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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/4069 20100101AFI20230612BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20230612BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20230612BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20230612BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
F16H61/4069
F02D29/02 K
F02D29/00 B
F02D29/04 F
F02D29/02 L
E02F9/22 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019066395
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165189
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】西本 龍起
(72)【発明者】
【氏名】岩本 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】愛澤 務
(72)【発明者】
【氏名】野口 眞
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-190434(JP,A)
【文献】特開平06-058411(JP,A)
【文献】特開2006-258119(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046140(WO,A1)
【文献】特開2011-231821(JP,A)
【文献】特開平06-058407(JP,A)
【文献】特開平11-094075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/38-61/62
E02F 9/22
F02D 29/00-29/04
F15B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置と、
前記走行装置に動力を伝達する走行モータと、
前記走行モータに作動油を供給する斜板式の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する原動機と、
前記油圧ポンプの斜板角度を設定する第1サーボシリンダと、
前記第1サーボシリンダにパイロット油を供給するチャージポンプと、
前記チャージポンプから第1サーボシリンダにパイロット油を供給する走行位置と前記第1サーボシリンダへのパイロット油の供給を遮断する中立位置とに切り換え可能な切換弁と、
走行モードと中立モードとの切換操作を受付ける切換操作部材と、
前記切換弁を前記走行位置及び前記中立位置のいずれかに切り換える制御装置と、
前記走行モータの回転数を調整することで前記走行装置の速度を変更可能な速度変更機構と、
前記第1サーボシリンダと、前記切換弁とを接続する第1油路と、
前記第1油路から分岐して前記速度変更機構に接続される第2油路と、
を備え、
前記制御装置は、前記切換操作部材が前記走行モードに操作された後、前記原動機の回転数が第1所定回転数以上になるまで前記切換弁を前記中立位置に維持し、
前記速度変更機構は、
前記走行モータの回転数を変更する斜板の角度を設定する第2サーボシリンダと、
複数の切換位置に切り換え可能で且つ前記切換位置によって前記第2サーボシリンダの伸縮を行う速度切換弁と、
前記速度切換弁の前記切換位置を所定位置に固定にする固定位置と、前記切換位置の切換を許容する許容位置とに切り換え可能な作動弁と、
前記切換弁の切換に連動して切換可能で且つ、前記速度切換弁及び作動弁に連通可能な連動弁と、
を備えている作業機。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記切換操作部材が前記走行モードに操作された後、前記原動機の回転数が第1所定回転数以上になるまで前記切換弁を前記中立位置に維持し、
前記切換弁が前記走行位置に切り換えられて、前記チャージポンプから前記第1サーボシリンダに前記パイロット油が供給されて、前記油圧ポンプの斜板が中立位置に対して一方側及び他方側のいずれかに傾転している状態で、前記原動機の回転数が前記第1所定回転数より低い第2所定回転数以下になった場合に、前記切換弁を前記中立位置に切り換えて、前記チャージポンプから前記第1サーボシリンダへの前記パイロット油の供給を遮断して、前記油圧ポンプの斜板を前記中立位置に揺動させる請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記切換弁が前記走行位置に切り換えられて、前記チャージポンプから前記第1サーボシリンダに前記パイロット油が供給されて、前記油圧ポンプの斜板が前記一方側及び前記他方側のいずれかに傾転している状態で、前記原動機の回転数が前記第2所定回転数以下になってからの経過時間が所定時間以上になったときに、前記切換弁を前記中立位置に切り換えて、前記チャージポンプから前記第1サーボシリンダへの前記パイロット油の供給を遮断して、前記油圧ポンプの斜板を前記中立位置に揺動させる請求項に記載の作業機。
【請求項4】
前記原動機の回転数を設定可能なアクセルを備え、
前記制御装置は、前記アクセルで設定された設定回転数が前記第1所定回転数以上である場合に、前記切換弁を切り換える請求項1~のいずれかに記載の作業機。
【請求項5】
前記走行モードには前進モードと後進モードとがあり、
前記切換操作部材は、前進モード、中立モード、及び後進モードの切換操作を受付け、
前記走行モータは前記油圧ポンプからの作動油の供給状態に応じて前記走行装置に前進動力及び後進動力を伝達可能であり、
前記油圧ポンプは、前記走行モータを前進駆動させるための作動油を吐出する前進側と後進駆動させるための作動油を吐出する後進側とに前記斜板を傾転可能であり、
前記切換弁は、前記斜板を前進側に傾転させるためのパイロット油を前記第1サーボシリンダに供給する前進走行位置と、前記中立位置と、前記斜板を後進側に傾転させるためのパイロット油を前記第1サーボシリンダに供給する後進走行位置とに切換可能である請求項1~のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項6】
前記切換操作部材が操作された際に、切換操作によって選択されたモードの表示を行う表示装置を備えている請求項1~のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項7】
インチングペダルと、
前記インチングペダルが操作された場合に前記切換弁に供給する前記パイロット油を減少させるインチング切換弁と、
を備えている請求項1~のいずれか1項に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されたホイールローダが知られている。
特許文献1に開示されたホイールローダは、エンジンによって駆動されるHSTポンプと、HSTポンプから吐出した作動油(パイロット油)によって駆動されるHSTモータと、HSTポンプの斜板を制御するサーボシリンダと、サーボシリンダに接続され且つ前進位置と後進位置とに切り換わる前後進切換弁とを備えている。
【0003】
前後進切換弁が前進位置である場合には、サーボシリンダの前進ポートにパイロット油のパイロット圧が作用し、前後進切換弁が後進位置である場合には、サーボシリンダの後進ポートにパイロット圧が作用することにより、ホイールローダが前進又は後進に切り換えられる。また、特許文献1の技術では、アクセルペダルを踏み込み操作することによってエンジン回転数及びHSTポンプの斜板を制御する制御圧が変化して車速が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-190235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、前後進切換弁が前進位置または後進位置である場合、オペレータがアクセル操作していない状態でも作業機が前進または後進してしまう場合がある(いわゆるクリープ現象)。
そこで、本発明は、前記問題点に鑑み、アクセル操作していないときに作業機が前進または後進することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る作業機は、走行装置と、前記走行装置に動力を伝達する走行モータと、前記走行モータに作動油を供給する斜板式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する原動機と、前記油圧ポンプの斜板角度を設定する第1サーボシリンダと、前記第1サーボシリンダにパイロット油を供給するチャージポンプと、前記チャージポンプから第1サーボシリンダにパイロット油を供給する走行位置と前記第1サーボシリンダへのパイロット油の供給を遮断する中立位置とに切り換え可能な切換弁と、走行モードと中立モードとの切換操作を受付ける切換操作部材と、前記切換弁を前記走行位置及び前記中立位置のいずれかに切り換える制御装置と、前記走行モータの回転数を調整することで前記走行装置の速度を変更可能な速度変更機構と、前記第1サーボシリンダと、前記切換弁とを接続する第1油路と、前記第1油路から分岐して前記速度変更機構に接続される第2油路と、を備え、前記制御装置は、前記切換操作部材が前記走行モードに操作された後、前記原動機の回転数が第1所定回転数以上になるまで前記切換弁を前記中立位置に維持し、前記速度変更機構は、前記走行モータの回転数を変更する斜板の角度を設定する第2サーボシリンダと、複数の切換位置に切り換え可能で且つ前記切換位置によって前記第2サーボシリンダの伸縮を行う速度切換弁と、前記速度切換弁の前記切換位置を所定位置に固定にする固定位置と、前記切換位置の切換を許容する許容位置とに切り換え可能な作動弁と、前記切換弁の切換に連動して切換可能で且つ、前記速度切換弁及び作動弁に連通可能な連動弁と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、アクセル操作していないときに作業機が前進または後進することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】作業機の側面図である。
図2】作業機の平面図である。
図3】作業機の走行系制御回路を示す図である。
図4】制御装置及び表示装置における前後進切換弁の切換のフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る作業機1の全体構成を示す概略側面図である。図2は、作業機1の概略平面図である。本実施形態では、作業機1としてホイールローダが例示されて
いる。
図1図2に示すように、本実施形態のホイールローダは、アーティキュレート式の作業機1であり、該作業機1の機体2は前部機体2Aと後部機体2Bとから構成されている。前部機体2Aには、左の前輪3L及び右の前輪3Rを有する走行装置が設けられている。前輪3Lは、前部機体2Aの左方に設けられ、前輪3Rは、前部機体2Aの右方に設けられている。後部機体2Bには、左の後輪4L及び右の後輪4Rを有する走行装置が設けられている。後輪4Lは、後部機体2Bの左方に設けられ、後輪4Rは、後部機体2Bの右方に設けられている。後部機体2Bには、オペレータ(運転者)が着座する運転席(座席)13が設けられている。運転席13は、後輪4Lと後輪4Rとの間に配置され、機体2における機体幅方向K2の中央部に設けられている。
【0010】
本実施形態においては、運転席13に着座したオペレータの前側(図1図2の矢印A1方向)を前方、オペレータの後側(図1図2の矢印A2方向)を後方、オペレータの左側(図1の手前側、図2の矢印B1方向)を左方、オペレータの右側(図1の奥側、図2の矢印B2方向)を右方として説明する。
また、前後方向K1に直交する方向である水平方向を機体幅方向K2(図2参照)として説明する。機体2の幅方向の中央部から右部、或いは、左部へ向かう方向を機体外方として説明する。言い換えれば、機体外方とは、機体幅方向K2であって機体2の幅方向の中心から離れる方向のことである。機体外方とは反対の方向を、機体内方として説明する。言い換えれば、機体内方とは、機体幅方向K2であって機体2の幅方向の中心に近づく方向である。
【0011】
図1に示すように、後部機体2Bの前端側には機体連結部材5が前後方向K1の軸心回りに所定範囲回転自在に設けられ、この機体連結部材5に前部機体2Aの後端側が縦軸心(上下方向に延伸する軸心)回りに機体幅方向K2に揺動自在に連結されている。
機体連結部材5と前部機体2Aとにわたって油圧シリンダからなるステアリングシリンダ6が設けられている。このステアリングシリンダ6を伸縮させることにより、後部機体2Bに対して前部機体2Aが機体幅方向K2に揺動して作業機1が左及び右に旋回可能とされている。
【0012】
後部機体2Bには、運転席13を包囲する運転席保護装置としてのキャビン14が設けられている。キャビン14の室内(以下、キャビン室内という)には、ステアリングシリンダ6を操作するステアリング15(ステアリングホイール)と、作業装置7を操縦する操縦レバー16とが設けられている。ステアリング15は、運転席13の前方に配置され、操縦レバー16は、運転席13の側方(右側方)に配置されている。
【0013】
なお、後部機体2Bには、原動機17が搭載される。原動機17は、ディーゼルエンジンである。ただし、原動機17の構成は特に限定されるものではなく、例えば、ガソリンエンジン、電動モータであってもよいし、エンジン及び電動モータを有するハイブリッド型であってもよい。また、運転席保護装置としては、キャノピであってもよい。
図1図2に示すように、前部機体2Aには、作業装置7(フロント作業装置)が設けられている。この作業装置7は、前部機体2A(機体2)に上下揺動可能に支持されたリフトアーム8を有する。リフトアーム8は、機体幅方向K2に間隔をあけて配置された左の第1アーム8L及び右の第2アーム8Rを有する。第1アーム8Lは、基端側(後端側)が前部機体2Aの左側に立設された第1支持フレーム10Lの上部に機体幅方向K2に延伸する軸心回りに回転自在に支持されている。したがって、第1アーム8Lは上下揺動可能である。第2アーム8Rは、基端側が前部機体2Aの右側に立設された第2支持フレーム10Rの上部に機体幅方向K2に延伸する軸心回りに回転自在に支持されている。したがって、第2アーム8Rも上下揺動可能である。
【0014】
図1に示すように、第1アーム8Lの長手方向の中途部と第1支持フレーム10Lの上下方向の中途部とにわたってリフトシリンダ11Lが設けられている。第2アーム8Rの長手方向の中途部と第2支持フレーム10Rの上下方向の中途部とにわたってリフトシリンダ11Rが設けられている。リフトシリンダ11L及びリフトシリンダ11Rは、複動型の油圧シリンダによって構成されている。リフトシリンダ11L及びリフトシリンダ1
1Rを伸縮させることによりリフトアーム8が(第1アーム8L及び第2アーム8Rが同時に)上下に揺動する。
【0015】
作業装置7は、リフトアーム8の前部に着脱可能に装着される作業具9を有する。作業具9は、標準装備としてバケットが装着され、バケットの代わりに、パレットフォーク、マニアフォーク等の作業具(アタッチメント)や、スイーパー、モアー、ブレーカ等の油圧アクチュエータを有する作業具(油圧アタッチメント)を取り付け可能である。作業具9の背面下部は、リフトアーム8の先端側(前端側)に連結され且つ枢支される。
【0016】
作業機1は、作業具9を駆動する作業具シリンダ12を有する。作業具シリンダ12は、複動型の油圧シリンダによって構成されている。また、連結パイプ26には、ブラケット部材27が固定され、ブラケット部材27には、揺動リンク28の上下方向の中途部が枢支されている。揺動リンク28の上部には、作業具シリンダ12の一端が連結される。作業具シリンダ12の他端は、第1支持フレーム10Lと第2支持フレーム10Rとを連結する連結部材29に設けられたブラケット部材30に枢支されている。揺動リンク28の下部には、連動リンク31の後部が枢支されている。連動リンク31の前部は、作業具9の背面上部に枢支(係合)される。作業具シリンダ12を伸縮させることにより、揺動リンク28が揺動すると共に連動リンク31が前後移動する。これにより、作業具9がリフトアーム8との連結点を中心に上下に揺動する。
【0017】
図3は、作業機1の走行系制御回路を示している。
図3に示すように、走行系制御回路は、油圧ポンプ(チャージポンプ)P1と、HSTポンプ(油圧ポンプ)50と、走行モータ51とを備えている。油圧ポンプP1は、例えば、定容量型のポンプであり、タンクに貯留された作動油を吐出する。
HSTポンプ50と走行モータ51とは、循環油路52により接続されている。HSTポンプ50は、走行モータ51へ作動油を供給する斜板式可変容量ポンプである。HSTポンプ50の出力(作動油を吐出する吐出量)は、原動機17の動力によって変化する。HSTポンプ50は、中立位置から一方側及び他方側に揺動する斜板50Aを含み、斜板50Aの揺動(傾転)によって、HSTポンプ50から循環油路52に吐出する作動油の方向を変更することができる。
【0018】
走行モータ51は、HSTポンプ50から吐出された作動油によって回転する斜板式可変容量モータである。走行モータ51の出力軸53は、ギヤ伝動機構54を介して伝動軸55に伝達され、この伝動軸55の後端側から後輪デフ装置56を介して左右の後車軸57に動力が伝達され、後車軸57から後輪4L、4Rが駆動される。また、伝動軸55の前端側からドライブシャフト、前輪デフ装置、前車軸等を介して前輪3L、3Rに動力が伝達されて、前輪3L、3Rが駆動する。
【0019】
走行モータ51が正転すると、走行装置(前輪3L、3R、後輪4L、4R)に前進の動力が伝達され、走行モータ51が逆転すると、走行装置(前輪3L、3R、後輪4L、4R)に後進の動力が伝達される。なお、走行モータ51の正転(走行装置の前進)、逆転(走行装置の後進)は、HSTポンプ50から循環油路52に吐出した作動油の吐出方向、即ち、HSTポンプ50の斜板50Aの角度(斜板角度)によって決定する。
【0020】
HSTポンプ50の斜板50Aには、当該斜板50Aの角度を設定する第1サーボシリンダ61が接続されている。第1サーボシリンダ61は、前進ポート61Aと、後進ポート61Bとを有していて、前進ポート61Aに作動油(パイロット油)が供給された場合は、斜板50Aを前進側に揺動させ、後進ポート61Bにパイロット油が供給された場合は、斜板50Aを後進側に揺動させ、前進ポート61A及び後進ポート61Bにパイロット油が供給されていない場合は、斜板50Aを中立位置に保持する。
【0021】
走行系制御回路は、前後進切換弁(切換弁)65を備えている。前後進切換弁65は、吐出油路66を介して油圧ポンプP1に接続されていて、油圧ポンプP1から吐出した作動油(パイロット油)が供給される。また、前後進切換弁65と第1サーボシリンダ61とは、第1油路71により接続されて、当該前後進切換弁65は第1油路71に作用させたパイロット油の圧力(パイロット圧)によって、HSTポンプ50の斜板51A(第1サーボシリンダ61)を前進側と後進側とに切り換える。
【0022】
第1油路71は、第1サーボシリンダ61の前進ポート61Aと前後進切換弁65の出力ポートとを接続する前進油路71Aと、第1サーボシリンダ61の後進ポート61Bと前後進切換弁65の出力ポートとを接続する後進油路71Bとを含んでいる。
前後進切換弁65は、走行位置(第1位置65A、第2位置65B)、中立位置65Cに切り換え可能な3位置切換弁である。前後進切換弁65は、ソレノイド65Fが励磁された場合、第1位置65Aに切り換わり、ソレノイド65Rが励磁された場合、第2位置65Bに切り換わり、ソレノイド65F及びソレノイド65Rが励磁されていない場合、中立位置65Cに切り換わる。
【0023】
つまり、前後進切換弁65が第1位置65Aである場合、前進油路71Aにパイロット圧が作用して、第1サーボシリンダ61が前進側に作動し、前後進切換弁65が第2位置65Bである場合、後進油路71Bにパイロット圧が作用して、第1サーボシリンダ61が後進側に作動する。
なお、前後進切換弁65と油圧ポンプP1とを接続する吐出油路66には、インチング切換弁68が接続されている。インチング切換弁68は、運転席13の周囲に設置されたインチングペダル69の操作量(踏込量)により操作される弁である。インチングペダル69を踏み込んだ場合は、インチング切換弁68は、第2位置68Bに切り換わり、吐出油路66から吐出した作動油(パイロット油)を作動油タンク等に排出することで、パイロット油は前後進切換弁65に供給されない。即ち、インチングペダル69を踏み込んだ場合は、前後進切換弁65にパイロット油が供給されなくなるため、HSTポンプ50の斜板50Aは中立側に動き、走行装置は減速する。なお、インチングペダル69の踏込量によって、インチング切換弁68の開度が変化するため(パイロット油の排出量が変化するため)、走行装置の減速をインチングペダル69によって調整することができる。
【0024】
インチングペダル69を踏み込んでいない場合は、インチング切換弁68は、第1位置68Aに切り換わり、吐出油路66から吐出した作動油(パイロット油)は前後進切換弁65に供給される。即ち、インチングペダル69を踏み込んでいない場合は、前後進切換弁65にパイロット油が供給されることから、HSTポンプ50の斜板50Aは、前後進切換弁65の切換に応じて、前進側又は後進側に揺動する。
【0025】
さて、第1油路71の中途部から分岐する第2油路72が接続されている。第2油路72は、速度変更機構75に接続される油路であって、前進油路71Aに接続された連通油路72Aと、後進油路71Bに接続された連通油路72Bを含んでいる。
速度変更機構75は、走行モータ51の回転数を調整することで走行装置の速度を変更する機構である。速度変更機構75は、第2サーボシリンダ76と、速度切換弁77と、作動弁78と、連動弁79とを有している。
【0026】
第2サーボシリンダ76は、走行モータ51の斜板51Aに接続されていて伸縮することによって、斜板51Aの角度(斜板角度)を設定する。速度切換弁77は、第2サーボシリンダ76の伸縮を行うことで走行モータ51の斜板51Aを低速側と高速側とに切り換える切換弁である。速度切換弁77は、油路81、82を介して第2サーボシリンダ76に接続されていて、第1位置(低速位置)77Aと第2位置(高速位置)77Bとの複数の切換位置に切り換え可能である。速度切換弁77は、第1位置77Aに切り換わった場合に、第2サーボシリンダ76のロッド76A側とは反対側のシリンダ室76Bの作動油を排出して第2サーボシリンダ76を低速側に収縮させる。速度切換弁77は、第2位置77Bに切り換わった場合に、第2サーボシリンダ76のシリンダ室76Bに作動油を供給して第2サーボシリンダ76を高速側に伸長させる。
【0027】
作動弁78は、固定位置78Aと許容位置78Bとに切り換え可能な2位置切換弁である。作動弁78と速度切換弁77とは油路83を介して接続されていて、固定位置78Aである場合には、速度切換弁77の複数の切換位置(第1位置77A、第2位置77B)のうち、所定位置(第1位置77A)に固定にする。許容位置と78Bである場合には、複数の切換位置(第1位置77A、第2位置77B)の切換を許容する。
【0028】
連動弁79には、第2油路72(連通油路72A、72B)がそれぞれ接続されていて、連通油路72Aにパイロット圧が作用すると第1位置79Aに切り換わり、連通油路72Bにパイロット圧が作用すると第2位置79Bに切り換わることで、前後進切換弁65の切換に連動して切換が行われる。連動弁79は、油路84を介して作動弁78に接続され、油路81を介して速度切換弁77に接続されている。
【0029】
したがって、作動弁78を固定位置78Aに切り換えると、前進及び後進のいずれの場合でも走行モータ51低速側に固定することができ、作動弁78を許容位置78Bに切り換えると、前進及び後進のいずれの場合でも走行モータ51を低速側及び高速のいずれかに自動的に切り換えることができる。
図1に示すように、作業機1は、表示装置40を備えている。表示装置40は、作業機1に関する様々な表示を行う。表示装置40は、例えば、運転席13の前方又は側方に配置されている。
【0030】
表示装置40は、運転情報、警告情報等を表示するパネル等から構成されている。表示装置40は、例えば、運転情報を表示する燃料計40a及び水温計40b、警告情報を表示する複数の警告灯40cを有している。また、表示装置40は、運転情報として、走行モータ51の速度(走行装置の速度)を表示可能であって、走行装置の速度が高速側である場合に点灯する高速灯40d、走行装置の速度が低速側である場合に点灯する低速灯40eを有している。さらに、表示装置40は、前進、後進、中立のいずれかの状態であるかを表示する進行表示部41を備えている。
【0031】
進行表示部41は、前進であることを矢印等の図形で示す前進表示部41Fと、後進であることを矢印等の図形で示す後進表示部41Rと、前進、後進及び中立の状態を文字等で表示する状態表示部41Tとを有している。前進表示部41F、後進表示部41R及び状態表示部41Tは、点灯することによりそれぞれの状態を表示し、消灯することにより状態でないことを示す。
【0032】
作業機1は制御装置90を備えている。制御装置90は、作業機1の様々な制御を行うもので、例えば、前後進切換弁65の切換を行う。
制御装置90には、アクセル93及び前後進切換部材(切換操作部材)94が接続されている。アクセル93は、原動機17の回転数(原動機回転数)を設定可能であり、例えば、ペダル、レバー、ボリューム等で構成されている。例えば、アクセル93がペダルの場合は、ペダルの踏込量によって原動機回転数が設定され、レバーである場合は、レバーの揺動量によって原動機回転数が設定され、ボリュームである場合はボリュームの回動量によって原動機回転数が設定される。
【0033】
前後進切換部材94は、運転席13の周囲に設置され、オペレータ(運転者)が操作する部材である。前後進切換部材94は、前進(前進モード)、後進(後進モード)及び中立(ニュートラル、中立モード)の操作を受付けが可能であって、前進側(前進モード)と、中立側(中立モード)と、後進側(後進モード)との3位置(3つのモード)の切換を受付ける。前後進切換部材94は、レバー、スイッチ、ボリューム等で構成されている。前後進切換部材94が、前進側及び後進側のいずれかである場合、制御装置90は、走行モードがONとなり、前後進切換部材94が、中立側である場合、走行モードOFFとなる。即ち、走行モードは、前進モードと後進モードとがある。
【0034】
制御装置90は、前後進切換部材94の操作に応じて、前後進切換弁65を切り換える。例えば、前後進切換部材94が前進側に切り換えたとき、所定条件を満たせば、制御装置90は、前後進切換弁65のソレノイド65Fを励磁することで、前後進切換弁65を第1位置65A(前進側)に切り換える。また、前後進切換部材94が後進側に切り換えたとき、所定条件を満たせば、制御装置90は、前後進切換弁65のソレノイド65Rを励磁することで、前後進切換弁65を第2位置65B(後進側)に切り換える。なお、制御装置90は、前後進切換弁65を第1位置65A(前進側)及び第2位置65B(後進側)のいずれかに切り換えた場合は、走行許可モードになり、制御装置90は、前後進切換弁65を中立位置65Cに切り換えた際は、走行禁止モードになる。
【0035】
図4は、制御装置90における前後進切換弁65の切換処理のフローを示した図である。
図4に示すように、制御装置90は、原動機17が駆動している状態において、走行モ
ードがONであるか否か、即ち、前後進切換部材94が、前進側及び後進側のいずれかに切り換えられたか否かを判断する(S1)。走行モードがONでない場合、即ち、中立モードである場合(S1、No)、制御装置90は、表示装置40に、中立(ニュートラル)であることを表示させ(S2)、走行禁止モードに設定して、前後進切換弁65を中立位置65Cに維持する(S3)。
【0036】
走行モードがONである場合(S1、Yes)、制御装置90は、前後進切換部材94の操作に対応して、表示装置40の前進表示部41F及び後進表示部41Rのいずれかを点灯させる(S4)。制御装置90は、前後進切換部材94が前進側に操作された場合は、前進表示部41Fを点灯させ、前後進切換部材94が後進側に操作された場合は、後進表示部41Rを点灯させる。
【0037】
また、制御装置90は、走行許可モードであるか否かを判断する(S5)。走行許可モードでない場合(S5、No)、制御装置90は、アクセル93によって設定された原動機回転数(設定回転数)が予め定められた第1所定回転数X(rpm)以上であるか否かを判断する(S6)。設定回転数が予め定められた第1所定回転数X(rpm)以上である場合(S6、Yes)、制御装置90は、前後進切換部材94の操作に対応して、前後進切換弁65のソレノイド65F、65Rを励磁する(S7)。制御装置90は、S1において、前後進切換部材94が前進側に操作されている場合は、前後進切換弁65のソレノイド65Fを励磁し、前後進切換部材94が後進側に操作されている場合は、前後進切換弁65のソレノイド65Rを励磁し、走行許可モードになる。
【0038】
設定回転数が予め定められた第1所定回転数X(rpm)以上でない場合(S6、No)、制御装置90は、処理をS1に戻す。
走行許可モードである場合(S5、Yes)、即ち、前後進切換弁65のソレノイド65F、65Rが励磁された状況では、制御装置90は、設定回転数が第1所定回転数X(rpm)よりも低い値に予め定められた第2所定回転数Y(rpm)以下であるか否かを判断する(S8)。本実施形態では第1所定回転数X(rpm)を1150rpm、第2所定回転数Y(rpm)を1100rpmに設定している。ただし、第1所定回転数X(rpm)及び第2所定回転数Y(rpm)の値は特に限定されるものではない。
【0039】
設定回転数が第2所定回転数Y(rpm)以下になった場合(S8、Yes)、制御装置90は、設定回転数が第2所定回転数Y(rpm)以下になってからの経過時間Tが所定時間Z秒経過したか否かを判断する(S9)。経過時間Tが所定時間Z秒経過した場合(S9、Yes)、制御装置90は、前後進切換弁65のソレノイド65F、65Rを消磁、即ち、制御装置90は、前後進切換弁65において前進側及び後進側に切り換えている状態を解除する(S10)。制御装置90は、S1において、前後進切換部材94が前進側に操作されている場合は、前後進切換弁65のソレノイド65Fを消磁し、前後進切換部材94が後進側に操作されている場合は、前後進切換弁65のソレノイド65Rを消磁し、走行禁止モードになる。
また、設定回転数が第2所定回転数Y(rpm)以下になっていない場合(S8、Yes)、及び経過時間Tが所定時間Z秒経過していない場合(S9、No)、及びS10で走行禁止モードに切り換えた後、制御装置90は、原動機17の駆動が停止しているか否かを判断する(S11)。そして、原動機17の駆動が停止している場合(S11、Yes)では、前後進切換弁65の切換処理を終了する。一方、原動機17の駆動が停止していない場合(S11、No)は、制御装置90はS1の処理に戻る。
【0040】
以上のように、本実施形態にかかる作業機1は、走行装置と、走行装置に動力を伝達する走行モータ51と、走行モータ51に作動油を供給する斜板式のHSTポンプ(油圧ポンプ)50と、HSTポンプ50を駆動する原動機17と、HST圧ポンプ51の斜板角度を設定する第1サーボシリンダ61と、第1サーボシリンダ61にパイロット油を供給する油圧ポンプ(チャージポンプ)P1と、油圧ポンプP1から第1サーボシリンダ61にパイロット油を供給する走行位置と第1サーボシリンダ61へのパイロット油の供給を遮断する中立位置65Cとに切り換え可能な前後進切換弁(切換弁)65と、走行モードと中立モードとの切換操作を受付ける前後進切換部材(切換操作部材)94と、前後進切
換弁65を走行位置及び中立位置のいずれかに切り換える制御装置90と、を備え、制御装置90は、前後進切換部材94が走行モードに切換操作された後、原動機17の回転数が第1所定回転数X(rpm)以上になるまで前後進切換弁65を切り換える中立位置65Cに維持する。
【0041】
上記の構成によれば、オペレータが前後進切換部材(切換操作部材)94を走行モードに切り換えた場合であっても、オペレータがアクセル操作を行って原動機の回転数が第1所定回転数X(rpm)以上になるまでは前後進切換弁65が中立位置65Cに維持されてHSTポンプ50の斜板が揺動しない。このため、アクセル操作していないときに作業機が走行することを防止できる。また、例えば温度に応じて発進回転数を調整するといった煩わしい作業を行わなくても、アクセル操作していないときに作業機が走行することを確実に防止できる。
【0042】
作業機1は、原動機17の回転数を設定可能なアクセルを備え、制御装置90は、アクセルで設定された設定回転数が第1所定回転数X(rpm)以上である場合に、前後進切換弁65を切り換える。これによれば、オペレータ等が、前後進切換部材94によって走行モードに切り換えられた後、アクセルを操作して走行の意思表示を行うことにより走行することができる。
【0043】
作業機1は、前後進切換部材94が操作された際に、切換操作によって選択されたモードの表示を行う表示装置40を備えている。これによれば、オペレータが、前後進切換部材94による現在の操作が、走行モード又は中立モードのいずれかであるかを簡単に確認することができる。
前後進切換弁65が走行位置に切り換えられている状態で、設定回転数が第1所定回転数X(rpm)よりも低い第2所定回転数Y(rpm)以下になった場合に、制御装置90は、前後進切換弁65を中立位置65Cに切り換える。これによれば、前後進切換弁65を走行位置に切り換えて走行している状況において、オペレータが小刻みなアクセル行う毎に走行位置と中立位置とが切り替わってしまうことを抑制できる。
【0044】
制御装置90は、前後進切換弁65が走行位置に切り換えられている状態で、設定回転数が第2所定回転数Y(rpm)以下になり、且つ第2所定回転数以下になってからの経過時間が所定時間以上になった場合に、前後進切換弁65を中立位置65Cに切り換える。これによれば、前後進切換弁65の解除したときの衝撃を低減することができる。
また、走行モードには前進モードと後進モードとがあり、前後進切換部材94は、前進モード、中立モード、及び後進モードの切換操作を受付け、走行モータ51は油圧ポンプP1からの作動油の供給状態に応じて走行装置に前進動力及び後進動力を伝達可能であり、油圧ポンプP1は、走行モータ51を前進駆動させるための作動油を吐出する前進側と後進駆動させるための作動油を吐出する後進側とに斜板を傾転可能であり、前後進切換弁65は、前記斜板を前進側に傾転させるためのパイロット油を第1サーボシリンダ61に供給する前進走行位置と、中立位置と、斜板を後進側に傾転させるためのパイロット油を第1サーボシリンダに供給する後進走行位置とに切換可能である。
【0045】
上記の構成によれば、アクセル操作していないときに作業機が前進または後進することを防止できる。
作業機1は、走行モータ51の回転数を調整することで走行装置の速度を変更可能な速度変更機構75と、第1サーボシリンダ61と、前後進切換弁65とを接続する第1油路71と、第1油路71から分岐して速度変更機構75に接続される第2油路72と、を備えている。これによれば、前後進切換弁65の切換に応じて、速度変更機構75を作動させることができ、前進又は後進の切換に応じて走行装置の速度を変更することが可能である。
【0046】
速度変更機構75は、走行モータ51の回転数を変更する斜板の角度を設定する第2サーボシリンダ76と、複数の切換位置に切り換え可能で且つ切換位置によって第2サーボシリンダ76の伸縮を行う速度切換弁77と、速度切換弁77の切換位置を所定位置に固定にする固定位置78Aと、切換位置の切換を許容する許容位置78Bとに切り換え可能な作動弁78と、前後進切換弁65の切換に連動して切換可能で且つ速度切換弁77及び
作動弁78に連通可能な連動弁79と、を備えている。これによれば、走行装置の速度を固定したり、速度切換弁77に応じて変更することができる。
【0047】
作業機1は、インチングペダル69と、インチングペダル69が操作された場合に前後進切換弁65に供給する作動油を減少させるインチング切換弁68と、を備えている。これによれば、インチングペダル69を操作することで、簡単に走行装置を停止することができる。
なお、本実施形態では、ホイールローダを例示したが、本発明の適用対象はこれに限らず、例えばトラクタやコンバイン等の農業機械、バックホー、コンパクトトラックローダ、スキッドステアローダ等の建設機械など、各種の作業機に適用することができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 :作業機
40 :表示装置
50 :HSTポンプ(斜板式の油圧ポンプ)
51 :走行モータ
61 :第1サーボシリンダ
65 :前後進切換弁(切換弁)
68 :インチング切換弁
69 :インチングペダル
71 :第1油路
72 :第2油路
75 :速度変更機構
76 :第2サーボシリンダ
77 :速度切換弁
78 :作動弁
79 :連動弁
90 :制御装置
93 :アクセル
94 :前後進切換部材
P1 :チャージポンプ
図1
図2
図3
図4