(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ジブ起伏機構およびジブ起伏機構を備えたクレーン車
(51)【国際特許分類】
B66C 23/70 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
B66C23/70 G
(21)【出願番号】P 2018200958
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000140719
【氏名又は名称】株式会社加藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 邦広
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081715(JP,A)
【文献】実開平01-099890(JP,U)
【文献】実開昭61-062788(JP,U)
【文献】特表2002-544099(JP,A)
【文献】特開2011-131975(JP,A)
【文献】実公平04-032398(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン車のブームの長さを補う一定の長さのジブであって、使用時には前記ブームに起伏可能に連結され、不使用時には少なくとも一時的に前記ブームの下面に沿って格納されるジブを起伏させるジブ起伏機構であって、
前記ジブに対して長手軸に沿って摺動可能に前記ジブの周囲に配設されたスライドブラケットと、
一端部が前記スライドブラケットに連結されており、他端部が使用時に前記ブームに連結される
並列に設けられた2本のテンションロッドと、
前記ジブの
左側面と右側面に長手軸に沿って
それぞれ配設された
2本のジブ起伏シリンダ構造体を備え、前記ジブ起伏シリンダ構造体は、一端部が前記ジブに連結され、他端部が前記スライドブラケットに連結されており、前記ジブの側面に配置されているジブ起伏機構。
【請求項2】
前記スライドブラケットは、前記ジブの下面に面する前下ブラケットと、前記ジブの上面に面する後上ブラケットとを有し、前記前下ブラケットと前記後上ブラケットは共に前記ジブに対して摺動する摺動部材を有し、前記前下ブラケットと前記後上ブラケットの少なくとも一方は揺動可能に支持されている請求項
1に記載のジブ起伏機構。
【請求項3】
請求項
1または2に記載のジブ起伏機構を有するクレーン車であって、前記クレーン車は、走行車体と、前記走行車体の上に旋回可能に設けられた旋回体とを有し、前記旋回体は、旋回台と、前記旋回台に起伏可能に支持されたブームと、前記クレーン車の運転とクレーン作業の操作ための運転室とを有し、最降伏時の前記ブームの上面は、前記運転室のアイポイントよりも下方に位置し、前記ジブは、不使用時に、少なくとも一時的に前記ブームの下面と前記走行車体の上面との間に格納されるクレーン車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン車のジブ起伏機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、クレーン車のブームに装着されるジブの別のジブ起伏機構を開示している。このジブ起伏機構では、ジブの上面部にブラケットおよびジブ起伏シリンダが設けられている。ジブ起伏シリンダのシリンダチューブの端部がジブに連結され、ピストンロッドの端部をブラケットの長孔に沿って移動可能にするとともにピストンロッドの端部とテンションロッドの一端部が連結される。テンションロッドの他端部はブームの先端部上部に連結される。
【0003】
ジブ起伏シリンダを伸縮することにより、ピストンロッドの先端部が長孔内をジブの長手軸に沿って移動することにより、テンションロッドも移動する。テンションロッドの長さは一定であるので、ジブ起伏シリンダを伸縮することによりジブが起伏される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるジブ起伏機構では、ジブ起伏シリンダとブラケットとがジブの上面より突出している。このため、ジブをブーム下面に格納したとき、ジブ起伏シリンダとブラケットがジブ上面から下方へ突出することになる。これは、ジブとジブ起伏機構を含めた構造体の高さ寸法が大きいと言える。
【0006】
走行時にブームを水平に保持するタイプのクレーン車では、側方前方の監視はブームの下方を通じて行われる。このタイプのクレーン車に特許文献1に開示されるジブ起伏機構が適用された場合、たとえば、ジブよりも下方に突出しているジブ起伏シリンダとブラケットが走行時の視界の妨げになる。
【0007】
また、走行時にブームを前下がりに保持するタイプのクレーン車では、側方前方の監視はブームの上方を通じて行われる。このタイプのクレーン車に特許文献1に開示されるジブ起伏機構が適用された場合、ブームは最大限倒伏されることが望ましい。しかし、ジブよりも下方に突出しているジブ起伏シリンダとブラケットはブームの倒伏角度を制限する。これは、走行時のブーム上方を通じた視界を悪くする。
【0008】
本発明は、このような実状を考慮して成されたものであり、ひとつの目的は、ジブとジブ起伏機構を含めた構造体の高さ寸法が小さいジブ起伏機構を提供することである。また、別の目的は、そのようなジブ起伏機構を備えたクレーン車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるひとつの態様は、クレーン車のブームの長さを補う一定の長さのジブを起伏させるジブ起伏機構である。前記ジブは、使用時には前記ブームに起伏可能に連結され、不使用時には少なくとも一時的に前記ブームの下面に沿って格納される。前記ジブ起伏機構は、前記ジブに対して長手軸に沿って摺動可能に前記ジブの周囲に配設されたスライドブラケットと、一端部が前記スライドブラケットに連結されており、他端部が使用時に前記ブームに連結される並列に設けられた2本のテンションロッドと、前記ジブの左側面と右側面に長手軸に沿ってそれぞれ配設された2本のジブ起伏シリンダ構造体を備えている。前記ジブ起伏シリンダ構造体は、一端部が前記ジブに連結され、他端部が前記スライドブラケットに連結されており、前記ジブの側面に配置されている。
【0010】
本発明による別の態様は、前記ジブ起伏機構を有するクレーン車である。前記クレーン車は、走行車体と、前記走行車体の上に旋回可能に設けられた旋回体とを有している。前記旋回体は、旋回台と、前記旋回台に起伏可能に支持されたブームと、前記クレーン車の運転とクレーン作業の操作ための運転室とを有している。最降伏時の前記ブームの上面は、前記運転室のアイポイントよりも下方に位置している。前記ジブは、不使用時に、少なくとも一時的に前記ブームの下面と前記走行車体の上面との間に格納される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ジブとジブ起伏機構を含めた構造体の高さ寸法が小さいジブ起伏機構が提供される。また、そのようなジブ起伏機構を備えたクレーン車が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るジブ起伏機構を備えたクレーン車であって、ブームが最倒伏状態にあるクレーン車を示している。
【
図2】
図2は、
図1に示された状態に続くジブ振り出し状態にあるクレーン車を示している。
【
図3】
図3は、
図2に示された状態に続くジブ振り出し状態にあるクレーン車を示している。
【
図4】
図4は、
図3に示された状態に続くジブ振り出し状態にあるクレーン車を示している。
【
図5】
図5は、
図4に示された状態に続くジブ振り出し状態にあるクレーン車を示している。
【
図6】
図6は、
図5に示された状態に続くジブ振り出し状態であるブームが最起立時にあるクレーン車を示している。
【
図7】
図7は、
図1に示されたジブ起伏機構の斜視図であり、ブームが最起立時にある状態におけるジブ起伏機構を示している。
【
図8】
図8は、
図7に示されたジブ起伏機構の先端部を拡大して示す斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9に示されたジブの側面図であり、ジブ起伏シリンダが最縮小時にあるジブを示している。
【
図11】
図11は、
図9に示されたジブの側面図であり、ジブ起伏シリンダが中間的な伸長時にあるジブを示している。
【
図12】
図12は、
図9に示されたジブの側面図であり、ジブ起伏シリンダが最伸長時にあるジブを示している。
【
図19】
図19は、テンションロッドの格納時における
図7に示されたテンションロッド受け部の斜視図である。
【
図20】
図20は、テンションロッドの解放時における
図7に示されたテンションロッド受け部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るジブ起伏機構を備えたクレーン車10について
図1~
図20を参照して説明する。まず、クレーン車10について
図1~
図6を参照して説明する。
図1~
図6に示されるように、クレーン車10は、走行車体11と、走行車体11の上に旋回可能に設けられた旋回体13とを備えている。旋回体13は、旋回台13Aと、旋回台13Aに起伏可能に支持されたブーム14と、クレーン車10の運転とクレーン作業の操作のための運転室15とを備えている。また、ブーム14と旋回台13Aとの間には、ブーム14を起伏させるためのブーム起伏装置12が設けられている。ブーム起伏装置12は、ブーム14と旋回台13Aに連結されたブーム起伏シリンダ(図示しない)を備えている。ブーム14には、ワイヤロープを介して主フック17Aが支持されている。ブーム14にはまた、後述するジブ30の不使用時において、補巻ワイヤロープを介して補フック17Bが支持されている。最降伏時のブーム14の上面は、運転室15のアイポイントよりも下方に位置する。ここで、アイポイントは、標準的な背格好の作業者が運転室15の運転席に座ったときの目の高さ位置を意味している。走行車体11の前側と後側には、それぞれアウトリガ16が設けられている。
【0014】
また、旋回体13は、ブーム14の長さを補うジブ30と、ジブ30を起伏させるジブ起伏機構18とを備えている。ジブ30は、長手軸に沿って一定の長さを有している。ジブ30は、使用時には、ブーム14に連結される。また、ジブ30は、不使用時には、ブーム14の下面に沿って、ブーム14の下面と走行車体11の上面との間に格納される。言い換えれば、ジブ30は、下抱き状態でブーム14の下側に格納される。ジブ起伏機構18は、ジブ30と一体化されている構造体であり、ジブ30の不使用時には、ジブ30と共に格納される。
【0015】
ブーム14とジブ30の相互間には、ブーム14にジブ30を連結しておくジブ連結機19が設けられている。ジブ連結機19は、ジブ30が格納位置に配置されたときにブーム14にジブ30を連結し、ブーム14の伸長によってジブ30がブーム14の先端側に移動されたときにブーム14とジブ30の連結が外れるように構成されている。
【0016】
たとえば、ジブ連結機19は、ブーム14に固定されたジブ連結ピンと、ジブ30に固定されたジブ連結リングとを備えている。ジブ連結ピンは、ブーム14の長手軸に平行に、ブーム14の先端側に向かって延びている。ジブ30がブーム14に沿ってブーム14の基端側に移動されて格納位置に配置される際にジブ連結ピンがジブ連結リングに挿入されることによりブーム14にジブ30が連結される。反対に、ジブ30がブーム14に沿ってブーム14の先端側に格納位置から移動される際にジブ連結ピンがジブ連結リングから抜けることにより、ブーム14とジブ30の連結が外れる。
【0017】
ここで、ジブ起伏機構18について
図7~
図20を参照して説明する。
図7に示されるように、ブーム14は、伸縮式の多段ブーム21と、多段ブーム21の先端ブームの先端に固定されたブームヘッド22とを備えている。ブームヘッド22は、ブームリンク24を備えている。ブームリンク24は、一端部がブームヘッド22のガイドシーブシャフトによって軸支されており、ブームヘッド22に対して回動可能に支持されている。
【0018】
図7と
図9に示されるように、ジブ30は、長手軸に垂直な断面が箱形形状のジブ前方部分31と、二股に分かれたジブ後方部分32とから構成されている。ここにおいて、ジブ30がブームヘッド22に連結される側を後方、その反対側を前方としている。ジブ30の後方の端部を基端部、ジブ30の前方の端部を先端部と称する。また、以下の説明において、ジブ30の上面と下面は、ジブ30が水平に振り出された状態を基準にしている。
【0019】
ジブ後方部分32の二股の部分は、主フック17Aが通過できる間隔を有している。ジブ後方部分32は、後端部に、ブームヘッド22に連結されるジブフート部32aを有している。ジブフート部32aは、ブームヘッド22のブームトップシーブシャフトにジブフートピンにより着脱自在に連結されるように構成されている。たとえば、ジブフート部32aは、ブームトップシーブシャフトに係合する凹部を有する二股状のフォーク部と、脱落防止のためにジブフートピンが挿入されるフォーク部の一対の端部に形成された貫通穴とを有している。
【0020】
ジブ前方部分31は、差し込み構造の2段式であり、外側の1段ジブ31aと、内側の2段ジブ31bとから構成されている。1段ジブ31aは、
図17に示されるように、長手軸に垂直な断面が角丸四角形の筒状の構造体である。
図8と
図13と
図14に示されるように、2段ジブ31bの先端部には、補巻ワイヤロープを掛けまわすジブトップシーブ33が設けられている。1段ジブ31aと2段ジブ31bは、連結部38を介して連結されている。
【0021】
図7~
図12に示されるように、ジブ起伏機構18は、ジブ30に対して長手軸に沿って摺動可能に配設されたスライドブラケット34を備えている。詳しくは、スライドブラケット34は、1段ジブ31aの周囲に配設されている。
【0022】
ジブ起伏機構18はまた、スライドブラケット34を移動させるジブ起伏シリンダ構造体を備えている。ジブ起伏シリンダ構造体は、1段ジブ31aの左側面と右側面に長手軸に沿ってそれぞれ配設された2本のジブ起伏シリンダ35を備えている。各ジブ起伏シリンダ35は、一端部が1段ジブ31aの後端部に固定されており、他端部がスライドブラケット34に連結されている。好ましくは、各ジブ起伏シリンダ35は、シリンダチューブの端部が1段ジブ31aの後端部に固定されており、ピストンロッドの端部がスライドブラケット34に連結されている。各ジブ起伏シリンダ35は、ジブ前方部分31の1段ジブ31aの側面に配置されている。各ジブ起伏シリンダ35は、
図10~
図12に示されるように、ジブ前方部分31の1段ジブ31aの上面と下面の間に配置されている。
【0023】
図7~
図8に示されるように、ジブ30はまた、2本のジブ起伏シリンダ35の中間部を保持する2つのシリンダ中間保持部36を備えている。各ジブ起伏シリンダ35は、ピストンロッドが出没する側のシリンダチューブの端部が各シリンダ中間保持部36によって保持されている。
【0024】
ジブ起伏シリンダ35の中間部がシリンダ中間保持部36によって保持されることによって、ジブ起伏シリンダ35が両端部と中間部の3個所で支持されるため、ジブ起伏シリンダ35の見かけ上の座屈強度が向上される。また、ジブ起伏シリンダ35の実質的な座屈強度を相対的に低下させた設計として、ジブ起伏シリンダ35の軽量化を図ることも可能である。
【0025】
図7~
図8に示されるように、ジブ起伏機構18はまた、テンションロッド構造体を備えている。テンションロッド構造体は、並列に設けられた2本のテンションロッド41を備えている。各テンションロッド41は、一端部がスライドブラケット34に連結されており、他端部が使用時にブームヘッド22のブームリンク24に連結される。
【0026】
各テンションロッド41は、テンションロッド本体42とエクステンション43とを備えている。エクステンション43は、一端部がスライドブラケット34に軸支されており、回動可能に支持されている。エクステンション43は、筒状をしており、テンションロッド本体42の一部が挿入可能となっている。つまり、テンションロッド本体42はエクステンション43に対して移動可能となっている。言い換えれば、テンションロッド41は、伸縮可能となっている。テンションロッド本体42とエクステンション43には、テンションロッドセットピンを挿入するための貫通穴が形成されている。貫通穴は、テンションロッド41が所定の長さになったときに整列する位置に形成されている。テンションロッド41は、テンションロッド本体42とエクステンション43の貫通穴にテンションロッドセットピンを挿入することにより、所定の長さに維持されるように構成されている。テンションロッド本体42の端部は、使用時にブームヘッド22のブームリンク24にピンにより連結される。
【0027】
図15~
図18に示されるように、スライドブラケット34は、1段ジブ31aの上面に面する前上ブラケット51と、1段ジブ31aの下面に面する前下ブラケット52と、前上ブラケット51と前下ブラケット52を接続している一対の横ブラケット53とを備えている。スライドブラケット34はまた、1段ジブ31aの上面に面する後上ブラケット54を備えている。後上ブラケット54は、前上ブラケット51に支持されている。
【0028】
前上ブラケット51は、前述したように2本のテンションロッド41(図示省略、
図7参照)がそれぞれ連結されている2本のテンションロッド連結ピン61と、前述したように2本のジブ起伏シリンダ35がそれぞれ連結されている2本のジブ起伏シリンダ連結ピン62(図示省略、
図7参照)とを備えている。
【0029】
前上ブラケット51は、1段ジブ31aの丸角部に面する部分に、1段ジブ31aに接する摺動部材である前上スライド板55を備えている。前下ブラケット52は、1段ジブ31aの丸角部に面する部分に、1段ジブ31aに接する摺動部材である前下スライド板56を備えている。前下ブラケット52は、ブラケット接続ピン58によって軸支されており、揺動可能に支持されている。後上ブラケット54は、1段ジブ31aの丸角部に面する部分に、1段ジブ31aに接する摺動部材である後上スライド板57を備えている。後上ブラケット54は、ブラケット接続ピン59によって軸支されており、揺動可能に支持されている。
【0030】
図15に示されるように、スライドブラケット34は、ジブ起伏シリンダ35の最長ストロークを規制する一対のストッパ60を前端面に備えている。また、
図14に示されるように、1段ジブ31aと2段ジブ31bの間の連結部38は、ストッパ60を受けるストッパ受け39を備えている。
【0031】
左右のジブ起伏シリンダ35の伸長側ストロークエンド直前で、スライドブラケット34のストッパ60とストッパ受け39が接触することにより、1段ジブ31aおよびスライドブラケット34に対するジブ起伏シリンダ35の接続部の左右の製造誤差や左右のジブ起伏シリンダ35の全長誤差に影響されることなく、左右のジブ起伏シリンダ35の最大ストロークが均等にでき、ジブ最起立の位置にスライドブラケット34の位置決めができる。
【0032】
ここでは、スライドブラケット34の位置決めするひとつの手法として、ストッパ60とストッパ受け39を用いる例を説明したが、これに代えて、ジブ起伏シリンダ35のストロークセンサーを用いて、ジブ最起立の位置にスライドブラケット34を位置決めする構成としてもよい。
【0033】
また、左右のジブ起伏シリンダ35の駆動回路において、左右のジブ起伏シリンダ35は、カウンタバランシングバルブまたはホールディングバルブと各ジブ起伏シリンダ35との間において、バイパス回路によって連結されている。これにより、左右のジブ起伏シリンダ35の負荷保持側を連通することにより、左右同圧となり、同時伸縮が可能となり、ジブ30を安定して起伏させることができる。
【0034】
前述したように、ジブ30は、下抱き状態でブーム14の下側に格納される。格納状態では、テンションロッド41は、重力方向に関して、ジブ30よりも下側に位置する。このため、
図7に示されるように、ジブ起伏機構18は、ジブ30の格納時に、2本のテンションロッド41をそれぞれ支持する2つのテンションロッド保持機構37を備えている。各テンションロッド保持機構37は、ジブ30に固定されている。
【0035】
図19~
図20に示されるように、テンションロッド保持機構37は、ジブ30に固定されたベース部71と、揺動可能にベース部71に支持された揺動シャフト73と、揺動シャフト73に回転可能に支持されたローラ74とを備えている。ベース部71は、テンションロッド41を受ける凹部を有している。揺動シャフト73は、一端部がピン72によって軸支されており、ベース部71に対して揺動可能である。また、揺動シャフト73は、他端部から突出するように付勢されているピンを内蔵している。揺動シャフト73には、ピンを軸方向に移動させるためのノブ75が設けられている。ノブ75は、揺動シャフト73に形成された長穴を通って揺動シャフト73内のピンに固定されている。
【0036】
また、テンションロッド保持機構37は、テンションロッド41の保持時に揺動シャフト73を保持する格納時保持部76と、テンションロッド41の解放時に揺動シャフト73を保持する解放時保持部77とを備えている。格納時保持部76と解放時保持部77は共に、揺動シャフト73に内蔵されているピンと係合する貫通穴を有している。
【0037】
ジブ30を格納する準備段階において、
図19に示されるように、テンションロッド41がベース部71の凹部に受けられ、揺動シャフト73が格納時保持部76に係合される。これにより、テンションロッド41は、ベース部71とローラ74の間に保持される。ジブ30を使用する準備段階において、後述するように、テンションロッド41をブームリンク24と接続するために、テンションロッド41を引き出す操作が行われる。その際、ローラ74は、重力方向に関して、テンションロッド41の下側に位置する。これにより、テンションロッド41の引き出し操作に必要は力がローラ74によって軽減される。
【0038】
ジブ30を使用する準備段階として、テンションロッド41は、
図19に示される状態から、ノブ75の操作によって揺動シャフト73と格納時保持部76の係合が解除され、ジブ30の振り出しの邪魔にならないように、揺動シャフト73が約270度回転されるとともに、ノブ75の操作によって揺動シャフト73が解放時保持部77に係合される。
【0039】
また、ジブ30を使用する準備段階とジブ30を格納する準備段階において、ジブ30は、ブームヘッド22と連結された状態でブーム14の伸縮により、格納位置から移動される。この移動の際にジブ30を案内するため、
図7に示されるように、多段ブーム21の基端ブームの先端部にブーム側格納ガイド81が設けられ、また、ジブ30にジブ格納ガイド82が設けられている。ブーム側格納ガイド81とジブ格納ガイド82は、ジブ30の移動の際に、ジブ30を適切な位置へ案内する働きをする。
【0040】
次に、ジブ30の振り出し作業について
図1~
図6を参照して説明する。
図1~
図6には、ジブ30の振り出し作業における一連の工程が描かれている。
【0041】
まず、
図1に示されるように、アウトリガ16によって、クレーン車10を地面に対して安定化させる。ジブフート部32aはブームヘッド22のブームトップシーブシャフトに係合されており、ジブフート部32aの貫通穴にジブフートピンを挿入するとともに抜け止めの処理を施すことにより、ジブ30をブームヘッド22に連結する。
【0042】
また、テンションロッド本体42をエクステンション43から引き出し、テンションロッド本体42をブームヘッド22のブームリンク24に連結することにより、テンションロッド41をブームリンク24に連結する。テンションロッド保持機構37による保持を解除して、テンションロッド41を解放する。
【0043】
次に、
図2に示されるように、ブーム14を最起立させる。続いて、ブーム14を所定の長さたとえば0.5m伸長させる。これにより、ジブ連結機19によるブーム14に対するジブ30の連結が解除され、
図3に示されるように、ジブ30が重力方向に垂れ下がる。その際、主フック17Aは、ジブ30のジブ後方部分32の二股の部分の間を通る。
【0044】
その後、
図4に示されるように、ブーム14を倒伏させ最縮小させるとともに、補フック17Bを接地直前まで巻き下げ、ジブ起伏機構18に対する次の作業を地上の作業者が行える程度までブーム14を倒伏させる。その後、補フック17Bは地面に着地させる。
【0045】
次に、
図5に示されるように、テンションロッド本体42とエクステンション43の貫通穴にテンションロッドセットピンを挿入し、テンションロッド41の伸縮を規制して、テンションロッド41を一定の長さに固定する。また、補巻ワイヤロープをジブトップシーブ33(
図8と
図13と
図14を参照)に取りつける。
【0046】
続いて、
図6に示されるように、ブーム14を最起立させる。ブーム14の最起立直後のジブ30は、最倒伏状態にあり、
図6にジブ30Aとして最も下側に描かれている。このとき、ジブ起伏シリンダ35は、最縮小の状態であり、
図10に描かれている。その後、ジブ起伏シリンダ35を伸長させるにつれて、ジブ30は起立していく。ジブ起伏シリンダ35が中間的に伸長された状態が
図11に描かれており、これに対応して起立されたジブ30が
図6にジブ30Bとして中間に描かれている。また、ジブ起伏シリンダ35が最伸長された状態が
図12に描かれており、これに対応して最起立されたジブ30が
図6にジブ30Cとして最も上側に描かれている。
【0047】
本実施形態に係るジブ起伏機構18においては、ジブ起伏シリンダ35は、ジブ30の1段ジブ31aの側面に配設されており、さらに、
図10~
図12に示されるように、1段ジブ31aの上面と下面の間に配置されている。言い換えれば、ジブ起伏シリンダ35は、1段ジブ31aの上面と下面から突出していない。つまり、ジブ起伏機構18は、ジブ30の格納時における高さ寸法が小さく構成されている。言い換えれば、ジブ30とジブ起伏機構18を含めた構造体は、ジブ30の格納時における高さ寸法が小さく構成されている。このため、ジブ30の格納時におけるジブ30とジブ起伏機構18とブーム14を含めた構造体の高さ寸法が小さい。これにより、ブーム14を大きく降伏させることができ、運転室15からの側方前部の視界が良好となる。
【0048】
ジブの振り出しの際にジブの基部の二股の部分の間を主フックが通過するタイプであって、ジブの上面にジブ起伏シリンダを備えているジブ起伏機構においては、ジブの振り出し作業の際にジブ起伏シリンダと補フックや補巻ワイヤロープとの干渉が懸念される。これに対して、本実施形態に係るジブ起伏機構18においては、ジブ起伏シリンダ35がジブ30の側面に配設されているので、ジブ起伏シリンダ35と補フック17Bや補巻ワイヤロープとの干渉の心配がない。このため、ジブ起伏シリンダ35のシリンダロッドを保護する必要がない。
【0049】
作業時も含めて、ジブ起伏シリンダ35と補巻きワイヤロープの干渉を考慮しなくてよいため、補巻きワイヤロープのガイドローラが不要であり、補巻きワイヤロープをジブトップシーブ33に直接掛けれるので、補巻きワイヤロープの痛みが少ない。
【0050】
テンションロッドの張力がジブだけにかかる従来構成とは異なり、本実施形態に係るジブ起伏機構18においては、テンションロッド41の張力が、ジブ30だけにかかるのではなく、ジブ起伏シリンダ35やスライドブラケット34にも分散される。たとえば、
図14に示されるように、テンションロッド41の張力F1は、ジブ30の長手軸に平行な力成分F1aと、ジブ30の上面に垂直な力成分F1bとに分けられる。力成分F1aは、ジブ30を圧縮させる力成分であり、ジブ起伏シリンダ35を介してジブ30に伝達される。また、力成分F1bは、ジブ30を湾曲させる力成分であり、スライドブラケット34を介してジブ30に伝達される。このように、テンションロッド41の張力F1は、ジブ30に直接かかるのではなく、ジブ起伏シリンダ35やスライドブラケット34にも分散されるため、そのぶんジブ30が受ける負荷が軽減され、ジブ30自体の軽量化を図ることができる。
【0051】
特許文献1に開示されるジブ起伏機構においては、ジブ起伏シリンダ(油圧シリンダ9)が長いほど、ガイドレール(ブラケット6)の長さおよび補強が必要となり、重量が大きくなる。これに対して、本実施形態に係るジブ起伏機構18においては、ジブ30の1段ジブ31aはスライドブラケット34のレールとして使用されるため、補強部材も必要とせず、ジブ起伏シリンダ35のストロークに影響されない。
【0052】
ジブ起伏シリンダをジブの内部に配設する構成とは異なり、本実施形態に係るジブ起伏機構18においては、ジブ起伏シリンダ35がジブ30の側面に配設されているので、ジブ30は中空の内部空間を有する。このため、たとえば、ジブ30を複数段ジブに構成して長尺ジブにするとともに、複数段ジブの伸縮装置たとえばジブ伸縮シリンダを複数段ジブの内部空間に収納することが可能となる。
【0053】
本実施形態に係るジブ起伏機構18は、ジブ30の1段ジブ31aの両側面にそれぞれ配設された2本のジブ起伏シリンダ35を有しているので、ただ1本のジブ起伏シリンダを有するジブ起伏機構と比較して小径のジブ起伏シリンダをジブ起伏シリンダ35に採用することができる。また、小径のジブ起伏シリンダは、ジブ30の上面と下面の間に配設することを容易にする。
【0054】
本実施形態に係るジブ起伏機構18において、
図14に示されるように、スライドブラケット34がジブ起伏シリンダ35による推力F2を受けたとき、
図18に示されるように、1段ジブ31aを下面から支持する前下ブラケット52は、スライドブラケット34の上部に設けられた前上ブラケット51に比べて、大きい反力F3を受ける。前下ブラケット52が1段ジブ31aに片当たりすると、大きな集中負荷が生じる。しかし、前下ブラケット52は、揺動可能に支持されているため、1段ジブ31aに片当たりすることなく、均等に反力F3を受けることができる。これにより、1段ジブ31aとスライドブラケット34に集中負荷が生じることを避けることができる。
【0055】
また、前上ブラケット51の後方に位置する後上ブラケット54は、前上ブラケット51に比べて、大きい反力F4を受ける。やはり、後上ブラケット54が1段ジブ31aに片当たりすると、大きな集中負荷が生じる。しかし、前下ブラケット52と同様に、後上ブラケット54は、揺動可能に支持されているため、1段ジブ31aに片当たりすることなく、均等に反力F4を受けることができる。これにより、1段ジブ31aとスライドブラケット34に集中負荷が生じることを避けることができる。
【0056】
また、スライドブラケット34のジブ長手軸に沿った長さが小さくなるほど、ストロークが同一のジブ起伏シリンダ35に対して、スライドブラケット34の摺動範囲すなわちジブ30の起伏範囲は大きくできる。その反面、スライドブラケット34の前下ブラケット52が受ける反力F3も大きくなり、大きな集中負荷が発生しやすくなる。しかし、前下ブラケット52は、揺動可能に支持されているため、均等に反力F3を受けるようになり、大きな集中負荷の発生を避けつつ、ジブ30の起伏範囲を大きくすることができる。
【0057】
運転室のアイポイントがブームの上面よりも上方に位置するクレーン車においては、ブームを最大限倒伏させることが望ましい。本実施形態に係るジブ起伏機構18を備えたクレーン車10においては、前述したように、ジブ30の格納時におけるジブ30とジブ起伏機構18とブーム14を含めた構造体の高さ寸法が小さいため、ブーム14を大きく降伏させることができ、運転室15からの側方前部の視界が良好となる。
【0058】
実施形態の説明では、本実施形態のジブ起伏機構18が、不使用時にジブ30を下抱き状態で格納するクレーン車に適用された例について説明したが、本実施形態のジブ起伏機構18は、不使用時にジブ30をいったん下抱き状態にして格納した後に横抱き状態にして格納するクレーン車に適用されてもよい。前述したように、ジブ起伏シリンダ35が1段ジブ31aの上面と下面から突出しておらず、ジブ30とジブ起伏機構18とブーム14を含めた構造体の高さ寸法が小さいので、ジブ30が横抱きされた状態において、ジブ起伏シリンダ35が1段ジブ31aから横方向に突出しておらず、ジブ30とジブ起伏機構18とブーム14を含めた構造体の横方向への広がりが小さいので、走行車体上における作業スペースを狭める程度が少ない。
【0059】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。ここにいう様々な変形や変更は、上述した実施形態を適当に組み合わせた実施も含む。
【符号の説明】
【0060】
10…クレーン車、11…走行車体、12…ブーム起伏装置、13…旋回体、14…ブーム、15…運転室、16…アウトリガ、17A…主フック、17B…補フック、18…ジブ起伏機構、19…ジブ連結機、21…多段ブーム、22…ブームヘッド、24…ブームリンク、30…ジブ、30A…ジブ、30B…ジブ、30C…ジブ、31…ジブ前方部分、31a…1段ジブ、31b…2段ジブ、32…ジブ後方部分、32a…ジブフート部、33…ジブトップシーブ、34…スライドブラケット、35…ジブ起伏シリンダ、36…シリンダ中間保持部、37…テンションロッド保持機構、38…連結部、39…ストッパ受け、41…テンションロッド、42…テンションロッド本体、43…エクステンション、51…前上ブラケット、52…前下ブラケット、53…横ブラケット、54…後上ブラケット、55…前上スライド板、56…前下スライド板、57…後上スライド板、58…ブラケット接続ピン、59…ブラケット接続ピン、60…ストッパ、61…テンションロッド連結ピン、62…ジブ起伏シリンダ連結ピン、71…ベース部、72…ピン、73…揺動シャフト、74…ローラ、75…ノブ、76…格納時保持部、77…解放時保持部、81…ブーム側格納ガイド、82…ジブ格納ガイド、F1…張力、F1a…力成分、F1b…力成分、F2…推力、F3…反力、F4…反力。