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特許7293313アクリル樹脂組成物、粘着剤組成物、粘着シート用基材及び粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】アクリル樹脂組成物、粘着剤組成物、粘着シート用基材及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/14 20060101AFI20230612BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230612BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20230612BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20230612BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08L33/14
C09J7/38
C08F220/28
C09J7/24
C09J133/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021185845
(22)【出願日】2021-11-15
(62)【分割の表示】P 2019524791の分割
【原出願日】2017-06-22
(65)【公開番号】P2022024067
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000145079
【氏名又は名称】株式会社寺岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】土屋 靖史
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/059979(WO,A1)
【文献】特開2013-199521(JP,A)
【文献】特開2011-157431(JP,A)
【文献】特開2011-148889(JP,A)
【文献】特開2003-104778(JP,A)
【文献】特開2003-286058(JP,A)
【文献】特開2009-149715(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103554429(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00
C09J 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(前記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2~4のアルキレン基、Rは炭素数1~10のアルキル基をそれぞれ示し、nは1~20の整数を示す)で表されるモノマー由来の単位とカルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位と窒素含有アクリルモノマー由来の単位を含むポリマーと架橋剤を含むアクリル樹脂組成物であって、
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合が40~89質量%であり、
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位の割合が10~20質量%であり、
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記窒素含有アクリルモノマー由来の単位の割合が1~50質量%であり、
前記窒素含有アクリルモノマーが、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、及びアクリロイルモルフォリンからなる群から選択される少なくとも一種のモノマーであり、
前記アクリル樹脂組成物をオレイン酸に24時間浸漬した後の引張強度が、オレイン酸に浸漬する前の引張強度の値の50%以上であるアクリル樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、多官能性(メタ)アクリルモノマー、多官能性(メタ)アクリルオリゴマー、2官能以上のグリシジル基含有化合物、及び2官能以上のイソシアネート基含有化合物からなる群から選択される少なくとも一種の架橋剤である請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単位を含み、
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単位の割合が0.1~40質量%である請求項1または2に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマーが(メタ)アクリル酸である請求項1から3のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1)で表されるモノマーが、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)エチレングリコール、及び(メタ)アクリル酸エトキシ(ポリ)エチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種のモノマーである請求項1から4のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物からなる粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物を含む粘着シート用基材。
【請求項8】
請求項に記載の粘着剤組成物、及び/又は、請求項に記載の粘着シート用基材を有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂組成物、粘着剤組成物、粘着シート用基材及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、耐候性や耐久性、高透明性に優れており、またモノマー種が非常に多く存在することから、多種多様な用途に使用されている。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルはホモポリマーとした際にガラス転移温度(Tg)が低く、ゴム弾性に優れ、ポリマー自身がタックを発現するため、アクリルゴムや接着剤、粘着剤分野で多く使用されている。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのポリマーの多くは溶液重合法によって製造されている。このことからもわかるように、該ポリマーはトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの一般的な工業用有機溶剤に溶解度パラメーターが近く、これらの有機溶剤に溶解しやすい。
【0003】
近年、スマートフォンやタブレットPCに代表されるモバイル機器が急激に普及している。これらのモバイル機器の多くは、表示パネルと筐体とをアクリル系の接着剤や両面粘着テープにより接着している。また、該モバイル機器はタッチパネルを搭載しており、人の指でタッチして操作されたり、電話を掛ける際には人の顔に触れたりする。人の手や顔にタッチパネルが触れると、皮脂や指脂などの油性成分がタッチパネルに付着する。該油性成分にはオレイン酸などの成分が含まれており、該成分はSP値が工業用有機溶剤に近く、一般的なアクリル樹脂を溶解する。工業用有機溶剤であれば沸点が低いため短時間で気化し、接着剤や粘着剤に大きなダメージを与えないが、オレイン酸などの油成分は沸点が高く、生活環境の中では気化せずに電子機器内に残るため、接着剤や粘着剤にダメージを与える。そのため、部材に浮きや剥がれを生じさせ、電子機器の寿命を短くする。
【0004】
また、建材や自動車、家電、大型電子機器などの工業分野で使用されている構造接着用の両面粘着テープには、柔軟性及び応力追従性に優れたアクリルフォームが基材として用いられている場合が多い。しかしながら、建材では、床を清掃するための洗剤や、ワックスなどの薬品が付着すると、アクリルフォーム基材を有する両面粘着テープはダメージを受ける。自動車の外装部品などでは、洗車時の洗剤や、ワックス、給油の際にガソリンなどが付着する場合があり、これらも一般的なアクリル樹脂を溶解又は膨潤させる。家電においても、洗濯機の場合には衣類用洗剤や柔軟剤、電子レンジや冷蔵庫であれば食用油が付着する場合があり、また人の手で接触、操作されるため指脂が付く。このように、一般的なアクリル樹脂で構成されるアクリルフォーム基材を有する両面粘着テープでは、薬品及び油成分によりダメージを受け、製品の不具合が生じたり寿命が短くなったりする。
【0005】
例えば特許文献1には、特定のアクリルポリオール樹脂、多官能光硬化性化合物及びポリイソシアネート化合物を特定の割合で含む光硬化性塗料組成物に対して、アクリルポリオール樹脂とポリイソシアネート化合物とのウレタン結合形成反応、及び多官能光硬化性化合物の光重合開始剤によるラジカル重合反応、の2つの硬化反応を行うことにより、耐薬品性の高い塗料が得られることが記載されている。また、特許文献2及び3には、n-ブチルアクリレートの単位から主に構成されるアクリル樹脂を含む樹脂組成物が、オレイン酸や人工皮脂液に対して耐性があることが記載されている。また、特許文献4には、炭素数1~6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの単位から主に構成されるアクリル樹脂を含む粘着剤組成物が、皮脂や化粧品に対して耐性があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-37609号公報
【文献】特開2009-215355号公報
【文献】特開2013-100485号公報
【文献】特開2017-57371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に記載の技術では耐薬品性及び耐油性が不十分であり、更なる改良が望まれている。
【0008】
本発明は、高い耐薬品性及び高い耐油性を有するアクリル樹脂組成物を提供することを目的とする。また、該アクリル樹脂組成物からなる粘着剤組成物、該アクリル樹脂組成物を含む粘着シート用基材及び粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(前記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2~4のアルキレン基、Rは炭素数1~10のアルキル基をそれぞれ示し、nは1~20の整数を示す)で表されるモノマー由来の単位を含むポリマーを含むアクリル樹脂組成物であって、
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合が40~99質量%であり、
前記アクリル樹脂組成物をオレイン酸に24時間浸漬した後の引張強度が、オレイン酸に浸漬する前の引張強度の値の50%以上である。
【0012】
本発明に係る粘着剤組成物は、本発明に係るアクリル樹脂組成物からなる。
【0013】
本発明に係る粘着シート用基材は、本発明に係るアクリル樹脂組成物を含む。
【0014】
本発明に係る粘着シートは、本発明に係る粘着剤組成物、及び/又は、本発明に係る粘着シート用基材を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐薬品性及び高い耐油性を有するアクリル樹脂組成物を提供することができる。また、該アクリル樹脂組成物からなる粘着剤組成物、該アクリル樹脂組成物を含む粘着シート用基材及び粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[アクリル樹脂組成物]
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、前記式(1)で表されるモノマー由来の単位を含むポリマーを含む。ここで、前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合は40~99質量%である。また、前記アクリル樹脂組成物をオレイン酸に24時間浸漬した後の引張強度は、オレイン酸に浸漬する前の引張強度の値の50%以上である。
【0017】
本発明者等は、アクリル樹脂組成物に含まれるポリマーが、前記式(1)で表されるモノマー由来の単位を主に含むことにより、高い耐薬品性及び高い耐油性を有するアクリル樹脂組成物が得られることを見出した。具体的には、前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合が40~99質量%であることにより、アクリル樹脂組成物をオレイン酸に24時間浸漬した場合にも、その引張強度は、オレイン酸に浸漬する前の引張強度の値の50%以上を維持できることを見出した。アクリル樹脂組成物に含まれるポリマー(アクリル樹脂)が前記式(1)で表されるモノマー由来の単位を主に含むことにより、アクリル樹脂の極性が高まり、該アクリル樹脂の溶解度パラメーターと、薬品や油成分などの溶解度パラメーターとの差が大きくなる。したがって、アクリル樹脂組成物の耐薬品性及び耐油性が向上すると推測される。
【0018】
以下、本発明に係るアクリル樹脂組成物の実施形態について説明する。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタクリル酸を示す。また、本発明に係るアクリル樹脂組成物は、前記式(1)で表されるモノマー由来の単位を含むポリマーを70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。
【0019】
(式(1)で表されるモノマー)
前記式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rは炭素数2~4のアルキレン基を示し、炭素数2又は3のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。Rは炭素数1~10のアルキル基を示し、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。nは1~20の整数を示し、1~15の整数が好ましく、1~10の整数がより好ましい。
【0020】
前記式(1)で表されるモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシブチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコールなどの(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)エチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシトリエチレングリコールなどの(メタ)アクリル酸エトキシ(ポリ)エチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシトリプロピレングリコールなどの(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシトリプロピレングリコールなどの(メタ)アクリル酸エトキシ(ポリ)プロピレングリコール、などの(メタ)アクリル酸ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性及び耐油性がより優れる観点から、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)エチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシ(ポリ)エチレングリコールが好ましく、(メタ)アクリル酸メトキシエチルがより好ましい。特に、アクリル酸2-メトキシエチルは、そのホモポリマーのTgが-50℃と低く、アクリル系粘着剤成分に多く利用されるモノマーに近いため、粘着剤、接着剤の成分として有用である。これらのモノマーは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合は40~99質量%であり、45~95質量%が好ましく、50~92質量%がより好ましく、55~90質量%がさらに好ましい。該割合が40質量%未満の場合、耐薬品性及び耐油性が低下する。また、該割合が99質量%を超えると、架橋を目的とした反応性モノマー由来の単位の割合が相対的に少なくなる。なお、該割合は、ポリマーを構成する全てのモノマー単位の、モノマーとしての全質量を100質量%としたときの、ポリマーに含まれる式(1)で表されるモノマー由来の単位の、モノマーとしての質量の割合を示す。後述する他のモノマー由来の単位の割合についても同様である。
【0022】
((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
前記ポリマーは、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単位を含むことができる。前記ポリマーが(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単位を含むことにより、多用途への展開が可能なアクリル樹脂組成物が得られる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソドデシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単位の割合は、0.1~40質量%が好ましく、5~35質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。該割合が40質量%以下であることにより、前記式(1)で表されるモノマー由来の単位の割合を増やすことができ、アクリル樹脂組成物の耐薬品性及び耐油性が向上する。
【0024】
(カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー)
前記ポリマーは、さらにカルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位を含むことが好ましい。前記ポリマーがカルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位を含むことにより、アクリル樹脂組成物の強度をより向上させることができる。カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂組成物の強度がより高い観点から(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0025】
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマー由来の単位の割合は、0.5~20質量%が好ましく、5~18質量%がより好ましく、10~17質量%がさらに好ましく、11~15質量%が特に好ましい。前記カルボン酸含有(メタ)アクリルモノマーの割合が0.5質量%以上であることにより、アクリル樹脂組成物の強度をより向上させることができ、またエポキシ系架橋剤等の架橋剤との反応点を付与することができる。
【0026】
(窒素含有アクリルモノマー)
前記ポリマーは、さらに窒素含有アクリルモノマー由来の単位を含むことが好ましい。
前記ポリマーが窒素含有アクリルモノマー由来の単位を含むことにより、アクリル樹脂組成物の強度及び耐熱性を向上させることができ、耐薬品性及び耐油性も向上する。窒素含有アクリルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピルなどが挙げられる。これらの中でも、汎用性や工業製品化の観点から、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが好ましい。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
前記ポリマーを構成する全モノマー単位100質量%に対する、前記ポリマーに含まれる前記窒素含有アクリルモノマー由来の単位の割合は、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。該割合が1質量%以上であることにより、樹脂改質に効果がある。また、該割合が50質量%以下であることにより、アクリル樹脂組成物を多種多様な用途に適用できる。
【0028】
(その他モノマー)
前記ポリマーは、前述したモノマー由来の単位以外にも、例えば(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールとのモノエステルなどの水酸基を含有する共重合性モノマー等の由来の単位を含むことができる。
【0029】
(重合方法)
上述したモノマーを含むモノマー組成物の重合方法は特に限定されず、例えば溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種の重合方法において、光重合又は熱重合などの手段を用いて行うことができる。さらにはガンマ線のような放射線による重合や、電子線重合も用いることができる。光重合は、例えば光重合開始剤の存在下において、モノマー組成物にUV線を照射して行うことができる。熱重合は、例えば熱重合開始剤の存在下において、モノマー組成物を50~200℃に加熱して行うことができる。
【0030】
(架橋剤)
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、さらに架橋剤を含むことが、架橋構造を形成できる観点から好ましい。架橋剤としては、アクリル樹脂組成物との反応性の観点から、多官能性(メタ)アクリルモノマー、多官能性(メタ)アクリルオリゴマー、2官能以上のグリシジル基含有化合物、及び2官能以上のイソシアネート基含有化合物からなる群から選択される少なくとも一種の架橋剤が好ましい。
【0031】
多官能性(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,2-エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
多官能性(メタ)アクリルオリゴマーの具体例としては、イソシアネート基やグリシジル基を複数有する化合物に(メタ)アクリル酸や水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させてオリゴマー化したウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
2官能以上のグリシジル基含有化合物としては、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、m-N,N-ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジルトルイジン、N,N-ジグリシジルアニリン、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
2官能以上のイソシアネート基含有化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマー及びこれらイソシアネートモノマーをトリメチロールプロパンなどに付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化物、ビュレット型化合物、さらにはポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどに付加させたウレタンプレポリマー型のイソシアネート等が挙げられる。これらの架橋剤は一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
アクリル樹脂組成物中の架橋剤の量は、前記ポリマー(重合前の全モノマー)100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、0.03~1質量部であることがより好ましく、0.05~0.5質量部であることがさらに好ましい。
【0036】
(中空マイクロフィラー)
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、強度付与や軽量化の観点から、充填剤として中空マイクロフィラーを含むことができる。中空マイクロフィラーとしては、中空ガラスビーズ、中空樹脂バルーン等が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性及び耐油性の観点から中空ガラスビーズが好ましい。中空マイクロフィラーの平均粒子径としては、1~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。アクリル樹脂組成物中の中空マイクロフィラーの含有量は、前記ポリマー100質量部に対して2~50質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましく、10~20質量部であることがさらに好ましい。また、アクリル樹脂組成物への分散性を向上させるために、中空マイクロフィラーに対してカップリング処理、ステアリン酸処理等の表面処理を適宜行ってもよい。
【0037】
(難燃剤)
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、難燃剤を含むことができる。難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステル類などのリン系難燃剤、硫酸メラミン、(ポリ化)リン酸メラミンなどのメラミン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。これらの難燃剤は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。耐水性を向上させるための熱硬化性樹脂により、これらの難燃剤を被覆してもよく、マイクロカプセル化等の表面処理を行ってもよい。また、アクリル樹脂組成物への分散性を向上させるために、難燃剤に対してカップリング処理、ステアリン酸処理等の表面処理を適宜行ってもよい。
【0038】
アクリル樹脂組成物中の難燃剤の含有量は、要求される難燃性の程度によっても異なるが、例えば前記ポリマー100質量部に対して20~200質量部であることができる。
なお、難燃剤の含有量の増加とともに粘着性は低下するため、より少量で難燃性を発現できる難燃剤を用いることが好ましい。
【0039】
(熱伝導性粒子)
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、熱伝導性粒子を含むことができる。熱伝導性粒子としては、金属粉、金属酸化物、金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素などが挙げられる。これらの熱伝導性粒子は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。熱伝導性粒子の平均粒子径は1~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。アクリル樹脂組成物への分散性を向上させるために、熱伝導性粒子に対してカップリング処理、ステアリン酸処理等の表面処理を適宜行ってもよい。
【0040】
(その他添加剤)
本発明に係るアクリル樹脂組成物は、必要に応じて、各種シランカップリング剤などの添加剤を含有することができる。
【0041】
(アクリル樹脂組成物の引張強度)
本発明に係るアクリル樹脂組成物をオレイン酸に24時間浸漬した後の引張強度は、オレイン酸に浸漬する前の引張強度の値の50%以上であり、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。この割合(以下、維持率とも示す)が50%以上であることにより、アクリル樹脂組成物が高い耐薬品性及び耐油性を示す。維持率の上限は特に限定されず、高いほうが好ましい。なお、本発明に係るアクリル樹脂組成物は常温(15~25℃)において固体であり、引張強度が測定可能である。該引張強度はJIS K 7114に準じて測定される値であり、具体的には後述する方法により測定される。本発明に係るアクリル樹脂組成物は、オレイン酸に対する耐性が良好であるだけでなく、後述する実施例にも示されるように、トルエン等の他の工業用溶剤、ガソリン等の他の油類に対しても、従来のアクリル樹脂組成物よりも高い耐性を示す。
【0042】
[粘着剤組成物、粘着シート用基材及び粘着シート]
本発明に係る粘着剤組成物は、本発明に係るアクリル樹脂組成物からなる。本発明に係る粘着シート用基材は、本発明に係るアクリル樹脂組成物を含む。本発明に係る粘着シートは、本発明に係る粘着剤組成物、及び/又は、本発明に係る粘着シート用基材を有する。
【0043】
本発明に係る粘着シートは、例えば支持体である粘着シート用基材と、該粘着シート用基材上に設けられた粘着剤組成物からなる粘着剤層(樹脂層)と、からなることができる。該粘着シート用基材及び/又は該粘着剤組成物は、本発明に係る粘着シート用基材及び/又は粘着剤組成物である。粘着剤層は、粘着シート用基材の一方の面にのみ設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。また、粘着剤層は、粘着シート用基材と直接接着されていてもよく、プライマー層などを介して間接的に接着されていてもよい。
また、剥離シートの片面に本発明に係る粘着シートを設け、使用時に該剥離シートを剥がす態様の接着用シートとして使用してもよい。
【0044】
本発明に係る粘着シート用基材は、本発明に係るアクリル樹脂組成物をアクリルフォームとして含むことができる。アクリルフォームの製造方法としては、例えば特開2012-153900号公報に、低密度であり、かつ、気泡が細かく均一に分散したアクリルフォーム粘着剤およびその製造方法が開示されている。また、その他の方法としては、発泡剤を添加してシート化時に発泡させたり、前述した中空マイクロフィラーを添加してシート化する方法などが挙げられる。本発明に係る粘着シート用基材以外の粘着シート用基材を用いる場合、該粘着シート用基材としては、例えばポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィンなどの各種フィルム、レーヨン、マニラ紙などの不織布、金属箔、織り布等が挙げられる。
【0045】
本発明に係る粘着剤組成物からなる粘着剤層の厚さは特に限定されないが、例えば0.1~5mmであることができ、0.1~1mmであることが好ましい。
【0046】
本発明に係る粘着シートは、例えば電子機器部品、自動車部品、建築材等における各部材の接着に好適に用いることができる。
【実施例
【0047】
[評価試験方法]
以下の評価項目は、JIS K 7114「プラスチック-液体薬品への浸漬効果を求める試験方法」に準じて行った。
【0048】
<引張強度>
初期:10mm×100mmに切断した樹脂シートを、ストログラフにて引張速度300mm/minで引っ張り、破断した時の強度を測定した。
【0049】
各薬品(油成分)浸漬後:10mm×100mmに切断した樹脂シートを各薬品(オレイン酸、ガソリン、トルエン)に23℃にて24時間浸漬し、取出した直後にストログラフにて引張速度300mm/minで引っ張り、破断した時の強度を測定した。
【0050】
<寸法変化率>
10mm×100mmに切断した樹脂シートを23℃にて各薬品(オレイン酸、ガソリン、トルエン)に24時間浸漬し、取出した直後に試験サンプルの幅を測定し、寸法変化率を下記式にて算出した。
【0051】
寸法変化率=[(浸漬後の試験サンプルの幅)-(浸漬前の試験サンプルの幅(10mm))]/浸漬前の試験サンプルの幅(10mm)×100(%)。
【0052】
<質量変化率>
10mm×100mmに切断した樹脂シートの質量を測定した。その後、該試験サンプルを23℃にて各薬品(オレイン酸、ガソリン、トルエン)に24時間浸漬し、取出した直後に試験サンプル表面の薬品をふき取り、質量を測定した。浸漬前からの質量変化率を下記式にて算出した。
【0053】
質量変化率=[(浸漬後の試験サンプルの質量)-(浸漬前の試験サンプルの質量)]/浸漬前の試験サンプルの質量×100(%)。
【0054】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却器、温度計、UVランプ及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、アクリル酸2-メトキシエチル60.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル27.5質量部、アクリル酸12.5質量部、光重合開始剤としてイルガキュア1173(商品名、BASFジャパン社製)0.01質量部、及び連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン0.01質量部を添加して、モノマー組成物を調製した。該モノマー組成物に窒素雰囲気下でUV光を照射することでモノマーの一部を重合し、シロップ状組成物を調製した。
該シロップ状組成物中のポリマーの濃度は約13質量%であり、該ポリマーの重量平均分子量は約85万であった。
【0055】
前記シロップ状組成物100質量部に対して、架橋剤として1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(商品名:NKエステルA-HD-N、新中村化学工業(株)製)0.1質量部、光重合開始剤としてイルガキュア1173(商品名、BASFジャパン社製)0.5質量部を添加して、均一に撹拌した。撹拌混合時に混入した空気泡を脱泡操作により除去して、塗工液を調製した。
【0056】
表面が離型剤で処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、前記塗工液を、得られる樹脂層の厚さが0.5mmになるように塗工した。前記塗工液からなる層の上に、厚さ50μmのPETフィルムを積層した後、紫外線を照射して、本発明に係るアクリル樹脂組成物からなる樹脂層を有する樹脂シートを作製した。
該樹脂シートについて、前記評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2~8、比較例1~5]
モノマー組成物中のモノマーの種類と量、架橋剤の種類と量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に樹脂シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。実施例2,5,6は参考例を示す。
【0058】
なお、実施例2及び5、並びに比較例2では、シロップ状組成物調製時のモノマーの合計(得られるポリマー)100質量部に対して、充填剤として中空ガラスビーズであるガラスバルーン(商品名:Sphericel 34P30、ポッターズ・バロティーニ社製、平均粒子径:35μm)を15.0質量部添加した。なお、比較例4及び5のガソリン及びトルエン浸漬後の引張強度の評価では、測定機にセットする前に樹脂シートが破断してしまったため、測定を行うことができなかった。
【0059】
[実施例9]
冷却管、撹拌機及び温度計を備えた反応容器内で、アクリル酸2-メトキシエチル60.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル27.5質量部、アクリル酸12.5質量部、及び重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を、酢酸エチル100質量部に溶解した。窒素置換後、68℃で4時間重合し、さらに2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を添加して80℃で2時間重合した。得られた溶液中のポリマーの濃度は約50質量%であり、該ポリマーの重量平均分子量は約80万であった。該溶液に、架橋剤として4官能グリシジル化合物(商品名:Tetrad-X、三菱ガス化学(株)製)を0.08質量部添加し、混合して塗工液を調製した。
【0060】
表面が離型剤で処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、前記塗工液を、得られる樹脂層の厚さが0.1mmになるように塗工し、乾燥機にて乾燥させた。これを5回繰り返し、樹脂層の厚さが0.5mmになるように積層させ、本発明に係るアクリル樹脂組成物からなる樹脂層を有する樹脂シートを作製した。該樹脂シートについて、前記評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
2-MEA :アクリル酸2-メトキシエチル
AM-90G :アクリル酸メトキシ(ポリ)エチレングリコール(n=9)
2-EHA :アクリル酸2-エチルヘキシル
n-BA :n-ブチルアクリレート
AA :アクリル酸
ACMO :アクリロイルモルフォリン
HDDA :1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
Tetrad-X:商品名、三菱ガス化学(株)製、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン