(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】車両用複合材
(51)【国際特許分類】
B32B 5/24 20060101AFI20230612BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230612BHJP
D03D 15/43 20210101ALI20230612BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B32B5/24 101
B32B27/40
D03D15/43
B60N2/58
(21)【出願番号】P 2019114504
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】和田 尚大
(72)【発明者】
【氏名】若月 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中村 利雄
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/125653(WO,A1)
【文献】特開2014-184607(JP,A)
【文献】特開2015-223890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D03D 15/00-15/68
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材と、ポリウレタンフォームシートとを積層してなる車両用複合材であって、
前記表皮材は、縫製を行ったときに表面の平滑状態を維持しながら縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有
し、
前記表皮材は、経糸と緯糸とからなる織物であり、
前記経糸及び前記緯糸として、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることにより、前記遊間構造が構成され、
前記経糸において、総繊度の最大値と最小値との差が50デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択され、
前記緯糸において、総繊度の最大値と最小値との差が100デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択される車両用複合材。
【請求項2】
表皮材と、ポリウレタンフォームシートとを積層してなる車両用複合材であって、
前記表皮材は、縫製を行ったときに表面の平滑状態を維持しながら縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有し、
前記表皮材は、経糸と緯糸とからなる織物であり、
前記経糸として、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることにより、前記遊間構造が構成され、
前記経糸において、総繊度の最大値と最小値との差が50デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択される車両用複合材。
【請求項3】
表皮材と、ポリウレタンフォームシートとを積層してなる車両用複合材であって、
前記表皮材は、縫製を行ったときに表面の平滑状態を維持しながら縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有し、
前記表皮材は、経糸と緯糸とからなる織物であり、
前記緯糸として、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることにより、前記遊間構造が構成され、
前記緯糸において、総繊度の最大値と最小値との差が100デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択される車両用複合材。
【請求項4】
前記経糸は、総繊度が150~300デニールであり、
前記緯糸は、総繊度が100~450デニールである
請求項1~3の何れか一項に記載の車両用複合材。
【請求項5】
前記経糸は、製品密度が70~250本/25.4mmであり、
前記緯糸は、製品密度が55~160本/25.4mmである
請求項1~4の何れか一項に記載の車両用複合材。
【請求項6】
前記経糸及び/又は前記緯糸は、糸条の飛び本数が10本以下である
請求項1~5の何れか一項に記載の車両用複合材。
【請求項7】
前記経糸及び/又は前記緯糸は、インターレース加工糸である
請求項1~6の何れか一項に記載の車両用複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材とポリウレタンフォームシートとを積層してなる車両用複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両座席等の表皮材には、耐久性が求められるため、素材をそのまま利用するのではなく、様々な形態に加工した複合材として利用されている。従来、この様な車両用複合材では、表皮材として織物を用いる場合、ほつれ防止のために織物の裏面に樹脂を塗布するバッキング処理がなされていた。しかし、地球環境への負荷低減に対する関心が高まるなか、車両から排出される二酸化炭素の削減に直接結びつく車両の軽量化が重要な課題となり、車両用複合材においても、一層の軽量化が求められている。
【0003】
例えば、従来のバッキング処理を省略して軽量化した車両用複合材がある(引用文献1を参照)。引用文献1の車両用複合材では、表皮材としての織物にポリウレタンフォームシートを積層することで、バッキング処理を行わなくても織物表面の糸のほつれを防止しつつ、車両用複合材に適した強度と耐久性とを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、座席形状に沿って立体的な形状に車両用複合材を縫製する場合、異なる長さの複合材を合わせた状態で一方の複合材を縮めながら縫製する「いせ込み縫製」が利用される。いせ込み縫製では、いせ込み対象となる複合材の元のサイズからいせ込み後のサイズへの縮小率(以下、「いせ込み率」と称する。)が大きい程、より丸みを帯びた立体的な形状に仕上がるが、縮めた側の複合材において表皮材が歪んでシワが発生しやすくなる。
【0006】
車両内装用途では美観も重要な要素であるため、車両用複合材には、いせ込み率の大きないせ込み縫製によって立体的な形状に縫製可能でありながら、いせ込みによるシワが発生しにくい特性が求められる。しかしながら、特許文献1の車両用複合材は、軽量性、及び耐久性に主眼を置いたものであり、いせ込み縫製によるシワの発生を考慮したものではなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、いせ込み縫製によるシワの発生を抑制することができる車両用複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる車両用複合材の特徴構成は、
表皮材と、ポリウレタンフォームシートとを積層してなる車両用複合材であって、
前記表皮材は、縫製を行ったときに表面の平滑状態を維持しながら縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有することにある。
【0009】
本構成の車両用複合材によれば、二つの複合材を合わせていせ込み縫製を行ったときに、表皮材は、その表面の平滑状態を維持しながら縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有するため、座席の湾曲形状等に合わせたいせ込み縫製によって一方の複合材が縮められた場合に、当該表皮材の歪みが遊間構造に吸収され、シワの発生を抑制することができる。
【0010】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記表皮材は、経糸と緯糸とからなる織物であり、
前記経糸及び/又は前記緯糸として、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることにより、前記遊間構造が構成されることが好ましい。
【0011】
本構成の車両用複合材によれば、表皮材が経糸と緯糸とからなる織物であり、経糸及び/又は緯糸として、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることにより、互いに隣接する総繊度の異なる糸条間に遊間構造が構成されるため、いせ込み縫製に伴う表皮材の歪みが、当該遊間構造により適切に吸収される。
【0012】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記経糸は、総繊度が150~300デニールであり、
前記緯糸は、総繊度が100~450デニールであることが好ましい。
【0013】
本構成の車両用複合材によれば、経糸、及び緯糸の総繊度が上記の範囲にあることにより、表皮材が、遊間構造を有する厚みのある織物となり、いせ込み縫製によるシワの発生をより適切に抑制することができる。
【0014】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記経糸において、総繊度の最大値と最小値との差が50デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択され、
前記緯糸において、総繊度の最大値と最小値との差が100デニール以上となるように、前記総繊度が異なる2種以上の糸条が選択されることが好ましい。
【0015】
本構成の車両用複合材によれば、経糸、及び緯糸の総繊度の最大値と最小値との差が上記の範囲にあることにより、総繊度の異なる糸条間に遊間構造が適切に形成され、いせ込み縫製に伴う表皮材の歪みをより適切に吸収可能なものとなる。
【0016】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記経糸は、製品密度が70~250本/25.4mmであり、
前記緯糸は、製品密度が55~160本/25.4mmであることが好ましい。
【0017】
本構成の車両用複合材によれば、経糸、及び緯糸の製品密度が上記の範囲にあることにより、隣接する糸条の間隔が、遊間構造を形成するために適したものとなる。
【0018】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記経糸及び/又は前記緯糸は、糸条の飛び本数が10本以下であることが好ましい。
【0019】
本構成の車両用複合材によれば、糸条の飛び本数が上記の範囲にあることにより、糸条の遊動性を適切な状態にすることができるため、車両内装用に適した強度及び耐久性を維持することができる。
【0020】
本発明にかかる車両用複合材において、
前記経糸及び/又は前記緯糸は、インターレース加工糸であることが好ましい。
【0021】
本構成の車両用複合材によれば、経糸及び/又は緯糸がインターレース加工糸であるため、隣接する糸条間に遊間構造が大きく形成され、シワの発生をより適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1~10で用いた二重組織の組織図である。
【
図2】
図2は、実施例11~25で用いた一重組織の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の車両用複合材について説明する。ただし、本発明は、以下の構成に限定されることを意図しない。
【0024】
本発明の車両用複合材は、表皮材の裏面に、ポリウレタンフォームシートからなる裏打ち材を積層し、一体化してなるものである。
【0025】
[表皮材]
表皮材は、いせ込み縫製を行ったときに表面の平滑状態を維持しながら、縫製による変形に追従可能とするための遊間構造を有する。ここで、「平滑状態」とは、シワやヨレなどの目視可能な凹凸形状が表面に略存在しないことを意味し、素材の組織に由来する繊維間格子や多孔質構造に由来する孔などの微細な凹凸形状については、目視により素材全体として平滑であると判断できる場合は、平滑状態にあるものとする。また、「遊間構造」とは、素材の組織や構造が相対的な位置関係を略維持しながら一定範囲で動いたり変形したりすることを許容する構造(いわゆる「遊び」)を意味する。本発明の車両用複合材は、表皮材が備える遊間構造により、いせ込み縫製に伴う表皮材の歪みが吸収されることで、シワの発生を抑制する特性(以下、「いせ込み性」と称する。)が向上している。表皮材としては、織物、編物、不織布等の布帛が挙げられ、特に、織物が好ましい。織物の組織としては、例えば、平織、斜文織、及び朱子織の三元組織、三元組織の変化組織、なし地織等の特別組織、これらを2種以上組み合わせた混合組織、並びに二重組織、及び三重組織等の多層組織が挙げられ、とくに、織物を厚く製織することが容易な二重組織が好ましい。また、組織は、糸条の最も長い浮きを形成する飛び本数(以下、「最大飛び本数」と称する)が、経糸及び/又は緯糸において2本以上、10本以下であることが好ましい。最大飛び本数が上記の範囲にあれば、糸条の遊動性を適切な状態にすることができるため、車両内装用に適した強度及び耐久性を維持することができる。最大飛び本数が1本であると、糸条が動きにくくなり、十分ないせ込み性が得られない虞がある。最大飛び本数が10本を超えると、糸条の遊動性が過剰に大きくなり、車両内装用複合材の強度及び耐久性が不十分となる虞がある。なお、糸条の浮きとは、織物の表側の面に連続して表出している糸条の長さ、すなわち、糸条の所謂「浮き沈み」の浮きの部分のことをいう。織物の厚みは、0.5mm以上であることが好ましい。厚みが0.5mm以上であれば、織物に遊間構造を形成しやすく、いせ込み性に優れた車両用複合材を得ることができる。織物の厚みが0.5mm未満であると、遊間構造が形成されない場合があり、十分ないせ込み性が得られない虞がある。
【0026】
織物において、経糸の製品密度(緯方向25.4mm間に存在する経糸の本数)は、70~250本/25.4mmであることが好ましく、70~220本/25.4mmであることがより好ましい。緯糸の製品密度(経方向25.4mm間に存在する緯糸の本数)は、55~160本/25.4mmであることが好ましく、55~100本/25.4mmであることがより好ましい。経糸及び/又は緯糸の糸条の製品密度が上記の範囲にあれば、車両内装用に適した強度及び耐久性が得られ、さらに、隣接する糸条の間隔が広いため、糸条の遊動性が高い遊間構造を形成することができる。経糸の製品密度が70本/25.4mm未満である場合や、緯糸の製品密度が55本/25.4mm未満である場合には、十分な強度及び耐久性が得られない虞がある。経糸の製品密度が250本/25.4mmを超える場合や、緯糸の製品密度が160本/25.4mmを超える場合には、隣接する糸条の間隔が狭くなり、遊間構造が形成されない虞がある。
【0027】
経糸に用いる糸条の繊度(総繊度)は、150~300デニールであることが好ましい。緯糸に用いる糸条の繊度(総繊度)は、100~450デニールであることが好ましい。糸条の総繊度が上記の範囲にあれば、遊間構造を形成しやすい厚みのある織物が得られる。また、厚みのある織物であるため、強度及び耐久性についても、車両内装用に適したものとなる。糸条の総繊度が経糸で150デニール未満である場合や、緯糸で100デニール未満である場合には、織物に十分な遊間構造が形成されない虞がある。糸条の総繊度が経糸で300デニールを超える場合や、緯糸で450デニールを超える場合には、織物が過剰に厚くなり風合いが悪くなる虞がある。
【0028】
経糸及び/又は緯糸には、総繊度が異なる2種以上の糸条を用いることが好ましい。経糸に総繊度が異なる2種以上の糸条を用いる場合、及び/又は緯糸に総繊度が異なる2種以上の糸条を用いる場合には、互いに隣接する総繊度の異なる糸条間の隙間が遊間構造となり、いせ込み性に優れた車両用複合材を得ることができる。経糸において、総繊度の最も大きな糸条と総繊度の最も小さな糸条とにおける総繊度の差は、50デニール以上であることが好ましく、150デニール以上であることがより好ましい。経糸の総繊度の最大値と最小値との差が上記の範囲にあれば、総繊度の異なる経糸の糸条間に形成される遊間構造が大きなものとなり、車両用複合材おいてより優れたいせ込み性が得られる。経糸の総繊度の最大値と最小値との差の上限値は特に限定されないが、300デニール以下であればよい。緯糸において、総繊度の最も大きな糸条と総繊度の最も小さな糸条とにおける総繊度の差は、100デニール以上であることが好ましく、150デニール以上であることがより好ましい。緯糸の総繊度の最大値と最小値との差が上記の範囲にあれば、総繊度の異なる緯糸の糸条間に形成される遊間構造が大きなものとなり、車両用複合材おいてより優れたいせ込み性が得られる。緯糸の総繊度の最大値と最小値との差の上限値は特に限定されないが、300デニール以下であればよい。また、経糸の糸条と、緯糸の糸条とに、互いに総繊度の異なる糸条を用いることが好ましい。経糸と緯糸との総繊度が異なる場合には、経糸と緯糸とが交錯点が遊動しやすい遊間構造となり、いせ込み性に優れた車両用複合材を得ることができる。
【0029】
織物の経糸及び/又は緯糸に用いる糸条には、マルチフィラメント糸を用いることが好ましい。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理(タスラン加工、インターレース加工等)などにより、捲縮性や嵩高性を付与してもよい。特に、織物に遊間構造を形成するためには、インターレース加工糸を用いることがより好ましく、耐久性の観点から交絡点の数が80~120回/mであるインターレース加工糸(以下、「「強インターレース加工糸」と称する)を用いることがさらに好ましい。織物の経糸及び/又は緯糸として、インターレース加工糸を用いれば、隣接する糸条間に遊間構造が大きく形成され、シワの発生をより適切に抑制することができる。また、糸条は、繊維を2種類以上組み合わせて構成した複合糸としてもよく、その複合形態としては、混繊、引き揃え、合撚、交撚、捲回等が挙げられる。
【0030】
糸条を構成する繊維(単繊維)の素材は特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など挙げることができる。なかでも機械的強度、耐熱性、耐光性の観点から、合成繊維が好ましく、ポリエステルがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。また、これらを2種類以上組み合わせて構成した複合繊維としてもよい。また、機能性を付与した繊維、例えば、難燃性、導電性、消臭性など従来公知の機能性繊維を用いることができる。例えば、高い難燃性能を求められる場合には、難燃性を付与した繊維を用いることができる。繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、通常の丸型であっても、扁平型、楕円型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。さらには、表面に微細な凹凸(「ミクロクレーター」と呼ばれる)を有するものであってもよい。
【0031】
繊維の繊度(単繊維繊度)は、0.27~9デニールであることが好ましく、0.27~4.5デニールであることがより好ましい。繊度が0.27デニール未満であると、十分な耐久性、特には耐光性が得られない虞がある。繊度が9デニールを超えると、糸条の表面抵抗値が低くなり、十分な耐久性が得られなかったり、風合いが硬くなったりする虞がある。
【0032】
[ポリウレタンフォームシート]
本発明の車両用複合材において、表皮材の裏面に積層されるポリウレタンフォームシートとしては、車両内装用途の表皮材の裏打ち材として一般的に用いられているものを用いることができる。例えば、軟質スラブ発泡により連続的に製造したブロックを長手方向にスライスし、長尺のシート状としたものを挙げることができる。積層方法は特に限定されるものではなく、例えば、接着剤を用いる方法、フレームラミネートによる方法などを挙げることができる。なかでも、工程負荷や軽量化の観点から、フレームラミネートによる方法が好ましい。これにより、本発明の車両用複合材は、バッキング処理を行わなくても表皮材のほつれを防止することができ、風合いが硬くなることもなく、加えて、十分な強度及び耐久性を有する。
【0033】
車両用複合材のいせ込み性は、目視によりシワの発生が確認されないいせ込み率の最大値(以下、「最大いせ込み率」)を用いて評価することができる。最大いせ込み率の算出方法は、幅50mm、長さ100mmの大きさの試験片を、経方向・緯方向から採取し、各試験片を他の複合材へ縫い付ける長さ(以下、「縫製長」と称する。)を縮めて、いせ込み縫製を行う。縫製前の試験片の長さをL0、いせ込み縫製後に目視にて試験片にシワの発生が確認されなかった最小の縫製長をL1とした場合、下記の式(1):
最大いせ込み率(%) = {(L0-L1)/L0} × 100 ・・・ (1)
より、最大いせ込み率を算出する。
【実施例】
【0034】
本発明の車両用複合材(実施例1~25)について、各種測定及び評価を行った。測定及び評価項目は、最大いせ込み率、平面摩耗耐性、スナッキング耐性、及び短冊モジュラスとした。各項目について、以下、説明する。
【0035】
[最大いせ込み率]
幅50mm、長さ100mmの大きさの試験片を、経方向・緯方向から採取し、各試験片を他の複合材へ縫い付ける長さ(以下、「縫製長」と称する。)を縮めて、いせ込み縫製を行った。いせ込み縫製後、目視にて試験片にシワの発生が確認されなかった最小の縫製長を測定し、上述の式(1)より、最大いせ込み率を算出した。
【0036】
[平面摩耗耐性]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を、経方向・緯方向からそれぞれ1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚み10mmの大きさのウレタンフォームシートを添えて、平面摩耗試験機T-TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定した。綿布(綿帆布)をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて、試験片の表面上140mmの間を60回往復/分の速さで10000回往復摩耗した。この間、摩耗回数2500回往復ごとに綿布を交換した。摩耗後の試験片を観察し、下記の基準に従って判定した。
5級:表面状態に変化がない
4級:やや毛羽立ちがある
3級:毛羽立ちがある
2級:毛羽立ちが多く、糸が細くなっている
1級:糸切れがある
【0037】
[スナッキング耐性]
JIS L 1058 7.1 ICI形メース試験機法(A法)に準拠して測定した。ドラム回転数は500回とした。試験後の試験片を観察し、ICIの標準見本と比較して、等級判定した。
【0038】
[短冊モジュラス]
幅55mm、長さ250mmの大きさの試験片を、経方向・緯方向からそれぞれ採取し、幅方向の両端から同数の糸を取り去り、幅50mmとした。試験片を、つかみ幅を150mmとして、引張試験機オートグラフAG-100A(株式会社島津製作所製)に、たるみの無いように取り付けた。試験片を引張速度200mm/分で引っ張り、5%伸長時の荷重(N/50mm)を測定した。測定は3回実施し、得られた値の平均値をモジュラス値とした。
【0039】
<実施例1~10>
図1に示す二重組織にて製織した織物を表皮材とし、下記表1に示す条件に従って、その裏面に、裏打ち材としてポリウレタンフォームシートを、フレームラミネート法により積層し、実施例1~10の車両用複合材を得た。積層後のポリウレタンフォームシートの厚みは1.3mmであった。実施例1~10の車両用複合材において表皮材とした織物は、何れも、隣接する糸条間の隙間が広く、この隙間による遊間構造を有するものであった。
【0040】
実施例1の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸として167dtex/48f×2の2H撚糸(300デニール)と167dtex/48fの撚糸(150デニール)とを交互に用い、緯糸として167dtex/48f×2の2H撚糸(300デニール)を用い、経糸の機上密度を124本/25.4mm、緯糸の機上密度を69本/25.4mmとし、
図1に示す組織Aにて製織した。組織Aは、経糸の最大飛び本数4本、緯糸の最大飛び本数が5本である。得られた織物は、経糸の製品密度が145本/25.4mm、緯糸の製品密度が85本/25.4mmであった。
【0041】
実施例2、及び3の車両用複合材において表皮材とした織物は、夫々の組織を
図1に示す組織B、及び組織Cに変更し、それ以外は実施例1と同様に製織した。組織Bは、経糸の最大飛び本数4本、緯糸の最大飛び本数が7本である。組織Cは、経糸の最大飛び本数3本、緯糸の最大飛び本数が3本である。得られた織物は、実施例2では経糸の製品密度が151本/25.4mm、緯糸の製品密度が86本/25.4mmであった。実施例3では経糸の製品密度が148本/25.4mm、緯糸の製品密度が90本/25.4mmであった。
【0042】
実施例4の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸として167dtex/48f×2の2H撚糸(300デニール)と167dtex/48fの撚糸(150デニール)とを交互に用い、緯糸として167dtex/48f×2の2H撚糸(300デニール)を用い、経糸の機上密度を124本/25.4mm、緯糸の機上密度を69本/25.4mmとし、
図1に示す組織Dにて製織した。組織Dは、経糸の最大飛び本数3本、緯糸の最大飛び本数が5本である。得られた織物は、経糸の製品密度が151本/25.4mm、緯糸の製品密度が85本/25.4mmであった。
【0043】
実施例5の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸の機上密度を112本/25.4mm、緯糸の機上密度を62本/25.4mmに変更し、それ以外は実施例4と同様に製織した。得られた織物は、経糸の製品密度が138本/25.4mm、緯糸の製品密度が77本/25.4mmであった。
【0044】
実施例6の車両用複合材において表皮材とした織物は、糸使いを、経糸として167dtex/48f×2のSD2H強インターレース加工糸(300デニール)と167dtex/48fのSD2H強インターレース加工糸(150デニール)とを交互に用い、緯糸として167dtex/48f×2のSD2H強インターレース加工糸(300デニール)を用いるように変更し、それ以外外は実施例5と同様に製織した。得られた織物は、経糸の製品密度が139本/25.4mm、緯糸の製品密度が76本/25.4mmであった。
【0045】
実施例7の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸の機上密度を101本/25.4mm、緯糸の機上密度を56本/25.4mmに変更し、それ以外は実施例6と同様に製織した。得られた織物は、経糸の製品密度が125本/25.4mm、緯糸の製品密度が70本/25.4mmであった。
【0046】
実施例8の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸として167dtex/48f×2のSD2H強インターレース加工糸(300デニール)を用い、緯糸として167dtex/48f×2のSD2H強インターレース加工糸(300デニール)を用い、経糸及び緯糸の機上密度を70本/25.4mmとし、
図1に示す組織Eにて製織した。組織Eは、経糸の最大飛び本数2本、緯糸の最大飛び本数が2本である。得られた織物は、経糸の製品密度が83本/25.4mm、緯糸の製品密度が85本/25.4mmであった。
【0047】
実施例9、及び10の車両用複合材において表皮材とした織物は、夫々の組織を
図1に示す組織F、及び組織Gに変更し、それ以外は実施例8と同様に製織した。組織Fは、経糸の最大飛び本数2本、緯糸の最大飛び本数が2本である。組織Gは、経糸の最大飛び本数2本、緯糸の最大飛び本数が3本である。得られた織物は、実施例9では経糸の製品密度が84本/25.4mm、緯糸の製品密度が80本/25.4mmであった。実施例10では経糸の製品密度が85本/25.4mm、緯糸の製品密度が80本/25.4mmであった。
【0048】
<実施例11~25>
図2に示す一重組織にて製織した織物を表皮材とし、下記表2に示す条件に従って、その裏面に、裏打ち材としてポリウレタンフォームシートを、フレームラミネート法により積層し、実施例11~25の車両用複合材を得た。積層後のポリウレタンフォームシートの厚みは1.3mmであった。実施例11~25の車両用複合材において表皮材とした織物は、何れも、隣接する糸条間の隙間が広く、この隙間による遊間構造を有するものであった。
【0049】
実施例11の車両用複合材において表皮材とした織物は、経糸として167dtex/48fの撚糸(150デニール)を用い、緯糸として167dtex/48fの撚糸(150デニール)を用い、経糸及び緯糸の機上密度を75本/25.4mmとし、
図2に示す組織1にて製織した。組織1は、経糸の飛び本数5本、緯糸の飛び本数が5本である。得られた織物は、経糸の製品密度が104本/25.4mm、緯糸の製品密度が91本/25.4mmであった。
【0050】
実施例12~25の車両用複合材において表皮材とした織物は、糸使い、機上密度、及び組織を、実施例11から表2、及び
図2に示すものに変更して製織した。なお、実施例14~17、21~24において用いた組織3は、経糸の最大飛び本数5本、緯糸の最大飛び本数が10本である。実施例25において用いた組織2は、経糸の最大飛び本数5本、緯糸の最大飛び本数が6本である。得られた織物は、実施例12では経糸の製品密度が89本/25.4mm、緯糸の製品密度が89本/25.4mmであった。実施例13では経糸の製品密度が191本/25.4mm、緯糸の製品密度が86本/25.4mmであった。実施例14では経糸の製品密度が102本/25.4mm、緯糸の製品密度が91本/25.4mmであった。実施例15では経糸の製品密度が117本/25.4mm、緯糸の製品密度が86本/25.4mmであった。実施例16では経糸の製品密度が218本/25.4mm、緯糸の製品密度が91本/25.4mmであった。実施例17では経糸の製品密度が206本/25.4mm、緯糸の製品密度が86本/25.4mmであった。実施例18では経糸の製品密度が86本/25.4mm、緯糸の製品密度が90本/25.4mmであった。実施例19では経糸の製品密度が97本/25.4mm、緯糸の製品密度が91本/25.4mmであった。実施例20では経糸の製品密度が183本/25.4mm、緯糸の製品密度が69本/25.4mmであった。実施例21では経糸の製品密度が104本/25.4mm、緯糸の製品密度が97本/25.4mmであった。実施例22では経糸の製品密度が99本/25.4mm、緯糸の製品密度が86本/25.4mmであった。実施例23では経糸の製品密度が203本/25.4mm、緯糸の製品密度が94本/25.4mmであった。実施例24では経糸の製品密度が208本/25.4mm、緯糸の製品密度が72本/25.4mmであった。実施例25では経糸の製品密度が145本/25.4mm、緯糸の製品密度が97本/25.4mmであった。
【0051】
なお、実施例1~25の車両用複合材において表皮材とした織物では、全て糸条にポリエチレンテレフタレート糸を用いた。
【0052】
各実施例において表皮材とした織物の糸使い、組織、機上密度、製品密度、及び厚みを、表1及び表2に示し、各実施例における測定結果及び評価結果を表3及び表4に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
実施例1~25の車両用複合材は、縦方向の最大いせ込み率が3%以上であり、優れたいせ込み性を有することが確認された。このことから、実施例1~25の車両用複合材は、いせ込み縫製により立体的に縫製する場合に、シワの発生を抑制することができると考えられる。また、実施例1~25の車両用複合材において、最大いせ込み率と、短冊モジュラスとの間に相関が見られないことから、実施例1~25の車両用複合材のいせ込み性は、複合材の柔軟性によるものではなく、表皮材が有する遊間構造に由来するものと考えられる。
【0058】
表皮材となる織物を二重組織にて製織した実施例1~10では、縦方向及び緯方向の両方向で最大いせ込み率が3%以上であることから、より優れたいせ込み性を有し、車両座席等の様々な車両内装用に適用可能であると考えられる。また、実施例1~10の車両用複合材は何れも、平面摩耗耐性、及びスナッキング耐性が、織物を一重組織にて製織した実施例11~25のものよりも相対的に優れていることから、車両内装用により適した素材であると考えられる。
【0059】
実施例4~7の車両用複合材は、何れも表皮材が組織Dにて縫製されているが、機上密度及び製品密度のみ異なる実施例4と実施例5とを比較すると、機上密度及び製品密度が小さい実施例5の方が最大いせ込み率が大きかった。このことから、二重組織にて製織した織物を表皮材に用いる場合、製品密度は、本発明に規定の範囲の中でもより小さい方が、糸条間の隙間が広がり、いせ込み性が向上すると考えられる。
【0060】
実施例5の車両用複合材から表皮材の総繊度、及び機上密度を変更することなく、糸条をインターレース加工糸に変更した場合(実施例6)、実施例5と製品密度にほぼ違いがなかったが、実施例5よりも最大いせ込み率が大きくなった。また、実施例7の車両用複合材は、実施例6の車両用複合材から糸使いを変更することなく、機上密度及び製品密度のみ小さくしたものであるが、実施例6のものから最大いせ込み率の変化は確認されなかった。これらから、二重組織にて製織した織物を表皮材に用いる場合に、いせ込み性をさらに向上させるためには、インターレース加工糸の使用が好ましいと考えられる。
【0061】
二重組織において、経糸に総繊度が異なる2種の糸条を用いた実施例1~3は、糸使い、及び機上密度が同一で、製品密度もほぼ違いがなく、組織のみが異なるが、何れも3%以上の最大いせ込み率を示している。このことから、実施例1~3の車両用複合材のいせ込み性は、経糸に総繊度が異なる2種の糸条を用いたことで、互いに隣接する総繊度の異なる糸条間の隙間が遊間構造となって実現されたと考えられる。
【0062】
また、二重組織において、経糸及び緯糸に同じインターレース加工糸を用いた実施例8~10は、糸使い、及び機上密度が同一で、製品密度もほぼ違いがなく、組織のみが異なるが、何れも3%以上の最大いせ込み率を示している。このことから、実施例8~10の車両用複合材のいせ込み性は、糸条にインターレース加工糸を用いたことで、インターレース加工糸の形状に由来する糸条間の隙間が遊間構造となって実現されたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の車両用複合材は、車両内装用途に利用可能であり、特に、湾曲形状をなす車両の座席、天井材、ダッシュボード、インストルメントパネル、コンソール、ドア内張材、及びハンドル等への利用に適する。