(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】アーク検出装置、および、高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20230613BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20230613BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230613BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H05H1/46 R
H01L21/302 103
H01L21/302 101B
C23C16/50
(21)【出願番号】P 2019234490
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】大上 泰幸
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-140440(JP,A)
【文献】特開2007-149596(JP,A)
【文献】特開2007-214254(JP,A)
【文献】特開2014-056825(JP,A)
【文献】特開2016-170897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0139746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00
H05H 1/46
H01L 21/3065
C23C 16/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源装置から負荷となるプラズマ処理装置に供給する高周波電力によってプラズマを発生させてプラズマ処理装置内の被加工物に所定の加工処理を行うシステムに適用するアーク検出装置であって、
前記高周波電源装置の出力端に設けられて、前記高周波電力に関する情報を検出する検出手段と、
前記高周波電力に関する情報に基づいて演算される反射係数に関する情報を対象情報として演算する反射係数情報演算手段と、
前記対象情報の標準偏差を演算する標準偏差演算手段と、
前記対象情報の標準偏差に基づいて、アークが発生したか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記判定手段は、前記対象情報の標準偏差が予め定めた監視開始閾値以上になった後、予め定めた監視時間が経過するまでの間に、前記対象情報の標準偏差が中間閾値を超えた後に減少して下限閾値以下になった回数が、予め定めた判定回数以上となった場合に、アークが発生したと判定する、
アーク検出装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記対象情報の標準偏差が前記監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記対象情報の標準偏差が、前記中間閾値よりも大きい上限閾値を超えた場合は、前記アークとは別の現象であると判定する、
請求項1に記載のアーク検出装置。
【請求項3】
前記反射係数情報演算手段は、さらに、前記対象情報とは異なる反射係数に関する情報を、第2の対象情報として演算し、
前記標準偏差演算手段は、さらに、前記第2の対象情報の標準偏差を演算し、
前記判定手段は、さらに、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の中間閾値を超えた後に減少して予め定めた第2の下限閾値以下になった回数が、予め定めた第2の判定回数以上となった場合に、アークが発生したと判定し、
前記判定手段による前記対象情報の標準偏差に基づく判定と、前記第2の対象情報の標準偏差に基づく判定との両方の判定でアークが発生したと判定された場合、または、両方の判定のいずれかでアークが発生したと判定された場合に、アークが発生したと判断する判断手段をさらに備えている、
請求項1又は2に記載のアーク検出装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記第2の対象情報の標準偏差が、前記第2の中間閾値よりも大きい第2の上限閾値を超えた場合は、前記アークとは別の現象であると判定する、
請求項3に記載のアーク検出装置。
【請求項5】
前記判定手段は、インピーダンス整合を行っていないときにアークが発生したか否かを判定する、
請求項1ないし4のいずれかに記載のアーク検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のアーク検出装置を備えている、
ことを特徴とする高周波電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体製造工程などに使用されるプラズマ処理システムでのアークの発生を検出するアーク検出装置、および、高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理システムとしては、
図6に示すように、例えば高周波電力を出力するための高周波電源装置51と、この高周波電源装置51に伝送ケーブル52を介して接続され、高周波電源装置51の出力インピーダンスと負荷インピーダンスとを整合するためのインピーダンス整合器53と、このインピーダンス整合器53に負荷接続部54を介して接続される、例えば負荷としてのプラズマ処理装置55とで構成されている。
【0003】
高周波電源装置51は、プラズマ処理装置55に対して高周波電力を供給するための装置であり、例えば図示しない電力増幅回路や発振回路等を備え、所定の電力に設定された高周波電力をインピーダンス整合器53を介してプラズマ処理装置55に出力する。
【0004】
プラズマ処理装置55は、エッチングやCVD等の方法を用いて半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するための装置である。より詳細には、プラズマ処理装置55は、プラズマチャンバーの内部に備えられた真空容器に一対の電極を設けた構成とされ、その真空容器にプラズマ発生用の窒素ガス又はアルゴンガス等が導入され、一対の電極間に高周波電力を供給して上記ガスを電離させて、プラズマを発生させるものである。発生されたプラズマは、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するために利用される。
【0005】
プラズマ処理装置55では、プラズマ処理中にアークが発生することがある。アークが発生すると、それによって半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を損傷したり、アークが大きい場合は、プラズマ処理装置55を破損してしまうことがあるので、高周波電源装置51では、通常、アークの発生を事前に検出し、プラズマ処理装置55に対する高周波電力の供給量を低減したり、供給自体を停止させることが行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、プラズマ処理装置55への進行波電力やプラズマ処理装置55からの反射波電力を検出し、その検出値の変化パターンからアーク発生を判定し、アーク発生と判定されたときには高周波電源装置51の出力を抑制したり、出力を停止したりすることが記載されている。
【0007】
特許文献1で対象としているアークは、例えば1回の放電量で被加工物を損傷したり、プラズマ処理装置55を破損したりするようなアーク(以下、「ハードアーク」という。)である。一方、アークの中には、1回の放電では被加工物を損傷するほどではないが、放電が連続して繰り返されると、被加工物に処理むらや焦げなどの加工品質に悪影響を与える微小なアーク(以下、「ソフトアーク」という。)が存在する。そして、近年は、被加工物の品質を可能な限り高精度に管理するために、プラズマ処理中のプラズマ処理装置55内のソフトアークの発生状態についても関心が高まっている。
【0008】
特許文献1に記載されているアーク検出方法は、プラズマ処理中にプラズマ処理装置55からの反射波電力の変化率を監視し、所定の閾値以上の急激な反射波電力の変化が生じたときにアーク放電が発生したと判別してアークの検出信号を出力するものであるが、主として、ハードアークの検出を目的とするため、所定の閾値は、その目的を達成し得るような適当な値に設定されているのが通常である。当該アーク検出方法において、所定の閾値を小さくすれば、ソフトアークを検出することも可能になる。しかし、ソフトアーク発生時の反射波電力の変化量は微小なので、通常のインピーダンス変動に基づく反射波電力の変化量と区別できない場合が多い。したがって、所定の閾値を小さくしたことによって、通常のインピーダンス変動をアーク発生と誤検出することが多くなるという問題が生じる。
【0009】
通常のインピーダンス変動をアーク発生と誤検出することを抑制し、ソフトアークの発生を高い精度で検出することのできるアーク検出装置として、反射波電力の微分値に基づいて、所定時間内の反射波電力の微小変動の回数をカウントするものが開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平8-167500号公報
【文献】特開2007-149596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載されているアーク検出方法は、反射波電力の微分値が第1閾値を下回った直後に第2閾値を上回ったことで、反射波電力の微小変動を検出している。そして、所定時間内の微小変動の回数が所定回数を上回った場合に、ソフトアークを検出したと判断する。
【0012】
しかしながら、ソフトアークには、反射波電力の変化が緩やかなものもある。変化が緩やかだと、微分値が第1閾値と第2閾値との間の範囲を超えられず、微小変動として検出されない。そうすると、ソフトアークを適切に検出できない場合がある。
【0013】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、プラズマ処理システムにおけるソフトアークの発生を高い精度で検出することのできるアーク検出装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0015】
本発明の第1の側面によって提供されるアーク検出装置は、高周波電源装置から負荷となるプラズマ処理装置に供給する高周波電力によってプラズマを発生させてプラズマ処理装置内の被加工物に所定の加工処理を行うシステムに適用するアーク検出装置であって、前記高周波電源装置の出力端に設けられて、前記高周波電力に関する情報を検出する検出手段と、前記高周波電力に関する情報に基づいて演算される反射係数に関する情報を対象情報として演算する反射係数情報演算手段と、前記対象情報の標準偏差を演算する標準偏差演算手段と、前記対象情報の標準偏差に基づいて、アークが発生したか否かを判定する判定手段とを備え、前記判定手段は、前記対象情報の標準偏差が予め定めた監視開始閾値以上になった後、予め定めた監視時間が経過するまでの間に、前記対象情報の標準偏差が中間閾値を超えた後に減少して下限閾値以下になった回数が、予め定めた判定回数以上となった場合に、アークが発生したと判定することを特徴とする。
【0016】
なお、「反射係数に関する情報」とは、例えば、反射係数の位相角や反射係数の絶対値(大きさ)のように、反射係数を構成する情報を含むが、それだけではなく、反射係数と等価な情報を含む。例えば、検出手段によって検出された高周波電力に関する情報に基づいて演算される負荷側インピーダンスは、反射係数を別の形式で表現したものであるので、反射係数と等価な情報である。そのため、負荷側インピーダンスを構成する情報である負荷側インピーダンスの位相角や負荷側インピーダンスの絶対値(大きさ)も「反射係数に関する情報」の一種である。その他の同様の情報も「反射係数に関する情報」の一種である。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記判定手段は、前記対象情報の標準偏差が前記監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記対象情報の標準偏差が、前記中間閾値よりも大きい上限閾値を超えた場合は、前記アークとは別の現象であると判定する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記反射係数情報演算手段は、さらに、前記対象情報とは異なる反射係数に関する情報を、第2の対象情報として演算し、前記標準偏差演算手段は、さらに、前記第2の対象情報の標準偏差を演算し、前記判定手段は、さらに、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の中間閾値を超えた後に減少して予め定めた第2の下限閾値以下になった回数が、予め定めた第2の判定回数以上となった場合に、アークが発生したと判定し、前記判定手段による前記対象情報の標準偏差に基づく判定と、前記第2の対象情報の標準偏差に基づく判定との両方の判定でアークが発生したと判定された場合、または、両方の判定のいずれかでアークが発生したと判定された場合に、アークが発生したと判断する判断手段をさらに備えている。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記判定手段は、前記第2の対象情報の標準偏差が予め定めた第2の監視開始閾値以上になった後、前記監視時間が経過するまでの間に、前記第2の対象情報の標準偏差が、前記第2の中間閾値よりも大きい第2の上限閾値を超えた場合は、前記アークとは別の現象であると判定する。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記判定手段は、インピーダンス整合を行っていないときにアークが発生したか否かを判定する。
【0021】
本発明の第2の側面によって提供される高周波電源装置は、本発明の第1の側面によって提供されるアーク検出装置を備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記高周波電源装置は、出力する高周波電力の周波数を変更することができ、プラズマ処理装置のインピーダンスの変化に応じて、当該周波数を変化させることで、インピーダンス整合を行う。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、反射係数に関する情報が対象情報として演算され、対象情報の標準偏差に基づいて、アークが発生したか否かが判定される。標準偏差は値のばらつき度合いを示すので、反射波電力の変化が緩やかなソフトアークの場合であっても、標準偏差では大きな値となって表れやすく、ソフトアークが発生したか否かをより高い精度で判定(検出)することができる。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係るプラズマ処理システムの一例を示すブロック図であり、同図(a)はプラズマ処理システムの全体構成を示しており、同図(b)はアーク検出部の詳細構成を示している。
【
図2】ソフトアークが発生したとき等の、反射係数の位相角およびその標準偏差の変化の一例を示す図である。
【
図3】ソフトアークが発生したとき等の、反射係数の位相角およびその標準偏差の変化の他の一例を示す図である。
【
図4】ソフトアーク判定処理を説明するためのフローチャートの一例である。
【
図6】従来のプラズマ処理システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1は、第1実施形態に係るプラズマ処理システムの一例を示す図である。同図(a)は、プラズマ処理システムの全体構成を示すブロック図であり、同図(b)は、アーク検出部の内部構成を示すブロック図である。このプラズマ処理システムは、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物に対して高周波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。
図1(a)に示すように、このプラズマ処理システムは、周波数可変の高周波電源装置1、伝送線路2、インピーダンス整合器3、および、負荷としてのプラズマ処理装置4を備えている。
【0028】
高周波電源装置1には、例えば同軸ケーブルからなる伝送線路2を介してインピーダンス整合器3が接続され、インピーダンス整合器3にはプラズマ処理装置4が接続されている。
【0029】
高周波電源装置1は、プラズマ処理装置4に対して、例えば数百kHz以上の出力周波数(例えば400kHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz等)を有する高周波電力を供給するための装置である。本実施形態において、高周波電源装置1は、出力周波数を変更することができ、プラズマ処理中におけるプラズマ処理装置4のインピーダンス整合を行う機能を有している。例えば、高周波電源装置1は、基本とする周波数foを中心とした所定の周波数範囲(fo±Δf)(例えば、fo=13.56MHzの場合、Δf=0.68MHz)で周波数を変化させてインピーダンス整合を行う。より具体的には、例えば、プラズマ処理システムが50Ω系で構成されており、高周波電源装置1の出力端から高周波電源装置1側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が50Ωに設計され、高周波電源装置1の出力端が特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、高周波電源装置1は、出力周波数を変化させて当該高周波電源装置1の出力端からプラズマ処理装置4側を見たインピーダンスを50Ωに整合させる。また、高周波電源装置1は、プラズマ処理装置4でソフトアークが発生したことを検出する機能を有している。高周波電源装置1についての詳細は、後述する。
【0030】
インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1とプラズマ処理装置4とのインピーダンスを整合させるものであり、図示しないが、インピーダンス素子であるキャパシタやインダクタ等を備えている。インピーダンス整合器3は、固定のインピーダンス素子によって構成され、プラズマ処理装置4のインピーダンス変動に追従して高周波電源装置1とプラズマ処理装置4とのインピーダンス整合を行う機能は有していない。プラズマ処理中の動的なインピーダンス整合動作は、上述したように、高周波電源装置1の出力周波数を中心周波数fo±Δfで変化させて行われる。なお、プラズマ処理装置4でプラズマ処理が開始されると、プラズマ処理の進行に応じて被加工物やプラズマの状態が変化し、これによりプラズマ処理装置4のインピーダンスが変化することになるが、正常にプラズマ処理が行われた場合のプラズマ処理装置4のインピーダンスの変化範囲は予め知ることができるので、このインピーダンスの変化範囲内の代表値をプラズマ処理装置4のインピーダンスとし、インピーダンス整合器3はこのインピーダンスの代表値に対してインピーダンス整合を行うように構成されている。
【0031】
プラズマ処理装置4は、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物BをエッチングやCVD等の方法を用いて加工するための装置である。プラズマ処理装置4は、プラズマを発生させるための窒素ガスやアルゴンガス等の所定のガスを封入するための容器(チャンバー)41と、高周波電源装置1からの高周波電力を容器41内のガスに供給するための一対の電極42,43を備えている。プラズマ処理装置4では、被加工物Bの加工目的に応じて各種の加工プロセスが実行される。例えば、被加工物Bに対してエッチングを行う場合には、そのエッチングに応じたガス種類、ガス圧力、高周波電力の供給電力値、および高周波電力の供給時間等が適切に設定された加工プロセスが行われる。加工プロセスでは、被加工物Bが配置される容器41内に、例えば窒素やアルゴン等のプラズマ発生用ガスが封入され、電極42,43に高周波電力の供給が開始されると、電極42,43間に高周波電界Pが生じ、この高周波電界Pによりプラズマ発生用ガスがプラズマ状態になる。そして、プラズマ状態になったガスを用いて被加工物Bが加工される。
【0032】
本実施形態における高周波電源装置1は、高周波電力をプラズマ処理装置4に対して供給するものであるとともに、ソフトアークの発生を検出するものである。したがって、当該高周波電源装置1が、本発明の「アーク検出装置」に相当すると考えることもできる。
【0033】
ソフトアークとは、上述したように、ハードアークに比べ、アーク放電量が微小なアークであって、ハードアークに比べ反射波電力の変化量が時間的に緩やかな特性を有するアークをいうが、出願人が確認したところでは、プラズマ処理装置4に対する高周波電力の供給中にソフトアークが発生するときには、プラズマ処理装置4内で微小なアーク放電が複数回断続的に生じることが判明した。そして、ソフトアークが発生するときには、微小なアーク放電が繰り返されるのに応じてプラズマ処理装置4のインピーダンスの値が微小変動を繰り返し、この微小変動に基づいて反射波電力も微小変動を繰り返すといった特定の変化パターンが見られることが判明した。高周波電源装置1は、このような反射波電力の微小変動の変化パターンを利用して、ハードアークに比べアーク放電量が微小なソフトアークを検出するようにしたものである。
【0034】
すなわち、本実施形態の高周波電源装置1は、ソフトアーク発生によりプラズマ処理装置4のインピーダンスの値が変化すると、その変化に応じてプラズマ処理装置4からの反射波電力が所定の変化をすることから、反射係数の位相角の標準偏差を演算し、当該標準偏差の変化に基づいてソフトアークの発生を検出する。
【0035】
また、高周波電源装置1は、ソフトアークを検出したときには、その検出結果を図示しない表示部にメッセージ表示したり、警報や発光によって報知したりするようにしている。これは、ソフトアークが発生しても被加工物Bを損傷したり、処理品質を著しく低下させたりすることはないが、ユーザによりプラズマ処理装置4内の処理状態を可能な限り把握したいといった要望があるので、この要望に応えるためである。なお、ユーザが希望する場合は、高周波電源装置1の出力を低下してソフトアークの発生を抑えたり、場合によっては、高周波電源装置1の出力停止を可能にしたりしてもよい。
【0036】
高周波電源装置1は、
図1(a)に示すように、操作部11、制御部12、発振部14、増幅部15、パワー検出部16、および、アーク検出部17を備えている。
【0037】
操作部11は、ユーザによって高周波電源装置1の出力条件(出力周波数や出力電力)を設定するためのものであり、
図1(a)では省略しているが、高周波電力の出力値を設定するための出力電力設定スイッチ、および、高周波電力の供給の開始を指示する出力開始スイッチ等の操作部材が設けられている。操作部11において設定された高周波電力の出力値や周波数値等は、制御部12に出力される。なお、ユーザが外部装置(例えば上位制御装置)から高周波電力の出力値や周波数値等を入力し、外部装置がこれらの値を制御部12に送るようにしてもよい。また、あらかじめ設定されたプログラムに応じて、外部装置が高周波電源装置1の出力条件を設定してもよい。
【0038】
制御部12は、本高周波電源装置1の制御中枢となるものであり、操作部11において設定された高周波電力の出力値に基づいて発振部14および増幅部15に制御信号を出力することにより、プラズマ処理装置4に対して高周波電力を供給させるものである。制御部12は、パワー検出部16が検出した進行波電力信号Pf(後述)を入力して、フィードバック制御を行う。制御部12は、図示しないFPGA(field-programmable gate array)やCPU(Central Processing Unit)などの演算器およびメモリを備えている。当該演算器には、高周波電力をプラズマ処理装置4に供給するための制御プログラムが記憶されている。また、当該メモリには、各種パラメータが記憶されている。なお、FPGAやCPUなどの演算器およびメモリは、後述するアーク検出部17と共通で用いられる。すなわち、制御部12およびアーク検出部17は、ハードウェアとして分離しているのではなく、機能的に異なるという意味で
図1に図示している。なお、制御部12専用のFPGAやCPUなどの演算器およびメモリと、アーク検出部17専用のFPGAやCPUなどの演算器およびメモリとを備えてもよい。
【0039】
制御部12は、アーク検出部17からアーク検出信号が入力されると、表示部へのメッセージの表示や、警報や発光による報知を行う。なお、表示や報知の代わりに、または、これに加えて、増幅部15に出力を抑制させる信号や、出力を停止させる信号を出力するようにしてもよい。また、アーク検出信号が入力されたときのプラズマ処理中の被加工物B(
図1参照)を不良品として選定し、被加工物Bの製造ラインからその不良品を除去するための制御を行うようにしてもよい。
【0040】
発振部14は、高周波信号を発生するもので、図示しない電圧制御発振回路によって構成されている。発振部14の発振出力と周波数は、それぞれ制御部12からの出力制御信号と周波数制御信号によって制御される。発振部14から出力される高周波信号は増幅部15に入力され、所定の出力レベルに増幅される。
【0041】
増幅部15は、発振部14からの発振出力信号を増幅して高周波電力を出力するものである。増幅部15において増幅されて出力された高周波電力は、パワー検出部16を介してインピーダンス整合器3に出力される。
【0042】
パワー検出部16は、増幅部15から出力される高周波電力を検出するものであり、例えば、方向性結合器によって構成されている。パワー検出部16は、増幅部15からプラズマ処理装置4側に進行する高周波電力(進行波電力)と、プラズマ処理装置4側から反射してくる高周波電力(反射波電力)とを分離して、それらの電力の瞬時値をそれぞれ検出するものである。パワー検出部16において検出された進行波電力の瞬時値を示す信号(進行波電力信号Pf)は、アーク検出部17に出力される。また、パワー検出部16において検出された反射波電力の瞬時値を示す信号(反射波電力信号Pr)は、アーク検出部17に出力される。なお、進行波電力、進行波電力信号Pf、反射波電力および反射波電力信号Prに関する情報は、本発明の「高周波電力に関する情報」の一種である。
【0043】
アーク検出部17は、パワー検出部16より入力される進行波電力信号Pfおよび反射波電力信号Prに基づいて、プラズマ処理装置4においてソフトアークが発生したことを検出するものである。アーク検出部17は、上記のようにアーク検出部17専用または制御部12と共通の図示しないFPGAやCPUなどの演算器およびメモリを備えている。当該演算器には、後述するアーク判定処理の制御プログラムが記憶されている。また、当該メモリには、各閾値のデータなどが記憶されている。アーク検出部17は、ソフトアークの発生を検出すると、制御部12に対してアーク検出信号を出力する。当該アーク検出部17が、本発明の「アーク検出装置」に相当する。
【0044】
図1(b)に示すように、アーク検出部17は、A/Dコンバータ21a,21b、ディジタルフィルタ22a,22b、位相角演算部23、標準偏差演算部24、および、アーク判定部25を備えている。
【0045】
A/Dコンバータ21aは、パワー検出部16より入力される、アナログ信号である進行波電力信号Pfを、一定の時間周期でサンプリングして量子化することにより、ディジタル信号に変換するものである。A/Dコンバータ21aによってディジタル信号に変換された進行波電力信号は、ディジタルフィルタ22aに出力される。A/Dコンバータ21bは、パワー検出部16より入力される、アナログ信号である反射波電力信号Prを、一定の時間周期でサンプリングして量子化することにより、ディジタル信号に変換するものである。A/Dコンバータ21bによってディジタル信号に変換された反射波電力信号は、ディジタルフィルタ22bに出力される。
【0046】
ディジタルフィルタ22aは、A/Dコンバータ21aより入力されるディジタル信号である進行波電力信号から、所定の周波数成分を抽出して出力するものであり、例えばバンドパスフィルタである。所定の周波数は、高周波電源装置1から出力される高周波電力の基本周波数で、例えば13.56MHzである。ディジタルフィルタ22aは、基本波成分を抽出した進行波電力信号を、位相角演算部23に出力する。ディジタルフィルタ22bは、A/Dコンバータ21bより入力されるディジタル信号である反射波電力信号から、所定の周波数成分を抽出して出力するものであり、例えばバンドパスフィルタである。ディジタルフィルタ22bは、基本波成分を抽出した反射波電力信号を、位相角演算部23に出力する。
【0047】
なお、本実施形態では、ディジタルフィルタ22a,22bが基本波成分を抽出する場合について説明したが、これに限られない。その他の周波数成分を抽出するようにしてもよく、例えば、所定の次数の高調波成分を抽出するようにしてもよい。また、ディジタルフィルタ22a,22bを設けないようにして、A/Dコンバータ21a(21b)から直接、位相角演算部23に出力するようにしてもよい。ただし、位相角演算部23で演算される位相角の精度を向上させるためには、ディジタルフィルタ22a,22bを設けて、基本波成分を抽出するのが望ましい。
【0048】
位相角演算部23は、ディジタルフィルタ22aより入力される進行波電力信号と、ディジタルフィルタ22bより入力される反射波電力信号とから、反射係数の位相角θを演算するものである。位相角θは、進行波に対する反射波の位相差を示している。発振部14から出力される高周波信号をAsin(ωt)とした場合、パワー検出部16で検出される、進行波および反射波は当該高周波信号に対し、位相が遅れる。進行波電力信号をPf=Bsin(ωt-θ1)とし、反射波電力信号をPr=Csin(ωt-θ2)とした場合、位相角θは、下記(1)式で表される。なお、位相角θの演算方法は限定されない。算出された位相角θは、標準偏差演算部24に出力される。なお、パワー検出部16が検出した進行波電圧信号Vfと反射波電圧信号Vrとに基づいて、反射係数の位相角θを演算するようにしてもよい。本実施形態では、反射係数の位相角θが、本発明の「対象情報」に相当する。
【数1】
【0049】
標準偏差演算部24は、位相角演算部23より入力される位相角θの標準偏差σを演算するものである。標準偏差σは、下記(2)式に基づいて演算される。下記(2)式は、N個のデータθ
i(i=1,2,…、N)を用いて演算したものである。標準偏差演算部24は、位相角演算部23より入力される位相角θのデータをメモリに記憶しておき、最新の所定の時間分(例えば数十ミリ秒)のデータを用いて演算を行う。演算に用いられるデータ数Nは、適宜設計される。算出された標準偏差σは、アーク判定部25に出力される。
【数2】
【0050】
アーク判定部25は、標準偏差演算部24より入力される標準偏差σに基づいて、ソフトアークの発生を判定するものである。アーク判定部25は、ソフトアークが発生したと判定した場合、アーク検出信号を制御部12に出力する。インピーダンス整合の動作中は、反射波電力が増減するので、ソフトアークが発生したと誤検出する場合がある。したがって、アーク判定部25は、インピーダンス整合の動作中は、ソフトアークの判定を行わない。高周波電源装置1は、出力周波数を変化させてインピーダンス整合を行うので、インピーダンス整合の動作中であるか否かを判断することができる。
【0051】
次に、
図2を参照して、ソフトアークの発生を検出するための基本的な考え方を説明する。ソフトアークが発生した場合、プラズマ処理装置4内で微小なアーク放電が複数回断続的に繰り返されるので、プラズマ処理装置4のインピーダンスが微小変動を繰り返し、反射波電力も微小変動を繰り返す。これにより、位相角θも断続的な微小変動を繰り返すので、位相角θのばらつき度合いを示す標準偏差σが大きくなる。
【0052】
図2(a)は、ソフトアークが発生したときの位相角θの変化の一例を示している。この
図2(a)に示すように、ソフトアークの発生前は、位相角θの変動があまりないが、ソフトアークが発生すると、位相角θの微小変動が繰り返される状態になる。
図2(b)は、位相角θが
図2(a)に示すような変化を行った場合の、標準偏差演算部24で演算される標準偏差σの変化を示している。この
図2(b)に示すように、標準偏差σは、増加した後、一定の大きさで微小な変化を繰り返す状態で安定する。
【0053】
一方、ソフトアークが発生したのではなく、
図2(c)に示すように、負荷変動によりインピーダンスが短期間だけ変化した場合は、
図2(d)に示すように、位相角θの標準偏差σが一旦増加するが、負荷変動が収まると、位相角θの標準偏差σが減少する。すなわち、標準偏差σが増加から減少に転じる。そして、
図2(d)に示すように、元の標準偏差σ付近まで減少して推移する。
【0054】
また、負荷変動によりインピーダンスがゆっくり大きく変化した場合は、例えば、
図2(e)に示すように、位相角θの標準偏差σは、インピーダンスが変化している間は増加し続ける。その結果、ソフトアークが発生した場合よりも位相角θの標準偏差σが大きくなる。そこで、適切な閾値を設けることにより、ソフトアークが発生したか否かを判定することができる。
【0055】
具体的には、標準偏差σが増加し、第1の閾値X
1を超えたときに(
図2の時刻t
1参照)、ソフトアークが発生した可能性があると判定する。そして、標準偏差σが第1の閾値X
1を超えたときから監視時間Tm(
図2参照)が経過するまでの間に、
図2(b)に示すように、下限値を第1の閾値X
1とし、上限値を第2の閾値X
2とする判定範囲内に標準偏差σが収まっていれば、ソフトアークが発生したと判定する。しかし、
図2(d)又は
図2(e)に示すように、監視時間Tm(
図2参照)が経過するまでに、判定範囲外になれば、ソフトアークではないと判定する。なお、監視時間Tmは例えば数百ミリ秒であるが、状況に応じて適切と考えられる時間を設定すればよい。
【0056】
このようにすれば、ソフトアークが発生しているか否かを判定することができる。しかし、
図2のようなパターンで発生するソフトアークだけでなく、
図3のようなパターンで発生するソフトアークもある。
図3は、ソフトアークが発生したとき等の、反射係数の位相角θおよびその標準偏差σの変化の他の一例を示す図である。
【0057】
図3(a)は、ソフトアークが発生したときの位相角θの変化の他の一例を示している。この
図3(a)に示すように、ソフトアークの発生前は、位相角θの変動があまりないが、ソフトアークが発生すると、位相角θの微小変動が繰り返される状態になる。しかし、その後は、
図2(a)と異なり、断続的に位相角θの変動が大きくなったり、小さくなったりする。このような場合には、
図3(b)に示すように、標準偏差σが増加して第1の閾値X
1を超えるが、その直後に第1の閾値X
1以下となる状態を繰り返す。そうなると、標準偏差σが第1の閾値X1を超えたときから監視時間Tmが経過するまでに、下限値を第1の閾値X
1とし、上限値を第2の閾値X
2とする判定範囲内に標準偏差σが収まっていないので、
図2に示した概念では、ソフトアークであると判定することができない。そのため、
図3に示すようなソフトアークの場合は、別の判定基準を設けて判定する。
【0058】
具体的には、標準偏差σが増加し、第1の閾値X
1を超えたときに(
図3の時刻t
1参照)、ソフトアークが発生した可能性があると判定する。そして、監視時間Tm(
図3参照)が経過するまでの間に、標準偏差σが増加して第3の閾値X
3を超えた後、標準偏差σが減少して第1の閾値X
1以下になった場合に、まだソフトアークが発生したとは言えないが、ソフトアークの一部である部分ソフトアークが発生したと判定する。そして、その部分ソフトアークが発生した回数Nをカウントし、その回数Nが予め定めた判定回数Nj以上となった場合に、ソフトアークが発生したと判定する。
図3では6回の部分ソフトアークがあったとカウントする。そのため、判定回数Njを6回以下に定めていれば、ソフトアークが発生したと判定できる。例えば、判定回数Njを5回に設定していれば、部分ソフトアークの回数Nが5回以上(N>=5)になったときに、ソフトアークが発生したと判定する。なお、第1の閾値X
1、第2の閾値X
2及び第3の閾値X
3は、実験等に基づいて適切と考えられる値を設定すればよい。また、第1の閾値X
1は、本発明の「監視開始閾値」及び「下限閾値」に相当する。第2の閾値X
2は、本発明の「上限閾値」に相当する。第3の閾値X
3は、本発明の「中間閾値」に相当する。また、上記の実施形態(
図3)においては、第1の閾値X
1が本発明の監視開始閾値と下限閾値との両方の役割をしているが、監視開始閾値と下限閾値とは、別の閾値にしてもよい。
【0059】
図4は、アーク判定部25が行うソフトアーク判定処理を説明するためのフローチャートの一例である。当該判定処理は、標準偏差演算部24より標準偏差σの入力が開始されたときに実行が開始され、インピーダンス整合の動作中は停止される。なお、後述する標準偏差σの最高値σ
0は、判定処理の開始時に初期化されて、例えば、最高値σ
0=0とされる。
【0060】
まず、ステップS1において標準偏差σが第1の閾値X1より大きくなったか否かが判別される。標準偏差σが第1の閾値X1以下の場合(S1:NO)、ステップS1に戻って、ステップ1が繰り返される。一方、標準偏差σが第1の閾値X1より大きくなった場合(S1:YES)、計時が開始される(S2)。具体的には、タイマが計時を開始する。変数Tは、タイマが計時した時間を示す変数である。ここでは、計時開始時の変数Tを1(T=1)とし、計時を開始する。また、部分ソフトアークの回数Nを0(N=0)に初期化しておく。なお、部分ソフトアークの回数Nの初期化は、ステップS1のときに行っていてもよい。
【0061】
ステップS2において計時が開始されるとステップS3に進む。ステップS3では、状態変数が、標準偏差σが第1の閾値X1を下回った後の状態であることを示す「0」であるか否かを判定し、状態変数が「0」であると判定した場合(S3:YES)は、ステップS4に進む。状態変数は、部分ソフトアークが発生したことを検出するために設定されるフラグであり、標準偏差σが第1の閾値X1を下回った後の状態であることを示す「0」、または、標準偏差σが第3の閾値X3を上回った後の状態であることを示す「1」が設定される。状態変数の初期値には、「0」が設定されている。標準偏差σが増加して「0」(標準偏差σが第1の閾値X1を下回った後の状態)から「1」(標準偏差σが第3の閾値X3を上回った後の状態)に変更され、その後、標準偏差σが減少して「1」から「0」に変更された場合に、部分ソフトアークが発生したと判断される。ステップS3において、状態変数が「0」ではないと判定した場合(S3:NO)、すなわち状態変数が「1」であると判定した場合は、ステップS9に進む。
【0062】
ステップS4では、標準偏差σが第3の閾値X3を超えたか否かが判定される。標準偏差σが第3の閾値X3を超えていない場合(S4:NO)は、ステップS6に進む。標準偏差σが第3の閾値X3を超えている場合(S4:YES)は、ステップS5に進む。ステップS5では、標準偏差σが第3の閾値X3以下の状態から第3の閾値X3を超えた状態に変化したので、標準偏差σの状態変数を「1」(標準偏差σが第3の閾値X3を上回った後の状態)に変更して、ステップS6に進む。
【0063】
ステップS6では、経過時間Tが所定の監視時間Tmより大きくなったか否か、すなわち、計時開始から監視時間Tmが経過したか否かが判定される。ステップS6において、計時開始から監視時間Tmが経過していないと判定された場合(S6:NO)には、ステップS7に進み、経過時間を示す変数Tを増加させて(例えばT=T+1)、ステップS3に戻り、処理を継続する。ステップS6において、計時開始から監視時間Tmが経過したと判定された場合(S6:YES)には、ステップS8に進む。ステップS8では、部分ソフトアークの回数Nが判定回数Nj以上(N>=Nj)になっていない状態で計時開始から監視時間Tmが経過したので、ソフトアークが発生していないと判定して、ステップS1に戻り、ソフトアーク判定処理を継続する。なお、ステップS8における判定結果を、出力してもよい。
【0064】
ステップS9では、標準偏差σが第2の閾値X2を超えたか否かを判定し、標準偏差σが第2の閾値X2を超えていないと判定された場合(S9:NO)は、ステップS10に進む。標準偏差σが第2の閾値X2を超えたと判定された場合(S9:YES)は、後述するステップS18に進む。
【0065】
ステップS10では、標準偏差σが第1の閾値X1以下になったか否かを判定し、標準偏差σが第1の閾値X1以下になったと判定された場合(S10:YES)は、ステップS11に進む。この場合、標準偏差σが第3の閾値X3以下の状態から第3の閾値X3を超えた状態に変化した後、標準偏差σが第1の閾値X1以下の状態に変化したので、部分ソフトアークが発生したことになる。そのため、ステップS11とステップS12の処理を行う。ステップS11では、標準偏差σの状態変数を「0」(標準偏差σが第1の閾値X1を下回った後の状態)に変更して、ステップS12に進む。ステップS12では、部分ソフトアークの回数Nを増加させて(N=N+1)、ステップS13に進む。なお、ステップS11とステップS12の実行順番を入れ替えてもよい。その場合、ステップS11において、標準偏差σの状態変数を「0」に変更した後、ステップS13に進む。ステップS10において、標準偏差σが第1の閾値X1以下になっていないと判定された場合(S10:NO)には、ステップS7に進み、経過時間を示す変数Tを増加させて(例えばT=T+1)、ステップS3に戻り、処理を継続する。
【0066】
ステップS13では、部分ソフトアークの回数Nが判定回数Nj以上(N>=Nj)になったか否かを判定し、判定回数Nj以上になったと判定された場合(S13:YES)は、ステップS16に進む。また、判定回数Nj以上になっていないと判定された場合(S13:NO)は、ステップS6に進む。ステップS6では、上述したように、計時開始から監視時間Tmが経過したか否かが判定され、監視時間Tmが経過していないと判定された場合には、変数Tを増加させて、処理を継続する。監視時間Tmが経過したと判定された場合には、ソフトアークが発生していないと判定して、ソフトアーク判定処理を継続する。
【0067】
ステップS16では、計時開始から監視時間Tmが経過するまでに、部分ソフトアークの回数Nが判定回数Nj以上(N>=Nj)になったので、ソフトアークが発生していると判定してステップS17に進む。なお、ステップS17では、ソフトアークが発生していることを示す検出信号を、例えば上位制御装置等に出力することができる。この検出信号に基づいて、例えば、高周波電源装置1の出力を低下させたり停止させる等の処理を行うことが可能となる。
【0068】
ステップS17では、ソフトアーク判定処理を継続するか否かが判別される。ソフトアークが発生していると判定された後も、予め定められた条件に従って、ソフトアーク判定処理を継続する場合と、終了する場合とがある。一例として、高周波電源装置1が出力を停止しないときはソフトアーク判定処理を継続する場合がある。また、ソフトアークが発生していると判定されたときの反射波電力の大きさが小さい場合には、ソフトアーク判定処理の継続する場合がある。条件に従ってソフトアーク判定処理を継続すると判定した場合(S17:YES)は、ステップS1に戻り、ソフトアーク判定処理が継続される。一方、ソフトアーク判定処理を継続しない(終了する)と判定された場合(S17:NO)は、ソフトアーク判定処理が終了される。
【0069】
ステップS18では、標準偏差σが上限値である第2の閾値X2を超えたことが異常であるのか否かが判定される。例えば、上述したように、負荷変動によりインピーダンスがゆっくり大きく変化した場合には、標準偏差σが増加していく。負荷変動の要因は、例えば、容器41内のガス圧力を変更した場合や高周波電源装置1の出力電力を変更した場合が考えられる。しかし、このような場合は異常ではないので(S18:NO)、ステップS1に戻り、ソフトアーク判定処理を継続すればよい。なお、高周波電源装置1は、出力電力の情報を取得することができるので、高周波電源装置1の出力電力の変更があった場合に、標準偏差σが上限値である第2の閾値X2を超えたと判定されても、異常ではないと判定することができる。また、高周波電源装置1が、容器41内のガス圧力の情報を取得することができれば、容器41内のガス圧力の変更があった場合に、標準偏差σが上限値である第2の閾値X2を超えたと判定されても、異常ではないと判定することができる。しかし、ハードアーク等の異常が発生したために、標準偏差σが上限値である第2の閾値X2を超えた可能性がある。このような異常が発生している可能性があると判定したときには(S18:YES)、ステップS19に進み、異常処理を行って、ソフトアーク判定処理が終了される。例えば、標準偏差σが急激に大きくなった場合や、標準偏差σが第2の閾値X2よりも大きい別の閾値を超えた場合には、何らかの異常が発生している可能性があると判定することができる。ステップS19による異常処理としては、例えば、警報などによる報知や、高周波電源装置1の出力を低下させたり停止させるなどの処理が考えられる。なお、異常処理が行われた後は、ステップS17に進んで、ソフトアーク判定処理を継続するか否かが判別されてもよい。
【0070】
本実施形態によると、位相角演算部23が反射係数の位相角θを演算し、標準偏差演算部24が当該位相角θの標準偏差σを演算し、アーク判定部25は当該標準偏差σに基づいて、ソフトアークの発生を判定する。標準偏差σは、反射係数の位相角θのばらつき度合いを示すので、位相角θの変化が緩やかであっても、大きな変化として表れる。したがって、位相角θの微分値に基づいてソフトアークの発生を判定することが困難な場合であっても、標準偏差σに基づいて判定を行うことで、ソフトアークの発生をより高い精度で判定することができる。
【0071】
また、本実施形態によると、アーク判定部25は、
図4に示すフローチャートに応じて、ソフトアーク判定処理を行う。したがって、プラズマ処理装置4内でソフトアークが発生した時の現象を的確にとらえて、負荷変動に基づく誤判定を抑制し、ソフトアークの発生をより確実に判定することができる。
【0072】
また、本実施形態によると、ディジタルフィルタ22a、22bが、高周波電源装置1の出力周波数の基本波成分を抽出するので、位相角演算部23で演算される位相角θの精度を向上させることができる。また、反射係数に関する情報のうち、比較的に変化が大きい反射係数の位相角θを用いるので、アーク判定部25での判定精度を高めることができる。また、高周波電源装置1が出力周波数を変化させることでインピーダンス整合を行うので、ソフトアーク判定処理を行う際に、インピーダンス整合動作中であるかどうかを容易に認識することができる。
【0073】
なお、本実施形態では、アーク検出部17を高周波電源装置1の内部に設けた場合について説明したが、これに限られない。アーク検出部17の機能を有するアーク検出装置を、高周波電源装置の外部に設けるようにしてもよい。この場合、アーク検出装置は、高周波電源装置が備えるパワー検出部16から進行波電力信号Pfおよび反射波電力信号Prを入力されるようにし、ソフトアークの発生を検出したときに、高周波電源装置の制御部12に対してアーク検出信号を出力するようにすればよい。また、アーク検出信号を、高周波電源装置とは別の処理装置に出力するようにしてもよい。
【0074】
本実施形態では、ソフトアークを検出する構成について説明したが、高周波電源装置1(アーク検出部17)には、ハードアークを検出するための構成が含まれていてもよい。すなわち、高周波電源装置1(アーク検出部17)は、電源投入後、ハードアークを検出する構成、および、ソフトアークを検出する構成が同時に並行して動作し、ハードアークを検出した場合はその対応する処理(例えば、高周波電力の出力停止)を行い、ソフトアークを検出した場合はその対応する処理(例えば、表示部へのメッセージの表示や、警報や発光による報知)を行うようにしてもよい。また、高周波電源装置1(アーク検出部17)には、ソフトアークを検出する他の構成が含まれていてもよい。すなわち、複数のソフトアーク検出方法を並行して行うようにしてもよい。
【0075】
本実施形態では、高周波電源装置1が可変周波数方式で、インピーダンス整合器3がインピーダンス固定の場合を説明したが、固定周波数方式の高周波電源装置と可変インピーダンス整合器との組み合わせのプラズマ処理装置であっても、本発明に係るアーク検出装置を適用することができる。なお、この場合は、インピーダンス整合器が整合動作中であることを、アーク検出部17に知らせるようにすればよい。
【0076】
本実施形態では、反射係数の位相角θの標準偏差σを用いてソフトアークの発生を判定する場合について説明したが、これに限られない。反射係数の絶対値|Γ|の標準偏差を用いてソフトアークの発生を判定するようにしてもよい。反射係数の絶対値|Γ|は、進行波の大きさに対する反射波の大きさの比率を示しており、パワー検出部16が検出した進行波電力信号Pfと反射波電力信号Prとに基づいて下記(3)式で演算される。なお、パワー検出部16が検出した進行波電圧信号Vfと反射波電圧信号Vrとに基づいて演算するようにしてもよい。本変形例では、反射係数の絶対値|Γ|が、本発明の「対象情報」に相当する。
【数3】
【0077】
また、反射係数以外でも、反射係数を別の形式で表現したものである負荷側インピーダンスの位相角や絶対値(大きさ)などの反射係数に関する情報の標準偏差を用いてソフトアークの発生を判定するようにしてもよい。
【0078】
また、各反射係数に関する情報の標準偏差を用いた判定結果を、複数組み合わせて、ソフトアークの発生を判定するようにしてもよい。例えば、
図5に示すアーク検出部17’は、反射係数の位相角θの標準偏差σを用いてソフトアークの発生を判定する構成に加えて、反射係数の絶対値|Γ|の標準偏差を用いてソフトアークの発生を判定する構成を追加した変形例である。当該変形例は、
図1(b)に示すアーク検出部17に、さらに、絶対値演算部23’、標準偏差演算部24’、アーク判定部25’、および、アーク判断部26を追加したものである。本変形例では、反射係数の位相角θが本発明の「対象情報」に相当し、反射係数の絶対値|Γ|が本発明の「第2の対象情報」に相当する。
【0079】
絶対値演算部23’は、ディジタルフィルタ22aより入力される進行波電力信号と、ディジタルフィルタ22bより入力される反射波電力信号とから、反射係数の絶対値|Γ|を演算するものである。算出された絶対値|Γ|は、標準偏差演算部24’に出力される。標準偏差演算部24’は、標準偏差演算部24と同様のものであり、絶対値演算部23’より入力される絶対値|Γ|の標準偏差σ’を演算するものである。算出された標準偏差σ’は、アーク判定部25’に出力される。アーク判定部25’は、アーク判定部25と同様のものであり、標準偏差演算部24’より入力される標準偏差σ’に基づいて、ソフトアークの発生を判定するものである。なお、判定に用いる各パラメータ(監視時間Tm、第1の閾値X1、第2の閾値X2、第3の閾値X3、部分ソフトアークの回数の判定回数Njなど)は、アーク判定部25とアーク判定部25’とで同じ値を用いてもよいし、異なっていてもよい。例えば、アーク判定部25では、部分ソフトアークの回数Nが判定回数Nj以上(N>=Nj)になった場合にソフトアークが発生していると判定するが、アーク判定部25’ では、部分ソフトアークの回数N’が、第2判定回数Nj’以上(N>=Nj’)になった場合に、ソフトアークが発生していると判定してもよい。アーク判定部25’は、ソフトアークが発生したと判定すると、アーク検出信号をアーク判断部26に出力する。
【0080】
当該変形例においては、アーク判定部25は、ソフトアークが発生したと判定すると、アーク検出信号を制御部12に出力する代わりに、アーク判断部26に出力する。アーク判断部26は、アーク判定部25の判定結果とアーク判定部25’の判定結果とに基づいて判断するものである。アーク判断部26は、アーク判定部25からアーク検出信号を入力され、かつ、アーク判定部25’からアーク検出信号を入力された場合にのみ、アーク検出信号を制御部12に出力する。制御部12は、位相角θに基づく判定でソフトアークが発生したと判定され、かつ、絶対値|Γ|に基づく判定でソフトアークが発生したと判定された場合にのみ、ソフトアークの発生に対応する処理を行うことになる。したがって、いずれか一方の判定でソフトアーク発生との誤判定があった場合でも、他方で正しく判定されれば、ソフトアークの対応処理を誤って行うことにならない。なお、他の反射係数に関する情報の標準偏差を用いた判定結果を用いるようにしてもよいし、3つ以上の判定結果に基づいて判断を行うようにしてもよい。
【0081】
また、当該変形例において、アーク判断部26が、アーク判定部25からアーク検出信号を入力された場合、または、アーク判定部25’からアーク検出信号を入力された場合に、アーク検出信号を制御部12に出力するようにしてもよい。これは、すなわち、
図5に示すアーク検出部17’において、アーク判断部26を設けずに、アーク判定部25およびアーク判定部25’が、ソフトアークが発生したと判定した場合にアーク検出信号を制御部12に直接出力するようにしたのと同じである。この場合、制御部12は、位相角θに基づく判定でソフトアークが発生したと判定されるか、または、絶対値|Γ|に基づく判定でソフトアークが発生したと判定されると、ソフトアークの発生に対応する処理を行うことになる。したがって、いずれか一方の判定でソフトアークが発生したことを検出できなくても、他方で正しく検出できれば、ソフトアークの対応処理を行うことができる。
【0082】
本発明に係るアーク検出装置および高周波電源は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るアーク検出装置および高周波電源の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0083】
1 高周波電源装置(アーク検出装置)、11 操作部、 12 制御部、 14 発振部、 15 増幅部、 16 パワー検出部、 17,17’ アーク検出部(アーク検出装置)、 21a,21b A/Dコンバータ、 22a,22b ディジタルフィルタ、 23 位相角演算部(反射係数情報演算手段)、 23’ 絶対値演算部(反射係数情報演算手段)、 24,24’ 標準偏差演算部、 25,25’ アーク判定部(判定手段)、 26 アーク判断部(判断手段)、 2 伝送線路、 3 インピーダンス整合器、 4 プラズマ処理装置、 41 容器、 42,43 電極、 P 高周波電界、 B 被加工物