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特許7292703可視光応答性バナジン酸ビスマスの製造方法
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  • 特許-可視光応答性バナジン酸ビスマスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】可視光応答性バナジン酸ビスマスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20230612BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20230612BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C01G31/00
B01J23/22 M
B01J35/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019001764
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020111476
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-024936(JP,A)
【文献】特開昭59-057915(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0226354(US,A1)
【文献】特開2004-202335(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136783(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102963930(CN,A)
【文献】特開昭58-156508(JP,A)
【文献】OHATA Y. et al.,第65回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,日本,2018年03月17日,19p-P5-27,https://doi.org/10.11470/jsapmeeting.2018.1.0 1565
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-49/00、49/10-99/00
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で、ビスマス化合物と、ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジウム化合物とを、反応温度60~95℃、反応時間2時間以上10時間以下で反応させ、結晶構造が単斜晶であるバナジン酸ビスマスを得る工程を含むバナジン酸ビスマスの製造方法。
【請求項2】
ビスマス化合物が硝酸ビスマスである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
バナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応を尿素の存在下で行う請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
反応を硝酸の非存在下で行う請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答性バナジン酸ビスマスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光触媒として広く活用されている酸化チタン(TiO)は、3.2eVのバンドギャップを有し、波長が388nm以下の紫外光を利用するものである。しかし、紫外光は太陽光中に3~5%程度しか含まれておらず、酸化チタンを使用した触媒反応では、太陽光の約95%が利用できないことになる。
【0003】
可視光応答性を示す光触媒として、バナジン酸ビスマス(BiVO)が知られている(特許文献1)。正方晶構造のバナジン酸ビスマスは2.9eVのバンドギャップを有し、単斜晶構造のバナジン酸ビスマスは2.4eVのバンドギャップを有する(非特許文献1)。これは、前者が約428nm以下の波長の光を吸収するのに対し、後者が約517nm以下の波長の光を吸収することを意味する。単斜晶構造の方が正方晶構造よりも広い波長領域の光を吸収するため、光触媒効率が高くなる。酸化チタンと比較すると、約3.5倍もの太陽光エネルギーを吸収することができる。
【0004】
バナジン酸ビスマスの作製方法として、固相反応法や液相反応法が知られている。しかし、固相反応法を用いて作製されたバナジン酸ビスマス粉末は、光触媒反応の効率が低い。その原因として、固相反応法で得られる粉末の粒径が不均一であることが考えられている。
【0005】
一方、液相反応法の一種である沈殿法を用いて、バナジン酸ビスマスを製造する方法が知られている(特許文献1)。具体的には、硝酸水溶液中で、尿素の存在下、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO・5HO)とをモル比1:1で混合し、90℃で加熱撹拌することにより、バナジン酸ビスマス粉末を得ている。得られたバナジン酸ビスマスが可視光応答性の光触媒活性を有し、内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA又はエストロゲンを可視光下で分解できることも開示されている。しかしながら、短時間で単斜晶の粉末を得ることが難しく、また、使用する硝酸は劇物であり、保管取扱がきわめて難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-24936号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.Kudo,K.Omori,H.Kato,J.Am.Chem.Soc.,121,11459(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光触媒効率が高いバナジン酸ビスマスを簡便に作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、液相反応法によるバナジン酸ビスマスの製造方法について種々検討したところ、ビスマス原子1モルに対しバナジウム原子2モル以上となる量のバナジウム化合物をビスマス化合物と反応させることにより、硝酸水溶液を用いることなく、短時間で可視光応答性のバナジン酸ビスマスが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、水中で、ビスマス化合物と、ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジウム化合物とを反応させる工程を含むバナジン酸ビスマスの製造方法に関する。
【0011】
バナジン酸ビスマスの結晶構造は単斜晶であることが好ましい。
【0012】
ビスマス化合物が硝酸ビスマスであることが好ましい。
【0013】
バナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0014】
反応は60~95℃で行うことが好ましい。
【0015】
反応を尿素の存在下で行うことが好ましい。
【0016】
反応時間は2時間以上であることが好ましい。
【0017】
反応は硝酸の非存在下で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ビスマス化合物と、ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジウム化合物とを反応させるため、硝酸水溶液を用いることなく、可視光応答性のバナジン酸ビスマスを短時間で作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1~4及び比較例1で調製したバナジン酸ビスマス粉末のXRDの積分強度である。
図2】実施例1~4及び比較例1で調製したバナジン酸ビスマス粉末の光触媒反応評価結果である。
図3図2から算出した透過率の回復率である。
図4】比較例2で調製したバナジン酸ビスマス粉末のXRDの積分強度である。
図5】比較例2で調製したバナジン酸ビスマス粉末の光触媒反応評価結果である。
図6図5から算出した透過率の回復率である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のバナジン酸ビスマスの製造方法は、水中で、ビスマス化合物と、ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジウム化合物とを反応させる工程を含む。
【0021】
ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比(バナジウム原子のモル数/ビスマス原子のモル数)は、2以上であり、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。2未満では、正方晶系結晶が生成しやすくなる傾向があり、2を超えると、少しずつ正方晶系の割合が減少し、単斜晶系に置き換わっていく傾向がある。
【0022】
ビスマス化合物としては、水に可溶な化合物であればよく、硝酸ビスマスが好ましい。
【0023】
バナジウム化合物としては、水に可溶な化合物であればよく、取り扱いやすく、安価で毒性も低い点から、メタバナジン酸アンモニウムが好ましい。
【0024】
ビスマス化合物は、水100重量部に対しビスマス原子換算で0.001~5モル使用することが好ましい。
【0025】
バナジウム化合物とビスマス化合物の混合方法は特に限定されず、バナジウム化合物とビスマス化合物が入った反応容器に水を加えてもよく、水が入った反応容器にバナジウム化合物とビスマス化合物を加えてもよく、反応容器にバナジウム化合物の水溶液とビスマス化合物の水溶液とを加えてもよい。
【0026】
本発明の製造方法では、反応系中に沈殿剤を存在させることが好ましい。沈殿剤としては特に限定されないが、尿素、ミョウバン、石灰乳等を挙げることができる。中でも、取扱いが容易で安価である点から、尿素が好ましい。
沈殿剤の量は、ビスマス化合物1モルに対し、0.001~100モルが好ましい。
【0027】
ビスマス化合物とバナジウム化合物は、両者を含む水溶液に、必要に応じて沈殿剤を混合し、必要に応じて加熱しながら撹拌する。その後、生成した沈殿物を回収し、洗浄、乾燥する。
【0028】
反応温度は特に限定されないが、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、100℃以下が好ましく、98℃以下がより好ましく、95℃以下がさらに好ましい。60℃未満であると、尿素の加水分解が行われない傾向がある。また、100℃を超えると、水が蒸発するおそれがある。
【0029】
反応時間は特に限定されないが、2時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましい。また、12時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましい。2時間未満であると、正方晶系結晶が高い割合で生成する傾向がある。一方、12時間を超えると、単斜晶系が支配的に存在する、あるいは単斜晶系のみとなり、正方晶系が消滅しやすい傾向がある。
【0030】
本発明の製造方法では、硝酸を添加してもよい。硝酸の添加量は、水100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。安全性かつ簡便性の観点から、硝酸を添加せずに、すなわち、硝酸の非存在下で、反応を行うことが最も好ましい。
【0031】
生成するバナジン酸ビスマスは、単斜晶系結晶を含むことが好ましい。単斜晶系結晶と正方晶系結晶の混合物である場合は、重量比(単斜晶/正方晶)は、100/100以上であることが好ましく、100/50以上であることがより好ましく、100/33以上であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によれば、単斜晶系結晶の割合が高いバナジン酸ビスマスを製造することができるので、可視光領域を含む幅広い波長領域の光を利用する光触媒反応に適用することができる。よって、可視光下でも、有害物質の分解、汚染された物質の浄化、水の分解等を高効率で行うことができ、例えば、内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等で汚染された物質の浄化に応用できる。
【0033】
有害物質の分解方法や汚染された物質の浄化方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バナジン酸ビスマスを有害物質の水溶液に分散させ、光を照射しながら一定時間撹拌する方法が挙げられる。バナジン酸ビスマスは、濾別により除去・回収することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
下記の実施例及び比較例で使用した材料及び調製したバナジン酸ビスマス粉末の評価方法を以下に示す。
【0035】
<X線回折(XRD)測定>
X線回折装置(RINT2500V、株式会社リガク製)を使用してバナジン酸ビスマス粉末の結晶性を評価した。
【0036】
<光触媒反応評価>
バナジン酸ビスマス粉末(0.2g)をメチレンブルー溶液(800μl)に加え、撹拌しながら太陽光シミュレーター装置(XES-301S+EL-100、株式会社三永電機製作所製)を用いて光(波長100~1400nm)を1時間照射した。メチレンブルー溶液の上澄み300μlをガラス基板上に滴下し、分光器(大塚電子株式会社製)を用いて、波長200~800nmの光の透過率を測定した。水及びメチレンブルー溶液の透過率も測定した。
また、波長664nmの光の透過率の測定結果をもとに、下記の方法により透過率の回復率を算出した。
回復率{%}=(溶液の透過率/水の透過率)×100
【0037】
実施例1
硝酸ビスマス五水和物(5.8g、12mmol)とメタバナジン酸アンモニウム(2.8g、24mmol)をビーカー内で混合した上、超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、90℃、500rpmで2時間加熱撹拌した。上澄みを捨てて、得られた沈殿物に超純水を加え5分間以上撹拌する作業を2回以上繰り返したのち、遠心分離機(3000rpm、15分)を用いて沈殿物を回収した。100℃で2時間乾燥し、粉末化した。
【0038】
実施例2~4
硝酸ビスマス五水和物(5.8g、12mmol)に対し、メタバナジン酸アンモニウムをそれぞれ4.2g(36mmol)、5.6g(48mmol)、7.00g(60mmol)用いた以外は、実施例1と同様にして沈殿物を得た。
【0039】
比較例1
硝酸ビスマス五水和物(5.8g、12mmol)に対し、メタバナジン酸アンモニウムを1.4g(12mmol)用いた以外は、実施例1と同様にして沈殿物を得た。
【0040】
実施例1~4および比較例1で得られた各バナジン酸ビスマス粉末のXRDの積分強度を図1に示す。比較例1(V原子とBi原子のモル比が1)では、正方晶系結晶のピークが確認された。これに対し、実施例1、2及び4では、正方晶系結晶のピークがごくわずか確認される程度で、単斜晶系結晶が高い割合を占めることが確認された。V原子とBi原子のモル比が4の実施例3では、正方晶系結晶のピークは見られず、単斜晶系結晶のピークのみが確認された。
【0041】
実施例1~4および比較例1で得られた各バナジン酸ビスマス粉末の光触媒反応評価結果を図2に、透過率の回復率を図3に、それぞれ示す。
V原子とBi原子のモル比が2以上で透過率の回復が確認された。特に、実施例4では透過率が約98%にまで回復した。これは、単斜晶系結晶の比率が高いと可視光領域での光触媒反応を効率的に行えることを示している。
【0042】
比較例2
硝酸ビスマス五水和物(5.8g、12mmol)とメタバナジン酸アンモニウム(1.4g、12mmol)をビーカー内で混合した上、超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、90℃、500rpmで、2時間、6時間又は12時間加熱撹拌した。上澄みを捨てて、得られた沈殿物に超純水を加え5分間以上撹拌する作業を2回以上繰り返したのち、遠心分離機(3000rpm、15分)を用いて沈殿物を回収した。100℃で2時間乾燥し、粉末化した。
【0043】
バナジン酸ビスマス粉末のXRDの積分強度を図4に示す。反応時間が2時間では、正方晶系結晶のピークのみが確認された。6時間では正方晶系結晶と単斜晶系結晶の混合物が得られ、12時間では正方晶系結晶の割合はかなり低くなった。
【0044】
各バナジン酸ビスマス粉末の光触媒反応評価結果を図5に、この結果をもとに算出した透過率の回復率を図6に、それぞれ示す。
V原子とBi原子のモル比が1である場合、12時間反応させても透過率が90%近くまでしか回復しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、可視光応答性のバナジン酸ビスマスが簡便に得られるため、可視光下での有機物質の分解手段、例えば、内分泌攪乱物質等の環境汚染物質を分解・浄化する手段等に応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6