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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】卵子又は受精卵の凍結保存用具
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230612BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230612BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20230612BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20230612BHJP
   A61D 19/02 20060101ALN20230612BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12N1/04
C12N5/075
A01N1/02
A61D19/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022577775
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2022028801
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021135532
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501278065
【氏名又は名称】シーエステック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503432412
【氏名又は名称】医療法人社団 英ウィメンズクリニック
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 義隆
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 雅英
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-213692(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187543(WO,A1)
【文献】特開2012-140422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/04
C12N 5/075
A01N 1/02
A61D 19/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の柄部と、前記柄部の先端に設けられたメッシュ状の卵子等保持部と、を備えた本体部と、
前記本体部が収容される筒状のカバー部と、
を備え、
前記卵子等保持部のメッシュが、断面円形の繊維を格子状に配列して成るものであって、該メッシュの目開き寸法が170μm以上300μm以下である卵子又は受精卵の凍結保存用具。
【請求項2】
前記卵子等保持部のメッシュの目開き寸法が190μm以上である請求項1に記載の卵子又は受精卵の凍結保存用具。
【請求項3】
前記卵子等保持部のメッシュの目開き寸法が250μm以下である請求項に記載の卵子又は受精卵の凍結保存用具。
【請求項4】
前記繊維の直径が40μm~70μmである請求項1に記載の卵子又は受精卵の凍結保存用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵子又は受精卵を凍結保存するための凍結保存用具に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの不妊治療等の分野において、卵子又は受精卵(胚)を凍結保存するための技術としてガラス化凍結法が知られている。ガラス化凍結法は、卵子又は受精卵(以下、総称する場合には「卵子等」とよぶことがある)を、少量の凍結保護液(ガラス化液)と共に液体窒素に浸漬して急速冷却することによって、細胞内外の水を結晶化させることなく非晶質のガラス状態で凍結させる手法である。この手法によれば、氷晶形成による卵子等のダメージを抑えることができ、その後の融解時における卵子等の生存率を高めることができる。
【0003】
こうしたガラス化凍結法では、先端に卵子等を載せるための薄板状の載置部が設けられた棒状の本体部と、前記本体部を収容する筒状のカバーとを備えた凍結保存用具が広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。このような凍結保存用具を用いて卵子等を凍結させる際には、まず、予め凍結保護液に浸漬しておいた卵子をピペット等で採取し、少量の凍結保護液と共に前記載置部に載置する。そして、前記載置部を含む本体部の先端を液体窒素に浸漬して急速冷却したのち、本体部に前記カバーを装着し、液体窒素タンク中で保存する。
【0004】
但し、ガラス化凍結法において、卵子等の周囲に存在する凍結保護液の量が多いと、液体窒素による冷却速度が低下して卵子等の生存率が低下するおそれがある。そのため、上記のような凍結保存用具において、卵子等と共に載置部に載せた凍結保護液の量が多い場合には、ピペット等を用いて余分な凍結保護液を除去して適量に調整する必要があったが、卵子を傷つけたり乾燥させたりすることなしに凍結保護液を適量に調整する操作は熟練を要するものであった。
【0005】
そこで、特許文献2には、簡単な操作で余分な凍結保護液を除去可能な凍結保存用具が提案されている。この凍結保存用具では、卵子等を載せるための載置部が網状に形成されており、当該網状の載置部に卵子等と凍結保護液を載置した後、前記載置部の下方から吸引操作を行うことによって余分な凍結保護液を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-315573号公報
【文献】国際公開第2011/070973号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような網状の載置部を備えた凍結保存用具では、凍結保存後に液体窒素タンクから凍結保存用具を取り出し、載置部を融解液中に浸漬して卵子等を融解させた際に、卵子等が載置部から外れにくい場合があった。そのような場合、作業担当者が卵子をピペット等で吸引して載置部から取り外す必要があるが、このときに卵子等を傷つけるおそれがあるという問題や、作業担当者の負担が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、煩雑な作業を行うことなく卵子等の周囲の凍結保護液を適量にすることができ、なお且つ融解時に卵子等を容易に載置部から外すことのできる凍結保存用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る卵子又は受精卵の凍結保存用具は、
棒状の柄部と、前記柄部の先端に設けられたメッシュ状の卵子等保持部と、を備えた本体部と、
前記本体部が収容される筒状のカバー部と、
を備え、前記卵子等保持部におけるメッシュの目開き寸法が170μm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成を有する本発明に係る卵子又は受精卵の凍結保存用具によれば、煩雑な作業を行うことなく卵子等の周囲の凍結保護液を適量とすることができ、なお且つ融解時に卵子等を容易に凍結保存用具から外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態における凍結保存用具の全体構成を示す模式図。
図2】前記実施形態における本体部の先端部分を拡大して示す図。
図3】前記凍結保存用具を用いた卵子又は受精卵の凍結手順を示す模式図。
図4】前記凍結保存用具を用いて凍結保存した卵子又は受精卵の融解手順を示す模式図。
図5】メッシュ孔の大きさ(目開き寸法)が異なる種々の卵子等保持部に胚盤胞を保持させた状態を真上から撮影した写真。
図6】メッシュの目開き寸法が200μmである卵子等保持部に胚盤胞を保持させた状態を真横から撮影した写真。
図7】メッシュの目開き寸法が200μmである卵子等保持部に種々の受精卵を保持させた状態を真上から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る卵子又は受精卵の凍結保存用具(以下、単に「凍結保存用具」とよぶ)は、本体部10と、本体部10を収容する筒状のカバー部20と、を備えている。
【0014】
本体部10は、柄部11と、柄部11の先端に設けられた卵子等保持部12とを備えている。柄部11は、耐低温性の素材から成る棒状の部材である。柄部11の長さは、特に限定されるものではないが、9cm~11cmとすることが望ましい。柄部11を構成する素材としては、例えば、ステンレス等の金属、又は合成樹脂等を用いることができる。
【0015】
卵子等保持部12は、図2に示すように、繊維13から成るメッシュで構成されており、全体として幅3mm~10mm、長さ5mm~30mm程度の平板形状を有している。繊維13としては、ポリエステル等の合成樹脂から成るものを好適に用いることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の金属から成るものを用いるようにしてもよい。卵子等保持部12のメッシュ孔が小さすぎると、融解時に卵子がメッシュ孔から外れ難くなる。更に、メッシュ孔が小さすぎると、比較的高粘性の液体である凍結保護液を卵子等と共に卵子等保持部12に乗せた際に、凍結保護液(及び卵子等)がメッシュ孔(網目)の内部に入り込まずに網目上に乗ったような状態となり、適切に凍結できないおそれもある。そのため、本実施形態における卵子等保持部12のメッシュ孔の大きさ(目開き寸法)、すなわち前記メッシュを構成する繊維13のうち隣接するもの同士の間隔(図2中における寸法A)は、170μm以上(好ましくは190μm以上)とする。前記目開き寸法の上限は、表面張力によって凍結保護液を保持できる範囲であれば特に限定されるものではないが、卵子等保持部12に保持される凍結保護液の量を抑える観点から、300μm以下(より望ましくは250μm以下)とすることが望ましい。また、前記メッシュを構成する繊維13の線径(図2中における寸法B)は特に限定されるものではないが、例えば、40μm~70μm(より望ましくは50μm~60μm)とする。
【0016】
カバー部20は、耐低温性の素材(例えばポリプロピレン等の合成樹脂、又はステンレス等の金属)から成る細管状の部材であり、その内径は本体部10の幅方向の最大寸法よりも僅かに大きくなっている。また、カバー部20は、本体部10の卵子等保持部12の全体と柄部11の少なくとも一部とを収容可能な長さを有している。
【0017】
上記本実施形態に係る凍結保存用具を用いて卵子又は受精卵を凍結させる際の手順について図3を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係る凍結保存用具は、特にヒトの卵子又は受精卵の凍結保存に好適に用いることができるが、これに限定されるものではなく、ヒト以外の動物の卵子又は受精卵の凍結保存に利用することもできる。また、本実施形態に係る凍結保存用具を用いた凍結処理の対象となる「卵子」としては成熟卵を挙げることができ、「受精卵」としては、前核期胚、分割期胚(初期胚)、桑実胚、又は胚盤胞などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
まず、凍結保存の対象とする卵子又は受精卵(以下、「卵子等30」とよぶ)を凍結保護液41に浸漬することによって、凍結保護液41を卵子等30に浸透させておく。そして、作業担当者が、ピペット42を用いて少量の凍結保護液41と共に卵子等30を採取し、それらを、顕微鏡下で、本実施形態に係る凍結保存用具の卵子等保持部12上に吐出する。これにより、卵子等30及び少量の凍結保護液41が、凍結保護液41の表面張力によって、卵子等保持部12を構成するメッシュの網目(メッシュ孔)内に保持される。このとき、表面張力によって保持しきれない余剰な凍結保護液41は、メッシュの網目を通って卵子等保持部12の下方に落下するため、作業担当者がピペット等を用いて余剰な凍結保護液41を除去する必要がない。また、本実施形態に係る凍結保存用具では、卵子等保持部12を構成するメッシュの網目のサイズが比較的大きいため、作業担当者が、卵子等保持部12に保持された卵子等30を視認しやすいという利点もある。続いて、作業担当者が柄部11を把持して本体部10の先端を液体窒素43に浸漬することにより、卵子等保持部12に保持された卵子等30及び凍結保護液41を急速冷却させる。本実施形態に係る凍結保存用具では、卵子等30が凍結保護液41の表面張力によって前記メッシュの網目内に保持されており、その全周方向から冷却を受けるため、従来の凍結保存用具と比べて卵子等30の凍結速度を向上することができる。その後は、本体部10をカバー部20に収容し、本体部10及びカバー部20を液体窒素タンク44内で保管する。
【0019】
次に、以上によって凍結保存された卵子等30を融解させる際の手順について図4を参照しつつ説明する。まず、作業担当者が液体窒素タンク44から本実施形態に係る凍結保存用具を取り出し、本体部10からカバー部20を取り外した上で、本体部10の先端を融解液45に浸漬する。本実施形態に係る凍結保存用具では、卵子等保持部12を構成するメッシュの網目のサイズが、比較的大きく、卵子等保持部12を融解液45に浸けるだけで、卵子等30が卵子等保持部12から離れるため、作業担当者がピペット等を用いて手作業で卵子等保持部12から卵子等30を取り外す必要がない。
【実施例
【0020】
以下、メッシュ孔の大きさによる影響を確認するために行った受精卵の凍結/融解実験について説明する。本実験では、卵子等保持部を構成するメッシュの目開き寸法が異なる5種類の凍結保存用具を使用した。各凍結保存用具の構成は、図1に示したものとほぼ同様であり、卵子等保持部を構成するメッシュとしては、いずれも線径55μmのポリエステル繊維から成るものを使用した。前記メッシュの目開き寸法は、100μm(比較例1)、150μm(比較例2)、200μm(実施例1)、250μm(実施例2)、300μm(実施例3)とした。凍結対象とする受精卵としてはヒトの胚盤胞を使用し、上記図3及び図4で示した手順で、当該胚盤胞の凍結及び融解を行った(なお、サンプル数は、メッシュの目開き寸法が100μm、150μm、250μm、及び300μmのものでは各々n=8とし、200μmのものではn=10とした)。その際、凍結保護液としては、富士フイルム和光純薬株式会社製の「Vit Kit-Freeze NX」を使用し、融解液としては、同じく富士フイルム和光純薬株式会社製の「Vit Kit-Warm NX」を使用した。
【0021】
図5の写真は、上記各目開き寸法のメッシュから成る卵子等保持部に胚盤胞を保持させた状態を真上から撮影したものである。また、図6の写真は、目開き寸法200μmの卵子等保持部に胚盤胞及び凍結保護液を保持させた状態を真横から撮影したものである。これらの写真に示す通り、いずれの目開き寸法の卵子等保持部を用いた場合にも、メッシュの網目の中に胚盤胞及び凍結保護液を保持させることができた。しかしながら、凍結後の胚盤胞及び凍結保護液の融解時には、目開き寸法が200μmのもの、250μmのもの、及び300μmのもの(すなわち実施例1~3)では、融解液に浸けた瞬間に胚盤胞が卵子等保持部から外れたが、100μmのもの及び150μmのもの(すなわち比較例1、2)では融解液に浸けても胚盤胞が外れない場合があった。
【0022】
更に、前記実施例1の凍結保存用具(すなわち目開き寸法が200μmのもの)を使用し、ヒトの様々な受精卵を対象として凍結/融解実験を行った。なお、受精卵の凍結及び融解は上記と同様にして行った。図7の写真は、実施例1の凍結保存用具に、凍結保護液と共に様々な受精卵を保持させた状態を真上から撮影したものである。図7(a)は受精後2日(D2)の初期胚を保持させたものであり、図7(b)は受精後3日(D3)の初期胚を保持させたものである。また、図7(c)はグレード3(G3)の胚盤胞(BL胚)を保持させたものであり、図7(d)はグレード4(G4)の胚盤胞を、図7(e)はグレード5(G5)の胚盤胞を、図7(f)はグレード6(G6)の胚盤胞を、それぞれ保持させたものである。また、各受精卵のサイズは、各図の上部に記載している。これらの写真から明らかなように、目開き寸法が200μmの卵子等保持部を備えた凍結保存用具を用いた場合には、メッシュの網目の中に、様々な種類及び様々なサイズの受精卵を、凍結保護液の表面張力によって保持できることが確認された。また、いずれの場合にも、凍結後の卵子等保持部を融解液に浸けるだけで、卵子等保持部から受精卵を外すことができた。
【0023】
卵子等保持部を構成するメッシュの目開き寸法が167μmである凍結保存用具と、該目開き寸法が183μmである凍結保存用具を作成し、これらの凍結保存用具を使用してヒト受精卵の凍結/融解実験を行った。各凍結保存用具の構成は図1に示したものとほぼ同様であるが、目開き寸法が167μmである凍結保存用具では、卵子等保持部を構成するメッシュとして線径45μmのポリエステル繊維から成るものを使用し、目開き寸法が183μmである凍結保存用具では、線径71μmのポリエステル繊維から成るものを使用した。凍結対象とする受精卵としては、分割前の受精卵(直径が約150μm~160μmのもの)又は分割期の受精卵(直径が約150μm~175μmのもの)を使用し、凍結及び融解は上記と同様にして行った(なお、サンプル数はどちらの凍結保存用具を用いる場合もn=8とした)。その結果、どちらの凍結保存用具を用いた場合にも、メッシュの網目の中に受精卵及び凍結保護液を保持させて凍結させることができた。ただし、いずれも実施例1~3の凍結保存用具(すなわち目開き寸法が200μm、250μm、又は300μmのもの)に比べてメッシュの目開き寸法が小さいために、受精卵を保持させる際や受精卵が保持されたか否かを確認する際に、メッシュ孔を目視しづらい印象があった。また、目開き寸法が167μmのものでは、メッシュ孔に受精卵と凍結保護液とを一度に保持させることができない場合があり、そのような場合には、先に凍結保護液のみをメッシュ孔に保持させてから受精卵を前記メッシュ孔に収めるという2段階の作業が必要となった。一方、凍結後の受精卵を融解させる際には、目開き寸法が183μmのものでは融解液に浸けるだけで瞬時に受精卵を卵子等保持部から外すことができたが、目開き寸法が167μmのものでは、融解液に浸けただけでは受精卵がメッシュから外れない場合があり、そのような場合には、凍結保存用具の先端を融解液中で振り動かして受精卵をメッシュから外すという作業が必要となった。
【0024】
次に、メッシュの目開き寸法が200μmである凍結保存用具(すなわち実施例1の凍結保存用具)と、メッシュの目開き寸法が250μmである凍結保存用具(すなわち実施例2の凍結保存用具)を用いて、凍結融解後の初期胚の培養成績を評価した。具体的には、まず、凍結状態のマウス初期胚(Day 3胚、4 cell~8 cell)を融解し、10分程度静置した後、実施例1の凍結保存用具又は実施例2の凍結保存用具を使用して前記胚を凍結し、その後直ちに融解した。なお、凍結及び融解は上記と同様にして行った。その後、融解後の胚を3日間培養し、培養2日目と3日目の胚(すなわちDay 5胚とDay 6胚)を観察した。なお、胚の培養は、SAGE 1 step medium(Origio社製)を使用して37.0℃で行った。実施例1の凍結保存用具を用いて凍結及び融解した後の胚の培養成績を表1に、実施例2の凍結保存用具を用いて凍結及び融解した後の胚の培養成績を表2に示す。なお、サンプル数はそれぞれn=20である。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
上記の表において、「BL発生率」とは胚盤胞(blastocyst)まで生育した胚の比率を示し、「良好BL発生率」とは、グレードが3AA以上であった胚の比率を意味している。表1及び表2に示す通り、実施例1及び実施例2のいずれの凍結保存用具を用いた場合でも、Day 5において90%の胚が良好なグレードの胚盤胞に生育し、透明帯亀裂、細胞漏出、及びフラクチャー障害はいずれも発生しなかった。
【0028】
更に、胚盤胞まで生育させたマウス胚を、前記実施例1の凍結保存用具又は実施例2の凍結保存用具を用いて凍結及び融解した場合における、融解後の胚の培養成績を評価した。具体的には、まず、凍結状態のマウス初期胚(上記と同様のもの)を融解し、該初期胚が胚盤胞に生育するまで1日又は2日間培養した。なお、培養は上記同様の条件で行った。その後に、実施例1の凍結保存用具又は実施例2の凍結保存用具を使用して前記胚盤胞の凍結及び融解を行った。なお、凍結及び融解は上記と同様にして行った。その後、融解後の胚を上記同様の条件で1日間培養し、培養後の胚(すなわちDay 5胚とDay 6胚)を観察した。実施例1の凍結保存用具を用いて凍結及び融解した胚の培養成績を表3に、実施例2の凍結保存用具を用いて凍結及び融解した胚の培養成績を表4に示す。なお、サンプル数は前者がn=51であり、後者がn=55である。
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
上記の表において、「孵化」とは胚盤胞がステージG5に到達することを意味し、「完全脱出」とは胚盤胞がステージG6に到達することを意味している。表3及び表4から明らかなように、実施例1及び実施例2のいずれの凍結保存用具を用いた場合でも、Day 5において90 %の胚が良好なグレードの胚盤胞に生育しており、透明帯亀裂、細胞漏出、及びフラクチャー障害はいずれも発生しなかった。
【符号の説明】
【0032】
10…本体部
11…柄部
12…卵子等保持部
13…繊維
20…カバー部
30…卵子等
41…凍結保護液
42…ピペット
43…液体窒素
44…液体窒素タンク
45…融解液
【要約】
本発明に係る卵子又は受精卵の凍結保存用具は、棒状の柄部(11)と、柄部の先端に設けられたメッシュ状の卵子等保持部(12)と、を備えた本体部(10)と、本体部が収容される筒状のカバー部(20)と、を備え、卵子等保持部のメッシュの目開き寸法が170μm以上であることを特徴としている。これにより、煩雑な作業を行うことなく卵子等の周囲の凍結保護液を適量にすることができ、なお且つ融解時に卵子等を容易に外すことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7