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特許7292537リチウムイオン電池用正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230609BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230609BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230609BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022565672
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 CN2021112266
(87)【国際公開番号】W WO2022134617
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】202011543438.6
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522152256
【氏名又は名称】北京当升材料科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】侯 雪原
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲競▼▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 学全
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲亞▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 彦彬
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/118279(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次結晶粒が凝集した高ニッケル多元正極材料を含み、かつ前記一次結晶粒が前記高ニッケル多元正極材料の径方向に発散状に分布しており、前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比L/Rが3以上であり、かつ前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比が60%以上であり、
前記高ニッケル多元正極材料の内部及び表層に均一に分布しているMの酸化物をさらに含み、前記MはB、Al、W、Nb、Ce及びSrから選択される1種又は複数種であり、
前記高ニッケル多元正極材料の外面に被覆された被覆層をさらに含み、前記被覆層はNの酸化物を含有し、前記NはNi、Co、Mn、Ti、V、Nb、Mo、Ce、Al、Ba、Y及びZrから選択される1種又は複数種であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極材料。
【請求項2】
前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比は3~5であり、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比は60~85%である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記高ニッケル多元正極材料の組成が、一般式Li1+a(Ni1-x-yCo)O(ここで、-0.5≦a≦0.5、0<x≦0.2、0<y≦0.2、AはAl及び/又はMnである。)で表される、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
記Mの酸化物の粒度が30nm~2μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項5】
記Nの酸化物の粒度が30nm~2μmである、請求項4に記載の正極材料。
【請求項6】
粒子強度が120MPa以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比は4~5であり、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比は75~83%である、請求項2に記載の正極材料。
【請求項8】
AがMnである、請求項3に記載の正極材料。
【請求項9】
前記正極材料の全モル数を基準にして、前記Mの酸化物の含有量が0.1~0.8mol%である、請求項4に記載の正極材料。
【請求項10】
前記被覆層の厚さが0.01~0.1μmである、請求項5に記載の正極材料。
【請求項11】
前記正極材料の全モル数を基準にして、前記Nの酸化物の含有量が0.1~2.5mol%である、請求項5に記載の正極材料。
【請求項12】
粒子強度が120~135MPaである、請求項6に記載の正極材料。
【請求項13】
Ni塩、A塩、Co塩を水と接触させて混合塩溶液を得るステップ(1)と、
前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第1混合溶液と反応釜にて接触させて第1反応を行い、第1混合スラリーを得て、前記第1混合スラリーをろ過し、前駆体結晶核を得るステップ(2)と、
前記前駆体結晶核と前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第2混合溶液と反応釜にて接触させて第2反応を行い、第2混合スラリーを得て、前記第2混合スラリーをろ過し、洗浄して熱処理し、前駆体を得るステップ(3)と、
前記前駆体、リチウム源及び添加剤Mを混合して第1焼成処理を行い、一次焼結材を得るステップ(4)と、
前記一次焼結材と添加剤Nを混合して第2焼成処理を行い、正極材料を得るステップ(5)とを含み、
前記A塩は、Al塩及び/又はMn塩であり、
前記添加剤Mは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、セリウム(Ce)及びストロンチウム(Sr)のうちの1種又は複数種の元素に対応する酸化物及び/又は水酸化物の粒子から選択され、
添加剤Nは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、及びジルコニウム(Zr)から選択される1種又は複数種の酸化物及び/又は水酸化物の粒子である、
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の正極材料の製造方法。
【請求項14】
ステップ(1)において、金属換算で、前記Ni塩、前記Co塩及び前記A塩の使用量のモル比が(60~95):(3~20):(1~20)であり、及び/又は、
前記混合塩溶液のモル濃度が0.5~2mol/Lである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
ステップ(2)において、前記第1混合溶液のpH値が11.5~13である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
ステップ(3)において、前記第2混合溶液のpH値が11~12.5である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
ステップ(4)において、前記第1焼成処理の条件は、温度500~1100℃、時間6~20hを含み、
ステップ(5)において、前記第2焼成処理の条件は、温度600~1000℃、時間6~20hを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の正極材料を含有する、ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項19】
前記第1反応の条件は、前記混合塩溶液の流速1~5L/h、撹拌速度500~600r/min、温度40~80℃、時間2~10h、pH値11.5~13を含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
前記前駆体結晶核の粒度D 50 が1~3μmである、請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
前記第2混合スラリー中の固形分が30~60%である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項22】
前記第2反応の条件は、前記混合塩溶液の流速0.5~5L/h、撹拌速度300~500r/min、温度40~80℃、時間10~200h、pH値11~13を含む、請求項16に記載の製造方法。
【請求項23】
前記前駆体の粒度D50が9~18μmである、請求項16に記載の製造方法。
【請求項24】
前記前駆体の内部の一次結晶粒のアスペクト比が1.5~4であり、かつ前記前駆体の内部の一次結晶粒の径方向分布比が30~50%である、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、出願番号がNo.202011543438.6、出願日が2020年12月23日、発明の名称が「リチウムイオン電池用正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池」である特許の優先権を主張している。
【0002】
本発明は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、リチウムイオン電池用正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池用高ニッケル三元正極材料LiNi1-x-yCo(ただし、M=Mn及び/又はAl)は、質量比容量と体積比容量が高いという利点のため、最近広く研究されて、パワー電池、電動工具やエネルギー貯蔵に適用されている。現在、高ニッケル三元正極材料の最も重要な欠陥は充放電過程で結晶構造の相転移が多く起こり、相転移に起因する体積変化により粒子が粉末化してしまうことにある。
【0004】
このような欠点を解決するために、CN109713297Aは、一次粒子が方向性を持って配列された高ニッケル正極材料及びその製造方法を開示し、該方法は、(1)ブレンド:混合釜に高ニッケル正極材料前駆体、リチウム源、高ニッケル正極材料の層状構造の003結晶面の表面エネルギーを低下させ得るドーパントを加えて、混合物を得るステップと、(2)焼結:前記混合物を焼結して、一次粒子が方向性を持って配列された高ニッケル正極材料を得るステップとを含む。ただし、該方法では、製造過程において予備焼結が必要とされるので、プロセスの難度が向上し、しかも、形成された表面構造を被覆して最適化させることがないので、長時間のサイクルの場合、高ニッケル正極材料の凝集体内部の一次結晶粒の体積変化によるクラックの成長が抑制されにくい。
【0005】
CN110492064Aは、リチウム二次電池用正極活性材料、及び正極活性材料を含む正極を備えたリチウム二次電池を開示し、該方法は、酸化性ガスの雰囲気でリチウム源と金属水酸化物を含む混合物に第1熱処理を行って、ニッケルに基づく活性材料二次粒子を得るステップと、前記ニッケルに基づく活性材料二次粒子にフッ化物前駆体を添加して反応混合物を取得し、酸化ガスの雰囲気で前記反応混合物に、前記第1熱処理よりも低い温度で行われる第2熱処理を行うステップとを含む。該方法では、前駆体をドーピングすることにより径方向に分布している凝集体の二次粒子が製造され、フッ素被覆により表面が保護される。しかし、二次被覆の温度が低いので、粒子表面しか形成できず、内部の一次粒子同士の相互支持がなく、このため、サイクル過程で内部のクラックの成長を効果的に抑制できない。
【0006】
このため、リチウムイオン電池用正極材料の検討及び開発は重要なことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、長時間のサイクルの場合正極材料の内部のクラックが成長するという従来技術の欠陥を解決するために、該正極材料を含有するリチウムイオンのサイクル特性が良好であり、粒子強度が大幅に向上し、電池容量が高い、リチウムイオン電池用正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
複数の一次結晶粒が凝集した高ニッケル多元正極材料を含み、かつ前記一次結晶粒が前記高ニッケル多元正極材料の径方向に発散状に分布しており、前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比L/Rが3以上であり、かつ前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比が60%以上であるリチウムイオン電池用正極材料を提供する。
【0009】
本発明の第2態様は、
Ni塩、A塩、Co塩を水と接触させて混合塩溶液を得るステップ(1)と、
前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第1混合溶液と反応釜にて接触させて第1反応を行い、第1混合スラリーを得て、前記第1混合スラリーをろ過し、前駆体結晶核を得るステップ(2)と、
前記前駆体結晶核と前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第2混合溶液と反応釜にて接触させて第2反応を行い、第2混合スラリーを得て、前記第2混合スラリーをろ過し、洗浄して熱処理し、前駆体を得るステップ(3)と、
前記前駆体、リチウム源及び添加剤Mを混合して第1焼成処理を行い、一次焼結材を得るステップ(4)と、
前記一次焼結材と添加剤Nを混合して第2焼成処理を行い、正極材料を得るステップ(5)とを含む、前記正極材料の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第3態様は、前記正極材料を含有するリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記技術案によれば、本発明は下記の優位性を有する。
(1)本発明による正極材料では、内部の一次結晶粒が径方向に発散状に分布しており、かつ前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比が3以上であり、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比が60%以上であることにより、リチウムイオンの挿入・離脱を容易にし、サイクル過程の充放電に起因する結晶粒の体積変化による内部応力の伝達に有利であり、サイクル特性を向上させる。
(2)本発明による正極材料は、前記高ニッケル多元正極材料の内部及び表層に均一に分布しているM酸化物を含有するので、一次焼結材内部の(003)結晶面の成長に有利であり、正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比を増大するとともに、一次結晶粒の径方向分布比をさらに増大する。
(3)本発明による正極材料は、前記高ニッケル多元正極材料の外面に被覆された被覆層をさらに含有し、焼成処理により添加剤中のN元素が正極材料の内部へ拡散するので、表面層へのバルクドーピングに有利であり、径方向に分布している一次結晶粒の界面について粘着作用を果たし、正極材料のサイクル特性をさらに向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で製造される前駆体の走査型電子顕微鏡像である。
図2】実施例1で製造された正極材料の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図3】比較例1で製造された正極材料の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図4】比較例2で製造された正極材料の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図5】実施例1、比較例1及び比較例2のサイクル回数と容量維持率との関係の概略図である。
図6】本発明で製造される多元材料のアスペクト比の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で開示された範囲の端点と任意の値はこの正確な範囲又は値に制限されず、これらの範囲又は値はこれらの範囲又は値に近い値を含むものとして理解すべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値と、及び単独の点値同士は互いに組み合わせられて1つ又は複数の新しい数値の範囲を構成してもよく、これらの数値の範囲は本明細書で具体的に開示されたものとみなすべきである。
【0014】
上記目的を達成させるために、本発明の第1態様は、リチウムイオン電池用正極材料を提供し、前記正極材料は、複数の一次結晶粒が凝集した高ニッケル多元正極材料を含み、かつ前記一次結晶粒が前記高ニッケル多元正極材料の径方向に発散状に分布しており、
前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比L/Rが3以上であり、かつ前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比が60%以上である。
【0015】
本発明の発明者は、意外なことに、以下のことを見出す。
(1)本発明による正極材料の製造方法では、2回の合成により、前駆体が合成過程で非定常に成長しており、2回目の合成の成長過程が前駆体の内部の一次結晶粒の径方向成長により有利であり、これにより、内部の一次結晶粒のアスペクト比が1.5以上、内部の一次結晶粒の径方向分布比が30%以上の前駆体が得られ、該前駆体はリチウム源と反応するときの反応活性が高く、焼結中のリチウムの拡散及び添加剤の拡散に有利である。また、特定の添加剤の添加は、一次結晶粒の(003)結晶面に沿う成長に有利であり、特定の前駆体構造と相まって、得られた正極材料の内部の一次結晶粒は径方向に発散状に分布し、前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比を3以上、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比を60%以上とし、これによって、リチウムイオンの挿入・離脱を容易にし、サイクル過程の充放電に起因する結晶粒の体積変化による内部応力の伝達に有利であり、サイクル特性を向上させる。
(2)本発明による正極材料の製造方法では、第1焼成処理において、添加剤Mの添加は、一次焼結材の内部の(003)結晶面の成長に有利であり、正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比をさらに増大し、一次結晶粒の径方向分布比をさらに増大する。
(3)本発明による正極材料の製造方法では、第2焼成処理において、添加剤Nの添加は、焼成処理において添加剤中のN元素が正極材料の内部へ拡散するので、表面層へのバルクドーピングに有利であり、径方向に分布している一次結晶粒の界面について粘着作用を果たし、正極材料のサイクル特性をさらに向上させる。
【0016】
なお、本発明では、使用される用語は以下で解釈される。
【0017】
「アスペクト比」とは、一次結晶粒の軸方向の長さLと一次結晶粒の軸方向に垂直な方向の直径Rとの比、即ちL/Rの値を指し、例えば、本発明で製造される多元材料のアスペクト比の概略図である図6に示される通りである。
【0018】
「発散状に分布している」とは、一次結晶粒の軸方向と高ニッケル多元正極材料の径方向とが重なることを意味する。
【0019】
「径方向分布比」とは、一次結晶粒の総数に対する一次結晶粒のうち軸方向に分布している結晶粒の数の比を意味する。
【0020】
本発明によれば、好ましくは、前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比は3~5であり、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比は60~85%であり、より好ましくは、前記正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比は4~5であり、前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比は75~83%である。なお、本発明では、例えば、「前記正極材料の内部の一次結晶粒の径方向分布比は60~85%である」とは、「前記正極材料の内部の一次結晶粒のうち一次結晶粒の総数に対する径方向に分布しているものの数は60~85%である」ことを意味する。
【0021】
本発明によれば、前記高ニッケル多元正極材料の組成は一般式Li1+a(Ni1-x-yCo)Oで表される。
ここで、-0.5≦a≦0.5、0<x≦0.2、0<y≦0.2であり、AはAl及び/又はMnであり、好ましくは、0.01≦a≦0.05、0.09≦x≦0.11、0.03≦y≦0.06であり、AはMnである。
【0022】
本発明によれば、前記正極材料は、前記高ニッケル多元正極材料の内部及び表層に均一に分布しているMの酸化物をさらに含み、前記Mはホウ素(B)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、セリウム(Ce)及びストロンチウム(Sr)から選択される1種又は複数種であり、好ましくは、前記Mの酸化物はWOナノ粉末、Bナノ粉末、Nbナノ粉末及びHBOナノ粉末から選択される1種又は複数種である。
【0023】
本発明によれば、前記Mの酸化物の粒度は30nm~2μm、より良好なドーピング効果を得ることから、好ましくは50nm~1μm、より好ましくは50nm~300nmである。
【0024】
本発明によれば、前記正極材料の全モル数を基準にして、前記Mの酸化物の含有量は0.1~0.8mol%、より良好なドーピング効果を得ることから、好ましくは0.1~0.5mol%、より好ましくは0.2~0.3mol%である。
【0025】
本発明によれば、前記正極材料は、前記高ニッケル多元正極材料の外面に被覆された被覆層をさらに含み、前記被覆層はNの酸化物を含有し、前記Nはニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)及びジルコニウム(Zr)から選択される1種又は複数種である。
【0026】
本発明によれば、前記Nの酸化物の粒度は30nm~2μm、より良好な反応活性及び被覆効果を得ることから、好ましくは5nm~1μm、より好ましくは10~200nmである。
【0027】
本発明によれば、前記被覆層の厚さは0.01~0.1μm、好ましくは0.01~0.05μm、より好ましくは15~21nmである。
【0028】
本発明によれば、前記正極材料の全モル数を基準にして、前記Nの酸化物の含有量は0.1~2.5mol%、より良好な反応活性及び被覆効果を得ることから、好ましくは0.1~2mol%、より好ましくは1~1.5mol%である。
【0029】
本発明によれば、前記正極材料の組成は、一般式Li1+a((Ni1-x-yCo)N)Oで表され、ここで、-0.5≦a≦0.5、0<x≦0.2、0<y≦0.2、0≦p≦0.008、0≦z≦0.02であり、AはAl及び/又はMnであり、NはNi、Co、Mn、Ti、V、Nb、Mo、Ce、Al、Ba、Y及びZrのうちの1種又は複数種の元素である。好ましくは、0.01≦a≦0.05、0.09≦x≦0.11、0.03≦y≦0.06、0.83≦1-x-y≦0.88、0.002≦p≦0.006、0.01≦z≦0.015であり、AはMnであり、MはW、B及びNbのうちの1種又は複数種であり、NはNi、Co及びMnのうちの1種又は複数種である。
【0030】
本発明によれば、前記正極材料の粒径は9~14μmである。
【0031】
本発明の第2態様は、
Ni塩、A塩、Co塩を水と接触させて混合塩溶液を得るステップ(1)と、
前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第1混合溶液と反応釜にて接触させて第1反応を行い、第1混合スラリーを得て、前記第1混合スラリーをろ過し、前駆体結晶核を得るステップ(2)と、
前記前駆体結晶核と前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第2混合溶液と反応釜にて接触させて第2反応を行い、第2混合スラリーを得て、前記第2混合スラリーをろ過し、洗浄して熱処理し、前駆体を得るステップ(3)と、
前記前駆体、リチウム源及び添加剤Mを混合して第1焼成処理を行い、一次焼結材を得るステップ(4)と、
前記一次焼結材と添加剤Nを混合して第2焼成処理を行い、正極材料を得るステップ(5)とを含む、ことを特徴とする前記正極材料の製造方法を提供する。
【0032】
本発明によれば、ステップ(1)において、前記Ni塩、A塩、Co塩は可溶性金属塩であり、前記可溶性金属塩は硫酸塩、塩化物及び酢酸塩から選択される1種又は複数種、好ましくは硫酸塩である。
【0033】
本発明によれば、ステップ(1)において、金属換算で、前記Ni塩、前記Co塩及び前記A塩の使用量のモル比が(60~95):(3~20):(1~20)、好ましくは(60~90):(4~20):(1~10)、より好ましくは(83~88):(3~11):(3~9)、よりさらに好ましくは(83~88):(9~11):(3~6)である。本発明では、前記Ni塩、前記Co塩及び前記A塩の使用量が前述範囲に制御されることにより、良好な容量及びサイクル特性の両方が得られる。
【0034】
本発明によれば、前記混合塩溶液のモル濃度は0.5~2mol/L、好ましくは1.5~2mol/Lである。本発明では、前記混合塩溶液のモル濃度が前述範囲に制御されることにより、反応過程における固形分及び成長時間が制御され得る。
【0035】
本発明によれば、錯化剤であるアンモニア水溶液のモル濃度は4~12mol/Lであり、水酸化ナトリウム溶液のモル濃度は2~8mol/Lである。
【0036】
本発明によれば、ステップ(2)において、前記混合塩溶液を、水、錯化剤及び沈殿剤を含有する第1混合溶液と反応釜にて接触させて第1反応を行い、第1混合スラリーを得て、好ましくは、前記前駆体結晶核の製造において、前記混合溶液を加えるに先立って錯化剤と沈殿剤を、20~25%液位の純水が投入された反応釜に加えることで、pHを高く維持し、次に、前記混合溶液を、初期撹拌回転数を高回転数に維持しながら所定の流速で加えると、錯化剤と沈殿剤の共同作用下で粒子状沈殿を形成して析出させ、最初に加えられた金属塩溶液Ni、Co、A成分をP(OH)、PCO又はPC(ただし、PはNi、Co及びAのうちの1種又は複数種)などの形式で堆積させ、球状粒子種結晶、即ち前駆体結晶核とし、反応により得られた前駆体結晶核を吸引ろ過して使用に備える。
【0037】
本発明によれば、ステップ(2)において、前記第1混合溶液のpH値は11.5~13であり、pHが高く維持されることは、1回目の合成過程における粒子の成長を抑制して、後続の合成のための核を作り、しかも、pHを高くすることで粒子の緻密性を向上させるためである。
【0038】
本発明によれば、ステップ(2)において、前記反応釜の全体積を基準にして、前記第1混合溶液の使用量は20~30%、前記混合塩溶液の使用量は15~20%である。
【0039】
本発明によれば、ステップ(2)において、前記第1反応の条件は、前記混合塩溶液の流速1~5L/h、撹拌速度500~600r/min、温度40~80℃、時間2~10h、pH値11.5~13、好ましくは、前記混合塩溶液の流速1~2.5L/h、撹拌速度600r/min、温度50~80℃、時間6~10h、pH値12~13を含む。混合塩溶液、沈殿剤、錯化剤を反応釜に投入しながら撹拌することにより、小粒子前駆体結晶核が得られる。本発明によれば、ステップ(2)において、前記前駆体結晶核の粒度D50は1~3μm、好ましくは1~2μmである。
【0040】
本発明によれば、ステップ(3)において、前駆体を合成して製造する過程では、金属塩で形成された沈殿が前駆体結晶核の外部に成長され、単独に核にならず、全ての粒子が同時に成長し、これにより、各粒子の成長の均一性が確保される。
【0041】
本発明によれば、ステップ(3)において、前記第2混合溶液のpH値は11~12.5である。
【0042】
本発明によれば、前記反応釜の全体積を基準にして、前記第2混合溶液の使用量は150~200%であり、前記混合塩溶液の使用量は70~100%である。
【0043】
本発明によれば、前記第2混合スラリー中の固形分は30~60%、好ましくは40~60%、より好ましくは40~45%である。本発明では、前記第2混合スラリー中の固形分を増加させるために、反応過程で反応釜内のスラリーが80%に達すると、反応釜の下部から20%のスラリーを排出し、静置して沈殿させた後、スラリーの上清を捨てて、残りのスラリーを反応釜に投入することで、反応釜内の固形分を増加させる。
【0044】
本発明では、前記第2混合スラリー中の固形分を前記範囲に制御することにより、前駆体粒子が反応釜内で衝突する確率を高め、前駆体の球形度を向上させ、また、前駆体の表面を平滑にすることができる。
【0045】
本発明によれば、前記第2反応の条件は、前記混合塩溶液の流速0.5~5L/h、撹拌速度300~500r/min、温度40~80℃、時間10~200h、pH値11~13、好ましくは、前記混合塩溶液の流速1~2.5L/h、撹拌速度500r/min、温度50~60℃、時間100~150h、pH値11~12.5を含む。さらに、前記前駆体の粒度D50は9~18μm、好ましくは9.5~11μmであり、さらに、前記前駆体の内部の一次結晶粒のアスペクト比は1.5~4、好ましくは1.5~3であり、かつ前記前駆体の内部の一次結晶粒の径方向分布比は30~50%であり、また、さらに、前記前駆体の内部の一次結晶粒のアスペクト比は3であり、かつ前記前駆体の内部の一次結晶粒の径方向分布比は40~50%である。
【0046】
本発明によれば、前記錯化剤は、EDTA、アンモニア水、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びエチレンジアミンから選択される1種又は複数種である。前記錯化剤と金属総塩とのモル比は通常(0.1~3):1、好ましくは(1~2):1、より好ましくは(1~1.5):1であり、前記金属総塩はNi、Co、A金属塩の全モル数である。
【0047】
本発明によれば、前記沈殿剤は、OH、CO 2-を含有する化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムから選択される1種又は複数種である。前記沈殿剤と金属総塩とのモル比は(1~3):1、好ましくは(1~2):1、より好ましくは(1.01~1.04):1であり、前記金属総塩はNi、Co、A金属塩の全モル数である。
【0048】
本発明によれば、ステップ(3)において、前記熱処理の条件は、真空環境又は送風環境下、温度90~130℃の条件で、1~20時間乾燥することを含む。
【0049】
本発明によれば、前記前駆体と前記リチウム源とのモル比は1:(0.95~1.05)であり、前記リチウム源は水酸化リチウムである。
【0050】
本発明によれば、ステップ(4)において、前記第1焼成処理の条件は、温度500~1100℃、時間6~20hを含み、好ましくは、酸素ガス又は酸素含有量>25%の雰囲気中、700~900℃で8~18h焼結し、破砕して、一次結晶粒が径方向に分布している一次焼結材を得ることを含む。
【0051】
本発明によれば、添加剤Mは、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、セリウム(Ce)及びストロンチウム(Sr)のうちの1種又は複数種の元素に対応する酸化物及び/又は水酸化物の粒子から選択され、好ましくは、前記添加剤Mは、以上の金属元素に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び硫酸塩から選択される1種又は複数種、より好ましくは、前記添加剤Mは、WOナノ粉末、Bナノ粉末、Nbナノ粉末、及びHBOナノ粉末から選択される1種又は複数種である。
【0052】
本発明によれば、ステップ(5)において、前記第2焼成処理の条件は、温度600~1000℃、時間6~20hを含み、好ましくは、酸素ガス又は酸素含有量>25%の雰囲気中、650~900℃で8~18h焼結し、破砕して解体し、正極材料を得ることを含む。
【0053】
本発明によれば、添加剤Nは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、及びジルコニウム(Zr)から選択される1種又は複数種の酸化物及び/又は水酸化物の粒子であり、好ましくは、前記添加剤Nは、上記金属元素に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、及び硝酸塩から選択される1種又は複数種であり、より好ましくは、前記添加剤NはCo(OH)、Ni(OH)、Mn(OH)、及びCoから選択される1種又は複数種である。
【0054】
本発明によれば、前記正極材料の粒子強度は120MPa以上、好ましくは120~135MPaである。本発明では、該材料を用いて製造された電池極板は製造過程においてより高いロールプレス強度に耐えられ、かつ粒子強度がより高く、電池のサイクル寿命の延長に有利であり、さらに、前記正極材料を含有する粒子の強度が大幅に向上する。
【0055】
本発明の第3態様は、前記正極材料を含有するリチウムイオン電池を提供する。
【0056】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本発明による発散状構造を有する正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0057】
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを(83~88):(9~11):(3~6)の金属モル比で純水に溶解し、1.5~2mol/Lの混合塩溶液を得て、4mol/Lのアンモニア水溶液を製造して錯化剤とし、8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を製造して沈殿剤とする。
【0058】
(2)前駆体結晶核の製造
まず、20~25%液位の純水が投入された撹拌機能付き反応釜に錯化剤、沈殿剤を並流にて投入し、第1混合溶液を得て、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、前記第1混合溶液の使用量は20~30%であり、第1混合溶液のpH値を11.5~13に調整し、
窒素雰囲気の保護下、混合塩溶液Lを1~2.5L/hの流速で加えて反応を行い、第1混合スラリーを得て、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、前記混合塩溶液の使用量が15~20%であり、反応のpH値を11.5~13、反応温度を50~80℃、撹拌回転数を500~600r/min、錯化剤であるアンモニア水と金属総塩とのモル比を(1~1.5):1、沈殿剤と金属総塩とのモル比を(1.01~1.04):1、反応時間を6~10hに制御し、ろ過して粒度D501~2μmの前駆体結晶核を得る。
【0059】
(3)前駆体の製造
前記反応釜の全体積を基準にして第2混合溶液の使用量が150~200%となるように、純水、錯化剤、沈殿剤を含有する前記第2混合溶液を撹拌機能付き反応釜に投入して反応を行い、第2混合溶液のpH値を11~12.5、撹拌回転数を500r/minに調整にする。
前記前駆体結晶核と混合塩溶液Lとを反応釜に加えて第2反応を行い、ここで、混合塩溶液Lは1~2.5L/hの流速で加えられ、前記反応釜の全体積を基準にして、前記混合塩溶液の使用量は70~100%、撹拌回転数は500~600r/minであり、pH値を11~12.5、反応温度を60℃、反応時間を120~150hに制御し、添加されて反応に用いられる溶液は反応釜の全体積に対して30%である。反応過程で反応釜内の溶液が80%に達すると、反応釜の下部から第2混合スラリーの20%を排出し、静置して沈殿させた後、スラリーの上清を捨てて、残りのスラリーを反応釜に投入することで、反応釜内の固形分を増加させ、給液速度及び成長速度を制御し、D50が9.5~11μmまで成長し、反応時間が120~180hに達し、固形分が45~50%に達すると、前駆体を沈殿させ、ろ過して洗浄し、120℃の条件で乾燥させ、多元材料前駆体を得る。
【0060】
(4)該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.01~1.05のモル比で十分に混合し、WO、B、Nb及びHBOのうちの1種又は複数種のナノ粉末を0.2mol%加える。酸素ガス雰囲気下、780~800℃で13~14h保温する。自然降温して、粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%よりも大きい凝集体一次焼結材を得る。
【0061】
(5)該一次焼結材をCo(OH)、Ni(OH)、Mn(OH)及びCoのうちの1種又は複数種のナノ粉粒子1mol%又は1.5mol%と混合し、添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680~700℃で15~16h焼結する。
【0062】
以下、実施例によって本発明について詳細に説明する。
【0063】
以下の実施例及び比較例では、
電子顕微鏡写真のパラメータは日立社から購入した型番S4800の走査型電子顕微鏡によって測定されたものであり、
容量維持率は、新威社から購入した名称が高精度電池テスタ、型番がCT4008である器具によって測定されたものである。
【0064】
実施例1
本実施例では、本発明の製造方法で製造された発散状構造を有する正極材料について説明した。
【0065】
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを88:9:3の金属モル比で純水に溶解し、2.0mol/Lの混合塩溶液Lを得て、4mol/Lのアンモニア水溶液を調製して錯化剤とし、8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製して沈殿剤とした。
【0066】
(2)前駆体結晶核の製造
25%液位の純水が投入された撹拌機能付き反応釜にアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液を並流にて投入し、第1混合溶液を得て、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、前記第1混合溶液の使用量は20%であり、第1混合溶液のpH値を13.2に調整した。
【0067】
窒素雰囲気の保護下、前記反応釜の全体積を基準にして混合塩溶液の使用量が20%となるように前記混合塩溶液Lを2.5L/hの流速で加えて、反応のpH値を13、反応温度を50℃、撹拌回転数を600r/min、錯化剤であるアンモニア水と金属総塩とのモル比を1:1、沈殿剤である水酸化ナトリウムと金属総塩とのモル比を1.01:1、反応時間を10hに制御して反応を行い、第1混合スラリーを得て、ろ過して前駆体結晶核を得た。
【0068】
(3)前駆体の製造
純水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウムを含有する前記第2混合溶液を撹拌機能付き反応釜に投入して反応を行い、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、第2混合溶液の使用量は150%であり、第2混合溶液のpH値を12.5、撹拌回転数を600r/minに調整した。
【0069】
前記前駆体結晶核と混合塩溶液Lとを反応釜に加えて第2反応を行い、ここで、混合塩溶液Lは2.5L/hの流速で加えられ、前記反応釜の全体積を基準にして、前記混合塩溶液の使用量は80%、撹拌回転数は600r/minであり、pH値を12.5、反応温度を60℃、反応時間を120hに制御し、添加されて反応に用いられる溶液は反応釜の全体積に対して30%であり、反応過程で反応釜内の溶液が80%に達すると、反応釜の下部から第2混合スラリーの20%を排出し、静置して沈殿させた後、スラリーの上清を捨てて、残りのスラリーを反応釜に投入することで、反応釜内の固形分を増加させ、給液速度及び成長速度を制御し、D50が9.5μmまで成長し、反応時間が120hに達し、固形分が45%に達すると、前駆体を沈殿させ、ろ過して洗浄し、120℃の条件で乾燥させ、多元材料前駆体を得た。
【0070】
(4)該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05のモル比で十分に混合し、WOナノ粉末0.2mol%を加えた。酸素ガス雰囲気下、780℃で14h保温した。自然降温して粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%である凝集体一次焼結材を得た。
【0071】
(5)該一次焼結材をCo(OH)ナノ粉粒子1mol%と混合し、添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680℃で15h焼結した。
その結果、正極材料S1を得て、S1の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)Co0.015)O
【0072】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0073】
また、図1は実施例1で製造されたリチウムイオン電池用前駆体の走査型電子顕微鏡像であり、図1から、本製造形態で製造された前駆体では一次粒子が径方向に分布していることが明らかであった。
【0074】
図2は実施例1で製造された正極材料の断面走査型電子顕微鏡像であり、図2から、本形態で製造された正極材料では一次粒子が径方向に分布していることが明らかであった。
また、図1図2の比較から、図1で実施例1のプロセスによって製造された前駆体の内部の一次粒子が発散状に分布しており、実施例1におけるドーピング及び被覆によって図2のような内部構造の効果が得られ、正極材料粒子の内部の一次結晶粒のアスペクト比が顕著に向上し、発散状がより明らかになることが明らかであった。
【0075】
実施例2
本実施例では、本発明の製造方法で製造された発散状構造を有する正極材料について説明した。
【0076】
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを83:11:6の金属モル比で純水に溶解し、2.0mol/Lの混合塩溶液Lを得て、4mol/Lのアンモニア水溶液を調製して錯化剤とし、8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製して沈殿剤とした。
【0077】
(2)前駆体結晶核の製造
まず、25%液位の純水が投入された撹拌機能付き反応釜にアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液を並流にて投入し、第1混合溶液を得て、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、前記第1混合溶液の使用量は25%であり、第1混合溶液のpH値を11.6に調整した。
【0078】
窒素雰囲気の保護下、混合塩溶液Lを2.2L/hの流速で加えて反応を行い、第1混合スラリーを得て、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、混合塩溶液の使用量は20%であり、反応のpH値を11.5、反応温度を60℃、撹拌回転数を600r/min、錯化剤であるアンモニア水と金属総塩とのモル比を1:1、沈殿剤である水酸化ナトリウムと金属総塩とのモル比を1.04:1、反応時間を6hに制御し、ろ過して前駆体結晶核を得た。
【0079】
(3)前駆体の製造
純水、錯化剤、沈殿剤を含有する第2混合溶液を撹拌機能付き反応釜に投入して反応を行い、ここで、前記反応釜の全体積を基準にして、第2混合溶液の使用量は170%であり、第2混合溶液のpH値を12、撹拌回転数を600r/minに調整した。
前記前駆体結晶核と混合塩溶液Lとを反応釜に加えて第2反応を行い、ここで、混合塩溶液Lは2L/hの流速で加えられ、前記反応釜の全体積を基準にして、前記混合塩溶液の使用量は80%、撹拌回転数は600r/minであり、pH値を12、反応温度を60℃、反応時間を180hに制御し、添加されて反応に用いられる溶液は反応釜の全体積に対して30%であった。また、反応過程で反応釜内の溶液が80%に達すると、反応釜の下部から第2混合スラリーの20%を排出し、静置して沈殿させた後、スラリーの上清を捨てて、残りのスラリーを反応釜に投入することで、反応釜内の固形分を増加させ、給液速度及び成長速度を制御し、D50が11μmまで成長し、反応時間が180hに達し、固形分が50%に達すると、前駆体を沈殿させ、ろ過して洗浄し、120℃の条件で乾燥させ、多元材料前駆体を得た。
【0080】
(4)該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05モル比で十分に混合し、WOナノ粉末0.2mol%を加えた。酸素ガス雰囲気下、780℃で14h保温した。自然降温して粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%である凝集体一次焼結材を得た。
【0081】
(5)一次焼結材をNi(OH)ナノ粉粒子1.5mol%と混合し、添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680℃で15h焼結した。
その結果、正極材料S2を得て、S2の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.83Co0.11Mn0.060.002)Ni0.015)O
【0082】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0083】
実施例3
本実施例では、本発明の製造方法で製造された発散状構造を有する正極材料について説明する。
【0084】
ステップ(4)において、前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05のモル比で十分に混合し、Bナノ粉末0.2mol%を加えたこと、酸素ガス雰囲気下、800℃で14h保温したこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。自然降温して粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%よりも大きい凝集体一次焼結材を得た。
【0085】
一次焼結材をMn(OH)ナノ粉粒子1.5mol%と混合し、添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680℃で15h焼結した。
【0086】
その結果、正極材料S3を得て、S3の化学式は以下に示される。
Li1.5((Ni0.88Co0.09Mn0.030.004)Mn0.015)O
【0087】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0088】
実施例4
本実施例では、本発明の製造方法で製造された発散状構造を有する正極材料について説明した。
【0089】
ステップ(4)において、該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05のモル比で十分に混合し、Nbナノ粉末0.3mol%を加えたこと、酸素ガス雰囲気下、795℃で14h保温したこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。自然降温して粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%よりも大きい凝集体一次焼結材を得た。
【0090】
一次焼結材をCo(OH)ナノ粉粒子と混合し、添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680℃で15h焼結した。
【0091】
その結果、正極材料S4を得て、S4の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.03Nb0.006)Co0.015)O
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0092】
実施例5
本実施例では、本発明の製造方法で製造された発散状構造を有する正極材料について説明した。
【0093】
ステップ(4)において、該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05モル比で十分に混合し、HBOナノ粉末0.2mol%を加えたこと、酸素ガス雰囲気下、780℃で14h保温したこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。自然降温して粉砕し、篩分けし、一次結晶粒のうち径方向に分布しているものが60%よりも大きい凝集体一次焼結材を得た。
【0094】
一次焼結材をCoナノ粉粒子と混合し、Co元素の添加量を1.5mol%とし、混合した材料を680℃で15h焼結した。
【0095】
その結果、正極材料S5を得て、S5の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)Co0.015)O
【0096】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0097】
比較例1
ステップ(4)において、該前駆体と水酸化リチウムとを1:1.05モル比で十分に混合したこと、酸素ガス雰囲気下、780℃で14h保温し、一次焼結材を得たこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。
【0098】
その結果、正極材料D1を得て、D1の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.03)Co0.015)O
【0099】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0100】
また、図3は比較例1で製造された正極材料の断面の走査型電子顕微鏡像であり、図3から分かるように、図3で製造された正極材料の一次結晶粒の径方向分布比が実施例1よりも低かった。
【0101】
比較例2
ステップ(5)において、一次焼結材を製造した後、LiF 0.2mol%で被覆し、400℃で10h焼結したこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。
【0102】
その結果、正極材料D2を得て、D2の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)F0.002)O
【0103】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0104】
また、図4は比較例2で製造された正極材料の断面の走査型電子顕微鏡像であり、図4から分かるように、図4で製造された正極材料の一次結晶粒の径方向分布比が実施例1よりも低かった。
【0105】
図5は実施例1、比較例1及び比較例2のサイクル回数と容量維持率との関係の概略図であり、図5から分かるように、実施例1はサイクル維持率が最も優れ、比較例1は実施例1に続き、比較例2はサイクル維持率が最も悪かった。
【0106】
比較例3
第2次焼結被覆用添加剤をB 0.5molに変更したこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。
その結果、正極材料D3を得て、D3の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)B0.01)O
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0107】
比較例4
ステップ(4)において、保温時間は25hであったこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。
【0108】
その結果、正極材料D4を得て、D4の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)Co0.015)O
【0109】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0110】
比較例5
ステップ(5)において、温度は500℃であったこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。
【0111】
その結果、正極材料D5を得て、D5の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)Co0.015)O
【0112】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0113】
比較例6
ステップ2の前駆体結晶核の製造を省略して、ステップ3の前駆体を直接製造し、製造した前駆体内部の一次結晶粒のアスペクト比は1程度であり、かつ前駆体内部の一次結晶粒の形状は不規則的であったこと以外、実施例1と同じ方法によって正極材料を製造した。それ以降のステップは実施例1と同様であった。その結果、正極材料D6を得て、D6の化学式は以下に示される。
Li1.05((Ni0.88Co0.09Mn0.030.002)Co0.015)O
【0114】
前記正極材料の特性を表2に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1の結果から分かるように、本発明の実施例1~5で製造された正極材料は、前記高ニッケル多元正極材料の内部及び表層に均一に分布しているM酸化物を含有するので、一次焼結材の内部の(003)結晶面の成長に有利であり、正極材料の内部の一次結晶粒のアスペクト比をさらに増大し、一次結晶粒の径方向分布比をさらに増大する。また、本発明で提供された正極材料は前記高ニッケル多元正極材料の外面に被覆された被覆層をさらに含有し、焼成処理の過程で添加剤中のN元素を正極材料の内部へ拡散させるので、表面層へのバルクドーピングに有利であり、径方向に分布している一次結晶粒の界面に対して粘着作用を果たす。
【0117】
比較例1~6のうち、比較例1では、一次焼結添加剤が使用されていないため、材料の一次粒子アスペクト比及び径方向分布は実施例1よりも劣り、比較例2及び比較例3では、それぞれ2種の異なる非金属化合物が被覆され、被覆によるサイクル維持率が不良であった。比較例4では、1回目の焼結の保温時間が長すぎるため、一次結晶粒のアスペクト比が小さくなり、サイクルが劣化した。比較例5では、焼結温度が低いため、材料の一次結晶粒のアスペクト比が小さくなり、容量が低く、効果が悪かった。比較例6では、前駆体のアスペクト比及び径方向分布が本発明で限定された範囲ではなく、その結果、効果が悪かった。
【0118】
測定例
実施例1~5及び比較例1~6で製造された正極材料を用いてリチウムイオン電池を製造し、具体的な方法としては、ボタン型半電池を評価に用い、電解液としてEC/DMC/EMC=1:1:1を用い、LiPF濃度を1.1mol/L、電池極板中の正極材料:カーボンブラック:PVDFの比率を90:5:5とした。極板の圧縮密度は3.5g/cmであった。まず半電池を25℃で0.1Cにて充放電し、半電池容量を測定し、次に、1Cにて充放電し、材料のサイクル容量を測定した。サイクル回数は80サイクルとした。
【0119】
さらに、製造されたリチウムイオン電池の特性について測定を行い、結果を表2に示し、ここで、粒子強度は正極材料の強度である。
【0120】
【表2】
【0121】
表2から分かるように、実施例1~5で製造されたリチウムイオン電池は、電池容量が高く、サイクル特性に優れ、粒子強度が大幅に向上し、粒子強度が向上すると、電池製造過程での材料の加工特性が向上し、該材料で製造された電池極板は製造過程でより高いロールプレス強度に耐えられ、しかも、より高い粒子強度は電池のサイクル寿命の延長に有利であった。
【0122】
以上は本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の技術的構造の範囲内で本発明の技術案について各技術的特徴を任意の他の方式で組み合わせることを含め複数の簡単な変形を加えることができ、これらの簡単な変形や組み合わせも本発明の開示内容とみなされるべきであり、全て本発明の特許範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6