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特許7292885被検流体中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】被検流体中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/024 20060101AFI20230612BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G01N29/024
G01N11/00 A
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019009298
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2019128356
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】A 50062/2018
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】513304183
【氏名又は名称】アントン パール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Anton Paar GmbH
【住所又は居所原語表記】Anton-Paar-Strasse 20, A-8054 Graz-Strassgang, Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ロセガー
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト ブライドラー
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト アムズュース
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス シャントル
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-181097(JP,A)
【文献】特表2017-504807(JP,A)
【文献】特開2017-090120(JP,A)
【文献】特開2008-164465(JP,A)
【文献】特開昭60-067839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0178474(US,A1)
【文献】Roman Beigelbeck,Resonant pressure wave setup for simultaneous sensing of longitudinal viscosity and sound velocity of liquids,Meas.Sci.Technol.,2013年,Vol.24,pp.125101-1~15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01N 11/00-11/16
G01H 5/00
G01F 1/66-1/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検流体(1)中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための方法であって、
・音響パルスを発生させて、前記被検流体(1)に伝達し、
・前記音響パルスを、前記被検流体(1)中の所定の測定経路(4)の通過後に記録し、
・前記測定経路(4)の通過後に受信された最初の音響パルスの初回到着(Tof1,Tof2)を検出して、前記被検流体(1)中の前記受信された最初の音響パルスの伝播時間を特定する、
方法において、
・前記被検流体(1)に関する粘度値(η)を設定または決定し、
・前記受信された最初の音響パルスの前記伝播時間と、前記粘度値(η)と、を使用して、前記被検流体(1)中の音響速度を特定する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
・それぞれ既知の粘度(η)を有する複数の流体に関して、前記粘度(η)と前記受信された最初の音響パルスの初回到着偏差(ΔTof)との間の関係性に関する第1の補正テーブルを用意し、
・前記第1の補正テーブルと、設定または決定された前記粘度値(η)と、を用いて、前記被検流体(1)に関する前記受信された最初の音響パルスの、測定時に得られた前記初回到着の前記粘度(η)に関する補正を実施し、
・前記受信された最初の音響パルスの補正された前記伝播時間と、前記所定の測定経路(4)の長さと、からの計算によって、前記被検流体(1)中の音響速度を特定する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度(η)を有する複数の流体に関して、前記受信された最初の音響パルスの前記初回到着(Tof1,Tof2)に関する第1の調整テーブルを用意し、
・前記受信された最初の音響パルスの前記初回到着(Tof1,Tof2)と、設定または決定された前記粘度値(η)と、を使用して、前記第1の調整テーブルを用いて前記被検流体(1)中の音響速度を特定する、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記受信された最初の音響パルスの前記初回到着(Tof1,Tof2)として、
・前記音響パルスの記録された最初の最大値の後の前記音響パルスの最初のゼロ交差、または、
・前記音響パルスの記録された最初の到達、または、
・前記記録された最初の音響パルスの最初の最大値のピーク位置
を検出する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
・前記被検流体(1)に関する既知の粘度値(η)または粘度(η)の既知の数値範囲を設定するか、または、
・複数の流体に関する、既知の粘度値(η)または粘度(η)の既知の数値範囲からなるデータベースを用意し、前記被検流体(1)に関する前記粘度値(η)または粘度(η)の既知の数値範囲を前記データベースにおいて決定する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記被検流体(1)に関する前記粘度値(η)を、前記粘度(η)を検出するための測定方法を用いて、とりわけ屈曲振動子を用いて決定する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
・それぞれ既知の粘度(η)を有する複数の流体に関して、前記粘度(η)と前記測定経路(4)の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅(P;P1,P2)との間の関係性に関する第2の調整テーブルを用意し、
・前記被検流体(1)中の、前記測定経路(4)の通過後に受信された最初の音響パルスの前記パルス幅(P;P1,P2)を検出し、
・前記第2の調整テーブルと、前記受信された最初の音響パルスの検出された前記パルス幅(P;P1,P2)と、を用いて、前記被検流体(1)の前記粘度値(η)を決定する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記受信された最初の音響パルスの前記パルス幅(P;P1,P2)として、
・前記音響パルスを最初に受信した時点と、前記音響パルスの記録された最初のゼロ交差と、の間の期間、または、
・前記受信された最初の音響パルスの半値幅
を検出する、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度(η)を有する複数の流体に関して、前記粘度(η)と前記受信された最初の音響パルスの初回到着偏差(ΔTof)との間の関係性に関する第1の補正テーブルまたは前記受信された最初の音響パルスの前記初回到着(Tof1,Tof2)に関する第1の調整テーブルを、複数の異なる温度において用意し、
・前記測定中に前記被検流体(1)の温度を検出し、
・前記測定時に得られた前記音響速度を前記第1の補正テーブルまたは前記第1の調整テーブルを用いて補正する際に、前記温度を考慮する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
・前記粘度(η)と前記受信された最初の音響パルスの初回到着偏差(ΔTof)との間の関係性に関する第1の補正テーブルと、前記粘度(η)と前記測定経路(4)の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅(P;P1,P2)との間の関係性に関する第2の調整テーブルと、を使用して、1つの共通の補正テーブルを作成し、
・前記初回到着偏差(ΔTof)を、前記被検流体(1)に関して検出された前記パルス幅(P;P1,P2)と、前記共通の補正テーブルと、を用いて特定し、
・前記受信された最初の音響パルスの補正された前記伝播時間と、前記所定の測定経路(4)の長さと、からの計算によって、前記被検流体(1)中の音響速度を特定するか、
または
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度(η)を有する複数の流体に関する、前記受信された最初の音響パルスの前記初回到着(Tof1,Tof2)に関する第1の調整テーブルと、それぞれ既知の粘度(η)を有する複数の流体に関する、前記粘度(η)と前記パルス幅(P;P1,P2)との間の関係性に関する前記第2の調整テーブルと、を使用して、1つの共通の補正テーブルを作成し、
・前記受信された最初の音響パルスの、前記被検流体(1)に関して検出された前記初回到着(Tof1,Tof2)と、前記被検流体(1)に関して検出された前記パルス幅(P;P1,P2)と、を使用して、前記共通の補正テーブルを用いて前記音響速度を特定する、
請求項7から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記被検流体の粘度(η)は、1000mPa・sよりも大きい、かつ/または、
前記測定経路(4)の長さは、1cm未満である、
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
被検流体(1)中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための装置であって、
・前記装置は、音響パルスを送出するための音響パルス発生器(2)と、到来した音響パルスを記録するための音響パルス受信器(3)と、を含み、前記音響パルス発生器(2)と前記音響パルス受信器(3)との間には、測定セル(5)内の所定の測定経路(4)が配置されており、
・前記装置は、前記音響パルス発生器(2)および前記音響パルス受信器(3)に接続された評価ユニット(6)を含む、
装置において、
前記評価ユニットは、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法を実施するように構成されている
ことを特徴とする、装置。
【請求項13】
前記被検流体(1)の温度を検出するための、前記評価ユニット(6)に接続されたセンサ(7)が設けられている、
請求項12記載の装置。
【請求項14】
・前記音響パルス発生器(2)および前記音響パルス受信器(3)は、前記測定経路(4)の一方の端部に配置された、1つの組み合わせられた音響パルス発生器/受信器として構成されており、
・前記測定経路(4)の他方の端部には、前記音響パルス発生器/受信器に向かい合うように音響反射性の界面が配置されており、
・前記音響パルス発生器/受信器は、音響パルスを送出するために、到来した音響パルスを記録することによって励起可能である、
請求項12または13記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載された被検流体中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための方法および請求項12の上位概念に記載された装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、流体中の音響速度を特定するための種々の装置が公知である。このような装置では、例えば固体-流体-固体の層連続体を通過するように音響パルスが送信され、流体層を通過するパルスの伝播時間から音響速度が計算される。さらに、音響パルスが固体と流体の界面に衝突し、音響パルスのうちの界面で反射された成分が検査される、音響速度を特定するための装置が公知である。
【0003】
実験室での測定の場合には、例えば支持構造内のわずかな寸法を有する流量測定セルまたはサンプル容器において、できるだけわずかなサンプル量で音響速度の測定を実施することが望ましい。従来技術から公知の方法における欠点は、音響パルスが流体を通過する際にエネルギ散逸または減衰を引き起こすプロセスまたは粘度のような流体特性が、音響速度を特定する際に考慮されないことである。このことは、特に測定セルの構造寸法が小さい場合、または測定経路が短い場合には、特定される音響伝播時間の歪曲をもたらすこととなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、音響伝播時間を特定する際における被検流体の粘度に起因する測定誤差の簡単な近似的補正を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被検流体中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための方法であって、
・音響パルスを発生させて、被検流体に伝達し、
・音響パルスを、被検流体中の所定の測定経路の通過後に記録し、
・測定経路の通過後に受信された最初の音響パルスの初回到着を検出して、被検流体中の受信された最初の音響パルスの伝播時間を特定する、
方法において、請求項1に記載された特徴によって上記の課題を解決する。
【0006】
本発明によれば、
・被検流体に関する粘度値を設定または決定し、
・受信された最初の音響パルスの伝播時間と粘度値とを使用して、被検流体中の音響速度を特定する
ことが企図される。
【0007】
被検流体中の音響速度をできるだけ正確に特定するために、本発明による方法では、
・それぞれ既知の粘度を有する複数の流体に関して、粘度と受信された最初の音響パルスの初回到着偏差との間の関係性に関する第1の補正テーブルを用意し、
・第1の補正テーブルと設定または決定された粘度値とを用いて、被検流体に関する受信された最初の音響パルスの、測定時に得られた初回到着の粘度に関する補正を実施し、
・受信された最初の音響パルスの補正された伝播時間と、所定の測定経路の長さと、からの計算によって、被検流体中の音響速度を特定する
ことを企図することができる。
【0008】
本発明の択一的な実施形態では、被検流体中の音響速度を特に簡単かつ正確に特定するために、
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度を有する複数の流体に関して、受信された最初の音響パルスの初回到着に関する第1の調整テーブルを用意し、
・受信された最初の音響パルスの初回到着と、設定または決定された粘度値と、を使用して、第1の調整テーブルを用いて被検流体中の音響速度を特定する
ことを企図することができる。
【0009】
音響パルスの伝播時間を十分な精度で特定することができるようにするために、受信された最初の音響パルスの初回到着として、
・音響パルスの記録された最初の最大値の後の音響パルスの最初のゼロ交差、
または
・音響パルスの記録された最初の到達、
または
・記録された最初の音響パルスの最初の最大値のピーク位置
を検出することを企図することができる。
【0010】
音響速度または音響パルスの伝播時間における粘度に起因した測定誤差を簡単かつ正確に補正することを保証するために、
・被検流体に関する既知の粘度値または粘度の既知の数値範囲を設定するか、
または
・複数の流体に関する、既知の粘度値または粘度の既知の数値範囲からなるデータベースを用意し、被検流体に関する粘度値または粘度の既知の数値範囲をデータベースにおいて決定する
ことを企図することができる。
【0011】
補正のために、被検流体に関する粘度の特に精確な測定データを使用することができるようにするために、被検流体に関する粘度値を、粘度を検出するための測定方法を用いて、とりわけ屈曲振動子を用いて決定することを企図することができる。
【0012】
受信された最初の音響パルスのパルス幅と粘度との間の関係性を使用して、音響パルスの伝播時間から粘度を検出するための簡単な方法は、
・それぞれ既知の粘度を有する複数の流体に関して、粘度と測定経路の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅との間の関係性に関する第2の調整テーブルを用意し、
・被検流体中の、測定経路の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅を検出し、
・第2の調整テーブルと、受信された最初の音響パルスの検出されたパルス幅と、を用いて、被検流体の粘度値を決定する
ことによって提供することができる。
【0013】
パルス幅を十分な精度で検出することができるようにするために、受信された最初の音響パルスのパルス幅として、
・音響パルスを最初に受信した時点と、音響パルスの記録された最初のゼロ交差と、の間の期間、
または
・受信された最初の音響パルスの半値幅
を検出することを企図することができる。
【0014】
音響速度に対する補正値を決定する際に、音響パルスの伝播時間に対する粘度の影響と同時に温度の影響を考慮するために、
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度を有する複数の流体に関して、粘度と初回到着偏差との間の関係性に関する第1の補正テーブル、または受信された最初の音響パルスの初回到着に関する第1の調整テーブルを、複数の異なる温度において用意し、
・測定中に被検流体の温度を検出し、
・測定時に得られた音響速度値を第1の補正テーブルまたは第1の調整テーブルを用いて補正する際に、温度を考慮する
ことを企図することができる。
【0015】
被検流体中の音響パルスの伝播時間の測定から、粘度依存性の音響速度に対する補正値を特に簡単に得るために、本発明による方法では、
・粘度と初回到着偏差との間の関係性に関する第1の補正テーブルと、粘度とパルス幅との間の関係性に関する第2の調整テーブルと、を使用して、1つの共通の補正テーブルを作成し、
初回到着偏差を、被検流体に関して検出されたパルス幅と、共通の補正テーブルと、を用いて特定し、
受信された最初の音響パルスの補正された伝播時間と、所定の測定経路の長さと、からの計算によって、被検流体中の音響速度を特定するか、
または
・それぞれ既知の音響速度および既知の粘度を有する複数の流体に関する、受信された最初の音響パルスの初回到着に関する第1の調整テーブルと、それぞれ既知の粘度を有する複数の流体に関する、粘度とパルス幅との間の関係性に関する第2の調整テーブルと、を使用して、1つの共通の補正テーブルを作成し、
受信された最初の音響パルスの、被検流体に関して検出された初回到着と、被検流体に関して検出されたパルス幅と、を使用して、共通の補正テーブルを用いて音響速度を特定する
ことを企図することができる。
【0016】
高粘度を有する流体を測定する際には大きな測定誤差が発生し、小さい構造寸法の測定セルの場合には全信号を評価できないので、被検流体の粘度を、1000mPa・sよりも大きくし、かつ/または測定経路の長さを、1cm未満にすることを企図することができる。
【0017】
被検流体中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための本発明による装置であって、
・当該装置は、音響パルスを送出するための音響パルス発生器と、到来した音響パルスを記録するための音響パルス受信器と、を含み、音響パルス発生器と音響パルス受信器との間には、測定セル内の所定の測定経路が配置されており、
・当該装置は、音響パルス発生器および音響パルス受信器に接続された評価ユニットを含む、
本発明による装置は、評価ユニットが、本発明による方法を実施するように構成されていることを企図する。
【0018】
粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定する際に温度も考慮するために、被検流体の温度を検出するための、評価ユニットに接続されたセンサが設けられていることを企図することができる。
【0019】
本発明による装置を特にコンパクトな構造様式で提供するために、
・音響パルス発生器および音響パルス受信器が、測定経路の一方の端部に配置された、1つの組み合わせられた音響パルス発生器/受信器として構成されており、
・測定経路の他方の端部には、音響パルス発生器/受信器に向かい合うように音響反射性の界面が配置されており、
・音響パルス発生器/受信器が、音響パルスを送出するために、到来した音響パルスを記録することによって励起可能である
ことを企図することができる。
【0020】
本発明のさらなる利点および実施形態は、明細書および添付の図面から明らかになる。
【0021】
以下、特に有利であるが限定するものとして理解すべきではない本発明の実施例を、添付の図面に基づいて概略的に図示し、図面を参照しながら例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による音響測定セルの構造を概略的に示す概略図である。
図2】1つの流体に関する受信信号を示す概略図である。
図3】それぞれ異なる粘度を有する2つの流体からの受信信号を示す概略図である。
図4】パルス幅がプロットされた、図2の受信信号を示す概略図である。
図5】パルス幅がプロットされた、図3の受信信号を示す概略図である。
図6】粘度に対してプロットされた、音響パルスの伝播時間の偏差を示す概略図である。
図7】パルス幅と粘度との間の関係性を示す概略図である。
図8】粘度に対してプロットされた、音響速度の偏差を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、被検流体1中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための本発明による装置10を示す。装置10は、被検流体1が収容されている測定セル5と、音響パルスを送出するための音響パルス発生器2と、到来した音響パルスを記録するための音響パルス受信器3と、を含む。音響パルス発生器2と音響パルス受信器3とは、測定セル5の横方向外側に相互に向かい合うように配置されている。音響パルス発生器2としては、例えば圧電型の超音波信号発生器が適しており、音響パルス受信器3としては、対応する超音波信号受信器が適している。
【0024】
音響パルス発生器2と音響パルス受信器3との間には、測定セル5内の測定経路4が配置されており、音響パルス発生器2および音響パルス受信器3には、評価ユニット6が接続されている。音響パルス受信器3に到来した音響パルスまたは受信信号が固体伝播音波によって妨害されることを阻止するために、測定経路4の長さは、音響パルス発生器2と音響パルス受信器3との間の距離が固体成分よりも格段に長くなるように選択されている。
【0025】
図示の実施例では、評価ユニット6は、音響パルスを所定の時点に出力するように音響パルス発生器2を駆動し、音響パルス受信器3によって提供されたデータが、評価ユニット6によって受信および評価される。評価ユニット6は、粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための本発明による方法を実施するように構成されており、これについては以下により詳細に説明する。択一的に、本発明による装置10では、評価ユニット6が別個の制御ユニットまたはエレクトロニクスユニットを有することも可能である。
【0026】
図1に示す実施例ではさらに、被検流体1の温度を検出するための温度センサ7が測定セル5に配置されており、評価ユニット6に接続されている。
【0027】
このように構成された本発明による装置10は、例えば流体が管路を通流している間に、例えば流体中の音響伝播時間を特定するために使用することができる。この場合における管路は、被検流体1が収容されている測定セル5であると見なすことができる。音響パルス発生器2と音響パルス受信器3とは、それぞれ管路の外側周面に相互に向かい合うように配置されている。
【0028】
択一的に、本発明による装置10を、プロセスラインに取り付けるために使用することも可能であり、この場合にはプロセスラインが、測定セル5として使用される。この場合、音響パルス発生器2および音響パルス受信器3は、小さな寸法を有するフォーク形状の構成部品に配置されており、この構成部品上に相互に向かい合うように位置している。
【0029】
本発明による装置10は、実験室での測定をできるだけわずかなサンプル量を使用して実施するためにも適している。この場合には、被検流体1を内部に貯蔵するために測定セル5として、例えば支持構造内のわずかな寸法を有する流量測定セルまたはサンプル容器が使用される。
【0030】
図1に示す実施例では、評価ユニット6は、音響パルス発生器2から音響パルスが出力されるように音響パルス発生器2を駆動する。この際、固体-流体-固体の層連続体を通過するように音響パルスが送信され、この場合には測定セル5の外壁が、それぞれ固体を表している。音響パルスは、被検流体1中の所定の測定経路4の通過後に音響パルス受信器3によって記録され、測定経路4の通過後に受信された最初のパルスの初回到着Tof1,Tof2(図2)が検出され、被検流体1中の受信された最初の音響パルスの伝播時間が、評価ユニット6によって特定される。
【0031】
図2は、被検流体1における受信信号の一例を示し、ここでは、信号強度Iがy軸上に任意単位[a.u.]でプロットされており、これに対して伝播時間tがx軸上にμs単位でプロットされている。音響パルスの伝播時間とは、音響パルス発生器2が音響パルスを送出した時点である励起時点T0と、測定経路4の通過後に受信された最初の音響パルスを音響パルス受信器3が記録した時点である初回到着Tof1と、の間に経過した期間であると見なされる。
【0032】
この場合、初回到着Tof1,Tof2として、音響パルス受信器3において受信された最初の音響パルスの最初のゼロ交差が検出され、このゼロ交差は、図3図5に示すように、音響パルスの記録された最初の最大値の後に記録される。このような検出の場合には、音響パルス受信器3における初回到着を特に正確に検出することが可能である。
【0033】
択一的に、初回到着Tof1,Tof2として、音響パルス受信器3における音響パルスの記録された最初の到達、または音響パルス受信器3に到来した最初の音響パルスの最初の最大値のピーク位置を検出することもできる。
【0034】
基本的に、音響パルスのこの伝播時間と測定経路4の長さとから被検流体1の音響速度を計算することができる。実際の伝播時間は、受信器における信号の最初の勾配によって特徴付けられる。図3に概略的に示す実施例のように、評価のための初回到着として最初のゼロ交差Tof1が選択される場合には、伝播時間がさらにパルス幅P1(図4参照)の量の分だけ補正される。
【0035】
音響速度は、例えば、測定経路4の長さを音響パルスの実際の伝播時間で割ったものから得られる。受信された音響パルスの開始信号、すなわち受信信号の記録開始は、十分な精度で検出できないことが多いので、受信された音響パルスの記録された最初のゼロ交差が、受信された最初の音響パルスの初回到着Tof1として検出される。
【0036】
音響パルスが流体中を伝播する際における音響速度は、物質特性量であり、物質を特徴付けるために使用することができる。多くの液体の溶液および混合物の場合には、音響速度が成分の濃度に正比例しているので、有利にはこの音響速度を、例えば2成分系における濃度検出のために使用することができる。別の物質特性量として、流体中の音響速度と、流体の圧縮率および密度と、の間の関係性を利用して音響速度を特定することによって、密度を検出することができる。
【0037】
したがって、被検流体1の物質特性量をできるだけ正確に特徴付けるためには、被検流体1中の音響速度をできるだけ正確に特定することが望ましい。音響パルスが被検流体1を通過する際に、音響パルスは、エネルギ散逸を引き起こす種々のプロセスによって減衰を受ける。音響パルスの周波数組成は、流体1と通過する界面とによって変化し、その一方で、粘度ηが高くなると減衰が増加し、ひいては周波数組成の変化が増大する。
【0038】
したがって、音響パルス受信器3に到来した音響パルスは、それぞれ異なる振幅を有する複数の異なる周波数における複数の異なる音響位相速度からなる重ね合わせであり、これを完全にピックアップして分析することは不可能である。
【0039】
図3は、図2に示す被検流体1に関する受信された音響パルスを、より遅い音響速度およびより高い粘度ηまたはより大きな減衰を有する別の流体と共に概略的に示す。ここでは、信号強度Iがy軸上に任意単位[a.u.]でプロットされており、これに対して伝播時間tがx軸上にμs単位でプロットされている。第2の流体の音響速度がより遅いことは、応答信号の開始が遅れていることと、初回到着Tof2が時間的に遅れて実施されることとにおいて現れており、その一方で、被検流体1と比較して粘度ηがより高いこと、または減衰がより大きいことは、信号振幅がより小さくなっていることにおいて現れている。
【0040】
グループ速度、すなわち複数の粘性媒体の複数の異なる音響位相速度からなる重ね合わせはさらに、音響パルス発生器2の周波数に依存している。音響伝播時間または音響速度を特定する際にこのようにして発生する測定誤差は、測定経路4の長さが1cm未満である測定セル5の場合には格別である。なぜなら、このように短い測定経路4の場合には、音響パルス受信器3に到来した受信信号を完全に評価することがもはや不可能だからである。発生する測定誤差はさらに、被検流体1が1000mPa・sを上回る高粘度である場合には特に顕著である。
【0041】
測定経路が短く構成されればされるほど、評価エレクトロニクスは、より高速にスイッチング可能またはピックアップ可能でなければならなくなる。現在利用可能な評価エレクトロニクスは、サンプリング周波数が低すぎるので、伝播距離が短い場合には、周波数スペクトルを完全にピックアップして評価することが不可能である。
【0042】
驚くべきことに、到来した音響信号の減衰および広がりを引き起こす流体中の種々の影響にもかかわらず、本明細書では、補正のための一次近似において粘度ηを使用することが可能であり、既知の粘度(および場合によっては速度)を有する複数の流体に関する個々の値を検出することによって得られる簡単な補正テーブルまたは補正関数によって、音響速度を特定することが可能である。
【0043】
図3において、音響パルスが送出された時点T0と記録された初回到着Tof2との間における音響パルスの測定された伝播時間が、例えば調整または較正測定によって流体に関する既知の音響速度に対応付けられる場合には、音響パルスまたは受信信号が強力に減衰される場合に、初回到着Tof2が実際の初回到着のTof’2とは偏差することが見て取れる。図3からは、測定された初回到着Tof2が実際の初回到着Tof’2と比較して量ΔTofだけ偏差していることが見て取れる。したがって、初回到着偏差ΔTofの大きさは、粘度ηに依存しているが、例えば温度にも依存している。
【0044】
被検流体1中の音響速度値を特定するための従来技術から公知の装置および方法では、この粘度に起因した減衰が考慮されていない。
【0045】
被検流体1中の粘度依存性の音響速度に対する補正値を決定するための本発明による装置10または本発明による方法では、音響伝播時間を特定する際に、粘度ηによって生じる測定誤差が補正される。この場合には例えば、それぞれ既知の粘度ηを有する複数の流体に関して、粘度ηと受信された最初の音響パルスの初回到着偏差ΔTofとの間の関係性に関する第1の補正テーブルが用意され、被検流体1に関する粘度値ηが設定または決定される。
【0046】
続いて、被検流体1に関する受信された最初の音響パルスの、測定時に得られた初回到着Tof1,Tof2の粘度ηに関する補正が実施され、このために第1の補正テーブルと、設定または決定された粘度値ηと、が使用される。最後に、受信された最初の音響パルスの補正された伝播時間と、所定の測定経路4の長さと、から、被検流体1中の音響速度が特定される。
【0047】
これによって、長さが1cm未満である短い測定経路4を有する測定セル5における音響伝播時間または音響速度の正確な評価も保証されている。なぜなら、このように測定セル5の構造寸法が小さい場合には、例えば音響パルス受信器3に到来した音響パルスまたは受信信号のフーリエ変換によって受信信号を完全に評価することは、もはや不可能だからである。
【0048】
図6は、粘度ηと受信された最初の音響パルスの初回到着偏差ΔTofとの間の関係性に関する第1の補正テーブルの一例を示す。図6では、初回到着偏差ΔTofが、ミリ秒単位でプロットされており、これに対して粘度ηの平方根(sqrt)が、mPa・s単位でプロットされている。そのような第1の補正テーブルを作成するために、複数の流体、好ましくは少なくとも6つの流体が測定され、そこから初回到着偏差ΔTofの補正値が決定される。初回到着偏差ΔTofは、粘度ηに依存しているので、被検流体1の検出された粘度ηにおける、検出され測定された初回到着Tof1,Tof2に対して、保存されている第1の補正テーブルから補正すべき誤差を導出することが可能である。
【0049】
第1の較正テーブルを作成するために、例えば既知の音響速度を有する複数の調整サンプルが使用される。この際、各々の調整サンプルに関して測定された、音響パルス発生器2が音響パルスを送出する時点T0と、初回到着Tof1,Tof2、すなわち音響パルス受信器3における受信信号の記録された最初のゼロ交差と、の間の期間が、これらの調整サンプル、例えば標準溶液に関する既知の音響伝播時間によって調整される。
【0050】
このことはつまり、音響パルスの伝播時間と測定経路4の長さとから計算された音響速度が、調整サンプルの既知の音響速度と比較され、調整サンプルに関して既知である粘度ηにおいて、粘度に起因した初回到着偏差ΔTofが導出されるということを意味する。
【0051】
したがって、本発明による方法では、被検流体1の音響速度を特定するために、検出された初回到着Tof1,Tof2が粘度依存性の誤差の分だけ補正される。
【0052】
温度もまた、初回到着偏差ΔTofに影響を与えるので、本発明による方法では任意選択的に、粘度ηと初回到着偏差ΔTofとの間の関係性に関する第1の補正テーブルを、複数の異なる温度において用意することもできる。
【0053】
被検流体の温度は、被検流体1の測定中に例えばセンサ7によって検出され、その後、測定時に得られた音響速度値を第1の補正テーブルを用いて補正する際に考慮される。
【0054】
この場合には、第1の補正テーブルを作成する際に、複数の調整サンプル、好ましくは少なくとも6つの調整サンプルが、複数の異なる温度、好ましくは少なくとも3つの異なる温度において測定され、そこから第1の補正テーブルが作成され、この第1補正テーブルにおいて、初回到着偏差ΔTofを特定する際に粘度および温度に起因した誤差が考慮される。このようにして、被検流体1に関して測定された初回到着Tof1,Tof2を補正する際に粘度および温度に起因した歪曲が補正される。
【0055】
択一的に、音響速度の評価と組み合わせられた初回到着ΔTofの補正によるモデル化も可能である。
【0056】
択一的に、被検流体1中の音響速度を、受信された最初の音響パルスの伝播時間から第1の調整テーブルを用いて特定または導出することができる。このために、それぞれ既知の音響速度および既知の粘度ηを有する複数の流体における調整測定によって、受信された最初の音響パルスの初回到着Tof1,Tof2に関する第1の調整テーブルが用意される。調整テーブルとは、流体iの初回到着Tofiまたは伝播時間が、それぞれ流体iの既知の音響速度に対応付けられている対応付けテーブルである。したがって、第1の調整テーブルと、被検流体1に関して検出された初回到着Tof1,Tof2と、被検流体1に関して決定または設定された粘度ηと、を用いて、音響速度に対する補正値を導出することができる。
【0057】
本発明による装置10または本発明による方法では、初回到着偏差ΔTofを補正するため、または音響速度を補正するために必要とされる粘度値ηが、被検流体1に関して設定または決定される。図1に示す装置10の場合には、例えば被検流体1に関する既知の粘度値ηまたは粘度ηの既知の数値範囲が設定され、例えば評価ユニット6に入力される。
【0058】
択一的に、被検流体1に関する既知の粘度値ηまたは粘度ηの既知の数値範囲からなるデータベースを用意することができ、被検流体1に関する粘度値ηまたは粘度ηの既知の数値範囲をデータベースにおいて決定することができる。複数の異なる流体に関する既知の粘度値ηまたは粘度ηの既知の数値範囲からなるこのようなデータベースを、例えば評価ユニット6に保存しておくことができる。
【0059】
択一的に、被検流体1に関する粘度値ηを、粘度ηを検出するための測定方法を用いて、とりわけ屈曲振動子を用いて決定することができる。このために例えば、粘度ηを検出するための測定装置が本発明による装置10と組み合わされるか、または粘度ηを検出するための測定装置の別の評価ユニットが評価ユニット6に接続され、これによって被検流体1に関して検出された粘度測定値が、装置10の評価ユニット6に伝送される。
【0060】
択一的に、本発明による方法または本発明による装置10では、被検流体に関する粘度ηを、音響パルス受信器3における到来した最初の音響パルスまたは受信信号のパルス幅を検出することによってほぼ直接的に検出することもできる。
【0061】
第1の被検流体1に関して図4に示すように、受信された最初の音響パルスのパルス幅P,P1,P2として、好ましい公知の方法によって、到達した最初の音響パルスの半値幅が検出される。図4では、信号強度Iがy軸上に任意単位[a.u.]でプロットされており、これに対して伝播時間tがx軸上にμs単位でプロットされている。半値幅は、最大振れ値の半分の高さにおける、音響パルス受信器3において受信された信号の全幅を表すものである。このことは、検出が困難な開始信号、すなわち音響パルスの最初の受信の時点を正確に評価する必要がなくなり、製造者側で検出された、粘度ηとパルス幅P,P1,P2との間の関係性を提示する第2の調整テーブルを、これによって簡単に作成することが可能となるという利点を提供する。
【0062】
択一的に、受信された最初の音響パルスのパルス幅P,P1,P2として、開始信号、すなわち音響パルスを最初に受信した時点と、音響パルスの記録された最初のゼロ交差と、の間の期間を検出することができる。
【0063】
パルス幅P,P1,P2は、被検流体1による減衰と、音響パルス発生器2の励起周波数と、被検流体1の温度および粘度ηと、に依存している。この場合、音響パルス発生器2の励起周波数と測定経路4の長さとは一定であり、また、温度も一定であると仮定すると、粘度ηが唯一の可変変数であると見なすことができる。
【0064】
図7は、ナノ秒単位のパルス幅Pと粘度ηの平方根(sqrt)との間の関係性を示す。ここでは、音響パルス発生器2の励起パルスが同じ場合、音響パルス受信器3に到来した音響パルスが、比較的高粘度の媒体中の伝播時に、比較的低粘度の媒体中の伝播時よりも強力に減衰されていることが見て取れる。この状況は、一方では信号振幅の減少をもたらし、他方ではパルス幅P,P1,P2の増加をもたらす。
【0065】
このことを図5でも見て取ることができ、ここでは、信号強度Iがy軸上に任意単位[a.u.]でプロットされており、これに対して伝播時間tがx軸上にμs単位でプロットされており、被検流体1の記録された最初の音響パルスのパルス幅P1は、別の流体のパルス幅P2よりも小さく、また信号振幅は、別の流体の信号振幅よりも大きい。
【0066】
パルス幅P,P1,P2から粘度ηを検出するために、それぞれ既知の粘度ηを有する複数の流体に関して、粘度と測定経路4の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅P,P1,P2との間の関係性に関する第2の調整テーブルが用意される。図7には、このような第2の調整テーブルまたは調整関数の一例が示されている。
【0067】
次に、被検流体1中の、測定経路4の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅Pが検出され、第2の調整テーブルまたは調整関数と、受信された最初の音響パルスの検出されたパルス幅Pと、を用いて、被検流体1の粘度値が決定される。
【0068】
図7において見て取れるように、パルス幅Pは、粘度ηに依存して変化し、粘度ηが増加するにつれて増加する。パルス幅の変化は、初回到着偏差ΔTofを引き起こす。上述したように粘度ηが把握されると、この初回到着偏差ΔTofを、既知の測定経路4と、音響パルス発生器2の一定の励起周波数と、を有する所定の測定セル種類に関して、例えば補正テーブルを用いて補正することができる。
【0069】
場合によっては2つのステップ、すなわち、パルス幅P,P1,P2を用いて被検流体の粘度ηを検出するステップと、被検流体1の検出された粘度ηに基づいて初回到着偏差ΔTofを特定するステップと、を、単一の共通の補正テーブルに保存すること、または共通の補正関数として保存することもできる。このような共通の補正テーブルまたは補正関数は、評価ステップにおいて、被検流体に関して検出されたパルス幅P,P1,P2から出発して、粘度に起因した初回到着偏差ΔTofを提供し、この粘度に起因した初回到着偏差ΔTofを、被検流体の音響速度を特定する際に考慮することができる。
【0070】
この共通の補正テーブルを作成するために、それぞれ既知の粘度ηおよび音響速度を有する複数のサンプル、好ましくは少なくとも6つのサンプルにおける複数の補正測定が実施される。初回到着偏差ΔTofと、パルス幅P,P1,P2から導出される粘度ηと、の間の関係性を記述するために、通常、高次多項式が必要とされる。好ましくは、例えば二次多項式による記述のためには、既知の粘度ηおよび音響速度を有する少なくとも6つ以上のサンプルが必要である。
【0071】
択一的に、それぞれ既知の音響速度および既知の粘度ηを有する複数の流体に関する、受信された最初の音響パルスの初回到着Tof1,Tof2を提示する第1の調整テーブルと、それぞれ既知の粘度ηを有する複数の流体に関する、粘度ηとパルス幅P;P1,P2との間の関係性を提示する第2の調整テーブルと、から、1つの共通の補正テーブルまたは補正関数を作成することができる。
【0072】
このようにして、共通の補正テーブルと、受信された最初の音響パルスの、被検流体1に関して検出された初回到着Tof1,Tof2と、検出されたパルス幅P;P1,P2と、を用いて、粘度依存性の音響速度に対する補正値を簡単に決定することができる。
【0073】
場合によっては、共通の補正テーブルまたは共通の補正関数において、対応する多項式形成および調整測定によって、サンプルの温度を考慮することもできる。
【0074】
任意選択的に、被検流体1の測定中に温度を測定し、初回到着Tof1,Tof2を補正する際に考慮することができる。したがって、被検流体1に関する初回到着の補正、または特定された伝播時間の補正は、粘度および温度に依存しており、これら2つの変数を、測定または既知の基準値によって音響速度を評価するために利用することが可能である。
【0075】
図8は、音響速度の偏差Δvが毎秒メートル単位でプロットされており、これに対して既知の音響速度を有する被検流体1に関する粘度ηの平方根(sqrt)がプロットされている線図を示し、このために、音響速度を評価する際に粘度ηに基づく補正が実施された。この際、粘度ηは、それぞれの流体に関する、測定経路4の通過後に受信された最初の音響パルスのパルス幅Pから検出された。図8において見て取れるように、粘度に起因した初回到着偏差を考慮することにより、被検流体1の音響速度に関して検出された測定値の顕著な改善がもたらされる。
【0076】
択一的に、音響パルス発生器2および音響パルス受信器3が、1つの組み合わされた音響パルス発生器/受信器として構成されるように、本発明による装置10を構成することも可能であり、この場合には、音響パルス発生器/受信器は、測定経路4の一方の端部に配置されている。測定経路4の他方の端部には、音響パルス発生器/受信器に向かい合うように音響反射性の界面が配置されており、音響パルス発生器/受信器は、音響パルスを送出するために、到来した音響パルスを記録することによって励起可能である。すなわち、組み合わされた音響パルス発生器/受信器によって送出された音響パルスが、固体-流体の界面に衝突して反射され、次に、組み合わされた音響パルス発生器/受信器によって記録され、記録された後に新しい音響パルスが送出される。組み合わされた音響パルス発生器/受信器として、例えば組み合わされた圧電型の超音波発生器/受信器が適している。
【0077】
したがって、音響パルスのうちの界面で反射された成分だけが、音響速度の評価のために使用される。そのように構成された装置10の利点は、音響パルスが被検流体1中でのみ伝播し、固体-流体-固体からなる層連続体を横断しないことである。
【0078】
これにより、このような装置10によって特定された音響伝播時間または音響速度は、高分解能および高再現性によって特徴付けられ、測定は、濃度または温度の変化に対して即座に敏感になり、したがって、リアルタイムでのドリフトのない測定結果を得ることが可能となる。さらに、このような測定セル5の設計はロバストであり、より少ない可動部品を必要とする。本発明による装置10のこのような実施形態は、強力に吸収する被検流体1のために特に適している。なぜなら、ここでは多重反射が強力に減衰されて発生し、被検流体1における初回到着Tof1,Tof2の検出を妨害しないからである。
【0079】
択一的に、本発明によるそれぞれの装置10をサーモスタットで調温されるように構成することもでき、これにより、測定中の温度が一定に保たれ、粘度依存性の音響速度を補正する際に温度を考慮する必要がなくなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8