(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-09
(45)【発行日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08F 214/08 20060101AFI20230612BHJP
C08L 27/08 20060101ALI20230612BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08F214/08
C08L27/08
C08J5/18
(21)【出願番号】P 2022509892
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009588
(87)【国際公開番号】W WO2021193067
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2020059059
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】細江 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 有亮
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127523(JP,A)
【文献】特開2000-302821(JP,A)
【文献】特開2001-342317(JP,A)
【文献】特開昭60-192629(JP,A)
【文献】特開平09-296014(JP,A)
【文献】特開2000-248493(JP,A)
【文献】特開平11-035763(JP,A)
【文献】特開昭57-076044(JP,A)
【文献】特開平10-158455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデンに由来する構造単位、及び塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位を含み、
前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記反応性比r1が0.7以上である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、3質量部以下であり、
前記塩化ビニリデンに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、87質量部以上であり、
メタアクリロニトリルに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、1質量部以上である、
ハロゲン化ビニル共重合体を含み、
前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーが、メタアクリロニトリルと、任意で含まれるメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸、アクリロニトリル、及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種とであり、
前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーが、塩化ビニル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
170℃以上の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS1、170℃未満の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS2としたときにS1/(S1+S2)が0以上0.33以下である、ことを特徴とするハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
【請求項2】
反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の前記質量割合が5質量部以上である、請求項1に記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
【請求項3】
前記ハロゲン化ビニル共重合体100質量部に対して、結晶核剤を20質量部以下含む、請求項1
又は2に記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有する、ことを特徴とするフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体、及び該水分散体が塗布された層を有するフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の品質保持の為には、それを包装するフィルムが、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気といった気体を十分遮断、密閉する必要がある。この点、種々の樹脂の中でも、ハロゲン化ビニル系共重合体水分散体、特に塩化ビニリデン系共重合体水分散体樹脂から形成された層を有するフィルムは、水蒸気や酸素のバリア性に優れていることから、食品や医薬品包装用途に非常に適している。
【0003】
近年、下記理由から、包装フィルムは、より高いガスバリア性が求められている。
1)より長期間にわたる食品材料品質の保持、薬効の保持;
2)高齢化に伴う、包装製品の内包物の押出し性向上需要に対応した薄膜化;
3)生産性向上の為の薄膜化。
バリア性を有するフィルムを構成する塩化ビニリデン系水分散体としては、特許文献1~5が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/125699号パンフレット
【文献】特表2001-526315号公報
【文献】特開平05-202107号公報
【文献】特開2018-127523号公報
【文献】特開昭60-192768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載のハロゲン化ビニル共重合体はモノマーの組み合わせ上、更なる水蒸気バリア性の向上は難しい。
それに対して特許文献4、5に記載のように、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満のコモノマーを共重合した共重合体は、高い水蒸気バリア性を有する。一方で結晶化し易く、水分散体の状態であっても結晶化が進んでしまうことから、長期保存を行った際に経時で成膜性が悪化してしまう問題がある。
従って、特許文献1~5に記載の水分散体では、長期保存後の成膜性と、この水分散体から形成された層を有するフィルムの高いバリア性との両立が難しかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、塗工後のフィルムの高い水蒸気バリア性を保ちながら、長期保存後の成膜性が良好なハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成のハロゲン化ビニル共重合体を含み、特定の融解ピーク温度の比を有する水分散体が、塗工後のフィルムの高い水蒸気バリア性を保ちながら、長期保存後の成膜性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
塩化ビニリデンに由来する構造単位、及び塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位を含み、
前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記反応性比r1が0.7以上である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、3質量部以下であり、
前記塩化ビニリデンに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、87質量部以上であり、
メタアクリロニトリルに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と、前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、1質量部以上である、
ハロゲン化ビニル共重合体を含み、
前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーが、メタアクリロニトリルと、任意で含まれるメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸、アクリロニトリル、及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種とであり、
前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーが、塩化ビニル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
170℃以上の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS1、170℃未満の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS2としたときにS1/(S1+S2)が0以上0.33以下である、ことを特徴とするハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
[2]
反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の前記質量割合が5質量部以上である、[1]に記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
[3]
前記ハロゲン化ビニル共重合体100質量部に対して、結晶核剤を20質量部以下含む、[1]又は[2]に記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有する、ことを特徴とするフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のハロゲン化ビニル共重合体水分散体は、塗工後のフィルムの高い水蒸気バリア性を保ちながら、長期保存後の成膜性に優れるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ピークの基線の引き方(I)の説明図である。
【
図3】ピークの基線の引き方(II)の説明図である。
【
図4】ピークの基線の引き方(II)の説明図である。
【
図5】ピークの基線の引き方(III)の説明図である。
【
図6】ピークの基線の引き方(IV)の説明図である。
【
図7】吸熱曲線からピークの面積を求めた一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
[水分散体]
本実施形態の水分散体は、ハロゲン化ビニル共重合体を含む。
【0013】
(ハロゲン化ビニル共重合体)
上記ハロゲン化ビニル共重合体は、ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位、及び塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位を少なくとも含む。上記ハロゲン化ビニル共重合体は、他のモノマーに由来する構造単位を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、上記ハロゲン化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーを「共重合モノマー」と称する場合がある。上記共重合モノマーとしては、例えば、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマー(「反応性比r1が0.7未満の共重合モノマー」と称する場合がある)、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上である共重合モノマー(「反応性比r1が0.7以上の共重合モノマー」と称する場合がある)、等が挙げられる。
また、上記他のモノマーとは、上記ハロゲン化ビニルモノマー、上記共重合モノマーに該当しないモノマーをいうものとする。
【0014】
上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、より好ましくは85質量部以上、さらに好ましくは86質量部以上、特に好ましくは87質量部以上である。また、上記質量割合は、99質量部以下であることが好ましく、より好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは93質量部以下、さらに好ましくは92質量部以下、特に好ましくは90質量部以下である。
なお、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位の質量割合、後述の反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合、及び後述の反応性比r1が0.7以上の共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合は、上述又は後述の範囲内で、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計が100質量部となるように用いてよい。
【0015】
反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下、特に好ましくは13質量部以下である。また、上記質量割合は1質量部以上であり、好ましくは5質量部以上、特に好ましくは7質量部以上である。
【0016】
上記ハロゲン化ビニル共重合体100質量%中の、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位及び反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位の合計質量の割合は、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0017】
上記ハロゲン化ビニル共重合体は、任意選択で、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上の共重合モノマーに由来する構造単位を含んでもよい。
反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下である。
【0018】
上記ハロゲン化ビニル共重合体は、上記の各成分の質量割合が上記範囲であると、本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体から形成される層を有するフィルムが、内包物の品質を十分に保持するバリア性を発現することが可能となる。
【0019】
上記ハロゲン化ビニルモノマーは、好ましくは塩化ビニリデンである。
上記ハロゲン化ビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1は、塩化ビニリデンをモノマー1(M1)、コモノマーをモノマー2(M2)とした際に、M1のラジカルがM1と反応する反応の速度定数をk11、M1のラジカルがM2と反応する反応の速度定数をk12とし、r1=k11/k12で求められる一般的なモノマー反応性比r1である。上記反応性比r1としては、Polymer Handbook Forth Edition(ISBN:0-471-48171-8)に記載されている値を用いてよい。ただし、複数の値が記載されている場合は、最も低い値を用いるものとする。
Polymer Handbook Forth Editionに記載がない場合は、公知の文献の値を用い、公知の文献の値がない場合は、バルク重合や溶液重合、懸濁重合を行い、Kelen-Tudos法により反応性比を決定してよい。複数の測定により反応性比r1に差が出た場合は、その中で最も低い値を用いる。
ただし、合成したハロゲン化ビニル共重合体を構成するモノマーの中で反応性比r1が未知なモノマーの占める割合が相対的に少なく、反応性比r1が未知のモノマーの反応性比r1の値がいずれであっても比較したい閾値との大小関係が変わらない場合は未知のままとして扱ってもよい。例えば、VDC/MA/「反応性比r1が未知のモノマー」の質量組成が90/8/2であり、反応性比r1が0.7未満のモノマーの割合が4質量部以下か否かを判断したいのであれば、反応性比r1が未知のモノマーの反応性比r1が0.7未満だったとしても、全体としては反応性比r1が0.7未満のモノマーの割合は2質量部にしかならない。このような場合は、反応性比r1が未知のモノマーの反応性比r1は、未知のままで扱っても良い。
【0021】
例として、いくつかのモノマーの塩化ビニリデンに対する反応性比r1を示す。
アクリル酸ブチル:0.84
アクリル酸エチル:0.58
アクリル酸メチル:0.7
アクリル酸:0.29
アクリロニトリル:0.28
メタクリル酸メチル:0.02
メタクリル酸:0.15
メタクリロニトリル:0.036
塩化ビニル:1.8
【0022】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーとしては、公知のものが使用可能であり、好ましくはメタクリル酸メチル(以下、MMAと示す)、ニトリル基を有するモノマー、及びカルボキシル基を有するモノマーである。
塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーにおける反応性比r1は、0超であってよい。
上記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記ニトリル基を有するモノマーは、好ましくはアクリロニトリル(以下、ANと示す)、メタアクリロニトリル(以下、MANと示す)であり、特に好ましくはメタアクリロニトリルである。
上記カルボキシル基を有するモノマーは、好ましくはアクリル酸(以下、AAと示す)、イタコン酸、マレイン酸、メタクリル酸(以下、MAAと示す)であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0024】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上のモノマーは、公知のものが使用可能であり、好ましくは塩化ビニル、アクリル酸メチル(以下、MAと示す)、アクリル酸ブチルである。
【0025】
反応性比r1が0.7未満である上記共重合モノマーは、ニトリル基を有するモノマーを少なくとも含むことが好ましく、メタアクリロニトリルを少なくとも含むことがより好ましい。中でも、反応性比r1が0.7未満である上記共重合モノマーに含まれる上記ニトリル基を有するモノマーが、メタアクリロニトリルのみであることが好ましい。
上記ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の質量割合は、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1.5質量部超、さらに好ましくは3質量部以上であり、また、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下である。ここで、ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の上記質量割合は、ニトリル基を有するモノマーが複数種含まれる場合、全てのニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の合計の質量割合をいうものとする。
メタアクリロニトリルに由来する構造単位の質量割合は、上記ハロゲン化ビニルモノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位と、反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位と、の合計100質量部に対して、0質量部超であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部超、さらに好ましくは3質量部以上、特に好ましくは5質量部以上であり、また、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下である。ここで、メタアクリロニトリルに由来する構造単位の上記質量割合は、ニトリル基を有するモノマーとして、メタクリロニトリルと他のニトリル基を有するモノマーとが含まれる場合、他のニトリル基を有するモノマーを除くメタクリロニトリルに由来する構造単位のみの質量割合をいうものとする。
【0026】
これらのモノマーを共重合させることにより、上記ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体から作製されたフィルムは高い水蒸気バリア性を有する。
【0027】
なお、ハロゲン化ビニル共重合体のモノマー組成は、下記の方法により採取したサンプルを、テトラヒドロフラン-d8に溶解させ、NMR測定を行うことで評価することができる。
【0028】
1)ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を入手可能な場合はこの方法を用いる。
ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体10mlを凍結乾燥し、凍結乾燥品を0.5g採取する。採取した凍結乾燥品を99.9wt%以上の純度のテトラヒドロフラン10mlに溶解させた溶液に、メタノールを40ml滴下する。生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取する。
採取した不溶分を測定サンプルとする。
2)ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を入手できず、水分散体が塗布されたフィルムのみ入手可能な場合はこの方法を用いる。
ハロゲン化ビニル共重合体が塗布されたフィルムよりハロゲン化ビニル共重合体を分離し、0.5g採取し99.9wt%以上の純度のテトラヒドロフラン10mlに完全に溶解させる。室温で溶解しない場合には、60℃以下に加熱して完全に溶解させる。溶液にメタノール40ml滴下し生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取する。採取した不溶分を測定サンプルとする。
【0029】
ハロゲン化ビニル共重合体がコートされたフィルムよりハロゲン化ビニル共重合体を分離する手法としては下記の(A)~(C)の方法が可能な場合はこれらを用いる。(A)が可能な場合は(A)を用い、(A)が困難であり(B)が可能な場合は(B)を用い、(A)及び(B)が困難であり(C)が可能な場合は(C)を用いる。(A)~(C)のいずれも困難でありその他に分離可能な手段がある場合はそれを用いても良い。その場合分離物中のハロゲン化ビニル共重合体以外の不純物の含有量は可能な限り少なくなるよう洗浄、乾燥することが好ましい。上記不純物の質量割合は、好ましくは測定試料中0.5wt%以下である。乾燥処理の条件として温度60℃以下、処理時間は10時間以下とする。ここで不純物とは混入したプライマーや溶剤等の塗工前のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体に含まれない成分を指し、水分散体に初めから添加されている乳化剤等の添加剤は含まない。分離物中の乳化剤量は、下記の手順で測定することができる。i)乾燥させた分離物の質量をW1とする。ii)分離物を質量の50倍以上の大量の純水で洗浄する。この時ポリマーも一緒に流れ出ないように注意する。iii)洗浄した分離物を乾燥させ質量をW2とする。iv)乳化剤の質量をW1-W2より求める。
(A)ピンセット等で物理的に剥離するか、削り出す。
(B)ハロゲン化ビニル共重合体は溶解せず、プライマーを溶解させる溶剤を用いることで化学的に分離する。好ましくはアセトンである。
(C)ハロゲン化ビニル共重合体が溶解し、基材のフィルムが溶解しない溶剤を用いてハロゲン化ビニル共重合体を溶出、乾燥させて分離させる。
(B)、(C)の方法により溶剤を用いて分離した場合は、ハロゲン化ビニル共重合体が分解しない範囲で乾燥炉等を用いて乾燥させ、分離物中に占める溶剤の重量が0.5wt%以下であることを確認した後で測定を行う。乾燥条件は温度50℃以下、乾燥時間は10時間以下とし、必要な場合減圧下で行う。
【0030】
NMRの測定条件は下記の通りである。
装置:JEOL RESONANCE ECS400(1H)、Bruker Biospin Avance600(13C)
観測核:1H(399.78MHz)、13C(150.91MHz)
パルスプログラム:Single pulse(1H)、zgig30(13C)
積算回数:256回(1H)、10000回(13C)
ロック溶媒:THF-d8
化学シフト基準:THF(1H:180ppm、13C:67.38ppm)
得られたNMRスペクトルを用いて、モノマーの帰属を行い、ピークを積分することで共重合体中の組成を同定する。
【0031】
例として、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、に由来する構造単位を含有するポリマーの場合、13C-NMRのスペクトルにおいて80~90ppmを積分することで塩化ビニリデンに由来する構造単位、110~130ppmを積分することでメタクリロニトリルに由来する構造単位、170~180ppmを積分することでメタクリル酸メチルに由来する構造単位、180~200ppmを積分することでアクリル酸に由来する構造単位の含有量を求め、全体に占める各モノマーの構成比を算出する。
【0032】
上記の構成比の算出ではメタクリル酸メチルの量を求めるためにCOOCH
3基(下記式中のa)のピークを積分している。同じくCOOCH
3基を持つモノマーで塩化ビニリデンとよく共重合されるものとしてアクリル酸メチルがある。両者を区別する際は1HNMRのスペクトルにおいて、COOCH
3基が結合している主鎖の炭素に結合しているメチル基(下記式中のb)のピークの有無で判断する。このメチル基は結合している主鎖の炭素が水素と結合していないため分裂しておらず、ピーク位置は2ppm程度である。メタクリル酸メチル以外にメチル基を有するモノマー、例えばメタクリロニトリルが入っていた場合は2ppm付近のメチル基のピークの本数が複数になっていることから判断できる。
【化1】
【0033】
またアクリロニトリルとメタクリロニトリルの区別も同様にメチル基(上記式中のb)のピークの有無で判断する。
【0034】
必要に応じて上記の不溶分に対して二次元NMR測定、赤外分光法等を追加で測定しモノマーの帰属を行う。また、組成が既知の共重合体を重合し同様の手法で測定を行い、比較を行っても良い。
【0035】
(水分散体の特性)
上記ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の最大融解ピーク温度(最大の融点)、及び融解ピーク面積は下記の2つの方法(i)、(ii)のいずれかで作製したサンプルを用いて評価することができる。最大の融解ピーク温度は170℃以下であることが好ましく、特に好ましくは160℃以下である。
【0036】
上記ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の170℃以上の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS1、170℃未満の融解ピーク温度を有する融解ピークの面積をS2としたときにS1/(S1+S2)は0以上0.33以下であることが好ましく、特に好ましくは0.31以下、更に好ましくは0.26以下である。
【0037】
(i)ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を入手可能な場合この方法を用いる。
ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体をアルミ板上に乾燥塗布量が10g/m2となるようにメイヤーバーにて塗布し、100℃に保ったオーブン中で1分間乾燥する。乾燥させたフィルムを5分以内にピンセットで剥離しハロゲン化ビニル共重合体の単独膜を採取する。上記の単独膜から5mgを採取し測定に用いる。
なお、水分散体に結晶核剤等の添加剤が添加されている場合は、添加剤が添加された状態の水分散体を用いてサンプル作製、測定を行う。
【0038】
(ii)ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を入手できず、水分散体が塗布されたフィルムのみ入手可能な場合はこの方法を用いる。
ハロゲン化ビニル共重合体が塗布されたフィルムよりハロゲン化ビニル共重合体を分離し、5mg採取し測定に用いる。
ハロゲン化ビニル共重合体がコートされたフィルムよりハロゲン化ビニル共重合体を分離する手法としては下記の(A)~(C)の方法が可能な場合はこれらを用いる。(A)が可能な場合は(A)を用い、(A)が困難であり(B)が可能な場合は(B)を用い、(A)及び(B)が困難であり(C)が可能な場合は(C)を用いる。(A)~(C)のいずれも困難でありその他に分離可能な手段がある場合はそれを用いても良い。その場合分離物中のハロゲン化ビニル共重合体以外の不純物の含有量は可能な限り少なくなるよう洗浄、乾燥することが好ましい。上記不純物の質量割合は、好ましくは測定試料中0.5wt%以下である。乾燥処理の条件として温度60℃以下、処理時間は10時間以下とする。ここで不純物とは混入したプライマーや溶剤等の塗工前のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体に含まれない成分を指し、水分散体に初めから添加されている乳化剤等の添加剤は含まない。分離物中の乳化剤量は、下記の手順で測定することができる。i)乾燥させた分離物の質量をW1とする。ii)分離物を質量の50倍以上の大量の純水で洗浄する。この時ポリマーも一緒に流れ出ないように注意する。iii)洗浄した分離物を乾燥させ質量をW2とする。iv)乳化剤の質量をW1-W2より求める。
(A)ピンセット等で物理的に剥離するか、削り出す。
(B)ハロゲン化ビニル共重合体は溶解せず、プライマーを溶解させる溶剤を用いることで化学的に分離する。好ましくはアセトンである。
(C)ハロゲン化ビニル共重合体が溶解し、基材のフィルムが溶解しない溶剤を用いてハロゲン化ビニル共重合体を溶出、乾燥させて分離させる。
(B)、(C)の方法により溶剤を用いて分離した場合は、ハロゲン化ビニル共重合体が分解しない範囲で乾燥炉等を用いて乾燥させ、分離物中に占める溶剤の重量が0.5wt%以下であることを確認した後で測定を行う。乾燥条件は温度50℃以下、乾燥時間は10時間以下とし、必要な場合減圧下で行う。
【0039】
上記の手法で採取したサンプルをTAintsruments社製の示差走査熱量分析計Q-2000を用いて窒素雰囲気下で10℃/minで170℃まで加熱し、10℃/minで-40℃まで冷却する。次に10℃/minで190℃まで加熱し、190℃までの測定データを取得する。取得した190℃までの測定データのうち、180℃以上では塩化ビニリデンの分解が始まるため、180℃以上のデータは用いず、二度目の加熱時の、-40℃から180℃までの測定値を用いて最大の融解ピーク温度を求める。
【0040】
この測定ではサンプルパンとして、アルミニウムのTzero PanとTzero hermetic Lid(TAinstruments社製)を用い、レファレンスとしてこのパンの空パンを用いた。すなわち、サンプル測定結果から、空パン測定結果を差し引いた値に基づいて、最大の融解ピーク温度を算出する。
【0041】
次に、下記に記載の方法で基線を引いて170℃未満の融解ピークの面積をQ-2000の解析ツールTAUniversal AnalysisにおいてIntegrate Peak Linearを用いて計算しこれをS2とする。170℃未満に融解ピークがないときは、S2は0とする。
【0042】
下記に記載の方法で基線を引いて170℃以上の融解ピークの面積をQ-2000の解析ツールTAUniversal AnalysisにおいてIntegrate Peak Linearを用いて計算しこれをS1とする。170℃以上に融解ピークがないときは、S1は0とする。
求めたS1、S2の値は小数第二位を四捨五入する。
【0043】
ベースラインが同一直線上にない場合があるが、そうした例については文献(Inorganic Materials, vol. 3, Jul. 271-283 (1996)に記載がある。参考として上記文献の
図6(a)を、
図1に示す。
【0044】
基線の引き方の例としていくつか挙げる。複数のピークが存在する場合、ピークごとに基線を引いて面積を計算する。なお、以下の場合において、接線が複数引ける場合、最も傾きの絶対値が大きいものを、その曲線の接線として採用する。
【0045】
(I):ピークを挟んで正側及び負側の曲線に接する1本の接線が引ける場合(
図2)、正側及び負側の曲線に接する接線を基線とする。
(II):(I)に該当せず、ピークが、ピークの正側、負側ともに横軸に平行な線で挟まれている場合(
図3、4)、ピークを挟んで、正側、負側それぞれの吸熱ピークが横軸に平行でなくなる点(正又は負に傾く点)を結んだ線を基線とする。
(III):(I)(II)に該当せず、ピークの正側、負側の一方が横軸に平行な線であり、もう一方が曲線である場合(
図5)、横軸に平行な線が横軸と平行でなくなる点を始点とし、もう一方の曲線側に接線を引き基線とする。
(IV):(I)(II)(III)のいずれにも該当せず、ピークの正側が180℃の測定上限により切れている場合(
図6)、180℃の点を始点とし、ピークの負側に接線を引き基線とする。なお、ピークの負側が横軸に平行な線であるとき、上記始点と横軸に平行でなくなる点とを結んだ線を基線としてよい。
【0046】
実例として
図7のスペクトルの面積を求める。二度目の加熱の吸熱曲線のみを示している。この例ではS1は3.2J/g、S2は6.3J/gだった。
【0047】
(水分散体の製造方法)
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体は、モノマー混合物を乳化重合することによって製造することができる。特に限定されないが、乳化重合は、通常、30~70℃の温度で行われる。重合温度は、好ましくは40~60℃の範囲内である。重合温度を70℃以下にすることにより、重合中の原料の分解が抑えられるため、好ましい。重合温度を30℃以上にすることにより、重合速度を上げることができるので、重合の効率が良くなる。
【0048】
上記ハロゲン化ビニル共重合体は、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマー(即ち、塩化ビニリデンと反応しにくいモノマー)とハロゲン化ビニルモノマーとを含む共重合体であることから、反応器中では反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーが、ハロゲン化ビニルモノマーよりも優先的に消費される。従って反応中に未反応モノマーが蓄積した場合、未反応モノマーは仕込み量と比べてハロゲン化ビニルモノマーを多く有する混合モノマーとなる。それにより重合終盤で共重合体中にハロゲン化ビニルモノマーを多量に有するブロックが形成し、ハロゲン化ビニル共重合体は高い融点を有することになる。顕著な場合生成した共重合体は二つの融解ピークを有し、ハロゲン化ビニルモノマーのブロックが多く形成されているほど170℃以上の融解ピーク面積が増加する。
【0049】
ハロゲン化ビニルモノマーを多量に有するブロックが多く形成された水分散体においては、長期保存時にブロックを起点とする結晶化に伴う成膜不良が起きやすくなる。
従って長期保存後の成膜性を向上させるためには、170℃以上の融解ピーク面積が小さい、つまりハロゲン化ビニルモノマーを多量に有するブロックの量が少ない共重合体を重合することが重要である。
【0050】
上記ハロゲン化ビニル共重合体の170℃以上の融解ピークの面積を制御する方法については特に制限はないが、例として下記のいずれか、もしくは複数を組み合わせて使用することができる。
【0051】
170℃以上の融解ピークの面積を制御する方法-1
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の乳化重合に用いるハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーは、例えば重合前に予め所定量を混合し、連続的に投入してもよいし、段階的にバッチ投入してもよい。連続、又は段階的に投入する場合の1時間あたりに添加するハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーの添加量は、1時間あたりに重合中に消費されるハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーの量を上回らないようにすることが好ましく、1時間あたりに重合中に消費されるハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーの合計量の95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
例として、重合温度が50℃の場合、添加するハロゲン化ビニルモノマーと反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーとの総質量100質量部に対して、80質量部に相当するモノマー原料を20時間以上、特に好ましくは25時間以上、更に好ましくは30時間以上をかけて添加することが好ましい。連続、又は段階投入する時間は、重合温度によって最適化することが好ましい。好ましい一態様は、重合初期にモノマーをバッチ投入し、後に残量を連続投入する方法である。例えば、重合開始時に、原料モノマー中に含まれるハロゲン化ビニルモノマーと反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーとの合計質量100質量部に対して1~30質量部のハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーを投入し、その後、上記好適割合のハロゲン化ビニルモノマー及び反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーを1時間あたりに添加してよい。モノマーの連続投入を上記の速度で行うことにより反応器中の未反応モノマーの蓄積を軽減することができ、結果として、共重合体の170℃以上の融解ピーク面積を低減することが可能となる。
【0052】
170℃以上の融解ピークの面積を制御する方法-2
重合中に添加される重合開始剤の総量は、ハロゲン化ビニル共重合体を100質量部とした時に、0.015質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.04質量部以上、特に好ましくは0.08質量部以上である。重合開始剤の総量を上記の範囲で添加することにより反応器中の未反応モノマーの蓄積を軽減することができ、結果として、共重合体の170℃以上の融解ピーク面積を低減することが可能となる。
また、重合開始剤はモノマーを連続投入する時間以上の時間をかけて連続的に投入することが好ましい。
加えて、開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が添加されていることが好ましい。
【0053】
170℃以上の融解ピークの面積を制御する方法-3
上記ハロゲン化ビニル共重合体の乳化重合において、モノマーの連続投入が終了した後、内圧が降下するまで、開始剤、重合活性剤及び/又は乳化剤の添加を継続してよいが、内圧が降下する前に添加を終了することが好ましい。内圧が降下する前に重合を終了させることにより、反応器中に蓄積したハロゲン化ビニルモノマーを多量に含む未反応モノマーを未反応のままにすることができ、結果として、共重合体の170℃以上の融解ピーク面積を低減することが可能となる。
【0054】
170℃以上の融解ピークの面積を制御する方法-4
原料モノマー中のハロゲン化ビニルモノマーの割合を下げる。
ハロゲン化ビニルモノマーの割合を下げることにより重合末期のハロゲン化ビニルモノマーの蓄積量を減少させ、結果として、共重合体の170℃以上の融解ピーク面積を低減することが可能となる。
【0055】
上記ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の乳化重合に用いることができる界面活性剤として、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0056】
重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、tーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。好ましくはtーブチルハイドロパーオキサイドである。
【0057】
重合活性剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、Dアラボアスコルビン酸ナトリウムのような開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が添加されていることが好ましい。
【0058】
これら重合添加剤は、特に限定されず、例えば本技術分野において従来から好ましく使用されている種類であってよい。
【0059】
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体に含まれるハロゲン化ビニル共重合体粒子は、特に限定されないが、その平均粒径は10~1000nmであることが好ましい。平均粒径をこの範囲とすることで、水分散体の貯蔵安定性が良く、塗工性が向上する。
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の固形分は、特に限定されないが、通常10~70質量%である。
【0060】
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体には結晶核剤が添加されることが好ましい。上記結晶核剤とは水分散体を成膜させたフィルムの結晶化を促進する添加剤であり、樹脂の結晶化を促進させる公知の添加剤が使用可能である。
そのような添加剤として、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー、シュウ酸金属塩、ステアリン酸金属塩、アイオノマー、高融点PET、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫酸塩、カオリン、クレイ、高融点ポリアミド、上述の本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体とは異なる組成を有する結晶性樹脂、シリカ、酸化チタン、ワックス、上述の本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体とは異なる高結晶性のハロゲン化ビニル共重合体粒子等が挙げられ、一種又は二種以上を併用することも可能である。
好ましくはシリカ、酸化チタン、ワックス、高結晶性のハロゲン化ビニル共重合体粒子であり、特に好ましくはワックス、高結晶性のハロゲン化ビニル共重合体粒子である。
結晶核剤の添加量は、ハロゲン化ビニル共重合体を100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。結晶核剤の添加量は好ましくは0.05質量部以上である。
複数の結晶核剤が添加されている場合は合計量を用いる。
【0061】
「ワックス」の語は、本明細書において、いかなる天然又は合成ワックスを示すものと理解される。更に言うと、ハゼロウ、ウルシロウ、サトウキビロウ、パームロウ、カンデリラロウ、ホホバ油、ビーズワックス、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、FTワックス、パラフィンワックス、マイクロワックス、カルナバワックス、密ロウ、シナロウ、オゾケライト、ポリオレフィンワックス及びモンタンワックス、これらのエステル化物があるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
上記高結晶性のハロゲン化ビニル共重合体粒子は、0.33より大きい融解ピーク面積比S1/(S1+S2)を有する。また、最大の融解ピーク温度が160℃以上であり、特に好ましくは170℃以上である。ここで、最大の融解ピーク温度は上記の融解ピークの測定法に従って測定し、180℃以下での最大のピーク温度を用いる。
また、高結晶性のハロゲン化ビニル共重合体粒子は好ましくは塩化ビニリデン共重合体粒子であり、特に好ましくは塩化ビニリデン共重合体を100質量部とした時に、91質量部以上の塩化ビニリデンが共重合された塩化ビニリデン共重合体の粒子である。
【0063】
これらの結晶核剤を添加することにより、成膜後の結晶化の進行が促進され塗膜は高い水蒸気バリア性を発揮する。
【0064】
また、本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体に、必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、たとえば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、シリコーンオイル等を添加してもよい。また、この水分散体に、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機フィラー、着色顔料、体質顔料等を配合して使用することも可能である。
また、本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体の溶媒は、水のみであってもよいし、水と他の溶媒(例えば、アルコール類やアセトン等)を含んでいてもよい。他の溶媒を含む場合、水100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0065】
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体は、ブリスターパッケージ等に用いるフィルムの塗布材料として使用することができる。
【0066】
[フィルム]
本実施形態のフィルムは、上述の本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有する。該層は、上述のハロゲン化ビニル共重合体を少なくとも含み、上述のハロゲン化ビニル共重合体のみからなる層であってもよい。
【0067】
本実施形態のフィルムは、フィルム基材上に本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有することが好ましい。上記フィルム基材には、特に制限は無いが、代表的なものとして、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド及びポリプロピレン製のフィルムが挙げられる。最も一般的にはポリ塩化ビニル製のフィルムが用いられる。上記フィルム基材の厚みは、使用する材質により違いがあるが、通常8~300μmであってよい。
【0068】
上記ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層は、特に限定されないが、例えば、乾燥後の塗膜質量が、1g/m2~200g/m2の範囲内、より典型的には20g/m2~100g/m2の範囲内になるように形成されうる。
【0069】
また、本実施形態のフィルムには、任意選択で、ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層以外に、ハロゲン化ビニル以外の重合活性に富むモノマーを主体として機能的に調整された共重合体の層を含んでよい。このような層として、例えば、フィルム基材上に水系樹脂エマルジョンやアクリル系ディスパージョンを用いてプライマーを形成し、その上に上述の本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を設けてもよい。
【0070】
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体は、上で例示したようなフィルム基材へ塗布され、ブリスターパッケージとして利用することが好ましい。得られたブリスターパッケージは、優れたバリア性(例えば、水蒸気バリア性)を示す。
【0071】
さらに、本実施形態のフィルムは、ブリスターパッケージへの適用以外に、そのままコーティング剤としてクリヤー皮膜を形成させるために使用することもできる。
【0072】
上記フィルム基材に、上述の本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体を塗布する方法としては、被塗物表面に対して、エアースプレー、エアーレス、ロールコーター、カーテンフローコート、ロールコート、ディップコート、スピンコート等の公知の方法を用いることができる。通常、フィルム基材への塗布後は、常温又は加熱下で所定時間保持して乾燥される。
【0073】
本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体及びこの水分散体が塗布された層を有するフィルムについて、水蒸気バリア性と長期保存後の成膜性は、下記パラメータ(1)、(2)を用いて評価することができる。
【0074】
(1)水蒸気バリア性
38℃及び100%RHの条件下、MOCON社の水蒸気透過度測定装置PERMATRAN 3/33を用いて本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有するフィルムの水蒸気バリア性を評価することができる(単位:g/m2・day@38℃、100%RH)。
ただし、測定開始後48hrから60hrの間の測定値の平均値を水蒸気透過度とする。
測定は4回行い平均値を用いる。
特に限定されないが、この水蒸気バリアとして、一般包装用途においては0.1~10g/m2・day程度、一般医薬包装(塗付量80GSM)で上限1.0g/m2・day程度、高いバリア性が要求される医薬包装においては0.6g/m2・day以下の数値範囲が望ましい。本実施形態のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体が塗布された層を有するフィルムは、高いバリア性(例えば、水蒸気バリア性)が要求される用途に適用することができ、その水蒸気透過度の好ましい数値範囲は0.6g/m2・day以下、より好ましくは0.5g/m2・day以下であり、更に好ましくは0.4g/m2・day以下である。
【0075】
(2)長期保存後の成膜性(成膜ライフ)
気温23℃、湿度55%の恒温恒湿室において、水分散体を50mlのサンプル瓶に45ml採取し蓋を締めて5時間静置する。次に上記恒温恒湿室において井元製作所製の熱勾配試験機(BIG HEART)を、片方の端を10℃、もう一方の端を30℃になるよう温調し、試験機上の熱勾配が4cmあたり1℃になっていることを確認したのち試験機上に0.2mmのアプリケーターで水分散体を塗工、12時間乾燥し、その塗膜に直径1mm以上のクラックの生じた最高の温度を最低成膜温度(MFT)とする。一つのサンプルについて10回MFTの測定を行い、平均値を用いる。
作製した水分散体を23℃で保存し、1か月ごとにMFTを測定する。0か月目のMFTをT0、nか月目のMFTをTnとしたときに、Tn-T0からMFTの変化ΔMFTを算出する。ΔMFT≧4℃を満たした時点nで成膜性が損なわれたと考え、ΔMFT≧4℃を初めに満たした時点を長期保存後の成膜性の限界(成膜ライフ)とする。
例えば0か月目のMFTが12℃、1か月目が13℃、2か月目が16℃だった場合、その水分散体の成膜ライフは2か月である。
この成膜ライフ以降では均一な塗膜を得ることができず、塗膜は十分な水蒸気バリア性を発揮できない。
短い成膜ライフを有する水分散体は流通、保管が困難であるため成膜ライフは長いほど望ましい。一般的に水分散体を流通、保管させるにあたって、この成膜ライフは3か月以上あることが好ましく、より好ましくは4か月以上、更に好ましくは5か月以上、更に好ましくは7か月以上である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例中の部及び%は、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0077】
<水分散体の重合例>
[実施例1]
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に、モノマーの合計質量100部に対し、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、攪拌しながら脱気を行った後、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に質量組成比がVDC/MAN/MMA/AA=91.5/5.2/2.4/0.9となる原料モノマー混合物を作製した。原料モノマー混合物の内20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。
並行してt-ブチルハイドロパーオキサイド0.04部を純水3.5部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.015部を純水3.5部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.6部を純水2.5部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
この重合において、モノマー混合物80部を連続的に圧入し、全量投入するまでの時間は21時間であった。
【0078】
[比較例1]
特許文献4の実施例1と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に、モノマーの合計質量100部に対し、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、攪拌しながら脱気を行った後、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に質量組成比がVDC/MMA/AN=90.1/9.4/0.5となる原料モノマー混合物を作製した。原料モノマー混合物の内20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。
並行してt-ブチルハイドロパーオキサイド0.014部を純水3.5部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.015部を純水3.5部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.6部を純水2.5部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
この重合において、モノマー混合物80部を連続的に圧入し、全量投入するまでの時間は21時間であった。
【0079】
[比較例2]
特許文献4の実施例4と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MMA/MAN/AA=92.0/6.5/1.0/0.5とした以外は、比較例1と同様に重合を行った。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0080】
[比較例3]
特許文献4の比較例1と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN/MMA/AA=91.5/5.2/2.4/0.9とした以外は、比較例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0081】
[比較例4]
特許文献1の実施例7と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
ガラスライニングを施した耐圧反応器内に、イオン交換水100部、ドデシルスルホン酸ナトリウム0.2部、過硫酸ナトリウム0.2部を仕込み、脱気を行った後内容物の温度を50℃に保った。別の容器に塩化ビニリデン(VDC)92.2質量部、アクリル酸メチル(MA)7.5質量部、アクリル酸(AA)0.3質量部、を計量混合してモノマー混合物を作製した。上記反応器内に上述のモノマー混合物10質量部を添加、約10時間反応させた後、残りのモノマー混合物90質量部とドデシルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を内温が上昇しないように23時間を目安に調整しながら全量添加し、その後内圧が0.1MPaに低下するまで反応を進行させた後、60℃に加熱して減圧下にて残留モノマーを除去し、水分散体を得た。
【0082】
[比較例5]
特許文献1の実施例11と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
ガラスライニングを施した耐圧反応器内に、イオン交換水100部、ドデシルスルホン酸ナトリウム0.2部、過硫酸ナトリウム0.2部を仕込み、脱気を行った後内容物の温度を50℃に保った。別の容器に塩化ビニリデン(VDC)91.5質量部、アクリル酸メチル(MA)8.2質量部、アクリル酸(AA)0.3質量部、を計量混合してモノマー混合物を作製した。上記反応器内に上述のモノマー混合物10質量部を添加、約10時間反応させた後、残りのモノマー混合物90質量部とドデシルスルホン酸ナトリウム0.7質量部を内温が上昇しないように22時間を目安に調整しながら全量添加し、その後内圧が0.1MPaに低下するまで反応を進行させた後、60℃に加熱して減圧下にて残留モノマーを除去し、水分散体を得た。この水分散体にポリエチレンワックス組成物(BASF社製、Poligen(登録商標)WE7)を水分散体中の塩化ビニリデン共重合体100質量部に対して0.3質量部添加して水分散体を得た。
【0083】
[比較例6]
特許文献5の比較例3と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に水86質量部、アルキルスルホン酸ソーダ(バイエルワロラートU)0.15質量部及び過硫酸ソーダ0.10質量部を仕込み、脱気したあと内容物の温度を55℃に保った。これとは別の容器に塩化ビニリデン89質量部とメタクリロニトリル3質量部、メタクリル酸メチル8質量部を計量混合してモノマー混合物を作製した。上記反応器中にモノマー混合物の10質量部を仕込み攪拌下反応を進行させた反応器の内圧が降下することで反応がほとんど進行したことを確認した後、15質量%水溶液のアルキルスルホン酸ソーダ10質量部を圧入し、しかる後モノマー混合物の残り全量を15時間にわたって連続して定量連添下。更に内圧が十分降下するまで反応を進行させた。かくして得られた水分散体に20度における気液界面張力が42mN/mとなるように15質量%水溶液のアルキルスルホン酸ソーダを加えた。
【0084】
[実施例2]
開始剤をt-ブチルハイドロパーオキサイド0.04部を純水3.5部に溶解したものからt-ブチルハイドロパーオキサイド0.08部を純水3.5部に溶解したものに変えた以外は実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0085】
[実施例3]
モノマー混合物80部を連続的に圧入し、全量投入するまでの時間を45時間とした以外は、比較例3と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0086】
[実施例4]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MMA/MAN=89/8/3とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0087】
[実施例5]
実施例4と同様に重合を行った。作製した水分散体にポリエチレンワックス組成物(BASF社製、Poligen(登録商標)WE7)を塩化ビニリデン共重合体100質量部に対して、乾燥質量が1.0質量部となるよう添加した。
【0088】
[実施例6]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/AN=98/2とした以外は比較例1と同様の方法で重合した塩化ビニリデン共重合体の水分散体(結晶核剤)を、実施例4で作製した塩化ビニリデン共重合体100質量部に対して、乾燥質量が1.0質量部となるよう添加した。
なお、結晶核剤として添加した塩化ビニリデン共重合体は、170℃以上の融解ピークのみを有し、S1/(S1+S2)は1.0であった。
この添加した塩化ビニリデン共重合体の最大の融解ピークは175℃であった。
【0089】
[実施例7]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN=85/15とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0090】
[実施例8]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN=80/20とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0091】
[実施例9]
実施例7と同様に重合を行った。作製した水分散体にモンタン酸ワックス組成物(サイデン化学社製、T-350A)を塩化ビニリデン共重合体100質量部に対して、乾燥質量が1.0質量部となるよう添加した。
【0092】
[実施例10]
実施例8と同様に重合を行った。作製した水分散体にカルナバワックス組成物(Michelman社製、ML160RPH)を塩化ビニリデン共重合体100質量部に対して、乾燥質量が1.0質量部となるよう添加した。
【0093】
[実施例11]
結晶核剤としての塩化ビニリデン共重合体の水分散体の添加量を、乾燥質量が5.0質量部となるようにした以外は、実施例6と同様に水分散体を作製した。
【0094】
[実施例12]
結晶核剤としての塩化ビニリデン共重合体の水分散体の添加量を、乾燥質量が10.0質量部となるようにした以外は、実施例6と同様に水分散体を作製した。
【0095】
[実施例13]
結晶核剤としての塩化ビニリデン共重合体の水分散体の添加量を、乾燥質量が20.0質量部となるようにした以外は、実施例6と同様に水分散体を作製した。
【0096】
[比較例7]
結晶核剤としての塩化ビニリデン共重合体の水分散体の添加量を、乾燥質量が30.0質量部となるようにした以外は、実施例6と同様に水分散体を作製した。
【0097】
[実施例14]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/AN/MMA=90/1.5/8.5とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0098】
[実施例15]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN/MMA=86/5/9とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0099】
[実施例16]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN/MA=90/1/9とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0100】
[実施例17]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN/MA=90/3/7とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0101】
[実施例18]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN/MA=90/5/5とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0102】
[実施例19]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MMA=90/10とした以外は、実施例1と同様に重合を行った。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
【0103】
得られた塩化ビニリデン共重合体の水分散体を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
<塗工フィルム作製>
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム(厚み250μm)の上に、プライマーとしてBASF社製のEmulder381Aを、メイヤーロッドを用いて乾燥後塗膜質量が2g/m2となるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムの上に、実施例及び比較例の各々で得られた塩化ビニリデン共重合体の水分散体を、メイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜質量が10g/m2となるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行い、乾燥後の塗膜質量が40g/m2になるまで重ね塗りした。得られた塗工フィルムを40℃のオーブンに入れ24時間保管した後、20℃湿度55%の恒温恒湿室で2時間調湿した。
【0105】
<水蒸気透過度(透湿度)測定>
得られた塗工フィルムについて、38℃及び100%RHの条件下、MOCON社の水蒸気透過度測定装置PERMATRAN 3/33を用いて測定した(単位:g/m2・day@38℃、100%RH)。
ただし、測定開始後48hrから60hrの間の測定値の平均値を水蒸気透過度とした。
測定は4回行い平均値を用いた。
【0106】
<融解の最大ピーク温度の測定>
ハロゲン化ビニル共重合体の水分散体をアルミ板上に乾燥塗布量が10g/m2となるようにメイヤーバーにて塗布し、100℃に保ったオーブン中で1分間乾燥する。乾燥させたフィルムを5分以内にピンセットで剥離しハロゲン化ビニル共重合体の単独膜を採取した。上記の単独膜から5mgを採取した。なお、水分散体に結晶核剤等の添加剤が添加されている場合は、添加剤が添加された状態の水分散体を用いてサンプル作製、測定を行った。
上記の手法で採取したサンプルをTAintsruments社製の示差走査熱量分析計Q-2000を用いて窒素雰囲気下で10℃/minで170℃まで加熱し、10℃/minで-40℃まで冷却する。
次に10℃/minで190℃まで加熱し、190℃までの測定データを取得する。取得した190℃までの測定データのうち、180℃以上では塩化ビニリデンの分解が始まるため、180℃以上のデータは用いず、二度目の加熱時の、-40℃から180℃までの測定値を用いて最大の融解ピーク温度を求める。
この測定ではサンプルパンとしてアルミニウムのTzero PanとTzero hermetic Lid(TAinstruments社製)を用い、レファレンスとしてこのパンの空パンを用いた。
次に、上述の方法で基線を引いて170℃未満の融解ピークの面積をQ-2000の解析ツールTAUniversal AnalysisにおいてIntegrate Peak Linearを用いて計算しこれをS2とする。170℃未満に融解ピークがないときは、S2は0とする。
基線を引いて170℃以上の融解ピークの面積をQ-2000の解析ツールTAUniversal AnalysisにおいてIntegrate Peak Linearを用いて計算しこれをS1とする。170℃以上に融解ピークがないときは、S1は0とする。
求めたS1、S2の値は小数第二位を四捨五入する。
【0107】
<長期保存後の成膜性試験>
気温23℃、湿度55%の恒温恒湿室において、水分散体を50mlのサンプル瓶に45ml採取し蓋を締めて5時間静置した。次に上記恒温恒湿室において井元製作所製の熱勾配試験機(BIG HEART)を片方の端を10℃、もう一方の端を30℃になるよう温調し、試験機上の熱勾配が4cmあたり1℃になっていることを確認したのち試験機上に0.2mmのアプリケーターで水分散体を塗工、12時間乾燥し、その塗膜に直径1mm以上のクラックの生じた最高の温度を最低成膜温度(MFT)とした。一つのサンプルについて10回MFTの測定を行い、平均値を用いた。
実施例及び比較例の各々で得られた水分散体を23℃で保存し、1か月ごとにMFTを測定した。0か月目のMFTをT0、nか月目のMFTをTnとしたときに、Tn-T0からMFTの変化ΔMFTを算出した。ΔMFT≧4℃を満たした時点nで成膜性が損なわれたと考え、ΔMFT≧4℃を初めに満たした時点を長期保存後の成膜性の限界(成膜ライフ)とした。
例えば0か月目のMFTが12℃、1か月目が13℃、2か月目が16℃だった場合、その水分散体の成膜ライフは2か月である。
【0108】
<モノマー組成>
実施例及び比較例のハロゲン化ビニル共重合体のモノマー組成は、下記の方法により採取したサンプルをテトラヒドロフラン-d8に溶解させNMR測定を行うことで評価した。
水分散体10mlを凍結乾燥し、凍結乾燥品を0.5g採取した。採取した凍結乾燥品を99.9wt%以上の純度のテトラヒドロフラン10mlに溶解させた溶液に、メタノールを40ml滴下した。生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取した。採取した不溶分を測定サンプルとした。
NMRの測定条件は下記の表の通りである。
装置:JEOL RESONANCE ECS400(1H)
Bruker Biospin Avance600(13C)
観測核:1H(399.78MHz)、13C(150.91MHz)
パルスプログラム:Single pulse(1H)、zgig30(13C)
積算回数:256回(1H)、10000回(13C)
ロック溶媒:THF-d8
化学シフト基準:THF(1H:180ppm、13C:67.38ppm)
得られたNMRスペクトルを用いて、ピークを積分することで共重合体中の組成を同定した。含まれるモノマーの種類は仕込みモノマーから明らかである。
例として塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、に由来する構造単位を含有するポリマーの場合、13C-NMRのスペクトルにおいて80~90ppmを積分することで塩化ビニリデンに由来する構造単位、110~130ppmを積分することでメタクリロニトリルに由来する構造単位、170~180ppmを積分することでメタクリル酸メチルに由来する構造単位、180~200ppmを積分することでアクリル酸に由来する構造単位の含有量を求め、全体に占める各モノマーの構成比を算出した。
メタクリル酸メチルの代わりにアクリル酸メチルに由来する構造単位を含む共重合体の場合、上記算出法のメタクリル酸メチルをアクリル酸メチルに読み替えて計算を行う。
また、メタクリロニトリルの代わりにアクリロニトリルに由来する構造単位を含む共重合体の場合、上記算出法のメタクリロニトリルをアクリロニトリルに読み替えて計算を行う。
実施例及び比較例で得たポリマーは上記測定の結果仕込み組成と同一のモノマー組成を有することが分かった。
【0109】
【0110】
実施例及び比較例の実験結果を示す。
表1の結果から、本発明のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体は、塗工後のフィルムの高い水蒸気バリア性を保ちながら、長期保存後の成膜性に優れるという効果を有することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のハロゲン化ビニル共重合体の水分散体は、塗工後のフィルムの水蒸気のバリア性に優れ、長期保存後の成膜性に優れ、食品や医薬品包装用フィルム、紙、一般家庭用品等の種々の材料への塗料として好適に使用可能である。