(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】光音響素子、光音響イメージング装置、及び、光音響素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/06 20060101AFI20230612BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G01N29/06
G01N29/24
(21)【出願番号】P 2019177036
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊矢
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-092631(JP,A)
【文献】特表2011-519281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0275262(US,A1)
【文献】特開2017-217203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01N 21/00 - G01N 21/61
A61B 8/00 - A61B 8/15
A61B 5/06 - A61B 5/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、該金属層の一方の主面に接合された第1部材と、該金属層の他方の主面に接合された第2部材とを備え、
前記第1部材及び前記第2部材は、密度が2.6×10
3kg/m
3以上である硝材により構成されており、
前記金属層は、光波を反射すると共に、該光波を吸収した物体が発する光音響波を透過させる、
ことを特徴とする光音響素子。
【請求項2】
前記第1部材及び前記第2部材は、ポアソン比が2.1以上である硝材により構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の光音響素子。
【請求項3】
前記第1部材及び前記第2部材の一方又は両方は、光学ガラス又はセラミックスにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響素子。
【請求項4】
前記金属層は、最薄部の厚みが20nm以上1000nm以下の金属層を主層として含んでいる、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の光音響素子。
【請求項5】
前記金属層は、前記主層の一方又は両方の主面に形成された最厚部の厚みが20nm以下の金属層を下地層として含んでいる、
ことを特徴とする請求項4に記載の光音響素子。
【請求項6】
前記主層の複素屈折率をN
0とし、前記第1部材又は前記第2部材の複素屈折率をN
1としたとき、以下の式(1)を満たす、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の光音響素子。
【数1】
【請求項7】
前記主層の比重をρ
0、前記主層における縦波の音速をC
0とし、前記第1部材の比重をρ
1、前記第1部材における縦波の音速をC
1とし、前記第2部材の比重をρ
2、前記第2部材における縦波の音速をC
2としたとき、以下の式(2)及び(3)を満たす、
ことを特徴とする請求項4~6の何れか一項に記載の光音響素子。
【数2】
【数3】
【請求項8】
前記主層は、Al、Ag、Ti、Cu、Au、Pt、又は、これらの金属の少なくとも何れかを含有した合金により構成されている、
ことを特徴とする請求項4~7の何れか1項に記載の光音響素子。
【請求項9】
前記主層は、Alにより構成されており、
前記第1部材及び前記第2部材は、音響インピーダンスが15以上19以下の硝材により構成されている、
ことを特徴とする請求項4~8の何れか一項に記載の光音響素子。
【請求項10】
前記主層は、Agにより構成されており、
前記第1部材及び前記第2部材は、音響インピーダンスが25以上49以下の硝材により構成されている、
ことを特徴とする請求項4~8の何れか一項に記載の光音響素子。
【請求項11】
前記金属層の一方の主面は、放物面状に凹面化されている、
ことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載の光音響素子。
【請求項12】
前記金属層は、前記第1部材の表面に形成された第1金属層と、前記第2部材の表面に形成された第2金属層と、により構成され、
前記第1金属層の前記第1部材側の面と反対側の面と、前記第2金属層の前記第2部材側と反対側の面とは、加熱接合、通電拡散接合、原子拡散接合、表面活性化接合、又はろう付けされている、
ことを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載の光音響素子。
【請求項13】
光源と、
前記光源から出力された光波を反射すると共に、当該光波を吸収した被写体が発する光音響波を透過する光音響素子であって、請求項1~12の何れか一項に記載の光音響素子と、
前記光音響素子を透過した光音響波を検出する音響波検出器と、を備えている、
ことを特徴とする光音響装置。
【請求項14】
請求項1~12の何れか一項に記載の光音響素子の製造方法であって、
前記第1部材の表面に第1金属層を形成する工程と、
前記第2部材の表面に第2金属層を形成する工程と、
前記第1金属層の前記第1部材側と反対側の面と、前記第2金属層の前記第2部材側と反対側の面とを、加熱接合、通電拡散接合、原子拡散接合、表面活性化接合、又はろう付けする工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする光音響素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響素子に関する。また、光音響素子を備えた光音響イメージング装置に関する。また、光音響素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被写体(例えば、生体や工業材料など)の高精細な画像化を行うための技術として、光音響イメージング装置が注目を集めている。光音響イメージング装置を用いれば、被写体を侵襲したり被ばくさせたりすることなく、被写体内部の高精細な画像化を行うことができる。また、光音響イメージング装置を用いれば、従来よりも頻繁に検査を実施することが容易である。また、小型の光音響イメージング装置を実現することができれば、現場検査を即時的に実施することが可能になる。
【0003】
物体に光波を照射すると、この光波を吸収した物体が光音響波と呼ばれる熱弾性波を放射する。光音響イメージング装置では、この光音響波を参照して被写体の画像化を行う。このため、光吸収率の違いを指標とした物質の識別が可能である。また、光音響波は、光波よりも散乱され難い。このため、光学撮影では実現が困難な、被写体内部の画像化が可能である。
【0004】
光音響イメージングの手法は、2種類に大別される。第1の手法は、光音響コンピュータトモグラフィー法であり、第2の手法は、光音響顕微鏡法である。光音響顕微鏡法は、更に、光音響波の焦点を利用するものと、光波の焦点を利用するものとに分けられる。光波の焦点を利用する方法は、被写体に照射する光波のビームウェスト径に応じた分解能を得られることから、優れた手法であると言える。
【0005】
光波の焦点を利用した光音響顕微鏡法を開示した文献としては、例えば、特許文献1~2が挙げられる。これらの文献に開示された光音響イメージング装置においては、光波を透過すると共に光音響波を反射する光音響素子を用いて、光波を被写体に入射させると共に光音響波を検出器に入射させる構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-519281号公報
【文献】特開2015-4570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光波を透過すると共に光音響波を反射する光音響素子を用いて、光波を被写体に入射させると共に光音響波を検出器に入射させる従来の光音響イメージング装置には、音響特性及び光学特性の双方に関して解消するべき問題が残されていた。
【0008】
第1に、このような光音響素子が光波を透過させる際に、非軸対称な収差が起こる。このような収差は、光音響イメージング装置の分解能を低下させる要因になる。第2に、このような光音響素子が光音響波を反射する際に、光音響波のモード変換(縦波から横波への、又は、横波から縦波へのモード変換)が起こる。このようなモード変換は、光音響波のSN比を低下させる要因になる。また、SN比の低下を避けるために、光音響波を2回反射させる構成を採用すると、光音響イメージング装置の大型化を招来すると共に、光音響波を導波させる経路が長くなるので、光音響波の損失増大を招来する。
【0009】
なお、特許文献1には、上述した構成の光音響イメージング装置の他に、光波を反射すると共に光音響波を透過する光音響素子を用いて、光波を被写体に入射させると共に光音響波を検出器に入射させる構成の光音響イメージング装置が開示されている。ここで用いられている光音響素子は、2つのプリズムと、これら2つのプリズムに挟まれた反射アルミニウムコーティング層と、により構成されている(特許文献1の段落0039参照)。特許文献1では、このプリズムの材料が特定されていない。しかしながら、特許文献1が公開された2007年当時の技術常識からすると、このプリズムの材料は、N-BK7又は合成石英であると推定される。
【0010】
ところで、N-BK7のポアソン比は、0.206程度であり、N-BK7の密度は、2.51×103kg/m3程度である。また、合成石英のポアソン比は、0.17程度であり、合成石英の密度は、2.2×103kg/m3程度である。そうすると、プリズムの音響インピーダンスは、12×106kg/m2s程度になる。一方、アルミニウムの音響インピーダンスは、17×106kg/m2s程度である。このように、音響インピーダンスに大きなギャップがあるため、特許文献1に記載の光音響素子においては、プリズムと反射アルミニウムコーティング層との間で無視できない光音響波の反射が生じる。このため、特許文献1に記載の光音響素子を用いた場合、十分な強度の光音響波を検出することができない。
【0011】
また、特許文献1に記載の光音響素子は、表面に反射アルミニウムコーティング層が形成された2つのプリズムを、樹脂製接着剤を用いて貼り合せることにより製造されたものと推定される。このため、特許文献1に記載の光音響素子では、十分な耐熱性や十分な堅牢性を実現することが困難である。また、接着剤層における光音響波の損失も無視することができない。
【0012】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、優れた光学特性及び音響特性を有する光音響素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る光音響素子は、金属層と、該金属層の一方の主面に接合された第1部材と、該金属層の他方の主面に接合された第2部材とを備え、前記金属面は、光波を反射すると共に、該光波を吸収した物体が発する光音響波を透過させる。前記金属層、前記第1部材、及び前記第2部材の材料は、前記金属層の音響インピーダンスと前記第1部材及び前記第2部材の音響インピーダンスとが整合するように選択されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた光学特性及び音響特性を有する光音響素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光音響素子の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す光音響素子において、金属層がAl層を主層とする場合に、第1部材及び第2部材の材料として利用可能な硝材のポアソン比μ及び密度ρをプロットしたグラフである。
【
図3】
図1に示す光音響素子において、金属層がAg層を主層とする場合に、第1部材及び第2部材の材料として利用可能な硝材のポアソン比μ及び密度ρをプロットしたグラフである。
【
図4】
図1に示す光音響素子の製造方法の流れを示すフロー図である。
【
図5】
図1に示す光音響素子を備えた光音響イメージング装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】第1の実施例に係る光音響素子を示す。(a)は、その光音響素子の斜視図であり、(b)は、その光音響素子の断面図である。
【
図7】第2の実施例に係る光音響素子を示す。(a)は、その光音響素子の斜視図であり、(b)は、その光音響素子の断面図である。
【
図8】第3の実施例に係る光音響素子を示す。(a)は、その光音響素子の斜視図であり、(b)は、その光音響素子の断面図である。
【
図9】第4の実施例に係る光音響素子を示す。(a)は、その光音響素子の斜視図であり、(b)は、その光音響素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.光音響素子
本発明の一実施形態に係る光音響素子1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、光音響素子1の構成を示す斜視図である。
【0017】
1.1.光音響素子の構成
本実施形態に係る光音響素子1は、金属層10と、金属層10の一方の主面に接合された第1部材11と、金属層10の他方の主面に接合された第2部材12とを備えている。金属層10は、光波を反射すると共に、この光波を吸収した物体が発する光音響波を透過させる。
【0018】
上記の構成において、金属層10は、主として光波を透過するのではなく、反射する。したがって、上記の構成によれば、金属層を光波が透過する際に生じる非軸対称な収差によって分解能が低下するという、従来の光音響イメージング装置の問題点を解消することができる。
【0019】
また、上記の構成において、金属層10は、主として光音響波を反射するのではなく、透過する。したがって、上記の構成によれば、金属層で光音響波を反射する際に生じる光音響波のモード変換によって光音響波のSN比が低下するという、従来の光音響イメージング装置の問題点を解消することができる。また、光音響波SN比の低下を避けるために、光音響波を2回反射させる構成を採用する必要がないので、光音響イメージング装置の大型化を招来したり、光音響波の損失増大を招来したりする懸念がない。
【0020】
なお、光音響波の周波数は、光波の周波数と比べて3桁低い。したがって、光音響波が金属層10を透過する際に生じる屈折の程度は、光波が金属層10を透過する際に生じる屈折の程度と比べて無視できる程度に小さい。このため、光音響波が金属層10を透過する際に生じる非軸対称な収差は、光音響イメージング装置の分解能に対して実質的な影響を与えない。
【0021】
1.2.第1部材及び第2部材の材料
本実施形態に係る光音響素子1において、第1部材11及び第2部材12は、密度が2.6×103kg/m3以上の硝材により構成されている、ことが好ましい。
【0022】
第1部材11及び第2部材12を構成する硝材の密度が2.6×103kg/m3よりも小さい場合、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスと金属層10の音響インピーダンスとの差が大きくなり、その結果、光音響波に対する反射率が高く(透過率が低く)なる。一方、第1部材11及び第2部材12を構成する硝材の密度が2.6×103kg/m3以上である場合、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスと金属層10の音響インピーダンスとの差が小さくなり、その結果、光音響波に対する反射率が低く(透過率が高く)なる。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0023】
本実施形態に係る光音響素子1において、第1部材11及び第2部材12は、ポアソン比が2.1以上である硝材により構成されている、ことが好ましい。
【0024】
第1部材11及び第2部材12を構成する硝材のポアソン比が2.1よりも小さい場合、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスと金属層10の音響インピーダンスとの差が大きくなり、その結果、光音響波に対する反射率が高く(透過率が低く)なる。一方、第1部材11及び第2部材12を構成する硝材のポアソン比が2.1以上である場合、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスと金属層10の音響インピーダンスとの差が小さくなり、その結果、光音響波に対する反射率が低く(透過率が高く)なる。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0025】
本実施形態に係る光音響素子1において、第1部材11及び第2部材12の一方又は両方は、光学ガラス又はセラミックスにより構成されている、ことが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、第1部材11及び第2部材12の一方又は両方のポアソン比を2.1以上にすると共に、第1部材11及び第2部材12の一方又は両方の密度を2.6×103kg/m3以上にすることができる。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。なお、セラミックスとしては、例えば、サファイアやアルミナなどが挙げられる。また、第1部材11及び第2部材12の一方のみを光学ガラス又はセラミックスにより構成する場合には、第1部材11及び第2部材12のうち、光波が入射する方の部材を光学ガラス又はセラミックスにより構成することが好ましい。
【0027】
1.3.金属層の構成
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10は、最薄部の厚みが20nm以上の金属層を主層として含んでいる、ことが好ましい。
【0028】
金属層10の主層の最薄部の厚みが20nmよりも小さい場合、金属層10が光波を十分に反射することが不可能になる。一方、金属層10の主層の厚みが20nm以上である場合、金属層10が光波を十分に反射することが可能になる。したがって、上記の構成によれば、十分な強度の光波を被写体に照射することが可能になる。
【0029】
金属層10の主層の最薄部の厚みが20nmよりも小さい場合、金属層10が光波を吸収することによって生じる熱を、光音響素子の外部に十分に散逸させることが困難になる。一方、金属層10の主層の厚みが20nm以上である場合、金属層10が光波を吸収することによって生じる熱を、光音響素子の外部に十分に散逸させることが容易になる。したがって、上記の構成によれば、光音響素子1の耐熱性を向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10の主層の最薄部の厚みは、1000nm以下であることが好ましい。
【0031】
金属層10の主層の最薄部の厚みが1000nmよりも大きい場合、金属層10が光音響波を十分に透過させることが不可能になる。一方、金属層10の主層の厚みが1000nm以下である場合、金属層10が光音響波を十分に透過させることが可能になる。したがって、上記の構成によれば、十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0032】
また、金属層10の主層の最薄部の厚みが1000nmよりも大きい場合、光音響波が金属層10を透過する際に、SN比を低下させる要因となる、光音響波のモード変換が生じ易くなる。一方、金属層10の主層の厚みが1000nm以下である場合、光音響波が金属層10を透過する際に、SN比を低下させる要因となる、光音響波のモード変換が生じ難くなる。したがって、上記の構成によれば、光音響波のSN比を向上させることができる。
【0033】
また、金属層10の主層の最薄部の厚みが1000nmよりも大きい場合、金属層10の熱膨張により金属層10と第1部材11及び第2部材12との接合が破壊され易くなる。一方、金属層10の主層の厚みが1000nm以下である場合、金属層10の熱膨張により金属層10と第1部材11及び第2部材12との接合が破壊され難くなる。したがって、上記の構成によれば、光音響素子1の耐熱性を向上させることができる。
【0034】
なお、本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10は、主層のみにより構成されていてもよいし、主層の他に、主層の一方又は両方の主面に形成された最厚部の厚みが20nm以下の金属層を下地層として含んでいてもよい。
【0035】
金属層10に下地層を含めることによって、金属層10と第1部材11及び第2部材12の一方又は両方との接合強度を高めることが可能になる。すなわち、光音響素子1の堅牢性を向上させることができる。
【0036】
1.4.光波の反射条件
本実施形態に係る光音響素子1においては、金属層10の主層の複素屈折率をN
0とし、第1部材11又は第2部材12の複素屈折率をN
1としたとき、以下の式(1)を満たす、ことが好ましい。
【数1】
【0037】
上記の構成によれば、第1部材11の複素屈折率をN1とした場合、第1部材11から金属層10に入射する光波に対する反射率を十分に大きくすることができる。また、上記の構成によれば、第2部材12の複素屈折率をN1とした場合、第2部材12から金属層10に入射する光波に対する反射率を十分に大きくすることができる。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光波を被写体に照射することが可能になる。
【0038】
なお、使用平均波長における金属層10の主層の屈折率をn0とし、消衰係数をkとした場合、複素屈折率N0は、N0=n0-ikにより与えられる。また、使用平均波長における第1部材11又は第2部材12の屈折率をn1とし、消衰係数をkとした場合、複素屈折率N1は、N1=n1-ikにより与えられる。ここで、iは、虚数単位である。
【0039】
1.5.光音響波の透過条件
本実施形態に係る光音響素子1においては、金属層10の主層の比重をρ
0、金属層10の主層における音速をC
0とし、第1部材11の比重をρ
1、第1部材11における音速をC
1とし、第2部材12の比重をρ
2、前記第3部材における音速をC
2としたとき、以下の条件式(2)及び(3)を満たす、ことが好ましい。
【数2】
【数3】
【0040】
上記の構成によれば、光音響波に対する反射率を十分に小さくすることができる。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0041】
1.6.金属層の材料
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10の主層は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Ag(銀)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、又は、これらの金属の少なくとも何れかを含有した合金により構成されている、ことが好ましい。
【0042】
Al、Ti、Ag、Cu、Au、及びPtの音響インピーダンスは、それぞれ、17程度、27程度、37程度、45程度、62程度、及び84程度である。したがって、上記の構成によれば、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスと金属層10の音響インピーダンスとの差を小さく抑えることができる。このため、光音響波に対する反射率が低く(透過率が高く)なり、その結果、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0043】
1.7.第1部材及び第2部材の好適材料(金属層がAl層の場合)
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10の主層は、Alにより構成することができる。この場合、第1部材11及び第2部材12は、音響インピーダンスが15以上19以下の硝材により構成されている、ことが好ましい。
【0044】
Alの音響インピーダンスは、17程度である。したがって、上記の構成によれば、金属層10の主層の音響インピーダンスと第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスとの差を、高々2程度に抑えることができる。したがって、上記の構成によれば、光音響波に対する反射率を高々5%程度に抑えることができる。
【0045】
なお、音響インピーダンスが15以上19以下の硝材としては、例えば、下記の表1に示す硝材が挙げられる。
【0046】
〔表1〕
硝材名 ヤング率E ポアソン比μ 密度ρ 音響インピーダンス
<OHARA社>
S-TIM 2 0.230 2.69 776 15.56
S-TIM 1 0.234 2.71 786 15.77
S-BAL 2 0.245 2.89 727 15.81
S-TIM27 0.236 2.76 793 16.01
S-BAL 3 0.249 2.98 719 16.02
S-TIM22 0.238 2.79 798 16.17
S-BAM 4 0.244 2.91 762 16.22
S-BAL14 0.240 2.89 811 16.62
S-NBM51 0.243 2.93 817 16.84
S-TIM25 0.236 2.91 841 16.93
S-BAL41 0.242 2.78 890 17.11
S-TIM28 0.242 2.98 855 17.36
S-TIM35 0.238 2.96 875 17.44
S-NPH 7 0.269 3.30 753 17.60
S-PHM53 0.285 3.51 708 17.93
S-BAL42 0.246 3.19 847 17.94
S-TIH 1 0.247 3.06 884 17.97
S-NBH 5 0.248 3.02 902 18.05
S-TIH18 0.248 3.07 891 18.08
S-BAL35 0.250 3.31 832 18.18
S-TIH13 0.249 3.10 899 18.27
S-BSM28 0.258 3.23 853 18.32
S-FPL55 0.302 3.59 698 18.42
S-FPL53 0.303 3.62 691 18.43
S-BSM 2 0.264 3.53 780 18.43
S-TIH14 0.254 3.17 888 18.45
S-TIH 3 0.254 3.11 908 18.48
S-NBH52V 0.246 3.01 963 18.58
S-PHM52 0.292 3.67 715 18.59
S-BAM12 0.253 3.18 904 18.63
L-BAL35 0.252 2.82 1008 18.50
L-BAL35P 0.252 2.82 1008 18.50
L-BAL42 0.247 3.05 891 18.01
L-BAL42P 0.247 3.05 891 18.01
L-BAL43 0.250 3.05 904 18.19
L-TIM28 0.254 2.88 845 17.15
L-TIM28P 0.254 2.88 845 17.15
<光ガラス社>
J-F3 0.221 2.64 806 15.60
J-BAF3 0.244 2.74 760 15.72
J-F1 0.231 2.69 815 15.96
J-F2 0.231 2.66 825 15.96
J-SF7 0.238 2.76 788 15.98
J-SF2 0.247 2.72 805 16.16
J-KZFH1 0.249 2.80 813 16.51
J-BAK4 0.246 2.84 821 16.67
J-BAK1 0.251 3.17 733 16.71
J-BALF4 0.262 3.13 743 16.90
J-BAF4 0.236 2.89 846 16.92
J-SK11 0.241 3.06 799 16.99
J-SF5 0.249 2.90 833 17.01
J-SF15 0.254 2.95 842 17.33
J-SF8 0.252 2.93 864 17.46
J-BASF2 0.252 3.08 848 17.74
J-SK12 0.252 3.23 816 17.82
Q-SK52S 0.296 2.80 853 17.83
J-PSK03 0.284 3.52 700 17.83
J-SF1 0.255 3.07 875 18.04
J-SF10 0.251 3.06 886 18.05
J-BAF8 0.261 3.14 857 18.16
J-SSK8 0.260 3.18 856 18.25
J-SFH1 0.259 3.31 830 18.32
J-SFH1HS 0.259 3.31 830 18.32
J-SF13 0.254 3.10 895 18.32
J-PSKH4 0.274 3.28 816 18.37
Q-PSKH4S 0.274 3.28 816 18.37
Q-SK55S 0.240 2.95 971 18.37
J-SK5 0.252 3.26 861 18.39
J-SK2 0.266 3.53 776 18.42
J-PSK02 0.291 3.56 733 18.52
J-FK01A 0.297 3.65 716 18.68
Q-FK01AS 0.297 3.65 716 18.68
<HOYA社>
E-F5 0.232 2.63 790 15.54
E-F3 0.233 2.64 800 15.69
E-F1 0.242 2.70 780 15.78
E-FD7 0.245 2.75 790 16.07
LBC3N 0.300 3.84 520 16.40
BAC4 0.253 2.85 810 16.69
E-FD5 0.251 2.90 820 16.91
FF8 0.243 3.14 770 16.93
BACD11 0.241 3.07 800 17.03
E-FD15 0.250 2.95 850 17.35
E-FD80 0.265 3.26 750 17.39
M-FD80 0.265 3.26 750 17.39
MP-FD80 0.265 3.26 750 17.39
MC-FD80 0.265 3.26 750 17.39
E-FD8 0.256 2.97 840 17.40
M-BACD12 0.252 3.01 900 18.06
MP-BACD12 0.252 3.01 900 18.06
MC-BACD12 0.252 3.01 900 18.06
E-FD1 0.258 3.08 870 18.07
E-FD10 0.256 3.07 880 18.11
M-BACD5N 0.254 2.82 980 18.28
MP-BACD5N 0.254 2.82 980 18.28
MC-BACD5N 0.254 2.82 980 18.28
FD225 0.264 3.32 820 18.33
BACD2 0.268 3.53 770 18.39
PCD4 0.293 3.52 730 18.42
FCD10 0.297 3.60 710 18.47
BACD5 0.254 3.27 870 18.55
FCD100 0.302 3.53 720 18.55
FD140 0.256 3.14 910 18.62
【0047】
上記の表1においては、各硝材のヤング率E[108N/m2]、ポアソン比μ、密度ρ[103kg/m3]、及び音響インピーダンス[106kg/m2s]を記載している。なお、各硝材の音響インピーダンスは、その硝材のヤング率E、ポアソン比μ、及び密度ρから算出することもできるし、直接測定することもできる。
【0048】
図2は、上記の表1に示した各硝材のポアソン比μ及び密度ρをプロットしたグラフである。
図2においては、上記の表1に示した硝材に加えて、N-BK7及び合成石英のポアソン比μ及び密度ρもプロットしている。
図2によれば、第1部材11及び第2部材12を下記の表1に示す硝材により構成することで、第1部材11及び第2部材12をN-BK7又は合成石英により構成した場合よりも、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスを大きくできること、すなわち、金属層10の主層の音響インピーダンスとの差を小さくできることが確かめられる。
【0049】
1.7.第1部材及び第2部材の好適材料(金属層がAg層の場合)
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10の主層は、Agにより構成することができる。この場合、第1部材11及び第2部材12は、音響インピーダンスが25以上49以下の硝材により構成されている、ことが好ましい。
【0050】
Agの音響インピーダンスは、37程度である。したがって、上記の構成によれば、金属層10の主層の音響インピーダンスと第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスとの差を、高々12程度に抑えることができる。したがって、上記の構成によれば、光音響波に対する反射率を高々20%程度に抑えることができる。
【0051】
なお、音響インピーダンスが25以上49以下の硝材としては、例えば、下記の表2に示す硝材が挙げられる。
【0052】
〔表2〕
硝材名 ヤング率E ポアソン比μ 密度ρ 音響インピーダンス
<OHARA社>
S-LAM54 0.292 4.08 1172 25.10
S-LAL61 0.291 4.04 1190 25.13
S-LAL19 0.295 3.98 1198 25.16
S-LAH88 0.242 4.74 1135 25.23
S-LAH63 0.295 4.34 1121 25.42
S-TIH57 0.292 4.20 1170 25.44
S-LAL18 0.289 4.18 1204 25.65
S-LAH52 0.297 4.41 1119 25.67
S-LAH51 0.297 4.40 1129 25.75
S-LAH97 0.295 4.17 1209 25.87
S-LAH53 0.299 4.43 1127 25.89
S-LAH55V 0.253 4.73 1178 25.93
S-LAH66 0.291 4.23 1219 26.03
S-LAH52Q 0.313 4.47 1098 26.20
S-LAH53V 0.309 4.41 1135 26.30
S-LAH64 0.294 4.30 1224 26.40
S-LAH96 0.296 4.54 1187 26.79
S-LAH65VS 0.300 4.46 1223 27.10
S-LAH60 0.296 4.43 1248 27.13
S-LAH95 0.302 4.64 1177 27.19
S-LAH55VS 0.297 4.58 1223 27.35
S-LAH89 0.303 4.70 1208 27.76
S-LAH65V 0.298 4.72 1220 27.76
S-LAH93 0.304 4.83 1247 28.64
S-LAH92 0.306 4.87 1230 28.64
S-LAH59 0.298 5.07 1250 29.13
S-LAH98 0.306 4.94 1293 29.58
S-LAH79 0.297 5.23 1255 29.60
S-LAH99 0.307 5.02 1313 30.09
S-LAH58 0.301 5.52 1268 30.74
<光ガラス社>
J-LASF013 0.297 4.20 1126 25.13
J-LASFH2 0.293 4.11 1171 25.21
J-LASF01 0.300 4.25 1115 25.26
Q-LAFPH1S 0.306 4.25 1097 25.27
Q-LAF010S 0.309 4.29 1081 25.32
J-LAK18 0.292 4.17 1187 25.53
J-LASF03 0.297 4.31 1140 25.61
J-LASF010 0.297 4.28 1167 25.82
Q-LASFH11S 0.302 4.64 1072 25.95
J-LASF016 0.295 4.26 1200 26.05
Q-LASF03S 0.310 4.48 1094 26.06
J-LASKH2 0.297 4.29 1188 26.08
J-LASF02 0.310 4.51 1091 26.12
J-LASF017 0.297 4.34 1186 26.21
J-LASF014 0.297 4.36 1196 26.38
Q-LASFPH2S 0.303 4.52 1135 26.39
J-LASFH13 0.301 4.66 1115 26.48
J-LASFH13HS 0.301 4.66 1115 26.48
J-LASF015 0.298 4.57 1196 27.05
J-LASF015HS 0.298 4.57 1196 27.05
Q-LASFH12S 0.299 4.68 1196 27.41
J-LASFH15 0.301 4.79 1181 27.63
J-LASFH15HS 0.301 4.79 1181 27.63
Q-LASFH59S 0.308 4.81 1162 27.75
Q-LASFPH3S 0.303 4.83 1185 27.88
J-LASFH17 0.298 4.69 1238 27.88
J-LASFH17HS 0.298 4.69 1238 27.88
J-LASF05 0.303 4.79 1198 27.91
J-LASF05HS 0.303 4.79 1198 27.91
J-LASFH9A 0.303 4.91 1233 28.67
Q-LASFH58S 0.301 5.03 1222 28.81
J-LASF09A 0.299 4.99 1244 28.87
J-LASFH22 0.306 5.08 1204 28.94
J-LASFH21 0.306 5.05 1282 29.78
J-LASFH16 0.307 5.10 1303 30.21
J-LASF08A 0.302 5.41 1249 30.25
<HOYA社>
M-NBF1 0.307 4.25 1110 25.46
MP-NBF1 0.307 4.25 1110 25.46
MC-NBF1 0.307 4.25 1110 25.46
TAC2 0.299 4.19 1170 25.65
NBFD3 0.292 4.39 1150 25.79
NBFD12 0.305 4.45 1100 25.85
NBFD13 0.301 4.38 1140 25.96
NBFD11 0.310 4.43 1100 25.99
M-TAC80 0.290 4.28 1210 26.05
MP-TAC80-60 0.290 4.28 1210 26.05
TAFD25 0.299 4.51 1130 26.16
M-NBFD130 0.304 4.56 1110 26.25
MP-NBFD130 0.304 4.56 1110 26.25
MC-NBFD130 0.304 4.56 1110 26.25
TAC6 0.297 4.27 1210 26.26
M-NBFD10 0.300 4.39 1180 26.41
MP-NBFD10-20 0.300 4.39 1180 26.41
NBFD10 0.293 4.57 1160 26.46
TAF1 0.277 4.28 1290 26.47
TAF2 0.300 4.35 1210 26.62
MC-NBFD135 0.303 4.67 1130 26.77
M-TAC60 0.290 4.41 1250 26.88
MP-TAC60-90 0.290 4.41 1250 26.88
TAF3D 0.297 4.40 1230 26.88
M-TAF401 0.299 4.62 1180 27.05
MP-TAF401 0.299 4.62 1180 27.05
MC-TAF401 0.299 4.62 1180 27.05
M-TAF101 0.298 4.56 1210 27.18
MP-TAF101-100 0.298 4.56 1210 27.18
MC-TAF101-100 0.298 4.56 1210 27.18
TAF4 0.299 4.54 1220 27.27
M-TAF105 0.295 4.62 1230 27.47
MP-TAF105 0.295 4.62 1230 27.47
MC-TAF105 0.295 4.62 1230 27.47
TAFD5G 0.300 4.57 1230 27.51
TAFD40-W 0.298 4.73 1210 27.68
TAFD40 0.298 4.73 1210 27.68
TAFD5F 0.300 4.72 1220 27.84
TAF3 0.298 4.65 1250 27.89
M-TAF1 0.297 4.83 1220 28.05
MC-TAF1 0.297 4.83 1220 28.05
M-TAF31 0.299 4.84 1230 28.27
MP-TAF31-15 0.299 4.84 1230 28.27
MC-TAF31-15 0.299 4.84 1230 28.27
TAFD32 0.302 4.84 1230 28.39
M-TAFD51 0.300 5.01 1210 28.57
MP-TAFD51-50 0.300 5.01 1210 28.57
MC-TAFD51-50 0.300 5.01 1210 28.57
TAFD37A 0.305 4.90 1240 28.80
TAF5 0.300 5.06 1230 28.95
M-TAFD305 0.308 5.25 1160 28.97
MP-TAFD305 0.308 5.25 1160 28.97
MC-TAFD305 0.308 5.25 1160 28.97
M-TAFD405 0.310 5.45 1120 29.09
MP-TAFD405 0.310 5.45 1120 29.09
TAFD35 0.303 4.97 1260 29.16
M-TAFD307 0.310 5.49 1140 29.45
MP-TAFD307 0.310 5.49 1140 29.45
MC-TAFD307 0.310 5.49 1140 29.45
TAFD45 0.306 5.10 1280 29.90
TAFD37 0.303 5.19 1270 29.91
TAFD33 0.302 5.40 1240 30.11
TAFD55-W 0.305 5.12 1300 30.15
TAFD55 0.305 5.12 1300 30.15
TAFD30 0.301 5.42 1260 30.36
TAFD65 0.303 5.27 1360 31.19
<セラミックス>
アルミナ 0.240 3.90 4000 42.88
サファイア 0.230 3.97 4700 46.51
【0053】
上記の表2においては、各硝材のヤング率E[108N/m2]、ポアソン比μ、密度ρ[103kg/m3]、及び音響インピーダンス[106kg/m2s]を記載している。なお、各硝材の音響インピーダンスは、その硝材のヤング率E、ポアソン比μ、及び密度ρから算出することもできるし、直接測定することもできる。
【0054】
図3は、上記の表2に示した各硝材のポアソン比μ及び密度ρをプロットしたグラフである。
図3においては、上記の表2に示した硝材に加えて、N-BK7及び合成石英のポアソン比μ及び密度ρもプロットしている。
図3によれば、第1部材11及び第2部材12を上記の表2に示す硝材により構成することで、第1部材11及び第2部材12をN-BK7又は合成石英により構成した場合よりも、第1部材11及び第2部材12の音響インピーダンスを大きくできること、すなわち、金属層10の主層の音響インピーダンスとの差を小さくできることが確かめられる。
【0055】
1.7.金属層の形状
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10の一方の主面は、放物面状に凹面化されている、ことが好ましい。
【0056】
上記の構成によれば、金属層10の一方の主面を凹面化鏡として用いることで、金属層10にて反射する光波を集光することができる。したがって、上記の構成によれば、被写体に照射する光波のビームウェスト径を小さくすることができ、その結果、光音響イメージング装置の分解能を向上させることができる。また、上記の構成によれば、光音響素子1から被写体までの距離を小さくすることができ、その結果、光音響イメージング装置を小型化することができる。
【0057】
1.8.金属層の堅牢性及び耐熱性を向上させるための工夫
本実施形態に係る光音響素子1において、金属層10は、第1部材11の表面に形成された第1金属層と、第2部材12の表面に形成された第2金属層と、により構成され、第1金属層の第1部材11側の面と反対側の面と、第2金属層の第2部材12側と反対側の面とは、加熱接合、通電拡散接合、原子拡散接合、表面活性化接合、又はろう付けされている、ことが好ましい。
【0058】
第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、接着剤により接着する場合、第1金属層と第2金属層との間の熱抵抗が大きくなり、その結果、第1金属層から第2部材12への熱の流れ、及び、第2金属層から第1部材11への熱の流れが阻害される。このため、金属層10が光波を吸収することによって生じる熱を、光音響素子1の外部に十分に散逸させることが困難になる。一方、第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、上記のように接合した場合、第1金属層と第2金属層との間の熱抵抗が小さくなり、その結果、第1金属層から第2部材12への熱の流れ、及び、第2金属層から第1部材11への熱の流れが促進される。このため、金属層10が光波を吸収することによって生じる熱を、光音響素子の外部に十分に散逸させることが容易になる。すなわち、上記の構成によれば、光音響素子1の耐熱性を向上させることができる。
【0059】
また、第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、接着剤により接着する場合、第1金属層と第2金属層との間に、光音響波の透過損失の要因となる空気層が形成され易い。一方、第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、上記のように接合した場合、第1金属層と第2金属層との間に、光音響波の透過損失の要因となる空気層が形成され難い。したがって、上記の構成によれば、光音響イメージング装置において十分な強度の光音響波を検出することが可能になる。
【0060】
また、第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、接着剤により接着する場合、振動、膨張、又は収縮による第1部材11と第2部材12との位置ずれが生じ易い。一方、第1部材11の表面に形成された第1金属層と第2部材12の表面に形成された第2金属層とを、上記のように接合した場合、振動、膨張、又は収縮による第1部材11と第2部材12との位置ずれが生じ難い。すなわち、上記の構成によれば、光音響素子1の堅牢性を向上させることができる。
【0061】
2.光音響素子の製造方法
光音響素子1の製造方法の流れについて、
図4を参照して説明する。
図4は、光音響素子1の製造方法の流れを示すフロー図である。
【0062】
光音響素子1の製造方法は、第1金属層形成工程S11と、第2金属層形成工程S12と、接合工程S13と、を含んでいる。
【0063】
第1金属層形成工程S11は、第1部材11の表面に第1金属層10Aを形成する工程である。第1金属層10Aの形成には、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)、法、又はメッキ法等を用いればよい。第1金属層10Aが下地層を含む場合には、まず、上記の方法により第1部材11の表面に下地層を形成した後、上記の方法により主層を形成すればよい。
【0064】
第2金属層形成工程S12は、第2部材12の表面に第2金属層10Bを形成する工程である。第2金属層10Bの形成には、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法、ALD法、又はメッキ法等を用いればよい。第2金属層10Bが下地層を含む場合には、まず、上記の方法により第2部材12の表面に下地層を形成した後、上記の方法により主層を形成すればよい。
【0065】
接合工程S13は、第1金属層10Aの第1部材11側の面と反対側の面と、第2金属層10Bの第2部材12側と反対側の面とを接合する工程である。第1金属層10Aと第2金属層10Bとの接合には、加熱接合、通電拡散接合、原子拡散接合法、表面活性化接合法、又はろう付法を用いればよい。
【0066】
接合工程S13を実施することにより、第1金属層10Aと第2金属層10Bとが一体化され、金属層10が得られる。また、第1部材11と第2部材12と金属層10とが一体化され、光音響素子1が得られる。
【0067】
3.光音響イメージング装置
光音響素子1を含む光音響イメージング装置2の構成について、
図5を参照して説明する。
図5は、光音響イメージング装置2の構成を示すブロック図である。
【0068】
光音響イメージング装置2は、光音響素子1の他に、光源21と、対物光学系22と、音響波検出器23と、を備えている。
【0069】
光源21は、光波を生成するための構成である。光源21としては、例えば、パルスレーザを用いることができる。対物光学系22は、光源21から出射された光波を集光するための構成である。対物光学系22としては、例えば、対物レンズを用いることができる。対物光学系22にて集光された光波は、光音響素子1の金属層10にて反射され、被写体Wに照射される。この光波を吸収した被写体Wは、光音響を発生する。この光音響波は、光音響素子1の金属層を透過し、音響波検出器23に入射する。音響波検出器23は、光音響波を電気信号に変換するための構成である。音響波検出器23としては、例えば、音響トランスデューサを用いることができる。
【0070】
光音響イメージング装置2は、光源21を制御する不図示のファンクションジェネレータを更に備えていてもよい。また、光音響イメージング装置2は、音響波検出器23にて得られた電気信号を処理する不図示のFFT(Fast Fourier Transform)アナライザを更に備えていてもよい。また、光音響イメージング装置2は、光波の焦点を被写体W上で走査するためのステージを更に備えていてもよい。このステージは、被写体Wを収容するための水槽を載置することができ、この水槽ごと被写体を移動させることが可能である。この場合、光音響波は、水中の被写体Wに照射され、光音響波は、水中の被写体から発せられる。また、光音響イメージング装置2は、被写体Wと光音響素子1との間に介在する、不図示の音響整合材を更に備えていてもよい。また、光音響イメージング装置2は、複数の対物光学系22と、利用する対物光学系を切り替える不図示の切替機構を更に備えていてもよい。この場合、音響焦点形と併用し、両画像を重畳することも可能である。また、上述したファンクションジェネレータ、FFTアナライザ、ステージ、及び切替機構は、不図示のコンピュータに接続されていてもよい。この場合、このコンピュータは、上述したファンクションジェネレータ、ステージ、及び切替機構を制御するため、及び、FFTアナライザの出力から被写体内部の画像を生成するために利用される。
【0071】
なお、光源21にて生成するパルスレーザの波長は、被写体Wの分光吸収特性に応じて設定すればよい。また、光源21にて生成するパルスレーザのパルス幅は、数ピコ秒から数百ナノ秒までの範囲で適宜設定すればよい。一例として、波長1064nm、パルス幅10nsのパルスレーザを用いることができる。また、発振するパルスレーザの波長が可変なパルスレーザを光源21として用いれば、被写体各部の吸収特性の違いを得られる画像に反映させることができる。また、音響波検出器23は、被写体Wと音響波特性に応じたものを適宜選択すればよい。
【0072】
4.光音響素子の実施例
4.1.第1の実施例
本発明の第1の実施例について、
図6を参照して説明する。
図6において、(a)は、本実施例に係る光音響素子1の斜視図であり、(b)は、本実施例に係る光音響素子1の断面図である。
【0073】
第1部材11及び第2部材12としては、等辺10mmの直角二等辺三角形を底面とする、高さ10mmの四角柱状の部材を用いた。第1部材11において、10mm×10mmの側面の一方は、光波の入射面として機能し、10mm×10mmの側面の他方は、光波の出射面、及び、光音響波の入射面として機能する。また、第1部材11において、10mm×14.1mmの側面は、金属層10を介して第2部材12と接合される接合面として機能する。一方、第2部材12において、10mm×10mmの側面の一方は、光音響波の出射面として機能する。また、第2部材12において、10mm×14.1mmの側面は、金属層10を介して第1部材11と接合される接合面として機能する。
【0074】
第1部材11及び第2部材12の材料としては、S-LAH99を用いた。S-LAH99は、屈折率が1.99406、比重が5.02×103kg/m3、縦波の音速が5.99×103m/sの硝材である。金属層10としては、厚さ100nmのAg層を主層とし、主層の両方の主面に形成された厚さ1nmのTi層を下地層とする三層構造の金属層を用いた。
【0075】
第1部材11及び第2部材12の材料としてS-LAH99を用い、金属層10の材料としてAgを用いた場合、可視光から近赤外光までを含む広い波長域において、光波に対する反射率が90%以上となる。このため、被写体に照射する光波の波長は、この波長域において自由に選択することができる。また、この場合、光音響波に対する反射率が11.3%程度となる。また、この場合、金属層10を透過する際に光音響波のモード変換が生じないことを、発明者らは超音波シミュレータComWAVEを用いた数値計算によって確認した。また、この数値計算によって、金属層10の材料としてAgを用いた場合、金属層10の厚みが100nmであれば、金属層10における光音響波の屈折は無視し得ることが確認された。
【0076】
4.2.第2の実施例
本発明の第2の実施例について、
図7を参照して説明する。
図7において、(a)は、本実施例に係る光音響素子1の斜視図であり、(b)は、本実施例に係る光音響素子1の断面図である。
【0077】
第1部材11及び第2部材12としては、等辺15mmの直角二等辺三角形を底面とする、高さ15mmの四角柱状の部材を用いた。第1部材11において、15mm×15mmの側面の一方は、光波の入射面として機能し、15mm×15mmの側面の他方は、光波の出射面、及び、光音響波の入射面として機能する。また、第1部材11において、15mm×21.2mmの側面は、金属層10を介して第2部材12と接合される接合面として機能する。一方、第2部材12において、15mm×15mmの側面の一方は、光音響波の出射面として機能する。また、第2部材12において、15mm×21.2mmの側面は、金属層10を介して第1部材11と接合される接合面として機能する。
【0078】
第1部材11における接合面には、表面が非軸放物面となるように、凸面加工を施した。また、第2部材12における接合面には、表面が非軸放物面となるように、凹面加工を施した。第1部材11/第2部材12における接合面において、凸面加工/凹面加工した円形領域の直径Dは、8mmである。なお、非軸放物面のSag量は、0.3mmとした。これにより、金属層10における光波の入射面が非軸放物面状に凹面化される。
【0079】
第1部材11及び第2部材12の材料としては、S-BAL41を用いた。S-BAL41は、屈折率が1.56188、比重が2.78×103kg/m3、縦波の音速が6.15×103m/sの硝材である。金属層10としては、厚さ80nmのAl層からなる一層構造の金属層を用いた。
【0080】
第1部材11及び第2部材12の材料としてS-BAL41を用い、金属層10の材料としてAlを用いた場合、可視光の波長域において、光波に対する反射率が85%以上となる。このため、被写体に照射する光波の波長は、この波長域において自由に選択することができる。また、この場合、光音響波に対する反射率が0.15%程度となる。また、この場合、金属層10を透過する際に光音響波のモード変換が生じないことを、発明者らは超音波シミュレータComWAVEを用いた数値計算によって確認した。また、この数値計算によって、金属層10の材料としてAlを用いた場合、金属層10の厚みが80nmであれば、金属層10における光音響波の屈折は無視し得ることが確認された。
【0081】
また、本実施例に係る光音響素子1においては、金属層10における光波の入射面が非軸放物面状に凹面化されている。したがって、金属層10は、光波を反射すると共に集光する凹面鏡として機能する。このため、実施例に係る光音響素子1は、光音響イメージング装置2において、対物光学系22の集光力を補助する。したがって、光波の焦点位置を変えることなく、よりNAの大きな光を被写体に入射させることが可能になる。
【0082】
4.2.第3の実施例
本発明の第3の実施例について、
図8を参照して説明する。
図8において、(a)は、本実施例に係る光音響素子1の斜視図であり、(b)は、本実施例に係る光音響素子1の断面図である。本実施例に係る光音響素子1は、光波が第1部材11側から金属層10に入射するように利用する。
【0083】
第1部材11としては、等辺10mmの直角二等辺三角形を底面とする、高さ10mmの四角柱状の部材を用いた。第1部材11において、10mm×14.1mmの側面は、金属層10を介して第2部材12と接合される接合面として機能する。また、第1部材11において、10mm×10mmの側面の一方は、光波の入射面として機能し、10mm×10mmの側面の他方は、光波の出射面、及び、光音響波の入射面として機能する。一方、第2部材12としては、内角が45°、45°-θa、90°+θaの三角形を底面とする、高さ10mmの四角柱状の部材を用いた。第2部材12において、10mm×14.1mmの側面は、金属層10を介して第1部材11と接合される接合面として機能する。また、第2部材12において、接合面との成す角が45°-θaとなる側面は、光音響波の出射面として機能する。縦波である光音響波の振動方向が第2部材12における光音響波の出射面と直交するように、角度θaは36°に設定した。
【0084】
第1部材11における光音響波の入射面には、表面が放物面となるように、凹面加工を施した。第1部材11における光音響波の入射面において、凹面加工した円形領域の直径Dは、8mmである。なお、放物面のSag量は、1mmとした。
【0085】
第1部材11の材料としては、L-BAL42を用いた。L-BAL42は、屈折率が1.58106、比重が3.05×103kg/m3、縦波の音速が5.90×103m/sの硝材である。一方、第2部材12の材料としては、シリコンを用いた。シリコンは、比重が2.33×103kg/m3、縦波の音速が8.45×103m/sの硝材である。金属層10としては、厚さ110nmのAl層のみからなる単層構造の金属層を用いた。
【0086】
第1部材11の材料としてL-BAL42を用い、金属層10の材料としてAlを用いた場合、可視光の波長域において、光波に対する反射率が85%以上となる。このため、被写体に照射する光波の波長は、この波長域において自由に選択することができる。また、この場合、第1部材11から金属層10に入射する光音響波に対する反射率が2.7%程度となり、第2部材12から金属層10に入射する光音響波に対する反射率が7.1%程度となる。また、この場合、金属層10を透過する際に光音響波のモード変換が生じないことを、発明者らは超音波シミュレータComWAVEを用いた数値計算によって確認した。また、この数値計算によって、光音響波は、金属層10を介して第1部材11から第2部材12へと入射する際、及び、第2部材12から空気中に入射する際に屈折することが確認された。
【0087】
また、本実施例に係る光音響素子1においては、第1部材11における光音響波の入射面が放物面状に凹面化されている。このため、第1部材11は、光音響波を透過させると共にコリメートする音響レンズとして機能する。この音響レンズの焦点は、被写体に照射する光波の焦点と同じ点に設定することもできるし、異なる点に設定することもできる。この音響レンズの焦点(光音響波の焦点)を光波の焦点と同じ点に設定した場合、光音響波のSN比を更に向上させることができる。逆に、この音響レンズの焦点を光波の焦点と異なる点に設定した場合、スキャンピッチを大きくすることができる。
【0088】
また、実施例に係る光音響素子1においては、第2部材12における光音響波の出射面が縦波である光音響波の振動方向と直交する。このため、光音響素子1を更に小型化することができる。
【0089】
4.4.第4の実施例
本発明の第4の実施例について、
図9を参照して説明する。
図9において、(a)は、本実施例に係る光音響素子1の斜視図であり、(b)は、本実施例に係る光音響素子1の断面図である。
【0090】
第1部材11及び第2部材12としては、等辺15mmの直角二等辺三角形を底面とする、高さ15mmの四角柱状の部材を用いた。第1部材11において、15mm×15mmの側面の一方は、光波の入射面として機能し、15mm×15mmの側面の他方は、光波の出射面、及び、光音響波の入射面として機能する。また、第1部材11において、15mm×21.2mmの側面は、金属層10を介して第2部材12と接合される接合面として機能する。一方、第2部材12において、15mm×15mmの側面の一方は、音響波の出射面として機能する。また、第2部材12において、15mm×21.2mmの側面は、金属層10を介して第1部材11と接合される接合面として機能する。
【0091】
第1部材11の材料としては、単結晶サファイアセラミックスを用いた。単結晶サファイアセラミックスは、屈折率が1.760、比重が3.97×103kg/m3、縦波の音速が11.72×103m/sの硝材である。一方、第2部材12の材料としては、アルミナセラミックスを用いた。アルミナセラミックスは、比重が3.9×103kg/m3、縦波の音速が10.99×103m/sの硝材である。金属層10としては、厚さ110nmのAg層を主層とし、主層の両方の主面に形成された厚さ1nmのZnO層を下地層とする三層構造の金属層を用いた。
【0092】
第1部材11の材料として単結晶サファイアセラミックスを用い、金属層10の材料としてAgを用いた場合、可視光から近赤外光までを含む広い波長域において、光波に対する反射率が90%以上となる。このため、被写体に照射する光波の波長は、この波長域において自由に選択することができる。また、この場合、第1部材11から金属層10に入射する光音響波に対する反射率が10.3%程度となり、第2部材12から金属層10に入射する光音響波に対する反射率が6.3%程度となる。また、この場合、金属層10を透過する際に光音響波のモード変換が生じないことを、発明者らは超音波シミュレータComWAVEを用いた数値計算によって確認した。また、この数値計算によって、金属層10の材料としてAgを用いた場合、金属層10の厚みが110nmであれば、金属層10における光音響波の屈折は無視し得ることが確認された。
【0093】
5.付記事項
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 光音響素子
10 金属層
11 第1部材
12 第2部材
2 光音響イメージング装置
21 光源
22 対物光学系
23 音響波検出器