(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】有機性廃棄物の処理システム及び有機性廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20230609BHJP
【FI】
B09B3/65 ZAB
(21)【出願番号】P 2022564572
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017366
【審査請求日】2022-10-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】明田川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】勝又 典亮
(72)【発明者】
【氏名】アッタウィリヤヌパープ パトム
(72)【発明者】
【氏名】島田 義規
(72)【発明者】
【氏名】片山 満
(72)【発明者】
【氏名】大西 章博
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-202798(JP,A)
【文献】特開2004-313929(JP,A)
【文献】特開2002-361293(JP,A)
【文献】特開昭56-108593(JP,A)
【文献】特表2015-526083(JP,A)
【文献】特開平09-168798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/65
C02F 3/28
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いて有機性廃棄物を処理する単一の処理槽と、
前記処理槽の内部の液体を返送させる返送手段と、を備え、
前記処理槽は、
前記有機性廃棄物を前記微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化部と、
前記可溶化部で生成された前記第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成部と、
前記酸生成部で生成された前記第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離部と、
前記固液分離部で分離された前記分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵部と、を有しており、
前記返送手段は、前記固液分離部で分離された前記分離液を前記可溶化部に返送する第1返送手段を有しており、
前記可溶化部の内部には、前記微生物を付着させた付着物と、前記付着物を保持する保持部材と、が設けられて
おり、
前記第1返送手段は、前記分離液を前記付着物に散布する散布手段を有している、有機性廃棄物の処理システム。
【請求項2】
微生物を用いて有機性廃棄物を処理する単一の処理槽と、
前記処理槽の内部の液体を返送させる返送手段と、を備え、
前記処理槽は、
前記有機性廃棄物を前記微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化部と、
前記可溶化部で生成された前記第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成部と、
前記酸生成部で生成された前記第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離部と、
前記固液分離部で分離された前記分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵部と、を有しており、
前記返送手段は、前記固液分離部で分離された前記分離液を前記可溶化部に返送する第1返送手段を有しており、
前記メタン発酵部は、前記固液分離部で分離された前記分離液が移送される第1移送部と、前記メタン発酵菌が貯留された第1貯留部と、を有し、
前記可溶化部は、前記微生物が貯留された第2貯留部と、前記第2貯留部の下方に配置され、前記第2貯留部で可溶化して生成した前記第1処理水を移送する第2移送部と、を有し、
前記可溶化部の内部には、前記微生物を付着させた付着物と、前記付着物を保持する保持部材と、が設けられて
おり、
前記保持部材は、前記第2貯留部と前記第2移送部との間に設けられており、
前記第2移送部の下方と前記酸生成部の下方とが連通しており、
前記酸生成部の上方と、前記固液分離部の上方とが連通しており、
前記固液分離部の上方と、前記第1移送部の上方とが連通しており、
前記第1移送部の下方と、前記第1貯留部の下方とが連通している、有機性廃棄物の処理システム。
【請求項3】
前記メタン発酵部は、前記固液分離部で分離された前記分離液が移送される第1移送部と、前記メタン発酵菌が貯留された第1貯留部と、を有し、
前記可溶化部は、前記微生物が貯留された第2貯留部と、前記第2貯留部の下方に配置され、前記第2貯留部で可溶化して生成した前記第1処理水を移送する第2移送部と、を有し、
前記保持部材は、前記第2貯留部と前記第2移送部との間に設けられており、
前記第2移送部の下方と前記酸生成部の下方とが連通しており、
前記酸生成部の上方と、前記固液分離部の上方とが連通しており、
前記固液分離部の上方と、前記第1移送部の上方とが連通しており、
前記第1移送部の下方と、前記第1貯留部の下方とが連通している、請求項1に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項4】
前記第1返送手段は、前記分離液を前記付着物に散布する散布手段を備えている、請求
項2に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項5】
前記付着物は、三次元構造材料である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項6】
前記第1返送手段は、前記メタン発酵部へ流入する直前の前記分離液を、前記固液分離部の上方から引き抜いて、前記可溶化部に返送する構成である、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項7】
前記メタン発酵菌は、前記微生物の自己造粒物である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項8】
前記返送手段は、前記メタン発酵部の前記第3処理水を前記酸生成部に返送する第2返送手段を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項9】
前記第2返送手段は、前記メタン発酵部の上方に位置する前記第3処理水を前記酸生成部に返送する構成である、請求項
8に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項10】
前記メタン発酵部には、該メタン発酵部の上方へ移動しようとする前記メタン発酵菌の移動を遮る菌遮断機構が設けられており、
前記第2返送手段は、前記菌遮断機構よりも上方に位置する前記第3処理水を前記酸生成部に返送する構成である、請求項
9に記載の有機性廃棄物の処理システム。
【請求項11】
請求項1~
4のいずれか一項に記載した有機性廃棄物の処理システムを用いた処理方法であって、
前記有機性廃棄物を微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化工程と、
前記第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成工程と、
前記第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された前記分離液のうち、所定量の前記分離液を前記可溶化部に返送する分離液返送工程と、
前記可溶化部に返送されていない前記分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵工程と、を備えている、有機性廃棄物の処理方法。
【請求項12】
前記可溶化工程では、前記有機性廃棄物を付着物に付着させた前記微生物によって可溶化して前記第1処理水を生成し、
前記分離液返送工程では、前記分離液を前記可溶化部に返送する際に、該分離液を前記付着物に散布させる、請求項
11に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項13】
前記メタン発酵工程で生成した第3処理水を、酸生成部に返送する溶液返送工程を更に備えている、請求項
11に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機性廃棄物の処理システム及び有機性廃棄物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水汚泥、し尿、食品残渣等の固形有機物を含む有機性廃棄物を、微生物を用いて発酵処理することで、メタンガス又は水素ガス等を生成し、それらを、発電機を用いて電気エネルギーに転換したり、熱交換器を用いて熱エネルギーに転換したりして、有効活用する取り組みが行われている。
【0003】
微生物を用いて有機性廃棄物を発酵処理する方法は、有機性廃棄物を可溶化し、可溶化した有機性廃棄物から有機酸又は酢酸等の酸を生成し、生成した酸から直接又は水素ガスを経由してメタンガスを生成する工程から成り立っている。例えば特許文献1には、複数の処理槽で構成され、各処理槽に、可溶化処理、酸生成、メタン発酵を行う微生物をそれぞれ分離して優占種となるように配置し、シーケンス処理を行う高負荷及び高速メタン発酵システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1開示されたシステムでは、複数の処理槽で構成しているので、各処理槽を接続する配管又は処理槽間の送液機器が多く必要となり、システムが複雑となる。そのため、処理する有機性廃棄物の性状又はシステムを適用する場所によっては、各処理槽を接続する配管又は処理槽間の送液機器の影響で、システムが大型化し、設備費及び運転管理費が大きくなるおそれがある。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高負荷及び高速メタン発酵システムを単一の処理槽で構築した有機性廃棄物の処理システム及び有機性廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る有機性廃棄物の処理システムは、微生物を用いて有機性廃棄物を処理する単一の処理槽と、前記処理槽の内部の液体を返送させる返送手段と、を備え、前記処理槽は、前記有機性廃棄物を前記微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化部と、前記可溶化部で生成された前記第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成部と、前記酸生成部で生成された前記第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離部と、前記固液分離部で分離された前記分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵部と、を有しており、前記返送手段は、前記固液分離部で分離された前記分離液を前記可溶化部に返送する第1返送手段を有しており、前記可溶化部の内部には、前記微生物を付着させた付着物と、前記付着物を保持する保持部材と、が設けられており、前記第1返送手段は、前記分離液を前記付着物に散布する散布手段を有しているものである。
【0008】
本開示に係る有機性廃棄物の処理方法は、上記有機性廃棄物の処理システムを用いた処理方法であって、前記有機性廃棄物を微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化工程と、前記第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成工程と、前記第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で分離された前記分離液のうち、所定量の前記分離液を前記可溶化部に返送する分離液返送工程と、前記可溶化部に返送されていない前記分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、固液分離部で分離された分離液を可溶化部に返送する返送手段を備えているので、高負荷及び高速メタン発酵システムを単一の処理槽で構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る有機性廃棄物の処理システムの構成を示した模式図である。
【
図2】実施の形態1に係る有機性廃棄物の処理方法を示したフローチャートである。
【
図3】実施の形態2に係る有機性廃棄物の処理システムの構成を示した模式図である。
【
図4】実施の形態3に係る有機性廃棄物の処理システムの構成を示した模式図である。
【
図5】実施の形態3に係る有機性廃棄物の処理方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、各図に記載の構成について、その形状、大きさ、及び配置等は、適宜変更することができる。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100の構成を示した模式図である。本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100は、
図1に示すように、微生物を用いて有機性廃棄物7を処理する単一の処理槽1と、処理槽1の内部の液体を返送させる第1返送手段2と、を備えている。
【0013】
処理槽1は、可溶化部3と、酸生成部4と、固液分離部5と、メタン発酵部6と、を内部に有している。可溶化部3では、有機性廃棄物7を微生物によって可溶化し、第1処理水30を生成する。酸生成部4では、可溶化部3で生成された第1処理水30から酸を生成し、第2処理水40を生成する。固液分離部5では、酸生成部4で生成された第2処理水40を固形分50と分離液51とに分離する。メタン発酵部6では、固液分離部5で分離された分離液51をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水62とガス63とに転換させる。このメタン発酵部6は、固液分離部5で分離された分離液51が移送される第1移送部60と、メタン発酵菌が貯留された第1貯留部61と、を有している。
【0014】
可溶化部3と酸生成部4は、処理槽1の内底面から上方に向かって立ち上がる第1分離壁10によって区画されている。可溶化部3と酸生成部4は、第1分離壁10の上方で連通している。酸生成部4と固液分離部5は、処理槽1の内底面から上方に向かって立ち上がる第2分離壁11によって区画されている。酸生成部4と固液分離部5は、第2分離壁11の上方で連通している。固液分離部5と第1移送部60は、処理槽1の内底面から上方に向かって立ち上がる第3分離壁12によって区画されている。固液分離部5と第1移送部60とは、第3分離壁12の上方で連通している。第1移送部60と第1貯留部61は、処理槽1の天面から下方に向かって突き出す第4分離壁13によって区画されている。第1移送部60と第1貯留部61とは、第4分離壁13の下方で連通している。
【0015】
可溶化部3では、処理すべき有機性廃棄物7が投入され、該有機性廃棄物7が微生物により加水分解されて固形分の一部が溶解し、第1処理水30が形成される。微生物とは、有機性廃棄物7を加水分解する加水分解菌である。第1処理水30は、主に、加水分解菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分、及び分解された有機性廃棄物7の可溶化成分で構成される。なお、可溶化部3では、第1処理水30を撹拌する第1撹拌機構31が設けられている。これにより、可溶化部3での可溶化を効率的に行うことができる。第1撹拌機構31は、一例として撹拌機であるが、液体を撹拌できるものであれば他の構成でもよい。
【0016】
酸生成部4では、第1処理水30が第1分離壁10を越流して流入し、主に有機性廃棄物7の可溶化成分から有機酸又は酢酸などの酸を生成する酸生成菌により、第2処理水40が形成される。第2処理水40は、主に、酸生成菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分、及び酸で構成されており、その他に、加水分解菌、及び有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。有機性廃棄物7の可溶化成分とは、酸生成部4で酸にならなかった成分である。なお、酸生成部4では、第2処理水40を撹拌する第2撹拌機構41が設けられている。これにより、酸生成部4での酸生成を効率的に行うことができる。第2撹拌機構41は、一例として撹拌機であるが、液体を撹拌できるものであれば他の構成でもよい。
【0017】
固液分離部5では、第2処理水40が第2分離壁11を越流して流入し、固形分50と分離液51とに分離される。固液分離部5での分離は、送液機器の削減の観点から、固形分50の重力沈降を利用して、下部に固形分50が形成され、上澄みに分離液51が形成されるようにすることが望ましい。なお、固液分離部5では、第2処理水40を固形分50と分離液51とに分離できればよく、他の分離方法を用いてもよい。例えば、固液分離部5として公知技術となっているろ過膜を使用し、送液機器を用いて第2処理水40をろ過膜に通水して固形分50と分離液51に分離してもよい。固形分50は、主に、酸生成菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分から構成されており、その他に、加水分解菌も含まれる。分離液51は、主に酸から構成され、その他に、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。有機性廃棄物7の可溶化成分とは、酸生成部4で酸にならなかった成分である。
【0018】
メタン発酵部6では、第3分離壁12を越流して第1移送部60に流入した分離液51が、第1移送部60の下部から第1貯留部61の下部に流入する。分離液51は、主に酸からメタンガス等のガスを生成するメタン発酵菌により処理されて、第3処理水62とガス63とに転換される。第3処理水62は、第1貯留部61の上部から処理槽1の外部に排出される(
図1の矢印A)。ガス63は、第1貯留部61の上部から処理槽1の外部に排出され(
図1の矢印B)、図示省略のガス貯留部に貯留されて発電又は熱源として利用される。なお、メタン発酵菌は、自己造粒物であるグラニュールを利用することが望ましい。有機性廃棄物7の処理システム100は、メタン発酵菌としてグラニュールを利用することで、メタン発酵部6のサイズを小さくすることができ、システム全体の大型化を抑制できる。
【0019】
メタン発酵部6では、第3処理水62を撹拌する第3撹拌機構64が設けられている。第1貯留部61でメタン発酵を効率的に行うためである。第3撹拌機構64は、第1貯留部61の上方と下方とを繋ぎ、第3処理水62が流通する循環配管部64aと、該循環配管部64aを通じて第3処理水62を第1貯留部61の上方から引き抜き、引き抜いた第3処理水62を第1貯留部61の下方に返送させるポンプ64bと、を有している。第3撹拌機構64は、処理槽1の外部に設けられている。つまり、第3撹拌機構64は、循環配管部64aを介して第3処理水62を循環させることで、第1貯留部61の第3処理水62を撹拌させる構成である。なお、循環配管部64aは、第1貯留部61の上方と、第1移送部60とを繋ぐ構成でもよい。また、第3撹拌機構64は、図示した構成に限定されず、液体を撹拌できるものであれば他の構成でもよい。
【0020】
第1返送手段2は、固液分離部5で第2処理水40から分離した分離液51を可溶化部3に返送するものである。第1返送手段2は、固液分離部5と可溶化部3とを繋ぎ、分離液51が流通する第1返送配管部20と、該第1返送配管部20を通じて分離液51を引き抜き、引き抜いた分離液51を可溶化部3に所定の量だけ返送するポンプ21と、を有している。
【0021】
上記したように、可溶化部3では、加水分解菌である微生物の加水分解により、有機性廃棄物7が可溶化されて、第1処理水30が形成される。第1処理水30は、主に、加水分解菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分、及び分解された有機性廃棄物7の可溶化成分で構成される。可溶化成分は、加水分解菌の種類に依存した多種多様な溶解性有機物であり、例えば、タンパク質、糖、脂質などが含まれる。溶解性有機物は、低分子量の有機物である。この有機性廃棄物7から可溶化成分への加水分解は、第1処理水30中に含まれる可溶化成分の濃度が高くなると効率が低下し、加水分解菌による有機性廃棄物7の分解が進行しにくくなる。そのため、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、固液分離部5から可溶化部3に所定量の分離液51を返送することで第1処理水30中の可溶化成分の濃度を調整することとしている。上述したように、分離液51は、主に、酸生成部4において生成された酸で構成されている。つまり、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、分離液51を可溶化部3に返送することで、希釈する形で第1処理水30中の可溶化成分を酸生成部4に押し流すことができ、第1処理水30中の可溶化成分の濃度を調整して、有機性廃棄物7から可溶化成分へ加水分解する効率の低下を抑制できる。
【0022】
従来技術のように、複数の処理槽で構成した処理システムでは、各処理槽を接続する配管又は処理槽間の送液機器を設置できる。送液機器とは、例えばポンプ等である。送液機器は、例えば、可溶化槽へ上水又は処理水などを加えることができる送液機器と、可溶化槽から酸生成槽への送液機器である。この従来のシステムでは、送液機器への投入電力を調整することにより、可溶化槽へ送られる上水又は処理水などの送液量を、可溶化槽から酸生成槽へ送液する送液量よりも大きくすることで、可溶化槽の容積に裕度を設けておけば可溶化槽における可溶化成分の濃度を調整可能である。
【0023】
しかしながら、単一の処理槽で構成した処理システムでは、従来技術のように、各処理槽を接続する配管又は処理槽間の送液機器が存在しない。そのため、このシステムでは、可溶化部3へ上水又は処理水などを加えると、その加えた容積分だけ、上水又は処理水が可溶化部3と連通している酸生成部4、固液分離部5、及びメタン発酵部6まで連続して流れていき、可溶化部3、酸生成部4、及びメタン発酵部6の各区間における処理時間に影響を及ぼすことになる。つまり、可溶化成分の濃度調整と各区画の処理時間は、相互に影響し合う。よって、このシステムでは、可溶化成分の濃度調整と有機性廃棄物7の処理時間の確保を両立することができず、有機性廃棄物7の処理が破綻するおそれがある。
【0024】
一方、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、固液分離部5の分離液51を可溶化部3へ返送するので、可溶化部3、酸生成部4、及び固液分離部5での循環となり、分離液51の量の増減が、可溶化部3、及び酸生成部4への処理時間に直接的に影響されない。なお、分離液51は、主に酸で構成されるが、一部、酸生成部4で酸にならなかった有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。そのため、分離液51では、可溶化成分を含まない上水又は処理水などと比べると、有機性廃棄物7から可溶化成分への加水分解の効率の低下を抑制する効果が小さくなる。しかし、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、分離液51を可溶化部3へ返送することで可溶化成分の濃度を調整するので、十分に加水分解の効率の低下を抑制でき、単一の処理槽1を構成したシステムの確立を実現し得る。
【0025】
なお、第1返送手段2は、分離液51が第1移送部60へ流入する直前の位置であり、かつ固液分離部5の上方から分離液51を引き抜いて可溶化部3へ返送する構成とすることが望ましい。固液分離部5では、酸生成部4で酸にならなかった有機性廃棄物7の可溶化成分の一部が酸に変換される。そのため、固液分離部5の末端、すなわち、分離液51が第1移送部60へ流入する直前の位置から分離液51を引き抜くことで、分離液51中における酸生成部4で酸にならなかった有機性廃棄物7の可溶化成分の量を減らすことができ、有機性廃棄物7から可溶化成分への加水分解の効率の低下を抑制する効果が得られやすくなる。また、固液分離部5の上方から引き抜くべき理由は、固液分離部5の上方でないと固形分50が第1返送配管部20に流入する可能性があり、第1返送配管部20が固形分50により閉塞するおそれがあるためである。
【0026】
また、第1処理水30、第2処理水40、及び第3処理水62の生成において、第1処理水30の生成が最も律速となることが分かっている。そのため、処理槽1に投入する有機性廃棄物7の量は、可溶化部3の有効容積当たりの有機性廃棄物7の重量、又は有機性廃棄物7中の有機物量の指標であるCOD(Chemical Oxygen Demand)量で設定することが望ましい。処理槽1に投入する有機性廃棄物7の量は、有機性廃棄物7の種類によって決まるため、特に限定はされないが、有機性廃棄物7の重量であれば20kg/m3・日以上で、且つ200kg/m3・日以下が好ましく、更に言えば50kg/m3・日以上で、且つ100kg/m3・日以下が、より望ましい。上記の範囲よりも有機性廃棄物7の重量が小さいと、投入する有機性廃棄物7の量に対し、システムが過剰に大型化するおそれがある。一方、上記の範囲よりも有機性廃棄物7の重量が大きいと、処理槽1で有機性廃棄物7を適切に処理できず、処理槽1の外部に排出される第3処理水62に未分解の可溶化成分又は酸が含まれるとともに、固形分50の量が増加するおそれがある。また、COD量の場合も、同様の理由により、5kg/m3・日以上で、且つ40kg/m3・日以下が好ましく、更に言うと12.5kg/m3・日以上で、且つ25kg/m3・日以下が、より望ましい。
【0027】
可溶化部3において調整する第1処理水30中の可溶化成分の濃度は、有機性廃棄物7の種類又は加水分解菌の種類に応じて、適宜、設定することができる。但し、当該濃度は、システムの立ち上げ時などに実施する微生物の馴養において把握し、設定することが望ましい。馴養による可溶化成分の濃度設定の具体的な内容は、下記の通りである。
【0028】
メタン発酵部6のメタン発酵菌は、酸生成部4において酸生成菌により生成される酸がないと増殖できない。また、酸生成菌は、可溶化部3において加水分解菌により有機性廃棄物7から生成される可溶化成分がないと増殖できない。そのため、加水分解菌の馴養から開始する。先ずは、ラボの設備で予め培養する等の対応により用意した加水分解菌を可溶化部3に投入し、有機性廃棄物7を規定の投入量よりも小さい量で可溶化部3に投入する。有機性廃棄物7の投入量を規定の投入量に向けて徐々に増加させていく過程で、加水分解の進行程度を、有機性廃棄物7の投入量、及び第1処理水30中における「分解されずに残存した有機性廃棄物7の固形分」の重量で把握し、第1処理水30中の可溶化成分の濃度を測定する。これにより、加水分解が効率的に進行する第1処理水30中の可溶化成分の濃度を把握することができる。このときの可溶化成分の濃度は、タンパク質又は糖などの特定の物質を直接、測定しても良い。なお、CODであれば、加水分解菌の種類に依存した多種多様な溶解性有機物を統合して、可溶化成分の濃度の指標として利用することができるため、CODでの評価が望ましい。このようにすることで、第1処理水30中の可溶化成分の濃度が設定値となるように、可溶化部3へ返送される分離液51の返送量を調整することができる。
【0029】
なお、第1処理水30中の可溶化成分の濃度の設定は、実際に、可溶化部3へ返送される分離液51の返送量を調整しながら、加水分解の進行程度を、有機性廃棄物7の投入量、及び第1処理水30中の「分解されずに残存した有機性廃棄物7の固形分」の重量で把握することで間接的に行うことも可能である。第1返送手段2の稼働は、連続的に実施してもよいし、加水分解菌による加水分解の進行に応じた第1処理水30中の可溶化成分の濃度の増加タイミングに合わせて、間欠的に実施してもよい。
【0030】
また、微生物の種類は、特に限定されないが、例えば優占種となる微生物を利用すれば良い。優占種となる微生物は、微生物の馴養において、有機性廃棄物7の種類に応じて、その有機性廃棄物7を基質とすることができる微生物種だからである。具体的には、可溶化部3では、有機性廃棄物7の種類に応じて、その有機性廃棄物7を基質とすることができる加水分解菌が増殖し優占種となる。続いて、酸生成部4では、有機性廃棄物7の種類に応じて、加水分解菌が有機性廃棄物7から生成する可溶化成分を基質とすることができる酸生成菌が優占種となる。メタン発酵部6では、有機性廃棄物7の種類に応じて、酸生成菌が可溶化成分から生成する酸を基質とすることができるメタン発酵菌が優占種となる。
【0031】
図2は、実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理方法を示したフローチャートである。本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理方法は、上記した処理システム100を用いたものである。有機性廃棄物7の処理方法は、可溶化工程(ステップS1)と、酸生成工程(ステップS2)と、固液分離工程(ステップS3)と、分離液返送工程(ステップS4)と、メタン発酵工程(ステップS5)と、を備えている。
【0032】
可溶化工程(ステップS1)では、可溶化部3に投入した処理すべき有機性廃棄物7を微生物によって可溶化し、第1処理水30を生成する。具体的には、可溶化部3の加水分解菌により有機性廃棄物7を加水分解して有機性廃棄物7中の固形分の一部を溶解させることで、第1処理水30を形成する。第1処理水30は、主に、加水分解菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分、及び分解された有機性廃棄物7の可溶化成分から構成される。
【0033】
次に、酸生成工程(ステップS2)では、第1分離壁10を越流して酸生成部4に流入した第1処理水30から酸を生成し、第2処理水40を生成する。具体的には、主に有機性廃棄物7の可溶化成分から有機酸又は酢酸などの酸を生成する酸生成菌により、第2処理水40が形成される。第2処理水40は、主に、酸生成菌、分解されなかった有機性廃棄物7の固形分、及び酸から構成され、その他、加水分解菌、及び有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。可溶化成分は、酸生成部4で酸にならなかった成分である。
【0034】
次に、固液分離工程(ステップS3)では、第2分離壁11を越流して固液分離部5に流入した第2処理水40を、固形分50と分離液51に分離する。固形分50は、主に酸生成菌、及び分解されなかった有機性廃棄物7の固形分から構成され、その他、加水分解菌も含まれる。分離液51は、主に酸から構成され、その他、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。
【0035】
次に、分離液返送工程(ステップS4)では、固液分離工程で分離された分離液51のうち所定量の分離液51を可溶化部3に返送する。これにより、第1処理水30中の可溶化成分の濃度を調整することができ、有機性廃棄物7から可溶化成分への加水分解の効率の低下を抑制できる。
【0036】
メタン発酵工程(ステップS5)は、分離液返送工程(ステップS4)と並行して行われる。メタン発酵工程(ステップS5)では、第3分離壁12を越流してメタン発酵部6の第1貯留部61に流入した分離液51を、主に酸からメタンガス等のガスを生成するメタン発酵菌により処理させて、第3処理水62とガス63とに転換させる。
【0037】
以上のように、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、微生物を用いて有機性廃棄物7を処理する単一の処理槽1と、処理槽1の内部の液体を返送させる第1返送手段2と、を備えている。処理槽1は、有機性廃棄物7を微生物によって可溶化し、第1処理水30を生成する可溶化部3と、可溶化部3で生成された第1処理水30から酸を生成し、第2処理水40を生成する酸生成部4と、酸生成部4で生成された第2処理水40を固形分50と分離液51とに分離する固液分離部5と、固液分離部5で分離された分離液51をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水62とガス63とに転換させるメタン発酵部6と、を有している。第1返送手段2は、固液分離部5で分離された分離液51を可溶化部3に返送する構成である。
【0038】
つまり、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、固液分離部5の分離液51を可溶化部3へ返送するので、可溶化部3、酸生成部4、及び固液分離部5での循環となり、分離液51の量の増減が、可溶化部3及び酸生成部4の処理時間に直接的に影響されることがない。そして、可溶化部3へ返送した分離液51で、可溶化成分の濃度を調整することができるので、加水分解の効率の低下を抑制できる。よって、本実施の形態1に係る有機性廃棄物7の処理システム100では、複数の処理槽で構成する必要があった高負荷及び高速メタン発酵システムを、単一の処理槽1で構築できるので、システム全体を小型化でき、設備費及び運転管理費を抑制できる。
【0039】
実施の形態2.
次に、
図3を参照して、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101を説明する。
図3は、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101の構成を示した模式図である。なお、実施の形態1で説明した有機性廃棄物7の処理システム100と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0040】
本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、
図3に示すように、可溶化部3の内部に、微生物である加水分解菌を付着させた付着物34と、付着物34を保持する保持部材35と、が設けられている。可溶化部3は、微生物である加水分解菌が貯留された第2貯留部32と、第2貯留部32の下方に配置され、第2貯留部32で可溶化して生成した第1処理水30を移送する第2移送部33と、を有している。保持部材35は、第2貯留部32と第2移送部33との間に設けられており、付着物34を保持すると共に、第2貯留部32と第2移送部33とを区画する。可溶化部3と酸生成部4とは、処理槽1の天面から下方に向かって突き出す第5分離壁14によって区画されている。第2移送部33と酸生成部4は、第5分離壁14の下方で連通している。その他の点については、上記実施の形態1の有機性廃棄物7の処理システム100と同じ構成である。
【0041】
本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、有機性廃棄物7を第2貯留部32に投入することで、付着物34の加水分解菌が有機性廃棄物7を加水分解する。第1撹拌機構31は、第2貯留部32の内部を撹拌できるように設置されている。付着物34は、保持部材35によって第2貯留部32の内部で保持されている。
【0042】
第2貯留部32では、加水分解菌により有機性廃棄物7が加水分解されて固形分の一部が溶解し、第1処理水30が形成される。保持部材35は、固形成分を透過させないが、液状化した可溶化成分を透過させる性質を持つ構成とする。そのため、第1処理水30は、保持部材35により、主に、分解された有機性廃棄物7の可溶化成分から構成されて、第2移送部33に流入する。つまり、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、実施の形態1の構成と異なり、加水分解菌が付着した付着物34、及び分解されなかった有機性廃棄物7の固形分が、保持部材35により第2貯留部32に残留する。なお、第2移送部33に流入した第1処理水30は、酸生成部4へ流入する。
【0043】
酸生成部4では、第2移送部33から第1処理水30が流入し、主に有機性廃棄物7の可溶化成分から有機酸又は酢酸などの酸を生成する酸生成菌により、第2処理水40が形成される。本実施の形態2における第2処理水40は、実施の形態1と異なり、主に、酸生成菌及び酸から構成され、その他、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。可溶化成分は、酸生成部4で酸にならなかった成分である。
【0044】
固液分離部5では、第2処理水40が第2分離壁11を越流して流入し、固形分50と分離液51に分離される。本実施の形態2における固形分50は、実施の形態1と異なり、主に酸生成菌で構成される。また、分離液51は、主に酸から構成され、その他、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。可溶化成分は、酸生成部4で酸にならなかった成分である。分離液51は、第3分離壁12を越流し、メタン発酵部6にてメタン発酵菌により処理されて、第3処理水62とガス63とに転換される。
【0045】
本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、加水分解菌が付着した付着物34が保持部材35によって第2貯留部32の内部で保持されるため、加水分解菌が第1処理水30に含まれて可溶化部3から流出することを防ぐことができる。したがって、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101は、安定した加水分解菌量を維持しやすく、より効率的に加水分解を進行させることができ、更に、流出する加水分解菌量を考慮する必要がないことから、実施の形態1の構成に比べて可溶化部3を小型化できる。
【0046】
本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、分離液51が第1返送手段2により第2貯留部32に所定の量だけ返送され、第1処理水30中の可溶化成分の濃度が調整される。分離液51の返送量の設定に関しては、実施の形態1と同様に、有機性廃棄物7の種類又は加水分解菌の種類に応じて、適宜、設定することができる。なお、分離液51の返送量の設定は、システムの立ち上げ時などに実施する微生物の馴養において把握し、設定することが望ましい。
【0047】
本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、加水分解の進行程度を、有機性廃棄物7の投入量、及び「分解されずに第2貯留部32に残存した有機性廃棄物7の固形分」の重量で把握し、第1処理水30中の可溶化成分の濃度を測定する。これにより、加水分解が効率的に進行する第1処理水30中の可溶化成分の濃度を把握することができる。このときの可溶化成分の濃度は、タンパク質又は糖などの特定の物質を、直接測定しても良い。但し、CODであれば、加水分解菌の種類に依存した多種多様な溶解性有機物を統合して、可溶化成分の濃度の指標として利用することができるため、CODでの評価が望ましい。
【0048】
このようにすることで、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理システム101では、第1処理水30中の可溶化成分の濃度が設定値となるように分離液51の返送量を調整することができる。なお、第1処理水30中の可溶化成分の濃度は、実際に、可溶化部3へ返送される分離液51の返送量を調整しながら、加水分解の進行程度を、有機性廃棄物7の投入量、及び「分解されずに第2貯留部32に残存した有機性廃棄物7の固形分」の重量で把握することで間接的に設定することも可能である。
【0049】
なお、第1返送手段2は、分離液51を付着物34に散布する散布手段22を備えていることが望ましい。散布手段22は、例えば散水ノズルである。これにより、付着物34の表面に吸着する可溶化成分を第2移送部33へ効率的に流すことができ、付着物34に付着した加水分解菌による加水分解の効率の低下を抑制できる。
【0050】
保持部材35は、第1処理水30を第2移送部33に流入させ、且つ、付着物34及び分解されなかった有機性廃棄物7の固形分を、第2貯留部32に残留させることができるものであればよい。保持部材35は、例えば市販のフィルタ又はメッシュを用いることができる。孔径に関しては、0.5mm以上で、5mm以下が好ましく、1mm以上で3mm以下であればより望ましい。保持部材35は、孔径が当該範囲よりも小さいと有機性廃棄物7及び付着物34による目詰まりが発生しやすくなる。一方、保持部材35は、孔径が当該範囲よりも大きいと可溶化していない有機性廃棄物7の固形分が第2移送部33に流出するリスクが高くなる。
【0051】
付着物34は、微生物である加水分解菌を保持できればよい。付着物34は、担体又はストローなど、微生物の保持が可能な公知の材料を用いることができる。但し、付着物34は、微生物を保持できる表面性を大きくとることが望ましいため、例えば多孔質材料等の三次元構造材料であることが望ましい。付着物34のサイズは、保持部材35の孔径に応じて、保持部材35の孔径よりも小さいサイズの物を利用すれば良い。
【0052】
次に、
図2を参照して、本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理方法を説明する。本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理方法は、上記した処理システム101を用いたものである。本実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理方法は、上記実施の形態1の構成と同様、可溶化工程(ステップS1)と、酸生成工程(ステップS2)と、固液分離工程(ステップS3)と、分離液返送工程(ステップS4)と、メタン発酵工程(ステップS5)と、を備えている。
【0053】
可溶化工程(ステップS1)では、可溶化部3に投入した処理すべき有機性廃棄物7を付着物34に付着させた微生物によって可溶化し、第1処理水30を生成する。具体的には、付着物34に付着させた加水分解菌により有機性廃棄物7を加水分解して有機性廃棄物7中の固形分の一部を溶解させることで、第1処理水30を形成する。加水分解菌が付着した付着物34は、保持部材35によって第2貯留部32の内部で保持される。そのため、加水分解菌が第1処理水30に含まれて可溶化部3から流出することを防ぐことができる。第1処理水30は、主に、分解された有機性廃棄物7の可溶化成分から構成される。
【0054】
次に、酸生成工程(ステップS2)では、第1分離壁10を越流して酸生成部4に流入した第1処理水30から酸を生成し、第2処理水40を生成する。具体的には、主に有機性廃棄物7の可溶化成分から有機酸又は酢酸などの酸を生成する酸生成菌により、第2処理水40が形成される。第2処理水40は、主に、酸生成菌及び酸から構成され、その他、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。可溶化成分は、酸生成部4で酸にならなかった成分である。
【0055】
次に、固液分離工程(ステップS3)では、第2分離壁11を越流して固液分離部5に流入した第2処理水40を、固形分50と分離液51に分離する。固形分50は、主に酸生成菌で構成される。分離液51は、主に酸から構成され、その他、有機性廃棄物7の可溶化成分も含まれる。
【0056】
次に、分離液返送工程(ステップS4)では、固液分離工程で分離された分離液51のうち、所定量の分離液51を可溶化部3に返送する。これにより、第1処理水30中の可溶化成分の濃度を調整することができ、有機性廃棄物7から可溶化成分への加水分解の効率の低下を抑制できる。また、分離液返送工程(ステップS4)では、分離液51を可溶化部3に返送する際に、散布手段22を用いて、分離液51を付着物34に散布させる。これにより、付着物34の表面に吸着する可溶化成分を第2移送部33へ効率的に流すことができ、付着物34に付着した加水分解菌による加水分解の効率の低下を抑制できる。
【0057】
メタン発酵工程(ステップS5)は、分離液返送工程(ステップS4)と並行して行われる。メタン発酵工程(ステップS5)では、可溶化部3に返送されていない分離液51であって、第3分離壁12を越流してメタン発酵部6の第1貯留部61に流入した分離液51を、主に酸からメタンガス等のガスを生成するメタン発酵菌により処理させて、第3処理水62とガス63とに転換させる。
【0058】
実施の形態3.
次に、
図4を参照して、本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102を説明する。
図4は、本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102の構成を示した模式図である。なお、実施の形態1及び2で説明した有機性廃棄物7の処理システム100及び101と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0059】
本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102では、
図4に示すように、上記実施の形態2の有機性廃棄物7の処理システム101の構成に加えて、メタン発酵部6の第3処理水62を酸生成部4に返送する第2返送手段8を有することを特徴としている。第2返送手段8は、循環配管部64aから分岐し、酸生成部4の下方に接続された第2返送配管部80と、第2返送配管部80に設けられた電磁弁81及び流量調節弁82と、を有している。第2返送配管部80は、循環配管部64aに設けられた分岐部64cを介して、循環配管部64aに接続されている。電磁弁81には、タイマー83が接続されている。その他の点については、上記実施の形態2の有機性廃棄物7の処理システム101と同じ構成である。
【0060】
本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102では、第1返送手段2によって固液分離部5の分離液51を可溶化部3へ返送することに並行して、第2返送手段8によってメタン発酵部6の第3処理水62を酸生成部4へ返送する。第3処理水62は、第3撹拌機構64を利用し、第2返送配管部80を通じてメタン発酵部6から酸生成部4へ返送される。そのため、追加で送液機器を設ける必要がない。なお、メタン発酵部6の第3処理水62を酸生成部4へ返送する手段は、第3撹拌機構64を利用した構成に限定されず、他の形態でもよい。
【0061】
第3撹拌機構64は、基本的には連続的に稼働し、メタン発酵部6の第3処理水62を撹拌している。そのため、第3処理水62の返送時間及び返送タイミングは、タイマー83により制御された電磁弁81が開く時間、及び開閉のタイミングで制御される。また、第3処理水62の返送流量は、流量調節弁82で調整される。
【0062】
ところで、実施の形態1及び実施の形態2では、単一の処理槽1を用いており、処理槽1の内部が可溶化部3、酸生成部4、固液分離部5、及びメタン発酵部6に区画されている。そのため、メタン発酵部6における分離液51の処理時間は、可溶化部3で生成する第1処理水30中の有機性廃棄物7の可溶化成分の量で決まる。つまり、可溶化部3へ投入される有機性廃棄物7の投入量と、メタン発酵部6における分離液51の処理時間とが関係性を有し、それぞれを独立して管理することはできない。
【0063】
メタン発酵部6における分離液51の処理時間は、適切な値に調整することで、メタン発酵が効率的に進行する。しかし、上記したように、可溶化部3へ投入される有機性廃棄物7の投入量と、メタン発酵部6における分離液51の処理時間とは、関係性を有している。この場合、有機性廃棄物7の投入量の増減が大きい場合などシステム導入先の運用事情によっては、有機性廃棄物7の投入量の増減に応じてメタン発酵部6における分離液51の処理時間も増減することで、適切な処理時間を確保できなくなるおそれがある。
【0064】
一方、本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102では、第1返送手段2によって固液分離部5の分離液51を可溶化部3へ返送することに並行して、第2返送手段8によってメタン発酵部6の第3処理水62を酸生成部4へ返送することが可能である。また、酸生成部4、固液分離部5、及びメタン発酵部6が連通している。これにより、酸生成部4へ返送される第3処理水62の返送量を調整することができるので、メタン発酵部6における分離液51の処理時間を調整することができる。よって、有機性廃棄物7の投入量と独立して、メタン発酵部6における分離液51の処理時間を適切な値に調整することができ、メタン発酵をさらに効率的に進行させ、システムの運転を安定化させることができる。
【0065】
メタン発酵部6における分離液51の処理時間は、有機性廃棄物7の種類、及び分離液51の種類に応じて、適宜、設定される。なお、当該処理時間は、特に限定されないが、例えば1日以上で、且つ10日以下が好ましく、3日以上で、且つ6日以下がより望ましい。上記の範囲よりも処理時間が小さいと、分離液51が十分にメタン発酵されず、ガス63の量が減少し、処理槽1の外部に排出される第3処理水62にガス63になり得る成分が含まれてしまうおそれがある。一方、上記の範囲よりも処理時間が大きいと、メタン発酵菌の増殖が不十分となり、分離液51が十分にメタン発酵されず、ガス63の量が減少し、処理槽1の外部に排出される第3処理水62にガス63になり得る成分が含まれてしまうおそれがある。
【0066】
流量調節弁82で調整する第3処理水62の返送流量は、第2返送配管部80の配管径に応じて、適宜、設定される。当該返送流量は、特に限定されないが、一般的に、第2返送配管部80の配管内の流速が1以上3m/s以下になるように設定することが望ましい。また、タイマー83により制御する電磁弁81が開く時間も、第3処理水62の返送流量に応じて、メタン発酵部6における分離液51の処理時間が上記の範囲になるように、決定すればよい。開閉のタイミングは、均等に1時間に1回など適宜、設定される。
【0067】
なお、メタン発酵部6の第3処理水62を酸生成部4へ返送する手段は、メタン発酵部6の上方の第3処理水62を利用することが望ましい。メタン発酵部6では、下方から上方にかけてメタン発酵菌の濃度が低下する。そのため、上方のメタン発酵菌でないと、メタン発酵菌が第2返送配管部80を介して酸生成部4へ流入し、メタン発酵菌が死滅するリスクが高くなる。また、メタン発酵部6には、バッフルやメッシュ等の菌遮断機構65を設けることが望ましい。菌遮断機構65を設けることにより、メタン発酵菌が第2返送配管部80を介して酸生成部4へ流入することを抑制できる。但し、菌遮断機構65は、必ずしも設ける必要はなく、省略してもよい。
【0068】
図5は、実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理方法を示したフローチャートである。本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理方法は、上記した処理システム102を用いたものである。実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理方法は、溶液返送工程(ステップS6)を備えている点に以外、上記した実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理方法と同じである。そのため、実施の形態2に係る有機性廃棄物7の処理方法で説明した可溶化工程(ステップS1)、酸生成工程(ステップS2)、固液分離工程(ステップS3)、分離液返送工程(ステップS4)、メタン発酵工程(ステップS5)の説明は、省略する。
【0069】
溶液返送工程(ステップS6)では、メタン発酵工程(ステップS5)で分離液51を第3処理水62とガス63とに転換させた後、分離液返送工程(ステップS4)と並行して行われる。溶液返送工程(ステップS6)では、メタン発酵工程(ステップS5)で生成した第3処理水62を酸生成部4へ返送する。これにより、メタン発酵部6における分離液51の処理時間を調整することができるので、有機性廃棄物7の投入量と独立して、メタン発酵部6における分離液51の処理時間を適切な値に調整することができ、メタン発酵をさらに効率的に進行させ、システムの運転を安定化させることができる。
【0070】
なお、図示することは省略したが、本実施の形態3に係る有機性廃棄物7の処理システム102及び有機性廃棄物7の処理方法の特徴である第2返送手段8は、実施の形態1の構成に適用してもよい。
【0071】
以上、有機性廃棄物7の処理システム(100~102)及び有機性廃棄物7の処理方法を実施の形態に基づいて説明したが、上述した実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば有機性廃棄物7の処理システム(100~102)は、図示した構成に限定されるものではなく、構成要素を一部省略してもよいし、他の構成要素を含んでもよい。要するに、有機性廃棄物7の処理システム(100~102)及び有機性廃棄物7の処理方法は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更及び応用のバリエーションの範囲を含むものである。
【符号の説明】
【0072】
1 処理槽、2 第1返送手段、3 可溶化部、4 酸生成部、5 固液分離部、6 メタン発酵部、7 有機性廃棄物、8 第2返送手段、10 第1分離壁、11 第2分離壁、12 第3分離壁、13 第4分離壁、14 第5分離壁、20 第1返送配管部、21 ポンプ、22 散布手段、30 第1処理水、31 第1撹拌機構、32 第2貯留部、33 第2移送部、34 付着物、35 保持部材、40 第2処理水、41 第2撹拌機構、50 固形分、51 分離液、60 第1移送部、61 第1貯留部、62 第3処理水、63 ガス、64 第3撹拌機構、64a 循環配管部、64b ポンプ、64c 分岐部、65 菌遮断機構、80 第2返送配管部、81 電磁弁、82 流量調節弁、83 タイマー、100、101、102 処理システム。
【要約】
有機性廃棄物の処理システムは、微生物を用いて有機性廃棄物を処理する単一の処理槽と、処理槽の内部の液体を返送させる返送手段と、を備えている。処理槽は、有機性廃棄物を微生物によって可溶化し、第1処理水を生成する可溶化部と、可溶化部で生成された第1処理水から酸を生成し、第2処理水を生成する酸生成部と、酸生成部で生成された第2処理水を固形分と分離液とに分離する固液分離部と、固液分離部で分離された分離液をメタン発酵菌でメタン発酵させて、第3処理水とガスとに転換させるメタン発酵部と、を有している。返送手段は、固液分離部で分離された分離液を可溶化部に返送する第1返送手段を有する。