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特許7293400樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20230612BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230612BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230612BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K5/14
C08L23/08
C08L77/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021563923
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045285
(87)【国際公開番号】W WO2021117635
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019224019
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴広
(72)【発明者】
【氏名】大木 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 貞樹
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩一
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-069159(JP,A)
【文献】特開2012-224844(JP,A)
【文献】特開2007-030269(JP,A)
【文献】特開平07-082480(JP,A)
【文献】特開平05-179138(JP,A)
【文献】特表2000-516984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を、有機過酸化物(B)の存在下で化学架橋する工程と、
化学架橋された前記アイオノマー(A)と、ポリアミド樹脂(C)と、を溶融混練する工程と、
を含み、前記化学架橋する工程にて架橋助剤を実質的に用いず、
実質的に使用しない前記架橋助剤は、キノンオキシム類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリアリル類、マレイミド類、硫黄、無水マレイン酸、イタコン酸、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン及び1,2-ポリブタジエンである樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(C)の含有率が、樹脂組成物中の樹脂成分の合計100質量%に対し、50質量%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定された前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトマスフローレートが、0.1g/10分~50g/10分である請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体における不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全量に対し、5質量%~25質量%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記化学架橋する工程では、前記アイオノマー(A)100質量部を、前記有機過酸化物(B)0.001質量部~3質量部の存在下で化学架橋する請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法により樹脂組成物を製造する工程と、
製造された前記樹脂組成物を成形する工程と、
を含む成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド(例えば、ナイロン)樹脂の分野では、成形品に要求される耐衝撃性、成形性等の特性に応じて、種々の改質が行われている。成形品に求められる耐衝撃性を改良する方法としては、ポリアミド樹脂の種類を調整する方法、ポリアミド樹脂と異種ポリマーとを溶融混練する方法等が知られている。成形性を向上する方法としては、層状珪酸塩、アイオノマー等の改質剤を添加して溶融粘度を調整する方法などが知られている。
【0003】
厚さの大きい成形体、いわゆる厚物をブロー成形、射出成形等によって成形する場合、溶融時の粘度を調整することが望まれる。一般的にポリアミド樹脂は溶融時の粘度が低いため、ブロー成形時にパリソンがドローダウンすることによる成形性の低下が問題となる。これに対し、改質剤を用いて低せん断域での粘度を高めることでドローダウンの発生を抑制することにより成形性を高める方法が探索されている。また、射出成形時には、金型の隙間に溶融樹脂が流入することで成形品にバリが生じることがある。バリを抑制するために、射出充填時の高せん断域においてはあまり増粘させずに冷却固化時の低せん断域で増粘させる方法が探索されている。
【0004】
ブロー成形におけるポリアミド樹脂の改質方法として、例えば特許文献1には、ブロー成形における成形性と低温靭性とを改善させるため、ポリアミド6樹脂とポリアミド610樹脂を特定割合で配合して溶融張力を改善し、さらに、アイオノマー及びエチレン系エラストマーを配合したポリアミド樹脂組成物が記載されている。
[特許文献1]特開2007-204674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、特にブロー成形、射出成形等の成形方法においては、ポリアミド樹脂組成物が適切な溶融粘度を有し、良好な成形性を有することが望ましい。しかしながら、成形性改良を目的としてアイオノマー樹脂を改質剤に用いて粘度調整する場合においては、樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐油性が低下する傾向にある。したがって、樹脂組成物の成形性と、樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐油性とを両立させるためにはさらなる改良の余地がある。
【0006】
本開示は、耐油性に優れた成形体を製造でき、かつ成形性に優れる樹脂組成物を製造可能な樹脂組成物の製造方法、及び、この製造方法を含む成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
<1> エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を、有機過酸化物(B)の存在下で化学架橋する工程と、化学架橋された前記アイオノマー(A)と、ポリアミド樹脂(C)と、を溶融混練する工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
<2> 前記ポリアミド樹脂(C)の含有率が、樹脂組成物中の樹脂成分の合計100質量%に対し、50質量%以上である、<1>に記載の樹脂組成物の製造方法。
<3> JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定された前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトマスフローレートが、0.1g/10分~50g/10分である<1>又は<2>に記載の樹脂組成物の製造方法。
<4> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体における不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有量が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全量に対し、5質量%~25質量%である<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法。
<5> 前記化学架橋する工程にて架橋助剤を実質的に用いない、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法。
<6> 前記化学架橋する工程では、前記アイオノマー(A)100質量部を、前記有機過酸化物(B)0.001質量部~3質量部の存在下で化学架橋する<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法。
【0008】
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法により樹脂組成物を製造する工程と、製造された前記樹脂組成物を成形する工程と、を含む成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、耐油性に優れた成形体を製造でき、かつ成形性に優れる樹脂組成物を製造可能な樹脂組成物の製造方法、及び、この製造方法を含む成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0011】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよく、各成分に該当する物質複数種用いてもよい。樹脂組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、樹脂組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。また、各成分に該当する物質を複数種使用する場合、各成分の使用量は、特に断らない限り、使用する複数種の物質の合計の使用量を意味する。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0012】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本開示の樹脂組成物の製造方法は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を、有機過酸化物(B)の存在下で化学架橋する工程と、化学架橋された前記アイオノマー(A)と、ポリアミド樹脂(C)と、を溶融混練する工程と、を含む。以下、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を単に「アイオノマー(A)」と称することがある。
【0013】
本開示の樹脂組成物の製造方法によれば、耐油性に優れた成形体を製造でき、かつ成形性に優れる樹脂組成物を製造可能である。その理由は明確ではないが、以下のように推定される。
アイオノマー(A)をポリアミド樹脂(C)に添加すると、低せん断域での溶融粘度を上昇させることができる。これは、アイオノマー(A)をポリアミド樹脂(C)に分散させた海島構造において、海部分(すなわちポリアミド樹脂(C)部分)と島部分(すなわちアイオノマー(A)部分)とが相互作用するためであると考えられる。低せん断域での増粘作用は、アイオノマー(A)の分散性が高いほど効果的である。例えば、アイオノマー(A)の酸含量又は金属イオン量を調整することでアイオノマー(A)の分散性を調整でき、特に酸含量を増加させることによって分散性が高まり増粘作用が高まる傾向にある。しかし、一般にアイオノマー(A)はポリアミド樹脂(C)よりも耐油性が劣るため、アイオノマー(A)をポリアミド樹脂(C)に添加することによって、樹脂組成物を成形体としたときの耐油性が低下する傾向にある。
本開示の樹脂組成物の製造方法では、有機過酸化物(B)を用いてアイオノマー(A)を化学架橋し、化学架橋されたアイオノマー(A)をポリアミド樹脂(C)に添加して樹脂組成物を製造する。このように予めアイオノマー(A)を化学架橋しておくことにより、アイオノマー(A)によるポリアミド樹脂(C)の増粘効果が向上し、さらに樹脂組成物を成形体にしたときの耐油性を改良できると推測される。
【0014】
本開示の樹脂組成物の製造方法は、アイオノマー(A)を、有機過酸化物(B)の存在下で化学架橋する工程を含む。これによりアイオノマー(A)は化学架橋され、化学架橋されたアイオノマー(A)を樹脂組成物の製造に用いることにより、樹脂組成物を成形体としたときの耐油性に優れる。
本開示において、「化学架橋する」とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と有機過酸化物(B)とを少なくとも含む混合物を溶融又は軟化状態で混練することをいう。
本開示において、「化学架橋されたアイオノマー(A)」とは、前述の化学架橋する工程により、化学架橋されたアイオノマー(A)を含んでいればよく、化学架橋されたアイオノマー(A)と未架橋のアイオノマー(A)との混合物であってもよい。
【0015】
前述の化学架橋する工程は、例えば、アイオノマー(A)、有機過酸化物(B)、必要に応じて架橋助剤等を押出機に供給し、これらの成分を押出機内で混練する工程である。
【0016】
前述の化学架橋する工程で押出機を用いる場合、押出機としては特に制限されず、単軸押出機が好ましい。混練条件としては、特に制限されず、スクリューのL/D(長さ/直径)が20以上で滞留時間が1分以上であることが好ましい。加熱温度としては、120~250℃の範囲であることが好ましく、150℃~230℃の範囲であることがより好ましい。上記混練は、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0017】
前述の化学架橋する工程では、アイオノマー(A)と有機過酸化物(B)とを少なくとも含む混合物は、後述するアイオノマー(A)以外の樹脂成分、添加剤等をそれぞれ独立に含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
アイオノマー(A)と有機過酸化物(B)とを少なくとも含む混合物において、アイオノマー(A)と有機過酸化物(B)との合計含有率は、効率よくアイオノマー(A)を化学架橋する観点から、混合物の全量に対し、80質量%~100質量%であることが好ましく、90質量%~100質量%であることがより好ましく、95質量%~100質量%であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
なお、「アイオノマー(A)と有機過酸化物(B)との合計含有率が100質量%」とは、混合物がアイオノマー(A)及び有機過酸化物(B)のみからなる態様、及び、アイオノマー(A)、有機過酸化物(B)及び不可避的に混入する不純物のみからなる態様を包含する。
【0018】
本開示の樹脂組成物の製造方法は、前述の化学架橋されたアイオノマー(A)と、ポリアミド樹脂(C)と、を溶融混練する工程を含む。これにより、樹脂組成物が製造される。
【0019】
前述の溶融混練する工程は、例えば、化学架橋されたアイオノマー(A)と、ポリアミド樹脂(C)と、必要に応じて各種添加剤とを混合し、公知の溶融混練方法によりこれらの混合物を混練する工程である。溶融混練方法としては、例えば、タンブラー、ミキサー等を用いて、特定の割合になるように均一にドライブレンドして得られた混合物を溶融混練機を用いて溶融混練する方法、一部を溶融混練機にて混練した後、混練された一部に残りをドライブレンドする方法等が挙げられる。溶融混練機としては、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機が挙げられ、二軸押出機が好ましい。混練条件としては、特に制限されず、スクリューのL/D(長さ/直径)が20以上で滞留時間が1分以上であることが好ましい。加熱温度としては、160℃~300℃の範囲であることが好ましく、200℃~270℃の範囲であることがより好ましい。
【0020】
以下、本開示の樹脂組成物の製造方法にて用いる各成分について説明する。
【0021】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)>
本開示の樹脂組成物の製造方法では、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を用いる。樹脂組成物の製造にエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を使用することで、低せん断域での溶融粘度が上昇し、成形性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0022】
本開示において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーとは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を示す。
【0023】
アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、が共重合した共重合体である。該共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した2元共重合体であってもよく、エチレンと不飽和カルボン酸と第3の共重合成分とが共重合した3元共重合体であってもよく、エチレンと不飽和カルボン酸と2つ以上のその他の共重合成分が共重合した多元共重合体であってもよい。
【0024】
アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。入手容易性の観点からは、2元ランダム共重合体、3元ランダム共重合体、2元ランダム共重合体のグラフト共重合体、又は3元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、2元ランダム共重合体又は3元ランダム共重合体がより好ましい。
【0025】
アイオノマー(A)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中に含まれる酸基が金属イオンで中和された化合物であるため、分子内に少なくとも1種の酸基を有している。酸基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。当該酸基は、アイオノマー(A)の共重合成分である不飽和カルボン酸由来のカルボキシ基であってもよく、その他の酸基であってもよい。
【0026】
アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の共重合成分である不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸、その無水物などが挙げられる。中でも、当該不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0027】
アイオノマー(A)におけるエチレン及び不飽和カルボン酸以外の共重合成分としては、例えば、不飽和カルボン酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等);不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等);ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等);ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物;ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等);ビニル基含有1級アミン化合物又はビニル基含有2級アミン化合物;一酸化炭素;二酸化硫黄などが挙げられる。
これらの共重合成分の中でも、不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
例えば、アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が3元共重合体である場合は、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの3元共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和炭化水素との3元共重合体などが好適に挙げられる。
【0028】
不飽和カルボン酸エステルとしては、不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。不飽和カルボン酸アルキルエステルにおけるアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。当該アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、2-エチルヘキシル、イソオクチル等が挙げられる。
【0029】
不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、アルキル基の炭素数が1~12の不飽和カルボン酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸アルキルエステル)などが挙げられる。
好ましい不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アルキル部位の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0030】
アイオノマー(A)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、2元共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられ、3元共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸n-ブチル共重合体等)が挙げられる。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体における不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有率は、共重合体の全量に対し、5質量%~25質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましく、15質量%~25質量%であることがさらに好ましい。不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有率が5質量%以上であると、成形体の耐衝撃性及び増粘効果の点で有利である。また、不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有率が25質量%以下であると、工業上入手しやすい点で有利である。
【0032】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体におけるエチレンに由来の構成単位の含有率は、共重合体の全量に対し、75質量%~95質量%であることが好ましく、75質量%~90質量%であることがより好ましく、75質量%~85質量%であることがさらに好ましい。エチレンに由来の構成単位の含有率が75質量%以上であると、工業上入手しやすい点で有利である。また、エチレンに由来の構成単位の含有率が95質量%以下であると、成形体の耐衝撃性及び増粘効果の点で有利である。
【0033】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル3元共重合体である場合、不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率は、柔軟性確保の観点から、3元共重合体の全量に対し、3質量%~25質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率は、3質量%以上であると、柔軟性確保の点で有利であり、25質量%以下であると、ブロッキング抑制の点で有利である。
【0034】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル3元共重合体である場合、不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有率は、3元共重合体の全量に対し、2質量%~15質量%であることが好ましく、5質量%~10質量%であることがより好ましい。
【0035】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル3元共重合体である場合、エチレンに由来の構成単位の含有率は、3元共重合体の全量に対し、60質量%~95質量%であることが好ましく、70質量%~90質量%であることがより好ましい。
【0036】
酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。中でも、入手容易性の観点から、亜鉛イオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンが好ましく、亜鉛イオン及びナトリウムイオンがより好ましく、亜鉛イオンがさらに好ましい。金属イオンの価数は特に限定されず、良好な耐衝撃性改良及び増粘効果を得る観点からは2価の金属イオンが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンは、1種であっても2種以上であってもよい。
【0037】
アイオノマー(A)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、10モル%~85モル%であることが好ましい。増粘効果の点において中和度が10モル%以上であることで、アイオノマー(A)の分散性が向上し、より良好な増粘効果が得られる傾向にある。また、耐衝撃性改良の点において中和度が高く、金属イオン量が多い程好ましい。さらに中和度が85モル%以下であることで、加工性及び成形性に優れる傾向にある。中和度は、15モル%~82モル%であることがより好ましく、30モル%~75モル%であることがさらに好ましい。
中和度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基のモル数、好ましくはカルボキシ基のモル数、に対する金属イオンによって中和されたカルボキシ基の配合比率(モル%)である。
【0038】
JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定されたエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトマスフローレート(MFR)は、流動性及び成形性の観点から、0.1g/10分~50g/10分であることが好ましく、0.1g/10分~30g/10分であることがより好ましく、0.1g/10分~10g/10分であることがさらに好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のMFRは、異なるMFRを有するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を複数ブレンドして調整してもよい。
【0039】
本開示の樹脂組成物の製造方法では、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外のアイオノマーを使用してもよい。そのようなアイオノマーとしては、例えば、上述の「アイオノマーにおけるエチレン及び不飽和カルボン酸以外の共重合成分」として挙げた、不飽和カルボン酸エステル;不飽和炭化水素;ビニルエステル;ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物;ハロゲン化合物;ビニル基含有1級アミン化合物又はビニル基含有2級アミン化合物;一酸化炭素;二酸化硫黄などを共重合成分とする共重合体の有する酸基の少なくとも一部が金属イオンで中和された化合物が挙げられる。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外のアイオノマーの使用量は、アイオノマー(A)100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。
【0040】
<有機過酸化物(B)>
本開示の樹脂組成物の製造方法では、化学架橋する工程にて、有機過酸化物(B)を用いる。有機過酸化物(B)は、化学架橋する工程にてアイオノマー(A)の架橋剤として機能する。
【0041】
有機過酸化物(B)は、特に限定されず、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシドなどが挙げられる。
これらの中では、臭気性、スコーチ安定性の点で、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレートなどが好ましく、中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサンが最も好ましい。
【0042】
有機過酸化物(B)の使用量は、アイオノマー(A)100質量部に対し、好ましくは0.001質量部~3質量部であり、より好ましくは0.002質量部~2.5質量部であり、さらに好ましくは0.003質量部~2.0質量部である。有機過酸化物(B)の使用量が上記範囲内であることにより、成形加工性に優れ、化学架橋されたアイオノマー(A)が得られる。この化学架橋されたアイオノマー(A)から得られる樹脂組成物を用いることにより、耐熱性及び外観に優れる成形体を製造することができる。
また、有機過酸化物(B)の使用量は、樹脂組成物を成形体としたときの耐油性を高める観点から、アイオノマー(A)100質量部に対し、0.005質量部以上であってもよく、0.2質量部以上であってもよい。
【0043】
本開示の樹脂組成物の製造方法では、化学架橋する工程にて、架橋剤である有機過酸化物(B)に加えて架橋助剤を用いてもよい。架橋助剤は特に限定されず、例えば、p-キノンジオキシム、p,p-ジベンゾイルキノンオキシム等のキノンオキシム類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類;ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等のポリアリル類;マレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;その他、硫黄、無水マレイン酸、イタコン酸、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、1,2-ポリブタジエンなどが挙げられるが、樹脂組成物のゲル化抑制の観点から、架橋助剤を実質的に用いないことが好ましい。例えば、架橋助剤の使用量は、アイオノマー(A)100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、0質量部であることがより好ましい。
【0044】
本開示の樹脂組成物の製造方法では、化学架橋する工程にて、アイオノマー(A)以外の樹脂成分を用いてもよい。アイオノマー(A)以外の樹脂成分としては特に限定されず、例えば、エチレン重合体、エチレンを主成分とする(すなわち、エチレン成分を50質量%以上含む)共重合体等のオレフィン重合体、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外のアイオノマー、等が挙げられる。アイオノマー(A)によるポリアミド(C)の増粘効果の観点から、アイオノマー(A)を化学架橋する工程にてアイオノマー(A)以外の樹脂成分を実質的に用いないことが好ましい。
【0045】
アイオノマー(A)以外の樹脂成分の使用量は、例えば、アイオノマー(A)100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、0質量部であることが特に好ましい。
【0046】
<ポリアミド樹脂(C)>
本開示の樹脂組成物の製造方法では、溶融混練する工程にて、ポリアミド樹脂(C)を用いる。
【0047】
ポリアミド樹脂(C)の種類は特に制限されず、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシレンジアミン等のジアミンと、の重縮合体;ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体;6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体;上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体などが挙げられる。
【0048】
ポリアミド樹脂(C)は、市販されているものを用いてもよい。具体例としては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610等)、ナイロンMXD6、ナイロン46などが挙げられる。
これらのポリアミド樹脂の中でも、耐傷性の向上と入手容易性の観点から、ナイロン6、及びナイロン6/12が好ましい。
【0049】
溶融混練する工程にて、ポリアミド樹脂(C)の使用量は、ポリアミド樹脂(C)を海部分とする海島構造を形成しやすく、樹脂組成物の成形性に優れる観点から、化学架橋されたアイオノマー(A)及びポリアミド樹脂(C)の全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、良好な改質効果を得る観点からは、上記使用量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
溶融混練する工程にて、アイオノマー(A)及びポリアミド樹脂(C)以外の樹脂成分(その他の樹脂成分)を用いて溶融混練する場合、ポリアミド樹脂(C)の使用量は、ポリアミド樹脂(C)を海部分とする海島構造を形成しやすく、樹脂組成物の成形性に優れる観点から、化学架橋されたアイオノマー(A)、ポリアミド樹脂(C)及びその他の樹脂成分の全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、良好な改質効果を得る観点からは、上記使用量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
<その他の樹脂成分>
その他の樹脂成分としては、アイオノマー(A)及びポリアミド樹脂(C)以外の樹脂成分が挙げられる。その他の樹脂成分としては、例えば、エチレン重合体、エチレンを主成分とする(すなわち、エチレン成分を50質量%以上含む)共重合体等のオレフィン重合体、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外のアイオノマー等が挙げられる。
【0052】
<添加剤>
本開示の樹脂組成物の製造方法では、アイオノマー(A)、有機過酸化物(B)及びポリアミド樹脂(C)以外に、必要に応じて、本開示の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を用いてもよい。このような添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、抗菌剤、防黴剤、帯電防止剤、発泡剤、発泡助剤、スリップ剤(滑剤)、ブロッキング防止剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、繊維強化材などが挙げられる。このような添加剤を添加するタイミングは特に限定されず、例えば、このような添加剤を、化学架橋する工程の前にアイオノマー(A)等と混合してもよく、溶融混練する工程にて化学架橋されたアイオノマー(A)等と混合してもよく、溶融混練する工程の後に樹脂組成物に添加してもよい。
【0053】
<樹脂組成物>
本開示の樹脂組成物の製造方法にて得られる樹脂組成物について説明する。
【0054】
樹脂組成物にて、化学架橋されたアイオノマー(A)の含有率は、良好な改質効果を得る観点からは、樹脂成分の全量に対し、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂(C)を海部分とする海島構造を形成しやすく、成形性に優れる観点から、上記含有率は50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
本開示において、「樹脂成分」とは、樹脂組成物が化学架橋されたアイオノマー(A)及びポリアミド樹脂(C)以外の樹脂成分(その他の樹脂成分)を含まない場合、化学架橋されたアイオノマー(A)及びポリアミド樹脂(C)の合計を意味し、樹脂組成物がその他の樹脂成分を含む場合、化学架橋されたアイオノマー(A)、ポリアミド樹脂(C)及びその他の樹脂成分の合計を意味する。
【0055】
樹脂組成物にて、ポリアミド樹脂(C)の含有率は、ポリアミド樹脂(C)を海部分とする海島構造を形成しやすく、成形性に優れる観点から、樹脂成分の全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、良好な改質効果を得る観点からは、上記含有率は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
〔成形体の製造方法〕
本開示の成形体の製造方法は、本開示の樹脂組成物の製造方法により樹脂組成物を製造する工程と、製造された前記樹脂組成物を成形する工程と、を含む。前述の成形する工程における成形方法及び成形体の形状は特に制限されず、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの各種成形方法により、各種形状の成形体とすればよい。中でも、成形方法としては、低せん断域の溶融粘度が高い観点から、ブロー成形が好ましい。
【実施例
【0057】
以下、本開示の実施例を説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例及び比較例にて製造した樹脂組成物の原料を以下に示す。
(A)アイオノマー
a1)エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体(エチレン:メタクリル酸:アクリル酸ブチル(質量比)=75:8:17)を構成するメタクリル酸のカルボキシ基の65モル%を金属イオン中和したZn型アイオノマー(MFR(190℃、2160g荷重)=2.5g/10分)。
(B)有機過酸化物
b1)2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(商品名ルペロックス101、アルケマ吉富株式会社製)
(C)ポリアミド樹脂
c1)ナイロン6(商品名1030B、宇部興産株式会社製、相対粘度4.1、融点215~225℃)
【0059】
<実施例1>
(A)アイオノマーであるa1)100質量部に対して(B)有機過酸化物であるb1)0.1質量部をドライブレンドして含浸させた後、40mmφの単軸押出機でシリンダー温度210℃の条件で溶融混練し、造粒して化学架橋されたアイオノマーのペレットを得た。得られたペレット30質量部及び(C)ポリアミド樹脂であるc1)70質量部をドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機でシリンダー温度250℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を造粒し、75℃の窒素雰囲気下で終夜乾燥した後、120℃で3時間乾燥することにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0060】
〔溶融粘度の評価〕
実施例1にて得られたペレット状の樹脂組成物の250℃、せん断速度13.7sec-1及び1374sec-1における溶融粘度[Pa・s](η13.7及びη1374)をJIS K7199:1999に準拠したキャピラリーレオメーターを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0061】
〔耐油性の評価〕
実施例1にて得られたペレット状の樹脂組成物を用い、260℃で射出成形して2mm厚の角板を得る。得られた角板を長さ60mm×幅60mmに切断して得られた試験片を用いて、JIS K7114:2001に準拠して、試験用潤滑油としてIRM903(日本サン石油株式会社製)を用いて70℃で7日間浸漬した後の質量変化率、及び試験用潤滑油としてIRM902(日本サン石油株式会社製)を用いて100℃で7日間浸漬した後の質量変化率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0062】
<実施例2>
(B)有機過酸化物であるb1)を0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
<実施例3>
(B)有機過酸化物であるb1)を0.1質量部から0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例1>
(A)アイオノマー樹脂及び(B)有機過酸化物を用いず、(C)ポリアミド樹脂であるc1)を30mmφ二軸押出機でシリンダー温度250℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を造粒し、75℃の窒素雰囲気下で終夜乾燥した後、120℃で3時間乾燥することにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例2>
(B)有機過酸化物を用いず、(A)アイオノマー樹脂であるa1)30質量部及び(C)ポリアミド樹脂であるc1)70質量部をドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機でシリンダー温度250℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を造粒し、75℃の窒素雰囲気下で終夜乾燥した後、120℃で3時間乾燥することにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例3>
(A)アイオノマー樹脂であるa1)100質量部に対して(B)有機過酸化物であるb1)0.1質量部を含浸させた組成物30質量部と、(C)ポリアミド樹脂であるc1)70質量部とをドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機でシリンダー温度250℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を造粒し、75℃の窒素雰囲気下で終夜乾燥した後、120℃で3時間乾燥することにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
<比較例4>
(B)有機過酸化物であるb1)を0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は、比較例3と同様の操作を行い、ペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたペレット状の樹脂組成物を用いて溶融粘度の測定及び耐油性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示されるように、実施例1~3では、低せん断域での溶融粘度(η13.7)が高く、耐油性が良好な組成物が得られた。(C)ポリアミド樹脂のみを含有する比較例1では、耐油性は良好だったが、実施例と比べて低せん断域での溶融粘度が劣っていた。また、(B)有機過酸化物を用いない比較例2では、実施例と比べて低せん断域での溶融粘度及び耐油性に劣っていた。さらに、(A)アイオノマー、(B)有機過酸化物及び(C)ポリアミド樹脂を同時に溶融混練した比較例3及び4では、実施例と比べて耐油性に劣っていた。
また、実施例1~3が比較例3及び4よりも耐油性に優れていた理由としては、実施例1~3では、(A)アイオノマーを(B)有機過酸化物の存在下で化学架橋する際に(C)ポリアミド樹脂が存在しないことにより、効率よく(A)アイオノマーが化学架橋され、未架橋の(A)アイオノマーが比較例3及び4よりも少ないためと推測される。
【0070】
2019年12月11日に出願された日本国特許出願2019-224019号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。