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特許7292434赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230609BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230609BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230609BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20230609BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 D
C12Q1/04
C12N5/078
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021572147
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001798
(87)【国際公開番号】W WO2021149127
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】出澤 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 富男
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0045887(US,A1)
【文献】米国特許第06037376(US,A)
【文献】特表2002-502617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0054268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0255433(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107952072(CN,A)
【文献】特開2013-036832(JP,A)
【文献】特開2019-097591(JP,A)
【文献】特表2015-501194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0042072(US,A1)
【文献】特表2016-521116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
G01N 15/00- 15/14
G01N 21/00- 21/01
G01N 21/17- 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器内の細胞にヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記レーザ光が照射されることによって前記細胞から発せられる光音響波を受信する音波受信部と、
該音波受信部によって受信された前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞の赤血球への分化の進行を評価し、評価結果を出力するプロセッサとを備え
前記音波受信部によって受信された前記光音響波が、赤血球への分化途中の前記細胞から発せられる光音響波を含む赤血球分化モニタリング装置。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記音波受信部によって受信される前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞におけるヘモグロビンの生成量を算出する請求項1に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項3】
前記プロセッサが、算出した前記ヘモグロビンの生成量から前記細胞の細胞種を推定する請求項2に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記分化が終了していないと判定した場合に、前記レーザ光源から前記細胞にレーザ光を再度照射させ、前記光音響波の強度の経時変化を取得する請求項1に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記光音響波の強度の閾値または前記光音響波の強度の経時変化の割合に基づいて、前記分化の終了を評価する請求項4に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項6】
前記経時変化を表示する表示部を備える請求項4に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記光音響波が発せられた位置座標と前記光音響波の強度とに基づく光音響画像を生成する請求項1から請求項6のいずれかに記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項8】
画像を表示する表示部を備え、
前記プロセッサが、前記光音響画像と、前記細胞からの観察光を撮影することによって得られる細胞画像とを重畳した重畳画像を前記表示部に表示する請求項7に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記培養容器内の特定の領域に含まれる複数の前記細胞の前記光音響画像および前記細胞画像に基づいて、前記特定の領域内の複数の前記細胞のうち、赤血球へ分化している前記細胞の割合を算出する請求項8に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項10】
前記細胞に照明光を照射する照明光源と、
前記照明光が照射されることによって前記細胞から発せられる前記観察光を撮影する撮像部とを備え、
前記プロセッサが、前記撮像部によって取得される前記細胞の画像情報に基づいて前記細胞画像を生成する請求項8に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項11】
前記照明光源が、前記撮像部の光軸に対して傾いた方向から前記細胞を偏斜照明する請求項10に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項12】
位相差観察用の集光光学系を備える請求項10に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項13】
前記レーザ光が近赤外波長の光である請求項1から請求項6のいずれかに記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項14】
前記培養容器がバイオリアクタまたは培養バッグである請求項1から請求項6のいずれかに記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項15】
前記培養容器中の培養液内の細胞密度を計測する計測部を備える請求項14に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項16】
前記音波受信部が、層状の形状であり、かつ、前記培養容器の内部に設置されている請求項14に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項17】
前記培養容器内の前記細胞が培養液とともに通過可能な管状部材を備え、
該管状部材が、長手方向の両端が前記培養容器に連結され、かつ、前記培養容器の外部に配置され、
前記レーザ光源が、前記管状部材を通過する前記細胞に前記レーザ光を照射する請求項14に記載の赤血球分化モニタリング装置。
【請求項18】
細胞にヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射し、
前記レーザ光が照射されることによって前記細胞から発せられる光音響波を受信し、
受信された前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞の赤血球への分化の進行を評価し、評価結果を出力し、
前記光音響波が、赤血球への分化途中の前記細胞から発せられる光音響波を含む赤血球分化モニタリング方法。
【請求項19】
前記評価によって前記分化が終了していないと判定した場合に、
前記細胞に前記レーザ光を再度照射し、
前記光音響波の強度の経時変化を取得する請求項18に記載の赤血球分化モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療分野において、iPS細胞などの幹細胞から血液細胞を生成する技術が確立されつつあり、輸血用血液の不足に対する解決手段として期待されている。例えば、iPS細胞を赤血球に分化誘導する方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
幹細胞から赤血球を生成するには、幹細胞から赤血球へ正常に分化させる必要がある。正常に分化しない細胞を培養し続けるのは無駄であるため、幹細胞から赤血球への分化が正常に行われているか否かを培養中に確認するのが望ましい。従来技術として、iPS細胞のコロニーを位相差観察で評価する技術が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Stem Cell Reports、Volume 1、Issue 6、p.499
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2011/010449号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、細胞画像を目視しても、幹細胞から赤血球への分化を判断および評価することは困難である。具体的には、分化の判断および評価には作業者の主観が入ったり、培養経験を積んでいないと分化を判断および評価できなかったりするという問題がある。
【0007】
また、位相差観察で判別可能なのは形状がメインである。他の細胞と異なり、幹細胞から赤血球へ分化する際は無色透明から赤色へと呈色が発生するが、位相差観察は、色に関する情報が少なく、呈色を起こす赤血球分化モニタリング、特に、呈色が起き始める分化初期のモニタリングには適していない。
【0008】
また、赤血球は非接着性の細胞であり、将来産業化して大量培養が必要になる際は、平面培養よりも浮遊培養形態が主流になることが予想されるが、大量の細胞の分化を目視によって確認するのはコストがかかるという問題がある。さらに、浮遊培養形態では、細胞画像の取得自体が困難であるとともに、細胞に呈色が起きるにつれ、容器内の光透過性が悪くなるという問題が生じる。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、幹細胞から赤血球への分化を簡易かつ精度よく監視することができる赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1態様は、容器内の細胞にヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射するレーザ光源と、前記レーザ光が照射されることによって前記細胞から発せられる光音響波を受信する音波受信部と、該音波受信部によって受信された前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞の赤血球への分化の進行を評価し、評価結果を出力するプロセッサとを備え、前記音波受信部によって受信された前記光音響波が、赤血球への分化途中の前記細胞から発せられる光音響波を含む赤血球分化モニタリング装置である。
【0011】
幹細胞から赤血球への分化の過程において、幹細胞が正染色性赤芽球まで分化するとヘモグロビンが生成され始める。本態様によれば、レーザ光源によって、細胞にヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光が照射されると、細胞が正染色性赤芽球まで分化している場合には、細胞内のヘモグロビンから光音響波が発せられ、音波受信部によってその光音響波が受信される。一方、細胞が正常に分化していない場合は、細胞内においてヘモグロビンが生成されていないため、光音響波が発せられない。
【0012】
したがって、プロセッサにより、音波受信部によって受信される光音響波の強度に基づいて、赤血球への分化が正常に進行しているか否かが分かる。これにより、目視によって細胞の分化を確認する場合と比較して、幹細胞から赤血球への分化を簡易かつ精度よく定量的に監視することができる。
【0013】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、前記音波受信部によって受信される前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞におけるヘモグロビンの生成量を算出することとしてもよい。
【0014】
ヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射することにより、細胞においてヘモグロビンの量が多いほどレーザ光が多く吸収され、細胞から発せられる光音響波の強度も強くなる。つまり、細胞におけるヘモグロビンの生成量は、音波受信部によって受信される光音響波の強度に比例する。したがって、上記構成によって、細胞におけるヘモグロビンの生成量を容易に算出することができる。
【0015】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、算出した前記ヘモグロビンの生成量から前記細胞の細胞種を推定することとしてもよい。
幹細胞から赤血球への分化の過程において、正染色性赤芽球から網状赤血球まではヘモグロビンの生成量が緩やかに増加し、網状赤血球から赤血球まではヘモグロビンの生成量が急激に増加する。したがって、上記構成によって、細胞種を容易に推定することができる。
【0016】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、前記分化が終了していないと判定した場合に、前記レーザ光源から前記細胞にレーザ光を再度照射させ、前記光音響波の強度の経時変化を取得することとしてもよい。
この高背によって、幹細胞が赤血球に分化するまで監視することができる。
【0017】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、前記光音響波の強度の閾値または前記光音響波の強度の経時変化の割合に基づいて、前記分化の終了を評価することとしてもよい。
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記経時変化を表示する表示部を備えることとしてもよい。
この構成によって、細胞から発せられる光音響波の経時変化を表示部によって容易に把握することができる。
【0018】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、前記光音響波が発せられた位置座標と前記光音響波の強度とに基づく光音響画像を生成することとしてもよい。
上記構成によって、生成された光音響画像により、容器内において幹細胞から赤血球へ正常に分化している細胞の位置を視認することができる。
【0019】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、画像を表示する表示部を備え、前記プロセッサが、前記光音響画像と、前記細胞からの観察光を撮影することによって得られる細胞画像とを重畳した重畳画像を前記表示部に表示することとしてもよい。
【0020】
細胞からの観察光を撮影することによって得られる細胞画像により、細胞の形状が分かる。したがって、上記構成によって、表示部に表示される光音響画像と細胞画像との重畳画像により、容器内において幹細胞から赤血球へ正常に分化している細胞の位置と形状の両方を視認することができる。
【0021】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記プロセッサが、前記容器内の特定の領域に含まれる複数の前記細胞の前記光音響画像および前記細胞画像に基づいて、前記特定の領域内の複数の前記細胞のうち、赤血球へ分化している前記細胞の割合を算出することとしてもよい。
【0022】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記細胞に照明光を照射する照明光源と、前記照明光が照射されることによって前記細胞から発せられる前記観察光を撮影する撮像部とを備え、前記プロセッサが、前記撮像部によって取得される前記細胞の画像情報に基づいて前記細胞画像を生成することとしてもよい。
【0023】
上記構成によって、細胞の光音響画像と細胞画像の両方を取得することができる。これにより、同一の細胞の光音響画像を取得する場合と細胞画像を取得する場合とで容器を移動させる必要がなく、光音響画像と細胞画像との間で同一の細胞を容易かつ精度よく対応付けることができる。
【0024】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記照明光源が、前記撮像部の光軸に対して傾いた方向から前記細胞を偏斜照明することとしてもよい。
上記構成によって、無色透明の細胞の立体感がある細胞画像を取得することができる。
【0025】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、位相差観察用の集光光学系を備えることとしてもよい。
位相差観察用の集光光学系によって、細胞の高解像でコントラストが高い細胞画像を取得することができる。
【0026】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記レーザ光が近赤外波長の光であってもよい。
近赤外波長は、ヘモグロビンの吸収波長域であるが、フェノールレッドの吸収波長域ではない。したがって、上記構成によって、培地にフェノールレッドを用いた場合に、フェノールレッドによるレーザ光の吸収を防ぐことができる。
【0027】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記培養容器がバイオリアクタまたは培養バッグであってもよい。
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記培養容器が前記バイオリアクタであり、該バイオリアクタが撹拌翼を備えることとしてもよい。
この構成によって、浮遊培養する細胞の分化を監視することができる。
【0028】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記培養容器中の培養液内の細胞密度を計測する計測部を備えることとしてもよい。
この構成によって、計測部によって計測される培養液内の細胞密度を用いて、幹細胞から赤血球になるまでの1細胞当たりの光音響波の強度の変化、すなわち細胞ごとの分化効率を求めることができる。
【0029】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記音波受信部が、層状の形状であり、かつ、前記培養容器の内部に設置されていることとしてもよい。
この構成によって、培養容器の外部に音波受信部を配置しないので、装置全体として小型化することができる。
【0030】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング装置は、前記培養容器内の前記細胞が培養液とともに通過可能な管状部材を備え、該管状部材が、長手方向の両端が前記培養容器に連結され、かつ、前記培養容器の外部に配置され、前記レーザ光源が、前記管状部材を通過する前記細胞に前記レーザ光を照射することとしてもよい。
この構成によって、細い管状部材を使用することにより、培養容器内の細胞にレーザ光を照射する場合と比較して、光および光音響波が通過する距離が短くなる。これにより、光および光音響波の減衰を抑制するとともにノイズを低減し、高精度な観察が可能となる
【0031】
本発明の第2態様は、細胞にヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射し、前記レーザ光が照射されることによって前記細胞から発せられる光音響波を受信し、受信された前記光音響波の強度に基づいて、前記細胞の赤血球への分化の進行を評価し、評価結果を出力し、前記光音響波が、赤血球への分化途中の前記細胞から発せられる光音響波を含む赤血球分化モニタリング方法である。

【0032】
上記態様に係る赤血球分化モニタリング方法は、前記評価によって前記分化が終了していないと判定した場合に、前記細胞に前記レーザ光を再度照射し、前記光音響波の強度の経時変化を取得することとしてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、幹細胞から赤血球への分化を簡易かつ精度よく監視することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図2】赤血球系の分化の過程を説明する図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング方法を説明するフローチャートである。
図4】ヘモグロビンの量の変化の一例を示すグラフである。
図5】本発明の第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング方法によって光音響波の強度の経時変化を取得する一例を説明するフローチャートである。
図6図1の赤血球分化モニタリング装置によって取得される光音響画像の一例を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態の変形例に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図9図8の赤血球分化モニタリング装置によって取得される光音響画像の一例を示す図である。
図10図8の赤血球分化モニタリング装置によって取得される細胞画像の一例を示す図である。
図11図9の光音響画像と図10の細胞画像とを重畳した重畳画像の一例を示す図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る赤血球分化モニタリング方法を説明するフローチャートである。
図13】本発明の第2実施形態の変形例に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図14】本発明の第3実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図15】本発明の第3実施形態の変形例に係る赤血球分化モニタリング装置の概略構成図である。
図16】本発明の第4実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置の培養容器および撹拌機構を説明する概略構成図である。
図17】本発明の第4実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置を上方から見た概略構成図である。
図18】本発明の第4実施形態に係る赤血球分化モニタリング方法によって光音響波の強度の経時変化を取得する一例を説明するフローチャートである。
図19図17の赤血球分化モニタリング装置に用いられる培養容器とステレオ計測装置の縦断面図である。
図20図19のステレオ計測装置の構成を説明する概略断面図である。
図21】培養容器の外部に別流路を設けた赤血球分化モニタリング装置の一部を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置1は、図1に示されるように、光音響光学系3と、細胞Sの赤血球への分化の進行を評価するプロセッサ5とを備えている。また、赤血球分化モニタリング装置1には、モニタや端末等の表示部6が接続されている。
【0036】
光音響光学系3は、パルスレーザ光を発するレーザ光源7と、レーザ光源7から発せられたパルスレーザ光を培養容器(容器)50内の細胞Sに集光する対物レンズ9と、細胞Sから発せられる光音響波を平行波に変換する音響レンズ11と、音響レンズ11によって平行波に変換された光音響波を反射する音波反射部材13と、音波反射部材13によって反射された光音響波を受信するプローブ(音波受信部)15とを備えている。また、光音響光学系3には、レーザ光源7から発せられたパルスレーザ光を走査させる走査部8が備えられている。
【0037】
プローブ(音波受信部)15は、例えば、複数の超音波振動子が配列された超音波振動子アレイである。超音波振動子は、例えば、圧電セラミックスまたはポリフッ化ビニリデン等の高分子フィルムによって構成される圧電素子からなる。超音波振動子は、光音響波を受信した場合にその受信信号を光音響波の強度として電気信号に変換する機能を有している。
【0038】
パルスレーザ光は、瞬間的にエネルギー密度を高くすることができる。パルスレーザ光は、連続発振のレーザ光源から発せられるレーザ光と比較して、細胞Sにレーザ光が照射される時間が短くなるため、細胞Sへの光ダメージを抑えつつ光音響波を効率的に発生させることができる点で優れている。ただし、パルスレーザ光を発するレーザ光源7を必ずしも用いなくてもよく、光音響波の発生効率は低下するが安価である連続発振(CW)レーザ光を発する他のレーザ光源を使用してもよい。
【0039】
レーザ光源7は、ヘモグロビンの吸収波長域のパルスレーザ光を発生する。レーザ光源7は、例えば、ヘモグロビン(Hb)の吸収ピーク波長である555nmのパルスレーザ光、酸化ヘモグロビン(HbO)の吸収ピーク波長である541nm,576nmのパルスレーザ光、および、近赤外波長である1000nm付近のパルスレーザ光のいずれかまたは複数が望ましい。光音響波の強度は分子の吸収する光の量に応じて増大するため、各分子の吸収ピーク波長のパルスレーザ光を使用することにより光音響波を効率的に取得することができる。
【0040】
ただし、使用する波長は、ヘモグロビンあるいは酸化ヘモグロビンによって吸収される波長ならば特に限定されない。近赤外波長は、培地成分であるフェノールレッドの吸収帯に被っていなければ特に限定されない。加えて、ヘモグロビンおよび酸化ヘモグロビンの等吸収点の波長を使用してもよい。ヘモグロビンは、周囲の酸素量(酸素分圧)に影響を受けることによって酸化ヘモグロビンに変化する場合がある。また、この変化は可逆的であり、酸化ヘモグロビンからヘモグロビンに戻る場合もある。この場合、ヘモグロビンおよび酸化ヘモグロビンが同量の光を吸収するため、酸素分圧の影響によるヘモグロビンおよび酸化ヘモグロビン含有量の割合の変化の影響を打ち消すことができる。以下、レーザ光源7が発生するパルスレーザ光を単にレーザ光という。
【0041】
幹細胞から赤血球への分化の過程において、例えば、図2に示されるように、幹細胞が正染色性赤芽球まで分化するとヘモグロビンが生成され始める。細胞Sにヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光が照射されると、細胞Sが正染色性赤芽球まで分化している場合には、細胞S内のヘモグロビンによってレーザ光が吸収される。そして、レーザ光を吸収したヘモグロビンにおいて瞬間的に熱膨張が起こることによって細胞Sから光音響波が発せられる(光音響効果)。一方、正染色性赤芽球まで分化が進行していないなど細胞Sが正常に分化していないか、あるいは未分化状態の場合は、細胞S内においてヘモグロビンが生成されていないためレーザ光は吸収されず、細胞Sから光音響波は発せられない。
【0042】
培養容器50は、例えば、フラスコまたはディッシュである。
音響レンズ11は、例えば、SiOまたはサファイア等の材料によって形成されている。音響レンズ11によって光音響波が平行波に変換されることにより、プローブ15の集音効率を向上することができる。音響レンズ11は、例えば、光音響波を伝搬する固体または液体の伝搬部材17を培養容器50の底部との間に介在して培養容器50に密着されることとしてもよい。
【0043】
音波反射部材13は、音響インピーダンスが高い材料を塗布したプリズムなどの光学部材によって形成されている。音響インピーダンスが高い材料は、例えば、シリコンオイルである。音波反射部材13は、光を透過させる一方、音響レンズ11を透過した光音響波をプローブ15に向けて反射する。
【0044】
対物レンズ9から培養容器50、音響レンズ11、音波反射部材13およびプローブ15までの間には、光音響波を伝搬する水等の液体の光音響伝達媒質(図示略)が充填されている。プローブ15は、フラスコまたはディッシュ等の培養容器50の底部に密着された状態で細胞Sからの光音響波を受信することとしてもよい。
【0045】
走査部8は、例えば、駆動源(例えばモータ)を含むMEMSミラーまたはガルバノミラーである。走査部8は、プロセッサ5によって動作を制御され、レーザ光源7から発せられたレーザ光を培養容器50内で2次元的に走査させる。走査部8は、さらに、対物レンズ9の光軸方向にレーザ光を走査させる構成を備えていることとしてもよい。
【0046】
プロセッサ5はハードウェアを含むことができる。ハードウェアは、例えば、デジタル信号を処理する回路およびアナログ信号を処理する回路の少なくとも1つを含むことができる。プロセッサ5は、例えば、回路基板上の1つまたは複数のIC(integrated circuit)等の回路デバイス、または、1つまたは複数の抵抗器およびコンデンサ等の回路素子を含むことができる。
【0047】
また、プロセッサ5は中央処理装置(CPU(Central Processing Unit))であってもよい。また、プロセッサ5として、GPU(Graphics Processing Unit)およびDSP(Digital
Signal Processor)を含む様々なタイプのプロセッサを使用してもよい。また、プロセッサ5として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えたハードウェア回路を使用してもよい。また、プロセッサ5は、アナログ信号を処理するための増幅回路およびフィルター回路などを含んでもよい。
【0048】
プロセッサ5は、例えば、図示しないメモリに記憶されているプログラムに従って、以下の処理を実現する。例えば、プロセッサ5は、プローブ15によって受信された光音響波の強度すなわち振幅に基づいて、細胞Sの赤血球への分化の進行を評価する。また、プロセッサ5は、プローブ15によって受信された光音響波の強度に基づいて、細胞Sにおけるヘモグロビンの生成量を算出する。さらに、プロセッサ5は、算出したヘモグロビンの生成量から細胞Sの細胞種を推定する。
【0049】
プロセッサ5は、評価結果、算出したヘモグロビンの生成量および推定した細胞Sの細胞種を表示部6に送る。プロセッサ5による評価結果、算出結果および推定結果の具体的な出力先は、表示部6を備えた端末ならば特に限定されず、ノート型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータ、スマートフォンやタブレット端末等であってもよい。
【0050】
メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)等の任意の半導体メモリであればよい。メモリは、記憶されているプログラムの実行の際に、ハードディスクまたはフラッシュメモリ等の不揮発性メモリに格納されているプログラムまたはデータを記憶するワークメモリとして機能する。
【0051】
次に、本実施形態に係る赤血球分化モニタリング方法は、図3のフローチャートに示されるように、レーザ光源7から発せられたヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を細胞Sに照射し(ステップSA3)、レーザ光が照射されることによって細胞Sから発せられる光音響波をプローブ15によって受信し(ステップSA4)、プローブ15によって受信された光音響波の強度に基づいて、細胞Sの赤血球への分化の進行を評価し(ステップSA6)、評価結果を出力する。
【0052】
上記構成の赤血球分化モニタリング装置1および赤血球分化モニタリング方法の作用について説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置1および赤血球分化モニタリング方法によって細胞Sを監視する場合は、培地成分および他成分によるレーザ光の吸収の影響を解消するため、まず、バックグラウンドを測定する(ステップSA1)。
【0053】
具体的には、培養容器50に細胞Sを播種する前に、培養容器50に細胞Sとともに収容されるフェノールレッド等の培地(図示略)上で、ヘモグロビンの吸収波長域、例えば555nmのレーザ光を走査させる。これにより、プローブ15において、培地成分およびその他の成分から発される光音響信号が取得される。プローブ15によって取得された光音響信号は、バックグラウンド信号としてプロセッサ5に送られる。
【0054】
次に、培地が収容されている培養容器50に細胞Sを播種し、培養を開始する(ステップSA2)。平面培養の場合は、細胞Sが播種された培養容器50を図示しないインキュベータに収容し、インキュベータ内で細胞Sを培養する。
【0055】
次いで、細胞Sの観察を開始し、レーザ光源7からヘモグロビンの吸収波長域である555nmのレーザ光を発生させる。レーザ光源7から発せられたレーザ光は、走査部8によって走査された後、対物レンズ9によって培養容器50内の細胞Sに照射される(ステップSA3)。光音響波の強度の経時変化をモニタリングする場合は、走査部8によるレーザ光の走査を繰り返す。なお、走査に伴いレンズを走査させてもよい。
【0056】
細胞S内でヘモグロビンが生成されている場合には、ヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光が照射されることによって細胞Sから光音響波が発せられる。細胞S内でヘモグロビンが生成されていない場合は、ヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光が照射されても細胞Sから光音響波は発せられない。レーザ光を走査することによって、適切に光音響波が取得できているかどうか確認してもよい。細胞Sにレーザ光が適切に照射されていれば、レーザ光を走査することによって集光位置が細胞Sからずれることにより、光音響波の強度が減衰するはずである。
【0057】
ヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光が照射されることによって細胞Sから光音響波が発せられると、その光音響波は、伝搬部材17を経由して音響レンズ11によって平行波に変換される。そして、音響レンズ11を透過した平行波の光音響波は、音波反射部材13によって反射されてプローブ15によって受信される(ステップSA4)。プローブ15によって取得された光音響信号はプロセッサ5に送られる。
【0058】
次いで、プロセッサ5により、プローブ15から送られてきた光音響信号からバックグラウンド信号が減算される、これにより、細胞Sからの光音響波の強度が算出される(ステップSA5)。
【0059】
細胞Sからの光音響波の強度が正の値の場合は、プロセッサ5により、レーザ光が照射された細胞Sにおいてヘモグロビンの生成が開始されている、すなわち細胞Sの分化が正常に進行していると評価される(ステップSA6)。また、プロセッサ5により、その細胞Sのヘモグロビンの生成量が算出されるとともに、細胞種が推定される。一方、ステップSA5において算出された光音響波の強度が0付近または負の値の場合は、プロセッサ5により、レーザ光が照射された細胞Sにおいてヘモグロビンは生成されていない、すなわち細胞Sは正常に分化が進行していないと評価される。
【0060】
プロセッサ5による評価結果、プロセッサ5において算出された細胞Sにおけるヘモグロビンの生成量および推定された細胞Sの細胞種は表示部6に送られ、表示部6によって表示される(ステップSA7)。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置1および赤血球分化モニタリング方法によれば、プロセッサ5により、プローブ15によって受信される光音響波の強度に基づいて、幹細胞から赤血球への分化が正常に進行しているか否かが分かる。これにより、目視によって細胞Sの分化を確認する場合と比較して、幹細胞から赤血球への分化を簡易かつ精度よく定量的に監視することができる。
【0062】
また、細胞Sにおいてヘモグロビンの量が多いほど、ヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光は多く吸収され、細胞Sから発せられる光音響波の強度も強くなる。つまり、細胞Sにおけるヘモグロビンの生成量は、プローブ15によって受信される光音響波の強度に比例する。したがって、プロセッサ5により、算出された細胞Sからの光音響波の強度に基づいて、細胞Sにおけるヘモグロビンの生成量を容易かつ定量的に算出することができる。
【0063】
また、幹細胞から赤血球への分化の過程において、例えば、図4に示されるように、正染色性赤芽球から網状赤血球まではヘモグロビンの生成量が緩やかに増加する。一方、網状赤血球から赤血球まではヘモグロビンの生成量が急激に増加する。したがって、プロセッサ5により、算出されたヘモグロビンの生成量に基づいて、細胞種を容易に推定することができる。図4において、縦軸は細胞Sにおけるヘモグロビンの量を示し、横軸は細胞種を示している。
【0064】
本実施形態においては、細胞Sの光音響波の強度の経時変化を取得し、分化が完了するまでモニタリングするのが望ましい。以下、光音響波の強度の経時変化を取得する一例を図5のフローチャートを参照して説明する。
プロセッサ5により、細胞Sの分化が正常に進行していると評価された場合は、さらに、細胞Sの分化が終了したか否かが判定される(ステップSA6´)。
【0065】
プロセッサ5は、検出する光音響波の強度が所定の閾値を超えたら分化終了と判断してもよい。また、プロセッサ5は、光音響波の強度の経時変化をモニタリングし、強度の変化の割合が頭打ちになったら分化終了と判断してもよい。プロセッサ5による評価結果、算出されたヘモグロビンの生成量および推定された細胞種等は、表示部6によってそれぞれ即時表示されることとしてもよいし、まとめて表示されることとしてもよい(ステップSA7)。プロセッサ5が分化終了と判断しなかった場合は、プロセッサ5がレーザ光源7を制御し、レーザ光を再度照射させることとすればよい。
光音響波の強度の経時変化はグラフで表示するのが望ましい。
【0066】
ユーザは細胞Sが発する光音響波の強度を取得することにより、赤血球への分化の有無を判断することができる。また、光音響波の強度の時間変化を取得することにより、分化の進行度合い、培養容器50内の分化効率の高低、過去の培養と比較した分化効率等を評価することができる。これにより、定量的かつ効率のよい培養を行うことができる。分化効率が悪い場合は、途中で培養をやめる判断を下すことができ、無駄な時間がかからずコストを削減できる。
【0067】
本実施形態は、平面培養であるので、プロセッサ5が、光音響波が発せられた位置座標と光音響波の強度とに基づく光音響画像を生成することとしてもよい。また、生成した光音響画像を表示部6に表示することとしてもよい。光音響波が発せられた位置座標は、レーザ光の走査位置から分かる。
【0068】
光音響画像は、例えば、図6に示されるように、光音響波が発せられた位置座標、すなわち、培養容器50上でヘモグロビンが生成されている場所を〇や□等の図形で表示することとしてもよい。また、ヘモグロビンの生成量に応じて、ヘモグロビンが生成されている場所を示す図形の色の濃度および図形の大きさを変えることとしてもよい。光音響波が発せられた位置座標は、プロセッサ5が、レーザ光の照射位置から算出すればよい。
【0069】
本変形例によれば、細胞Sにおいてヘモグロビンが生成されているか否かが分かるだけでなく、培養容器50内における細胞Sの分化がどの程度進行しているかを一見して把握することができる。
【0070】
本実施形態においては、容器として、フラスコやディッシュ等の培養容器50を例示して説明したが、これに代えて、容器として、ビニール等の軟質の培養バッグを採用することとしてもよい。培養容器50として培養バッグを用いる場合は、プローブ15を培養バッグに密着させ易いため、プローブ15を培養バッグのいずれかの箇所に密着させた状態で光音響波を取得させることとしてもよい。培養容器50に対するプローブ15の密着性が増すことによって光音響波の伝搬性が増し、より効率的に光音響波を取得することができる。
【0071】
本実施形態においては、赤血球分化モニタリング装置1が、パルスレーザ光を細胞Sの上方から照射する光音響光学系3を備えることとした。これに代えて、例えば、図7に示されるように、赤血球分化モニタリング装置1が、パルスレーザ光を細胞Sの下方から照射する光音響光学系30を備えることとしてもよい。光音響光学系30は、レーザ光源7と、走査部8と、対物レンズ9と、音響レンズ11と、音波反射部材13と、プローブ15とを備えている。
【0072】
光音響光学系30においては、レーザ光源7から発せられたレーザ光が、走査部8を経由して対物レンズ9によって集光され後、音波反射部材13を透過する。そして、音波反射部材13を透過したレーザ光が、音響レンズ11および伝搬部材17を経由して培養容器50内の細胞Sに照射される。そして、細胞Sから発せられる光音響波が、伝搬部材17を経由して音響レンズ11によって平行波に変換された後、音波反射部材13によって反射されてプローブ15によって受信される。なお、図7の形態の場合、音波反射部材13は音波を反射するとともにレーザ光を透過する。
【0073】
光音響光学系30においては、音響レンズ11の音波反射部材13側の面に補正レンズ19を密着状態に配置し、音響レンズ11および伝搬部材17によって生じる光の収差を補正レンズ19によって補正することとしてもよい。
【0074】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法について説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置21は、図8に示されるように、光音響光学系3の構成に加え、細胞Sの2次元的な画像を取得する一般的な光学顕微鏡の構成を備える点で第1実施形態と異なる。つまり、第1実施形態では光音響波のみを取得していたが、本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置21では、光音響波に加えて細胞画像も取得する構成となる。
以下、第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置1および赤血球分化モニタリング方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0075】
赤血球分化モニタリング装置21は、細胞Sに照明光を照射する照明光源23と、照明光が照射されることによって細胞Sから発せられ対物レンズ9によって集光された観察光を反射するダイクロイックミラー25と、ダイクロイックミラー25によって反射された観察光を結像させる結像光学系27と、結像光学系27によって結像された像を撮影する撮像部29とを備えている。ダイクロイックミラー25は、例えば、レーザ光の波長である540~580nmの波長を透過し、他の波長帯域を反射する特性を備えている。
【0076】
対物レンズ9は、レーザ光源7からのレーザ光を細胞Sに照射する一方、照明光源23からの照明光が照射された細胞Sから発せられる散乱光(観察光)を集光する。
ダイクロイックミラー25は、対物レンズ9によって集光された散乱光を撮像部29に向けて反射する一方、レーザ光源7からのレーザ光を対物レンズ9に向けて透過させる。
【0077】
照明光源23は、例えば、LEDまたはハロゲンランプである。照明光源23は、例えば、培養容器50の側方に配置され、対物レンズ9の光軸に交差する方向から音響レンズ11を経由させずに培養容器50に照明光を照射することによって、細胞Sを偏斜照明する。
【0078】
撮像部29は、CCDおよびCMOS等の撮像素子を備え、細胞Sからの散乱光を撮影することによって細胞Sの画像情報を取得する。撮像部29によって取得された細胞Sの画像情報はプロセッサ5に送られる。
【0079】
プロセッサ5は、プローブ15によって受信される細胞Sの光音響波に基づいて、図9に示されるような光音響画像を生成する。また、プロセッサ5は、撮像部29から送られてくる細胞Sの画像情報に基づいて、図10に示されるような細胞画像を生成する。
【0080】
プロセッサ5は、さらに、生成した細胞Sの光音響画像と細胞画像とを重畳することによって、図11に示されるような重畳画像を生成し、細胞Sの状態を判定する。プロセッサ5によって生成された重畳画像は表示部6によって表示される。
【0081】
上記構成の赤血球分化モニタリング装置21および赤血球モニタリング方法の作用について、図12のフローチャートを参照して説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置21によって細胞Sを監視する場合は、照明光源23によって培養容器50内の細胞Sに照明光を照射し、細胞Sからの散乱光を撮像部29によって撮影する。これにより、プロセッサ5において、図9に示されるような細胞画像が生成される(ステップSB1)。
【0082】
次いで、レーザ光源7からヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を発生し、走査部8、ダイクロイックミラー25および対物レンズ9を経由して細胞Sにレーザ光を照射する。細胞Sから発せられる光音響波は、伝搬部材17および音響レンズ11を透過した後、音波反射部材13によって反射されてプローブ15によって受信される。これにより、プロセッサ5において、図10に示されるような光音響画像が生成される(ステップSB2)。
【0083】
次いで、プロセッサ5により、生成した細胞画像と光音響画像とが重畳され、図11に示されるような重畳画像が生成される(ステップSB3)。そして、プロセッサ5により、細胞Sから光音響波が発せられたか否かが判定される(ステップSB4)。細胞Sから光音響波が発せられたと判定された場合は、プロセッサ5によって重畳画像が画像処理され、細胞S内に核が存在するか否か判定される(ステップSB5)。
【0084】
細胞S内に核が存在しないと判定された場合は、プロセッサ5により、細胞Sは赤血球に分化したものと判定される(ステップSB6)。これは、赤血球へ分化する段階で細胞核が消失する脱核という現象が起こるためである。一方、細胞S内に核が存在すると判定された場合は、プロセッサ5により、細胞Sは分化途中、すなわちまだ赤血球になっていないと判定される(ステップSB7)。ステップSB7においては、プロセッサ5により、光音響波の強度に基づいて、細胞種が多染性赤芽球、正染色性赤芽球および網状赤血球のいずれであるか推定されることとしてもよい。
【0085】
ステップSB4において、細胞Sから光音響波が発せられていないと判定された場合は、プロセッサ5によって重畳画像が画像処理され、細胞Sの形状が円形か否かが判定される(ステップSB8)。細胞Sが円形であると判定された場合は、プロセッサ5により、細胞Sは分化途中、例えば、前赤芽球または好塩基性赤芽球であると判定される(ステップSB9)。一方、細胞Sが円形ではないと判定された場合は、プロセッサ5により、細胞Sは溶血した赤血球であると判定される(ステップSB10)。溶血とは、何らかの原因で赤血球が壊れ、血球の円形または球状等の形を維持できていない状態である。赤血球が壊れているためヘモグロビンを細胞内部に維持できず、分化が進行したにも関わらず光音響波は観測されない。
【0086】
以上、本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置21および赤血球分化モニタリング方法によれば、細胞Sの光音響画像と細胞画像の両方を取得することができる。これにより、同一の細胞Sの光音響画像を取得する場合と細胞画像を取得する場合とで培養容器50を移動させる必要がない。したがって、光音響画像と細胞画像との間で同一の細胞Sを容易かつ精度よく対応付けることができ、細胞Sの状態をより正確に判定することができる。また、細胞Sを偏斜照明することによって、無色透明の細胞Sの立体感がある細胞画像を取得することができる。
【0087】
本実施形態においては、照明光源23が、照明光を音響レンズ11を透過させずに細胞Sに偏斜照明することにより、光音響画像の取得と細胞画像の取得とを同時に行うこととしてもよい。
【0088】
本実施形態においては、プロセッサ5が、培養容器50内のレーザ光および照明光の照射領域に含まれる複数の細胞Sの光音響画像および細胞画像に基づいて、その領域内の複数の細胞Sのうち、赤血球へ分化している細胞Sの割合を算出することとしてもよい。
【0089】
本実施形態においては、ダイクロイックミラー25に代えてハーフミラーを採用することとしてもよい。また、本実施形態においては、レーザ光源7と結像光学系27および撮像部29との位置を入れ替え、ダイクロイックミラー25またはハーフミラーによって、レーザ光源7からのレーザ光を対物レンズ9に向けて反射する一方、対物レンズ9からの散乱光を結像光学系27および撮像部29に向けて透過させることとしてもよい。
【0090】
本実施形態においては、赤血球分化モニタリング装置21が光音響光学系3を備える場合を例示して説明したが、これに代えて、例えば、図13に示されるように、赤血球分化モニタリング装置21が、光音響光学系30を備えることとしてもよい。この場合、ダイクロイックミラー25が不要となる。この構成によっても、本実施形態と同様の効果が得られる。図13において、符号28は、細胞Sからの散乱光を集光する集光レンズを示している。
【0091】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法について説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置31は、図14に示されるように、偏斜照明観察に代えて位相差観察を行う点で第2実施形態と異なる。
以下、第2実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置21および赤血球分化モニタリング方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0092】
赤血球分化モニタリング装置31は、照明光源23から発せられた照明光を培養容器50内の細胞Sに照射する位相差コンデンサレンズ(集光光学系)33と、照明光が照射された細胞Sからの観察光を集光する位相差対物レンズ(集光光学系)37とを備えている。
【0093】
位相差コンデンサレンズ33にはリングスリット35が内蔵されている。リングスリット35は、照明光源23から発せられた照明光のうち、リングスリット35に入射した光のみを通過させ、リングスリット35以外の位置に入射した光を遮断する。
【0094】
位相差コンデンサレンズ33は、伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19のセットとともに図示しないターレット上に配置されている。ターレットによって、位相差コンデンサレンズ33と伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19のセットとを選択的に照明光の光路上に配置することができる。
【0095】
位相差対物レンズ37には位相板39が内蔵されている。位相差対物レンズ37は、対物レンズ9とともに図示しないターレット上に配置されている。ターレットによって、位相差対物レンズ37と対物レンズ9とを選択的に照明光の光路上に配置することができる。位相板39は、位相差コンデンサレンズ33のリングスリット35と共役な位置に配置される。
【0096】
上記構成の赤血球分化モニタリング装置31および赤血球分化モニタリング方法の作用について説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置31および赤血球分化モニタリング方法によって細胞Sを監視する場合は、まず、照明光源23からの照明光の光路上に位相差コンデンサレンズ33を配置するとともに、細胞Sからの観察光の光路上に位相差対物レンズ37を配置した状態で、照明光源23から照明光を発生する。
【0097】
照明光源23から発せられた照明光は音波反射部材13と透過した後、位相差コンデンサレンズ33によってリングスリット35を通過した照明光のみが細胞Sに照射される。照明光が照射されることによって細胞Sにおいて発せられた観察光は、位相差対物レンズ37によって集光された後、位相板39を通過した観察光のみがダイクロイックミラー25によって反射されて撮像部29によって撮影される。これにより、プロセッサ5において細胞Sの位相差細胞画像が取得される。
【0098】
次いで、位相差コンデンサレンズ33から伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19のセットに切り替えるとともに、位相差対物レンズ37から対物レンズ9に切り替える。そして、レーザ光源7からヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を発生させる。レーザ光源7から発せられたレーザ光は、走査部8、ダイクロイックミラー25、対物レンズ9を経由して細胞Sに照射される。
【0099】
レーザ光が照射されることによって細胞Sから発せられる光音響波は、伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19を経由した後、音波反射部材13によって反射されてプローブ15によって受信される。これにより、プロセッサ5において細胞Sの光音響画像が取得される。
【0100】
次いで、プロセッサ5により、細胞Sの位相差細胞画像と光音響画像とが重畳される。そして、プロセッサ5により、図12のフローチャートのステップSB4~SB10の処理が実行されることによって、細胞Sの状態が判定される。
本実施形態によれば、位相差観察によって、細胞の高解像でコントラストが高い細胞画像を取得して、細胞Sの状態を判定することができる。
【0101】
本実施形態においては、赤血球分化モニタリング装置31が光音響光学系3を備える場合を例示して説明した。これに代えて、例えば、図15に示されるように、赤血球分化モニタリング装置31が、光音響光学系30を備えることとしてもよい。
【0102】
この場合もターレットによって、位相差コンデンサレンズ33と伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19のセットとを切り替え可能にするとともに、位相差対物レンズ37と対物レンズ9とをそれぞれ切り替え可能にすることとすればよい。この構成によっても本実施形態と同様の効果が得られる。図15において、符号38は照明光源23からの照明光を位相差コンデンサレンズ33または伝搬部材17、音響レンズ11および補正レンズ19のセットに向けて反射するミラーを示している。
【0103】
第2、第3実施形態においては、細胞画像を取得する観察方法として偏斜照明観察および位相差観察を例示して説明したが、その他の観察方法、例えば、微分干渉観察等を採用してもよい。光音響は、ヘモグロビンの生成によって発生する現象であり、赤血球に分化する前の細胞Sの情報は取得することができないが、偏斜照明観察および位相差観察を用いることにより、赤血球に分化する前の無色透明な細胞Sでも画像を取得することができる。
【0104】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置および赤血球分化モニタリング方法について説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置41は、図16および図17に示されるように、平面培養ではなく浮遊培養するものである点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置1および赤血球分化モニタリング方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0105】
赤血球分化モニタリング装置41は、赤血球を浮遊培養するバイオリアクタ等の培養容器(容器)51を採用する。本実施形態で用いるバイオリアクタ等の培養容器51は、上面51aが閉塞された有底円筒状に形成されている。また、培養容器51は、光学的に透明な材質によって形成されている。バイオリアクタ等を用いた浮遊培養は、フラスコやディッシュ等を用いた平面培養に比べ、一度に大量の細胞Sを培養することができる効果を有する。
【0106】
赤血球分化モニタリング装置41は、培養容器51内の培養液(培地)Wを撹拌する撹拌機構43を備えている。撹拌機構43は、培養容器51の上面51aを経由して培養容器51内に挿入されるシャフト43aと、シャフト43aに設けられた撹拌翼43bと、シャフト43aを長手軸回りに回転させるモータ43cとを備えている。撹拌機構43によって培養容器51内の培養液Wが撹拌されることにより、培養液W内において細胞Sがほぼ均等に分散されて浮遊する。これにより、細胞Sは培養容器51内に均一に存在していると仮定でき、後述する光音響波の測定や細胞密度計測などの計測位置依存性が低下する。
【0107】
赤血球分化モニタリング装置41は、走査部8を備えず、レーザ光源7から発せられたレーザ光を対物レンズ9によって集光することにより、培養液W中の特定の位置にレーザ光を照射する。すなわち、レーザ光は走査されず、レーザ光の照射位置は固定されている。
【0108】
プローブ15は、培養液W中のレーザ光の照射位置を通過する細胞Sから発せられる光音響波を受信する。プローブ15と培養容器51の側面との間には、光音響波を伝搬する水等の液体の光音響伝達媒質が満たされている。
【0109】
上記構成の赤血球分化モニタリング装置41および赤血球分化モニタリング方法の作用について、図18のフローチャートを参照して以下に説明する。
本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置41によって細胞Sを監視する場合は、まず、培養容器51に細胞Sを収容する前に、培養容器51内の培養液Wにヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を照射する。そして、培地成分およびその他の成分から発される光音響信号がプローブ15によって取得される。プローブ15によって取得された光音響信号は、バックグラウンド信号としてプロセッサ5に送られる(ステップSC1)。
【0110】
次いで、撹拌機構43によって培養容器51内の培養液Wを撹拌しながら細胞Sの培養を開始する(ステップSC2)。そして、培養液Wを撹拌した状態で、レーザ光源7からヘモグロビンの吸収波長域のレーザ光を発生させる。レーザ光源7から発せられたレーザ光は、対物レンズ9を経由して培養容器51内の特定の位置に照射される(ステップSC3)。
【0111】
培養液W中で浮遊している細胞Sがレーザ光の照射位置を通過すると、細胞Sが正染色性赤芽球まで分化している場合には、ヘモグロビンにレーザ光が吸収されることによって細胞Sから光音響波が発せられる。細胞Sから発せられた光音響波はプローブ15によって受信される(ステップSC4)。
【0112】
次いで、プロセッサ5によって、プローブ15から送られてくる光音響信号からバックグラウンド信号が減算されることにより、細胞Sからの光音響波の強度が算出される(ステップSC5)。そして、プロセッサ5により、細胞Sからの光音響波の強度に基づいて、細胞Sの赤血球への分化の進行が評価される(ステップSA6)
【0113】
レーザ光源7から培養液W内の特定の位置にレーザ光を照射し続けるか、または、レーザ光源7から1時間ごとなど時間間隔をあけて培養液W内の特定の位置にレーザ光を照射し、プローブ15によって受信される光音響波の強度の経時変化をプロセッサ5によって監視する。そして、プロセッサ5によって、細胞Sの分化が終了したか否かが判定される(ステップSC6´)。
【0114】
培養容器51内の細胞Sの分化が進行するに伴い、細胞S内のヘモグロビンの量が増加することから、時間経過とともにプローブ15によって受信される光音響波の強度も増大する。プローブ15によって受信される光音響波の強度が増大しなくなったら、細胞Sの分化の進行が終了したと判断する(ステップSC6´「YES」)。そして、培養を終了し、細胞Sを取り出す。検出する光音響波の強度が所定の閾値を超えたら分化終了と判断してもよい。プロセッサ5による評価結果、算出されたヘモグロビンの生成量および推定された細胞種等は、表示部6によってそれぞれ即時表示されるか、まとめて表示される(ステップSC7)。
【0115】
以上説明したように、本実施形態に係る赤血球分化モニタリング装置41および赤血球分化モニタリング方法によれば、培養容器51内に収容されている複数の細胞S全体の分化の進行度合いが分かる。また、培養時の光音響波の強度の経時変化を記録しておくことにより、それ以降別の培養を行う場合に光音響波を比較し、培養の進捗を比較したり予測したりすることができる。
【0116】
培養液Wおよび分化後の細胞Sは有色なため、浮遊培養においては培養容器51内の光透過性が悪く、画像観察および吸光度観察など光学的方法を用いた観察が難しいという制約がある。加えて、浮遊培養に光学的測定を用いた場合は、光の散乱および反射が起き、ノイズの増加および目的信号の減衰が起こってしまう。光音響測定で検出しているのは音波であり、光の散乱および反射の影響を受けない。また、培養液Wは液体であるため音波の伝搬効率がよく、純粋に目的信号を取得できる。また、光音響波は、レーザ光が細胞Sに照射されると、細胞Sの周囲の全方位に均等、例えば細胞Sを中心に球状すなわち放射状に発される。そのため、光音響波の検出位置はどこでもよく、画像観察や吸光度等の光学的測定よりも計測位置の自由度という点で優れている。
【0117】
培養容器51内の複数の細胞Sは、培養を開始してから終了するまでの間に分裂等によって総数が変化することがある。本実施形態においては、光音響波の総量は分かるものの細胞Sの数の情報は分からない。そこで、例えば、培養液W中の細胞密度を用いて、幹細胞から赤血球になるまでの1細胞当たりの光音響波の強度の変化、すなわち細胞Sごとの分化効率を求めることとしてもよい。
【0118】
培養液W中の細胞密度(cells/mm)を算出する場合は、例えば、図19に示されるようなステレオ計測装置(計測部)45を採用することとしてもよい。ステレオ計測装置45は、培養容器51の培養液W内に挿入されてステレオ計測を行う。
【0119】
ステレオ計測装置45は、図20に示されるように、照明光源23と、培養液W中に浮遊している同一の細胞Sに対して、異なる視点から見た互いに視差がある2つの像を結像させるステレオ光学系47と、ステレオ光学系47によって結像された2つの像をそれぞれ撮影する撮像部29と、これら照明光源23、ステレオ光学系47および撮像部29を収容する光学的に透明な筐体49とを備えている。図20において、符号24は、照明光源23から発せられた照明光を導光するライトガイドファイバを示している。
【0120】
また、プロセッサ5により、以下の方法によって、1細胞当たりの光音響波の強度の経時変化を求めることとしてもよい。例えば、プロセッサ5により、撮像部29によって取得される2つの像の各画像に含まれている細胞Sの位置が特定され、所定の領域内に存在する細胞Sの数に基づいて、培養液W中の細胞密度が算出される。
【0121】
培養液W中の細胞密度が算出されたら、プロセッサ5により、レーザ光の光束径が最も小さくなるビームウエストの値が用いられてレーザ光の集光点の体積が求められ、体積当たりの光音響波の強度(光音響波の強度/mm)が算出される。
【0122】
次いで、プロセッサ5により、算出した体積当たりの光音響波の強度(光音響波の強度/mm)が培養液W中の細胞密度(cells/mm)によって除算される。これにより、測定時点での1細胞当たりの光音響波の強度(光音響波の強度/cell)が算出される。体積当たりの光音響波の強度が増大しなくなったら、細胞Sの分化が終了したとみなされ、分化終了時の光音響波の強度が記憶される。検出する光音響波の強度が所定の閾値を超えたら分化終了と判断してもよい。
【0123】
この構成によれば、ユーザの使用装置および使用容器における条件下での分化の進行に伴う1細胞当たりの光音響波の絶対強度および変化が分かる。また、過去の実験の1細胞当たりの光音響波の強度と比較することにより、複数の細胞S全体の分化効率を比較することができる。分化効率を比較することにより、ユーザは、効率が悪い場合は、培養を途中で止めたり培養手技の振り返りを行ったりするなどの対策を取ることができ、結果的に培養効率が上昇することとなる。
【0124】
本実施形態においては、容器として、光学的に透明な材質によって形成された有底円筒状の培養容器51を例示して説明したが、容器は、袋状、球状または箱状等、任意の形状のものを採用することができる。例えば、使い捨て可能な袋状の培養容器(培養バッグ)を採用することとしてもよい。また、容器は、硬質またはビニール等の軟質等、任意の材質のものを採用することができる。また、容器は、全体が透明である必要はなく、容器がレーザ光を透過させる透明部を部分的に有するものであってもよい。光音響波はレーザ光が細胞Sに当たりさえすれば発されるため、部分的な透明部があれば容器の材質や形状は特に限定されない。容器が軟質な材料からなるものであるならば、容器の外部にプローブ15を設置した際に、容器にプローブ15を密着させやすいという効果を有する。
【0125】
前述の通り、光音響を浮遊培養形態に適用することは計測位置自由度の点で優れている。本実施形態においては培養容器51の外部にプローブ15を設けた例を説明したが、培養容器51の内部にプローブ15を設けてもよい。
【0126】
例えば、単に、培養容器51の内部にプローブ15を設置してもよいし、プローブ15を層状にして培養容器51内に貼り付けてもよい。また、プローブ15を平板形状にすることによって、培養容器51の底面または蓋にプローブ15を貼り付けてもよい。また、プローブ15の形状に丸みを持たせることによって、培養容器51の側面にプローブ15を貼り付けてもよい。
【0127】
本変形例によれば、細胞Sを中心に球状、すなわち細胞Sの周囲の全方位に発っせられた光音響波をプローブ15によって万遍なく受信できる。また、培養容器51の外部にプローブ15を設けないので、システム全体として小型化が可能になる。
【0128】
前述した実施形態では培養容器51の内外で光音響波を受信する例を示したが、培養容器51の外部に別流路を設けることによって、分化をモニタリングする場所を作ってもよい。例えば、図21に示されるように、バイオリアクタおよび培養バッグ等の培養容器51の上面に吸引口51bを設けるとともに、培養容器51の側壁に返送口51cを設ける。そして、吸引口51bと返送口51cとを繋ぐ流路を構成する管状部材53を培養容器51の外部に設置する。
【0129】
管状部材53の一部にレーザ光源7からレーザ光を照射する。そして、管状部材53におけるレーザ光の照射部分を通過した細胞Sから発せられる光音響波をプローブ15によって受信することとすればよい。管状部材53の途中に培養液Wおよび細胞Sを別途貯留させる観察場所を設けてもよい。
【0130】
管状部材53の一部に送液ポンプ55を設置し、液流を発生させることとしてもよい。送液ポンプ55としては、例えばダイヤフラムポンプを採用することとしてもよい。プロセッサ5が送信した駆動信号によって、送液ポンプ55の駆動のON/OFFを切り替えることとしてもよい。送液ポンプ55は、常時ONでもよいし、光音響波を取得したい時のみONにすることとしてもよい。送液ポンプ55は、管状部材53によって移送される細胞Sを潰したり傷つけたりする虞がないものが望ましい。
【0131】
管状部材53としては、例えば、シリコンおよびゴムなどの軟質チューブ、または、金属で構成された硬質管を採用することができる。管状部材53の少なくとも一部が音波を伝搬する性質を備えていれば、管状部材53の材質は特に限定されない。また、管状部材53には、少なくとも一部にレーザ光を照射できる穴があればよい。管状部材53が、光が透過する透過性の高い部材であれば、レーザ光を照射するための穴は必要ない。
【0132】
プローブ15は、培養容器51の外部に設置する場合は、管状部材53に密着していればどこに設置してもよい。例えば、管状部材53に対してレーザ光の照射位置と同じ側、すなわちレーザ光源7側(反射型)にプローブ15を配置することとしてもよい。また、レーザ光の照射位置の反対側、すなわちレーザ光源7側とは反対側(透過型)にプローブ15を配置することとしてもよい。また、プローブ15を層状に形成し、管状部材53の内部にプローブ15を貼り付けることとしてもよい。
【0133】
本変形例では、培養容器51の他に別流路を設けて光音響波を取得する構成を示したが、この構成は、培養容器51内にそのままレーザ光を照射する構成に比べ、光および光音響波が通過する距離が短くなる。これにより、光および光音響波の減衰が小さくなり、ノイズも入りにくいため、高精度な観察が可能となる。また、管状部材53の長さを長くすれば観察位置の自由度が大きくなるため、作業性が向上する。
【0134】
上記各実施形態においては、ヘモグロビン(Hb)の吸収ピーク波長である555nmのレーザ光を照射する場合を例示して説明したが、ヘモグロビンの他の吸収波長域のレーザ光を使用することとしてもよい。例えば、培地としてフェノールレッドを用いる場合は、フェノールレッドの吸収波長域ではない近赤外波長である1000nm付近のレーザ光を使用することとしてもよい。
【0135】
また、例えば、酸素分圧が高い場合は、酸化ヘモグロビン(HbO)が混ざる可能性がある。その場合、酸化ヘモグロビン(HbO)の吸収ピーク波長である541nm,576nmのレーザ光を照射することとしてもよい。また、複数波長を用いることによって、ヘモグロビン(Hb)と酸化ヘモグロビン(HbO)との混入割合を求めてもよい。
【0136】
また、所望の細胞Sにレーザ光が到達する前に、その手前に存在している他の細胞Sおよびフェノールレッド等の培地にレーザ光が吸収されることによって、所望の細胞Sからの光音響波以外の光音響波がプローブ15によって受信される可能性がある。これを防ぐため、2光子励起光音響を用いることとしてもよい。
【0137】
2光子励起光音響は、例えば、パルス幅が数百フェムト秒のピークパワーの高いパルスレーザを細胞Sに集光照射する。2光子励起は、高いピークパワーを持つレーザ光を1点に集光することにより、空間的、かつ、時間的に光子密度が高いレーザ光を照射したときに、分子の基底状態と励起状態のエネルギー差が光子のエネルギーの2倍にほぼ一致すると、2つの光子が同時に吸収され、分子が励起状態に遷移することによって起こる。2光子励起光音響によれば、光子密度が高い焦点近傍の微小領域でのみ選択的に吸収が起こるため、焦点を結ぶ前後のレーザ光により、観察したい細胞S以外の他の細胞Sや培地成分であるフェノールレッド等から光音響波が発生することがなく、コントラストの高い観察が可能となる。
【0138】
2光子励起光音響を用いる場合は、例えば、ヘモグロビン(Hb)の吸収ピーク波長である555nmの2倍付近の波長、または、酸化ヘモグロビン(Hb2)の吸収ピーク波長である541nm,576nmの2倍付近の波長を用いることとすればよい。555nmの2倍付近の波長および541nm,576nmの2倍付近の波長は、いずれもその半分の波長がヘモグロビンの吸収波長であるので、2光子励起が起こる。
【0139】
また、これらの波長は1000nm付近から1150nm付近の近赤外の波長なので、培地のフェノールレッドにより吸収されることはなく、効率的に2光子励起による光音響波を発生させることができる。1000nm付近の近赤外波長は、ヘモグロビンの吸収ピーク波長から外れるが培地成分であるフェノールレッドの吸収波長帯からも外れるので、入射レーザ光の強度が培地に吸収されることが無く、入射レーザ光強度に対する光音響波の発生効率は確保できる場合もある。
【0140】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記各実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0141】
1,21,31,41 赤血球分化モニタリング装置
5 プロセッサ
6 表示部
7 レーザ光源
15 プローブ(音波受信部)
23 照明光源
29 撮像部
33 位相差コンデンサレンズ(集光光学系)
37 位相差対物レンズ(集光光学系)
45 ステレオ計測装置(計測部)
50,51 培養容器(容器)
53 管状部材
S 細胞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図21