(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】水電解装置及び水電解装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20230612BHJP
C25B 9/15 20210101ALI20230612BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230612BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20230612BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20230612BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B9/15
C25B9/23
C25B11/081
C25B15/02
(21)【出願番号】P 2019146522
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】中森 洋二
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-177592(JP,A)
【文献】特開平11-290877(JP,A)
【文献】特開2001-104956(JP,A)
【文献】特開2003-342771(JP,A)
【文献】特開2005-054266(JP,A)
【文献】特開2014-185387(JP,A)
【文献】特表2016-506288(JP,A)
【文献】特開2018-028134(JP,A)
【文献】特開2018-165385(JP,A)
【文献】特表2018-511694(JP,A)
【文献】特開2019-090087(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0101723(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0201197(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0340789(US,A1)
【文献】米国特許第08940151(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面にアノード極を設置し、他方の面にカソード極を設置した固体高分子電解質膜を用いて前記アノード極に供給された水を電気分解して、水素と酸素を発生する電解セルと、
前記電解セルの供給口から前記アノード極に供給される前記水を排出口側から排水し、
前記排出口と前記供給口との間に存在する水の圧力を大気圧に対して負圧にするポンプと、
を備える、水電解装置。
【請求項2】
前記アノード極側の前記供給口との間に接続される
第3配管を介して前記水を供給する第1水貯水部と、
前記電解セルの前記カソード極側の排出口との間に接続される第2配管を介して引き込まれた前記水素の水分を貯蔵する第2水貯水部と、
前記
第3配管に設けられた第1弁と、前記第2配管に設けられた第2弁と、の開度をより小さくすると共に前記ポンプの出力を上げて前記水の負圧度を上昇させる制御部と、
を更に備える、請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記制御部は、所定量の前記水素を生成するための前記電解セルの電圧が所定の閾値を超えた場合に、前記水の負圧度を上昇させる制御を実行することを特徴とする請求項2に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記電解セルは、前記アノード極及び前記カソード極により相互に前記固体高分子電解質膜を相互に挟持し、
前記固体高分子電解質膜の前記アノード極に対向する面に配置されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の前記カソード極に対向する面に配置されたカソード触媒層とを有し、
前記アノード触媒層は、イリジウムを含んで形成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水電解装置。
【請求項5】
前記アノード触媒層に含まれる前記イリジウムの重量当りの水蒸気吸着量が250~650[m
2/gIr]の範囲となるように調整されてなる、請求項4に記載の水電解装置。
【請求項6】
前記アノード触媒層のメソ細孔容積(単位:[cm
3/cm
3])に対する、前記アノード触媒層における前記イリジウムの重量当りの水蒸気吸着量に対する比が700[m
2/gIr]/[cm
3/cm
3]以上となるように調整されてなる、請求項4に記載の水電解装置。
【請求項7】
前記アノード触媒層のメソ細孔容積に対する、前記アノード触媒層における前記イリジウムの重量当りの窒素吸着量の比が700[m
2/gIr]/[cm
3/cm
3]以上となるように調整されてなる、請求項4に記載の水電解装置。
【請求項8】
前記電解セルは、前記アノード極及び前記カソード極により相互に前記固体高分子電解質膜を相互に挟持し、
前記固体高分子電解質膜の前記アノード極に対向する面に配置されたアノード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の前記カソード極に対向する面に配置されたカソード触媒層とを有し、
前記カソード触媒層は、白金を含む貴金属触媒担持カーボン粒子及び高分子電解質を含んで形成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水電解装置。
【請求項9】
前記カソード触媒層に含まれる前記白金の重量当りの水蒸気吸着量が200~500[m
2/gPt]の範囲となるように調整されてなる、請求項8に記載の水電解装置。
【請求項10】
前記カソード触媒層に含まれる前記白金の重量当りの窒素吸着量が250~650[m
2/gPt]の範囲となるように調整されてなる、請求項8に記載の水電解装置。
【請求項11】
前記カソード触媒層のメソ細孔容積(単位:[cm
3/cm
3])に対する、前記カソード触媒層における前記白金の重量当りの水蒸気吸着量の比が600[m
2/gPt]/[cm
3/cm
3]以上となるように調整されてなる、請求項8に記載の水電解装置。
【請求項12】
前記カソード触媒層のメソ細孔容積に対する、前記カソード触媒層における前記白金の重量当りの窒素吸着量の比が700[m
2/gPt]/[cm
3/cm
3]以上となるように調整されてなる、請求項8に記載の水電解装置。
【請求項13】
一方の面にアノード極を設置し、他方の面にカソード極を設置した固体高分子電解質膜を用いて前記アノード極に供給された水を電気分解して、水素と酸素を発生する電解セルと、
前記電解セルの供給口から前記アノード極に供給される前記水を排出口側から排水し、
前記排出口と前記供給口との間に存在する水の圧力を大気圧に対して負圧にするポンプと、
前記アノード極側の前記供給口との間に接続される
第3配管を介して前記水を供給する第1貯水部と、
前記電解セルの前記カソード極側の排出口との間に接続される第2配管を介して引き込まれた前記水素の水分を貯蔵する第2貯水部と、
を備える水電解装置の制御方法であって、
前記電解セルの電圧が所定の閾値を超えた場合に、前記
第3配管に設けられた第1弁と、前記第2配管に設けられた第2弁と、の開度を小さくすると共に前記ポンプの出力を上げる水電解装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水電解装置及び水電解装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を用いた水電解装置では、ポンプを電解セルの上流に設置し、加圧して水を電解セルのアノード極側に供給する。ところが、電解セルの運転時には、水の電気分解により発生したアノード極側の微小な酸素ガスが留まることがある。この微小な酸素ガスが留まった領域では水が触媒に到達できず一時的に機能が損なわれる。酸素ガスがさらに溜まり続けると、他の部位でも触媒機能が損なわれていき、電解セルのセル性能電圧が大きくなることで、電解効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、電解効率の低下を抑制可能な水電解装置及び水電解装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態によれば、水電解装置は、電解セルと、ポンプと、を備える。電解セルは、方の面にアノード極を設置し、他方の面にカソード極を設置した固体高分子電解質膜を用いてアノード極に供給された水を電気分解して、水素と酸素を発生する。ポンプは、電解セルの供給口からアノード極に供給される水を排出口側から排水し、水の圧力を大気圧に対して負圧にする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態に係る水電解装置及び水電解装置の制御方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、水電解装置1の構成を示すブロック図である。この
図1に示すように、本実施形態に係る水電解装置1は、固体高分子電解質膜を用いて水素と酸素を発生する水電解装置の一例である。水電解装置1は、電解セル10と、ポンプ20と、水タンク30と、熱交換器40と、イオン交換樹脂部50と、ドレンタンク60と、給電部70と、制御部80と、水素計測部m10と、を備えて構成される。
図1には更に、配管p2~p12と、排出口e2、e6、e10と、供給口e4、e8と、が図示されている。水平面に平行で互いに垂直なX方向およびY方向と、この水平面に垂直なZ方向とを示している。本明細書では、+Z方向を鉛直上方向として取り扱い、-Z方向を鉛直下方向として取り扱う。
【0009】
図2は、電解セル10の構成を示す図である。電解セル10は、一方の面にアノード極110を設置し、他方の面にカソード極112を設置した固体高分子(PEM:Polymer Electrolyte Membrane)電解質膜100を用いてアノード極110に供給された水を電気分解して、水素と酸素を発生する。
【0010】
電解セル10は、固体高分子電解質膜100と、アノード触媒層102と、カソード触媒層104と、アノード側多孔質給電体106と、カソード側多孔質給電体108と、アノード極110と、カソード極112と、を有する。アノード触媒層102、アノード側多孔質給電体106、及びアノード極110をアノードと呼び、カソード触媒層104、カソード側多孔質給電体108、及びカソード極112をカソードと呼ぶ場合がある。
【0011】
固体高分子電解質膜100は、例えばスルホン酸基を有するフッ素系高分子を含んで構成される。固体高分子電解質膜100は、アノード極110及びアノード極110により相互に挟持される。
【0012】
アノード触媒層102は、固体高分子電解質膜100のアノード極110に対向する面に配置される。カソード触媒層104は、固体高分子電解質膜100のカソード極112に対向する面に配置される。アノード触媒層102及びカソード触媒層104の詳細は後述する。
【0013】
アノード側多孔質給電体106は、アノード触媒層102とアノード極110との間に配置される。アノード側多孔質給電体106は、多孔質材で構成される。
【0014】
カソード側多孔質給電体108は、カソード触媒層104とカソード極112との間に配置される。カソード側多孔質給電体108は、多孔質材で構成される。
【0015】
アノード極110は、給電部70の陽極に接続され、カソード極112は、給電部70の陰極に接続される。これにより、固体高分子電解質膜100の中を水素イオンが移動して、供給口e8から供給された水H2Oが電解される。このとき、アノード極110では、H2O→2H++2e-+1/2O2の反応が起き、酸素O2と未反応の水H2Oが排出口e2から排出される。
【0016】
一方で、カソード極112では、2H++2e-→H2の反応が起き、水素H2が排出口e10から排出される。このように電解セル10内では、H2O→H2+1/2O2の反応が起きる。
【0017】
図1に示すように、電解セル10の排出口e2と水タンク30との間には第1配管p2が配置される。電解セル10で発生した酸素と未反応の水とが第1配管p2を介して水タンク30に供給される。
【0018】
ポンプ20は、第1配管p2に配置され、電解セル10の供給口e8からアノード極110に供給される水を排出口e2側から排水し、水の圧力を大気圧に対して負圧にする。すなわち、ポンプ20は、電解セル10の下流側から第1配管p2を介して、電解セル10で発生した酸素と未反応の水とを吸引し、水タンク30に供給する。
【0019】
水タンク30は、電解セル10に供給する水を貯水する。また、水タンク30の排出口e6と、電解セル10の供給口e8とは、配管p4で接続される。これから分かるように、ポンプ20で第1配管p2を介して、水を引っ張ることにより、水タンク30から水を、配管p4を介して電解セル10のアノード極に供給する。このとき、電解セル10の排出口e2と供給口e8との間に存在する水の圧力は、大気圧に対して負圧となる。なお、本実施形態に係る水タンク30が第1水貯水部に対応し、配管p4が第3配管に対応する。
【0020】
電解セル10の排出口e2と供給口e8との間に存在する水が負圧となることで、アノード側多孔質給電体106の内部に滞留した酸素ガスの気泡が大きくなる。気泡が大きくなると隣接する気泡と合流してさらに大きな気泡となる。大きくなった気泡は水に引っ張られることによって排出口e2を介して電解セル10の外部に排出される。これにより、アノード側多孔質給電体106の内部で酸素ガスが滞留することを抑制可能となる。このように、酸素ガスの滞留が抑制されるので、アノード触媒層102により連続的に水が供給され、水の電気分解をより効率的に生じさせることができる。このとき、水の電気分解の分極は増加しないので、電解効率の低下も抑制できる。
【0021】
水タンク30の上端部には配管p6が接続され、水タンク30内の酸素は配管p6を介して供給先に供給される。
【0022】
熱交換器40は、配管p4内を流れる水の温度を所定値に調整する。また、イオン交換樹脂部50は、配管p4内を流れる水の不純物を除くことにより純水を生成し、電解セル10に供給する。
【0023】
電解セル10の排出口e10とドレンタンク60との間には配管p8が接続される。これにより、ドレンタンク60は、配管p8を介して水素とともに引き込まれた水蒸気を冷却し、生成した水分を貯蔵する。ドレンタンク60の上端部には配管p10が接続され、水タンク30内の酸素は配管p10を介して供給先に供給される。なお、本実施形態に係る配管p8が第2配管に対応する。
【0024】
また、ドレンタンク60と水タンク30との間には、配管p12が接続される。これにより、ドレンタンク60からも水タンク30に水が供給される。なお、本実施形態に係るドレンタンク60が第2水貯水部に対応する。
【0025】
給電部70は、直流電源である。上述のように、給電部70の陽極は、給電部70のアノード極110に接続され、給電部70の陰極は、カソード極112に接続される。
【0026】
制御部80は、CPU等の演算処理部と、各制御動作を実行するためのプログラムを格納した記憶部等から構成される。制御部80は、水素計測部m10で計測される水素量に基づき、ポンプ20の出力と、給電部70の供給電力とを制御する。例えば、制御部80は、電解セル10で生成される水素量が予め定めた量となるように給電部70が電解セル10に供給する電圧と電流を制御する。
【0027】
以下にアノード触媒層102、及びカソード触媒層104の詳細な材料調製例について説明する。
[アノード触媒層102の材料調製]
本実施形態のアノード触媒層102は、イリジウムIrを含んで形成される。本実施形態で用いるイリジウムIrは、例えば酸化物IrOxである。酸化物IrOxは単体の微粒子でも良いが、TiOxやSnOx等の酸化物に微粒子を担持させても良い。また、イリジウムIrを含む物質として、白金、コバルト、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の金属、或いは上記金属の2種以上からなる合金、金属酸化物等を挙げることができる。アノード触媒層102は、これらの2種以上からなる合金、金属酸化物等を含んで形成してもよい。
【0028】
さらに、アノード触媒層102に用いる高分子電解質としては、水素イオン伝導性のスルホン酸基等を導入したフッ素系イオン交換樹脂等が適用可能であり、例えば、デュポン社製のパーフルオロカーボンスルホン酸高分子樹脂(Nafion)を用いる。また、ポリスルホン樹脂、リン酸基、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有する高分子樹脂を用いても良い。
【0029】
続いて、酸化物IrOxを含む粒子と、高分子電解質を含む溶液とを、純水或いは更にアルコール等の有機溶媒と共に加え、市販のホモジナイザー等による分散処理を行うことにより、触媒層形成用インクを作製する。ここで、触媒層形成用インクとして、酸化物IrOxを含む粒子、高分子電解質を含む溶液、及び純水或いは有機溶媒の各々の組成比を変えて、多数種のインクを用意する。次に、触媒層形成用インクを、アノード側多孔質給電体106に塗布し、乾燥させることによってアノード触媒層102を形成する。或いは別途用意した塗布基材上に上記触媒層形成用インクを塗布し乾燥させたものを、固体高分子電解質膜100に転写することによって固体高分子電解質膜100上にアノード触媒層102を形成してもよい。
【0030】
即ち、アノード触媒層102の基板として、例えばカーボンペーパーを用いる。カーボンペーパーの面上にカーボン粉とフッ素樹脂粉末を混合して塗布焼成することにより、アノード側多孔質給電体106を形成しても良い。また、アノード側多孔質給電体106として、例えばチタンメッシュもしくはチタン不織布などのチタン多孔質体を用いてもよい。
【0031】
以下は電解セル10について、排出口e2と供給口e8との間に存在する水の圧力を大気圧に対して負圧にし、一定の電力を電解セル10に加えた条件下において、水素計測部m10の水素製造量が大きくなり水素の生成効率が高くなるアノード触媒層の仕様を示す。
【0032】
例えば、アノード触媒層102の水蒸気吸着量が増えるに伴い水素の生成効率が向上する。より具体的には、アノード触媒層に含まれるIr重量当りの水素吸着量が250~650[m2/gIr]の範囲となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0033】
また、アノード触媒層102のメソ細孔容積(単位:[cm3/cm3])に対する、アノード触媒層102のIr重量当りの水蒸気吸着量の比が700[m2/gIr]/[cm3/cm3]以上となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0034】
さらにまた、アノード触媒層102のメソ細孔容積に対する、触媒層のIr重量当りの窒素吸着量の比が700[m2/gIr]/[cm3/cm3]以上となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0035】
[カソード触媒層104の材料調製]
本実施形態のカソード触媒層104は、白金Ptを含んで形成される。白金tを含む貴金属触媒担持カーボン粒子としては、一般的に使用されるものとしてカーボンブラック粉末、例えば、Ketjen EC(ケッチェンブラックインターナショナル社製)やVulcan(Cabot社製)、黒鉛、炭素繊維、活性炭、カーボンナノチューブ等が適用可能である。
【0036】
また、カーボン粒子に担持させる白金Ptを含む貴金属触媒としては、白金Ptに加え、コバルト、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の金属、或いは上記金属の2種以上からなる合金、金属酸化物等を挙げることができる。
【0037】
さらに、カソード触媒層104に用いる高分子電解質としては、水素イオン伝導性のスルホン酸基等を導入したフッ素系イオン交換樹脂等が適用可能であり、例えば、デュポン社製のパーフルオロカーボンスルホン酸高分子樹脂(Nafion)を用いる。また、ポリスルホン樹脂、リン酸基、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有する高分子樹脂を用いても良い。
【0038】
続いて、白金Ptを含む貴金属触媒担持カーボン粒子と、高分子電解質を含む溶液とを、純水或いは更にアルコール等の有機溶媒と共に加え、市販のホモジナイザー等による分散処理を行うことにより、触媒層形成用インクを作製した。ここで、触媒層形成用インクとして、白金Ptを含む貴金属触媒担持カーボン粒子、高分子電解質を含む溶液、及び純水或いは有機溶媒の各々の組成比を変えて、多数種のインクを用意した。次に、触媒層形成用インクを、カソード側多孔質給電体108上に塗布し、乾燥させることによってカソード触媒層104を形成する。或いはまた、別途用意した塗布基材上にカソード触媒層104形成用インクを塗布し乾燥させたものを、固体高分子電解質膜100に転写することによって固体高分子電解質膜100上にカソード触媒層104を形成してもよい。
【0039】
カソード触媒層104の水蒸気吸着量が増えるに伴い水素の生成効率が向上する。より具体的には、カソード触媒層104に含まれる白金Ptの重量当りの水蒸気吸着量が200~500[m2/gPt]の範囲となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0040】
カソード触媒層104の窒素吸着量が増えるに伴い水素の生成効率が向上する。カソード触媒層104に含まれる白金Ptの重量当りの窒素吸着量が250~650[m2/gPt]の範囲となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0041】
また、カソード触媒層104のメソ細孔容積(単位:[cm3/cm3])に対する、カソード触媒層104のPt重量当りの水蒸気吸着量の比が600[m2/gPt]/[cm3/cm3]以上となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0042】
さらにまた、カソード触媒層104のメソ細孔容積に対する、カソード触媒層104の白金Ptの重量当りの窒素吸着量の比が700[m2/gPt]/[cm3/cm3]以上となるように調整すると、水素の生成効率が最も高くなる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、電解セル10の供給口e8からアノード極110に供給される水を排出口e2側から排水し、水の圧力を大気圧に対して負圧にすることとした。これにより、アノード内部に酸素ガスが滞留することを抑制できる。このとき、水の電気分解の分極は増加しないので、電解効率の低下も抑制できる。
【0044】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る水電解装置1は、電解セル10の水素生成効率が低下した場合に、回復操作させる制御モードを有する点で、第1実施形態と相違する。以下では第1実施形態に係る水電解装置1と相違する点を説明する。
【0045】
図3は、第2実施形態に係る水電解装置1の構成図である。配管p4に弁V10を備え、配管p8に弁V20を更に備える。なお、本実施形態に係る弁V10が第1弁に対応し、弁V20が第2弁に対応する。
【0046】
水電解装置1の長期運転によって触媒の変質や不純物の混入によって、アノード触媒層102に酸素が溜まりやすくなるリスクがある。それに対応するため、制御部80は、弁V10及び弁V20の開度を絞りながら、ポンプ20の出力を上昇させる回復制御を行う。この回復制御によってアノード内部に滞留した微小な酸素ガスをさらに排出しやすくすることができる。
【0047】
図4は、第2実施形態に係る回復制御の一例を説明するフロチャートである。
【0048】
制御部80は、水素計測部m10から水素製造量を取得する(ステップS100)。続けて、制御部80は、水素製造量が所定範囲内か否かを判定する(ステップS102)。制御部80は、水素製造量が所定範囲内でない場合(ステップS102のNO)、給電部70が供給する電圧を所定量あげる制御を行う(ステップS104)。
【0049】
次に、制御部80は、給電部70が供給する電圧が所定値以上、例えば初期運転時の10パーセントを超えたか否かを判定する(ステップS106)。所定値以上でない場合(ステップS106のNO)、ステップS100からの処理を繰り返す。一方で、所定値以上である場合(ステップS106のYES)、制御部80は、弁V10及び弁V20の開度を絞りながら、ポンプ20の出力を上昇させる回復動作を行い(ステップS108)、ステップS100からの処理を繰り返す。
【0050】
また、制御部80は、水素製造量が所定範囲内である場合(ステップS102のYES)、全体処理を終了するか否かを判定する(ステップS110)。全体処理を終了しないと判定する場合(ステップS110のNO)、ステップS100からの処理を繰り返す。一方で、全体処理を終了すると判定する場合(ステップS110のYES)、全体処理を終了する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御部80は、所定量の水素を生成するために給電部70が供給する電圧が所定値以上となった場合に、弁V10及び弁V20の開度を絞るとともに、ポンプ20の出力を上昇させる回復動作をおこなうこととした。これにより、電解セル10のアノード内部に滞留した微小な酸素ガスをさらに排出しやすくすることができる。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。