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特許7292674状態推定装置、状態推定プログラム、状態推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】状態推定装置、状態推定プログラム、状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 13/00 20060101AFI20230612BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230612BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
H02J13/00 301D
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J13/00 301B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019158518
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021040362
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神通川 亨
(72)【発明者】
【氏名】福山 良和
(72)【発明者】
【氏名】東 大智
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074639(JP,A)
【文献】特開2008-154418(JP,A)
【文献】特開2015-109729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02J 3/00 - 5/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定部と、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定部が推定した推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定部と、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、記憶部に予め記憶された前記系統の状態を示す複数のデータと、前記複数の計測点のうち異常がないと判定された計測点で計測された第1系統情報と、に基づいて、少なくとも前記複数の計測点のうち異常があると判定された計測点の第2系統情報を、推定する第2状態推定部と、
を備えることを特徴とする状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態推定装置であって、
前記第1状態推定部は、
下記の式の目的関数J(x)の値が最大となるよう、前記系統の所定の位置における前記何れか一つの変化に応じた値を示す決定変数xを変化させ、前記目的関数J(x)の値が最大となる際の前記決定変数xを用いて、前記系統の状態を推定すること、
を特徴とする状態推定装置。
Nは、前記複数の計測点の数
iは、前記複数の計測点のうちi番目の計測点
σは、カーネルサイズを示す所定値
yi(x)は、前記i番目の計測点の系統情報の推定結果
ziは、前記i番目の計測点の系統情報の計測結果
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の状態推定装置であって、
前記第2状態推定部は、
前記複数のデータのうち前記第1系統情報に対応する第1データと、前記第1系統情報と、の類似度を計算する計算部と、
前記計算部の計算結果に基づいて、前記類似度の高い前記第1データを含む前記複数のデータにおける前記第2系統情報に対応する第2データに基づいて、前記第2系統情報の推定結果を出力する第1推定部と、
を含むことを特徴とする状態推定装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の状態推定装置であって、
前記第1状態推定部は、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、前記複数の計測点のうち異常がないと判定された計測点で計測された前記第1系統情報と、前記第2状態推定部で推定された前記第2系統情報と、前記モデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定すること、
を特徴とする状態推定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の状態推定装置であって、
前記第2状態推定部は、
前記複数のデータのうち前記第1系統情報に対応する第1データと、前記第1系統情報と、の類似度を計算する計算部と、
前記計算部の計算結果に基づいて、前記類似度の高い前記第1データを含む前記複数のデータに基づいて、前記系統の状態の推定結果を出力する第2推定部と、
を含むことを特徴とする状態推定装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の状態推定装置であって、
前記判定部は、
前記複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記複数の計測点のそれぞれに対応する前記第1状態推定部が推定した推定結果と、の差に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定すること、
を特徴とする状態推定装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の状態推定装置であって、
前記系統は、電力を、需要家に供給する電力系統であり、
前記第1状態推定部は、
潮流計算を行うことにより前記系統の状態を推定すること、
を特徴とする状態推定装置。
【請求項8】
コンピュータに、
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定処理と、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定処理で推定された推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定処理と、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、記憶部に予め記憶された前記系統の状態を示す複数のデータと、前記複数の計測点のうち異常がないと判定された計測点で計測された第1系統情報と、に基づいて、少なくとも前記複数の計測点のうち異常があると判定された計測点の第2系統情報を、推定する第2状態推定処理と、
を実行させることを特徴とする状態推定プログラム。
【請求項9】
コンピュータが実行する状態推定方法であって、
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定ステップと、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定ステップで推定された推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定ステップと、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、記憶部に予め記憶された前記系統の状態を示す複数のデータと、前記複数の計測点のうち異常がないと判定された計測点で計測された第1系統情報と、に基づいて、少なくとも前記複数の計測点のうち異常があると判定された計測点の第2系統情報を、推定する第2状態推定ステップと、
を含む状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態推定装置、状態推定プログラム、及び状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電力、ガス、水を供給する系統の状態を、計測された系統情報に基づいて推定する技術が知られている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-62171号公報
【文献】特開2013-132106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、系統に設けられた系統情報を計測するセンサが故障すると、センサの計測結果に異常が含まれてしまう。このようなセンサの計測結果に基づいて、系統の状態が推定されると、一般に推定結果の精度は悪化してしまう。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであって、電力等が供給される系統の状態を高い精度で推定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する主たる本発明は、電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定部と、前記複数の系統情報と、前記第1状態推定部が推定した推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定部と、前記複数の系統情報に異常があると判定されると、記憶部に予め記憶された前記系統の状態を示す複数のデータと、前記複数の計測点のうち異常がないと判定された計測点で計測された第1系統情報と、に基づいて、少なくとも前記複数の計測点のうち異常があると判定された計測点の第2系統情報を、推定する第2状態推定部と、を備えることを特徴とした状態推定装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力等が供給される系統の状態を高い精度で推定することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】情報処理装置10の構成を示す図である。
図2】電力系統30を説明するための図である。
図3】情報処理装置10aを説明するための図である。
図4】系統データ61を説明するための図である。
図5】配電線41の電圧分布の一例を説明するための図である。
図6】情報処理装置10aで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図7】情報処理装置10bを説明するための図である。
図8】情報処理装置10bで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
=====本実施形態=====
<<<情報処理装置10の構成>>>
図1は、本発明の一実施形態である情報処理装置10の構成を示す図である。情報処理装置10は、例えば、図2に示す電力系統30(後述)の状態を推定する装置であり、CPU(Central Processing Unit)20、メモリ21、記憶装置22、入力装置23、表示装置24、及び通信装置25を含むコンピュータである。なお、情報処理装置10は、「状態推定装置」に相当する。
【0011】
CPU20は、メモリ21や記憶装置22(記憶部)に格納されたプログラムを実行することにより、情報処理装置10における様々な機能を実現する。
【0012】
メモリ21は、例えばRAM(Random-Access Memory)等であり、プログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0013】
記憶装置22は、CPU20によって、実行または処理される各種データを格納する不揮発性の記憶装置である。
【0014】
入力装置23は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける装置であり、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサなどの入力インタフェースを含む。
【0015】
表示装置24は、例えばディスプレイなどの装置であり、通信装置25は、ネットワーク(不図示)を介して、他のコンピュータと各種プログラムやデータの受け渡しを行う。
【0016】
<<<電力系統30の一例>>>
図2は、情報処理装置10が状態推定を行う電力系統30の一例を示す図である。電力系統30は、例えば、6.6kV系の配電線系統であり、変圧器40、配電線41、需要家42~45、センサS1~S4を含む。なお、一般的な電力系統には、他にも配電線、需要家、センサ等が含まれているが、便宜上、ここでは簡素化した電力系統30を一例として図示している。
【0017】
変圧器40は、送電線(不図示)から供給される電圧を変圧し、6.6kVの電圧を配電線41へと出力する。
【0018】
需要家42は、配電線41から供給される電力を消費する負荷(例えば、工場)であるとともに、配電線41に対し、電力を供給するインバータ等の発電設備(不図示)を含む。なお、需要家43~45も、需要家42と同様である。このため、配電線41には、配電線41からの電力を消費する負荷と、配電線41に電力を供給する発電設備と、が接続されていることになる。
【0019】
センサS1は、配電線41の“計測点A”に設けられ、配電線41の“系統情報Za”を計測する計測器である。具体的には、センサS1は、配電線41の“計測点A”における“電圧Va”及び“電流Ia”を計測する。
【0020】
センサS2~S4は、センサS1と同様であり、配電線41の“計測点B”~“計測点D”のそれぞれに設けられた計測器であり、配電線41の“系統情報Zb”~“系統情報Zd”を計測する。
【0021】
なお、本実施形態の“系統情報Zi”(i=a~d)は、“電圧Vi”及び“電流Ii”であることとしたが、以下便宜上、適宜“電圧Vi”を中心に説明する。
【0022】
また、詳細は後述するが、情報処理装置10は、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを変化させて、例えば、配電線41の“計測点A”~“計測点D”のそれぞれの推定結果が、センサS1~S4の計測結果に一致するよう、潮流計算を行う。この結果、情報処理装置10は、図2に示すような推定結果(例えば、配電線41の電圧分布)を計算することができる。
【0023】
<<<情報処理装置10aの機能ブロック>>>
図3は、情報処理装置10の第1実施形態である、情報処理装置10aの機能ブロック等を示す図である。情報処理装置10aの記憶装置22には、系統モデル60、系統データ61が記憶されている。また、CPU20が、所定のプログラムを実行することにより、情報処理装置10aには、状態推定部70、判定部71、及び状態推定部72が実現される。
【0024】
系統モデル60は、例えば、状態方程式で表される電力系統30を模擬したモデルである。詳細は後述するが、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qが指定された状態で、系統モデル60を用いて「潮流計算」が実行されると、電力系統30の状態、つまり、配電線41の電圧、電流、位相角等が得られる。なお、以下、電力系統30の状態については、配電線41の“電圧”を中心に説明する。
【0025】
系統データ61は、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qが様々な状態において、系統モデル60を用いて予め潮流計算された、電力系統30の状態を示す“m個(例えば、m=1万)”のデータである。本実施形態の系統データ61は、例えば、センサS1~S4が正常に動作している際の系統情報を用いて、サーバ(不図示)等で予め計算された推定結果である。なお、系統データ61は、「系統の状態を示す複数のデータ」の一例である。
【0026】
図4は、系統データ61の一例を示す図である。なお、系統データ61には、電圧値以外に、電流値や位相角等の情報が含まれているが、便宜上、ここでは、電圧値のみを表示している。
【0027】
ここで、“1行目”の系統データ61は、“計測点A”~“計測点D”における“電圧VA”~“電圧VD”の推定結果として、“6800V”、“6756V”、“6662V”、“6309V”との電圧値を含む。また、“1行目”の系統データ61は、配電線41における“計測点A”~“計測点B”までのk個のノードa1,a2,・・・akのそれぞれの“電圧Vai(i=1~k)”として、“6800V”、“6795V”、“6780V”との電圧値を含む。
【0028】
なお、“1行目”の系統データ61は、配電線41における“計測点B”~“計測点C”までのk個のノードと、“計測点C”~“計測点D”までのk個のノードと、“計測点D”から下流側のk個のノードと、を更に含むが、便宜上、ここでは省略されている。
【0029】
==状態推定部70==
状態推定部70(第1状態推定部)は、4つの“計測点A”~“計測点D”のそれぞれで計測された“系統情報Za”~“系統情報Zd”と、系統モデル60と、に基づいて、電力系統30の状態を推定する。具体的には、状態推定部70は、計測された“電圧VA”~“電圧VD”を用いて、配電線41の電圧分布を推定する。
【0030】
ここで、図5を参照しつつ、状態推定部70で実行される処理の詳細を説明する。図5は、電力系統30の推定結果を、“最小二乗法”の手法で計算した場合と、“コレントロピー”の手法で計算した場合との一例を示す図である。
【0031】
図5において、“計測点A”~“計測点D”の計測結果(図6の“黒丸”)うち、“計測点C”での計測結果のみが異常であることとする。
【0032】
配電線41の電圧分布が推定される際に、仮に、“計測点A”~“計測点D”の計測結果と、推定結果と、の差を最小とする、最小二乗法に基づく目的関数が用いられると、一点鎖線で示す“推定結果R1”は、点線で示す正しい電圧分布から大きくずれてしまう。これは、“推定結果R1”を、異常値である“計測点C”に近づけることにより、最小二乗法の目的関数の値が最小になるからである。
【0033】
一方、“コレントロピー”の手法は、異常値である“計測点C”の影響を抑制することが可能な手法である。“コレントロピー”の手法では、推定結果と、計測結果との差に対する式を正規分布の形とした下記の目的関数J(x)を用い、目的関数J(x)が最大となるよう、決定変数xが探索される。
【0034】
【数1】
ここで、“N”は、計測点の数であり、“i”は、計測点のうちi番目の計測点を示し、“σ”は、例えば利用者に設定される、カーネルサイズ(または、標準偏差)を示す所定値である。また、“yi(x)”は、i番目の計測点の推定結果を示し、“zi”は、i番目の計測点の計測結果を示す。
【0035】
このような式において、推定結果“yi(x)”が、計測結果“zi”から離れると、目的関数J(x)の値は小さくなり、“0”(ゼロ)に近づく。
【0036】
一方、推定結果“yi(x)”が、計測結果“zi”に近くなると、目的関数J(x)の値は大きくなる。
【0037】
このため、例えば、図5の誤った“計測点C”の計測結果に、推定結果を近づけるよりも、他の計測点(“A”,“B”,“D”)の計測結果に、推定結果を近づける方が、目的関数J(x)の値は大きくなる。
【0038】
ここで、本実施形態の状態推定部70は、決定変数xとして、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを用い、“i”として、“計測点A”~“計測点D”の個数である“4”を用いる。
【0039】
そして、状態推定部70は、目的関数J(x)の値が最大となる際の決定変数x(つまり、需要家42~45の有効電力P、無効電力Q)を用いて、電力系統30の状態を推定する。この結果、状態推定部70は、目的関数J(x)を最大とすることで、点線で示す正しい電圧分布に近い、例えば、一点鎖線で示す“推定結果R2”を計算することができる。
【0040】
なお、決定変数xである需要家42~45の有効電力P、無効電力Qの変化量は、特許請求の範囲に記載の「何れか一つの変化に応じた値」の一例である。
【0041】
==判定部71==
判定部71は、i番目の計測点におけるセンサSiの出力に異常があるか否かを判定する。具体的には、判定部71は、センサSiの計測結果である“電圧Vi”と、状態推定部70で推定された“計測点i”の推定結果と、の差が所定値より大きい場合、センサSiの計測結果に異常があることを判定する。
【0042】
また、本実施形態において、“系統情報Z”のうち、異常があると判定された系統情報は、「第1系統情報」に相当し、“系統情報Z”のうち、異常がないと判定された系統情報は、「第2系統情報」に相当する。このため、例えば、“電圧VA”~“VD”のうち、“電圧VC”に異常が有る場合、“電圧VC”は、「第1系統情報」に相当し、“電圧VA”,“VB”,“VD”は、「第2系統情報」に相当する。
【0043】
==状態推定部72==
状態推定部72(第2状態推定部)は、ジャスト・イン・タイムモデリング(JITモデリング)の手法を用いて、異常があると判定された“計測点i”のセンサ出力を推定する。具体的には、状態推定部72は、予め格納された多くの系統データ61から、正常なセンサ出力に類似するデータを選択し、異常がある“計測点i”のセンサ出力(ここでは、“電圧Vi”)を推定する。
【0044】
類似度計算部80は、記憶装置22に予め格納された系統データ61のうち、異常がないと判定された“系統情報Zi”に対応するデータと、“系統情報Zi”との類似度を計算する。例えば、“計測点C”のセンサScの出力“電圧VC”が異常である場合、センサSa,Sb,Sdの出力である“電圧VA”,“電圧VB”,“電圧VD”は、異常がないと判定された計測結果である。
【0045】
このような場合、類似度計算部80は、まず、系統データ61のうち、異常がないと判定された計測結果に対応するデータ(以下、“データD1”とする。)を選択する。具体的には、図4の“m個”の系統データ61のうち、“電圧VA”,“電圧VB”,“電圧VD”に対応する、m行×3列のデータが“データD1”となる。
【0046】
そして、類似度計算部80は、m行×3列の“データD1”のそれぞれの行のデータと、異常がないと判定された計測結果(“電圧VA”,“電圧VB”,“電圧VD”)との類似度を、1行毎に計算する。
【0047】
具体的には、類似度計算部80は、例えば、“1行目”の“データD1”である(A,B,D)=(6800V,6756V,6309V)と、計測された“電圧VA”,“電圧VB”,“電圧VD”との、ユークリッド距離を類似度として計算する。これにより、系統データ61に含まれる“m個”のデータのうち、計測された“電圧VA”,“電圧VB”,“電圧VD”と近い系統の状態を有するデータの特定が可能とになる。
【0048】
なお、類似度計算部80は、類似度を計算するに際し、例えば、“ユークリッド距離”を用いることとしたが、これに限られず、“マハラノビス距離”や“コサイン距離”等を用いても良い。また、“データD1”は、「第1データ」に相当する。
【0049】
推定部81は、類似度計算部80の計算結果に基づいて、“m個”のうち、類似度の高い系統データ61を、例えば“3個”特定する。例えば、類似度の高い系統データ61が、系統データ61のうち、“1行目”のデータと、“3行目”のデータと、“m行目”のデータである場合、それらのデータが特定される。
【0050】
なお、ここでは、推定部81が特定する、類似度の高い系統データ61データの個数は“3個”であることとしたが、“3個”には限られない。
【0051】
そして、推定部81は、特定された3つのデータにおいて、異常があると判定された“系統情報Zc”に対応するデータ(以下、“データD2”)を取得する。例えば、推定部81は、系統データ61のうち、“1行目”のデータと、“3行目”のデータと、“m行目”のデータに含まれる、3個の“電圧VC”のデータを、“データD2”として取得する。
【0052】
なお、ここでは、3個の“データD2”は、“1行目”の“6662V”と、“3行目”の“6750V”と、“m行目”の“6742V”である。また、“データD2”は、「第2データ」に相当する。
【0053】
さらに、推定部81は、例えば、3個の“データD2”の平均値を計算し、“計測点C”の推定結果として出力する。なお、本実施形態の推定部81は、“電圧VC”の“3個”のデータの平均値を計算して、“計測点C”の推定結果としたがこれに限られない。例えば、推定部81は、最も類似度の高い系統データ61に含まれる“電圧VC”のデータを、“計測点C”の推定結果として出力しても良い。また、推定部81は、「第1推定部」の一例である。
【0054】
==情報処理装置10aで実行される処理の一例==
図6は、情報処理装置10aで実行される処理S10の一例を示すフローチャートである。まず、状態推定部70は、センサS1~S4の計測結果を取得する(S20)。そして、状態推定部70は、計測結果と、系統モデル60とに基づいて、電力系統30の状態を推定する(S21:第1状態推定処理,第1状態推定ステップ)。
【0055】
ここで、状態推定部70は、上述したコレントロピーの手法を用いる目的関数J(x)の値が最大となるよう、決定変数xである需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを定める。そして、状態推定部70は、定められた有効電力P、無効電力Qに基づいて、状態方程式を示す系統モデル60を用いて、電力系統30の状態を推定する。この結果、例えば、図5の配電線41の電圧分布が得られることになる。
【0056】
そして、判定部71は、センサS1~S4の計測結果と、電力系統30の推定結果と、に基づいて、計測結果に異常が有るか否かを判定する(S22:判定処理,判定ステップ)。
【0057】
計測結果に異常がないと判定されると(S22:No)、状態推定部70は、処理S21で得られた推定結果を、例えば、表示装置24に出力する(S23)。この結果、電力系統30の推定結果が、表示装置24に表示されることになる。
【0058】
一方、計測結果に異常が有ると判定されると(S22:Yes)、状態推定部72の類似度計算部80は、系統データ61のうち、異常がない、つまり、正しいと判定された計測結果に対応する“データD1”と、正しいと判定された計測結果と、の類似度を計算する(S24)。
【0059】
この結果、本実施形態では、系統データ61に含まれる“m個”と同じ数だけ、類似度が計算されることになる。また、以下、正しいと判定された計測結果を、便宜上、“正しい計測結果”という。
【0060】
そして、推定部81は、類似度の高い“データD1”を含む系統データ61に基づいて、異常があると判定された計測点の値を推定し、推定結果として出力する(S25)。本実施形態では、推定部81は、上述したように、系統データ61から、類似度の高い“データD1”を含む3つのデータ(例えば、図4の“1行目”、“3行目”、“m行目”)を特定する。
【0061】
S24およびS25は、特許請求の範囲に記載の第2状態推定処理,第2状態推定ステップの一例である。
【0062】
また、推定部81は、特定された3行のデータから、異常と判定された計測点(例えば、“計測点C”)のデータに対応する3個の“データD2”(例えば、図4の“6662V”、“6653V”、“6638V”)の平均値を、推定結果として出力する。この結果、“計測点C”の“電圧VC”を高い精度で推定することができる。
【0063】
さらに、状態推定部70は、正しい計測結果と、処理S25で推定された異常があった計測点の推定結果と、系統モデル60とに基づいて、電力系統30の状態を推定する(S26)。この結果、処理S26では、精度の高い電力系統30の推定結果が得られることになる。
【0064】
そして、推定部81は、処理S25で得られた推定結果を、例えば、表示装置24に出力する(S27)。この結果、電力系統30の推定結果が、表示装置24に表示されることになる。
【0065】
<<<情報処理装置10bの機能ブロック>>>
図7は、情報処理装置10の第2実施形態である、情報処理装置10bの機能ブロック等を示す図である。情報処理装置10bの記憶装置22には、系統モデル60、系統データ61が記憶されている。また、CPU20が、所定のプログラムを実行することにより、情報処理装置10bには、状態推定部70、判定部71、及び状態推定部75が実現される。
【0066】
ここで、図3の情報処理装置10aと、図7の情報処理装置10bとで同じ符号がふされたブロック等は同じであるため、ここでは、状態推定部75について説明する。
【0067】
状態推定部75(第2状態推定部)は、“系統情報Zi”に異常があると判定部71が判定すると、“系統情報Zi”の推定結果を含む、電力系統30の状態の推定結果を出力する。本実施形態の状態推定部75は、上述した類似度計算部80と、推定部85を含むため、ここでは、推定部85について説明する。
【0068】
推定部85(第2推定部)は、系統データ61のうち、正しい計測結果に最も類似する“データD1”を含む系統データ61を、電力系統30の推定結果として出力する。例えば、図4において、正しい計測結果に最も類似する“データD1”を含む系統データ61が、“2行目”のデータである場合、“2行目”のデータの全てが、電力系統30の推定結果として出力されることになる。
【0069】
なお、推定部85は、例えば、正しい計測結果に最も類似する“データD1”を含む系統データ61を選択して出力することとしたが、これに限られない。例えば、推定部85は、類似度が高い3つの“データD1”に対応する系統データ61を3つ選択し、それらの平均値を推定結果として出力しても良い。
【0070】
==情報処理装置10bで実行される処理の一例==
図8は、情報処理装置10bで実行される処理S15の一例を示すフローチャートである。なお、図8のフローチャートと、図6のフローチャートとで、同じ符号が付された処理は同じである。つまり、処理S20~S24までは同じであるため、ここでは、処理S24に続いて実行される処理S30について説明する。
【0071】
なお、処理S24は、計測結果に誤りがあった際(S22:Yes)に実行される、正しい計測結果に類似する類似度を計算する処理である。
【0072】
処理S24が実行されると、推定部85は、系統データ61のうち、正しい計測結果に最も類似する“データD1”を含む系統データ61を、電力系統30の推定結果として出力する(S30)。この結果、仮に、センサ出力に異常がある場合であっても、精度の高い電力系統30の推定結果を出力することができる。
【0073】
<<情報処理装置10の他の適用例>>
情報処理装置10は、例えば、電力系統30の状態を推定する際に用いられたが、これに限られない。例えば、“電力”を供給する電力系統30の代わりに、“ガス”または“水道”を供給する系統(不図示)の状態を推定(または、解析)する、管網解析に用いられても良い。
【0074】
例えば、系統に“ガス”が供給される場合、図2の変圧器40は、例えば、ガス供給設備に対応し、配電線41は、“ガス”を供給する供給管に対応する。また、需要家42~45は、供給された“ガス”を消費し、センサS1~S4は、系統情報として、供給管の圧力(例えば、ガス圧)を計測する計測器に対応する。これらの構成を含む“ガス”を供給する系統に対しても、情報処理装置10は、本実施形態と同様に、系統の状態を推定、解析できる。
【0075】
なお、ここでは、“ガス”について説明したが、例えば、工場などのコンプレッサ等に“圧縮空気”を供給する配管網でも同様である。したがって、情報処理装置10は、ガスや空気を含む“気体”を供給する系統に用いられても良い。
【0076】
例えば、系統に“水道(または、水)”が供給される場合、図2の変圧器40は、例えば、“水道”の供給設備に対応し、配電線41は、“水”を供給する供給管に対応する。また、需要家42~45は、供給された“水”を使用し、センサS1~S4は、系統情報として、供給管の圧力(例えば、水圧)を計測する計測器に対応する。これらの構成を含む“水道”を供給する系統に対しても、情報処理装置10は、本実施形態と同様に、系統の状態を推定、解析できる。
【0077】
なお、ここでは、“水”について説明したが、例えば、“オイル”を供給する配管網でも同様である。したがって、情報処理装置10は、水やオイルを含む“液体”を供給する系統に用いられても良い。
【0078】
=====まとめ=====
以上、本実施形態の情報処理装置10について説明した。情報処理装置10は、センサS1~S4の計測結果に異常がある場合、少なくとも異常があった計測点のセンサ出力を、予め格納された系統データ61に基づいて推定する。この結果、本実施形態では、電力系統30の状態を高い精度で推定することができる。
【0079】
また、状態推定部70は、コレントロピーの手法を用いる目的関数J(x)が最大となるよう、決定変数xである需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを探索している。そして、コレントロピーの手法を用いた場合、例えば最小二乗法の手法を用いる場合と比較すると、電力系統30の状態の推定結果は、異常な計測点の影響を受けにくくなる。この結果、本実施形態では、より精度の高い推定結果を得ることができる。
【0080】
また、類似度計算部80は、系統データ61に含まれる正しい計測結果に対応する“データD1”と、正しい計測結果の類似度を計算する。そして、推定部81は、正しい計測結果に対する類似度の高い“データD1”を含む系統データ61を特定し、特定されたデータから、異常があった計測点の値を推定する。このような処理が実行されることにより、本実施形態では、高い精度で、異常があるセンサSiの出力を推定できる。
【0081】
また、状態推定部70は、ジャスト・イン・タイムモデリングの手法に基づいて推定された推定結果と、正しい計測結果と、系統モデル60と、を用いて、電力系統30の状態を推定している。このため、より精度の高い推定結果を取得することが可能となる。
【0082】
また、推定部85は、正しい計測結果に対して最も類似する“データD1”を含む系統データ61を、推定結果として出力している。この結果、情報処理装置10bは、計算量を減らしつつ、精度の高い推定結果を出力することができる。
【0083】
また、判定部71は、センサSiの計測結果である“電圧Vi”と、“計測点i”の推定結果と、の差が所定値より大きい場合、センサSiの計測結果に異常があることを判定する。このため、判定部71は、高い精度で異常があるセンサを特定できる。
【0084】
また、本実施形態の情報処理装置10は、電力系統30の状態推定に適用されたが、例えば、“ガス”や“水”の系統の状態も推定可能である。
【0085】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【0086】
例えば、系統モデル60としては、状態方程式に基づくモデルが用いられることとしたが、これに限られない。系統モデル60は、ハードウェアで電力系統30を模擬したモデルであっても良い。
【符号の説明】
【0087】
10 情報処理装置
20 CPU
21 メモリ
22 記憶装置
23 入力装置
24 表示装置
25 通信装置
30 電力系統
40 変圧器
41 配電線
42~45 需要家
60 系統モデル
61 系統データ
70,72,75 状態推定部
71 判定部
80 類似度計算部
81,85 推定部
S1~S1 センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8