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  • 特許-人工歯牙製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】人工歯牙製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/08 20060101AFI20230612BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61C13/08 Z
A61C8/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022199983
(22)【出願日】2022-12-15
【審査請求日】2022-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523164182
【氏名又は名称】大槻 諒
(73)【特許権者】
【識別番号】722015030
【氏名又は名称】大槻 芳夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 諒
(72)【発明者】
【氏名】大槻 芳夫
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-512082(JP,A)
【文献】特開平04-231060(JP,A)
【文献】特開平06-007381(JP,A)
【文献】特開2003-144139(JP,A)
【文献】特開2020-049357(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103596601(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/08
A61C 8/00
A61L 27/36
A61K 6/853
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の歯根部の表面に人工セメント質に相当するケイ酸カルシウム層を接合させ、該ケイ酸カルシウム層の表層に歯根膜の層を付与して、リン酸を含む培地にて培養することにより線維性の結合をさせた人工歯牙の製造方法。
【請求項2】
前記本体の素材がジルコニアまたはハイブリッドレジンである請求項1に記載の人工歯牙の製造方法。
【請求項3】
前記本体の歯根部の表面に前記ケイ酸カルシウム層を接合させる際にMMA系レジンセメントを用いる請求項2に記載の人工歯牙の製造方法。
【請求項4】
前記歯根膜として人工歯牙埋入対象者の歯根膜を使用する請求項1に記載の人工歯牙の製造方法。
【請求項5】
前記歯根膜として既製の歯根膜細胞シートを使用する請求項1に記載の人工歯牙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齲蝕、歯牙破折、外傷、腫瘍、嚢胞、難治性の根尖性歯周炎、歯周病などのために抜歯適応となった歯を抜歯後、従前の天然歯と同じ機能を短期間に回復させることができる人工歯牙を製造する人工歯牙製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抜歯適応歯を抜歯後の補綴処置として行われているブリッジには、適切な隣接歯がある事が必要であり、その隣接歯の削合が不可欠であるという欠点がある。ここ数十年の間、この欠点を補う方法として主にチタン製のインプラントによる補綴が行われている。
【0003】
ところが、このチタン製インプラントによる補綴は、チタンによる金属アレルギー、フィックスチャー露出による審美性の問題、術中の外科的侵襲による医療事故、術後の神経症状など後遺症、フィックスチャー埋入後最終補綴まで半年程度の長期間を要する事など多くの問題を抱えている。特に最近では、インプラント体と歯槽骨の接合部から細菌が侵入して感染症を起こす例が報告されており、一度炎症を起こすと進行しやすく、骨髄炎や上顎洞炎などの重篤な症状の誘因となることがある。
【0004】
また、インプラントには、歯根膜に相当する組織が無いことが欠点である。歯根膜の機能である咀嚼時の緩衝機能や感覚受容機能がないため、外傷性咬合による不当な外力が直接的に継続して作用しても感知されなければ、生体反応として破骨細胞が誘導され骨吸収が進行し、前述の重篤な症状の誘因となることがある。
【0005】
歯根膜の機能としては、この緩衝作用や感覚受容機能の他にも、歯周組織への細菌の侵入を防ぎ歯周疾患に抵抗している事、破骨細胞分化抑制因子を産生し歯槽骨の誘導形成に深く関わっている事など非常に重要な機能がある事が知られている。
【0006】
前述の機能を有する歯根膜を活用する為、特許文献1では、歯根膜を培養し増殖させて、リン酸カルシウムをコーティングしたチタン製インプラントの表面に密着させる方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2015/199245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この方法ではリン酸カルシウムの表面に培養させた歯根膜をチタン製インプラントの表面に結合させることができない。チタン製インプラント表面のリン酸カルシウムと歯根膜細胞が密着するのみであればインプラント体が抜け落ちてしまう危険性がある。また、前述の通り、チタン製のインプラントには既に問題点が指摘されている。
【0009】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、人工歯牙が歯根膜を介して歯周組織と結合する際の問題点を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、人工歯牙が歯根膜を介して歯周組織と繊維性の結合をすることができる方法を案出した。人工歯牙に、人工セメント質に相当するMTAセメント(主成分ケイ酸カルシウム)をMMA系レジンセメントで接着し、これを歯根膜細胞と供にリン酸を含む培地で培養する事により、ケイ酸カルシウムの表層にリン酸カルシウムの結晶が析出し、結晶化に伴い歯根膜の繊維が取り込まれ、人工歯牙と歯根膜細胞層を線維性の結合をさせることができる。
【発明の効果】
【0011】
この人工歯牙を活用すると、抜歯窩後の歯槽窩を利用したものであるため外科的侵襲が少なく、歯槽骨切削処置による医療事故や術後の神経症状など後遺症も無い。また、抜歯後に即時埋入する事が可能で、止血や治癒にも好影響であり、何よりも抜歯後の歯槽骨側に残存した歯根膜細胞と人工歯牙表層の歯根膜細胞が馴染み、歯槽骨と人工歯牙が早期に線維性結合する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】歯根部表面にMTAセメントの加工をした人工歯牙である。
図2】MTAセメント層の生体親和性を示すレントゲン写真である。左図は初診時で、根尖部の炎症所見を示す。右図はMTAセメント応用後5週間経過時のレントゲン像で歯槽骨を含む周囲組織の誘導を示す。
図3】MTAセメント層の表層に析出したリン酸カルシウムの結晶である。
図4】各領域(技工物製作ラボ、細胞培養ラボ、診療室)での作業工程である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
最初に人工歯牙1の本体の製造方法を説明する。
一般的に抜歯対象となるのは、齲蝕、歯牙破折、外傷、腫瘍、嚢胞、難治性の根尖性歯周炎、歯周病などであるが、ここでは歯牙破折及び根尖部に小指等大の歯根嚢胞があるために抜歯適応になった天然歯(図4中S0で示す)を一例として挙げる。この歯のCTデータ(DICOM)を取り(図4中SA1で示す)STLファイルへ変換し、それを基にしてCADで設計を行う。その際に大きさを98~99.6/100さらに好ましくは99~99.5/100に縮小し、歯根の湾曲部や肥大部などはデータ調整することにより埋入しやすい形態に修正する。修正したデータをCAMに入れ込みジルコニアまたはハイブリッドレジンを光造形3Dプリンターで削り出すことで、元の天然歯の形態をほぼ再現した人工歯牙1の本体を製作する(図4中SA2で示す)。なお、ジルコニアの場合は、削り出した後、更に専用の電気炉で6時間程度焼成をして完成する。
【0015】
次に人工歯牙1の本体の表面に人工セメント質を付与する方法を説明する。
製作した人工歯牙1の歯根部に平均粒径25μmのアルミナ粉末を0.45MPaで噴射することでサンドブラスト処理を実施してから、水洗乾燥後にリン酸にてエッチング処理を行い、更に水洗乾燥してからMMA系レジンセメントを接着剤として薄く塗布する。
これとは別に事前に、人工歯牙1の本体の歯根部の模型をシリコン系印象材で印象して作成しておいた凹型容器2の内部に、MTAセメントを満遍なく薄く注入し、前述のMMA系レジンセメントを塗布した人工歯牙1の歯根部を押し込み圧接する。これにより、人工セメント質に相当するMTAセメント層を接合する(図4中SA3で示す)。
そして、24時間経過後凹型容器2から取り外すことにより、図1に示すように、元の天然歯の歯根をほぼ再現した人工歯牙1の表面にケイ酸カルシウムを主成分とする人工セメント質(図1矢印部分の範囲で示す)を付与することができる。
このケイ酸カルシウムは生体内でリン酸と反応し、表面にリン酸カルシウムの結晶を析出し安定する。これらの物質は生体親和性が高く、図2(特に白抜き矢印で示す部分)に示すように、時間の経過とともに周囲に歯槽骨を含む歯周組織を誘導するといった特性を有する。
【0016】
更にその表面に歯根膜細胞を付与する方法を説明する。
凹型容器2から取り出した人工セメント質を有する人工歯牙1を、培養増殖させた歯根膜細胞を一層接合させたリン酸含有の凹型を形成したゲル状培養地4に挿入(圧入)することで、密閉状態の培養容器5の中で、表面に歯根膜細胞を結合させる(図4中SB4で示す)。
【0017】
人工セメント質の表面に歯根膜が結合する原理について説明する。
人工歯牙1に接着したMTAセメントの表層からはカルシウムイオンが徐放され、これがゲル状培地に含まれるリン酸イオンと結びつき、MTAセメント層の表面にリン酸カルシウムの結晶の薄い層が徐々にできる。このリン酸カルシウムが図3に示すように結晶化する過程で、供に培養した歯根膜細胞層のシャーピーの繊維が馴染んでいく。結晶化が進めばMTAセメント層の表面は硬化し機械的強度が増して安定し、更にシャーピーの線維がリン酸カルシウム結晶に取り込まれ、一週間程度で人工歯牙1の人工セメント質の表面に歯根膜細胞層が線維性結合する。
【0018】
歯根膜細胞の採取と保存について説明する。
一般的には智歯などの不要歯があれば当該歯を抜歯して採取するが、そのような歯が無い場合は抜歯対象歯牙を細いヘーベルと鉗子を用いて脱臼させ、鉗子で抜歯し保持した状態で、ハンドスケーラーにて歯根部に付着している歯根膜細胞一塊をそぎ落とす様に集め採取する(図4中SC1で示す)。採取した歯根膜細胞は即座に輸送のための体液成分に近い培養液に入れて冷蔵保存しておく。
鉗子で保持している抜去歯牙は再び抜歯窩に戻す。止血後にコンポジットレジンにて隣接歯と固定することにより再生着させることができる(図4中SC2で示す)。
また、既製の歯根膜細胞シートを使用することもできるが、拒絶反応や感染症などの諸問題が解決されていることが使用の条件となる。
【0019】
歯根膜細胞の培養について説明する。
採取した歯根膜細胞を冷蔵状態で細胞培養ラボに運搬し(図4中SB1で示す)、in vitroでシャーレを用いて低温培養し、人工歯牙1の歯根の表面積に相当する程度まで増殖させる(図4中SB2で示す)。この際の培地は、アルファMEM培地に50μg/ml濃度でアスコルビン酸2リン酸を含んだ物を使用する。更には、これに加えウシ胎仔血清(FCS)を用いる。これとは別に小型の容器に全く同じ組成のゲル状培養地4を作り、移植予定の人工歯牙1の1.1~1.2倍に相当する凹型を形成し、その凹型内部にシャーレで培養増殖させた歯根膜細胞3の層を移し更に数日培養する(図4中SB3で示す)。
【0020】
歯根膜細胞の結合方法及び運搬について説明する。
上記のゲル状培養地4の凹型の部分に、人工セメント質を有する人工歯牙1を圧入し歯根膜細胞を結合させるが、その後も培養容器の中で数日培養することでケイ酸カルシウムの表層にリン酸カルシウム結晶の析出を促す。培養容器5は、密閉し持ち運びが可能な小型のサイズで、運搬時は保冷剤等で低温保存する必要がある。
【0021】
抜歯と人工歯牙6(人工歯牙1に歯根膜細胞を付与したもの)の埋入について説明する。
培養容器5に入った人工歯牙6をチェアーサイドに用意して、保存不可能歯を歯槽骨側の歯根膜の損傷を低く抑えて抜歯する(図4中SC3で示す)。
不良肉芽を完全掻把し、ダイオードーレーザーを照射する(図4中SC4で示す)。その後に、培養容器5から歯根膜を有する人工歯牙6を取り出し(図4中SC5で示す)、その人工歯牙6を抜歯窩に即時埋入し、コンポジットレジンで簡単な固定をする(図4中SC6で示す)。
【0022】
抜歯窩の歯槽骨側には断裂された線維細胞、線維芽細胞、骨前室が残存しており、これが埋入された人工歯牙6表面の歯根膜の線維と馴染み、最終的には人工セメント質と歯槽骨前室との繊維性結合が形成される。
【0023】
約一ヶ月後に固定を除去し、支台歯形成及び印象採得を行い、上部補綴物を作成する。
【0024】
最終補綴物を装着し、完了する(図4中SC7で示す)。
【0025】
なお、図4中、SA1~3は技工物製作ラボでの作業、SB1~4は細胞培養ラボでの作業、SC1~7は診療室での作業である。
【符号の説明】
【0026】
1 歯根膜細胞を付与するまでの人工歯牙
2 凹型容器
3 培養増殖させた歯根膜細胞
4 凹型を形成したゲル状培養地
5 密閉状態の培養容器
6 歯根膜細胞を付与した人工歯牙
【要約】
【課題】抜歯時の歯槽窩に埋入し生着させることが可能な、人工セメント質及び歯根膜を有する人工歯牙を製造する。
【解決手段】CTデータを基にして抜去予定歯の歯根部の形状をほぼ再現した人工歯牙を製作し、その表面にMMA系レジンセメントによりケイ酸カルシウム層を接着し、歯根膜細胞と共に培養することにより表面にリン酸カルシウムを析出させて歯根膜細胞層を線維性結合させることにより、人工セメント質及び歯根膜を有する人工歯牙が製造できる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4