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特許7293269溶血試薬、試薬キットおよび白血球の分類方法
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  • 特許-溶血試薬、試薬キットおよび白血球の分類方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】溶血試薬、試薬キットおよび白血球の分類方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230612BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230612BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230612BHJP
   G01N 21/53 20060101ALI20230612BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20230612BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G01N33/50 L
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N21/64 F
G01N21/53 Z
G01N15/14 C
C12Q1/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021026612
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022128210
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】志田 友樹
(72)【発明者】
【氏名】小巻 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】横山 大祐
(72)【発明者】
【氏名】安部 壮紀
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-233754(JP,A)
【文献】特開2008-256713(JP,A)
【文献】特開2013-092433(JP,A)
【文献】特開2020-079772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-37/00
G01N 1/00- 1/44
G01N 15/00-15/14
G01N 21/64
G01N 21/53
C12Q 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表されるノニオン界面活性剤を含み、
1-R2-(CH2CH2O)n-H 式(I)
1は炭素数8以上、25以下のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり、
2は酸素原子、(COO)または以下の式(II)で示され、
【化1】
前記nが23以上25以下または30であり、
前記nが23以上25以下の場合、前記ノニオン界面活性剤の濃度が1700ppm以上2300ppm以下であり、
前記nが30の場合、前記ノニオン界面活性剤の濃度が1900ppm以上2300ppm以下である、白血球をリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団に分類するための溶血試薬。
【請求項2】
前記式(I)のnが23~25である、請求項1に記載の溶血試薬。
【請求項3】
前記ノニオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテルおよびそれらの群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の溶血試薬。
【請求項4】
カチオン界面活性剤をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の溶血試薬。
【請求項5】
前記カチオン界面活性剤が、第四級アンモニウム塩型界面活性剤またはピリジウム塩型界面活性剤を含む、請求項4に記載の溶血試薬。
【請求項6】
芳香族有機酸をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の溶血試薬。
【請求項7】
前記芳香族有機酸が、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項6に記載の溶血試薬。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の溶血試薬と核酸を蛍光染色する染色試薬とを含む、白血球をリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団に分類するための試薬キット。
【請求項9】
溶血試薬と、核酸を蛍光染色する染色試薬と白血球を含む検体とを混合することにより調製された測定試料に光を照射し、光学的情報を検出する工程と、前記光学的情報に基づいて前記白血球をリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団に分類する工程と、を含む、
白血球の分類方法であって、
前記溶血試薬が以下の式(I)で表されるノニオン界面活性剤を含み、
1-R2-(CH2CH2O)n-H 式(I)
1は炭素数8以上、25以下のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり、
2は酸素原子、(COO)または以下の式(II)で示される基であり、
【化2】
前記nが23以上25以下または30であり、
前記nが23以上25以下の場合、前記測定試料中の前記ノニオン界面活性剤濃度は、1650ppm以上2250ppm以下であり、
前記nが30の場合、前記測定試料中の前記ノニオン界面活性剤濃度は、1850ppm以上2250ppm以下である、白血球の分類方法。
【請求項10】
前記光学的情報が、散乱光強度および蛍光強度である、請求項9に記載の分類方法。
【請求項11】
前記光学的情報が、側方散乱光強度である、請求項9または10に記載の分類方法。
【請求項12】
前記分類する工程が、前記白血球のうち、好中球の集団と好酸球の集団と単球の集団とリンパ球の集団とを分類する工程を含む、請求項9~11のいずれかに記載の分類方法。
【請求項13】
前記光学的情報が、側方散乱光強度であり、
前記分類する工程が、
前記好中球の集団の前記側方散乱光強度に比べて、前記側方散乱光強度が大きい集団を前記好酸球の集団と分類する工程および
前記単球の集団の前記側方散乱光強度に比べて、前記側方散乱光強度が小さい集団を前記リンパ球の集団と分類する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記式(I)のnが23以上25以下である、請求項9~13のいずれかに記載の分類方法。
【請求項15】
前記検体が、全血、腹水、関節液、胸水、脳脊髄液、骨髄液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液、尿、アフェレーシスなどで採取した試料である、請求項9~14のいずれかに記載の分類方法。
【請求項16】
前記光学的情報を検出する工程において、前記測定試料をフローサイトメータにより検出する、請求項9~15のいずれかに記載の分類方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶血試薬に関する。また、本発明は、白血球分類用試薬キットおよび白血球分類方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常な白血球は、リンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類に分類される。白血球の分類や数などの情報は、被験者の健康状態を検査するために有用な情報である。白血球の分類計数のための試薬として、例えば、特許文献1に記載の試薬が知られている。特許文献1には、芳香族有機酸を含む、所定のpHの溶血試薬が開示されており、この試薬を用いることで単球とリンパ球を精度よく分類することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2014/0120530号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、単球とリンパ球だけでなく、好中球と好酸球をより精度よく分類する溶血試薬、白血球分類試薬キットおよび白血球の分類方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の式(I)で表されるノニオン界面活性剤を含み、R1は炭素数8以上、25以下のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり、R2は酸素原子、(COO)または以下の式(II)で示され、当該式(I)のnが23以上25以下または30であり、nが23以上25以下の場合、当該ノニオン界面活性剤の濃度が1700ppm以上2300ppm以下であり、nが30の場合、当該ノニオン界面活性剤の濃度が1900ppm以上2300ppm以下である、溶血試薬を提供する。
【0006】
1-R2-(CH2CH2O)n-H 式(I)
【0007】
【化1】
【0008】
本発明は、上記溶血試薬と核酸を蛍光染色する染色試薬を含む白血球分類試薬キットを提供する。また、本発明は、上記試薬キットを用いた白血球の分類方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単球とリンパ球とを精度よく分類し、且つ好中球と好酸球とを精度よく分類できる溶血試薬、試薬キットおよび白血球の分類方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本実施形態の溶血試薬の一例を示す概略図である。
図1B】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
図2】本実施形態の白血球分類試薬キットを用いて正常な血液検体を測定したときのスキャッタグラムの一例である。
図3A】実施例4のリンパ球の集団と単球の集団の距離を示すグラフである。
図3B】実施例4の好中球の集団と好酸球の集団の距離を示すグラフである。
図4】実施例5の検体1のスキャッタグラムの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1.溶血試薬]
本発明の実施形態の一つは溶血試薬である。溶血試薬は、検体中の赤血球を溶血させ、白血球の細胞膜に蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えるための試薬である。本実施形態の溶血試薬は、全血検体に含まれる白血球を、フローサイトメトリー法を用いて、リンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団に分類することが可能な自動血球計数装置に好適に使用される。例えば、自動血球計数装置は、血液検体としての全血検体を、溶血試薬および核酸を蛍光染色する染色試薬と混合することで、赤血球が溶血され、白血球が染色された測定試料を調製する。測定試料はフローセルに供給され、光が照射されることで白血球から光学的情報が取得される。個々の白血球は取得した光学的情報に基づいて、上記の5種類の集団に分類される。このような自動血球計数装置は、例えば特開2008―209383号公報に開示されている。当該溶血試薬によれば、自動血球計数装置によって溶血試薬と全血検体とを混合することにより調製された測定試料の、リンパ球と単球を精度よく分類しながら、好中球と好酸球をより精度よく分類することができる。
【0012】
自動血球計数装置は、全血検体を測定する機能に加えて、全血検体以外の体液検体(例えば、腹水、関節液、胸水、脳脊髄液、骨髄液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液など)を測定する機能を搭載していてもよい。この場合、当該溶血試薬は、全血検体以外の体液検体に含まれる白血球の測定試料の調製にも用いることができる。当該溶血試薬によれば、全血検体以外の体液検体に含まれる白血球、特に単球と他の集団とを良好に分画することが可能である。全血検体以外の体液検体を測定する機能を搭載した自動血球計数装置は、例えば特開2008―209383号公報に開示されている。
【0013】
本実施形態の溶血試薬は、以下の式(I)で表されるノニオン界面活性剤を含む。式(I)において、R1は炭素数8以上、25以下のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり、R2は酸素原子、(COO)または以下の式(II)で示される。
【0014】
1-R2-(CH2CH2O)n-H 式(I)
【0015】
【化2】
【0016】
当該溶血試薬において、溶媒は、式(I)で示されるノニオン界面活性剤を溶解させることができれば特に限定されない。例えば、水、有機溶媒、およびそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0017】
本実施形態の溶血試薬は、pHを一定にするための緩衝物質が含まれていてもよい。例えば、無機酸塩類、有機酸塩類、グッドの緩衝剤、それらの組合せなどが挙げられる。無機酸塩類としては、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、それらの組合せなどが挙げられる。有機酸塩類としては、クエン酸塩、リンゴ酸塩、それらの組合せなどが挙げられる。グッドの緩衝剤としては、例えば、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPS、それらの組合せなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態の溶血試薬は、式(I)のnが23以上25以下である。より好ましくは、式(I)のnが23または25であり、さらに好ましくはnが23である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1700ppm以上であり、好ましくは1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppm以下である。さらなる実施形態の溶血試薬において、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1700ppm以上であり、好ましくは約1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2300ppm以下であり、好ましくは約2200ppm以下である。
【0019】
本実施形態の溶血試薬の一例は、式(I)のnが23である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1700ppm以上であり、好ましくは1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppm以下である。さらなる実施形態の溶血試薬の一例において、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1700ppm以上であり、好ましくは約1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2300ppm以下であり、好ましくは約2200ppm以下である。
【0020】
本実施形態の溶血試薬の別の一例は、式(I)のnが25である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1700ppm以上であり、好ましくは、1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppm以下である。さらなる実施形態の溶血試薬の別の一例において、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1700ppm以上であり、好ましくは約1750ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2300ppm以下であり、好ましくは約2200ppm以下である。
【0021】
本実施形態の溶血試薬の一様態は、式(I)のnが30である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1900ppm以上であり、好ましくは2000ppm以上であり、より好ましくは2100ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300ppm以下であり、好ましくは2200ppmである。さらなる実施形態の溶血試薬の一様態において、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1900ppm以上であり、好ましくは約2000ppm以上であり、より好ましくは約2100ppm以上である。また、式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2300ppm以下であり、好ましくは約2200ppm以下である。
【0022】
本実施形態の溶血試薬において、式(I)で示されるノニオン界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、それらの組合せなどが用いられ得る。中でもポリオキシエチレンアルキルエーテルが含まれることが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテルおよびそれらの群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテルおよびそれらの組合せであり、さらに好ましくはポリオキシエチレン(23)セチルエーテルである。なお、当該溶血試薬において、ノニオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また当該溶血試薬は、式(I)で表されるノニオン界面活性剤以外のノニオン界面活性剤がさらに含まれていてもよい。
【0023】
本実施形態の溶血試薬は、カチオン界面活性剤がさらに含まれていてもよい。カチオン界面活性剤としては、第四級アンモニウム塩型界面活性剤、ピリジウム塩型界面活性剤およびそれらの組合せが挙げられる。第四級アンモニウム塩型界面活性剤としては例えば式(III)で示される、全炭素数が9~30の界面活性剤が好適に用いられる。なお、当該溶血試薬に含まれるカチオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0024】
【化3】
【0025】
式(III)において、R1は炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基である。R2およびR3は互いに同一又は異なり、炭素数1~4のアルキル基またはアルケニル基である。R4は炭素数1~4のアルキル基またはアルケニル基またはベンジル基であり、X-はハロゲンイオンである。
【0026】
式(III)において、R1としては、炭素数が6、8、10、12および14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としては、オクチル基、デシル基およびドデシル基が挙げられる。R2およびR3としては、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。R4としては、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましい。
【0027】
ピリジウム塩型界面活性剤としては、例えば式(IV)で示される界面活性剤が挙げられる。
【0028】
【化4】
【0029】
式(IV)において、R1は炭素数6~18のアルキル基またはアルケニル基であり、X-はハロゲン原子である。
【0030】
式(IV)において、R1としては、炭素数が6、8、10、12および14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としてはオクチル基、デシル基およびドデシル基が挙げられる。
【0031】
当該溶血試薬において、カチオン界面活性剤濃度は界面活性剤の種類により適宜選択できる。カチオン界面活性剤濃度は10ppm以上である。好ましくは400ppm以上、より好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは600ppm以上である。また、カチオン界面活性剤濃度は10000ppm以下である。好ましくは1000ppm以下、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下である。
【0032】
本実施形態の溶血試薬は、芳香族有機酸がさらに含まれていてもよい。なお、本明細書中では、芳香族有機酸とは、分子中に少なくとも1つの芳香環を有する酸およびその塩を意味する。芳香族有機酸としては、例えば、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、それらの塩、それらの組合せなどが挙げられる。芳香族スルホン酸としては、例えば、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、それらの塩、それらの組合せなどが挙げられる。なお、当該溶血試薬に含まれる芳香族有機酸は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、芳香族有機酸が緩衝作用を示す場合がある。緩衝作用を示す芳香族有機酸を用いる場合は、緩衝液の添加は任意であり、上述の緩衝液と組み合わせてもよい。
【0033】
当該溶血試薬に芳香族有機酸がさらに含まれる場合、芳香族有機酸の濃度は特に限定されないが、単球とリンパ球の分類能の観点から、20 mM以上が好ましく、より好ましくは25 mM以上である。また、当該溶血試薬に含まれる芳香族有機酸の濃度は50 mM以下が好ましく、より好ましくは45 mM以下である。
【0034】
本実施形態の溶血試薬において、特に限定されないが、pHは5.5以上が好ましい。より好ましくは、5.7以上であり、さらに好ましくは5.9以上である。また、当該溶血試薬において、pHは7.2以下が好ましい。より好ましくは6.9以下であり、さらに好ましくは6.6以下である。pHの調整には、公知の塩基(水酸化ナトリウムなど)や酸(塩酸など)を用いることができる。
【0035】
本実施形態の溶血試薬において、浸透圧は特に限定されないが、赤血球の溶血効率の観点から150 mOsm/kg以下が好ましく、130 mOsm/kg以下がより好ましく、110 mOsm/kg以下が最も好ましい。浸透圧の調整には適切な浸透圧調整剤を添加してもよい。浸透圧調整剤として、例えば、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウム、それらの組合せなどが挙げられる。
【0036】
本実施形態の溶血試薬の一例を、図1Aに示す。図1Aにおいて、10は、当該溶血試薬が収容されている容器を示す。容器10はさらに梱包箱などに収容され得る。容器10が梱包箱に収容される場合には、溶血試薬の組成、使用方法、保存方法などが記載された添付文書、外部からの衝撃を低減させるための緩衝材などとともに収容され得る。
【0037】
[2.白血球分類試薬キット]
本発明の実施形態の一つは、溶血試薬と、核酸を蛍光染色する染色試薬とを含む白血球分類試薬キットである。当該試薬キットに含まれる溶血試薬は、[1.溶血試薬]で述べた溶血試薬である。
【0038】
当該試薬キットにおいて、核酸を染色する蛍光色素は特に限定されず、光源から照射される光の波長などに応じて、適宜選択することができる。例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム-アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー-1、エチジウムホモダイマー-2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3‐[[4‐[[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]メチレン]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐1‐イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO-1)、4‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐2(3H)‐イリデン)メチル]‐1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO-PRO-1)、N,N,N',N'‐テトラメチル‐N,N'‐ビス[3‐[4‐[3‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]‐2‐プロペニリデン]‐1,4‐ジヒドロキノリン‐1‐イル]プロピル]‐1,3‐プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO-3)、又は2‐[3‐[[1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐4‐イリデン]‐1‐プロペニル]‐3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム・ジヨージド(TO-PRO-3)、以下の一般式(V)で表される蛍光色素、それらの組合せなどが挙げられる。
【0039】
【化5】
【0040】
式(V)において、R1およびR4は互いに同一または異なり、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル鎖、エーテル基を有するアルキル鎖、エステル基を有するアルキル鎖、または置換基を有していてもよいベンジル基である。R2およびR3は互いに同一または異なり、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基またはフェニル基である。Zは硫黄原子、酸素原子、またはメチル基を有する炭素原子である。nは0、1、2または3である。X-はアニオンである。
【0041】
式(V)において、アルキル基は直鎖状または分枝鎖状のいずれであってもよい。また、R1およびR4のいずれか一方が炭素数6~18のアルキル基である場合、他方は水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であることが好ましい。炭素数6~18のアルキル基の中でも、炭素数が6、8または10のアルキル基が好ましい。
【0042】
式(V)において、R1およびR4のベンジル基の置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基または炭素数2~20のアルキニル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
【0043】
式(V)において、R2およびR3のアルケニル基として、例えば炭素数2~20のアルケニル基が挙げられる。また、R2およびR3のアルコキシ基としては、炭素数1~20のアルコキシ基が挙げられる。それらの中でも、特にメトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0044】
式(V)において、アニオンX-として、F-、Cl-、Br-およびI-のようなハロゲンイオン、CF3SO3 -、BF4 -などが挙げられる。
【0045】
当該試薬キットにおいて、蛍光色素は1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。蛍光色素の濃度は蛍光色素の種類に応じて適宜設定することができる。通常、蛍光色素の濃度は、0.01 pg/μL以上、好ましくは0.1 pg/μL以上であり、上記蛍光色素の濃度は100 pg/μL以下、好ましくは10 pg/μL以下である。例えば、1試薬の蛍光色素として式(I)で表される蛍光色素を用いる場合、試薬キット中の蛍光色素の濃度は、好ましくは0.2 pg/μL以上、より好ましくは0.3 pg/μL 以上である。また、1試薬の蛍光色素として式(I)で表される蛍光色素を用いる場合、試薬キット中の蛍光色素の濃度は、好ましくは0.6 pg/μL以下であり、より好ましくは0.5 pg/μL以下である。
【0046】
本実施形態の試薬キットにおいて、染色試薬は市販の白血球測定用の染色試薬を用いてもよい。例えば、フルオロセルWDF(シスメックス社)、ストマトライザー4DS(シスメックス社)が挙げられる。
【0047】
本実施形態の試薬キットにおいて、試薬キットに含まれる試薬の溶媒は、式(I)で示されるノニオン界面活性剤および/または蛍光色素を溶解させることができる限り、特に限定されない。溶媒の詳細は、上記の[1.溶血試薬]で述べたことと同様である。蛍光色素を溶解させる溶媒は、保存安定性の観点から有機溶媒であることが好ましい。
【0048】
本実施形態の試薬キットにおいて、試薬キットに含まれる各試薬の溶媒は、pHを一定にするための緩衝物質が含まれていてもよい。緩衝物質の詳細は、上記の[1.溶血試薬]で述べたことと同様である。
【0049】
本実施形態の試薬キットの一例を、図1Bに示す。図1Bにおいて、30は、当該試薬キットを示す。11は[1.溶血試薬]で述べた溶血試薬が収容されている第1容器を示す。20は核酸を蛍光染色する染色試薬が収容されている第2容器を示す。当該試薬キット30はさらに梱包箱などに収容され得る。試薬キット30が梱包箱に収容される場合には、試薬キットに含まれる各試薬の組成、使用方法、保存方法などが記載された添付文書、外部からの衝撃を低減させるための緩衝材などとともに収容され得る。試薬キット30にはその他の試薬が含まれていても良く、例えば緩衝液、キャリブレータなどの試薬を含み得る。
【0050】
[3.白血球の分類方法]
本発明の実施形態の一つは、白血球の分類方法である。当該分類方法は、溶血試薬と、核酸を染色する染色試薬と白血球を含む検体とを混合することにより調製された測定試料に光を照射し、光学的情報を検出する工程と、上記光学的情報に基づいて上記白血球を分類する工程とを含む。
【0051】
当該実施形態の方法において、検体は、白血球を含むまたは血球を含む可能性がある試料であれば特に限定されない。白血球を含むまたは血球を含む可能性がある試料としては、哺乳動物、好ましくはヒトから採取された試料である。検体としては、例えば、全血、腹水、関節液、胸水、脳脊髄液、骨髄液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液、尿、アフェレーシスなどで採取した試料などが挙げられる。
【0052】
当該実施形態の方法において、検体は、後述の検出工程および/または分類工程を妨げない限り、適切な水性溶媒で希釈されたものや、公知の添加剤を添加されたものを用い得る。水性溶媒の例としては、特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば、6以上8以下のpH)で緩衝作用を有することが好ましい。添加剤としては、特に限定されず、抗凝固剤などが挙げられる。抗凝固剤の例としては、K3-EDTA、EDTA、EGTA、TPEN、BAPTA、クエン酸ナトリウム、ワルファリン、ヘパリン、ダナパロイド、フォンダパリヌクス、それらの組合せなどが挙げられる。また検体に夾雑物が含まれる場合、遠心分離、ろ過などの公知の手段により、夾雑物を除去してもよい。
【0053】
本実施形態の方法において、溶血試薬と染色試薬と検体との混合順序は特に限定されない。例えば、溶血試薬と、染色試薬とを先に混合し、この混合液と検体を混合してもよい。また、溶血試薬と、検体とを先に混合し、この混合液と染色液を混合してもよい。溶血試薬の一部と、検体とを混合し混合液を調製した後、調製された混合液と染色液とを混合し、最後に残りの溶血試薬を混合してもよい。
【0054】
当該実施形態の方法において、溶血試薬と染色試薬と検体との混合比は、溶血試薬、染色試薬および検体に応じて適宜選択することができる。溶血試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して、1000:1以上:1以上が好ましい。より好ましくは、1000:10以上:10以上であり、さらに好ましくは、1000:15以上:15以上である。また、当該実施形態の方法において、溶血試薬と染色試薬と検体との混合比は、例えば、体積比で表して、1000:50以下:50以下であることが好ましい。より好ましくは、1000:30以下:30以下であり、さらに好ましくは、1000:25以下:25以下である。なお染色試薬と検体との混合比は同一であってよく、異なっていてもよい。
【0055】
本実施形態の方法において、測定試料に光を照射する前に、インキュベーションすることが好ましい。インキュベーションの条件は特に限定されず、検体に応じて適宜選択することができる。例えば、インキュベーションの温度は15℃以上であり、好ましくは30℃以上である。インキュベーションの温度は50℃以下であり、好ましくは45℃以下である。インキュべ―ジョン時間は5秒以上であり、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは15秒以上である。インキュベーション時間は120秒以下であり、好ましくは80秒以下であり、より好ましくは40秒以下である。
【0056】
本実施形態の方法において、測定試料に光を照射して、光学的情報を検出する(検出工程)。当該検出工程はフローサイトメータにより行われることが好ましい。フローサイトメータによる測定では、フローセル中の測定試料に光を照射することにより、測定試料中の粒子などからシグナルを発生させる。発生したシグナルを検出することで、光学的情報を得ることができる。なお、検出の前後でシグナルの補正、増幅、変換などの処理を適宜行ってもよく、それらの処理が行われたシグナルも、光学的情報に含まれる。
【0057】
当該検出工程において、測定試料に照射される光は、特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源が選ばれる。例えば、赤色半導体レーザ、青色半導体レーザ、アルゴンレーザ、He-Neレーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは、気体レーザに比べて非常に安価であるので、コストの観点で好ましい。
【0058】
当該検出工程において、光学的情報は一般にフローサイトメトリーで用いられるものであれば特に限定されない。例えば、散乱光情報や蛍光情報などが用いられ得る。散乱光としては、前方散乱光(例えば、受光角度が0度から約20度の散乱光)と、側方散乱光(例えば、受光角度が約20度から約90度の散乱光)が挙げられる。散乱光情報や蛍光情報は、散乱光および蛍光のパルス高、パルス面積、パルス幅、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化、それらに相関する値などが挙げられる。側方散乱光は、細胞構造の複雑性、顆粒特性、核構造、分葉度などの内部情報を反映するものであれば特に限定されない。
【0059】
本実施形態の方法において、上記の光学的情報に基づいて測定試料中の白血球を分類する(分類工程)。当該分類工程において、白血球の分類は、側方散乱光情報と蛍光情報を二軸とするスキャッタグラムを作成し、得られたスキャッタグラムを適当な解析ソフトを用いて解析することにより行われることが好ましい。例えば、X軸に側方散乱光強度(SSC)、Y軸に蛍光強度(SFL)をとってスキャッタグラムを描いた場合、図2に示されるように、白血球はリンパ球、単球、好中球、好酸球および好塩基球の5種類の集団に分類される。
【0060】
当該分類工程は、好中球の集団と好酸球の集団と単球の集団とリンパ球の集団とを分類する工程を含むことが好ましい。好中球の集団の側方散乱光強度に比べて、側方散乱光強度が大きい集団を好酸球の集団と分類し、且つ単球の集団の側方散乱光強度に比べて、側方散乱光強度に小さい集団をリンパ球の集団と分類することがさらに好ましい。集団の側方散乱光強度は、例えば、当該集団に含まれる各細胞の側方散乱光強度の値を相加平均すること、当該集団に含まれる各細胞の側方散乱光強度の値の中央値を算出することなどにより決めることができる。
【0061】
本実施形態の方法により、好中球と好酸球を精度よく分類することができる。一例においては、好中球の集団の側方散乱光強度と好酸球の集団の側方散乱光強度との差が、従来の方法に比べて、大きくなることによって明確に分類することができる。別の例においては、好中球の集団および/または好酸球の集団の光学的情報に関する値のばらつきが、従来の方法に比べて、小さくなることによって明確に分類することができる。
【0062】
本実施形態の方法により、単球とリンパ球を精度よく分類することができる。一例においては、単球の集団の側方散乱光強度とリンパ球の集団の側方散乱光強度の差が、従来の方法に比べて、大きくなることによって明確に分類することができる。別の例においては、単球の集団および/またはリンパ球の集団の光学的情報に関する値のばらつきが、従来の方法に比べて、小さくなることによって明確に分類することができる。
【0063】
本実施形態の方法において、側方散乱光強度に値のばらつきは、統計学的に用いられる指標などを用いて評価することができる。例えば、変動係数、標準偏差、分散などが挙げられる。
【0064】
本実施形態の方法において、溶血試薬は、以下の式(I)で表されるノニオン界面活性剤を含む。式(I)において、R1は炭素数8以上、25以下のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であり、R2は酸素原子、(COO)または以下の式(II)で示される。
【0065】
1-R2-(CH2CH2O)n-H 式(I)
【0066】
【化6】
【0067】
本実施形態の方法において、式(I)のnが23以上25以下である。好ましくは式(I)のnが23、25であり、より好ましくは式(I)のnが23である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1650ppm以上であり、好ましくは1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2250ppm以下であり、好ましくは2150ppm以下である。さらなる実施形態の溶血試薬において、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1650ppm以上であり、好ましくは約1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2250ppm以下であり、好ましくは約2150ppm以下である。
【0068】
本実施形態の方法の一例において、式(I)のnが23である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1650ppm以上であり、好ましくは1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2250ppm以下であり、好ましくは2150ppm以下である。さらなる実施形態の方法の一例において、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1650ppm以上であり、好ましくは約1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2250ppm以下であり、好ましくは約2150ppm以下である。
【0069】
実施形態の方法の別の一例において、式(I)のnが25である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1650ppm以上であり、好ましくは1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2250ppm以下であり、好ましくは2150ppm以下である。さらなる実施形態の方法の別の一例において、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1650ppm以上であり、好ましくは約1700ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2250ppm以下であり、好ましくは約2150ppm以下である。
【0070】
本実施形態の方法の一様態において、式(I)のnが30である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、1850ppm以上であり、好ましくは1950ppm以上であり、より好ましくは2050ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、2250ppm以下であり、好ましくは2150ppm以下である。さらなる実施形態の方法の一様態において、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約1850ppm以上であり、好ましくは約1950ppm以上であり、より好ましくは約2050ppm以上である。また、測定試料中の式(I)で示されるノニオン界面活性剤の濃度は、約2250ppm以下であり、好ましくは約2150ppm以下である。
【0071】
本実施形態の方法によって、白血球の分類計数の際に単球とリンパ球だけでなく、好中球と好酸球の分類精度を向上させることができる。また、一実施形態の方法において、単球の集団の分類精度も向上させることができる。
【0072】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0073】
実施例1
ノニオン界面活性剤のPOE鎖長と、好中球の集団と好酸球の集団の分類精度およびリンパ球の集団と単球の集団の分類精度との関係を検討した。好中球の集団と好酸球の集団の分類精度は、好酸球の集団の側方散乱光強度と好中球の集団の側方散乱光強度の差の値(Eo-Ne差)を算出することで評価した。また、単球の集団とリンパ球の集団の分類精度は、リンパ球の集団の側方散乱光強度と単球の集団の側方散乱光強度の差の値(Mo-Ly差)を算出することで評価した。
【0074】
溶血試薬として、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(以下、LTACという)(東京化成化学工業社)、フタル酸水素カリウム(和光純薬工業社)、EDTA-2K(中部キレスト社)およびポリオキシエチレン(n)セチルエーテル(以下、POE(n)セチルエーテルという。nはポリオキシエチレン(POE)の重合度を表す)を以下の表1に示す組成となるように混合した。また、溶血試薬のpHを、NaOHを用いて、pH6.0に調整した。染色試薬として、フルオロセルWDF(シスメックス社)を用いた。なお、POE(n)セチルエーテルはノニオン界面活性剤である。
【0075】
【表1】
【0076】
検体として、健常人から採取した血液を15検体用いた。フローサイトメータとして、XN-20(シスメックス社)を用いた。測定試料を溶血試薬1000μL、検体17μLおよび染色液20μLを混合することにより調製した。測定条件は、XN-20(シスメックス社)のWDFチャンネルの設定に準じた。フローサイトメータによって得られた測定値に基づき、スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムについて、適当な解析ソフトを用いて解析することにより、各白血球細胞の集団を特定した。特定した白血球細胞の集団に含まれる細胞数と、側方散乱光強度および蛍光強度から、各白血球細胞の集団の側方散乱光強度および蛍光強度を算出した。各白血球細胞の集団の側方散乱光強度から、Mo-Ly差およびEo-Ne差を算出した。
【0077】
ノニオン界面活性剤として、POE(20)セチルエーテル(日光ケミカルズ社)、POE(25)セチルエーテル(青木油脂社)、POE(30)セチルエーテル(日光ケミカルズ社)またはPOE(40)セチルエーテル(日光ケミカルズ社)を用いて、表1に示す組成となるように溶血試薬を調製した。調製した各溶血試薬を用いて、15検体をフローサイトメータにて測定した。各溶血試薬について、測定値に基づき、15検体のEo-Ne差の平均値と15検体のMo-Ly差の平均値を算出した。実施例1の結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2より、溶血試薬中のPOE(n)セチルエーテルのPOE鎖の重合度が大きくなるとEo-Ne差が小さくなり、Mo-Ly差は大きくなる傾向があった。
【0080】
実施例2
溶血試薬中のノニオン界面活性剤の濃度と、Eo-Ne差と、Mo-Ly差との関係を検討した。
【0081】
ノニオン界面活性剤として、POE(23)セチルエーテルを用いたこと、POE(23)セチルエーテルの濃度を879ppm、1318ppm、1758ppm、1977ppm、2197ppm、2417ppmまたは2636ppmに調製したことおよびpHを6.1に調整したこと以外は、実施例1と同様に溶血試薬を調製した。ノニオン界面活性剤として、POE(25)セチルエーテルを用いたこと、POE(25)セチルエーテルの濃度を879ppm、1318ppm、1758ppm、2197ppmまたは2636ppmに調製したことおよびpHを6.1に調整したこと以外は、実施例1と同様に溶血試薬を調製した。実施例1でノニオン界面活性剤としてPOE(30)セチルエーテルを用いた場合と同様に溶血試薬を調製した。調製した各溶血試薬を用いて、3検体についてフローサイトメータを用いて測定した。測定値に基づき、3検体のEo-Ne差の平均値と3検体のMo-Ly差の平均値を算出した。溶血試薬中のノニオン界面活性剤について、POE(23)セチルエーテルを用いた場合の結果を表3に、POE(25)セチルエーテルを用いた場合の結果を表4に、POE(30)セチルエーテルを用いた場合の結果を表5に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
POE(23)セチルエーテルまたはPOE(25)セチルエーテルを用いた場合に、ノニオン界面活性剤の濃度が高くなるにつれ、Eo-Ne差は大きくなる傾向がみられた。また、POE(23)セチルエーテルまたはPOE(25)セチルエーテルを1758ppmから2197ppmの濃度で用いた場合において、好中球と好酸球の分類および単球とリンパ球の分類を明確にすることができることがわかった。
【0086】
実施例3
POE(23)セチルエーテルの濃度とEo-Ne差と、Mo-Ly差との関係を検討した。
【0087】
ノニオン界面活性剤として、POE(23)セチルエーテルを用いたこと、POE(23)セチルエーテルの濃度を1758ppm、1933ppm、2021ppm、2109ppm、2197ppm、または2285ppmに調製したことおよびpHを6.2に調整したこと以外は、実施例1と同様に溶血試薬を調製した。実施例1でノニオン界面活性剤としてPOE(30)セチルエーテルを用いた場合と同様に溶血試薬を調製した。調製した各溶血試薬を用いて、4検体についてフローサイトメータを用いて測定した。測定値に基づき、4検体のEo-Ne差の平均値と4検体のMo-Ly差の平均値を算出した。溶血試薬中のノニオン界面活性剤について、POE(23)セチルエーテルを用いた場合の結果を表6に、POE(30)セチルエーテルを用いた場合の結果を表7に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
POE(23)セチルエーテルを用いた場合に、ノニオン界面活性剤の濃度が高くなるにつれ、Eo-Ne差は大きくなる傾向がみられた。また、POE(23)セチルエーテルを1758ppmから2285ppmの濃度で用いた場合に、好中球と好酸球の分類および単球とリンパ球の分類を明確にすることができることがわかった。
【0091】
実施例4
試薬A、試薬Bおよび試薬Cと試薬DのEo-Ne差およびMo-Ly差の比較を行った。
【0092】
ノニオン界面活性剤として、POE(23)セチルエーテルを用いたこと、POE(23)セチルエーテル濃度を2021ppmに調製したことおよびpH6.2に調整したこと以外は、実施例1と同様に溶血試薬を調製した(以下、試薬Aという)。ノニオン界面活性剤として、POE(25)セチルエーテルを用いたこと、POE(25)セチルエーテル濃度を1758ppmに調製したことおよびpHを6.1に調整したこと以外は、実施例1と同様に溶血試薬を調製した(以下、試薬Bという)。溶血試薬のノニオン界面活性剤として、POE(30)セチルエーテルを用いた。また、POE(30)セチルエーテル濃度を2144ppm、LTACを668ppm、フタル酸水素カリウムを5106ppm、ADAを1236ppmに調製したことおよびpH6.5に調整することにより、溶血試薬を調製した(以下、試薬Cという)。実施例1の、POE(30)セチルエーテルを用いた場合と同様に溶血試薬を調製した(以下、試薬Dという)。試薬A、試薬B、試薬Cおよび試薬Dを用いて、実施例1と同様して、132検体について、フローサイトメータにて測定した。測定値に基づき、132検体のEo-Ne差の平均値および132検体のMo-Ly差の平均値を算出した。
【0093】
実施例4の結果を図3A図3Bに示す。図3Aより、試薬A、試薬Bまたは試薬Cのいずれの試薬を用いた場合においても、Eo-Ne差は試薬Dを用いた場合に比べて大きかった。図3Bより、試薬A、試薬B、試薬Cおよび試薬Dのいずれの試薬を用いた場合においても、Mo-Ly差は同等であった。試薬A、試薬Bおよび試薬Cを用いることで、単球とリンパ球の分類は、試薬Dを用いた場合と比べて同等の精度で分類することができ、好中球と好酸球の分類は、試薬Dを用いた場合と比べて精度よく分類できることがわかった。
【0094】
実施例5
試薬Aと試薬Dの試薬の単球の集団のばらつきを比較した。単球の集団のばらつきは、単球の集団に分類される白血球の蛍光強度の中央値(MED)および標準偏差(S.D.)から、変動係数(CV)(以下、単球の集団の変動係数という)を算出することで評価した。
【0095】
実施例4で調製した試薬Aまたは試薬Dを用いたことおよび検体として、腹水を4検体(検体1~4)、胸水を1検体(検体5)および関節液を1検体(検体6)、計6検体を用いたこと以外は、実施例1と同様に、フローサイトメータにて測定した。測定値に基づき、単球の集団の変動係数を算出した。その結果を表8に示す。
【0096】
【表8】
【0097】
検体1~6のいずれの検体においても、試薬Aを用いた場合は、試薬Dを用いた場合に比べて単球の集団の変動係数が小さかった。また、一例として、検体1のスキャッタグラムを図4に示す。図4のスキャッタグラムの枠線で囲まれた領域は、単球のプロットが出現すると考えられる領域である。なお、図4において、X軸のSSCは側方散乱光強度を表し、Y軸のSFLは蛍光強度を表す。図4に示されるように、試薬Dを用いた場合に比べ、試薬Aを用いた場合の方が、単球の集団の蛍光強度のばらつきが小さいことがスキャッタグラム上でも確認された。
【符号の説明】
【0098】
10: 容器
11: 第1容器
20: 第2容器
30: 試薬キット
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4