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  • 特許-モールド形静止誘導機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】モールド形静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/02 20060101AFI20230612BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20230612BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
H01F27/02 Z
H01F41/12 D
H01F41/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018165984
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020038927
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】▲陦▼ 裕介
(72)【発明者】
【氏名】城条 雅之
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141794(JP,A)
【文献】特開2015-225894(JP,A)
【文献】特開平06-318521(JP,A)
【文献】特許第6141570(JP,B1)
【文献】特許第6362810(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/198420(WO,A1)
【文献】特開2005-078936(JP,A)
【文献】特開2007-207608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/02
H01F 41/12
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧側巻線及び低圧側巻線を有し前記巻線の表面が絶縁部材で覆われた機器中身と、
箱状に構成されて、前記機器中身との間に冷却用の気体を流すための隙間が確保された状態で前記機器中身を収容し、抵抗値が10Ω以下の接地線を介してA種接地により接地された容器と、
前記容器の内面のうち少なくとも前記高圧側巻線の上端から下端までの外周面に対向する側面領域に設けられ、電気絶縁性を有する塗料によって形成された絶縁塗装部と、
を備え、
前記容器の内側表面は、前記絶縁塗装部が設けられる前の状態において表面加工が施されておらず凹凸を有し、
前記絶縁塗装部は、前記容器の内側表面の前記凹凸を埋めて十点平均粗さでRz6.3以下となるように前記容器の内側表面を滑らかにしている、
モールド形静止誘導機器。
【請求項2】
前記絶縁塗装部は、前記容器の内面うち前記機器中身の上面に対向する領域にも設けられている、
請求項1に記載のモールド形静止誘導機器。
【請求項3】
前記絶縁塗装部は、前記容器の内面のうち前記機器中身に対向する全領域に設けられている、
請求項1又は2に記載のモールド形静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールド形静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻線の表面を樹脂等の絶縁部材でモールドすることで絶縁性能を確保したモールド形静止誘導機器が知られている。このようなモールド形静止誘導機器は、モールドされた巻線を容器内に格納し、その容器内にドライエア等を充填することで、巻線と容器との絶縁を確保して高電圧に適用させている。しかしながら、このようなモールド形静止誘導機器は、一次側つまり高圧側の電圧が高いことから、対地絶縁に対してより高い絶縁性能が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-225894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、対地絶縁に対する絶縁強化の向上を図ることができるモールド形静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のモールド形静止誘導機器は、高圧側巻線及び低圧側巻線を有し前記巻線の表面が絶縁部材で覆われた機器中身と、箱状に構成されて、前記機器中身との間に冷却用の気体を流すための隙間が確保された状態で前記機器中身を収容し、抵抗値が10Ω以下の接地線を介してA種接地により接地された容器と、前記容器の内面のうち少なくとも前記高圧側巻線の上端から下端までの外周面に対向する側面領域に設けられ、電気絶縁性を有する塗料によって形成された絶縁塗装部と、を備える。前記容器の内側表面は、前記絶縁塗装部が設けられる前の状態において表面加工が施されておらず凹凸を有し、前記絶縁塗装部は、前記容器の内側表面の前記凹凸を埋めて十点平均粗さでRz6.3以下となるように前記容器の内側表面を滑らかにしている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態によるモールド形静止誘導機器の概略構成を示す断面図
図2】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、機器中身の概略構成を示す平面図
図3】一実施形態によるモールド形静止誘導機器について、容器及び絶縁塗装部の断面形状を概念的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1及び図2に示すモールド変圧器10は、モールド形静止誘導機器の適用例の一例であり、例えば電力系統や受変電設備に用いられるものである。本実施形態の場合、モールド変圧器10は、U相、V相、W相の巻線を有する三相の変圧器である。なお、モールド変圧器10は、三相変圧器に限られない。
【0008】
モールド変圧器10は、機器中身20、容器30、及び熱交換器40を備えている。機器中身20は、モールド変圧器10の各相に対応して設けられている。例えば本実施形態において、モールド変圧器10は、U相、V相、及びW相を有する三相変圧器であるため、U相、V相、及びW相のそれぞれに対応した3つの機器中身20を備えている。
【0009】
機器中身20は、図2にも示すように、鉄心21、高圧側巻線22、低圧側巻線23、及びスペーサ24を有している。高圧側巻線22は、モールド変圧器10を例えば電力系統に適用した際に高圧電力が入力される1次側の巻線として機能する。また、低圧側巻線23は、モールド変圧器10を例えば電力系統に適用した際に低圧電力を出力する2次側の巻線として機能する。
【0010】
高圧側巻線22及び低圧側巻線23は、表面全体が樹脂等の絶縁部材によって覆われている。つまり、高圧側巻線22及び低圧側巻線23の表面は、電気絶縁性を有する樹脂等の絶縁部材によってモールドされている。高圧側巻線22及び低圧側巻線23は、中心部に鉄心21が通されてコイルを構成している。この場合、高圧側巻線22は、低圧側巻線23の外周側に設けられている。鉄心21の下部は、容器30の底部に支持固定されている。
【0011】
スペーサ24は、図2に示すように、高圧側巻線22と低圧側巻線23との間に設けられている。つまり、スペーサ24は、高圧側巻線22の内周側でかつ低圧側巻線23の外周側に設けられている。スペーサ24は、高圧側巻線22及び低圧側巻線23の全周に亘って波型に形成されている。このスペーサ24により、高圧側巻線22と低圧側巻線23との間に空隙25が形成されて、冷却用の気体を流す空間を確保するとともに、高圧側巻線22と低圧側巻線23との間における必要な絶縁強度を確保している。なお、スペーサ24は、高圧側巻線22と低圧側巻線23と間の絶縁強度及び冷却用の空間を確保できる形状であれば波型に限られない。
【0012】
図1に示す容器30は、モールド変圧器10の外郭を構成するものであり、例えば鋼板等の金属製の筐体を主体として構成されている。容器30は、気密性を有した箱状に構成されている。機器中身20は、容器30の内部に収納されている。詳細は図示しないが、本実施形態の場合、三相各相に対応した3つの機器中身20は、容器30内において等間隔で一列の直線状に配置されている。このため、容器30は、全体として一方向に長い形状、例えば平面視において長方形となる箱状に形成されている。
【0013】
この場合、隣接する機器中身20同士、及び機器中身20と容器30の内壁面とは、それぞれ離間している。これにより、隣接する機器中身20の間、及び機器中身20と容器30の内壁面との間には、それぞれ隙間が確保されている。この隙間によって、冷却用の気体を流す空間を確保するとともに、各機器中身20間、及び機器中身20と容器30の内壁との間における必要な絶縁強度を確保している。
【0014】
容器30は、接地線11及び接地極12を介して、例えばA種接地により接地されている。この場合、接地線11は、抵抗値が10Ω以下で、引張強さが1.04kN以上の金属線または直径2.6mm以上の軟銅線で構成されている。また、接地極12は、銅板、銅棒、又は亜鉛メッキした鉄棒などで構成されており、地中に埋没されている。
【0015】
容器30内は、気密性が維持された密閉空間となっている。この場合、容器30内には大気圧よりも高い圧力のドライエア等の気体が充填される。空気の絶縁耐力はその絶対圧力にほぼ比例する。このため、容器30内に大気圧よりも高い圧力のドライエアを充填することで、モールド変圧器10は、機器中身20を大気圧中に設置した場合に比べてより高い絶縁耐圧を得ることができる。なお、容器30内には、高圧のドライエアに限られず、例えばSF6などの不活性ガスを充填しても良い。
【0016】
また、容器30は、上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32を有している。上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32は、容器30内と熱交換器40とを接続している。すなわち、容器30内と熱交換器40とは、接続ダクト31、32を通して相互に連通している。この場合、上部接続ダクト31は、容器30の上部、具体的には巻線22、23の上端よりも上側に設けられている。また、下部接続ダクト32は、上部接続ダクト31の下方でかつ容器30の下部、具体的には巻線22、23の下端よりも下側に設けられている。
【0017】
熱交換器40は、上部接続ダクト31及び下部接続ダクト32を介して容器30内に連通している。熱交換器40は、機器中身20の動作によって発生した熱を大気中に放熱する機能を有する。容器30内の気体は、機器中身20で発生した熱によって熱せられると、図1の白抜き矢印で示したように、機器中身20の周囲の隙間及び機器中身20の内部に形成された空隙25を通って容器30内を上昇する。
【0018】
そして、容器30内を上昇した気体は、上部接続ダクト31を通って熱交換器40内に流入し、気体の熱が熱交換器40の作用によって大気中に放熱される。その後、放熱して温度が下がった気体は、下部接続ダクト32から容器30内に流入し、機器中身20の周囲の隙間及び空隙25を通って再び上昇する。このようにして容器30内を自然循環する気体の流れが発生し、その気体の流れによって各機器中身20が自然冷却される。なお、例えば接続ダクト31、32内等に送風機を設けて、容器30内の気体を強制循環させる構成としても良い。これによれば、モールド変圧器10内の冷却効率を更に向上させることができる。
【0019】
また、モールド変圧器10は、絶縁塗装部50を備えている。絶縁塗装部50は、容器30の内面のうち少なくとも機器中身20の上端から下端までの外周面に対向する領域、この場合、少なくとも高圧側巻線22の外周面に対向する側面領域301に設けられている。本実施形態の場合、絶縁塗装部50は、容器30の内面のうち、機器中身20の上面に対向する上面領域302、及び機器中身20の下面に対向する底面領域303にも設けられている。つまり、本実施形態の場合、絶縁塗装部50は、容器30の内面のうち機器中身20に対向した全領域に設けられている。なお、本実施形態の場合、絶縁塗装部50は、接続ダクト31、32の内面には設けられていないが、絶縁塗装部50は、接続ダクト31、32の内面に設けられていても良い。
【0020】
絶縁塗装部50は、電気絶縁性を有する塗料を、対象となる領域301、302、303に吹き付けて塗布することで形成されている。本実施形態において、電気絶縁性を有する塗料とは、容器30の内面に絶縁塗装部50が設けられていない場合に比べて、容器30の内面に絶縁塗装部50を設けた場合の方が、絶縁耐圧が高くなる塗料を意味する。この場合、絶縁塗装部50を構成する塗料は、金属粉等の導電性を有する材料が含まれていないことが好ましい。絶縁塗装部50を構成する塗料は、例えば天然樹脂・油脂系塗料、フェノール樹脂塗料、ポリアミド樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料などがある。
【0021】
この場合、容器30の内側表面は、一般に研磨等の表面加工が施されていないため、例えば図3に示すように無数の凹凸を有している。そのため、容器30の内側表面に絶縁塗装部50が設けられていない場合、容器30の内側表面の凹凸が露出し、その凹凸に電界が集中して放電して絶縁破壊が生じる可能性が高まる。一方、本実施形態によれば、絶縁塗装部50は、容器30の内側表面の凹凸を埋めて、容器30の内側表面を滑らかにすることができる。これにより、容器30の内側表面の凹凸に対する電界の集中を抑制することができる。なお、この場合、絶縁塗装部50の表面の粗さは、例えば十点平均粗さでRzJis6.3以下である。
【0022】
以上説明した実施形態によれば、モールド変圧器10は、機器中身20と、容器30と、絶縁塗装部50と、を備える。機器中身20は、高圧側巻線22及び低圧側巻線23を有し、巻線22、23の表面が絶縁部材で覆われている。容器30は、機器中身20を収容している。絶縁塗装部50は、容器30の内面のうち少なくとも高圧側巻線22の上端から下端までの外周面に対向する側面領域301に設けられており、電気絶縁性を有する塗料によって形成されている。
【0023】
これによれば、機器中身20と容器30との間の絶縁のうち特に高電圧となる高圧側巻線22の上端から下端までの外周面部分に対する絶縁は、容器30内に充填されたドライエア等の気体に加え、側面領域301に設けられた絶縁塗装部50の絶縁性能によっても確保される。更に、絶縁塗装部50は、図3に示すように、容器30の内側表面に形成されている多数の凹凸を埋めることで、容器30の内側表面を滑らかにすることができる。これにより、容器30の内側表面の凹凸に対する電界の集中を抑制することで、絶縁破壊を防いで機器中身20と容器30との間の絶縁耐圧をより高いものとすることができる。したがって、本実施形態によれば、モールド変圧器10は、対地絶縁に対する絶縁強化の向上を図ることができる。
【0024】
また、絶縁塗装部50は、容器30の内面うち機器中身20の上面に対向する上面領域302にも設けられている。これによれば、機器中身20の上面に対する絶縁耐圧の向上も図ることができる。したがって、モールド変圧器10は、対地絶縁に対して更なる絶縁強化の向上を図ることができる。
【0025】
そして、絶縁塗装部50は、容器30の内面のうち機器中身20に対向する全領域つまり側面領域301、上面領域302、及び底面領域303の全ての領域に設けられている。これによれば、モールド変圧器10は、機器中身20の外周部分全体に対する絶縁耐圧の向上を図ることができるため、更に高い絶縁耐圧を得ることができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれる内容と同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0027】
図面中、10はモールド変圧器(モールド形静止誘導機器)、20は機器中身、22は高圧側巻線、23は低圧側巻線、30は容器、50は絶縁塗装部、を示す。
図1
図2
図3