(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】自動スラグ除去装置及び自動スラグ除去プログラム
(51)【国際特許分類】
F27D 25/00 20100101AFI20230612BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20230612BHJP
F27D 21/02 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
F27D25/00
B22D43/00 D
F27D21/02
(21)【出願番号】P 2018223641
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-11-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 公益社団法人日本鋳造工学会 刊行物 日本鋳造工学会 第172回全国大会 日本鋳造協会 平成30年度秋季大会 講演概要集 発行日 平成30年10月1日 〔刊行物等〕集会名 日本鋳造工学会 第172回全国大会 日本鋳造協会 平成30年度秋季大会 開催場所 石川県地場産業振興センター 開催日 平成30年10月12日~平成30年10月15日 〔刊行物等〕発行者 株式会社日刊工業新聞社 刊行物 日刊工業新聞 発行日 平成30年10月12日 〔刊行物等〕発行者 株式会社山陰中央新報社 刊行物 週刊山陰経済ウイークリー、第42巻、第30号、通巻第2095号、第10頁 発行日 平成30年11月13日 〔刊行物等〕発行者 株式会社山陰中央新報社 刊行物 山陰中央新報 発行日 平成30年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】518165925
【氏名又は名称】オーエム金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 廣志
(72)【発明者】
【氏名】白井 匡人
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-159053(JP,A)
【文献】特開2018-070926(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-76781(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第110532902(CN,A)
【文献】特開平09-243273(JP,A)
【文献】特開2002-229955(JP,A)
【文献】特開2019-105389(JP,A)
【文献】特開平04-262856(JP,A)
【文献】特開2003-013129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00-99/00
F27D 3/00-5/00
F27B 1/00-3/28
C21B 7/00-9/16
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
B22D 11/00-11/22
B22D 33/00-47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で除去するための自動スラグ除去装置であって、
前記溶解炉内の溶解金属の溶湯表面全体が写るように所定角度から撮影するための撮影カメラと、
電子制御によって溶解炉内のスラグを除去するための
形状の異なる複数種類のアームと、
前記アームの電子制御を含む各種制御を行うための制御部と
、を少なくとも備え、
前記制御部は、
溶解金属の溶湯表面全体を写した前記撮影カメラによる撮影画像データを取得する撮影画像データ取得部と、
溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、前記撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行うスラグ判定部と、
前記スラグ判定部においてスラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、
複数種類の前記アームから除去に用いる前記アームを決定し、かつ、前記アームの制御内容を決定する除去内容決定部と、
前記除去内容決定部において決定された除去内容に基づいて、前記アームの電子制御を行ってスラグの除去処理を実行するスラグ除去実行部と
、を有し、
前記学習済モデルは、ニューラルネットワークを用いたものであり、前記撮影画像データが示す画像を所定の複数領域に分割した場合の各領域が、スラグ領域であるか溶解金属の湯面領域であるかの少なくとも2通りについて判定し得るようにニューラルネットワークの学習を行った
ことを特徴とする自動スラグ除去装置。
【請求項2】
前記除去内容決定部は、前記スラグ発生位置の情報に基づいて、スラグ除去位置を決定し、当該除去位置に存在するスラグの
位置、大きさ、形状に基づいて使用する前記アームを決定し、かつ、アームを投入する位置及びアームに実行させる除去動作を決定する
請求項1に記載の自動スラグ除去装置。
【請求項3】
溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で除去するための制御をコンピュータに実現させるための自動スラグ除去プログラムであって、
前記コンピュータに、
撮影カメラによって溶解金属の溶湯表面全体を写した撮影画像データを取得する撮影画像データ取得機能と、
溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習する
ため、前記撮影画像データが示す画像を所定の複数領域に分割した場合の各領域がスラグ領域であるか溶解金属の湯面領域であるかの少なくとも2通りについて判定し得るようにニューラルネットワークの学習を行った学習済モデルに基づいて、前記撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行うスラグ判定機能と、
前記スラグ判定機能においてスラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、制御対象であ
って且つ形状の異なる複数種類のアームの中からスラグ除去に用いるアームを決定し、かつ、前記アームの制御内容を決定する除去内容決定機能と、
前記除去内容決定機能において決定された除去内容に基づいて、前記アームの電子制御を行ってスラグの除去処理を実行するスラグ除去実行機能と
を実現させる自動スラグ除去プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で除去するための自動スラグ除去装置及び自動スラグ除去プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造処理の過程で発生するスラグは、目的とする金属とは異なる鉱物成分などからなる余分な物質であるため、適切に除去しなければ製品の不良に繋がるおそれがある。高温の溶融金属からスラグを除去する作業は、従来は作業員の手作業によって行われていた。高温環境かつ重量のあるスラグを除去する作業は非常に重労働であり、危険な作業であったため、機械化及び自動化が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、予め設定した走行経路に基づいてスラグを濾すフィルタを溶湯の液面に沿って走行させることでスラグを溶湯の液面から除去するスラグの除去装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたスラグの除去装置は、液面全体に対してフィルタを走行させることでスラグを除去する構成であるが、このような予めプログラムされた経路に対して除去操作を行う構成の場合、一連の除去操作によってもスラグを取り切れず液面にスラグが残ってしまったときに、装置としては対処する機能がないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で確実に除去するための自動スラグ除去装置及び自動スラグ除去プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動スラグ除去装置は、溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で除去するための自動スラグ除去装置であって、前記溶解炉内の溶解金属の溶湯表面全体が写るように所定角度から撮影するための撮影カメラと、電子制御によって溶解炉内のスラグを除去するための形状の異なる複数種類のアームと、前記アームの電子制御を含む各種制御を行うための制御部と、を少なくとも備え、前記制御部は、溶解金属の溶湯表面全体を写した前記撮影カメラによる撮影画像データを取得する撮影画像データ取得部と、溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、前記撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行うスラグ判定部と、前記スラグ判定部においてスラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、複数種類の前記アームから除去に用いる前記アームを決定し、かつ、前記アームの制御内容を決定する除去内容決定部と、前記除去内容決定部において決定された除去内容に基づいて、前記アームの電子制御を行ってスラグの除去処理を実行するスラグ除去実行部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る自動スラグ除去装置において、前記学習済モデルは、ニューラルネットワークを用いたものであり、前記撮影画像データが示す画像を所定の複数領域に分割した場合の各領域が、スラグ領域であるか溶解金属の湯面領域であるかの少なくとも2通りについて判定し得るようにニューラルネットワークの学習を行ったことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る自動スラグ除去装置において、前記除去内容決定部は、前記スラグ発生位置の情報に基づいて、スラグ除去位置を決定し、当該除去位置に存在するスラグの位置、大きさ、形状に基づいて使用する前記アームを決定し、かつ、アームを投入する位置及びアームに実行させる除去動作を決定することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る自動スラグ除去プログラムは、溶解炉内の溶解金属において発生するスラグを自動で除去するための制御をコンピュータに実現させるための自動スラグ除去プログラムであって、前記コンピュータに、撮影カメラによって溶解金属の溶湯表面全体を写した撮影画像データを取得する撮影画像データ取得機能と、溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習するため、前記撮影画像データが示す画像を所定の複数領域に分割した場合の各領域がスラグ領域であるか溶解金属の湯面領域であるかの少なくとも2通りについて判定し得るようにニューラルネットワークの学習を行った学習済モデルに基づいて、前記撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行うスラグ判定機能と、前記スラグ判定機能においてスラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、制御対象であって且つ形状の異なる複数種類のアームの中からスラグ除去に用いるアームを決定し、かつ、前記アームの制御内容を決定する除去内容決定機能と、前記除去内容決定機能において決定された除去内容に基づいて、前記アームの電子制御を行ってスラグの除去処理を実行するスラグ除去実行機能とを実現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶解金属の溶湯表面全体を写した撮影画像データに基づいてスラグの発生の有無を判定し、スラグ有りと判定された場合に、スラグの除去処理を実行するようにしたので、撮影画像データに写るスラグ箇所を確実に判定してスラグ除去を実行することで取りこぼしすることなく確実にスラグを除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る自動スラグ除去装置の構成を表したブロック図である。
【
図2】自動スラグ除去装置において用いる学習済モデルの概念を表した説明図である。
【
図3】撮影画像データを用いたスラグ判定の概念を表した説明図である。
【
図4】自動スラグ除去装置において用いるアームの例を表した説明図である。
【
図5】自動スラグ除去装置におけるスラグ除去処理の流れを表したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、図面を参照しながら、実施例1に係る自動スラグ除去装置の例について説明する。
図1は、本発明に係る自動スラグ除去装置100の構成を表したブロック図である。この
図1に示すように、本発明に係る自動スラグ除去装置100は、撮影カメラ10と、アーム20と、制御部30と、記憶部40とを少なくとも備えている。本発明に係る自動スラグ除去装置100は、溶解炉によって金属を溶解させて溶解金属からスラグを除去する必要のある設備、例えば、鋳造設備等に対して適用して使用されるものである。ここで、溶解炉とは、金属を溶解させるための炉のことをいい、金属を溶解する目的で使用される炉を全て含むものとする。すなわち、鋳造炉、キューポラ、反射炉、転炉、電気炉などの様々な炉を全て包含した表現として溶解炉という文言を用いるものとする。また、本例においてはスラグと表現するが、鉱滓、ノロなどの用語と同義である。また、本例においては自動スラグ除去装置として説明を行うが、後述する制御部30における制御内容をコンピュータに実現させるための自動スラグ除去プログラムであってもよい。
【0014】
撮影カメラ10は、溶解炉内の溶解金属の溶湯表面全体を所定角度から撮影する機能を有する。溶解炉内の溶解金属の溶湯表面全体を撮影可能な位置及び角度に設置される。例えば、溶湯表面全体を鉛直方向真上から撮影可能な位置に設置される。撮影カメラ10は、静止画撮影のためのカメラ装置であってもよいし、動画撮影のためのカメラ装置であってもよいが、動画の場合には撮影画像データとしてフレーム毎のデータを利用可能な撮影フォーマットを備えていることを想定している。
【0015】
アーム20は、溶解炉内のスラグを除去するために電子制御によって操作される操作対象である。アーム20の形状は様々なものを採用可能である。また、本例においては、溶解炉内に直接投入される先端部分を主としてアーム20と表現しているが、このアーム20に様々な動作を実行させるためには複雑な動作を実行可能なロボットアーム箇所が不可欠であり、ロボットアーム箇所は、アーム20に実行させたい制御内容に応じて適宜設計される必要がある。すなわち、本例においてアーム20という場合には、狭義には溶解炉内に直接投入される先端部分を指して用いるが、電子制御の対象としてアーム20と表現する場合には、先端箇所に加えて複雑な動作を実行させるためのロボットアーム箇所も含んでいるものとする。また、アーム20は1つである必要はなく、同一のアーム20を複数用意してもよいし、形状の異なる複数種類のアーム20を用意して状況に応じて使い分けるようにしてもよい。
【0016】
制御部30は、撮影カメラ10で撮影した撮影画像データに基づいてスラグ除去が必要か否かを判断し、必要な場合のスラグ除去内容を決定し、決定された内容に基づいてアーム20を電子制御してスラグ除去処理を実行するための制御を行う機能を有する。そして、制御部30は、
図1に示すように、撮影画像データ取得部31と、スラグ判定部32と、除去内容決定部33と、スラグ除去実行部34とを少なくとも備えている。
【0017】
撮影画像データ取得部31は、溶解金属の溶湯表面全体を写した撮影カメラ10による撮影画像データを取得する機能を有する。撮影カメラ10による撮影のタイミングについては、この撮影画像データ取得部31からの制御信号によって撮影カメラ10において撮影を実行して撮影画像データを取得する構成であってもよいし、撮影カメラ10によって予め設定した所定間隔で撮影(動画の場合には連続的に撮影)した撮影画像データを撮影画像データ取得部31で取得する構成であってもよい。
【0018】
スラグ判定部32は、溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行う機能を有する。このスラグ判定部32では、撮影画像データ取得部31において取得した撮影画像データが示す画像についてスラグが発生しているか否かの判定を行う。そして、そのスラグの判定には、機械学習によってニューラルネットワークに対して予め学習を行った学習済モデルを用いる。スラグの発生の有無を判定することができればどのような学習済モデルであってもよいが、例えば、撮影画像データを所定の複数領域(例えば格子状に分割した各格子を一領域とする)に分割して各領域ごとにスラグの発生の有無を判定するようにしてもよい。また、スラグ判定部32では、スラグ発生位置の特定についても行う。スラグ発生位置が特定できればどのような手法であってもよいが、例えば、撮影画像データを所定の複数領域に分割した各領域についてのスラグの発生の有無の判定結果から撮影画像データにおけるスラグ領域を特定して、撮影画像データにおけるスラグ発生位置を特定するようにしてもよい。スラグ判定部32においてスラグ有りと判定された場合には、スラグ除去処理が必要となる。全くスラグが発生していないと判定された場合には、以降のスラグ除去処理は不要となる。
【0019】
除去内容決定部33は、スラグ判定部32においてスラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、除去に用いるアーム20を決定し、かつ、アーム20の制御内容を決定する機能を有する。スラグ判定部32においてスラグ有りと判定された場合にはスラグ除去処理が必要となるため、この除去内容決定部33において除去内容を決定する。除去内容としては、先ず、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定する必要がある。除去位置の決定とは、溶解炉内のスラグ発生位置の座標情報を正確に特定する位置特定と、スラグが互いに分離した異なる2か所以上に発生している場合に何れのスラグを除去するかの除去対象のスラグを決定する除去対象特定との両方を行うことを意味する。除去対象のスラグはどのように決定してもよいが、例えば、最も面積の大きいスラグを優先して除去するという決定方法が考えられる。次に、除去内容として、除去に用いるアームを決定する。アームが1つである場合には選択の余地はないが、複数種類のアームを使用可能に設置する場合には、何れのアームを使用するかを決定する必要がある。アームの決定方法はどのようなものであってもよいが、例えば、スラグの面積、スラグの位置(中央付近に存在するのか、或いは、炉の壁面付近に存在するのか)などに応じて最適なアームを決定するようにしてもよい。最後に、除去内容として、アームの制御内容を決定する。アームの制御内容は、除去対象のスラグに対して選択されたアームをどの位置に投入してどのような動作を実行させるかの制御内容である。最適な制御内容を決定することで効率の良いスラグ除去を実現する。
【0020】
スラグ除去実行部34は、除去内容決定部33において決定された除去内容に基づいて、アーム20の電子制御を行ってスラグの除去処理を実行する機能を有する。このスラグ除去実行部34によってスラグ除去処理が実行される。このスラグ除去実行部34においてスラグ除去処理を実行した後は、撮影画像データ取得部31で撮影画像データを取得して、スラグ判定部32においてスラグが完全に除去されたかを判定する。スラグが残っている場合には、除去内容決定部33及びスラグ除去実行部34によって再度スラグ除去処理を実行することになる。
【0021】
記憶部40は、制御部30において用いる情報及び制御部30による処理の結果得られた情報などの各種情報を記憶させる機能を有する。また、スラグ判定部32で用いる学習済モデル41をこの記憶部40に格納するようにしてもよい。
【0022】
図2は、自動スラグ除去装置において用いる学習済モデルの概念を表した説明図である。この
図2に示すように、学習済モデルはニューラルネットワークに対して予め学習を行ったものであり、学習済モデルに対して溶湯表面全体を写した撮影画像データを入力し、撮影画像データが示す画像について学習済モデルにおいてスラグの発生の有無を判定して出力する。その際の出力は、撮影画像データにおけるスラグ領域を指定する出力であってもよいし、所定領域毎のスラグの有無の判定結果であってもよい。このようなスラグ判定処理のための学習済モデルの学習は、例えば、撮影画像データとその撮影画像データに対してスラグが存在するか否かを表した正解データとを1組のセットとして、複数セットの学習データを用いてニューラルネットワークの学習を行う。ニューラルネットワークの出力する判定結果と正解データとの差分を損失関数によって評価し、損失関数による損失が小さくなるように、誤差逆伝播法等に基づいてニューラルネットワークの重みとバイアスを更新する。これを複数セットの学習データに基づいて繰り返すことで精度の高いスラグ判定を実現可能な学習済モデルを得る。また、撮影画像データが示す画像について所定領域毎に判定を行って領域毎の判定結果を出力させるように構成する場合には、ニューラルネットワークの構造をそのように設定するとともに、正解データとして領域毎の正解データを与えることが好ましい。
【0023】
また、学習済モデルは、適用する設備に特化した学習済モデル(例えば、鋳鉄のスラグ判定のための学習済モデル)として学習を行ってもよいし、様々な溶解金属に対応可能な汎用性の高い学習済モデルとして学習を行ってもよい。適用する設備に特化した学習済モデルとする場合には、学習に用いる撮影画像データをその設備で溶解させる金属のもののみに設定する必要があり、汎用性の高い学習済モデルとする場合には、学習に用いる撮影画像データを様々な金属のものとして幅広く学習を行う必要がある。
【0024】
また、学習済モデルは、スラグ領域と湯面領域の判定のみならず、除滓材領域についても判定可能なように学習を行ったものであってもよい。溶解金属からスラグを除去する過程において除滓材が用いられる。溶解炉内に除滓材を投入するとスラグと反応して溶湯表面にスラグが発生する。しかし、溶解金属内にスラグ成分が少ない状態で除滓材が投入されると、除滓材が溶解したものが溶湯表面に発生することがある。このような除滓材についても除去する必要がある。スラグと除滓材とでは撮影画像データに対する写り方が異なるため、学習済モデルに対する学習に際しても、スラグ領域、除滓材領域、湯面領域の3パターンを含むように複数セットの学習データを用意して学習を行うことで、スラグ領域、除滓材領域、湯面領域の3パターンについて判定可能な学習済モデルを得ることが可能となる。
【0025】
図3は、撮影画像データを用いたスラグ判定の概念を表した説明図である。この
図3において、円形で表しているのは円筒容器からなる溶解炉の溶湯表面であり、格子状に表しているのは学習済モデルの判定単位である各領域である。
図3(a)の撮影画像データが示す画像おいては、アで示す範囲とイで示す範囲がスラグの発生した箇所である。この
図3(a)の撮影画像データについて学習済モデルによってスラグ判定を行うと、アとイが少しでも重なった格子の領域はスラグ領域と判定されることになる。また、
図3(b)の撮影画像データが示す画像おいては、ウで示す範囲がスラグの発生した箇所であり、エで示す範囲が除滓材の残った箇所である。この
図3(b)の撮影画像データについて学習済モデルによってスラグ判定を行うと、ウが少しでも重なった格子の領域はスラグ領域と判定され、エが少しでも重なった格子の領域は除滓材領域と判定されることになる。
【0026】
図4は、自動スラグ除去装置において用いるアームの例を表した説明図である。
図4(a)は、三つ又に分岐させたそれぞれが同一平面において120°ずつ異なる方向に延伸されたアームを表している。
図4(b)は、先端に円環状に加工した箇所(或いは、曲げ加工によってRが形成された箇所)を持つアームを表している。例えば、
図3(a)に示すようなスラグ発生状況であった場合、アで示す範囲のスラグに対しては
図4(a)に示す三つ又のアームが適している可能性があり、イで示す範囲のスラグに対しては
図4(b)に示す円環状の箇所を有するアームが適している可能性がある。イで示す範囲のスラグは炉の壁面に近接しているため、三つ又のアームよりも円環状の箇所でスラグをすくう方が効率的にスラグを除去できる可能性があるといえる。
【0027】
次に、自動スラグ除去装置におけるスラグ除去処理の流れについて説明する。
図5は、自動スラグ除去装置におけるスラグ除去処理の流れを表したフローチャート図である。この
図5において、自動スラグ除去装置におけるスラグ除去処理は、自動スラグ除去装置100の制御部30において、撮影画像データを取得することで開始される(ステップS101)。次に、自動スラグ除去装置100の制御部30において、取得した撮影画像データが示す画像についてスラグ判定を実行する(ステップS102)。スラグが存在すると判定された場合(S102-Y)、スラグの除去内容を決定する(ステップS103)。そして、決定されたスラグの除去内容に基づいてスラグ除去を実行する(ステップS104)。スラグ除去実行後は、必ずステップS101に戻る。すなわち、再度撮影画像データを取得し(ステップS101)、スラグ判定を実行する(ステップS102)。スラグ判定処理においてスラグが存在しないと判定された場合(S102-N)、これ以上の除去対象が存在しないと判断して、スラグ除去処理を終了する。
【0028】
以上のように、本発明に係る自動スラグ除去装置によれば、溶解金属の溶湯表面全体を写した撮影カメラによる撮影画像データを取得し、溶湯表面におけるスラグの発生の有無を判定することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、撮影画像データが示す画像についてスラグの発生の有無の判定及びスラグ発生位置の特定を行い、スラグ有りと判定された場合に、溶解炉内の何れの位置に発生したスラグを除去するかである除去位置を決定し、除去に用いるアームを決定し、かつ、アームの制御内容を決定し、決定された除去内容に基づいて、アームの電子制御を行ってスラグの除去処理を実行するようにしたので、撮影画像データにスラグが発生しているか否かを学習済モデルによって高精度で判定してスラグが発生している場合に適切なスラグ除去処理を実行することが可能となる。結果として、溶解金属にスラグが残存してしまうことを防止することができるため、金属製品の品質向上を実現でき、製品の歩留まりを向上させることが可能となる。そして、確実なスラグ除去を自動化できるため、作業員が危険な作業をする必要がなくなり安全性を向上させることが可能となる。
【0029】
前記実施例においては、自動スラグ除去装置100の制御部30においてスラグ判定処理を含む各種処理を実行し、自動スラグ除去装置100の記憶部40に格納された学習済モデル41を制御部30のスラグ判定部32で用いるものとして説明を行ったが、これに限定されるものではない。例えば、自動スラグ除去装置100から通信ネットワークを介して接続可能なサーバ装置に学習済モデル41を格納するようにし、サーバ装置にてスラグ判定処理を実行するようにしてもよい。すなわち、撮影画像データ取得部31で取得した撮影画像データを通信ネットワークを介してサーバ装置に送信し、サーバ装置にスラグ判定部32と同様の機能を持たせてサーバ装置においてスラグ判定処理を実行し、サーバ装置におけるスラグ判定結果を通信ネットワークを介して自動スラグ除去装置100において受信する構成であっても、前記実施例と同様の効果を有する自動スラグ除去装置100を実現することができる。
【符号の説明】
【0030】
100 自動スラグ除去装置
10 撮影カメラ
20、20a、20b アーム
30 制御部
31 撮影画像データ取得部
32 スラグ判定部
33 除去内容決定部
34 スラグ除去実行部
40 記憶部
41 学習済モデル