(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】電気光学変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/03 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
G02F1/03 505
(21)【出願番号】P 2019571201
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2018051621
(87)【国際公開番号】W WO2019002820
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-11
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514010047
【氏名又は名称】エム スクエアード レーザーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】M SQUARED LASERS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マーカー,ガレス トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マルコム,グレーム ペーター アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ムンロ,サイモン
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103676218(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0236771(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282702(US,A1)
【文献】特表2013-543137(JP,A)
【文献】特開平09-197356(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00075435(EP,A2)
【文献】米国特許第03965439(US,A)
【文献】独国特許出願公開第10255303(DE,A1)
【文献】米国特許第05235605(US,A)
【文献】OZOLINSH, Maris et al.,PLZT ceramics electrooptic modulators for infrared solid state Nd:YAG and Er:YAG lasers,Proceedings of the Tenth IEEE International Symposium on Applications of Ferroelectrics,米国,IEEE,1996年,pp.177-180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/01-1/125
G02F 1/21-7/00
H01S 3/00-4/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)であって、
第1の光入力軸および第1の光出力軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶と、
第2の光入力軸および第2の光出力軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶であって、前記第1の光出力軸は、前記第1のブリュースター角カット非線形結晶と前記第2のブリュースター角カット非線形結晶との間の前記第2の光入力軸と一致する、第2のブリュースター角カット非線形結晶と、
前記第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶を位置決めする手段を提供するマウント装置であって、1または複数の調整可能な結晶ホルダを有する第1のクランプ部と、前記第1のクランプ部に取り付けられた第1の電気絶縁ベースプレートとを備えるマウント装置とを備え、
前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶は、光学場が第1の研磨面を介して前記第1のブリュースター角カット非線形結晶に入り、第2の研磨面を介して前記第1のブリュースター角カット非線形結晶を出るように、そして、光学場が第2の研磨面を介して前記第2のブリュースター角カット非線形結晶に入り、第1の研磨面を介して前記第2のブリュースター角カット非線形結晶を出るように、光学場に対して反対向きに配置され、
非硬化性または可撓性の接着剤の層を使用して、前記第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶を前記第1の電気絶縁ベースプレートに取り付けることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の電気光学変調器(EOM)において、
EOMが、前記第1のブリュースター角カット非線形結晶の対向側面上に配置された第1および第2の電気コーティングをさらに含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気光学変調器(EOM)において、
EOMが、前記第2のブリュースター角カット非線形結晶の対向側面上に配置された第1および第2の電気コーティングを含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶が、リン酸二重水素カリウム(KDP)、リン酸チタニルカリウム(KTP)、βホウ酸バリウム(BBO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4、ADP)、ルビジウムリン酸チタニル(RTP)を含む非線形材料のセットのなかから選択される非線形材料から形成されていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶が同じ材料から作られていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記1または複数の調整可能な結晶ホルダが、前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶の対向側面に位置する第1および第2のプレートを含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項7】
請求項6に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1および第2のプレートが金属合金から作られていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1のプレートが、調整可能に取り付けられていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第2のプレートが強固に固定されていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1の電気絶縁ベースプレートがセラミックを含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1の電気絶縁ベースプレートが、隆起の形態の1または複数の結晶ロケータであって、前記結晶ホルダ内の前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶の位置を合わせるための結晶ロケータを備えることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項12】
請求項11に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記1または複数の結晶ロケータが、前記第1の電気絶縁ベースプレートの表面上に位置する隆起を含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項13】
請求項6乃至12の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記調整可能な結晶ホルダの第1のプレートに第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を取り付けるために、第1のはんだ層が使用されていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項14】
請求項6乃至13の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記調整可能な結晶ホルダの第2のプレートに第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を取り付けるために、第2のはんだ層が使用されていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記マウント装置が、第2の電気絶縁ベースプレートをさらに備え、この第2の電気絶縁ベースプレートの上に前記第1のクランプ部が配置されることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項16】
請求項15に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第2の電気絶縁ベースプレートがセラミックを含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項17】
請求項15または16に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第2の電気絶縁ベースプレートが、1または複数の開口部を含み、前記開口部にねじ込まれた1または複数のボルトが、EOMを光学システムに取り付ける手段を提供することを特徴とする電気光学変調器。
【請求項18】
請求項15乃至17の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記マウント装置が、前記第1のクランプ部に解放可能に接続された第2のクランプ部をさらに備えており、
前記第1および第2のクランプ部の1または複数の開口部にねじ込まれた1または複数のボルトが、前記第1のクランプ部を前記第2のクランプ部に解放可能に接続する手段を提供することを特徴とする電気光学変調器。
【請求項19】
請求項18に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記1または複数のボルトが、前記第2の電気絶縁ベースプレートにクランプを取り付けるための手段も提供することを特徴とする電気光学変調器。
【請求項20】
請求項18に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第1のクランプ部が、接着剤によって前記第2の電気絶縁ベースプレートに取り付けられていることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項21】
請求項
18乃至20の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)において、
前記第2のクランプ部が、前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶の上面に配置された電気絶縁トッププレートに圧力を加える手段を提供する1または複数の調整可能なコネクタを備えることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項22】
請求項2又は3に記載の電気光学変調器(EOM)において、
EOMが、前記第1および/または第2の電気コーティングに必要な電力を供給するための手段を提供するワイヤをさらに含むことを特徴とする電気光学変調器。
【請求項23】
請求項1乃至22の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)を備えるレーザシステムであって、
レーザ光が電気光学変調器(EOM)を伝播するように、電気光学変調器(EOM)がレーザシステムに配置されていることを特徴とするレーザシステム。
【請求項24】
光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)を製造する方法であって、
-第1の光入力軸および第1の光出力軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-第2の光入力軸および第2の光出力軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-前記第1の光出力軸を前記第1のブリュースター角カット非線形結晶と前記第2のブリュースター角カット非線形結晶との間の前記第2の光入力軸と一致するように配置するステップと、
-第1または第2の調整可能なクリスタルホルダ内に前記第1または第2のブリュースター角カット非線形結晶を配置するステップと、
-光学場が第1の研磨面を介して前記第1のブリュースター角カット非線形結晶に入り、第2の研磨面を介して前記第1のブリュースター角カット非線形結晶を出るように、そして、光学場が第2の研磨面を介して前記第2のブリュースター角カット非線形結晶に入り、第1の研磨面を介して前記第2のブリュースター角カット非線形結晶を出るように、前記第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を、光学場に対して反対向きに配置するステップと、
-前記第1または第2のブリュースター角カット非線形結晶の表面と第1の電気絶縁ベースプレートの間に、非硬化性または可撓性の接着剤の層を塗布するステップとを含むことを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
前記第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の提供は、前記第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の対向側面に電気コーティングを提供することを含むことを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項26】
請求項24または25に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
前記第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダ内に配置することは、電気コーティングと、前記第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダの柔軟に固定されたプレートとの間にはんだ層を加えることをさらに含むことを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項27】
請求項24乃至26の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
前記第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダ内に配置することは、電気コーティングと、前記第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダの固く固定されたプレートとの間にはんだ層を加えることをさらに含むことを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項28】
請求項26または27に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
前記第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダの柔軟に固定されたプレートが、前記第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダ内に前記第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を一時的に固定する手段を提供するために、移動可能となっていることを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項29】
請求項24乃至28の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
前記第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能なクリスタルホルダ内に配置することは、前記第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶に機械的圧力を加えることを含むことを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【請求項30】
請求項25乃至29の何れか一項に記載の電気光学変調器(EOM)の製造方法において、
第1または第2のブリュースター角カット非線形結晶に電場を提供するために、電気コーティングにワイヤが接続されることを特徴とする電気光学変調器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形光学の分野に関し、特に、キャビティ内周波数変調素子としてレーザキャビティ内での使用に適した電気光学変調器(EOM)に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学変調器(EOM)は、電気制御信号によりレーザビームのパワー、位相または偏光を制御するために用いることができるデバイスである。これは、典型的には、レーザビームが伝播することができる非線形結晶を含む。その特定の用途に応じて、追加の光学素子、例えば1または複数の偏光子が存在することもある。動作原理は、線形電気光学効果(ポッケルス効果とも呼ばれる)、すなわち電場の強度に比例する、電場による非線形結晶の屈折率の変化に基づくものである。
【0003】
EOMのために頻繁に使用される非線形結晶材料は、リン酸二水素カリウム(KDP)、リン酸チタニルカリウム(KTP)、βホウ酸バリウム(BBO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4、ADP)およびルビジウムリン酸チタニル(RTP)である。
【0004】
上述したように、EOMの非線形結晶によってレーザビームに誘起される位相は、結晶に加えられる電場の強さに比例して変化する。その結果、屈折率、よって結晶を通って伝播するレーザビームの光路長も、電場の強度に比例して変化する。非線形結晶の光路長がレーザビームの波長の半分に等しい量だけ変化する場合、レーザビームが受ける位相変化はπに等しい。
【0005】
EOM内でπの位相変化を引き起こすのに必要な電圧は、半波電圧(Vπ)と呼ばれる。上述したEOMの場合、半波電圧(Vπ)は通常数百ボルトまたは数千ボルトであるため、高電圧増幅器が必要である。適切な電子回路は、数ナノ秒以内にこのような大きな電圧を切り替えることができ、それによりEOMを高速光スイッチとして使用することを可能にする。他の場合、例えば小さい振幅または位相変調のみが必要とされるとき、より小さい電圧での変調で十分である。
【0006】
EOMをレーザキャビティ内のキャビティ内コンポーネントとして使用した場合、付随する光損失がシステムに導入されることが知られている。例えば、レーザキャビティ内の光学面は、主にブリュースター角とされ、よって偏光依存損失である。非線形結晶材料は、一般に、残留複屈折(応力または熱誘導)を有し、それにより偏光状態の回転が引き起こされ、それが、ブリュースター角の表面での損失につながる。EOMの単一の非線形結晶により、レーザキャビティの出力のパワーが約10%以上低下する可能性がある。
【0007】
EOMは、その固有の高速応答時間により、光学システム内で使用するのに魅力的である。しかしながら、それらデバイスが、100kHzを超える周波数で電場により駆動されると、結晶の圧電効果により結晶が共振し、それにより、関連する光学システム内にノイズおよび大きな位相誤差が生じる。多くのレーザシステムでは、それらの圧電効果により、非線形結晶を電場で駆動できる周波数が600kHz程度に制限される。
【0008】
また、EOMを導入および除去すると、キャビティ内場が偏向を受けることから、そのような事象が生じる度に、レーザキャビティの再調整に、熟練者の非常に高い技能と労力が必要であった。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明の一実施形態の一目的は、当技術分野で知られている電気光学変調器(EOM)の上記欠点を回避または少なくとも緩和することである。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、光学場(optical field)の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)が提供され、この電気光学変調器(EOM)が、
第1の光軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶と、
第2の光軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶とを備え、
光学場が第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を通って伝播するときに、光学場が全体的な偏向(overall deviation)を受けないように、第1および第2の光軸が互いに対して方向付けられており、
第1および第2ブリュースター角カット非線形結晶が、光学場に対して反対向きに配置されている。
【0011】
反対向きとは、第1および第2の非線形結晶を伝播する光学場が、異なる研磨面を介して第1および第2の非線形結晶に出入りすることを意味する。第1および第2の非線形結晶の反対向きの態様の結果として、第1の非線形結晶によって引き起こされる光損失効果が第2の非線形結晶によって引き起こされる光損失効果によって打ち消されるため、EOMは、付随する光損失が当該技術分野で公知のEOMと比較して著しく低いという利点を有する。EOMを伝播するときに光学場によって受ける全体的な偏向がないということは、光学場に偏向が付与されることなく、EOMが展開される光学システム(例えば、レーザシステム)内にEOMを挿入するか、またはそこからEOMを除去できることを意味している。これにより、EOMが挿入または取り除かれるときにシステムを再調整する必要性が減るため、オペレータに求められる技能および労力のレベルが低くなる。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)が提供され、この電気光学変調器(EOM)が、
第1の光入力軸および第1の光出力軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶と、
第2の光入力軸および第2の光出力軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶とを備え、
第1の光出力軸は、第1のブリュースター角カット非線形結晶と第2のブリュースター角カット非線形結晶との間の第2の光入力軸と一致し、
第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶は、第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を伝播する光学場に対して反対向きに配置されている。
【0013】
第1の光出力軸を第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶の間の第2の光入力軸と一致させることにより、EOMが展開される光学システム、例えば、レーザシステム内にEOMを挿入するか、またはそこからEOMを除去するときに、光学場が偏向を受けないという利点がある。これにより、EOMが挿入または取り除かれるときにシステムを再調整する必要性が減るため、オペレータに求められる技能および労力のレベルが低くなる。
【0014】
EOMは、好ましくは、第1のブリュースター角カット非線形結晶の両面に配置された第1および第2の電気コーティングをさらに含む。EOMは、第2のブリュースター角カット非線形結晶の両面に配置された第1および第2の電気コーティングを含むことができる。電気コーティングは、第1の非線形結晶および/または第2の非線形結晶に電圧が印加されるための手段を提供する。好ましくは、電気コーティングは金コーティングを含む。
【0015】
好ましくは、第1および第2ブリュースターアングルカット非線形結晶は、リン酸二重水素カリウム(KDP)、リン酸チタニルカリウム(KTP)、βホウ酸バリウム(BBO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4、ADP)およびルビジウムリン酸チタニル(RTP)を含む非線形材料のセットのなかから選択される非線形材料から作られる。
【0016】
最も好ましくは、第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶は、同じ材料から作られる。
【0017】
EOMは、第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を配置するための手段を提供するマウント装置をさらに含むことができる。
【0018】
マウント装置は、好ましくは、1または複数の調整可能な結晶ホルダを有する第1のクランプ部を備える。1または複数の調整可能な結晶ホルダは、非線形結晶の両側に配置される第1および第2のプレートを備えることができる。好ましくは、第1および第2のプレートは、金属合金、例えば黄銅から作製される。金属合金を使用することにより、1または複数の調整可能な結晶ホルダ内に配置されたときに非線形結晶に電気供給を提供する手段が提供される。
【0019】
最も好ましくは、第1のプレートは調節可能に取り付けられる。調節可能に取付けられた第1のプレートを使用することにより、それらの位置を調整して非線形結晶の位置決めを補助する手段が提供される。また、この調整可能性によって、ユーザは、非線形結晶に一旦結合された第1のプレートから圧力を解放して、非線形結晶に応力が生じることを回避することもできる。
【0020】
最も好ましくは、第2のプレートの位置が強固に固定される。この構成により、1または複数の調整可能な結晶ホルダ内に配置されるときに、調整可能な結晶ホルダは、非線形結晶の位置をしっかりと固定することができる。
【0021】
マウント装置は、第1のクランプ部に取り付けられた第1の電気絶縁ベースプレートを備えることが好ましい。第1の電気絶縁ベースプレートの好ましい材料はセラミックである。
【0022】
第1の電気絶縁ベースプレートの表面上には、1または複数の結晶ロケータが配置されるようにしてもよい。1または複数の結晶ロケータは隆起を含むことができる。1または複数の結晶ロケータは、それらのそれぞれの調整可能な結晶ホルダ内の非線形結晶を位置合わせするための正確な手段を提供する。
【0023】
最も好ましくは、非硬化性または可撓性の接着剤の層が、第1および第2の非線形結晶を第1の電気絶縁ベースプレートに取り付けるために使用される。第1のはんだ層は、第1および第2の非線形結晶を調節可能な結晶ホルダの第1のプレートに取り付けるために使用される。同様に、第1および第2の非線形結晶を調整可能な結晶ホルダに第2のプレートに取り付けるために、第2のはんだ層が用いられる。
【0024】
この配置により、望ましくない複屈折を誘発する応力が非線形結晶に加わらないようになる。さらに、接着層は、電気コーティング間に印加される電場によって駆動されるときに非線形結晶に誘導される圧電効果を減衰するための手段を提供する。この構成により、非線形結晶を10MHz以上の電場駆動周波数で駆動することができる。
【0025】
好ましくは、マウント装置は、第1のクランプ部が配置される第2の電気絶縁ベースプレートをさらに備える。第2の電気絶縁ベースプレートは、1または複数の開口部を備えようにしてもよい。第2の電気絶縁ベースプレートの好ましい材料はセラミックである。開口部に通された1または複数のボルトは、EOMを光学システム、例えばレーザシステムに取り付けるための手段を提供することができる。
【0026】
マウント装置は、第1のクランプ部に解放可能に接続された第2のクランプ部をさらに含むことができる。第1および第2のクランプ部の1または複数の開口部に通される1または複数のボルトは、第1のクランプ部を第2のクランプ部に解放可能に接続するための手段を提供することができる。
【0027】
1または複数のボルトは、クランプを第2のベースプレートに取り付けるための手段を提供することもできる。代替的には、クランプは、接着剤によって第2のベースプレートに取り付けられる。
【0028】
第2のクランプ部は、非線形結晶の表面に配置された電気絶縁トッププレートに圧力を加えるための手段を提供する1または複数の調節可能なコネクタを備えるようにしてもよい。
【0029】
EOMは、第1および/または第2の非線形結晶に必要な電場を供給するための手段を提供するワイヤをさらに含むことができる。
【0030】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1または第2の態様に係る電気光学変調器(EOM)を備えるレーザシステムが提供される。
【0031】
本発明の第3の態様の実施形態は、本発明の第1または第2の態様の好ましいまたは任意の特徴を実行するための特徴を含むことができ、その逆もまた同様である。
【0032】
本発明の第4の態様によれば、光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)の製造方法が提供され、この方法が、
-第1の光軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-第2の光軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-光学場が第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を通って伝播するときに、光学場が全体的な偏向を受けないように、第1および第2の光軸の相対的な向きを設定するステップと、
-第1および第2のブリュースター角カットの非線形結晶を、光学場に対して反対向きに配置するステップとを含む。
【0033】
本発明の第5の態様によれば、光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)を製造する方法が提供され、この方法が、
-第1の光入力軸および第1の光出力軸を有する第1のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-第2の光入力軸および第2の光出力軸を有する第2のブリュースター角カット非線形結晶を提供するステップと、
-第1の光出力軸を、第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶の間の第2の光入力軸と一致するように配置するステップと、
-第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を、光学場に対して反対向きに配置するステップとを含む。
【0034】
好ましくは、第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の提供は、第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の両側に電気コーティングを提供することを含む。
【0035】
好ましくは、第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の提供は、第1および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に配置することを含む。
【0036】
好ましくは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に配置することは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶の表面と、第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダの非導電性表面との間に、非硬化性または可撓性の接着剤の層を加えることを含む。
【0037】
好ましくは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に配置することは、電気コーティングと、第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダの非剛体的に固定されたプレート(non-rigidly fixed plate)との間にはんだ層を加えることをさらに含む。
【0038】
好ましくは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に配置することは、電気コーティングと、第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダの剛体的に固定されたプレート(rigidly fixed plate)との間にはんだ層を加えることをさらに含む。
【0039】
最も好ましくは、第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダの非剛体的に固定されたプレートが、第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を一時的に固定する手段を提供するために、移動可能となっている。
【0040】
任意選択的には、第1または第2の非線形結晶に電場を提供するために、電気コーティングにワイヤを接続するようにしてもよい。
【0041】
好ましくは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶を第1および/または第2の調整可能な結晶ホルダ内に配置することは、第1および/または第2ブリュースター角カット非線形結晶に機械的圧力を加えることを含む。加えられるこの圧力は、第1のブリュースター角カット非線形結晶および/または第2のブリュースター角カット非線形結晶の電気光学効果を制御する代替的または追加的な手段として使用することができる。代替的には、非線形結晶の圧電共振の抑制を補助するために、加えられる圧力を用いることができる。
【0042】
本発明の第4および第5の態様の実施形態は、本発明の第1~第3の態様の好ましいまたは任意の特徴を実行するための特徴を含むことができ、その逆もまた同様である。
【0043】
本発明の第6の態様によれば、結晶用のマウントが提供され、このマウントが、第1のベースプレートと、剛体的に固定されたサイドプレートとを含み、
剛体的に固定されたサイドプレートに結晶の第1の面を取り付けるために第1のはんだ層が用いられ、
第1のベースプレートに結晶の第2の面を取り付けるために非硬化性または可撓性の接着剤の層が用いられている。
【0044】
最も好ましくは、第1のはんだ層が、第1の電気コーティングを介して結晶の第1の面に取り付けられる。
【0045】
マウントは、好ましくは、剛体的に固定されたサイドプレートの反対側に配置された、非剛体的に固定されたサイドプレートをさらに含む。第2のはんだ層は、好ましくは、非剛体的に固定されたサイドプレートに結晶の第3の面を取り付けるために使用される。最も好ましくは、第2のはんだ層は、第2の電気コーティングを介して結晶の第3の面に取り付けられる。
【0046】
好ましくは、剛体的に固定されたプレートは、金属合金、例えば黄銅から作られる。同様に、非剛体的に固定されたプレートは、好ましくは、金属合金から作られる。金属合金を使用することにより、マウント内に配置されたときに結晶に電場を提供するための手段が提供される。
【0047】
第1のベースプレートの表面上には、1または複数の結晶ロケータが配置されるようにしてもよい。1または複数の結晶ロケータは隆起を含むことができる。1または複数の結晶ロケータは、マウント内の結晶を位置合わせするための正確な手段を提供する。
【0048】
好ましくは、第1のベースプレートは、非導電性材料、例えばセラミックを含む。
【0049】
剛体的に固定されたサイドプレートは、第1のクランプ部内に一体化されるようにしてもよい。この実施形態では、第1のベースプレートは、好ましくは、第1のクランプ部上に配置される。
【0050】
マウントは、第1のクランプ部に取り付けられた電気絶縁プレートをさらに備えるようにしてもよい。電気絶縁プレートの好ましい材料はセラミックである。電気絶縁プレートは、1または複数の開口部を備えるようにしてもよい。開口部に通された1または複数のボルトは、マウントを光学システムに取り付けるための手段を提供することができる。
【0051】
マウントは、第1のクランプ部に解放可能に接続された第2のクランプ部をさらに含むことができる。第1および第2のクランプ部の1または複数の開口部に通される1または複数のボルトは、第1のクランプ部を第2のクランプ部に解放可能に接続するための手段を提供することができる。
【0052】
第2のクランプ部は、結晶の表面に配置された電気絶縁ベースプレートに圧力を加えるための手段を提供する1または複数の調節可能なコネクタを備えるようにしてもよい。
【0053】
マウントは、結晶に電場を供給するための手段を提供するワイヤをさらに含むことができる。
【0054】
本発明の第6の態様の実施形態は、本発明の第1~第5の態様の好ましいまたは任意の特徴を実行するための特徴を含むことができ、その逆もまた同様である。
【0055】
本発明の第7の態様によれば、結晶を取り付ける方法が提供され、この方法は、
-第1のベースプレートおよび剛体的に固定されたサイドプレートを提供するステップと、
-剛体的に固定されたサイドプレートに結晶の第1の面を取り付けるために第1のはんだ層を適用するステップと、
-第1のベースプレートに結晶の第2の面を取り付けるために非硬化性または可撓性の接着剤の層を適用するステップとを含む。
【0056】
最も好ましくは、第1のはんだ層は、第1の電気コーティングを介して結晶の第1の面に塗布される。
【0057】
本方法は、好ましくは、剛体的に固定されたサイドプレートの反対側に配置された、非剛体的に固定されたサイドプレートを提供するステップをさらに含む。第2のはんだ層は、好ましくは、非剛体的に固定されたサイドプレートに結晶の第3の面を取り付けるために適用される。最も好ましくは、第2のはんだ層は、第2の電気コーティングを介して結晶の第3の面に取り付けられる。
【0058】
本方法は、第1のベースの表面上に1または複数の結晶ロケータを配置するステップをさらに含むようにしてもよい。
【0059】
任意選択的には、剛体的に固定されたサイドプレートを設けることは、剛体的に固定されたサイドプレートが組み込まれた第1のクランプ部を設けることを含むことができる。この実施形態では、第1のベースプレートが、第1のクランプ部上に設けられていることが好ましい。
【0060】
本方法は、電気絶縁プレートを第1のクランプ部に取り付けることをさらに含むことができる。
【0061】
本方法は、第1のクランプ部に解放可能に接続された第2のクランプ部を提供するステップをさらに含むことができる。
【0062】
本方法は、結晶の表面に配置された電気絶縁ベースプレートに圧力を加えるための手段を提供する1または複数の調節可能なコネクタを第2のクランプ部に提供するステップを含むことができる。
【0063】
本方法は、結晶に電場を供給するための手段を提供するステップをさらに含むことができる。
【0064】
本発明の第7の態様の実施形態は、本発明の第1~第6の態様の好ましいまたは任意の特徴を実行するための特徴を含むことができ、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
本発明の態様および利点は、以下の詳細な説明を読み、以下の図面を参照することにより明らかになるであろう。
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気光学変調器(EOM)を組み込んだチタンサファイア(Ti:Sapphire)レーザの概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の電気光学変調器(EOM)内で使用される2つのブリュースター角カット非線形結晶の概略上面図である。
【
図3】
図3は、
図2の2つのブリュースター角カット非線形結晶を組み込んだ
図1の電気光学変調器(EOM)の概略上面図である。
【
図4】
図4は、マウント装置内の電気光学変調器(EOM)の概略斜視図である。
【0066】
以下の説明において、明細書および図面を通して、同様の部品には同じ符号が付されている。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、本発明の実施形態の細部と特徴をよりよく示すために、特定の部品の大きさが誇張されている。
【発明を実施するための形態】
【0067】
次に、本発明の一実施形態に係る電気光学変調器(EOM)1について、
図1~
図4を参照して説明する。特に、
図1は、電気光学変調器(EOM)1を組み込んだTi:Sapphireレーザ2の概略図を示し、
図3および
図4は、分離した電気光学変調器(EOM)1の概略上面図および概略斜視図をそれぞれ示している。理解し易いように、図面内に軸が示されている。
【0068】
図1の実施形態では、レーザ2が、第1のミラー4、第2のミラー5、デュアルピエゾ作動ミラー6(英国特許第2,499,471号に記載されるタイプ)および出力カプラ7によって規定されるボウタイリングキャビティ形状を示すレーザキャビティ3を備え、それらがすべて、機械的に安定したハウジング8内に配置されていることが分かる。キャビティ3内には、チタンサファイア利得媒体9(第1のミラー4と第2のミラー5との間)、光ダイオード10およびEOM1(第1のミラー4とデュアルピエゾ作動ミラー6との間)、複屈折フィルタ(BRF)11(第2のミラー5と出力カプラ7との間)、エアスペースエタロン12(ピエゾ作動ミラー6と出力カプラ7との間)が配置されている。レーザキャビティ3を一方向に動作させるのは、リングキャビティ形状と光ダイオード10の組合せであり、それにより、利得媒体9内の空間的ホールバーニングの悪影響を除去する移動キャビティ内光学場13がもたらされる。
【0069】
チタンサファイア内の光吸収が、約400nmから約600nmの広い波長範囲にわたって発生することを考慮すると、利得媒質9は、市販の連続波「緑色」レーザ14、例えば532nmダイオード励起固体レーザ光源(図示省略)によって光学的に励起することができる。利得媒質9の励起は、好ましくは、第2ミラー5を介して行われる。
【0070】
レーザ出力15の波長を調整するために、キャビティ内BRF11が用いられる。BRF11は、波長依存損失をキャビティ3に導入し、波長調整が、BRF11の回転によって達成される。BRF11は、比較的高速であるが粗い波長調整を提供する。更なる線幅狭小化技術がない場合、レーザ出力15は、約8GHzの線幅を示す。
【0071】
エアスペースエタロン12のレーザキャビティ3への導入は、レーザ2の線幅動作をさらに狭めるように作用する。これは、エアスペースエタロン12がキャビティ3にスペクトル損失を導入し、それが、BRF11によって示されるものよりも狭い伝送帯域幅を有するためである。エアスペースエタロン12のスペースを電子的に調整することによって、レーザ出力15も微調整することができる。レーザキャビティ3の長期間のシングルモード動作は、当業者に公知の手法である、キャビティ内エアスペースエタロン12の電子サーボロックによって達成することもできる。この手法には、エアスペースエタロン12のスペースをディザリングすることにより、エアスペースエタロン12の透過関数のピークを最も近いキャビティ3縦モード(サーボループのキャプチャ範囲内)にロックすることが含まれる。更なる線幅狭小化技術がない場合、レーザ出力15は、約5MHzの線幅を示す。
【0072】
デュアルピエゾ作動ミラー6は、第1および第2の圧電結晶を含む。第2の圧電結晶の厚さは、第1の圧電結晶の厚さより小さい。この構成では、デュアルピエゾ作動ミラー6が、レーザ周波数が調整される際に、単一の縦モード動作を維持するための手段を提供する。それは、デュアルピエゾ作動ミラー6の第1の厚い圧電結晶の正確な制御によって、キャビティ長を正確に変更することが可能になるとともに、キャビティ長が調整される際に単一の振動縦キャビティモード周波数にキャビティ長を一致させることが可能になるためである。エアスペースエタロン12のピークロック回路をオンにすると、エアスペースエタロン12のピーク伝送は、周波数がデュアルピエゾ作動ミラー6によって調整されるときでも、この振動縦モード周波数に(ロック回路のキャプチャ範囲内に)ロックされた状態で維持される。また、デュアルピエゾ作動ミラー6の第1の圧電結晶と第2の圧電結晶の組合せは、レーザ線幅を約10kHz程度に減少させる外部基準キャビティ(図示省略)にレーザキャビティをロックするために用いることができる。
【0073】
レーザキャビティ3へのEOM1の導入は、レーザ出力15の線幅動作を更に狭めるように作用する。これは、EOM1内に含まれる非線形結晶の極めて速い応答時間のためであり、それにより、レーザ出力15がヘルツ未満の線幅を示すことが可能になる。EOM1を電子的に調整することによって、レーザ出力15を0+/-750kHzの範囲で微調整することもできる。これらの狭い線幅の直接的な結果として、本出願人は、2つのチタンサファイアレーザ2の位相ロックを実証することができた。
【0074】
図2は、
図1の電気光学変調器(EOM)内で使用される第1の非線形結晶16および第2の非線形結晶17の概略的な第1の上面図を示している。非線形結晶16、17は、同じ材料から作られることが好ましく、本発明に記載の実施形態では、リン酸チタニルルビジウム(RTP)である。しかしながら、EOM1内の非線形結晶16、17に、線形電気光学効果を示す他の任意の非線形材料を代替的に使用できることが理解されよう。
【0075】
非線形結晶は一般に、多くの周知技術、例えばブリッジマン法やチョクラルスキー法によって、ブール内で成長される。これらの方法は、典型的には、規定された光軸を有する材料の円柱状ロッドをもたらす。その後、円柱状のロッドを光軸に対して切断および研磨して、所望の長さと形状の非線形結晶を生成する。
【0076】
非線形結晶16、17はともにブリュースター角カット結晶である。すなわち、それらは、製造された結晶ブールの光軸に沿ったそれらの相対的位置によって規定される研磨面18、19を有する。研磨面18、19は、研磨面18、19の法線ベクトル20と非線形結晶16、17の光入力軸21との間のブリュースター角(β)に位置する。参照を容易にするために、非線形結晶16、17の各々の光軸が符号22で示されている。ブリュースター角(β)では、研磨面18、19の表面反射率は、x軸およびy軸によって規定される平面内の偏光を有する光(p偏光とも定義される)に対してゼロである。EOM1の以下の説明を助けるために、非線形結晶16、17の両方の上面は、第1の研磨面18の近くに「□」、第2の研磨面19の近くに「φ」のマークが付けられている。
【0077】
図3は、
図2の2つのブリュースター角カット非線形結晶を組み込んだ
図1の電気光学変調器(EOM)の概略上面図を示している。なお、第1の非線形結晶16の第1の研磨面18に近い「□」および第2の研磨面19に近い「φ」は、
図2に示すそれら結晶の構成と比較したときに、第1の非線形結晶16の下面にあるという事実、すなわち、第1の非線形結晶16が、第2の非線形結晶17に対して光軸22に垂直な軸周りに180°回転しているという事実を強調するために破線で示されている。
【0078】
非線形結晶16、17は、第1の非線形結晶16の光出力軸21が非線形結晶16、17の間の第2の非線形結晶17の光入力軸21と一致するように、EOM1内に配置される。また、非線形結晶16、17は、EOM1内で反対向きに取り付けられている。反対向きとは、非線形結晶16、17を通って伝播する光学場13が、異なる研磨面18、19を介して非線形結晶16、17に出入することを意味する。例として、
図3を参照すると、矢印で示す方向に光入力21の軸に沿って伝播するように配置された光学場13は、研磨面18を介して第1の非線形結晶16に入り、研磨面19を介して出る。対照的に、光学場13はEOM1を通って伝播し続ける際に、研磨面19を介して第2の非線形結晶17に入り、その後、研磨面18を介して第2の非線形結晶17から出る。
【0079】
非線形結晶16、17の側面には、電気コーティング23、24が施されている。本明細書に記載の実施形態では、電気コーティング23、24が金コーティングを含む。電気コーティング23、24は、第1の非線形結晶16に電圧を印加するための手段を提供する。非線形結晶16に印加された電圧は、伝播する光学場13に75kHz/V程度の周波数シフトを引き起こすことが分かっている。
【0080】
当業者であれば、第1の非線形結晶16および第2の非線形結晶17の両方の側面に設けられた電気コーティング23、24に電圧を印加できることを理解するであろう。しかしながら、非線形結晶16、17は、EOM1を通って伝播する光学場13に対して、反対向きに取り付けられているため、電圧は、両方の非線形結晶16、17に同時に印加すべきではない。何故なら、誘導される電気光学効果が反対方向に生じ、それにより互いに打ち消すように作用するからである。ただし、第1の非線形結晶16および第2の非線形結晶17に印加される電圧も反対向きである場合には、誘導される電気光学効果が2倍になることが、当業者によってさらに理解されるであろう。
【0081】
電気光学変調器の製造方法
次に、EOM1の製造方法について、
図4を参照しながら説明する。具体的に、
図4は、EOM1内に非線形結晶16、17を機械的に取り付けるための、全体として符号25で示されるマウント装置を示している。
【0082】
マウント装置25は、3つの開口部27を有する電気絶縁ベースプレート26を含むことが分かる。電気絶縁ベースプレート26の好ましい材料はセラミックである。ボルト28は、開口部27にねじ込まれる状態で
図4に示されており、それらが、EOM1をレーザキャビティ3のハウジング8に取り付けるための手段を提供している。
【0083】
ベースプレート26の上部には、第1のセクション30および第2のセクション31を有するクランプ29が配置されている。第1のクランプ部30および第2のクランプ部31は、好ましくは、金属合金、例えば黄銅から作られている。第1のクランプ部30および第2のクランプ部31の開口部にねじ込まれるボルト32は、第1のクランプ部30を第2のクランプ部31に固定するための手段を提供する。クランプ29をベースプレート26に取り付けるために接着剤が用いられている。
【0084】
第1のクランプ部30は、第1の調節可能な結晶ホルダ33および第2の調節可能な結晶ホルダ34を含むことが分かる。調整可能な結晶ホルダ33、34は、非線形結晶16、17の両側に配置されるプレート35、36を備える。好ましくは、プレート35、36も、金属合金、例えば黄銅から作られており、非線形結晶16、17が調整可能な結晶ホルダ33、34内に位置するときに、非線形結晶16、17のための電気的接続を提供する。第1のプレート35は、ネジ37に取り付けられており、それらの位置が、以下でさらに詳細に説明するように、調整可能な結晶ホルダ33、34における非線形結晶16、17の取り付けを補助するために調整されるようになっている。対照的に、第2のプレート36は、好ましくは、第1のクランプ部30の一体部品として形成され、それらに所望の剛性を提供する。
【0085】
ワイヤ38は、調整可能な結晶ホルダ33内に位置するときに、非線形結晶16の側面上に配置された電気コーティング23、24に必要な電場を供給するための手段を提供する。特に、ワイヤ38は、調整可能な結晶ホルダ33、34のプレート35、36の間に電気供給を提供する。
【0086】
マウント装置25は、第1のクランプ部30の上部に配置された電気絶縁ベースプレート39をさらに含む。電気絶縁ベースプレート39の好ましい材料はセラミックである。電気絶縁ベースプレート39の上面には、隆起の形態の第1の結晶ロケータ40および第2の結晶ロケータ41が配置されている。電気絶縁ベースプレート39が第1のクランプ部30の上に配置されるとき、第1の結晶ロケータ40および第2の結晶ロケータ41は、それぞれの調節可能な結晶ホルダ33、34内の非線形結晶16、17の位置を合わせるための正確な手段を提供する。
【0087】
第2のクランプ部31は、第2のクランプ部31の下側から突出する2本のネジ42をさらに含むことが分かる。ネジ42は、非線形結晶16、17の上面に配置された電気絶縁ベースプレート43に圧力を加える手段を提供する。
【0088】
調整可能な結晶ホルダ33、34内に非線形結晶16、17を配置するために、以下の方法が用いられる。第1の例では、ネジ37を緩めて、第1のプレート35を第2のプレート36から離れるように移動させ、調整可能な結晶ホルダ33、34内に非線形結晶16、17を配置するのに十分なクリアランスを提供する。
【0089】
その後、第1のプレート35と第2のプレート36との間に電気供給を提供するようにワイヤ38を接続することができる。
【0090】
次に、電気絶縁ベースプレート39を第1のクランプ部30の上部に配置して、第1の結晶ロケータ40および第2の結晶ロケータ41を、それぞれの調整可能な結晶ホルダ33、34内に配置する。
【0091】
その後、電気絶縁ベースプレート39の上面の、非線形結晶16、17が配置される領域に接着層44を塗布する。接着層44は、非硬化性または可撓性の接着剤を含む。
【0092】
その後、第1のプレート35および第2のプレート36の内面上にはんだ層45を配置する。
【0093】
次いで、研磨面18が第1の結晶ロケータ40および第2の結晶ロケータ41に当接するように、非線形結晶16、17を、それぞれの調整可能な結晶ホルダ33、34内に配置する。このとき、非線形結晶16、17の下面と電気絶縁性ベースプレート39の上面との間に接着層44が挟まれる。同様に、非線形結晶16、17の側面と第1のプレート35および第2のプレート36の内面との間にはんだ層45が挟まれる。
【0094】
その後、ネジ37を締め付けて、第1のプレート35を第2のプレート36に向けて移動させ、調整可能な結晶ホルダ33、34内に非線形結晶16、17を一時的に固定する。
【0095】
次いで、電気絶縁ベースプレート43を非線形結晶16、17の上面に配置した後、第1のクランプ部30、第2のクランプ部31およびベースプレート26をボルト32で互いに固定する。
【0096】
その後、マウント装置25を加熱して、非線形結晶16、17の側面と第1および第2のプレート35、36の内面との間に挟まれたはんだ層45を溶融させる。
【0097】
マウント装置25が冷却されると、非線形結晶16、17の側面上に配置される電気コーティング23、24に対して、第1のプレート35および第2のプレート36の位置を固定するように、はんだが硬化する。このとき、第1のプレート35に圧力が加わらなくなるように、ねじ37を緩めることが好ましい。
【0098】
次いで、ネジ42を調整して、電気絶縁ベースプレート43により非線形結晶16、17の上面に加えられる圧力を変化させることができる。この取り付け構成は、様々な方向の圧力を非線形結晶16、17に加える手段を提供し、これらは、それらの電気光学効果を制御する代替的または追加的な手段として用いることができる。代替的には、加えられた圧力を使用して、非線形結晶16、17の圧電共振を抑制するのを補助することができる。
【0099】
その後、ボルト28をベースプレート26の開口部27に通してEOM1を所望の位置に固定して、例えばEOM1をレーザキャビティ3のハウジング8内に取り付けることができる。
【0100】
上述した方法は単なる例として提供したものに過ぎず、ステップの一部を省略したり、あるいは説明したステップを別の順序で実行したりできることが理解されよう。
【0101】
非線形結晶16、17を取り付ける上記方法は、EOM1の動作について多くの固有の利点を有する。第1の例では、ネジ37を緩めると、はんだ付けされた第1のプレート35によって非線形結晶16、17に圧力が加えられないことに留意されたい。さらに、接着層44は、非硬化性または可撓性の接着剤を含むため、非線形結晶16、17と剛性結合を形成することはない。しかしながら、非線形結晶16、17は、硬化したはんだによって第2のプレート36にしっかりと付着される。
【0102】
この配置により、非線形結晶16、17内に望ましくない複屈折を誘発する応力が非線形結晶16、17に加えられなくなる。さらに、接着層44は、電気コーティング23、24間に印加された電場によって駆動されるときに非線形結晶16、17に引き起こされる圧電効果を減衰するための手段を提供する。本出願人は、この配置により、非線形結晶を駆動できる上限がなくなり、10MHz以上の電場駆動周波数でEOM1が動作されることを見出した。
【0103】
上記EOM1は、当技術分野で知られているものに対して数多くの利点を示す。
【0104】
非線形結晶16、17を通って伝播する光学場13に対して、2つの非線形結晶16、17を反対向きに取り付ける第1の例では、非線形結晶16、17によって引き起こされる任意の光学損失効果が打ち消され、それにより、光学場13が受けるパワー損失が大幅に減少することを意味している。この光損失の低減は、個々の結晶によって導入される偏光回転効果の相殺によるものである。本出願人は、特に高いキャビティ内パワーで、非線形結晶が反対の向きに方向付けられるときに、出力ビーム品質が改善することも見出している。これは、熱誘起複屈折の非線形結晶間の相殺によって引き起こされると考えられる。実際に、リン酸チタニルルビジウム(RTP)非線形結晶16、17を用いる場合、この電力損失は約2%に減少した。
【0105】
「後ろ合わせ(back to back)」のブリュースター結晶の配置構成を採用することは、EOM1が配置されるレーザシステム2などのシステム内に、EOM1を挿入するときや、システムからEOM1を除去するときに、光学場13でビーム偏向が殆ど起きないという更なる利点を有する。これにより、EOM1を挿入または除去するときにシステムを再調整する必要性が減るため、オペレータに求められる技能および労力のレベルも低くなる。
【0106】
また、マウント装置25は、非線形結晶16、17を減らすための非常に安定した環境を提供することも分かっている。これは、非線形結晶16、17の各々に付随する接着層44およびはんだ層45、並びに、存在する場合は電気絶縁ベースプレート43によって非線形結晶16、17の上面に加えられる圧力の複合効果の結果である。その結果、EOM1内の圧電共振によって導入されるノイズレベルは数十kHz程度に強く抑制されることが分かっている。
【0107】
電気絶縁トッププレート43によって非線形結晶16、17の上面に加えられる圧力を調節できることは、これらの構成要素が、非線形結晶16、17に様々な圧力を加えるための手段として使用できるという更なる利点を提供する。このため、非線形結晶16、17の電気光学効果を制御するための代替手段または追加手段として、加えられた圧力を使用することができる。代替的には、加えられた圧力を使用して、非線形結晶16、17の圧電共振を抑制するのを助けることができる。
【0108】
さらに留意すべき点は、EOM1の設計により、当技術分野で知られている他のEOMと比較した場合、デバイスのフットプリントが著しく小さく(典型的には、EOMの通常のフットプリントの約3分の1に)なることである。これは、レーザ、またはレーザが配置される他の光学システムの小型化に明らかなメリットとなる。
【0109】
上記実施形態はすべて、ボウタイリングキャビティ形状を有するチタンサファイアレーザシステムを参照して説明してきたが、装置および技術はそのようなシステムでの使用に限定されないことを当業者は理解するであろう。それらの構成要素は、ロックおよびスキャン目的のためにキャビティ内EOM1を使用する任意の代替的なレーザキャビティにも同様に適用することができる。同様に、説明したEOM1は、当業者に知られているように、レーザビームの代替的なパワー、位相または偏光制御技術のために使用することができる。
【0110】
光学場の光路長を変更するのに適した電気光学変調器(EOM)について説明する。EOMは、第1および第2の光軸を有する第1および第2のブリュースター角カット非線形結晶を含む。光軸は、光学場が非線形結晶を通って伝播するときに、全体的な偏向を受けないように、互いに対して方向付けられている。また、非線形結晶は、光学場に対して、逆向きに配置されている。その結果として、EOMは、付随する光損失が、当技術分野で公知のEOMと比較して著しく低いという利点を有する。さらに、光学場に偏向を与えることなく、EOMを光学システムに挿入したり、光学システムから除去したりすることが可能である。これにより、オペレータに求められる技能および労力のレベルが低くなる。また、非線形結晶を取り付けるための上述した方法および装置は、非線形結晶内の問題のある圧電共振も抑制する。
【0111】
明細書全体を通して、文脈が他を要求しなければ、「備える」若しくは「含む」という用語、または「備え」若しくは「備えている」、「含み」若しくは「含んでいる」のような活用形は、記載した数または数の群を包含するが、他の数または数の群の除外を意味するものではないと理解されるべきである。
【0112】
さらに、本明細書における任意の先行技術への言及は、先行技術が一般的な一般知識の一部を形成することを示すものとして解釈されるべきではない。
【0113】
本発明の上記詳細な説明は、例示および説明の目的のために示され、排他的なものではなく、または本発明を開示された正確な形態に限定することを意図していない。記載された実施形態は、本発明の原理およびこれらの実際の適用を最良に説明するために選択されて説明され、これらによって他の当業者が、考えられる特定の使用に適した様々な変更を伴う本発明の様々な実施形態を最適に利用することが可能になる。したがって、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲から逸脱することなく、さらなる変更または改良が包含される。