(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】発泡樹脂成形品の成形方法及び成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20230612BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230612BHJP
B29C 45/70 20060101ALI20230612BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230612BHJP
B32B 5/22 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C45/14
B29C45/70
B29C45/26
B32B5/22
(21)【出願番号】P 2019008616
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000225728
【氏名又は名称】南条装備工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東中川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】金子 満晴
(72)【発明者】
【氏名】篠森 正利
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大介
(72)【発明者】
【氏名】谷村 敏和
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-263576(JP,A)
【文献】特開平11-179772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00
B29C 45/14
B29C 45/70
B29C 45/26
B32B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形方法であって、
固定型と可動型からなる成形型の可動型側に上記収縮性部材をセットする工程と、
上記固定型と上記可動型の型締めによってキャビティを形成する型締め工程と、
上記発泡樹脂部材を形成するための発泡性樹脂を上記キャビティに充填する樹脂充填工程と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させて上記発泡性樹脂を発泡させる発泡工程とを備え、
上記樹脂充填工程において、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促す
ものであり、
上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記固定型における上記キャビティ末端側の温度を上記ゲート側の温度よりも高くすることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形方法であって、
固定型と可動型からなる成形型の可動型側に上記収縮性部材をセットする工程と、
上記固定型と上記可動型の型締めによってキャビティを形成する型締め工程と、
上記発泡樹脂部材を形成するための発泡性樹脂を上記キャビティに充填する樹脂充填工程と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させて上記発泡性樹脂を発泡させる発泡工程とを備え、
上記樹脂充填工程において、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促すものであり、
上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気することを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2において、
上記ゲートは、上記固定型の上記収縮性部材に相対する部位において、該収縮性部材に向かって開口していることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形装置であって、
固定型と可動型からなり、その可動型に上記収縮性部材がセットされる成形型と、
上記固定型と上記可動型の型締めによって形成されるキャビティに発泡性樹脂を充填する樹脂充填装置と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させる可動型駆動装置とを備え、
さらに、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促す樹脂流動促進手段を備えて
おり、
上記樹脂流動促進手段は、上記固定型に設けられ、上記固定型における上記キャビティ末端側の温度が上記ゲート側の温度よりも高くなるように、該固定型の上記キャビティ末端側を加熱するヒータであることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項5】
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形装置であって、
固定型と可動型からなり、その可動型に上記収縮性部材がセットされる成形型と、
上記固定型と上記可動型の型締めによって形成されるキャビティに発泡性樹脂を充填する樹脂充填装置と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させる可動型駆動装置とを備え、
さらに、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促す樹脂流動促進手段を備えており、
上記樹脂流動促進手段は、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気する排気装置であることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項6】
請求項
4又は請求項5において、
上記ゲートは、上記固定型の上記収縮性部材に相対する部位において、該収縮性部材に向かって開口していることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項7】
請求項
4乃至請求項
6のいずれか一において、
上記収縮性部材は、上記発泡樹脂部材の表面を覆う表皮材であることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項8】
請求項
7において、
上記表皮材は、表皮層に収縮性を有するクッション層が積層されてなることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項9】
請求項
7又は請求項
8において、
上記発泡樹脂成形品は、車両用内装材であることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡樹脂成形品の成形方法及び成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂成形品として、例えば、車両内装材であるトリムのように、発泡樹脂製基材と表皮材とが一体になったもの、或いは、発泡樹脂製基材と芯材が一体になったものが知られている。
【0003】
特許文献1には、発泡樹脂製基材と芯材が一体になった発泡樹脂成形品(自動車のドアトリム)の成形方法の一例が記載されている。それは、可動型(第1分割型)と固定型(第2分割型)からなる成形型のキャビティに芯材をセットした状態で、発泡性樹脂をキャビティに射出注入して表皮と発泡層を成形して芯材に一体化するに際し、発泡性樹脂を発泡させるためにキャビティが拡大するように可動型を後退させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された成形方法は、硬質の芯材をキャビティにセットして発泡成形を行なうケースである。これに対して、裏面にクッション層が設けられた表皮材のような収縮性を有する部材をキャビティにセットして発泡成形を行なうケースでは、次の問題がある。
【0006】
発泡性樹脂が成形型のキャビティに充填されると、収縮性部材が発泡性樹脂によって圧縮された状態(押し潰された状態)になる。その状態で、可動型が発泡性樹脂の発泡のために所定ストローク後退されると、発泡性樹脂の発泡不良を生ずる。すなわち、可動型の後退に伴って、収縮性部材は圧縮が解除されて復元するから、発泡性樹脂の発泡スペースが収縮性部材の復元量に相当する大きさだけ実質的に狭くなる。そのため、発泡性樹脂の発泡不良を生ずる(発泡倍率が低くなる。)。発泡性樹脂の発泡倍率は可動型の後退によって形成される発泡スペースの大きさに依存するから、その発泡スペースが収縮性部材の復元によって僅かでも狭くなると、発泡性樹脂の発泡性に大きな影響が出る。
【0007】
ここに、キャビティに注入された発泡性樹脂は、収縮性部材と固定型の間をキャビティ末端に向かって流れていき、その過程において、成形型によって冷却されて粘度が上昇していく。そのため、発泡性樹脂の流動性が低下する。従って、発泡性樹脂をキャビティ末端まで充填するために大きな注入圧が必要になる。発泡性樹脂は、収縮性部材の断熱効果により、固定型に比べて可動型から奪われる熱量が少ないから、収縮性部材に沿ってキャビティ末端に向かって流れ易い。そのため、発泡性樹脂の大きな注入圧が収縮性部材に加わり、発泡性樹脂の充填終了時点において、収縮性部材が圧縮された状態になるものである。
【0008】
本発明は、収縮性部材をキャビティにセットして樹脂の発泡成形を行なう場合の発泡不良問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、発泡性樹脂のキャビティにおける流動性を高め、収縮性部材に発泡性樹脂による大きな注入圧が加わらないようにした。
【0010】
ここに開示する発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形方法は、
固定型と可動型からなる成形型の可動型側に上記収縮性部材をセットする工程と、
上記固定型と上記可動型の型締めによってキャビティを形成する型締め工程と、
上記発泡樹脂部材を形成するための発泡性樹脂を上記キャビティに充填する樹脂充填工程と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させて上記発泡性樹脂を発泡させる発泡工程とを備え、
上記樹脂充填工程において、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促すものであり、
上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記固定型における上記キャビティ末端側の温度を上記ゲート側の温度よりも高くすることを特徴とする。
また、ここに開示する発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形方法の他の態様は、
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形方法であって、
固定型と可動型からなる成形型の可動型側に上記収縮性部材をセットする工程と、
上記固定型と上記可動型の型締めによってキャビティを形成する型締め工程と、
上記発泡樹脂部材を形成するための発泡性樹脂を上記キャビティに充填する樹脂充填工程と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させて上記発泡性樹脂を発泡させる発泡工程とを備え、
上記樹脂充填工程において、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促すものであり、
上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気することを特徴とする。
【0011】
また、ここに開示する発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形装置は、
固定型と可動型からなり、その可動型に上記収縮性部材がセットされる成形型と、
上記固定型と上記可動型の型締めによって形成されるキャビティに発泡性樹脂を充填する樹脂充填装置と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させる可動型駆動装置とを備え、
さらに、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促す樹脂流動促進手段を備えており、
上記樹脂流動促進手段は、上記固定型に設けられ、上記固定型における上記キャビティ末端側の温度が上記ゲート側の温度よりも高くなるように、該固定型の上記キャビティ末端側を加熱するヒータであることを特徴とする。
また、ここに開示する発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形装置の他の態様は、
発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品の成形装置であって、
固定型と可動型からなり、その可動型に上記収縮性部材がセットされる成形型と、
上記固定型と上記可動型の型締めによって形成されるキャビティに発泡性樹脂を充填する樹脂充填装置と、
上記キャビティに充填された上記発泡性樹脂の粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに、上記キャビティの容積が拡大するように上記可動型を上記型締めの位置から後退させる可動型駆動装置とを備え、
さらに、上記発泡性樹脂の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに上記発泡性樹脂が上記キャビティのゲートから最も遠いキャビティ末端に到達するように、上記キャビティにおける上記発泡性樹脂の流動を促す樹脂流動促進手段を備えており、
上記樹脂流動促進手段は、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気する排気装置であることを特徴とする。
【0012】
上記成形方法あるいは成形装置によれば、発泡性樹脂は、その粘度が所定の粘度範囲に上昇するまでにキャビティ末端に到達するように、キャビティにおける流動が促進される。そのため、発泡性樹脂を低い注入圧でキャビティに充填することができ、収縮性部材が当該注入圧によって圧縮された状態になることが抑制される。従って、キャビティに充填された発泡性樹脂を発泡させるべく、可動型を後退させたときの、収縮性部材の復元による発泡スペースの減少が抑えられ、発泡性樹脂の発泡不良防止に有利になる。
【0013】
一実施形態では、上記ゲートは、上記固定型の上記収縮性部材に相対する部位において、該収縮性部材に向かって開口している。
【0014】
この場合、ゲートからキャビティに注入された発泡性樹脂は、収縮性部材のゲートに相対する部分に衝突しつつ、キャビティ末端側に流れていく。収縮性部材のゲート付近には、温度が高い発泡性樹脂による注入圧が加わるものの、その発泡性樹脂のキャビティ末端への流動が促進されることにより、収縮性部材のゲート付近に加わる注入圧は大きくならない。そのため、収縮性部材のゲート付近が強く圧縮されることが避けられる。従って、発泡性樹脂を発泡させるべく、可動型を後退させたときの、収縮性部材の復元による発泡スペースの減少が抑えられる。すなわち、収縮性部材のゲートに相対する部分及びそのまわりにおいても、所期の発泡スペースが確保され、よって、発泡樹脂成形品に発泡むらを生ずることが抑制される。
【0015】
上記構成では、上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記固定型における上記キャビティ末端側の温度を上記ゲート側の温度よりも高くする。そのための樹脂流動促進手段としては、上記固定型に設けられ、上記キャビティ末端側を加熱するヒータを採用することができる。
【0016】
これにより、発泡性樹脂がキャビティのゲートからキャビティ末端に流れていくときの温度低下が抑制され、ひいては粘度上昇が抑制される。従って、発泡性樹脂がキャビティ末端に向かって円滑に流動していくことから、発泡性樹脂の注入圧の上昇が抑制される。
【0017】
上記他の態様では、上記発泡性樹脂の流動を促すために、上記樹脂充填工程において、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気する。そのための樹脂流動促進手段としては、上記キャビティを上記キャビティ末端側から強制排気する排気装置を採用することができる。このキャビティ末端側からのキャビティの強制排気により、発泡性樹脂がゲートからキャビティ末端に向かって円滑に流動していくため、発泡性樹脂の注入圧の上昇が抑制される。
【0018】
一実施形態では、上記収縮性部材は、上記発泡樹脂部材の表面を覆う表皮材である。例えば、上記表皮材は、表皮層に収縮性を有するクッション層が積層されてなるものとすることができる。
【0019】
上記発泡樹脂部材と収縮性部材が一体になった発泡樹脂成形品としては、例えば、車両のドアトリム、コンソールボックス、トランクボード等の車両用内装材が挙げられ、或いは家具等の室内用品等が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、発泡性樹脂は、その粘度が所定の粘度範囲に上昇するまでにキャビティ末端に到達するように、キャビティにおける流動が促進されるから、発泡性樹脂の注入圧を低く抑えることができ、収縮性部材が当該注入圧によって圧縮された状態になることが抑制される。従って、キャビティに充填された発泡性樹脂を発泡させるべく、可動型を後退させたときの、収縮性部材の復元による発泡スペースの減少が抑えられ、発泡性樹脂の発泡不良防止に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態1に係る発泡樹脂成形品の成形装置の概略を示す一部断面にした側面図。
【
図3】発泡性樹脂が型締めされた成形型のキャビティに注入されている状態を示す上記成形装置の一部の断面図。
【
図4】発泡性樹脂がキャビテイに充填された状態を示す上記成形装置の一部の断面図。
【
図5】キャビティを拡大させて発泡性樹脂を発泡させた状態を示す上記成形装置の一部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
<実施形態1>
図1に示すように、本実施形態に係る発泡樹脂成形品の成形装置1は、固定型3と可動型4とを有する成形型2と、成形型2の型締め、型開き等を行なう成形型開閉装置21と、溶融した発泡性樹脂を成形型2のキャビティ5に充填する樹脂充填装置としての射出装置31とを備える。成形型2の型締めによって、固定型3の成形面3aと可動型4の成形面4aとの間にキャビティ5が形成される。
【0024】
図2に簡略化して示すように、成形装置1により成形される発泡樹脂成形品60は、発泡性樹脂が発泡してなる発泡樹脂部材としての成形品本体61と収縮性部材としての表皮材62が一体になったものである。表皮材62は、表皮層62aと、該表皮層62aの裏側面(成形品本体側)に設けられた収縮性を有するクッション層62bとが積層されてなる。表皮層62aは、例えば塩化ビニル樹脂で形成され、クッション層62bは、例えば、電子線架橋によるポリオレフィンフォーム(ペフ)で形成されている。
【0025】
図3~
図5に示すように、発泡樹脂成形品60は、表皮材62をキャビティ5にセット(インサート)し、このキャビティ5に充填した発泡性樹脂11を発泡させることによって得られる。表皮材62は、表皮層62aが可動型4の成形面4aに接するように、キャビティ5にセットされる。
【0026】
発泡樹脂成形品60は、例えば車両用の内装材として用いられる。車両用の内装材としては、具体的には、トリム(ドアトリム等)、センターコンソールボックス、トランクボード等が挙げられる。これら内装材の表側面における特に乗員が触れる可能性が高い箇所に表皮材が設けられる。
【0027】
以下、上記発泡樹脂成形品60を得る成形装置の各部の構成について具体的に説明する。
【0028】
射出装置31は、固定型3及び固定プラテン22に設けられたホットランナー6に接続される加熱シリンダ32を有し、この加熱シリンダ32にホッパ33が接続されている。このホッパ33には、化学発泡の場合、発泡性樹脂材料(例えばポリプロピレン)のペレットと化学発泡剤とが投入され、物理発泡の場合、上記ペレットのみが投入される。物理発泡の場合には、加熱シリンダ32に接続されたガス注入部34から、ガス(窒素、二酸化炭素等)が注入される。ホッパ33に投入されたペレットは、加熱シリンダ32内に供給され、この加熱シリンダ32内で、不図示のヒータによる加熱とスクリューの回転による混練によって溶融し可塑化される。化学発泡剤は、加熱シリンダ32内で混練に伴って熱分解して発泡ガスを発生する。
【0029】
加熱シリンダ32のスクリューは、加熱シリンダ32の軸心回りに回転可能にかつ加熱シリンダ32の軸心方向(水平方向)に移動可能に設けられている。このスクリューにおける成形型2とは反対側の端部(後端部)が、スクリューを回転させる回転機構(モータを含む)とスクリューを移動させる移動機構(モータを含む)とを有するスクリュー駆動装置37に連結されている。そして、スクリューがスクリュー駆動装置37の回転機構によって回転しながら移動機構によって成形型2側に移動する(前進する)ことで、加熱シリンダ32内で溶融した発泡性樹脂11が、ホットランナー6を介してキャビティ5内に射出注入される。
【0030】
ホットランナー6は、加熱シリンダ32が接続されるブッシュからキャビティ5に開口するゲート(詳細な図示は省略するが、バルブで開閉されるバルブゲートである。)7までの樹脂流路の加熱手段(図示省略)を設けたものである。ゲート7は、固定型3における、可動型4にセットされた表皮材62に相対する部位において、該表皮材62に向かって開口している。
【0031】
固定プラテン22及び可動型4には、キャビティ5に充填された発泡性樹脂を型冷却する手段として、冷却水を通す冷却水通路9が形成されている。
【0032】
成形型開閉装置21は、固定型3が取り付けられた固定プラテン22と、可動型4が取り付けられた可動プラテン23と、可動プラテン23に連結された可動型駆動装置26とを有する。本実施形態では、可動型駆動装置26は、詳細な図示は省略するが、油圧シリンダ及び該油圧シリンダに作用する油圧を制御する制御弁を備えている。この油圧制御により、可動プラテン23及び可動型4を駆動する。
【0033】
可動プラテン23には、固定プラテン22に向かって延びる複数の筒状部材24が設けられ、固定プラテン22には、可動プラテン23に向かって延びる複数の軸部材25が設けられている。各軸部材25には、対応する各筒状部材24の内面を摺動する摺動部25aが設けられている。この摺動により、可動プラテン23及び可動型4が型締め・型開き方向に移動するように案内される。
【0034】
可動型駆動装置26は、型締め・型開き手段を構成する他、キャビティ5に充填された発泡性樹脂11をその粘度が上昇して所定の粘度範囲になったときに発泡させるために、可動型4をキャビティ容積が拡大するように後退させる手段をも構成する。
【0035】
そうして、固定型3には、ゲート7からキャビティ5に注入された発泡性樹脂11のゲート7から最も遠いキャビティ末端5aへの流動を促す樹脂流動促進手段として、固定型3のキャビティ末端側を加熱する電熱ヒータ10が設けられている。この電熱ヒータ10は、固定型3のキャビティ末端側を加熱することによって、固定型3の成形面3aにおけるキャビティ末端側の温度をゲート側の温度よりも高くする。これにより、発泡性樹脂11の粘度が上記粘度範囲に上昇するまでに該発泡性樹脂11がキャビティ5のゲート7からキャビティ末端5aに到達するように、キャビティ5における発泡性樹脂11の流動を促す。
【0036】
本発明を限定するものではないが、温度について以下例示すると、ゲート7からキャビティ5に射出される発泡性樹脂11の温度は200~230℃であり、型冷却のための冷却水温度は30~40℃である。発泡性樹脂11がキャビティ5に注入されていない状態での、電熱ヒータ10の加熱による固定型3の成形面3aのキャビティ末端側の温度は80~90℃であり、固定型3の成形面3aのゲート7のまわりの温度は30~40℃前後である。
【0037】
可動型駆動装置26、スクリュー駆動装置37の回転機構及び移動機構の各モータ、バルブゲート7、ホットランナー6の加熱手段、型冷却手段、並びに電熱ヒータ10の作動は、コントロールユニット50により制御される。このコントロールユニット50は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、種々の信号の入出力を行うための入出力(I/O)バスとを含む。
【0038】
次に、
図2に示す発泡樹脂成形品60の上記成形装置1による成形方法について、
図3~
図5により説明する。
【0039】
[成形装置の起動]
作業者による成形装置1のスイッチ操作により、その操作情報がコントロールユニット50に入力される。このコントロールユニット50からの当該操作情報に基づく制御指令により、成形型2の型締めから次の型開きまでの、発泡樹脂成形品60の成形のための一連の動作が行われる。
【0040】
[表皮材のセット]
成形型2の型開き状態で、作業者が、可動型4の成形面4aに表皮材62をセットする。この表皮材62がセットされる成形面4aには、表皮材62に刺さるピン等の支持部材(図示省略)が複数設けられており、これら複数の支持部材により表皮材62が成形面4aに支持されてセットされる。
【0041】
[型締め]
可動型駆動装置26の作動により、表皮材62がセットされた可動型4が固定型3に向けて前進して、成形型2の型締めが行なわれる。
図1に示すように、成形型2の型締めにより、固定型3の成形面3aと可動型4の成形面4aの間にキャビティ5が形成される。
【0042】
[樹脂充填]
成形型2の型締め後、電熱ヒータ10によって固定型3のキャビティ末端側を加熱した状態で、
図3及び
図4に示すように、射出装置31の作動により、溶融した発泡性樹脂11がホットランナー6及びゲート7を通ってキャビティ5に射出される。ゲート7からキャビティ5に射出された発泡性樹脂11は、表皮材62のゲート7に相対する部分に衝突しつつ、キャビティ末端5aに向かって流れて、キャビティ5に充填される。
【0043】
この発泡性樹脂11の充填において、固定型3のキャビティ末端側が電熱ヒータ10によって加熱されているから、発泡性樹脂11は、キャビティ末端側での固定型3側からの型冷却による粘度の上昇が抑制される。一方、キャビティ5の可動型4側は、表皮材62の断熱効果により、発泡性樹脂11が可動型4から奪われる熱量は少ない。そのため、発泡性樹脂11は、キャビティ5における流動性が高く、その粘度が発泡開始に適した上記粘度範囲に上昇するまでにキャビティ5のゲート7から最も遠いキャビティ末端5aに到達する。
【0044】
従って、発泡性樹脂11を低い射出圧でキャビティ末端5aまで充填することができ、表皮材62のクッション層62bが発泡性樹脂11によって圧縮された状態、すなわち、押し潰された状態になることが避けられる。
【0045】
また、表皮材62には、ゲート7の付近において、温度が高い発泡性樹脂11の射出圧が加わるものの、上述の如く、発泡性樹脂11のキャビティ末端5aへの流動が促進されることにより、表皮材62のゲート付近に加わる射出圧は大きくならない。そのため、表皮材62のゲート付近が強く押し潰されることが避けられる。
【0046】
ここに、固定型3のキャビティ末端側だけでなく、ゲート側も同様に加熱することは、以下の理由から、好ましくない。すなわち、ゲート側も同様に加熱すると、温度が高い発泡性樹脂11の射出圧が加わる表皮材62のゲート付近は、発泡性樹脂11がキャビティ5に充填された後も、温度が高い状態が暫く続くことになり、そのダメージが大きくなる。
【0047】
これに対して、上記実施形態では、固定型3のキャビティ末端側のみを加熱し、ゲート側は加熱しないから、ゲート付近の発泡性樹脂11は比較的速やかに冷却されて粘度が高くなる。従って、表皮材62のゲート付近が発泡性樹脂11から受けるダメージが小さくなる。
【0048】
ゲート7は、スクリュー駆動装置37の移動機構のモータが駆動されてから、第1設定時間が経過したときに閉じられる。同時に、電熱ヒータ10による固定型3の加熱が停止される。この第1設定時間は、発泡性樹脂11をキャビティ5に充填するために必要な時間である。
【0049】
[発泡]
上記型締めの解除後、キャビティ5の発泡性樹脂11の粘度が上記粘度範囲に到達したときに、可動型駆動装置26作動によって、
図5に示すように、可動型4が型開き方向に後退してキャビティ5の容積が拡大していく。これに伴って、発泡性樹脂11が発泡していく。発泡性樹脂11の粘度の上記粘度範囲への到達は時間によって管理され、上記第1設定時間からさらに第2設定時間を経過した時点で可動型4の後退による発泡性樹脂11の発泡が開始される。発泡性樹脂11に所期の発泡を行なわせるために、可動型4は予め設定された速度で予め設定された量だけ後退する。これにより、発泡性樹脂11が発泡してなる成形品本体61が得られる。
【0050】
上述の如く、発泡性樹脂11の充填によって表皮材62のクッション層62bが圧縮された状態になることが抑制されるから、発泡性樹脂11を発泡させるべく、可動型4を後退させたときの、クッション層62bの復元は僅かになり、或いは零になる。よって、クッション層62bの復元による発泡スペースの減少が抑えられ、発泡性樹脂11の発泡不良防止に有利になる。
【0051】
[型開き]
上記発泡のための可動型4の後退の後、発泡性樹脂11の発泡成形が完了する予め設定された第3設定時間が経過したとき、可動型駆動装置26の作動により、型開きが開始される。型開きが完了した状態で、発泡樹脂成形品60がキャビティ5から取り出される。
【0052】
<別の実施形態>
本実施形態を
図6~
図8に基づいて説明する。
【0053】
本実施形態に係る成形装置1も、
図2に示す発泡樹脂成形品60を成形する装置であり、固定型3と可動型4とを有する成形型2を備えている。図示は省略するが、実施形態1と同じく、当該成形装置1は、成形型2の型締め、型開き等を行なう成形型開閉装置、並びに溶融した発泡性樹脂11を成形型2のキャビティ5に充填する樹脂充填装置としての射出装置を備える。成形型2の型締めによって、固定型3の成形面3aと可動型4の成形面4aとの間にキャビティ5が形成される。
【0054】
本実施形態の特徴は、発泡性樹脂11をキャビティ5に充填するときの樹脂流動促進手段として、キャビティ5をキャビティ末端5a側から強制排気する排気装置41を備えていることである。
【0055】
強制排気装置41は、真空ポンプ42によってキャビティ5に負圧を与えて強制排気するものであり、真空ポンプ42と成形型2を接続する排気管43を備えている。固定型3には、2箇所のキャビティ末端5a各々から固定型3の外面に向かって延びる排気通路44が形成されている。排気管43は、真空ポンプ42から延びる集合管43aから分岐して延びる2本の分岐管43bを備えている。分岐管43bの各々が固定型3の排気通路44にジョイント45によって接続されている。排気管43の集合管43aにその管路を開閉する開閉弁46が設けられている。
【0056】
真空ポンプ42及び開閉弁46は実施形態1において説明したコントローラ50によって作動が制御される。
【0057】
次に本実施形態に係る成形装置1による上記発泡樹脂成形品60の成形方法を説明する。
【0058】
[成形装置の起動]、[表皮材のセット]及び[型締め]の各工程は実施形態1と同じである。
【0059】
[樹脂充填]
成形型2の型締め後、開閉弁46が閉から開に切り換えられ、真空ポンプ42の作動によって、キャビティ5の内部空気が排出される。この強制排気をかけた状態で、
図6及び
図7に示すように、射出装置31の作動により、溶融した発泡性樹脂11がホットランナー6及びゲート7を通ってキャビティ5に射出される。ゲート7からキャビティ5に射出された発泡性樹脂11は、表皮材62のゲート7に相対する部分に衝突しつつ、キャビティ末端5aに向かって流れて、キャビティ5に充填される。
【0060】
このように、キャビティ5をキャビティ末端側から強制排気した状態で発泡性樹脂11の射出が行なわれるから、キャビティ5のゲート7からキャビティ末端5aへの発泡性樹脂11の流動性が高くなる。そのため、実施形態1と同じく、発泡性樹脂11を低い射出圧でキャビティ末端5aまで充填することができ、表皮材62のクッション層62bが発泡性樹脂11によって圧縮された状態、すなわち、押し潰された状態になることが避けられる。
【0061】
また、表皮材62には、ゲート7の付近において、温度が高い発泡性樹脂11の射出圧が加わるものの、上述の如く、発泡性樹脂11のキャビティ末端5aへの流動が促進されることにより、表皮材62のゲート付近に加わる射出圧は大きくならない。そのため、表皮材62のゲート付近が強く押し潰されることが避けられる。
【0062】
[発泡]及び[型開き]の各工程は実施形態1と同じある。キャビティ5の強制排気による発泡性樹脂11の流動性向上、射出圧の低下により、表皮材62のクッション層62bが圧縮された状態になることが抑制されるから、発泡性樹脂11を発泡させるべく、可動型4を後退させたときの、クッション層62bの復元は僅かになり、或いは零になる。よって、クッション層62bの復元による発泡スペースの減少が抑えられ、発泡性樹脂11の発泡不良防止に有利になる。
図8に示すように、発泡性樹脂11が発泡してなる成形品本体61が得られる。
【0063】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態では、発泡樹脂成形品60の成形品本体61の表面全面にわたって表皮材62が設けられているが、成形品本体61の表面の一部に表皮材を設けるケースにも本発明は適用することができる。
【0065】
また、上記実施形態の収縮性部材は表皮材であるが、表皮材に限らず、吸音材等の収縮性部材を発泡成形品本体に一体に設けるケース一般に広く、本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 発泡樹脂成形品の成形装置
2 成形型
3 固定型
3a 成形面
4 可動型
4a 成形面
5 キャビティ
5a キャビティ末端
6 ホットランナー
7 ゲート
9 冷却水通路
10 ヒータ(樹脂流動促進手段)
11 発泡性樹脂
26 可動型駆動装置
31 射出装置(樹脂充填装置)
41 排気装置(樹脂流動促進手段)
60 発泡樹脂成形品
61 成形品本体(発泡樹脂部材)
62 表皮材(収縮性部材)
62a 表皮層
62b クッション層