液正方向の流れを生じさせる。また、血液ポンプBPが逆回転(第2の回転)することによって、脱血側回路ALを扱き、送液逆方向の流れを生じさせる。血液ポンプBPでは、パルスモータ(図示せず)を使用した閉ループ制御によって回転子の回転数が制御および検出される。なお、パルスモータを使用した閉ループ制御の代わりに、血液ポンプBPにロータリエンコーダが設けられ、ロータリエンコーダの回転を検出することによって回転子の回転数が制御されてもよい。
【0023】
脱血側チャンバACは、例えば、透析治療において、脱血側回路AL内の圧力を測定するために設けられる。また、脱血側チャンバACは、血液ポンプBPを駆動することによって生じ得る空気が血液浄化器BMに流入してエアロックが生じないよう、空気を捕捉する。脱血側チャンバACは、空気を捕捉するために、血液層および空気層を有する。つまり、脱血側チャンバACは、脱血側回路AL内で血液を収容するチャンバとしての役割を果たす。
【0024】
返血側回路VLには、開閉弁(電磁弁)V2、空気導入部AD、および返血側チャンバVCが設けられる。図1では、空気導入部ADは、一点鎖線により囲んだ領域に相当する。空気導入部ADは、後述する排液工程において動作する。開閉弁V2の開閉によって、返血側回路VL内の血液の流れが制御される。
【0025】
空気導入部ADは、空気ポンプAP、開閉弁(電磁弁)AV、および空気フィルタAFを含む。空気ポンプAPは、内部に回転子を有し、回転子が回転するよう駆動する。回転子は、制御装置Cによる制御の下、電動モータなどのアクチュエータ(図示しない)によって回転する。空気ポンプAPでは、パルスモータ(図示せず)を使用した閉ループ制御によって回転子の回転数が制御および検出される。なお、パルスモータを使用した閉ループ制御の代わりに、空気ポンプAPにロータリエンコーダが設けられ、ロータリエンコーダの回転を検出することによって回転子の回転数が制御されてもよい。
【0026】
空気ポンプAPが正回転(第1の回転)することによって、空気導入路ARを通じて、返血側回路VL(返血側チャンバVCを介して)に空気が送り込まれる。また、空気ポンプAPが逆回転(第2の回転)することによって、空気導入路ARを通じて、返血側回路VL(返血側チャンバVCを介して)から空気が引き込まれる。開閉弁AVは、空気導入路ARと返血側回路VLとの間に設けられる。開閉弁AVの開閉によって、返血側回路VLへの空気の流れが制御される。空気フィルタAFは、空気中のごみを除去する。
【0027】
本実施形態では、空気導入部ADは、空気ポンプAPを駆動することによって、返血側回路VLに空気を送り込むが、そのような構成に限定されない。例えば、空気ポンプAPを設けず、例えば、空気フィルタAFを大気開放して、空気フィルタAFを大気圧にすることによって、返血側回路VLに空気を送り込んでもよい。
【0028】
返血側チャンバVCは、例えば、透析治療において、返血側回路VL内の圧力を測定するために設けられる。また、返血側チャンバVCは、血液ポンプBPを駆動することによって生じ得る空気が脱血側回路ALを通じて患者の体内に空気が流入しないように、空気を捕捉する。返血側チャンバVCは、空気を捕捉するために、血液層および空気層を有する。つまり、返血側チャンバVCは、返血側回路VL内で血液を収容するチャンバとしての役割を果たす。
【0029】
なお、空気導入部ADは、例えば、透析治療において、返血側チャンバVC内の液体の液面を調整する役割(液面調整ポンプ)を果たしてもよい。この場合、空気ポンプAPは、正回転することによって、返血側チャンバVLに空気を送り込み、チャンバ内の液面を下降させる。また、空気ポンプAPは、逆回転することによって、返血側チャンバVLから空気を引き込み、チャンバ内の液面を上昇させる。
【0030】
血液浄化器BMは、ダイアライザとも称され、患者Pの血液を浄化する。血液浄化器BMは、内部に設けられた血液浄化膜(図示せず)を含む。血液浄化膜は、側壁に孔を有する中空糸(中空糸膜)が束になって構成される。血液浄化膜の内側が血液流路(図示せず)であり、血液浄化膜(中空糸)の外側が透析液流路(図示せず)である。血液浄化器BMを流れる血液は、血液流路を流れ、拡散、限外濾過、またはこれらの両方により、尿毒素物質などの不要な物質が血液浄化膜の孔を通ることによって除去される。血液浄化器BMを流れる透析液は、透析液流路を通り、透析液が有する電解質など人体に必要な物質のみが孔を通ることによって血液に補われる。なお、血液浄化膜の内側が透析液流路として、血液浄化膜の外側が血液流路として機能することも可能である。
【0031】
なお、血液浄化器BMの入口の圧力を測定するために、血液浄化器BMを流れる液体を収容するチャンバが設けられてもよい。このチャンバは、例えば、血液浄化器BMと血液ポンプBPの間に設けられる。また、空気導入部ADからの空気は、このチャンバに送り込まれてもよい。
【0032】
透析液回路DILは、透析液供給部(図示せず)からの透析液を血液浄化器BMに供給する、透析液供給部から血液浄化器BMまでの流路である。透析液回路DILは、透析液が通ることが可能な可撓性チューブによって密閉式の流路(密閉式回路)を形成する。血液回路BLおよび透析液回路DILは、血液浄化器BMの血液浄化膜を介して接続され、血液および透析液を相互に流通させる。
【0033】
透析液回路DILには、開閉弁(電磁弁)V3設けられる。開閉弁V3の開閉によって、血液浄化器BMへの透析液の流れが制御される。
【0034】
排液回路DRLは、例えば、透析治療において、血液浄化器BMからの透析液の排液を排液排出部(図示せず)に排出する、血液浄化器BMから排液排出部までの流路である。排液回路DRLは、血液浄化器BMを介して血液回路BLに接続される。排液回路DRLは、後述する排液工程において、血液回路内の残液を排出するためにも使用される。透析液回路DILは、排液が通ることが可能な可撓性チューブによって密閉式の流路(密閉式回路)を形成する。透析液排出回路ELには、開閉弁(電磁弁)V4および排液ポンプ(除水ポンプ)DPが設けられる。開閉弁V4の開閉によって、排液排出部への排液の流れが制御される。
【0035】
排液ポンプDPは、血液浄化器BMを流れる血液から余分な水分を除去するために、排液回路DRL内で排液を送液する。排液ポンプDPは、制御装置Cによる制御の下、電動モータなどのアクチュエータ(図示しない)によって回転する。なお、排液ポンプDPは、本発明を実現できるポンプであれば、除水ポンプでなくともよく、例えば、血液浄化器BMに対して透析液の給排液を行うポンプ(例えば、複式ポンプ)に対して排液側入口から加圧する加圧ポンプを採用してもよい。つまり、排液ポンプDPは、駆動することによって、血液浄化器BMから液体を引き込むポンプを意味する。
【0036】
制御装置Cは、上述した血液ポンプBPの駆動を制御するなど、血液浄化装置100の構成要素を指示および制御する処理装置である。制御装置Cは、演算装置と記憶装置(RAMおよびROMなどの記憶装置)とを含む。演算装置は、CPUやマイクロコントローラなどのプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実装されてもよいが、その形式は限定されない。
【0037】
上述したように、血液浄化装置100の各種構成要素の動作は、制御装置Cによって指示および制御されるが、各種構成要素は、予め設定されたプログラムに従って自動的に指示および制御されてもよい。また、各種構成要素は、ユーザによる手動操作によって指示および制御されてもよい。手動操作は、制御装置Cに接続された入力装置(操作ボタン、キーボード、およびマウスなど、図示せず)を介して行われる。
【0038】
次に、図2を参照して、透析治療を行うときの血液浄化装置100の動作、ならびに血液回路BL、透析液回路DIL、および排液回路DRL内の液体の流れを説明する。図2に示す図は、図1に示した回路図に対応する。血液浄化装置100は、制御装置Cによる制御の下に動作する。以下の図において、開閉弁が開放している場合、図に示す開閉弁は網掛けで表示され、開閉弁が閉鎖している場合、図に示す開閉弁は白抜きで表示される。
【0039】
図2に示すように、透析治療においては、開閉弁V1乃至V4が開放する。また、血液ポンプBPが駆動する(正回転)する。血液ポンプBPの駆動、および開閉弁V1およびV2の開放によって、血液が脱血側回路AL、血液浄化器BM、および返血側回路VLを通る。この血液の流れを、太鎖線矢印で示している。
【0040】
また、図示しない透析液ポンプが駆動する。透析液ポンプの駆動および開閉弁V3の開放によって、透析液供給部からの透析液は、透析液が透析液回路DILおよび血液浄化器BMを通る。この透析液の流れを、太点線矢印で示している。
【0041】
また、排液ポンプDPが駆動する。排液ポンプDPの駆動および開閉弁V4の開放によって、血液浄化器BMを流れる血液からの余分な水分などが排液回路DRLを通る。この排液の流れを、太一点鎖線矢印で示している。
【0042】
図2において説明したように、透析治療において、血液浄化装置100が上述したように動作し、患者Pから血液を抜き取り、血液浄化器BMに血液を導入すると共に、透析液供給部から血液浄化器BMに透析液を導入する。血液は血液浄化器BMを通じて濾過され、返血側回路VLを通じて患者に戻される。なお、図2に示した透析治療の例では、空気導入部ADが動作していないが、上述したように、空気ポンプAPが液面調整ポンプとしての役割も果たす場合、制御装置Cによる制御の下、空気ポンプAPが駆動し、開閉弁AVが開放する。
【0043】
次に、図3を参照して、排液工程を行うときの血液浄化装置100の動作、ならびに血液回路BLおよび排液回路DRL内の残液の流れを説明する。血液浄化装置100(開閉弁V1乃至V5などの構成要素)は、制御装置Cによる制御の下に動作する。
【0044】
排液工程では、患者Pから脱血側穿刺針ANおよび返血側穿刺針VNが抜き出される。また、脱血側穿刺針ANが脱血側回路ALから取り外され、返血側穿刺針VNが返血側回路VLから取り外される。更に、脱血側回路ALおよび返血側回路VLが、コネクタCNによって結合される。
【0045】
図3に示すように、排液工程においては、開閉弁V1、V2、およびV4が開放し、開閉弁V3が閉鎖する。開閉弁V1、V2、およびV4の開放、ならびに開閉弁V3の閉鎖によって、血液回路BLが閉ループを形成する。このような状態で、血液ポンプBPが駆動する(正回転)する。また、排液ポンプDPが駆動する。更に、開閉弁AVが開放し、空気ポンプAPが正回転する。
【0046】
空気ポンプAPの駆動および開閉弁AVの開放によって、返血側チャンバVCを通じて返血側回路VLに、返血側回路VLから脱血側回路ALおよび血液浄化器BMへの方向に空気が送り込まれる。この空気の流れを、太実線矢印で示している。空気導入部ADから送り込まれた空気は、返血側回路VLから脱血側回路ALおよび血液浄化器BMへの方向に、血液回路BL内の残液を押し出すための媒体としての役割を果たす。
【0047】
なお、本実施形態では、空気ポンプAPの駆動によって、返血側チャンバVCを通じて返血側回路VLに空気を送り込むが、そのような構成に限定されない。例えば、返血側回路VLに空気が直接送り込まれてもよい。この場合、空気導入部ADが返血側回路VLに直接結合され、返血側チャンバVCは、返血側回路VLに設けられなくてもよい。また、上述したように、空気導入部ADに空気ポンプAPを設けず、空気フィルタAFを大気開放して、空気フィルタAFを大気圧にすることによって、返血側回路VLに空気を送り込んでもよい。
【0048】
空気ポンプAPおよび血液ポンプBPの駆動、ならびに開閉弁V1およびV2の開放によって、血液回路BL内の残液が返血側回路VL、脱血側回路AL、および血液浄化器BMを通る。つまり、空気ポンプAPの駆動によって、空気を媒体として、血液回路BL内の残液が押し出される。また、血液ポンプBPの駆動によって、血液浄化器BMから返血側回路VLおよび脱血側回路ALを介して血液ポンプBPまでの流路において残液が引き込まれ、血液ポンプBPから脱血側回路ALを介して血液浄化器BMまでの流路において残液が押し出される。排液ポンプDPの駆動および開閉弁V4の開放によって、残液が排液回路DRLを通る。つまり、排液ポンプDPの駆動によって、血液浄化器BMから残液が引き込まれる。この血液の流れを、太鎖線矢印で示している。
【0049】
このようにして、血液回路BLが閉ループを形成し、血液回路BLに空気を送り込むことによって、血液回路BL内の残液を排出する。特に、空気導入部ADが、血液ポンプBPが残液を引き込む方向/押し出す方向と同一の方向に空気を送り込み、つまり、送り込まれた空気が、血液ポンプBPが残液を引き込む方向/押し出す方向と同一の方向に残液を押し出すので、より効率的に残液を排出することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、空気導入部ADが返血側回路VLに設けられる例を説明したが、そのような構成に限定されない。例えば、空気導入部ADは、返血側回路VLから脱血側回路ALおよび血液浄化器BMへの方向に、血液回路BL内の残液を押し出すために適切ないずれかの位置に設けられてもよい。つまり、空気導入部ADが設けられる位置は限定されず、空気導入路ARが血液回路BLに接続されることによって、血液回路BL(返血側回路VLまたは脱血側回路AL)に空気を送り込むことができる。
【0051】
例えば、図4に示すように、空気導入部ADは、脱血側回路ALに設けられてもよい。この構成によって、空気ポンプAPの駆動により、脱血側チャンバACを通じて脱血側回路ALに、脱血側回路ALおよび血液浄化器BMへの方向に空気が送り込まれる。この空気の流れを、太実線矢印で示している。
【0052】
空気導入部ADが脱血側回路ALに設けられた構成でも、空気ポンプAPの駆動によって、空気を媒体として、血液回路BL内の残液が押し出される。また、血液ポンプBPの駆動によって、血液浄化器BMから返血側回路VLおよび脱血側回路ALを介して血液ポンプBPまでの流路において残液が引き込まれ、血液ポンプBPから脱血側回路ALを介して血液浄化器BMまでの流路において残液が押し出される。排液ポンプDPの駆動によって、残液が排液回路DRLを通る。この血液の流れを、太鎖線矢印で示している。
【0053】
なお、図3および図4に示した排液工程では、血液ポンプBPを駆動することによって、血液回路BL内の残液が引き込まれ/押し出されるが、血液ポンプBPの駆動は必須ではない。空気導入部ADによる空気の送り込み、および排液ポンプDPの駆動のみによって残液を排出することができる場合、血液ポンプBPは駆動しなくてもよい。
【0054】
また、図3および図4に示した排液工程では、排液ポンプDPを駆動することによって、血液浄化機BMからの残液が引き込まれるが、排液ポンプDPの駆動は必須ではない。血液ポンプBPの駆動のみによって残液を排出することができる場合、排液ポンプDPは駆動しなくてもよい。この場合、排液回路DLは、例えば、排液ポンプDPなどのポンプが設けられず、排液排出部(つまり、開口)のみが設けられてもよい。
【0055】
血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPは、空気導入部ADから送り込まれた空気を、血液回路BP内の液体(残液)を押し出すための媒体として、血液回路BP内の液体(残液)を送液して、排液回路DILから排出する送液ポンプとして機能する。
【0056】
以上のように、第1の実施形態に係る血液浄化装置100を説明した。第1の実施形態によれば、空気導入部ADが血液回路BLに空気を送り込むので、空気が残液を押し出すための媒体の役割を果たす。その結果、従来技術と比較して、低い出力で送液ポンプを駆動しても、血液回路BL内の残液を排出することができる。
【0057】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、返血側回路VLから脱血側回路ALおよび血液浄化器BMへの方向(第1の方向)に、血液回路BL内の残液を流すことによって排液工程を行う例を説明した。第2の実施形態では、第1の方向とは反対の方向である、返血側回路VLから血液浄化器BMおよび脱血側回路ALからへの方向(第2の方向)に、血液回路BL内の残液を流すことによって排液工程を行う。
【0058】
第2の実施形態に係る血液浄化装置200の構成は、血液浄化装置200が排液工程を行うときの血液回路内の残液の流れなどと共に説明する。図5を参照して、第2の方向での排液工程を行うときの血液浄化装置200の動作、ならびに血液回路BLおよび排液回路DRL内の残液の流れを説明する。図5に示すように、血液浄化装置200は、第1の実施形態における血液浄化装置100と比較して、空気導入部ADが設けられる位置が異なる。その他は、血液浄化装置100と同様である。
【0059】
空気導入部ADは、図5に示すように、返血側チャンバVCに接続される。この構成によって、空気ポンプAPの駆動により、返血側チャンバVCを通じて返血側回路VLに、第2の方向に空気が送り込まれる。この空気の流れを、太実線矢印で示している。空気導入部ADから送り込まれた空気は、第2の方向に血液回路BL内の残液を押し出すための媒体としての役割を果たす。
【0060】
第2の方向での排液工程では、血液ポンプBPが逆回転する。また、上述したように、空気導入部ADは、第2の方向に、返血側回路VLに空気を送り込み。それ以外の血液浄化装置100の動作は、図3において説明した動作と同様である。
【0061】
図5に示すように、空気ポンプAPの駆動によって、空気を媒体として、第2の方向に血液回路BL内の残液を押し出される。血液ポンプBPの逆回転の駆動によって、血液浄化器BMから脱血側回路ALを介して血液ポンプBPまでの流路において残液が引き込まれ、血液ポンプBPから脱血側回路ALおよび返血側回路VLを介して血液浄化器BMまでの流路において残液が押し出される。排液ポンプDPの駆動によって、残液が排液回路DRLを通る。この血液の流れを、太鎖線矢印で示している。
【0062】
このようにして、第2の方向での排液工程においても、空気導入部ADが、血液ポンプBPが残液を引き込む方向/押し出す方向と同一の方向に空気を送り込み、つまり、送り込まれた空気が、血液ポンプBPが残液を引き込む方向/押し出す方向と同一の方向に残液を押し出すので、より効率的に残液を排出することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、空気導入部ADが返血側回路VLに設けられる例を説明したが、空気導入部ADは、第2の方向に、血液回路BL内の残液を押し出すために適切ないずれかの位置に設けられてもよい。つまり、第2の実施形態においても、空気導入部ADが設けられる位置は限定されず、空気導入路ARが血液回路BLに接続されることによって、血液回路BL(返血側回路VLまたは脱血側回路AL)に空気を送り込むことができる。
【0064】
例えば、図6に示すように、空気導入部ADは、脱血側回路ALに設けられてもよい。この構成によって、空気ポンプAPの駆動により、脱血側チャンバACを通じて脱血側回路ALに、第2の方向に空気が送り込まれる。この空気の流れを、太実線矢印で示している。
【0065】
空気導入部ADが脱血側回路ALに設けられた構成でも、空気ポンプAPの駆動によって、空気を媒体として、血液回路BL内の残液が押し出される。また、血液ポンプBPの駆動によって、血液浄化器BMから脱血側回路ALを介して血液ポンプBPまでの流路において残液が引き込まれ、血液ポンプBPから脱血側回路ALおよび返血側回路VLを介して血液浄化器BMまでの流路において残液が押し出される。排液ポンプDPの駆動によって、残液が排液回路DRLを通る。この血液の流れを、太鎖線矢印で示している。
【0066】
上述した第2の方向での排液工程は、第1の実施形態において説明した第1の方向での排液工程と共に、いずれかの順序において2段階において行われてもよい。異なる方向での2段階の排液工程を行うことによって、血液回路BL内の残液を十分に排出することができる。
【0067】
2段階での排液工程は、ユーザによる手動操作によって行われてもよい。この場合、例えば、ユーザによる上述した入力装置への入力(排液工程開始指示入力)に応じていずれか一方の排液工程が行われ、ユーザによる上述した入力装置への入力(排液工程切替指示入力)に応じてもう一方の排液工程が行われてもよい。
【0068】
また、2段階での排液工程は、予め設定されたプログラムに従って自動的に行われてもよい。例えば、いずれか一方の排液工程が行われてから、一定の時間が経過したこと、排出した残液の流量が一定の量に到達したこと、または空気ポンプAPおよび/もしくは血液ポンプBPの駆動が一定の回転数に到達したことに応じて、もう一方の排液工程が行われる。
【0069】
時間の経過は、例えば、制御装置Cがタイマを実装することによって計測されてもよい。残液の流量は、例えば、血液回路BL内または排液回路DRL内のいずれかの位置に流量計を設け、流量計による流量の測定によって計測されてもよい。また、空気ポンプAPおよび/または血液ポンプBPの回転数は、例えば、上述したパルスモータを使用した閉ループ制御またはロータリエンコーダによって計測されてもよい。
【0070】
以上のように、第2の実施形態に係る血液浄化装置200を説明した。第2の実施形態によっても、従来技術と比較して、低い出力で血液ポンプBPを駆動しても、血液回路BL内の残液を排出することができる。また、2段階の排液工程を行う場合でも、それぞれの排液工程において血液回路BL内に空気を送り込むので、血液回路BLが真空状態に近づくことを回避しつつ、排液工程を継続することができる。
【0071】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態を説明する。第3の実施形態では、空気導入部ADから送り込まれる空気の圧力を計測し、一定の圧力を上回る場合、空気導入部ADからの空気の送り込みを停止させる。血液回路BLに多量の空気を送り込むと、回路を構成するチューブが破裂するなどの恐れがある。本実施形態は、そのような事象が発生することを防止する。
【0072】
第3の実施形態に係る血液浄化装置300の構成は、血液浄化装置300が排液工程を行うときの血液回路内の残液の流れなどと共に説明する。排液工程は、第1の排液工程または第2の排液工程のいずれかであってもよい。図7を参照して、第1の方向での排液工程を行うときの血液浄化装置300の動作、ならびに血液回路BLおよび排液回路DRL内の残液の流れを説明する。図7に示すように、血液浄化装置300は、第1の実施形態における血液浄化装置100および第2の実施形態に係る血液浄化装置200と比較して、返血側回路VLに圧力計測部PGが設けられる点で異なる。その他は、血液浄化装置100および血液浄化装置200と同様である。
【0073】
圧力計測部PGは、空気ポンプAPの駆動によって生じる血液回路内BLの圧力を計測する。計測された圧力値は、制御装置Cに送信される。制御装置Cは、圧力値が予め定められた閾値を上回るか否かを判定し、圧力が閾値を上回ると、例えば、空気ポンプAPの駆動を停止する。なお、本実施形態では、圧力計測部PGは、返血側回路VLに設けられるが、図4および図6に示した構成のように、空気導入部ADが脱血側回路ALに設けられる場合、圧力計測部PGは脱血側回路ALに設けられる。この場合、圧力計測部PGは、例えば、空気導入部ADと脱血側チャンバACとの間に設けられる。
【0074】
次に、図8に示すフローチャートを参照して、排液工程における血液浄化装置300の動作を説明する。排液工程は、予め設定された時間内に行われ、設定された時間が経過したことに応じて終了する。
【0075】
まず、ステップS801では、血液浄化装置300は、排液工程を開始する。排液工程は、例えば、入力装置を介したユーザ入力に応じて開始される。排液工程を開始するために、制御装置Cは、空気ポンプAP、開閉弁(開閉弁V1乃至V4、および開閉弁AV)、ならびに血液ポンプAPに指示する。この指示に応じて、開閉弁V1、V2、V4、およびAVが開放し、空気ポンプAPおよび血液ポンプBPが正回転する。また、開閉弁V3が閉鎖する。このようにして、空気導入部ADからの空気が返血側回路VLに送り込まれ、排液工程が行われる。
【0076】
排液工程が開始すると、制御装置Cは、空気導入部ADからの空気の圧力が予め設定された閾値を上回ったかどうかを判定する(ステップS802)。予め設定された閾値は、予め設定された固定値であってもよく、または排液工程を行う際に、入力装置を介したユーザ入力によって設定されてもよく、例えば、250mmHgであってもよい。この判定は、圧力計測部PGが返血側回路内の圧力を測定し、計測された圧力値を制御装置Cに送信し、制御装置Cが閾値と比較することによって行われる。空気の圧力が予め設定された閾値を上回っていないと判定した場合(ステップS802においてNo)、処理がステップS803に遷移し、空気の圧力が予め設定された閾値を上回ったと判定した場合(ステップS802においてYes)、処理がステップS804に遷移する。
【0077】
ステップS803では、制御装置Cは、空気導入部ADからの空気が返血側回路VLに送り込まれるよう、空気ポンプAPおよび/または開閉弁AVに指示する。このステップは、後述するステップS804の処理において、空気導入部ADからの空気の送り込みが停止している場合、空気の送り込みを再開するものである。この指示に応じて、空気ポンプAPが正回転し、および/または開閉弁AVが開放する。一方、空気の送り込みが停止していない場合、空気の送り込みを継続する。この場合、空気ポンプAPが駆動したままであり、開閉弁AVが開放したままである。
【0078】
ステップS804では、制御装置Cは、空気導入部ADからの空気の送り込みを停止するよう、空気ポンプAPおよび/または開閉弁AVに指示する。この指示に応じて、空気ポンプAPが駆動を停止し、および/または開閉弁AVが閉鎖する。
【0079】
図9に示すように、空気ポンプAPが駆動を停止し、開閉弁AVが閉鎖すると、空気導入部ADからの空気の送り込みが停止する。この状態で、血液ポンプBPの駆動および排液ポンプDPの駆動のみによって、血液回路BL内の残液を排出する。血液回路BLには既に一定量の空気が送り込まれているので、これ以上空気を送り込まなくても、送り込まれた空気を媒体として、血液回路BL内の残液を押し出すことができる。なお、図9では、空気ポンプAPが駆動を停止し、開閉弁AVが閉鎖している状態を表しているが、空気ポンプAPの駆動を停止するのみであってもよく、または開閉弁AVを閉鎖するのみであってもよい。
【0080】
図8から分かるように、ステップS802における処理は繰り返されるので、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定し、空気の送り込みを停止した場合でも、その後の判定において空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回っていないと判定した場合、空気の送り込みを再開する。同様に、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回っていないと判定し、空気の送り込みを継続(再開)した場合でも、その後の判定において空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定した場合、空気の送り込みを停止する。
【0081】
なお。上述したステップS802における処理は繰り返し必須ではなく、例えば、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定し、空気の送り込みを停止した場合、その後は、ステップS802の処理が行われなくてもよい。その後は、設定された時間が経過するまで、血液ポンプBPの駆動および排液ポンプDPの駆動のみによる排液工程が継続する。
【0082】
次に、制御装置Cは、予め設定された時間が経過したかどうかを判定する(ステップS805)。予め設定された時間は、排液工程が開始してから終了するための時間であり、予め設定された固定値であってもよく、または排液工程を行う際に、入力装置を介したユーザ入力によって設定されてもよい。時間の経過は、例えば、制御装置Cがタイマを実装することによって計測される。設定された時間が経過していない場合(ステップS805においてNo)、処理がステップS802に遷移し、設定された時間が経過した場合(ステップS805においてYes)、処理がステップS806に遷移する。
【0083】
ステップS806では、血液浄化装置300は、排液工程を終了する。排液工程を終了するために、制御装置Cは、空気ポンプAP、開閉弁(開閉弁V1、V2、V4、および開閉弁AV)、ならびに血液ポンプAPに指示する。この指示に応じて、開閉弁V1、V2、V4、およびAVが閉鎖し、空気ポンプAPおよび血液ポンプBPが駆動を停止する。
【0084】
本実施形態は、図3(第1の実施形態)において説明した排液工程に適用して説明されたが、図4において説明した排液工程、および図5および図6(第2の実施形態)において説明した排液工程にも適用されてもよい。
【0085】
以上のように、第3の実施形態に係る血液浄化装置300を説明した。第3の実施形態よれば、排液工程において血液回路BL内に多量の空気が送り込まれることを防止することができる。また、空気の送り込みを停止または継続(再開)した場合でも、送り込まれた空気の圧力が閾値を上回ったかどうかを判定し続けるので、血液回路BL内の圧力を適切に制御することができる。
【0086】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態を説明する。第3の実施形態では、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定した場合、空気導入部ADからの空気の送り込みを停止する例を説明した。第4の実施形態では、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定した場合、血液回路内の圧力を減圧する。第4の実施形態に係る血液浄化装置400の構成は、第3の実施形態に係る血液浄化装置300と同様である。
【0087】
図10に示すフローチャートを参照して、第4の実施形態に係る排液工程における血液浄化装置400の動作を説明する。排液工程は、予め設定された時間内に行われ、設定された時間が経過したことに応じて終了する。図10に示すステップS1001、S1002、S1005、およびS1006は、図8に示したステップS801、S802、S805、およびS806と同様であるので、説明を省略する。
【0088】
ステップS1103では、制御装置Cは、空気導入部ADからの空気が返血側回路VLに送り込まれるよう、空気ポンプAPに指示する。このステップは、後述するステップS1005の処理において、空気ポンプADが逆回転している場合、空気の送り込みを再開するために、空気ポンプADを正回転させるものである。この指示に応じて、空気ポンプAPが正回転する。一方、空気ポンプADが逆回転していない場合、空気ポンプADの正回転を継続する。この場合、空気ポンプAPが正回転したままである。
【0089】
ステップS1104では、制御装置Cは、血液回路BL内の圧力を減圧するよう、空気ポンプADに指示する。この指示に応じて、空気ポンプAPが逆回転する。空気ポンプAPが逆回転すると、返血側回路VLから空気が引き込まれるので、血液回路BL内の圧力を減圧することができる。
【0090】
図11に示すように、空気ポンプAPが逆回転すると、血液回路BL内の空気が空気導入部に引き込まれる。この状態で、血液回路BL内の空気を引き込みつつ、血液ポンプBPの駆動および排液ポンプDPの駆動のみによって、血液回路BL内の残液を排出する排液工程を継続することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、血液回路BL内の圧力を減圧するよう、空気ポンプAPを逆回転させているが、空気ポンプAPの逆回転に加え、またはその代わりに、例えば、血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPの駆動の出力を高めてもよい(例えば、単位時間当たりの回転数を増加させる)。血液ポンプBPおよび排液ポンプDPはいずれも、駆動(正回転)によって、血液回路BL内の残液と共に空気を引き込む役割を果たすので、いずれかのポンプの駆動の出力を高めることによって、血液回路BL内の圧力を減圧することができる。つまり、制御装置Cは、排液工程において、第1の引き込み量(単位時間当たりの)により残液を引き込むのに対し、本ステップにおいて、第1の引き込み量よりも多い第2の引き込み量(単位時間当たりの)により残液を引き込むよう、血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPに指示する。
【0092】
ステップS1102における処理が繰り返されることから、例えば、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定し、空気ポンプAPを逆回転させた場合でも、その後の判定でなおも、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定することがある。このような場合、制御装置Cは、空気ポンプAPの駆動の出力を高めるよう、空気導入部ADに指示してもよい。つまり、制御装置Cは、血液回路BLから、前の判定時よりも多くの空気を引き込むよう、空気導入部ADに指示する。
【0093】
上述した血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPの駆動の出力を高める場合も同様に、制御装置Cは、2回目以降の判定後に、駆動の出力を高めるよう、血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPに指示してもよい。つまり、制御装置Cは、第2の引き込み量よりも更に多い第3の引き込み量(単位時間当たりの)により残液を引き込むよう、血液ポンプBPおよび/または排液ポンプDPに指示する。駆動の出力は、例えば、空気導入部ADからの空気の圧力が閾値を上回ったと判定した回数が連続した場合、その連続した回数に応じた値だけ高められてもよい。
【0094】
以上のように、第4の実施形態に係る血液浄化装置400を説明した。第4の実施形態よっても、排液工程において血液回路BL内に多量の空気が送り込まれることを防止することができる。また、血液回路BL内の圧力を減圧した場合でも、送り込まれた空気が閾値を上回ったかどうかを判定し続けるので、血液回路BL内の圧力を適切に制御することができる。
【0095】
上記説明した実施形態は例示にすぎず、実施形態の範囲は、説明した例に限定されない。説明した処理および構成要素に加え、追加の処理および/または構成要素が追加されてもよい。また、発明の概念から逸脱することなく、説明した処理および/もしくは構成要素に変更が加えられてもよく、または特定の処理および/もしくは構成要素が省略されてもよい。さらに、説明した処理の順序は変更されてもよい。
【0096】
また、実施形態に係る血液浄化装置は、制御装置Cによって実行されるコンピュータプログラムによって実装されるが、当該コンピュータプログラムは、非一時的記憶媒体に記憶されてもよい。非一時的記憶媒体の例は、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、レジスタ、キャッシュメモリ、半導体メモリ装置、内蔵ハードディスクおよび取外可能ディスク装置などの磁気媒体、光磁気媒体、ならびにCD-ROMディスクおよびデジタル多用途ディスク(DVD)などの光学媒体などを含む。
【符号の説明】
【0097】
100 血液浄化装置
200 血液浄化装置
300 血液浄化装置
400 血液浄化装置
BL 血液回路
AL 脱血側回路
AC 脱血側チャンバ
VL 返血側回路
VC 返血側チャンバ
BP 血液ポンプ
AD 空気導入部
AP 空気ポンプ
AR 空気導入路
AF 空気フィルタ
AV 開閉弁
BM 血液浄化器
DIL 透析液回路
DRL 排液回路
DP 排液ポンプ
V1 開閉弁
V2 開閉弁
V3 開閉弁
V4 開閉弁
PG 圧力計測部
AN 脱血側穿刺針
VN 返血側穿刺針
CN コネクタ
C 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11