(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】シクロドデカ硫黄を含む加硫組成物および改善されたシクロドデカ硫黄化合物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230612BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230612BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230612BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230612BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L21/00
C08K5/09
C08K3/22
C08J3/22 CEQ
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020202517
(22)【出願日】2020-12-07
(62)【分割の表示】P 2018540856の分割
【原出願日】2016-12-20
【審査請求日】2020-12-14
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594055158
【氏名又は名称】イーストマン ケミカル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】スコット ドナルド バーニッキ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック イグナッツ-フーバー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート トーマス ヘンブル
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ニール スミス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンク クルーレン
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0148540(US,A1)
【文献】特開昭54-110249(JP,A)
【文献】特開昭54-110250(JP,A)
【文献】特開昭57-133135(JP,A)
【文献】特開2013-163823(JP,A)
【文献】特開平06-200098(JP,A)
【文献】特開2010-095670(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080144(WO,A1)
【文献】RALF STEUDEL,SOLID SULFUR ALLOTROPES,TOPICS IN CURRENT CHEMISTRY / ELEMENTAL SULFUR AND SULFUR-RICH COMPOUNDS 1,SPRINGER BERLIN HEIDELBERG,2003年,VOL:230,,PAGE(S):1-79,http://dx.doi.org/10.1007/b12110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/06
C08L1/00-101/16
C08J3/24
C01B17/00-17/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫した物品を形成する使用のための加硫組成物であって、前記加硫組成物は加硫剤、ステアリン酸および酸化亜鉛を含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含
み、前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、加硫組成物。
【請求項2】
キャリアーをさらに含む、請求項1に記載の加硫組成物。
【請求項3】
前記加硫剤は、高分子硫黄およびシクロオクタ硫黄からなる群から選択される1種または2種以上の硫黄含有硬化剤をさらに含む、請求項1に記載の加硫組成物。
【請求項4】
前記シクロドデカ硫黄化合物の量は、加硫組成物の全質量に基づいて、20~100質量%である、請求項1に記載の加硫組成物。
【請求項5】
前記シクロドデカ硫黄化合物の量は、加硫組成物の全質量に基づいて、40~100質量%である、請求項1に記載の加硫組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のエラストマー、加硫剤、ステアリン酸および酸化亜鉛を含む、加硫可能エラストマー調合物であって、前記加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物を含
み、前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、加硫可能エラストマー調合物。
【請求項7】
前記調合物中の前記シクロドデカ硫黄化合物の量は、調合物の全質量に基づいて、0.25~10質量%のシクロドデカ硫黄化合物である、請求項
6に記載の加硫可能エラストマー調合物。
【請求項8】
(i)マスターバッチの全質量に基づいて、40~90質量%の量の加硫剤と、(ii)エラストマーキャリアーと、ステアリン酸と、酸化亜鉛とを含む、加硫剤マスターバッチであって、前記加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物を含
み、前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、加硫剤マスターバッチ。
【請求項9】
請求項
6に記載の加硫可能エラストマー調合物で形成された、加硫したエラストマー物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して(i)加硫した物品を形成する使用のための加硫組成物であって、シクロドデカ硫黄化合物と、(ii)従来技術形態のシクロドデカ硫黄に対して上昇した溶融開始点を示すシクロドデカ硫黄化合物とを含む、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄加硫は、(「硫黄含有硬化剤(curatives)」としてもまた知られている)ある加硫剤の添加およびこれとの反応を通して個々のポリマー鎖間での架橋の形成を介して、天然ゴムまたは他の一般的な目的のエラストマーをさらに耐久性のある材料に転化させるための周知の化学的方法である。耐久性のある加硫したエラストマー物品の製造のための従来方法において、硫黄含有硬化剤は、エラストマー化合物と混合されて、硫黄含有硬化剤を含む加硫可能エラストマー調合物を生成する。加硫可能エラストマー調合物は、所望の「生の(green)」(未加硫の)物品または物品構成部分(「物品」)の形への多くの加工ステップ、例えば、混合、押出し、カレンダー加工、成形、形成および作り上げに曝される。次に、物品は、エラストマーを加硫するのに必要な条件に曝され、および加硫したエラストマー物品を生成する。
【0003】
現在の産業の慣習は、多くの商業的硫黄加硫方法における好ましい加硫剤として高分子硫黄を採用してきた。例えば、米国特許第4,238,470号明細書(その開示は参照により本明細書中に取り込まれる)は、加硫可能エラストマー組成物のための硫黄加硫剤として高分子硫黄の使用を記載する。高分子硫黄は、概して高分子量の、長い、らせん形の分子構造および二硫化炭素および他の強溶媒中、およびゴム、ゴム化合物およびエラストマー中での不溶性によって特徴付けられる。典型的な硫黄加硫方法のステップにおいて、高分子硫黄を含む加硫可能エラストマー調合物は、シクロオクタ硫黄(S8)、エラストマー中で可溶性であり、したがって加硫反応に参加するエラストマー調合物中に溶解する、硫黄同素体に、高分子硫黄が転化する条件に曝される。
【0004】
高分子硫黄のシクロオクタ硫黄への転化は、温度依存性であり、時間および温度の転化への影響は累積的であるので、実際の加硫前の加硫した物品の最終の成形、作り上げまたは組み立ての前の加工ステップが実際の加硫ステップの前に転化を開始しないことを確かにするように、大きな注意が払われることが好ましい。そうした未熟な転化は、層間接着および他の加硫した物品の特性に非常に有害な知られた現象である、硫黄「ブルーム(bloom)」となる場合がある。硫黄ブルームは、可溶性シクロオクタ硫黄の拡散および未硬化物品の表面上での硫黄のその後の結晶化の結果であり、および生の加硫可能エラストマー調合物中のシクロオクタ硫黄濃度が所与の温度で調合物中のそれらの溶解度の限度を超える場合に生じる。未硬化物品構成部分または層(ply)の表面上の硫黄ブルームの存在は、その構成部分の他の構成部分/層へのタックおよび接着に非常に有害である。シクロオクタ硫黄への未熟な転化および高分子硫黄加硫剤と加硫可能なエラストマー調合物中のブルームのリスクを避けるために、現在の商業的慣習は、高分子硫黄のシクロオクタ硫黄への低パーセンテージでの転化でさえ、濃度を溶解度の限度を超えさせ、およびブルームの可能性を作る場合があるので、約100℃未満の温度への限定された多い加工回数を含む。したがって、押し出し、カレンダー加工、成形、形成、または他の加工作業中に存在するせん断の動き(およびこれらによって生成される摩擦熱)は、物品メーカーへの温度制御への挑戦の現在の要求となっている。
【0005】
これらの挑戦の管理は、典型的には一方で生産性、スループット、加工速度および製品コストと、他方で製品性能および品質との間の繊細なバランスを含む。未熟な高分子硫黄の転化およびブルームのリスクを減少させることを満たす限界は、製造速度を低下させ、したがってメーカーの収益性を低下させる。逆に、より小さい未熟な転化傾向(したがってより高い熱安定性)を有する加硫剤は、製造速度、したがってプラントが作るユニットの数およびメーカーの利益を増加させるであろう。より速い製造速度に加えて、ポリマーからシクロオクタ硫黄への転化が減少する場合、混合機は、より大きな柔軟性を有して加硫可能組成物中により硫黄を取り込み、それによってさらにより高い品質および耐久力を有する製造品へのより大きな可能性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術は、例えば、上記の米国特許第’470号明細書、および米国特許第2,460,365号明細書、米国特許第2,462,146号明細書および米国特許第2,757,075号明細書に記載されているように、高分子硫黄の熱安定性を改善し、および種々の安定剤または安定化加工の使用を通して硫黄ブルームを阻止または妨げることを試みてきた。これらすべての努力にかかわらず、ブルームのリスクおよび損害を避けながら、加硫物品メーカーのための改善されたスループットおよび効率となる、より高い熱安定性を有する硫黄加硫剤への継続するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の形態において、本発明は、加硫したエラストマー物品を形成するのに使用できる加硫可能エラストマー化合物中において改善された熱安定性を有する加硫組成物に関する。概して、加硫組成物は加硫剤を含み、加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。組成物はさらに、任意選択的にキャリアーを含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合で、示差走査熱量測定の充分に確立された方法により測定した場合約155℃~約167℃の溶融開始点によって特徴付けられる(以下DSC溶融開始点(melt point onset)という)。
【0008】
別の形態では、本発明は、少なくとも1種のエラストマーおよび加硫剤を含む加硫可能エラストマー調合物であって、加硫剤がシクロドデカ硫黄化合物を含む、調合物に関する。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる。
【0009】
別の形態では、本発明は、エラストマーキャリアー中に加硫剤を含み、加硫剤がシクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫剤マスターバッチに関する。
【0010】
また別の形態において、本発明は、概して、シクロドデカ硫黄が加硫可能エラストマーのための加硫組成物中で加硫剤として使用される場合、公知の形態のシクロドデカ硫黄および望ましい他の特徴に対して上昇した融点を示すシクロドデカ硫黄化合物に関する。さらに具体的に言うと、本発明は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられるシクロドデカ硫黄化合物を対象にする。
【0011】
適用範囲のさらなる形態および領域は、本明細書中に提供される説明から明白になるだろう。記載および特定の実施例は例示するだけの目的を意図し、本発明の精神および範囲を限定することを意図しないことは理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において使用される場合、以下の用語または語句は下記のように規定される。
【0013】
「シクロドデカ硫黄化合物」は、12個の硫黄原子が単一の同素環に形成される、硫黄の環状同素体を意味し、また本明細書中においてS12とも言う。
【0014】
「エラストマー」は、加硫(vulcanization)(または架橋(crosslinking))後および室温において、応力下で、伸び、圧縮され、またはせん断を掛けられることができ、および応力が開放されると直ちにほぼその元のバランスとれた寸法に力を有しつつ戻る、ゴムに限定されない、任意のポリマーを意味する。
【0015】
「加硫剤」は、加硫条件下の場合、加硫可能調合物に加硫をもたらすのに有効な材料を意味する。
【0016】
「加硫組成物」は、加硫条件下で加硫可能調合物の加硫をもたらすために添加物として使用できる成分の組み合わせを意味する。
【0017】
「加硫可能エラストマー調合物」は、加硫剤およびエラストマーを含み、および加硫条件下に置かれた場合に加硫できる、組成物を意味する。
【0018】
第1の形態において、本発明は、加硫した物品を形成する使用のための加硫組成物を対象にする。この組成物は加硫剤を含み、加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。本発明の加硫組成物中の加硫剤は、加硫した物品を形成するのに使用できる加硫可能調合物中で改善された熱安定性を示すことが、予想外にも見出された。好ましい態様では、加硫可能調合物は、加硫可能エラストマー調合物であり、および加硫した物品は、加硫したエラストマー物品である。
【0019】
好ましくは、本発明の加硫組成物の加硫剤は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、シクロドデカ硫黄化合物を含む。
【0020】
この加硫組成物はさらに、キャリアーを含むことができる。加硫組成物のための適したキャリアーは、典型的には非エラストマーであり、および本発明のシクロドデカ硫黄に対して実質的に不活性でありおよび任意の1種または2種以上の追加の成分、例えば、プロセス油、ステアリン酸、セルロースバインダー、例えばカルボキシメチルセルロース、セルロースエーテルまたはエステル、キサンタンおよびその同類のもの、植物油、エポキシ化植物油、ポリマーバインダーまたは分散剤、例えば一般的な目的エラストマーまたはオレフィンポリマーまたはコポリマーを含むことができる。
【0021】
本発明の加硫組成物中の加硫剤は、加硫組成物の全質量に基づいて、好ましくは約20質量%~100質量%、さらに好ましくは約40質量%~約100質量%のシクロドデカ硫黄化合物を含む。これらの範囲が好ましいが、加硫組成物が、加硫剤の成分として、他の公知の加硫剤、例えば高分子硫黄、シクロオクタ硫黄およびその同類のものをさらに含む場合、好ましい範囲より低い量のシクロドデカ硫黄化合物を有する加硫組成物を考えることができることが、当業者は理解するであろう。本発明の好ましい加硫組成物は、したがって、高分子硫黄およびシクロオクタ硫黄からなる群から選択される1種または2種以上の硫黄含有硬化剤(curative)を任意選択的にさらに含む、加硫剤を含む。
【0022】
加硫組成物はまた、1種または2種以上の任意選択的成分、例えば高分子硫黄、流れ助剤、脂肪酸、酸化亜鉛、加速剤、活性化剤、予加硫阻害剤、酸抑制剤、劣化防止剤、可塑剤または他の混合成分または添加物をさらに含み、加硫組成物、それが成分であるそのエラストマー調合物、またはそのエラストマー調合物で形成されたエラストマー物品の特性をさらに高めおよび/または性能を改善できる。
【0023】
上に記載したように、加硫可能調合物が加硫可能エラストマー調合物でありおよび加硫した物品が加硫したエラストマー物品である態様では、本発明の加硫組成物は、好ましくは有用である。したがって、別の形態では、本発明は、加硫可能エラストマー調合物を対象にする。本発明の加硫可能エラストマー調合物は、少なくとも1種のエラストマーおよび加硫剤を含み、加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物である。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合約155℃~約167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、成分として加硫剤を含む加硫組成物とエラストマーとを混合することによってエラストマーに加えられ、本発明の加硫可能エラストマー調合物は、好ましくは少なくとも1種のエラストマーおよび本発明の加硫組成物を含むようになっている。
【0024】
エラストマー化合物中のエラストマーは、当業者に公知の任意の加硫可能不飽和の炭化水素エラストマーであることができる。これらのエラストマーは、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレン(EP)またはエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、およびその同類のものを含むことができるが、これらに限られない。加硫可能エラストマー調合物は、ゴム加工助剤において従来使用されている他の添加物、例えば流れ/加工助剤、酸化防止剤、劣化防止剤、脂肪酸、酸化亜鉛、加速剤、増量剤、接着促進剤、活性化剤、結合剤、バッファー、フィラー、顔料、予加硫阻害剤、酸抑制剤、可塑剤または他の混合成分、またはそれが形成されるエラストマー調合物またはエラストマー物品の特性をさらに高めおよび/または性能をさらに改善する添加物を任意選択的にさらに含むことができる。適した加速剤は、グアニジン、チアゾール、スルフェンアミド、スルフェンイミド、ジチオカルバメート、キサンテート、チウラム、およびそれらの組み合わせまたはそれらの混合物を含むことができるが、これらに限られない。
【0025】
本発明の加硫可能エラストマー調合物中のエラストマー化合物および加硫剤シクロドデカ硫黄化合物の量は、多くの因子、例えば、意図した加工条件、加硫組成物中の加硫剤の濃度(そうした組成物が利用される場合)および生じるエラストマー物品の機械的および他の性能要求によって変化するであろう。典型的には、本発明の加硫可能エラストマー調合物中の加硫剤シクロドデカ硫黄化合物の量は、エラストマー調合物の全質量に基づいて、0.25~10質量%のシクロドデカ硫黄化合物である。したがって、加硫組成物は、エラストマー調合物に、シクロドデカ硫黄が約80質量%で加硫組成物中に存在する場合エラストマー調合物の全質量に基づいて、0.3~43質量%のシクロドデカ硫黄を供給するのに充分な量で加硫可能エラストマー調合物中に存在する。
【0026】
別の形態では、本発明は、加硫可能エラストマー調合物を作るための方法を対象にする。この方法は、概してエラストマーと加硫剤とを混合して、エラストマー化合物中に分散した加硫剤を含む加硫可能エラストマー調合物を生成することを含み、加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物である。好ましくは、加硫剤は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合約155℃~約167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられるシクロドデカ硫黄化合物である。加硫剤シクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは加硫組成物の成分としてエラストマーと混合されるにつれて、この方法は、好ましくは加硫組成物とエラストマー化合物とを組み合わせて、加硫可能エラストマー調合物を生成させ、加硫組成物が加硫剤としてシクロドデカ硫黄化合物を含む、ステップを含む。
【0027】
別の形態では、本発明は、加硫したエラストマー物品を形成させる方法を対象にする。この方法は、概して、加硫可能エラストマー調合物を製造する上記の方法のステップを含み、その後形成された形に加硫可能エラストマー調合物を形成すること、および形成された形を加硫して、加硫したエラストマー物品を形成させることを含む。加硫可能エラストマー調合物を「形成する」ステップは、本明細書中で使用される場合、典型的には1つまたは2つ以上のステップ、例えば混合、カレンダー加工、押出しおよび他の加工、成形または形成ステップを含み、多くの場合、エラストマー物品、例えばタイヤおよびタイヤ構成部分の製造の間に、加硫物品メーカーによって、加硫可能エラストマー調合物に適用される。本発明の加硫組成物の加硫剤シクロドデカ硫黄化合物は、従来技術の硫黄加硫剤より改善された熱安定性を示すので、本発明の重要な形態は、ステップの少なくとも一部のために125℃超に、加硫可能エラストマー調合物のバルク平均加工温度を高めることを含むことができる形成ステップであることである。したがって、形成ステップの間に加硫可能エラストマー調合物のバルク平均加工温度は、125℃より高い。この形態の要素として、本発明はまた、本発明の加硫した調合物で形成された加硫した物品、さらに好ましくは本発明の加硫したエラストマー調合物で形成された加硫したエラストマー物品を含むことができる。
【0028】
別の形態では、本発明は、加硫剤マスターバッチを対象にする。加硫剤マスターバッチは、濃縮物としてまた知られており、適当なエラストマーキャリアー中の上昇した活性成分(例えば加硫剤)の濃度において意図的に生成される成分の組み合わせであり、その後にエラストマーと組み合わせられるか、またはエラストマー中に「入れられた(let down)」場合に、所望の最終の活性成分濃度を有する最終の加硫可能エラストマー調合物が生成されるようになっている。本発明の加硫剤マスターバッチは、(i)マスターバッチの全質量に基づいて40~90質量%の量の加硫剤および(ii)エラストマーキャリアーを含み、加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合約155℃~約167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる。適したエラストマーキャリアーの例は、エラストマーであり、および天然ゴムまたは任意の合成ゴム、例えば天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレン(EP)またはエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、およびその同類のものを含むことができるが、これらに限られない。好ましくは、エラストマーキャリアーは、所望の最終の活性成分濃度を有する最終の加硫可能エラストマー調合物を生成する場合、マスターバッチが組み合わされる、エラストマーと釣り合うかまたは適合するように選択される。加硫剤マスターバッチは、ゴム加工において従来使用されている他の添加物、例えば流れ/加工助剤、酸化防止剤、劣化防止剤、脂肪酸、酸化亜鉛、加速剤、増量剤、接着促進剤、活性化剤、結合剤、バッファー、フィラー、顔料、予加硫阻害剤、酸抑制剤、可塑剤または他の混合成分または、それが形成されるエラストマー調合物またはエラストマー物品の特性をさらに高め、および/または性能をさらに改善する添加物を任意選択的にまた含むことができる。
【0029】
本発明はまた、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合約155℃~約167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられるシクロドデカ硫黄化合物を対象にする。さらに好ましくは20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合、DSC溶融開始点は157℃~167℃であり、そして最も好ましくは、DSC溶融開始点は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合、160℃~167℃である。本発明のシクロドデカ硫黄化合物の重要な形態は、公知の形態のシクロドデカ硫黄に対して、上昇した融点を示すことが予想外に見出され、したがって本発明の加硫組成物のために特に適した加硫剤として驚くほど一致したことである。
【0030】
シクロドデカ硫黄が加硫組成物中の加硫剤として使用される場合、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは望ましい他の物理的特徴を示す。例えば、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、BET法により測定して、好ましくは50m2/g以下の比表面積、好ましくは25m2/g以下の比表面積、さらに好ましくは10m2/g以下の比表面積、またさらに好ましくは5m2/g以下の比表面積、そして最も好ましくは2m2/g以下の比表面積を有する粒子形態である。さらに、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは0.1~1200μm、さらに好ましくは0.5~300μm、最も好ましくは10~100μmのメジアン粒径を有する粒子形態である。さらに、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは15以下の多分散性比、さらに好ましくは10以下の多分散性比そして最も好ましくは以下の8以下の多分散性比を有する粒子形態である。
【0031】
比表面積は、また「BET」面積として知られ、粒子状の材料または粉末の比表面積が、固体の表面上へのガスの物理的吸着によって、およびBrunauer、EmmettおよびTeller(BET)吸着等温線式に基づいて表面上の多層に対応する吸着物ガスの量を計算することによって、決定される周知の測定である。メジアン粒径(median particle diameter)は、時々「D50」とも呼ばれ、当該技術において典型的に使用され、材料の粗さについて一般的な指標を与えるパラメーターである。多分散性比は、「D90/D10」とも呼ばれ、粒径の分布の均一性の指標として機能するパラメーターである。D90は、試料の質量の90%がより小さい粒子からなる直径であり、一方D10は、試料の質量の10%がより小さい粒子からなる直径である。したがって、D90/D10は、これらの2つの値の比である。
【0032】
D50およびD90/D10測定に必要な粒子直径を決定するための装置および方法は周知技術であり、および市販されており、例えば:Malvern(Mastersizerシリーズ)、Horiba(LAシリーズ)、Sympatec(Helosシリーズ)およびShimadzu(SALDシリーズ)である。比表面積を決定するとともに、窒素吸着等温線を決定するための方法、例えばASTM-D1993-03(2013)は、周知技術である。さらに、窒素吸着等温線を決定するための装置は周知でありおよび例えばMicromeritics(Tristar IIシリーズ)およびQuantachrome(Novaシリーズ)から市販されている。
【0033】
概して、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、(i)シクロオクタ硫黄、テトラメチルエチレンジアミンおよび亜鉛を反応させて、テトラメチルエチレンジアミン/ZnS6錯体を生成させることと、(ii)前記錯体と酸化剤とを、発熱の反応条件下で反応させて、1種または2種以上の未反応の反応物、副生成物および不純物を含む場合があるシクロドデカ硫黄を含有する反応混合物を生成させることとを含む方法により合成される。適した酸化剤は、制限なく、臭素、塩素、およびチオシアンを含む。好ましくは、この方法は、シクロドデカ硫黄を含有する反応混合物からシクロドデカ硫黄を単離することをさらに含む。単離ステップのための適した技術は、例えばシクロドデカ硫黄を含有する反応混合物から、好ましくはCS2および芳香族溶媒からなる群から選択される溶媒を使用して、シクロドデカ硫黄を溶解させおよび再結晶化させることを含む。
【0034】
以下の実施例は、本発明の多くの形態および利点を特異性および詳細に具体的に示すために提供するが、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。本発明の精神から離れない変化形、改変および応用は、当業者によりただちに認識されるだろう。
【0035】
分析方法
示差走査熱分析(DSC)-シクロドデカ硫黄化合物の溶融開始点および融点範囲を測定するための示差走査熱分析(DSC)は、融解ピーク温度(Tm1)および発熱ピーク温度(Tex1)を決定する第一加熱走査を含む。使用する装置は、冷蔵冷却システムを備えたTAのQ2000 DSC(RCS)であった。使用する手順は下記のように本明細書に記載される。装置は製造者の「使用者の取扱説明書」に従って;アダマンタン、インジウムおよび鉛の融点の開始点を、それぞれ、-65.54℃、156.60℃、および327.47℃に、インジウムの融解熱を6.8cal/gに設定することにより較正した。それから、約3.0mgの較正検体を、50cc/分の流速でヘリウムの存在下20℃/分の速度でスキャンした。硫黄含有検体について、同様な方法を使用した。2つのアルミニウム密封蓋と共にTAのTzeroアルミニウムパンおよび蓋を秤で風袋の重さを量った。約3.0mgの硫黄含有検体をTzeroパン中に重量を量り入れ、風袋の重さを量った蓋で覆い、1対の「黒」ダイを備えたTAのサンプルクリンパを用いて圧着した。「黒」ダイスタンドからの圧着した検体は、2つの風袋の重さを量った密封蓋が検体パンの先端に置かれて先端「青」ダイで圧着される「青」ダイスタンドへ移動された。2つの密封蓋と共に空の圧着したTzeroアルミニウムパンおよび蓋は、参照として同様に準備された。検体および参照パンは、室温でDSCトレイおよびセル内に入れられた。DSCは冷蔵冷却システムを用いて-5℃まで冷却された後、検体は、ヘリウムの存在下、20℃/分の速度で-5℃から200℃まで加熱された。「DSC融点開始点」は、吸熱融解現象の開始における温度と定義された。Tm1は解析オプション「Signal Maximum」を用いて融解曲線上で起こる低融解ピーク温度をいい、TAのソフトウェア Universal V4.7Aを用いてデータ解析は行われた。Tex1は、解析オプション「Signal Maximum」を用いて、Tm1後直ぐに起こる発熱ピーク温度をいう。
【0036】
UniQuant(UQ)-サンプルは、X線蛍光およびUniQuantソフトウェアパッケージを用いてまた分析された。UniQuant(UQ)は、サンプルのスタンダードレスXRF分析を提供するX線蛍光(XRF)分析ツールである。それから、サンプルは周期表の第3周期から始まる72元素まで(すなわち、Naからより高いZまで)について半定量的に分析されることができる。データは、較正標準品およびサンプル間のマトリックス差ならびに吸収およびエンハンスメント効果;すなわち、元素間効果について数学的に補正される。結果の質に影響し得るいくつかの因子は、サンプルの粒度(影効果をもたらす)、鉱物学的効果(サンプルの不均質性が理由)、不十分なサンプルサイズ、およびサンプルマトリックスの認識不足を含む。サンプルが両方で測定可能である場合では、XRF UQ分析およびICP-OES(すなわち、定量)分析は、概して、±10%以内で一致する。サンプルは、UQにより、Zn、Br、Cl、およびS含有量について分析された。
【0037】
NMR-サンプル約0.0200gをバイアル中に重量を量り入れる。内部標準、1、4-ジメトキシベンゼン約0.0200gを同じバイアル中に重量を量り入れる。約1mLのピリジン-d5、また材料が可溶である他の重水素化溶媒を加える。この材料の1H NMRを測定し、δ3.68におけるピークを積分する(6プロトン)。δ2.45およびδ2.25における2つのピークを積分する(16プロトン)。次式を用いて純度%を算出する。
純度%=100[mg IS/MW IS)×(∫サンプル/∫IS)×(6/16)×(MWサンプル/mgサンプル)]
IS=内部標準
MW=分子量
∫=1H NMRの積分値
【0038】
ラマン分光法-785nm励起レーザーおよび5倍拡大顕微鏡対物レンズを備えたReniShaw inVia confocalラマン顕微鏡およびWiRE 4.1ソフトウェアを用いて、サンプルのラマンスペクトルは測定された。
【実施例】
【0039】
例1-(TMEDA)ZnS6錯体の調製
テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、(408グラム)およびメタノール(72グラム)を、機械的攪拌機(容器の壁の近くに届く)、熱電対、N2バブラー、水冷却器、および電気加熱マントルを備えた3Lの3つ口ガラスフラスコに加えた。系を窒素でパージし、および混合物の温度を35℃に調整した。新たに粉砕したシクロオクタ硫黄(粉末)を、425~450回転/分で撹拌しながら、5分間かけて加えた。温度を45℃まで上げ、n40グラムの金属性亜鉛粉末(<10μm粒径、>98%純度)を、425~450回転/分で撹拌しながら、5分間かけて加えた。次に灰緑色がかった黄色反応器内容物を86℃までゆっくり加熱し、および4時間、または黄色になるまでかき混ぜた。いったん黄色になると、混合物を撹拌しながらその温度でさらに2時間維持した。反応時間の終わりに、フラスコを室温まで冷まし、攪拌器を止め、および真空抽出により自由液体を除去した。メタノール(600ml)をフラスコに加えてスラリーを作り、および1時間かき混ぜた。次に生じたスラリーを真空ブフナーフィルター(1μm紙)でろ過し、および2回のそれぞれ200mlのメタノールで洗浄した。固体をフィルターから除去し、および50℃および0.1MPaに設定した真空オーブン内で一晩乾燥した。収率は、定量的に近く、上記の手順当たり、233グラムの(TMEDA)ZnS6錯体、NMR分析によって97.5%の純度であった。
【0040】
例2-(TMEDA)ZnS6錯体からの本発明のシクロドデカ硫黄(S12)の調製
塩化メチレン(750mL)を、機械的攪拌機、熱電対、N2バブラーおよびストッパーを備えた2Lの4つ口ガラスフラスコに加えた。臭素(16.7g、104.5mmol、1.0当量)を50mLのCH2Cl2を含む瓶中に計量して入れ、およびこの混合物を、フラスコに加えた。溶液を4℃に冷却した。例1からの亜鉛錯体(TMEDA)ZnS6(97.5%純度)(40g、104.3mmol、1.0当量)を、一度に加え、および50mLのCH2Cl2で洗浄した。11℃まで直ちに発熱した。溶液を15分間攪拌し、ろ過し、冷CH2Cl2で洗浄し、および吸引乾燥した。固体をTHF(250mL)中でスラリーにし、ろ過しおよび吸引乾燥した。得られた固体を冷CS2(155mL)中でスラリーにし、ろ過しおよび吸引乾燥して10.2gの黄白色固体を与えた。(亜鉛錯体中の硫黄に基づいて、収率50.8%)。上記のUQ元素分析法を使用した評価は、材料が96.6%の硫黄(ラマン分光法によってすべてシクロドデカ硫黄(S12)および硫黄ポリマー)、2.67%の亜鉛および0.7%の臭素であることを示した。
【0041】
シクロドデカ硫黄を、機械的攪拌機、微細ガラスフリットフィルタープレート、熱電対、N2バブラー、ドライアイストラップ、および底弁を備えた上部の2Lのジャケット付き3つ口ガラスフラスコ、および機械的攪拌機、水冷冷却器および1Lのガラス受けポット、熱電対、N2バブラー、ドライアイストラップ、および底弁を備えた、下部の2Lのジャケット付き3つ口ガラスフラスコを含む2容器系中でさらに精製した。精製手順を開始するために、二硫化炭素(1200グラム)を、上記の反応ステップ(10.2g)からのシクロドデカ硫黄と伴に上部容器に加えた。フラスコの内容物を、40~42℃に攪拌しながら加熱した。30分間の混合物の攪拌後に、容器の底弁を開け、および自由液体を、フリットガラスフィルターを通して下部のフラスコに移した。初期の固体のほぼ半分がフィルター上に残った。第2の容器中の溶液を、20分以下の時間を掛けて-6℃に冷却した。相を冷却する間、微細な淡黄色結晶のシクロドデカ硫黄が生成した。溶液を、-6℃の最終温度において約15分間撹拌し、容器の底弁を開けおよびS12-CS2のスラリーを、2μmのフィルター紙を取り付けたブフナー漏斗上に落とした。淡黄色結晶のシクロドデカ硫黄を吸引乾燥し、およびフィルター紙から掻き取った。最終ろ過からの母液を、補うCSと伴に(残留固体を含む)上部容器に戻し、1200グラムの液体を与えた。上部容器をかき混ぜ、および再度40~42℃に加熱し、およびろ過-冷却手順を繰り返して、精製されたシクロドデカ硫黄(S12)結晶の第2の収穫を回収した。最終の加熱-溶解ステップ後に、約0.26グラムの緑色がかった黄色固体が、上部フリットフィルター上に残っていた。合わせた湿ったS12結晶を、30℃および約0.01MPaの真空オーブン中に一晩置いて残留するCS2を除去して、9.3グラムの乾燥し、精製されたシクロドデカ硫黄を与えた。上記のUQ元素状法による評価は、この材料が、少なくとも99.9%の硫黄(ラマンですべてS12)、および100ppm未満の亜鉛および臭素であることを示した。融点を最初DSCにより決定し、そして次に熱抵抗融点装置を使用して、それぞれ162℃および157℃と決定した。硫黄のS12への全体的な収率は46%であった。
【0042】
例3-シクロドデカ硫黄材料の融点の比較
数バッチの本発明の精製されたシクロドデカ硫黄を、例1および2に例示された手順に従って調製した。それぞれの最終の精製された材料をラマン、Uniquat(商標)またはICPによって測定し、およびDSCを使用して上記の様に溶融開始点を測定した。Steudel,R.;Eckert,B.“Solid Sulfur Allotropes”、Topics in Current Chemistry(2003)中の10℃/分、5℃/分および2.5℃/分のDSC加熱速度で測定された報告されたデータから外挿した「対照の」シクロドデカ硫黄溶融点と伴に、結果を下記表1に記載した。
【表1】
【0043】
上記に示したように、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、従来技術のシクロドデカ硫黄化合物より大いにおよび予想外に高い溶融開始点を示した。本発明のための溶融点における観察された変化は、ラマンによって検出されたように試料中の不純物の度合いにより予期された。
【0044】
上で述べたように、熱安定性(または熱的劣化への耐性または可溶性硫黄への戻り)は、適した加硫剤を選択する上で重要なパラメーターである。混合における本発明の熱安定性能は、下記表2に記載されている予め生成した組成物を下記のものと混合することにより、この例3中に示されている。
【表2】
【0045】
対照の加硫可能エラストマー調合物を生成する(Eastman Chemical Companyから入手可能な6.25gのCrystex(商標)HD OT20としての)5.0phrの市販されている高分子硫黄または本発明の加硫可能エラストマー調合物を生成する5.00phrの本発明のシクロドデカ硫黄のいずれかを上記のものと混合している。1(1.0)phrの従来の加硫加速剤、N,N‘-ジシクロヘキシル-2-メルカプトベンゾチアゾールスルフェンアミド(DCBS)を、それぞれの加硫可能エラストマー調合物にまた加えた。4羽根のHローターを備えたKobelco 1.6L実験室混合機を使用して混合した。上記の手順当たり作った6つの試料項目での調合物および放出温度を下記表3中に説明する。
【表3】
【0046】
それぞれの試料項目では、試料を混合機から放出し、および70℃で平衡にした2ロールミル上でシートにした。次にそれぞれの試料のゴム内容物をジオキサンで抽出しおよびそれぞれの項目の可溶性硫黄内容物をHPLC(Agilent 1260 高性能液体クロマトグラフィー)によって決定した。放出後のターゲット温度、実際のゴム温度および初期の硫黄材料の割合として報告したシクロオクタ硫黄含有量を、下記の表4中に示す。
【表4】
【0047】
上記に示すように、本発明のシクロドデカ硫黄は、現在市販されている高分子硫黄加硫剤に比較すると、シクロオクタ硫黄への著しく減少した戻り(したがってゴム混合プロセス中で改善された熱安定性)を示した。下記のさらなる例はまた、本発明の加硫可能エラストマー調合物の形成を記載し、これらは、その後に熱安定性/ブルーム抵抗で試験され、および加硫剤として本発明の化合物の有効性を示すことがまた評価される。
【0048】
例4-本発明のシクロドデカ硫黄化合物を含む加硫可能エラストマー調合物の生成
第一ステップとして、エラストマー物品の製造において使用される従来の材料の前駆体組成物P-1を、以下の成分を組み合わせることによって調製した。
【表5】
【0049】
次に、本発明の加硫可能エラストマー調合物(試料A-1)を以下のように調製した。
【表6】
【0050】
比較のために、対照の加硫可能エラストマー調合物C-1およびC-2をまた、上記組成物中の本発明のシクロドデカ硫黄を、以下の(C-1)高分子硫黄および(C-2)シクロオクタ硫黄(斜方晶形(rhombic)または可溶性)硫黄で置換することによって、調製した。
【表7】
【表8】
【0051】
A-1、C-1およびC-2のそれぞれの生成において、ブラベンダーミキサーを予め80℃に加熱し、次にP-1を混合機に入れ、および50回転/分で30分間混合した。次に混合速度を35回転/分に減速させて、硫黄成分および加速剤を加え、および生じた組成物を35回転/分でさらに90分間混合した。次に材料を、混合機から放出し、その温度を記録し、および80℃の粉砕機上でシートにした。
【0052】
例5-熱安定性試験
上記の加硫可能エラストマー調合物A-1およびC-1を、ローター速度を35回転/分に最初に設定した、約88℃に予め加熱したBrabender内部混合機に入れた。ゴムを混合しおよびローター速度を、より早くまたはより遅く調整し、混合機中のゴム混合物が125℃に長時間維持されて、可能性のある商業的プラントの加工条件、例えば押し出しまたはカレンダー加工作業をシミュレートするようになっている。下記の表9に示されるように、種々の時間で試料を混合機から抽出し、および試料の(本発明の高分子硫黄とシクロドデカ硫黄との両方の劣化/戻りの生成物としての)シクロオクタ硫黄の質量%を、上記例3に記載されたシクロオクタ硫黄測定のための方法を使用して測定した。シクロオクタ硫黄の質量%での結果を以下の表9に示す:
【表9】
【0053】
上記表9の125℃の加工温度において、高分子硫黄は、既に第1の試料が2分で採取されたブルーム閾値レベルをほとんど3倍で超えていたが、一方本発明のシクロドデカ硫黄は、そのブルーム閾値レベルに到達する前に125℃で約5分間加工できる。多くの商業的工場の方法のステップが、スループット、効率および生産数量を最大化するために、より高い温度で2分未満および多くの場合1分未満で完了するので、この予期しない利点は、特に重要である。
【0054】
例6-加硫有効性
加硫プロセスの間に、加硫速度および効率に関連した4つのパラメーター(最大トルク、スコーチ時間(Scorch Time)、t
90および加硫の最大速度)を測定しながら、加硫可能エラストマー調合物A-1、C-1およびC-2の複数の試料を、130、140、155、160、167、および180℃で別々にΑlpha Technologiesの移動ダイ(Moving Die)レオメーターを使用して加硫した。最大トルク(MH)は、架橋密度における増加に直接関連した弾性の増加とともに、形成されたネットワーク密度の尺度である。スコーチ時間(ts
2)は、また硬化の開始として知られ、最小の測定されたトルクより2dNm上のトルク増加を示すのに系に必要な時間として規定される。T
90は、90%の硬化状態に到達するのに必要な時間である。加硫(Rh)の最大速度は、硬化サイクルの間に観察される加硫の最も速い速度の尺度である。これらの4つのパラメーターを試験した結果は、下記の表10~13に記載されている。
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0055】
表10~13中のデータは、本発明のシクロドデカ硫黄化合物が効果的および効率的な硫黄加硫剤であることを示す。
【0056】
本発明の様々な態様の前述の記載は例示および説明を目的として提示されている。これは全てを網羅している訳ではなく、開示される正確な態様に本発明を限定するものでもない。上記教示を踏まえて、多数の改変または変化形が可能である。考察された態様は、本発明の原理およびその実際的な用途の最良の具体例を提供し、それにより当業者が本発明を様々な態様で、かつ、企図される特定の使用に適するように様々な修正を行って利用できるように選択され説明された。全てのこのような改変および変化形は、それらが公平で合法的、かつ、公正に権利を得る広さに従って解釈される場合、添付の請求の範囲により決定される本発明の範囲内である。
(態様)
(態様1)
加硫した物品を形成する使用のための加硫組成物であって、前記加硫組成物は加硫剤を含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫組成物。
(態様2)
キャリアーをさらに含む、態様1に記載の加硫組成物。
(態様3)
前記加硫剤は、高分子硫黄およびシクロオクタ硫黄からなる群から選択される1種または2種以上の硫黄含有硬化剤をさらに含む、態様1に記載の加硫組成物。
(態様4)
前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、態様1に記載の加硫組成物。
(態様5)
前記シクロドデカ硫黄化合物の量は、加硫組成物の全質量に基づいて、約20~約100質量である、態様1に記載の加硫組成物。
(態様6)
前記シクロドデカ硫黄化合物の量は、加硫組成物の全質量に基づいて、約40~約100質量である、態様1に記載の加硫組成物。
(態様7)
20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、シクロドデカ硫黄化合物。
(態様8)
20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、前記DSC溶融開始点は、157℃~167℃である、態様7に記載のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様9)
0.1~1200μmのメジアン粒径を有する、粒子形態のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様10)
0.5~300μmのメジアン粒径を有する、態様9に記載のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様11)
15以下の多分散性比を有する、粒子形態のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様12)
10以下の多分散性比を有する、態様11に記載のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様13)
8以下の多分散性比を有する、態様12に記載のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様14)
BET法により測定して50m
2
/g以下の比表面積を有する粒子形態である、態様12に記載のシクロドデカ硫黄化合物。
(態様15)
少なくとも1種のエラストマーおよび加硫剤を含む、加硫可能エラストマー調合物であって、前記加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫可能エラストマー調合物。
(態様16)
前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定した場合に、155℃~167℃のDSC溶融開始点によって特徴付けられる、態様15に記載の加硫可能エラストマー調合物。
(態様17)
前記調合物中の前記シクロドデカ硫黄の量は、調合物の全質量に基づいて、0.25~10質量%のシクロドデカ硫黄である、態様15に記載の加硫可能エラストマー調合物。
(態様18)
(i)マスターバッチの全質量に基づいて、40~90質量%の量の加硫剤と、(ii)エラストマーキャリアーとを含む、加硫剤マスターバッチであって、前記加硫剤は、シクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫剤マスターバッチ。
(態様19)
態様15に記載の加硫可能エラストマー調合物で形成された、加硫したエラストマー物品。