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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】PDE9阻害剤を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20230612BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61K31/444 ZMD
A61P25/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019559117
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2018020643
(87)【国際公開番号】W WO2018221546
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/513,690
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】シャック エドガー
(72)【発明者】
【氏名】ライ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】サバント ランドリー イシャニ
(72)【発明者】
【氏名】レゲ バスカー
(72)【発明者】
【氏名】宮本 舞
(72)【発明者】
【氏名】小谷 定治
(72)【発明者】
【氏名】堀江 勘太
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/163147(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/051639(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態であって、前記治療上有効な量がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記単一の1日用量が25mg~400mgの範囲であり、前記化合物Aが式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンである、経口投与形態。
【化1】
【請求項2】
前記治療上有効な量がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である、請求項1に記載の経口投与形態。
【請求項3】
前記治療上有効な量がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である、請求項1に記載の経口投与形態。
【請求項4】
5mg~400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態であって、前記化合物Aが式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンであり、前記経口投与形態がそれを必要とするヒト対象に投与される、経口投与形態。
【化2】
【請求項5】
単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する、請求項に記載の経口投与形態。
【請求項6】
単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、請求項に記載の経口投与形態。
【請求項7】
単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投薬後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する、請求項に記載の経口投与形態。
【請求項8】
アルツハイマー病、レビー小体型認知症又は認知症を伴うパーキンソン病の治療に使用される、請求項1又はに記載の経口投与形態。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明はPDE9阻害剤を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]細胞内で二次メッセンジャーとして機能する環状グアノシン一リン酸(以下、cGMPという)は学習及び記憶行動を初めとして様々な生理学的機能で重要な役割を果たすことが知られている。
【0003】
[0003]脳神経回路のシナプス後部で、一酸化窒素合成酵素により生合成される一酸化窒素(以下、NOという)は、cGMP合成酵素であるグアニル酸シクラーゼを活性化する。活性化されたグアニル酸シクラーゼはグアノシン三リン酸からcGMPを生合成する。cGMPはcGMP依存性タンパク質キナーゼ(以下、PKGという)を活性化して、シナプス可塑性に関与する様々なタンパク質をリン酸化する。NO/cGMP/PKGカスケードの活性化は学習及び記憶行動の神経基質といわれる海馬のシナプス可塑性の誘導(長期増強(Long Term Potentiation);以下、LTPという)に関与することが知られている(例えば、Domek-Lopacinska et al., ”Cyclic GMP metabolism and its role in brain physiology”, J Physiol Pharmacol., vol. 56, Suppl 2: pp. 15-34, 2005参照)。このカスケードのシグナル伝達を活性化する薬剤は海馬のLTP及び動物の学習行動を改善することが知られており、一方このカスケードを阻害する薬剤は逆の作用を示すことが知られている(Wang X., ”CyclicGMP-dependent protein kinase and cellular signaling in the nervous system”, J. Neurochem., vol. 68, pp. 443-456, 1997)。したがって、これらの知見から、脳内のcGMPの増大は学習及び記憶行動の改善につながることが期待される。
【0004】
[0004]cGMPは、ホスホジエステラーゼ(以下、PDEという)により、PKG活性化作用を有しない5’-GMPに代謝される。PDEは11のファミリーを有することが知られており、PDE9はcGMPを特異的に代謝し、脳、脾臓、小腸などで発現されることが知られている(例えば、Fisher et al., ”Isolation and characterization of PDE9A, a novel human cGMP-specific phosphodiesterase”, J. Biol. Chem., vol. 273: pp. 15559-15564, 1998参照)。即ち、PDE9の阻害は脳内のcGMPを増大することが期待される。PDE9阻害剤は実際に海馬LTPを高め、動物での新奇物体認識試験/受動回避学習試験などで学習及び記憶行動を改善することが報告されている(van der Staay et al., ”The novel selective PDE9 inhibitor BAY 73-6691 improves learning and memory in rodents”, Neuropharmacology, vol. 55: pp. 908-918, 2008)。臨床的に、アルツハイマー病患者の上部側頭皮質では、グアニル酸シクラーゼ活性が低下しており、cGMPレベルの減少の可能性が示唆されている(Bonkale et al., ”Reduced nitric oxide responsive soluble guanylyl cyclase activity in the superior temporal cortex of patients with Alzheimer’s disease”, Neurosci. Lett., vol 187, pp. 5-8, 1995)。したがって、PDE9は、アレキサンダー病、アルパース病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリック病又は運動ニューロン疾患といわれる)、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病(シュピールマイヤー-フォークト-シェーグレン-バッテン病ともいわれる)、ビンスワンガー認知症(皮質下動脈硬化性脳障害)、双極性障害、ウシ海綿状脳症(BSE)、キャナヴァン病、化学療法誘発認知症、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト-ヤコブ病、うつ病、ダウン症候群、前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症、意味認知症及び進行性非流暢性失語症を含む)、ゲルストマン-シュトラウスラー-シャインカー病、緑内障、ハンチントン病(舞踏病)、HIV関連認知症、多動、ケネディ病、コルサコフ症候群(健忘作話症候群)、クラッベ病、レビー小体型認知症、進行性logopenic失語症、マチャド-ジョセフ病(脊髄小脳変性症3型)、多発性硬化症、多発性萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)、重症筋無力症、パーキンソン病、ペリツェウス-メルツバッハ病、ピック病、初老期認知症(軽度認知障害)、原発性側索硬化症、原発性進行性失語症、放射線誘発認知症、レフサム病(フィタン酸蓄積症)、サンドホフ病、シルダー病、統合失調症、意味認知症、老年性認知症、シャイ-ドレーガー症候群、脊髄小脳失調、脊髄性筋萎縮症、スティール-リチャードソン-オルスゼフスキー病(進行性核上麻痺)、並びに血管アミロイドーシス及び血管性認知症(多発梗塞性認知症)のような神経変性病及び精神病病理学、特にアルツハイマー病における認知機能障害などの病理学と多くの密接な関係を有している可能性がある。
【0005】
[0005]式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オン(単に「化合物A」とする)はPDE9阻害活性を有することが知られている。化合物A又はその薬剤学的に許容される塩は神経変性病又は精神病の治療に使用することが期待される(国際公開第2013/051369号、国際公開第2014/163147号)。
【化1】
【0006】
[0006]しかし、ヒト対象における化合物Aの薬物動態(以下「PK」という)、予期されるその治療上有効な量及びそのIn Vivo試験の結果の間の関連は知られていない。
【発明の概要】
【0007】
[0007]本発明の目的は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を含む医薬組成物を提供することである。
【0008】
[0008]本発明は次の<1>~<13>に関する。
<1>治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態であって、前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記化合物Aが式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンである、経口投与形態。
【化2】

<2>前記単一の1日用量が約50mg~約400mgの範囲である、<1>の経口投与形態。
<3>前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である、<1>の経口投与形態。
<4>前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である、<1>の経口投与形態。
<5>約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態であって、前記化合物Aが式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンである、経口投与形態。
【化3】

<6>単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する、<5>の経口投与形態。
<7>単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、<5>の経口投与形態。
<8>単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する、<5>の経口投与形態。
<9>前記経口投与形態がアルツハイマー病又はレビー小体型認知症の治療に使用される、<1>又は<5>の経口投与形態。
<10>アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療する方法であって、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を有する投与形態をそれを必要とするヒト対象に経口で投与することを含んでおり、前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記化合物Aが式(1)で表される(S)-7-(2-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-4-イル)-1-(テトラヒドロフラン-3-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-4(5H)-オンである、方法。
【化4】

<11>前記単一の1日用量が約25mg~約400mgの範囲である、<10>の方法。
<12>前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である、<10>の方法。
<13>前記治療上有効な量がヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である、<10>の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0009]I.定義
本明細書に記載されている本発明がより十分に理解されるように、本開示の目的のために以下の定義を提供する。
【0010】
[0010]用語「有効な量」は、それを必要とするヒト対象において治療効果を達成することができる化合物Aの薬物量を意味する。
【0011】
[0011]用語「ヒト対象」は、通常の健康な男性又は女性のボランティア及び/又はアルツハイマー病又はレビー小体型認知症の臨床兆候又は症状を呈する個人を意味する。
【0012】
[0012]「生物学的に同等」又は「生物学的同等性」という表現は専門用語であり、U.S Department of Health and Human Servicesにより刊行され、“Orange Book”として広く知られているApproved Drug Products with Therapeutic Equivalence Evaluations, 34th Editionに従って定義されることが意図されている。同一の原体の異なる製剤の生物学的同等性は薬物吸収の速度及び程度に関する同等性を含む。試験製剤の吸収の程度及び速度を参照製剤と比較して、2つの製剤が生物学的に同等であるかどうか決定する。標準的な生物学的同等性研究を、単一用量の試験及び参照薬物を多くのボランティア、通常12~24人の健康な通常の成人に投与した後、薬物の血液又は血漿レベルを経時的に測定することを含む広範な試験により交差的に実施する。ある製剤と参照製剤の生物学的同等性を確立するための詳細な指針はFDA Office of Generic Drugs, Division of Bioequivalenceにより公表されている。
【0013】
[0013]Cmax、AUC、又はtmaxのようなPKパラメーターが-20%/+25%以下だけ異なる2つの製剤は一般に「生物学的に同等」であると考えられる。平均の生物学的同等性のためのもう1つ別のアプローチは試験及び参照製品に対する測定の平均(集団幾何平均)の比に対する90%信頼区間の計算を含む。生物学的同等性を確立するために、計算された信頼区間は製品平均の比に対して通常80~125%以内であるべきである。この一般的なアプローチに加えて、(1)薬物動態データの対数変換、(2)シーケンス効果を評価する方法及び(3)異常データを評価する方法を初めとする他のアプローチが、生物学的同等性の確立に有用であろう。例えば、上記の(1)で信頼区間は対数変換されたPKパラメーターの平均値における差に対して通常80~125%以内であるべきである。
【0014】
[0014]用語「投与形態(複数可)」は、原体(医薬品有効成分(API))を投与するか、又は患者及び他の哺乳類への薬剤の投薬、投与、及び送達を容易にする手段を意味する。投与形態は、例えば、経口、局所、直腸、膣内、静脈内、皮下、筋肉内、点眼、鼻腔内、耳内及び吸入投与を初めとして、投与経路及び適用部位の観点から分類される。或いは、投与形態は固体、半固体又は液体のように物理的形態の観点から分類される。また、投与形態は、Japanese Pharmacopoeia 16 edition (JP16)のモノグラフ又はU.S. Pharmacopoeia-NF (37)(USP37)のGeneral Chapter <1151> Pharmaceutical Dosage Formsに記載されているように、限定されないが、錠剤、カプセル又は注射を含めて、その形態、機能及び特性に基づいて細分される。
【0015】
[0015]用語「賦形剤」は、媒体(例えば、水、カプセル殻等)、希釈剤、又は治療薬のような薬物を含む投与形態又は医薬組成物を構成する構成要素として使用される通例不活性な成分を意味する。この用語はまた、凝集機能(即ち、結合剤)、崩壊機能(即ち、崩壊剤)、潤滑機能(滑剤)、及び/又はその他の機能(即ち、溶剤、界面活性剤等)を組成物に付与する通例不活性な成分も包含する。
【0016】
[0016]用語「平均」とは幾何平均を指す。「平均Cmax」又は「平均AUC」のような薬物動態パラメーターはCmax又はAUCの幾何平均値を指す。
【0017】
[0017]化合物Aが薬剤学的に許容される塩の形態にあるならば、「各1mgの化合物Aに対する平均Cmax」又は「各1mgの化合物Aに対する平均AUC」は化合物Aの遊離形態に関して各1mgに対する平均Cmax又は平均AUCを意味する。
【0018】
[0018]化合物Aが薬剤学的に許容される塩の形態にあるならば、化合物Aの薬剤学的に許容される塩の単一の1日用量は本出願では化合物Aの遊離形態に関する値として記載される。加えて、化合物Aが薬剤学的に許容される塩の形態にあるならば、経口投与形態中に含有される化合物Aの薬剤学的に許容される塩の量は本出願では化合物Aの遊離形態に関する値として記載される。
【0019】
[0019]本出願で使用されている用語の略語及び定義のリストを以下に示す。
Ae(0-96h): 投与後96時間までに尿中に排出された薬物の累積量、
Amax: 投与後30時間以内の単一時点でベースラインと比較した脳脊髄液(CSF)環状グアノシン一リン酸(cGMP)濃度の最大の変化(%)、
AUAC(0-30h): ゼロ時から投与後30時間までの濃度-時間曲線下面積、
ΔAUAC(0-30h): CSF cGMPに関して、投与後30時間にわたって平均したAUACの、投薬前3時間にわたって平均したベースラインAUACに対する変化(%)、即ち、(AUAC(0-30h)/30-AUAC(-3-0h)/3)/(AUAC(-3-0h)/3)、
AUC: 血漿濃度-時間曲線下面積、
AUC(0-24h): ゼロ時から投与後24時間までの血漿濃度-時間曲線下面積、
AUC(0-30h): ゼロ時から投与後30時間までの血漿濃度-時間曲線下面積、
AUC(0-72h): ゼロ時から投与後72時間までの血漿濃度-時間曲線下面積、
AUC(0-t): ゼロ時点から最後の定量可能な濃度の時点までの血漿濃度-時間曲線下面積、
AUC(0-inf): ゼロ時点から無限時点までの血漿濃度-時間曲線下面積、
cGMP: 環状グアノシン一リン酸、
CL/F: 血管外(例えば、経口)投与後の見掛けの総クリアランス、
CLR: 腎クリアランス、
Cmax: 最大観測濃度、
CSF: 脳脊髄液、
%CV: 平方根(exp[対数変換データのSD**2]-1)*100、
Fe(0-96h): 投与後96時間までに尿中に排出された投薬部分、
GM: 幾何平均、
QTcF: Fridericia’s式を用いて補正されたQT間隔、
ΔQTcF: ベースラインQTcFからの平均の変化、
ΔΔQTcF: プラシーボ-補正されたΔQTcF、
SD: 標準偏差、
TAmax: CSF cGMPについてAmaxが起こる時間、
tl/2: 終末消失半減期、
tlag: 吸収遅延時間、
tmax: 薬物投与後最大(ピーク)濃度に到達するまでの時間、
Vz/F: 終末相の見掛けの分布容量。
【0020】
[0020]II.実施形態の説明
1つの実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量である。
【0021】
[0021]1つの実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記単一の1日用量は約25mg~約400mgの範囲である。
【0022】
[0022]1つの実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である。
【0023】
[0023]1つの実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である。
【0024】
[0024]更なる実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量である。
【0025】
[0025]更なる実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記単一の1日用量は約25mg~約400mgの範囲である。
【0026】
[0026]更なる実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である。
【0027】
[0027]更なる実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である。
【0028】
[0028]別の実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供する。
【0029】
[0029]もう1つ別の実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する。
【0030】
[0030]別の実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。
【0031】
[0031]もう1つ別の実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する。
【0032】
[0032]更なる実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供する。
【0033】
[0033]更なる実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する。
【0034】
[0034]更なる実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。
【0035】
[0035]更なる実施形態において、本発明は、約25mg~約400mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬剤学的に許容される賦形剤を含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療するための経口投与形態を提供し、ここで単一の1日用量の前記化合物A又はその薬剤学的に許容される塩はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する。
【0036】
[0036]更に別の実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を有する投与形態をそれを必要とするヒト対象に経口で投与することを含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療する方法を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量である。
【0037】
[0037]更にもう1つ別の実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を有する投与形態をそれを必要とするヒト対象に経口で投与することを含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療する方法を提供し、ここで前記単一の1日用量は約25mg~約400mgの範囲である。
【0038】
[0038]更にもう1つ別の実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を有する投与形態をそれを必要とするヒト対象に経口で投与することを含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療する方法を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約72.6~約217.0ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である。
【0039】
[0039]更に別の実施形態において、本発明は、治療上有効な量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を有する投与形態をそれを必要とするヒト対象に経口で投与することを含む、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症を治療する方法を提供し、ここで前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約1.8ng/mL~約7.6ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量であり、前記治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約71.0~約210.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である。
【0040】
[0040]本発明において、化合物A又はその薬剤学的に許容される塩の好ましい単一の1日用量は約25mg~約200mg、約50mg~約200mg、約75mg~約400mg、約75mg~約200mg、約100mg~約400mg又は約100mg~約200mgの範囲である。
【0041】
[0041]本発明において、好ましい治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約2.2ng/mL~約4.7ng/mLの平均Cmaxを達成する単一の1日用量である。
【0042】
[0042]本発明において、好ましい治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約89.6~約187.5ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する単一の1日用量である。
【0043】
[0043]本発明において、好ましい治療上有効な量はヒト対象への投与後各1mgの化合物Aに対して約88.0~約185.0ng*hr/mLの平均AUC(0-t)を達成する単一の1日用量である。
【0044】
[0044]本発明において、化合物Aは遊離形態、薬剤学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、多形又は以上のものの任意の組合せの形態でよい。
【0045】
[0045]薬剤学的に許容される塩として、限定されることはないが、無機酸塩、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、アミノ酸塩、第四級アミン塩、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩を包含し得る。好ましい薬剤学的に許容される塩としてはマレイン酸塩がある。
【0046】
[0046]本発明の経口投与形態としては、カプセル、顆粒、トローチ剤、ペレット、丸薬、粉末、懸濁液、錠剤、好ましくはカプセル、顆粒、ペレット、丸薬、錠剤がある。
【0047】
[0047]本発明の経口投与形態は、当技術分野で広く知られている標準的な技術及び製造工程を使用して製造できる。例えば、Japanese Pharmacopoeia 16 editionのモノグラフ又はU.S. Pharmacopoeia-NF (37)のGeneral Chapter <1151> Pharmaceutical Dosage Forms参照。
【実施例
【0048】
[0048]以下の実施例は本発明の様々な態様を例示するものであり、いかなる意味でも特許請求の範囲を限定すると解釈されてはならない。
【0049】
[0049]化合物Aモノマレイン酸塩は、国際公開第2014/163147号に記載されている方法に従って合成した。
【0050】
[0050]IN VIVO試験
(ラット新奇物体認識試験におけるスコポラミン誘発記憶障害に対する化合物Aモノマレイン酸塩の影響)
ラットにおける新奇物体認識試験において経口で投与された化合物Aモノマレイン酸塩のスコポラミン誘発記憶障害に対する効果を試験した。
スコポラミンモデルはアルツハイマー病、レビー小体型認知症及び認知症を伴うパーキンソン病の動物モデルとして利用できる。アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び認知症を伴うパーキンソン病においては、アセチルコリン神経系の機能障害が観察された(Whitehouse et al., “Alzheimer’s disease and senile dementia: loss of neurons in the basal forebrain.”, Science, vol. 215 (1982), pp. 1237-9; Shimada et al., “Mapping of brain acetylcholinesterase alterations in Lewy body disease by PET”, Neurology, vol. 73 (2009), pp. 273-8; Tiraboschi et al., “Cholinergic dysfunction in diseases with Lewy bodies”, Neurology, vol. 54, (2000) pp. 407-411; Perry et. al., “Neocortical cholinergic activaties differentiate Lewy body dementia from classical Alzheimer’s disesase”, Neuroreport,, vol. 5 (1994), pp. 747-9)。スコポラミンはムスカリン受容体アンタゴニストであり、アセチルコリン神経系の伝達を遮断する。アセチルコリン神経系は記憶及び注意等に関わっている。スコポラミンを投与された健康な対象及び動物は認知症様健忘症を示し、スコポラミン誘発健忘症状はアルツハイマー病及びレビー小体病の認識機能障害を治療するのに使用される化合物で改善された(Snyder et al., “Reversal of scopolamine-induced deficits with a single dose of donepezil, an acetylcholinesterase inhibitor”, Alzheimer’s & Dementia 1 (2005) pp. 126-135; Sambeth et al., “Cholinergic drugs affect novel object recognition in rats: Relation with hippocampal EEG?”, European Journal of Pharmacology, vol. 572 (2007) pp. 151 - 159)。新奇物体認識試験は、齧歯動物で観察される、精通している物体と比較して新奇な物体のより多くの自発的な探索に基づいている(Ennaceur and Delacour, “A new one-trial test for neurobiological studies of memory in rats. 1: Behavioral data”, Behavioural Brain Research, 31 (1988) pp. 47-59)。この試験は認識記憶のモデルと考えられ、食欲又は嫌悪の強化を含まない。したがって、ヒトの臨床試験で使用される認識記憶試験に類似していると考えられる。
【0051】
[0051]材料及び方法
6週齢の雄のLong-Evansラット(一般財団法人動物繁殖研究所)をこの研究に使用した。試験日前、ラットを二日連続して1日1回各々の実験装置に入れてラットを試験チャンバーに馴化させた。各々の馴化期間は空の試験アリーナ(40cm×30cm×45cm高)への3分の曝露からなり、続いておよそ1分付属の別室(13cm×30cm×45cm高)に入れ、更に5分試験アリーナに入れた。動物には、各日最初の3分の曝露の前に媒体を経口投与、生理食塩水を腹腔内投与した。
試験日、化合物Aモノマレイン酸塩又は媒体(0.5%メチルセルロース中0.01mol/L-HCl、10mL/kg)を無作為化後(1群当たりn=8)ラットに経口で投与した。1.5時間後、スコポラミン(0.7mg/kg、和光純薬工業)又は生理食塩水(1mL/kg)を腹腔内に投与した。スコポラミンの投与の30分後獲得試験(T1)を行った。T1では、ラットを空の試験アリーナに3分馴化させた後、ラットを付属の別室に入れ、2つの同じ物体を試験アリーナに入れた。次いでラットを各々のアリーナに戻し、2つの同じ物体を5分間自由に探索させた。この探索後、ラットを一旦ホームケージに戻した。
2時間の試験間間隔後、保持試験(T2)を行った。空の試験アリーナで3分の馴化後、ラットを付属の別室に入れ、T1試験で使用した1つの物体(「精通している」物体)及びT1試験では未使用の1つの物体(「新奇な」物体)を試験アリーナに入れた。これらの物体が入れられた各々の試験アリーナにラットを再び戻し、3分間物体を自由に探索させた。試験の間に水及びエタノールを含有するウエットティッシュで全ての物体をきれいにして臭いの痕跡を除いた。T1及びT2での動物の動作をデジタルビデオカメラで記録し、各々の物体を探索するのに使った時間の量を手動のストップウォッチで測定した。探索は、ラットがその鼻を物体から2cm以内に近付け、鼻を物体に向ける行動と定義した。実験は二回繰り返した。
新奇物体認識試験では、T2における次の新奇物体探索率が、精通している物体と新奇な物体との識別を反映する健忘指数と考えられる。これらの指数は次式に従って計算される。
【数1】

T1若しくはT2で合計して10秒未満の物体探索、又はT1で2つの同じ物体の一方の70%超若しくは30%未満の探索のラットはデータ解析から除いた。
データは平均±SEMとして表す。独立t検定を使用して非スコポラミン処理対照及びスコポラミン処理対照群間の差を解析した。T2における新奇物体探索率に対する化合物Aモノマレイン酸塩の効果を一元配置分散分析(ANOVA)及びその後のDunnett多重比較試験により解析した。P<0.05(両側)の値を統計的に有意と考えた。統計解析はGraphPad Prism version 5.04 (GraphPad Software)を使用して行った。結果は表1に示す。
各々の試料中の脳脊髄液内cGMP(以下「CSF cGMP」という)の上昇を国際公開第2013/051639号に記載されている方法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0052】
[0052]結果
T2で、媒体及び生理食塩水で処理したラットは新奇な物体を探索するのに相対的により多くの時間を費やした。ラット新奇物体認識試験において、精通している物体と比較して新奇な物体を探索するのに費やす時間の量の相対的な増加は精通している物体に対する記憶の保持力を反映すると考えた。
スコポラミンで処理したラットは生理食塩水で処理したラットより新奇物体探索率を有意に低下させた。これらの知見は、ラットにおけるスコポラミン誘発記憶障害を示していた。
経口投与した化合物Aモノマレイン酸塩のスコポラミン誘発記憶障害に対する有意な記憶改善効果はラットにおいて3.3及び10mg/kgの両方で観察された。この結果は、化合物Aモノマレイン酸塩が認識機能を高めることが期待されることを示唆している。
【0053】
[0053]
【表1】
【0054】
[0054]表1で、データはT2における新奇物体探索率(T2における合計物体探索で除算したT2において新奇な物体を探索するのに費やした時間)に対する平均±SEM値(N=15又は16)を表す。各々の研究で比較のために非スコポラミン処理対照群(生理食塩水/媒体)及びスコポラミン処理対照群(スコポラミン/媒体)を使用した。P<0.05:対生理食塩水/媒体(独立t検定)。P<0.05:対スコポラミン/媒体(一元配置ANOVAとそれに続くDunnett多重比較試験)。
【0055】
[0055]
【表2】
【0056】
[0056]試験結果に従って、約200%のCSF cGMPの上昇は認識作用を改善したと考えられる。したがって、ヒト対象において約200%のCSF cGMP上昇はヒト対象で治療効果を達成すると期待された。
【0057】
[0057]臨床試験
化合物Aモノマレイン酸塩を含有するカプセルの調製
387gの化合物Aモノマレイン酸塩、378gの無水ラクトース(DFE Pharma Corp.)、150gの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(Type LH21、Shinetsu Chemical Co., Ltd.)、50.0gのヒドロキシプロピルセルロース(Type L、Nippon Soda Co., Ltd.)及び30.0gのクロスポビドン(XL-10、DSP Gokyo Food & Chemical Co., Ltd.)を高剪断ミキサーで混合した。5.0gのステアリン酸マグネシウムをミキサーに加えて混合した。得られた物理的混合物を、ローラーコンパクターを使用することによってリボンに圧縮した。1mmの開口を有する篩を備えたスクリーンミルを使用してリボンを大きさに従って分けた。得られた顆粒の16.666mg又は166.66mgを、カプセル封入機を使用してカプセル殻に充填した。
【0058】
[0058]以下の実施例及び表で、化合物Aの用量は化合物Aの遊離形態の値として記載する。
【0059】
[0059]目的
主目的
1.健康な成人対象における化合物Aの単一の上昇する経口用量の安全性、認容性、及び薬物動態(PK)の評価
2.健康な年配の対象における化合物Aの単一の経口用量の安全性、認容性、及びPKの評価
3.健康な成人対象における、化合物Aの単一の経口用量の脳脊髄液(CSF)内環状グアノシン一リン酸(cGMP)に対する薬力学(PD)効果、及びPK/PD関係の評価
4.日本人の対象における、化合物Aの3つの投薬レベルの単一の経口用量の投与後の安全性、認容性、及びPKの評価
副目的
1.健康な成人対象における化合物Aの単一の経口用量のPKに対する高脂肪食の影響の評価
2.日本人対象と非日本人対象との化合物AのPKの比較
【0060】
[0060]方法
これは健康な対象における単一施設、単一用量、無作為化、二重盲検、プラシーボ対照研究であった。この研究は4つの部分、即ちパートA、B、C、及びDからなっていた。4つの研究部分の各々は2つの相、即ち前無作為化相及び無作為化相を有していた。この前無作為化相は30日以下続き、スクリーニング期及びベースライン期からなり、この間に各々の対象の研究適格性を決定し、ベースライン評価を行った。
【0061】
[0061]食効の評価に参加しなかった対象では(パートA、C、及びD)、無作為化相は処理期及び追跡期からなっていた。処理期の間、対象は無作為に化合物A又は適合するプラシーボの単一の経口用量を受けた。対象は2日目にベースライン評価のためクリニックに入院させ、5日目に退院させた。対象は研究評価のため6日目及び7日目に外来患者としてクリニックに戻った。10日目に追跡通院をした。
【0062】
[0062]食効の評価に参加した対象では(パートB)、無作為化相は処理期1、ベースライン期2、及び処理期2からなっていた。処理期1の間、対象は一晩の絶食後無作為に化合物A又は適合するプラシーボの単一の経口用量を受けた。対象を2日目(ベースライン期1)にベースライン評価のためクリニックに入院させ、5日目(処理期1)に退院させた。対象は6日目、7日目、及び10日目(処理期1)に研究評価のため外来患者としてクリニックに戻った。少なくとも13日(又は化合物Aの5半減期、いずれか長い方)の洗浄期後、対象をベースライン期2の間のベースライン評価のため再びクリニックに入院させた(2期の1日目)。処理期2の1日目の間、少なくとも10時間の一晩の絶食後、対象は研究薬物の投与30分前に高脂肪(食事の総カロリー含量のおよそ50%)及び高カロリー(およそ800~1000カロリー)の食事を摂取し始めた。食事の開始後30分で、その時点でどれだけの食事を摂取していたかどうかに関係なく、対象に研究薬物を240mLの水と共に投与した。水は、投薬前後の1時間を除いて要望通りに与えた。対象は処理期2の5日目に退院させ、6日目(処理期2)及び7日目(処理期2)に研究評価のため外来患者としてクリニックに戻らせた。追跡通院を10日目(処理期2)に行った。研究の終了は最後の対象に対する最後の研究通院の日であった。
【0063】
[0063]パートA
パートAでは、健康な成人対象(年齢18~50歳)の8つの一連のコホートがあった。対象には、無作為に化合物A又はプラシーボをそれぞれ6:2の比で与えた。化合物Aコホートの対象は10、25、50、100、200、400、800、又は1200mgの単一の上昇する用量で処理した。
スクリーニング期の後、対象を2日目にベースライン処置のためクリニックに戻した。対象は1日目の朝一晩の絶食後研究薬物で処理した。事前に規定された時点で血液及び尿PK試料を集めた。安全性評価も実施した。
パートAの用量増大はスポンサーへの公式伝達の後にのみ行った。次の用量へ増大するかどうか決定する前に、コホート全体の対象に対するデータが必要であった。次のより高い投薬レベルへの増大は、利用可能なデータが次の用量への増大を支持した場合にのみ行った。各々の完了したコホートのデータは各々のコホートに対する用量の前進を決定する際スポンサーによる再検討の間見えないままであった。パートAの対象はPD又は食効の評価に参加せず、1つの処理期を有しており、10日目に追跡通院をした。
【0064】
[0064]パートB
パートBでは、健康な成人対象(年齢18~50歳)の4つのコホートがあった。コホート1には8人の対象がおり、6人の対象が無作為に単一用量の化合物A(400mg)を受け、2人の対象が無作為にプラシーボを受けた。コホート2及びコホート3には7人の対象がおり、各々6人の対象が無作為に単一用量化合物A(それぞれ100及び200mg)を受け、1人の対象が無作為にプラシーボを受けた。コホート2で選択された100mgの用量はコホート1のデータの予備的な分析に基づいており、この用量は定常状態に投与されたときベースラインからのおよそ200%の持続したCSF cGMPの増大を達成することがPK/PDモデリングから予測され、これにより将来の研究における更なる評価のための可能な治療用量を提供した。コホート4には7人の対象がおり、6人の対象が無作為に単一用量の化合物A(50mg[n=3]又は75mg[n=3])を受け、1人の対象が無作為にプラシーボを受けた。コホート3及び4に対する用量はコホート1及び2のデータのPK/PDモデリングに基づいて選択した。
スクリーニング期の後、対象を2日目にベースライン処置のためクリニックに戻した。対象は1日目に挿入された腰部カテーテルを有していた。腰部カテーテルを介した連続CSFサンプリングは1日目、一晩の絶食後に開始した。1日目投薬前3時間の期間にわたってCSF試料を集めた。次いで対象に研究薬物を投与し、投与後30時間連続CSFサンプリングを行ってCSF cGMP及びCSF化合物A濃度を決定した。血漿化合物AのPKのための血液試料をCSFサンプリングと同一の時点で集めた。安全性評価も行った。
コホート2で100mgの化合物A又はプラシーボを絶食条件下(第1処理期)で受けた対象はまた化合物AのPKに対する食効の評価(第2処理期)にも参加した。少なくとも13日(又は化合物Aの5半減期、いずれか長い方)の洗浄期の後、対象をベースライン評価のためにクリニックに入院させ(第2ベースライン期)、次いで高脂肪及び高カロリー食を30分にわたって摂取した後単一用量の同一の処理(100mgの化合物A又はプラシーボ)を受けた。事前に規定された時点で血液PK試料を集めた。安全性評価も行った。CSFは第2処理期中PD評価のためには集めなかった。処理期2の10日目に追跡通院を行った。
【0065】
[0065]パートC
パートCでは、8人の健康な年配の対象(年齢65~85歳)の1つのコホートが無作為にそれぞれ6:2の比で単一用量の100mgの化合物A又はプラシーボを受けた。スクリーニング期の後、対象を2日目にベースライン処置のためにクリニックに戻した。1日目の朝一晩の絶食後対象に研究薬物を投与した。血液及び尿PK試料を事前に規定された時点で集めた。安全性評価も実施した。パートCの対象はPD又は食効の評価に参加しておらず、1つの処理期を有しており、その追跡通院を10日目に行った。
【0066】
[0066]パートD
パートDでは、健康な日本人成人の対象の3つのコホートを同時に無作為化した。7人の対象が各々のコホートにおり、対象は無作為にそれぞれ6:1の比で単一用量の化合物A(25、100、又は400mg)又はプラシーボを受けた。
各々のコホートの対象を、年齢により(プラス又はマイナス10年)パートAの対応する用量コホートの対象に適合させた。各々の日本人コホートの性の分布も、パートAの対応する用量コホートにほぼ適合させた。スクリーニング期の後、対象を2日目にベースライン処置のためクリニックに戻した。対象に、1日目の朝一晩の絶食後研究薬物を投与した。血液PK試料を事前に規定された時点で集めた。安全性評価も行った。パートDの対象はPD又は食効の評価に参加せず、1つの処理期を有しており、その追跡通院は10日目に行った。
【0067】
[0067]対象の数(計画及び登録)
パートA:64人までの健康な成人対象を計画し、64人の対象を登録した
パートB:29人までの健康な成人対象を計画し、29人の対象を登録した
パートC:8人の健康な年配の対象を計画し、登録した
パートD:21人の健康な日本人の成人対象を計画し、登録した
【0068】
[0068]参入のための診断及び主要な基準
パートA及びBのみ
1.非喫煙、男性又は女性対象、インフォームドコンセントの時点で年齢18歳以上50歳以下
パートCのみ
1.非喫煙、男性又は女性対象、インフォームドコンセントの時点で年齢65歳以上85歳以下
パートA、B、C、及びD
1.スクリーニング時肥満度指数(BMI)18以上30kg/m以下
パートDのみ
1.非喫煙、男性又は女性対象、インフォームドコンセントの時点で年齢20歳以上50歳以下
2.日本生まれ、日本人の両親、祖父母は日本人の祖先
3.5年未満日本の外に住んでいる
4.食事を含めて生活様式は日本を離れて以来大きく変わっていない
【0069】
[0069]除外のための診断及び主要な基準
1.8週以内の医学的処置を要する臨床的に有意な病気又は4週以内の投薬の医学的処置を要する臨床的に有意な感染症
2.投薬前4週以内の、研究の結果に影響を及ぼしかねない病気の兆候;例えば、精神障害及び胃腸管、肝臓、腎臓、呼吸器系、内分泌系、血液系、神経系、若しくは心臓血管系の疾患、又は代謝に先天性異常を有する対象
3.スクリーニング又はベースライン時の、化合物AのPKプロフィールに影響を及ぼしかねないあらゆる開腹手術の病歴(例えば、肝切除、腎摘出術、消化管切除)
4.スクリーニング又はベースライン時ECGで示される延長されたQT/QTc間隔(450msを超えるQTc);心室性不整脈に対する危険因子の病歴(例えば、心臓麻痺、低カリウム血症、又はQT延長症候群の家系)又はQT/QTc間隔を延長する併用薬の使用
5.左脚ブロック
6.心筋梗塞又はアクティブ虚血性心疾患の病歴
7.臨床的に有意な不整脈又は制御されない不整脈の病歴
8.スクリーニング又はベースライン時の、130mmHgを超える持続性収縮期血圧(BP)又は85mmHgを超える拡張期BP(パートA、B、及びD)
9.スクリーニング又はベースライン時の、140mmHgを超える持続性収縮期BP又は90mmHgを超える拡張期BP(パートC)
10.スクリーニング又はベースライン時の、50未満又は100回/分を超える心拍数
11.スクリーニング又はベースライン時の、臨床的に有意な薬剤アレルギーの既知の病歴
12.スクリーニング又はベースライン時の、食物アレルギーの既知の病歴又は有意な季節性若しくは通年性アレルギーの経験
13.投薬前72時間以内の、カフェイン入り飲料又は食料の摂取
14.投薬前1週以内の、様々な薬物代謝酵素及び輸送体に影響を及ぼし得る栄養補助食品、ジュース、及び薬用植物又はその他の食料若しくは飲料(例えば、アルコール、グレープフルーツ、グレープフルーツジュース、グレープフルーツを含有する飲料、リンゴ又はオレンジジュース、マスタードグリーン類の野菜[例えば、緑葉カンラン、ブロッコリ、クレソン、コラードグリーン、コールラビ、芽キャベツ、又はカラシ]、及び炭火焼きの肉)の摂取
15.投薬前4週以内の、セイヨウオトギリソウを含有する薬用植物の摂取
16.投薬前4週以内の処方薬の使用
17.投薬前2週以内の店頭販売(OTC)医薬の摂取
18.検査前2週以内の激しい運動への関与(例えば、マラソンランナー、重量挙げ選手)
19.内在の腰部カテーテルを介する連続のCSFサンプリングに対するあらゆる禁忌(パートBのみ)
【0070】
[0070]試験処理、用量、投与方法、及びバッチ数(複数可)
試験処理:化合物Aは、5mg又は50mgの化合物Aを含有するサイズNo.2のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルに入れて10、25、50、100、200、400、800、及び1200mgで経口投与した。
【0071】
[0071]参照治療、用量、投与方法、及びバッチ数(複数可)
比較薬剤:適合するプラシーボカプセル(製造ロット:P49001ZZ、ラベルロット:P4A05)は、マンニトールを含有するサイズNo.2のHPMCカプセルに入れて経口投与した。
【0072】
[0072]処理時間
パートA、C、及びD:1日目に単一用量
パートB(全てのコホート):1日目に単一用量
パートB(100mg コホート):処理期1の1日目及び処理期2の1日目に単一用量
【0073】
[0073]薬物動態学
パートA、C、及びDの薬物動態評価 - 血漿
血漿化合物Aの濃度の決定のための血液試料を投薬前から投薬後216時間まで集めた。1日目、血液PK試料を投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間に集めた。その後、試料を2日目(投薬後24及び36時間)、3日目(投薬後48時間)、4日目(投薬後72時間)、5日目(投薬後96時間)、6日目(投薬後120時間)、7日目(投薬後144時間)、及び10日目(投薬後216時間)に集めた。
【0074】
[0074]パートBの薬物動態評価 - 血漿
血漿化合物Aの濃度の決定のための血液試料を投薬前から投薬後216時間まで集めた。全てのコホートで、血液PK試料を1日目投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、10、12、及び18時間に集めた。その後、試料を2日目(投薬後24、30、及び36時間)、3日目(投薬後48時間)、4日目(投薬後72時間)、5日目(投薬後96時間)、6日目(投薬後120時間)、7日目(投薬後144時間)、及び10日目(投薬後216時間)に集めた。パートBのみのコホート2の対象では、処理期1の1日目から10日目までに加えて、血液PK試料を、処理期2の次に挙げる日:1日目投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、10、12、及び18時間にも集めた。その後、試料を2日目(投薬後24、30、及び36時間)、3日目(投薬後48時間)、4日目(投薬後72時間)、5日目(投薬後96時間)、6日目(投薬後120時間)、7日目(投薬後144時間)、及び10日目(投薬後216時間)に集めた。
【0075】
[0075]パートBの薬物動態評価 - 脳脊髄液
CSF中の化合物Aの濃度を、投薬前並びに投薬後1、2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18、24、及び30時間に集めた一連のCSF試料で分析した。
【0076】
[0076]パートA及びCの薬物動態評価 - 尿
尿の化合物A濃度を投薬前及び投薬後96時間まで分析した。
【0077】
[0077]パートBの薬力学評価 - 脳脊髄液
一連のCSF試料を、環状グアニジン一リン酸(cGMP)の濃度の分析のために、-3、-2、-1時間、投薬前(0時間)、並びに投薬後1、2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18、24、及び30時間に腰部カテーテルから集めた。
【0078】
[0078]安全性評価
安全性評価は、全ての有害事象(AE)及び重篤な有害事象(SAE)の追跡及び記録;血液学、血液化学、及び尿値の実験室評価;バイタルサイン(血圧[BP]及び心拍数[HR]の起立性変化を含む)及び心電図(ECG)の定期的測定;並びに身体検査の実績からなっていた。
加えて、Holter ECG記録を使用する高精度QTcF分析をパートA、C、及びDで-1日目及び1日目の間行って、QTcF間隔の可能な変化をより正確に評価した。中央のECG実験室を使用してHolter装置からECGの記録を引き出した。
【0079】
[0079]生物学的分析方法
化合物Aの血漿、尿及びCSF濃度は、有効な液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(LCMS/MS)アッセイ法を使用して測定した。cGMPのCSF濃度は有効なLC-MS/MSアッセイ法を使用して測定した。
【0080】
[0080]統計的方法
分析セット
安全性分析セットは、少なくとも1用量の研究薬物を受け、少なくとも1の投薬後の安全性評価をした対象の群であった。
PK分析セットは、少なくとも1のPKパラメーターを導き出すのに充分なPKデータを有する対象の群であった。
PD分析セットは、少なくとも1のPDパラメーターを導き出すのに充分なPDデータを有する対象の群であった。
登録した対象の総数を表にした。加えて、対象の数及び百分率を安全性分析セット、PK分析セット及びPD分析セットに対する処理群によって表にした。
【0081】
[0081]薬物動態分析 - 血漿
血漿化合物A濃度を使用したノンコンパートメント分析により以下のPKパラメーターを導き出した:
Cmax:最大観測濃度
tmax:最も高い薬物濃度が起こる時間
AUC(0-24h):ゼロ時から投薬後24時間までの濃度-時間曲線下面積
AUC(0-30h):ゼロ時から投薬後30時間までの濃度-時間曲線下面積(パートBのみ)
AUC(0-72h):ゼロ時から投薬後72時間までの濃度-時間曲線下面積
AUC(0-t):ゼロ時から最後の定量可能な濃度の時点までの濃度-時間曲線下面積
AUC(0-inf):ゼロ時から無限時点まで外挿された濃度-時間曲線下面積
t1/2:終末消失相半減期
CL/F:血管外(例えば、経口)投与後の見掛けの総クリアランス
Vz/F:終末相の見掛けの分布容量
【0082】
[0082]薬物動態分析 - CSF(パートBのみ)
CSF化合物A濃度を使用したノンコンパートメント分析により以下のPKパラメーターを導き出した:
Cmax:最大薬物濃度
tmax:薬物投与後最大(ピーク)濃度に到達する時間
AUC(0-24h):ゼロ時から投薬後24時間までの濃度-時間曲線下面積
AUC(0-30h):ゼロ時から投薬後30時間までの濃度-時間曲線下面積
AUC(0-t):ゼロ時から最後の定量可能な濃度の時点までの濃度-時間曲線下面積
t1/2:最後の投薬後の終末消失半減期
CSF:血漿AUC比:CSF対血漿のAUC(0-t)(又はCSF収集の最後の時点であるAUC(0-30h))の比
CSF:血漿Cmax比:CSF対血漿のCmaxの比(百分率として記載)
薬物動態分析 - 尿(パートA及びC)
以下のPKパラメーターを化合物Aに対して計算した:
Ae(0-96h):投薬後96時間までに尿中に排出された薬物の累積量
Fe(0-96h):投薬後96時間までに尿中に排出された投薬の部分
CLR:腎クリアランス
【0083】
[0083]薬力学分析(パートBのみ)
安全性分析セットをPD濃度リストに使用した。PD分析セットをPD濃度の要約並びにPDパラメーターの導出及び要約に使用した。
主要なPD測定はCSF cGMPであった。以下のPDパラメーターがCSF cGMPに対して報告された:
Amax:投薬後30時間以内の単一時点でのベースラインと比較したCSF cGMP濃度の最大変化(%)
TAmax:CSF cGMPに対してAmaxが起こる時間
AUAC(-3-0h):-3時間から0時間までのCSF cGMP濃度×時間曲線下面積
AUAC(0-24h):0時間から24時間までのCSF cGMP濃度×時間曲線下面積
AUAC(0-30h):0時間から30時間までのCSF cGMP濃度×時間曲線下面積
ΔAUAC(0-24h):CSF cGMPについて、投薬前3時間にわたって平均したベースラインAUACに対する投薬後24時間にわたって平均したAUACの変化(%):
(AUAC(0-24h)/24 - AUAC(-3-0h)/3)/(AUAC(-3-0h)/3)
ΔAUAC(0-30h):CSF cGMPについて、投薬前3時間にわたって平均したベースラインAUACに対する投薬後30時間にわたって平均したAUACの変化(%):
(AUAC(0-30h)/30 - AUAC(-3-0h)/3)/(AUAC(-3-0h)/3)
【0084】
[0084]集団薬物動態学/薬力学
研究の全てのコホートからプールした血漿化合物A濃度を、非線形混合効果モデルを使用した集団PK分析にかけた。ベースライン人口統計/特性(例えば、体重、年齢、性、民族性、等)のような共変量の化合物AのPKに対する効果を研究した。次いで、PKパラメーターの個々の事後評価を使用して化合物Aの個々のPKプロフィールを生成し、これをCSF cGMP濃度のベースラインからの変化率の後のPK/PD解析に使用した。
【0085】
[0085]安全性分析
全ての安全性分析は安全性分析セットに対して行った。
評価した安全性データはAE、臨床検査結果、バイタルサイン、及びECGを含んでいた。治療中に発生した有害事象(TEAE)は各々のコホート及び投薬群に対するAEの発生を呈することによって要約した。いずれかの処理期における全てのコホートでの実験室、バイタルサイン、及びECGデータに対して、ベースラインはその処理期において研究薬物の投薬直前に記録された値であった。
【0086】
[0086]中間解析
この研究中非盲検中間解析は行わなかったし、パートA、B、又はCの完了後、安全性、PK、及びPDデータの正式な中間解析は行わなかった。しかし、各々のコホートの完了と共に盲検対象IDを使用してPK及びPD解析を行った。
加えて、パートBにおいてコホート1及び2からのPK及びPDデータの盲検解析を行って、PK/PD関係を評価すると共にコホート3及び4で投与するべき最適用量を決定した。パートBにおいてコホート3からの盲検データの解析も行って、PK/PD関係を評価してコホート4における用量を決定した。
【0087】
[0087]試料のサイズの理論的根拠
パートA及びCにおいて、コホート当たり8人の対象(6人の対象は無作為に化合物A、2人の対象はプラシーボ)が、健康な対象において初期の安全性及びPKを評価し、用量増大決定を支持するのに適切であると考えられた。PF 04447943(40mg)のPfizer研究において、CSF cGMPの上昇が健康な対象で立証され、この研究は類似の試料サイズ(5人の対象に40mgのPF 04447943、2人にプラシーボ)を使用した。このように、パートBにおいて、コホート当たり7又は8人の対象(全てのパートBコホートで6人の対象が無作為に化合物A)が化合物AのCSF cGMPに対するPD効果を評価するのに適切であると考えられた。
パートDにおいて、3つのコホートの各々で7人の対象(6人の対象が無作為に化合物A、1人の対象がプラシーボ)が健康な日本人の対象に安全性及びPKデータをもたらすのに適切であると考えられた。
【0088】
[0088]結果
対象配置/分析セット
全体で、352人の対象を研究への参加に関してスクリーニングした。これら352人の対象のうち、230人がスクリーニングで漏れ、122人を無作為に研究に参加させた。スクリーニングに漏れた230人のうち、151人(42.9%)の対象が参入又は除外基準を満たさず、1人(0.3%)の対象が有害事象を経験し(処理前)、19人(5.4%)の対象が同意を取り消し、59人(16.8%)の対象はその他の理由で排除された。
パートAでは、64人(100%)の健康な成人対象を無作為に化合物A又はプラシーボ処理に割り当て;48人の対象が化合物Aを受け、16人の対象がプラシーボを受けた。化合物A群の47人(97.9%)の対象及びプラシーボ群の16人の対象が研究を完了した。化合物Aの800mg群の1人の対象は「他の」カテゴリーのため研究から外した;この対象は規則を遵守せず、追跡通院中アルコールの匂いがした。
パートBでは、29人(100%)の健康な成人対象を無作為に化合物A又はプラシーボ処理に割り当て;24人の対象が化合物Aを受け、5人の対象がプラシーボを受けた。29人全ての対象が研究を完了した。100mgコホートの6人の対象及びプラシーボコホートの1人の対象が絶食及び摂食状態で2つの単一用量の研究薬物を受けた。
パートCでは、8人(100%)の健康な年配の対象を無作為に化合物A又はプラシーボ処理に割り当て;6人の対象が化合物A 100mgを受け、2人の対象がプラシーボを受けた。8人全ての対象が研究を完了した。健康な年配の対象群の2人のプラシーボ対象が16人の健康なより若い成人対象と共に要約表に含まれており、パートA及びCでプラシーボ対象を合計18人としている。
パートDでは、合計21人(100%)の健康な日本人の成人対象を無作為に化合物A又はプラシーボ処理に割り当て;18人の対象が化合物Aを受け、3人の対象がプラシーボを受けた。化合物A群の18人全ての対象が研究を完了した。プラシーボ群の1人(33.3%)の対象が「他の」カテゴリーのため研究から外された;この対象は10日目に追跡通院のために戻らなかった。
【0089】
[0089]薬物動態学、薬力学、薬理ゲノミクス
血漿化合物A薬物動態学
パートA及びBにおいて絶食状態で同一投薬レベル(即ち、化合物A 50、100、200、又は400mg)において処理した健康な成人対象のデータを合わせて血漿化合物Aの要約統計及びPK解析のためにプールした。
【0090】
[0090]健康な成人対象:
単一の経口用量(10、25、50、75、100、200、400、800、又は1200mg)の研究薬物を投与した健康な成人対象に対する極めて重要な血漿化合物AのPK結果(パートA及びBを合わせて)を表3に要約する。10~1200mgの単一用量の後、化合物Aは迅速に吸収され、殆どの対象は投薬後0.5時間以内に定量可能な血漿化合物A濃度を有していた。全ての用量にわたって、メジアンtmaxは投薬後2~4時間の範囲であり、化合物Aはtmax後吸収プロフィールに二相配置を示した。初期相中、血漿化合物A濃度は投薬後およそ12時間まで減少し、その後は投薬後24時間比較的安定なままであった。全ての投薬レベルで、対象は投薬後最初の24時間の間多数の二次ピークを示した。投薬後24時間及びその後、化合物Aは終末消失相の間一次速度論を示した。平均のt1/2値は全ての用量(10~1200mg)で26.8~33.6時間の範囲であり、増大する用量と共にt1/2値が増大する傾向はなかった。全体的に幾何平均(GM)Cmax値は10~1200mgの増大する用量とほぼ比例して増大したが、800mgのGM Cmaxは一般的な傾向から予期されたよりいくらか高く、これはコホート間の変動性に起因する可能性がある。幾何平均AUC(0-inf)値は10~1200mgの各々の増大する用量とほぼ比例して増大した。幾何平均CL/F値は増大する用量と共に増大した。
【0091】
[0091]
【表3】
【0092】
[0092]絶食及び摂食状態で単一の100mg経口用量の研究薬物を投与した健康な成人対象に対する極めて重要な血漿化合物AのPK結果(パートB)を表4に要約して示す。絶食及び摂食状態で投与した化合物A 100mgの血漿化合物Aの濃度プロフィールはいずれも迅速な吸収を示し、ピークの血漿化合物A濃度は同様な時間に起こった(メジアンtmax:絶食=2.99時間;摂食=3.49時間)。その後、化合物Aは絶食コホートについて上に記載したように絶食及び摂食状態で同様な二相の吸収プロフィールを示した。絶食状態と比較して摂食状態のより高い血漿化合物A濃度はtmaxから投薬後12時間までの期間中最も明白であった。
【0093】
[0093]
【表4】
【0094】
[0094]
絶食及び摂食状態で化合物A 100mgを投与した健康な成人対象における対数変換した血漿化合物AのPKパラメーターの解析を表5に要約して示す。処理の30分以上前に標準の高脂肪及び高カロリー食を摂取した後化合物A 100mgの単一用量を投与すると幾何LS平均Cmaxが44.4%増大し(90%CI:1.210、1.723)、幾何LS平均AUC(0-inf)が19.2%増大した(90%CI:1.003、1.418)。
【0095】
[0095]
【表5】
【0096】
[0096]固定効果としての処理及びランダム効果としての対象による混合効果モデルを使用して対数変換した薬物動態パラメーターを適合させた。幾何LS平均及び幾何LS平均比は逆変換した最小二乗平均及び処理平均差であった。
【0097】
[0097]健康な年配の対象:
単一の100mg経口用量の研究薬物を投与した健康な年配の対象に対する極めて重要な血漿化合物AのPK結果(パートC)を表6に要約して示す。参考のため同一の用量を投与した健康なより若い成人対象に対する結果(パートA及びB合わせて)も示す。単一用量の化合物A 100mgの後、年配の対象は健康なより若い成人の2.99時間と同様に投薬後2.60時間にメジアンtmaxを有していた。一般に、曝露及び半減期はより若い成人と比較して年配の対象でより高かった。化合物Aを100mg投与した健康な年配の対象及び健康なより若い成人対象における対数変換した血漿化合物AのPKパラメーターの解析を表7に要約して示す。
【0098】
[0098]
【表6】
【0099】
[0099]
【表7】
【0100】
[0100]参照はパートA及びBにおける健康な成人対象である。年齢カテゴリーをファクターとした一般線形モデルを使用して対数変換した薬物動態パラメーターを適合させた。幾何LS平均及び幾何LS平均比は逆変換した最小二乗平均及び年齢カテゴリー平均差であった。
【0101】
[0101]健康な日本人の成人対象:
単一の経口用量(25、100、又は400mg)の研究薬物を投与した健康な日本人の成人対象(パートD)に対する極めて重要な血漿化合物AのPKパラメーターを表8に要約して示す;参考のため同一の用量を投与した非日本人の対象(パートA及びB合わせて、しかしアジア人と自己認識している対象は除く)に対する結果も示す。化合物Aを25、100、及び400mg投与した健康な日本人の対象における血漿化合物Aの曝露は健康な非日本人の成人対象と同様であった。健康な日本人の対象において、GM Cmax及びAUC(0-inf)値は用量の増大とほぼ比例して増大した。
【0102】
[0102]
【表8】
【0103】
[0103]単一の経口用量(25、100、又は400mg)の研究薬物を投与した健康な日本人の成人対象(パートD)及び非日本人の対象(パートA及びB合わせて、しかしアジア人と自己認識している対象は除く)に対する血漿化合物AのPK結果の比較を表9に要約して示す。重量を共変量として、単一用量の化合物Aを25、100、及び400mg投与した健康な日本人の対象は、それぞれ、同一の用量を投与した非日本人の参照対象より35.6%、30.0%、及び40.4%高い幾何LS平均Cmax値を有していた。効果は用量依存性であるようではなかった。同様な結果は重量を共変量としないで行ったCmaxの解析で観察された。
【0104】
[0104]幾何LS平均AUC(0-inf)値は25及び100mgの同一の用量を、重量を共変量として、及びしないで投与した健康な日本人の対象と非日本人の参照対象とで同等であった。しかし、重量を共変量とした解析に基づいて、400mgの化合物Aを投与した日本人の対象で、同一の用量を投与した非日本人の参照対象より27.9%高い幾何LS平均AUC(0-inf)が観察された。同様な結果が、重量を共変量としないで行った400mgコホートにおけるAUC(0-inf)の解析で観察された。
【0105】
[0105]日本人及び非日本人の参照対象におけるCmax及びAUC(0-inf)の散乱図の再検討により、日本人の対象の大多数におけるCmax及びAUC(0-inf)の分布が非日本人の参照対象と同様であることが示された。したがって、日本人の対象で観察されたより高いCmax(25、100、及び400mgコホート)及びAUC(0-inf)(400mgコホート)値は殆どの対象に対して臨床的に意義がないと考えられる。
【0106】
[0106]
【表9】
【0107】
[0107]日本人であるかないかをファクターとすると共にベースライン重量を共変量とした一般線形モデルを使用して、対数変換した薬物動態パラメーターを適合させた。幾何LS平均及び幾何LS平均比は逆変換した最小二乗平均及び平均差であった。パートDで投与したのと同一の用量で処理したパートA及びBの非日本人の対象が参照群であり、日本人の対象が試験群である。パートA及びBでアジア人と自己認識している非日本人の対象は参照群に含めなかった。
【0108】
[0108]CSF化合物A薬物動態
単一の経口用量(50、75、100、200、又は400mg)の研究薬物を投与した健康な成人対象(パートB)に対するCSF化合物AのPK結果を表10に要約して示す。50~400mgの用量で、メジアンCSF tmax値は投薬後4.37~6.87時間であり(メジアンCSF tmaxが11.90時間であった50mg用量を除く)、投薬後2~4時間のメジアン血漿tmax値より遅く起こった(表3)。その後、CSF化合物A濃度は投薬後18時間まで比較的安定なままであり、その後低下した。
【0109】
[0109]対象は投薬後30時間まで連続してCSFサンプリングを受けた;したがって、CSF内の化合物Aの終末消失相を特徴付けることは可能でなく、CSF化合物Aの半減期は導き出せなかった。同様に、AUC(0-inf)に対する値を決定することはできなく、AUC(0-t)に対する値は投薬後30時間に限定された。CSF化合物A Cmax及びAUC(0-30h)値はいずれも増大する用量とほぼ比例して増大した。これは、血漿化合物AのCmax及びAUC(0-inf)で観察されたほぼ比例した増大とつじつまが合っていた。50~400mgの様々な化合物Aの用量で、CSF Cmax対血漿CmaxのGM比は2%~2.77%の範囲の用量で同様であった。同様に、CSFのAUC(0-t)対血漿AUC(0-t)のGM比は2.41%~2.80%の範囲の用量で同様であった。
【0110】
[0110]
【表10】
【0111】
[0111]尿化合物Aの薬物動態
単一の経口用量(10、25、50、75、100、200、400、800、又は1200mg)の研究薬物を投与した健康な成人対象(パートA)及び単一の経口100mg用量の研究薬物を投与した健康な年配の対象に対する尿化合物AのPK結果を表11に要約して示す。10~1200mgの化合物Aの用量範囲にわたって、1%未満の不変の化合物Aが尿中に排泄され、腎排泄がヒトにおいて化合物Aの重要な排泄経路ではないことを示唆している。GM CLR値は単一の経口用量の化合物Aを100mg投与した健康な年配及びより若い成人対象で同様であった。
【0112】
[0112]
【表11】
【0113】
[0113]薬力学
単一の経口用量のプラシーボ又は化合物A(50、75、100、200、又は400mg)を投与した健康な成人対象に対する極めて重要なCSF cGMPの結果(パートB)を表12に要約して示す。50~400mgの化合物Aの用量で、ベースラインからの平均の最大%CSF cGMP(Amax)の増大は293%~461%の範囲であり、プラシーボで処理した対象(76%)より高かった。しかし、これらの結果の散乱図の目視検査に基づいて、増大する化合物A用量と共に増大するAmax値の用量依存性の傾向はなく、AmaxとCmaxとの間に見掛けの相関関係はなかった。Amaxは50~400mgの化合物A用量範囲内で飽和に近付くようである。
【0114】
[0114]Amax(tAmax)を達成するメジアン時間は試験した化合物A用量での5.37~12.9時間の範囲であり、用量関連傾向はなかった。投薬後30時間までのベースラインからの平均のCSF cGMP増大を表す平均のΔAUAC(0-30h)は全ての化合物A処理群でプラシーボ群より高かった。化合物A 400mgを投与した対象に対するΔAUAC(0-30h)はより低い用量を投与した対象より高かった。この観察は、化合物A 400mgのPD効果が減少し始める前投薬後24時間まで持続したが、50~200mgのより低い用量ではCSF cGMPが投薬後8~24時間のいくらかの時間減少するようであったというCSF cGMPの濃度-時間プロフィールの視覚印象と一致している。
【0115】
[0115]
【表12】
【0116】
[0116]安全性
パートA及びC:
パートA(健康な成人対象)で、10~1200mgの単一の経口用量の化合物Aは充分容認された。パートC(健康な年配の対象)で、100mgの単一用量の化合物Aも充分容認された。パートA及びCでは死亡もSAEもなく、TEAEのために研究から外された対象はいなかった。パートA及びCの全ての用量の化合物Aで、プラシーボで処理した3人(16.7%)の対象と比較して23人(42.6%)の対象が少なくとも1つのTEAEを経験した。パートC(100mgの化合物Aで処理した健康な年配の対象)では、1人(16.7%)の対象が少なくとも1つのTEAEを経験し、これはプラシーボで処理したパートA及びCの対象における発生と同様であった。パートA及びCにおいて化合物Aで処理した対象で起こった(1人より多くの対象で報告された)最も一般的なTEAEは頭痛(11.6%)、体位性起立性頻脈(5.6%)、目眩(5.6%)、不眠症(5.6%)、起立性心拍反応の増大(3.7%)、及び錯間隔(3.7%)であった。頭痛はプラシーボでの対象より高い発生率を有するようであった。化合物Aで処理した対象で、3人(5.6%)の対象が体位性起立性頻脈症候群のTEAEを、プラシーボでの対象(1人[5.6%]の対象が罹った)と同様な発生率で有していた。これらの対象は仰向けから立位で30回/分を超える心拍数の増大があり、立位での心拍数は100回/分を超えていた。このTEAEは健康な成人対象において25及び50mgの化合物Aで起こったが、他の用量では起こらず、用量関連傾向はなかった。50mgの化合物Aで処理した対象では、2人(3.7%)の対象が増大した起立性の心拍反応のTEAEを有していた。増大した起立性の心拍反応は50mgを超える用量の化合物Aの対象又は100mgの化合物Aを投与した健康な年配の対象では起こらなかった。平均の臨床検査室値、バイタルサイン、又はECGの結果において経時的に臨床的意義の変化はなかった。
【0117】
[0117]パートB
パートBで、50~400mgの単一の経口用量の化合物Aは、最初の処理期中絶食状態において内在の腰部カテーテルを介して連続したCSFサンプリングを受けた健康な成人対象、及び第2の処理期中摂食状態における100mgのコホート(連続したCSFサンプリングなし)で充分容認された。死亡はなく、TEAEのために研究から外された対象はなかった。1人のプラシーボで処理した対象が研究者により研究薬物に関連しないと評価された硬膜穿刺後頭痛のSAEを体験した。両方の処理期及び全ての化合物A用量で20人(83.3%)の対象が少なくとも1つのTEAEを体験したが、これはプラシーボで処理した対象における発生率(4人[80%]の対象)と同様であった。100mgのコホートで、絶食状態(4人[66.7%]の対象)及び摂食状態(3人[50%]の対象)におけるあらゆるTEAEの発生率は同等であった。化合物Aで処理した対象で報告された最も一般的なTEAE(1人より多くの対象で報告された)は腰椎穿刺後症候群(37.5%)、頭痛(29.2%)、嘔吐(20.8%)、筋骨格硬直(20.8%)、背痛(20.8%)、目眩(16.7%)、吐き気(12.5%)、四肢痛(8.3%)、処置嘔吐(8.3%)、及び処置吐き気(8.3%)であった。これらのTEAEは連続したCSFサンプリング処置と関係しているようであり、化合物Aで処理した対象及びプラシーボで処理した対象で同様な発生率であった。化合物Aで処理した対象における他のTEAEの発生率はプラシーボで処理した対象における発生率と同様であるか、又はそれより低かった。様々なTEAEにおいて増大する化合物A用量と共に増大する発生率を示唆する用量関連傾向はなかった。100mgの化合物Aで処理した対象で研究者によりCSFサンプリング処置と関連すると評価されなかったTEAEの発生率は低く、絶食及び摂食処理条件間で同様であった。平均の臨床検査室値、バイタルサイン、又はECG結果における臨床的意義の経時的変化はなかった。
【0118】
[0118]パートD
パートD(健康な日本人の成人対象)で、25~400mgの単一の経口用量の化合物Aは充分容認された。全ての用量の化合物Aで、7人(38.9%)の対象が少なくとも1つのTEAEを体験したが、プラシーボで処理した対象ではTEAEは報告されなかった。化合物Aで処理した対象で起こった最も一般的なTEAE(1人より多くの対象で報告された)は頭痛(3人[16.7%]の対象)であった。化合物Aで処理した対象における様々なTEAEの発生率は低く(一般に1人の対象だけで報告された)、一般にプラシーボで処理した対象と同様であった。様々なTEAEにおいて増大する化合物Aの用量と共に増大する発生率を示唆する用量関連傾向はなかった。同一の用量の化合物Aで処理した日本人の対象(パートD)及び非日本人の対象(パートA)における様々なTEAEの発生率は同様であった。平均の臨床検査室値、バイタルサイン、又はECG結果に臨床的意義の経時的変化はなかった。
【0119】
[0119]結論
薬物動態学
健康な成人対象
1)10~1200mgの単一用量の経口投与後、化合物Aは投薬後0.5時間以内に定量可能な血漿濃度を有する殆どの対象で迅速に吸収され、メジアンのtmaxは投薬後2~4時間で起こった。その後、化合物AはそのPKプロフィールに二相の配置を示した。初期の配置相中、血漿化合物Aの濃度は投薬後およそ12時間まで減少し、その後投薬後24時間まで比較的安定なままであった。投薬後24時間から、化合物Aは終末消失相中一次速度論を示し、平均の半減期値は26.8~33.6時間の範囲であり、これは用量間で同等であった。
2)全体にGM Cmax及びAUC(0-inf)値は10~1200mgの増大する化合物A用量とほぼ比例して増大した。臨床開発のための潜在的な標的用量範囲を表す50~400mgの用量範囲で、用量標準化したCmax及びAUC(0-inf)値は増大する用量と共に減少した。
3)高脂肪及び高カロリー食の後摂食状態で100mgの化合物Aを投与したとき、幾何LS平均Cmaxは44.4%増大し、幾何LS平均AUC(0-inf)は19.2%増大したが、メジアンのtmax及び平均の半減期は摂食及び絶食状態で同様であった。Cmax及びAUC(0-inf)における小さい増加は臨床的に有意とは考えられず、化合物Aは食料と共に投与しても食料なしで投与してもよい。
4)100~400mgの単一用量の化合物Aの後、化合物AのCSF中への分布は少し遅く、メジアンのCSF tmaxは投薬後4.37~6.87時間範囲であり、これはメジアンの血漿tmaxより遅れて起こった。その後、CSF濃度は投薬後18時間まで比較的安定なままであり、その後低下した。50~400mgの様々な用量で、化合物AのCmax又はAUC(0-t)の平均のCSF:血漿比(百分率として表す)は同様であり、2%~3%の範囲であった。in vitroタンパク質結合に基づき、血漿中の遊離の化合物A(非タンパク質結合)濃度は合計血漿化合物A濃度の2.7%~3.4%であろう。このように、CSF化合物A濃度は血漿中の遊離の化合物A濃度と同様であった。
5)化合物Aの用量の1%未満が変化しないで尿中に排出され、腎排泄がヒトにおいて化合物Aに対する重要な排泄経路でないことを示唆していた。
【0120】
[0120]健康な年配の対象
1)100mgの化合物Aを投与した健康な年配の対象で、幾何LS平均Cmaxはより若い健康な成人対象よりおよそ45.5%高く、幾何LS平均AUC(0-inf)はおよそ41.5%高かった。健康な年配の対象における平均の終末半減期はより若い健康な成人対象よりおよそ10時間長かった。
【0121】
[0121]健康な日本人の成人対象
1)健康な日本人の対象において幾何LS平均Cmaxは3つの化合物A用量で非日本人の対象より35.2%高く、この効果は用量依存性のようではなかった。健康な日本人の対象において幾何LS平均AUC(0-inf)は25及び100mgの用量で非日本人の対象と同等であったが、400mgでは非日本人の対象より27.9%高かった。平均の半減期は全ての投薬レベルにおいて日本人及び非日本人の対象で同様なようであったが、GM CL/Fは400mgの化合物Aを投与した日本人の対象では非日本人の対象より高いようだった。
2)健康な日本人の対象において、GM Cmax及びAUC(0-inf)値は非日本人の対象と全く同様に増大する化合物A用量とほぼ比例して増大した。
3)日本人の対象と非日本人の対象とでCmax又はAUC(0-inf)に臨床的に有意な差はないと考えられる。化合物Aを日本人の対象に投与するときに化合物Aの用量調節は必要ない。
【0122】
[0122]薬力学
1)50~400mgの単一用量の化合物Aの結果は投薬後最初の4時間の間CSF cGMPがベースラインから上昇した。その後CSF cGMP濃度は更に少なくとも4時間比較的安定なままであり、次いで減少し始めたが、それでも投薬後30時間においてベースラインを超えたままであった。
2)50~400mgの化合物Aの用量で、平均の最大%CSF cGMP(Amax)は293%~461%の範囲でベースラインから増大し、プラシーボで処理した対象(76%)より高かった。しかし、増大する化合物Aの用量と共にAmaxが増大する用量依存性の傾向はなく、Amaxは研究した用量範囲(50~400mgの化合物A)内で飽和に近付くようだった。CSF cGMPのPD効果は400mgの化合物Aを投与した対象において、より低い用量と比較してより長い期間持続するようだった。血漿化合物AのPKパラメーター(例えばCmax及びAUC(0-inf))とCSF cGMPのPDパラメーター(例えばAmax及びΔAUAC(0-30h))との間に相関関係はなかった。
【0123】
[0123]安全性
1)化合物Aは10~1200mgの用量範囲にわたり単一の経口用量の化合物Aを投与した健康な成人対象で充分容認され、120倍の範囲内の増大する化合物A用量では最大の容認用量に到達しなかった。
2)様々なTEAEの発生率に化合物Aの用量関連傾向はなかった。殆どのTEAEは軽度の重症度であった。
3)血液学、生化学及び尿検査値に10~1200mgの化合物Aに関連する臨床的に有意な変化はなかった。
4)血圧、心拍数、呼吸数及び体温に10~1200mgの化合物Aに関連する臨床的に有意な変化はなかった。
5)ECG形態学、心拍数、PR間隔及びQRS間隔に対する化合物Aの影響はなかった。ΔΔQTcFの曝露-反応関係は、800~1200mgの最も高い用量のCmaxでもΔΔQTcFの上側90%CIは健康な対象で10ms未満であった。
6)100mgの単一の経口用量の化合物Aは健康な年配の対象で充分容認された。健康な年配の対象における化合物Aの安全性プロフィールは健康なより若い成人対象と同様であった。
7)25、100、及び400mgの単一の経口用量の化合物Aは健康な日本人の成人対象で充分容認された。健康な日本人の成人対象における化合物Aの安全性プロフィールは曝露-QTcF関係を含めて非日本人の対象と同様であった。
【0124】
[0124]健康な対象における化合物Aの薬物動態及び薬力学を評価するための研究
アーム
実験:化合物A
健康な参加者(年齢≧50歳、≦85歳)の4つの一連のコホートを最大容認用量(MTD)までの多数の上昇する用量の化合物Aで処置した。コホート当たり合計6人の参加者に無作為に化合物Aを投与した。
化合物Aの提案した用量は次の通り:
パートA
コホート1:50mg(1×50mgのカプセル)
コホート2:100mg(2×50mgのカプセル)
コホート3:200mg(4×50mgのカプセル)
コホート4:400mg(8×50mgのカプセル)
コホート6:25mg(5×5mgのカプセル)
パートB
コホート5:400mg(8×50mgのカプセル)
パートC
コホート7:50mg(1×50mgのカプセル)
パートD
コホート8:5mg(1×5mgのカプセル)
コホート9:10mg(2×5mgのカプセル)
プラシーボ比較:プラシーボ
健康な参加者(年齢≧50歳、≦85歳)の4つの一連のコホートをMTDまでの多数の上昇する用量の化合物Aに適合させたプラシーボで処置した。コホート当たり合計2人の参加者を無作為に化合物Aに適合させたプラシーボに割り当てた。
【0125】
[0125]介入/処置
薬物:化合物A
参加者には、1~14日目に1日1回(QD)少なくとも10時間の一晩の絶食後化合物Aのカプセルを経口で投与した。化合物Aは240ミリリットル(mL)(8液量オンス)の水と共に経口で投与した。
薬物:化合物Aに適合させたプラシーボ
参加者には、1~14日目に1日1回(QD)少なくとも10時間の一晩の絶食後化合物Aに適合させたプラシーボのカプセルを経口で投与した。化合物Aに適合させたプラシーボは240mL(8液量オンス)の水と共に経口で投与した。
【0126】
[0126]結果測定
1)最大薬物濃度(Cmax)[タイムフレーム:1日目及び14日目]
血液試料は1日目投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間;14日目(投薬前並びに投薬後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間);そして15日目(14日目投薬後24時間)に収集した。
2)最大(ピーク)薬物濃度(tmax)に到達する平均の時間[タイムフレーム:1日目及び14日目]
血液試料は1日目投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、18及び24時間;14日目(投薬前並びに投薬後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間);そして15日目(14日目投薬後24時間)に収集した。
3)ゼロ時から投薬後24時間までの平均の濃度-時間曲線下面積(AUC(0-24h))[タイムフレーム:1日目及び14日目]
血液試料は1日目投薬前並びに投薬後0.5(30分)、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、18及び24時間;14日目(投薬前並びに投薬後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間);そして15日目(14日目投薬後の24時間)に収集した。
4)ゼロ時から無限に外挿された平均の濃度-時間曲線下面積(AUC(0-inf))[タイムフレーム:14日目]
血液試料は14日目(投薬前並びに投薬後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12、及び18時間)そして15日目(14日目投薬後24時間)に収集した。
5)脳脊髄液(CSF):血漿濃度の平均の比[タイムフレーム:-2日目(13日目腰椎穿刺[LP])及び13日目(投薬前)に時間-適合させた]
6)薬力学測定におけるベースラインからの百分率変化[タイムフレーム:-2日目(薬物なしのベースライン)対13日目(薬物)]
【0127】
[0127]結果は以下の表13~18に要約して示す。
【0128】
[0128]
【表13】
【0129】
[0129]
【表14】
【0130】
[0130]
【表15】
【0131】
[0131]
【表16】
【0132】
[0132]
【表17】
【0133】
[0133]
【表18】