(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】フルオロポリマーの合成方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/22 20060101AFI20230612BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08F14/22
C08F2/24 A
(21)【出願番号】P 2020521361
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2018078254
(87)【国際公開番号】W WO2019076901
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-16
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ダプリーレ, フィオレンツァ
(72)【発明者】
【氏名】カペリュシュコ, ヴァレーリー
(72)【発明者】
【氏名】ケント, ブラッドリー レーン
(72)【発明者】
【氏名】ブリナーティ, ジュリオ
(72)【発明者】
【氏名】ポンタ, ラウラ
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-067795(JP,A)
【文献】特開平08-120211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0150519(US,A1)
【文献】米国特許第09434837(US,B1)
【文献】米国特許第06869997(US,B1)
【文献】特表2014-517128(JP,A)
【文献】特表2014-505134(JP,A)
【文献】特表2000-500791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0221776(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 14/22
C08F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1,1-ジフルオロエチレン(VDF)由来の反復単位を含むポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法であって、
(I)1,1-ジフルオロエチレン(VDF)の少なくとも第1の部分を水性媒体及び少なくとも1つの重合開始剤と接触させて、第1の混合物[混合物(M1)]を提供する工程と、
(II)前記VDFの第1の部分の少なくとも一部を重合させて、第2の混合物[混合物(M2)]を提供する工程と、
(III)工程(II)で得られた前記混合物(M2)を、少なくとも1つの酸官能性化合物[化合物(A)]、又はこうした化合物の対応するアルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはアンモニウム塩の少なくとも第1の部分と接触させて第3の混合物[混合物(M3)]を提供する工程と、
(IV)工程(III)で得られた前記混合物(M3)を、VDFの少なくとも第2の部分を供給することによって重合させて前記ポリマー(VDF)を提供する工程と、を含み、
前記化合物(A)は、以下の式(A-I)に従い:
RO-S(=O)
2-R1-CH=CH
2(A-I)
式中、
Rは水素原子、アンモニウムイオン、又はアルカリ金属イオンであり、
R1はシグマ結合又は1~3の炭素原子を含むアルキレン鎖である、
方法。
【請求項2】
前記工程(II)における前記重合は、VDFが少なくとも0.5%、及び最大15%の変換に達するまで実施され、前記変換は[(形成されたポリマーの質量/合計ポリマーの質量)×100]として定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマー(VDF)は、VDF由来の反復単位から本質的になるVDFのホモポリマー[ポリマー(VDF
H)]である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(I)は、前記VDFの少なくとも第1の部分をVDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー[モノマー(F)]の少なくとも第1の部分と接触させることによって実施され、
前記工程(II)は、前記VDFの第1の部分の前記少なくとも一部分を前記モノマー(F)の前記少なくとも一部分と重合することによって実施され、
前記工程(III)は上記で定義したとおりであり、
前記工程(IV)は、少なくとも前記VDFの第2の部分を供給することにより前記混合物(M3)を重合することによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(IV)は、前記少なくとも1つの化合物(A)の少なくとも第2の部分、及び/又は前記少なくとも1つのモノマー(F)の少なくとも第2の部分を供給することにより実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー(VDF)は、VDF由来の反復単位、及びVDFとは異なる少なくとも1つのモノマー[モノマー(F)]由来の反復単位を含むVDFのコポリマー[ポリマー(VDF
C)]である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー(VDF
C)が結晶質又は部分的に結晶質であり、ポリマー(VDF)の反復単位の合計モルに対して0.05モル%~14.5モル%の前記少なくとも1つのモノマー(F)由来の反復単位と、ポリマー(VDF)の反復単位の合計モルに対して少なくとも85.0モル%の量のVDF由来の反復単位と、を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー(VDF
C)は非晶質であり、前記ポリマー(VDF
C)の全反復単位に対して少なくとも10モル%、及び最大で45モル%のHFP由来の反復単位を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
ポリエーテルポリマー、アリルポリマー、及びビニルポリマーからなる群から選択されるポリマーが工程(I)又は工程(II)のいずれかで添加される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月17日出願の米国仮特許出願第62/573677号及び2017年11月02日出願の欧州特許出願第17199618.4号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フルオロポリマー、より具体的にはビニリデンフッ素(vinylidene fluorine)(VDF)を含むポリマーの合成のためのフッ素系界面活性剤を用いない重合方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーの合成に典型的に用いられる乳化重合法は、重合中の乳化を安定させるために用いられる(パー)フッ素化界面活性剤を必要とする。
【0004】
しかしながら、(パー)フッ素化界面活性剤は、重合(polymerazion)反応の阻害をもたらす成長中のポリマー鎖と界面活性剤との間の原子移動を防ぐなどの利益を合成に与えるが、上記の(パー)フッ素化界面活性剤は高価である上に反応環境内に残留する。
【0005】
更に、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)、及びパーフルオロノナン酸(PFNA)などのフッ素系界面活性剤は、その残留性、毒性、並びに一般集団及び野生生物の血中における広範な発生のために監督官庁の注目を引いた。2009年に、PFASは、その遍在性、残留性、生体内蓄積性、及び毒性のためにストックホルム条約(the Stockholm Convention)の残留性有機汚染物質リストに掲載された。その結果、より短鎖のフッ素系界面活性剤ほど哺乳類中に蓄積しにくくなるため、PFOS及びPFOAは、パーフルオロヘキサン酸(PFHxA)、パーフルオロブタンスルホン酸、及びパーフルオロブタンスルホネート(PFBS)などの短鎖パーフルオロ化酸(PFAS)に置き換えられた。
【0006】
しかしながら、これらの化合物が化学的に安定であり、環境に残留し得るという懸念は依然として存在する。
【0007】
このため、現在、フッ素系界面活性剤の使用を必要としないフルオロポリマーの合成方法が研究開発されている。
【0008】
例えば、米国特許第9434837号明細書(ARKEMA INC.)は、水性反応媒体中でフルオロポリマーを調製する方法であって、
a)少なくとも1つのラジカル開始剤、少なくとも1つの酸官能性モノマー、及び少なくとも1つのフルオロモノマーを含む水性乳剤を形成することと、
b)フリーラジカル開始剤を用いて上記の酸官能性モノマー及び上記の少なくとも1つのフルオロモノマーの重合を開始して、安定したラテックス乳剤コポリマーを形成することと、を含み、
プロセスがフッ素系界面活性剤を使用しない方法に関する。
【0009】
酸官能性モノマーに加えて、プロセスに別の界面活性剤を用いてポリマー乳剤に更なる安定性を提供することもできる。
【0010】
米国特許第6869997号明細書(ARKEMA INC.)は、モノマー、ラジカル開始剤、及び界面活性剤として3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩を含む水性反応媒体中で少なくとも1つのフルオロモノマーを重合することを含むプロセスを開示している。より具体的には、このプロセスは、反応容器に脱イオン水、少なくとも1つの3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、並びに任意で1つ以上の防汚剤、連鎖移動剤、及び緩衝剤を投入する第1の工程(a)を含む。上記の工程(a)の後に、反応容器を所望の温度に加熱する工程(b)、及び少なくとも1つのフルオロモノマーを加熱された反応容器に供給する工程(c)が続く。必要であれば、加熱された反応容器に少なくとも1つのラジカル開始剤及び少なくとも1つのその他の界面活性剤を供給するか、又は加熱された反応容器に少なくとも1つのフルオロモノマーを供給する工程(d)を実施してもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本出願人は、フッ素系界面活性剤の使用によって生じる毒物学的な問題を十分に認識していた。そのため、本出願人は、フッ素系界面活性剤の使用を必要としない、水性乳化重合によるフルオロポリマーの合成方法を開発する問題に直面した。
【0012】
より具体的には、本出願人は、特に高温及び光に曝露することによる、改善された熱安定性を有するフッ化ビニリデン(VDF)含有ポリマーの合成方法であって、フッ素系界面活性剤の完全な不在下で実施される方法を提供する問題に直面した。
【0013】
更に、本出願人は、コーティング用途に好適な平均粒径を有するVDF含有ポリマーの合成方法を提供する問題に直面した。
【0014】
本出願人は、上記で引用した米国特許第9,434,837号明細書から当該技術分野で既知の方法は、上記の要件を満たさないことに気づいた。実際に、それに開示される方法で得られたポリマーは、高温で加熱した際に安定せず、また、平均粒径が小さすぎてコーティング用途に好適な平均粒径を有さず、そのため、粘度がコーティング用途での使用に適さなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、少なくとも1,1-ジフルオロエチレン(VDF)由来の反復単位を含むポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法であって、
(I)1,1-ジフルオロエチレン(VDF)の少なくとも第1の部分を水性媒体及び少なくとも1つの重合開始剤と接触させて、第1の混合物[混合物(M1)]を提供する工程と、
(II)上記のVDFの第1の部分の少なくとも一部を重合させて、第2の混合物[混合物(M2)]を提供する工程と、
(III)工程(II)で得られた上記の混合物(M2)を、少なくとも1つの酸官能性化合物[化合物(A)]、又はこうした化合物の対応するアルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはアンモニウム塩の少なくとも第1の部分と接触させて第3の混合物[混合物(M3)]を提供する工程と、
(IV)工程(III)で得られた上記の混合物(M3)を、VDFの少なくとも第2の部分を供給することによって重合させて上記のポリマー(VDF)を提供する工程と、を含む方法に関する。
【0016】
第2の態様では、本発明は、上記で定義されたプロセスによって得られるフッ化ビニリデン(VDF)含有ポリマー[ポリマー(VDF)]に関する。
【0017】
更なる態様では、本発明のポリマー(VDF)は、上記のポリマー(VDF)の鎖末端の総量を基準に10%未満の量で式-CF2-CH2-CH3の鎖末端を含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書及び以下の特許請求の範囲内で使用される場合、
- 例えば「ポリマー(P)」のような表現などにおける、式を特定する記号又は数字の前後における括弧の使用は、本文の残部と記号又は数字とをより良く区別するという目的を有するにすぎず、故に上記の括弧は省略することもでき、
- 用語「1,1-ジフルオロエチレン」、「1,1-ジフルオロエテン」及び「フッ化ビニリデン」は同義語として用いられ、
- 用語「ポリ-(1,1-ジフルオロエチレン)」及び「ポリフッ化ビニリデン」は同義語として用いられ、
- 「ポリマー(VDF)」に対して称される用語「非晶質」は、上記のポリマー(VDF)が低程度の結晶化度(20体積%未満の結晶相)及び室温未満のガラス転移温度(Tg)を有し、好ましくはTgが10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃であることを示すことが意図され、
- 用語「非晶質ポリマー(VDF)」は、「フルオロエラストマー」の同義語として用いられ、
-「ポリマー(VDF)」に対して称される表現「部分的に結晶質」は、上記のポリマーが、少なくとも20体積%、好ましくは40体積%の結晶度を有することを示すことが意図され、
-「ポリマー(VDF)」に対して称される表現「結晶質」は、上記のポリマーが、少なくとも50体積%、好ましくは最大70体積%の結晶度を有することを示すことが意図され、
- 表現「1,1-ジフルオロエチレンに由来する反復単位を含むポリマー(VDF)」は、好適な反応を介して、任意選択的に少なくとも1種の更なるモノマー(MF)の存在下で、少なくとも1,1-ジフルオロエチレンモノマーを一緒に反応させることによりポリマー(P)が得られることを示すことが意図され、
- 用語「分散液(D)」は、少なくとも1つのポリマー(VDF)の粒子を含む水性分散液を指すことが意図され、上記の粒子は、ISO13321に従って測定して1μm未満の平均寸法を有し、そのため、「分散液(D)」及び「ラテックス」という用語は同義語であることが意図される。
【0019】
重合の上記の工程(I)では、核剤として作用する有効量のポリマーを組み込むことは、適切な平均粒径を有する粒子の水性分散液の生成を促進することを補助するのに有利となり得る。ポリマーは、ポリエーテルポリマー、アリルポリマー、ビニルポリマーなどからなる群から、好ましくはビニルポリマーから選択され得る。
【0020】
本発明で有用なビニルポリマーは、ビニル又はアリル官能基を有し、カルボキシル、ホスホネート、スルホネート、又はその他のアニオン荷電可能基を含むモノマー、又はこうしたモノマーの対応するアルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはアンモニウム塩の重合によって得られるポリマーから選択され得る。
【0021】
好適なモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ビニル酢酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルホスホン酸、アリルスルホン酸、アリルホスホン酸、及び水溶性アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はそのアンモニウム塩が挙げられる。上記のモノマーは任意で、特に少なくとも1つのハロゲン化物原子、フッ化物原子を含むことができる。
【0022】
本発明で有用な特に好適なビニルポリマーは、ポリ(ビニルスルホン酸)及びその塩、ポリ(ビニル酢)酸及びその塩、並びにポリ(アクリル)酸及びその塩である。
【0023】
上記のビニルポリマーは、それ自体として、又はラテックス若しくは水性媒体中分散液形態で、プロセスの工程(I)での反応混合物に添加することができる。
【0024】
あるいは、上記で定義されたビニルポリマーは、それ自体として、又はラテックス若しくは水性媒体中分散液形態でのいずれかで、重合の工程(II)で添加することができる。
【0025】
プロセスの工程(I)又は工程(II)のいずれかで添加される本発明で有用なビニルポリマーの量は、一般に上記の化合物(A)の重量を基準に30重量%以下である。
【0026】
好ましくは、上記の工程(II)における重合は、上記のVDFが少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%の変換に達するまで実施され、変換は[(形成されたポリマーの質量/合計ポリマーの質量)x100]として定義される。
【0027】
好ましくは、上記の工程(II)における重合は、上記のVDFが最大15%、より好ましく少なくとも10%の変換に達するまで実施され、変換は上記で定義されるとおりである。
【0028】
当業者には、工程(II)の終了時に、上記の混合物(M2)は、上記の水性媒体と、上記の重合開始剤と、上記のVDFの第1の部分の非重合部と、上記のVDFの第1の部分の重合部を含む粒子と、を含むことは明らかであろう。
【0029】
有利には、上記の化合物(A)は、少なくとも1つのビニル基と、少なくとも1つのスルホン酸又はアルカリ金属とのその塩と、を含有する。
【0030】
好ましくは、上記の化合物(A)は、以下の式(A-I)に従い:
式中、
Rは水素原子、アンモニウムイオン、又はアルカリ金属イオンであり、より好ましくはRはアルカリ金属イオンであり、更により好ましくはRはナトリウム又はカリウムから選択され、
R1はシグマ結合又は1~3の炭素原子を含むアルキル鎖であり、より好ましくはR1はシグマ結合である。
【0031】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本出願人は、化合物(A)は、VDFと反応し、モノマー(F)と併用されると、最終ポリマー(VDF)の主鎖内で更なるモノマーとなるか、又は反応環境内で界面活性剤として作用するかのいずれかであるという意見を有する。
【0032】
好ましくは、上記の工程(IV)は、上記のVDFの第2の部分と同時に、上記の少なくとも1つの化合物(A)の第2の部分を供給することによって実施される。
【0033】
上記の工程(IV)は、1,1-ジフルオロエチレン(VDF)と上記の少なくとも1つの化合物(A)とを連続的又は逐次的な部分として段階的に供給することによって実施され得る。
【0034】
有利には、工程(IV)では上記の1,1-ジフルオロエチレンは連続的に供給される。
【0035】
上記の化合物(A)を逐次的な部分で供給することにより良好な結果が得られている。しかしながら、上記の化合物(A)が連続的に供給される実施形態もまた本発明に包含される。
【0036】
有利には、本発明のプロセスは、結晶質の、部分的に結晶質の、又は非晶質のポリマー(VDF)を製造することを可能にする。
【0037】
第1の好ましい実施形態によれば、上記のポリマー(VDF)は、VDFのホモポリマー[ポリマー(VDFH)]であり、すなわち、これはVDF(1,1-ジフルオロエチレンとも称される)由来の反復単位から本質的になる。
【0038】
本実施形態によれば、上記のポリマー(VDFH)は、VDF由来の反復単位を最大100モル%の量で含む。
【0039】
上記のポリマー(VDFH)は、その物理-化学的特性に影響を及ぼさず、又はこれを損なわない欠陥、末端基などのその他の部分を更に含んでもよい。
【0040】
有利には、上記のポリマー(VDFH)結晶質である。
【0041】
一実施形態によれば、上記の工程(I)は、上記のVDFの少なくとも第1の部分をVDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー[モノマー(F)]の少なくとも第1の部分と接触させることによって実施され、
上記の工程(II)は、上記のVDFの第1の部分の上記の少なくとも一部分を上記のモノマー(F)の上記の少なくとも一部分と重合することによって実施され、
上記の工程(III)は上記で定義したとおりであり、
上記の工程(IV)は、少なくとも上記のVDFの第2の部分と、上記の少なくとも1つの化合物(A)と、上記の少なくとも1つのモノマー(F)の少なくとも第2の部分と、を供給することにより上記の混合物(M3)を重合することによって実施される。
【0042】
当業者には、本実施形態の工程(II)の終了時に、上記の混合物(M2)は、上記の水性媒体と、上記の重合開始剤と、上記のVDFの第1の部分及び上記の少なくとも1つのモノマー(F)の非重合部と、上記のVDFの第1の部分及び上記の少なくとも1つのモノマー(F)の第1の部分の重合部を含む粒子と、を含むことは明らかであろう。
【0043】
本実施形態によれば、上記のポリマー(VDF)はVDFのコポリマー[ポリマー(VDFC)]であり、すなわち、これはVDF(1,1-ジフルオロエチレンとも称される)由来の反復単位、及びVDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー[モノマー(F)]由来の反復単位を含む。
【0044】
上記のモノマー(F)は、水素化モノマー[モノマー(FH)]又はフッ素化モノマー[モノマー(FF)]のいずれかであってよい。
【0045】
本明細書では、「水素化モノマー[モノマー(FH)]」という用語は、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和コモノマーを示すことが意図される。
【0046】
好適な水素化モノマー(FH)の非限定的な例としては、とりわけ、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどのビニルモノマー、並びにスチレン及びp-メチルスチレンのようなスチレンモノマーが挙げられる。
【0047】
本明細書では、「フッ素化モノマー[モノマー(FF)]」という用語は、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを示すことが意図される。
【0048】
好ましい一実施形態では、上記のモノマー(F)はモノマー(FF)である。
【0049】
好適なモノマー(F
F)の非限定的な例には、とりわけ、以下の:
(a)C
2~C
8フルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレン;
(b)C
2~C
8水素化モノフルオロオレフィン、例えばフッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン;
(c)CH
2=CH-R
f0(式中、R
f0は、C
1~C
6パーフルオロアルキル基である);
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ、及び/又はブロモ、及び/又はヨードC
2~C
6フルオロオレフィン;
(e)CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、C
1~C
6フルオロ又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7である);
(f)CF
2=CFOX
0(式中、X
0は、1つ以上のエーテル基を有するC
1~C
12オキシアルキル基又はC
1~C
12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である);
(g)CF
2=CFOCF
2OR
f2(式中、R
f2は、C
1~C
6フルオロ又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7又は1つ以上のエーテル基を有するC
1~C
6(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば-C
2F
5-O-CF
3である);
(h)式:
の(パー)フルオロジオキソール(式中、互いに等しいか又は異なるR
f3、R
f4、R
f5、及びR
f6のそれぞれは、独立して、フッ素原子、1つ以上の酸素原子を任意選択的に含むC
1~C
6フルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7、-OCF
3、-OCF
2CF
2OCF
3である)が挙げられる。
【0050】
最も好ましいモノマー(FF)は、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)及びフッ化ビニルである。
【0051】
有利には、本発明のポリマー(VDFC)は、結晶質、部分的に結晶質、又は非晶質であってよい。
【0052】
上記のポリマー(VDFC)が結晶質又は部分的に結晶質である場合、これは、好ましくは、ポリマー(VDF)の反復単位の合計モルに対して0.05モル%~14.5モル%、好ましくは1.0モル%~13.0モル%の上記のモノマー(F)由来の反復単位を含む。
【0053】
本実施形態によれば、上記のモノマー(F)は、好ましくは上記で詳述されたモノマー(FF)から選択される。
【0054】
好ましい実施形態によれば、上記の結晶質又は部分的に結晶質のポリマー(VDFC)は、耐薬品性、耐候性、及び耐熱性などのフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性を損なわないように、少なくとも85.0モル%、好ましくは少なくとも86.0モル%、より好ましくは少なくとも87.0モル%の量のVDF由来の反復単位を含む。例えば、上記の結晶質又は部分的に結晶質のポリマー(VDFC)がVDF由来の反復単位を85.0モル%未満の量で含む場合、対応するポリマーが、電解質液相として用いられる液体溶剤中に溶解してしまうため、これは電池用複合体セパレータを製造するためのコーティング組成物を配合するために用いることはできない。
【0055】
上記のポリマー(VDFC)が非晶質である場合、これは、好ましくは少なくともHFP由来の反復単位を含む。
【0056】
この場合、非晶質ポリマー(VDFC)は、典型的には、上記のポリマー(VDFC)の全反復単位に対して少なくとも10モル%、好ましくは少なくとも12モル%、より好ましくは少なくとも15モル%のHFP由来の反復単位を含む。
【0057】
更に、非晶質ポリマー(VDFC)は、典型的には、ポリマー(VDFC)の全反復単位に対して最大45モル%、好ましくは最大40モル%、より好ましくは最大35モル%のHFP由来の反復単位を含む。
【0058】
非晶質ポリマー(VDF
C)は、VDF及びHFP由来の反復単位に加えて、
- 一般式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、H、ハロゲン、又は1個以上の酸素基を場合により含む、C
1~C
5の任意選択的にハロゲン化された基であり;Zは、酸素原子を任意選択的に含有する、直鎖又は分岐鎖のC
1~C
18の任意選択的にハロゲン化されたアルキレン若しくはシクロアルキレンラジカル、又は(パー)フルオロポリオキシアルキレンラジカルである)を有する少なくとも1つのビス-オレフィン由来の反復単位[ビス-オレフィン(OF)];
- VDF及びHFPとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来の反復単位;並びに
- 少なくとも1つの水素化モノマー由来の反復単位のうちの1つ以上を含み得る。
【0059】
水素化モノマーの例は、特に、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ジエンモノマー、スチレンモノマーを含む非フッ素化α-オレフィンであり、典型的にはα-オレフィンが使用される。C2~C8非フッ素化α-オレフィン(Ol)、より具体的にはエチレン及びプロピレンが、向上した耐塩基性を達成するために選択されるであろう。
【0060】
ビス-オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF-1)、(OF-2)、及び(OF-3)に従うもの:
(OF-1)
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8の整数であり、互いに等しいか又は異なる、R
1、R
2、R
3、R
4は、H、F又はC
1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である);
(OF-2)
(式中、
互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Aの各々は、F、Cl、及びHから独立して選択され;
互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Bの各々は、F、Cl、H及びOR
Bから独立して選択され、ここで、R
Bは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化され得る分岐鎖又は直鎖アルキル鎖であり;
Eは、エーテル結合が挿入されていてもよい、任意選択的にフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価基であり;好ましくはEは、-(CF
2)
m-基(mは3~5の整数である)であり;
(OF-2)タイプの好ましいビス-オレフィンはF
2C=CF-O-(CF
2)
5-O-CF=CF
2である);
(OF-3)
(式中、E、A及びBは、上記で定義されたものと同じ意味を有し;互いに等しいか又は異なるR
5、R
6、R
7は、H、F又はC
1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である)からなる群から選択される。
【0061】
ビス-オレフィンが用いられる場合、結果として生じる非晶質ポリマー(VDFC)は、典型的には、上記の非晶質ポリマー(VDFC)の単位の総量に対して0.01モル%~5モル%のビス-オレフィン由来単位を含む。
【0062】
任意選択的に、上記の非晶質ポリマー(VDFC)は、特定の反復単位に結合したペンダント基として又はポリマー鎖の末端基としてのいずれかで、硬化部位を含んでもよく、上記の硬化部位は、少なくとも1個のヨウ素又は臭素原子、より好ましくは少なくとも1個のヨウ素原子を含む。
【0063】
硬化部位含有反復単位の中でも、特に、
(CSM-1)式:
(式中、互いに及び出現するごとに等しいか又は異なるA
Hfの各々は、F、Cl、及びHから独立して選択され;B
Hfは、F、Cl、H及びOR
Hf
B(ここで、R
Hf
Bは、部分的、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化され得る分岐鎖又は直鎖アルキル基である)のいずれかであり;互いに及び出現するごとに等しいか又は異なるW
Hfの各々は、独立して共有結合又は酸素原子であり;E
Hfは、任意選択でフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価基であり;R
Hfは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化され得る分岐鎖又は直鎖アルキル基であり;R
Hfは、ヨウ素及び臭素からなる群から選択されるハロゲン原子であり、それらは、エーテル結合が挿入されていてもよく;好ましくはEは、-(CF
2)
m-基(mは、3~5の整数である)である)のヨウ素又は臭素含有モノマー:
(CSM-2)場合によりフッ素化された、シアニド基を含むエチレン性不飽和化合物を挙げることができる。
【0064】
タイプ(CSM1)の硬化部位含有モノマーの中で、好ましいモノマーは、
(CSM1-A)式:
(式中、mは0~5の整数であり、nは0~3の整数であり、但し、m及びnの少なくとも1つは0とは異なり、RfiはF又はCF3である(とりわけ、米国特許第4745165号明細書(AUSIMONT S.P.A.)、米国特許第4564662号明細書(MINNESOTA MINING)及び欧州特許出願公開第199138A号明細書(DAIKIN IND.,LTD.)に記載されているような))のヨウ素含有パーフルオロビニルエーテル;及び
(CSM-1B)式:
CX1X2=CX3-(CF2CF2)p-I
(式中、互いに等しいか又は異なる、X1、X2及びX3の各々は、独立して、H又はFであり;pは、1~5の整数である)のヨウ素含有エチレン性不飽和化合物(これらの化合物の中でも、CH2=CHCF2CF2I、I(CF2CF2)2CH=CH2、ICF2CF2CF=CH2、I(CF2CF2)2CF=CH2を挙げることができる));
(CSM-1C)式:
CHR=CH-Z-CH2CHR-I
(式中、Rは、H又はCH3であり、Zは、1つ以上のエーテル酸素原子を任意選択で含有する直鎖又は分岐鎖の、C1~C18(パー)フルオロアルキレン基、又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)のヨウ素含有エチレン性不飽和化合物(これらの化合物の中でも、CH2=CH-(CF2)4CH2CH2I、CH2=CH-(CF2)6CH2CH2I、CH2=CH-(CF2)8CH2CH2I、CH2=CH-(CF2)2CH2CH2Iを挙げることができる));
(CSM-1D)2~10個の炭素原子を含有するブロモ及び/又はヨードアルファ-オレフィン、例えば、米国特許第4035565号明細書(DU PONT)に記載されているブロモトリフルオロエチレン又はブロモテトラフルオロブテンなど、又は米国特許第4694045号明細書(DU PONT)に開示される他の化合物のブロモ及び/又はヨードα-オレフィンからなる群から選択されるものである。
【0065】
タイプ(CSM2)の硬化部位含有モノマーの中で、好ましいモノマーは、
(CSM2-A)式CF2=CF-(OCF2CFXCN)m-O-(CF2)n-CNのシアニド基を含有するパーフルオロビニルエーテル
(式中、
XCNはF又はCF3であり、mは0、1、2、3、又は4であり、nは1~12の整数である)、
(CSM2-B)式
CF2=CF-(OCF2CFXCN)m’-O-CF2-CF(CF3)-CNのシアニド基を含有するパーフルオロビニルエーテル
(式中、
XCNはF又はCF3であり、mは0、1、2、3、又は4である)からなる群から選択されるものである。
【0066】
本発明の目的に好適なタイプCSM2-A及びCSM2-Bの硬化部位含有モノマーの具体例は、とりわけ米国特許第4281092号明細書(DU PONT)、同第5447993号明細書(DU PONT)及び同第5789489号明細書(DU PONT)に記載されるものである。
【0067】
好ましくは、上記の非晶質ポリマー(VDFC)は、0.001~10重量%の量でヨウ素又は臭素硬化部位を含む。これらの中でも、ヨウ素硬化部位は、硬化速度を最大にするために選択されるものであり、そのため、ヨウ素硬化部位を含む(パー)フルオロエラストマーが好ましい。
【0068】
この実施形態によれば、許容できる反応性を確保するために、非晶質ポリマー(VDFC)中のヨウ素及び/又は臭素の含有量は、上記の非晶質ポリマー(VDFC)の総重量に対して、少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.15重量%であるべきだと一般に理解される。
【0069】
一方で、上記の非晶質ポリマー(VDFC)の総重量に対して、好ましくは7重量%を超えない、より具体的には5重量%を超えない、又は更には4重量%を超えないヨウ素及び/又は臭素の量が、副反応及び/又は熱安定性への悪影響を回避するために一般に選択されるものである。
【0070】
本発明のこれらの好ましい実施形態のこれらのヨウ素又は臭素硬化部位は、上記の非晶質ポリマー(VDFC)の主鎖に結合したペンディング基として(上に記載されたような、(CSM-1)タイプのモノマーに由来する、及び好ましくは上に詳述されたような、(CSM-1A)~(CSM1-D)のモノマーに由来する反復単位のポリマー鎖への組み込みによって)含まれてもよく、又は上記のポリマー鎖の末端基として含まれてもよい。
【0071】
第1の実施形態によれば、ヨウ素及び/又は臭素硬化部位は、非晶質ポリマー(VDFC)鎖の主鎖に結合しているペンディング基として含まれる。この実施形態による非晶質ポリマー(VDFC)は、一般に、上述のヨウ素及び/又は臭素重量含量を有利に確保するように、(パー)フルオロエラストマーの全ての他の反復単位の100モル当たり0.05~5モルの量でヨウ素又は臭素含有モノマー(CSM-1)に由来する反復単位を含む。
【0072】
第2の好ましい実施形態によれば、ヨウ素及び/又は臭素硬化部位は、非晶質ポリマー(VDFC)鎖の末端基として含まれる。
【0073】
この実施形態による非晶質ポリマー(VDFC)は、一般に、
- ヨウ素化及び/又は臭素化連鎖移動剤(好適な鎖-鎖移動剤は、典型的には、式Rf(I)x(Br)y(式中、Rfは、1~8個の炭素原子を含有する(パー)フルオロアルキル又は(パー)フルオロクロロアルキルであり、一方、x及びyは、1≦x+y≦2で、0~2の整数である)のものである(例えば、米国特許第4243770号明細書(DAIKIN IND.,LTD.)及び米国特許第4943622号明細書(NIPPON MEKTRON KK.)を参照されたい))、並びに
- とりわけ米国特許第5173553号明細書(AUSIMONT SRL.)に記載されているものなどの、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属ヨウ化物及び/又は臭化物のいずれかをフルオロエラストマー製造中に重合媒体に添加することによって得られる。
【0074】
好ましいポリマー(VDFC)は、以下の組成(単位:mol%)を有するものである:
*フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5~50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~20%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*フッ化ビニリデン(VDF)20~30%、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)10~30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18~27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*テトラフルオロエチレン(TFE)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20~-50%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*テトラフルオロエチレン(TFE)45~65%、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)20~55%、フッ化ビニリデン0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*テトラフルオロエチレン(TFE)32~60%モル%、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)10~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20~40%、フルオロビニルエーテル(MOVE)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*テトラフルオロエチレン(TFE)33~75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15~45%、フッ化ビニリデン(VDF)5~30%、ヘキサフルオロプロペンHFP0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
*テトラフルオロエチレン(TFE)20~70%、フルオロビニルエーテル(MOVE)30~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~50%、ビス-オレフィン(OF)0~5%。
【0075】
より好ましいポリマー(VDFC)は、フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%を含むものである。
【0076】
ポリマー(VDF)は、有利には粒子形態で提供される。
【0077】
有利には、上記のポリマー(VDF)の粒子は、本発明の方法の工程(IV)の最後に得られる。
【0078】
好ましくは、ポリマー(VDF)の粒子は、1μm未満の一次粒子平均径を有する。
【0079】
本発明の目的のための「一次粒子」という用語は、乳剤からのポリマーの単離を行わない、水性乳化重合プロセスに直接的に由来するポリマー(VDF)の一次粒子を意味することが意図される。
【0080】
したがって、ポリマー(VDF)の一次粒子は、それぞれの粉末を得るためにポリマー(VDF)の水性ラテックスを濃縮及び/又は凝固すること、並びにその後に乾燥及び均質化することなどの、こうしたポリマー製造の回収及び調整工程によって得られ得る凝集物(すなわち一次粒子の集合体)と区別可能であることが意図される。
【0081】
好ましい実施形態によれば、上記の工程(IV)の最後に、上記のポリマー(VDF)の粒子を含む分散液[分散液(D)]が得られる。
【0082】
したがって、本発明の分散液(D)は、ポリマー粉末を水性媒体中に分散させることによって調製することができる水性スラリーと区別することができる。水性スラリー中に分散したポリマー又はコポリマーの粉末の平均粒径は、典型的には、ISO13321に従って測定して1μmより大きい。
【0083】
好ましくは、上記の分散液(D)中のポリマー(VDF)の粒子の一次粒子平均径は、ISO13321に従って測定して50nm超、より好ましくは100nm超、更により好ましくは150nm超である。
【0084】
好ましくは、一次粒子平均径は、ISO13321に従って測定して600nm未満、より好ましくは400nm未満、更により好ましくは350nm未満である。
【0085】
より好ましくは、上記の分散液(D)中のポリマー(VDF)の粒子の一次粒子平均径は、ISO13321に従って測定して180nm~320nmである。
【0086】
上記のように、分散液(D)は、フッ素化界面活性剤を実質的に含まない。
【0087】
分散液(D)中のフッ素化界面活性剤の量と組み合わせた表現「実質的に含まない」は、あらゆる有意な量の上記のフッ素化界面活性剤の存在を排除することが意図されるものであり、これは例えば分散液(D)の総重量に比べてフッ素化界面活性剤が1ppm未満の量で存在することが必要となる。
【0088】
重合圧力は、典型的には、20~70バール、好ましくは25~65バールの範囲である。
【0089】
重合温度は、使用されるモノマーに基づき当業者が適切に選択することができる。好ましくは、反応温度は80℃~150℃の範囲内である。
【0090】
上記で詳述した水性乳化重合プロセスは、典型的には、少なくとも1つのラジカル開始剤の存在下で実施される。
【0091】
ラジカル開始剤の選択肢は特に限定されないが、水性乳化重合プロセスに好適なラジカル開始剤は、重合プロセスを開始及び/又は促進する能力のある化合物から選択され、これとしては、過硫酸ナトリウム、カリウム、及びアンモニウムなどの過硫酸塩;特にアルキル過酸化物、ジアルキル過酸化物(ジ-tert-ブチル過酸化物-DTBPなど)、ジアシル過酸化物、ペルオキシジカーボネート(ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート及びジイソプロピルペルオキシジカーボネートなど)、ペルオキシエステル(tert-アミルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシピバレート及びコハク酸ペルオキシドなど)を含む有機過酸化物;並びにそれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されないことが理解される。
【0092】
ラジカル開始剤は、任意選択的に、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド(dihydrochlorlde)などのアゾ開始剤を含んでもよい。
【0093】
ラジカル開始剤は酸化還元系を含んでもよい。「酸化還元系」とは、酸化剤、還元剤、及び任意選択的に電子移動媒体を含む系を意味する。
【0094】
酸化剤としては、例えば、過硫酸塩;過酸化水素などの過酸化物;tert-ブチルヒドロペルオキシド及びクメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド;並びに、例えば硫酸第二鉄などの酸化金属塩が挙げられる。還元剤としては、例えば、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウム、アスコルビン酸、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩、並びに還元金属塩が挙げられる。
【0095】
上記で定義された1つ以上のラジカル開始剤は、有利には水性媒体の重量を基準に0.001重量%~2重量%の範囲の量で、又は上記の化合物(A)の総重量を基準に0.5重量%~2.5重量%の量で、上記で定義された水性媒体に添加することができる。
【0096】
上記の水性媒体は、有利には水、より好ましくは脱イオン水である。
【0097】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0098】
本発明を、これから以下の実施例を参照してより詳細に説明するが、その目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0099】
実験の部
材料及び方法
ビニルスルホン酸ナトリウム塩(VSA)溶液25重量%をSigmaから入手した。
【0100】
ラテックスの平均粒径をISO13321に従って測定した。
【0101】
平均数分子量(Mn)及び平均重量分子量(Mw)を、ISO16014に従い、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド、及び較正のためのポリスチレン狭標準(narrow standard)を用いたGPC分析によって判定した。
【0102】
5mmの502-8(Norell,Inc)NMR試料管を備えるTriple HFCP-PFGプローブを用いて、1Hの場合499.86MHz、及び19Fの場合470.28MHzで稼働するVarian VNMS500 NMR分光計上で、60℃でNMRスペクトルを記録することによって、ポリマーの末端基をNMR分析により定量化(quantificated)した。0.75mLの重水素化アセトン(99.9%D、Sigma-Aldrichより入手)中の40mgの試料溶液を用いて、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として用いて、NMR実験を実施した。1Hを、5.05μsの45度パルス長、5秒の緩和遅延、2.3秒の取得時間、16Kの複合点(complex point)、7kHzのスペクトル幅、及び1500回の反復を用いて実施した。
【0103】
19Fを、4.44μsの45度パルス長、5秒の緩和遅延、0.695秒の取得時間、16Kの複合点、23.5kHzのスペクトル幅、及び2000回の反復を用いて実施した。
【0104】
モル/10000VDF単位で表される末端基(EG)の量の判定を、以下の式を用いて計算し:
[EG][モル/10000VDF単位]=10000xIEG/ITOT
式中、IEGは対応する末端基シグナルの正規化積分強度であり、ITOTは、EG及びVDF単位の全ての正規化積分強度の和である。
【0105】
合成1
7.5リットルの横向きに配置されたステンレス鋼反応容器に、0.004kgのパラフィンワックス、及び続いて5.31kgの脱イオン水を投入した。反応容器を攪拌して、温度を122.5℃に上昇させた。
【0106】
反応容器を密封し、パージし、1,1-ジフルオロエチレン(VF2)モノマーを投入して圧力を約44.8barにした。
【0107】
開始剤として、30mL量のジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)をまとめて添加した。必要に応じてVF2を添加することにより反応容器の圧力を約44~46barに維持した。
【0108】
VF2モノマーの少なくとも5%の変換後、12gのVSA含有水性分散液を段階的に添加した(各段階で2.0g、各段階は10分間)。
【0109】
1.0kgが反応容器に供給されてから3.5時間でVF2の供給を停止した。穏やかな攪拌を維持しながら、反応容器を室温に冷却して通気させた。こうして得られたラテックス1を放出し、反応容器を水ですすいだ。
【0110】
合成2-比較
合成1で開示されたものと同様の手順に従ったが、VSAは反応開始時に全て添加した。
【0111】
7.5リットルの横向きに配置されたステンレス鋼反応容器に、5.23kgの脱イオン水及び24gのVSA含有水性分散液を投入した。
【0112】
反応容器を攪拌して、温度を約60℃に上昇させた。続いて反応容器に0.004kgのパラフィンワックスを投入して、続いて温度を122.5℃に上昇させた。反応容器を密封し、パージし、VF2モノマーを投入して圧力を44.8barにした。
【0113】
開始剤として、30mL量のジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)をまとめて添加した。必要に応じてVF2を添加することにより反応容器の圧力を約44~46barに維持した。
【0114】
1.0kgが反応容器に供給されてから2.8時間でVF2の供給を停止した。穏やかな攪拌を維持しながら、反応容器を室温に冷却して通気させた。こうして得られたラテックス2を放出し、反応容器を水ですすいだ。
【0115】
合成3-比較
合成1で開示されたものと同様の手順に従ったが、VSAは反応開始時に全て添加した。
【0116】
7.5リットルの横向きに配置されたステンレス鋼反応容器に、5.23kgの脱イオン水及び12gのVSA含有水性分散液を投入した。
【0117】
反応容器を攪拌して、温度を約60℃に上昇させた。続いて反応容器に0.004kgのパラフィンワックスを投入して、続いて温度を122.5℃に上昇させた。反応容器を密封し、パージし、VF2モノマーを投入して圧力を44.8barにした。
【0118】
開始剤として、30mL量のジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)をまとめて添加した。必要に応じてVF2を添加することにより反応容器の圧力を約44~46barに維持した。
【0119】
1.0kgが反応容器に供給されてから2.8時間でVF2の供給を停止した。穏やかな攪拌を維持しながら、反応容器を室温に冷却して通気させた。こうして得られたラテックス3を放出し、反応容器を水ですすいだ。
【0120】
合成4
合成1で開示されたものと同様の手順に従ったが、DTBPの添加後にポリ(ビニルスルホン)酸、ナトリウム塩を添加した。
【0121】
30重量%の固形分、及び約270nm~300nmの平均粒径を有するラテックス4が得られた。
【0122】
合成1、2、及び3で得られたポリマーの平均数分子量、平均重量分子量、及び平均粒径を評価し、以下の表1に報告する。
【0123】
実施例1-黄色度指数(YI)
上記で開示したとおりに各ラテックス1、2(*)、及び3(*)から得られた粉末のうち5gを、アルミニウム製カップ(直径50mm)に注ぎ、240℃に予熱したオーブンに入れた。1時間後、カップをオーブンから取り出して室温に冷却した。
【0124】
こうして得られた粉末の黄色度指数を、ASTM E313-00“Standard practice for calculating Yellowness and Whiteness indices from Instrumentally Measured Color Coordinates”に従い、Gardner比色計を用いてカップ内で直接測定した。
【0125】
評点は0~100の範囲内で、0はYI=0に相当し、100は暗色で範囲外の試料と見なされた。
【0126】
YIが50以下である場合、試料は試験に合格し(OK)、YI値が50超である場合、試料は試験に合格しなかった(KO)。
【0127】
結果を以下の表1に報告する。
【0128】
【0129】
実施例2-粘度
粘度をいわゆる「グラインド分散(Grind Dispersion)」に基づいてHegmanゲージ上で評価し、KU粘度をBrookfield KU-2粘度計上で測定した。
【0130】
以下の材料を1Lのポリエチレン瓶内に配置した:139.1gのイソホロン、60.9gのParaloid(商標)B-44S(Dowから入手し、トルエン中B-44アクリルコポリマーの40重量%溶液として用いた)、100gの上記で開示したとおりに得られたラテックス1及び2(*)からの粉末、300gの直径3.4~4.0mmのガラスビーズ。
【0131】
混合物をRed Devilペイントシェーカー上で5.5時間振盪して、粉末を完全に分散させた。振盪後、240マイクロメートルフィルタで濾過することによって分散液からガラスビーズを分離させた。分散液を金属製塗料缶に密封して終夜静置した。翌日、分散液のKU粘度を測定した。
【0132】
結果を以下の表2に報告する。
【0133】