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特許7292591係止アンクルを備えた脱進機構、及びそのような脱進機構を備えた計時器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】係止アンクルを備えた脱進機構、及びそのような脱進機構を備えた計時器
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20230612BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G04B15/14 Z
G04B17/06 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021506051
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019059884
(87)【国際公開番号】W WO2019201976
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】18167638.8
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523164469
【氏名又は名称】フランソワ ベッセ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルノー、ドミニク
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025719(JP,A)
【文献】特開2015-090366(JP,A)
【文献】特開2000-304874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0298180(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00018796(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/14
G04B 15/00,15/06
G04B 17/00,17/06
G04B 18/00
G04C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばねてんぷタイプの調速機(2)を有する計時器のための係止アンクル(5)を備えた脱進機構(1)であって、
- 第1の回転軸の周りで回転可能であり且つ一連の周辺歯(31)を有するガンギ車(3)と、
- 前記第1の回転軸に平行な第2の回転軸の周りで回転可能な係止アンクル(5)であって、第1及び第2のアーム(54、55)の一端にそれぞれ配置される第1及び第2の係止パレット(52、53)を有し、前記第1及び第2の係止パレット(52、53)は、前記ガンギ車(3)及び前記係止アンクル(5)のそれらのそれぞれの回転軸の周りでの各回転ステップで前記ガンギ車の歯(31)に交互に係合することができる、係止アンクル(5)と
を有し、
前記脱進機構(1)は少なくとも1つの衝撃パレット(21、22)を有し、前記少なくとも1つの衝撃パレット(21、22)は、前記調速機(2)の少なくとも2回の循環ごとに1回、前記ガンギ車(3)の歯(31)を前記衝撃パレット(21、22)の衝撃面(p)上で摺動させることによって衝撃を伝えるように1つの前記調速機(2)に固定されるように適合され、一方、前記係止アンクル(5)は、前記調速機(2)への恒久的な運動学的回転係合のための連接部材(51)を有し、それにより前記調速機(2)及び前記ガンギ車(3)の前記回転軸の間にレバーアームを提供することを特徴とする、脱進機構(1)。
【請求項2】
前記係止アンクル(5)及び前記少なくとも1つの衝撃パレット(21、22)は、係止フェーズ又は衝撃フェーズ外の「死点」位置において前記係止パレット(52、53)が前記ガンギ車の前記回転軸から前記ガンギ車(3)の前記歯の外接円(cc)の半径(R)よりも大きい距離に位置すると同時に前記少なくとも1つの衝撃パレット(21、22)の少なくとも1つの端部が前記ガンギ車(3)の前記回転軸から前記半径(R)未満の距離に位置するように、前記ガンギ車(3)と向かい合って配置されることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(1)。
【請求項3】
前記ガンギ車(3)の前記歯(31)は、前記ガンギ車の回転軸に直角な前記ガンギ車の面で考えたときに、前記歯(31)がそこから延びる前記ガンギ車(3)の大輪(32)の厚さよりも大きい厚さを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の脱進機構(1)。
【請求項4】
前記係止アンクル(5)は、前記係止パレット(52、53)の反対に延びるアームの端部に配置された前記調速機(2)への恒久的な運動学的係合のための連接部材(51)を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の脱進機構(1)。
【請求項5】
前記連接部材(51)は、前記調速機(2)に固定されるように意図されたピン(6)、スタッド、ラグなどを受け入れ可能なスライド(7)を有し、それにより前記係止アンクル(5)と前記調速機(2)との間に摺動ピボット接続がもたらされることを特徴とする、請求項4に記載の脱進機構(1)。
【請求項6】
前記スライドは、前記係止アンクルの前記連接部材の端部の塊に機械加工され得ることを特徴とする、請求項5に記載の脱進機構(1)。
【請求項7】
前記スライド(7)は、閉じた又は開いた溝によって構成されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の脱進機構(1)。
【請求項8】
単一の衝撃パレット(21)を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の脱進機構(1)。
【請求項9】
前記「死点」位置において前記調速機(2)及び前記ガンギ車(3)の前記回転軸を通過する直線(d)に関して対称的に前記調速機に固定されることが可能な2つの衝撃パレット(21、22)を有することを特徴とする、請求項2に記載の脱進機構。
【請求項10】
機械的駆動源と、仕上げ歯車列と、調速機(2)と、請求項1から9までのいずれか一項に記載の脱進機構(1)とを備える携帯時計ムーブメントを有する計時器であって、
前記脱進機構(1)は、一方ではそのガンギ車(3)により前記仕上げ歯車列の車(4)にまた他方では係止アンクル(5)の恒久的な接続のための前記連接部材(51)により前記調速機(2)に運動学的に係合して配置され、前記脱進機構(1)の前記少なくとも1つの衝撃パレット(21、22)は前記調速機(2)にさらに固定され、それにより前記衝撃パレット(21、22)の衝撃面(p)上における前記ガンギ車(3)の歯(31)の引き摺り衝撃ごとに前記駆動源から機械的エネルギーの分け前を周期的に受け取る、計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計製造の分野に関する。本発明は、より詳細には、計時器の調速機と運動学的に係合して配置可能な係止フォークにより衝撃が係止から分離される、引き摺り式係止アンクル(dragging locking anchor)を備えた脱進機構(エスケープメント機構)に関する。
【0002】
本発明はまた、特にばねてんぷ(sprung balance)又はナイフ振動子(knife oscillator)タイプの適切な調速機と協働するような脱進機構を有する計時器に関する。
【背景技術】
【0003】
時計製造の分野では、引き摺り式又は摩擦式の係止脱進機が昔から知られており、それらは、特にその調速機が振り子から成る固定時計において開発され、今日でも使用されている。このタイプの脱進機は、係止フェーズ中にガンギ車と持続的に接触するデバイスを、一般にそのデバイスを収容する計時器の調速機と一体に有する。結果として、このタイプの脱進機は、効率が悪く、且つ、ばねてんぷタイプの調速機の等時性を著しく変化させ、これは、このタイプの調速機を主に有する懐中時計又は腕時計のムーブメント内で運動エネルギーを分配するために特に不適当にするものである。
【0004】
しかし、これらの脱進機は、比較的使いやすく、衝撃などの動作妨害に影響されにくく、また、拘束角が抑えられた小さな振幅の制御装置運動に適しているので、興味深いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/012281号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機械式携帯時計ムーブメントでの使用を可能にするために調速機での最小限の拘束角を有し、しかし既知の摩擦式係止アンクル脱進機の制限を受けない、効率が改善された新規な係止アンクル脱進機を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の別の目的は、そのような脱進機を含む計時器の提案に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の目的によれば、本発明は、調速機を有する計時器のための係止アンクルを含む脱進機構であって、
- 第1の回転軸の周りで回転可能であり且つ一連の周辺歯を有するガンギ車と、
- 第1の回転軸に平行な第2の回転軸の周りで回転可能である係止アンクルであって、第1及び第2のアームの一端にそれぞれ配置され且つガンギ車及びアンクルのそれらのそれぞれの回転軸の周りでの回転ステップごとにガンギ車の歯と交互に係合することが可能な第1及び第2の係止パレット(locking pallet)を有する、係止アンクルと、
を有する、脱進機構を提案する。
【0009】
本発明によれば、エスケープ機構は、少なくとも1つの衝撃パレットをさらに有し、この少なくとも1つの衝撃パレットは、前述の調速機の少なくとも2回の循環(alternations)ごとにガンギ車の歯を前述の衝撃パレットの衝撃面上で摺動させることにより衝撃を伝えるために、前述の調速機に固定されるように適合され、一方で、係止アンクルは、調速機の回転軸とガンギ車との間にレバーアーム(lever arm)を提供するために、前述の調速機への恒久的な運動学的回転係合のための連接部材を有する。
【0010】
したがって、本発明の脱進機構は、固定時計に一般に使用されるグラハム型脱進機に類似するが、係止アンクルは衝撃パレットとは別個であり、それ自体、計時器の調速機、特に携帯時計に一般に使用されるばねてんぷに取り付けられることが可能であり、又は、本出願人の特許出願WO2016/012281で説明されているナイフ共振器タイプのものである。
【0011】
それにより、調速機によるその追加的な円弧の経過の全てのフェーズ中に前技術の摩擦式係止脱進機と比較して係止摩擦が著しく減少した、衝撃フェーズと係止フェーズとが分離される係止アンクル脱進機構造がもたらされる。さらに、係止アンクルは調速機と恒久的に接続しているので、調速機の運動のみが、係止アンクルの枢動に関与し、したがってガンギ車の係止解除に関与する。これは、摩擦を著しく減少させるだけでなく、慣例的なアンクル脱進機において引き起こされる引張り作用(draw effect)を減少させ、したがって、先の技術から知られている係止アンクル脱進機から知られているてんぷに対する乱れを減少させ、したがって、前述の脱進機を組み込んだ携帯時計ムーブメントの等時性に対する乱れを減少させる。
【0012】
本発明の脱進機構はまた、有利には、「引き摺り」衝撃フェーズを調速機の2回の循環につき1回の衝撃に減少させる一方で調速機の所望の振動数における周期的な係止解除を確実にする、シングル・ビート脱進機とされ得る。
【0013】
本発明の脱進機構は、調速機の運動の小さな角度振幅におけるいかなるオーバーバンキング及びジャミングをも防止する、提供された調速機への係止アンクルの恒久的な接続によって、さらに確実とされる。
【0014】
本発明の有利な特徴によれば、係止アンクル及び少なくとも1つの衝撃パレットは、「死点」として知られる位置すなわち係止フェーズ又は衝撃フェーズ外の位置において係止パレットがガンギ車の回転軸から前述のガンギ車の歯によって外接される円の半径よりも大きい距離に置かれる一方で少なくとも1つの衝撃パレットの少なくとも1つの端部がガンギ車の回転軸から前述の半径未満の距離に置かれるように、ガンギ車の反対側に配置される。したがって、「死点」位置では係止パレットはガンギ車の周囲においてガンギ車の歯から遠位にあるが、衝撃パレットは少なくとも部分的にガンギ車の前述の歯と歯の間に延在することを理解するのは、容易である。
【0015】
この特定の脱進機配置によれば、調速機のトルクは、調速機の回転軸とガンギ車との間に係止アンクルによって提供されるレバーアームの効果により、ガンギ車を解放するのに十分であり、ガンギ車は、調速機によって引き起こされた係止アンクルの回転によってすでに係止解除された係止パレットと接触することなしに、それが関連付けられた携帯時計ムーブメントの仕上げ歯車列(finishing gear train)の駆動作用の下で衝撃パレットの衝撃面に係合することが可能になるので、本発明の脱進機構に対して自己始動特性を確実にすることが特に可能となる。
【0016】
特定の実施例によれば、ガンギ車の歯は、例えば、そこから歯が延在するガンギ車の大輪のおおよそ2倍の厚さである。これは、特に、衝撃フェーズ中の衝撃パレットの衝撃面上での歯の確実な支持と、本発明の脱進機構を計時器に使用するときに前述の衝撃パレットが配置されなければならない調速機の追加的な円弧の経過中に前述の衝撃パレットが大輪の上側で2つの歯の間を自由に通過することとを確実にすることを可能にする。
【0017】
特定の実施例によれば、係止アンクルは、係止パレットの反対側に延在するアームの端部に配置された、前述の調速機への恒久的な運動学的係合のための連接部材を有し、前述の連接部材は、係止アンクルと前述の調速機との間に摺動ピボット接続をもたらすために、前述の調速機に固定されるように意図されたピン、スタッド、ラグなどを受け入れることが可能なスライドを有する。
【0018】
有利には、前述のスライドは、例えば閉じた若しくは開いた溝又は凹部の形態で係止アンクルの連接部材の端部における塊(mass)に機械加工されてよく、したがって連接フォーク形状を形成する。
【0019】
特殊な実施例では、脱進機構は、単一の衝撃パレットを有する。その場合、本発明の脱進機は、シングル・ビート脱進機である。
【0020】
別の実施例では、脱進機構は、前述の調整及びガンギ車の回転軸を通過する直線に関して対称的に前述の調速機上に固定されることが可能な2つの衝撃パレットを有する。
【0021】
第2の目的によれば、本発明はまた、機械的駆動源と、仕上げ歯車列と、調速機と、一方ではそのガンギ車により仕上げ歯車列にまた他方では係止アンクルの連接部材により前述の調速機に運動学的に係合して配置された本発明による脱進機構と、が装備された携帯時計ムーブメントを有する計時器、特に携帯時計であって、前述の脱進機構の少なくとも1つの衝撃パレットが、衝撃パレットの衝撃面上でのガンギ車の歯の引き摺り衝撃のたびに駆動源から機械的エネルギーの分け前(share;取り分)を周期的に受け取るために前述の調速機上にさらに固定される、計時器、特に携帯時計を提供する。
【0022】
本発明の最後の目的は、すでに説明された脱進機構とともに機能するように適合された計時器のための調速機を提案することにさらに関する。具体的には、本発明による調速機は、有利には、てんぷ上に固定されたてんぷ大輪から突出する衝撃パレット又は2つの衝撃パレットを有するばねてんぷ組立体とされ得る。
【0023】
本発明の他の詳細は、添付の図面を参照しながら以下の説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による脱進機構を、そのうちのてんぷのみが図に表わされているばねてんぷタイプの調速機における係止フェーズ又は衝撃フェーズ外の「死点」として知られている中立位置で表わす図である。
図2図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動(oscillation;揺れ)にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図3図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図4図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図5図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図6図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図7図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図8図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図9図1の脱進機を、関連する制御デバイスのてんぷの完全な振動にわたる様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図10】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図11】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図12】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図13】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図14】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図15】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図16】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図17】本発明による脱進機構の実施例の変形を、シングル・ビート形態で、また、関連する調速機のてんぷの完全な振動にわたるその様々な位置及び動作フェーズの1つで示す図である。
図18】本発明の脱進機構に関連付けられた調速機の追加的な円弧の経過中の、ガンギ車の歯間での接触を伴わない衝撃パレットの通過を示す、図4の拡大図である。
図19】本発明の脱進機構に関連付けられた調速機の追加的な円弧の経過中の、ガンギ車の歯間での接触を伴わない衝撃パレットの通過を示す、図9の拡大図である。
図20】本発明の脱進機構に関連付けられた調速機の追加的な円弧の経過中の、ガンギ車の歯間での接触を伴わない衝撃パレットの通過を示す、図17の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、過去の技術から知られている引き摺り式のロッキング脱進機に関する既知の問題を軽減するために、係止アンクル及び別々の衝撃パレットを有し、且つ、係止が衝撃から分離されるように配置される、時計のための新規なタイプの脱進機を提案する。
【0026】
本発明の脱進機は、懐中時計又は腕時計に古くから用いられるばねてんぷタイプの調速機の使用に対応する極めて単純な構造及び簡潔さを有するが、その等時性を著しく乱すことなしに、より低いてんぷ振動の振幅、したがってより高い振動数を有する。
【0027】
したがって、本発明のエスケープ機構1の第1の特定の実施例が、衝撃フェーズ又は係止フェーズ外の「死点」として知られる位置で、図1に表わされている。表示の単純化及び明瞭さのために、脱進機構1は、そのひげぜんまいが示されていないばねてんぷタイプの調速機2の部品であるてんぷ、及び携帯時計ムーブメントの仕上げ歯車列の車(wheel)4と共同して、この図1(及び後続の図)に示される。調速機2はまた、本出願人により特許出願WO2016/012281で提案されているようなナイフ共振器タイプのものであってもよい。図2から9は、本発明の脱進機の様々な動作フェーズを、てんぷ2の完全な振動にわたって示す。
【0028】
したがって、本発明の脱進機構1は、第一に、第1の軸の周りで回転可能であるガンギ車3を有し、第1の軸の周りでは、ガンギ車3が時計ムーブメントの仕上げ歯車列の終端車4に結合されることを可能にする脱進機かな(escapement pinion)(図示せず)も駆動される。ガンギ車3は、慣例的な態様でガンギ車3の大輪32から延在する一連の周辺歯31を有する。歯31は、ガンギ車3の回転軸に対して直角な大輪32及び歯31が延在するガンギ車3の面において測定された厚さをそれらの自由端において有し、この厚さは、大輪32の厚さよりも大きいことが、好ましい。このガンギ車の歯31と大輪32との間の厚さの違いは、各歯31の根元に近い肩線(shoulder line)により、図に概略的に表わされている。この車の残りの部分に対する歯の厚さの増大は、後で示されるように、係止アンクル5及び前述の歯31に重ね合わせられ且つ交差する平行な面において可動である調速機2のてんぷ上に固定された衝撃パレット21、22と交互に協働する能力を、ガンギ車3に提供する。
【0029】
したがって、脱進機構1はまた、調速機2のてんぷとガンギ車3との間に挿入された係止アンクル5、及び、2つの衝撃パレット21、22を有し、2つの衝撃パレット21、22は、有利には任意の適切な手段により、具体的には接着又はねじ留めにより、調速機2のてんぷ上に固定されるか、又は、てんぷの製造中にてんぷの塊における材料で作られ、次いで機械加工される。衝撃パレット21、22は、図1に示された前述の「死点」位置において前述の調速機2及びガンギ車3の回転軸を通過する直線dに対して対称的に調速機2上に配置されることが好ましく、したがって、調速機2に錨の外見を与える。衝撃パレット21、22はそれぞれ衝撃面pを有し、この衝撃面pは、「死点」位置(図1)では、ガンギ車3の歯31の外接円ccと交わる。
【0030】
しかし、以下でより詳細に説明されるように、衝撃パレット21、22は、本発明の機構の枠内では、ガンギ車3から調速機2のてんぷへの衝撃フェーズのためにのみ介在し、係止フェーズのためには介在せず、係止フェーズは、もっぱら係止アンクル5によって実行される。係止アンクル5は、調速機2及びガンギ車3の回転軸に平行な回転軸の周りで回転運動可能である。係止アンクル5は、第1及び第2のアーム54、55の一端にそれぞれ配置された第1及び第2の係止パレット52、53を有する。これらの係止パレット52、53は、ガンギ車3の回転のステップごとに調速機2のてんぷによって直接に且つ独占的に引き起こされる変位により第1及び第2の係止位置においてガンギ車3の歯31に交互に係合するように適合される。係止アンクル5はまた、調速機2への恒久的な運動学的係合のための連接部材51を有する。
【0031】
調速機への恒久的な運動学的係合のための前述の連接部材51は、有利には、係止アンクル5と調速機2との間に摺動ピボット接続をもたらすために、係止パレット52、53から離れる方向に延在するアームの端部において、調速機2に取り付けられるピン6、若しくはスタッド、ラグなどのような雄摺動接続要素を受け入れることが可能なスライド7に成形される。スライド7は、様々な形状で作られ得る。例えば、スライド7は、直線状の閉じられた溝若しくは凹部の形態で、又は、特に調速器が90°を超えて移動することを可能にするようにY形状で、係止アンクル5の連接部材51の端部における塊に機械加工されてよい。或いは、図に示されるように、スライド7はまた、係止アンクル5の材料により係止アンクルの塊に機械加工されるか若しくは形成されてノッチのどちらかの側に2本歯の連接フォークを形成するノッチ又は凹部で構成されてもよく、このノッチ又は凹部内では、調速機2への連接ピン6が摺動することができる。いずれにせよ、スライド7及びピン6は、前述のピン6が、脱進機構1の動作中にスライド7の内側に配置されてスライド7の内側で移動し、且つ、慣例的な従来技術の脱進機構におけるアンクルとてんぷピンとの相互作用とは対照的に調速機2のてんぷのあらゆる位置においてスライド7の壁と恒久的に接触しているように、係止アンクル5及び調速機2上に配置される。
【0032】
上述のように、係止アンクル5は、図1に示された脱進機の死点位置ではその回転軸が調速機2及びガンギ車3の回転軸に平行であるように、調速機2及びガンギ車3に対して配置される。さらに、なおもこの死点位置では、係止アンクル5は、衝撃パレット21、22の端部が、ガンギ車3の歯31の外接円ccに交わり、したがってガンギ車3の回転軸から半径R未満の距離に置かれるのと同時に、係止パレット52、53が、ガンギ車の回転軸から前述の外接円ccの半径Rよりも大きい距離に位置するようでなければならない。
【0033】
この構成により、脱進機1の死点において、衝撃パレット21、22の衝撃面は、円ccによって具体的に示されるガンギ車3の歯31の経路上に置かれるが、係止パレット52、53は、この経路の外に置かれる。また、ガンギ車3の回転は、衝撃パレット21、22の衝撃面pの歯31による係合と、この衝撃面p上の歯31の摺動による調速機2のてんぷのその軸の周りでの振動における駆動とを必然的にもたらす。したがって、脱進機1は、自己始動可能であり、且つ、ガンギ車とてんぷとの間の係止アンクルのレバーアーム作用(lever arm effect)によって促進される。実際には、係止アンクル5の連接部材51によるてんぷへの恒久的な接続は、てんぷが回転し始めるとすぐに、ピン6と恒久的連接部材のスライド7との間の接触点に印加される係止アンクル5のその軸の周りでの駆動モーメントを引き起こす。したがって、直線dに関するその角度振幅が実際には精々90°から150°の範囲内であるてんぷの非常に小さな角度変位であっても、連接部材51と係止アンクルの回転軸との間のレバーアーム作用により、係止アンクル5のてんぷ振動数における交代性の傾斜運動と、いずれの衝撃面もガンギ車3の歯31に接触しないてんぷの追加的な円弧の経過中の、ガンギ車3の歯31に接触する2つの係止位置間での係止アンクル5の係止パレット52、53の変位とを発動させることが可能になる。したがって、本発明の脱進機構1は、低い振動振幅のときでさえ、調速機2のてんぷの衝撃とともに、衝撃から分離された非常に低い摩擦係止を提供する。
【0034】
調速機2の完全な振動での本発明の脱進機構の動作が、図2から9に示され、且つ、以下で説明される。慣例により、調速機のてんぷ、係止アンクル、及びガンギ車の回転方向は、図のそれぞれの平面的な表現を参照しながら、時計方向又は反時計方向とそれぞれ説明されるものとする。
【0035】
図2は、調速機2の衝撃パレット21上でのガンギ車3の歯31の最終衝撃位置における脱進機構1を示す。ガンギ車3によりパレット21を介して調速機2に伝達されたトルクは、調速機2を時計方向に回転させ、すると調速機2は、調速機2の回転軸近くのピン6へのアンクルの背面連接部材51の接続により、係止アンクル5を反時計方向に回転させる。この係止アンクル5の回転は、図3に示されるように、係止パレット52を、調速機2に衝撃を伝えたばかりの歯31に接触する係止位置へ運ぶ。次いで、調速要素のてんぷの衝撃パレット22は、この循環全体にわたって、ガンギ車3の2つの歯31に接触することなく(図18)、てんぷの追加的な円弧の経過に対応して、ガンギ車3の2つの歯31間の円形経路を時計方向にたどる(図4)。
【0036】
てんぷは、その追加的な円弧の終わりに、てんぷに関連付けられている戻しばね(図示せず)により、慣例的な態様で反時計方向に戻される。この反時計方向回転は、係止アンクル5を時計方向に回転させ、且つ、係止パレット52をガンギ車から係止解除させ(図5)、一方で、ガンギ車の歯31が、衝撃パレット22の衝撃面p上に摺動して位置することになり(図6)、したがって、ガンギ車3を介したてんぷへの第2の引き摺り衝撃が開始される。てんぷは、この第2の衝撃の終わりまでこの衝撃の下でその時計方向回転を続け(図7)、それにより、係止アンクル5は、第2の係止位置へ運ばれるまで枢動し、第2の係止位置では、第2の係止パレット53はガンギ車3の歯の反対側に置かれて(図8)、ガンギ車3の回転を止める。次いで、調速機2のてんぷは、その追加的な円弧を反時計方向に移動させることができ、その間、衝撃パレット21は、図9及び20に示されるように、係止状態にあるガンギ車3の2つの歯31の間を移動する。したがって、係止フェーズ中、ガンギ車は係止アンクル5とのみ接触し衝撃パレット21、22とは接触しないことが、留意され得る。この第2の循環の終わりに、調速機は、図2から9において上記で説明された周期に従って、時計方向などに再び動き始める。
【0037】
図10から17は、脱進機構が1つだけの衝撃パレット21を有する本発明の脱進機構1のシングル・ビート実施例の動作を追加的に表わす。
【0038】
図10は、図1と同様に、本発明の脱進機1のこの第2のシングル・ビート・バージョンを死点位置で示す。この死点位置から、歯車4は、ガンギ車3を時計方向に駆動し、それが前述の車の歯31を単一の衝撃パレットの衝撃面pに接触させて(図11)、調速機2に衝撃を伝える。この引き摺り衝撃もまた、調速機2を時計方向に回転させ、したがって、係止アンクル5をその軸上で反時計方向に回転させ、したがって、係止パレット52を衝撃の終わり(図12)におけるガンギ車3の歯31に対する第1の係止位置(図13)に運ぶ。次いで、調速機2は、時計方向に第1の循環を行い(図14)、次いで、関連する戻しばねの単純な復帰力により、反時計方向に死点位置まで戻る(図15)。次いで、単一の衝撃パレット21を担持する調速機2は、ガンギ車の2つの歯31間でそのシングル・ビートを行い(図16及び20)、調速機2は、図17に示されるように、死点位置を通過するときに係止アンクル5を時計方向に回転させ、第2の係止パレット53を第2の係止位置へ運んで、シングル・ビート及びてんぷの第2の完全な循環中にガンギ車の回転を妨げ、次いで、調速機2は、慣例的な態様で反対方向に戻るなどする。
【0039】
この構成では、相当に抑えられた引き摺り衝撃及び係止フェーズにより、調速機2の乱れはさらに少なくなり、したがって本発明の脱進機のより良好な能率性が得られる。
【0040】
したがって、本発明は、携帯時計機構の調速機の低振幅の振動及び高振動数に適合された、単純で信頼性があり且つ場所を取らない構造を有する脱進機構を提供し、この脱進機構は、これまで知られている引き摺り係止脱進機と比較して、これらの機構の性能を著しく改善することにより、携帯時計機構で使用され得る他に、固定時計機構でも使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20