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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用白インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20230612BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20230612BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230612BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/40
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 114
B41M5/00 100
B41J2/01 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019230832
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098796
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】古晒 大絢
(72)【発明者】
【氏名】水井 佑太郎
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179264(JP,A)
【文献】特開2020-176187(JP,A)
【文献】特開2017-186493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、定着用樹脂、及び水を含有するインクジェット捺染用白インク組成物であって、
定着用樹脂が、弾性率の異なる第一の定着用樹脂と第二の定着用樹脂を含み、
第一の定着用樹脂の23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満であり、第二の定着用樹脂の23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下であり、
全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比が0.2以上0.8以下である、
インクジェット捺染用白インク組成物。
【請求項2】
第一の定着用樹脂がシリコーン基を含有するものである、請求項1に記載の白インク組成物。
【請求項3】
第一の定着用樹脂のシリコーン基含有率が30質量%以上80質量%以下である、請求項2に記載の白インク組成物。
【請求項4】
白インク組成物中の全定着用樹脂の含有量が、4質量%以上18質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の白インク組成物。
【請求項5】
定着用樹脂がエマルジョン状態で白インク組成物中に含有されている、請求項1~4のいずれかに記載の白インク組成物。
【請求項6】
顔料が二酸化チタンである、請求項1~5のいずれかに記載の白インク組成物。
【請求項7】
顔料、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満である第一の定着用樹脂、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下である第二の定着用樹脂、及び水を混合する工程を有する、請求項1~6のいずれかに記載のインクジェット捺染用白インク組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の白インク組成物と、多価金属塩を含有する処理液とを含む、インクジェット捺染用インクセット。
【請求項9】
色相の異なる2種以上のインクを含む、請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
下記の工程1~3を有する、インクジェット捺染方法。
工程1:多価金属塩を含有する処理液を布帛に付着させて、処理布帛を得る工程
工程2:工程1で得られた処理布帛に、請求項1~6のいずれかに記載の白インク組成物をインクジェット方式で付与して、捺染布帛を得る工程
工程3:工程2で得られた捺染布帛を乾燥させる工程
【請求項11】
工程2と工程3の間に下記工程2’を有する、請求項10に記載の捺染方法。
工程2’:工程2で得られた捺染布帛にカラーインクをインクジェット方式で印捺する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用白インク組成物、その製造方法、インクジェット捺染用インクセット、及びインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染とは布地や繊維製品等の布帛に模様をつける着色方法であり、スクリーン捺染法、ローラー捺染法が広く用いられているが、近年、インクジェット記録方式を利用したインクジェット捺染方法が検討されている。
インクジェット捺染方法は、インク液滴を吐出させ、布帛に付着させて印刷を行う方法であり、その機構が比較的簡便で、高精細、高品位な画像を形成できるという利点がある。また、従来法とは異なり版作成の必要がないため、手早く階調性に優れた画像を形成できるので、少量多品種生産対応でき、さらに画像として必要な少量のインクしか使用しないため廃液が少ない等、環境的にも優れている。
【0003】
捺染用インクとしては、染料インクと顔料インクがある。顔料インクは、耐光性が高く、また洗浄等の後処理が不要という点で、染料インクに比べ有利である。
しかし、顔料インクは顔料を繊維に定着させて堅牢性を向上させるために、バインダー成分として定着用樹脂を添加する必要がある。定着用樹脂は、水系インクの液滴が布帛の表面に着弾した後、加熱されることで、布帛の表面に薄い膜を形成する。定着用樹脂を含有する水系インクは、上記膜の中に顔料が保持されることにより、布帛に形成された画像の堅牢性を高めることができると考えられる。しかしながら、定着用樹脂由来の硬さにより布帛がごわごわした触感になってしまい、染料インクと比較して繊維の風合いが劣るという問題がある。
【0004】
印捺物の風合、耐久性等を改善するためのインクジェット捺染用インクとして、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、白色度が高く、風合が損なわれず、塗膜耐久性等に優れる染色物が得られるインクジェット捺染用白色インク組成物として、白色顔料、高分子分散剤、ノニオン性樹脂エマルジョン、水性媒体を含有するインク組成物であって、高分子分散剤が特定のガラス転移温度(Tg)、酸価、質量平均分子量を有するアニオン性水溶性樹脂を中和して得られる高分子分散剤(A)であり、ノニオン性樹脂エマルジョンがTg20℃以下のノニオン性樹脂エマルジョン(B)であり、かつ前記(A)、(B)が特定の質量比である白色インク組成物が開示されている。
特許文献2には、耐擦性、柔軟性に優れる印捺物が得られるインクジェット捺染用インク組成物として、顔料、ウレタン樹脂エマルジョン、エマルジョン型シリコーン化合物、及び水を含有し、ウレタン樹脂エマルジョンの含有量が3.5~14質量%、エマルジョン型シリコーン化合物の含有量が0.4~3質量%、水の含有量が20~80質量%である、インク組成物が開示されている。
特許文献3には、捺染物の風合いを損なうことなく、印字画像の鮮明性、引っかき、擦れ等の外的応力に対する耐久性を有するインクジェット捺染用インク組成物として、着色顔料、高分子分散剤、結着成分、水性媒体及びポリアルキルシロキサンエマルジョンワックスを含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-195767号公報
【文献】特開2013-194222号公報
【文献】特開2011-105915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、布帛の風合いを維持するために、インク中にTgが20℃以下のアクリル系のノニオン性樹脂エマルジョンを定着用樹脂として用いているが、かかる樹脂では得られる布帛の風合いが不十分であった。
特許文献2では、インク中に顔料とウレタン系定着樹脂に加えて、エマルジョン型シリコーンオイルを併用することで柔軟性を改善する試みがなされているが、シリコーンオイルが液体であるため、塗膜の耐久性の点で不十分であった。
特許文献3では、顔料とアクリル系定着用樹脂に加えて、ポリアルキルシロキサンエマルジョンワックスを併用することで風合いを改善する試みがなされているが、印刷後、ポリアルキルシロキサンが表面に浮き上がって疎水膜を形成するため、他色インクとの重ね合わせ適性が低下するという問題があった。
本発明は、印捺物の風合いを損なわず、擦れ等の外的応力に対する耐久性に優れるインクジェット捺染用白インク組成物、その製造方法、インクジェット捺染用インクセット、及びインクジェット捺染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、インク中に含まれる定着用樹脂として、弾性率の異なる第一及び第二の2種の定着用樹脂を用い、全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]~[4]を提供する。
[1]顔料、定着用樹脂、及び水を含有するインクジェット捺染用白インク組成物であって、定着用樹脂が、弾性率の異なる第一の定着用樹脂と第二の定着用樹脂を含み、
第一の定着用樹脂の23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満であり、第二の定着用樹脂の23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下であり、
全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比が0.2以上0.8以下である、
インクジェット捺染用白インク組成物。
[2]顔料、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満である第一の定着用樹脂、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下である第二の定着用樹脂、及び水を混合する工程を有する、前記[1]に記載のインクジェット捺染用白インク組成物の製造方法。
[3]前記[1]に記載の白インク組成物と、多価金属塩を含有する処理液とを含む、インクジェット捺染用インクセット。
[4]下記の工程1~3を有する、インクジェット捺染方法。
工程1:多価金属塩を含有する処理液を布帛に付着させて、処理布帛を得る工程
工程2:工程1で得られた処理布帛に、前記[1]に記載の白インク組成物をインクジェット方式で付与して、捺染布帛を得る工程
工程3:工程2で得られた捺染布帛を乾燥させる工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印捺物の風合いを損なわず、擦れ等の外的応力に対する耐久性に優れるインクジェット捺染用白インク組成物、その製造方法、インクジェット捺染用インクセット、及びインクジェット捺染方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[インクジェット捺染用白インク組成物]
本発明のインクジェット捺染用白インク組成物(以下、単に「本発明インク」ともいう)は、顔料、定着用樹脂、及び水を含有するインクジェット捺染用白インク組成物であって、定着用樹脂が、弾性率の異なる第一の定着用樹脂と第二の定着用樹脂を含み、
第一の定着用樹脂の23℃における弾性率が1.0×10Pa以上1.0×10Pa未満であり、第二の定着用樹脂の23℃における弾性率が1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下であり、
全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比が0.2以上0.8以下である。
本明細書において、「インクジェット捺染」とは、インクジェット方式を利用して印刷媒体である布帛の表面にインクを印刷することをいい、「印捺物」とは、印刷媒体である布帛の表面にインクが印捺(印刷)されて画像が形成されたものをいう。
【0010】
本発明インクによれば、布帛の風合いを損なうことなく、擦れ等の外的応力に対する耐久性に優れる印捺物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明においては、定着用樹脂として、弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満である第一の定着用樹脂と、弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下である第二の定着用樹脂を用いることにより、布帛上にインクが着弾して水が繊維に吸着された後、定着用樹脂が速やかに布帛の繊維表面に均一に広がり、顔料粒子を外部からの応力から保護することができると考えられる。
また、この定着用樹脂の塗膜は柔軟性を維持しており、全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比を0.2以上0.8以下とすることで、布帛の繊維表面の被覆が適切に行われ、ごわつきの発生を抑制できると考えられる。
【0011】
<顔料>
本発明で用いられる顔料は、白色顔料であり、無機顔料であることが好ましい。
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、炭酸カルシム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩が挙げられる。これらの中では、高い白色度を得る観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物が好ましく、二酸化チタン及び酸化亜鉛から選ばれる1種以上がより好ましく、二酸化チタンが更に好ましい。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
二酸化チタンとしては、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタンが用いることができるが、安定性及び入手性の観点から、好ましくはルチル型二酸化チタンである。
二酸化チタンは、本発明インク中における良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。二酸化チタンの表面処理としては、特に限定されず、有機物での表面処理や無機物での表面処理のいずれの処理が施されていてもよい。光触媒性による影響を避ける観点から、無機物で表面処理された酸化チタンが好ましく、シリカとアルミナで表面処理された二酸化チタンがより好ましい。
二酸化チタンの平均一次粒径は、白色度の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、再分散性の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは300nm以下である。
なお、酸化チタンの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、富士チタン工業株式会社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0013】
本発明インクで用いられる顔料は、分散剤でインク中に分散状態で保持されていることが好ましい。顔料を分散させるための分散剤としてはポリマー分散剤が好ましい。
本発明インク中での顔料及びポリマー分散剤の存在形態としては、顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の形態がより好ましい。
顔料含有ポリマー粒子とは、ポリマー分散剤が顔料を包含した形態の粒子、ポリマー分散剤と顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態の粒子、ポリマー分散剤が顔料の一部に吸着している形態の粒子のいずれか又はこれらの混合物を意味する。
【0014】
(ポリマー分散剤)
ポリマー分散剤は、印捺物の風合いを損なわず、外的応力に対する耐久性を向上させる観点から、アニオン性基含有モノマー(a)由来の構成単位を有することが好ましい。
ポリマー分散剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、更にノニオン性モノマー(b)由来の構成単位や、疎水性モノマー(c)由来の構成単位を含有することができる。
【0015】
(アニオン性基含有モノマー(a))
アニオン性基含有モノマー(a)におけるアニオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられ、分散安定性及び吐出安定性の観点から、カルボン酸基が好ましい。
カルボン酸基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等のジカルボン酸系モノマー等が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸、より好ましくはメタクリル酸である。
なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)アクリル酸」も同義である。
【0016】
ポリマー分散剤のアニオン性基の一部又は全部は中和されていることが好ましい。中和されることによってポリマー分散剤はイオン性を帯び、酸化チタンを水系媒体中で分散させることができる。
中和剤としての塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア、水溶性有機アミン化合物等が挙げられるが、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0017】
(ノニオン性モノマー(b))
ノニオン性モノマー(b)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)アクリレート」も同義である。
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位は、具体的には、下記式(1)で表される。
【0018】
【化1】
【0019】
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基を示し、OAは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示し、nは(OA)の平均付加モル数を示し、4以上100以下の数である。ただし、n個のオキシアルキレン基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0020】
式(1)において、Rは好ましくはメチル基である。
式(1)において、Rは、好ましくは水素原子又は炭素数1以上8以下のアルキル基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基である。該アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
(OA)であるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基が挙げられるが、好ましくはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオキシエチレン基である。
(OA)の平均付加モル数であるnは、好ましくは8以上、より好ましくは12以上であり、そして、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下である。複数の(OA)が互いに異なる場合は、ブロック付加、ランダム付加、及び交互付加のいずれでもよい。
【0021】
式(1)で表される構成単位のモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、アルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びプロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましく、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが更に好ましい。
ノニオン性モノマー(b)の市販品例としては、NKエステルM-230G、同450G、同900G(以上、新中村化学工業株式会社製)、ブレンマーPME-1000、同4000(以上、日油株式会社製)、ライトエステル041MA(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
(疎水性モノマー(c))
疎水性モノマー(c)としては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等から選ばれる1種以上が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1~22、好ましくは炭素数6~18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6~22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、これらを併用してもよい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2-メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0023】
ポリマー分散剤の全構成単位中のアニオン性基含有モノマー(a)由来の構成単位の含有量は、分散安定性等の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%が最も好ましい。
ポリマー分散剤は、ノニオン性モノマー(b)由来の構成単位を含まないことが好ましく、その構成単位の含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
ポリマー分散剤は、疎水性モノマー(c)由来の構成単を含まないことが好ましく、その含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。
【0024】
ポリマー分散剤の酸価は、好ましくは100mgKOH/g以上であり、より好ましくは200mgKOH/g以上、更に好ましくは400mgKOH/g以上、より更に好ましくは600mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは1000mgKOH/g以下、より好ましくは900mgKOH/g以下、更に好ましくは800mgKOH/g以下である。
なお、酸価の測定方法は、JIS K 0070の電位差滴定法に準拠する。
ポリマー分散剤のポリスチレン換算の重量平均分子量は、分散安定性等の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上であり、そして、好ましくは4万以下、より好ましくは3万以下、更に好ましくは2万以下である。
ポリマー分散剤は市販品を用いることもできる。市販品例としては、富士フイルム和光純薬株式会社製のポリアクリル酸、花王株式会社製の商品名:ポイズ520、ポイズ530等の特殊ポリカルボン酸、東亞合成株式会社製の商品名:アロン6012等のアロンシリ-ズの水溶性アクリル酸系分散剤等が挙げられる。
ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0025】
ポリマー分散剤は、前記モノマーを含むモノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造することができる。具体的には、特開2017-75302の段落〔0021〕及び〔0022〕に記載の方法で得ることができる。また、市販品を購入して使用してもよい。
【0026】
<定着用樹脂>
定着用樹脂は、本発明インクが布帛に付与された際に、皮膜を形成して印捺物に外的応力に対する耐久性を付与するために用いられる。本発明においては、定着用樹脂は、第一の定着用樹脂、及び第二の定着性樹脂の少なくとも2種を含有する。
【0027】
(第一の定着用樹脂)
第一の定着用樹脂は、23℃における弾性率が1×10Pa以上1.0×10Pa未満である。
第一の定着用樹脂の弾性率は、布帛の風合いを良好に保つ観点から、23℃において、好ましくは2×10Pa以上、より好ましくは5×10Pa以上であり、そして、好ましくは5×10Pa以下、より好ましくは1×10Pa以下である。
弾性率は実施例に記載の方法により測定される。
第一の定着用樹脂は、シリコーン基を含有することが好ましい。
第一の定着用樹脂におけるシリコーン基含有量、すなわち、第一の定着用樹脂全体に対するシリコーン基の占める割合は、布帛の風合いを良好に保つ観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
第一の定着用樹脂のシリコーン基含有量は、実施例に記載の方法により測定される。
第一の定着用樹脂は、エマルジョン状態で使用することが好ましい。
第一の定着用樹脂は、合成することもできるが市販品を用いてもよく、市販品例としては、日信化学工業株式会社製のシャリーヌFE230N(シリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン、23℃における弾性率:8.4×10Pa)、シャリーヌFE502(シリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン、23℃における弾性率:25×10Pa)、シャリーヌNS-651(シリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン、23℃における弾性率:89×10Pa)、シャリーヌLC-190(シリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン、23℃における弾性率:28×10Pa)等が挙げられる。
【0028】
(第二の定着用樹脂)
第二の定着用樹脂は、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下である。
第二の定着用樹脂の弾性率は、得られる印捺物の外力に対する耐久性を高める観点から、23℃において、好ましくは2×10Pa以上、より好ましくは3×10Pa以上であり、そして、好ましくは5×10Pa以下、より好ましくは1×10Pa以下である。
第二の定着用樹脂は、シリコーン基を含有しないことが好ましい。第二の定着用樹脂がシリコーン基を含有しないことで、樹脂の弾性率を高め、得られる印捺物の外力に対する耐久性を高めることができる。
第二の定着用樹脂の好適例としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるが、これらの中でもウレタン樹脂が好ましい。
【0029】
ウレタン樹脂としては、カーボネート結合を有するポリカーボネート系ウレタン樹脂、エステル結合を有するポリエステル系ウレタン樹脂、エーテル結合を有するポリエーテル系ウレタン樹脂等が挙げられるが、得られる印捺物の外力に対する耐久性を高める観点から、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、イソシアネート基、シラノール基等の架橋性基を含有することも好ましい。
第二の定着用樹脂は、エマルジョン状態で使用することが好ましい。
第二の定着用樹脂は、合成することもできるが市販品を用いてもよく、ポリカーボネート系ウレタン樹脂の市販品例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス150、170、420、460、470、610、700、800等、三洋化成株式会社製のパーマリンUA、ユーコートUX等が挙げられる。
【0030】
<水溶性有機溶剤>
本発明白インクは水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。水溶性有機溶媒は、第一の定着用樹脂、第二の定着性樹脂、及び顔料との間に均一な皮膜を形成させ、更にこの皮膜を布帛に密着させるために用いられる。
水溶性有機溶媒は、上記の観点から、アルキレングリコールを含有することが好ましい。
アルキレングリコールとしては、定着用樹脂との親和性を高める観点から、好ましくは炭素数2以上6以下、より好ましくは炭素数3以上5以下、更に好ましくは炭素数3又は4の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上が好ましく、プロピレングリコール(沸点187℃)、1,2-ブタンジオール(沸点190℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)等から選ばれる1種以上がより好ましく、プロピレングリコールが更に好ましい。
水溶性有機溶媒は、本発明インクにおいて、良好な皮膜を形成させる観点から、アルキレングリコールエーテルを含有してもよい。アルキレングリコールとしては、アルキレン基の炭素数が1以上6以下、好ましくは3以上6以下のモノアルキレングリコールエーテルが挙げられる。アルキレングリコールエーテルを構成するグリコールエーテルとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプロピルエーテル等が挙げられる。
【0031】
<界面活性剤>
本発明インクは、吐出安定性を向上させる観点から、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤及びアセチレングリコール系界面活性剤から選ばれる一種以上がより好ましく、シリコーン系界面活性剤の少なくとも一種とアセチレングリコール系界面活性剤を少なくとも二種を組み合わせて用いることが更に好ましい。
シリコーン系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「シルフェイス」シリーズ、信越化学工業株式会社の「KF」シリーズ、ビッグケミー社製の「BYK」シリーズ等が挙げられる。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、エアープロダクツアンドケミカルズ社製又は日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。
【0032】
[インクジェット捺染用インク組成物の製造]
本発明インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、定着用樹脂、水と、必要に応じて、水溶性有機溶媒、界面活性剤等とを混合して、顔料水分散体を調製し、それに更に水、有機溶媒等を添加混合することにより、効率的に製造することができる。それらの混合方法に特に制限はない。
【0033】
本発明インクの各成分の含有量、インク物性は、印捺物の風合いを損なわず、外的応力に対する耐久性を向上させる観点、印捺濃度を向上させる観点、吐出安定性を確保する観点等から、以下のとおりである。
(顔料の含有量)
本発明インク中の顔料の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましく12質量%以下である。
(顔料含有ポリマー粒子の含有量)
本発明インク中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
【0034】
(定着用樹脂の含有量)
本発明インク中の全定着用樹脂の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
全定着用樹脂に対する第一の定着用樹脂の質量比は、得られる印捺物の外力に対する耐久性をより高める観点から、0.2以上であり、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.5以上であり、布帛の風合いを向上させる観点から、0.8以下であり、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.7以下である。
顔料含有ポリマー粒子に対する定着用樹脂の質量比〔定着用樹脂/顔料含有ポリマー粒子〕は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.6以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.5以下である。
【0035】
(水溶性有機溶媒の含有量)
本発明インクが水溶性有機溶媒を含む場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
水溶性有機溶媒がプロピレングリコールを含む場合、水溶性有機溶媒全体に対するプロピレングリコールの割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%が最も好ましい。
【0036】
(界面活性剤の含有量)
本発明インクが界面活性剤を含む場合、その含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、更に好ましくは0.9質量%以上であり、そして、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.7質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。
本発明インクがシリコーン系界面活性剤を含む場合、その含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、そして、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
本発明インクがアセチレングリコール系界面活性剤を含む場合、その含有量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、更に好ましくは1.2質量%以下である。
【0037】
(水の含有量)
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0038】
<水系インクの物性>
本発明インク中の25℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下である。
20℃におけるインクのpHは、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。
【0039】
[インクジェット捺染用白インク組成物の製造方法]
本発明のインクジェット捺染用白インク組成物の製造方法は、顔料、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa未満である第一の定着用樹脂、23℃における弾性率が1×10Pa以上1×10Pa以下である第二の定着用樹脂、及び水を混合する工程を有する。
顔料、第一の定着用樹脂、第二の定着用樹脂の詳細は前記のとおりである。
各成分の混合方法に特に制限はなく、常法により行うことができる。
【0040】
[インクジェット捺染用インクセット]
本発明のインクジェット捺染用インクセット(以下、単に「インクセット」ともいう)は、本発明インクと、多価金属塩を含有する処理液とを含む。
前記処理液は、本発明インクに含まれる顔料、定着用樹脂等の成分と反応することで、それらを凝集させると共に、定着用樹脂を析出させて、布帛上のインクドットに強固な被膜を形成させ、固定化する作用を有する。
【0041】
(多価金属塩)
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの中では、印捺物の風合いを損なわず、外的応力に対する耐久性を向上させる観点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンが好ましく、カルシウムイオンがより好ましい。
多価金属塩を構成するアニオン(多価金属の対イオン)としては、無機イオン又は有機イオンがあり、無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられ、有機イオンとしては、カルボン酸イオン等の有機酸イオンが挙げられる。
【0042】
多価金属塩の具体例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸銅等が挙げられる。多価金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。これらの中でも、水溶性を確保し、凝集剤の跡残りを低減する観点から、硝酸カルシウム、塩化カルシウムが好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。
上記の多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
本発明で用いられる処理液は、必要に応じて、有機酸、カチオン性樹脂、金属キレート剤等の凝集剤を更に含有することができる。
有機酸としては、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸等が挙げられる。
カチオン性樹脂としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
金属キレート剤としては、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、スズ等の金属に窒素含有基を有するアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物等が挙げられる。
【0044】
本発明のインクセットは、色相の異なる2種以上のインクを含むことが好ましい。
色相の異なる2種以上のインクとは、黒色及び有彩色から選ばれる2種以上のインクをいう。有彩色には、減法混色の3原色であるマゼンタ、イエロー及びシアンの他、ライトシアン、ダークイエロー、ライトマゼンタ、ライトブラック等の濃さが異なる色が含まれる。更に、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン、バイオレットから選ばれる1種以上の有彩色を追加すると、色再現範囲を広くすることができて好ましい。
本発明のインクセットは、これらの2種以上のインクの組み合わせを含み、2色インクセット、3色インクセット、4色インクセット、5色インクセット、6色インクセット、7色インクセット等を備えたインクセットが好ましい。
本発明においては、インクジェット印刷装置の各色用インクカートリッジに、本発明に係る白インク組成物、及びその他のインクを、合わせて2種以上含むインクセットを装着し、各インクカートリッジに対応する各吐出ノズルからインク液滴をそれぞれ吐出させて、布帛に印刷させることができる。
【0045】
[インクジェット捺染方法]
本発明のインクジェット捺染方法は、下記の工程1~3を有する。
工程1:多価金属塩を含有する処理液を布帛に付着させて、処理布帛を得る工程
工程2:工程1で得られた処理布帛に、本発明インクをインクジェット方式で付与して、捺染布帛を得る工程
工程3:工程2で得られた捺染布帛を乾燥させる工程
【0046】
工程1は、処理液を布帛に付着させる工程である。処理液を、布帛の印捺領域に付着させる方法に特に制限はない。布帛に非接触又は接触させる方式のどちらを採用してもよい。非接触で付着させる方式としては、インクジェット印刷装置を用いる方法、エアスプレー等のように流速を有する気体に微小液滴を同伴させる方法等が挙げられる。また、接触させて付着させる方式としては、ローラー圧着法、ブラッシング法、浸漬法等が挙げられる。これらの中では、液体成分の布帛への付与量をできる限り少なくする観点から、布帛に非接触で付着させる方式が好ましい。
処理液の布帛への付着量は、印捺濃度の観点から、乾燥後質量で、好ましくは1g/m以上、より好ましくは2g/m以上、更に好ましくは3g/m以上、より更に好ましくは4g/m以上であり、そして、風合いを損なわないようする観点から、好ましくは40g/m以下、より好ましくは30g/m以下、更に好ましくは20g/m以下、より更に好ましくは15g/m以下である。
印刷媒体である布帛としては、特に限定されず、例えば、綿、絹、麻等の天然繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維からなる布帛、及びこれら繊維の2種以上からなる混紡布帛等が挙げられる。
【0047】
工程2では、工程1で得られた処理布帛に、本発明インクをインクジェット方式で付与して、捺染布帛を得るが、処理液を付着させた部分に、本発明インクを付与して、捺染布帛を得ることが好ましい。
インクジェット捺染装置としては、ドロップオンデマンド型の装置が挙げられる。この装置としては、ヘッドに配設された圧電素子を用いたピエゾ式、ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いたサーマル式等が挙げられる。これらの中では、ピエゾ式のインクジェット捺染装置がより好ましい。
インクジェットヘッドの印捺解像度は、印捺濃度の観点から、600dpi(Dots Per Inch)以上であることが好ましく、720dpi以上であることがより好ましい。
【0048】
工程2の後には工程3を行うが、その間に、下記工程2’を有することが好ましい。
工程2’:工程2で得られた捺染布帛にカラーインクをインクジェット方式で印捺する工程
カラーインクとしては、前記の有彩色のインクが挙げられる。
インクジェット方式は工程2の場合と同様である。
【0049】
工程3では、工程2で得られた捺染布帛を乾燥させる。
布帛を乾燥方法に特に制限はないが、処理液及びカラーインクの定着性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上で、そして、布帛、処理液及びカラーインクの劣化防止の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下で、1分間以上1時間以下加熱して乾燥することができる。
加熱方法としては、ヒートプレス法、熱風乾燥法、常圧~高圧スチーム法、及び赤外線(ランプ)によるサーモフィックス法等が挙げられる。これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。これらの中では、布帛等へのダメージを軽減し効率よく乾燥させる観点から、熱風乾燥法が好ましい。
乾燥後は、印捺物を水洗し、必要に応じて、未固着の処理液を洗い落とすソーピング処理を行ってもよい。
このようにして、布帛上に、本発明のインクセットに由来する画像が形成された印捺物を得ることができる。
【実施例
【0050】
以下の製造例、調製例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0051】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0052】
(2)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃、ゲージ圧-0.08MPaの環境下にて2時間維持して、揮発分を除去し、更に室温(25℃)のデシケーター内で更に15分間放置したのちに、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0053】
(3)顔料水分散体の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、平均粒径を測定した。測定する粒子の濃度が5×10-3重量%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料水分散体中の粒子の平均粒径とした。
【0054】
(4)pH
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃における白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体のpHを測定した。
【0055】
(5)定着用樹脂の弾性率の測定
ポリプロピレン製ディスポビ-カー1L(アズワン株式会社製)に樹脂固形分が3gになるように樹脂分散液を滴下し、さらに全量が30gになるよう精製水を添加した。25℃、ゲージ圧-0.08MPaの環境下にて、72時間乾燥させた後に、常圧に戻し、80℃まで昇温した状態で6時間乾燥させた。樹脂膜を取り出した後にシリコーンフィルムの上に乗せ、さらに150℃の温度で3分間維持し、乾燥樹脂膜を得た。
スライド式 M-30 u-mate デジタルマイクロメータ(ソニーマグネスケール株式会社製)を用いて該乾燥樹脂膜の厚みを測定し、測定部の厚みが0.5mmの部分を選んで、試験片をJIS K7160~2に規定の寸法にてダンベル型に切り出した。テンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、TENSIRON RTC-1150A)を用いて荷重フルスケール50N、引っ張り速度5mm/minの条件にて、23℃の環境雰囲気下のもと乾燥樹脂膜試験片の引っ張り試験を行った。
得られた応力-ひずみ曲線の傾きより、樹脂弾性率を算出した。またその他詳細な条件に関してはJIS-K7161を参考にして測定を行った。
【0056】
(6)定着用樹脂のシリコーン基量の測定
シリコーン基含有樹脂の水分散体を乾固し、その100mgをテトラメチルシランを含有しない重クロロホルム(NMR用クロロホルム-d1(重水素化率99.8%)、関東化学株式会社製)2.0mlで希釈し、直径5.0mmの1H-NMR用チューブを用いて、Agilent-NMR-vnmrs400(varian社製、400MHz)により、パルス幅:45μs(45°パルス)、観測幅:6410Hz、待ち時間:10s、積算回数:8回、測定温度:室温の条件下で、プロトンNMR測定を行い、ケミカルシフト値0-0.5ppm(テトラメチルシランのメチル基の水素のケミカルシフト値を0とする)の範囲のプロトンの積分値を算出する。また既知の濃度のテトラメチルシランを同NMR装置で測定した結果から該積分値に基づき、シリコーンのSi元素に直接結合したメチル基(CH3)のプロトン(H)とみなしてシリコーン基含有樹脂におけるシラン原子の質量を算出し、シリコーン基量(質量%)とした。
【0057】
(7)インクの粘度
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、25℃にて粘度を測定した。
【0058】
製造例1(白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
2Lのポリ容器に、予めポリマー分散剤としてポリアクリル酸(PAA;富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量5000)6gと、5N-NaOH水溶液4.2gと、イオン交換水4.8gを混ぜて溶解させたもの(ポリマー中和度50モル%)を投入し、酸化チタン:C.I.ピグメント・ホワイト6(P.W.6、石原産業株式会社製、商品名:CR-80、ルチル型、Al・Si処理、平均一次粒子径250nm、平均粒径:0.25μm)を300g、水を255g加えて、ジルコニアビーズを1000g添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて8時間分散を行った。金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、イオン交換水で固形分濃度を調整して、平均粒径328nmの白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:53.2%、顔料導入率:98%、pH:7.3)を得た。
【0059】
実施例1(白インク組成物1の調製)
ガラス製容器に、製造例1で得られた白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体18.8部、第一の定着用樹脂としてシリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン(シャリーヌFE230N)16.3部、第二の定着樹脂としてカーボネート系ウレタン樹脂水系エマルジョン(スーパーフレックス460)13.2部、イオン交換水27.9部を添加し、マグネチックスターラーで10分間撹拌し、混合物Qを得た。
次いで、混合物Qを撹拌しながら、プロピレングリコール22.5部、シリコーン系活性剤SAG005(信越化学工業株式会社製)0.025部、アセチレン系界面活性剤サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)0.5部、及びアセチレン系界面活性剤サーフィノール420(日信化学工業株式会社製)0.5部を添加し、そのまま1時間撹拌した。その後、5μmのディスポーザルメンブレンフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルト)を用いて濾過を行い、白インク組成物1を得た。
【0060】
実施例2~3、比較例1~4(白インク組成物2~3、11~14の調製)
実施例1と同様の手順で、表1に記載の組成の白インク組成物2~3、11~14を得た。
【0061】
表1に記載の定着用樹脂の詳細は以下のとおりである。
・シャリーヌFE230N(日信化学工業株式会社製、シリコーンアクリル系樹脂水系エマルジョン、シリコーン基含有率:50%、固形分濃度:30.7%)、23℃における弾性率:8.4×10Pa
・スーパーフレックス460(第一工業製薬株式会社製、カーボネート系ウレタン樹脂水系エマルジョン、固形分濃度:38.0%)、23℃における弾性率:5.0×10Pa
【0062】
(シリコーン系界面活性剤)
・シルフェイスSAG005(日信化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン、有効分100%)
(アセチレン系界面活性剤)
・サーフィノール465(日信化学工業株式会社製、サーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)のエチレンオキシド(EO)付加物、EO平均付加モル数:10、有効分100%)
・サーフィノール420(日信化学工業株式会社製、サーフィノール104のEO付加物、EO平均付加モル数:1.3、有効分100%)
【0063】
調製例1(処理液の調製)
ガラス製容器に、硝酸カルシウム・四水和物(富士フイルム和光製薬株式会社製、固形分濃度:100%)8.0部、シリコーン系界面活性剤(ビッグケミージャパン株式会社製、商品名:BYK-348、有効分100%)0.1部、スチレン/アクリル系エマルジョン(ジャパンコーティングレジン株式会社製、商品名:モビニール966A、固形分濃度:45%)5.6部、イオン交換水86.3部を添加し、マグネチックスターラーで10分間撹拌して多価金属塩を含有する処理液を得た。
【0064】
<印捺物の作製、評価>
布帛のA4サイズあたり多価金属塩が1gとなるような塗布量で、調製例1で得られた多価金属塩を含有する処理液を均一にスプレー塗布し、その後150℃の定温乾燥機にて1分間加熱乾燥させてから室温23±1℃に戻した後に、実施例1~3、比較例1~4で得られた白インク組成物1~3、11~14を用いて、以下の条件で印捺し、評価した。結果を表1に示す。
(1)印捺物の作製
室温23±1℃、相対湿度50±5%の環境で、テキスタイルプリンター(株式会社マスターマインド製、商品名:MMP8130、カラー/白インク使用)の白用循環ヘッドに白インクを充填した。印刷モード(黒生地・白インクベース、印刷速度10(1440×1800dpi)、片方向印字)の条件にて、布帛(トムス株式会社製、Printstarへビーウェイト、綿100%、黒色TシャツをA4サイズに裁断)にDuty100%のベタ画像を印捺し、印捺物を作製した。得られた印捺物は直ぐに150℃の定温乾燥機にて3分間加熱乾燥させた。
【0065】
(2)風合いの評価
得られた印捺物の2ヶ所を両手の人差し指と親指でつまみ、上下、前後、左右方向へ両手をそれぞれ逆方向に動かすことで布帛の風合いを、以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:印刷前後にて布帛の柔らかさに変化がない。
4:印刷前後にてごくわずかに布帛の柔らかさに変化が見られる。
3:印刷前後にてわずかに布帛が硬くなる。
2:印刷前後にて布帛が硬くなる。
1:印刷前後にて非常に布帛が硬くなる。
評価基準3以上であれば実用上問題はない。
【0066】
(3)爪擦りによる耐久性の評価
得られた印捺物を水平で平滑な机上に印捺面を上にして置き、右手親指の爪を印捺面に直角にあて、200gの加重を維持したまま左から右に連続して擦過した。目視により、印捺物上のインクに明確な剥がれが生じた際の擦過回数を耐久性の評価基準とした。
インク剥離までの爪擦り耐久性の回数が10回以上であれば実使用できるレベルであるが、15回以上であることがより望ましい。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から実施例1~3で得られた白インク組成物を用いて得られた印捺物は、比較例1~4の白インク組成物を用いて得られた印捺物と比べて、風合いと爪擦り耐久性のバランスに優れていることが分かる。