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  • 特許-焼成鉛筆芯 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】焼成鉛筆芯
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20230609BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022045861
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2020203347の分割
【原出願日】2016-06-15
(65)【公開番号】P2022082615
(43)【公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】石井 直
(72)【発明者】
【氏名】乾 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-127055(JP,A)
【文献】特開2006-265299(JP,A)
【文献】特開平11-302588(JP,A)
【文献】特開平05-179189(JP,A)
【文献】特開平08-053642(JP,A)
【文献】特開平09-078022(JP,A)
【文献】特開昭55-025368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00 - 13/00
B43K 11/00 - 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含んでなり、JIS S 6005:2007に規定されている方法で測定した筆記濃度がDであるとき、X線回折測定により定められる前記黒鉛の結晶子のa軸方向のサイズL(nm)、c軸方向のサイズL(nm)、および、前記LとLとの積L×Lが、下記式(1)、(2)および(4):
52×D+30≦L≦52×D+60 (1)
30×D+6≦L≦30×D+18 (2)
×L≦3100D+700 (4)
を同時に満たすものであることを特徴とする、焼成鉛筆芯。
【請求項2】
前記Lが、下記式(2A):
30×D+8≦L≦30×D+16 (2A)
をさらに満たす、請求項1に記載の焼成鉛筆芯。
【請求項3】
下記式(4A):
×L≦3100D+650 (4A)
をさらに満たす、請求項1または2に記載の焼成鉛筆芯。
【請求項4】
前記焼成鉛筆芯が気孔を含んでおり、前記焼成芯の気孔率が10~45%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成鉛筆芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を含んでなる焼成鉛筆芯およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、黒鉛を含んでなる焼成鉛筆芯は、黒鉛と樹脂などの結合材とを混合し、混練したのち成形し、高温で焼成して焼成体を形成させたあと、その焼成体に含まれる気孔中に、必要に応じて油やワックス等を含浸することにより製造される。このとき鉛筆芯としては曲げ強度、濃度、書き味、筆記距離等の諸性能がバランスよく保持されていなければならず、特に曲げ強度と濃度については相反する性能であるため、強度と濃度との好ましい相関関係を求めて各種の方法が検討されている。
特許文献1には、焼成鉛筆芯に含まれる黒鉛の結晶子サイズLが15~60nmである焼成鉛筆芯が記載されている。この特許文献では、結晶子サイズLのみに着目して焼成鉛筆芯の改良を検討しているが、焼成鉛筆芯の諸性能のバランスの観点からはさらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-127055公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した通り、従来の焼成鉛筆芯に対して、諸性能のバランスの改良、特に曲げ強度と筆記濃度とがともに改良された焼成鉛筆芯が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による焼成鉛筆芯は、黒鉛を含んでなり、JIS S 6005:2007に規定されている方法で測定した筆記濃度がDであるとき、X線回折測定により定められる前記黒鉛の結晶子のa軸方向のサイズLa(nm)、c軸方向のサイズLc(nm)、および、前記LcとLaとの積Lc×Laが、下記式(1)、(2)および(4):
52×D+30≦La≦52×D+60 (1)
30×D+6≦Lc≦30×D+18 (2)
Lc×La≦3100D+700 (4)
を同時に満たすものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な書き味や筆記距離を維持しながら、高い強度と高い筆記濃度を両立できる焼成鉛筆芯が提供される。より具体的には、本発明による焼成鉛筆芯は、同等の筆記濃度を有する従来の焼成鉛筆芯よりも折れにくいものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例1~3および参照例1の焼成鉛筆芯の断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
本発明による焼成鉛筆芯(以下、簡単に鉛筆芯ということがある)は、黒鉛を含んでなり、その黒鉛を構成する結晶子の形状に特徴を有するものである。すなわち、本発明による鉛筆芯に含まれる黒鉛は結晶子が小さいことを特徴とする。具体的には、本発明による鉛筆芯に含まれる黒鉛の結晶子は、黒鉛の結晶子のa軸方向のサイズL、およびc軸方向のサイズLとを用いて特定することができる。ここで、Lはa軸方向の幅を、Lは結晶子のc軸方向の厚みを、それぞれ意味するものであり、いずれも体積で重みづけされた体積加重平均サイズである。このLおよびLは、X線回折装置を用いて測定されたXRDプロファイルをもとに、Lに対しては(110)面に対応する回折線、Lに対しては(002)面に対応する回折線の半値幅を求め、シェラーの式:
L = Kλ/βcosθ
(ここで、
L:結晶子サイズ[nm]
K:シェラー定数
λ:X線波長[nm]
β:半値幅
である)
により求めることができる。
【0010】
本発明者らの検討によれば、このように決定される黒鉛の結晶子サイズは、その黒鉛を含む焼成鉛筆芯の筆記濃度および曲げ強さに関連し、焼成鉛筆芯の筆記濃度と、結晶子サイズとが特定の関係を満たす時に、書き味や筆記距離などの諸性能を損なうことなく、曲げ強度を改良することができることがわかった。
【0011】
本発明の一実施態様による焼成鉛筆芯は、筆記濃度がDであるとき、L(nm)、L(nm)、および、前記LとLとの比L/Lが、下記式(1)、(2)、および(3):
52×D+30≦L≦52×D+60 (1)
30×D+6≦L≦30×D+18 (2)
/L≦0.18D+0.40 (3)
を同時に満たすものである。
【0012】
なお、本発明において筆記濃度DはJIS S 6005:2007に規定されている方法で測定されるものであるが、使用されるケント紙は、王子製紙株式会社製であり、坪量:126g/m、厚さ:0.150mm、密度:0.85g/cm、表面粗さ:81a、平滑度:81S、サイズ度:110S、白色度:99.4%、および不透明度:92.7%の比の品質特性を有するものです。
【0013】
ここで、L
30×D+8≦L≦30×D+16 (2A)
を満たすことが好ましい。
【0014】
また、L/L
/L≦0.18D+0.38 (3A)
を満たすことが好ましい。
【0015】
すなわち、結晶子のサイズが小さく、かつアスペクト比が高いときに優れた特性の鉛筆芯が得られる。なお、ここでアスペクト比とは黒鉛の結晶構造において、結晶子を構成する六方晶のa軸の広がりに対するc軸の厚みをいう。
【0016】
なお、結晶子のサイズは、L×Lとも相関関係を有する。このため、さらに下記式(4)を満たすことが好ましい。
×L≦3100D+700 (4)
ここで、L×L
×L≦3100D+650 (4A)
を満たすことが好ましい。
【0017】
なお、式(4)を満たすことにより、式(3)を満たさないでも、十分に優れた特性の鉛筆芯を得ることができる。このため、本発明の他の実施態様による焼成芯は、筆記濃度がDであるとき、L(nm)、L(nm)、および、前記LとLとの積L×Lが、下記式(1)、(2)、および(4):
52×D+30≦L≦52×D+60 (1)
30×D+6≦L≦30×D+18 (2)
×L≦3100D+700 (4)
を同時に満たすものである。
【0018】
ここでも、L
30×D+8≦L≦30×D+16 (2A)
を満たすことが好ましく、L×L
×L≦3100D+650 (4A)
を満たすことが好ましい。
【0019】
鉛筆芯は、各種の硬さのものがあるが、広く一般的に使用されているのは、いわゆる硬度記号HBで表されるものである。JIS規格には、JIS S 6005:2007に規定されている方法で測定した筆記濃度Dが0.25~0.42であるものをHBとしている。このような狭い筆記濃度の範囲に着目した場合、本発明による他の実施態様による焼成芯は、X線回折測定により定められる前記黒鉛の結晶子のa軸方向のサイズLが40~70nmであり、c軸方向のサイズLが17~28nmであり、前記LとLとの比L/Lが、0.4以下であることを特徴とするものである。
【0020】
このような実施態様においては、前記Lが、18~26nmであることが好ましく、また、前記LとLとの積L×Lが、1800以下であることが好ましい。
【0021】
また、焼成鉛筆芯は、焼成によって製造されるため、内部に気孔を有している。この気孔の大きさや量によって強度は影響を受けるので、気孔率は特定の範囲に貼ることが好ましい。具体的には、気孔率は10~45%であることが好ましく、15~40%であることがより好ましい。ここで、気孔率とは鉛筆芯の外形容積を1とした場合の、その中に占める気孔部分の容積の百分比である。気孔率は、例えばJIS R1634:1998などに準じて測定することができる。
【0022】
本発明の各実施態様による鉛筆芯が、上記のような特性値を有することで優れた性能を示すことの理由は十分には解明されていない。しかし、図1からも明らかなように、本発明による鉛筆芯は、従来の鉛筆芯に比べ、組織構造が微細でアスペクト比の高い結晶子が緻密な構造を形成しているために高い強度を実現でき、また組織構造が微細でアスペクト比の高い結晶子が筆記の際に容易に筆記面に転着するために、斑のない、緻密で、高い筆記濃度が実現できるものと推測される。
【0023】
焼成鉛筆芯は、黒鉛、樹脂などの結合材などの原料を混練し、押出成形して成形体としたのち、高温で焼成して焼成体を形成させ、得られた焼成体の気孔中に必要に応じて油やワックスなどを含浸させて製造するのが一般的である。本発明による鉛筆芯も、そのような方法に準じて任意の方法で製造できるが、例えば以下の各工程を含む方法により製造することができる。
【0024】
(1)混合工程
まず、原料を配合し、それを混合および混練する。原料としては、黒鉛と結合材が挙げられる。黒鉛は、結晶子サイズの小さいものが好ましいが、結晶子サイズの小さい黒鉛は入手が困難であり、また製造過程における破砕または粉砕工程によって変化するので、必ずしも限定されない。また、結合材としては、従来公知のものであればいずれも用いることができるが、代表的には各種の樹脂が挙げられる。樹脂としては水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられるが、この他にコールタール、アスファルトなどのピッチ状物質を用いることもできる。また、原料として溶剤や可塑剤などを配合することもできる。
【0025】
これらを配合して原料配合物としたうえ、必要に応じて一次混合をした後、さらに混合および混練を行う。混合および混練には、ヘンシェルミキサー、ニーダー、3本ローラーなどを用いることができる。ここで、ニーダーには加圧ニーダー、普通ニーダー、連続式ニーダーなど任意のものを選択することができる。
【0026】
(2)予備成形工程
混合工程で得られた混合物をさらに混合し、押出機などにより細線状に予備成形する。
このような予備成形、およびその後に引き続いて行う粉砕工程を行うこと、言い換えれば、原料混合物の混合および成形と粉砕とを2回、またはそれ以上行うことによって、より小さい結晶子を含む鉛筆芯の実現が容易となる。ただし、単に混合、成形、および粉砕を2回以上行うだけでなく、各条件の調整や原料の最適化を行うことにより、より優れた特性を有する鉛筆芯を、効率よく製造することが可能となる。例えば、予備成形における圧力の調整により混合物中の黒鉛粒子と結合材との密着性を高めたり、細線状に予備成形する際の絞り率を調整したりすることで、鉛筆芯の緻密度を改善することができる。ここで、絞り率とは、押出機の材料導入部と成形体押出部の直径の比をいう。
【0027】
(3)粉砕工程
予備成形工程で得られた細線状成形体を粉砕する。粉砕後の粒子径は、特に限定されないが、一般にD50で10~500μmであり、50~400μmであることが好ましい。組織の細かい緻密構造を形成しやすくするために、粒子は小さいことが好ましい。また、粉砕後の粒子の飛散を防ぎ、取り扱いを容易にするために、また粉砕時間短縮のために、粒子はある程度大きいことが好ましい。なお、粉砕された粒子の大きさや分布は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定機を使用して測定することができる。本発明においては、粒子径は相対粒子数50%に相当する、所謂D50(体積基準で測定したメディアン径)である。尚、粒度分布の測定は乾式、または湿式のいずれであって可能であるが、比較的小さい粒子の大きさを測定する場合には、より簡便な乾式方法で測定することが好ましい。
【0028】
ここで、粉砕には一般的な粉砕機を使用することが可能である。具体的には、(i)粗粉砕機としては、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャーなど、(ii)中粉砕機としては、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、石臼型、リングミルなど、(iii)微粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。これらは単独で利用してもよいし、複数組み合わせて利用することも出来る。
【0029】
(4)押出成形工程
粉砕された混練物を、必要に応じて加熱して、細線状に押出成形する。押出機は任意のものを用いることができる。このとき混練物の押出速度は、例えば0.1~15m/秒である。
【0030】
(5)焼成工程
押出成形工程においては押出成形された混練物を焼成する。焼成の際の雰囲気は酸素含有率が低いことが好ましく、真空または不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は特に限定されないが、一般に800~1500℃、好ましくは1000~1400℃で行われる。
【0031】
(6)油浸工程
焼成により得られた焼成体は気孔を含んでおり、この気孔に油を含浸させる。このような操作によって筆記の際の筆記感等を改良することができる。油浸の方法は特に限定されず、一般的に知られている方法で行うことができる。
【0032】
このような方法によって、優れた性質を有する鉛筆芯が形成される理由は十分には解明されていない。しかし、予備成形および粉砕により、黒鉛と結合材との密着性が増し、再度成形および粉砕しても黒鉛が結合材から遊離することが非常に少なく、結合材と黒鉛が強固に密着したままとなって、混練粒子を小さくすることができて、微細な組織構造を有する鉛筆芯が得られるものと考えられる。なお、以上の製造方法は一例であり、その他の方法により本発明による鉛筆芯を製造することもできる。
【0033】
以下、本発明を諸例により説明すれば以下の通りである。
【実施例
【0034】
(実施例1)
天然黒鉛 45質量部
酢酸ビニル樹脂 30質量部
石炭ピッチ 15質量部
エタノール 20質量部
上記原料をヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練した。次いで、単軸押出成形機にて細線状に予備成形し、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルを用いて微粉化して、D50=100μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した。得られた成形体を、空気中で250℃まで10時間かけて熱処理後、更に非酸化性雰囲気中で最高温度1000℃で熱処理を実施し、冷却して焼成体を得た。得られた焼成体にスピンドル油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、焼成体表面の余分な油を除去した後、60mmの長さに切断して0.57mmのシャープペンシル用硬度HBの焼成鉛筆芯を得た。
【0035】
(実施例2)
天然黒鉛 45質量部
酢酸ビニル樹脂 15質量部
塩化ビニル樹脂 20質量部
石炭ピッチ 10質量部
メチルエチルケトン 15質量部
ジオクチルフタレート 0.5質量部
構成原料を上記の通りに変更した以外は実施例1と同様の方法により、0.57mmのシャープペンシル用硬度HBの鉛筆芯を得た。なお、このとき予備成形後の粉砕物の粒度はD50=130μmであった。
【0036】
(実施例3)
実施例1に対して、粉砕工程を変更したほかは同様にして鉛筆芯を製造した。粉砕工程は、予備成形工程で得られた成形体を、ハンマーミルを用いて粗粉砕したのち、更にパルベライザーを用いて微粉砕してD50=80μmの粉砕物とした。
【0037】
(比較例1)
実施例1に対して、予備成形およびその後の粉砕工程は行わなかった他は同様にして鉛筆芯を製造した。
【0038】
(比較例2)
実施例1に対して、予備成形を行わなかった他は同様にして鉛筆芯を製造した。すなわち、原料を混合、混練したのち、予備成形すること無くハンマーミルを用いて粗粉砕し、更にパルベライザーを用いて微粉砕してD50=80μmの粉砕物とした。この粉砕物を押出成形工程に付した。
【0039】
(参照例1)
参照例として、市販されている0.57mmのシャープペンシル用硬度HBの焼成鉛筆芯ネオックス・グラファイト(登録商標) 0.5mm HB(株式会社パイロットコーポレーション製)を用いた。
【0040】
(評価1)
参照例1、実施例1~3、ならびに比較例1および2の鉛筆芯について、特性値および性能を評価した。得られた結果は以下の通りであった。表中の数値に付されたカッコは、その数値が式(1)~(4)を満たさないことを示している。なお、特性および性能の測定方法または評価方法は文末に示したとおりである。さらに、参照例1および実施例1~3の鉛筆芯の押出方向に垂直な面を電子顕微鏡で観察した。これらの電子顕微鏡写真は図1に示すとおりであった。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例2Hおよび2B)
実施例2に対して、熱処理条件を変更して、実施例2とは筆記濃度が異なる鉛筆芯を製造した。この鉛筆芯についても、実施例1と同様の評価を行った。また、このとき、参照例1Hおよび1Bとして、市販されている0.5mmの焼成鉛筆芯ネオックス・グラファイト(登録商標) 0.5mm Hおよび4B(株式会社パイロットコーポレーション製)を用いて評価した。
【0043】
(評価2)
参照例1H,1、および1B、実施例2H、2、および2Bの鉛筆芯について、特性値および性能を評価した。得られた結果は以下の通りであった
【表2】
【0044】
(結晶子サイズの測定)
X線回折装置(Bruker AXS社製、商品名:D8 ADVANCE)を用い、試料の結晶子サイズL(002面)、L(110面)を測定した。測定には、1回の測定につき焼成芯体1本を使用した。X線回折測定には、一般に粉砕された粉末を用いるが、ここでは形状変化を避けるため、今回の評価においては粉砕は行わなかった。測定はゲーベル・ミラーによる平行ビーム法を用いた。Lの測定は、焼成芯体の押出軸方向に対して平行にX線を照射し、方位角2θを20~30°の範囲でスキャンした。一方、Lの測定は、焼成芯体の押出軸方向に対して垂直にX線(CuKα線)を照射し、方位角2θを70~80°の範囲でスキャンした。得られたXRDプロファイルの(002面)又は(110面)に対応する、26.4°付近または77.5°付近の回折線に関して、バックグラウンドを除去し(5次のチェビシェフ多項式を使用)、X線吸収因子を補正し、プロファイル・フィッティング処理を行った後、以下のシェラー式を用いて結晶子サイズを算出した。フィッティング処理及び結晶子サイズの算出には、ファンダメンタル・パラメータ(FP)法を用いた。
L = Kλ/βcosθ
ここで、
L:結晶子サイズ[nm]
K:シェラー定数(K=1を適用)
λ:X線波長[nm]
β:半値幅(ピーク強度の50%に相当する強度における回折線幅)
θ:X線照射角度(ラジアン)
である。
【0045】
(曲げ強さの測定)
曲げ強度は、JIS S 6005:2007に規定されている方法で、支点間距離20mmで10本について測定した値の平均値とした。
【0046】
(筆記濃度の測定)
筆記濃度は、JIS S 6005:2007に規定されている方法で筆記した描線を濃度計(サクラ濃度計PDA65(商品名、小西六写真工業株式会社))で測定した。
【0047】
(気孔率の測定)
焼成体の外形容積を1とした場合の、その中に占める気孔部分の容積の百分比を求めた。具体的には、気孔率は、吸収させる液体をベンジルアルコール(密度1.046g/cm)として、下記式により決定した。
Po=(W3―W1)/(W3―W2)×100
ここで、
Po:見かけの気孔率(%)
W1:液体を吸収させる前の芯の乾燥質量(g)
W2:気孔中に液体を吸収させた芯の液体中に於ける質量(g)
W3:気孔中に液体を吸収させた後の芯の質量(g)
である。
【0048】
(筆記感および運筆の評価)
被験者30人において、各鉛筆芯を使用し、市販のキャンパスノートA罫(コクヨ株式会社製)に下敷きを使わない状態で、5ページにわたって同一短文を繰返し筆記し、参照例1の鉛筆芯との相対評価をした。
筆記感は滑らかで書きやすいかどうかを、運筆は引っ掛かりなく滑らかに書けたかどうかを下記基準で評価した。
S:参照例1に対して非常に良い
A:参照例1よりやや良い
B:参照例1と同等
C:参照例1より悪い
図1