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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】圧縮木材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
B27K5/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019131758
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021016947
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594161622
【氏名又は名称】飛騨産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大川 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】本母 雅博
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-290408(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108943208(CN,A)
【文献】特開2001-105409(JP,A)
【文献】特開2004-268390(JP,A)
【文献】特許第6450489(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
E04F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の厚み方向に当該木材の圧縮率の異なる複数の層部を有する圧縮木材において、
該圧縮木材の厚み方向の何れか一方の表面を形成する第1の層部と、
該第1の層部の前記厚み方向内側に隣接する第2の層部と、
該第2の層部の前記第1の層部とは前記厚み方向反対側に隣接して前記厚み方向の中央領域を形成する第3の層部と、
前記第3の層部と隣接して他方の表面を形成する第4の層部と、
を有し、
前記第2の層部及び前記第4の層部は、それぞれ、前記第1の層部及び前記第3の層部よりも圧縮率が高いことを特徴とする圧縮木材。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮木材の製造方法であって、
板状の木材の表面に水分を付与して、該木材の両方の表層領域を軟化させる軟化処理工程と、
該軟化処理工程の後、前記木材の一方の表面側加熱して、軟化した一方の前記表層領域の外表面側の所定厚さの領域の水分を減少させる乾燥処理工程と、
該乾燥処理工程の後の前記木材を厚み方向に圧縮する圧縮工程と、
を含むことを特徴とする圧縮木材の製造方法
【請求項3】
前記軟化処理工程は、前記木材を蒸煮することにより行われることを特徴とする請求項に記載の圧縮木材の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥処理工程は、前記木材の表面に加熱したプレス板を所定時間、非圧縮状態で接触させることにより行われ、
前記圧縮工程は、前記プレス板により前記木材を加熱圧縮することにより行われることを特徴とする請求項又はに記載の圧縮木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の木材を圧縮加工した圧縮木材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スギやヒノキ等の針葉樹は、成長が早く、ラワン等の広葉樹に比べて日本国では入手しやすいことから、家具材料や建材として多用されている。
【0003】
しかしながら、針葉樹は、広葉樹に比べて軟質であって強度が低いことから、家具に使用する場合には表面に傷がつきやすく、建材に使用する場合には強度不足が懸念される等の不具合がある。
【0004】
このような問題を解消するため、特許文献1に記載されているように、木材に対して圧縮加工を行って木材強度を高めることが従来から行われている。
【0005】
具体的には、まず、木材の両面(表面及び裏面)に水分を付加して木材の両面の表層部を軟化させる。この軟化処理によって、木材の厚み方向の両面の表層部は、その間の内層部よりも圧縮変形しやすい状態になる。その後、木材を厚み方向に加熱圧縮する。このようにして製造された圧縮木材は、厚み方向の両側に、圧縮率が高く硬質の表層部を有し、この表層部の間に、圧縮率が低く軟質の内層部を有する3層構造を有している。
【0006】
このようにして製造された圧縮木材は、同じ厚さの非圧縮木材に比べて、材料密度が高なり、強度が高いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6450489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、家具や建材に使用される圧縮木材は、例えばテーブル等の製品形状に加工される際に、表面形状を整えたり外観を向上させたりする目的から、その表層部が切削され、表層部の厚さが薄くなったり、表層部が削り取られて内層部が表面に露出したりする。また、螺子やダボを用いて圧縮木材同士を接合する際には、表層部が切削された圧縮木材の表面に、螺子穴やダボ穴が形成される。
【0009】
しかしながら、表層部の厚さが薄い領域や、内層部が露出した領域に螺子穴やダボ穴が形成すると、穴の大部分が軟質の内層部に存在することになり、螺子やダボを挿入した際に穴の形状が崩れてしまい、螺子やダボが穴から抜け落ちてしまう虞がある。
【0010】
それ故、表層部を切削した場合であっても、螺子やダボによる接合に耐え得る厚さの硬質の層を表面側に維持することができる圧縮木材の開発が求められていた。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、圧縮木材の表層部が切削された場合でも、表面側に硬質の高圧縮層を維持することができる圧縮木材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係る圧縮木材は、木材の厚み方向に当該木材の圧縮率の異なる複数の層部を有する圧縮木材において、該圧縮木材の厚み方向の何れか一方の表面を形成する第1の層部と、該第1の層部の前記厚み方向内側に隣接する第2の層部と、該第2の層部の前記第1の層部とは前記厚み方向反対側に隣接して前記厚み方向の中央領域を形成する第3の層部と、前記第3の層部と隣接して他方の表面を形成する第4の層部と、を有し、前記第2の層部及び前記第4の層部は、それぞれ、前記第1の層部及び前記第3の層部よりも圧縮率が高いことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、圧縮木材が、表面を形成する第1の層部と、厚み方向の中央領域を形成する第3の層部との間に、これらの層部よりも圧縮率が高い、すなわち、硬質の第2の層部を有しているので、圧縮木材を製品形状に加工する際に、表層部となる第1の層部が切削されて、第1の層部の厚さが薄くなったり、その内側の層が露出したりする場合であっても、最も硬質の第2の層部が残存しているので、表面又は表面近傍に硬質の層が確保される。したがって、この第2の層部により、圧縮木材の表面に形成された螺子穴やダボ穴の形状を堅固に保持することができ、螺子やダボの抜け落ちを防止することができる。
【0016】
また、本発明は、前記圧縮木材の製造方法であって、板状の木材の表面に水分を付与して、該木材の両方の表層領域を軟化させる軟化処理工程と、該軟化処理工程の後、前記木材の一方の表面側加熱して、軟化した一方の前記表層領域の外表面側の所定厚さの領域の水分を減少させる乾燥処理工程と、該乾燥処理工程の後の前記木材を厚み方向に圧縮する圧縮工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、まず、板状の木材の表面に水分を付与することにより、木材の表層領域が水分を吸収して、内側の内層よりも軟化する。その後、該木材を表面側から加熱することで、軟化した表層領域の内、外表面側の所定の厚さ領域の水分だけが蒸発して減少する。したがって、内側の内層は水分が少なく軟化していない状態、外表面側の所定厚さ領域は一旦軟化した後、水分が蒸発して硬化した状態、そして、これら内層と外表面側の所定厚さ領域との間には、水分を含んで軟化したままの状態の中間層が存在することとなる。この状態で、該木材を厚み方向に圧縮すると、水分を多く含む軟質の中間層は、他の層よりも高い圧縮率で圧縮される。これにより、圧縮木材において、第1の層部及び第3の層部よりも高い圧縮率を有する第2の層部を形成することができる。なお、外表面側の所定厚さ領域の水分は加熱処理の調節によって、水分の残存調整をすることは容易であり、3層の圧縮後の圧縮率の調整は、所望に応じて調整可能である。
【0018】
また、本発明は、前記圧縮木材の製造方法において、前記軟化処理工程は、前記木材を蒸煮することにより行われることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、木材は熱を加えることによっても軟化するので、木材を蒸気で加熱することにより、木材に水分とともに熱を付与して、外表面側の所定の厚さ領域及び中間層を十分に軟化させることができる。これにより、第2の層部の圧縮率を向上させて、第2の層部をより硬質にすることができる。
【0020】
また、本発明は、前記圧縮木材の製造方法において、前記乾燥処理工程は、前記木材の表面に加熱したプレス板を所定時間、非圧縮状態で接触させることにより行われ、前記圧縮工程は、前記プレス板により前記木材を加熱圧縮することにより行われることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、圧縮工程において木材に熱を加えることで、木材の圧縮率を高めることができ、各層部の強度を高めることができる。また、乾燥処理工程に使用したプレス板を圧縮工程における加熱圧縮に利用することで、加工時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の圧縮木材によれば、厚み方向の中央領域を形成する第3の層部と、厚み方向の最外側に位置する第1の層部との間に、これらの層部よりも圧縮率が高い第2の層部を有しているので、圧縮木材を製品形状に加工する際に、第1の層部が切削された場合でも、高圧縮率で硬質の第2の層部を表面側に維持することができ、第2の層部により、圧縮木材の表面に形成された螺子穴やダボ穴の形状を保持して螺子やダボの抜け落ちを防止することができる。
【0023】
また、本発明の圧縮木材の製造方法によれば、木材の表層側の領域を水分で軟化させた後、木材を表面側から加熱して外表面側の所定厚さ領域の水分を減少することで、水分の少ない層の間に、水分の多い層を形成することができ、この状態で木材を圧縮することで、第1の層部と第3の層部との間に、高圧縮率の第2の層部を有する圧縮木材を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(a)は本発明の一実施形態である圧縮木材の斜視図であり、(b)は(a)のbで囲む断面領域の拡大図である。
図2】圧縮木材の材料となる木材の斜視図。
図3】圧縮木材の製造方法のフローチャートである。
図4】圧縮装置を模式的に示す断面図である。
図5】圧縮装置を用いた乾燥処理工程の説明図である。
図6】圧縮装置を用いた加熱圧縮工程及び冷却工程の説明図である。
図7】圧縮木材の第1表面からの位置と密度との関係を示すグラフである。
図8】タッピングネジの引抜き試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1(a)は、本発明の一実施形態である圧縮木材10の斜視図であり、図1(b)は、(a)のbで囲む断面領域の拡大図である。また、図2は圧縮木材10の材料となる木材20の斜視図である。
【0026】
圧縮木材10の材料となる木材20としては、スギやヒノキ等の針葉樹と、ナラやラワン等の広葉樹とのいずれをも用いることができるが、針葉樹であることが好ましい。また、材料となる板状の木材20としては、表面に板目を有する板目材や、表面に柾目を有する柾目材を用いることができ、さらに、板目から柾目に移行する追柾目を有する木材を用いることもできるが、柾目材を用いると圧縮時に年輪界にてせん断が生じ、歩留りが低下する虞があることから、追柾目を有する木材および板目材を使用することが好ましく、板目材を使用することが特に好ましい。なお、本発明において、板目材とは、原木を年輪の接線方向に挽いた材であって、年輪の中心を外したいわゆる芯去り材をいうものとする。年輪の中心を有する芯持ち材を用いると、板目材の加熱圧縮時に芯付近の年輪が屈曲して割れが生じるおそれがあるからである。また、柾目とは、丸太の中心に向かって挽いたときに現れる年輪が平行な木目をいい、そのように挽いて得られた材を柾目材という。
【0027】
本実施形態では、木材20として針葉樹の板目材を使用しており、図2で上面となる第1表面20aは、木材20の木表側(年輪の中心から遠い側)の表面であり、下面となる第2表面20bは、木材20の木裏側(年輪の中心に近い側)の表面である。
【0028】
圧縮木材10は、厚み方向Dに圧縮率の異なる複数の層を有しており、本実施の形態では、図1で上面となる第1表面10a(板目材の木表側の面)から、下面となる第2表面10b(板目材の木裏側の面)に向かって順に、第1表層部(第1の層部)12、第1中間層部(第2の層部)14、内層部(第3の層部)15、第2中間層部(第2の層部)16及び第2表層部(第1の層部)18を有する5層構造となっている。なお、図1では、各層部を理解しやすいように、第1中間層部14と第2中間層部16とに塗り潰しを付している。
【0029】
第1表層部12は、第1表面10aを形成している層であり、第2表層部14は、第2表面10bを形成している層である。
【0030】
内層部15は、圧縮木材10の厚み方向Dの中央領域を含む層であり、他の層部12,14,16,18よりも厚みが大きくなっている。
【0031】
第1中間層部14は内層部15と第1表層部12との間に位置し、第2中間層部16は、内層部15と第2表層部18との間に位置している。第1及び第2中間層部14,16は、第1表層部12、第2表層部18及び内層部15よりも、圧縮率が高くなっており、これにより、第1及び第2表層部12,18及び内層部15に比べて、気乾比重や、繊維密度が高くなっている。図1(b)に示すように、圧縮率の高い第1及び第2中間層部14,16では、年輪の木目30の幅が狭くなっており、これに隣接する層部との境界部で木目30が屈曲している。
【0032】
各層部の厚さの比率は、例えば、圧縮木材10の厚さが30~35mmの場合に、第1表層部12及び第2表層部18が、それぞれ5~15%、第1中間層部14及び第2中間層部16が、それぞれ10~15%、内層部15が40~70%とすることができる。なお、これらの比率は、材料となる木材20の厚さや、後述する軟化処理工程や乾燥処理工程における木材20の軟化度合いや乾燥度合いによって、適宜変更することができる。例えば、第2表層部18に比べて第1表層部12の厚さを大きくしたり、第1及び第2中間層部14,16の厚さをほぼ等しくしたりすることが可能である。なお、第1表層部12及び第1中間層部14の厚さは、それぞれ、1mm以上であることが好ましく、1mm~7mmであることがより好ましい。
【0033】
次に、圧縮木材10の製造方法を説明する。図3に示すように、本実施形態の圧縮木材10は、軟化処理工程S10、乾燥処理工程S12、加熱圧縮工程(圧縮工程)S14、及び冷却工程S16を経て製造される。乾燥処理工程S12、加熱圧縮工程S14及び冷却工程S16では、図4に示す圧縮装置50を使用する。
【0034】
図4は、圧縮装置50をも模式的に示す断面図である。圧縮装置50は、内部に木材20が載置される底部52aを有すると共に、天面が開放された箱状の下型52と、下型52の蓋部を構成する板状の上型54とからなる圧縮型56を備える基本構成を有する。上型54は、下型52に対して接近・離間する方向(矢印Y方向)に移動可能であり、下型52に対して当接すると圧縮型56は閉状態となり、密閉された型内空間58が構成される。下型52において底部52aを構成する板状部材と、板状の上型54とは、木材20を圧縮するプレス板を構成している。また、下型52の上縁部に設けられた溝部にはOリング53が嵌め込まれており、Oリング53が上型54に対して密着することで型内空間58は密閉される。
【0035】
上型54には、蒸気60を流通させる管路62と、冷却水70を流通させる管路72とが設けられている。また、下型52には、蒸気60を流通させる管路64と、冷却水70を流通させる管路74とが設けられている。さらに、下型52には、型内空間58に蒸気60を導入するための管路66及び型内空間58から蒸気60を排出するための管路68、及び型内空間58内の水を排出するための管路78が設けられている。
【0036】
上型54及び下型52の上流には、管路62、管路64及び管路66に蒸気60を導入するための導入側蒸気経路61が設けられており、上型54及び下型52の下流には、管路62、管路64及び管路68内から蒸気60を排出するための排出側蒸気経路69が設けられている。
【0037】
また、上型54及び下型52の上流には、管路72及び管路74に冷却水70を導入するための冷却水経路71が設けられており、上型54及び下型52の下流には、管路72、管路74及び管路78からの水を排出するための排水経路79が設けられている。
【0038】
圧縮型56の導入側蒸気経路61には、管路62、64及び66に至る前に経路をそれぞれ開閉可能なバルブ81、82及び83がそれぞれ設けられており、圧縮型56の排出側蒸気経路69には、管路62、64及び68の下流で経路をそれぞれ開閉可能なバルブ86、87及び88がそれぞれ設けられている。
【0039】
また、圧縮型56の冷却水経路71には、管路72及び74に至る前に経路をそれぞれ開閉可能なバルブ91及び92がそれぞれ設けられており、圧縮型56の下流の排水経路79には、管路72、74及び78の下流で経路をそれぞれ開閉可能なバルブ96、97及び98が設けられている。なお、バルブ83と管路66の間には、圧力計85が設けられている。
【0040】
以下、圧縮木材10の製造方法の各工程について詳説する。
【0041】
[1.軟化処理工程]
軟化処理工程S10では、木材20の第1表面20a及び第2表面20bに水分を付与して、木材20の表層領域を軟化させる。軟化させる表層領域の厚さは、完成後の圧縮木材10の第1及び第2表層部12,18の厚さや、第1及び第2中間層部14,16の厚さを考慮して予め設定することができる。本実施形態では、木材20を蒸煮して軟化させている。木材20の蒸煮処理は、例えば、周知の蒸煮缶を用いて行うことができる。蒸煮時間は、例えば、95℃~100℃で、5分~30分程度の時間とすることができる。蒸煮時間を15分以上とすることが、後述する第1中間層部14及び第2中間層部16の位置を圧縮木材の厚み方向中央側に位置させる観点からより好ましい。
【0042】
図5(a)は、軟化処理後の木材20を圧縮装置50に載置した状態を示しており、軟化した表層領域21及び29を塗り潰し、表層領域21及び29の間に位置して、これらよりも水分量の少ない内層部25を塗り潰し無しで示している。軟化処理により、木材20の第1表面20a側の表層領域21及び第2表面20b側の表層領域29が、水分を吸収して、内側の内層25よりも軟化する。
【0043】
なお、軟化処理工程S10では、蒸煮処理に代えて、例えば、水を張った水槽内に木材20を浸漬することにより、水分を付加して軟化させてもよい。木材20は水分の付加だけではなく熱によっても軟化するため、本実施形態のように、軟化処理工程S10において、水分とともに熱を付与することで、木材20の表層領域を短時間で十分に軟化させることができる。また、これにより、木材20の表層の領域の軟化の程度を高めて、圧縮木材10における第1及び第2中間層部14,16の圧縮率を向上させ、第1及び第2中間層部14,16をより硬質にすることが可能である。
【0044】
[2.乾燥処理工程]
図5(b)は、乾燥処理工程の説明図であって、圧縮装置50のプレス板である上型54及び下型52のそれぞれを加熱状態かつ非圧縮状態で木材20に接触させた状態を示している。乾燥処理工程S12では、木材20の第1表面20a側及び第2表面20b側を加熱して、軟化した表層領域21及び29の外表面側の所定の厚さの領域22及び28の水分を減少させて、この所定厚さ領域22及び28を硬化させる。
【0045】
具体的に説明すると、木材20の第1表面20a及び第2表面20bのそれぞれに、圧縮装置50の上型54及び下型52のそれぞれを加熱状態かつ非圧縮状態で所定の時間接触させる。上型54及び下型52の昇温は、圧縮型56の下流のバルブ86及び87を閉じ、圧縮型56の上流のバルブ81及び82を少しずつ開き、高温の蒸気60を少しずつ上型54及び下型52に導入することにより行う(図4参照)。また、蒸気60を送り込むバルブ81及び82の開度と、蒸気60を排出するバルブ86及び87の開度とをそれぞれ調節することにより、上型54及び下型52の温度を一定に保持することができる。また、乾燥処理工程S12では、圧縮型56のバルブ83を密閉状態にして、上型54及び下型52の内部空間に、蒸気60が導入されないようにする。上型54及び下型52を木材20に接触させる時間は、例えば、上型54及び下型52を約150℃~180℃に加熱させた状態で、5分~15分程度の時間とすることができる。
【0046】
この乾燥処理により、木材20の外表面側の所定厚さ領域22及び28の水分が蒸発して乾燥し、硬化する。図5(b)では、乾燥処理後の木材20の状態を示しており、表層領域21及び29において、水分が減少した領域22及び28を塗り潰し無しで示している。また、この領域22及び28と、内層25との間に位置して、水分量の多い中間層24及び26を塗り潰しで示している。中間層24及び26では、水分が保持されて、領域22及び28や、内層25よりも軟化した状態になっている。なお、外表面側の所定厚さ領域22及び28は加熱処理の調節(すなわち、加熱温度や加熱時間等の調節)によって、水分の残存調整をすることを容易に行うことができ、この領域22及び28と、中間層24及び26と、内層25の圧縮後の圧縮率の調整は、所望に応じて調節することができる。
【0047】
[3.加熱圧縮工程]
加熱圧縮工程S14では、図6(a)に示すように、上型54を下型52に当接するまでゆっくり移動させ、木材20を厚み方向に圧縮する。加熱圧縮工程において、上型54及び下型52は約150℃~180℃に維持されている。また、このとき、バルブ83、88及び98を密閉状態にして型内空間58を完全な密閉空間にすることができる。この状態で、約20分~120分程度、加熱圧縮状態を維持する。加熱圧縮状態の維持することで、型内空間58の空気が熱膨張するとともに、木材20の水分の蒸発による水蒸気の発生によって型内空間58の圧力が上昇する。この上昇圧力下で圧縮された木材20に高温水蒸気による処理が施され、これにより、木材20の内部に蓄積された応力が短時間のうちに著しく緩和されて圧縮形状が固定される。木材20において、水分を多く含む軟質の中間層24及び26は、他の層よりも圧縮率が高くなる。高い圧縮率で圧縮される。
【0048】
なお、木材20からの水分の蒸発だけでは水蒸気量が足りない場合や、型内空間58の圧力が低い場合には、バルブ83の開き量を大きくし、蒸気量及び圧力を増大させることができる。逆に型内空間58の圧力が高い場合には、バルブ88を開いて圧力を低下させることができる。なお、型内空間58の圧力は、圧力計85によりモニターすることがで
【0049】
木材20の圧縮率は、圧縮前の木材20の厚さやOリング53の高さを変更したり、下型52の底部52aに平らな金属板(図示省略)を載置したりすることにより調節可能であり、針葉樹の木材20であれば最大約70%程度まで行うことができる。なお、圧縮率70%とは、厚さ10cmの木材20を、合計で3cmの厚さまで圧縮することをいう。圧縮率は好ましくは30%~50%である。
【0050】
なお、木材20の圧縮は、加熱を伴わなくてもよいが、本実施形態のように熱を加えながら圧縮することで、木材20の圧縮率を高めることができ、製造後の圧縮木材10の各層部の強度を高めることができる。さらに、本実施形態では、乾燥処理工程に使用したプレス板を加熱圧縮工程に利用することで、加工時間の短縮化を図ることができる。
【0051】
[4.冷却工程]
冷却工程S14では、上型54及び下型52の温度を約20~40℃まで低下させ、30分~60分間維持して圧縮された木材20(すなわち、圧縮木材10)を冷却する。冷却は、圧縮装置50のバルブ81、82及び83を閉じ、バルブ86、87及び88を開けて上型54、下型52及び型内空間58から蒸気60を排出するとともに、バルブ91、92、96及び97を開けて冷却水70を上型54及び下型52に流通させることにより行われる。その後、図6(b)に示すように、上型54を下型52に対して離反する方向に移動させ、圧縮木材10を取り出す。
【0052】
上述した製造方法により形成された圧縮木材10の一例として、乾燥処理における加熱時間を10分、加熱圧縮工程における圧縮率を30%とした場合に、厚さが約32mmの圧縮木材10において、第1表層部12、第1中間層部14及び第2中間層部16の厚さをそれぞれ約4mm、内層部15の厚さを約17mm、第2表層部18の厚さを約3mmとすることができる。また、圧縮率を40%又は50%にした場合であっても、乾燥処理の加熱時間を10分にした場合には、厚さが約32mmの圧縮木材10において、各層部の厚さを圧縮率30%の場合と同様にすることができる。
【0053】
また、圧縮木材10の他の例として、乾燥処理における加熱時間を5分にし、圧縮率を30%、40%又は50%とした場合に、厚さが約32mmの圧縮木材10において、第1表層部12の厚さを約2~3mm、第1中間層部14の厚さを約4mm、内層部15の厚さを約20mm、第2中間層部16の厚さを約4mm、第2表層部16の厚さを約1~2mmとすることができる。
【0054】
このようにして製造された圧縮木材10は、厚み方向Dで図7に示すような密度分布を有する。図7は、圧縮木材10の第1表面10aからの厚み方向Dの位置と密度との関係を示すグラフであり、本実施形態の圧縮木材10を実線で示し、軟化処理工程の後に、乾燥処理工程を行わずに加熱圧縮工程を行った圧縮木材を破線で示している。
【0055】
グラフに示されるように、乾燥処理を行っていない圧縮木材では、厚み方向の最外側に位置する表層部で圧縮率が最も高くなり、厚み方向の中央領域に向かって徐々に密度が低くなっている。これに対し、本実施形態の圧縮木材10では、第1及び第2中間層部14,16の密度が、第1及び第2表層部12,18の密度、並びに内層部15の密度よりも高くなっている。また、厚み方向Dにおける密度分布は、第1表層部12から第1中間層部14に向かって徐々に密度が高くなり、第1中間層部14から内層部15に向かって徐々に密度が低くなり、内層部15から第2中間層部16に向かって徐々に密度が高くなり、第2中間層部16から第2表層部18に向かって徐々に密度が低くなっている。第1表層部12に対する第1中間層部14の密度比(各層部の密度の平均値の比)、及び第2表層部18に対する第2中間層部16の密度比は、それぞれ、1.2以上であることが好ましい。
【0056】
上述した圧縮木材10では、圧縮率の低い内層部15を挟んで圧縮率の高い第1及び第2中間層部14,16が隣接して形成されており、第1及び第2の中間層部14,16は、それぞれ、圧縮率が低い第1及び第2表層部12,18の厚み方向内側に隣接しているので、圧縮木材10を製品形状に加工する際に、表層部となる第1の層部が切削されて、第1表層部12及び/又は第2表層部18切削されて、第1表層部12や第2表層部18の厚さが薄くなったり、その内側の第1中間層部14や第2中間層部16が露出したりする場合であっても、硬質の第1中間層部14及び第2中間層部16を第1表面10a側及び第2表面10b側に維持することができる。この第1及び第2中間層部14,16により、圧縮木材10の表面に形成された螺子穴やダボ穴の形状を堅固に保持することができ、螺子やダボの抜け落ちを防止することができる。
【0057】
また、圧縮木材10を製造する際に、厚み方向Dの両方の表層領域に対して同様の処理を施して2つの高圧縮率の中間層部14,16を有する5層構造に形成することができるので、製造容易性に優れている。
【0058】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、本発明に係る圧縮木材は、一方の表面側にのみ(すなわち、圧縮木材10の第1表面10a側にのみ、又は第2表面10b側にのみ)、内層部と表層部との間に、これらよりも高圧縮率の中間層部を有する構造であればよい。それ故、例えば、一方の表面側から厚み方向に順に、低圧縮率の表層部(第1の層部)、高圧縮率の中間層部(第2の層部)、低圧縮率の内層部(第3の層部)、内層部及び第1の層部である表層部よりも圧縮率の高い表層部(第4の層部)を有する4層構造であってもよい。この4層構造の圧縮木材は、例えば、木材20の厚み方向の一方の表面側を乾燥処理工程で乾燥させ、他方の表面側を乾燥処理せずに圧縮することで形成することができる。また、一方の表面側にのみ軟化処理及び乾燥処理を施し、他方の表面側はこれらを行わずに圧縮を行ってもよい。
【実施例
【0060】
本発明の効果を確かめるために、発明例及び比較例にかかる圧縮木材を試作して、タッピングネジの引抜き試験を行った。表1に示すように、試作された圧縮木材の材種はスギであって、各圧縮木材の圧縮率は50%とし、厚さ56mmの木材を厚さ28mmに圧縮した。蒸煮処理時間はそれぞれ20分、乾燥処理時間は、発明例が20分、比較例が0分(乾燥処理なし)とした。
【0061】
【表1】
【0062】
引抜き試験に用いる試験片は、圧縮木材の厚み方向の両表面をそれぞれ3mm削り、20mm×45mm×80mmの大きさとした。発明例及び比較例の試験体をそれぞれ5検体ずつタッピングネジの引抜き試験を行った。タッピングネジの寸法はJIS B 1122:2015に従いφ4mm×35mmとし、タッピングネジの下穴寸法はφ2mm×15mm、埋込深さは15mmとした。また、試験面は木表側の面とし、試験速度は2mm/minとした。試験には、卓上形精密万能試験機(型名:AGS-10kNX、製造者:島津製作所)を用いた。
【0063】
試験結果を図8に示す。各棒グラフは5検体の平均値を示している。図8に示すように、発明例の圧縮木材は、比較例の圧縮木材に比べて20%ほど大きな荷重に耐えられることが判った。タッピングネジの保持力は、密度が高い程大きくなる傾向があり、これは、圧縮木材の製造工程において、軟化処理後に乾燥処理を施すことで、表層部よりも厚み方向内側の中間層部の方が高圧縮率となり、表面を切削した後に、本発明の方が比較例のものに比べて密度が高くなっているためと理解できる。
【0064】
具体的には、図8によれば、発明例は、表面を3mm切削し、上記引抜き試験により測定される荷重の平均値は1.85kN、最低値でも1.7kNとなっており、比較例(平均値=1.51kN)と比較しても大きな引抜き荷重の向上が見られた。さらに、本発明の圧縮木材は、乾燥工程を行わずに同じ圧縮率で製造したものと比べて、表面を3mm切削した状態で等しい条件下で引抜き試験を行った場合に、5検体以上の平均値で1.1倍以上の荷重に、特に1.2倍以上の荷重に耐え得るように中間層部を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
10 圧縮木材
10a 第1表面
10b 第2表面
12 第1表層部(第1の層部)
14 第1中間層部(第2の層部)
15 内層部(第3の層部)
16 第2中間層部(第2の層部)
18 第2表層部(第1の層部)
20 木材
50 圧縮装置
D 厚み方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8