(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】流体処理装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/271 20220101AFI20230612BHJP
B01F 27/93 20220101ALI20230612BHJP
B01F 27/94 20220101ALI20230612BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20230612BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20230612BHJP
B01J 19/18 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B01F27/271
B01F27/93
B01F27/94
B01J19/00 N
B01J19/12 A
B01J19/18
(21)【出願番号】P 2020562031
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047984
(87)【国際公開番号】W WO2020136780
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
【審査官】本間 友孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-023997(JP,A)
【文献】特開2012-166191(JP,A)
【文献】特開2011-189348(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220719(WO,A1)
【文献】特開2004-318064(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083854(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098662(KR,A)
【文献】国際公開第2015/186710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する、一方の処理用面と他方の処理用面とを含む、少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、
前記少なくとも二つの処理用面は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、
前記少なくとも二つの処理用面の内の少なくとも一方の処理用面を備えた回転部材を備え、前記回転部材が回転し、
前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成され、
前記下流側処理部は、前記上流側処理空間に繋がる下流側処理空間を備え、
前記回転部材の一部が前記下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成しており、
前記下流側処理部は、前記回転部材の回転を利用して、前記被処理流動体に対する下流側処理を前記上流側処理と連続的に行うことができるように構成され、
前記回転部材は、全体として円柱状をなす円柱部であり、
前記円柱部が、全体として円筒状をなす円筒型受容部内に配置され、
前記下流側処理空間は、前記円柱部の下流側端面と外周面との少なくとも何れか一方の内面と、前記円筒型受容部内の下流側内端面と内周面との少なくとも何れか一方の外面との間にて規定された空間であり、
前記下流側処理空間を規定する前記内面と前記外面との少なくともいずれか一方は、流体処理用の凹凸を備えており、
前記流体処理用の凹凸と、当該凹凸に対向する前記壁面との相互作用によって、前記下流側処理がなされるように構成されたことを特徴とする流体処理装置。
【請求項2】
相対的に回転する、一方の処理用面と他方の処理用面とを含む、少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、
前記少なくとも二つの処理用面は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、
前記少なくとも二つの処理用面の内の少なくとも一方の処理用面を備えた回転部材を備え、前記回転部材が回転し、
前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成され、
前記下流側処理部は、前記上流側処理空間に繋がる下流側処理空間を備え、
前記回転部材の一部が前記下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成しており、
前記下流側処理部は、前記回転部材の回転を利用して、前記被処理流動体に対する下流側処理を前記上流側処理と連続的に行うことができるように構成され、
前記下流側処理空間内における前記被処理流動体の滞留時間を制御するために、前記下流側処理空間を規定する壁面の一部の位置を可変とした位置調整機構が敷設されたことを特徴とする流体処理装置。
【請求項3】
前記下流側処理は前記回転部材の外周側を上流とし前記回転部材の前記回転の中心側を下流として、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項4】
前記下流側処理部は、前記回転部材の回転の軸方向に伸びる筒状の流路を前記下流側処理空間の少なくとも一部として備え、
前記筒状の流路にて、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたことを特徴とする請求項2に記載の流体処理装置。
【請求項5】
前記下流側処理部は、遠心力を用いて滞留時間を制御するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項6】
前記回転部材は、全体として円柱状をなす円柱部であり、
前記円柱部の上流側端面に前記少なくとも一方の処理用面が配置され、
前記円柱部が、全体として円筒状をなす円筒型受容部内に配置され、
前記下流側処理空間は、前記円柱部の下流側端面と外周面との少なくとも何れか一方の内面と、前記円筒型受容部内の下流側内端面と内周面との少なくとも何れか一方の外面との間にて規定された空間であり、
前記下流側処理空間を規定する前記内面と前記外面との少なくともいずれか一方は、流体処理用の凹凸を備えており、
前記流体処理用の凹凸と、当該凹凸に対向する前記壁面との相互作用によって、前記下流側処理がなされるように構成されたことを特徴とする請求項2に記載の流体処理装置。
【請求項7】
前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の温度制御を目的として温度調整機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項8】
前記温度調整機構を複数付設し、各々異なる温度に調整することができることを特徴とする請求項7に記載の流体処理装置。
【請求項9】
前記下流側処理空間内の前記被処理流動体に対するマイクロウェーブ照射機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項10】
前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の圧力制御を目的として圧力調整機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項11】
前記下流側処理空間に、前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の被処理流動体を導入する導入口が設けられたこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項12】
前記下流側処理空間に、前記上流側処理及び/又は前記下流側処理において発生するガスを排出する排出口が設けられたこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項13】
前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の滞留時間ごとの排出を可能にする目的で、複数個の排出口が前記下流側処理部に設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項14】
前記上流側処理部での前記上流側処理を層流条件下の前記被処理流動体に対して行い、前記下流側処理部での前記下流側処理を非層流条件下の前記被処理流動体に対して行うように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項15】
前記少なくとも二つの処理用面の間の間隔は機械的に設定されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項16】
前記間隔を測定するクリアランス測定センサーと、
前記クリアランス測定センサーの測定結果に基づいて、前記少なくとも二つの処理用面のうちの一つの処理用面を自動で動かし、前記一つの処理用面の位置を可変としたクリアランス調整機構とを備えることを特徴とする請求項15に記載の流体処理装置。
【請求項17】
前記上流側処理部は、接近及び離反可能に対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転を行う少なくとも
二つの処理用部と、
前記少なくとも
二つの処理用部のそれぞれにおいて互いに対向する位置に設けられた複数の前記処理用面とを備え、
前記少なくとも
二つの処理用部のうちの
一つの処理用部は、前記回転部材の一部を構成し、
前記少なくとも
二つの処理用面は、前記処理用面の前記回転の軸方向に接近及び離反可能であり、
前記少なくとも
二つの処理用面は前記被処理流動体が通される環状流路である前記上流側処理空間を規定し、
前記被処理流動体が薄膜流体となった状態で前記環状流路の径方向の内側から外側に通過することにより、前記少なくとも
二つの処理用面の間で前記被処理流動体に対する前記上流側処理がなされ、前記環状流路の外周端に上流側流出口を備えるものであり、
前記少なくとも
二つの処理用面を前記軸方向に接近する方向に加えられる力と、前記少なくとも
二つの処理用面を前記軸方向に離反させる方向への力とのバランスによって、前記処理用面間の間隔が制御され、
前記上流側流出口から排出された前記被処理流動体は、前記処理用面による強制から解放され、前記下流側処理空間へと排出されるものであり、
前記被処理流動体は、前記回転部材の回転の影響を受けながら、前記下流側処理空間を通過するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体処理装置。
【請求項18】
前記上流側処理部は、第1処理用部と第2処理用部とを備え、前記第1処理用部が前記回転部材の一部を構成し、
前記少なくとも
二つの処理用面として、前記第1処理用部は第1処理用面を備え、前記第2処理用部は第2処理用面を備え、
前記第1処理用部を収容するケーシングが、前記第1処理用部の外側に配置され、
前記第1処理用部の外周面と前記ケーシングの内周面との間の空間と、前記第1処理用部の外面と前記ケーシングの底部の内面との間の空間が、前記下流側処理空間の少なくとも一部を構成し、
前記下流側処理空間は、前記上流側処理空間から排出させた前記被処理流動体を滞留させる流路空間であることを特徴とする請求項2に記載の流体処理装置。
【請求項19】
前記上流側処理部は、第1処理用部と第2処理用部とを備え、前記第1処理用部が前記回転部材の一部を構成し、
前記少なくとも
二つの処理用面として、前記第1処理用部は第1処理用面を備え、前記第2処理用部は第2処理用面を備え、
前記第1処理用部を収容するケーシングが、前記第1処理用部の外側に配置され、
前記ケーシングが前記円筒型受容部を構成し、
前記第1処理用部の外周面と前記ケーシングの内周面との間の空間と、前記第1処理用部の外面と前記ケーシングの底部の内面との間の空間が、前記下流側処理空間の少なくとも一部を構成し、
前記下流側処理空間は、前記上流側処理空間から排出させた前記被処理流動体を滞留させる流路空間であることを特徴とする請求項1に記載の流体処理装置。
【請求項20】
相対的に回転する、一方の処理用面と他方の処理用面とを含む、少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、
前記少なくとも二つの処理用面は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、
前記少なくとも二つの処理用面の内の少なくとも一方の処理用面を備えた回転部材を備え、前記回転部材が回転し、
前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成され、
前記下流側処理部は、前記上流側処理空間に繋がる下流側処理空間を備え、
前記回転部材の一部が前記下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成しており、
前記下流側処理部は、前記回転部材の回転を利用して、前記被処理流動体に対する下流側処理を前記上流側処理と連続的に行うことができるように構成され、
前記上流側処理部は、第1処理用部と第2処理用部とを備え、
前記少なくとも
二つの処理用面として、前記第1処理用部は第1処理用面を備え、前記第2処理用部は第2処理用面を備え、
前記第1処理用部の外端面には底部材を備え、前記底部材は前記第1処理用部と同体に回転するように前記第1処理用部に取り付けられ、
前記第1処理用部と前記底部材とが前記回転部材を構成し、
前記第1処理用部と前記底部材とを収容するケーシングが、前記第1処理用部と前記底部材との外側に配置され、
前記第1処理用部の外周面と前記底部材の外周面と前記ケーシングの内周面との間の空間と、前記底部材の下面と前記ケーシングの底部の内面との間の空間が、前記下流側処理空間の少なくとも一部を構成し、
前記底部材の下面から前記下流側処理空間に向けて下方向に突出する前記底部材の櫛歯状の突起部と、前記ケーシングの底部の内面から前記下流側処理空間に向けて上方向に突出する前記ケーシングの櫛歯状の突起部とを備え、前記底部材の前記櫛歯状の突起部間に前記ケーシングの前記櫛歯状の突起部を受容し、前記ケーシングの前記櫛歯状の突起部間に前記底部材の前記櫛歯状の突起部を受容するように配置したことを特徴とする流体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が他方に対して回転する少なくとも二つの処理用面にて規定される処理空間を採用した流体処理装置の改良に関する。さらに詳しくは、化学、生化学、農業、食品、医薬、化粧品、金属工業などの分野、とりわけ化学反応、合成に有効並びに有用な連続反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に2種類以上の物質もしくは1種類の物質そのもの同士を化学反応させて、新たな物質を得るための反応処理は、バッチ式と連続式とに大きく分類される。バッチ式の反応処理は、実験室においてフラスコに代表されるような容器の中に、溶媒と基質、反応剤などを入れ、撹拌機などで撹拌して反応を行う。バッチ式と連続式のいずれも工業的に実用化されているが、当然ながらその反応場は容積を持つ。この反応容器における容積は、反応場における反応条件の不均一性に影響する。例えば、均一な基質溶液に反応剤を加えて化学反応を行う場合、反応剤の濃度が均一になるまでには一定の時間を要する。反応条件における温度についても同様の事が考えられる。つまり、反応容器を外部乃至内部から、加熱や冷却を行う場合、反応容器内全体が一定温度に到達するまでには一定の時間を要し、さらに、容器内の反応場全体を完全に一定温度とすることは極困難であると考えられる。また、バッチ式の反応容器の場合において、容器中の溶媒と基質に反応剤を投入する場合、反応剤の投入開始時と終了時ではすでに異なる反応条件である。上記のような要因によって生じる反応場における反応条件の不均一性は、結果的に反応生成物に影響を与える。つまり、一つの容器内に様々な反応条件が発生する事により、目的の反応を理想的には行えない。例えば、主反応と副反応を完全には選択できない事やそれに伴う副生成物の発生、また重合反応などの場合には得られる生成物の分子量分布が均一に成り難い事等が挙げられる。容器壁面への生成物の付着も含めると、反応物から生成物への収率は自ずと低くなる。反応場におけるそれらの問題を解決するために、通常、反応容器には、撹拌機、タービンなどの撹拌装置を備える。撹拌装置により容器内の混合反応流体の混合速度を向上することで、反応場の均一性を確保し、反応速度に対応せんとするものであった。しかし、対象とする混合反応流体の粘度が上昇する毎に再び上記反応場における不均一化の問題が浮上する。それでも尚、瞬間的な混合を目標とする事によって、自然と撹拌所要動力は増大する一途である。また、温度勾配が大きいため短時間で加熱する場合には必要以上の熱エネルギーを必要とすることなどの問題もある。
【0003】
さらに上記のような反応処理は化学工業において頻繁に使用されるにも関わらず、安全性の問題および危険を伴う。多くの場合、比較的大量の高度な毒性の化学物質が用いられ、人および環境に相当な危険を示し、溶媒が種々の点で環境汚染物質であることから、格別の問題が現れる。また、例えば、フリーデル-クラフツアシル化の場合における反応の強力な発熱性のリスクや、ニトロ化の場合には発熱反応のみならず大きな爆発のリスクがある。さらにそれらの危険性は実生産に向けてスケールアップを図ると同時に前面に出てくる。
【0004】
上記の問題を解決するために、特許文献1や特許文献2に示されるような、微小反応器、微小流路式反応器であるマイクロミキサーやマイクロリアクターが提案され、微少量での合成が可能なことや、温度制御の高効率化、界面反応の高効率化、効率的混合などの利点が提唱されている。しかし、一般的なマイクロリアクターを用いる場合にはマイクロデバイス及びシステムの利点は数あるとしても、実際にはマイクロ流路径が狭くなればなるほどその圧力損失は流路の4乗に反比例する事、つまり実際には流体を送り込むポンプが入手し難いくらい大きな送液圧力が必要となる事、また析出を伴う反応の場合、生成物が流路に詰まる現象や反応によって生じる泡によるマイクロ流路の閉鎖、さらに基本的には分子の拡散速度にその反応を期待するため、全ての反応に対してマイクロ流路が有効・適応可能と言う訳ではなく、現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、その問題も多い。そのため特許文献1のようにマイクロリアクター中に発生する堆積物の問題を超音波処理する事で回避する場合もあるが、超音波によって生じる流路内の不規則な乱流やキャビテーションは、目的の反応に対して常に都合良くは作用しない可能性が高い。さらにスケールアップについても、マイクロリアクターそのものの数を増やす方法、つまりナンバリングアップで解決されて来たが、実際には積層可能数は数十が限界であり、自ずと製品価値の高い製品に的が絞られやすく、また、装置が増えるという事は、その故障原因の絶対数も増えるという事であり、実際に詰まりなどの問題が発生した場合、その故障箇所など、問題箇所を検出する事が大変困難と成りうる可能性がある。
【0005】
これらの問題を解決すべく特許文献3に示されるような有機化合物の製造方法が本願出願人により提案された。特許文献3は、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面間にできる薄膜流体中で、例えば、有機化合物を少なくとも1種類含む流体と反応剤を少なくとも1種類含む流体とを合流させるものであり、当該薄膜流体中において各種の有機反応をさせることを特徴とする、有機化合物の製造方法であり、薄膜流体中において有機反応させることから、反応の均一性を確保でき、スケールアップも可能としている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に示される有機化合物の製造方法を用いた場合であっても、前述した通り現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、同様の問題が見受けられる。
【0007】
その問題の第一として反応時間の確保が上げられる。処理用面間における薄膜流体中で各流体を合流されるものであるため拡散効率は前例がないくらい高い結果、完全混合を実現できているが、特に有機反応の場合絶対的な反応時間を延ばしたい場合があった。反応時間の短縮化のために反応温度を極端に上げたり触媒量を増やしたり等のトライアルアンドエラーを繰り返すが副生成物の増大や危険性などの弊害も目立つ。また処理用面を極端に大型化すれば反応時間の確保は可能となるが大きなコストや設置面積の問題など現実的ではない。
【0008】
本願出願人に係る特許文献4には、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面間にできる薄膜流体中で各流体を合流させるものであり、当該薄膜流体中において微粒子を析出させ処理用面間から排出された吐出液を捕集するためのベッセルを設け、ベッセルの下端に管状容器を接続し、管状容器内で吐出液に含まれる微粒子の核や結晶子を成長させることが開示されている。しかしながら、結晶核や結晶子を成長させる場合、本提案は有用であるが、例えば有機合成においては管状容器内における吐出液の滞留時間を満足するためには相当大型の管状容器が必要となるし、管状容器に吐出液を流すだけでは目的の反応物を得るための条件を満足し難く管状容器の閉塞の問題も発生する。また、別途撹拌機や送液のシステムが必要となる場合が多い。
【0009】
本願出願人に係る特許文献5には、相対的に回転する処理用面間にて規定される環状流路を採用したマイクロリアクターについて、環状流路の径方向の内側に筒状の攪拌空間を備えると共に、攪拌空間内に攪拌羽根とスクリーンとが配置され、環状流路に導入される直前の被処理流動体に対して、攪拌羽根によって攪拌エネルギーが加えられると共に攪拌羽根とスクリーンとの間でせん断力が加えられるように構成された流体処理装置が開示されている。特許文献5は、環状流路に導入される被処理流動体の均質性を向上させることにより、環状流路での均質な反応を実現させるものであるが、環状流路から排出された流体のさらなる処理についての具体的な記載はない。
【0010】
特許文献6においては、1又は複数の流体を混合する混合器であって、スタティックマイクロリアクターの下流側に容積体を配置したものである。容積体は、内部にラビリンス壁を構成して、ラビリンス型の流路を形成するものであるが、ラビリンス型の流路は、通過流体に乱流を発生させ、混合を促進させるために設けられたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-060281号公報
【文献】特開2007-050340号公報
【文献】特許第5561732号公報
【文献】特開2014-023997号公報
【文献】国際公開第2018/069997号パンフレット
【文献】特開2006-239638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に鑑み、本発明は、新しい構成の流体処理装置を提供するものであって、各種反応処理等において、連続式であり、スケールアップが可能でありながらコンパクトであり、目的とする反応生成物を高効率で生成可能な、安価でシンプルな流体処理装置を提供することを課題とする。
【0013】
特に、本発明は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定された上流側処理空間内において流体の処理が行われ、上流側処理空間から排出された流体を、流体処理装置外ではなく流体処理装置内であって上流側処理空間に繋がる下流側処理空間において、さらなる流体の処理を連続して行う。回転する処理用面と一体的に回転する回転部材の一部が下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成し、回転部材の回転を利用して、さらなる流体の処理を行うことで、目的とする反応生成物を高効率で得ることができる流体処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一例として化学反応処理で原料Aと原料Bとを反応させて目的生成物Xを得るものとする。この場合、第一の流体処理は原料Aと原料Bの混合であり、原料Aと原料Bとをより均一にかつより早く混合することが望まれる。続いて、第二の流体処理として原料Aと原料Bとの反応を進行させる。この反応を進行させるために、目的生成物Xを効率的に得るための反応条件を調整する。反応条件とは、原料Aと原料Bの濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間などをいう。故に高効率で連続式且つ安価でシンプルな処理装置は前記の各処理(第一の流体処理と第二の流体処理)を高効率で処理可能としなければならない。
【0015】
本発明に係る流体処理装置は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成された流体処理装置に関するものである。原料Aと原料Bは、被処理流動体に含まれる。上流側処理空間内を通過する被処理流動体は、少なくとも二つの処理用面によって強制された強制流体であり、強制流体が薄膜流体である場合、薄膜流体中の物質(原料Aと原料B)の拡散効率は非常に高く瞬時に拡散混合される。
【0016】
本発明に係る流体処理装置においては、前記下流側処理部は、前記上流側処理空間に繋がる下流側処理空間を備え、前記上流側処理部の回転する処理用面と一体的に回転する回転部材の一部が前記下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成している。そして、前記下流側処理部は、前記回転部材の回転を利用して、前記被処理流動体に対する下流側処理を前記上流側処理と連続的に行うことができるように構成されたものである。
【0017】
この装置は、前記下流側処理は前記回転部材の外周側を上流とし前記回転部材の前記回転の中心側を下流として、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたものとして実施することができる。
また、この装置は、前記下流側処理部は、前記回転部材の回転の軸方向に伸びる筒状の流路を前記下流側処理空間の少なくとも一部として備え、前記筒状の流路にて、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたものとして実施することができる。
【0018】
この装置は、前記下流側処理部は、遠心力を用いて滞留時間を制御するように構成されたものとして実施することができる。
【0019】
この装置は、前記回転する処理用面と一体的に回転する前記回転部材は、全体として円柱状をなす円柱部であり、前記円柱部の上流側端面に前記回転する処理用面が配置され、前記円柱部が、全体として円筒状をなす円筒型受容部内に配置され、前記下流側処理空間は、前記円柱部の下流側端面と外周面との少なくとも何れか一方の内面と、前記円筒型受容部内の下流側内端面と内周面との少なくとも何れか一方の外面との間にて規定された空間であり、前記下流側処理空間を規定する前記内面と前記外面との少なくともいずれか一方は、流体処理用の凹凸を備えており、前記流体処理用の凹凸と、当該凹凸に対向する前記壁面との相互作用によって、前記下流側処理がなされるように構成されたものとして実施することができる。
【0020】
この装置には、前記下流側処理空間内における前記被処理流動体の滞留時間を制御するために、前記下流側処理空間を規定する壁面の一部の位置を可変とした位置調整機構を敷設することができる。
また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の温度制御を目的として温度調整機構を敷設することができ、前記温度調整機構を複数付設し、各々異なる温度に調整することができるものとして実施することができる。
また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体に対するマイクロウェーブ照射機構を敷設することができる。
また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の圧力制御を目的として圧力調整機構を敷設することができる。
【0021】
この装置には、前記下流側処理空間に、前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の被処理流動体を導入する導入口を設けることができる。
また、この装置には、前記下流側処理空間に、前記上流側処理及び/又は前記下流側処理において発生するガスを排出する排出口を設けることができる。
また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の滞留時間ごとの排出を可能にする目的で、複数個の排出口を前記下流側処理部に設けることができる。
【0022】
この装置は、前記上流側処理部での前記上流側処理を層流条件下の前記被処理流動体に対して行い、前記下流側処理部での前記下流側処理を非層流条件下の前記被処理流動体に対して行うように構成されたものとして実施することができる。
【0023】
この装置は、前記少なくとも二つの処理用面の間の間隔が機械的に設定され、前記間隔を測定するクリアランス測定センサーと、前記クリアランス測定センサーの測定結果に基づいて、前記少なくとも二つの処理用面のうちの一つの処理用面を自動で動かし、前記一つの処理用面の位置を可変としたクリアランス調整機構とを備えるものとして実施することができる。
【0024】
この装置は、前記上流側処理部は、接近及び離反可能に対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転を行う少なくとも二つの処理用部と、前記少なくとも二つの処理用部のそれぞれにおいて互いに対向する位置に設けられた複数の前記処理用面とを備え、前記少なくとも二つの処理用部のうちの一つの処理用部は、前記回転部材の一部を構成し、前記少なくとも二つの処理用面は、前記処理用面の前記回転の軸方向に接近及び離反可能であり、前記少なくとも二つの処理用面は前記被処理流動体が通される環状流路である前記上流側処理空間を規定し、前記被処理流動体が薄膜流体となった状態で前記環状流路の径方向の内側から外側に通過することにより、前記少なくとも二つの処理用面の間で前記被処理流動体に対する前記上流側処理がなされ、前記環状流路の外周端に上流側流出口を備えるものであり、前記少なくとも二つの処理用面を前記軸方向に接近する方向に加えられる力と、前記少なくとも二つの処理用面を前記軸方向に離反させる方向への力とのバランスによって、前記処理用面間の間隔が制御され、前記上流側流出口から排出された前記被処理流動体は、前記処理用面による強制から解放され、前記下流側処理空間へと排出されるものであり、前記被処理流動体は、前記回転部材の回転の影響を受けながら、前記下流側処理空間を通過するように構成されたものとして実施することができる。
【0025】
この装置は、前記上流側処理部は、第1処理用部と第2処理用部とを備え、前記第1処理用部が前記回転部材の一部を構成し、前記少なくとも二つの処理用面として、前記第1処理用部は第1処理用面を備え、前記第2処理用部は第2処理用面を備え、前記第1処理用部を収容するケーシングが、前記第1処理用部の外側に配置され、前記第1処理用部の外周面と前記ケーシングの内周面との間の空間と、前記第1処理用部の外面と前記ケーシングの底部の内面との間の空間が、前記下流側処理空間の少なくとも一部を構成し、前記下流側処理空間は、前記上流側処理空間から排出させた前記被処理流動体を滞留させる流路空間であるものとして実施することができる。
【0026】
また、本発明に係る流体処理装置は、下記の形態として実施することができる。
【0027】
本発明に係る流体処理装置は、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成された流体処理装置に関するものである。
【0028】
本発明に係る流体処理装置においては、前記下流側処理部は、ラビリンスシールによって前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす下流側処理空間を備え、前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記下流側処理空間内に開口しており、前記下流側処理空間は前記ラビリンスシールを用いて滞留時間を制御する機能を果たすように構成されたものである。
【0029】
この装置は、前記下流側処理空間は、狭隘なシール空間と、前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い滞留空間とを備えたものとして実施することができる。
【0030】
この装置は、前記上流側流出口が前記滞留空間に開口しているものとして実施することができる。
【0031】
また、この装置は、前記下流側処理部は、前記被処理流動体の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とが複数組連続的に配置されたものとして実施することができる。
【0032】
この装置は、前記下流側処理部は、前記下流側処理空間を規定する円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転するものとして実施することができる。前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転が、前記上流側処理部の前記処理用面の回転とは独立してなされるものとして実施してもよく、前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転が、前記上流側処理部の前記処理用面の回転と一体的になされるものして実施してもよい。
【0033】
この装置は、前記少なくとも二つの処理用面は、前記処理用面の回転軸方向に隔てて配置されたディスク状の処理用面であり、前記上流側処理部は、前記処理用面の前記回転の中心側を上流とし、前記回転の外周側を下流として、前記上流処理空間に被処理流動体を通過させ、前記上流側処理空間の外周端の前記上流側流出口から排出するように構成され、前記下流側処理部は、前記上流側流出口の外周側に環状の受け入れ空間を備え、前記受け入れ空間は、前記下流側処理空間の内の最上流の空間であり且つ前記シール空間よりも広い空間であるものとして実施することができる。
【0034】
この装置は、前記シール空間の広さを調整することができるものとして実施することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、新しい構成の流体処理装置を提供するものであって、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、被処理流動体に対する流体処理(上流側処理)が行われ、上流側処理空間に繋がる下流側処理空間において、被処理流動体に対するさらなる流体の処理(下流側処理)を上流側処理と連続して行うことによって、一連の化学反応処理を流体処理装置内で行う際、原料濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間等の種々の反応条件を調整することができた結果、目的とする反応物を高効率で生成可能な流体処理装置を提供することができたものである。
【0036】
特に、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、相対的に回転する処理用面と一体的に回転する回転部材の一部が下流側処理空間を規定する壁部の一部を構成し、回転部材の回転を利用して、被処理流動体に対する下流側処理を行うことによって、下流側処理空間内の被処理流動体にせん断力を与えたり遠心力を作用させることができ、反応場の撹拌条件や反応時間といった反応条件を調整することができたことから、被処理流動体に対する下流側処理を効果的に行うことができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図2】(A)は
図1に示す流体処理装置の第1処理用面の略平面図であり、(B)は同装置の処理用面の要部拡大図である。
【
図3】(A)は同装置の第2導入部の断面図であり、(B)は同第2導入部を説明するための処理用面の要部拡大図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図5】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図6】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図7】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図8】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図9】
図8に示す流体処理装置の一組の底部材の突起部とアウターケーシングの突起部とを取り上げた説明図であって、底部材の突起部は下方からの斜視図、アウターケーシングの突起部は上方からの斜視図として描かれている。
【
図10】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図11】
図1に示す流体処理装置の第1処理用部を下方から見た斜視図である。
【
図12】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図13】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図14】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図15】本発明の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0039】
(流体処理装置Fについて)
流体処理装置Fについて、
図1~
図15を参照して、説明する。
【0040】
流体処理装置Fは、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、上流側処理部は、少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成される。
【0041】
流体処理装置Fにおける上流側処理空間内において流体の処理を行う部分は、特許文献3-5に記載の装置と同様である。具体的には、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内において被処理流動体を処理するものである。被処理流動体のうちの第1の被処理流動体である第1流体を上流側処理空間に導入し、第1流体を導入した流路とは独立し、上流側処理空間に通じる開口部を備えた別の流路から被処理流動体のうちの第2の被処理流動体である第2流体を上流側処理空間に導入して上流側処理空間で前記第1流体と第2流体とを混合して、連続的に流体の処理を行う装置である。言い換えれば、回転の軸方向に対向するディスク状の処理用面によって規定された上流側処理空間内において前記の各流体を合流させて薄膜流体とするものであり、当該薄膜流体中において前記の被処理流動体の処理を行い、上流側処理空間から処理された流体を排出する装置である。なおこの装置は、複数の被処理流動体を処理することに最も適するが、単一の被処理流動体を上流側処理空間において流体の処理を行うために用いることもできる。
【0042】
図1において図の上下は装置の上下に対応しているが、本発明において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。
図1、
図2(A)、
図3(B)においてRは回転方向を示している。
図3(B)においてCは遠心力方向(半径方向)を示している。なお、本願において、全体としてのところ、円柱とは、数学上の円柱と解釈すべきではなく、円柱のほか中空の円筒(以下、円筒という)、頂部を有する円筒も含むものとする。
【0043】
この発明に係る流体処理装置Fは、上流側処理空間内において流体の処理がなされ、上流側処理空間から排出された流体に、さらなる流体の処理を行うための下流側処理空間を流体処理装置F内に設ける点において特許文献3-5に記載の装置と相違するものである。ところが、同先行技術文献に記載の装置と共通する上流側処理空間に関する流体処理装置としての構造と作用などについて説明することが、この発明の理解を深めるために重要であるため、上流側処理空間に関する部分の説明を先に行う。
【0044】
(処理用面について)
この流体処理装置Fは、対向する第1及び第2の二つの処理用部10、20を備え、少なくとも一方の処理用部が他方の処理用部に対して回転する。両処理用部10、20の対向する面が、それぞれ処理用面となる。第1処理用部10は第1処理用面1を備え、第2処理用部20は第2処理用面2を備える。
【0045】
両処理用面1、2は、上流側処理部を規定するものであるとともに上流側処理空間3を規定するものであり、この上流側処理空間3内において、被処理流動体を混合させるなどの流体の処理を行うものである。上流側処理空間3は、後述するように、環状の空間である。この上流側処理空間3内で行われる流体の処理を上流側処理という。
【0046】
両処理用面1、2間の間隔は、適宜変更して実施することができるが、この実施形態においては、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整される。これによって、この両処理用面1、2間を通過する被処理流動体は、両処理用面1、2によって強制された強制薄膜流体となる。
【0047】
この流体処理装置Fを用いて第1流体と第2流体とを含む複数の被処理流動体を処理する場合、この流体処理装置Fは、第1流体の流路に接続され、両処理用面1、2間によって規定される上流側処理空間3の上流端(この例では環状の内側)から導入される。これと共に、この上流側処理空間3は、第1流体とは別の、第2流体の流路の一部を形成する。そして、両処理用面1、2間の上流側処理空間3内において、第1流体と第2流体との両被処理流動体を混合し、反応させるなどの流体の処理を行なう。
【0048】
具体的に説明すると、流体処理装置Fは、前記の第2処理用部20を保持する第2ホルダ22と、接面圧付与機構と、回転駆動機構Mと、第1導入部d1と、第2導入部d2と、流体圧付与機構P1、P2とを備えるものである。
【0049】
この実施の形態において、第2処理用部20は、第1処理用部10の上方に配置されており、第2処理用部20の下面が第2処理用面2であり、第1処理用部10の上面が第1処理用面1である。
【0050】
図1へ示す通り、この実施の形態において、第1処理用部10は、中央に開口を備えていない円盤体である。また、第2処理用部20は、環状体であり、より詳しくはリング状のディスクである。この実施の形態においては、第1処理用面1が盤状であって第2処理用面2は環状であることから、両処理用面1、2間によって規定される上流側処理空間3は環状の空間、即ち環状流路を構成する。第2処理用部20は、第1流体と第2流体を含む被処理流動体を導入できることを条件に、中央に開口を備えていない円盤状であってもかまわない。
【0051】
第1、第2処理用部10、20は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。この実施の形態において、第1、第2の処理用面1、2の少なくとも一部が鏡面研磨されている。
【0052】
(処理用部の回転について)
第1処理用部10と第2処理用部20のうち、少なくとも一方の処理用部は、電動機などの回転駆動機構Mにて、他方の処理用部に対して相対的に回転する。回転駆動機構Mの駆動軸は回転軸31に接続されており、この例では、回転軸31に取り付けられた第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。本実施形態においては、回転軸31は、第1処理用部10の中心にネジなどの固定具32によって固定され、その後端が回転駆動機構Mの駆動軸と接続され、回転駆動機構Mの駆動力を第1処理用部10に伝えて第1処理用部10を回転させるものであり、環状の第2ホルダ22の環状の中央には、回転軸31を軸支するための支持部33を備える。もちろん、第2ホルダ22に支持された第2処理用部20を回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしてもかまわない。
【0053】
(処理用面の接近離反について)
この実施の形態では、第1処理用部10と第2処理用部20とは、少なくとも何れか一方が、少なくとも何れか他方に、回転軸31の軸方向に対して接近及び離反可能となっており、両処理用面1、2は接近及び離反することができる。
【0054】
この実施の形態では、第1処理用部10が軸方向には固定されており、周方向に回転するよう構成されている。この第1処理用部10に対して第2処理用部20が軸方向に接近及び離反するもので、第2ホルダ22に設けられた収容部23に、O-リング26などのシール機構を用いて第2処理用部20が出没可能に収容されている。この収容部23は、第2処理用部20の、主として第2処理用面2側とは軸方向において反対側の部位を収容する凹部であり、平面視において、円を呈する、即ち環状に形成された、溝である。
【0055】
なお、第2処理用部20は、軸方向に平行移動のみが可能なように第2ホルダ22の収容部23に配置してもよいが、クリアランスを大きくした状態で収容することもでき、3次元的に変位可能に保持するフローティング機構によって、第2処理用部20を保持するようにしてもよい。
【0056】
(流体圧付与機構について)
被処理流動体(この例では第1流体と第2流体)は、流体圧付与機構P1、P2によって流体処理装置Fに供給される。流体圧付与機構P1、P2には、種々のポンプを用いることができるものであり、所定の圧力で被処理流動体を流体処理装置Fに供給できる。また圧送時の脈動の発生を抑制するために、流体圧付与機構P1、P2として、加圧容器を備えた圧力付与装置を採用することもできる。被処理流動体が収納された加圧容器に加圧用ガスを導入し、その圧力によって被処理流動体を押し出すことにより、被処理流動体を圧送することができる。
【0057】
(被処理流動体の動き)
前記の被処理流動体は、流体圧付与機構P1、P2により圧力が付与される。この加圧状態で、第1流体と第2流体とを含む被処理流動体が、第1導入部d1と、第2導入部d2から両処理用面1、2間に導入される。
【0058】
この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2ホルダ22に設けられた流路であり、その一端が、筒状の導入空間51に接続されている。導入空間51は、支持部33の下面、第2ホルダ22の内周側の下面、第2処理用部20の内周面及び第1処理用面1によって規定される円筒状の空間である。
【0059】
第2導入部d2は、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口するものであり、この開口が上流側処理空間3への直接の導入開口(第2導入口d20)となる。
【0060】
第1流体は、第1導入部d1から、導入空間51を経て両処理用部10、20の間の内径側の隙間である上流側処理空間3の上流端から上流側処理空間3に導入されるものであり、この隙間が第1導入口d10となる。第1導入口d10から上流側処理空間3へ導入された第1流体は、第1処理用面1と第2処理用面2で薄膜流体となり、両処理用部10、20の外側に通り抜ける。これらの処理用面1、2間において、第2導入部d2の第2導入口d20から所定の圧力に加圧された第2流体が供給され、薄膜流体となっている第1流体と合流し、上流側処理として、主として分子拡散による混合が行われながらあるいは行われた後、反応処理がなされる。上流側処理として、主として分子拡散による混合のみが行われてもよい。この反応処理は、晶出、晶析、析出などを伴うものであってもよく、伴わないものであってもかまわない。
【0061】
第1流体と第2流体とによる薄膜流体は、上流側処理がなされた後、両処理用面1、2(この例では、処理用面1,2の外周端と外周端との間、即ち、上流側処理空間3の下流端)から、両処理用部10、20の外側に排出される。上流側処理空間3の下流端は上流側処理空間3の出口となるから、以下、上流側処理空間3の下流端を上流側流出口4とも言う。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体は、第1処理用部10の外側に配置されたアウターケーシング61で受容され、上流側処理がなされた流体にさらなる流体の処理を効率的に行い、系外(装置外)に排出する。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体は、両処理用面1、2による強制から解放され、より広い流路空間(下流側処理空間81)へと排出される。
【0062】
なお、第1処理用部10は回転しているため、上流側処理空間3内の被処理流動体は、内側から外側へ直線的に移動するのではなく、環状の半径方向への移動ベクトルと周方向への移動ベクトルとの合成ベクトルが被処理流動体に作用して、内側から外側へ略渦巻き状に移動する。
【0063】
流体の運動において、慣性力と粘性力の比を表す無次元数をレイノルズ数と呼び、以下の式(1)で表される。
レイノルズ数Re=慣性力/粘性力=ρVL/μ=VL/ν 式(1)
ここで、ν=μ/ρは動粘度、Vは代表速度、Lは代表長さ、ρは密度、μは粘度を示す。
そして、流体の流れは、臨界レイノルズ数を境界とし、臨界レイノルズ数以下では層流、臨界レイノルズ数以上では乱流となる。
【0064】
流体処理装置Fの両処理用面1、2間は、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整されるため、両処理用面1、2間に保有される流体の量は極めて少ない。そのため、代表長さLが非常に小さくなり、両処理用面1、2間を通過する薄膜流体の遠心力は小さく、薄膜流体中は粘性力の影響が大きくなる。従って、レイノルズ数は小さくなり、薄膜流体は層流となる。
【0065】
遠心力は、回転運動における慣性力の一種であり、中心から外側に向かう力である。遠心力は、以下の式(2)で表される。
遠心力F=ma=mv2/R 式(2)
ここで、aは加速度、mは質量、vは速度、Rは半径を示す。
【0066】
上述の通り、両処理用面1、2間に保有される流体の量は少ないため、流体の質量に対する速度の割合が非常に大きくなり、その質量は無視できるようになる。従って、両処理用面1、2間にできる薄膜流体中においては重力の影響を無視できる。
【0067】
(力のバランスについて)
次に、第1処理用面1と第2処理用面2とを接近させる方向に作用させる力を処理用部に付与するための接面圧付与機構について説明する。この実施の形態では、接面圧付与機構は、第2ホルダ22に設けられ、第2処理用部20を第1処理用部10に向けて付勢する。前記の接面圧付与機構は、第1処理用部10の第1処理用面1と第2処理用部20の第2処理用面2とに対して、互いに接近する方向に加えられる力(以下、接面圧力という)を発生させるための機構である。この接面圧力と、流体圧付与機構P1、P2による流体圧力などの両処理用面1、2間を離反させる力との均衡によって、1mm以下のnm単位ないしμm単位の微小な膜厚を有する薄膜流体を発生させる。言い換えれば、前記力の均衡によって、両処理用面1、2間の間隔が所定の微小間隔に保たれる。
【0068】
図1に示す実施の形態において、接面圧付与機構は、前記の収容部23と第2処理用部20との間に配位される。具体的には、第2処理用部20を第1処理用部10に近づく方向に付勢するスプリング25と、空気や油などの付勢用流体を導入する付勢用流体導入部(図示せず)とにて構成され、スプリング25と前記前記付勢用流体の流体圧力とによって、前記の接面圧力を付与する。このスプリング25と前記付勢用流体の流体圧力とは、いずれか一方が付与されるものであればよく、磁力や重力などの他の力であってもよい。
【0069】
この接面圧付与機構の付勢に抗して、流体圧付与機構P1、P2により加圧された被処理流動体の圧力や粘性などによって生じる離反力によって、第2処理用部20は、第1処理用部10から遠ざかり、両処理用面1、2間に微小な間隔を開ける。このように、この接面圧力と離反力との力のバランスによって、第1処理用面1と第2処理用面2とは、μm単位の精度で設定され、両処理用面1、2間の微小間隔の設定がなされる。上記の離反力としては、被処理流動体の流体圧や粘性によって生じるもののほか、処理用部の回転による遠心力と、付勢用流体導入部に負圧を掛けた場合の当該負圧、スプリング25を引っ張りスプリングとした場合のバネの力などを挙げることができる。この接面圧付与機構は、第2処理用部20ではなく、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。
【0070】
第1、第2処理用部10、20は、その少なくともいずれか一方に温度調整機構を組み込み、冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよい。また、第1導入部d1、第2導入部d2から流体処理装置Fに導入される被処理流動体を冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよい。被処理流動体の有する温度エネルギーは、析出を伴う反応の場合において微粒子の析出のために用いることもできる。
【0071】
(凹部とマイクロポンプ効果)
図2に示すように、第1処理用部10の第1処理用面1には、第1処理用部10の中心側から外側に向けて、即ち径方向について伸びる溝状の凹部13を形成して実施してもよい。この凹部13の平面形状は、
図2(B)へ示すように、第1処理用面1上をカーブして或いは渦巻き状に伸びるものや、図示はしないが、真っ直ぐ外方向に伸びるもの、L字状などに屈曲あるいは湾曲するもの、連続したもの、断続するもの、枝分かれするものであってもよい。また、この凹部13は、第2処理用面2に形成するものとしても実施可能であり、第1及び第2の処理用面1、2の双方に形成するものとしても実施可能である。このような凹部13を形成することによりマイクロポンプ効果を得ることができ、被処理流動体を第1及び第2の処理用面1、2間に吸引することができる効果がある。
【0072】
第1処理用面1に凹部13を設ける場合、この凹部13の基端は、導入空間51に達することが望ましい。この凹部13の先端は、第1処理用部10の外周面側に向けて伸びるもので、その深さ(横断面積)は、基端から先端に向かうにつれて、漸次減少するものとしてもよい。
この凹部13の先端と第1処理用部10の外周面11との間には、凹部13のない平坦面14が設けられている。
【0073】
(回転速度と流体の処理について)
前記の第2導入部d2の第2導入口d20を第2処理用面2に設ける場合は、対向する第1処理用面1の平坦面14と対向する位置に設けることが好ましい。
【0074】
この第2導入口d20は、第1処理用面1の凹部13からよりも下流側(この例では外側)に設けることが望ましい。特に、第1流体がマイクロポンプ効果によって上流側処理空間3に導入される際の流れ方向が処理用面1、2間で形成されるスパイラル状で層流の流れ方向に変換される点よりも外径側の平坦面14に対向する位置に設置することが望ましい。具体的には、
図2(B)において、第1処理用面1に設けられた凹部13の最も外側の位置から、径方向への距離nを、約0.5mm以上とするのが好ましい。特に、流体中から微粒子を析出させる場合には、層流条件下にて複数の被処理流動体の分子拡散による混合と、微粒子の反応、析出が行なわれることが望ましい。
【0075】
このように層流条件下で被処理流動体を処理するため、第1処理用部10の外周における周速度は、0.3~35m/secであることが適当である。
【0076】
(第2導入部に関して)
第2導入口d20の形状は、
図1に示すように、リング状のディスクである第2処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状などの連続した開口であってもよく、
図2(B)や
図3(B)に示すように、円形などの独立した開口であってもよい。また、第2導入口d20を円環形状とした場合、その円環形状の開口部は全周にわたって連続していてもよいし、一部分が不連続であってもよい。
【0077】
円環形状の第2導入口d20を第2処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状に設けると、第2流体を上流側処理空間3に導入する際に円周方向において同一条件で実施することができるため、目的生成物を量産したい場合には、開口部の形状を同心円状の円環形状とすることが好ましい。
【0078】
この第2導入部d2は方向性を持たせることができる。例えば、
図3(A)に示すように、前記の第2処理用面2の第2導入口d20からの導入方向が、第2処理用面2に対して所定の仰角(θ1)で傾斜している。この仰角(θ1)は、0度を超えて90度未満に設定されており、さらに反応速度が速い反応の場合には1度以上45度以下で設置されるのが好ましい。
【0079】
また、
図3(B)に示すように、第2導入口d20が独立した開口穴の場合、第2処理用面2に沿う平面において、方向性を有するものとすることもできる。この第2流体の導入方向は、処理用面の半径方向の成分にあっては中心から遠ざかる外方向であって、且つ、相対的に回転する処理用面の間における流体の回転方向に対しての成分にあっては順方向である。言い換えると、第2導入口d20を通る半径方向であって外方向の線分を基準線gとして、この基準線gから回転方向Rへの所定の角度(θ2)を有するものである。この角度(θ2)についても、0度を超えて90度未満に設定されることが好ましい。
【0080】
(被処理流動体の種類と流路の数)
前記の被処理流動体の種類とその流路の数は、
図1の例では、2つとしたが、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
図1の例では、第2導入部d2から上流側処理空間3に第2流体を導入したが、この導入部は、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。また、一種類の被処理流動体に対して、複数の導入部を用意してもよい。また、各導入口は、その形状や大きさや数は特に制限はなく適宜変更して実施し得る。また、前記第1及び第2の処理用面間1、2の直前或いはさらに上流側に導入口を設けてもよい。また、各流体における第1、第2という表現は、複数存在する流体の第n番目であるという、識別のための意味合いを持つに過ぎないものであり、第3以上の流体も存在する。
図6-8、
図10に、第3の被処理流動体である第3流体の流路である第3導入部d3とその開口d30を示す。第3導入部d3は、第2導入部d2と同じように、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口するものであって、その導入開口(第3導入口d30)は、第2導入部d2の第2導入口d20よりも、第2処理用面2において、下流側に位置する。
図6-8、
図10においては、図面が煩雑になるのを避けるため、第1導入部d1はその記載を省略している。この点については、第1導入部d1が設けられていない位置の断面と考えればよい。
なお各流路は、密閉されたものであり、液密(被処理流動体が液体の場合)・気密(被処理流動体が気体の場合)とされている。
【0081】
(下流側処理)
次に本発明の要部である、下流側処理空間81内におけるさらなる流体の処理(下流側処理)に関して説明する。
【0082】
流体処理装置Fは、上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部を備え、下流側処理部は、下流側処理空間81を備える。この下流側処理空間81が配置されている領域の範囲DSを、
図1及び
図12において例示的に示す。
【0083】
本発明の流体処理装置Fにあっては、上流側処理空間内3において上流側処理が行われ、上流側処理空間3の下流端から排出された流体(上流側処理がなされた流体)に、さらなる流体の処理を行うための下流側処理空間81を設ける。下流側処理空間81内で行われる流体の処理を下流側処理という。
【0084】
(アウターケーシング)
第1処理用部10を収容するために、回転する第1処理用部10の外側にアウターケーシング61を設ける。アウターケーシング61は、上流側流出口4から排出された流体を受容する。本実施の形態においては、アウターケーシング61は、第1処理用部10と第2処理用部20の一部とを収容するもので、第1処理用部10の上流側流出口4から流出した流体は、アウターケーシング61の内面と第1処理用部10の外面との間の下流側処理空間81にて下流側処理がなされる。
【0085】
アウターケーシング61は、本実施の形態においては、
図1に示すように、全体として円筒状をなす円筒型受容部を構成し、必要に応じて底部を有するものとして実施され得る。またアウターケーシング61は、軸方向(図の上下方向)に移動不可能であっても構わないが、この実施の形態では、上下方向に移動可能に設けられている。これによって、第1処理用部の底部(第1処理用部10の外端面12)と、アウターケーシング61の底部62(底部62の内面71)との間の間隔を調整可能としている。
図1においては、中心線の左側にアウターケーシング61が上昇している状態を描き、右側にアウターケーシング61が下降している状態を描いている。
この上下動のための構成は種々変更して実施することができるが、これに適する構造の一例を示せば、アウターケーシング61は、底部62と、底部62の周囲から上方に伸びる周壁部63とを備え、周壁部63の上端には、周壁部63から径方向外側に突出するフランジ67が全周に渡って形成されている。本実施形態においては、周壁部63には、その厚さが薄い薄肉部64とその厚さが厚い厚肉部65と両者の境界である境界部66を備え、底部62の中央に流出部68を備える。本実施形態においては、周壁部63の厚みにより薄肉部64と厚肉部65とを備えたが、周壁部63の厚みは一定であってもよい。また、フランジ67は、周方向の一部分にのみ形成してもよく、フランジ67をアウターケーシング61に備えなくてもよい。流出部68は、下流側処理空間81を流れる流体を系外(装置外)に排出するための排出口である。
【0086】
第2ホルダ22にアウターケーシング61を取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。
図1に示すように、第2ホルダ22には、第2ホルダ22の外周面から径方向外側に突出する突出部24を備える。第2ホルダ22の外周面とアウターケーシング61の薄肉部64の内周面とを密着させ、突出部24の下面とフランジ67の上面とを当接させるように組み付けると、アウターケーシング61の段差部66が第2ホルダ22の外周側の底面に当接する。その後、ボルト等の固定具による固定や、O-リング72などのシール機構を用いて第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体、即ち上流側流出口4から排出された流体をアウターケーシング61で受容することができれば、第2ホルダ22の外周面の一部とアウターケーシング61の薄肉部64の内周面の一部とを密着させるように組み付けて、第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けてもよい。
【0087】
(下流側処理空間)
上述のように、第2ホルダ22にアウターケーシング61を取り付けることによって、(a)第1、2処理用部10、20の外周面11、21とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間と、(b)第1処理用部10の外端面12とアウターケーシング61の底部62の内面71との間に、下流側処理空間81を設けることができる。なお、この第1処理用部10の外端面12は、第1処理用部10の下面(言い換えれば第1処理用面1とは軸方向において反対側の面)である。
この実施の形態においては、回転する第1処理用面1と一体的に回転する第1処理用部10が回転部材であり、第1処理用部10の外周面11と外端面12は、下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。言い換えれば第1処理用部10が全体として円柱状をなす円柱部を構成し、その外面とアウターケーシング61の内面との間が下流側処理空間81を構成し、外面と内面の間で下流側処理がなされる。
【0088】
また、上流側流出口4が下流側処理空間81内に開口しており、下流側処理空間81は、両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体を受容し滞留させることができる。このような構成とすることによって、下流側処理空間81を備える下流側処理部が上流側処理部を規定する第1及び第2処理用面1、2の下流側に配置され、上流側処理空間4と下流側処理空間81とが繋がり、下流側処理を上流側処理と連続して行うことができる。
【0089】
さらに、回転部材である第1処理用部10の回転を利用して、下流側処理を行うことができる。下流側処理とは下流側処理空間81内で行われる流体の処理であって、上流側処理がなされた後の反応の処理であって、反応を進行させ反応生成物を得る処理である。上流側処理空間4での上流側処理において、主として分子拡散による混合は完結するものであるが、下流側処理として、次のような処理を行うことができる。例えば、流体の滞留、流体の撹拌、流体の混合、熱処理、pH調整、熟成が挙げられる。例えば、有機反応の場合、滞留処理によって反応の完結を行ってもよいし、その際に撹拌処理を加えても構わない。
【0090】
下流側処理空間81の間隔は、下流側処理空間81内の流体の滞留時間にもよるが、第1処理用部10の外径Dの2~30%が好ましく、第1処理用部10の外径Dの3~20%がより好ましい。例えば、第1処理用部10の外径が100mmである場合、下流側処理空間81の間隔は、2~30mmが好ましく、3~20mmがより好ましい。ここで、第1処理用部10の外径Dとは、第1処理用部10の直径であって、後述する突起部16は含まれない。
【0091】
アウターケーシング61の形状は、第1処理用部10との間で下流側処理をなす部分を含んでいることを条件に特に限定されるものではなく、例えば、
図10に示すように、底部62について、径が徐々に小さくなる円錐形状のロート状とし、このロート状の下端に流出部を備えてもよいし、
図4に示すように、アウターケーシング61の底部62を周壁部63に設けた流出部68に向けて傾斜したものとしてもよい。
【0092】
(流出部)
流出部68は、底部62に開口するものに限らず、例えば、周壁部63に開口するものであってもよい。また、複数個の流出部68を設けてもよく、複数個の流出部68を設けることによって、下流側処理空間81内の流体の滞留時間に応じた流体の流出入を可能とする。
【0093】
(別途の導入部)
さらに、後述する
図12に示される実施の形態に示すように、流体を下流側処理空間81に供給するための導入装置(図示無し)を備え、その導入部69をアウターケーシング61内に配置してもよい。導入部69から下流側処理空間81に供給される流体に含まれる物質の一例として、原料そのものや重合開始剤、反応停止剤、pH調整剤、触媒、コーティング剤などが挙げられる。
【0094】
(ケーシング移動可能)
アウターケーシング61は、取付位置調整機構(図示せず)により上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えてもよい。アウターケーシング61を上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えることにより、下流側処理空間81の容積を増減することができ、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御することができる。取付位置調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0095】
(撹拌用の凹凸)
下流側処理空間81に撹拌用の凹凸を備えて、流体に対する撹拌機能を持たせてもよい。例えば、第1処理用部10の外周面11や第1処理用部10の外端面12に撹拌羽根を備えることができる。第1処理用部10の外周面11や第1処理用部10の外端面12に撹拌羽根を備えると、回転軸31の回転を利用して、上流側処理がなされた流体を撹拌羽根で撹拌することができる。撹拌羽根は、両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体に対してせん断力を与えることができる種々の形態として実施することができ、例えば、プレート状の羽根やスクリュー型の羽根、また凹状に加工されたものでも良い。撹拌羽根の形状は、処理目的に合った吐出量(流出部68からの流出量)やせん断力により最適に選定される。
【0096】
その一例として、
図1の右側に示した半断面図と
図11に示すように、第1処理用部10の外端面12には、径方向外側から内側に向けて伸びる複数の溝状の凹部15を備える。全体として円柱状をなす円柱部(具体的には第1処理用部10)と、これを受容する全体として円筒状をなす円筒型受容部(具体的にはアウターケーシング61)との間における比較的狭く制限された空間内で、第1処理用部10が回転すると、凹部15が撹拌羽根の役割を果たし、凹部15の周囲の流体が第1処理用部10の外側に排出されることで、流体が撹拌される。第1処理用部10の外側に排出された流体は、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70や底部62の内面71にぶつかり跳ね返ってくることで、撹拌作用がより促進される。
図4に示すように、第1処理用部10の外周面11に凹部15を設けてもよい。
【0097】
(ラビリンスシール機構)
第1処理用部10の外周面11や外端面12、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70や底部62の内面71などの下流側処理空間81を構成する壁部に、下流側処理空間81の流体の滞留時間を延ばすための、ラビリンスシール機構を備えてもよい。ラビリンスシールとは、半径方向または軸方向に間隙をもちながら流体の流れに対する抵抗を与える、漏れが最小のシールであって、周辺部のナイフ状構造や接触点が形成する迷路によって、通過する流体の膨張が次々と引き起こされるものをいう。
【0098】
例えば、
図4に示すように、ラビリンスシール機構を奏するための突起部として、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する突起部73を備えた形態を示すことができる。この突起部73は、平面視円周状をなしており、1個または複数個を同心円状に設けることができる。
本実施形態においては、突起部73は、その基端から先端に向けてすぼまっている。突起部73の先端と第1処理用部10の外周面11との間には、処理物の粘度にもよるが0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。また、アウターケーシング61の底部62を周壁部63に設けた流出部68に向けて傾斜したものとしてもよい。
【0099】
他の実施の形態としては、
図5に示すように、第1処理用部10の外周面11から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部16を備えた形態を示すことができる。本実施形態においては、突起部16は、その基端から先端に向けてすぼまっている。突起部16の先端とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
このように微小な間隙に設定されることによって、流体はそこを通過する際に層流状となり、通過が困難となる。その結果、この微小な間隙を通過するために時間を要することとなり、微小な間隙より上流側の比較的広い空間内に流体が滞留することになる。
言い換えれば、本発明に適用されるラビリンスシール機構は、完全に漏れのないシール機構ではなく、その上流側の空間に流体を滞留させながら徐々に流体を下流側へ漏らしていく機構であると言える。
【0100】
この第1処理用部10は、一つの部材で構成する必要はなく、複数の部材を一体的に組み付けたものであっても構わない。このように、複数の部材で全体として円柱状をなす第1処理用部10に、凹凸を容易に加工形成することができる。
具体的には、更に他の実施の形態として、
図6に示すものを挙げることができる。この実施の形態では、第1処理用部10の外端面12に、底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する複数の突起部94を備えた形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。本実施形態においては、複数の突起部94はその基端から先端に向けてすぼまっている。突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。本実施形態においては、(a)第1、2処理用部10、20並びに底部材91の外周面11、21、92とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間と、(b)底部材91の下面93とアウターケーシング61の底部62の内面71との間に、下流側処理空間81を設けることができる。この実施の形態においては、第1処理用部10と底部材91とが回転部材であり、第1処理用部10の外周面11と底部材91の外周面92と下面93とが下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。本実施形態においては、底部材91を第1処理用部10とは別部品として作製し、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けたが、底部材91は、第1処理用部10を直接加工して形成するなど、第1処理用部10と完全な同体として構成してもよい。また、
図6に示すように、下流側処理空間81の深さを径方向外側から内側に向けて深くなるようアウターケーシング61の底部62の内面71を円錐形状のロート状としてもよい。
【0101】
更に他の実施の形態としては、
図7に示すように、複数の突起部94に加え、径方向外側から内側に向けて下流側処理空間81の深さが深くなるようにアウターケーシング61の底部62の内面71に段差を設けてもよい。突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0102】
更に他の実施の形態としては、
図10に示すように、第1処理用部10の外端面12と第1処理用部10の外周面11とをほぼ覆うように構成された底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する複数の突起部94と、底部材91の外周面92から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部95を備えた形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。本実施形態においては、複数の突起部94、95はその基端から先端に向けてすぼまっている。突起部95の先端とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有し、突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71との間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。この実施の形態においては、第1処理用部10と底部材91とが全体として円柱状をなす円柱部であり、これを受容する円筒型受容部(アウターケーシング61)との間の空間が下流側処理空間81を構成する。
第1処理用部10の外周面11と底部材91の外周面92と下面93とが下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。
【0103】
ここで、
図5を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明する。
下流側処理空間81は、シール部84とプール部83とを備える。シール部84は、突出部16の先端とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間に形成される狭隘な空間であり、プール部83は、第1処理用部10の突起部16のない外周面11とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間に形成される空間であって、シール部84の上流側に配置され、シール部84よりも広い空間である。
【0104】
シール部84とプール部83とは、一組であっても構わないが、流体の流れの上流から下流にかけて、複数組が連続して配置されることが好ましい。
【0105】
下流側処理空間81は、上流側流出口4の外周側に受け入れ部82を備える。受け入れ部82は、下流側処理空間81のうちの最上流の空間であってシール部84よりも広い空間であり、下流側処理空間81内に開口している上流側流出口4から排出された流体を抵抗なく受け入れることができる。流体の流れの最上流に配置されるプール部83と兼用してもよい。
【0106】
上流側流出口4から排出された流体は、まず、受け入れ部82で受け入れられ、貯留される。受け入れ部82が流体で満たされると、流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れる。シール部84が流体で満たされると、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れる。流体はプール部83で受け入れられ、貯留される。プール部83が流体で満たされると、流体はプール部83の下流側に配置されたシール部84に漏れる。下流側処理空間81には、シール部84とプール部83とが複数組連続して配置されているので、これらの流体の移動が繰り返される。
【0107】
一方、突起部16を外周面11に備えた第1処理用部10は回転している。受け入れ部82、シール部84、プール部83のそれぞれの空間を流体が満たしている場合には、第1処理用部10の回転により遠心力が作用し、例えば、受け入れ部82にある流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れにくい。特に、狭隘な空間であるシール部84においては、第1処理用部10の回転により、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れにくい。
【0108】
このように、下流側処理空間81の壁部の一部を構成する回転部材である第1処理用部10を回転させ、下流側処理空間81において、受け入れ部82と、狭隘なシール空間であるシール部82とシール部より広い滞留空間であるプール部83とが複数組連続して配置されることによって、上流側流出口4から下流側処理空間81に排出された流体はシール部84で漏れ量が最小になり、シール部84から漏れた流体がシール部84の下流側に配置されたプール部83に満たされ貯留される結果、ラビリンスシールにより下流側処理空間81内の流体の滞留時間が延びる。
特に、プール部83とシール部84を複数組設けることによって、装置全体における流体の滞留時間が平準化する。例えば、単一のプール部83によって、装置全体で予定する流体の総貯留容量を、満たすようにした場合を考えると、この単一のプール部83が空の状態からこれが満杯となるまでの滞留時間は一定であるとしても、満杯となった以降も連続運転をしていく場合には、単一のプール部83を満たした全ての流体が上流から流れ込んでくる新たな流体に全て入れ替わるように構成することは困難であり、一部の流体は上記の滞留時間に至らないまでに下流へ流出して、他の一部の流体はいつまでもプール部83内で滞留する。したがって、この滞留時間の制御は、偶然が支配する可能性が大きくなり、その結果、予定された所定の滞留時間に至らないまでに下流へ流出してしまう流体の割合も偶然が支配することになる。これに対して、プール部83とシール部84を複数組設けた場合には、一つあたりのプール部83での滞留時間は偶然が支配したとしても、設ける組数を多くしていくことによって、それぞれの流体の滞留時間が平準化していくことになり、滞留時間の安定的な制御の点で有利となる。
【0109】
下流側処理空間81内の流体の滞留時間は、下流側処理空間81の容積、下流側処理空間81の間隔やその長さ、シール部84とプール部83との組数、第1処理用部10や底部材91といった回転部材の回転数、流体処理装置Fに導入される流体(第1流体と第2流体)の導入量を調整することによって調整することができる。流体処理装置Fの稼働中に滞留時間を調整したい場合、第1処理用部10や底部材91といった回転部材の回転数と流体処理装置Fに導入される流体(第1流体と第2流体)の導入量を調整する。
これらを調整することによって、生成物に応じて目的の滞留時間を実現する。
【0110】
図5を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明したが、他の実施の形態においても、回転部材(第1処理用部10、底部材91)、受け入れ部82、プール部83、シール部84の機能は同じであり、同じ効果を奏する。突起部16、73、94、95の形状は、その先端と円柱部(第1処理用部10や底部材91)又は円筒状受容部(アウターケーシング61)との間に狭隘な空間であるシール部84を形成できる形状であればよい。突起部の長さと突起部の先端の幅は、ラビリンスシール性を得るために必要な範囲で適宜設定することができる。
【0111】
なお、狭隘な空間であるシール部84を満たす流体は層流となることによってそのシール効果は高まる。他方、比較的広い空間である受け入れ部82やプール部83に貯留される流体は乱流となることによって、その滞留中に撹拌作用が流体に対して加えられることになる。
【0112】
次に、
図12-15を参照して、下流側処理部の変形例について説明する。なお、以下の説明においても流体処理装置Fの基本的な構造や作用は同じであり、異なる部分を中心に説明するが、説明のない点については、前記の実施の形態の説明がそのまま適用されるものとする。何れの変形例にあっても、ラビリンスシール機構を備えその機能を奏する。
【0113】
下流側処理部は、回転部材の軸方向に伸びる筒状の流路を下流側処理空間81の少なくとも一部に備えるものであり、下流側処理である反応を長く進行させる上で有利である。
【0114】
図12は、少なくとも第1処理用部10を軸方向に長く伸ばしたもので、その外周面19とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間に筒状の流路を、先の実施の形態と比べて長く伸ばしたものである。
【0115】
この実施の形態においても、第1処理用部10は円柱部を構成するものである。
図12へ示す通り、頂部17を有し、その上面が第1処理用面1である。
【0116】
第1処理用部10の軸方向に(図では下方に)長く伸びる延長部18を備え、その外周面19には、下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部16を備える。突起部16はその基端から先端に向けてすぼまっている。
【0117】
突起部16の先端と、後述するアウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有するもので、シール部84を構成する。シール部84の上流側には比較的広いプール部83が形成される。
【0118】
(処理用部の回転について)
この実施の形態では、回転軸31に取り付けられた第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。従って、第1処理用部10が回転部材である。回転軸31は、第1処理用部10を貫通する空洞に配置され、第1処理用部10の頂部17の中心にネジなどの固定具32によって固定される。回転軸31の基端は回転駆動機構Mの駆動軸と接続され、回転駆動機構Mの駆動力を第1処理用部10に伝えて第1処理用部10を回転させる。この回転を円滑に軸支するために、回転支持部34が、その外周に配置され、その先端側と基端側で回転軸31を回動可能に軸支する。
【0119】
詳しくは、回転支持部34は、円柱状の軸部35と軸部35の下方に円柱状で軸部35よりも径の大きな台部36とを備え、中心には回転軸31が装着される貫通孔37を備える。軸部35は第1処理用部10の延長部18の内側に配置され、貫通孔37に回転軸31を装着して回転軸31を軸支する。
【0120】
両処理用面1、2間の間隔は、先に上流側処理部に関して説明したのと同様1mm以下であることが良好なナノ微粒子を析出させる場合には好ましい。但し、有機反応などのナノ微粒子を析出させない流体処理を行ったり、微粒子を析出させてもその粒子サイズが比較的大きい場合には、5mm以下、例えば1μmから5mm程度の間隔に調整して実施することができる。このように両処理用面1、2間の間隔を、比較的大きな間隔に調整する場合では、前述の接面圧力と離反力との力のバランスによる間隔設定以外でも好適に実施することができるものであり、機械的なクリアランス設定の構造でも実施することができる。したがって先に述べた全ての実施の形態においても、両処理用面1、2間の間隔調整は機械的なクリアランス設定の構造で実施できる場合があると理解すべきである。
この機械的なクリアランス設定の構造での実施では、両処理用面1、2は、接近及び離反するものではなく、固定された間隔を有するものとして実施することができる。
【0121】
(機械的なクリアランス調整機構)
機械的なクリアランス設定の構造の例とすれば、図示しないが、両処理用面1、2の間隔を測定可能なセンサーで測定し、その測定結果に基づいて、クリアランス調整機構を用いて第2処理用部20を軸方向へ移動させるよう構成してもよい。クリアランス調整機構の具体的構成は特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0122】
この実施の形態において、第2処理用部20は、環状の第2ホルダ22の環状の中央にO-リング26などのシール機構を用いて取り付けられている。
【0123】
この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2処理用部20の中央に配置された中央部41を軸方向に貫通する流路であり、その下流端が、導入空間51に接続されている。導入空間51は、中央部41の下面と第1処理用面1によって規定される空間である。
【0124】
この実施の形態において、アウターケーシング61は、円筒形状である。
【0125】
第2ホルダ22と回転支持部34とにアウターケーシング61を取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。まず、第2ホルダ22の下面とアウターケーシング61の円筒形状を構成する周壁部63の上面とをボルト等の固定具による固定や、O-リングなどのシール機構を用いて第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付ける。次に、回転支持部34の台部36の上面とアウターケーシング61の下面とをボルト等の固定具による固定や、O-リングなどのシール機構を用いて回転支持部34にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けるとともに、第1処理用部10の延長部18の下面と台部36の上面とをシール部材38でシールする。
【0126】
このように、第2ホルダ22と回転支持部34とに全体としてほぼ円筒状のアウターケーシング61を取り付けることによって、(a)第2処理用部20の外周面21とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間と(b)第1処理用部10の延長部18の外周面19とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間に、筒状の空間である下流側処理空間81を設けることができる。この実施の形態においては、第1処理用部10の延長部18が円柱部となり、アウターケーシング61の周壁部63が円筒型受容部となる。この、円柱部である、第1処理用部10の延長部18がアウターケーシング61の周壁部63に対して回転するものであるが、逆に、円柱部を固定状態として、他方の円筒型受容部を回転させて実施しても構わないし、両者を共に回転させても構わないが、両者を相対的に回転させる必要がある。
【0127】
アウターケーシング61の周壁部63には、流出部68と導入部69を備える。導入部69は、上流側流出口4から下流側処理空間81へ供給される流体とは別経路から、下流側処理空間81に流体を供給するためのものである。この導入部69からの流体は、上流側流出口4からの流体とは、流体自体を比べると異なるものでもあっても構わないし同一のものであっても構わない。
導入部69は、上流側処理及び/又は前記下流側処理において発生するガスを排出する排出口と兼用させてもよく、排出口を別途設けてもよい。
したがって、上流側流出口4から流出した流体は、必要に応じて導入部69を通じて、流体の導入や気体などの流体の排出が行なわれながら、流出部68から排出されることにより、制限された下流側処理空間81にての下流側処理が完了するものである。
【0128】
図13はさらに他の例を示すものであり、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動されるものである。
【0129】
この実施の形態において、第1処理用部10は、厚みの小さな円柱、即ち円盤体であって、その上部には底部材91を受け入れるためのつば部を備える。第1処理用部10の上面が第1処理用面1である。
【0130】
この実施の形態において、底部材91は、円柱状であって、その外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部95を備える。突起部95はその基端から先端に向けてすぼまっている。
【0131】
突起部95の先端と、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0132】
第1処理用面10のつば部の下面と底部材91の上面との間をシール部材を用いてシールして第1処理用面10と底部材91とを液密・気密に取り付ける。
【0133】
底部材91は、第1処理用部10を回転させるための回転駆動機構Mとは異なる、電動機などの回転駆動機構M1にて、回転する。その一例として、ギア101等の回転力伝達手段や変速手段を介して回転駆動機構M1にて底部材91を回転する。このような構成とすることにて、第1処理用部10と底部材91とは同心に回転するものであるが、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動される。底部材91を第1処理用部10とは異なる回転数で回転させたいときなどに有利である。
【0134】
回転支持部34は貫通孔37に回転軸31を装着して回転軸31を軸支するとともに、軸部35の外周側でベアリングなどの軸受を用いて底部材91を支持する。
【0135】
図14はさらに他の例を示すものであり、円筒形状であるアウターケーシング61の周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する突起部73を備えるとともに、円柱部である底部材91の周壁部97の外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部95を備えたものであって、突起部73と突起部73との間に突起部95を受容し、突起部95と突起部95との間に突起部73を受容するように配置した形態を示すことができる。突起部73、95はその基端から先端に向けてすぼまっている。この実施の形態においては、底部材91の突起部95とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間をシール部84としているが、これに加え、アウターケーシング61の突起部73と底部材91の周壁部97の外周面98との間をシール部84としてもよい。なお、底部材91は、全体として円柱状をなす円柱部として頂部99を有する円筒状である。
【0136】
突起部95の先端と、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0137】
図15はさらに他の例を示すものである。この例では、
図15の下方が上流側であり、
図15の上方が下流側であって、第2処理用部20は第1処理用部10の下方に配置され、上流側処理部を規定する第1、第2処理用面1、2よりも上方に下流側処理部を備える。例えば、乳化重合反応や懸濁重合反応を行うときに上流側処理部で好適な乳化状態や懸濁状態にし、下流側処理部で、重合反応を行う際に反応中に発生するガスを系外に排出する場合に適している。なお、本発明に係る流体処理装置Fはその設置に際し上下左右は問わず、横向きに設置しても実施可能である。
【0138】
この例は、アウターケーシング61の突起部73と底部材91の突起部95とが対向して配置され、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動されるとともに、アウターケーシング61を上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えたものである。
【0139】
より詳しくは、アウターケーシング61は頂部を有する円筒状であって、その周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する複数の突起部73を備え、この突起部73は平面視円周状をなしている。底部材91は、全体として円柱状をなす円柱部として頂部99を有する円筒状であり、その周壁部97の外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部95を備え、平面視円周状をなしている。アウターケーシング61の突起部73と底部材91の突起部95とは対向して配置される。ここで、突起部73と突起部95とが対向して配置されるとは、突起部73と突起部95とが、径方向において接近しているもの又はオーバーラップしているものをいう。
【0140】
この実施の形態において、アウターケーシング61は取付位置調整機構(図示せず)により上下方向に移動可能に備える。アウターケーシング61を上下方向に移動可能に備えることにより、シール部84の広さを調整可能としている。反応中に発生するガスを抜きたいときや高粘性の処理物を処理する際にシール部84の広さを調整して比較的広いシール部84を備えることができ有利である。
図15においては、中心線の左側にアウターケーシング61が下降している状態を描き、右側にアウターケーシング61が上昇している状態を描いている。取付位置調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0141】
この実施の形態において、アウターケーシング61に温度調整機構Tを組み込み、冷却或いは加熱して、その温度を調整することで下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整する。温度調整機構Tとして、アウターケーシング61に氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流すための温度調整ジャケットを備える。1つの温度調整ジャケットをアウターケーシング61に組み込んでもよく、
図15に示すように、複数の温度調整ジャケット(
図15ではT1とT2の2つ)をアウターケーシング61に組み込んでもよい。また、複数の温度調整ジャケットを用いた場合、これらのジャケットを同じ温度に調整してもよく、異なる温度に調整してもよい。複数の温度ジャケットを異なる温度に調整することで、下流側処理の進行に応じて下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整することができる。温度調整ジャケットに替えて、冷却素子や発熱素子をその少なくともいずれか1つの部材に取り付けてもよい。
【0142】
(流体に対してせん断力を与える場合)
ラビリンスシール機構の例ではないが、更に他の実施の形態としては、
図8に示すように、第1処理用部10の外端面12に、底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する櫛歯状の突起部96と、アウターケーシング61の底部62の内面71から下流側処理空間81に向けて上方向に突出する櫛歯状の突起部74とを備え、突起部96と突起部96との間に突起部74を受容し、突起部74と突起部74との間に突起部96を受容するように配置した形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。このような配置とすることにより、突起部96と突起部74との間を通過する流体に対してせん断力を付与することができる。より詳しくは、底部材91が第1処理用部10と同体に回転することにより、底部材91に設けられた櫛歯状の突起部96が回転し、回転する櫛歯状の突起部96が櫛歯状の突起部74と突起部74との間を通過する際に、突起部96と突起部74との間の微小な間隙において被処理流動体に対してせん断力を付与することができる。突起部96と突起部74との間を通過する流体に効率よくせん断力を付与するために、突起部96と突起部74との間のクリアランスは0.1mmから1mm程度が望ましい。また、櫛歯状の突起部96の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.5mmから2mm程度の微小な間隙を有し、櫛歯状の突起部74の先端と底部材91の下面93と間には、0.5mmから2mm程度の微小な間隙を有する。櫛歯状の突起96と74について、
図8においては、中心線の左側には両者がオーバーラップしているものを描き、中心線の右側には両者がオーバーラップしていないものを描いている。
図9に、最も径方向外側に設けられた一組の櫛歯状の突起部96aと櫛歯状の突起部74aとを取り上げた説明図を示す。理解しやすくするために、アウターケーシング61について、底部62の内面71と櫛歯状の突起部74aのみを描いている。
【0143】
(被処理流動体の動き)
上流側処理がなされたがなされた流体は、上流側処理空間3の下流端から排出される。上流側処理空間3の下流端から排出された流体は、アウターケーシング61に受容され、下流側処理空間81を流れながら下流側処理として反応を進行させ反応生成物を得る処理がなされ、流出部68から系外(装置外)に排出される。
【0144】
(遠心力)
回転部材である第1処理用部10や底部材91は回転しているため、下流側処理空間81を流れる流体が下流側処理空間81を満たしている場合には、径方向外向きに遠心力が作用する。この遠心力の作用により、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御する。
【0145】
具体的には、例えば、第1処理用部10や底部材91の回転数を調整することによって、下流側処理空間81を流れる流体に作用する遠心力を調整して、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御する。この滞留時間を制御するため、第1処理用部10の外周における周速度は0.5~35m/secが適当である。上流側処理と下流側処理との両面から回転部材の回転数を設定すればよい。例えば、上流側処理空間3内での層流条件下での上流側処理に適した第1処理用部10の回転数の範囲から下流側処理における第1処理用部10の回転数を設定すればよい。
【0146】
また、滞留時間の調整に目を向ければ、下流側処理部にラビリンスシール機構を備えたり、下流側処理空間81の容積を増やしたり、流出部68から下流側処理がなされた流体を系外に排出させる排出速度を遅くすることによって、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を延ばすことができる。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は、2~30分程度が好ましく、3~10分程度がより好ましいが、流体処理が重合反応等の場合、数時間の滞留が必要になる場合もある。原料の導入量、即ち、第1流体と第2流体との上流側処理空間3内への導入速度(単位時間当たりの導入量)を調整すると、第1、2処理用部の相対的な回転数を一定とし、部品交換をしない場合であっても、滞留時間を調整することができる。
【0147】
(材質)
アウターケーシング61は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、各種の金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものなど、第1、第2処理用部10、20と同等の材質のものを採用することができる。また、底部材91においては、ステンレスやチタンなどの金属やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂など加工のしやすい材質を選択して用いることができる。
【0148】
(温度調整機構)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61には、その少なくともいずれか1つに温度調整機構Tを組み込み、冷却或いは加熱して、部材の温度を調整するようにしてもよい。それによって、下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整することができる。
図1、
図4-8、
図10、
図12-14に示す実施形態において、温度調整機構Tとしてアウターケーシング61に氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流す温度調整ジャケットを設けている。熱媒体に替えて、冷却素子や発熱素子をその少なくともいずれか1つの部材に取り付けてもよい。
【0149】
(マイクロウェーブ)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61は、少なくとも何れか1つにマイクロウェーブを照射する為の、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置をマイクロウェーブ照射機構として備え、下流側処理空間81を流れる流体の加熱、化学反応の促進を行ってもよい。
【0150】
(圧力調整機構)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61に、下流側処理空間81を流れる流体の圧力を調整するために、圧力調整機構を備えてもよい。例えば、圧力調整機構として、種々のポンプを用いることができる。下流側処理空間81に負圧をかけてもよい。具体的には、窒素ガスを用いて下流側処理空間81を加圧状態としたり、真空ポンプによる下流側処理空間81の真空度を制御することが挙げられる。
【0151】
(処理特性の制御)
本発明の流体処理装置を用いて、上流側処理と下流側処理とを行うことによって、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、反応時間といった反応条件を調整することができることから、例えば、原料の反応率、選択率、生成物の収率といった処理特性の制御を行うことができるものであり、原料の反応率は、供給された原料に対する反応により消費された原料の割合であり、選択率は、反応により消費された原料が目的生成物の生成に消費された割合であり、生成物の収率は反応率と選択率とを乗じたものである。
【0152】
(層流条件下と非層流条件下)
本発明においては、上流側処理空間3内での上流側処理を層流条件下で行い、下流側処理空間81内での下流側処理を非層流条件下で行うことが好ましい。上流側処理空間3内で薄膜流体となっている第1流体に対して第2流体を層流条件下で合流させ、層流条件下で分子拡散による被処理流動体の均質な混合を行わせることが好ましい。上流側処理空間3の下流端から排出された流体は、両処理用面1、2による強制から解放され、より広い下流側処理空間81へと排出される。これに対し、上流側処理空間3の下流端から下流側処理空間81へ排出された流体に対してせん断力を付与したり上述の式(1)に記載の代表長さLを大きくするなどして乱流状態とし、流体中の分子同士が接触したり衝突したりする頻度を増加させることにより、生成物を得ることもできる。例えば、上流側処理空間3において有機反応により有機顔料粒子を生成させた後、その顔料粒子を分散させたい場合に乱流条件下での撹拌は有用である。また、乱流条件下では、温度調整機構Tを流れる熱媒体と下流側処理空間81を流れる流体との熱交換率のアップが期待できる。
【0153】
本願発明に係る流体処理装置Fを用いた流体処理方法は、特開2009-082902号公報に示された種々の被処理流動体に対して適用することができ、種々の反応に適用することができるものである。
【符号の説明】
【0154】
1 第1処理用面
2 第2処理用面
3 上流側処理空間
4 上流側流出口
10 第1処理用部
20 第2処理用部
61 アウターケーシング
81 下流側処理空間
83 プール部
84 シール部
91 底部材
F 流体処理装置