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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】能動型騒音制御システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230612BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G10K11/178 140
B60R11/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019096400
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020190662
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-249986(JP,A)
【文献】特開2018-072770(JP,A)
【文献】特開平03-203490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を低減する能動型騒音制御システムであって、
第1キャンセル音を出力する第1スピーカと、
第2キャンセル音を出力する第2スピーカと、
前記第1スピーカから出力する第1キャンセル音と、前記第2スピーカから第2キャンセル音とを、予め設定した第1キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされ、かつ、予め設定した第2キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされるように生成するキャンセル音生成手段とを有し、
前記第1スピーカと第2スピーカは、前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向に並べて、前記線分の方向についての位置が前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントの中点と同じ位置となるように配置されており、
前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントは、所定の座席に着座した人間の左耳が標準的に位置するポイントと、前記人間の右耳が標準的に位置するポイントであることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の能動型騒音制御システムであって、
前記所定の座席は、自動車の座席であり、
前記第1スピーカと第2スピーカとは、前記自動車の前記座席の前方の天井に当該自動車の前後方向に並べて配置されていることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の能動型騒音制御システムであって、
前記キャンセル音生成手段は、第1マイクと、第2マイクと、前記騒音を表す騒音信号を入力し前記第1キャンセル音を生成する第1適応フィルタと、前記騒音を表す騒音信号を入力し前記第2キャンセル音を生成する第2適応フィルタとを有し、
前記第1適応フィルタと前記第2適応フィルタは、第1マイクと第2マイクからの入力音を用いて、前記第1スピーカから出力する第1キャンセル音と前記第2スピーカから第2キャンセル音として、第1キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされ、かつ、第2キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされるように、自身の伝達関数を適応させることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【請求項4】
請求項3記載の能動型騒音制御システムであって、
前記キャンセル音生成手段は、第1補助フィルタと第2補助フィルタとを備え、前記第1適応フィルタと前記第2適応フィルタは、前記第1マイクからの入力音と第1補助フィルタの出力の差と、前記第2マイクからの入力音と第2補助フィルタの出力の差をエラーとして、所定の適応アルゴリズムによって自身の伝達関数を更新し、
前記第1補助フィルタと前記第2補助フィルタには、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントで騒音がキャンセルされる伝達関数が第1適応フィルタと第2適応フィルタに設定されているときに、前記第1マイクからの入力音と当該第1補助フィルタの出力の差が無くなると共に、前記第2マイクからの入力音と当該第2補助フィルタの出力の差が無くなる伝達関数として学習された伝達関数が設定されていることを特徴とする能動型騒音制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御(ANC;Active Noise Control)の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
騒音を打ち消す騒音キャンセル音を放射することにより騒音を低減する能動型騒音制御の技術としては、騒音キャンセル位置の近傍に配置したマイクとスピーカと、騒音源の出力信号もしくは当該出力信号を疑似した信号に適応的に設定した伝達関数を施してスピーカから出力する騒音キャンセル音を生成する適応フィルタとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を補助フィルタを用いて補正したエラー信号として伝達関数を適応的に設定する技術が知られている。
【0003】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音源から騒音キャンセル位置までの伝達関数と騒音源からマイクまでの伝達関数の差と、スピーカから騒音キャンセル位置までの伝達関数とスピーカからマイクまでの伝達関数の差を補正する伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において、騒音をキャンセルしている。
【0004】
また、二つの騒音キャンセル位置のそれぞれに対応する、マイクとスピーカと適応フィルタと補助フィルタとのセットを設け、上述した技術を用いて、各セットにおいて対応する騒音キャンセル位置で騒音をキャンセルする騒音キャンセル音を出力することにより、騒音源から発生する騒音を、二つの騒音キャンセル位置のそれぞれにおいてキャンセルする技術も知られている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-71770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
座席に座ったユーザに聞こえる騒音をキャンセルすることを目的として、座席に座ったユーザの左耳と右耳の標準的な位置を二つの騒音キャンセル位置に設定し、上述した技術によって、騒音源から発生する騒音を二つの騒音キャンセル位置のそれぞれにおいてキャンセルする場合、座席の移動や座席に座ったユーザの動きによるユーザの変位に伴って、ユーザの左耳と右耳が騒音キャンセル位置からずれてしまうと、ユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルできなくなる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、ユーザに聞こえる騒音をキャンセルする、ユーザの変位の影響を受けにくい能動型騒音制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、騒音を低減する能動型騒音制御システムに、第1キャンセル音を出力する第1スピーカと、第2キャンセル音を出力する第2スピーカと、前記第1スピーカから出力する第1キャンセル音と、前記第2スピーカから第2キャンセル音とを、予め設定した第1キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされ、かつ、予め設定した第2キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされるように生成するキャンセル音生成手段とを設け、前記第1スピーカと第2スピーカを、前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向に並べて、前記線分の方向についての位置が前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントの間の位置となるように配置したものである。
【0009】
ここで、このような能動型騒音制御システムは、前記第1スピーカと第2スピーカを、前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向に並べて、前記線分の方向についての位置が前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントの中点と同じ位置となるように配置することが好ましい。
【0010】
ここで、以上のような能動型騒音制御システムは、前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントを、所定の座席に着座した人間の左耳が標準的に位置するポイントと、前記ユーザの右耳が標準的に位置するポイントとしてもよい。
【0011】
また、この場合には、前記所定の座席を、自動車の座席とし、前記第1スピーカと第2スピーカとを、前記自動車の前記座席の前方の天井に当該自動車の前後方向に並べて配置してもよい。
【0012】
ここで、以上の能動型騒音制御システムは、前記キャンセル音生成手段に、第1マイクと、第2マイクと、前記騒音を表す騒音信号を入力し前記第1キャンセル音を生成する第1適応フィルタと、前記騒音を表す騒音信号を入力し前記第2キャンセル音を生成する第2適応フィルタとを設けるようにしてもよい。ここで、前記第1適応フィルタと前記第2適応フィルタは、第1マイクと第2マイクからの入力音を用いて、前記第1スピーカから出力する第1キャンセル音と前記第2スピーカから第2キャンセル音として、第1キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされ、かつ、第2キャンセルポイントにおいて騒音がキャンセルされるように、自身の伝達関数を適応させるものである。
【0013】
また、この場合には、前記キャンセル音生成手段に、第1補助フィルタと第2補助フィルタとを備え、前記第1適応フィルタと前記第2適応フィルタにおいて、前記第1マイクからの入力音と第1補助フィルタの出力の差と、前記第2マイクからの入力音と第2補助フィルタの出力の差をエラーとして、所定の適応アルゴリズムによって自身の伝達関数を更新するように構成すると共に、前記第1補助フィルタと前記第2補助フィルタは、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントで騒音がキャンセルされる伝達関数が第1適応フィルタと第2適応フィルタに設定されているときに、前記第1マイクからの入力音と当該第1補助フィルタの出力の差が無くなると共に、前記第2マイクからの入力音と当該第2補助フィルタの出力の差が無くなる伝達関数として学習された伝達関数が設定されたものとしてもよい。
【0014】
以上のような能動型騒音制御システムによれば、第1スピーカから出力される第1キャンセル音の位相(距離)と第2スピーカから出力される第2キャンセル音の位相(距離)とが第1キャンセルポイントと同様になる第1キャンセルポイント近くの範囲と、第1スピーカから出力される第1キャンセル音の位相と第2スピーカから出力される第2キャンセル音の位相とが第2キャンセルポイントと同様になる第2キャンセルポイント近くの範囲とを、比較的広い範囲とすることができ、これにより、ユーザの変位の影響を受けにくい騒音のキャンセルを実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、ユーザに聞こえる騒音をキャンセルする、ユーザの変位の影響を受けにくい能動型騒音制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムのスピーカとマイクの配置を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る信号処理ブロックの構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムの作用を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御システムの他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示す。
図示するように能動型騒音制御システム1は、信号処理ブロック11、第1スピーカ12、第1マイク13、第2スピーカ14、第2マイク15を備えている。
そして、能動型騒音制御システム1は、自動車に搭載されるシステムであり、自動車の所定の座席に搭乗したユーザの右耳の位置を第1キャンセルポイント、ユーザの左耳の位置を第2キャンセルポイントとして、2つのキャンセルポイントのそれぞれにおいて騒音源2の発生する騒音をキャンセルするシステムである。
【0018】
ここで、図2a1、a2に示すように、第1スピーカ12と第2スピーカ14とは、自動車車内の騒音キャンセルの対象とするユーザが着席する座席(図では右前席)を騒音キャンセル対象座席として、騒音キャンセル対象座席の前方上方の天井に、自動車の前後方向に並べて配置される。また、第1スピーカ12と第2スピーカ14は、その自動車の左右方向についての位置を、騒音キャンセル対象座席の左右方向の中心の位置と一致させて配置する。換言すれば、本実施形態では、第1スピーカ12、第2スピーカ14を、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向(自動車の前後方向)に並べて、前記線分の方向(自動車の左右方向)の位置が、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの中点と同じ位置となるように配置する。
【0019】
また、図2a1、a2に示すように、第1マイク13は、たとえば、騒音キャンセル対象座席に着席したユーザの右耳の標準的な位置の前方上方の天井に配置し、第2マイク15は、たとえば、騒音キャンセル対象座席に着席したユーザの左耳の標準的な位置の前方上方の天井に配置する。
【0020】
図1に戻り、能動型騒音制御システム1の信号処理ブロック11は、騒音源2の発生する騒音を表す騒音信号x(n)と、第1マイク13でピックアップした音声信号である第1マイクエラー信号err1(n)と、第2マイク15でピックアップした音声信号である第2マイクエラー信号err2(n)とを用いて、第1キャンセル信号CA1(n)を生成し第1スピーカ12から出力すると共に、第2キャンセル信号CA2(n)を生成し第2スピーカ14から出力する。
【0021】
ここで、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)は、第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)と共に、第1キャンセルポイントにおいて騒音源2の発生する騒音をキャンセルする。また、第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)は、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)と共に、第2キャンセルポイントにおいて騒音源2の発生する騒音をキャンセルする。
【0022】
次に、図3に、能動型騒音制御システム1の信号処理ブロック11の構成を示す。
信号処理ブロック11は、主として、第1キャンセル信号CA1(n)の生成に関わる処理を行う第1信号処理部111と、主として、第2キャンセル信号CA2(n)の生成に関わる処理を行う第2信号処理部112とを備えている。
【0023】
そして、図示するように、第1信号処理部111は、予め伝達関数H1(z)が設定された第1系補助フィルタ1111、第1系可変フィルタ1112、第1系適応アルゴリズム実行部1113、予め伝達関数S11^(z)が設定された第1系第1推定フィルタ1114、予め伝達関数S21^(z)が設定された第1系第2推定フィルタ1115、第1系減算器1116を備えている。
【0024】
このような第1信号処理部111の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第1系可変フィルタ1112を通って第1キャンセル信号CA1(n)として第1スピーカ12に出力される。
【0025】
また、入力した騒音信号x(n)は第1系補助フィルタ1111を通って第1系減算器1116に送られ、第1系減算器1116は第1マイク13でピックアップした第1マイクエラー信号err1(n)から第1系補助フィルタ1111の出力を減算し、エラーe1として、第1系適応アルゴリズム実行部1113と、第2信号処理部112に出力する。
【0026】
次に、第1系可変フィルタ1112と第1系適応アルゴリズム実行部1113と第1系第1推定フィルタ1114と第1系第2推定フィルタ1115はMultiple Error Filtered-X適応フィルタを構成している。第1系第1推定フィルタ1114には、実測等により算定した第1信号処理部111から第1マイク13までの伝達関数S11(z)の推定伝達特性S11^(z)が予め設定されており、第1系第1推定フィルタ1114は、伝達特性S11^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1113に入力する。また、第1系第2推定フィルタ1115には、実測等により算定した第1信号処理部111から第2マイク15までの伝達関数を表す伝達特性S21(z)の推定伝達特性S21^(z)が予め設定されており、第1系第2推定フィルタ1115は、伝達特性S21^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第1系適応アルゴリズム実行部1113に入力する。
【0027】
そして、第1系適応アルゴリズム実行部1113は、第1系第1推定フィルタ1114で伝達関数S11^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系第2推定フィルタ1115で伝達関数S21^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第1系減算器1116から出力されるエラーe1と、第2信号処理部112から出力されるエラーe2とを入力し、エラーe1、エラーe2が0となるように、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し第1系可変フィルタ1112の伝達関数W1(z)を更新する。
【0028】
第2信号処理部112も第1信号処理部111と同様の構成を備えており、第2信号処理部112は予め伝達関数H2(z)が設定された第2系補助フィルタ1121、第2系可変フィルタ1122、第2系適応アルゴリズム実行部1123、予め伝達関数S22^(z)が設定された第2系第1推定フィルタ1124、予め伝達関数S12^(z)が設定された第2系第2推定フィルタ1125、第2系減算器1126を備えている。
【0029】
このような第2信号処理部112の構成において、入力した騒音信号x(n)は、第2系可変フィルタ1122を通って第2キャンセル信号CA2(n)として第2スピーカ14に出力される。
【0030】
また、入力した騒音信号x(n)は第2系補助フィルタ1121を通って第2系減算器1126に送られ、第2系減算器1126は第2マイク15でピックアップした第2マイクエラー信号err2(n)から第2系補助フィルタ1121の出力を減算し、エラーe2として、第2系適応アルゴリズム実行部1123と第1信号処理部111に出力する。
【0031】
次に、第2系可変フィルタ1122と第2系適応アルゴリズム実行部1123と第2系第1推定フィルタ1124と第2系第2推定フィルタ1125はMultiple Error Filtered-X適応フィルタを構成している。第2系第1推定フィルタ1124には、実測等により算定した第2信号処理部112から第2マイク15までの伝達関数S22(z)の推定伝達特性S22^(z)が予め設定されており、第2系第1推定フィルタ1124は、伝達特性S22^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1123に入力する。また、第2系第2推定フィルタ1125には、実測等により算定した第2信号処理部112から第1マイク13までの伝達関数を表す伝達特性S12(z)の推定伝達特性S12^(z)が予め設定されており、第2系第2推定フィルタ1125は、伝達特性S12^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、第2系適応アルゴリズム実行部1123に入力する。
【0032】
そして、第2系適応アルゴリズム実行部1123は、第2系第1推定フィルタ1124で伝達関数S22^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系第2推定フィルタ1125で伝達関数S12^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、第2系減算器1126から出力されるエラーe2と、第1信号処理部111から出力されるエラーe1を入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1、エラーe2が0となるように第2系可変フィルタ1122の伝達関数W2(z)を更新する。
【0033】
ここで、第1信号処理部111の第1系補助フィルタ1111は、第1マイク13と第1キャンセルポイントの位置の相違分、第1マイクエラー信号err1(n)を補正するために設けられており、第2信号処理部112の第2系補助フィルタ1121は、第2マイク15と第2キャンセルポイントの位置の相違分、第2マイクエラー信号err2(n)を補正するために設けられている。
また、第1信号処理部111の第1系補助フィルタ1111に設定されている伝達関数H1(z)と、第2信号処理部112の第2系補助フィルタ1121に設定されている伝達関数H2(z)は、予め学習して設定した伝達関数であり、学習時の環境下において、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントに学習用のマイクを配置して求めた、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントで各騒音がキャンセルされる伝達関数に、第1系可変フィルタ1112と第2系可変フィルタ1122の伝達関数を固定した状態で求めた、第1系減算器1116が出力するエラーe1と第2系減算器1126が出力するエラーe2が0となる伝達関数H1(z)、伝達関数H2(z)が設定されている。
なお、第1系可変フィルタ1112と第2系可変フィルタ1122の第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントで各騒音がキャンセルされる伝達関数は、環境の変化により、学習時の環境下のものから変化し、この変化を、第1系可変フィルタ1112と第2系可変フィルタ1122の伝達関数に反映するのが上述したNLMSなどの適応アルゴリズムによる伝達関数の更新である。
【0034】
さて、ここで、第1キャンセルポイントの近傍の範囲には第1キャンセルポイントと同様に騒音が伝搬していると見なすことができるので、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相(距離)と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相(距離)とが第1キャンセルポイントと同様になる、第1キャンセルポイント近くの範囲内の位置では、騒音と第1キャンセル信号CA1(n)と第2キャンセル信号CA2(n)の関係が、第1キャンセルポイントと同様となり、騒音キャンセルの効果が期待できる。
【0035】
同様に、第2キャンセルポイントの近傍の範囲には第2キャンセルポイントと同様に騒音が伝搬していると見なすことができるので、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相とが第2キャンセルポイントと同様になる、第2キャンセルポイント近くの範囲内の位置では、騒音と第1キャンセル信号CA1(n)と第2キャンセル信号CA2(n)の関係が、第2キャンセルポイントと同様となり、騒音キャンセルの効果が期待できる。
【0036】
また、上述のように本実施形態においては、第1スピーカ12と第2スピーカ14を、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向(自動車の前後方向)に並べて、前記線分の方向(自動車の左右方向)の位置が第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの中点と同じ位置となるように配置している。
【0037】
そして、図4aの41が第1キャンセルポイントであり、42が第2キャンセルポイントであり、第1スピーカ12を中心する同心円の隣接する円の間が第1キャンセル信号CA1(n)の位相が同じ範囲であり、第2スピーカ14を中心する同心円の隣接する円の間が第2キャンセル信号CA2(n)の位相が同じ範囲であるものとして模式的に二次元で示すと、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相とが第1キャンセルポイント41と同様になる範囲と、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相とが第2キャンセルポイント42と同様になる範囲は共に太線で囲った範囲400となる。
【0038】
したがって、範囲400内の、第1キャンセルポイント41近くの第1キャンセルポイント41と同様に騒音が伝搬している範囲においては、第1キャンセルポイント41と同様の騒音キャンセルの効果を達成でき、範囲400内の、第2キャンセルポイント42近くの第2キャンセルポイント42と同様に騒音が伝搬している範囲においては、第2キャンセルポイント42と同様の騒音キャンセルの効果を達成できる。
【0039】
一方、仮に、第1スピーカ12を第1キャンセルポイントである騒音キャンセル対象座席に着席したユーザの右耳の前方の位置に、第2スピーカ14を第2キャンセルポイントである騒音キャンセル対象座席に着席したユーザの左耳の前方の位置に自動車の左右方向に並べて配置した場合、図4bに示すように、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相とが第1キャンセルポイント41と同様になる範囲は太線で囲った範囲411となり、第1スピーカ12から出力される第1キャンセル信号CA1(n)の位相と第2スピーカ14から出力される第2キャンセル信号CA2(n)の位相とが第2キャンセルポイント42と同様になる範囲は太線で囲った範囲412となり、範囲411、412は共に、図4aのように第1スピーカ12と第2スピーカ14とを配置した場合の範囲400より狭い範囲となる。
【0040】
したがって、本実施形態のように、第1スピーカ12と第2スピーカ14とを、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントを結ぶ線分と垂直な方向に並べて、前記線分の方向についての位置が第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの中点と同じ位置となるように配置することにより、ユーザの変位に影響を受けにくい形態で、ユーザに聞こえる騒音をキャンセルすることができる。
【0041】
なお、図4bにおける第1スピーカ12、第2スピーカ14と、第1キャンセルポイン41ト、第2キャンセルポイント42との自動車の前後方向の距離は、図4aにおける第1スピーカ12、第2スピーカ14と、第1キャンセルポイント41、第2キャンセルポイント42との自動車の前後方向の距離の平均としている。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上の実施形態における、第1スピーカ12と第2スピーカ14の第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントを結ぶ線分の方向についての位置は、必ずしも厳密に、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの中点と同じ位置としなくてもよく、前記線分の方向についての第1スピーカ12と第2スピーカ14の位置は、前記線分の方向についての位置が前記第1キャンセルポイントと前記第2キャンセルポイントの間の任意の位置としてもよく、このようにしても、ある程度の効果を見込むことができる。
【0043】
また、以上の実施形態は、自動車の一つの座席のユーザに対して騒音のキャンセルを行う場合について説明したが、これは、図5a、bに示すように、自動車の各席毎に、第1スピーカ12、第1マイク13、第2スピーカ14、第2マイク15を設けて、各席のユーザに対して騒音のキャンセルを行うようにしてもよい。
【0044】
また、以上の実施形態において、能動型騒音制御システム1に入力する騒音信号x(n)は、騒音源2が出力するオーディオ信号や、騒音源の騒音を別途設けた騒音マイクでピックアップした音声信号や、別途設けた模擬音生成装置で生成した騒音源の騒音を模擬する信号であってもよい。
【0045】
すなわち、たとえば、エンジンを騒音源2をする場合には、別途騒音マイクでピックアップしたエンジン音を騒音信号x(n)としたり、別途設けた模擬音生成装置で生成したエンジン音を模擬した模擬音を騒音信号x(n)とするようにしてよい。
【0046】
また、以上の実施形態における、信号処理ブロック11は、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントの双方で騒音がキャンセルされるように、第1キャンセル信号CA1(n)を生成し第1スピーカ12から出力すると共に、第2キャンセル信号CA2(n)を生成し第2スピーカ14から出力するものであれば、以上で示したものと異なる任意の信号処理を行うものであってよい。
【0047】
また、以上の実施形態は、自動車の座席のユーザに対して騒音のキャンセルを行う場合について説明したが、これは、自動車の座席の任意の座席のユーザの両耳に対して騒音のキャンセルを行う場合を含め、任意の二つのキャンセルポイントの騒音のキャンセルを行う場合に同様に適用することができる。
【0048】
また、以上の実施形態は、騒音源が一つのみである場合について示したが、以上の実施形態は、信号処理ブロック11の構成を各騒音源の各キャンセルポイントへの伝搬を考慮するように拡張することにより、騒音源が複数存在する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…能動型騒音制御システム、2…騒音源、11…信号処理ブロック、12…第1スピーカ、13…第1マイク、14…第2スピーカ、15…第2マイク、111…第1信号処理部、112…第2信号処理部、1111…第1系補助フィルタ、1112…第1系可変フィルタ、1113…第1系適応アルゴリズム実行部、1114…第1系第1推定フィルタ、1115…第1系第2推定フィルタ、1116…第1系減算器、1121…第2系補助フィルタ、1122…第2系可変フィルタ、1123…第2系適応アルゴリズム実行部、1124…第2系第1推定フィルタ、1125…第2系第1推定フィルタ、1126…第2系減算器。
図1
図2
図3
図4
図5