(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】熱交換器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F28F 9/16 20060101AFI20230613BHJP
B21D 39/20 20060101ALI20230613BHJP
B21D 53/06 20060101ALI20230613BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20230613BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20230613BHJP
F28F 9/02 20060101ALI20230613BHJP
F24H 9/00 20220101ALN20230613BHJP
【FI】
F28F9/16
B21D39/20 C
B21D53/06 D
B23K1/00 330J
F28D7/16 D
F28F9/02 301E
F24H9/00 A
(21)【出願番号】P 2019057407
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】辻 佑太
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138851(JP,A)
【文献】特開2007-275932(JP,A)
【文献】特開2007-319919(JP,A)
【文献】特開2018-119757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 9/00 - 9/26
B21D 39/00 - 55/00
B23K 1/00 - 33/00
F24H 9/00 - 9/45
F28D 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用媒体が内部に供給されるケースと、
このケースの側壁部に設けられている複数の第1の孔部に端部が挿通するようにして前記ケース内から外部に引き出されている複数の伝熱管と、
前記側壁部との間に隙間を形成するようにして前記複数の伝熱管の前記端部に取付けられるヘッダ部と、
前記複数の第1の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する複数の第1のロウ付け部と、
を備えている、熱交換器であって、
外面が前記各第1の孔部の内周面に圧接するように前記各伝熱管
の前記端部に設けられた拡管部と、
この拡管部の外面と前記各第1の孔部の内周面との間に、前記第1のロウ付け部のロウ材が進入する第1の隙間が前記側壁部の内外に連通した状態に形成されるように、前記拡管部の外面に
等角度間隔で設けられた複数の第1の凹部と、
をさらに備えており、
前記複数の第1の凹部は、前記側壁部の正面視に相当する前記各伝熱管の前記端部の軸長方向視において、前記各伝熱管の中心を通過する水平線または鉛直線に対して前記端部の周方向に位置ずれした配置とされているとともに、前記複数の第1の凹部の少なくとも1つは、前記各伝熱管の
前記端部の外周面のうち、前記側壁部の正面視における前記ケースの外方側周面部
の最上部よりも下方、かつ最外端部よりも上方に位置する特定の凹部とされており、
前記複数の伝熱管の前記端部は、前記ケースの上下高さ方向に間隔を隔てて並んだ縦列として、上下高さ方向に位置ずれした配置で前記ケースの幅方向に横2列で並んだ外側縦列および内側縦列を備えた千鳥配列とされ、
前記内側縦列の前記端部に設けられている前記特定の凹部は、前記外側縦列の複数の端部のうち、斜め上に隣接する端部の最下部よりも低く、かつ斜め下に隣接する端部の最上部よりも高い配置とされていることを特徴とする、熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器であって、
前記拡管部は、前記各伝熱管の軸長方向において前記側壁部を挟むように前記側壁部の内外にそれぞれ位置して前記側壁部に係合する第1および第2の段部を含んでおり、
前記第1の凹部は、前記第1および第2の段部の外面にも延設されている、熱交換器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱交換器であって、
前記ヘッダ部は、前記複数の伝熱管の前記端部が挿通する複数の第2の孔部を有し、かつ第2のロウ付け部を介して前記端部に接合されており、
前記拡管部は、その外面が前記各第2の孔部の内周面にも圧接するように設けられており、
前記拡管部の外面と前記各第2の孔部の内周面との間に、前記第2のロウ付け部のロウ材が進入する第2の隙間を形成するように、前記拡管部の外面に設けられた第2の凹部を、さらに備えている、熱交換器。
【請求項4】
加熱用媒体が内部に供給されるケースの側壁部に設けられている複数の第1の孔部に、複数の伝熱管の端部を挿通させ、かつ前記複数の伝熱管の前記端部は、前記ケースの上下高さ方向に間隔を隔てて並んだ縦列として、上下高さ方向に位置ずれした配置で前記ケースの幅方向に横2列で並んだ外側縦列および内側縦列を備えた千鳥配列とされた状態において、前記複数の伝熱管の外周面を前記複数の第1の孔部の内周面に圧接させるように、前記複数の伝熱管に拡管部を設ける拡管工程と、
前記側壁部との間に隙間を形成するようにして前記複数の伝熱管の端部にヘッダ部またはヘッダ部の構成部材を取付けるヘッダ部取付け工程と、
前記複数の第1の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する第1のロウ付け部を設けるロウ付け工程と、
を有している、熱交換器の製造方法であって、
前記ロウ付け工程の前において、前記拡管部の外面と前記各第1の孔部の内周面との間に、前記側壁部の内外に連通した第1の隙間が形成されるように、前記拡管部の外面に複数の第1の凹部を等角度間隔で形成する第1の凹部形成工程を、さらに有しており、
この第1の凹部形成工程においては、
前記側壁部の正面視に相当する前記各伝熱管の前記端部の軸長方向視において、前記複数の第1の凹部を、前記各伝熱管の中心を通過する水平線または鉛直線に対して前記端部の周方向に位置ずれした配置にするとともに、前記複数の第1の凹部の少なくとも1つは、前記各伝熱管の前記端部の外周面のうち、前記側壁部の正面視における前記ケースの外方側周面部の最上部よりも下方、かつ最外端部よりも上方に位置する特定の凹部とし、
前記内側縦列の前記端部に設けられている前記特定の凹部は、前記外側縦列の複数の端部のうち、斜め上に隣接する端部の最下部よりも低く、かつ斜め下に隣接する端部の最上部よりも高い配置とし、
前記ロウ付け工程においては、前記各伝熱管のうち、前記ケースの外方側周面部に位置する前記特定の凹部に、前記ケースの外方側から前記第1のロウ付け部用のロウ材を塗布し、かつその溶融ロウ材を前記第1の隙間に進入させることを特徴とする、熱交換器の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記拡管工程は、前記各伝熱管内に進入された状態で前記各伝熱管の半径方向に拡縮変形可能な拡縮変形可能部を有する割型パンチを用いて行ない、
前記拡縮変形可能部は、前記各伝熱管をその内側から押圧するための複数のセグメントを有し、かつ前記各伝熱管の拡管時には、前記複数のセグメントの外面部の相互間に離間部が形成される構成であり、この離間部を利用することによって、前記各拡管部の外面に、前記第1の凹部を設け、前記拡管工程と前記第1の凹部形成工程とを同時に実行する、熱交換器の製造方法。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記ヘッダ部取付け工程においては、前記拡管工程の前に、前記複数の伝熱管の端部を前記ヘッダ部に設けられている複数の第2の孔部に挿通させておき、
前記拡管工程においては、前記各伝熱管の前記端部の外周面が前記各第2の孔部の内周面にも圧接するように前記拡管部を設けるとともに、この拡管部の外面には、この外面と前記各第2の孔部の内周面との間に第2の隙間を生じさせる第2の凹部を設け、
前記ロウ付け工程においては、前記各第2の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する第2のロウ付け部を設けるとともに、この第2のロウ付け部の溶融ロウ材を前記第2の隙間に進入させる、熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば給湯装置における湯水加熱用途などに用いられる熱交換器、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、熱交換器の一例として、特許文献1に記載のものを先に提案している。
同文献に記載の熱交換器においては、燃焼ガスが供給されるケース内に複数の伝熱管が収容されており、これら複数の伝熱管は、ケースの側壁部に設けられている複数の孔部に挿通するようにしてケース内からその外部に引き出されている。また、前記複数の伝熱管の端部には、入水用および出湯用のヘッダ部が取付けられている。
【0003】
このような熱交換器においては、複数の伝熱管をケースの側壁部に対して強固に固定させる必要があり、またケース内から外部に燃焼ガスが漏出することを防止する必要もある。そこで、従来においては、ケースの側壁部の各孔部の周縁部に対し、各伝熱管をロウ付けすることが行なわれている。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように改善すべき余地があった。
【0005】
すなわち、ケースの側壁部に対する各伝熱管の取付け強度を、十分に高くし、その信頼性を高める上では、ただ単に各伝熱管を側壁部にロウ付けするだけでは不十分である場合がある。したがって、ロウ付け強度を従来にも増して高めることが望まれる。
また、ロウ付けを行なうには、各伝熱管にペースト状のロウ材を予め塗布するが、この塗布作業は、複数の伝熱管の端部にヘッダ部の構成部材が取付けられた状態で行なわれるのが通例である。このため、前記部材がロウ材塗布作業の邪魔となって、ロウ材塗布の作業性が悪く、その作業コスト、ひいては熱交換器の製造コストが高いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、簡易な構成によって伝熱管の取付け強度を高くすることができ、製造作業の容易化や製造コスト低減なども好適に図ることが可能な熱交換器、およびその製造方法を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の側面により提供される熱交換器は、加熱用媒体が内部に供給されるケースと、このケースの側壁部に設けられている複数の第1の孔部に端部が挿通するようにして前記ケース内から外部に引き出されている複数の伝熱管と、前記側壁部との間に隙間を形成するようにして前記複数の伝熱管の前記端部に取付けられるヘッダ部と、前記複数の第1の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する複数の第1のロウ付け部と、を備えている、熱交換器であって、外面が前記各第1の孔部の内周面に圧接するように前記各伝熱管の前記端部に設けられた拡管部と、この拡管部の外面と前記各第1の孔部の内周面との間に、前記第1のロウ付け部のロウ材が進入する第1の隙間が前記側壁部の内外に連通した状態に形成されるように、前記拡管部の外面に等角度間隔で設けられた複数の第1の凹部と、をさらに備えており、前記複数の第1の凹部は、前記側壁部の正面視に相当する前記各伝熱管の前記端部の軸長方向視において、前記各伝熱管の中心を通過する水平線または鉛直線に対して前記端部の周方向に位置ずれした配置とされているとともに、前記複数の第1の凹部の少なくとも1つは、前記各伝熱管の前記端部の外周面のうち、前記側壁部の正面視における前記ケースの外方側周面部の最上部よりも下方、かつ最外端部よりも上方に位置する特定の凹部とされており、前記複数の伝熱管の前記端部は、前記ケースの上下高さ方向に間隔を隔てて並んだ縦列として、上下高さ方向に位置ずれした配置で前記ケースの幅方向に横2列で並んだ外側縦列および内側縦列を備えた千鳥配列とされ、前記内側縦列の前記端部に設けられている前記特定の凹部は、前記外側縦列の複数の端部のうち、斜め上に隣接する端部の最下部よりも低く、かつ斜め下に隣接する端部の最上部よりも高い配置とされていることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、ケースの側壁部に設けられた各第1の孔部の内周面には、各伝熱管に設けられた拡管部の外面が圧接しているため、各第1の孔部に対して各伝熱管を遊びのない、または少ない状態で、各伝熱管のロウ付けを適切に図ることができる。その一方、各拡管部の外面と各第1の孔部の内周面との間に形成されている第1の隙間には、第1のロウ付け部のロウ材を進入しているため、側壁部と各伝熱管とのロウ付け面積を大きくすることができるばかりか、前記ロウ材をケースの側壁部のうち、第1のロウ付け部とは反対側の部位に廻り込ませて、この部位においても各伝熱管と側壁部とのロウ付けを図ることも可能である。このようなことにより、従来技術よりもロウ付け強度を高め、ケースの側壁部に対する各伝熱管の取付けの信頼性を高めることができる。
また、本発明によれば、拡管部の外面に設けられた複数の第1の凹部の少なくとも1つは、各伝熱管の外周面のうち、側壁部の正面視におけるケースの外方側周面部に位置するため、熱交換器の製造過程において、第1のロウ付け部を構成するロウ材を伝熱管に塗布する際には、ケースの外方側から第1の凹部にロウ材を容易に塗布することが可能となる。したがって、ロウ材塗布作業に苦慮することが解消され、生産性を高め、製造コストの低減化を図ることもできる。ロウ材塗布作業は、人手作業、およびロボットによる機械作業のいずれでもよいが、本発明によれば、ロウ材塗布の機械作業化を促進することができる。
【0012】
さらに、前記構成によれば、千鳥配列された複数の伝熱管にそれぞれ設けられている第1の凹部の位置に、ケースの外方側からロウ材を容易かつ適切に塗布することが可能となる。また、前記ロウ材を加熱溶融させた場合に、ロウ材を各伝熱管の外周面の全周に行き渡らせることも可能である(ロウ材を加熱溶融させた場合、溶融ロウ材の全量が下方に進行する訳ではなく、その一部はロウ材塗布部分よりも上側にも進行する。したがって、ロウ材を伝熱管の外周面の最上部よりも低い箇所に塗布した場合であっても、最上部の位置まで溶融ロウ材を進行させ、伝熱管の外周面の全周をロウ付けすることが可能である)。
【0013】
本発明において、好ましくは、前記拡管部は、前記各伝熱管の軸長方向において前記側壁部を挟むように前記側壁部の内外にそれぞれ位置して前記側壁部に係合する第1および第2の段部を含んでおり、前記第1の凹部は、前記第1および第2の段部の外面にも延設されている。
【0014】
このような構成によれば、各伝熱管の拡管部の第1および第2の段部の存在により、側壁部に対する各伝熱管の取付け強度をより高めることが可能である。その一方、第1の凹部は、第1および第2の段部にも延設されているため、第1のロウ付け部のロウ材を、第1の凹部を介して第1の隙間に円滑に進入させることができる。第1の隙間が、第1および第2の段部によって塞がれてしまう不具合を適切に回避することが可能である。
【0015】
本発明において、好ましくは、前記ヘッダ部は、前記複数の伝熱管の前記端部が挿通する複数の第2の孔部を有し、かつ第2のロウ付け部を介して前記端部に接合されており、前記拡管部は、その外面が前記各第2の孔部の内周面にも圧接するように設けられており、前記拡管部の外面と前記各第2の孔部の内周面との間に、前記第2のロウ付け部のロウ材が進入する第2の隙間を形成するように、前記拡管部の外面に設けられた第2の凹部を、さらに備えている。
【0016】
このような構成によれば、複数の伝熱管へのヘッダ部の取付けも適切に図られる。すなわち、前記した複数の伝熱管とヘッダ部との接合構造の基本的な構成は、先に述べたケースの側壁部に対する複数の伝熱管の接合構造と共通しており、ヘッダ部に設けられた第2の孔部の内周面に対し、伝熱管の拡管部の外周面を広い面積で圧接させ得ることや、第2の孔部の内周面と伝熱管の外面との間に形成された第2の隙間にロウ材が進入することによって強固なロウ付けを図ることができるなどの効果が得られる。
【0017】
本発明の第2の側面により提供される熱交換器の製造方法は、加熱用媒体が内部に供給されるケースの側壁部に設けられている複数の第1の孔部に、複数の伝熱管の端部を挿通させ、かつ前記複数の伝熱管の前記端部は、前記ケースの上下高さ方向に間隔を隔てて並んだ縦列として、上下高さ方向に位置ずれした配置で前記ケースの幅方向に横2列で並んだ外側縦列および内側縦列を備えた千鳥配列とされた状態において、前記複数の伝熱管の外周面を前記複数の第1の孔部の内周面に圧接させるように、前記複数の伝熱管に拡管部を設ける拡管工程と、前記側壁部との間に隙間を形成するようにして前記複数の伝熱管の端部にヘッダ部またはヘッダ部の構成部材を取付けるヘッダ部取付け工程と、前記複数の第1の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する第1のロウ付け部を設けるロウ付け工程と、を有している、熱交換器の製造方法であって、前記ロウ付け工程の前において、前記拡管部の外面と前記各第1の孔部の内周面との間に、前記側壁部の内外に連通した第1の隙間が形成されるように、前記拡管部の外面に複数の第1の凹部を等角度間隔で形成する第1の凹部形成工程を、さらに有しており、この第1の凹部形成工程においては、前記側壁部の正面視に相当する前記各伝熱管の前記端部の軸長方向視において、前記複数の第1の凹部を、前記各伝熱管の中心を通過する水平線または鉛直線に対して前記端部の周方向に位置ずれした配置にするとともに、前記複数の第1の凹部の少なくとも1つは、前記各伝熱管の前記端部の外周面のうち、前記側壁部の正面視における前記ケースの外方側周面部の最上部よりも下方、かつ最外端部よりも上方に位置する特定の凹部とし、前記内側縦列の前記端部に設けられている前記特定の凹部は、前記外側縦列の複数の端部のうち、斜め上に隣接する端部の最下部よりも低く、かつ斜め下に隣接する端部の最上部よりも高い配置とし、前記ロウ付け工程においては、前記各伝熱管のうち、前記ケースの外方側周面部に位置する前記特定の凹部に、前記ケースの外方側から前記第1のロウ付け部用のロウ材を塗布し、かつその溶融ロウ材を前記第1の隙間に進入させることを特徴としている。
【0018】
このような構成によれば、本発明の第1の側面により提供される熱交換器を、簡易な作業工程によって適切に製造することが可能である。
【0019】
本発明において、好ましくは、前記拡管工程は、前記各伝熱管内に進入された状態で前記各伝熱管の半径方向に拡縮変形可能な拡縮変形可能部を有する割型パンチを用いて行ない、前記拡縮変形可能部は、前記各伝熱管をその内側から押圧するための複数のセグメントを有し、かつ前記各伝熱管の拡管時には、前記複数のセグメントの外面部の相互間に離間部が形成される構成であり、この離間部を利用することによって、前記各拡管部の外面に、前記第1の凹部を設け、前記拡管工程と前記第1の凹部形成工程とを同時に実行する。
【0020】
このような構成によれば、所定の割型パンチを利用した伝熱管の拡管作業を行なうことにより、これと同時に、拡管部に第1の凹部を形成することができるため、その作業は簡易である他、全体の作業工程数を少なくし、生産性を高めることが可能である。
【0021】
本発明において、好ましくは、前記ヘッダ部取付け工程においては、前記拡管工程の前に、前記複数の伝熱管の端部を前記ヘッダ部に設けられている複数の第2の孔部に挿通させておき、前記拡管工程においては、前記各伝熱管の前記端部の外周面が前記各第2の孔部の内周面にも圧接するように前記拡管部を設けるとともに、この拡管部の外面には、この外面と前記各第2の孔部の内周面との間に第2の隙間を生じさせる第2の凹部を設け、前記ロウ付け工程においては、前記各第2の孔部の周縁部に前記複数の伝熱管を接合する第2のロウ付け部を設けるとともに、この第2のロウ付け部の溶融ロウ材を前記第2の隙間に進入させる。
【0022】
このような構成によれば、ケースの側壁部に伝熱管を固定させる作業工程を有効に利用した上で、伝熱管にヘッダ部を適切に取付けることが可能である。
【0023】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る熱交換器の一例を示す斜視図である。
【
図4】(a)は、
図1に示す熱交換器の側面図であり、(b)は、その説明断面図である。
【
図6】(a)は、
図5のVIa-VIa断面図であり、(b)は、(a)の一部拡大図である。
【
図9】(a)は、伝熱管の拡管に用いる割型パンチの一例を示す正面図であり、(b)は、(a)のIXb-IXb断面図であり、(c)は、(b)に示す構造の作用を示す要部断面図である。
【
図10】(a)は、
図1~
図4に示す熱交換器の製造方法の作業工程例を示す要部断面図であり、(b)は、(a)のXb-Xb断面図である。
【
図11】(a)は、
図1~
図4に示す熱交換器の製造方法の作業工程例を示す要部断面図であり、(b)は、(a)のXIb-XIb断面図である。
【
図12】(a)は、
図1~
図4に示す熱交換器の製造方法の作業工程例を示す要部断面図であり、(b)は、(a)のXIIb-XIIb断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1~
図4に示す熱交換器HEは、たとえば給湯装置に組み込まれ、給湯用の湯水を加熱するのに用いられるものである。この熱交換器HEは、全体の基本的な構成自体は、特許文献1と共通しており、ケース1、このケース1内に収容された複数の伝熱管2、ならびに入水用および出湯用の一対のヘッダ部6(6a,6b)を備えている。特許文献1と共通する既知の構成は、簡単に説明することとする。
【0027】
ケース1は、全体が略直方体状であり、横幅方向の両端が開口した略角筒状のケース本体1Aと、このケース本体1Aの両端開口部分を塞ぐようにケース本体1Aに接合された一対の側壁部10,10Aとを備えている。ケース本体1Aおよび一対の側壁部10,10Aのそれぞれは、たとえばステンレス鋼板にプレス加工や曲げ加工を施すなどして形成
されたものである。ケース本体1Aの後壁部1aおよび前壁部1bには、加熱用気体としての燃焼ガスをケース1内に流入出させるための給気口17および排気口18が設けられている。複数の伝熱管2を通過する湯水は、前記燃焼ガスを利用して加熱され、温水生成がなされる。側壁部10,10Aには、これら側壁部10,10Aの強度を高めるための段押し部19,19Aが設けられている。
【0028】
各伝熱管2は、たとえば平面視蛇行状の蛇行管であり、間隔を隔てて並んだ複数の直状管体部2aが、半円弧状などの接続管体部2bを介して一連に繋がった構成である。複数の伝熱管2は、上下高さ方向に積層されているが、上下高さ方向において隣接する伝熱管2どうしは、ケース1の前後方向に適当な寸法だけ位置ずれした配列とされている。これは、複数の伝熱管2による燃焼ガスからの熱回収量を多くする上で有利である。
【0029】
複数の伝熱管2の両端部(長手方向両端部)は、ケース1の側壁部10に設けられた複数の第1の孔部11を挿通し、ケース1内からその外部に引き出されている。複数の第1の孔部11は、段押し部19を回避するように、段押し部19よりも前側および後側の領域に設けられている。
図4に示すように、複数の第1の孔部11および伝熱管2の両端部は、ケース1の上下高さ方向に間隔を隔てて並んだ縦列が、上下高さ方向に位置ずれして横2列に並んだ千鳥配列とされている。
【0030】
ヘッダ部6は、ベース部60と、入水口または出湯口として利用される開口部61aを有するカバー部61とが接合され、かつ内部には伝熱管2内に連通するチャンバ63が形成された構成である。このヘッダ部6は、側壁部10との間に隙間(ロウ材塗布用の隙間として利用)を形成するように伝熱管2に取付けられている。
本実施形態においては、側壁部10に対する伝熱管2の固定構造、および伝熱管2に対するヘッダ部6の取付け構造に特徴があり、この点を以下に説明する。
【0031】
図5~
図8(とくに
図7)に示すように、伝熱管2には、拡管部20が設けられている。また、伝熱管2をケース1の側壁部10に接合するための手段として、第1のロウ付け部Baが具備されている。
拡管部20は、伝熱管2のうち、ケース1の側壁部10よりも内側の位置から先端部にわたって設けられており、第1ないし第4の段部21~24、ならびに第1および第2の凹部25a,25bを含む凹部25を有している。凹部25は、非拡管部に相当し、伝熱管2の軸長方向に一連に延びて設けられている。この凹部25は、
図9を参照して後述する拡管作業用の割型パンチ5の離間部55に対応する部位であり、
図4、
図6および
図8に示すように、伝熱管2の周方向に適当な間隔で複数箇所設けられている。
図4、
図6と
図8とでは、凹部25の配置が相違した状態に示されているが、これは、
図4および
図6は、熱交換器HEの側面断面視に相当し、実際の構成を示しているのに対し、
図8は、
図9に示す割型パンチ5との関係を明確にし、後述する拡管作業などを理解し易くすべく1つの凹部25の位置を伝熱管2の外周面の最上部に配置させた断面図として示されているからである。
【0032】
複数の凹部25は、実際には、
図4に示すように、伝熱管2の外周面に約90°の等角度間隔で計4箇所設けられており、かつそれらは伝熱管2の中心を通過する水平線HLまたは鉛直線VLに対し、適当な角度(たとえば約45°)で位置ずれした位置とされている。このことにより、各伝熱管2に設けられた複数の凹部25の少なくとも1つは、各伝熱管2の外周面のうち、側壁部10の正面視におけるケース1の外方側周面部Saのいずれかに位置する構成となっている。
図4(b)に示す凹部25(25’)は、ケース1の外方側周面部Saのうち、最上部よりも下方、かつ最外端部よりも上方の領域Sbに位置しており、この凹部25’がロウ材塗布対象領域とされる。
【0033】
第1および第2の段部21,22は、伝熱管2の軸長方向においてケース1の側壁部10を挟むように、側壁部10の内側および外側にそれぞれ位置し、かつ伝熱管2の非拡管部の外径よりも大径とされた部分である。好ましくは、第1および第2の段部21,22は、側壁部10の内外両側面に接触した配置とされる。
図7および
図8に示すように、拡管部20の外周面(第1および第2の段部21,22の相互間領域の外周面)は、第1の孔部11の内周面に圧接している。ただし、第1の凹部25aの位置においては、拡管部20の外周面と第1の孔部11の内周面とは非接触であり、第1の隙間C1が形成されている。凹部25のうち、第1の孔部11の内周面に対向する部分が、第1の凹部25aであり、この第1の凹部25aは、第1および第2の段部21,22の形成箇所にも延設されている。
【0034】
第1のロウ付け部Baは、側壁部10のうち、第1の孔部11の周縁部と伝熱管2の外周面とを接合する部分であり、側壁部10の外側に設けられている。ただし、この第1のロウ付け部Baのロウ材は、第1の隙間C1に進入し、第1の孔部11の内周面と伝熱管2の外周面とを接合している。好ましくは、前記ロウ材の一部は、第1の隙間C1を介して側壁部10の内面側に到達し、側壁部10の内面側を伝熱管2に接合する追加のロウ付け部Ba’を構成している。
【0035】
伝熱管2の先端寄り部分は、ヘッダ部6のベース部60に設けられた第2の孔部62に挿通し、これらの部分を接合するための手段として、第2のロウ付け部Bbが設けられている。拡管部20の第3および第4の段部23,24は、伝熱管2の軸長方向においてベース部60の内側および外側にそれぞれ位置し、かつ伝熱管2の非拡管部の外径よりも大径とされた部分である。好ましくは、第3および第4の段部23,24は、ベース部60の内外両側面に接触した配置とされる。
【0036】
拡管部20の外周面は、第2の孔部62の内周面に対しても圧接している。ただし、第2の凹部25bの位置においては、拡管部20の外周面と第2の孔部62の内周面とは非接触であり、第2の隙間C2が形成されている。凹部25のうち、第2の孔部62の内周面に対向する部分が、第2の凹部25bである。この第2の凹部25bは、第3および第4の段部23,24の形成箇所にも延設されている。
【0037】
第2のロウ付け部Bbは、ベース部60のうち、第2の孔部62の周縁部と伝熱管2の外周面とを接合する部分であり、ベース部60の片面側に設けられている。ただし、この第2のロウ付け部Bbのロウ材は、第2の隙間C2に進入し、第2の孔部62の内周面と伝熱管2の外周面とを接合している。好ましくは、前記ロウ材の一部は、第2の隙間C2を介してベース部60の前記とは反対の片面側に到達し、ベース部60の前記反対の片面側を伝熱管2に接合する追加のロウ付け部Bb’を構成している。
【0038】
次に、前記した熱交換器HEの製造方法の一例について説明する。
【0039】
熱交換器HEの製造に際しては、
図9に示すような割型パンチ5を用いる。理解の容易のため、この割型パンチ5を先に説明する。
【0040】
割型パンチ5は、マンドレル4が内部に挿入される筒状であり、先端部から基端部側に向けて延びた複数のスリット55(離間部)を有している。このことにより、割型パンチ5は、その中心軸周りにおいて複数(たとえば4つ)のセグメント50aに分割されており、この割型パンチ5のうち、軸長方向先端寄り部分は、半径方向に拡縮変形可能な拡縮変形可能部50となっている。拡縮変形可能部50の外周面には、先に述べた第1ないし第4の段部21~24を形成するための第1ないし第4の凸状部51~54が設けられている。
【0041】
マンドレル4の先端部は、たとえば円錐状または円錐台状などとされ、先端部から基端部側に進むほど直径または幅が増大する楔部40であり、割型パンチ5の拡縮変形可能部50の内側に位置している。マンドレル4を割型パンチ5に相対させて前進させると、
図9(b)に示す非拡大状態から、同図(c)に示す拡大状態に変化する。すなわち、楔部40によって複数のセグメント50aを押し広げることが可能である。
図9(c)に示した拡大状態では、スリット55(離間部)の幅Laが拡大しているが、このことにより、伝熱管2の拡管部20に凹部25を形成することができる。
【0042】
熱交換器HEの製造に際しては、前記した割型パンチ5を使用し、
図10~
図12に示すような手順を経る。
【0043】
まず、
図10に示すように、ケース1の側壁部10およびヘッダ部6のベース部60に設けられている第1および第2の孔部11,62に伝熱管2を挿通させた状態において、
図11に示すように、割型パンチ5を伝熱管2内に挿入する。次いで、
図12に示すように、割型パンチ5を拡大させ、伝熱管2の端部寄り領域を拡管する。このことにより、
図4、
図6~
図8などを参照して説明した拡管部20を伝熱管2に設けることができ、側壁部10への伝熱管2の仮固定、および伝熱管2へのベース部60の仮固定を適切に図ることができる。
【0044】
図12(b)によく表れているように、割型パンチ5の拡縮変形可能部50を拡大させた際には、複数のセグメント50aの相互間のスリット55(離間部)の幅が大きくなり、このスリット55に対応する箇所は、拡管されない、または他の部分と比較して十分に拡管されない。このことにより、拡管部20に凹部25を設けることが可能である。
【0045】
前記した拡管工程を終えた後には、第1および第2のロウ付け部Ba,Bbを設けるためのロウ付け工程を実施する。
このロウ付け工程においては、まず、ペースト状のロウ材の塗布作業を行なう。第1のロウ付け部Baを形成するためのロウ材塗布作業は、
図3の仮想線で示すように、ロウ材塗布用のノズル9を、側壁部10とベース部60との相互間の隙間に、ケース1の外方側から差し込むようにして行なう。また、その際には、
図4に示すように、凹部25’の位置にロウ材を塗布する。
一方、第2のロウ付け部Bbを形成するためのロウ材塗布作業は、ベース部60がカバー部61によって未だ覆われていない状態でなされるため、前記したような制約はなく、適当な方向からロウ材塗布を行なうことが可能である。ただし、好ましくは、凹部25’に相当する第2の凹部25bにロウ材を塗布する。
【0046】
前記したロウ材塗布作業の後には、加熱炉を利用してロウ材を加熱溶融させる。その際、第1および第2のロウ付け部Ba,Bbを形成するための溶融ロウ材の一部は、第1および第2の隙間C1,C2に進入することとなる。また、ロウ材を加熱溶融させた場合、その一部については、第1および第2の孔部11,62のそれぞれの内周面と伝熱管2の外周面との間に存在する微小隙間を伝わせ、伝熱管2の外周面の最上部、さらにはそれよりも先の位置まで進行させることが可能である。したがって、ロウ材が塗布される凹部25’は、伝熱管2の最上部には位置していないものの、伝熱管2の外周面の全周に溶融ロウ材を行き渡らせることが可能である。
前記した一連の工程を経ることにより、熱交換器HEを適切に製造することができる。
【0047】
本実施形態の熱交換器HEにおいては、ケース1の側壁部10に設けられた第1の孔部11の内周面と、伝熱管2の外周面との間には、第1の隙間C1が形成され、かつこの第1の隙間C1に第1のロウ付け部Baのロウ材が進入しているため、側壁部10と伝熱管
2とのロウ付け面積を大きくすることができる。また、ロウ材は、複数の第1の隙間C1を介して側壁部10の内面側に廻り込むため、追加のロウ付け部Ba’も設けられる(
図7を参照)。したがって、側壁部10に対する伝熱管2のロウ付け強度を高くすることができる。
【0048】
側壁部10と伝熱管2とのロウ付け面積を大きくするための手段として、拡管部20の外面に第1の凹部25aが設けられているが、この第1の凹部25aは、拡管部20の周方向に部分的に設けられており、伝熱管2の外周面と第1の孔部11の内周面との接触面積(圧接領域の面積)を大きくとることが可能である。したがって、拡管による側壁部10に対する伝熱管2の取付け強度も高めることができる。
【0049】
一方、伝熱管2に対するヘッダ部6(ベース部60)の取付け構造も、その基本的な構成は、側壁部10に対する伝熱管2の取付け構造と同様であり、ヘッダ部6のロウ付け強度、拡管による固定強度をともに高めることが可能である。また、伝熱管2に対するヘッダ部6の取付け工程のうち、拡管工程は、同一の工程で行なうことが可能である。このようなことから、熱交換器HEの製造作業は容易であり、製造コストの低減を的確に図ることもできる。
【0050】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る熱交換器の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。本発明に係る熱交換器の製造方法の各工程の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において変更自在である。
【0051】
伝熱管は、蛇行状のものに限らず、たとえばU字状、直管状、あるいは螺旋状などのものを用いることが可能であり、その具体的な形状は問わない。断面楕円形の伝熱管なども用いることが可能である。伝熱管の具体的な数や配列なども限定されない。
本発明に係る熱交換器は、給湯装置用のものに限らない。加熱用媒体としては、燃焼ガスに代えて、たとえば高温の排ガスなどを用いることもできる。
本発明の熱交換器の製造方法で用いられる割型パンチの複数のセグメントは、4分割状のものに限らず、2分割や3分割などとされたものであってもよく、その具体的な数は問わない。したがって、各伝熱管に設けられる第1の凹部や第2の凹部の数も、4つに限定されない。また、割型パンチの複数のセグメントは、1つの部材がスリットを介して分離されたものに限らず、複数のセグメントをそれぞれ別部材とした構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0052】
HE 熱交換器
Ba,Bb 第1および第2のロウ付け部
C1,C2 第1および第2の隙間
1 ケース
10 側壁部
11 第1の孔部
2 伝熱管
20 拡管部
21,22 第1および第2の段部
25 凹部
25a,25b 第1および第2の凹部
5 割型パンチ
50 拡縮変形可能部
50a セグメント
55 スリット(離間部)
6 ヘッダ部
62 第2の孔部