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特許7293108Axl阻害剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬との併用治療法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】Axl阻害剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬との併用治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20230612BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61K31/444
A61K31/506
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019507004
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2018011560
(87)【国際公開番号】W WO2018174219
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017058858
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】神保 猛
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006706(WO,A1)
【文献】MA Chunyan et al.,T790M and acquired resistance of EGFR TKI: a literature review of clinical reports,J Thrac dis,2011年,3(1),10-18,第12頁表1、第13頁表3、第14頁左欄
【文献】JANNE A Pasi et al.,AZD9291 in EGFR inhibitor-resistant non-small-cell lung cancer,N Engl J Med,2015年,372(18),1689-1699,特に、第1689頁Results欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/444
A61K 31/506
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩との組み合わせでの、がん治療のための医薬であって、
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩を含む、医薬。
【請求項2】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩との組み合わせでの、がん治療のための医薬であって、
オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む、医薬。
【請求項3】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩と、オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩とを含む、がん治療のための医薬。
【請求項4】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩と、オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩とが、それぞれ異なる製剤の有効成分として含有され、同時に、又は、異なる時間に投与されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項5】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩と、オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩とが、単一製剤中に含有されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項6】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]若しくはその薬学的に許容される塩又は式(1)の化合物の水和物若しくはその薬学的に許容される塩と、オシメルチニブ又はその薬学的に許容される塩とが、それらを含むキット製剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項7】
式(1)の化合物:
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]の塩が硫酸塩又はその水和物である、請求項1からのいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
がんが、乳がん、結腸がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がん、骨肉腫、皮膚がん、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、頭頚部がん、睾丸腫瘍、血液がんおよび膵臓がんから選択される、請求項1からのいずれか1項に記載の医薬。
【請求項9】
がんが、肺がんである、請求項に記載の医薬。
【請求項10】
がんが、非小細胞肺がんである、請求項に記載の医薬。
【請求項11】
がんが、胃がんである、請求項に記載の医薬。
【請求項12】
がんが、卵巣がんである、請求項に記載の医薬。
【請求項13】
がんが、血液がんである、請求項に記載の医薬。
【請求項14】
がんが、EGFR遺伝子の変異を有するがんである、請求項1から1のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項15】
EGFR遺伝子の変異が、exon19del、L858RおよびT790Mのうちのいずれか1以上である、請求項1に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Axl阻害活性を有する化合物と上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬/がんの治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Axlは、増殖因子の一つであるGas6蛋白質をリガンドとするTyro3-Axl-Mer(TAM)レセプターチロシンキナーゼファミリーに属するレセプター型チロシンキナーゼであり、当初は慢性骨髄性白血病における形質転換遺伝子として同定された(非特許文献1)。
【0003】
Gas6/Axlシグナル伝達系は、細胞生存(cell survival)、細胞分裂、貪食作用(autophagy)、細胞移動(migration)、血管新生、血小板凝集、NK細胞分化等、多様な細胞性応答を調節していることが報告されており(非特許文献2)、原発結腸がん(非特許文献3)、胃がん(非特許文献4)、食道がん(非特許文献5)、メラノーマ(非特許文献6)、卵巣がん(非特許文献7)、腎臓がん(非特許文献8)、子宮内膜がん(非特許文献9)、甲状腺がん(非特許文献10)等のがん組織における過剰発現も多く報告されている。また、Axlの存在は、肺がんにおけるリンパ節状態及びステージ並びに乳がんにおけるER発現と大いに関係していることも示されている(非特許文献11)。
【0004】
さらに、Axlは、免疫(非特許文献12)、血小板機能(非特許文献13)、精子形成(非特許文献14)、血管石灰化(非特許文献15)、トロンビン誘導血管平滑筋細胞(VSMC)増殖(非特許文献16)、及び種々の腎臓疾患、例えば急性及び慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症及び慢性同種移植拒絶反応(非特許文献17)において役割を有することも示されており、Axl阻害剤は、がん(がん腫、肉腫などの固形腫瘍及び白血病及びリンパ性悪性疾患等を含む。)のみならず、血管疾患(血栓症、アテローム性動脈硬化症及び再狭窄を含むがそれらに限定されるものではない。)、腎臓疾患(急性及び慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症及び移植拒絶反応を含むがそれらに限定されるものではない。)、及び無秩序な血管形成が重大である疾患(糖尿病性網膜症、網膜症、乾癖、関節リウマチ、粥腫、カポジ肉腫及び血管腫を含むがそれらに限定されるものではない。)等、多数の疾患の治療に有益となることが期待されている。
【0005】
出願人は、Axlへの阻害特異性が高く、より安全性の高いAxl阻害化合物、或いはAxl阻害化合物を含有するAxlの機能亢進を原因とする疾患の治療剤、Axlの機能亢進と関連する疾患の治療剤、および/またはAxlの機能亢進を伴う疾患の治療剤、例えば抗がん剤を提供する化合物について報告している(特許文献1)。ここで、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブとの併用についてもデータを示している。
【0006】
一方、同様にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬として知られるオシメルチニブは、他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で治療を受けた非小細胞肺がんの患者のうち、T790M変異が陽性であった127人の奏効率が61%と報告されており、有効性が期待されている(非特許文献18、19)。しかし、オシメルチニブ投与症例において、C797S変異(非特許文献20)、HER2遺伝子増幅(非特許文献21)、小細胞がんへの形質転換(非特許文献22)などの耐性が生じることが知られており、その解決策が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開公報第2016/006706号
【非特許文献】
【0008】
【文献】0' Bryan et al.,Mol. Cell. Biol.,11,5031 (1991)
【文献】Rachel MA Linger et al.,Expert Opin. Ther. Targets, 14,1073 (2010)
【文献】Craven et a1.,Int. J. Cancer.,60,791 (1995)
【文献】Sawabu et al.,Mol. Carcinog.,46,155 (2007)
【文献】Nemoto et al.,Pathobiology,65, 195 (1997)
【文献】Quong et al.,Melanoma Res.,4,313 (1994)
【文献】Sun et al.,Oncology,66,450 (2004)
【文献】Chung et al.,DNA Cell Biol.,22,533 (2003)
【文献】Sun et al.,Ann. Oncol.,14,898 (2003)
【文献】Ito et al.,Thyroid,9,563 (1999)
【文献】Berclaz et al.,Ann. Oncol.,12,819 (2001)
【文献】Lu et al.,Science,293,306 (2001)
【文献】Angelillo-Scherrer et al.,Nat. Med.,7,215 (2001)
【文献】Lu et al.,Nature,398,723 (1999)
【文献】Son et al.,Eur. J. Pharmacol.,556,1 (2007)
【文献】Nakano et al., J. Biol. Chem.,270,5702 (1995)
【文献】Yanagita et a1.,J. Clin. Invest.,110,239 (2002)
【文献】N Eng. J. Med. 372(18), 1689 (2015)
【文献】Cancer Discv., 4(9), 1046 (2014)
【文献】Ann Oncol., 26(10), 2073 (2015)
【文献】J. Thorac Oncol., 10(12), 1736 (2015)
【文献】J. Thorac Oncol., 11(1), e1 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Axl阻害活性を有する化合物とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬/がんの治療方法を提供する。本発明は、がん治療におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の耐性を抑止する効果が高く、また、体重減少等の副作用が少ない優れた医薬/がんの治療方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Axl阻害活性を有する式(1)に示す化合物:
【0011】
【化1】
【0012】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]もしくはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(好ましくはオシメルチニブまたはその薬学的に許容される塩)とを組み合わせて使用することにより、特に優れた抗腫瘍効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、次の(1)~(18)に関する。
(1)式(1)の化合物:
【0014】
【化2】
【0015】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、組み合わせて投与されることを特徴とするがん治療のための医薬。
(2)式(1)の化合物:
【0016】
【化3】
【0017】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、それぞれ異なる製剤の有効成分として含有され、同時に、又は、異なる時間に投与されることを特徴とする(1)に記載の医薬。
(3)式(1)の化合物:
【0018】
【化4】
【0019】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、単一製剤中に含有されていることを特徴とする(1)に記載の医薬。
(4)式(1)の化合物:
【0020】
【化5】
【0021】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、それらを含むキット製剤であることを特徴とする(1)に記載の医薬。
(5)式(1)の化合物:
【0022】
【化6】
【0023】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が組み合わせて投与されることを特徴とするがんの治療方法。
(6)式(1)の化合物:
【0024】
【化7】
【0025】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、それぞれ異なる製剤の有効成分として含有され、同時に、又は、異なる時間に投与されることを特徴とする(5)に記載の治療方法。
(7)式(1)の化合物:
【0026】
【化8】
【0027】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、単一製剤中に含有されていることを特徴とする(5)に記載の治療方法。
(8)式(1)の化合物:
【0028】
【化9】
【0029】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]またはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、それらを含むキット製剤であることを特徴とする(5)に記載の治療方法。
(9)式(1)の化合物:
【0030】
【化10】
【0031】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]の塩が硫酸塩である(1)から(4)のいずれか1に記載の医薬。
(10)式(1)の化合物:
【0032】
【化11】
【0033】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]の塩が硫酸塩である(5)から(8)のいずれか1に記載の治療方法。
(11)EGFRチロシンキナーゼ阻害薬がオシメルチニブまたはその薬学的に許容される塩である(1)から(4)および(9)のいずれか1に記載の医薬。
(12)EGFRチロシンキナーゼ阻害薬がオシメルチニブまたはその薬学的に許容される塩である(5)から(8)および(10)のいずれか1に記載の治療方法。
(13)がんが、乳がん、結腸がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がん、骨肉腫、皮膚がん、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、頭頚部がん、睾丸腫瘍、血液がんおよび膵臓がんから選択されるものである(1)から(4)、(9)、および(11)のいずれか1に記載の医薬。
(13a)がんが、乳がん、結腸がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がん、扁平上皮がん、白血病、骨肉腫、メラノーマ、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、および膵臓がんから選択されるものである(1)から(4)、(9)、および(11)のいずれか1に記載の医薬。
(14)がんが、乳がん、結腸がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がん、骨肉腫、皮膚がん、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、頭頚部がん、睾丸腫瘍、血液がんおよび膵臓がんから選択されるものである(5)から(8)、(10)、および(12)のいずれか1に記載の治療方法。
(14a)がんが、乳がん、結腸がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がん、扁平上皮がん、白血病、骨肉腫、メラノーマ、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、および膵臓がんから選択されるものである(5)から(8)、(10)、および(12)のいずれか1に記載の治療方法。
(15)がんが、EGFR遺伝子の変異を有するがんである(1)から(4)、(9)、および(11)のいずれか1に記載の医薬。
(16)がんが、EGFR遺伝子の変異を有するがんである(5)から(8)、(10)、および(12)のいずれか1に記載の治療方法。
(17)EGFR遺伝子の変異が、exon19del、L858RおよびT790Mのうちのいずれか1以上である(15)に記載の医薬。
(18)EGFR遺伝子の変異が、exon19del、L858RおよびT790Mのうちのいずれか1以上である(16)に記載の治療方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、薬効発現の早さ、薬効の持続性、物理的安定性、溶解性、経口吸収性、血中濃度、細胞膜透過性、代謝安定性、組織移行性、バイオアベイラビリティ(BA)、薬物相互作用、毒性等の点で優れた性質を有し、がんの治療方法、および/または抗がん剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】EGFR遺伝子exon 19に欠失変異を有し、EGFR阻害薬に高感受性を示すHCC827肺がん細胞マウス皮下移植腫瘍に対するN-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド硫酸塩水和物(Compound A)とオシメルチニブとのin vivoにおける併用効果を示した図である。シンボル白丸はVehicle(0.5%MC)投与群、シンボル黒丸はCompound A 12.5mg/kg,bid、シンボル白三角はCompound A 25mg/kg,bid、シンボル黒三角はCompound A 50mg/kg,bid、シンボル白菱形はオシメルチニブ3mg/kg,qd、シンボル黒菱形は、オシメルチニブ3mg/kg,qd+Compound A 12.5mg/kg,bid、シンボル白四角は、オシメルチニブ3mg/kg,qd+Compound A 25mg/kg,bid、シンボル黒四角は、オシメルチニブ3mg/kg,qd+Compound A 50mg/kg,bidを示す。縦軸は腫瘍径より算出した推定腫瘍体積を示し、横軸は群分け後の日数を示す。エラーバーはSEを表す。
図2】EGFR遺伝子exon 19に欠失変異を有し、EGFR阻害薬に高感受性を示すHCC827肺がん細胞マウス皮下移植腫瘍に対するCompound Aとオシメルチニブとのin vivoにおける併用投与時の体重変化を示した図である。シンボル白丸はVehicle(0.5%MC)投与群、シンボル黒丸は、Compound A 12.5mg/kg,bid、シンボル白三角は、Compound A 25mg/kg,bid、シンボル黒三角は、Compound A 50mg/kg,bid、シンボル白菱形は、オシメルチニブ 3mg/kg,qd、シンボル黒菱形は、オシメルチニブ 3mg/kg,qd+Compound A 12.5mg/kg,bid、シンボル白四角は、オシメルチニブ 3mg/kg,qd+Compound A 25mg/kg,bid、シンボル黒四角は、オシメルチニブ 3mg/kg,qd+Compound A 50mg/kg,bidを示す。縦軸は群分け日の体重に対する体重変化率を示し、横軸は群分け後の日数を示す。エラーバーはSDを表す。
図3】EGFR遺伝子のL858R変異およびT790M変異を有するヒト非小細胞肺がん由来細胞NCI-H1975細胞のin vitro増殖に対するCompound Aとオシメルチニブとの併用効果を示した図である。シンボル白丸はVehicle、シンボル灰色菱形はCompound A 0.1μM、シンボル黒菱形はCompound A 1μM、シンボル灰色四角はオシメルチニブ 0.2μM、シンボル黒四角はオシメルチニブ 2μM、シンボル灰色三角はCompound A 0.1μM+オシメルチニブ 0.2μM、シンボル黒三角はCompound A 0.1μM+オシメルチニブ 2μM、シンボル灰色丸はCompound A 1μM+オシメルチニブ 0.2μM、シンボル黒丸はCompound A 1μM+オシメルチニブ 2μMを示す。エラーバーはSDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明において、式(1)の化合物:
【0037】
【化12】
【0038】
[N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミド]はWO2016/006706の実施例34の化合物である。本化合物またはその薬学的に許容される塩はWO2016/006706に記載の方法により製造することができる(WO2016/006706は参照によりすべてが本明細書に組み込まれる)。
【0039】
EGFRとは、細胞の増殖に関わる因子を認識することでシグナル伝達を行う、チロシンキナーゼ型の受容体のことである。EGFRは細胞膜上に存在するが、この受容体が活性化されると細胞の分化・増殖が起こる。このEGFRは多くの細胞に見られ、過剰発現や遺伝子変異が起こることでがん化や浸潤・転移に関わるようになる。非小細胞肺がんや大腸がんをはじめとして様々ながん細胞でEGFRが過剰発現或いは遺伝子変異しており、がん細胞の増殖が活発となっている。さらに、過剰発現或いは遺伝子変異している細胞はそうでない細胞と比べ、高い転移性を示すことが分かっている。ここで、EGFRチロシンキナーゼのリン酸化を阻害すると、がん細胞の増殖に必要なシグナル伝達を遮断することが出来る。これによって、がん細胞の増殖を抑制する。
【0040】
EGFR遺伝子の変異としては、活性化変異として、コード蛋白質の858番目のロイシンがアルギニンになる変異(L858R)、exon 19の欠失変異(exon19del)、コード蛋白質の719番目のグリシンが他のアミノ酸になる変異(G719X)、コード蛋白質の861番目のロイシンがグルタミンになる変異(L861Q)などが非小細胞肺がんなどで見られることが知られており、ゲフィチニブやエルロチニブなどのいわゆる第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性となったがんにおいては、コード蛋白質の790番目のスレオニンがメチオニンになる変異(T790M)が生じることが知られている。
【0041】
本発明において用いられるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬としては、具体的には、オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、アファチニブ等が挙げられ、オシメルチニブが特に好ましい。
【0042】
本発明において、オシメルチニブは、式(2)の化合物:
【0043】
【化13】
【0044】
[N-(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル](メチル)アミノ}-4-メトキシ-5-{[4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)ピリミジン-2-イル]アミノ}フェニル)プロペン-2-アミド]であり、また、タグリッソ(登録商標)、AZD9291と表記される場合もある。WO13014448に記載の方法により製造することができる。
【0045】
本発明において、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドおよびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は各種の薬学的に許容される塩であってもよい。
【0046】
塩としては、例えば塩酸塩、ヨウ化水素酸塩等のハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の低級アルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のアリ-ルスルホン酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、りんご酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及びオルニチン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジル-N-(2-フェニルエトキシ)アミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等の有機アミン塩、等を挙げることができる。
【0047】
N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドの塩としては硫酸塩が好ましい。
【0048】
オシメルチニブの塩としてはメシル酸塩が好ましい。
【0049】
本発明において、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、遊離体もしくは溶媒和物として存在することもある。空気中の水分を吸収すること等により水和物として存在することもある。溶媒和物としては、医薬的に許容し得るものであれば特に限定されないが、具体的には、水和物、エタノール和物等が好ましく、また、N-オキシド体となっていてもよく、これら溶媒和物、水和物、及びN-オキシド体も本発明の範囲に含まれる。
【0050】
N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、それらの構造によっては、立体異性体を生じ得る。本発明はこれらの立体異性体、およびこれらの立体異性体の任意の割合の混合物をもすべて含むものである。立体異性体の定義は1996 IUPC,Pure and Applied Chemistry 68,2193-2222に示す通りである。N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、互変異性体として存在する場合、それらの互変異性体が平衡状態で存在している場合も、またはある形が支配的に存在している場合のいずれも本発明の範囲内に含まれる。互変異性体とは分子の1個の原子のプロトンが他の原子にシフトすることによって生じる異性体のことを言う。
【0051】
また、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学的に許容される塩およびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こしたり、胃酸等により加水分解等を起こして所望の化合物に変換される「医薬的に許容されるプロドラッグ化合物」であってもよい。
【0052】
上記プロドラッグとしては、アシル化、アルキル化、リン酸化された化合物等が挙げられる。
【0053】
化合物のプロドラッグは公知の方法によって製造することができる。また、化合物のプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁~198頁に記載されているような、生理的条件で所望の化合物に変化するものも含まれる。
【0054】
本発明において、用語「腫瘍」および「がん」は交換可能に使用される。また、本発明において、腫瘍、悪性腫瘍、がん、悪性新生物、がん腫、肉腫等を総称して、「腫瘍」または「がん」と表現する場合がある。また、用語「腫瘍」および「がん」には、骨髄異型性症候群等、場合によっては前がん段階に区分される病態も含まれる。
【0055】
本発明の一態様は、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、組み合わせて投与されることを特徴とする医薬または治療方法に関する。
【0056】
本発明の一態様は、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、組み合わせて投与されることを特徴とするがん治療のための医薬または治療方法に関する。
【0057】
本発明において、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が「組み合わせて投与されることを特徴とする」とは、両薬剤が組み合わせて投与されることを想定されていることを意味する。
【0058】
本発明において、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が「組み合わせて投与される」とは、ある一定期間において、被投与対象が、両薬剤をその体内に取り込むことを意味する。両薬剤が単一製剤中に含まれた製剤が投与されてもよく、またそれぞれが別々に製剤化され、別々に投与されても良い。別々に製剤化される場合、その投与の時期は特に限定されず、同時に投与されてもよく、時間を置いて異なる時間に、又は、異なる日に、投与されても良い。N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が、それぞれ異なる時間又は日に投与される場合、その投与の順番は特に限定されない。通常、それぞれの製剤は、それぞれの投与方法に従って投与されるため、それらの投与は、同一回数となる場合もあり、異なる回数となる場合もある。また、それぞれが別々に製剤化される場合、各製剤の投与方法(投与経路)は同じであってもよく、異なる投与方法(投与経路)で投与されてもよい。また、両薬剤が同時に体内に存在する必要は無く、ある一定期間(例えば一ヶ月間、好ましくは1週間、さらに好ましくは数日間、さらにより好ましくは1日間)の間に体内に取り込まれていればよく、いずれかの投与時にもう一方の有効成分が体内から消失していてもよい。
【0059】
本発明の医薬の投与形態を例示すると、例えば、1)N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を含む単一の製剤の投与、2)N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、3)N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、4)N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、5)N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与などが挙げられる。
【0060】
本発明においては、2種の異なる製剤とした場合は、それらを含むキットとすることもできる。
【0061】
本発明にかかる医薬は、N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドもしくはその薬学上許容される塩および/またはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と、薬学的に許容し得る担体を含み、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射等の各種注射剤として、あるいは、経口投与または経皮投与等の種々の方法によって投与することができる。薬学的に許容し得る担体とは、組成物を、ある器官または臓器から他の器官または臓器に輸送することに関与する、薬学的に許容される材料(例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、溶媒等)を意味する。
【0062】
製剤の調製方法としては投与法に応じ適当な製剤(例えば、経口剤または注射剤)を選択し、通常用いられている各種製剤の調製法にて調製できる。経口剤としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、または油性ないし水性の懸濁液等を例示できる。経口投与の場合では遊離体のままでも、塩の型のいずれでもよい。水性製剤は薬学的に許容される酸と酸付加物を形成させるか、ナトリウム等のアルカリ金属塩とすることで調製できる。注射剤の場合は製剤中に安定剤、防腐剤または溶解補助剤等を使用することもできる。これらの補助剤等を含むこともある溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって固形製剤として用時調製の製剤としてもよい。また、一回投与量を一の容器に収納してもよく、また複数回投与量を一の容器に収納してもよい。
【0063】
固形製剤としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、またはトローチ剤が挙げられる。これらの固形製剤は、本発明の化合物とともに薬学的に許容し得る添加物を含んでもよい。添加物としては、例えば、充填剤類、増量剤類、結合剤類、崩壊剤類、溶解促進剤類、湿潤剤類または滑沢剤類が挙げられ、これらを必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。
【0064】
液体製剤としては、例えば、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、または懸濁剤が挙げられる。添加物としては、例えば、懸濁化剤または乳化剤が挙げられ、これらを必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。
【0065】
製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルベート20やポリソルベート80等のポリソルベート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、薬剤の重量に対して0.01~100倍、特に0.1~10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0066】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0-8.5のTrisバッファー、pH4.0-5.5の酢酸バッファー、pH3.0-6.2のクエン酸バッファーを含むことができる。また、これらのバッファーにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。
【0067】
オシメルチニブの製剤の好適な例としては、D-マンニトールを添加した錠剤が挙げられるがこれに限定されない。
【0068】
本発明は、哺乳類、特にヒトのがん治療に用いることができる。本発明の医薬の投与量および投与間隔は、疾患の部位、患者の身長、体重、性別または病歴によって、医師の判断により適宜選択され得る。本発明の医薬をヒトに投与する場合、投与量の範囲は、一種類の有効成分につき、1日当たり、約0.01mg/kg体重~約500mg/kg体重、好ましくは、約0.1mg/kg体重~約100mg/kg体重である。ヒトに投与する場合、好ましくは、1日あたり1回、あるいは2から4回に分けて投与され、適当な間隔で繰り返すのが好ましい。また、1日量は、医師の判断により必要によっては上記の量を超えてもよい。
オシメルチニブとして好ましくは成人には80mgを1日1回経口投与する。患者の状態により適宜増減されてもよい。
【0069】
ゲフィチニブとして好ましくは成人には250mgを1日1回経口投与する。患者の状態により適宜増減されてもよい。
【0070】
エルロチニブとして好ましくは100から150mgを1日1回経口投与する。患者の状態により適宜増減されてもよい。
【0071】
N-[4-(2-アミノ-5-{4-[(2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメトキシ]-3-メトキシフェニル}ピリジン-3-イル)-3-フルオロフェニル]-5-メチル-4’-オキソ-1’-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル) -1’,4’-ジヒドロ-2,3’-ビピリジン-5’-カルボキサミドとして好ましくは成人には、1日あたり100mg~1000mg投与するのが好ましく、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mgまたは1000mg投与するのがより好ましい。
【0072】
治療の対象となるがんの種類は本発明の併用治療に対して感受性が確認されるがんであれば特に限定されないが、乳がん、結腸がん、前立腺がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん等を含む)、胃がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、子宮体がん、腎がん、肝細胞がん、甲状腺がん、食道がん、骨肉腫、皮膚がん(メラノーマ等を含む)、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、卵巣がん、頭頚部がん、睾丸腫瘍、大腸がん、血液がん(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等を含む)、網膜芽細胞腫、膵臓がん等が挙げられる。中でも、EGFR遺伝子に変異を有するがんが好ましい。EGFR遺伝子の変異として、L858R、exon19del、G719X、L861Q、T790Mなどのうちのいずれか1以上(好ましくは、exon19del、L858RおよびT790Mのうちのいずれか1以上)を有するがんが好ましい。また、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR遺伝子T790M変異陽性および/またはexon 19に欠失変異を有する手術不能または再発非小細胞肺がんが好ましい。
【0073】
がんとAxlとの関係については、増殖阻害、転移・運動(migration)・浸潤(invasion) 阻害、薬剤耐性解除の観点から各種報告がなされている。
【0074】
Axlのドミナントネガティブ変異体は脳腫瘍の増殖を抑制したことが報告されている(Vajkoczy et al.,PNAS 2006,103,5799)。グリオブラストーマ患者由来組織においてAxlの発現やAxl/Gas6共発現がみられる場合、腫瘍増殖が顕著に早く進み、患者生存期間が短いことが報告されている(Hutterer et al.,Clin Cancer Res 14,130 (2008))。AxlのshRNAが乳がん細胞の増殖を抑制したことが報告されている(Yi-Xiang et a1., Cancer Res 68,1905 (2008))。これらの報告から、Axl阻害剤ががんにおける細胞増殖阻害に有用であることが明らかである。
【0075】
一方で、Axlのドミナントネガティブ変異体が細胞の運動(migration)および浸潤(invasion)を阻害したことが報告されている(Zhang et a1.,Cancer Res 68,1905 (2008), Vajkoczy et al.,PNAS 103,5799(2006),Holland et al., Cancer Res 65,9294(2005))。Axl-shRNAがin vivoで転移を抑制したことが報告されている(Liet a1.,oncogene 28,3442(2009))。抗Axl抗体、siRNAがマウスモデルで腫瘍増殖と転移を抑制したことが報告されている(Li et a1.,Oncogene 28,3442 (2009),Ye et a1.,Oncogene 29, 5254 (2010))。 Axlが細胞の浸潤(invasion)を促進することが報告されている(Tai et a1.,Oncogene 27,4044(2008))。Axl阻害剤であるR-428が転移性乳がんの拡散モデルを阻害したことが報告されている(Holland et al.,Cancer Res 70,1544 (2010))。Axl抗体、AxlのshRNAおよびAxl阻害剤NA80x1が乳がん細胞の移動や浸潤(inva1sion)を阻害したことが報告されている(Yi-Xiang et a1.,Cancer Res 68,1905(2008))。その他、前立腺がん、脾臓がん、転移性卵巣がん、胸腺がん等の転移や悪性化にAxlが関与することが複数報告されている。これらの報告から、Axl阻害剤が、がんの転移、細胞の運動(migration)、浸潤(invasion)の抑制、治療、予防等に有用であることが明らかである。
【0076】
また、Axl阻害剤が胃がんにおけるイマチニブ耐性を解除したことが報告されている(Mahadevan et a1.,Oncogene 26,3909(2007))。ドキソルビシン、VP16、シスプラチン等の化学療法剤耐性において、Axlが誘導されることが急性骨髄性白血病で示されている(Hong et a1.,Cancer Letters 268, 314(2008))。HER-2陽性乳がん細胞におけるラパチニブ耐性においてAxlの活性化が見られることが報告されている(Liu et al.,Cancer Res 69,6871(2009))。AxlがPLX4032(vemurafenib)耐性機構に関与することが報告されている(Johannessen et a1.,Nature 468,968(2010))。その他、temozolomide、カルボプラチン、ピンクリスチン耐性にAxlが関与することが報告されている(AK Keeating et a1.,Mol Cancer Ther 9(5),1298(2010))。これらの報告から、Axl阻害剤が、薬剤耐性の解除、例えば、各種抗がん剤に対する耐性の解除に有用であることが明らかである。
【0077】
本発明にかかる医薬は他の抗腫瘍剤と併用して用いてもよい。例えば、抗腫瘍抗生物質、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、ホルモン、ビタミン、抗腫瘍性抗体、分子標的薬、アルキル化剤、代謝拮抗剤その他の抗腫瘍剤等が挙げられる。
【0078】
より具体的に、アルキル化剤としては、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN - オキシド、ベンダムスチンもしくはクロラムブチル等のアルキル化剤、カルボコンもしくはチオテパ等のアジリジン系アルキル化剤、ディブロモマンニトールもしくはディブロモダルシトール等のエポキシド系アルキル化剤、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシンもしくはラニムスチン等のニトロソウレア系アルキル化剤、ブスルファン、トシル酸インプロスルファン、テモゾロミドまたはダカルバジン等が挙げられる。
【0079】
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6-メルカプトプリン、6-チオグアニンもしくはチオイノシン等のプリン代謝拮抗剤、フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン若しくはエノシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤、メトトレキサートもしくはトリメトレキサート等の葉酸代謝拮抗剤等が挙げられる。
【0080】
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、THP-アドリアマイシン、4 ’-エピドキソルビシンもしくはエピルビシン、クロモマイシンA3 またはアクチノマイシンD 等が挙げられる。
【0081】
抗腫瘍性植物成分およびそれらの誘導体としては、例えば、ビンデシン、ビンクリスチンもしくはビンブラスチン等のビンカアルカロイド類、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル等のタキサン類、またはエトポシドもしくはテニポシド等のエピポドフィロトキシン類が挙げられる。
【0082】
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子またはインドメタシン等が挙げられる。
【0083】
ホルモンとしては、例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、メペチオスタンまたはメドロキシプロゲステロン等が挙げられる。
【0084】
ビタミンとしては、例えば、ビタミンCまたはビタミンA等が挙げられる。
【0085】
抗腫瘍性抗体、分子標的薬としては、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマム、ニモツズマブ、デノスマブ、ベバシズマブ、インフリキシマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アベルマブ、ピジリズマブ、アテゾリズマブ、ラムシルマブ、メシル酸イマチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、ラパチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ、コビメチニブ、パゾパニブ、パルボシクリブ、パノビノスタット、ソラフェニブ、クリゾチニブ、ベムラフェニブ、キザルチニブ、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イクサゾミブ、ミドスタウリン、ギルテリチニブ等が挙げられる。
【0086】
その他の抗腫瘍剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、タモキシフェン、レトロゾール、アナストロゾール、エキセメスタン、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント、ビカルタミド、フルタミド、ミトタン、リュープロレリン、ゴセレリン酢酸塩、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L-アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレア、ウベニメクス、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、エリブリン、トレチノインまたはクレスチン等が挙げられる。
【実施例
【0087】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されない。
(試験例1 Compound Aとオシメルチニブとのin vivo併用効果の検討)
EGFR遺伝子exon 19に欠失変異を有し、EGFR阻害薬に高感受性を示すヒト非小細胞肺がん由来HCC827細胞をリン酸緩衝生理食塩水を用いて5×107cells/mLになるよう懸濁し、調製した細胞懸濁液をヌードマウス(雌性、5 週齢)の皮下に0.1 mL移植した。使用するマウスの平均推定腫瘍体積が265.5 mm3に達した時点(腫瘍移植後45日目)で腫瘍体積値による群分けを行い、オシメルチニブ(AZD9291;Shanghai Sun-shine Chemical Technology Co., Ltd)3 mg/kg(1日1回: qd)、Compound Aを12.5, 25, もしくは50 mg/kg(1日2回: bid)を強制経口投与した(単独投与もしくは両剤の併用投与)。投与は群分け翌日(Day 1)から週5日の割合(土日休薬)で行い、Vehicle及びCompound A単独投与群はDay 21~Day 28、オシメルチニブ単独投与群はDay 100、併用投与群もDay 100まで行なった。経時的に腫瘍の長径(mm)および短径(mm)を電子デジタルノギスで計測し、以下に示す計算式(1)により推定腫瘍体積を算出して図を作成した。また経時的に小動物用自動天秤を用いて体重を測定し、以下に示す計算式(2)により体重変化率(Change in body weight (%))を算出して薬剤投与の体重への影響を検討すると共に、直近の体重測定結果を投与量算出に用いた。
【0088】
Estimated Tumor Volume (mm3) = 群あたりの各個体の推定腫瘍体積の平均値・・・(1)
各個体の推定腫瘍体積 = An×Bn2/2
An:n日目の腫瘍の長径
Bn:n日目の腫瘍の短径
Change in body weight (%) = 群あたりの各個体の体重変化率の平均値・・・(2)
各個体の体重変化率 = (1-BWn/BWs)×100
BWn:n日目の体重
BWs:投与開始日の体重
結果を図1から2および表1から2に示す。
【0089】
オシメルチニブ単剤では投与後直ちに腫瘍退縮効果が確認されたが、その後耐性を獲得し、Day81には投与開始時の大きさを上回った。しかしながら、Compound Aとの併用群では最終日のDay100においても投与開始時の大きさには達することなく、耐性を示さなかった(表1および図1)。オシメルチニブとCompound Aとの併用群において、特に顕著な体重減少の低下は見られず(表2および図2)、一般症状についても異常は見られなかった。
【0090】
このように、本願発明のCompound Aとオシメルチニブとの併用では、いずれの用量においても多くの観察時点において、オシメルチニブ単独投与群と比べて統計学的に有意な差を認め、効果の持続日数が長く、腫瘍退縮効果も強い反面、安全性も高いことが確認できた。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
(試験例2 Compound Aとオシメルチニブとのin vitro併用効果の検討)
EGFR遺伝子変異(L858R、T790M)ヒト非小細胞肺がん由来NCI-H1975細胞を、培地(10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地)に懸濁し、12穴プレートに播種(1.5×104個/well)し、37℃、5% CO2、加湿インキュベーター中で一晩培養した。上清を除去し、DMSOに溶解後培地で希釈したCompound A(最終濃度:0.1または1μM)およびオシメルチニブ(AZD9291;Shanghai Sun-shine Chemical Technology Co., Ltd)(最終濃度:0.2または2μM)をそれぞれ単独または併用で添加した。コントロールwellには0.2%DMSOを含む培地を添加した。37℃、5% CO2、加湿インキュベーター中で培養を継続し、7日に一度、培地交換を行った。
【0094】
試験化合物添加後、Day1, Day3, Day5, Day7, Day10, Day15, Day20, Day25, Day30に細胞染色を行った。
【0095】
細胞染色、画像解析、データ解析は以下の手順で行った。
【0096】
ウェル内を4%ホルムアルデヒド溶液で固定(室温25分間)、0.1%TritonX-100含有PBSを反応させ(室温15分)、さらに染色液(HCS CellMask Green/Hoechst33342混液)を添加し室温で30分間染色した。Array Scan VTI(Thermo Fisher Scientific Inc.)にて対物レンズ5倍、取得視野数100で画像取得し、Cellomics Viewソフトを用いて細胞面積を解析した。測定ポイントごとに総撮影面積あたりの細胞占有率を下式(1)に従って算出した。また、各群の細胞占有率の平均値を用いて、オシメルチニブ単独処理群に対する併用群の増殖率を下式(2)に従って算出した。細胞増殖曲線は細胞占有率(% of Total area)の値を用いて作成した。
(1)細胞占有率(%)={細胞占有面積(μm2)/総撮影面積(174493532 μm2) }×100
(2)増殖率(%)=[{併用群の細胞占有率(%)の平均値}/{単独群の細胞占有率(%)の平均値}]×100
結果を図3に示す。本願発明のCompound Aとオシメルチニブとの併用は、L858RおよびT790M(獲得変異)の変異を有するがん細胞においても顕著な抗腫瘍効果を示すことが確認された。
図1
図2
図3