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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】セルロース含有ギヤ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/06 20060101AFI20230609BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230609BHJP
   F16H 55/08 20060101ALI20230609BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230609BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230609BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20230609BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
F16H55/06
B29C45/00
F16H55/08 Z
C08L101/00
C08L1/02
C08L77/00
C08L59/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022107968
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2019224782の分割
【原出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2022136110
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018082242
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019000674
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】都築 隼一
(72)【発明者】
【氏名】楠本 紗良
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140240(WO,A1)
【文献】特開2014-069463(JP,A)
【文献】特開2004-075994(JP,A)
【文献】特開2011-132465(JP,A)
【文献】特開2016-200184(JP,A)
【文献】特開2018-059621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/06
B29C 45/00
F16H 55/08
C08L 101/00
C08L 1/02
C08L 77/00
C08L 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構を備えるギヤシステムであって、
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を含み、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂又はポリアセタール系樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤシステム。
【請求項2】
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤにおいて、他のギヤ歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、請求項1に記載のギヤシステム。
【請求項3】
従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構を備えるギヤシステムであって、
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物を含み、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂又はポリアセタール系樹脂を含み、
前記(A)熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000~150000の範囲であり、
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤにおいて、他のギヤ歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、ギヤシステム。
【請求項4】
前記従動ギヤ及び前記駆動ギヤが前記樹脂組成物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のギヤシステム。
【請求項5】
前記従動ギヤ及び前記駆動ギヤが前記ポリアミド系樹脂を含む、請求項4に記載のギヤシステム。
【請求項6】
前記従動ギヤ及び前記駆動ギヤが前記ポリアセタール系樹脂を含む、請求項4に記載のギヤシステム。
【請求項7】
前記従動ギヤ及び前記駆動ギヤが同材で構成されている、請求項4~6のいずれか一項に記載のギヤシステム。
【請求項8】
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、射出成型品である、請求項1~7のいずれか一項に記載のギヤシステム。
【請求項9】
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、削り出し成形品である、請求項1~7のいずれか一項に記載のギヤシステム。
【請求項10】
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、真円度400μm以下を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のギヤシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含有するギヤ(特にEPS(電動パワーステアリング装置)ギヤ)及びこれを有するギヤシステム(特にEPSシステム)に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、摺動性、熱安定性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイなどの無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。また、ガラス繊維を含む樹脂組成物を用いて、丸棒押出しを行った後に切削を行い特定形状に成形する際、及び射出成型にて肉厚な部品を成形する際に、ガラス繊維の配向により、特定の部位に応力集中が発生し、耐久性に劣るという課題がある。例えば、広く普及している樹脂製ギヤでは、ガラス繊維を含む組成では摺動部分の表面粗さが高くなったり真円度が低くなったりして、噛み合い時に異音が発生するという課題、及び、特定の歯の一部に大きな荷重がかかり、変形して破損するといった課題がある。また、ガラス繊維は、太く、また成形体中で配向するため、同じ条件で連続して射出成形を行ったときに、成形体の寸法の個体間のズレが大きくなるといった課題がある。加えて、ガラス繊維を含む樹脂組成物を用いて、丸棒押出しを行った後に切削を行い特定形状に成形する際、及び射出成型にて肉厚な部品を成形する際には、内部にボイド(真空状の空洞)が発生し、応力集中により耐久性に劣るという課題もある。これは、外部の冷却速度と内部の冷却速度の差から成形体内部にボイド(真空状の空洞)が発生するためである。そこで近年、樹脂の新たな強化材料として、環境負荷の低いセルロースが用いられるようになってきている。
【0004】
セルロースは、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4~2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。
【0005】
セルロースは、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするものなど多岐にわたっている。さらには、ナタデココに代表されるようなバクテリアセルロースなども知られている。セルロースの原料となるこれらの天然資源は地球上に大量に存在し、これらの有効利用のために、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。
【0006】
CNF(セルロースナノファイバー)は、パルプ等を原料とし、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊することにより得られるものであり、水中において、ナノ分散と呼ばれるレベルの高度に微細な分散状態、及びネットワークを形成していることが知られている。
【0007】
樹脂中にCNFを配合するためには、CNFを乾燥し粉末化する必要があるが、CNFは水と分離する過程で微分散状態から強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であると言われている。
【0008】
そのため、十分な性能を発現させるためには、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和する必要がある。また水素結合の緩和を十分に実現できても、解繊された状態(ナノメートルサイズ(すなわち1μm未満))を樹脂中で維持することは困難である。
【0009】
従来、セルロースナノファイバー(以下、CNFと称することがある)、ガラス繊維、又はクレイをフィラーとして各種樹脂とコンポジットした組成物が提案されている。
【0010】
例えば特許文献1には、ガラス繊維とポリアミド樹脂とを用いた組成物が記載されている。また特許文献2には、表面の水酸基を疎水基で置換したセルロースを用いた摺動性樹脂組成物が記載されている。また特許文献3には、アパタイト型化合物とポリアミドとを用いた樹脂製ギヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2006/054774号
【文献】特開2017-171698号公報
【文献】特開2001-289309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1では、ガラス繊維とポリアミドとの組成物の熱変形温度及び限界PV値の記載がある一方、成形体の間欠摺動時の摺動性、及び高トルクギヤの耐久性に関する言及は無い。また、特許文献2ではセルロースとポリオキシメチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンとのコンパウンドの摺動性を、比較的一般的な摺動試験であるピンオンディスク試験及びジャーナル軸受試験で評価している一方、実用途である高トルクギヤ成形片の耐久性に関する言及は無い。また、特許文献3では、ナノ物質を用いたポリアミド樹脂製ギヤの引張強度及び引張伸度は記載されているが、実用途におけるギヤ(特に高トルクギヤ)の耐久性、連続成形性等に関する言及は無い。
一般に高トルク条件下で使用されるギヤ(例えばEPSギヤ)には高トルク条件下での高い摺動性、耐摩耗性、及び耐久性が特に求められるが、特許文献1~3はそのような特性を所望の程度満たすギヤを提供するものではない。
【0013】
つまり従来技術では、実用途における連続成形性に優れ(すなわち多数のギヤを連続して成形した際に寸法ばらつきが小さく)、高摺動性と高耐久性が両立されたギヤ(特にEPSギヤ)を作製することは困難であり、これら特性の改良が要望されていた。本発明の一態様は、上記の課題を解決したギヤ(特にEPSギヤ)及びこれを有するギヤシステム(特にEPSシステム)を提供することを目的とする。また本発明の一態様は、肉厚成形体内部のボイドを低減させギヤ耐久性及び静音性を向上させて、実用途における十分な耐久性と静音性とが両立されたギヤ(特にEPSギヤ)及びこれを有するギヤシステム(特にEPSシステム)を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、特定分子量の熱可塑性樹脂と特定のセルロースとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体であり、かつ算術平均表面粗さSaが3.0μm以下であるギヤ(特にEPSギヤ)が前記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0015】
[1] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、前記(A)熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000~150000の範囲にある樹脂組成物で構成された樹脂成形体であり、他のギヤ歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、ギヤ。
[2] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、前記(A)熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000~150000の範囲にある樹脂組成物で構成された樹脂成形体であり、他のギヤ歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、EPS(電動パワーステアリング)用のギヤ。
[3] 前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス1~10を有する、上記態様1又は2に記載のギヤ。
[4] 前記樹脂組成物が、(A)熱可塑性樹脂45~95質量%、及び(B)セルロースナノファイバー5~50質量%を含む、上記態様1~3のいずれかに記載のギヤ。
[5] 前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、上記態様1~4のいずれかに記載のギヤ。
[6] (A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド及びポリアセタールからなる群より選択される1種以上の樹脂である、上記態様4に記載のギヤ。
[7] 前記樹脂組成物が(C)表面処理剤を更に含む、上記態様1~6のいずれかに記載のギヤ。
[8] (C)表面処理剤の数平均分子量が200~10000である、上記態様7に記載のギヤ。
[9] 前記樹脂組成物が、(C)表面処理剤を(B)セルロースナノファイバー100質量部に対して1~50質量部含む、上記態様7又は8に記載のギヤ。
[10] 前記樹脂組成物が(D)金属イオン成分を更に含む、上記態様1~9のいずれかに記載のギヤ。
[11] 前記樹脂組成物が、(D)金属イオン成分を(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005~5質量部含む、上記態様10に記載のギヤ。
[12] (E)摺動剤成分を更に含む、上記態様1~11のいずれかに記載のギヤ。
[13] 前記樹脂組成物が、(E)摺動剤成分を(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01~5質量部含む、上記態様12に記載のギヤ。
[14] (E)摺動剤成分の融点が40~150℃である、上記態様12又は13に記載のギヤ。
[15] ISO179に準拠して測定したときの前記樹脂組成物の曲げ弾性率が3000MPa以上である、上記態様1~14のいずれかに記載のギヤ。
[16] ISO 294-3に準拠して作製された多目的試験片の形態で、往復動摩擦摩耗試験機、及び相手材料として直径5mmの球であるSUS304試験片を用い、線速度50mm/sec、往復距離50mm、温度23℃、湿度50%、及び荷重19.8Nにて測定したときの摩擦係数の、前記(B)セルロースナノファイバーを含まない他は前記樹脂組成物と同組成の組成物の値(I)に対する前記樹脂組成物の値(II)の比である摩擦係数比(II/I)が、0.8以下である、上記態様1~15のいずれかに記載のギヤ。
[17] 80℃熱水中に24時間曝露し、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持して吸水させた際の吸水寸法変化が、3%以下である、上記態様1~16のいずれかに記載のギヤ。
[18] 真円度が400μm以下である、上記態様1~17のいずれかに記載のギヤ。
[19] 前記ギヤ内のボイドの最大サイズが1.0μm以下である、上記態様1~18のいずれかに記載のギヤ。
[20] モジュールが2.0以下である、上記態様1~19のいずれかに記載のギヤ。
[21] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体であるギヤであって、
前記ギヤが、真円度400μm以下を有し、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤ。
[22] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体であるEPS(電動パワーステアリング)用のギヤであって、
前記ギヤが、真円度400μm以下を有し、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤ。
[23] 射出成型品である、上記態様1~22のいずれかに記載のギヤ。
[24] 削り出し成形品である、上記態様1~22のいずれかに記載のギヤ。
[25] 丸棒成型体からの切削加工品である、上記態様24に記載のギヤ。
[26] 従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構、及び
前記駆動ギヤを駆動する駆動源、
を備えるギヤシステムであって、
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、上記態様1~25のいずれかに記載のギヤである、ギヤシステム。
[27] 従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構、及び
前記駆動ギヤを駆動する駆動源、
を備えるEPS(電動パワーステアリング)用のギヤシステムであって、
前記従動ギヤ及び/又は前記駆動ギヤが、上記態様1~25のいずれかに記載のギヤである、ギヤシステム。
[28] 前記ギヤ機構が、ラックとピニオンとで構成されるラック・アンド・ピニオン機構、又はウォームとウォームホイールとで構成されるウォームギヤ機構であり、
前記ピニオン又は前記ウォームホイールが、上記態様1~25のいずれかに記載のギヤである、上記態様26又は27に記載のギヤシステム。
[29] 前記ピニオン又は前記ウォームホイールが、ギヤの歯の全歯たけ/円ピッチ比1.0~20を有する、上記態様28に記載のギヤシステム。
[30] 前記ピニオン又は前記ウォームホイールが、ギヤの歯の円ピッチ/歯幅比1.0~3.0を有する、上記態様28又は29に記載のギヤシステム。
[31] 前記ピニオン又は前記ウォームホイールにかかるトルクが5N・m~100N・mである、上記態様28~30のいずれかに記載のギヤシステム。
[32] 従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構、及び
前記駆動ギヤを駆動する駆動源、
を備えるギヤシステムであって、
前記ギヤ機構が、ウォームとウォームホイールとで構成されるウォームギヤ機構であり、
前記ウォームホイールが、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の射出成形体であるギヤであり、
前記ウォームホイールが、真円度400μm以下を有し、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤシステム。
[33] 従動ギヤと前記従動ギヤに噛合する駆動ギヤとで構成されるギヤ機構、及び
前記駆動ギヤを駆動する駆動源、
を備えるEPS(電動パワーステアリング)用のギヤシステムであって、
前記ギヤ機構が、ウォームとウォームホイールとで構成されるウォームギヤ機構であり、
前記ウォームホイールが、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の射出成形体であるギヤであり、
前記ウォームホイールが、真円度400μm以下を有し、
前記(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
前記樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤシステム。
[34] 前記従動ギヤと前記駆動ギヤとがグリースを介して互いに噛合しており、
前記グリースが、
鉱油、ポリα-オレフィン油、及びアルキルポリフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種を80質量%以上の割合で含有する基油、
増稠剤、及び
融点又は軟化点が70~130℃の範囲にある炭化水素系ワックス3~10質量%
を含む、上記態様26~33のいずれかに記載のギヤシステム。
[35] 前記駆動源が、作動回転数800rpm以上のモータである、上記態様26~34のいずれかに記載のギヤシステム。
[36] 前記駆動源が、作動回転数10000rpm以下のモータである、上記態様26~35のいずれかに記載のギヤシステム。
[37] 前記ギヤにかかるトルクが3N/m以上である、上記態様26~36のいずれかに記載のギヤシステム。
[38] 前記ギヤにかかるトルクが5N・m以上である、上記態様37に記載のギヤシステム。
[39] 前記ギヤにかかるトルクが10N/m以上である、上記態様38に記載のギヤシステム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性が両立されたギヤ(特にEPSギヤ)及びこれを有するギヤシステム(特にEPSシステム)が提供される。また本発明の一態様によれば、肉厚成形体内部のボイドを低減させギヤ耐久性及び静音性を向上させて、実用途における十分な耐久性と静音性とが両立されたギヤ(特にEPSギヤ)及びこれを有するギヤシステム(特にEPSシステム)が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一態様に係るギヤシステムの例を示す図である。
図2図2は、本発明の一態様に係るギヤシステムの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態の一態様におけるギヤ(特にEPSギヤ)は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、該(A)熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000~150000の範囲にある樹脂組成物で構成された樹脂成形体である。一態様において、ギヤの他のギヤ歯との摺動面の算術平均表面粗さSaは3.0μm以下である。
【0020】
≪(A)熱可塑性樹脂≫
本発明において用いることができる(A)熱可塑性樹脂の数平均分子量は、10000~150000、特に20000~150000の範囲である。なお本開示の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される値である。数平均分子量の下限値は、より好ましくは22000であり、さらにより好ましくは、25000であり、最も好ましくは、30000である。また、上限値はより好ましくは120000であり、さらにより好ましくは100000であり、最も好ましくは80000である。数平均分子量は、ギヤの耐久性向上の観点から、上記下限値以上が望ましく、ギヤ成形時の樹脂組成物の流動性の観点から、上記上限値を超えないことが望ましい。
【0021】
(A)熱可塑性樹脂としては、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100~250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂が挙げられる。(A)熱可塑性樹脂は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい1種又は2種以上のポリマーで構成されてよい。
【0022】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。好ましい態様において、(A)熱可塑性樹脂の融点は、例えば150℃以上、又は180℃以上、又は200℃以上、230℃以上であり、また例えば500℃以下、又は400℃以下、又は300℃以下である。
【0023】
また、ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。好ましい態様において、(A)熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、例えば-130℃以上、又は-60℃以上、又は-10℃以上であり、また例えば300℃以下、又は200℃以下、又は150℃以下である。
【0024】
(A)熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
【0025】
(A)熱可塑性樹脂の好ましい具体例は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系樹脂、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物等が挙げられる。
【0026】
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した熱可塑性樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
【0027】
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
【0028】
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂、特に、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。特に好ましい態様において、(A)熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂を含む。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα-オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
【0030】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、0.1g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは、0.2g/10分、又は0.4g/10分、又は0.5g/10分、又は3g/10分、又は5g/10分である。また、上限値は、より好ましくは、25g/10分、又は20g/10分、又は18g/10分、又は15g/10分、又は10g/10分、又は5g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0031】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
【0032】
酸変性されたポリオレフィン系樹脂は、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリオレフィン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。例えば、変性されていないポリプロピレンと酸変性されたポリプロピレンとの混合物を用いる場合、全ポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0033】
酸変性されたポリプロピレンの好ましいISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0034】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られる、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体;が挙げられる。
【0035】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0036】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは 80μモル/gである。
ポリアミド系樹脂において、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0037】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0038】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸 、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0039】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシル アミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0040】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H-NMRによる定量がより好ましい。
【0041】
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6~2.0dL/gであることが好ましく、0.7~1.4dL/gであることがより好ましく、0.7~1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7~1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミド系樹脂を使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
【0042】
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。
【0043】
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
【0044】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)(3-ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
【0045】
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)量としては0.01~4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%であり、最も好ましくは2.3モル%である。押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0047】
≪(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー≫
次に本発明において用いることができる(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー(本開示で、「(B)セルロースナノファイバー」ということもある。)について詳述する。
【0048】
(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの好適例は、特に限定されないが、例えばセルロースパルプを原料としたセルロースファイバー又はこれらセルロースの変性物の1種以上を用いることが出来る。これらの中でも、安定性、性能などの点から、セルロースの変性物の1種以上が好ましく使用可能である。
セルロースナノファイバーの製法は特に限定されないが、例えば、原料パルプを裁断後100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊して得ることができる。
【0049】
(B)セルロースナノファイバーの平均繊維径は、樹脂成形体の良好な機械的強度(特に引張弾性率)を得る観点から、1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均繊維径は小さい方が好ましいが、加工容易性の観点からは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であることができる。上記平均繊維径は、レーザー回折/散乱法粒度分布計で、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径(体積平均粒子径)として求められる値である。
【0050】
上記平均繊維径は、以下の方法で測定することができる。(B)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー(例えば(株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件)を用い、回転数15,000rpm×5分間で分散させ、遠心分離機(例えば久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA-400型)を用い、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(例えば堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」又は商品名「LA-950」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(すなわち、粒子全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径)を、体積平均粒子径とする。
【0051】
典型的な態様において、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーのL/D比は、20以上である。セルロースナノファイバーのL/D下限は、好ましくは30であり、より好ましくは40であり、より好ましくは50であり、さらにより好ましくは100である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは10000以下である。本開示のギヤの良好な機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで発揮させるために、セルロースナノファイバーのL/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
【0052】
本開示で、セルロースナノファイバーの長さ、径、及びL/D比は、セルロースナノファイバーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、光学顕微鏡、又は高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。また、本開示のセルロースナノファイバーの長さ及び径とは、上記100本のセルロースの数平均値である。
【0053】
樹脂組成物中又は成形体中のセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で十分に洗浄した後、溶媒を純水又は分散可能な有機溶媒に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上の測定を行う。
【0054】
本開示におけるセルロースの変性物としては、エステル化剤、シリル化剤、イソシアネート化合物、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物から選択される1種以上の変性剤により変性されたものが挙げられる。
【0055】
変性剤としてのエステル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをエステル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。またエステル化は国際公開第2017/159823号の段落[0108]に記載の方法で実施できる。エステル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0056】
エステル化剤の好適例としては、特に限定されないが、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物、並びに、これらから任意に選ばれる、対称無水物(無水酢酸、無水マレイン酸、シクロヘキサン-カルボン酸無水物、ベンゼン-スルホン酸無水物)、混合酸無水物(酪酸-吉草酸無水物)、環状無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、ナフタレン-1,8:4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸3,4-無水物)、エステル酸無水物(酢酸3-(エトキシカルボニル)プロパン酸無水物、炭酸ベンゾイルエチル)等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、無水酢酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水フタル酸が好ましく使用可能である。
【0058】
変性剤としてのシリル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基又はその加水分解後の基と反応できる少なくとも一つの反応性基を有するSi含有化合物を包含する。シリル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0059】
シリル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1-ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,3-ジフェニル-1,3-ジメチル-ジシラザン、1,3-N-ジオクチルテトラメチル-ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N-ジプロピルテトラメチルジシラザン、N-ジブチルテトラメチルジシラザン又は1,3-ジ(パラ-t-ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-メチルジフェニルシリルアセトアミド、N-トリエチルシリルアセトアミド、t-ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からヘキサメチルジシラザン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランが好ましく使用可能である。
【0061】
変性剤としてのハロゲン化アルキル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをハロゲン化アルキル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。ハロゲン化アルキル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0062】
ハロゲン化アルキル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を用いることが出来る。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からブロモヘキサン、及びヨードオクタンが好ましく使用可能である。
【0063】
変性剤としてのイソシアネート化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できるイソシアネート基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。またイソシアネート化合物は、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能なブロックイソシアネート化合物であってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0064】
イソシアネート化合物の好適例としては、特に限定されないが、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、ブロックイソシアネート化合物、ポリイソシアネート等が挙げられる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、又はイミダゾール系ブロック剤を反応させたブロックイソシアネート化合物、等が挙げられる。
【0065】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からTDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、及び、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネートが好ましく使用可能である。
【0066】
前記ブロックイソシアネート化合物のブロック基の解離温度は、反応性、安定性の観点から、上限値が好ましくは210℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは150℃である。また下限値は好ましくは70℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは110℃である。ブロック基の解離温度がこの範囲となるようなブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、オルト-セカンダリーブチルフェノール、カプロラクタム、重亜硫酸ナトリウム、3,5-ジメチルピラゾール、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0067】
変性剤としての酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できる酸化アルキレン基、グリシジル基及び/又はエポキシ基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0068】
酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物の好適例としては、特に限定されないが、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、n-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルフェノールグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルアセテート、グリシジルステアレート等のグリシジルエステル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが好ましく使用可能である。
【0070】
セルロースナノファイバーの変性物は、樹脂組成物又は成形体の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、溶液の遠心分離やろ過等により、セルロースを分離し、前記溶媒で十分に洗浄した後、分離したセルロースナノファイバーの変性物を熱分解又は加水分解処理することにより確認できる。又は直接1H-NMR、13C-NMR測定を行うことにより確認する事が出来る。
【0071】
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対する(B)セルロースナノファイバーの配合量は、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性の観点から、好ましくは5質量部以上、好ましくは8質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、十分な成形性を得る観点から、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0072】
樹脂組成物は、好ましくは、(A)熱可塑性樹脂45~95質量%及び(B)セルロースナノファイバー5~50質量%、又は(A)熱可塑性樹脂50~90質量%及び(B)セルロースナノファイバー10~45質量%、又は(A)熱可塑性樹脂60~80質量%及び(B)セルロースナノファイバー20~40質量%を含む。
【0073】
≪(C)表面処理剤≫
樹脂組成物は、付加的成分として、(C)表面処理剤を含むことができる。一態様において、(C)表面処理剤は水溶性ポリマーである。本開示で、「水溶性」とは、23℃で100gの水に対して0.1g以上溶解することを意味する。一態様において、(C)表面処理剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)。両親媒性分子としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。(C)表面処理剤が2種以上の物質の混合物である場合、本開示の特性値(例えば分子量、HLB値、静的表面張力、動的表面張力、SP値)は、当該混合物の値を意味する。一態様において、(C)表面処理剤は界面活性剤である。一態様において、(C)表面処理剤は非イオン性界面活性剤である。別の一態様において、(C)表面処理剤は低分子熱可塑性樹脂である。(C)表面処理剤は、(A)熱可塑性樹脂とは異なる(例えば、本開示の(A)熱可塑性樹脂と同種のポリマーの変性物(例えば酸変性体、共重合体)、(A)熱可塑性樹脂と異種のポリマー、等であることによって)。一態様において、(C)表面処理剤は、(A)熱可塑性樹脂と分子量、繰り返し構造、及び/又はブロック構造が異なるポリマーである。一態様において、(C)表面処理剤と(A)熱可塑性樹脂とは、分子量が互いに異なる同種のポリマーであり、この場合、分子量が小さい方が(C)表面処理剤である。
【0074】
典型的な態様において、(A)熱可塑性樹脂が水溶性を有さず、かつ(C)表面処理剤が水溶性を有する。(C)表面処理剤は、例えば(C)表面処理剤を高濃度で含む水分散体の状態で(B)セルロースナノファイバーと混合されてよい。(C)表面処理剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
【0075】
(C)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)場合、親水性セグメントは、セルロースの表面との親和性が良好である。疎水性セグメントは、親水性セグメントを介してセルロース同士の凝集を抑制する事が出来る。そのため(C)表面処理剤において親水性セグメント、疎水性セグメントは同一分子内に存在する必要がある。
【0076】
典型的な態様において、親水性セグメントは、親水性構造(例えば水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基等から選ばれる1つ以上の親水性基)を含むことによって、(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を示す部分である。親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンの柔軟なセグメント(ソフトセグメント)(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。好ましい態様において、親水性セグメントは、オキシエチレンユニットを含む。
【0077】
疎水性セグメントとしては、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、また以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂。
【0078】
疎水性セグメントにおけるアルキレンオキシド単位の炭素数は、好ましくは、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上である。鎖長が長いほど、(C)表面処理剤と(B)セルロースナノファイバーとの親和性が高まるが、当該親和性と、コーティング性(すなわち、(A)熱可塑性樹脂及び(B)セルロースナノファイバーとの界面への局在性)とのバランスの観点から、炭素数は、好ましくは、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下である。
【0079】
好ましい態様において、(C)表面処理剤は、分子内に、親水性基としてPEGブロック、及び疎水性基としてPPGブロックを有する。
【0080】
(C)表面処理剤は、グラフト共重合体構造、及び/又はブロック共重合体構造を有することができる。これら構造は1種単独でもよいし、2種以上でもよい。2種以上の場合は、ポリマーアロイでもよい。またこれら共重合体の部分変性体、又は末端変性体(酸変性)でも良い。
【0081】
(C)表面処理剤の構造は、特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体、ABAB型ブロック共重合体、ABABA型ブロック共重合体、BABAB型共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、等が挙げられる。
【0082】
(C)表面処理剤の構造は、好ましくはAB型ブロック共重合体、ABA型トリブロック共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、又はAとBを含む4分岐型共重合体であり、より好ましくはABA型トリブロック共重合体、3分岐構造体(すなわちAとBを含む3分岐型共重合体)、又は4分岐構造体(すなわちAとBを含む4分岐型共重合体)である。(B)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(C)表面処理剤の構造は上記構造であることが望ましい。
【0083】
(C)表面処理剤の好適例としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等が挙げられる。表面処理剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した共重合体が変性されたもの(例えば、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたもの)も用いることもできる。
【0084】
これらの中でも、耐熱性(臭気性)及び機械特性の観点から、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)の共重合体、及びこれらの混合物が好ましく挙げられ、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0085】
典型的な態様において、(C)表面処理剤は曇点を有する。親水性部位としてポリオキシエチレン鎖等のポリエーテル鎖をもつ非イオン性界面活性剤の水溶液の温度を上昇させていくと、透明又は半透明であった水溶液がある温度(この温度を曇点という)で白濁する現象がみられる。すなわち、低温で透明又は半透明である水溶液を加温した際に、ある温度を境に非イオン性界面活性剤の溶解度が急激に低下し、それまで溶けていた界面活性剤同士が凝集・白濁して、水と分離する。これは、高温になると非イオン性界面活性剤が水和力を失う(ポリエーテル鎖と水との水素結合が切れ水への溶解度が急激に下がる)ためと考えられる。曇点はポリエーテル鎖が長いほど低い傾向にある。曇点以下の温度であれば、水に任意の割合で溶解することから、曇点は、(C)表面処理剤における親水性の尺度となる。
【0086】
(C)表面処理剤の曇点は以下の方法で測定する事ができる。音叉型振動式粘度計(例えば株式会社エー・アンド・デイ社製SV-10A)を用いて、(C)表面処理剤の水溶液を0.5質量%、1.0質量%、5質量%に調整し、温度0~100℃の範囲で測定を行う。この時、各濃度において変曲点(粘度の上昇変化、又は水溶液が曇化した点)を示した部分を曇点とする。
【0087】
(C)表面処理剤の曇点の下限値は、取扱い性の観点から、好ましくは10℃であり、より好ましくは20℃であり、最も好ましくは30℃である。また、当該曇点の上限値は、特に限定されないが、好ましくは120℃であり、より好ましくは110℃であり、さらに好ましくは100℃であり、最も好ましくは60℃である。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(C)表面処理剤の曇点は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0088】
(C)表面処理剤の融点の下限値は、樹脂組成物を可塑化しない観点から、好ましくは-35℃であり、より好ましくは-10℃であり、最も好ましくは0℃であり、上限値は、操作性の観点から、好ましくは70℃であり、より好ましくは30℃であり、最も好ましくは10℃である。
【0089】
(C)表面処理剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとの質量比率(疎水性セグメント分子量/親水性セグメント分子量)の下限値は特に限定されないが、好ましくは0であり、より好ましくは0.1であり、さらに好ましくは0.5であり、最も好ましくは1である。また、当該親水性セグメントと疎水性セグメントとの質量比率(疎水性セグメント分子量/親水性セグメント分子量)の上限値は、水への溶解性の観点から好ましくは199、より好ましくは100、さらに好ましくは50、最も好ましくは20である。(A)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(C)表面処理剤の上記比率は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0090】
(C)表面処理剤の数平均分子量の下限値は、樹脂組成物調製時の臭気性、及び成形時の成形性を向上させる観点から、好ましくは100であり、より好ましくは200であり、より好ましくは250であり、さらに好ましくは300であり、最も好ましくは500である。また、当該数平均分子量の上限値は、取扱い性の観点から、好ましくは50000、より好ましくは30000であり、より好ましくは25000、さらに好ましくは23000、さらに好ましくは20000、さらに好ましくは10000、最も好ましくは5000である。(B)セルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(C)表面処理剤の数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0091】
(C)表面処理剤の親水性セグメントの分子量の下限値は、セルロースナノファイバーとの親和性の観点から、好ましくは100、より好ましくは150、最も好ましくは200であり、上限値は、水への溶解性の観点から、好ましくは20000、より好ましくは15000、最も好ましくは10000である。
【0092】
(C)表面処理剤の疎水性セグメントの分子量の下限値は、樹脂中へのセルロースナノファイバーの分散性の観点から、好ましくは100、より好ましくは150、最も好ましくは200、上限値は、水への溶解性の観点から、好ましくは10000、より好ましくは5000、最も好ましくは4000である。
【0093】
樹脂組成物において、(C)表面処理剤の好ましい量は、樹脂組成物の全体に対し、(C)表面処理剤が0.1~10質量%の範囲内である。上限量は、より好ましくは8質量%、さらに好ましくは5質量%、さらにより好ましくは4質量%、特に好ましくは3質量%である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%、最も好ましくは0.5質量%である。(C)表面処理剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物の可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(C)表面処理剤の下限量を上記とすることで、(A)熱可塑性樹脂中の(B)セルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
【0094】
樹脂組成物において、(C)表面処理剤の好ましい量は、(B)セルロースナノファイバー100質量部に対し、(C)表面処理剤が0.1~50質量部の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは30質量部、より好ましくは20質量部、より好ましくは10質量部、さらにより好ましくは5質量部、特に好ましくは3質量部である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。(C)表面処理剤の上限量を上記とする事で、樹脂組成物及び樹脂成形体における可塑化を抑制し、強度を良好に保つことが出来る。また、(C)表面処理剤の下限量を上記とすることで、(B)セルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
【0095】
樹脂組成物において、(C)表面処理剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体の破断片を用い、(A)熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒に樹脂組成物を溶解させたときの、可溶分1(樹脂及び表面処理剤、酸化防止剤)と不溶分1(セルロース及び表面処理剤)を分離する。可溶分1を、樹脂を溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(表面処理剤、酸化防止剤)に分離する。また、不溶分1を表面処理剤溶解性溶媒に溶解させ、可溶分3(表面処理剤、酸化防止剤)と不溶分3(セルロース)に分離する。可溶分2、可溶分3を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで(C)表面処理剤の定量が可能である。濃縮後の(C)表面処理剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0096】
本開示の(C)表面処理剤は、好ましくはHLB値が0.1以上12未満である。本開示では、HLB値を以下のグリフィン法による式より求めることができる。下記式1において、「親水基の式量の総和/分子量」とは、親水基の質量%である。
【0097】
式1) グリフィン法:HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量)
本開示の(C)表面処理剤のHLB値の下限値は水への易溶解性の観点から、特に限定されないが、好ましくは0.1であり、より好ましくは0.2であり、最も好ましくは1である。また、当該HLB値の上限値は、(B)セルロースナノファイバーの樹脂組成物中での分散性の観点から、好ましくは12未満であり、より好ましくは10であり、さらに好ましくは8であり、さらに好ましくは7.5であり、最も好ましくは7である。水及び有機溶媒への分散性(例えば、樹脂組成物の製造において、(B)セルロースナノファイバーと(C)表面処理剤とを含む混合物を予め調製し、これを水又は有機溶媒に再分散させる場合における再分散性)に優れるためには、(C)表面処理剤のHLB値は上述の範囲内にあることが望ましい。また、有機溶媒への分散性に優れることは、すなわち樹脂への分散性に優れことを意味する。尚、HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを示す値であり、1~20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きくなると親水性が強いことを示す。
【0098】
(C)表面処理剤(特に両親媒性分子)としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましく使用可能である。(C)表面処理剤がこの範囲のSP値を有することで、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が向上する。
【0099】
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & Science,vol.12(10),p.2359-2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、Oct.2010)によると、後述する実施例に示す既存の主要な溶剤についてのSP値(cal/cm31/2が公開されている。
【0100】
(C)表面処理剤のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に(C)表面処理剤を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、実施例に示す表中のSP値が異なる各種溶剤(10mL)に、(C)表面処理剤1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、(C)表面処理剤がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その(C)表面処理剤のSP値は7.25以上となる。
【0101】
(C)表面処理剤(特に両親媒性分子)の静的表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。この静的表面張力は、ウィルヘルミー法で測定される表面張力を指す。室温で液体状の(C)表面処理剤を使用する場合は、25℃で測定した値を用いる。室温で固体又は半固形状の(C)表面処理剤を使用する場合は、(C)表面処理剤を融点以上に加熱し溶融した状態で測定し、25℃に温度補正した値を用いる。なお本開示で室温とは、25℃を意味する。また、添加を容易にするためなどの目的で、(C)表面処理剤を有機溶剤や水等に溶解・希釈してもよい。この場合の上記静的表面張力は、使用する(C)表面処理剤自体の静的表面張力を意味する。
【0102】
(C)表面処理剤の静的表面張力が本開示の特定の範囲内であることは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が驚異的に向上するという効果を奏する。理由は定かではないが、(C)表面処理剤(特に両親媒性分子)中にある親水性官能基が、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面の水酸基、又は反応性基と水素結合等を介することによって、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの表面を被覆し、樹脂との界面形成を阻害しているためであると考えられる。その親水性基が(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー側に配されることにより、樹脂側には疎水雰囲気となるため、樹脂側との親和性も増すためと考えられる。
【0103】
(C)表面処理剤の好ましい静的表面張力の下限は、23mN/mであり、より好ましくは25mN/m、さらに好ましくは30mN/m、更により好ましくは35mN/m、最も好ましくは39mN/mである。(C)表面処理剤の静的表面張力の好ましい上限は、72.8mN/m、より好ましくは60mN/m、さらに好ましくは50mN/m、最も好ましくは45mN/mである。
【0104】
(C)表面処理剤の熱可塑性樹脂に対する親和性と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーに対する親和性とを両立し、樹脂中への(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの微分散性、樹脂組成物の流動性、樹脂成形体の強度及び伸びの向上といった特性を発現させる観点で、(C)表面処理剤の静的表面張力を特定の範囲にすることが好ましい。
【0105】
本開示でいう(C)表面処理剤の静的表面張力は、市販の表面張力測定装置を用いることで測定することが可能である。具体的に例示すると、自動表面張力測定装置(例えば協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP-Z型」、付属のガラス製セルを使用。)を用い、ウィルヘルミー法により測定することができる。この時、(C)表面処理剤が室温で液体の場合は、付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm~9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求められる。
γ=(P-mg+shρg)/Lcosθ
ここで、γ:静的表面張力、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度である。
【0106】
なお、室温で固体のものは上述の方法では表面張力は測定できないため、便宜上、融点+5℃の温度で測定した表面張力を採用する。融点が未知の物質である場合、まずは目視による融点測定法(JIS K6220)により融点を測定し、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定することで可能である。
【0107】
(C)表面処理剤(特に両親媒性分子)の動的表面張力は60mN/m以下であることが好ましい。より好ましい動的表面張力の上限は、55mN/mであり、50mN/mがより好ましく、45mN/mがさらに好ましく、40mN/mが特に好ましい。(C)表面処理剤の動的表面張力の好ましい下限を挙げるとすると、10mN/mである。より好ましい下限は、15mN/mであり、20mN/mが最も好ましい。
【0108】
ここでいう動的表面張力は、最大泡圧法(液体中に挿した細管(以下、プローブ)に空気を流して、気泡を発生させたときの最大圧力(最大泡圧)を計測し、表面張力を算出する方法)で測定される表面張力のことである。具体的には、(C)表面処理剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、25℃に調温した後、動的表面張力計(例えば英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt-60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、気泡発生周期を10Hzで測定された表面張力の値を指す。各周期における動的表面張力は、以下の式により求められる。
σ=ΔP・r/2
ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力-最小圧力)、r:キャピラリー半径である。
【0109】
最大泡圧法で測定される動的表面張力は、動きの速い場における界面活性剤の動的な表面張力を意味する。(C)表面処理剤は水中では、通常ミセルを形成している。動的表面張力が低いということは、ミセル状態からの界面活性剤の分子の拡散速度が速いことを表し、動的表面張力が高いということは分子の拡散速度が遅いことを意味する。
【0110】
(C)表面処理剤の動的表面張力が特定値以下であることは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂組成物中での分散を顕著に向上させるという効果を奏する点で有利である。この分散性向上の理由の詳細は不明であるが、動的表面張力が低い(C)表面処理剤は、押出機内での拡散性に優れることで、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと樹脂との界面に局在化できること、さらに(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面を良好に被覆できることが、分散性向上の効果に寄与していると考えられる。この界面活性剤の動的表面張力を特定値以下とすることにより得られる(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの分散性の改良効果は、成形体の強度欠陥を消失させるという顕著な効果を発現させる。
【0111】
(C)表面処理剤(特に両親媒性分子)としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
【0112】
(C)表面処理剤として水より高い沸点を有するものを選択することにより、例えば、(C)表面処理剤の存在下で、水に分散された(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを乾燥させ、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー製剤を得る工程において、水が蒸発する過程で水と(C)表面処理剤とが置換されて(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面に(C)表面処理剤が存在するようになるため、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの凝集を大幅に抑制する効果を奏することができる。
【0113】
(C)表面処理剤は、その取扱い性の観点より、室温(すなわち25℃)で液体のものが好ましく使用可能である。常温で液体の(C)表面処理剤は、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと親和しやすく、樹脂にも浸透しやすいという利点を有する。
【0114】
(C)表面処理剤が界面活性剤である場合の当該界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれも使用することができるが、(B)セルロースナノファイバーとの親和性の点で、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。界面活性剤としては、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。特に好ましい態様において、界面活性剤は、前述のような特定の動的表面張力を有する界面活性剤である。
【0115】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)系として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0116】
非イオン性界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0117】
両性イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0118】
陽イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0119】
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ-O-アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いる。
【0120】
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
【0121】
特に、上述の動植物油の中でも、(B)セルロースナノファイバー表面への親和性、均一コーティング性の観点から、テルピン油、トール油、ロジンが好ましい。
【0122】
テルピン油(テルビン油ともいう)は、マツ科の樹木のチップ、或いはそれらの樹木から得られた松脂(まつやに)を水蒸気蒸留することによって得られる精油のことであり、松精油、ターペンタインともいう。テルピン油としては、例えば、ガム・テレピン油(松脂の水蒸気蒸留によって得られたもの)、ウッド・テレピン油(マツ科の樹木のチップを水蒸気蒸留或いは乾留することで得られたもの)、硫酸テレピン油(硫酸塩パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)、亜硫酸テレピン油(亜硫酸パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)が挙げられ、ほぼ無色から淡黄色の液体で、亜硫酸テレピン油以外は主にα-ピネンとβ-ピネンを成分とする。亜硫酸テレピン油は、他のテレピン油と異なりp-シメンを主成分とする。上述の成分を含んでいれば、前記テルピン油に含まれ、いずれも単独又は複数の混合物の誘導体を、本発明の界面活性剤として使用することができる。
【0123】
トール油は、松材を原料にクラフトパルプを作る際に副成する、樹脂と脂肪酸を主成分とする油である。トール油としては、オレイン酸とリノール酸を主成分とするトール脂肪を用いても、アビエチン酸などの炭素数20のジテルペノイド化合物を主成分とするトールロジンを用いてもよい。
【0124】
ロジンは、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂である。コロホニー或いはコロホニウムとも呼ばれる。中でも、トールロジン、ウッドロジン、ガムロジンが好適に使用できる。これらロジン類に種々の安定化処理、エステル化処理、精製処理などを施したロジン誘導体を、界面活性剤として使用できる。安定化処理とは、上記ロジン類に水素化、不均化、脱水素化、重合処理等を施すことをいう。また、エステル化処理とは、上記ロジン類、又は安定化処理を施したロジン類を各種アルコールと反応させてロジンエステルとする処理のことをいう。このロジンエステルの製造には各種公知のアルコール又はエポキシ化合物等を使用することができる。アルコールとしては、例えば、n-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコールのような1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコールが挙げられる。また、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、エリトルロース、オゾン化グリセリン、カプリリルグリコール、グリコール、(C15-18)グリコール、(C20-30)グリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアオクタンジオール、DPG、チオグリセリン、1,10-デカンジオール、デシレングリコール、トリエチレングリコール、チリメチルギドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、BG、PG、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メンタンジオール、ラウリルグリコール等の多価アルコールを用いてもよい。また、イノシトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコールとして分類されるものも、多価アルコールに含まれる。
【0125】
さらに、上記アルコールとしては、アルコール性の水溶性高分子を用いることもできる。アルコール性の水溶性高分子としては、多糖類・ムコ多糖類、デンプンとして分類されるもの、多糖誘導体として分類されるもの、天然樹脂に分類されるもの、セルロース及び誘導体に分類されるもの、タンパク質・ペプチドに分類されるもの、ペプチド誘導体に分類されるもの、合成ホモポリマーに分類されるもの、アクリル(メタクリル酸)酸共重合体に分類されるもの、ウレタン系高分子に分類されるもの、ラミネートに分類されるもの、カチオン化高分子に分類されるもの、その他の合成高分子に分類されるもの等が挙げられ、常温で水溶性のものを用いることができる。より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、セルロースエーテル、アルギン酸カルシウム、カルボキシビニルポリマー、エチレン/アクリル酸共重合体、ビニルピロリドン系ポリマー、ビニルアルコール/ビニルピロリドン共重合体、窒素置換アクリルアミド系ポリマー、ポリアクリルアミド、カチオン化ガーガムなどのカチオン系ポリマー、ジメチルアクリルアンモニウム系ポリマー、アクリル酸メタクリル酸アクリル共重合体、POE/POP共重合体、ポリビニルアルコール、プルラン、寒天、ゼラチン、タマリンド種子多糖類、キサンタンガム、カラギーナン、ハイメトキシルペクチン、ローメトキシルペクチン、ガーガム、アラビアゴム、セルロースウィスカー、アラビノガラクタン、カラヤガム、トラガカントガム、アルギン酸、アルブミン、カゼイン、カードラン、ジェランガム、デキストラン、セルロース(本開示のセルロースファイバー及びセルロースウィスカーではないもの)、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、カチオン化シリコーン重合体等が挙げられる。
【0126】
上述の各種ロジンエステルの中でも、(B)セルロースナノファイバー表面のコーティング性、樹脂中でのセルロース製剤の分散性がさらに促進される傾向にあるため、ロジンと水溶性高分子がエステル化したものが好ましく、ロジンとポリエチレングリコールとのエステル化物(ロジンエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレングリコール樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンロジン酸エステルともいう。)が特に好ましい。
【0127】
硬化ひまし油型の界面活性剤としては、例えば、トウダイグサ科のトウゴマの種子等から採取する植物油の一種であるひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油)を原料として、水素化されたものを疎水基として、その構造中の水酸基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。ひまし油の成分は、不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリドである。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0128】
鉱物油の誘導体としては、例えば、カルシウム石鹸基グリース、カルシウム複合石鹸基グリース、ナトリウム石鹸基グリース、アルミニウム石鹸基グリース、リチウム石鹸基グリース等のグリース類等が挙げられる。
【0129】
界面活性剤は、アルキルフェニル型化合物であってもよく、例えば、アルキルフェノールエトキシレート、すなわちアルキルフェノールをエチレンオキシドでエトキシル化して得られる化合物が挙げられる。アルキルフェノールエトキシレートは非イオン界面活性剤である。親水性のポリオキシエチレン(POE)鎖と、疎水性のアルキルフェノール基がエーテル結合で結びついていることから、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテルとも呼ばれる。一般にアルキル鎖長、POE鎖長の異なる多数の化合物の混合物として、平均鎖長の異なる一連の製品が市販されている。アルキル鎖長は炭素数6~12(フェニル基を除く)が市販されているが、代表的なアルキル基の構造は、ノニルフェノールエトキシレートやオクチルフェノールエトキシレートが挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が5~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0130】
界面活性剤は、βナフチル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ナフタレンを含み、芳香環の2又は3又は6又は7位の炭素が水酸基と結合したβモノ置換体と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。EO残基が15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0131】
界面活性剤は、ビスフェノールA型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ビスフェノールA(化学式 :(CH32C(C64OH)2)を含み、その構造中の二つのフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0132】
界面活性剤は、スチレン化フェニル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、スチレン化フェニル基を含み、その構造中のフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。スチレン化フェニル基は、フェノール残基のベンゼン環にスチレンが1~3分子付加した構造を有する。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0133】
界面活性剤の具体的な好適例としては、例えば、アシルグタミン酸塩等のアシルアミノ酸塩、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシン酸塩等のアニオン性界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)、塩化セチルピチジニウム等のアルキルピリジニウム塩、アルキル4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体等のカチオン性界面活性剤;2-ウンデシル-N,N,N-(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)2-イミダゾリンナトリウム、2-ココイル-2-イミタゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤、2-ヘプタデシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホバタイン等のベタイン系両性界面活性剤等の両性界面活性剤、ソルビタンノモオレエート、ソルビタンモノモイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸グリセリン、α,α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビタンテトラオレエート等のポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン-ソルビットモノラウレート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットペンタオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリントリイソステアレート等のポリオキシエチレン-グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油トリイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸等のポリオキシエチレンヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0134】
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であるこことが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限は設定されないが、好ましくは30、より好ましくは25である。
【0135】
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましく、環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が特に好ましい。これらの中でも、特にロジンエステル型、硬化ひまし油型が最も好ましい。
【0136】
したがって、特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
【0137】
一態様において、(C)表面処理剤は、低分子熱可塑性樹脂である。低分子熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂(例えば熱可塑性ポリウレタン)、ポリオレフィン系樹脂(例えばα-オレフィン共重合体)、各種アイオノマーが挙げられる。
【0138】
低分子熱可塑性樹脂の好ましい具体例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物が挙げられる。一態様において、低分子熱可塑性樹脂は、前述した親水性セグメントと疎水性セグメントとを有する化合物であり得る。
【0139】
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ポリプロピレングリコール系樹脂、及びこれらの2種以上の混合物が好ましく挙げられ、特に、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、及びポリプロピレングリコール系樹脂が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
【0140】
低分子熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα-オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。
【0141】
また、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン系樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
【0142】
酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。(B)セルロースナノファイバーとの界面強度を良好に維持するためには、下限以上が好ましく、ギヤとしての延性を良好に維持するためには、上限以下が好ましい。
【0143】
低分子熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体;が挙げられる。
【0144】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0145】
低分子熱可塑性樹脂として使用可能なポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
【0146】
低分子熱可塑性樹脂としてのポリアミドにおいて、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0147】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ 酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0148】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸 、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0149】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルア ミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシル アミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0150】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、H-NMRによる定量がより好ましい。
【0151】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
【0152】
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0153】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)量としては0.01~4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0154】
樹脂組成物を調製する際の(C)表面処理剤の添加方法としては、特に制限はないが、(A)熱可塑性樹脂、(B)セルロースナノファイバー、及び(C)表面処理剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、(A)熱可塑性樹脂にあらかじめ(C)表面処理剤を添加し、必要により予備混練した後、(B)セルロースナノファイバーを添加して溶融混練する方法、(B)セルロースナノファイバーと(C)表面処理剤を予め混合した後、(A)熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(B)セルロースナノファイバーが水に分散している分散液中に(C)表面処理剤を添加し、乾燥させてセルロース乾燥体を作製したのち、当該乾燥体を(A)熱可塑性樹脂に添加する方法、等が挙げられる。
【0155】
≪(D)金属イオン成分≫
樹脂組成物は、付加的成分として(D)金属イオン成分を含むことが可能である。(D)金属イオン成分は市販の試薬又は製品であってもよい。(D)金属イオン成分としては、銅化合物、金属(銅又は銅以外)のハロゲン化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0156】
本実施形態の樹脂組成物における(D)金属イオン成分の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、5質量部であることが好ましく、2質量部であることがより好ましく、0.5質量部であることがさらに好ましい。(D)金属イオン成分の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。(D)金属イオン成分の量が上記範囲内であることで、本実施形態におけるギヤの摺動試験における耐摩耗性が向上する。このような優れた耐摩耗性の発現要因は未解明ではあるが、(B)セルロースナノファイバー表面と(C)表面処理剤との界面、又は(B)セルロースナノファイバー表面と(A)熱可塑性樹脂との界面に(D)金属イオン成分が存在し、密着性を増大させていると推測される。
【0157】
銅化合物としては以下に限定されるものではないが、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等のハロゲン化銅;酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅等のカルボン酸銅塩;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤に銅が配位した、銅錯塩;等が挙げられる。銅化合物は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。銅化合物としては、耐熱エージング性に一層優れること、成形押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」ともいう。)を抑制できること等の観点から、ヨウ化銅(CuI)、臭化第一銅(CuBr)、臭化第二銅(CuBr2)、塩化第一銅(CuCl)、及び酢酸銅が好ましく、ヨウ化銅、及び酢酸銅がより好ましい。
【0158】
銅化合物の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。銅化合物の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。銅化合物の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。また銅化合物の含有量の上限が上記範囲内であると、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
【0159】
本実施形態の樹脂組成物は、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属ハロゲン化物を含有していてもよい。金属ハロゲン化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0160】
金属ハロゲン化物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、樹脂組成物の耐熱エージング性が一層向上し、金属腐食が一層抑制される点で、ヨウ化カリウム、及び臭化カリウムが好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。
【0161】
樹脂組成物における金属ハロゲン化物の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。樹脂組成物における金属ハロゲン化物の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。金属ハロゲン化物の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。また金属ハロゲン化物の含有量の上限が上記範囲内であると、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
【0162】
金属ハロゲン化物は、樹脂組成物中で、金属ハロゲン化物由来のハロゲン元素の含有量D3と銅化合物又は金属ハロゲン化物由来の銅元素の含有量D4とのモル比D3/D4が、2/1~50/1となるように配合することが好ましく、2/1~40/1となるように配合することがより好ましく、5/1~30/1となるように配合することがさらに好ましい。モル比D3/D4を2/1以上とすることで、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができ、50/1以下とすることで、靭性、剛性などの機械物性を損なうことなく、金属腐食を一層抑制することができる。
【0163】
アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウム等の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、具体的にはカルシウム塩が好ましい。
【0164】
当該カルシウム塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)が挙げられる。脂肪酸カルシウム塩の脂肪酸成分は、例えばヒドロキシル基で置換されていてもよい。これらの中では、ギヤの熱安定性向上の観点から、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)がより好ましい。
【0165】
樹脂組成物におけるアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。またアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の上限が上記範囲内であると、樹脂成形体の熱分解を一層抑制することができる。
【0166】
(D)金属イオン成分を樹脂組成物に存在させる方法としては、例えば、(A)熱可塑性樹脂の重合時(製法1)に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩)を配合する方法、溶融混練(製法2)を用いて(A)熱可塑性樹脂に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩)を配合する方法が挙げられる。
【0167】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法では、銅化合物を固体状態で添加してもよく、例えば水溶液の状態で添加してもよい。前記製法1における(A)熱可塑性樹脂の重合時とは、原料モノマーからポリマーへの重合が完了するまでの、どの段階でもよい。製法2の溶融混練を行う装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、及びミキシングロールなどの溶融混練機などを用いることができる。中でも2軸押出機が好ましく用いられる。
【0168】
溶融混練の温度は、好ましくは、(A)熱可塑性樹脂の融点より1~100℃程度高い温度、より好ましくは10~50℃程度高い温度である。混練機での剪断速度は100sec-1以上程度であることが好ましく、混練時の平均滞留時間は0.5~5分程度であることが好ましい。
【0169】
≪(E)摺動性成分≫
一態様において、樹脂組成物は、(E)摺動剤成分を含むことができる。(E)摺動剤成分は、(A)熱可塑性樹脂及び(C)表面処理剤とは異なる物質である。典型的な態様においては、(C)表面処理剤が本開示の意味における水溶性を有し、(E)摺動剤成分が当該水溶性を有さない。
【0170】
(E)摺動剤成分の好ましい下限量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01質量部であり、より好ましくは0.5質量部であり、特に好ましくは、1.0質量部である。また、(E)摺動剤成分の好ましい上限量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部であり、より好ましくは4質量部であり、特に好ましくは3質量部である。(E)摺動剤成分の量を上記範囲とすることで、摩耗量を抑制でき、さらには繰り返し疲労試験における破断回数が向上する。通常のフィラー(例えばガラスファイバー等)を用いた場合、フィラー表面に(E)摺動剤成分が偏在し、摺動剤分子が多数積層する構造となることで、フィラーが脱落しやすい、長期疲労試験などでは効果が低下する、といった問題が生じる場合がある。しかし、(B)平均繊維径が1000nm以下であるナノセルロースの場合は表面積はガラスファイバー等と大きく異なり大表面積であるため、(E)摺動剤成分がセルロース表面に偏在しにくく、摺動剤分子が積層しにくい。これにより、疲労試験における破断回数が向上し、さらには耐摩耗性も維持されると推測される。
【0171】
(E)摺動剤成分の量が(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部以下である場合、樹脂成形体における層剥離及びシルバーストリークスの発生がより良好に抑制される。また、(E)摺動剤成分の量が(A)熱可塑性樹脂に対して0.01質量部以上である場合、摩耗量低減のより顕著な効果が得られる。
【0172】
(E)摺動剤成分としては、例えば、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表わされる構造を有する化合物が挙げられる。
[R11-(A-R12)-A-R13]・・・(1)
-R11-A・・・(2)
14-A・・・(3)
ここで、式(1)及び(2)中、R11、R12及びR13は、各々独立して、炭素数1~7000のアルキレン基、置換若しくは非置換の炭素数1~7000のアルキレン基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6~7000のアリール基で置換された置換アルキレン基、炭素数6~7000のアリーレン基、又は炭素数6~7000のアリーレン基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1~7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリーレン基である。
【0173】
また、式(3)中、R14は、炭素数1~7000のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数1~7000のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6~7000のアリール基で置換された置換アルキル基、炭素数6~7000のアリール基、又は炭素数6~7000のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1~7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリール基である。
【0174】
これらの基は二重結合、三重結合、又は環状構造を含む基でもよい。
【0175】
また、式(1)中、A及びAは、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、チオアミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、アゾ結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、又はトリスルフィド結合である。
【0176】
また、式(2)、(3)中、A、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基、アミジン基、アジ基、シアノ基、チオール基、スルフェン酸基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、ニトロ基、又はチオール基である。
【0177】
微小荷重摺動時の摩耗特性の観点から、(E)摺動剤成分における上記一般式(1)、(2)、(3)で表わされる構造を以下の範囲内とすることが好ましい。
【0178】
すなわち、R11、R12、R13、R14における炭素数は、好ましくは2~7000であり、より好ましくは3~6800であり、さらに好ましくは4~6500である。
式(1)中、xは1~1000の整数を示し、1~100の整数が好ましい。yは1~1000の整数を示し、1~200の整数が好ましい。
【0179】
式(1)中、好ましいA及びAは、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合であり、より好ましいA及びAは、各々独立して、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合である。
【0180】
式(2)及び(3)中、好ましいA、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、アジ基、シアノ基、チオール基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、及びチオイソシアネート基であり、より好ましいA、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、イソシアニド基、ケテン基、及びイソシアネート基である。
【0181】
具体的には、(E)摺動剤成分として、特に限定されないが、例えば、アルコール、アミン、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミド、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーンオイル、並びにワックス、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が例示される。
【0182】
アルコールとしては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価のアルコール類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、ベヘニルアルコール、メリシルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、デシルミリスチルアルコール、デシルステアリルアルコール、ユニリンアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルバイト、ソルビタン、ソルビトール、マンニトールが挙げられる。
【0183】
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数11以上のアルコールが好ましい。より好ましくは炭素数12以上のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアルコールである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和アルコールである。
【0184】
これらの中では、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく使用可能であり、ベヘニルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが特に好ましく使用可能である。
【0185】
アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。
【0186】
一級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロパンアミン、ブタンアミン、ペンタンアミン、ヘキサンアミン、へプタンアミン、オクタンアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、アニリン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン等が挙げられる。
【0187】
二級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン等が挙げられる。
【0188】
三級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
【0189】
特殊なアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサンアミン、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルピペラジン、ヘキサメチレンジアミンがより好ましく使用可能であり、これらの中でも、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが特に好ましく使用可能である。
【0190】
カルボン酸としては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族カルボン酸類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコン酸、モンタン酸等、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、セトレイン酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ネルボン酸、エルカ酸、プロピオール酸、ステアロール酸等が挙げられる。
【0191】
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上の脂肪酸が好ましい。より好ましくは炭素数11以上の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数12以上の脂肪酸である。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の中ではパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、アジピン酸、セバシン酸等が、工業的にも容易に入手可能であり、更に好ましい。
【0192】
また、かかる成分を含有してなる天然に存在する脂肪酸又はこれらの混合物等でもよい。これらの脂肪酸はヒドロキシ基で置換されていてもよく、合成脂肪族アルコールであるユニリンアルコールの末端をカルボキシル変性した合成脂肪酸でもよい。
【0193】
ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、脂肪族ヒドロキシ酸、芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。脂肪族ヒドロキシ酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸や乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0194】
芳香族ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、モノヒドロキシ安息香酸誘導体としてサリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ジヒドロキシ安息香酸誘導体としてピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、トリヒドロキシ安息香酸誘導体として、没食子酸、フェニル酢酸誘導体として、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸やヒドロケイヒ酸誘導体として、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸が挙げられ、これらの異性体であってもよい。これらの中では、脂肪族ヒドロキシ酸がより好ましく、脂肪族ヒドロキシ酸の中でも炭素数が5から30の脂肪族ヒドロキシ酸が更に好ましく、炭素数8から28の脂肪族ヒドロキシ酸が特に好ましい。
【0195】
アミドとしては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族アミド類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、1級アミドとしてヘプタンアミド、オクタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、ペンタデシルアミド、セチルアミド、ヘプタデシルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド、ノナデシルアミド、エイコシルアミド、セリルアミド、ベヘニルアミド、メリシルアミド、ヘキシルデシルアミド、オクチルドデシルアミド、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0196】
2級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド、などの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0197】
3級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N-ジステアリルセバシン酸アミド、N,N-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N-ジオレイルセバシン酸アミド、N,N-ジステアリルイソフタル酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0198】
これらの中でも、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、N-ステアリルステアリン酸アマイドがより好ましく使用可能である。
【0199】
これらの中でも、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイドが好ましく使用可能である。これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上のアミドが好ましい。より好ましくは、炭素数11以上のアミドであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアミドである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪族アミドである。
【0200】
エステルとしては、上述のアルコールとカルボン酸、又はヒドロキシ酸とが反応してエステル結合を形成している反応生成物などが好ましい。
【0201】
具体的な例としては特に限定されないが、例えば、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、べへニン酸モノグリセライド、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシルペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2-エチルヘキサン酸トリグリセライド、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート等が挙げられる。
【0202】
これらの中でもミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレートが好ましく使用可能であり、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールジステアレートが特に好ましく使用可能である。
【0203】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の3種類が挙げられる。
【0204】
第1のポリオキシアルキレングリコールは、アルキレングリコールをモノマーとする重縮合物である。このような重縮合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックコポリマー、ランダムコポリマー等が挙げられる。これらの重縮合物の重合度の好ましい範囲は5~2500、より好ましい範囲は10~2300である。
【0205】
第2のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と脂肪族アルコールとのエーテル化合物である。このようなエーテル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールオレイルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~500)、ポリエチレングリコールセチルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~500)、ポリエチレングリコールステアリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度2~1000)、ポリエチレングリコールオキチルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度4~500)等が挙げられる。
【0206】
第3のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と高級脂肪酸とのエステル化合物である。このようなエステル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート(エチレンオキサイド重合度2~300)、ポリエチレングリコールモノステアレート(エチレンオキサイド重合度2~500)、ポリエチレングリコールモノオレート(エチレンオキサイド重合度2~500)等が挙げられる。
【0207】
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、シュラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、セラックろう、ウールろう、カルバナワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、はぜろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が挙げられる。
【0208】
これらの中でもカルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型がより好ましく使用可能であり、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が特に好ましく使用可能である。
【0209】
これらの中でも(E)摺動剤成分としては、アルコール、アミン、カルボン酸、エステル、1価又は2価のアミンとカルボン酸とからなるアミド化合物、並びにワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0210】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物に用いる(E)摺動剤成分のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型は、特に限定されないが、ポリオレフィンワックスの酸化反応により酸性基を導入したり、ポリオレフィンを酸化分解したり、ポリオレフィンワックスに無機酸、有機酸或いは不飽和カルボン酸などを反応させてカルボキシル基やスルホン酸基などの極性基を導入したり、ポリオレフィンワックス重合時に酸性基を持つモノマーを導入する方法により得られる。
【0211】
これらは、酸化変性型或いは酸変性型ポリオレフィンワックスなどの名称で市販されており、容易に入手することができる。
【0212】
ポリオレフィンワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、特殊モノマー変性型などが挙げられる。
【0213】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリプロピレン-ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等などが挙げられる。
【0214】
(E)摺動剤成分としては摺動性改良効果の観点からパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの酸変性物、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体の酸変性物が好ましい。
【0215】
(E)摺動剤成分は、特に、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含む変性ワックスであることが好ましい。
【0216】
上記(E)摺動剤成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、(E)摺動剤成分は、ギヤ(すなわち成形体)から分離することで分子構造や分子量、融点、酸価、粘度などを算出することが可能である。
【0217】
成形体における(E)摺動剤成分は、成形体を溶解後ろ別などの操作を行い単離したのちに、(E)摺動剤成分を再結晶化や再沈殿などの操作で精製することが可能である。(E)摺動剤成分をH-NMRや13C-NMRや二次元NMR、MALDI-TOF MSなど各種測定を行うことにより、繰り返し構造や分岐構造、各種官能基の位置情報などの分子構造を決定することができる。
【0218】
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、酸価は0~85mg-KOH/gの範囲であることが好ましい。酸価の好ましい下限は特にないが、0mg-KOH/g以上であることが好ましい。酸価のより好ましい上限は83mg-KOH/gであり、さらに好ましくは80mg-KOH/gであり、よりさらに好ましくは75mg-KOH/gである。酸価を上述の範囲とすることで、乾燥時の変色性を抑制し、微小荷重の高温摺動時の耐摩耗性が良好となる傾向にある。(E)摺動剤成分の酸価はJIS K0070に準拠した方法により測定できる。
【0219】
(E)摺動剤成分の酸価は、例えば特開2004-75749号公報の実施例1又は2に記載の方法、市販の高密度ポリエチレンを酸素雰囲気下で熱分解することで、酸性基の導入量、及び/又は極性基の導入量を調整又は制御する方法、等によって制御可能である。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、市販品を使用することも可能である。
【0220】
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃の溶融粘度は1~3000mPa・sの範囲であることが好ましい。下限は特に限定されるものではないが、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の溶融混練時の加工性の観点から、1mPa・sが好ましく、20mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは25mPa・sであり、さらにより好ましくは30mPa・sであり、よりさらに好ましくは50mPa・sである。また、上記140℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sである。
【0221】
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、180℃の溶融粘度は100~2900mPa・sの範囲であることが好ましい。(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の下限は、好ましくは110mPa・sであり、より好ましくは140mPa・sであり、さらに好ましくは160mPa・sであり、さらにより好ましくは300mPa・sである。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sであり、特に好ましくは1600mPa・sである。
【0222】
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、溶融粘度を上記範囲内とすることで、本実施形態のギヤの構成材料である樹脂組成物の溶融混練時に、樹脂ペレットが完全溶融となり、混練が十分に行われる傾向にある。
【0223】
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃及び180℃の溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定できる。
【0224】
一態様において、(E)摺動剤成分は潤滑油である。潤滑油は、以下に限定されるものではないが、樹脂成形体の摩擦・摩耗特性を向上させ得る物質であればよく、例えば、エンジンオイルやシリンダーオイルなどの天然オイル、或いは、パラフィン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル PS32など)やナフテン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル NS90Sなど)やアロマ系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル AC12など)などの合成炭化水素、シリコーン系オイル(信越化学株式会社製 G30シリーズなど)(ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーンオイルや、シリコーンガム、変性シリコーンガム)を挙げることができ、一般に市販されている潤滑油の中から適宜に選んで、そのまま、或いは、所望により適宜に配合して用いればよい。これらの中でもパラフィン系オイル及びシリコーン系オイルが摺動性の観点からも優れ、かつ工業的にも容易に入手可能であり好ましい。これら潤滑油は、単独で用いても、組み合わせて用いても構わない。
【0225】
潤滑油の分子量の下限は100が好ましく、400がより好ましく、500がさらに好ましい。また、上限は500万が好ましく、200万がより好ましく、100万がさらに好ましい。潤滑油の融点の下限値は-50℃が好ましく、-30℃がより好ましく、-20℃がさらに好ましい。潤滑油の融点の上限値は50℃が好ましく、30℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。分子量は100以上にすることで潤滑油の摺動性が良好となる傾向にある。また分子量を500万以下、特に100万以下にすることで、潤滑油の分散が良好となり耐摩耗性が向上する傾向にある。また、融点を-50℃以上とすることで、成型体表面に存在する潤滑油の流動性が維持され、アブレッシブ摩耗を抑制することにより、樹脂成形体の耐摩耗性が向上する傾向にある。また融点を50℃以下とすることで、熱可塑性樹脂と容易に混練しやすくなり、潤滑油の分散性が向上する傾向にある。上記した観点より、潤滑油の分子量及び融点は、上記範囲内にすることが好ましい。好ましい態様において、上記融点は潤滑油の流動点の2.5℃低い温度である。上記流動点はJIS K2269に準拠して測定することができる。
【0226】
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対する、潤滑油の含有量の下限値は、特に限定されないが、0.1質量部が好ましく、0.2質量部がより好ましく、0.3質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限値も特に限定されないが、5.0質量部が好ましく、4.5質量部がより好ましく、4.2質量部がさらに好ましい。潤滑油の含有量が上述した範囲である場合、樹脂組成物の耐摩耗性が向上する傾向にある。特に、潤滑油の含有量が0.1質量部以上である場合、充分な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、潤滑油の含有量が5.0質量部以下である場合、樹脂の軟化を抑制でき、高トルクギヤ等の用途にも耐えうる樹脂組成物の強度を確保できる傾向にある。
【0227】
本実施形態の樹脂組成物における潤滑油の含有量の範囲を上記のとおり調整する場合、摺動時の摩耗特性を改善し、さらには安定摺動性に優れるという観点から好ましい。
【0228】
ギヤにおいては、表層近傍における摺動剤成分の分散状態が摺動特性に大きな影響を与えるため、(E)摺動剤成分の重量平均分子量は重要である。一態様において、(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい下限量は、500であり、より好ましくは600であり、特に好ましくは、700である。また、(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい上限量は特にないが、取扱いの容易さから、100000が目安である。本実施形態のギヤにおいて、(E)摺動剤成分の重量平均分子量を上述の範囲とすることで、1万回を超える摺動回数における耐摩耗性の維持を達成可能となる。
【0229】
(E)摺動剤成分の分子量分布の下限は特にないが、摺動時の摩擦係数の安定性の観点から、1.0に近いことが目安である。また(E)摺動剤成分の分子量分布の好ましい上限は9.0であり、より好ましくは8.5であり、さらに好ましくは8.0であり、さらにより好ましくは7.5である。
【0230】
(E)摺動剤成分の重量平均分子量は、重量平均分子量1000以下の場合は、液体クロマトグラフ/質量分析により測定され、重量平均分子量が1000を超える場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン等の換算の重量平均分子量で表される。
【0231】
(E)摺動剤成分は、その融点が40~150℃であることが好ましい。(E)摺動剤成分の融点を40℃以上とすることにより、より高い温度での樹脂成形体の耐摩耗性を向上させることが可能となる傾向にあり、(E)摺動剤成分の融点を150℃以下とすることで、加工時の樹脂中への(E)摺動剤成分の良好な分散を達成しやすくなる。(E)摺動剤成分の融点のより好ましい下限は、45℃であり、さらに好ましい下限は50℃であり、特に好ましい下限は80℃である。また、(E)摺動剤成分の融点のより好ましい上限は、150℃未満であり、さらに好ましくは140℃であり、さらに好ましくは135℃であり、特に好ましくは130℃である。(E)摺動剤成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定できる。
【0232】
≪その他の成分≫
次に本発明において用いることができるその他の成分について詳述する。本実施形態の樹脂組成物は、前述した成分に加え、本実施形態の目的を損なわない範囲で、従来熱可塑性樹脂に使用されている各種安定剤を含有することができる。安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記の無機充填剤、熱安定剤、潤滑油等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
【0233】
前記無機充填剤は、以下に限定されるものではないが、繊維状粒子、板状粒子、無機顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることができる。一態様において、ここでいう繊維状粒子及び板状粒子とは、平均アスペクト比が5以上である粒子である。
【0234】
繊維状粒子としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、メタケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
【0235】
また、板状粒子としては、特に限定されないが、例えば、タルク、マイカ、カオリン、ガラスフレーク、ベントナイト等が挙げられる。これらの中では、タルク、マイカ、及びガラス繊維が好ましい。これらを用いることにより、機械的強度により優れ、かつ経済的である傾向にある。
【0236】
また無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミ酸コバルト、バライト粉、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、フェロシアン化鉄カリカオリン、チタンイエロー、コバルトブルー、ウルトラマリン青、カドミウム、ニッケルチタン、リトポン、ストロンチウム、アンバー、シェンナ、アズライト、マラカイト、アズロマラカイト、オーピメント、リアルガー、辰砂、トルコ石、菱マンガン鉱、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、サンゴ粉、白色雲母、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレッド、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、プルシアンブルー、オーレオリン、雲母チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、植物性黒、骨炭、炭酸カルシウム、紺青等が挙げられる。
【0237】
これらの中でも硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化チタン、チタンイエロー、コバルトブルー、及び炭酸塩が、より高い耐摩耗性を付与する観点から好ましく、酸化亜鉛、及びチタンイエローが、モース硬度が十分に低く、更に高い摩耗性を付与する観点から、より好ましい。
【0238】
上述した無機充填剤の添加量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機充填剤が0.002~70質量部、又は0.002~50質量部の範囲であると好ましい。無機充填剤の添加量が上述の範囲である事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
【0239】
前記熱安定剤としては、樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、酸化防止剤(例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。
【0240】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、1,4-ブタンジオール-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、トリエチレングリコール-ビス-(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)等が挙げられる。
【0241】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9-ビス(2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’-ビス-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’-テトラメチレンビス-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’-ビス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N-サリチロイル-N’-サリチリデンヒドラジン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、N,N’-ビス(2-(3-(3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミド等も挙げられる。
【0242】
上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール-ビス-(3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)、及びテトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
【0243】
酸化防止剤の添加量は、特に限定されないが、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1~2質量部、の範囲であると好ましい。安定剤の添加量が上述の範囲である事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
【0244】
本実施形態の樹脂組成物を製造する装置としては、特に限定されず、一般に実用されている混練機が適用できる。当該混練機としては、以下に限定されるものではないが、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等を用いればよい。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が好ましい。
【0245】
ISO179に準拠して測定したときの樹脂組成物の曲げ弾性率は、ギヤの良好な耐久性を得る観点から、好ましくは3000MPa以上、より好ましくは4000MPa以上、更に好ましくは5000MPa以上である。上記曲げ弾性率は、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば20000MPa以下、又は15000MPa以下、又は12000MPa以下であってもよい。
【0246】
一態様に係る樹脂組成物において、ISO 294-3に準拠して作製された多目的試験片の形態で、往復動摩擦摩耗試験機、及び相手材料として直径5mmの球であるSUS304試験片を用い、線速度50mm/sec、往復距離50mm、温度23℃、湿度50%、及び荷重19.8Nにて測定したときの摩擦係数の、(B)セルロースナノファイバーを含まない他は該樹脂組成物と同組成の組成物の値(I)に対する該樹脂組成物の値(II)の比である摩擦係数比(II/I)は、好ましくは0.8以下である。本実施形態の樹脂組成物は、(B)セルロースナノファイバーの寄与によって、樹脂成形体として成形された際に優れた表面平滑性を有する。上記摩擦係数比は、樹脂組成物の具体的な組成によって変動する(例えば、(B)セルロースナノファイバーの含有比率を大きくすると摩擦係数比が小さくなる傾向がある)。上記摩擦係数比は、優れた表面平滑性という観点から、好ましくは0.8以下、又は0.7以下、又は0.5以下である。一態様において、上記摩擦係数比は、例えば0.05以上、又は0.1以上、又は0.2以上である。
【0247】
樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0248】
樹脂成形体の製造方法の具体例としては、以下方法が挙げられる。
(1)単軸又は二軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、及び表面処理剤の混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法。
(2)単軸又は二軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、及び表面処理剤の混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法。
(3)単軸又は二軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、及び表面処理剤の混合物を溶融混練し、Tダイより押出し、シート又はフィルム状の成形体を得る方法。
【0249】
また、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、及び表面処理剤の混合物の溶融混練方法の具体例としては、以下の方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂と、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末とを、一括溶融混練する方法。
(2)熱可塑性樹脂及び必要により表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー粉末、及び必要により表面処理剤を添加して、さらに溶融混練する方法。
(3)熱可塑性樹脂、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末、及び水を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロースナノファイバー、及び水、並びに必要により表面処理剤を混合した後、一括で溶融混練する方法。
(4)熱可塑性樹脂及び必要により表面処理剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、表面処理剤混合粉末、及び水、を添加して、さらに溶融混練する方法。
(5)上記(1)~(4)を単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して添加し、溶融混練する方法。
【0250】
≪ギヤ摺動面の算術平均表面粗さSa≫
本実施形態のギヤは、他のギヤとの摺動面において、算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である。このような低い算術平均表面粗さSaはギヤの高摺動性(したがって静音性)及び高耐久性において有利である。算術平均表面粗さSaとは、ISO25178に準拠した測定方法で得られる値であり、算術平均表面粗さRaを面に拡張して得ることができる。算術平均表面粗さRaは、JISB0031に準拠し、樹脂成形体であるギヤの表面(ギヤの表面は、樹脂製ギヤの形状に基づいて当業者によって特定できる。)における粗さ曲線を計測し、粗さ曲線の平均線方向で基準長さ(a)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向をX軸、縦倍率の方向をY軸とし、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記式(2)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【数1】
【0251】
また、算術平均表面粗さSaとは、算術平均表面粗さRaを面に拡張したものであり下記式(3)で表される。
【数2】
【0252】
算術平均表面粗さSaの上限は0.9μmであることが好ましく、より好ましくは0.8μm、さらにより好ましくは0.7μm、最も好ましくは0.6μmである。算術平均表面粗さSaの下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、0.1μmであることが好ましい。表面粗さは、共焦点顕微鏡(例えばOPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)等の市販の顕微鏡装置を用いて測定する事が出来る。
【0253】
≪ボイド≫
一態様において、ギヤ中のボイドは少ない方が望ましい。ボイドが存在する場合、ボイドの部分を起点に、ギヤの歯にかかる荷重による応力集中が起こり、繰り返し疲労時の破断の起点となりうる。特に、射出成型により成形したギヤのモジュールサイズが大きくなると、ボイドは大きくなる傾向にある。ボイドの存在は、ギヤを歯に対して垂直方向に半分に割断し、その断面を観察し、ミクロボイドを観察する事で確認できる。例えば、共焦点顕微鏡(例えばOPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定する事で。ミクロボイドのサイズを確認する事が出来る。ボイドの最大サイズ(本開示で、ギヤの上記断面全体で観察されるボイドの円相当径の最大値として定義される。)の上限は2.0μmであることが好ましく、より好ましくは1.0μm、さらにより好ましくは0.5μm、最も好ましくは0.4μmである。ボイドは、存在しないことが好ましく、また存在する場合でもその最大サイズが小さいことが好ましいが、実用上の耐久性の観点から、例えば、ボイドの最大サイズが、0.01μm以上であってもよい。
【0254】
ギヤ中のボイドの数は、少ない方が好ましく、上記断面の100mm2当たり、好ましくは10個以下、より好ましくは8個以下、さらに好ましくは5個以下である。ボイドの数は、実用上の耐久性の観点から、上記断面の100mm2当たり、例えば1個以上であってもよい。
【0255】
≪吸水寸法変化≫
ギヤにおいては、平衡状態(80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持)で吸水させた際の吸水寸法変化(以下、平衡吸水寸法変化ともいう。)が、3%以下であることが好ましい。実使用環境において、寸法変化が小さい方が、ギヤの特定の歯に大きな荷重がかかること(応力集中)が起こりにくくなり、耐久性が向上しやすい。平衡吸水寸法変化の上限は3%であることが好ましく、より好ましくは2.5%、さらにより好ましくは2%、最も好ましくは1%である。平衡吸水寸法変化の下限は特に制限されないが、実用上の耐久性の観点から、例えば、0.5%であってもよい。
【0256】
≪真円度≫
ギヤは、真円度が400μm以下であることが好ましい。実使用環境において、真円度が小さい方が、ギヤの寸法均一性が高くなり、特定の歯に大きな荷重がかかること(応力集中)が起こりにくくなり、耐久性が向上しやすい。真円度の上限は好ましくは400μm、より好ましくは300μm、さらにより好ましくは200μm、最も好ましくは100μmである。真円度の下限は特に制限されないが、実際の製造上の観点から、例えば、1μmであってもよい。なお真円度は本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0257】
本実施形態のギヤを構成する樹脂組成物は、ガラス繊維と比較して径が充分に小さいセルロースナノファイバーを含むことで、流動状態(具体的には熱可塑性樹脂の溶融状態)でのチキソトロピー性が大きい。このことが、射出成形時の冷却過程において、樹脂を均一に収縮させ、表面の荒れや樹脂成形体であるギヤの内部のボイドなどの欠陥の量の低減に寄与していると考えられる。また、セルロースナノファイバーではガラス繊維と比較し熱可塑性樹脂中での配向(すなわち分散異方性)が低減されることから、ギヤの歯の方向の収縮が均一になると考えられる。
【0258】
また、本実施形態における(A)熱可塑性樹脂は、樹脂成形体用の樹脂としては比較的高分子量であるため、結晶化度が低く球晶が成長しにくい傾向にある。つまり本実施形態のギヤにおいては、ギヤ内部に(A)熱可塑性樹脂の球晶が均一に分散し、真円度に優れる傾向にあると考えられる。
【0259】
すなわち、本実施形態のギヤは、特定サイズのセルロースナノファイバーと特定分子量の熱可塑性樹脂とを用いていることで、樹脂製でありながら設計寸法からのずれ及び連続成形時の寸法ばらつきが極めて少ないという利点を有する。
【0260】
≪チキソトロピー性≫
本実施形態のギヤは、特定のセルース繊維を含むことから、一態様において、溶融状態でチキソトロピー性を示す。ギヤが含む(A)熱可塑性樹脂の融点+25℃での、せん断速度が1s-1の時と10s-1の時との粘度比(下記式(4))をチキソトロピーインデックスとすると、例えば、せん断速度1s-1の時の粘度が2000Pa・s、せん断速度が10s-1の時の粘度が600Pa・sであるとき、チキソトロピーインデックスは、約3.33となる。
チキソトロピーインデックス=(せん断速度1s-1の時の粘度/せん断速度10s-1の時の粘度)・・・(4)
本実施形態のギヤのチキソトロピーインデックスの上限は特に限定されないが、成形容易性の観点から、10であることが好ましく、より好ましくは8、さらにより好ましくは5、特に好ましくは4である。チキソトロピーインデックスの下限は、本実施形態のギヤによる良好な寸法安定性の観点の利点を得る観点から、一態様において1であり、好ましくは1.3、より好ましくは2である。チキソトロピー性の測定は後述する方法で行うことができる。
【0261】
ギヤの特に好ましい態様は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物で構成された樹脂成形体であるギヤ(特にEPSギヤ)であって、
ギヤが、真円度400μm以下を有し、
(A)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
樹脂組成物が、(A)熱可塑性樹脂の融点よりも25℃高い温度におけるチキソトロピーインデックス2~10を有する、ギヤである。
【0262】
≪トルク≫
本実施形態のギヤは、トルクが大きい使用環境においても優れた耐久性を示すことから、一態様において、トルク5N・m以上で使用される。本実施形態のギヤの使用時のトルクの上限はとくに限定されないが、耐久性の観点から、100N・mであることが好ましく、より好ましくは50N・m、さらにより好ましくは30N・mである。トルクの下限は、本実施形態のギヤによる良好な耐久性の利点を得る観点から、好ましくは12N・m、より好ましくは15N・mである。
【0263】
≪作動回転数≫
ギヤは、当該ギヤが適用される駆動源の作動回転数によってその耐久性が大きく変動し、高作動回転数の使用環境下では劣化しやすい傾向がある。本実施形態のギヤは、優れた耐久性を有することから、より高作動回転数の駆動源に適用された場合にも優れた性能を示す。一態様において、駆動源はモータである。駆動源の作動回転数の上限は1000rpmであることが好ましく、より好ましくは500rpm、さらにより好ましくは300rpm、最も好ましくは200rpmである。作動回転数の下限は特に制限されないが、本実施形態のギヤによる良好な耐久性の利点を得る観点から、例えば、10rpm、又は30rpm、又は50rpm、又は80rpmであることが好ましい。
【0264】
≪モジュール≫
本実施形態のギヤは、モジュールが0.5以上であってよい。モジュールとは、ギヤの基準円直径を歯数で除した値であり、歯車の大きさを表す。モジュールの大きさによってギヤの耐久性は大きく変動する。本実施形態のギヤは幅広いモジュール設計に亘って優れた性能を示す。モジュールの上限は25.0であることが好ましく、より好ましくは20.0、さらにより好ましくは10.0、最も好ましくは5.0である。モジュールの下限は特に制限されないが、本実施形態のギヤによる良好な耐久性の利点を得る観点から、例えば、1.0であることが好ましい。
【0265】
≪線膨張係数≫
本実施形態のギヤは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを含むため、従来の樹脂製ギヤよりも低い線膨張性を示すことが可能となる。具体的には、ギヤの構成材料である樹脂組成物の温度範囲0℃~60℃における線膨張係数は60ppm/K以下であることが好ましい。線膨張係数は、より好ましくは50ppm/K以下であり、さらにより好ましくは45ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。線膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。
【0266】
≪ギヤの製造方法≫
本実施形態のギヤは、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと、任意にその他の成分とを含む樹脂組成物を溶融混練し、特定の形状の樹脂成形体に成形すること等により製造することができる。
【0267】
本実施形態のギヤは、一態様において射出成型品であり、また一態様において削り出し品(好ましくは丸棒成型体からの切削加工品)である。射出成型品は、前述の方法で得られた樹脂組成物(例えば、樹脂ペレット)を、所望のギヤ形状の金型を備えた射出成形機に投入し成形行うことで、所望のギヤ形状の成形体として得る事が出来る。また、丸棒成型体からの切削加工品は、例えば、樹脂ペレットを押し出し成形機に投入し、丸棒押出しを行うことで、丸棒状の成形体を得た後、この丸棒を所望のギヤ形状に切削する事で所望のギヤ形状の成形体として得ることができる。いずれの成形方法においても、樹脂組成物からのギヤの成形は当業者の技術常識に基づいて適宜実施できる。射出成型、又は丸棒成型体からの切削加工によれば、金型表面温度、射出速度、保圧等を制御する事で肉厚の成形体でもボイドが発生しにくい傾向にある。より好ましい成形方法は、量産性や生産性という点で、射出成型である。典型的な態様において、ギヤは、歯幅の寸法が例えば2~50mmであるような肉厚の成形体である。
【0268】
本実施形態のギヤは、グリースを塗布して使用されることが好ましい。グリースは、少なくとも他のギヤとの噛合面に対して塗布されてよい。グリースの使用によりギヤの摺動性、耐久性、及び静音性が更に向上し得る。グリースとしては、従来公知のものを種々使用できるが、幅広い温度環境でも優れた摺動性を得る観点から、好ましくは、基油、増稠剤、添加剤を含み、
鉱油、ポリα-オレフィン油、及びアルキルポリフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種を80質量%以上の割合で含有する基油、
増稠剤、及び
融点又は軟化点が70~130℃の範囲にある炭化水素系ワックス3~10質量%
を含む。
【0269】
鉱油の好適例としては、パラフィン系油及びナフテン系油が挙げられる。
【0270】
ポリα-オレフィン油の好適例としては、1-デセン(C1020)を原料として、重合反応と水素化処理によって製造される均一な化合物が挙げられる。
【0271】
アルキルポリフェニルエーテルの好適例としては、アルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルが挙げられる。
【0272】
増稠剤の好適例としては、カルシウム石けん、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん、ウレア、PTFE、ベントン、フタロシアニン、インダンスレン、シリカゲルが挙げられる。
【0273】
融点又は軟化点が70~130℃の範囲にある炭化水素系ワックスの好適例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられる。
【0274】
グリース中の基油の量は、好ましくは50~90質量%、より好ましくは60~85質量%である。
【0275】
グリース中の増稠剤の量は、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。
【0276】
≪ギヤシステム≫
本実施形態のギヤは、機械的強度、耐久性及び静音性に優れるため、様々な態様で使用できる。特に、歯車として、以下に制限されないが、例えば、はすば歯車、平歯車、内歯車、ラック歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギヤ、ねじ歯車、ウォームギヤ、ウォームホイールギヤ、ハイポイドギヤ、及びノビコフ歯車が挙げられる。また、上記のはすば歯車や平歯車などは、シングル歯車、2段歯車、又は、駆動モータから多段に組み合わせ、回転ムラをなくして減速するような構造を有する組合せ歯車であってもよい。
【0277】
本発明の一態様は、従動ギヤと、該従動ギヤに噛合する駆動ギヤと、該駆動ギヤを駆動する駆動源(例えばモータ)とを備えるギヤシステム(特にEPSシステム)であって、従動ギヤ及び/又は駆動ギヤが本実施形態のギヤである、ギヤシステムを提供する。
【0278】
図1及び2は、本発明の一態様に係るギヤシステムの例を示す図である。
図1において、図1(A)はギヤシステム1の概略構成を示し、図1(B)は図1(A)中のギヤ機構11をより詳細に示している。図1を参照し、ギヤシステム1は、車両のステアリングコラムに用いられ、従動ギヤ111としてのウォームホイール及び駆動ギヤ112としてのウォームを含むギヤ機構11と、駆動源12としてのモータとを備える。
図2において、図2(A)はギヤシステム2の概略構成を示し、図2(B)は図2(A)中のギヤ機構21をより詳細に示している。図2を参照し、ギヤシステム2は、車両のステアリングギヤに用いられ、従動ギヤ211としてのピニオン及び駆動ギヤ212としてのラックを含むギヤ機構21と、駆動源22としてのモータとを備える。
【0279】
図1及び2を参照し、従動ギヤ111,211及び/又は駆動ギヤ112,212は、金属製芯金の少なくとも外周面に一体化されていてもよい。例えば図1に示す従動ギヤ111は金属製芯金を伴わずにギヤシステム1に組み込まれており、図2に示す従動ギヤ211は、シャフト24に取り付けられた金属製芯金23の外周面に一体化されてなる形状でギヤシステム2に組み込まれている。金属製芯金の材質は、ステンレス、鉄、鋼、アルミ、真鍮、チタン合金、ニッケル合金、銅合金、アルミ合金、ステンレス合金等であってよい。芯金の少なくとも外周面へのギヤの一体化は、当業者に公知の方法で行うことができるが、好ましくは、インサート射出成形である。
【0280】
好ましい態様において、ギヤシステムを構成するギヤはグリースを介して互いに噛合している。グリースの使用により、ギヤシステムの耐久性及び静音性が大きく向上し得る。グリースの好適例は前述で例示したとおりである。
【0281】
一態様において、ギヤシステムのギヤ機構は、ラックとピニオンとで構成されるラック・アンド・ピニオン機構(例えば図2に示すような)、又はウォームとウォームホイールとで構成されるウォームギヤ機構(例えば図1に示すような)である。ピニオン及びウォームホイールは通常円筒歯車(図1及び2に示す従動ギヤ111,211のように)であり、ギヤシステムが良好な摺動性及び耐久性を有するためにはこれらが良好な機械的強度、寸法精度及び表面平滑性を有することが特に重要である。一態様においては、高摺動性及び高耐久性を得る観点から、少なくともピニオン又はウォームホイールが本実施形態のギヤである。
【0282】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤの歯の全歯たけ(すなわち歯底と歯先との距離)/円ピッチ(すなわち歯と歯の間隔)比は、例えば1.0~20、又は1.5~15、又は2.0~13であってよい。
【0283】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤの円ピッチ/歯幅(すなわち歯の軸方向長さ)比は、例えば1.0~3.0、又は1.3~2.8、又は1.5~2.5であってよい。
【0284】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤの圧力角(すなわち、歯面上の点においてギヤの半径線と歯形への接線とがなす角度)は、例えば10°~30°、又は13°~28°、又は15°~25°であってよい。
【0285】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤが金属製芯金に一体化されている場合、金属製芯金の外径の、ギヤの歯先円直径に対する比率は、例えば0.02~0.98、又は0.1~0.9、又は0.3~0.7であってよい。
【0286】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤが金属製芯金に一体化されている場合、金属製芯金の外径の、ギヤの歯底円直径に対する比率は、例えば0.01~0.99、又は0.1~0.9、又は0.3~0.7であってよい。
【0287】
ピニオン及びウォームホイールの各々において、ギヤが金属製芯金に一体化されている場合、金属製芯金の外径の、ギヤのピッチ円直径に対する比率は、例えば0.01~0.99、又は0.1~0.9、又は0.3~0.7であってよい。
【0288】
ピニオン及びウォームホイールの各々にかかるトルクは、それぞれ、例えば5~100N・m、又は8~50N・m、又は15~30N・mであってよい。
【0289】
≪ギヤ及びギヤシステムの用途≫
本実施形態のギヤは、従来のギヤと比較して、顕著に優れた耐久性、及び一態様においては更に静音性を保持できる観点から、例えば自動車、電動車全般のEPSシステムに適用することができる。電動車としては、以下に制限されないが、例えば、シニア四輪、バイク及び電動二輪車が挙げられる。
【0290】
なお、本実施形態のギヤは、その優れた摺動性及び耐久性から、例えばカム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギヤ、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、ガイド、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板等にも使用できる。
【実施例
【0291】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0292】
≪原料及び評価方法≫
以下に、使用した原料及び、評価方法について説明する。
【0293】
≪(A)熱可塑性樹脂≫
以下の表1に記載の原料を用いた。
【0294】
【表1】
【0295】
<ポリアミド系樹脂の分子量測定>
ポリアミド系樹脂の分子量を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)にて、下記の条件で測定した。
装置:東ソー社製Eco Sec
カラム:TSKgel Super GMH-M 2本,
TSKgel Super G1000H
オーブン:40℃
溶離液:HFIP (TFANa 4.848g/kg)
流量:サンプル:0.5ml/min,レファレンス:0.25mL/min
試料量:25μl,3mg/ml
検出器:RI
校正曲線:PMMA(ポリメチルメタクリレート)
【0296】
<ポリアセタール樹脂の分子量測定>
ポリアセタール樹脂の分子量を、GPCにて、下記の条件で測定した。
装置:東ソー社製Eco Sec
カラム:TSKgel Super GMH-M 2本,
TSKgel Super G1000H
オーブン:40℃
溶離液:HFIP
流量:サンプル:0.5ml/min,レファレンス:0.25mL/min
試料量:25μl,3mg/ml
検出器:RI
校正曲線:PMMA(ポリメチルメタクリレート)
【0297】
≪(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー≫
(b-1)CNF-1
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5質量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに2時間叩解を実施し、CNF-1を得た。
【0298】
(b-2)CNF-2
国際公開第2017/159823号[0108]実施例1に記載の方法でCNF-2を得た。
【0299】
(b-3)CNF-3
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに4時間叩解を実施し、CNF-3を得た。
【0300】
<(B)セルロースナノファイバーの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0301】
<(B)セルロースナノファイバーの結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
【0302】
<(B)セルロースナノファイバーのL/D>
(B)セルロースナノファイバーを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個~150個の粒子の平均値として算出した。
【0303】
<(B)セルロースナノファイバーの平均繊維径>
(B)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM-03-R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分が0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均繊維径とした。
【0304】
<化学修飾の度合の評価 (DS 平均置換度)>
(B)セルロースナノファイバーの化学修飾の度合について、セルロースナノファイバーを乾燥させ、多孔質シートとした後、多孔質シートのATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定することにより評価を行った。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
(赤外分光スペクトルの測定条件)
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
【0305】
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(5)に従って算出した。
IRインデックス= H1730/H1030・・・(5)
式(5)中、H1730およびH1030は、1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
次に平均置換度(DS)をIRインデックスより下記式(6)に従って算出した。
DS=4.13×IRインデックス・・・(6)
【0306】
【表2】
【0307】
≪(C)表面処理剤≫
(c-1)2Lオートクレーブ中に、ポリエチレンオキシド(Mn1000)47質量部と触媒としてKOH 0.6質量部を入れ、窒素置換したのちポリプロピレンオキシド(Mn1050)100質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、c-1を得た。得られたc-1はMn3100、曇点55℃、HLB6.5であった。
(c-2)青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW-20(CASNo.61788-85-0、静的表面張力42.4mN/m、動的表面張力52.9mN/m)
常圧下沸点100℃超。
(c-3)第一工業株式会社製 スーパーフレックス 300
(c-4)三洋化成株式会社製 PEG20000
【0308】
<(C)表面処理剤の分子量測定>
表面処理剤の分子量を、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)にて、下記の条件で測定した。
[HPLC測定]
装置名:HP-1260(アジレントテクノロジー株式会社製)
カラム:TSKgel ODS-80Ts (東ソー株式会社製)
移動相:水/アセトニトリル移動相による溶媒グラジエント
検出器:蒸発型光散乱検出器(ELSD)
測定温度:40℃
流速:1mL/min
試料濃度:1mg/mL
注入量:10μL
【0309】
<(C)表面処理剤の曇点>
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させサンプルとした。
装置名:SV-10A 株式会社エー・アンド・デイ社製
測定濃度:0.5質量%、1.0質量%、5質量%
測定温度:0~90℃
上記方法で曇点を示さないものは、ガラス製の可視化可能な密閉容器に封をした。後に温度を上昇させ、析出水溶液が曇った点を目視で確認し曇点を測定した。
【0310】
<(C)表面処理剤のHLB値>
(c-1)について、グリフィン法を用い、下記式に従ってHLB値を求めた。
HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量)
(式中、親水基の式量は、ポリエチレンオキシドセグメントの式量である。)
【0311】
<(C)表面処理剤の静的表面張力の測定>
各表面処理剤を用い、自動表面張力測定装置(協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP-Z型」、付属のガラス製セル)を用い、ウィルヘルミー法により静的表面張力を測定した。実施例、比較例で用いた各表面処理剤は常温で液体であったので、装置に付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm~9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求めた。γ=(P-mg+shρg)/Lcosθ。ここで、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度(実施例、比較例で用いた表面処理剤は密度が1±0.4g/mLだったので、1を用いた。)、である。
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定した。
【0312】
<(C)表面処理剤の動的表面張力の測定>
各表面処理剤を用い、動的表面張力計(英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt-60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、最大泡圧法により気泡発生周期を10Hzで動的表面張力を測定した。実施例、比較例で用いた各表面処理剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、その溶液又は分散液100mLを、100mL容量のガラス製ビーカーに仕込み、25℃±1℃に調温された後、測定された値を用いた。動的表面張力は、以下の式により求められた。σ=ΔP・r/2。ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力-最小圧力)、r:キャピラリー半径、である。
【0313】
≪(D)金属イオン成分≫
(d-1)ヨウ化銅(I) 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化銅(I)
(d-2)ヨウ化カリウム 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化カリウム
(d-3)ステアリン酸カルシウム 堺化学工業社製 商品名 ステアリン酸カルシウム
【0314】
≪(E)摺動剤成分≫
(e-1)ワックス ベーカーペトロライト社製 商品名 ユニシド700(融点110℃)
(e-2)エチレンビスステアリルアミド ライオン製 商品名 アーモワックス EBS(融点145℃)
【0315】
≪(F)ガラスファイバー≫
以下の表3に記載の原料を用いた。
【0316】
【表3】
【0317】
≪製造条件≫
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、ポリアミド6は260℃、ポリアミド66は290℃,ポリオキシメチレン系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、(A)、(B)成分、並びに使用される場合の(C)成分及び/又は(D)成分を一括混合し、押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレット形状の樹脂組成物を得た。
【0318】
≪成形条件・多目的試験片≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物から、射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。
ポリアミド系材料:JIS K6920-2に準拠した条件
ポリオキシメチレン系材料:JIS K7364-2に準拠した条件
なお、ポリアミド系材料は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0319】
≪評価条件・多目的試験片≫
先の≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、ISO527に準拠して引張降伏強度及び引張破断伸び、ISO179に準拠して、曲げ弾性率、曲げ強度を測定した。
【0320】
≪エージング試験≫
エスペック株式会社製GPH-102を用いて150℃雰囲気にて多目的試験片の曝露試験を実施した。暴露後のサンプルはアルミ袋に保管し、ISO527に準拠して引張降伏強度を測定した。この時の強度保持率は暴露0日の多目的試験片を基準(100%)とし、引張降伏強度が80%を保持している日数を評価した。
【0321】
≪チキソトロピーインデックス≫
先の≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、以下の試験条件で溶融時の粘弾性を測定した。
装置名:ARES G2 ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社
測定温度:各樹脂の融点+25℃(例えば、PA6では250℃)
せん断速度:1.0~40s-1
25mm/40mmパラレルプレートを使用し、Gap1mmで行った。
この時の測定結果から、下記式(7)に従ってチキソトロピーインデックスを算出した。
チキソトロピーインデックス=(せん断速度1s-1の時の粘度/せん断速度10s-1の時の粘度)・・・(7)
この値が高いほどチキソトロピー性が高いと判断した。
【0322】
≪摩擦係数、摩耗量≫
上記≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製AFT-15MS型)、及び相手材料としてSUS304試験片(直径5mmの球)を用いて、線速度50mm/sec、往復距離50mm、温度23℃、湿度50%で、摺動試験を実施した。摩擦係数は下記試験条件終了時の値を採用した。また摩耗量は摺動試験後のサンプルの摩耗量(摩耗断面積)を、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。摩耗断面積はn=4で測定した数値の平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。測定箇所は摩耗痕の端より12.5mmの位置とし、等しい間隔をあけて実施した。また摩耗断面積は数値が低い方が摩耗特性に優れると評価した。
試験条件:荷重19.6N(例Iについて)、9.8N(例IIについて)、往復回数10,000回
【0323】
≪線膨張係数≫
先の≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ10mmの直方体サンプルを切り出し、測定温度範囲-10~80℃で、ISO11359-2に準拠して測定し、0℃~60℃の間での膨張係数を算出した。
【0324】
≪摩擦係数比≫
上記≪摩擦係数、摩耗量≫の測定で得られた摩擦係数に基づき、下記式(8)にしたがって摩擦係数比を算出した。
摩擦係数比=強化樹脂組成物/非強化樹脂組成物・・・(8)
(式中、強化樹脂組成物とは、実施例又は比較例で調製した、ガラスファイバー又はセルロースナノファイバーを含有する樹脂組成物であり、非強化樹脂組成物とは、比較用の組成物であって、ガラスファイバー又はセルロースナノファイバーを含まない他は上記強化樹脂組成物と同組成の組成物である)
例えば、下記比較例4(熱可塑性樹脂として1022B使用)の非強化樹脂組成物の摩擦係数0.65と実施例3(熱可塑性樹脂として1022B使用)のCNF強化樹脂組成物の摩擦係数0.15を用いると、上記式(8)から
摩擦係数比=0.15/0.65=0.23
となり、CNF添加により摩擦係数が著しく低減することがわかる。
摩擦係数比の数値が低いほど、摩擦係数の低減効果が高く、成形体が摺動性に優れると判断できる。
【0325】
≪吸水寸法変化≫
上記≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、平衡状態(80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持)とした後、吸水前後のそれぞれの外径寸法を株式会社ミツトヨ製のデジタル精密ノギスにて測定し、平衡吸水寸法変化(%)=(吸水後寸法)/(吸水前寸法)×100、を算出した。吸水前とは成形直後の多目的試験片をアルミ袋に保管し、常温に戻った状態を言う。
【0326】
≪射出成形ギヤ成形≫
例Iについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i-A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド6系材料について260℃、ポリアミド66系材料について290℃、ポリオキシメチレン系材料について200℃とし、金型温度80℃、最大射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール3.0、歯数50、歯厚5mm、歯幅15mmのウォームホイールギヤを得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。
【0327】
≪射出成形ギヤ 連続成形性≫
例Iについて、先の≪射出成形ギヤ成形≫の同一成形条件で得られたギヤの任意の10個を選択し、各ギヤの歯先円直径(計25箇所)を測定した。ひとつのギヤの歯先円直径25箇所の平均値を算出し、連続成形したギヤ10個の変動量を算出した。
優:変動量が100μm以下であり、連続成形性に優れると判断した。
良:変動量が100μm超150μm以下であり、連続成形性が良いと判断した。
可:変動量が150μm超200μm以下であり、連続成形性が良くないと判断した。
不良:変動量が200μm超であり、連続成形性に劣ると判断した。
【0328】
≪丸棒成形ギヤ成形≫
例Iについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、引き取り装置と、押出機ダイ部に水冷ゾーンを有した30mm単軸固化押出成形機に供給し、シリンダー温度をポリアミド6系材料について280℃、ポリアミド66系材料について320℃、ポリオキシメチレン系材料について230℃に設定し、直径90mmの丸棒を固化押出した。この際、押出成形体のヒケと、ミクロボイドの発生を抑制するため、押出速度が3mm/分となるよう、引き取り装置をダイ側に向かって駆動させた。得られた丸棒を切削し、≪成形条件・射出成形ギヤ≫と同じ歯車に成形した。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。
【0329】
≪成形条件・ギヤ成形A≫
例IIについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i-A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール0.8、歯数50、歯幅5mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては、鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
【0330】
≪成形条件・ギヤ成形B≫
例IIについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i-A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール0.8、歯数50、歯幅12mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては、鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
【0331】
≪成形条件・ギヤ成形C≫
例IIについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i-A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール1.5、歯数50、歯幅12mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
【0332】
≪アニール処理≫
先の≪射出成形ギヤ成形≫、≪丸棒成形ギヤ成形≫(例Iについて)、又は≪成形条件・ギヤ成形A≫、≪成形条件・ギヤ成形B≫、≪成形条件・ギヤ成形C≫(例IIについて)で得られた平歯車を、ポリアミド系材料については130℃1時間(A条件)、ポリオキシメチレン系材料については140℃5時間(B条件)、エスペック株式会社製GPH-102を用いて加熱処理した。
【0333】
≪ギヤ摺動面の算術平均表面粗さSa≫
先の≪射出成形ギヤ成形≫、≪丸棒成形ギヤ成形≫の後に≪アニール処理≫を行った平歯車(例Iについて)、又は≪成形条件・ギヤ成形A≫、≪成形条件・ギヤ成形B≫、≪成形条件・ギヤ成形C≫で得られた平歯車、又は先の≪アニール処理≫によるアニール後の平歯車(例IIについて)を用いて、1つの平歯車につき任意の5個の歯を切りだし、各歯の表面の面内方向中心部の100μm角の面積について、ISO25178に準拠して表面粗さ(算術平均表面粗さSa)を測定した。また、測定した5個の歯のSa(すなわち各平歯車についてn=5、各歯についてはn=1回の測定)で数平均値を算出した。この時上記表面粗さは、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。
【0334】
≪ギヤの真円度の測定≫
先の≪射出成形ギヤ成形≫、≪丸棒成形ギヤ成形≫後に≪アニール処理≫を行った平歯車の真円度を以下の条件で測定した。
真円度円筒形状測定機((株)ミツトヨ製:ラウンドテストRA-400)を使用して、成形されたギヤの外周形状を測定し、LSC法(最小二乗中心法によって、偏差の二乗和が最小となる円に同心で外接する円と内接する円との半径差を誤差とする方法)で誤差をμmで表し、このギヤの全ピッチ誤差(μm)を真円度とした。この数値が小さいほど、真円度が高いと判断できる。
【0335】
≪ギヤ耐久性試験≫
例Iについて、先の≪射出成形ギヤ成形≫、≪丸棒成形ギヤ成形≫で得られたウォームホイールギヤを、東芝機械(株)製の歯車耐久試験機に、ウォームと樹脂製のウォームホイールギヤを組み合わせて設置した。駆動側をウォームホィールギヤ、従動側をウォームとした。また、噛み合い部分にグリース(協同油脂株式会社製マルテンプ CPL)を塗布し、手で回転させてグリースがウォームとウォームホィールギヤ全体になじむようにした。次に、駆動側の歯車を下記条件で回転させ、歯車が破壊するまでの時間(耐久時間)を測定した。
耐久性試験:温度23℃、湿度50%、トルク25N/m、回転速度30rpm
往路と復路それぞれの1回転後に、10秒の間隔をあけてから、反対方向への回転を実施した。
【0336】
グリース:マルテンプ CPL
基油(エステル系合成油)60~70質量%
増稠剤(ウレア誘導体)10~20質量%
極圧剤(ポリテトラフルオロエチレン)15~25質量%
その他(酸化防止剤)5質量%以下
【0337】
例IIについて、先の≪成形条件・ギヤ成形A≫、≪成形条件・ギヤ成形B≫、≪成形条件・ギヤ成形C≫で得られた平歯車を、東芝機械(株)製の歯車耐久試験機に同材同士の歯車を編み合わせて設置した。片方の歯車を駆動側、もう一方の歯車を従動側とした。次に、駆動側の歯車を下記条件で回転させ、歯車が破壊するまでの時間(耐久時間)を測定した。
耐久性試験A:トルク5N/m、回転数1000rpm
耐久性試験B:トルク5N/m、回転数2000rpm
耐久性試験C:トルク15N/m、回転数1000rpm
耐久性試験D:トルク20N/m、回転数1000rpm
また、耐久性試験Aにおいて、吸水寸法変化を、先の≪吸水寸法変化≫と同様に測定した。
【0338】
≪静音性の評価≫
例IIについて、静音性については、≪ギヤ耐久性試験≫の際に評価した。駆動側の歯車の軸より50mm離れた箇所にマイクを設置し、ギヤ耐久性試験開始後、60分後から1分間、騒音計(JIS C1502準拠)にて騒音レベルを測定し、以下の基準で評価した。
優:最大の騒音レベルが70dB未満
良:最大の騒音レベルが70dB以上75dB未満
可:最大の騒音レベルが75dB以上85dB未満
不良:最大の騒音レベルが85dB以上
【0339】
≪成形条件・丸棒ギヤ成形≫
例IIについて、先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、引き取り装置と、押出機ダイ部に水冷ゾーンを有した30mm単軸固化押出成形機に供給し、シリンダー温度をポリアミド系材料について280℃、ポリオキシメチレン系材料について230℃に設定し、直径60mmの丸棒を固化押出した。この際、押出成形体のヒケと、ミクロボイドの発生を抑制するため、押出速度が3mm/分となるよう、引き取り装置をダイ側に向かって駆動させた。得られた丸棒を切削し、≪成形条件・ギヤ成形A≫と同じ歯車に成形した。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。
【0340】
≪ボイドの観察≫
例IIについて、先の≪成形条件・ギヤ成形A≫で得られたギヤを射出成型ギヤ、≪成形条件・丸棒ギヤ成形≫で得られたギヤを丸棒切削ギヤとし、各々のギヤを歯に対して垂直方向に半分に割断し、その断面を観察し、ミクロボイドの有無を確認した。観察には、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いた。ミクロボイドが観察されたものについては、そのボイドが発生している領域の大きさを測定し、発生領域の円相当径の直径で数値として表した。観察されたボイドのうち最大値を記録した。
【0341】
[例I]
(実施例1~9及び比較例1~12)
樹脂組成物を先の製造条件に記載の方法で得た。これらを上述した評価方法に準拠して成形及び評価した。結果を表4、5に記載する。
【0342】
また、実施例5-1と実施例6-1は得られた成形体を、N2を流した状態で150℃に保持し、72時間静置した。72時間後、加熱を終了し室温に戻るまで放冷を行った。その後、上記記載の評価方法に準拠して評価した。
【0343】
【表4】
【0344】
【表5】
【0345】
表4、5に示された測定結果から明らかなように、本発明に従うギヤは、高い曲げ強度及び曲げ弾性率を示し、また摩擦係数も低い。また、CNFによって強化された成形体は、摩擦係数比がガラスによって強化された成形体よりも低く、摺動性に優れることが分かる。特に、本発明に従うギヤは、射出成形ギヤ、丸棒切削ギヤとしての高い耐久性を示し、ガラスによって強化されたギヤと比べ、同等あるいはそれより優れた耐久性を示す。
【0346】
[例II]
(実施例1~13及び比較例1~4)
ポリアミド系樹脂組成物を表6及び7記載の方法で得た。これらを上述した評価方法に準拠して成形及び評価した。結果を表6及び7に記載する。
【0347】
【表6】
【0348】
【表7】
【0349】
(実施例14~17及び比較例5~8]
ポリアセタール系樹脂組成物を表8記載の方法で得た。これらを上述した評価方法に準拠して成形及び評価した。結果を表8に記載する。
【0350】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0351】
一態様において、本発明に係るギヤは、実用途における連続成形性に優れ、高摺動性と高耐久性の両立が要求される自動車機構部品等の分野において特に有用である。また、一態様において、本発明に係るギヤは、特に耐久性と静音性が要求される自動車機構部品の分野において有用である。
図1
図2