(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】止水板部材及びこれを用いた止水構造
(51)【国際特許分類】
E06B 5/00 20060101AFI20230612BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
E06B5/00 Z
E04H9/14 Z
(21)【出願番号】P 2020009126
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】久木野 稔
(72)【発明者】
【氏名】西岡 純一
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-525025(JP,A)
【文献】特開2020-007739(JP,A)
【文献】特開2019-123989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/00 - 5/20
E04H 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物開口の開口前方に載置され、前方から後方への水浸入を防止する止水板を構成する止水板部材であって、
立設板と、
前記立設板の両側縁にあって、止水板部材を間口方向に連結する連結部と、
前記立設板の両側から前方に向けて延出する側板と、
を備え、
前記側板が、隣接して連結される別の止水板部材の側板と当接可能に形成されて
おり、
前記立設板の上側から前方に向けて延出する上板が形成され、
前記上板は前記側板と係合されていて、かつ前記立設板側に回動可能に形成されていること、
を特徴とする止水板部材。
【請求項2】
前記側板が前記立設板の両端縁から前方に向けて延出していること、
を特徴とする請求項1に記載の止水板部材。
【請求項3】
前記側板が前記立設板と略平行になるように内側に回動可能に形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の止水板部材。
【請求項4】
前記立設板の下側から前方に向けて延出する下板が形成され、
前記下板は前記側板と係合されていて、かつ前記立設板側に回動可能に形成されていること、
を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の止水板部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の止水板部材
を間口方向に複数連結し、建物開口の開口前方縁に接して載置されていること、を特徴とした止水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豪雨や河川氾濫等に起因して建物開口に押し寄せる雨水や氾濫水の、建物内への浸入を防止する止水板部材及びこれを用いた止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化が要因の一つとされる異常気象に伴い、各地で短時間の記録的な雨量を伴うゲリラ豪雨が多発している。都市部では道路の舗装化が進んでおり、降雨した雨水は殆ど地中に浸透することなく、下水道施設から河川へと一気に流入するため、短時間で河川が氾濫したり下水道施設から雨水が噴き出したりして、床下浸水や床上浸水の被害を出している。
【0003】
このような河川の氾濫などの水害時は、従来、土嚢を建物や地下出入口等の開口部に積み上げて遮水壁を作り、建物等の内部への浸水を防いでいたが、土嚢は非常に重いため、積み上げ作業には大変な時間と労力を要し、また、嵩張るため保管場所を確保することも容易ではなかった。また、土嚢を積み上げて形成した遮水壁には土嚢間の間隙が多数存在して、その止水性自体にも問題があった。
【0004】
かかる事情に鑑みて、例えば特許文献1(特開2016-108897号公報)においては、「一方から他方への水の浸入を防止する止水装置であって、裏面に止水部材を備えた底板と、該底板の後端から立ち上がる立上がり板とを有する略L字型をしたものであり、止水装置の左右端部の少なくとも一端部側に、止水装置と止水装置を左右に連結するための連結部を有することを特徴とする止水装置。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術の止水装置では、前方の水からの水圧負荷が増大した場合の止水性、不要時の収納性及び取扱性、並びに、設置や連結の容易性及び作業性という観点からは、未だ改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前方の水からの水圧負荷が増大した場合の止水性、不要時の収納性及び取扱性、並びに、設置や連結の容易性及び作業性のいずれにおいても優れた止水板部材と、これを用いた止水構造と、の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、本発明は、
建物開口の開口前方に載置され、前方から後方への水浸入を防止する止水板を構成する止水板部材であって、
立設板と、
前記立設板の両側縁にあって、止水板部材を間口方向に連結する連結部と、
前記立設板の両側から前方に向けて延出する側板と、を備え、
前記側板が、隣接して連結される別の止水板部材の側板と略当接可能に形成されていること、
を特徴とする止水板部材、を提供する。
【0009】
このような構成を有する止水板部材によれば、止水板に前方の水から水圧が負荷した場合であっても、止水板部材間において当接する側板同士が干渉し合い、止水板部材のいずれかに偏った力が不等に加わったとしても、止水板部材のいずれかが後方や前方に斜め大きく移動することがなく、建物開口縁からの水浸入や止水板部材間からの水浸入が防止できる。即ち、かかる止水板部材は、前方の水からの水圧負荷が増大した場合の止水性、不要時の収納性及び取扱性、並びに、設置や連結の容易性及び作業性に優れるものである。なお、側板は、隣接して連結される別の止水板部材の側板と、全体として当接していてもよいが、部分的に当接していてもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、両者の間に若干の隙間があってもよい。
【0010】
また、上記の本発明の止水板部材においては、前記側板が前記立設板の両端縁から前方に向けて延出していること、が好ましい。
【0011】
このような構成を有する本発明の止水板部材によれば、特に、止水板部材の構成がシンプルになり、設置や連結が容易で作業性がよく、止水板部材間において当接する側板同士が干渉し合い、止水板部材のいずれかが後方や前方に斜め移動することを良好に防止できる。
【0012】
また、上記の本発明の止水板部材においては、前記側板が前記立設板と略平行になるように内側に回動可能に形成されていること、が好ましい。
【0013】
このような構成を有する本発明の止水板部材によれば、特に、側板を折り畳むようにして止水板部材をコンパクトにすることができるので、不要時の収納が容易であるとともに、止水板部材の組み上げも容易である。
【0014】
また、上記の本発明の止水板部材においては、前記立設板の下側から前方に向けて延出する下板が形成され、前記下板は前記側板と係合されていて、かつ前記立設板側に回動可能に形成されていること、が好ましい。
【0015】
このような構成を有する本発明の止水板部材によれば、特に、下板が側板と係合して結合するので、止水板部材自体の剛性が向上するとともに、立設板から延出する側板の剛性が向上し、止水板部材の変形や破損が防止できる。また、止水板部材間において当接する側板同士が干渉し合い、止水板部材のいずれかが後方や前方に斜め移動することが防止できる。さらに、この止水板部材は下板を折り畳むようにしてコンパクトにできるので、収納や組み上げが容易となる。
【0016】
また、上記の本発明の止水板部材においては、前記立設板の上側から前方に向けて延出する上板が形成され、前記上板は前記側板と係合されていて、かつ前記立設板側に回動可能に形成されていること、が好ましい。
【0017】
このような構成を有する本発明の止水板部材によれば、更に止水板部材の剛性が向上し、上記したような作用効果が顕著に得られるとともに、収納性や設置容易性も担保できる。
【0018】
また、本発明は、上記の本発明の止水板部材を間口方向に複数連結し、建物開口の開口前方縁に接して載置されていること、を特徴とした止水構造も提供する。
【0019】
このような構成を有する本発明の止水構造によれば、止水性が良好であるとともに、止水板を各止水板部材に分解し、また各止水板部材もコンパクトに収納できるので、使用時以外にも場所をとらずに収納ができ、また危急の際は簡単容易に止水板として使用することができる。即ち、かかる止水構造は、前方の水からの水圧負荷が増大した場合の止水性、不要時の収納性及び取扱性、並びに、設置や連結の容易性及び作業性に優れるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、前方の水からの水圧負荷が増大した場合の止水性、不要時の収納性及び取扱性、並びに、設置や連結の容易性及び作業性のいずれにおいても優れた止水板と、これを用いた止水構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る止水板部材1の概要を示す斜視図である。
【
図2】第一実施形態に係る止水板部材1を折り畳んだ様子を示す斜視図である。
【
図3】第一実施形態に係る止水板部材1を含む止水板(止水構造)の概要を示す模式図である。
【
図4】
図1に示す止水板部材1の概略断面図であり、(1)は
図1のA-A線断面図であり、(2)はB-B線断面図である。
【
図5】止水板部材1の立設板3に設けられた凸部5aと、隣接する別の止水板部材1の立設板3に設けられた凹部5b、とが連結する様子を示す模式図である。
【
図6】従来の板状の止水板を並べた止水構造の様子を示す模式図である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る止水板部材1の概要を示す斜視図である。
【
図8】第二実施形態に係る止水板部材1を折り畳んだ様子を示す斜視図である。
【
図9】第二実施形態に係る止水板部材1を含む止水板(止水構造)の概要を示す模式図である。
【
図10】
図7に示す止水板部材1の概略断面図であり、(1)は
図1のA-A線断面図であり、(2)はB-B線断面図である。
【
図11】隣接する止水板部材1の連結部5の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図12】隣接する止水板部材1の連結部5の別の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図13】隣接する止水板部材1の連結部5のまた別の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図14】隣接する止水板部材1の連結部5の更に別の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図15】隣接する止水板部材1の連結部5の更に別の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図16】隣接する止水板部材1の連結部5の更に別の変形例の構造を説明するための模式図である。
【
図17】本発明の他の実施形態に係る止水板部材31の概要を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の止水板部材並びにこれを用いた止水板及び止水構造の代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて大小や長短の比率や数量を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0023】
また、本実施形態では、建物開口を基準として、間口方向のうちの一方をX1、他方をX2とし、前後方向のうち前方をY1、後方をY2とし、また、高さ方向のうち上方をZ1、下方をZ2として説明する。
【0024】
<第一実施形態>
1.止水板部材及び止水構造の概要
図1~
図4を参照しながら第一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る止水板部材1の概要を示す斜視図である。
図1に示すように、止水板部材1は、立設板3と、立設板3の両側縁にあって、止水板部材1を間口方向(矢印X
1及び矢印X
2の方向)に連結する連結部5と、立設板3の両側から前方に向けて延出する側板7(7a,7b)と、を備えている。
【0025】
かかる止水板部材1は、詳細は後述するが、不要時又は移送時には、
図2に示すように折り畳むことができる。
図2は、止水板部材1を折り畳んだ様子を示す斜視図である。また、
図3に示すように、建物開口81の開口前方において複数個が載置され、前方から後方(矢印Y
2)への水浸入を防止する止水板(止水構造)101を構成するものであり、側板7(7a,7b)が、隣接して連結される別の止水板部材の側板7(7a,7b)と当接可能に形成されている。側板7a,7bは、立設板3の両側のうちの両端縁から前方に向けて延出している。また、側板7aは、側板71a及び72aとで構成され、側板7bは側板71b及び72bとで構成されている。
【0026】
図3は、連結した止水板部材1を含む止水板(止水構造)101の概要を示す模式図である。
図3においては3つの止水板部材1が連結されて1つの止水板(止水構造)を形成しており、両サイド(止水板101の間口方向の両端に位置する)の2つの止水板部材1が、建物間口81の前方端縁83にそれぞれ当接している。
【0027】
本実施形態の止水板部材1においては、側板7a,7bのうちの側板72a,72bが、立設板3と外形寸法が略同一の略矩形状の枠体9の一部を構成しており(側板7の72a,72bは、側板7a,7bを構成するとともに、枠体9も構成する。)、かかる枠体9は立設板3と対向する位置に設けられている。そして、止水板部材1においては、側板7a,7bのうちの側板71a,71b7が、立設板3に略平行になるように、内側(即ち
図1に示す矢印の方向)に回動可能に形成されている(
図4参照)。
【0028】
更に、詳細は後述するが、立設板3の下側から前方に向けて延出する下板11が形成され、この下板11は各側板7とそれぞれ係合されていて、かつ立設板3側に回動可能に形成されており、立設板3の上側から前方に向けて延出する上板13が形成され、この上板13は各側板7とそれぞれ係合されていて、かつ立設板3側に回動可能に形成されている。
【0029】
2.止水板部材1及び止水構造の具体的内容
止水板部材1及びこれを用いた止水構造を具体的に説明する。
図4は、
図1に示す止水板部材1の概略断面図であり、(1)は
図1のA-A線断面図であり、(2)はB-B線断面図である。止水板部材1が具備する立設板3は、
図1に示すように、立設板3の両側縁にあって、止水板部材1を間口方向(
図1の矢印X
1及び矢印X
2の方向)に連結する連結部5を備えている。
【0030】
立設板3は、止水板部材1の全体を支持するとともに隣接する止水板部材1と連結する連結部5(5a,5b)を有するものであり、
図1及び
図4に示すように、その内側の面には格子状のリブ3aが形成されており、立設板3に剛性を付与している。本実施形態の立設板3が、外形が略矩形であり、所定の厚みを有している。
【0031】
立設板3の両側縁には、止水板部材1を間口方向(矢印X
1及び矢印X
2の方向)に連結する連結部5が設けられており、止水板部材1複数個を並べて連結するためのものであり、
図1~
図4に示すように、凸部5a及び凹部5bを含んでいる。
【0032】
凸部5aは、断面略円弧状に形成されており(
図4(1)参照)、立設板3の一方の端部において、上から下まで延びるように形成され、外側(矢印X
1の方向)に膨出乃至は突出している。また、凹部5bは、これも断面略円弧状であり(
図4(1)参照)、立設板3の他方の端部において、上から下まで延びるように形成され、内側(矢印X
1の方向)に湾入するように溝状に凹んでいる。
【0033】
したがって、止水板部材1を複数個横方向(即ち、矢印X1及び矢印X2の方向)に並べて連結する場合、その連結方向において、止水板部材1の凸部5aは、隣接する止水板部材1の凹部5bに入り込んで、両者は係合することになる。このとき、凸部5aと凹部5bにそれぞれ形成された略円弧状の面は、略同一(乃至は相似)の形状となっていることが望ましく、更に凸部5aの円弧状面が凹部5bの円弧上面に比べて、大きく形成されていることが望ましい。具体的には、凸部5aの円弧状面の曲率半径が、凹部5bの円弧状面のそれよりも大きく形成されていると、両者を連結させた場合、両者間が密接強固に連結されるため、当該部位の止水性が向上するとともに、連結強度も高くすることができる。なお、凸部5aの円弧状面の曲率半径Raと、凹部5bの円弧状面の曲率半径Rbとの関係[Ra/Rb]は、1.01~1.05が望ましい。
【0034】
ここで、
図5は、止水板部材1の立設板3に設けられた凸部5aと、隣接する別の止水板部材1の立設板3に設けられた凹部5bとが連結する様子を示す模式図であり、
図1においていえば矢印Z
2の方向からみた断面図である。本実施形態において、凸部5a及び凹部5bは、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた場合(即ち、互いに連結する方向に力が加わった場合)には互いに係合し合う形状を有するとともに、連結した止水板部材1を互いに離間させようとする場合(即ち、互いに当該連結方向と反対の方向に力が加わった場合)には係合を保持する(離間を抑制する)形状を有している。
【0035】
隣接する止水板部材1を連結する際、左側の止水板部材1の立設板3に設けられた凸部5aは、矢印X1の方向に移動し、また、右側の止水板部材1の立設板3に設けられた凹部5bは、矢印X2の方向に移動することにより、凸部5aは凹部5bに圧入されて入り込み互いに雌雄係合する。このとき、圧入に代えて、凸部5aと凹部5bとが互いに上下(高さ)方向逆向きにスライドするようにして、雌雄係合してもよい。
【0036】
特に本実施形態においては、凸部5a及び凹部5bのいずれもが断面略円弧状であり、かつ、いずれにも中空部5a1が及び5b1が形成されていることから、連結時には凸部5a及び凹部5bが撓んで凸部5aが凹部5bに圧入されて入り込み易い。また、連結状態においては、凸部5aの端(円弧の付け根側)部5a2と凹部5bの端(円弧の先端側)部5b2とがそれぞれ反し部となって、凸部5aが矢印X2の方向に移動すること、及び、凹部5bが矢印X1の方向に移動することを抑制し、両者が分離しないように保持力を発揮する。
【0037】
止水板部材1は、立設板3の両端縁から前方に向けて延出する側板7a,7bを具備している。側板7a,7bを構成する側板71a,71bは、それぞれ枠体9を構成する側板72a,72bにそれぞれヒンジ機構7a
1,7b
1で接続されており、当該側板71a,71bは立設板3と略平行になるように内側(即ち
図1及び
図4(1)に示す矢印の方向)に回動可能に形成されている。即ち、止水板部材1を折り畳んだ状態においては、
図2に示すように、側板71a,71bは立設板3と略平行になる。
【0038】
これらの側板7a,7bは、例えば、上下方向(高さ方向)において、立設板3の高さの1/3以上、好ましくは半分以上の高さの範囲で形成されることが望ましい。また、側板7a,7bは、隣接する止水板部材1を連結した際に、同様に、立設板3の高さの1/3以上、好ましくは半分以上の高さの範囲で、隣接する別の止水板部材1の側板7a,7bと当接することが望ましい。
【0039】
側板7a,7bの高さが適切であれば、側板7a,7b同士の当接部分が、水圧などの影響で高さ方向(上下方向)に不等にずれることがなく、したがって一方の止水板部材1の側板7a,7bが他方の止水板部材1の側板7a,7bに乗り上げたりすることがないため、止水板部材1を複数含む止水構造としての作用効果を確実に発揮することができる。
【0040】
上記のような側板7a,7bの乗上げを回避するため、一方の止水板部材1の側壁7a,7bは、上記の範囲で形成しておき、他方の止水板部材1の側板7a,7bは比較的低く形成しておくとよい。ただし、その場合でも、当接する範囲は、立設板3の高さの1/3以上であることが望ましい。
【0041】
なお、側板71aには、
図1に示すように、後述する下板1及び上板13との係合用の溝部(係合部)7a
2が上辺に2か所及び下辺に2か所それぞれ設けられている。また、図示しないが、側板71bにも、側板71aと同様に、後述する下板1及び上板13との係合のための係合用の溝部(係合部)7b
2が上辺に2か所及び下辺に2か所それぞれ設けられている。
【0042】
次に、止水板部材1は、
図1に示すように、立設板3の下側及び上側から前方に向けてそれぞれ延出する下板11及び上板13を有している。
【0043】
下板11は、
図1及び
図4(2)に示すように、2枚の略長方形状の板体が中央部でヒンジ機構11aによって互いに接続された構成を有しており、それぞれの板体は端部においてヒンジ機構11bによって立設板3及び枠体9に接続されている。この下板11は、
図4(2)に示す矢印の方向に折り畳んで立設板3側に回動可能に形成されており(即ち、矢印Z
1及び矢印Z
2の方向において2つに折り畳まれるように形成されており)、折り畳んだ後は、立設板3に略平行な状態となる。
【0044】
そして、下板11の矢印X
1及び矢印X
2方向における端縁には、係合用の突起部(係合部)11cが設けられており、
図1に示すように、側板71aの係合用の溝部7a
2と係合している。側板71bの係合用の溝部7b
2とも係合している。かかる係合によって止水板部材1は更に向上した剛性を有する。
【0045】
また、上板13は、
図1及び
図4(2)に示すように、2枚の略長方形状の板体が中央部でヒンジ機構13aによって互いに接続された構成を有しており、それぞれの板体は端部においてヒンジ機構13bによって立設板3及び枠体9に接続されている。この上板13は、
図4(2)に示す矢印の方向に折り畳んで立設板3側に回動可能に形成されており(即ち、矢印Z
1及び矢印Z
2の方向において2つに折り畳まれるように形成されており)、折り畳んだ後は、立設板3に略平行な状態となる。
【0046】
上板13の矢印X
1及び矢印X
2方向における端縁には、係合用の突起部(係合部)13cが設けられており、
図1に示すように、側板71aの係合用の溝部7a
2と係合している。側板71bの係合用の溝部7b
2とも係合している。かかる係合によって止水板部材1は更に向上した剛性を有する。
【0047】
上記した立設板3、側板7、下板11及び上板13は、種々の材料によって構成することができるが、例えば合成樹脂や金属等が挙げられ、なかでも成形性や耐錆性、耐候性等の観点から、あるいは部材の軽量化の観点から、熱可塑性合成樹脂が望ましい。
【0048】
また、止水板部材1並びに、立設板3、側板7、下板11及び上板13の寸法については、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよいが、例えば、下記のような範囲であるのが望ましい。
【0049】
(1)立設板
上下方向の高さ:20~60cm程度
間口方向の幅: 30~70cm程度
前後方向の長さ:1~10cm程度
(2)側板
上下方向の高さ:30~70cm程度
間口方向の幅: 0.3~3cm程度
前後方向の長さ:10~70cm程度
(3)下板及び上板
上下方向の高さ:0.3~3cm程度
間口方向の幅: 30~70cm程度
前後方向の長さ:10~70cm程度
【0050】
3.止水板部材1及び止水構造101の使用方法
止水板部材1は使用時には
図1に示すように組みあがった状態であるが、収納時や移送時には
図2に示すように折り畳まれた状態である。
図1に示す状態から
図2に示す状態にするには、まず、側板7a,7bを、
図4(1)の矢印で示す方向に、それぞれヒンジ機構7a
1及び7b
1を軸に回動させて、立設板3と略平行になるように内側に回動させて畳み込む。
【0051】
そして、このとき、下板11を、
図4(2)の矢印で示す方向に、ヒンジ機構11a,11bを軸にして2つに折り畳むように回動させ、立設板3と略平行になるようにそれぞれ内側に回動させて折り畳み、略同時に、上板13を、これも
図4(2)の矢印で示す方向に、ヒンジ機構13a,13bを軸にして2つに折り畳むように回動させ、立設板3と略平行になるようにそれぞれ内側に回動させて折り畳む。
【0052】
このようにして、
図1に示す組みあがった状態の止水板部材1を、側板71a,71b、下板11及び上板13を回動させて畳むことにより、
図2に示す折り畳んだ状態の止水板部材1とすることができる。
【0053】
なお、止水板部材1を
図2に示す状態から
図1に示す状態にするためには、枠体9と立設板3とを互いに離間するように移動させ、側板71a,71bを上記と反対の方向に移動させるとともに、下板11及び上板13を拡げる。
【0054】
このとき、下板11の突起部11cを側板7aの溝部7a
2に係合させるとともに、
図4(2)に示すように、下板11の突起部11cも側板7bの溝部7b
2に係合させ、更に、上板13の突起部13cを側板7aの溝部7a
2に係合させるとともに、
図4(2)に示すように、上板13の突起部11cも側板7bの溝部7b
2に係合させる。
【0055】
先にみたように、
図2に示す折り畳んだ状態の止水板部材1は、側板71a,71b、下板11及び上板13を回動させて拡げることにより、
図1に示す組みあがった状態の止水板部材1とすることができ、これを間口方向に3つ並べ、各止水板部材1を矢印X
1及び矢印X
2の方向に互いに押圧させ、凸部5aを隣接する凹部5bに圧入により入れ込んで係合させれば、
図3に示す状態の止水構造(止水材)101を得ることができる。なお、本実施例では、止水板部材1を3つ並べた場合について説明したが、その配列(連結)数は、2つ以上の複数であれば、同様の効果を奏することはいうまでもない。
【0056】
従来のように単なる板状の止水板を並べた止水構造の様子を
図6に示す。
図6(1)に示すように、3枚の板状の止水板21を並べ、両サイドの止水板21を建物開口81の端縁83に当接するように設置した場合、
図6(2)に示すように、矢印の方向に水が流れてきて水圧がかかった場合、中央の止水板21が奥に移動するとともに両サイドの止水板21が斜めになり、止水効果(特に止水板21と建物開口の端縁83の止水性)を損なってしまう。
【0057】
これに対し、
図2に示す構造の本実施形態の止水構造(止水板)101であれば、同様に水が流れ込んで水圧がかかったとしても(
図3の矢印Y
2の方向)、隣接する止水板部材1同士が側板7a,7bの部分で当接し合って干渉し合い、止水板部材1のいずれかに偏った力が不等に加わったとしても、止水板部材1のいずれかが後方や前方に斜め移動することがなく、建物開口縁からの水浸入や止水板部材1間からの水浸入が防止できる。
【0058】
<第二実施形態>
図7~
図10は、本発明の止水板部材1及びこれを用いた止水材101の第二実施形態を示すものである。第二実施形態は第一実施形態とほぼ共通するため、ここでは第一実施形態に対する相違点について説明する。
【0059】
本発明の一実施形態に係る止水板部材10は、立設板3と、立設板3の両側縁にあって、止水板部材1を間口方向(矢印X1及び矢印X2の方向)に連結する連結部5と、立設板3の両側から前方に向けて延出する側板7(70a,70b)と、を備えている。そして、側板70aは、側板701a及び702aとで構成され、側板70bは側板701b及び702bとで構成されている。
【0060】
かかる止水板部材10は、不要時又は移送時には、
図8に示すように折り畳むことができる。
図8は、止水板部材10を折り畳んだ様子を示す斜視図である。また、建物開口81の開口前方において複数個が載置され、前方から後方(矢印Y
2)への水浸入を防止する止水板(止水構造)101を構成するものであり、側板70a,70bが、隣接して連結される別の止水板部材の側板70a,70bと当接可能に形成されている。そして、側板70a,70bは、立設板3の両側のうちの両端縁から前方に向けて延出している。
【0061】
図9は、
図7に示す止水板部材10を連結した止水板(止水構造)101の概要を示す模式図であり、
図10は、
図7に示す止水板部材10の概略断面図であり、(1)は
図7のA-A線断面図であり、(2)はB-B線断面図である。
【0062】
図9においては3つの止水板部材10が連結されて1つの止水板(止水構造)101を形成しており、両サイド(止水板の間口方向の両端に位置する)の2つの止水板部材10が、建物間口81の前方端縁83にそれぞれ当接している。
【0063】
止水板部材10においては、側板702a,702bが、立設板3と外形寸法が略同一の略矩形状の枠体9の一部を構成しており(側板7の702a,702bは、側板70a,70bを構成するとともに、枠体9も構成する。)、かかる枠体9は立設板3と対向する位置に設けられている。そして、側板701a,701bは、それぞれ側板702a,702bのやや内側に位置し、止水板部材10は側面が部分的に若干の窪みを有していることになる。したがって、
図9に示すように、止水板101においては、隣接する止水板部材1の側板701a,701bの間に若干の隙間Gがあるが、側板702a,702bの部分で両者は当接している。この隙間の距離は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、例えば1~20mmであってもよい。かかる構成をとれば、側板701a,701bの部分の表面側(当接面側)に成形不良などに起因する凹凸があったとしても、側板702a,702bの部分で両者は適切に当接するので、本発明の効果を果たすことができる。
【0064】
以上、本発明の代表的な実施形態に係る止水板部材1及びこれを用いた止水構造101について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更後の態様(変形例)も本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。以下にかかる変形例の一部を記載する。
【0065】
<変形例>
図11~
図16は隣接する止水板部材1の連結部5、あるいは側板7(7a又は71a,7b又は71b)の変形例の構造を説明するための模式図である。ここでは、上記実施形態の連結部5又は側板7の場合と異なる点を中心にして、連結部5及び側板7の変形例について考えられる態様を説明する。なお、
図5に示す中空部5a
1,5b
1のような中空部は適宜形成してもしなくてもよいが、中空部を備えておれば、連結時に圧入が容易になるので好ましい。
【0066】
図11に示す態様では、隣接する止水板部材1が連結した場合に、立設板3の両側から矢印Y
1の方向に向けて延出するように側板75aと側板75bとが当接する構成となっている。特に側板75bは、立設板3の端縁から更に外側において矢印Y
1の方向に延出している。そして、凸部5a
3及び凹部5b
3は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、互いに係合するとともに、
図5の態様と同様に係合の保持力を発揮する構成を有している(なお、本変形例では、図中右側に位置する側板75bが外側から延出し、左側の側板75aが内側に控えて延出して、当接する構成になるが、それとは反対に側板75aが外側から延出し、側板75bが内側に控えて延出して、当接するように形成されてもよい)。
【0067】
図12に示す態様では、隣接する止水板部材1が連結した場合に、立設板3の両側から矢印Y
1の方向に向けて延出するように側板76aと側板76bとが空隙域15を形成しつつ当接する構成となっている。即ち、側板76aと側板76bはそれぞれ先端側(矢印Y
1の方向の先端)に外側に向けて延設部が形成されており、この延設部が互いに当接する。そして、凸部5a
3及び凹部5b
3は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、互いに係合するとともに、
図5の態様と同様に、係合の保持力を発揮する構成を有している(なお、本変形例では、矢印Y
1の方向の先端に延設部を形成しているが、先端のみならず、先端と付け根側との中間域に形成されてもよい)。
【0068】
図13に示す態様でも、隣接する止水板部材1が連結した場合に、凸部5a
3及び凹部5b
3は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、互いに係合するとともに、
図5の態様と同様に、係合の保持力を発揮する構成を有している(なお、中空部はあってもなくてもよい。)。また、立設板3の両側から矢印Y
1の方向に向けて延出するように側板77aと側板77bとが当接するとともに、側板77a及び側板77bにそれぞれ設けられた凸部5a
4及び凹部5b
4もが、互いに係合するとともに、
図5の態様と同様に、係合の保持力を発揮する構成を有している(なお、本変形例では、図中右側に位置する側板77bに凹部77b
1が設けられ、側板77aに凸部77a
1を設けた構成になるが、そのとは反対に側板77bに凸部77a
1が設けられ、側板77aに凹部77b
1を設けた構成にしてもよい)。
【0069】
更に、
図14に示すように、連結部には、互いに逆方向に延びてカギの手状に屈曲した屈曲部5a
4,b
4同士による連結方法を採用してもよい。これらの屈曲部5a
4,b
4は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、矢印Y
1及び矢印Y
2方向に少しずらしつつ連結させることによって互いに係合し、係合した後は、屈曲部5a
4,b
4の内側部分同士に力がかかり、係合の保持力を発揮する構成を有している。
【0070】
更に、
図15に示すように、連結部には、互いに逆方向に延びて同方向に屈曲するカギの手状の屈曲部5a
5,b
5同士による連結方法を採用してもよい。これらの屈曲部5a
5,b
5は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、断面略コの字状で長尺状の係合部材23を嵌めることによって互いに係合する。係合した後は、屈曲部5a
5,b
5の内側部分と係合部材23の内側部分とに力がかかり、係合の保持力を発揮する構成を有している。
【0071】
更にまた、
図16に示すように、連結部には、対向する方向に延びる凸部5a
6,5b
6を備えた立設板3同士による連結方法を採用してもよい。これらの凸部5a
6,5b
6は、隣接する止水板部材1を連結方向に近付けた際に、凸部5a
6,5b
6と略同一乃至は相似の形状の凹部を両側に有する長尺状の係合部材25に圧入されてこれと係合する。係合した後は、
図5において上述したのと同様に、係合の保持力を発揮する構成を有している。
【0072】
止水板部材1の更なる実施形態としては、
図17に示す構造の止水板部材31であってもよい。この止水板部材31は、立設板3と、立設板3の両側縁にあって、止水板部材31を間口方向に連結する連結部5(5a,5b)と、立設板3の両側から前方に向けて延出する略直角三角形状の側板7(7a,7b)と、を備え、側板7(7a,7b)が、隣接して連結される別の止水板部材31の側板側板7(7a,7b)と当接可能に形成されている。
【0073】
その他の変形例としては、例えば側板7と下板11及び上板13との係合態様としては、上記の実施形態のほか、突起部と嵌合穴とによるパッチン嵌合や閂と嵌合穴による閂嵌合等の従来公知の係合方法を採用してもよい。
【0074】
また、止水性を向上させるために、従来公知の方法を採用してもよい。例えば、立設板3の底部に止水パッキンを設けてもよく、また、建物開口81の前縁と、止水板部材1の立設板3との止水にも、止水パッキンを設けてもよい。
【0075】
止水板部材1の連結部間の止水にも、止水パッキンを併用してもよいことは言うまでもないが、連結した止水板部材1に対して前方から後方に向けて水圧が負荷されると、当接した側板7からの力で、連結部間を左右に離隔しようとする応力が加わる。このとき、連結部にかかる左右への離隔応力が凸部5aと凹部5bを変形させるように密接させるので、その間の止水性が更に向上するという効果を奏するのである。
【符号の説明】
【0076】
1,10 止水板部材
3 立設板
3a リブ
5 連結部
5a 凸部
5b 凹部
5a1,5b1 中空部
7,7a,7b、71a,71b,72a,72b 側板
701a,701b,702a,702b 側板
7a1,7b1 ヒンジ機構
7a2,7b2 溝部
9 枠体
11 下板
11a,11b ヒンジ機構
11c 突起部
13 上板
13a,13b ヒンジ機構
15 空隙域
101 止水構造