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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】連続撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/94 20220101AFI20230612BHJP
   B01F 27/80 20220101ALI20230612BHJP
   B01F 35/90 20220101ALI20230612BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20230612BHJP
   B01J 19/18 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B01F27/94
B01F27/80
B01F35/90
B01J19/12 A
B01J19/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020562311
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007646
(87)【国際公開番号】W WO2020136923
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/047984
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/047985
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-087485(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1171333(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083854(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098662(KR,A)
【文献】特開2011-189348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/94
B01F 27/80
B01F 35/90
B01J 19/12
B01J 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを同心で有し、
前記外壁と前記内壁とのうち少なくとも一方が他方に対して回転し、
前記外壁と前記内壁との間に形成される処理空間内に被処理物を通過させ拌する拌装置において、
前記処理空間に複数のラビリンスシールを備え、前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記処理空間は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備え、
前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、前記突起部がラビリンスシール機構を構成する部材であり、前記突起部の先端と前記外壁の内周面との間又は前記突起部の先端と前記内壁の外周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が備えられていない前記内壁の外周面と前記外壁の内周面との間又は前記突起部が備えられていない前記外壁の内周面と前記内壁の外周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記滞留空間での前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記被処理物を拌するように構成されたことを特徴とする連続拌装置。
【請求項2】
外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを同心で有し、
前記外壁と前記内壁とのうち少なくとも一方が他方に対して回転し、
前記外壁と前記内壁との間に形成される処理空間内に被処理物を通過させ拌する拌装置において、
前記処理空間に複数のラビリンスシールを備え、前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記処理空間は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備え、
前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、前記突起部がラビリンスシール機構を構成する部材であり、前記突起部の先端と前記外壁の内周面との間又は前記突起部の先端と前記内壁の外周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が備えられていない前記内壁の外周面と前記外壁の内周面との間又は前記突起部が備えられていない前記外壁の内周面と前記内壁の外周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記滞留空間での前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記被処理物の滞留時間を制御し拌するように構成された事を特徴とする連続拌装置。
【請求項3】
前記外壁は円筒壁であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の連続撹拌装置。
【請求項4】
前記内壁は円筒壁であることを特徴とする、請求項1~の何れかに記載の連続撹拌装置。
【請求項5】
前記処理空間内の被処理物の温度制御を目的として温度調整機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【請求項6】
前記温度調整機構が複数敷設され、複数の前記温度調整機構により前記処理空間内の被処理物を異なる温度に調整するように構成された事を特徴とする請求項に記載の連続拌装置。
【請求項7】
前記被処理物を前記処理空間内に供給する供給口を備え、
前記供給口の一端が前記連続撹拌装置の外部に接続され、
前記供給口の他端が前記処理空間に連通していることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【請求項8】
前記供給口から供給される前記被処理物とは別経路で、前記被処理物を前記処理空間内に導入する導入口が設けられたことを特徴とする請求項に記載の連続拌装置。
【請求項9】
前記処理空間から前記被処理物を異なる処理時間ごとに排出する排出口が複数設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【請求項10】
前記処理空間内の被処理物に対するマイクロウェーブ照射機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【請求項11】
前記シール空間の広さを調整する間隙調整機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【請求項12】
前記外壁と前記内壁とは円錐台筒状であり、
前記シール空間の広さを調整する事を目的として、前記外壁と前記内壁とのうちの少なくとも一方を同心上で移動させる間隙調整機構が敷設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式拌装置に関する。さらに詳しくは、化学、生化学、農業、食品、医薬、化粧品、金属工業などの分野、とりわけ化学反応、合成に有効並びに有用な連続反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に2種類以上の物質もしくは1種類の物質そのもの同士を化学反応させて、新たな物質を得るための反応処理は、バッチ式と連続式とに大きく分類される。バッチ式の反応処理は、実験室においてフラスコに代表されるような容器の中に、溶媒と基質、反応剤などを入れ、撹拌機などで撹拌して反応を行う。バッチ式と連続式のいずれも工業的に実用化されているが、当然ながらその反応場は容積を持つ。この反応容器における容積は、反応場における反応条件の不均一性に影響する。例えば、均一な基質溶液に反応剤を加えて化学反応を行う場合、反応剤の濃度が均一になるまでには一定の時間を要する。反応条件における温度についても同様の事が考えられる。つまり、反応容器を外部乃至内部から、加熱や冷却を行う場合、反応容器内全体が一定温度に到達するまでには一定の時間を要し、さらに、容器内の反応場全体を完全に一定温度とすることは極困難であると考えられる。また、バッチ式の反応容器の場合において、容器中の溶媒と基質に反応剤を投入する場合、反応剤の投入開始時と終了時ではすでに異なる反応条件である。上記のような要因によって生じる反応場における反応条件の不均一性は、結果的に反応生成物に影響を与える。つまり、一つの容器内に様々な反応条件が発生する事により、目的の反応を理想的には行えない。例えば、主反応と副反応を完全には選択できない事やそれに伴う副生成物の発生、また重合反応などの場合には得られる生成物の分子量分布が均一に成り難い事等が挙げられる。容器壁面への生成物の付着も含めると、反応物から生成物への収率は自ずと低くなる。反応場におけるそれらの問題を解決するために、通常、反応容器には、撹拌機、タービンなどの撹拌装置を備える。撹拌装置により容器内の混合反応流体の混合速度を向上することで、反応場の均一性を確保し、反応速度に対応せんとするものであった。しかし、対象とする混合反応流体の粘度が上昇する毎に再び上記反応場における不均一化の問題が浮上する。それでも尚、瞬間的な混合を目標とする事によって、自然と撹拌所要動力は増大する一途である。また、温度勾配が大きいため短時間で加熱する場合には必要以上の熱エネルギーを必要とすることなどの問題もある。
【0003】
さらに上記のような反応処理は化学工業において頻繁に使用されるにも関わらず、安全性の問題および危険を伴う。多くの場合、比較的大量の高度な毒性の化学物質が用いられ、人および環境に相当な危険を示し、溶媒が種々の点で環境汚染物質であることから、格別の問題が現れる。また、例えば、フリーデル-クラフツアシル化の場合における反応の強力な発熱性のリスクや、ニトロ化の場合には発熱反応のみならず大きな爆発のリスクがある。さらにそれらの危険性は実生産に向けてスケールアップを図ると同時に前面に出てくる。
【0004】
上記の問題を解決するために、特許文献1-3に示されるような、連続拌槽型反応器(CSTR)が注目されている。CSTRは、理想流れの場合、連続的に流入する原料などの反応物質は反応器に入った瞬間に反応器内容物と完全に混合され、反応器内容物は完全に均一とするモデルであるが、現実は非理想流れとなり完全混合槽列モデルとなる。
【0005】
特許文献1では、反応器がオリフィス板を挟んで直列8段で連続的に整列している連続撹拌式槽型反応器(CSTR)が提案され、この反応器(CSTR)を用いて乳化凝集トナー粒子が作製されている。
特許文献2では、複数の混合槽ユニットと複数の仕切り板ユニットを備え、これらのユニットを交互に積層した状態で接続され、各混合槽ユニットの内部空間に円盤状ディスク型拌翼が設置された連続式反応装置が提案され、この装置は湿式法によるトナーの製造に好適である。
【0006】
また、特許文献3では、CSTRの撹拌機を決定する方法やCSTRの原料入り口位置の決定、CSTRの供給流量の決定の方法が提案されている。これは、CSTRを液体が通過する際の液体の齢を制御するためである。
【0007】
CSTRを突き詰めてゆくと各拌槽は出来るだけ小さくかつ多段式が理想となる。拌槽が大きくなると上述したようなバッチ式の問題が発生するし、多段を減らすと自ずから拌槽が大きくなるので拌槽の段数を増加しなければならない。
【0008】
その結果、コストの問題や設置スペースの問題が発生する。
【0009】
連続式拌装置として次に押し出し流れ反応器(PFR)が注目されている。
これは、理想流れの場合、断面積一定の反応器にある速度で流入している進行方向前後で内容物は混じり合うことなく反応器出口に向かって徐々に反応が進むというモデルである。
現実には微小反応器、微小流路式反応器であるマイクロミキサーやマイクロリアクターが提案される。これらは微少量での合成が可能なことや、温度制御の高効率化、界面反応の高効率化、効率的混合などの利点が提唱されている。しかし、一般的なマイクロリアクターを用いる場合にはマイクロデバイス及びシステムの利点は数あるとしても、実際にはマイクロ流路径が狭くなればなるほどその圧力損失は流路の4乗に反比例する事、つまり実際には流体を送り込むポンプが入手し難いくらい大きな送液圧力が必要となる事、また析出を伴う反応の場合、生成物が流路に詰まる現象や反応によって生じる泡によるマイクロ流路の閉鎖、さらに基本的には分子の拡散速度にその反応を期待するため、全ての反応に対してマイクロ流路が有効・適応可能と言う訳ではなく、現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、その問題も多い。そのため特許文献4のようにマイクロリアクター中に発生する堆積物の問題を超音波処理する事で回避する場合もあるが、超音波によって生じる流路内の不規則な乱流やキャビテーションは、目的の反応に対して常に都合良くは作用しない可能性が高い。さらにスケールアップについても、マイクロリアクターそのものの数を増やす方法、つまりナンバリングアップで解決されて来たが、実際には積層可能数は数十が限界であり、自ずと製品価値の高い製品に的が絞られやすく、また、装置が増えるという事は、その故障原因の絶対数も増えるという事であり、実際に詰まりなどの問題が発生した場合、その故障箇所など、問題箇所を検出する事が大変困難と成りうる可能性がある。
【0010】
これらの問題を解決すべく特許文献5に示されるような有機化合物の製造方法が本願出願人により提案された。特許文献5は、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面間にできる薄膜流体中で、例えば、有機化合物を少なくとも1種類含む流体と反応剤を少なくとも1種類含む流体とを合流させるものであり、当該薄膜流体中において各種の有機反応をさせることを特徴とする、有機化合物の製造方法であり、薄膜流体中において有機反応させることから、反応の均一性を確保でき、スケールアップも可能としている。
【0011】
しかしながら、特許文献5に示される有機化合物の製造方法を用いた場合であっても、前述した通り現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、同様の問題が見受けられる。
【0012】
その問題の第一として反応時間の確保が上げられる。処理用面間における薄膜流体中で各流体を合流されるものであるため拡散効率は前例がないくらい高い結果、完全混合を実現できているが、特に有機反応の場合絶対的な反応時間を延ばしたい場合があった。反応時間の短縮化のために反応温度を極端に上げたり触媒量を増やしたり等のトライアルアンドエラーを繰り返すが副生成物の増大や危険性などの弊害も目立つ。また処理用面を極端に大型化すれば反応時間の確保は可能となるが大きなコストや設置面積の問題など現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2012-166191号公報
【文献】国際公開第2015/186710号パンフレット
【文献】特表2017-522415号公報
【文献】特開2005-060281号公報
【文献】特許第5561732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記に鑑み、本発明は、新しい構成の拌装置を提供するものであって、各種反応処理等において、連続式であり、スケールアップが可能でありながらコンパクトであり、目的とする反応生成物を高効率で生成可能な、安価でシンプルな連続拌装置を提供することを課題とする。
【0015】
特に、本発明は、連続拌槽型反応器(CSTR)を多段式にするのではなく、理想的な押し出し流れ反応器(PFR)により近い効果を有する構成とすることによって、反応時間を十分に確保し、目的とする反応生成物を高効率で得ることができる連続拌装置を提供することを課題とする。
【0016】
特許文献1では、8つの反応器それぞれがオリフィス板で分割され、オリフィス板の穴に撹拌軸が通されている。反応器の撹拌軸に取り付けられた拌翼が回転すると、その吐出力により拌軸の周りには吸い込み力が発生するため、オリフィス板の穴が大きいと反応器内の流体の逆流が発生し、滞留時間の一定化が妨げられる。また、オリフィス板の穴が小さいと大きな送液圧力が必要となり、特許文献1に記載の反応器(CSTR)は反応器が8段直列に配置されていることから、より大きな送液圧力が必要となる。
特許文献2では、二つの混合槽ユニットの間に設置される仕切り板ユニットの中心部には、撹拌軸及び反応液を通過させる通液穴が設けられており、特許文献1と同様の問題が発生しうる。
【0017】
これらの問題は回転を伴うラビリンスで解決できる。
オリフィスはあくまで流量調整や流量測定に利用される技術であるが、ラビリンスはシール目的であり、シールを行う狭隘な空間で流体の逆流を防止しやすく圧力損失も少ないので、流体の滞留時間の制御には打って付けである。また、ラビリンスが回転を伴うので、ラビリンスで区分けされた狭隘な空間とその上流側に配置された狭隘な空間よりも広い空間とで構成される処理空間の容積や形状によっては拌羽根を設ける必要がなく、特許文献1、2のように反応器の段積みの必要がない。特に、反応器を数十段配置することは現実的でない。本発明では、これらの問題を解決した簡便にかつ安価に装置を製造することができるものである。ここで、シールとは、完全に漏れのないシールではなく、狭隘な空間の上流側に配置された狭隘な空間よりも広い空間に流体を滞留させながら徐々に流体を下流側へ漏らしていくものをいう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一例として化学反応処理で原料Aと原料Bとを反応させて目的生成物Xを得るものとする。この場合、第一の流体処理は原料Aと原料Bの混合であり、原料Aと原料Bとをより均一にかつより早く混合することが望まれる。続いて、第二の流体処理として原料Aと原料Bとの反応を進行させる。この反応を進行させるために、生成物Xを効率的に得るための反応条件を調整する。反応条件とは、原料Aと原料Bの濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間などをいう。故に高効率で連続式且つ安価でシンプルな連続撹拌装置は前記の各処理(第一の流体処理と第二の流体処理)を高効率で処理可能としなければならない。
【0019】
本発明に係る連続撹拌装置は、外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを同心で有し、前記外壁と前記内壁とのうち少なくとも一方が他方に対して回転し、前記外壁と前記内壁との間に形成される処理空間内に被処理物を通過させ拌する拌装置に関するものである。
【0020】
本発明に係る連続撹拌装置においては、前記処理空間に複数のラビリンスシールを備え、前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、前記処理空間は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備え、前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、前記突起部がラビリンスシール機構を構成する部材であり、前記突起部の先端と前記外壁の内周面との間又は前記突起部の先端と前記内壁の外周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が備えられていない前記内壁の外周面と前記外壁の内周面との間又は前記突起部が備えられていない前記外壁の内周面と前記内壁の外周面との間に前記滞留空間が形成され、前記滞留空間での前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記被処理物を拌するように構成されたものである。
また、本発明に係る連続撹拌装置においては、前記処理空間に複数のラビリンスシールを備え、前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、前記処理空間は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備え、前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、前記突起部がラビリンスシール機構を構成する部材であり、前記突起部の先端と前記外壁の内周面との間又は前記突起部の先端と前記内壁の外周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が備えられていない前記内壁の外周面と前記外壁の内周面との間又は前記突起部が備えられていない前記外壁の内周面と前記内壁の外周面との間に前記滞留空間が形成され、前記滞留空間での前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記被処理物の滞留時間を制御し拌するように構成されたものである。
【0021】
本発明において、被処理物とは、前記処理空間内で流体の処理を予定する流体をいう。
【0022】
この装置は、前記外壁は円筒壁であるものとして実施してもよく、前記内壁は円筒壁であるものとして実施してもよい。
【0023】
この装置は、前記処理空間内の被処理物の温度制御を目的として温度調整機構が敷設されたものとして実施することができ、前記温度調整機構が複数敷設され、複数の前記温度調整機構により前記処理空間内の被処理物を異なる温度に調整するように構成されたものとして実施することができる。
【0024】
この装置は、前記被処理物を前記処理空間内に供給する供給口を備え、前記供給口の一端が前記連続撹拌装置の外部に接続され、前記供給口の他端が前記処理空間に連通しているものとして実施することができる。
この装置は、前記供給口から供給される前記被処理物とは別経路で、前記被処理物を前記処理空間内に導入する導入口が設けられたものとして実施することができる。
この装置は、前記処理空間から前記被処理物を異なる処理時間ごとに排出する排出口が複数設けられたものとして実施することができる。
【0025】
この装置は、前記処理空間内の被処理物に対するマイクロウェーブ照射機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0026】
この装置は、前記シール空間の広さを調整する間隙調整機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0027】
この装置は、前記外壁と前記内壁とは円錐台筒状であり、前記シール空間の広さを調整する事を目的として、前記外壁と前記内壁とのうちの少なくとも一方を同心上で移動させる間隙調整機構が敷設されたものとして実施することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、新しい構成の撹拌装置を提供するものであって、少なくとも一方が他方に対して回転する、外壁と内壁との間に形成される処理空間において、被処理物に対して流体の処理を行うことによって、化学反応や乳化、分散、混合などの一連の流体処理を撹拌装置内で行う際、原料濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間等の種々の反応条件、特に反応時間を調整することができた結果、目的とする反応物を高効率で生成可能な連続撹拌装置を提供することができたものである。
【0029】
特に、処理空間に複数のラビリンスシールを備え、ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、処理空間は滞留空間を備え、滞留空間はシール空間の上流側に配置され且つシール空間よりも広い空間であり、被処理物の流れの上流から下流にかけてシール空間と滞留空間とを複数組連続的に備え、外壁と内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、突起部がラビリンスシール機構を構成する部材であり、突起部の先端と外壁の内周面との間又は突起部の先端と内壁の外周面との間にシール空間が形成され、突起部が備えられていない内壁の外周面と外壁の内周面との間又は突起部が備えられていない外壁の内周面と内壁の外周面との間に滞留空間が形成され、滞留空間での被処理物の滞留と、その後の被処理物のシール空間の通過とが繰り返し行われ、被処理物を撹拌する又は被処理物の滞留時間を制御し撹拌するよう構成されることによって、処理空間内の被処理物の滞留時間を調整することができ、特に、有機反応における反応の継続と反応を完結させるための反応時間を十分に確保することができることから、被処理物に対する流体の処理を効果的に行うことができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(A)は本発明の実施の形態に係る連続撹拌装置の略断面図であり、(B)は同装置の要部説明図である。
図2】(A)は図1(A)のA-A線に沿う要部断面図であり、(B)は図2(A)のB-B線に沿う要部断面図である。
図3】本発明の他の実施の形態に係る連続撹拌装置の要部斜視図である。
図4】本発明の更に他の実施の形態に係る連続撹拌装置の要部断面図である。
図5】(A)は本発明の更に他の実施の形態に係る連続撹拌装置の略断面図であり、(B)(C)は同装置の要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0032】
図1(A)、図5(A)において図の上下は装置の上下に対応しているが、本発明において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。図2(A)においてRは回転方向を示している。
【0033】
連続撹拌装置Fは、外壁61と外壁61の内側に配置される内壁10とを備える処理部を備える。外壁61と内壁10とは同心であり、処理部は外壁61と内壁10との間に形成される処理空間81を備える。外壁61と内壁10とのうちの少なくとも一方が他方に対して回転する。
【0034】
(外壁)
外壁61は、図1(A)に示すように、全体として円筒状をなし、必要に応じて底部や天部を有するものとして実施され得る。本実施の形態においては、外壁61は円筒壁63であって、その両端には、円筒壁63から径方向外側に突出するフランジ67が形成されている。外壁61とは別部材である天部76又は底部62とフランジ67、67とが固定されることによって、円筒壁63の両端が閉鎖されている。
【0035】
(内壁)
内壁10は、図1(A)に示すように、全体として柱状をなす。本実施の形態においては、内壁10は円柱状であって、その外周面11から径方向外側に突出する複数の突起部16を備える。突起部16は、平面視円周状をなし、軸方向において所定の間隔をあけて設けられている。図1(B)は、連続撹拌装置Fの要部説明図であって、内壁10と突起部16と後述する撹拌羽根111との配置を示す斜視図であり、上方の他の突起部16がない状態を描いている。図1(B)に示すように、突起部16は全体が厚みの等しい円盤状である。突起部16は径方向において厚みが変化するものであってもよい。
突起部16に換えて又は突起部16とともに、外壁61の円筒壁63の内周面70から径方向内側に突出する突起部を設けてもよく、底部62の内面71や天部76の内面から処理空間81に向けて突出する突起部を設けてもよい。
【0036】
外壁61は全体として円筒状をなし、内壁10は全体として柱状をなす。外壁61は、処理空間81を構成する外壁61の内表面が流体の処理を行う上で重要であって、中空であり、内壁10は、処理空間81を構成する内壁10の外表面が流体の処理を行う上で重要であるから、中実であっても中空であってもよい。内壁10においては、円筒状、柱状の表現にかかわらず、断面円形、断面角形や断面異形状を有するものを含むものと理解すべきである。外壁61においても、円筒状、柱状の表現にかかわらず、断面円形、断面角形や断面異形状を有するものを含むものと理解することができる。但し、突起部16と外壁61との間の微小な間隔が本発明の実施に際しては重要となるため、外壁61が、断面円形ではない場合には回転に伴って突起部16との間の間隔が変化する点に注意して実施すべきである。
【0037】
(処理空間)
内壁10は外壁61の内側に配置され、外壁61と内壁10とは同心に配置される。外壁61と内壁10との間に処理空間81が形成される。本実施の形態においては、内壁10の外周面11と外壁61の円筒壁63の内周面70との間に、処理空間81を備える。この処理空間81内で被処理物の処理が行われる。被処理物とは、処理空間81内で流体の処理を予定する流体をいい、以下、被処理物を流体とも記載する。外壁61と内壁10との間に処理空間81を設けることができれば、外壁61と内壁10とは同心に配置しなくてもよい。
【0038】
処理空間81の間隔、即ち、本実施の形態においては、内壁10の外周面11と外壁61の円筒壁63の内周面70との間の間隔は、処理空間81内の被処理物の滞留時間にもよるが、内壁10の外径Dの5~200%が好ましく、内壁10の外径Dの10~150%がより好ましい。例えば、内壁10の外径Dが100mmである場合、処理空間81の間隔は、5~200mmが好ましく、10~150mmがより好ましい。ここで、内壁10の外径Dとは、内壁10の直径であって、突起部16は含まれない。
【0039】
外壁61と内壁10とのうち少なくとも一方が他方に対して回転する。本実施の形態においては、電動機などの回転駆動機構Mの駆動軸が回転軸31に接続され、その回転軸31が、底部62と天部76とに設けられた軸受77、77を介して内壁10を回転可能に支持し、内壁10が外壁61に対して回転する。外壁61を内壁10に対して回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしても構わないが、双方を相対的に回転させる必要がある。
【0040】
(供給部と流出部)
外壁61には供給部75と流出部68とを備える。供給部75は処理空間81内で流体の処理を予定する流体である被処理物を系外(装置外)から処理空間81へ供給するための供給口であり、その一端は被処理物を貯留するタンクなどの連続撹拌装置Fの外部に接続され、他端は処理空間81に直接又は間接に連通している。本実施の形態においては、図1(A)に示すように、供給部75は外壁61に設けられ、次に述べる受け入れ部82を介してシール部84に連通する。流出部68は、処理空間81で流体の処理がなされた処理物を系外(装置外)に排出するための排出口である。本実施の形態においては、図1(A)の上方が被処理物の流れの上流側であり、図1(A)の下方が被処理物の流れの下流側であって、供給部75は外壁61の円筒壁63の上方に設けられ、流出部68は外壁61の円筒壁63の下方に設けられている。供給部75と流出部68とを外壁61に複数備えてもよい。供給部75を外壁61に複数備えることにより、複数の被処理物を系外(装置外)から処理空間81に供給することを可能とし、流出部68を外壁61に複数備えることにより、処理空間81内の被処理物の処理時間に応じて処理空間81から系外(装置外)へ処理物の流出を可能とする。
【0041】
(ラビリンスシール機構)
内壁10の外周面11や外壁61の円筒壁63などの処理空間81を構成する部材に、処理空間81の流体の滞留時間を延ばすための、ラビリンスシール機構を備えてもよい。ラビリンスシール機構とは、半径方向または軸方向に間隙をもちながら流体の流れに対する抵抗を与える、漏れが最小のシールであって、周辺部のナイフ状構造や接触点が形成する迷路によって、通過する流体の膨張が次々と引き起こされるものをいう。
【0042】
本実施形態においては、突起部16がラビリンスシール機構を構成する部材であり、突起部16の先端と外壁61の円筒壁63の内周面70との間には、被処理物の粘度にもよるが0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
このように微小な間隙に設定されることによって、被処理物はそこを通過する際に層流状となり、通過が困難となる。その結果、この微小な間隙を通過するために時間を要することとなり、微小な間隙より上流側の比較的広い空間内に被処理物が滞留することになる。
言い換えれば、本発明に適用されるラビリンスシール機構は、完全に漏れのないシールではなく、その上流側の空間に流体を滞留させながら徐々に流体を下流側へ漏らしていく機構であると言える。
【0043】
図1(A)を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明する。
処理空間81は、シール部84とプール部83とを備える。シール部84は、突起部16の先端と外壁61の円筒壁63の内周面70との間に形成される狭隘な空間であり、プール部83は、内壁10の突起部16のない外周面11と外壁61の円筒壁63の内周面70との間に形成される空間であって、シール部84の上流側に配置され、シール部84よりも広い空間である。
本発明に係る連続撹拌装置Fにおいて、ラビリンスシールとはシール部84をいい、ラビリンスシール機構はシール部84とプール部83を備える。
本実施の形態のように、内壁10が外壁61に対して回転し、内壁10の外周面11に突起部16を設け、突起部16の先端と外壁61の円筒壁63の内周面70との間にシール部84を設けることが、被処理物の齢を制御する点で理想的である。
【0044】
本実施形態においては、被処理物の流れの上流から下流にかけて、シール部84とプール部83とを一組として、複数組が連続して配置される。一組のシール部84とプール部83とを配置しても構わない。
【0045】
処理空間81は、受け入れ部82を備える。受け入れ部82は、処理空間81のうちの最上流の空間であってシール部84よりも広い空間であり、供給部75から供給された被処理物を抵抗なく受け入れることができる。被処理物の流れの最上流に配置されるプール部83と兼用してもよい。
これまでの記載から、ラビリンスシール機構の物としての構造は、少なくとも一方が他方に対して回転する外壁61と内壁10との間に処理空間が形成され、外壁又は内壁のうちの少なくとも一方に突起部を備え、内壁に備えた突起部16の先端と外壁の円筒壁の内周面又は外壁に備えた突起部16の先端と内壁の外周面との間にシール部84が形成され、突起部16が備えられていない内壁10の外周面11と外壁61の円筒壁63の内周面70との間又は突起部16が備えられていない外壁61の円筒壁63の内周面70と内壁10の外周面11との間にプール部83が形成され、シール部は狭隘な空間であり、プール部83はシール部84の上流側に配置され、シール部84よりも広い空間であり、シール部84とプール部83とが複数組連続して配置されるものである。
【0046】
供給部75から処理空間81へ供給された流体は、まず、受け入れ部82で受け入れられ、貯留される。受け入れ部82が流体で満たされると、流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れる。シール部84が流体で満たされると、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れる。流体はプール部83で受け入れられ、貯留される。プール部83が流体で満たされると、流体はプール部83の下流側に配置されたシール部84に漏れる。処理空間81には、シール部84とプール部83とが複数組連続して配置されているので、これらの流体の移動が繰り返される。
【0047】
一方、突起部16を外周面11に備えた内壁10は回転している。受け入れ部82、シール部84、プール部83のそれぞれの空間を流体が満たしている場合には、内壁10の回転により遠心力が作用し、例えば、受け入れ部82にある流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れにくい。特に、狭隘な空間であるシール部84においては、内壁10の回転により、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れにくいが、完全にシールするのではなく、わずかな所定量を下流側へ移動させる。この所定量は、要求される処理の目的や処理量、処理速度など必要な処理条件に応じて決定する。
【0048】
このように、内壁10を回転させ、処理空間81において、受け入れ部82と、狭隘なシール空間であるシール部84とシール部84より広い滞留空間であるプール部83とが複数組連続して配置されることによって、供給部75から処理空間81へ供給された流体はシール部84で漏れ量が最小になり、シール部84から漏れた流体がシール部84の下流側に配置されたプール部83に満たされ貯留される結果、ラビリンスシール機構により処理空間81内の流体の滞留時間が延びる。
特に、プール部83とシール部84を複数組設けることによって、装置全体における流体の滞留時間が平準化する。例えば、単一のプール部83によって、装置全体で予定する流体の総貯留容量を、満たすようにした場合を考えると、この単一のプール部83が空の状態からこれが満杯となるまでの滞留時間は一定であるとしても、満杯となった以降も連続運転をしていく場合には、単一のプール部83を満たした全ての流体が上流から流れ込んでくる新たな流体に全て入れ替わるように構成することは困難であり、一部の流体は上記の滞留時間に至らないまでに下流へ流出して、他の一部の流体はいつまでもプール部83内で滞留する。したがって、この滞留時間の制御は、偶然が支配する可能性が大きくなり、その結果、予定された所定の滞留時間に至らないまでに下流へ流出してしまう流体の割合も偶然が支配することになる。これに対して、プール部83とシール部84を複数組設けた場合には、一つあたりのプール部83での滞留時間は偶然が支配したとしても、設ける組数を多くしていくことによって、それぞれの流体の滞留時間が平準化していくことになり、滞留時間の安定的な制御の点で有利となる。
【0049】
処理空間81にシール部84とプール部83とを一組として複数組連続して設け、処理空間81を構成する内壁10が外壁61に対して回転することによって、シール部84の上流側にあるプール部83での被処理物の滞留と、その後の被処理物のシール部84の通過とが繰り返し行われ、被処理物の滞留時間を制御することができる。
【0050】
処理空間81内の流体の滞留時間は、処理空間81の容積、処理空間81の間隔やその長さ、シール部84とプール部83との組数、内壁10の回転数、連続撹拌装置Fに導入される流体の導入量を調整することによって調整することができる。処理空間81内の流体の滞留時間は、2~30分程度が好ましく、3~10分程度がより好ましいが、流体の処理が重合反応等の場合、数時間の滞留が必要になる場合もある。また、内壁10の外周における周速度は0.5~35m/secが適当である。内壁10の外周には突起部16は含まれない。連続撹拌装置Fの稼働中に滞留時間を調整したい場合、内壁10の回転数と連続撹拌装置Fに導入される流体の導入量を調整する。
これらを調整することによって、生成物に応じて目的の滞留時間を実現する。
【0051】
突起部16の形状は、その先端と外壁61との間に狭隘な空間であるシール部84を形成できる形状であればよい。突起部を外壁61に備える場合、突起部の形状は、その先端と内壁10との間に狭隘な空間であるシール部84を形成できる形状であればよい。突起部の長さと突起部の先端の幅は、ラビリンスシール性を得るために必要な範囲で適宜設定することができる。
【0052】
なお、狭隘な空間であるシール部84を満たす流体は層流となることによってそのシール効果は高まる。他方、比較的広い空間である受け入れ部82やプール部83に貯留される流体は乱流となることによって、その滞留中に撹拌作用が流体に対して加えられることになる。
【0053】
(導入部)
外壁61や天部76には導入部69を備えてもよい。導入部69は、供給部75から処理空間81へ供給される被処理物とは別経路から、処理空間81に被処理物を供給するための供給口である。本実施の形態においては、導入部69は供給部75と流出部68との間の外壁61に設けられ、処理途中の被処理物に対して他の被処理物を供給するものである。導入部69は、外壁61の円筒壁63の上端に設けてもよく、その位置を変更してもよい。導入部69から処理空間81へ供給される被処理物は、供給部75から処理空間81に供給される被処理物とは、被処理物自体を比べると異なるものでもあっても構わないし同一のものであっても構わない。導入部69から処理空間81に供給される被処理物の一例として、原料そのものや重合開始剤、反応停止剤、pH調整剤、触媒、コーティング剤などが挙げられる。
導入部69は、流体の処理において発生するガスを排出する排出口と兼用させてもよく、ガスを排出する排出口を別途設けてもよい。
したがって、供給部75から処理空間81に供給された被処理物は、必要に応じて導入部69を通じて、被処理物の導入や気体などの流体の排出が行なわれながら、流出部68から排出されることにより、制限された処理空間81にて流体の処理が完了するものである。
【0054】
(温度調整機構)
外壁61と内壁10とのうちの少なくとも何れか1つに温度調整機構Tを備え、冷却或いは加熱して、部材の温度を調整することによって、処理空間81を流れる流体の温度を調整してもよい。図1(A)では、温度調整機構Tとして、氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流すための温度調整ジャケットを外壁61の円筒壁63の外周面に取り付けている。図1(A)に示すように、1つの温度調整ジャケットを外壁61に備えてもよく、後述する図5(A)に示すように、複数の温度調整ジャケット(図5(A)ではT1とT2の2つ)を外壁61に備えてもよい。また、図5(A)に示すように、複数の温度調整ジャケットを外壁61に備えた場合、これらのジャケットを同じ温度に調整してもよく、異なる温度に調整してもよい。複数の温度調整ジャケットを異なる温度に調整することで、処理空間81での流体の処理の進行に応じて処理空間81を流れる流体の温度を調整することができる。温度調整ジャケットに替えて、冷却素子や発熱素子を外壁61と内壁10とのうちの少なくとも何れか1つに取り付けてもよい。
【0055】
(撹拌羽根とスクレーパ)
内壁10には撹拌羽根111やスクレーパ112を備えてもよい。高粘性の被処理物の流体の処理を行う際に効果的である。
本実施形態においては、図1(A)(B)に示すように、内壁61に設けられた突起部16と突起部16との間の突起部16のない外周面10に複数枚の板状の撹拌羽根111を周方向に間隔をあけて備える。撹拌羽根111は内壁10の外周面11に固定されていてもよいし、円盤状の突起部16に固定されていてもよい。内壁10とともに撹拌羽根111が回転することにより、処理空間81を流れる被処理物への撹拌機能を高めることができる。撹拌羽根111に着脱自在に別個の羽根を取り付けてもよい。
また、本実施の形態においては、図1(A)に示すように、内壁61に設けられた突起部16と突起部16との間にスクレーパ112を備える。図2(A)は、図1(A)のA-A線に沿う要部断面図であり、(B)は図2(A)のB-B線に沿う要部断面図である。図2(A)(B)に示すように、突起部16と突起部16との間にスクレーパ112を支持するための柱部113を設ける。図2(A)に示すように、柱部113は2枚の板状部材であって、2枚の板状部材の間にスクレーパ112を挟みスクレーパ112と2枚の板状部材とをボルト114などで固定することによって、柱部113がスクレーパ112を支持する。図2(A)(B)に示すように、スクレーパ112の先端を外壁61の円筒壁70の内周面70に密着させる。
スクレーパ112は外壁61の円筒壁63の内周面70に付着した付着物を掻き取る、掻き取り羽根である。内壁10に設けられた柱部113にスクレーパ112を固定し、スクレーパ112の先端と外壁61の円筒壁63の内周面70とを密着させ、内壁10とともにスクレーパ112が回転することにより、スクレーパ112が付着物を連続して掻き取る。
外壁61の円筒壁63の外周面に温度調整機構Tを取り付け、処理空間81内を流れる被処理物の温度を調整しながら重合反応などの流体処理を行う場合、外壁61の円筒壁63の内周面70に付着物が発生すると、伝熱面となる内周面70の伝熱効率が著しく低下し、処理空間81内の流体の温度が調整できなくなる。スクレーパ112が付着物を連続して掻き取ることにより、外壁61の円筒壁63の内周面70の伝熱効率が低下することを防ぐとともに、生成物の収率の向上を図る。
【0056】
外壁61に邪魔板(バッフル)78を設けて実施することもできる。図3においては、外壁61に邪魔板(バッフル)78を取り付けた形態を示す。より詳しくは、外壁61の円筒壁63に邪魔板(バッフル)78を支持する支持部79を設け、支持部79に支持された邪魔板(バッフル)78の先端部がプール部83に向けて突出している。このように、邪魔板(バッフル)78を設けることによって、流体の撹拌を促進する。
また、この実施の形態においては、内壁10は六角柱状であって、その外周面11から径方向外側に突出する複数の突起部16を備える。内壁10は、円柱状や六角柱状、四角柱状など角柱状であってもよく、異形柱状であっても構わない。
【0057】
プール部83に触媒部115を設けて実施することもできる。図4においては、触媒部115として担体に担持された触媒を取り付けた形態を示すことができ、より詳しくは、内壁61に設けられた突起部16と突起部16との間の突起部16のない外周面11に、外径が突起部16と略同じ触媒部115が取り付けられている。触媒部115の外径は突起部16よりも短くてもよい。ここで、触媒部115の外径とは、触媒を担持された担体全体の外径を指す。触媒部115を円盤状の突起部16に取り付けてもよく、その際、内壁10の外周面11と触媒部115との間に空間を設けて触媒部115を円盤状の突起部16に取り付けてもよい。内壁10の外周面11に触媒部115として複数の担体に担持された触媒を周方向に間隔をあけて取り付けてもよい。内壁10とともに触媒部115が回転することから、触媒が担持された担体は回転に耐えうる強度を有するものがよい。また、触媒が担持された担体は、流体を流すためにハニカム状や網目状のものが良く、必要以上に処理空間81を流れる流体に抵抗を生じさせるものは好ましくない。担体に担持された触媒もしくは触媒自体は、固形であって、被処理物の種類や反応の種類により必要に応じて選択して実施することができる。このようにプール部83に触媒部115を備えることにより、効率よく反応を行うことができる。
なお、それぞれの実施の形態は、先の実施の形態と組み合わせて実施することができる。
【0058】
(材質)
内壁10や外壁61は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、各種の金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。
【0059】
(変形例)
次に、図5(A)を参照して、連続撹拌装置Fの変形例について説明する。なお、以下の説明においても連続撹拌装置Fの基本的な構造や作用は同じであり、異なる部分を中心に説明するが、説明のない点については、前記の実施の形態の説明がそのまま適用されるものとする。この変形例にあっても、ラビリンスシール機構を備えその機能を奏する。
【0060】
図5(A)においては、外壁61と内壁10とは共に円錐台筒状であって、外壁61と内壁10とが同心に配置された形態を示すことができる。この例では、図5(A)の下方が被処理物の流れの上流側であり、図5(A)の上方が被処理物の流れの下流側である。例えば、乳化重合反応や懸濁重合反応を行うときに、前処理で好適な乳化状態や懸濁状態とされた流体に対し、処理空間81内において重合反応を行う際に反応中に発生するガスを系外(装置外)に排出する場合に適している。ここで、円錐台筒状とは、断面円形の筒状であって、その径が被処理物の流れの上流側から下流側に向けて漸次大きくなる又は漸次小さくなるものであるが、その径が一定となる部分があってもよい。例えば、後述するように、外壁61と内壁10とのうちの少なくとも一つを間隙調整機構(図示せず)により移動可能に備える場合、被処理物の流れの上流側と下流側においてその径が一定となる部分を設けてもよい。また、ラビリンスシール機構を作用させる部分においてもその径が漸次大きくなる又は漸次小さくなる部分とその径が一定となる部分とがあってもよい。本実施の形態においては、外壁61と内壁10とは共に断面円形の筒状であって、その径が被処理物の流れの上流側から下流側に向けて漸次大きくなるものである。
【0061】
外壁61は、底部62を有する円錐台筒状であって、その開口端には径方向外側に突出するフランジが形成され、外壁61とは別部材である天部76とフランジ67とが固定されることによって閉鎖されている。
内壁10は、円錐台筒状であって、その外周面11から径方向外側に突出する複数の突起部16を備える。本実施の形態においては、突起部16は、平面視円周状をなし、軸方向において所定の間隔をあけて設けられ、突起部16の基端から先端に向けてすぼまっており、径方向において厚みが変化するものである。内壁10は中実の円錐台形状であってもよい。
【0062】
(間隙調整機構)
外壁61と内壁10とのうちの少なくとも一つを間隙調整機構(図示せず)により移動可能に備えてもよい。外壁61と内壁10とのうちの少なくとも一つを移動可能に備えることにより、シール部84の広さを調整可能としている。この実施の形態においては、内壁10を間隙調整機構(図示せず)により同心上で即ち中心軸方向に移動可能に備える。中心軸の位置が変化しないことが好ましい。内壁10を同心上で移動可能に備えることにより、シール部84の広さを調整可能としている。この実施の形態においては、外壁61は円錐台筒状であり、内壁10を同心上で移動可能に備えることにより、突起部16の先端と外壁61の円筒壁63の内周面70との間の微小な間隙を調整可能としている。反応中に発生するガスを抜きたいときや高粘性の被処理物を処理する際にシール部84の広さを調整して比較的広いシール部84を備えることができ有利である。図5(B)(C)は、連続撹拌装置Fの要部説明図であって、内壁10を間隙調整機構(図示せず)により同心上で移動させた際のシール部の広さの変化を示す。実線で内壁10が下降している状態を描き、二点鎖線で内壁10が上昇している状態を描いている。なお、図5(C)は、円柱状である内壁10を間隙調整機構(図示せず)により同心上に移動させた際の要部断面図である。図5(B)(C)に示すように、内壁10を間隙調整機構(図示せず)により同心上で上昇させると、シール部84の広さが広くなる。間隙調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0063】
(マイクロウェーブ照射機構)
外壁61や内壁10には、少なくとも何れか1つにマイクロウェーブを照射する為の、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置をマイクロウェーブ照射機構として備え、処理空間81を流れる流体の加熱、化学反応の促進を行ってもよい。
【0064】
(圧力調整機構)
内壁10や外壁61に、処理空間81を流れる流体の圧力を調整するために、圧力調整機構を備えてもよい。例えば、圧力調整機構として、種々のポンプを用いることができる。処理空間81に負圧をかけてもよい。具体的には、窒素ガスを用いて処理空間81を加圧状態としたり、真空ポンプによる処理空間81の真空度を制御することが挙げられる。
【0065】
処理空間81内で流体の処理が予定される被処理物が供給部75から処理空間81に供給される。供給部75から処理空間81へ供給された被処理物は、処理空間81を流れながら流体の処理がなされ、流出部68から系外(装置外)に排出される。流体の処理とは、反応処理であって、原料の混合と、それに続く反応の進行及び反応生成物を得る処理であり、次のような処理を行うことができる。例えば、流体の滞留、流体の撹拌、流体の混合、熱処理、pH調整、熟成等が挙げられる。この反応処理は、晶出、晶析、析出などを伴うものであってもよく、伴わないものであってもかまわない。例えば、有機反応の場合、滞留処理によって反応の完結を行ってもよいし、その際に撹拌処理を加えても構わない。
【0066】
本発明に係る連続撹拌装置Fは、上述で例示した、第一の流体処理(原料Aと原料Bの混合)と第二の流体処理(原料Aと原料Bとの反応の進行)とを実施するものとして用いてもよい。第一の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fとは異なる装置で実施し、第一の流体処理に続く第二の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fで実施するものとしてもよく、第一の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fで実施し、第一の流体処理に続く第二の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fとは異なる装置で実施してもよい。
また、本発明に係る連続処理装置Fとは異なる装置を用いてプレ分散、プレ乳化、プレ粉砕などの前処理を行った流体に対する流体の処理を行ったり、前処理を行わずにダイレクトに流体の処理を行うなどの展開が可能である。
【0067】
(処理特性の制御)
本発明の連続撹拌装置Fを用いて、流体処理を行うことによって、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、反応時間といった反応条件を調整することができることから、例えば、原料の反応率、選択率、生成物の収率といった処理特性の制御を行うことができるものであり、原料の反応率は、供給された原料に対する反応により消費された原料の割合であり、選択率は、反応により消費された原料が目的生成物の生成に消費された割合であり、生成物の収率は反応率と選択率とを乗じたものである。
【0068】
(非層流条件下)
本発明においては、処理空間81内での流体処理を非層流条件下で行うことが好ましい。供給部75から処理空間81へ供給された流体に対してせん断力を付与したり、下記の式(1)に記載の代表長さLを大きくするなどして乱流状態とし、流体中の分子同士が接触したり衝突したりする頻度を増加させることにより、生成物を得ることもできる。例えば、顔料粒子を含む流体を分散させて顔料分散液を得たい場合に乱流条件下での撹拌は有用である。また、乱流条件下では、温度調整機構Tを流れる熱媒体と処理空間81を流れる流体との熱交換率のアップが期待できる。
流体の運動において、慣性力と粘性力の比を表す無次元数をレイノルズ数と呼び、以下の式(1)で表される。
レイノルズ数Re=慣性力/粘性力=ρVL/μ=VL/ν 式(1)
ここで、ν=μ/ρは動粘度、Vは代表速度、Lは代表長さ、ρは密度、μは粘度を示す。そして、流体の流れは、臨界レイノルズ数を境界とし、臨界レイノルズ数以下では層流、臨界レイノルズ数以上では乱流となる。
【0069】
本願発明に係る連続撹拌装置Fを用いた流体処理方法においては、1の流体の流体処理を行ってもよく2以上の流体の流体処理を行ってもよい。本願発明に係る連続撹拌装置Fを用いた流体処理方法は、乳化、分散、混合、粉砕、反応等の種々の処理に適用することができ、流体処理が反応の場合、例えば特開2009-082902号公報に示された種々の被処理物に対して適用することができ、種々の反応に適用することができるものである。
【符号の説明】
【0070】
10 内壁
61 外壁
81 処理空間
83 プール部
84 シール部
F 連続撹拌装置
図1
図2
図3
図4
図5