(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】時計用の脱進機
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
G04B15/14 Z
(21)【出願番号】P 2020564263
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2019062338
(87)【国際公開番号】W WO2019219679
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-14
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】523164469
【氏名又は名称】フランソワ ベッセ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルノー、ドミニク
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025720(JP,A)
【文献】スイス国特許発明第00700585(CH,B5)
【文献】特表2017-521672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用の直接脱進機(1)であって、
-第1の回転軸(X1)を中心に回転可能であり、それぞれがロック面(3p)を有する一連の周辺歯(3)を備えたがんぎ車(2)であって、前記歯(3)は、これらの端部によって前記がんぎ車の回転中に円形軌道Cを規定する、がんぎ車と、
-ピン(7,8)で区切られた2つの端部ロック位置間で第2の回転軸(x3)の周りで回転可能なアンクル(4)であって、入口パレット(10)と出口パレット(11)とを有し、そのそれぞれは、ロック面(10p、11p)を有し、各パレットがそのロック面(10p、11p)上で、前記ロック位置の各々において前記がんぎ車の歯(3)の前記ロック面(3p)と当接するように協働するように前記アンクル上に配置され、前記アンクル(4)は、フォーク(43)をさらに有する、アンクルと、
-第3の回転軸(X2)周りで枢動する調節器(5)に剛性に連結することができる少なくともピン(6)であって、前記がんぎ車(2)から前記アンクルを少なくとも部分的にロック解除するために、前記調節器(5)の各交替時に前記アンクルの前記フォーク(43)と協働する、ピンと、
-前記調節器(5)に剛性に連結することができる少なくとも1つのインパルスパレット(9)であって、前記がんぎ車の歯(3)と協働して前記調節器(5)に直接インパルスを伝達する、インパルスパレットとを備える、時計用の直接脱進機において、
前記がんぎ車の少なくとも各歯(3)または前記入口パレットもしくは出口パレット(11)の少なくとも1つが、前記ロック面(3p、10p、11p)の延長部内に、傾斜面(3i、10i、11i)を含み、
前記傾斜面(3i、10i、11i)の端部が、0.5°から5°の間に含まれるいわゆるマイクロインパルス角βを区切り、前記角度は、前記アンクル(4)の前記回転軸(X3)に関連して考慮され、前記傾斜面
(3i、10i、11i)は、前記アンクル(4)をその軸(X3)上で回転させることによって前記がんぎ車(2)の前記
円形軌道C内で前記パレットが移動する間、前記調節器(5)に間接インパルスを提供するように配置されることを特徴とする、時計用の直接脱進機。
【請求項2】
前記傾斜面(3i、10i、11i)の端部
により区切られる前記角βが、0.5°から2°の間に含まれることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機。
【請求項3】
前記傾斜面(3i、10i、11i)が割線方向に延び、前記ロック面(3p、10p、11p)と共に、30°から70°の
間に含まれる鋭角iを形成することを特徴とする、請求項1または2に記載の脱進機。
【請求項4】
前記鋭角iが、40°から60°の間に含まれることを特徴とする、請求項3に記載の脱進機。
【請求項5】
前記フォーク(43)が、ノッチ(46)によって分離され
る2つのホーン(44、45)を備え
、前記フォーク(43)は、ガードピンを有しないことを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の脱進機。
【請求項6】
前記フォーク(43)の前記ホーン(44、45)が、前記アンクルの前記回転軸(X3)および前記ノッチ(46)の中心を通過する直線に関連して線対称であり、前記ノッチ(46)から曲率半径R1を有する円弧にしたがって延び、その自由端に、前記ホーンが延びる前記アンクルの正中面に垂直に突出するスタッドまたはフィンガ(44e、45e)を有することを特徴とする、請求項
5に記載の脱進機。
【請求項7】
前記調節器(5)に取り付けることができる円形フランジ(12)を備え、前記フランジは、前記調節器(5)の前記回転軸上に中心揃えされ、前記ピン(6)は、前記がんぎ車のロック段階中に前記ホーンの内面に沿って非接触で移動するように前記フランジ内に埋め込まれることを特徴とする、請求項
5に記載の脱進機。
【請求項8】
前記曲率半径R1が、0.5から1.5cmの間に含まれることを特徴とする、請求項
6に記載の脱進機。
【請求項9】
前記フランジが、垂直面内で自由端が面取りされていることを特徴とする、請求項
7に記載の脱進機。
【請求項10】
前記ピン(6)および前記インパルスパレット(9)が剛性に連結された調節器(5)と協働するように配置された、請求項1から
9のいずれか一項に記載の脱進機(1)を有する時計。
【請求項11】
前記調節器(5)が、ナイフによって仮想ピボット上で回転可能に移動するように装着されたばね型テンプまたは共振器であることを特徴とする、請求項
10に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計製造の分野に関する。本発明は、より詳細には、直接脱進経路および間接脱進経路を組み合わせた分離型脱進機に関する。
【0002】
本発明はまた、そのような脱進機を組み込んだ時計に関する。
【背景技術】
【0003】
アンクル脱進機は確かに、少なくともいわゆる分離型脱進機クラスでは、機械式時計機構で最も一般的なタイプの脱進機である。典型的には振り子またはばね型テンプアセンブリタイプの調節器に関連して、アンクル脱進機は、通常少なくとも1つのバレルばねを備える前記時計機構の機械エネルギー源の機械エネルギーの一部を、決定された周波数において規則的なインパルスで前記調節器に伝達することによって、この器官の振動を維持することを可能にする。同時に、脱進機はまた、調節器の振動を数えることを可能にし、したがって時間を数えることを可能にする。
【0004】
アンクル脱進機の多数の変形形態が現況技術で提案されており、時計製造の分野の当業者によく知られている。同様によく知られているそれらの制限は、主に、一方ではアンクルと調節器との間、他方ではアンクルとがんぎ車との間の連続的な衝撃および摩擦により調節器の振動の等時性を妨げる傾向があると共に、主にこの理由のために機械的効率が低下することである。実際には、通常、アンクルタイプの脱進機は、駆動源から受ける駆動力の限られた量のみを調節器に伝達すると考えられている。
【0005】
他方で、アンクル脱進機は、その信頼性の高い操作で賞賛されており、自動始動型でもある。
【0006】
ロビンタイプのアンクル機構には、スイスアンクル脱進機よりも性能が優れているという利点がある。ロビン脱進機は、戻り止め脱進機の利点(がんぎ車とテンプとの間のエネルギーの高効率の直接伝達)の利点と、アンクル脱進機の利点(より優れた操作の安全性)を組み合わせた脱進機である。これは、がんぎ車からテンプへの直接インパルス脱進機であり、脱進機のアンクルは基本的に2つのロックパレットを備えたレバーを構成し、レバーは、インパルス段階の外でがんぎ車の2つの極端なロック位置の間で傾斜する。
【0007】
しかし、ロビンアンクルの揚力角は、従来のスイスアンクル(約15°)に比べて非常に小さい(約5°)ため、ガードピンおよびプレートで固定する通常の解決策を適用することは困難である。この目的のために、代替解決策が、欧州特許第1122617号明細書および欧州特許第2444860号明細書、または欧州特許第2407830号明細書の文献で提案された。しかし、これらのロビン脱進機および関連する安全装置は、実装が困難である。
【0008】
スイス特許第101849号明細書の文献はさらに、アンクルにいくつかのロックパレットを有する自動始動式の直接分離型脱進機の構成を説明しており、パレットのロック面は、ロック面上にがんぎ車の歯が正確に載置することによって相互作用するように構成されており、ロック面は、接触した場合に前記歯のロック面に関連して傾斜される。この構成は、脱進機に自動始動機能を提供するという点で有利である。しかし、これらのドラッグ式ロックは、脱進機の効率に大きく影響し、各ロックの調整を複雑にする。アンクルのパレット上にあるがんぎ車から誘発されるインパルスはまた、組み合わされて、テンプへの主な直接インパルスを補完する必要があり、これにより、特に、この解決策の工業的規模での実装に関する関心および容易さが低下している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第1122617号明細書
【文献】欧州特許第2444860号明細書
【文献】欧州特許第2407830号明細書
【文献】スイス特許第101849号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、信頼性および自動始動の点でスイスのアンクル脱進機またはピンパレットアンクルのそれぞれの利点と、特にロビンタイプの直接インパルス脱進機のそれぞれの利点を組み合わせたアンクル脱進機であって、より信頼性が高く、時計製造者にとって大きな調整の問題なく、前記脱進機の工業的規模での実装を可能にする、アンクル脱進機を提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、マイクロインパルスの場合であっても、調節器の誘発された停止の衝撃およびリスクから完全に保護された脱進機を提供することを目的とする。
【0012】
最後に、本発明は、そのような脱進機を備える時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、請求項1に記載のアンクル脱進機、ならびにそのような脱進機を備え、請求項10に定義されている時計を提供する。
【0014】
したがって、本発明は、第1の目的により、時計用の直接脱進機であって、時計製造者によってそれ自体が既知の方法で、
-第1の回転軸を中心に回転可能であり、それぞれがロック面を有する一連の周辺歯を備えたがんぎ車であって、前記歯は、それらの端部によってがんぎ車の回転中に円形軌道Cを規定する、がんぎ車と、
-ピンで区切られた2つの端部ロック位置間で第2の回転軸の周りで回転可能なアンクルであって、入口パレットと出口パレットとを有し、そのそれぞれは、ロック面を有し、各パレットがそのロック面上で、前記ロック位置の各々においてがんぎ車の歯のロック面と当接するように協働するようにアンクル上に配置され、前記アンクルは、フォークをさらに有する、アンクルと、
-第3の回転軸周りで枢動する調節器に剛性に連結することができる少なくともピンであって、前記アンクルをがんぎ車から少なくとも部分的にロック解除するために、前記調節器の各交替時にアンクルのフォークと協働する、ピンと、
-前記調節器に剛性に連結することができる少なくとも1つのインパルスパレットであって、がんぎ車の歯と協働して前記調節器に直接インパルスを伝達する、インパルスパレットとを有する、時計用の直接脱進機を提供する。
【0015】
しかし、本発明の脱進機は、これが、従来のスイスアンクル脱進機のように、間接脱進機トラックの一部を直接脱進機の従来の軌道に関連付けて組み合わせるので、先行技術で知られている脱進機によって特徴付けられる。この目的のために、本発明の脱進機機構は、がんぎ車の少なくとも各歯、または入力パレットまたは出口パレットの少なくとも1つが、そのロック面の延長部内に傾斜面を有するようなものであり、この傾斜面は、アンクルのその軸上での回転によって前記パレットががんぎ車の経路C内で移動する間、前記調節器に間接インパルスを提供するように配置される。
【0016】
本発明の脱進機は、引き寄せを提供し、自動始動式であるスイスアンクル脱進機のトラックと、例えばロビンタイプ脱進機のような直接分離型進機のトラックを組み合わせた結果生じる「ハイブリッド」特徴を有する。したがって、直接分離型脱進機の調整および実装は、そのような直接分離型脱進機の性能、特に効率に大きく影響を与えることなく、時計製造者によって何世紀にもわたって知られ、習得され、テストされたスイスアンクル脱進機トラックの「供与」によって大幅に簡素化される。
【0017】
本発明による脱進機の性能、特にその効率およびその低い揚力角は、エネルギー伝達が脱進機の通常の動作中にがんぎ車からテンプに直接行われるので、ロビンタイプの直接分離型脱進機の性能に類似しており、アンクルの入力パレットおよび出口パレットは、ロックにのみ実質的に有用である。パレットまたはがんぎ車の歯の端部にあるマイクロインパルス傾斜面は、時計ムーブメントの列の駆動トルクを用いてのみ脱進機の自動始動に関与するように向けられ、サイズ設定され、それによって入力-出口パレットのロックで平面上の車面の歯をブロックすることなく初期インパルスを伝達する。さらに、ロックは平面同士のものであり、スイス特許第101849号明細書に記載されているようにエネルギーを大幅に失う摩擦または寄生ドラッグインパルスを有さない。
【0018】
本発明の特定の特徴によれば、前記傾斜面の端部は、アンクルの前記回転軸に関連して角度βを区切り、この角度は、有利には、0.5から5°の間、好ましくは0.5から2°の間に含まれる。さらに、前記傾斜面は、割線方向に延び、前記ロック面と共に30°から70°の間、好ましくは40°から60の間°、より好ましくは約50°を含む鋭角iを形成する。これらの角度配置により、脱進機が死点にあるときに、マイクロインパルスの傾斜面の1つ上のがんぎ車の少なくとも歯とアンクルのロックパレットの少なくとも1つとの相互作用を有利に確実にすることが可能であり、それによって脱進機が関連付けられているムーブメントの単純な駆動トルクで脱進機を開始するのに十分なインパルスを誘発する。
【0019】
本発明の特定の特徴によれば、フォークは、ノッチによって分離された2つのホーンを備え、ガードピンなどを欠いている。調節器に関連するアンクルのアンチオーバーバンキング安全対策は、有利には、アンクルの回転軸およびノッチの中心を通過する直線に対して線対称にフォークの前記ホーンを配置することによってもたらされ、このホーンは、前記ノッチから、ピンの回転半径よりわずかに大きい曲率半径R1を有する円弧を辿って延び、そのホーンの自由端に、ホーンが延びるアンクルの正中面に垂直に突起するスタッドまたはフィンガを有する。
【0020】
このように作製されたアンクルのホーンを補完する方法で、機構はまた、特定の実施形態によれば、前記調節器に取り付けることができる円形フランジを備え、前記フランジは、前記調節器の回転軸上で中心揃えされ、ピンは、がんぎ車のロック段階中に前記ホーンの内面に沿って非接触で移動するように前記フランジ内に埋め込まれる。
【0021】
実際には、形状がさまざまになり得るフランジは、調節器の追加の弧の間に衝撃が生じた場合にスタッドとの接触面を提供することを目的とし、前記スタッドは、そのため、前記フランジの内側または外側のいずれかに当接するようになる。
【0022】
好ましくは、曲率半径R1は、0.5から1.5cmの間に含まれる。
【0023】
特定の実施形態では、前記フランジは、垂直面内で自由端が面取りされているか、または湾曲している。
【0024】
本発明の第2の目的はまた、前記ピンおよび前記インパルスパレットに取り付けられた調節器と協働するように配置された、前述のものなどの脱進機を有する時計に関する。
【0025】
いくつかの実施形態の変形形態によれば、本発明の時計は、ナイフによって仮想ピボット上で回転可能に移動するように装着されたばね型テンプタイプまたは共振器タイプの調節器を備えることができる。
【0026】
本発明の他の詳細は、以下の添付の図面を参照して、以下の説明を読むことでより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】インパルスまたはロックなしの、「死点」と呼ばれる位置で概略的に表された、本発明による脱進機、およびテンプなどの関連する調節器を示す図である。
【
図2】
図1の脱進機アンクルのロックパレットの端部の拡大図である。
【
図3】
図1の脱進機の拡大図であり、さまざまな角度が、本発明の機構の構造によって脱進機の自動始動条件を決定している。
【
図4】第1の交替における本発明による脱進機の動作段階を示す図である。
【
図5】第1の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図6】第1の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図7】第1の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図8】第1の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図9】第1の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図10】「(coup perdu)失われた衝撃」(インパルスを有さない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の動作段階を示す図である。
【
図11】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図12】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図13】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図14】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図15】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図16】「(coup perdu)失われた衝撃」(衝撃のない振動)に対応する、第2の交替における本発明による脱進機の別の動作段階を示す図である。
【
図17】2つの連続する交替の間の本発明の脱進機のアンチオーバーバンキング装置の取り付け位置を示す図である。
【
図18】2つの連続する交替の間の本発明の脱進機のアンチオーバーバンキング装置の異なる取り付け位置を示す図である。
【
図19】2つの連続する交替の間の本発明の脱進機のアンチオーバーバンキング装置の異なる取り付け位置を示す図である。
【
図20】2つの連続する交替の間の本発明の脱進機のアンチオーバーバンキング装置の異なる取り付け位置を示す図である。
【
図21】2つの連続する交替の間の本発明の脱進機のアンチオーバーバンキング装置の異なる取り付け位置を示す図である。
【
図22】
図1~21の脱進機の別の実施形態におけるがんぎ車の歯の端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、新しいタイプの分離型脱進機1であって、直接インパルスを伴う分離脱進機において、数十年にわたって時計製造者によってよく知られているスイスアンクル脱進機の信頼性、調整の容易さ、および自動始動を利用し、組み合わせるように設計され構成された分離型脱進機に関する。
【0029】
そのような脱進機1の特定の実施形態は、脱進機1の死点に対応して、
図1に表されている。一般的に言えば、脱進機1は、構造的にロビンタイプの脱進機に類似しているが、以下に説明するようにいくつかの側面は変更されている。脱進機は、尖った歯3を備え、第1の回転軸X1の周りで回転可能であるように装着されたがんぎ車2を備える。従来、このがんぎ車2は、がんぎ車2を、仕上げ歯車列および時計のムーブメントの駆動源、例えば、駆動トルクをがんぎ車2に伝達するバレルばねに結合させるがんぎ車ピニオン(図示せず)に関連付けられ、がんぎ車はこのトルクを、第3の回転軸X3周りでそれ自体が回転可能であるアンクル4と協働して第2の回転軸X2の周りで回転可能であるように装着された調節器5に順次分配し、回転軸X1、X2、X3は、互いに平行である。調節器5は、時計製造者によってよく知られているばね型テンプまたは任意の他の振動調節器、例えば、特許出願の国際公開第2016/012281号パンフレットにおいて出願人によって提案されたもののようなナイフを備えた共振器などから作製され得る。
【0030】
アンクル4はレバーとして機能し、入口パレット10および出口パレット11が内部に配置されたプレート41を備え、パレットそれぞれは、ロック位置と呼ばれる、アンクル軸X3周りのアンクル4の回転における2つの端部位置においてがんぎ車2の歯3と当接するロック表面を交互に形成するように設計されたロック面10p、11pを有する。アンクル4のロック位置から次の位置への枢動を可能にするために、前記アンクルは、フォーク43を備え、このフォークは、プレート41から、アンクル4の回転軸X3と調節器5の回転軸X2を結ぶ直線にしたがって延びるアーム42の端部に配置される。フォーク43は、ノッチ46によって分離され、ガードピン、フィンガまたは類似のオーバーバンキング防止安全要素を欠く2つのホーン44、45を備える。これらのホーン44、45は、死点において、回転軸X3および調節装置の軸X2を結び、ノッチ46の中心も通過する直線に関して対称的である。このフォーク43により、アンクル4は、より具体的にはそのノッチ46のレベルで、調節器5、例えば前記調節器5の同軸プレートと一緒に装着されたピン6と協働し、この同軸プレートに、直接インパルスパレット9がさらに接合され、直接インパルスパレットは、調節装置5の各交替時に、がんぎ車2の歯3によってさらに推進される。アンクルの移動は、2つのピン7、8によって制限され、これらのピンは、アンクル4の進行の角度λを、アンクル4の軸X3に関連して5から6°の間で制限する。
【0031】
本発明によれば、
図2および3に詳細に示すように、入口パレット10および出口パレット11は、いずれの場合も、少なくとも出口パレット11は、それぞれのロック面10p、11pの延長部内に、間接インパルスの傾斜面10i、11iを含み、これらの傾斜面は、アンクル4がその軸X3上において2つのロック位置間で回転する間、回転するがんぎ車2の歯3の端部によって画定された経路Cを前記パレット10、11が交差するときに、調節器5に間接マイクロインパルスを伝達するように配置される。これらの傾斜面10i、11iは、有利には、ロックパレット10、11上に形成され、それにより、0.5°から5°の間に含まれ、より具体的には例では1°から2°の間で表され、好ましくは約1.5°である角度β、いわゆるマイクロインパルスが、その端部とアンクル4の回転軸X3との間に形成される。さらに、間接インパルス面10i、11iは、実際には、前記ロック面10p、11pに関連して、70°で30°の範囲、好ましくは40°から60°の間、好ましくは50°の範囲の鋭角iに従った傾斜を有して、ロック面10p、11pに連続して配置される。したがって、間接マイクロインパルス面10i、11iは、ロック面10p、11pの延長部および端部に、局所的なブレークまたは凹部dを提供し、その長さは、マイクロインパルス角βに従って決定され、前記調節器の停止後、歯車の駆動力の下で脱進機1に関連する調節器の自動始動を確実にするように算出され適合される。有利には、パレット10、11および歯3のロック面10p、11pは、それらが脱進機のロック位置で平面同士で載置するようなものである。さらに、アンクルのピボットX3とがんぎ車2のピボットX1との間の中心距離は、がんぎ車の死点において、がんぎ車の歯3の自由端がそのロック面によって凹部点dを実質的に支承するように調整され、それによって、調節器5の停止後、駆動トルクだけで、マイクロインパルス面10i、11i上に歯3の前記端部を傾けるのに十分な引き寄せを誘発することを保証する。
【0032】
さらに、アンクル4の入口パレットおよび出口パレット10、11は、有利には、がんぎ車2に関連するアンクルのロックおよびロック解除機能、ならびに前記パレットに関連するがんぎ車の進行安全性が、最適化されるようにプレート41上で調整される。したがって、
図2を参照すると、パレット10、11は、ロック位置において、第1のパレットが、そのロック面上で、アンクルの回転軸x3において2°の範囲内のロック角αを画定する距離上でがんぎ車の歯3と接触し、他方のパレットが、回転軸x3において歯3の通過時に1.5°の範囲内の安全角Σを形成する距離だけがんぎ車の円Cから離れるように移動されるように配置される。
【0033】
さらに、パレット10、11は、それらの構成および配置により、わずかな引き寄せを確実にし、それらの傾斜面10i、11iは、本発明の機構に対して、スイスアンクル脱進機の特徴的な特徴である、自動始動能力および各交替時のマイクロインパルスを提供する。
【0034】
具体的には、機構1ががんぎ車2のトルクの下で自力で始動するのに必要なことは、ロック位置から死点まで(したがってアンクルの全移動量の半角)進行することで、傾斜面をロック領域ではなく経路C内に位置付けることである。さらに、パレットから別のパレットへの通過には、パレット脱進機の安全性がアンクル4の進行の半角よりも小さいことが必要である。したがって、本発明の機構の本質的な条件は、以下の方法で定義される。
【数1】
【0035】
こうして、スイスのアンクル脱進機とロビンタイプの直接脱進機の間で組み合わされるか、または統合されたトラック脱進機が、実際に得られる。
【0036】
図22に表す本発明の別の実施形態では、間接インパルス傾斜面を、スイスアンクル脱進機タイプの脱進機1のアンクル4の入口パレット10または出口パレット11のいずれにも設けず、歯3の自由径方向端部に直接的に傾斜面3iの形態で設けることができ、この傾斜面は、ピン脱進機タイプの
図2および
図3上のパレット10、11の傾斜面10i、11iに類似し、したがって、アンクルの軸X3に関連して、0.5°から5°の間に含まれ、より具体的には例では1°から2°の間で表されるマイクロインパルス角βを形成する。マイクロインパルス傾斜面3iは、そのロック面3pに連続して歯3の自由端に設けられるが、実際には、前記ロック面3pに関連して約30°から70°の範囲内、好ましくは40°から60°の間、より好ましくは50°の範囲内の鋭角iにしたがって傾斜される。したがって、間接マイクロインパルス面3iは、ロック面3pの延長部および端部に、局所的なブレークまたは凹部dを提供し、その長さは、マイクロインパルス角βに従って決定され、前記調節器の停止後、歯車列の駆動力の下で脱進機1に関連する調節器の自動始動を確実にするように算出され適合される。有利には、パレット10、11および歯3pのロック面10p、11pは、それらが脱進機のロック位置で平面同士で載置するようなものである。さらに、アンクルX3のピボットとがんぎ車2のピボットX1との間の中心距離は、がんぎ車の死点において、がんぎ車の歯3の自由端がそのロック面によって凹部点dを実質的に支承するように調整され、それによって、調節器5の停止後、駆動トルクだけで、マイクロインパルス面3i上に歯3の前記端部を傾けるのに十分なパレット10、11の引き寄せを誘発することを保証する。
【0037】
パレット9はまた、実質的に一定のトルクを伝達するために、直接インパルス中に歯3の傾斜面3iを受け入れ、それと協働するように適合された端部形状を有することもできる。
【0038】
ロビン脱進機のようなガードピンタイプの安全性で観察されるオーバーバンキングまたはバッティングリスクを回避するために、本発明の脱進機1は、アンクル4のフォーク43上および調節器2上に一体的に形成されたアンチオーバーバンキング安全デバイスを提供し、これは、より具体的には、調節器5と一体化して作製されたフランジである。前に示したように、アンクル4のフォーク43は、そのホーン44、45の間にガードピンがない。実際、アンクル4が進行する小さな角度経路λは、ロビン脱進機で最初から計画されているように、スイスアンクル脱進機の通常の形状による安全ローラと協働するそのようなガードピンの実装を考慮することができず、例えば、脱進機を工業レベルで実行可能にするにはあまりにも重要すぎるバッティングのリスクを回避するように脱進機を調整する困難性を考慮できない。代替として、本発明による機構1のアンクル4のフォーク43は、アンクルの回転軸X3およびノッチ46の中心を通る直線に対して対称的な2つのホーン44、45を備え、これらホーンは、有利には0.5から1.5cmの間に含まれ、またはより経験的な方法では、回転軸X2に関連する調節器5と一体化されたピン6の回転半径よりわずかに大きい曲率半径R1を有する円弧にしたがって前記ノッチ46から延びる。前記ホーン44、45は、それらの自由端に、プレート41、アーム42、およびフォーク43が延びるアンクル4の正中面に垂直に突出する円筒形のスタッドまたはフィンガ44e、45eをさらに備える。しかし、スタッドは、別の形状を有することもできる。したがって、ホーン44、45は、ロック段階中、合計角度振幅が低減され、振動周波数が重要である場合は調節器5の回転においてその合計角度振幅にわたって、または前記調節器5が従来のばね型テンプタイプのものである場合は前記調節器の回転においてほぼすべての追加の弧にわたって前記ピン6のための案内本体となる。
【0039】
ホーン44、45を補完する方法で、アンチオーバーバンキング装置はまた、調節器5のピン6の両側に延びる円形フランジ12を備える。前記フランジ12は、調節器の回転軸X2上に中心揃えされる。したがって、ピン6は、前記フランジ内に一体化され、それにより、ピンは、がんぎ車2のロック段階中、前記ホーンの内面に沿って通常は非接触でこれに沿って移動する。フランジ12の全長は、好ましくは、前記ホーン44、45のスタッド44e、45e間の全距離に実質的に等しい。
【0040】
したがって、機構1上の衝撃が調節器の追加の弧の間にオーバーバンキングを起こしやすいアンクル4の動きを生成した場合、スタッド44eまたは45eは、フランジ12の下面を通過するが、これは停止を伴わない。その理由は、調節器5は、
図16、
図17および
図19、
図20に2つの別個の交替で表すように、スタッド44e、45eに対してフランジ12のこの内面を越えて回転し続けるからである。さらに、通常の動作構成におけるホーン間のフランジ12およびピン6の戻り(
図18、21)は、フランジ12の自由端によって確実にされ、これらの自由端は、有利には垂直面において面取りされ、それによって、傾斜前記スタッド44e、45eが、前の交替中にホーンの外側で場合によっては傾斜された後、ホーン44、45間に戻る通路を生み出す。したがって、ホーン44、45およびフランジ12のこの配置および構成は、脱進機1の動作に悪影響を与えることなく、起こり得るオーバーバンキングに対する最適な安全性を提供する。
【0041】
図4から
図15は、調節器5の2つの連続する交替における本発明の脱進機の異なる動作段階を示し、がんぎ車2、アンクル4、および前記調節器のそれぞれの回転方向は、第1の交替において矢印F1、F2,F3それぞれによって、第2の交替において矢印F4、F5、F6それぞれによって表される。
【0042】
図4は、ロック解除位置にある機構1を示す。ピン6は、アンクル4のフォーク43のノッチ46内にあり、アンクルは、調節器5のF3方向の回転作用下で、ピン8に対する載置からF2方向に離れ、死点(
図1)の半分を通過して、入口パレット10を介して間接マイクロインパルス位置内に到達する(
図5)。次に、調節器5は、がんぎ車によってパレット9においてその直接インパルスを受け取り(
図6)、その後(
図7)、フォークはピン7に対して落下し(
図8)、アンクル4は、ロック位置となり、がんぎ車2の歯3は、出口パレット11のロック面上に載っている。次に、調節器5は、その追加の弧に沿って進行し(
図9)、アンクル4は、その出口パレット11を介してピン7に対して引き寄せられる。
【0043】
次に、調節器5は、第2の交替でロック解除位置(
図10)に向かって反対のF6方向に戻り、したがって、ピン7のアンクル4のロックを解除し、アンクルはF5方向に枢動する。次に、死点を通過すると(
図11)、出口パレット11(
図12)において第2の間接マイクロインパルスを受けるが、がんぎ車はF4方向に回転して自由にされ、その後、アンクル4は、ピン8上に落下し(
図13)、次に第2のロック位置(
図14)に到達し、そこでがんぎ車の歯3は、入口パレット10のロック面上に当接するようになる。次に、調節器5は、第2の交替が終了するまで「(coup perdu)失われた衝撃」(インパルスを有さない振動)を実行することによってF6方向への進行を続け、その後、
図4のロック解除位置に向かってF1方向に戻る。
【0044】
したがって、本発明の脱進機1は、本質的にその性能パラメータおよび利点を損なうことなく、簡易化され、その信頼性を向上させ、最適な動作安全性をもたらしながら、直接脱進機のロビンタイプの構成内にスイスアンクル脱進機のような間接マイクロインパルスおよびわずかな引き寄せを有するハイブリッドトラックを備えた直接脱進機を提供する。