(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】放射線治療計画及び送達のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 P
(21)【出願番号】P 2020553601
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2019058156
(87)【国際公開番号】W WO2019192951
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,シェール
(72)【発明者】
【氏名】フレデリクソン,アルビン
(72)【発明者】
【氏名】ボクランツ,ラスムス
(72)【発明者】
【氏名】エングウォール,エリック
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/156419(WO,A1)
【文献】特表2017-518158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
いくつかの異なる方向から荷電粒子の形態の放射線を送達するように構成された装置を用いて少なくとも1つの粒子ベースのアークを患者に送達する計画を作成するための放射線治療計画方法であって、
a.ビーム角のセットを含む少なくとも1つのアーク軌道を決定するステップ(S31)と、
b.各ビーム角でのエネルギー層のセットを決定するステップ(S33)と、
c.
決定されたビーム角のセット及び決定されたエネルギー層のセットに基づいて、適切な線量分布をもたらすように設計された最適化問題の定式化を用いて計画を最適化するステップ(S34)
であって、前記最適化は、エネルギー層の数を制限するように設計された少なくとも1つのペナルティを課される、
ステップ(S34)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ペナルティが、最適化に用いられる目的関数の制約又は項である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペナルティが、前記エネルギー層の数で表される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペナルティが、隣接する角度間のエネルギー層の変更の数で表される、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記ペナルティが、アーク全体に作用するように定義される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ペナルティが、アークの1つ以上のサブセットに作用するように定義され、各サブセットは1つ以上のビームを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記計画が、送達中の不確実性を考慮して、堅牢な最適化方法を用いて最適化される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各ビーム又はエネルギー層をその適切な断面に制限するべく各ビーム又はエネルギー層のための特異的なアパーチャを適用するステップ(S35)をさらに含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ビーム軌道内にリップルフィルタを適用し、堅牢な計画を作成するのに必要とされるエネルギー層をさらに削減できるように粒子のブラッグピークを適切な様態に広げるべくリップルフィルタを制御するステップ(S36)をさらに含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
好ましくは非一時的なストレージ手段などのキャリア上に格納された、放射線治療計画装置を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品は、放射線治療計画装置のプロセッサで動作するときに前記装置に請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム製品。
【請求項11】
プロセッサ(23)と、放射線治療計画装置を制御するべく前記プロセッサで動作するように構成された請求項10に記載のコンピュータプログラム製品を保持するプログラムメモリ(26)とを備える、放射線治療計画装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子ベースの放射線治療計画及び送達のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子ベースの放射線治療では、患者に陽子などの荷電粒子が照射される。粒子は、標的全体をカバーするように、それらのエネルギーのほとんどを患者内の特定の深さに蓄積するように制御される。それと同時に、標的への経路に沿っていくらかのエネルギーが蓄積される。各粒子は、そのエネルギーのほとんどを、ブラッグピークとして知られているその経路の停止点に向けて蓄積する。患者内のブラッグピークの深さは、粒子の運動エネルギーを調整することで制御することができる。ブラッグピークの横方向の位置は、電磁石を用いて集束ビームを偏向させることで制御することができる。これにより、患者内の適切に制御された位置に、高度に局在する線量を送達することができる。ビームの運動エネルギーと横方向の偏向との特定の組み合わせから送達される線量は、スポットと呼ばれる。スポットに送達される粒子の数は、一般に、スポットウェイトと呼ばれる。三次元空間内の多くの異なる位置にスポットを提供することにより、標的体積を所望の線量分布で十分にカバーすることができる。この手技は、能動走査イオンビーム療法と呼ばれ、ペンシルビーム走査としても知られている。
【0003】
スポットの運動エネルギーは、必ずしもそうとは限らないが多くの場合、いくつかの個別のエネルギーで分布する。運動エネルギーは同じであるが横方向の偏向が異なるスポットのグループは、しばしばエネルギー層と呼ばれる。患者内の所望の体積をカバーするために、特定のエネルギー層の粒子がそれらのエネルギーを患者内の特定の深さに蓄積するように、異なるエネルギー層が定義される。エネルギー層は、治療する体積全体にブラッグピークが分布するように選択される。
【0004】
各エネルギー層のスポットウェイトは、治療計画作成システムで最適化を通じて決定され、スポットウェイトは、線量レベル又は他の関連する量に関係する所望の目的又は制約を達成するために反復的に変化させられる。スポットウェイトをビームにわたって自由に変化させることが可能なケースは、強度変調陽子線治療(IMPT)と呼ばれる。
【0005】
光子ベースの放射線治療では、光子がエネルギーを蓄積する場所を正確に制御するのはより困難である。したがって、様々な角度から多数のビームを用いて患者に照射するのが一般的である。このようにして、中間組織に蓄積される線量を制限しながら、すべてのビームが標的に線量を蓄積する。通常は、放射線治療装置は、移動中に様々な角度から又はさらには連続的に照射するために患者の周りを回転することができる、ガントリを備える。このような様々な方向から複数のビームが患者に照射される治療方法は、アーク療法又はマルチアーク療法と呼ばれる。陽子線治療では、アーク療法の使用が提案されているが、臨床ではまだ使用されていない。
【0006】
陽子アーク療法は、様々な角度、例えば10以上、50以上、又は100以上の角度からの、それぞれいくつかのエネルギー層、例えば最高20のエネルギー層を有する、一連の多数のビームの照射に関係する。各エネルギー層及び各角度の調整には時間がかかる。アークは、多数の個別のビームとして又は連続的に移動するアークを通じて送達することができる。後者のケースでは、光子アーク療法から公知のように、ビームは制御点として役立つ。以下、ビーム、ビーム方向、又はビーム角という用語は、アークが連続する場合に、制御点という用語で等価に置き換えることができる。患者の効果的な治療を保証することになる高品質の計画を依然として維持しながら、送達時間を短縮する要望は常にある。
【0007】
Beaumont, Xuanfeng Ding et al, Int J Radiation Oncol Biol Phys, Vol.96, No.5, pp.1107e1116, 2016)は、各反復において、制御点の再サンプリング、エネルギー層の再分布、エネルギー層のフィルタリング、及びエネルギー層のリサンプリングを含む、陽子アーク療法のための反復法を提案している。各制御点はビームに対応する。それぞれいくつかのエネルギー層を有する少数の制御点が定義され、計画が最適化される。次いで、1つのオリジナルの制御点を隣接する一対のサブ制御点に置き換えることによって制御点が分割され、再び計画を最適化する前にオリジナルの制御点のエネルギー層がサブ制御点間で分割される。低いウェイトを有するスポットはフィルタリングにより除外される。これは何度も繰り返され得る。
【0008】
光子ベースの放射線治療及び受動散乱陽子線治療では、各角度から照射されるフルエンスは、コリメータの使用により制限される。各角度でのビームに特異的なアパーチャを製造することを回避するために、適応アパーチャが光子治療によく用いられる。適応アパーチャの使用は陽子線治療で提案されているが、一般的な方法ではない。能動陽子線治療では、陽子は、標的をカバーするべく能動的に操作され、最初のフルエンスを制限するのにアパーチャは必要とされない。しかしながら、各ビームの横方向のエッジは、装置に応じてより多少シャープになるが、半影として知られているぼやけた領域が横方向のエッジに常に存在することになる。よりシャープなエッジを得るために、アパーチャを用いることもできる。陽子線治療でのアパーチャは、普通は患者とビームに特異的であり、製造に費用がかかる。アーク療法では、ビームに特異的なアパーチャの使用は、多数のアパーチャを製造することを意味し、アーク内のビームごとにアパーチャを変えることも意味し、これは高価であるとともに、非常に時間がかかる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、送達時間が短縮された高品質の治療粒子ベースのアーク放射線治療計画を提供することである。
【0010】
本発明は、粒子ベースの放射線治療を計画するための方法、並びにコンピュータプログラム製品、及びこのような治療を送達するための装置を提案する。特に、本発明の方法は、計画の品質を維持しながら、計画に用いられるエネルギー層の数を減らす方法を提案する。
【0011】
本発明は、いくつかの異なる方向から荷電粒子の形態の放射線を送達するように構成された装置を用いて少なくとも1つの粒子ベースのアークを患者に送達する計画を作成するための放射線治療計画方法であって、
a.ビーム角のセットを含む少なくとも1つのアーク軌道を決定するステップと、
b.各ビーム角でのエネルギー層のセットを決定するステップと、
c.計画がビーム角のセット及びエネルギー層のセットからのそれぞれビーム角及びエネルギー層のサブセットのみを用いるような様態で、適切な線量分布をもたらすように設計された最適化問題の定式化を用いて計画を最適化するステップと、
を含み、最適化は、エネルギー層の数を制限するように設計されたペナルティを課される、方法に関する。
【0012】
本発明に係る方法及びシステムは、計画の品質を依然として保証しながら、結果的にエネルギー層の数を少なくする、粒子ベースのアーク療法の治療計画の最適化を可能にする。これは、本発明によれば、1つの単一の最適化によって達成することができる。最適化を反復的に実行することも可能であるが、これにはより多くの時間がかかるであろう。
【0013】
治療計画には、アーク又は多数のビームのいずれかによる、いくつかの異なる方向からの荷電粒子の形態の放射線の送達が含まれ得る。ペナルティは、最適化に用いられる目的関数の制約又は項として定義され得る。
【0014】
ペナルティは、エネルギー層の数で表され得る。異なるエネルギー層間の変更に時間がかかるため、用いられるエネルギー層の数を最小にすることで、計画の送達時間が短縮される。代替的に、ペナルティは、隣接する角度間のエネルギー層の変更の数で表され得る。これは、例えば、ビーム角を変更するときにエネルギー層を維持することを可能にし、したがって、時間を節約するであろう。ペナルティは、エネルギー層の数とエネルギー層の変更の数との両方で表すことも可能である。
【0015】
ペナルティは、アーク全体に又はアークの1つ以上のサブセットに作用するように定義され、各サブセットは1つ以上のビームを含み得る。
【0016】
最適化をさらに改善するために、計画の送達中に生じ得る不確実性を考慮して、堅牢な最適化方法が用いられ得る。
【0017】
好ましい実施形態によれば、方法はまた、ビーム軌道内にリップルフィルタを適用し、堅牢な計画を作成するのに必要とされるエネルギー層をさらに削減できるように粒子のブラッグピークを適切な様態に広げるべくリップルフィルタを制御するステップを含む。ブラッグピークを広げることは、各エネルギー層をブロードにするのに役立ち、これにより、必要なエネルギー層の数がさらに削減される。
【0018】
本発明はまた、好ましくは非一時的なストレージ手段などのキャリア上に格納された、放射線治療計画装置を制御するためのコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品は、放射線治療計画装置のプロセッサで動作するときに装置に前述の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム製品に関する。
【0019】
本発明はまた、プロセッサと、放射線治療計画装置を制御するべくプロセッサで動作するように構成された上記に係るコンピュータプログラム製品を保持するプログラムメモリとを備える、放射線治療計画装置に関する。
【0020】
好ましい実施形態によれば、方法はまた、各ビーム又はエネルギー層をその適切な断面に制限するべく各ビーム又はエネルギー層のための特異的なアパーチャを定義及び適用するステップを含む。これは、各ビームの横方向の半影をシャープにするのに役立つ。
【0021】
いくつかの実施形態では、各ビーム方向の半影を制限するのに適応アパーチャが用いられる。粒子線治療システムのための適応アパーチャは、Mevionから入手可能なシステムを説明するWO2017/082984で開示されている。このアパーチャは、本発明に係る方法及び装置で用いることもできるが、このような使用は従来技術では予見されていない。もちろん、荷電粒子を用いる放射線治療に適するどの利用可能な適応アパーチャを本発明に関連して用いることもできる。これは、例えば、光子ベースの放射線治療のために従来から用いられているタイプのもの、すなわち、マルチリーフコリメータ(MLC)とすることもできるが、イオン療法に適合され得る。
図面の簡単な説明
【0022】
本発明を単なる例として添付図を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明が適用され得る放射線治療システムを示す図である。
【
図2】アーク治療を受けている患者の略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、放射線治療イメージング及び/又は計画のためのシステムの概要である。理解されるように、このようなシステムは、任意の適切な様態に設計されてよく、
図1に示された設計は単なる例である。患者11は、治療カウチ13上に配置される。システムは、カウチ13上に配置された患者に向けて放射線を放出するためのガントリ17にマウントされた放射線源15を有する治療ユニット10を備える。通常は、カウチ13とガントリ17は、患者に可能な限り柔軟且つ正確に放射線を提供するべく、互いに対していくつかの次元に移動可能である。特に、ガントリは、特定の角度間又は全360°回転のいずれかでカウチの周りを回転することができる。代替的に、ガントリを固定し、患者を支えるカウチが代わりに回転することができる。別の代替案は、患者を椅子に座った状態にすることである。この場合のアーク治療は、ビームの方向を変化させること又は椅子を回転させることによって行うことができる。これらのことは当業者にはよく知られている。システムはまた、放射線治療計画のため及び/又は放射線治療の制御のために用いられ得るコンピュータ21を備える。理解されるように、コンピュータ21は、イメージングユニットに接続されない別個のユニットであり得る。
【0025】
コンピュータ21は、プロセッサ23、データメモリ24、及びプログラムメモリ26を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の、1つ以上のユーザ入力手段28、29も存在する。ユーザ入力手段はまた、外部メモリユニットからデータを受信するように構成され得る。
【0026】
データメモリ24は、計画に用いられる臨床目標のセットを含む、治療計画を得るのに用いられる臨床データ及び/又は他の情報を備える。データメモリ24はまた、本発明の実施形態に係る治療計画作成に用いられる1人以上の患者のための1つ以上の線量マップを備える。プログラムメモリ26は、治療計画の最適化のために構成された、それ自体が公知のコンピュータプログラムを保持する。プログラムメモリ26はまた、本発明に係る患者の治療をコンピュータに制御させるように構成されたコンピュータプログラムを保持する。
【0027】
理解されるように、データメモリ24とプログラムメモリ26は、概略的にのみ図示され説明されている。それぞれ1つ以上の異なるタイプのデータを保持するいくつかのデータメモリユニット、又はすべてのデータを適切に構造化された様態で保持する1つのデータメモリが存在してよく、同じことがプログラムメモリにも当てはまる。1つ以上のメモリはまた、他のコンピュータ上に格納されてよい。例えば、コンピュータは、方法のうちの1つだけを実行するように構成され、最適化を実行するための別のコンピュータが存在してよい。
【0028】
図2は、照射されるべき腫瘍33を有する患者31の略図である。それぞれ異なる角度から腫瘍に到達する3つの異なるビームが示されており、第1のビームは破線で例示され、第2のビームは点線で例示され、第3のビームは一点鎖線で例示されている。ビームの数は、単に分かり易くするために3つに限定されている。前述のように、従来のマルチアーク治療は、単一の治療のための一連の多数の、通常は10よりも多いビームに関係し、各ビームはいくつかのエネルギー層を有する。本発明は、計画の品質を維持しながら、一連のビームの数及び/又はエネルギー層の数を減らすことを目的としている。
【0029】
図2で分かるように、腫瘍の断面は、様々な角度から見ると全く異なり、この例では、第1のビームの幅W1は、第2のビームの幅W2よりも明らかに大きい。したがって、アパーチャが用いられることになる場合、異なるビームのそれぞれを関連する断面領域に適応させるために、異なる形状のアパーチャが用いられることが好ましい。これは、動的に適応するアパーチャを用いることによって達成され得る。
【0030】
【0031】
ステップS31において、アーク軌道が任意の適切な方法で得られる。アークは、ビーム方向を構成し得る角度領域と、各ビームの方向を定義する。これは、以下を含む様々な方法で行われ得る:
a.事前定義された軌道を取得する
b.ユーザが軌道を定義する
c.ガントリ及びカウチの制限などのマシンの制限と、患者との衝突の可能性を考慮しながら、患者の幾何学的形状に基づいて状況に特異的なアーク軌道を自動作成する。
【0032】
ステップS31で取得、定義、又は作成される軌道は、通常は、開始及び停止角度と、アーク軌道内のビーム角のセットによって定義される。個別のビーム角を定義する代わりに、連続ビームを用いることもできる。ガントリ及び/又は治療カウチ又は椅子及び/又はコリメータの回転を通じて様々なビーム角を達成することができる。方法はまた、ガントリ又はカウチ又は椅子の平行移動を含むこともできる。
【0033】
ステップS31の代替案cにおいて、自動作成は、例えば患者の幾何学的形状に基づいて軌道を個別に最適化することによって達成され得る。代替的に、この自動作成は、計画最適化プロセスの一部とすることもできる。例えば、事前定義される軌道は、それらを局所的に用いることができるように、軌道の角度を計画最適化プロセスの変数として用いることによって最適化することもできる。また別のオプションは、多数の可能な軌道で開始し、例えば、基数制約に基づいてエネルギー層を選択する従来の方法と同様の様態で、基数制約に基づいて最良のものを選択することであろう。基数制約の概念は後述する。
【0034】
ステップS33において、各ビームのエネルギー層のセットが定義される。ペンシルビーム走査治療法では、各層のスポットのセットも定義される。ビーム方向及びエネルギー層のセットは、治療計画に含まれ得るすべての可能なビーム方向及びエネルギー層を含む。各ビーム方向のエネルギー層のセットは、任意の適切な方法で選ぶこともできる。例えばそれらは、例えば以下のうちの1つ以上に従って、患者の物理的特性に基づいて選択されてよい:
a.水等価経路長(WEPL)空間内の標的の中央平面
b.WEPL空間内の標的の遠位縁
c.IMPTで用いられるエネルギー層のフルセット。
【0035】
すべてのビーム角からWEPL空間内の標的の様々な部分をカバーするのに必要なエネルギーに基づいて、すべてのビーム角で同じエネルギー層のセットを選ぶことも可能であろう。これにより、ビーム角を変更するときのエネルギー層の変更を常に回避することができるため、ビーム角間のエネルギー層の変更の数を減らすことができる。
【0036】
アークが多数の角度を含む場合、これを各エネルギー層の最初のスポットパターンの設定に利用して、スポット間隔を増大させ、したがってスポットの総数を減らし、結果的に表面線量をより低くすることができる。
【0037】
ブラッグピークを標的内に又は標的の近傍に配置することの代替案は、ブラッグピークが患者内の標的の後ろに配置される又はさらには患者の突き抜けを達成することもできるように、より高いエネルギーを用いることである。高いエネルギーは、結果的に標的によりシャープな半影を生じることになる。ビームが回転するので、標的の外部の下流の線量はスメアすることになる。この代替案では、可能な最短の治療時間を達成するべく、すべての角度で単一のエネルギー層を用いることもできる。この代替案では、治療は、各方向から一様なフルエンスで達成することができる可能性がある。このような一様なフルエンスは、特定の方向のすべてのスポットで一様なウェイトを有する走査マシンで、又は散乱システムで達成することができる。その場合、各方向からの一様なフルエンスのウェイトを変化させるための最適化は減少する。
【0038】
ステップS34において、ステップS31及び33で定義されたビーム方向及びエネルギー層のセットに基づいて治療計画が最適化される。最適化問題では、エネルギー層の数、及び/又はエネルギー層の変更の数、及び/又はビームの数に対して、1つ以上のペナルティが設定される。以下では、単数形の「ペナルティ」が用いられるが、いくつかのペナルティが一緒に適用され得ることを理解されたい。ペナルティは、絶対制限を設定する制約として、又はエネルギー層の数をできる限り制限する要望を反映する目的関数の項として定義され得る。ペナルティは、エネルギー層の数を制限すること、治療中のエネルギー層の変更の数を制限すること、又は最適化アルゴリズムが治療送達中のエネルギー層の変更に費やされる時間を体系的に減らすことを保証する任意の他の適切な方法で定義され得る。
【0039】
最適化は、ビーム角とエネルギー層のフルセットで始めることができ、ゆえに、最適化プロセスは、計画への寄与が最も小さいものを削除することによって、ビーム角及びエネルギー層の数を減らすことになる。代替的に、最適化は、ビーム角及びエネルギー層なしで始めることができ、最適化プロセスは、計画に最も有用な寄与をするものを追加することに進む。両方のケースにおいて、考えられるビーム角及びエネルギー層は、ステップS31及びS33で定義されたセットからのものである。両方のタイプの最適化方法のいくつかのより具体的な例を後述する。
【0040】
ペナルティは、アーク全体に作用して、アークあたりのエネルギー層の数を最大値に制限するように設定されてよい。代替的に、ペナルティは、各角度に個別に作用して、ビームあたりのエネルギー層の最大数を設定するように設定されてよい。第3のオプションとして、それぞれアークのサブセットを含むサブアークを定義することもでき、ペナルティは、各サブアークのエネルギー層の数を制限するように設定されてよい。ペナルティが目的関数の項で設定される場合に同じことが当てはまる。サブアークは、任意の適切な数の、例えば3又は5つの、連続するビームを含むこともできるが、サブアークはまた、1つだけのビームを含むこともできる。
【0041】
特に、ペナルティがエネルギー層の変更の数を制限するために指定される場合、ペナルティをアーク全体に又は1つよりも多い角度を含むサブアークに設定するのが適切であろう。これは、この場合このようなペナルティが、1つのビームの最後のエネルギー層を次のビームの最初のエネルギー層として用いることによって2つのビーム間のエネルギー層の変更を回避できるためである。
【0042】
エネルギー層選択ペナルティは、スポットウェイトのベクトルx∈R
m(すべてのエネルギー層及び角度にわたって定義される)を写像する関数y:R
m→R
nを各角度で各エネルギー層がどれだけ用いられるかの特定の尺度に導入することによって数学的に定式化することができる。成分関数y
1,…,y
nは、好ましくは、添字iでのエネルギー層及び角度の組み合わせが正の重みをもつスポットを有する場合はy
i(x)が正であり、それ以外の場合はゼロであるように定義され得る。成分関数y
iの1つの可能な定式化は、特定のエネルギー層及び角度と関連付けられるサブベクトルx
iのノルム
【数1】
としてである。アークあたりのエネルギー層の最大数に対するペナルティは、この表記でcard(y)≦bとして表すことができ、ここで、基数演算子card(・)は、ベクトルの非ゼロのエントリの数を表す。サブアーク又は個々の角度に対する制約が、yのサブベクトルに関して同様に定式化される。ペナルティは、以下、基数ペナルティと呼ばれる。
【0043】
最適化問題での目的関数及び制約は、様々な量、最も重要にはLET及び線量荷重LETなどの線量及びLET関連の量に対して最適化できるべきである。(最適化で考慮される場合、LET(線エネルギー付与)は、普通のIMPTよりも陽子アークを用いて標的内部により効率よく焦点を合わせることができる。)
【0044】
基数ペナルティを有する最適化問題は、混合整数計画法によって解くことができる。大きすぎて計算上扱いにくい問題例の近似解を計算するのにヒューリスティック法を用いることもできる。エネルギー層の選択に適用可能なヒューリスティック法の例は、以下を含むがこれらに限定されない:
a.連続近似法:このような方法は、ビームとエネルギー層の完全なセットから始まり、最適化中に一部を削除することになる。基数演算子は、ここでは連続関数によって近似され、これにより、問題の組み合わせの態様が削除される。結果として生じる近似問題は、内点法又は逐次二次計画法などの、連続最適化のためのいくつかの方法によって解くことができる。基数ペナルティを有する問題の連続問題への1つの可能な再定式化は、基数演算子をcard(y)=Σis(yi)による階段関数sの和として表すことであり、ここで、sは、正でない数の場合はゼロと求められ、それ以外の場合は1と求められ、次いで、完全一致の関数sを、連続であるが近似の階段関数に置き換える。sを近似するのに用いることができる関数の例は、ロジスティック関数又は誤差関数、又は単純に正成分関数である。この方法は、いくつかのステップで適用することもでき、ゆえに、多数の最適化が実行され、基数ペナルティを考慮して結果が容認できるまで階段関数の近似の正確さが最適化間で高められる。基数ペナルティが制約として定式化される場合、これは、制約が満たされることを意味する。基数ペナルティが目的関数の項として定式化される場合、項は最小にされる。貪欲又はリバース貪欲法:貪欲法は、エネルギー層及び角度の選択された組み合わせの空のセットで始まる。次いで、現在の解の最大の改善を与える組み合わせに基づいて、このセットにエネルギー層及び角度の組み合わせが1つずつ追加される。この手順は、1つ又は複数の基数ペナルティがそれ以上の追加を妨げるまで続く。所与の反復で追加するエネルギー層及び角度は、現在未選択の組み合わせのそれぞれにスポットウェイト最適化を実行することによって決定することができ、選択された組み合わせの現在のセットに、未選択の組み合わせが追加される。貪欲法の各主要な反復で解かれる多くのスポットウェイト最適化部分問題での反復の最大数は、速度のために小さい値に設定することができる。リバース貪欲法は、選択されたエネルギー層とビーム角のセットが最適化の開始時にすべての可能な組み合わせを含むこと以外は貪欲法と同様である。次いで、ペナルティがどのように定義されるかに応じて、選択されたエネルギー層及び角度のセットがすべての基数ペナルティに関して実行可能になるまで、すなわち、ペナルティが満たされる又は最小にされるまで、各反復で現在の解の最小の劣化につながる組み合わせが排除される。
b.列生成法:これは貪欲又はリバース貪欲法の変形であり、追加又は削除するエネルギー層及び角度の選択は、勾配情報、例えば、目的関数と制約との両方を考慮に入れるメリット関数の勾配の大きさに基づいて決定される。勾配の計算は最適化よりも手間がかからないので、列生成法は、オリジナルの貪欲法よりも短い実行時間を有する。
c.確率法:選択されたエネルギー層及び角度のセットへのランダムな変更に基づく多数の異なるヒューリスティックスを、エネルギー層の選択を行うのに用いることもできる。例は、焼きなまし法、ランダム入れ替え法、遺伝子法、及びタブーサーチ法を含むがこれらに限定されない。一般に、選択されたエネルギー層及び角度の現在のセットへのランダムな変更は、現在の解が改善される場合には保持される。現在の解が大域的最適ではなく局所最適にトラップされるのを防ぐために、現在の解の劣化につながる変更も或る確率で保持することができる。
d.整数丸め法(スポットフィルタリング法):基数ペナルティは、この方法ではスポットウェイト最適化中に無視される。次いで、スポットのサブセットのスポットウェイトがゼロに切り捨てられ、この場合、サブセットは、基数制約も満たしながら最適解の劣化が最小限に抑えられるように選択される。この方法は、いくつかのステップで適用することもでき、ゆえに、多数の最適化が実行され、前述のように、どのように定式化されるかに応じて、基数制約が満たされる又は最小にされるまで最適化間でスポットの小さいサブセットが削除される。
【0045】
異なるヒューリスティックスが、好ましくは互いに組み合わされ得る。例えば、反復間で整数丸め法を適用してスポット及び/又はエネルギー層をフィルタリングにより除外しながら、連続近似を多数回解くことが可能であろう。別の可能性は、いくつかの異なるヒューリスティックスを並行して使用し、次いで、最良解又は最良解のサブセットを除くすべてを排除することである。
【0046】
スポットフィルタリング法は、当該技術分野では公知のように、低いウェイトのスポットをフィルタリングにより除外することができるが、さらに、縮退を低減するのに用いることができる。例えば、同じ点に又は互いに非常に近いブラッグピークが多数ある場合、一部のスポットはフィルタリングにより除外され得る。スポットフィルタリング法はまた、計画の堅牢性を高めるために用いられ得る。例えば、密度又はセットアップ誤差によって計画の品質を損うような位置にあるブラッグピーク、例えば、重要な構造に隣接するブラッグピーク、及び誤差が生じた場合にこれらの構造に移動するリスクを排除することができる。同様に、セットアップ及び範囲の不確実性誤差などの誤差が生じると、これらの線量寄与が大きく変化するため、WEPLの変動(例えば、std(WEPL)/WEPLインデックスによって定量化される)が大きい経路を有するイオンから生じるブラッグピークを除外することもできる。
【0047】
以下のうちの1つを適用することにより、一連の角度にわたって同じエネルギー層のセット(又は単一のエネルギー)となるように、隣接する角度のエネルギー層をさらにマージすることもできる:
a.隣接する角度間のエネルギーの切替え数を減らすことを目的とする最適化目標、
b.隣接する角度のエネルギー層をマージできるタイミングの制限を用いるエネルギー層フィルタリングステップでのアルゴリズム。
【0048】
終点は、アークのすべての角度でエネルギーの1つの単一セット(又は単一エネルギー)を有すること、又は一連の角度で、すなわちサブアークにおいてエネルギーの同じセットを有すること、とすることもできる。エネルギー層のセットにおけるエネルギー層の総数が少ない場合、送達は、いくつかの連続する単一エネルギーのアークを通じて行うこともできる。
【0049】
ステップS35は、各ビームをその適切な断面に制限するべく各ビームのためのビームに特異的なアパーチャが定義される随意的なステップである。患者の治療中に、治療プロセスは、治療装置のプログラムメモリ26に格納されたプログラムによって制御される。このプロセスでは、ステップS35で定義されるビームに特異的なアパーチャは、WO2017/082984に記載のMevionから入手可能な適応アパーチャなどの、適応アパーチャのアパーチャを制御することによって達成され得る。アパーチャが動的な場合、さらに可能な改良は、アパーチャ開口を各エネルギー層のために調整することである。結果として得られる最適化され改善された計画は、治療装置のデータメモリ24に格納される。
【0050】
ステップS36は、リップルフィルタがビーム軌道内に適用され、堅牢な計画を作成するのに必要とされるエネルギー層をさらに削減できるように粒子のブラッグピークを適切な様態で広げるべく制御される、随意的なステップである。リップルフィルタはまた、シャープな半影を達成するべくブラッグピークが標的の後ろに配置されることが意図されるときに、リスク臓器においてより高線量のスメアを達成するのに用いることができる。
【0051】
周囲組織への損傷をさらに低減するために、説明されている最適化方法は、計画が異なる日に送達される異なる治療フラクションで送達される同様のアークで構成される手法と組み合わせることもできる。異なるアークは異なるビーム角を含み、ゆえに、標的は同じようにカバーされるが、患者から腫瘍までの道のりは異なるフラクションによって異なる。
【0052】
陽子などの荷電粒子を用いる放射線治療は、非常に正確な計画の最適化を可能にする。これは次に、例えばセットアップの小さい誤差が、送達される線量に大きな影響を与える可能性があることを意味する。したがって、本発明に従って用いられる最適化方法は、好ましくは、堅牢な最適化方法であるべきである。これはエネルギー層の数が減らされるときにより一層重要となる。方法は、送達に不確実性(例えば、範囲及びセットアップの不確実性)が存在するときであっても計画の品質が確実に保たれるように、様々な不確実性に対して堅牢であるべきである。堅牢な最適化方法の代替案として、各角度(例えば通常の能動走査計画最適化においてSFUD(単一場均一線量)を比較する)又は角度の各セット(各サブアーク)で均一線量を生じることを目的とする方法が適切であろう。角度あたりのエネルギー層の数を少なくすることが望まれる場合、最も実行可能な解決策は、各サブアークで均一線量を目指すことである。
【0053】
説明されている方法は、スポット走査、ラスタ走査、及びライン走査を含む、すべてのタイプの能動走査のために採用することもできる。陽子アーク療法と併せたライン走査の実装は、送達時間の観点から有益であろう。これらの方法は、ヒトの治療を計画するのに適しているが、前臨床試験のためにマウスなどの小動物にも適している。説明されている方法は、最適化プロセスに含まれる生物学的(RBE)モデルにおいて様々なイオンタイプの様々な生物学的影響が考慮に入れられる限り、ヘリウム、炭素、及び酸素などの陽子以外の軽イオンに対しても同様に良好に機能する。