(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】熱解析支援装置、熱解析支援方法、熱解析支援プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230612BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20230612BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20230612BHJP
G06F 119/08 20200101ALN20230612BHJP
【FI】
G06F30/20
G01N25/18 L
G06F111:10
G06F119:08
(21)【出願番号】P 2022095033
(22)【出願日】2022-06-13
【審査請求日】2022-06-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年12月9日に熱設計なんでも相談室第60回オープンセミナーの個別相談会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 典生
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-194902(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075611(WO,A1)
【文献】特開2002-304422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
G01N 25/18
G06F 111/10
G06F 119/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路にお
いて伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置であって、
前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出部と、を備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項2】
放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路にお
いて伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置であって、
前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を算出するデータ算出部と、
前記データ算出部により算出された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出部と、を備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱解析支援装置であって、
前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を降順に表示する表示部をさらに備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の熱解析支援装置であって、
前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積のうち最も大きい積に対する前記積の比を、百分率で表わされるボトルネック指数として前記熱抵抗毎に算出する指数算出部をさらに備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱解析支援装置であって、
前記指数算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記ボトルネック指数を降順に表示する表示部をさらに備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の熱解析支援装置であって、
前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積に基づいて、前記熱抵抗のうち前記ボトルネックの候補となる熱抵抗を判定する判定部をさらに備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の熱解析支援装置であって、
前記判定部は、
前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積のうち比較的大きい積に対応する熱抵抗を前記ボトルネックの候補として判定することを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項8】
請求項6に記載の熱解析支援装置であって、
前記判定部により前記ボトルネックの候補として判定された熱抵抗を前記熱回路モデル上で強調して表示する表示部をさらに備えることを特徴とする熱解析支援装置。
【請求項9】
放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路にお
いて伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する
熱解析支援装置の熱解析支援方法であって、
前記熱解析支援装置の取得部が前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を取得する取得ステップと、
前記熱解析支援装置の積算出部が前記取得ステップにより取得された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出ステップと、を備えることを特徴とする熱解析支援方法。
【請求項10】
請求項9に記載の熱解析支援方法であって、
前記熱解析支援装置の判定部が前記積算出ステップにより前記熱抵抗毎に算出された前記積に基づいて、前記熱抵抗のうち前記ボトルネックの候補となる熱抵抗を判定する判定ステップをさらに備えることを特徴とする熱解析支援方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の熱解析支援方法をコンピュータに実行させることを特徴とする熱解析支援プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の熱解析支援プログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子デバイス、電子機器等の機器の放熱経路において伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置、熱解析支援方法、熱解析支援プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、電子機器等の機器の放熱経路において伝熱効率が最も劣るボトルネックを特定する手法として、熱流束ベクトルの大きさと温度勾配ベクトルの大きさとの積に基づいてボトルネックを特定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2011/0268147号
【文献】特開平4-7675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱流束は、単位時間に単位面積を横切る熱量であるところ、上記の特許文献1に記載の技術を採用しようとすると、放熱経路上の各部材における断面積を把握しておく必要がある。このため、上記の特許文献1は、機器の具体的な形状等が定まっていない設計工程の早期においては適用が困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明者は、上記問題を解決する手段を模索する中で、熱回路網法(例えば、特許文献2参照)に着目した。熱回路網法とは、熱伝導と電気伝導の相似性に基づいて放熱経路を熱抵抗等で構成される熱回路に置き換えて、熱流量を保存量として温度や熱流量を算出する熱解析手法である。熱回路網法は、3Dモデル等を必要としないことから設計工程の早期から広く用いられている。
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、熱回路網法から得られる算出結果を用いることにより設計工程の早期においてボトルネックを特定し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本開示は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであり、設計工程の早期においてボトルネックを特定するための指標を得ることができる熱解析支援装置、熱解析支援方法、熱解析支援プログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願記載の熱解析支援装置は、放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路において伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置であって、前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を取得する取得部と、前記取得部により取得された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出部と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本願記載の他の熱解析支援装置は、放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路において伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置であって、前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を算出するデータ算出部と、前記データ算出部により算出された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出部と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
前記熱解析支援装置において、前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を降順に表示する表示部をさらに備えてもよい。
【0011】
前記熱解析支援装置において、前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積のうち最も大きい積に対する前記積の比を、百分率で表わされるボトルネック指数として前記熱抵抗毎に算出する指数算出部をさらに備えてもよい。
【0012】
前記熱解析支援装置において、前記指数算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記ボトルネック指数を降順に表示する表示部をさらに備えてもよい。
【0013】
前記熱解析支援装置において、前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積に基づいて、前記熱抵抗のうち前記ボトルネックの候補となる熱抵抗を判定する判定部をさらに備えてもよい。
【0014】
前記熱解析支援装置において、前記判定部は、前記積算出部により前記熱抵抗毎に算出された前記積のうち比較的大きい積に対応する熱抵抗を前記ボトルネックの候補として判定してもよい。
【0015】
前記熱解析支援装置において、前記判定部により前記ボトルネックの候補として判定された熱抵抗を前記熱回路モデル上で強調して表示する表示部をさらに備えてもよい。
【0016】
本願記載の熱解析支援方法は、放熱経路を表した熱回路モデルに基づいて該放熱経路において伝熱効率が最も劣るボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置の熱解析支援方法であって、前記熱解析支援装置の取得部が前記熱回路モデル中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を取得する取得ステップと、前記熱解析支援装置の積算出部が前記取得ステップにより取得された前記温度差及び前記熱流量の各値の積を前記熱抵抗毎に算出する積算出ステップと、を備えることを特徴とするものである。
【0017】
前記熱解析支援方法において、前記熱解析支援装置の判定部が前記積算出ステップにより前記熱抵抗毎に算出された前記積に基づいて、前記熱抵抗のうち前記ボトルネックの候補となる熱抵抗を判定する判定ステップをさらに備えてもよい。
【0018】
本願記載の熱解析支援プログラムは、前記熱解析支援方法をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【0019】
本願記載の記録媒体は、前記熱解析支援プログラムを記録したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、設計工程の早期においてボトルネックを特定するための指標を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態1における熱解析支援装置を示すブロック図である。
【
図5】実施形態1における熱解析支援装置による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態1における表示部に表示される結果の一例を示す図である。
【
図7】実施形態2における熱解析支援装置を示すブロック図である。
【
図8】実施形態2における熱解析支援装置による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態2における表示部に表示される結果の一例を示す図である。
【
図10】実施形態3における熱解析支援装置を示すブロック図である。
【
図11】実施形態3における熱解析支援装置による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】実施形態3における表示部に表示される結果の一例を示す図である。
【
図13】実施形態4における熱解析支援装置を示すブロック図である。
【
図14】実施形態4における表示部に表示される結果の一例の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各実施形態の間で同一の構成要素には同一の符号を付し、それら構成要素について重複する説明は省略する。
【0023】
(実施形態1)
図1は、熱解析支援装置1の一例を示すブロック図である。
【0024】
本願記載の熱解析支援装置1は、電子デバイス、電子機器等の機器の放熱経路において伝熱効率が最も劣る「ボトルネック」の特定を支援するものである。具体的には、熱解析支援装置1は、他の装置、他のプログラム、ユーザ(人)等が機器の放熱経路におけるボトルネックを特定するために用いる指標を算出するものである。
【0025】
本実施形態において、熱解析支援装置1は、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレット型コンピュータ等を用いて構成されている。熱解析支援装置1は、情報処理装置2と通信可能に接続されている(
図1参照)。
【0026】
情報処理装置2は、例えば、電気回路解析に用いられる公知の回路シミュレータ等であり、公知の熱回路網法を用いてキルヒホッフの法則に則り、以下説明する熱回路モデル20及び熱抵抗データ21から連立方程式を組み立てて解くことで、同じく以下説明する温度差データ22及び熱流量データ23を算出する。
【0027】
【0028】
熱回路モデル20は、機器における放熱経路を回路モデルとして表したものであり、機器における部材等を熱抵抗として表した熱抵抗C1,C2,C3・・と、熱抵抗C1,C2,C3・・が接続される点である節点N1,N2,N3・・と、を含んで構成されている(
図2参照)。熱回路モデル20は、熱伝導と電気伝導の相似性に基づいて、放熱経路を電気回路に倣ってモデリングしたものである。以下、説明の便宜上、熱回路モデル20において熱抵抗として表された部材を参照して「熱抵抗(部材)」と表現することがある。
【0029】
【0030】
熱抵抗データ21は、熱回路モデル20(
図2参照)中の各熱抵抗の熱抵抗値を示すデータである。熱抵抗データ21における項目「熱抵抗Cn」は、熱抵抗C1,C2,C3・・を示し、項目「熱抵抗値[℃/W]」は、熱抵抗C1,C2,C3・・のそれぞれの熱抵抗値θ1,θ2,θ3・・を℃/Wの単位で示している(
図3参照)。熱抵抗データ21は、例えば、機器における各部材の熱伝導率等を用いて計算したり、公知の測定装置を用いて各部材の熱抵抗値を測定したりすることにより、取得することができる。
【0031】
【0032】
温度差データ22は、熱回路モデル20(
図2参照)中の各熱抵抗における温度差の値を示すデータである。温度差とは、熱抵抗(部材)の両端の温度差のことを指す。例えば、熱抵抗C1における温度差T1は、節点N2における温度から節点N1における温度を差し引いた値であり、熱抵抗C3における温度差T3は、節点N3における温度から節点N2における温度を差し引いた値である。温度差データ22における項目「熱抵抗Cn」は、熱抵抗C1,C2,C3・・を示し、項目「温度[℃]」は、熱抵抗C1,C2,C3・・のそれぞれにおける温度差T1,T2,T3・・を℃の単位で示している(
図4A参照)。
【0033】
【0034】
熱流量データ23は、熱回路モデル20(
図2参照)中の各熱抵抗における熱流量の値を示すデータである。熱流量とは、単位時間に流れる熱の量のことを指す。熱流量データ23における項目「熱抵抗Cn」は、熱抵抗C1,C2,C3・・を示し、項目「熱流量[W]」は、熱抵抗C1,C2,C3・・のそれぞれにおける熱流量P1,P2,P3・・をWの単位で示している(
図4B参照)。
【0035】
熱解析支援装置1は、処理部3と、記憶部4と、通信部5(取得部)と、表示部6と、を備えている(
図1参照)。
【0036】
処理部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等によって実現される。処理部3の各部は、記憶部4に記憶されたプログラム40の一部であり、処理部3の制御によって読み出されることにより処理を実行する。本実施形態において、処理部3は、積算出部30を有している(
図1参照)。積算出部30による処理については、後にフローチャートを参照して説明する。
【0037】
記憶部4は、例えば、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)等のメモリによって実現される。記憶部4には、プログラム40が記憶されている。また、記憶部4には、処理部3により出力された出力データが一時的に記憶される。なお、プログラム40は、これに限られず、LAN(Local Area Network)等のネットワークからダウンロードされてもよい。
【0038】
通信部5は、情報処理装置2から温度差データ22及び熱流量データ23を取得するものであり、例えば、ネットワークアダプタ等によって実現される。
【0039】
表示部6は、処理の結果を表示するものであり、例えば、液晶ディスプレイ等によって実現される。
【0040】
続いて、本実施形態における熱解析支援装置1による処理手順を説明する。
【0041】
図5は、熱解析支援装置1による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0042】
先ず、ステップST1(
図5参照)において、熱解析支援装置1の処理部3は、通信部5を介して情報処理装置2から温度差データ22(
図4A参照)を取得する。
【0043】
次に、ステップST2(
図5参照)において、処理部3は、通信部5を介して情報処理装置2から熱流量データ23(
図4B参照)を取得する。
【0044】
ステップST3(
図5参照)において、処理部3の積算出部30は、上記ステップST1で取得された温度差データ22(
図4A参照)及びステップST2で取得された熱流量データ23(
図4B参照)を用いて、温度差及び熱流量の各値の積(掛け算)を熱抵抗毎に算出する。例えば、積算出部30は、熱回路モデル20中の1番目の熱抵抗C1について温度差T1及び熱流量P1の積(=T1*P1)を算出し、同様に、熱回路モデル20中の2番目の熱抵抗C2について温度差T2及び熱流量P2の積(=T2*P2)を算出する。
【0045】
積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積は、熱回路モデル20により表された放熱経路における「ボトルネック」を特定するための指標となる値である。理由は、以下の通りである。
【0046】
ボトルネックとは、機器において伝熱効率が最も劣る箇所とされる。このため、ボトルネックにおける熱抵抗(部材)の伝熱効率を改善することは、機器全体の放熱効率の向上に寄与する。換言すると、伝熱効率の改善により機器全体の放熱効率の向上に寄与する熱抵抗(部材)は、ボトルネックであるといえる。
【0047】
一見、他の部材と比較して大きい熱抵抗値を有する部材がボトルネックとして適しているように思われる。しかし、部材における熱抵抗値が相対的に大きくても熱流量が相対的に少ないのであれば、当該部材の伝熱効率を改善したとしても、機器全体の放熱効率の向上は期待できない。これは、交通量がそもそも少ない裏道の交通渋滞を改善したとしても、主要道路の交通渋滞の改善に寄与し得ない事象に類推する。
【0048】
同様に、一見、他の部材と比較して大きい温度差を有する部材がボトルネックとして適しているように思われる。しかし、部材における温度差が相対的に大きくても熱流量が相対的に少ないのであれば、当該部材の伝熱効率を改善したとしても、機器全体の放熱効率の向上は期待できない。
【0049】
一方で、部材における温度差及び熱流量がともに相対的に大きければ、当該部材の伝熱効率を改善することにより、機器全体の放熱効率の向上が期待できる。このことから、温度差及び熱流量がともに相対的に大きい熱抵抗(部材)は、ボトルネックとして適しているといえる。従って、積算出部30は、ボトルネックを特定するための指標として、温度差及び熱流量の各値の積を熱抵抗毎に算出する。
【0050】
このように、積算出部30が温度差データ22及び熱流量データ23を用いて温度差及び熱流量の各値の積を熱抵抗毎に算出することにより、ボトルネックを特定するための指標を得ることができる。また、熱回路モデル20は機器の設計工程の早期から取得可能なデータであるところ、熱回路モデル20から導き出される温度差データ22及び熱流量データ23もなお設計工程の早期から取得可能なデータであるため、積算出部30は、温度差データ22及び熱流量データ23を用いて温度差及び熱流量の各値の積を熱抵抗毎に算出することができる。これにより、設計工程の早期においてボトルネックを特定するための指標を得ることができる。
【0051】
図6は、実施形態1における表示部6に表示される結果の一例を示す図である。
図6において、項目「熱抵抗Cn」は、熱抵抗C1,C2,C3・・を、対応する温度差及び熱流量の各値の積が大きい順にソートして示し、項目「積」は、各熱抵抗に対応する温度差及び熱流量の各値の積を大きい順にソートして示している。
【0052】
ステップST4(
図5参照)において、表示部6は、積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積を降順に表示する(
図6参照)。これにより、温度差及び熱流量がともに相対的に大きい熱抵抗を視覚的に容易に把握することができる。
【0053】
なお、上記のステップST1及びステップST2の順は、不問である。
【0054】
なお、上記説明した例に限られず、熱回路モデル20は、機器における部材等を熱抵抗及び熱容量として表したものであってもよい。
【0055】
なお、上記説明した例に限られず、熱抵抗データ21、温度差データ22及び熱流量データ23並びに表示部6に表示される結果において、熱抵抗C1,C2,C3・・は、機器における部材の名称等に関連付けられていてもよい。
【0056】
なお、上記説明した例に限られず、例えば、情報処理装置2は、温度差データ22の代わりに、熱回路モデル20(
図2参照)中の各節点における温度の値を示すデータ(節点温度データ)を算出してもよく、この場合、熱解析支援装置1は、情報処理装置2から取得した節点温度データに基づいて各熱抵抗における温度差の値を算出することにより温度差データ22を取得し得る。
【0057】
なお、熱解析支援装置1は、積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積を、通信部5等を介して外部装置に出力してもよい。
【0058】
(実施形態2)
以下、本開示の実施形態2について、上記実施形態1とは異なる点についてのみ説明する。
【0059】
図7は、実施形態2における熱解析支援装置1を示すブロック図である。
図8は、実施形態2における熱解析支援装置1による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0060】
実施形態2において、処理部3は、BN指数算出部31(指数算出部)をさらに有している(
図7参照)。以下、BN指数算出部31による処理について、
図8のフローチャートを参照して説明する。実施形態2におけるステップST1~ステップST3の処理は、実施形態1におけるもの(
図5参照)と同様である。
【0061】
ステップST4(
図8参照)において、BN指数算出部31は、ステップST3で積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積のうち最も大きい積に対する温度差及び熱流量の各値の積の比を、百分率で表わされるBN指数(ボトルネック指数)として熱抵抗毎に算出する。例えば、積算出部30により熱抵抗毎に算出された積のうち最も大きい積が、熱回路モデル20中の35番目の熱抵抗C35についての積(=T35*P35)であった場合、熱抵抗C1におけるBN指数は、〔(T1*P1)/(T35*P35)*100〕となる。同様に、熱抵抗C2におけるBN指数は、〔(T2*P2)/(T35*P35)*100〕となる。
【0062】
このように、BN指数算出部31が熱抵抗毎にBN指数を算出することにより、ボトルネックを特定するための指標を熱抵抗間で容易に比較することができる。
【0063】
図9は、実施形態2における表示部6に表示される結果の一例を示す図である。
図9において、項目「熱抵抗Cn」は、熱抵抗C1,C2,C3・・を、対応するBN指数が大きい順にソートして示し、項目「BN指数」は、各熱抵抗に対応するBN指数を大きい順にソートして示している。
【0064】
ステップST5(
図8参照)において、表示部6は、BN指数算出部31により熱抵抗毎に算出されたBN指数を降順に表示する(
図9参照)。これにより、温度差及び熱流量がともに相対的に大きい熱抵抗を視覚的に容易に把握することができる。
【0065】
なお、熱解析支援装置1は、BN指数算出部31により熱抵抗毎に算出されたBN指数を、通信部5等を介して外部装置に出力してもよい。
【0066】
(実施形態3)
以下、本開示の実施形態3について、上記実施形態2とは異なる点についてのみ説明する。
【0067】
図10は、実施形態3における熱解析支援装置1を示すブロック図である。
図11は、実施形態3における熱解析支援装置1による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0068】
実施形態3において、熱解析支援装置1の処理部3は、判定部32をさらに有している(
図7参照)。以下、判定部32による処理について、
図11のフローチャートを参照して説明する。実施形態3におけるステップST1~ステップST4の処理は、実施形態2におけるもの(
図8参照)と同様である。
【0069】
ステップST5(
図11参照)において、判定部32は、ステップST3で積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積に基づいて、熱抵抗C1,C2,C3・・のうちボトルネックの候補となる熱抵抗(部材)を判定する。これにより、他の装置、他のプログラム、ユーザ(人)等がボトルネックを特定するにあたり、特定の対象となる範囲を絞ることができる。
【0070】
本実施形態において、判定部32は、積算出部30により熱抵抗毎に算出された温度差及び熱流量の各値の積のうち比較的大きい積に対応する熱抵抗(部材)をボトルネックの候補として判定する。例えば、判定部32は、BN指数算出部31により熱抵抗毎に算出されたBN指数のうち比較的大きいBN指数に対応する熱抵抗(部材)をボトルネックの候補として判定する。より具体的には、判定部32は、各熱抵抗に対応するBN指数のうち所定の閾値(本実施形態では、60)以上であるBN指数に対応する熱抵抗(本実施形態では、後に
図12に示す熱抵抗C35,C31,C20,C32)をボトルネックの候補として判定する。
【0071】
温度差及び熱流量の各値の積が比較的大きい熱抵抗(部材)は、伝熱効率の改善により機器全体の放熱効率の向上が最も期待できる箇所であり、ボトルネックの候補として相応しいといえる。このように、判定部32が温度差及び熱流量の各値の積のうち比較的大きい積に対応する熱抵抗(部材)をボトルネックの候補として判定することにより、ボトルネックの特定の対象となる範囲を的確に絞ることができる。
【0072】
なお、上記のBN指数に対する閾値の値は例示であり、この数値に限定されるものではなく、閾値には、5~100の値を採用し得る。
【0073】
図12は、実施形態3における表示部6に表示される結果の一例を示す図である。
【0074】
ステップST6(
図11参照)において、表示部6は、BN指数算出部31により熱抵抗毎に算出されたBN指数を降順に表示する(
図12参照)。本実施形態において、表示部6は、ステップST5で判定部32によりボトルネックの候補として判定された熱抵抗C35,C31,C20,C32の列を識別可能に(例えば、太枠で囲む等して)表示する。これにより、ボトルネックの候補を視覚的に容易に把握することができる。
【0075】
なお、上記説明した例に限られず、例えば、判定部32は、温度差及び熱流量の各値の積のうち最も大きい積に対応する熱抵抗(部材)をボトルネックの候補として判定してもよい。また、判定部32は、各熱抵抗に対応する温度差及び熱流量の各値の積を大きい順にソートした場合における上位数個の積に対応する熱抵抗をボトルネックの候補として判定してもよい。
【0076】
(実施形態4)
以下、本開示の実施形態4について、上記実施形態3とは異なる点についてのみ説明する。
【0077】
図13は、実施形態4における熱解析支援装置1を示すブロック図である。
【0078】
実施形態4において、熱解析支援装置1は、情報処理装置2の機能と同様の機能をさらに備えるものである。換言すると、実施形態4における熱解析支援装置1は、公知の回路シミュレータ等に、上記説明した積算出部30を含む処理部3の処理を実行するためのプログラム40を組み込むことで実現可能である。
【0079】
実施形態4において、熱解析支援装置1は、入力部7を備えている(
図13参照)。入力部7は、ユーザから各種操作を受け付けるインターフェースであり、例えば、キーボード、タッチパネル等によって実現される。入力部7には、熱抵抗データ21を含む入力データが入力される。
【0080】
処理部3は、モデル生成部33と、データ算出部34と、をさらに備えている(
図13参照)。モデル生成部33は、入力部7でユーザによって入力される入力データを用いて熱回路モデル20を生成する。データ算出部34は、入力部7で入力された熱抵抗データ21とモデル生成部33により生成された熱回路モデル20とから、公知の熱回路網法を用いてキルヒホッフの法則に則り連立方程式を組み立てて解くことで温度差データ22及び熱流量データ23を算出する。モデル生成部33及びデータ算出部34による処理については、公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0081】
実施形態4における処理手順は、実施形態3における処理手順(
図11参照)とステップST1、ステップST2、ステップST3及びステップST6の処理を除いて同様である。このため、以下の説明において、
図11を援用する。
【0082】
ステップST1及びステップST2(
図11参照)において、処理部3のデータ算出部34は、入力部7で予め入力された熱抵抗データ21とモデル生成部33により予め生成された熱回路モデル20とに基づいて温度差データ22及び熱流量データ23を算出する。すなわち、ステップST1及びステップST2は、ほぼ同時に実行される。ステップST3(
図11参照)において、処理部3の積算出部30は、上記ステップST1及びステップST2で算出された温度差データ22及び熱流量データ23を用いて、温度差及び熱流量の各値の積(掛け算)を熱抵抗毎に算出する。
【0083】
図14は、実施形態4における表示部6に表示される結果の一例の一部を示す図である。なお、
図14において、便宜上、熱抵抗C20の図示を省略している。
【0084】
ステップST6(
図11参照)において、表示部6は、ステップST5で判定部32によりボトルネックの候補として判定された熱抵抗C35,C31,C20,C32を熱回路モデル20上で強調して(例えば、太枠で囲む等して)表示する(
図14参照)。これにより、ボトルネックの候補及び熱回路モデル20上における箇所を視覚的に容易に把握することができる。
【0085】
また、表示部6は、ボトルネックの候補として判定された熱抵抗C35,C31,C20,C32のうち、温度差及び熱流量の積がより大きい熱抵抗C35を、熱抵抗C31,C20,C32と比較してより強調して(例えば、より太い線の枠で囲む等して)表示する(
図14参照)。これにより、ボトルネックの候補として判定された熱抵抗のうち温度差及び熱流量がともに相対的に大きい熱抵抗を熱回路モデル20上で視覚的に容易に把握することができる。
【0086】
上記の実施形態及び実施例はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本開示の技術的範囲は、上記した実施形態及び実施例のみにより解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれ、そのような変更を伴う熱解析支援装置、熱解析支援方法、熱解析支援プログラム及び熱解析支援プログラムを記録した記録媒体も本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 熱解析支援装置
2 情報処理装置
20 熱回路モデル
21 熱抵抗データ
22 温度差データ
23 熱流量データ
3 処理部
30 積算出部
31 BN指数算出部(指数算出部)
32 判定部
33 モデル生成部
34 データ算出部
4 記憶部
40 プログラム
5 通信部(取得部)
6 表示部
7 入力部
【要約】
【課題】設計工程の早期においてボトルネックを特定するための指標を得ることができる熱解析支援装置、熱解析支援方法、熱解析支援プログラム及び記録媒体を提供する。
【解決手段】放熱経路を表した熱回路モデル20に基づいて該放熱経路におけるボトルネックの特定を支援する熱解析支援装置1であって、熱回路モデル20中の各熱抵抗における温度差及び熱流量の各値を取得する通信部5(取得部)と、通信部5(取得部)により取得された温度差及び熱流量の各値の積を熱抵抗毎に算出する積算出部30と、を備える。
【選択図】
図1