(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】遮水構造及び護岸の施工方法
(51)【国際特許分類】
B09B 1/00 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
B09B1/00 F ZAB
(21)【出願番号】P 2019074954
(22)【出願日】2019-04-10
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智弘
(72)【発明者】
【氏名】横井 敦
(72)【発明者】
【氏名】恋田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】横山 美憲
(72)【発明者】
【氏名】西村 正樹
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-156535(JP,A)
【文献】特開2016-203580(JP,A)
【文献】特開平08-197658(JP,A)
【文献】登録実用新案第3200151(JP,U)
【文献】特開2002-309544(JP,A)
【文献】特開2003-062536(JP,A)
【文献】特開2013-198881(JP,A)
【文献】特開平09-001100(JP,A)
【文献】特開2012-092512(JP,A)
【文献】特開2003-236489(JP,A)
【文献】特開2011-025179(JP,A)
【文献】特許第6991506(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
B32B 1/00-43/00
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の石材が配置される下地面に配置される遮水構造であって、
該遮水構造は、遮水シートと、該遮水シートと前記下地面との間に介装される保護マットと、を備え、
前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2の範囲で設定され、
前記保護マットの内部には基布が配置され、
該基布は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有することを特徴とする遮水構造。
【請求項2】
前記保護マットは、その貫入抵抗力が2500N~5000Nの範囲である特性を有することを特徴とする請求項1に記載の遮水構造。
【請求項3】
前記保護マットと前記下地面との間の摩擦係数は、0.4~1.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の遮水構造。
【請求項4】
前記遮水構造は、前記遮水シートと前記保護マットとが一体的にラミネート加工されてなる2層ラミネート加工シートにて構成されていることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の遮水構造。
【請求項5】
前記下地面には、1~500kg/個の範囲に含まれる石材が多数配置されていることを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の遮水構造。
【請求項6】
海面処分場を外海と区画する護岸の施工方法であって、
海底に基礎マウンドを構築するマウンド構築工程と、
前記基礎マウンドの処分場側の面を均すことなく、当該面に沿って、遮水シートと保護マットとを重ねて一体化したラミネート加工シートを敷設するシート敷設工程と、
前記ラミネート加工シートの上面に、多数の石材を積層してなる上載層を構築する上載層構築工程と、を備え
、
前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2
の範囲で設定され、
前記保護マットの内部には基布が配置され、
該基布は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有することを特徴とする護岸の施工方法。
【請求項7】
前記シート敷設工程では、前記ラミネート加工シートを巻き取り、または送り出す回転軸を有する機械式シート敷設機を使用することを特徴とする請求項
6に記載の護岸の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面土砂処分場を区画する護岸内側に敷設される、遮水シート、及び該遮水シートを保護する保護マットを備えた遮水構造及び、その遮水構造を用いた護岸の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾域において、海面土砂処分場を浚渫土により埋め立て完了した後に、例えば、上屋建築のために早期に強度を有する地盤とするためには、埋立地盤にドレーン材(排水材)を打ち込む圧密促進工法や、セメントを圧送管内に導入して、当該セメントを浚渫土の圧送途中に混合して埋め立てる管中混合処理工法が採用されている。なお、海面土砂処分場は土砂を埋め立てる施設である。
【0003】
上述したように、海面土砂処分場を、浚渫土にセメントを混合したセメント混合処理土にて埋め立てる場合(上述の管中混合処理工法)、海面土砂処分場内の海水がアルカリ性になる懸念がある。そのため、海面土砂処分場内のアルカリ性の海水が処分場外に流出しないように配慮した構造として護岸設計・築造する必要がある。そこで、護岸を捨石傾斜堤や混成堤など石材を用いて法面を形成して築造する場合、堤内海水の堤外への流出を抑制する方法として、護岸内側に遮水シートのみ1層を展開した事例がある。
【0004】
遮水シートの材質には、塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(HDPE、LLDPE)が用いられる。護岸内側で、遮水シートを敷設する下地面は多数の石材による凹凸状を呈しており、該下地面による遮水シートの損傷を抑制するために、多数の石材による凹凸を極力無くすべく、比較的小さな粒径の石材を法面に配置したり、潜水士やバックホウ台船により均し作業(例えば±20cm)を行っている。
【0005】
しかしながら、均し作業の範囲が広大な場合、潜水士が不足する懸念がある。また、均し作業の範囲が広大な場合、バックホウ台船による機械化施工を採用する際その施工業者が、特殊な設備(機械)を有する特定の業者に限られる等の問題が発生する。さらには、小さな粒径の石材の投入作業や、均し作業等に要する工期が長くなり、費用が高くなるなどの問題が発生する。
【0006】
一方、廃棄物を埋め立てる管理型廃棄物海面処分場においては、遮水シートを保護するために、遮水シートの上下に保護マットが配置され(特許文献1参照)、これら上部保護マット、遮水シート及び下部保護マットを一体的に重ねてなる3層一体シートが採用されている。そして、この3層一体シートを1度の敷設作業で護岸内側に敷設している。また、厚さ3mmの遮水シートを対象として、粒径60mm以下の砕石を投入して、下地面をその凹凸が±20cmになるように均す場合には、下部保護マットには、目付量850g/m2程度であり、貫入抵抗1500N程度(ASTM D 4833)の長繊維不織布を適用する必要があるとされている。さらに、粒径40cm程度の割石(100kg/個程度)を投入して、下地面をその凹凸が±20cmになるように均す場合には、下部保護マットには、目付量1500g/m2程度であり、貫入抵抗2250N程度の長繊維不織布を適用する必要があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した管理型廃棄物海面処分場にて採用されている下部保護マットを、海面土砂処分場に適用したとしても、同様に、下地面をその凹凸が±20cmになるように均す作業が必要であり、上述した問題を解消することは不可能である。
【0009】
そして、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、下地面に粒径及び質量の大きな石材が多数位置している場合でも、保護マットの貫入抵抗力を増大させることによって、下地面の各石材による遮水シートの損傷を抑制して、該遮水シートの遮水品質を確保することができる遮水構造、及びその遮水構造を用いることで、作業効率を向上させて、工期短縮と工費削減を図ることができる護岸の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1の発明は、多数の石材が配置される下地面に配置される遮水構造であって、該遮水構造は、遮水シートと、該遮水シートと前記下地面との間に介装される保護マットと、を備え、前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定され、前記保護マットの内部には基布が配置され、該基布は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有することを特徴とするものである。
請求項1の発明では、保護マットを、下地面からの貫入抵抗力を従来よりも増大させることができる。その結果、下地面に粒径及び質量の大きな石材が多数位置している場合でも、保護マットにより、下地面の各石材角による遮水シートの貫通孔や擦り傷などの損傷を防止して、該遮水シートの遮水品質を確保することができる。また、保護マットを、下地面からの貫入抵抗力を従来よりも増大させることができるので、従来のように、下地面の凹凸を±20cmになるように均す作業や、敷設すべき箇所に、新たに、粒径及び質量の小さな砕石などの石材を積層してなる下地層を構築する必要はなく、護岸築造における作業効率を向上させることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記保護マットは、その貫入抵抗力が2500N~5000Nの範囲である特性を有することを特徴とするものである。
請求項2の発明では、下地面に1~500kg/個の範囲に含まれる石材が多数配置され、石材が転がらずに石材の角が遮水シートを突くように配置されていても、その下地面を均すことなく、保護マットにより、遮水シートが保護されてその損傷を抑制することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記保護マットと前記下地面との間の摩擦係数は、0.4~1.0であることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、遮水シート上に上載しなければならない押さえ荷重を従来よりも軽く設定することができ、遮水シート上の多数石材が法面を滑落しにくくなる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1~3いずれかの発明において、前記遮水構造は、前記遮水シートと前記保護マットとが一体的にラミネート加工されてなる2層ラミネート加工シートにて構成されていることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、1回の敷設作業で済み、その敷設作業を容易に行うことができる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1~4いずれかの発明において、前記下地面には、1~500kg/個の範囲に含まれる石材が多数配置されていることを特徴とするものである。
請求項5の発明では、捨石傾斜堤護岸や混成堤護岸などの捨石マウンドは、1~500kg/個の範囲に含まれる捨石を積層して構築されており、本遮水構造を、この捨石マウンドの法面等に、その面を均すことなく、直接敷設することができる。その結果、捨石マウンドの法面等を均す作業や、捨石マウンドの法面に、新たに、捨石よりも粒径及び質量の小さい石材を捨石の間詰め材として積層してなる下地層を構築する作業を必要とせず、その護岸築造における作業効率を向上させることができる。
【0015】
請求項6の発明は、海面処分場を外海と区画する護岸の施工方法であって、海底に基礎マウンドを構築するマウンド構築工程と、前記基礎マウンドの処分場側の面を均すことなく、当該面に沿って、遮水シートと保護マットとを重ねて一体化したラミネート加工シートを敷設するシート敷設工程と、前記ラミネート加工シートの上面に、多数の石材を積層してなる上載層を構築する上載層構築工程と、を備え、前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2
の範囲で設定され、前記保護マットの内部には基布が配置され、該基布は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有することを特徴とするものである。
請求項6の発明では、保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2
の範囲で設定され、前記保護マットの内部には基布が配置され、該基布は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有しているので、特に、シート敷設工程において、ラミネート加工シートを、基礎マウンドの処分場側の面に、その面を均すことなく敷設している。その結果、基礎マウンドの処分場側の面を均す作業が必要なく、また基礎マウンドの処分場側の面に沿って、基礎マウンドの捨石よりも、その粒径及び質量の小さい石材を捨石の間詰め材として積層してなる下地層を構築する作業も必要ないので、その作業効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記シート敷設工程では、前記ラミネート加工シートを巻き取り、または送り出す回転軸を有する機械式シート敷設機を使用することを特徴とするものである。
請求項7の発明では、機械式シート敷設機の回転軸を回転させることで、回転軸に巻き取られたラミネート加工シートを送り出して敷設するので、作業効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の遮水構造によれば、下地面に敷設される保護マットの貫入抵抗力を増加させることができる。これにより、下地面が、1~500kg/個の範囲に含まれる多数の石材で配置されていても、本遮水構造により遮水シートの遮水品質を確保することができる。また、本発明の護岸の施工方法によれば、基礎マウンドの処分場側の面に、直接ラミネート加工シートを敷設することができるので、その作業効率を向上させ、工期短縮と工費削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る遮水構造が採用された捨石傾斜堤護岸の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る遮水構造の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る遮水構造が基礎マウンドの内側の法面に敷設された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図3に基づいて詳細に説明する。
例えば、港湾域において、
図1に示すように、浚渫土を埋立処分する海面土砂処分場10は、捨石傾斜堤護岸11や混成堤護岸により外海12と区画されている。本実施形態では、海面土砂処分場10は、捨石傾斜堤護岸11により外海12と区画されている。本発明の実施形態に係る遮水構造1は、上述した捨石傾斜堤護岸11の内側でその内部に使用される。
【0020】
捨石傾斜堤護岸11は以下のように構成される。海底に設けた地盤改良層15上に断面略台形状の基礎マウンド16が構築される。基礎マウンド16は、多数の捨石により構築される。捨石は、その粒径が10cm~70cm程度であり、1~500kg/個である。該基礎マウンド16の上面に、直方体状のコンクリートブロック17が据え付けられる。コンクリートブロック17の上面には、上部工18が一体的に打設される。基礎マウンド16の護岸外側の上下方向中間部位からコンクリートブロック17の護岸外面に至る範囲は、被覆層21によって被覆される。該被覆層21は、多数の被覆石を積層して構成される。被覆石は、300kg/個~2t/個である。被覆層21から上部工18の護岸外面に至る範囲は、消波ブロック層24により被覆される。消波ブロック層24は、4t/個~32t/個の消波ブロックを並べるようにして構築される。
【0021】
一方、基礎マウンド16及びコンクリートブロック17の護岸内側には、本遮水構造1が敷設される。基礎マウンド16の護岸内側の法面に敷設される本遮水構造1の部位は、上載層30により上方から押えられている。該上載層30は、多数の岩砕材を積層して構築される。岩砕材は、70kg以下/個である。また、コンクリートブロック17の護岸内側の面に敷設された本遮水構造1の部位から内側であって、上載層30の上方には、裏込層31が構築される。裏込層31は、多数の裏込石を積層して構築される。裏込石は、1~70kg/個である。
【0022】
そして、本遮水構造1は、
図2に示すように、遮水シート2と保護マット3とを一体的にラミネート加工してなる2層ラミネート加工シート5にて構成される。本遮水構造1(2層ラミネート加工シート5)は、
図1及び
図3に示すように、基礎マウンド16の護岸内側の法面(下地面20)であって、1~500kg/個の範囲に含まれる多数の石材により凹凸状を呈する下地面20に敷設されている。本遮水構造1である2層ラミネート加工シート5の保護マット3が、基礎マウンド16の護岸内側の法面(下地面20)に接触することで、当該下地面20からの遮水シート2の損傷を抑制することができる。遮水シート2は、所望の遮水機能を有し、塩化ビニール(PVC)、または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などの合成樹脂により構成される。該遮水シート2は、その厚さが1.5~3.5mmの範囲で設定される。
【0023】
保護マット3は、不織布で構成される。該不織布は、繊維材の単位面積あたりの質量(目付量)や厚さを所定値となるように加工して、これを複数層(例えば、2層~4層)、に亘って積層した後に、針を複数積層した各層に貫通するように押し込むことで、各層の繊維材が上下層と絡まりあうことで、所定の目付量や厚みを有するように構成される。この繊維材は、ポリエステル製であり、その径は1.5dtex~13.0dtex、好ましくは、その径は、2.5dtex~8.0dtexの範囲で設定される。ポリエステル製のため耐熱性、耐侯性、耐水性、耐油性、耐薬品性などに優れていて、製品の縦と横の引張応力や貫入抵抗などの物性差がほとんどない特徴を有している。
【0024】
詳しくは、保護マット3は、遮水シート2の厚みが3.0mmに対して、目付量1200g/m2~2100g/m2程度の長繊維不織布が採用される。保護マット3は、好ましくは、目付量1400g/m2~1600g/m2程度である。本実施形態では、保護マット3は、その目付量1500g/m2である。保護マット3は、その繊維材の内部に基布4を介在させて構成されている。基布4は、保護マット3の厚さ方向中央部から下側(下地面20側)に介在される。例えば、基布4は、保護マット3の厚さ方向中央部から下側にその全厚さの1/4程度の位置に介在される。基布4は、例えばポリプロピレン製である。基布4は、目付量100g/m2~500g/m2の範囲、好ましくは、目付量200g/m2~300g/m2の範囲で設定される。
【0025】
また、基布4の物性として、引張強度は、1000N/5cm~3000N/5cmの範囲であり、好ましくは、1500N/5cm~2500N/5cmの範囲である(JIS L 1908準拠)。さらに、基布4の伸び率は、10%~50%の範囲であり、好ましくは、20%~30%の範囲である(JIS L 1908準拠)。基布4単体の貫入抵抗力は、100N~1000Nの範囲であり、好ましくは、300N~500Nの範囲である(ASTM D 4833準拠)。そして、この基布4を含む保護マット3の貫入抵抗力は、2500N~5000Nの範囲となる(ASTM D 4833準拠)。また、保護マット3は、プレス加工により押圧を作用させると、その密度が約130kg/m3から約400kg/m3に大きくなり、このときの厚さは約11mmから約4mmになる。なお、当該保護マット3は、押圧が除去されると、復元して上述した機能、すなわち貫入抵抗力2500N~5000Nの範囲を保持する。
【0026】
上述した構成からなる保護マット3と遮水シート2との間の摩擦係数は、0.4~0.7であり、従来の構成からなる保護マット3(目付量850g/m2であって基布無し)と遮水シート2との間の摩擦係数よりも大きくなる。この摩擦係数の増加は、保護マット3の目付量(1200g/m2~2100g/m2)の増加に起因するものである。なお、本実施形態では、遮水シート2と保護マット3との間の摩擦係数は、遮水シート2が塩化ビニール(PVC)の場合は0.4程度であり、高摩擦加工が施された直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の場合は0.5~0.7である。高摩擦加工は、遮水シート2の保護マット3側に、遮水シート2と同材質の合成樹脂を高さ1mm以下のちりめん状や筋状に吹き付けて遮水シート2と一体化させた粗度に加工されるものである。この粗度が保護マット3の繊維と擦れることにより高い摩擦抵抗力を発揮する。
【0027】
一方、保護マット3と下地面20(粒径が10cm~70cm程度であり、1~500kg/個の石材)との間の摩擦係数は、0.5~1.0であり、従来の構成からなる保護マット3(目付量850g/m2であって基布無し)と下地面20との間の摩擦係数よりも大きくなる。なお、本実施形態では、保護マット3と下地面20との間の摩擦係数は、上載荷重が40kPaの場合、0.8程度であり、上載荷重120kPaの場合でも、0.6程度である。上載荷重が小さい場合は、保護マット3の厚み方向の圧縮が小さく、下地面20の石材が保護マット3の内部に深く突き刺さることで、摩擦抵抗が大きくなる。一方、上載荷重が大きくなると、保護マット3の繊維が厚み方向に押しつぶされるため、下地面20の石材が保護マット3の内部に突き刺さる程度が相対的に小さくなり、摩擦係数が小さくなる。しかしその状態においても摩擦係数0.6以上を発揮する。これは、保護マット3において、従来からその目付量を増加させた効果といえる。言い換えれば、この摩擦係数の増加は、保護マット3の目付量(1200g/m2~2100g/m2)の増加に起因するものである。
【0028】
なお、本遮水構造1としての、遮水シート2と保護マット3とからなる2層ラミネート加工シート5は、次のように製造される。すなわち、遮水シート2の原反ロールを用意する。また保護マット3の原反ロールを用意する。遮水シート2と保護マット3とを重ねるようにして、遮水シート2及び保護マット3を各原反ロールから順次送り出していく。続いて、保護マット3と遮水シート2との間に配置した熱板(図示略)、または熱風により遮水シート2の表面を溶融して両者2、3を一体化させる。そして、このラミネート加工により一体化した、遮水シート2と保護マット3とは、再びロール状に巻き取られ、梱包された後、現場に搬入される。
【0029】
次に、本遮水構造1を用いた捨石傾斜堤護岸11の施工方法を説明する。
まず、地盤改良層構築工程を実施する。該地盤改良層構築工程では、海底の所定範囲に敷砂や砕石を投入して、薄層盛土を構築する。これは、次工程の地盤改良工程時に、原地盤を押え、原地盤の圧密時に排水を促進させるための盛土層を構築するものである(図示略)。
次に、地盤改良工程(例えばサンドコンパクションパイル)を実施する。該地盤改良工程は、海底地盤が軟弱層であるために護岸を上載した場合に護岸が沈下しないように、海底地盤の強度を増加させるために実施する。具体的に、地盤改良工程では、海底地盤にケーシングパイプ(図示略)によって砂の杭(図示略)を打ち込み、軟弱な粘土層内によく締まった砂の杭を一定の割合で強制的に配置することで、海底地盤の強度を増加させている。そして、上述した地盤改良層構築工程及び地盤改良工程により、
図1に示す地盤改良層15が構築される。
【0030】
次に、マウンド構築工程を実施する。該マウンド構築工程では、ガット船等により海上運搬した1~500kg/個の範囲に含まれる捨石を多数投入して、基礎マウンド16を構築する。このとき、その表面が設計断面に対して±70cm以内となるように投入する。その後、基礎マウンド16の上面だけは、気中の場合はバックホウにて、水中の場合は潜水士や機械式均し機によりその凹凸が±5cm以内となるように均す。
次に、コンクリートブロック据付工程を実施する。該コンクリートブロック据付工程では、基礎マウンド16の上面にコンクリートブロック17を据え付ける。
次に、シート敷設工程を実施する。該シート敷設工程では、本遮水構造1である2層ラミネート加工シート5を、コンクリートブロック17の護岸内側の面から基礎マウンド16の護岸内側の法面(下地面20)に至る範囲に敷設する。このとき、当然ながら、2層ラミネート加工シート5の保護マット3が、基礎マウンド16の法面(下地面20)に接触するように敷設する。
【0031】
本実施形態に係るシート敷設工程では、機械式シート敷設機を使用して敷設する方法が採用されている。この方法では、まず、陸上にて、2層ラミネート加工シート5の原反ロール(例えば約2m幅)を幅方向に沿って複数枚並べ、それぞれ溶着して所定幅(例えば約10m~30m幅)の幅広加工シートを形成する。この幅広加工シートを鋼管軸(回転軸)に、それを回転させることで巻き取る。その後、起重機船やクレーン付台船(図示略)にて吊るした機械式シート敷設機(図示略)に、幅広加工シートを巻き取った鋼管軸を取り付け、幅広加工シートの端部を護岸上部のコンクリートブロック17に固定する。
なお、幅広加工シートを鋼管軸(図示略)に巻き取る際、2層ラミネート加工シートの保護マット3は、プレス加工や鋼管軸への巻き取り時の加圧等による押圧で保護マット3の密度を約400kg/m3とするとき、その厚さが約4mmに圧縮されるので、鋼管軸への巻き厚を薄くすることができる。その結果、同一径で2層ラミネート加工シート5の巻取量を増加させることができる。
【0032】
そして、起重機船(またはクレーン付台船)を護岸から遠ざかる方向に曳航させると共に機械式シート敷設機の鋼管軸を回転させることで、幅広加工シートに引張力の負荷をかけることなく送り出しながら、幅広加工シート(複数の2層ラミネート加工シート5)を、コンクリートブロック17の護岸内側の面から基礎マウンド16の護岸内側の法面に至る範囲に敷設する。上述したように、コンクリートブロック17の護岸内側の面及び基礎マウンド16の護岸内側の法面に、2層ラミネート加工シート5の保護マット3が接触されて、保護マット3により遮水シート2の損傷を抑制することができる。
【0033】
次に、上載層構築工程を実施する。該上載層構築工程では、2層ラミネート加工シート5の遮水シート2上に多数の岩砕材(例えば70kg以下/個)を投入して積層し、所定高さの上載層30を構築する。
次に、裏込層構築工程を実施する。該裏込層構築工程では、コンクリートブロック17の護岸内側の面に敷設された2層ラミネート加工シート5の部位から内側であって、上載層30の上方に、多数の裏込石(例えば1~70kg/個)を投入して積層し、所定高さの裏込層31を構築する。
【0034】
次に、上部工打設工程を実施する。該上部工打設工程では、コンクリートブロック17の上面にコンクリートを打設することで所定高さの上部工18を形成する。
また、これらの、傾斜堤護岸11内側の施工と並行して、傾斜堤護岸11外側に被覆層21及び消波ブロック層24を構築する。被覆層21に用いる石材や、消波ブロック層24の消波ブロックの規格は、護岸が構築される海域の海象条件により設計・設定される。一般的には、上述したように、被覆層21には、300kg/個~2t/個の被覆石が用いられる。また消波ブロック層24には、4t/個~32t/個の消波ブロックが用いられる。なお、これら被覆層21及び消波ブロック層24の詳細な施工方法の説明は省略する。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係る遮水構造1に採用される保護マット3は、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200g/m2~2100g/m2の範囲で設定される。また、保護マット3は、その内部に基布4が配置され、該基布4は、引張強度が1000N/5cm~3000N/5cmの範囲で、且つ伸び率が10%~50%の範囲である特性を有するものである。これにより、保護マット3は、下地面20からの貫入抵抗力が、2500N~5000Nになるので、敷設される下地面20に、粒径及び質量の大きな石材が多数位置している場合でも、下地面20の各石材による遮水シート2の損傷を抑制して、該遮水シート2の遮水品質を確保することができる。また、従来における、下地面20の凹凸を±20cmにする均し作業を必要とせず、その作業効率を向上させて、工期短縮と工費削減を図ることができる。
【0036】
また、本実施形態に係る遮水構造1では、保護マット3と下地面20との間の摩擦係数は、0.4~1.0であり、保護マット3と遮水シート2の間の摩擦係数は、0.4~0.7である。これにより、遮水シート2上の上載層30の荷重を従来よりも軽く設定することができ、遮水シート2上の多数の岩砕材(上載層30)が法面を滑落しにくくなる。
さらに、本実施形態に係る遮水構造1は、遮水シート2と保護マット3とを重ねて一体化される2層ラミネート加工シート5にて構成されているので、これを敷設する際1回の敷設作業で済むので、作業効率をさらに向上させることができる。
【0037】
さらに、本実施形態に係る護岸の施工方法では、特に、基礎マウンド16の処分場10側の面(下地面20)に沿って、直接、遮水シート2と保護マット3とを一体的にラミネート加工してなる2層ラミネート加工シート5を敷設するシート敷設工程を有する。その結果、基礎マウンド16の法面等を均す作業が必要なく、また基礎マウンド16の法面に沿って、基礎マウンド16の捨石よりも、その粒径及び質量の小さい石材を積層してなる下地層を構築する作業も必要ないので、その作業効率を大幅に向上させて、工期短縮と工費削減を図ることができる。
【0038】
さらにまた、従来のシート敷設工程では、台船に例えば3層ラミネート加工シートの原反ロールをセットして、海上で原反ロールからの3層ラミネート加工シートを溶着して幅広加工しながら引き出した上で、所定位置に曳航運搬して敷設する工法が採用されていたが、この敷設工法では、これらの工程が全て海上での作業となることから、悪天休止による工程遅延が発生することが多い。また、この敷設工法では、幅広加工シートの曳航中や長期間の浮遊状態でしわが発生したり、さらには悪天時には流出する虞もあった。
【0039】
これに対して、本実施形態に係る護岸の施工方法におけるシート敷設工程では、上述したように、陸上にて、2層ラミネート加工シート5を幅方向に沿って複数枚溶着して、幅広加工シートを形成する。そして、該幅広加工シートを鋼管軸に巻き取った後、当該鋼管軸を起重機船等に設置された機械式シート敷設機に取り付け、当該鋼管軸を回転させることで、幅広加工シート(2層ラミネート加工シート5)を送り出し、所定位置に敷設している。その結果、従来工法に比べて、工期を短縮することができ、しかも、遮水シート2の損傷リスクの軽減といった品質確保も達成することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、捨石傾斜堤護岸11であって、コンクリートブロック17から基礎マウンド16の護岸内側の面(下地面20)に本遮水構造1を敷設したが、コンクリートブロック17を使用せず、海底に構築される基礎マウンド上にケーソンを据え付けてなる混成堤護岸の護岸内側の面(下地面20)に沿って、本遮水構造1を敷設するようにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係る遮水構造1は、遮水シート2の片面に保護マット3を重ねて一体化した2層ラミネート加工シート5を採用しているが、遮水シート2の両面に保護マット3、3をそれぞれ重ねて一体化した3層ラミネート加工シートを採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 遮水構造,2 遮水シート,3 保護マット,4 基布,5 2層ラミネート加工シート,11 捨石傾斜堤護岸,16 基礎マウンド,20 下地面,30 上載層