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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20230613BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20230613BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20230613BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20230613BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20230613BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20230613BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20230613BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230613BHJP
【FI】
B60W20/50 ZHV
B60K6/442
B60W10/08 900
F01P7/16 502Z
F01P7/16 502A
F02D29/06 D
F02D29/02 321C
F02D29/06 E
F02D29/06 Q
B60L50/16
B60L3/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018120093
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020001447
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】古田 賢寛
(72)【発明者】
【氏名】松永 英雄
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-241327(JP,A)
【文献】特開2012-183866(JP,A)
【文献】特開2014-172500(JP,A)
【文献】特開平11-141337(JP,A)
【文献】特開2013-193525(JP,A)
【文献】特開2016-215863(JP,A)
【文献】特開2017-166421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/50
B60K 6/442
B60W 10/08
F01P 7/16
F02D 29/06
F02D 29/02
B60L 50/16
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてエンジンとモータとを備える車両であって、
前記エンジンの冷却水を冷却するラジエータと、
前記ラジエータを経由する流路と前記ラジエータを経由しない流路とに前記冷却水の流路を切り替えるサーモスタットと、
前記冷却水の実温度を検出する温度検出手段と、
前記実温度に相関のある判定値に基づいて前記サーモスタットの故障を判定する故障判定手段と、
前記エンジンを稼動させて前記車両を走行しているエンジン走行モードから前記エンジンを停止させて前記車両のタイヤと前記エンジンとの間に設けられたクラッチを開放するとともに前記モータで前記車両を走行するモータ走行モードへと切り替えた第1切替状態と、前記クラッチを接続した状態で前記エンジン走行モード中に前記エンジンへ供給する燃料を停止するフューエルカットモードへと切り替えた第2切替状態と、を判別する運転状態判定手段と、を有し、
前記故障判定手段は、前記冷却水の実温度が前記サーモスタットの開弁する温度以上の状態での前記エンジン走行モードから前記第1切替状態または前記第2切替状態に切り替えられた後に前記サーモスタットの故障の判定を行い、前記第1切替状態に切替られた場合と前記第2切替状態に切替えられた場合とで前記判定値を異なるように設定し、
前記エンジンによって駆動されて発電する回転電機をさらに備え、
前記運転状態判定手段が前記第1切替状態であると判定した場合には、
前記回転電機を電動機として稼動させて前記エンジンを回転させるモータリング制御を実行して前記故障判定手段による故障判定を行うことを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
前記モータリング制御が実行された場合には、前記エンジンの排気系センサの故障判定を行うことを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両であって、
前記判定値は、前記サーモスタットが正常である場合の前記冷却水の温度変化を考慮して算出した推定温度と前記冷却水の実温度とに基づいて設定されることを特徴とする車両。
【請求項4】
請求項3に記載の車両であって、
前記第1切替状態における前記判定値が、前記第2切替状態における前記判定値よりも高く設定されることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめとする車両には、エンジンなどの動力源の冷却のために、サーモスタットやラジエータ等を有する冷却システムが備えられている。
かかる冷却システムにおいては、一般に動力源を冷却する冷却水の温度を調整するために、サーモスタットを用いてラジエータ内に冷却水を流すかどうかを制御しているが、かかるサーモスタットが故障してしまうと、温度制御が上手くいかない場合が考えられる。
そのため、冷却システム内に流れる冷却水の水温を用いてサーモスタットの故障診断を行う故障診断手段を設ける構成が知られている(例えば特許文献1~3等参照)。
【0003】
ところで、特にエンジンとモータとを搭載するPHEV等の車両においては、アクセルオフの状況下で燃料供給を停止して燃費の向上を図る所謂フューエルカットと呼ばれる制御処理を行う構成や、エンジンを完全に停止させた状態でモータのみによって車両の駆動力が賄われる所謂EVモードなど、様々な駆動状態があることが知られている(例えば特許文献4等参照)。
このような車両の状態によって、前述した冷却水の温度や推定温度が大きく変化することが知られており、かかる駆動状態に合わせて最適な故障診断を行うことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-171138号公報
【文献】特開2015-129460号公報
【文献】特開2017-137814号公報
【文献】特開2012-183866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような課題に基づきなされたものであり、検知精度の高いサーモスタット故障診断手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の請求項1にかかる車両は、駆動源としてエンジンとモータとを備える車両であって、前記エンジンの冷却水を冷却するラジエータと、前記ラジエータを経由する流路と前記ラジエータを経由しない流路とに前記冷却水の流路を切り替えるサーモスタットと、前記冷却水の実温度を検出する温度検出手段と、前記実温度に相関のある判定値に基づいて前記サーモスタットの故障を判定する故障判定手段と、前記エンジンを稼動させて前記車両を走行しているエンジン走行モードから前記エンジンを停止させて前記車両のタイヤと前記エンジンとの間に設けられたクラッチを開放するとともに前記モータで前記車両を走行するモータ走行モードへと切り替えた第1切替状態と、前記クラッチを接続した状態で前記エンジン走行モード中に前記エンジンへ供給する燃料を停止するフューエルカットモードへと切り替えた第2切替状態と、を判別する運転状態判定手段と、を有し、前記故障判定手段は、前記冷却水の実温度が前記サーモスタットの開弁する温度以上の状態での前記エンジン走行モードから前記第1切替状態または前記第2切替状態に切り替えられた後に前記サーモスタットの故障の判定を行い、前記第1切替状態に切替られた場合と前記第2切替状態に切替えられた場合とで前記判定値を異なるように設定し、前記エンジンによって駆動されて発電する回転電機をさらに備え、前記運転状態判定手段が前記第1切替状態であると判定した場合には、前記回転電機を電動機として稼動させて前記エンジンを回転させるモータリング制御を実行して前記故障判定手段による故障判定を行う。
【0008】
本願発明の請求項にかかる車両は、請求項に記載の車両であって、前記モータリング制御が実行された場合には、前記エンジンの排気系センサの故障判定を行うことを特徴とする。
【0009】
本願発明の請求項にかかる車両は、請求項1または2に記載の車両であって、前記判定値は、前記サーモスタットが正常である場合の前記冷却水の温度変化を考慮して算出した推定温度と前記冷却水の実温度とに基づいて設定されることを特徴とする。
【0010】
本願発明の請求項にかかる車両は、請求項に記載の車両であって、前記第1切替状態における前記判定値が、前記第2切替状態における前記判定値よりも高く設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検知精度の高いサーモスタット故障診断手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態としての車両の構成の一部の例を示す図である。
図2図1に示した制御部の機能構成の一例を示す図である。
図3】冷却水の温度推移の一例を示す図である。
図4】パラレル走行モードにおける温度制御及び冷却水の温度推移の一例を示す図である。
図5】運転状態判定手段の動作の一例を示すフロー図である。
図6】パラレル走行モードにおける制御部の動作の一例を示すフロー図である。
図7】EV走行モードにおける温度制御及び冷却水の温度推移の一例を示す図である。
図8】EV走行モードにおける制御部の動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態として、サーモスタット20の故障診断手段30を備えた車両100について説明する。
なお、本実施形態において、車両の内燃機関やステアリング、その他各種の本発明と直接的に関係のない部分の詳細な機能、動作については、説明を適宜省略する。また、本実施形態では、駆動源に水冷式のエンジンを用いる場合について特に述べるが、かかる構成に限定するものではなく、サーモスタットを用いて水その他の冷媒の温度制御を行う構成であっても良い。
【0014】
車両100は、図1に示すように、駆動源たるエンジン11と、モータ17とを備えたハイブリッド車である。
車両100は、エンジン11の回転要素と同期回転するように接続されてエンジンの駆動力で発電する回転電機18(発電機)と、モータ17に電力を供給するためのバッテリー19と、エンジン11を冷却するための冷却水Qが流れる流路12と、冷却水Qを通過させることで冷却水Qの冷却を行うラジエータ13と、を有している。
車両100はまた、ラジエータ13よりも車両前方側に配置されて、開閉することでラジエータ13の温度調整に影響を及ぼすグリルシャッター21と、冷却水Qの流路12をラジエータ13を経由する流路12aとラジエータ13を経由しない流路12bとに切り替えるサーモスタット20と、を有している。なお、冷却水の水温は流路に設定された温度検出手段にて検出される。
車両100はまた、車速センサ80と、エンジン11および/またはモータ17からの動力をタイヤ14へと伝達するための減速機15と、流路12内に冷却水Qを循環させるための循環器たるポンプ16と、車両100の各部分の制御を行う制御部たるECU90と、を有している。
本実施形態においては、説明の簡単化のため、減速機15を用いて駆動力を切り替えることとしているが、かかる構成に限定されるものではない。
なお、ここでいう「回転要素」とは例えばクランクシャフト等、エンジン11の動作によって回転運動を生じる部材を示し、かかる回転運動が、クラッチあるいはその他遊星歯車等の接続を切替可能な要素によって発電機18の回転体と同期可能に接続されていれば良い。
【0015】
ECU90は、車両100の制御を行うための制御部としての機能を有しており、CPUを中心とするマイクロコンピュータである。
ECU90は、図2に示すように、減速機15やエンジン11の動作を制御する駆動制御部91と、後述するグリルシャッター21の開閉動作を制御するグリルシャッター制御部92と、サーモスタット20の故障判定を行う故障判定手段30と、を有している。
ECU90はまた、車両100の運転状態が第1状態たるEVモードか、第2状態たるパラレルモードか、第3状態たるシリーズモードか、を判別するモード判定手段を有している。さらに、エンジンを稼動させて走行するパラレルモード又はシリーズモードからエンジンを停止させて走行するEVモードへの切替である第1切替状態と、パラレル走行中にエンジンの燃料供給を停止するフューエルカットモードへ切り替える第2切替状態とを判別する運転状態判定手段40を有している。
【0016】
EVモードとは、モータ17の駆動力のみを用いてタイヤ14を駆動する運転状態であり、減速機15は、タイヤ14とエンジン11との間に配設されるクラッチを開放して断絶状態として、モータ17とタイヤ14との間を接続状態とする。かかるEVモードにおいては、バッテリー19の電力によってモータ17が回転する駆動力がタイヤ14に伝達されて、車両100が走行する。
【0017】
パラレルモードは、クラッチを接続した状態でエンジン11の駆動力を用いてタイヤ14を駆動する運転状態であり、減速機15は、タイヤ14とエンジン11との間を接続状態とする。なお、この際にモータ17をアシスト駆動してタイヤ14に駆動力を付加してもよい。
かかるパラレルモードにおいては、エンジン11によってタイヤ14が駆動されて走行し、エンジン駆動力の余剰分によって発電機18の回転体を回転駆動させてバッテリー17へと充電してもよい。
【0018】
シリーズモードは、クラッチを開放した状態でエンジン11によって発電機18を回転駆動させ、かかる発電機18の供給する電力及びバッテリーから供給される電力によってモータ17を回転させる運転状態である。
シリーズモードは、モータ17の駆動力によってタイヤ14を駆動する運転状態であり、エンジン11の駆動力はクラッチが開放した状態であるためタイヤ14には伝達されない断絶状態であるといえる。
【0019】
また、ECU90の機能はかかる構成に限定されるものではなく、例えばエンジン11の回転制御や、ラジエータ13に取り付けられたファンの制御などを行うとしても良い。
【0020】
サーモスタット20は、流路12a、12bの合流部に設けられており、流路12aと流路12bとを切り替える流路切替手段として機能する。
具体的にはサーモスタット20は、冷却水Qの実温度あるいは水温推定値が所定のサーモスタット開弁温度T1になったことを条件として、流路12a側を開弁してラジエータ13に冷却水Qが流入するように制御を行う。
ここでいう水温推定値とは、エンジン発熱量と放熱量から推定される水温である。故障判定手段30は、かかる水温推定値と実水温との偏差ΔTが所定値、例えばΔT1に到達したことを条件として故障判定を行う。すなわち、水温推定値と実水温との偏差が大きい場合には故障判定を行い、水温推定値と実水温との偏差が小さい場合に正常判定する。
本実施形態では特に、故障判定のトリガーを「実水温と水温推定値との偏差ΔTが所定値に到達したとき」としているが、かかる構成に限定されるものではない。例えば、実水温だけの温度変化を計測し、その温度変化の挙動を測定することでサーモスタットの異常診断を実施してもよい。すなわち、サーモスタットが通常時の場合の実水温の挙動を記憶しておき、通常時の温度変化の挙動から大きくずれる場合、すなわち、所定の判定値より実水温が大きくずれる場合にはサーモスタットに故障があると判断する。
なお、サーモスタット開弁温度T1は、設計上の任意の温度であって良いが、例えば77℃などである。
【0021】
ラジエータ13は、内部を冷却水Qが流れることで冷却水Qの熱がラジエータ13表面を介して外気と熱交換する熱交換器である。
本実施形態においては、グリルシャッター21が開状態の場合にはラジエータ13表面に当たる空気の流量が増大することによって、冷却性能が上昇する。
他方、グリルシャッター21が閉状態の場合には、ラジエータ13表面に当たる空気の流量が減少するから、冷却性能は開状態の場合と比べて低減される。
【0022】
グリルシャッター21は、通常状態では車速に応じて開閉を行い、冷却水Qの温度調整を行うとともに、車両100の空気抵抗を低減して燃費の向上に寄与している。
具体的には、閉状態の場合には車両100の空力特性が向上し、開状態の場合には車両100の空気抵抗が増大する一方でラジエータ13の冷却性能が向上する。
【0023】
本実施形態では、駆動制御部91は、第2状態すなわちパラレルモード時においてエンジン11の回転が必要とされていないとき、すなわちアクセルが踏まれていないときにはエンジン11への燃料の供給を停止する、所謂フューエルカット処理を行う。
かかるフューエルカット処理は、「エンジン11を稼働させて車両を走行しているエンジン走行モード」中に「エンジン11へ供給する燃料を停止するフューエルカットモード」へと切り替える過程であるから「第2切替状態に切替られた場合」に相当する。
かかるフューエルカット処理中においては、エンジン11の回転が停止するため冷却水Qの温度は図3に示すように徐々に低下する。
フューエルカット処理は、例えば車両100のパラレルモードでの走行状態において、下り坂などでアクセルから足が離れたときに開始され、車両100のアクセルが踏まれるなどの運転者の操作によって、任意の時間に終了することができる。
かかるフューエルカット処理をどのようなトリガー条件で行うかは設計によって適宜変更して良いが、一般的にはエンジン11の回転数とアクセル操作の有無とによって判定される。
【0024】
かかるフューエルカット処理中においては、グリルシャッター21が閉状態となっていることがより望ましい。これは冷却水Qの温度が過度に低下してしまうと、アクセルが踏まれエンジン11が再度暖機運転を行うまでの時間が長くなってしまうためであり、また車両100の空力特性の改善による燃費向上効果を狙ってのものである。
そこで、本実施形態においては、フューエルカット処理中にはグリルシャッター制御部92がグリルシャッター21を強制的に閉状態とすることで、冷却水Qの温度低下を抑制するとともに、空力特性を改善するように制御を行うことが望ましい。
【0025】
さて、何れの機器も正常に動作している通常状態においては、ECU90が水温推定値あるいは実水温に基づいて、グリルシャッター21と、サーモスタット20との開閉を制御している。かかるグリルシャッター21とサーモスタット20との開閉により冷却水Qの水温が制御されている。
【0026】
しかしながら、サーモスタット20が故障した場合においては、車両100の運転状態がどのようになっているかによって、冷却水Qの温度変化の推移は変動することが予想される。
例えば、パラレルモード走行中であれば、かりにフューエルカット処理中であっても、エンジン11とタイヤ14とが接続されているから、エンジン11はタイヤ14の回転に連れ回り回転しており、冷却水Q自体は循環するので、ガソリンエンジン車とほぼ同様に扱うことができる。
【0027】
しかしながら、同じエンジン停止状態であっても、パラレルモードあるいはシリーズモードでの走行中からEVモードでの走行に切り替えられる第1切替状態の場合には、エンジン11が完全停止しており、さらにタイヤ14とエンジン11とは断絶状態であるから、冷却水Qの循環までもが停止してしまっている。
このように循環が停止した状態では、サーモスタット20が故障していたとしても、グリルシャッター21によって空冷される部分は限定的であり、また対流等による熱の伝播も期待できないため、冷却が効率的に行われない。
すなわち、車両100がパラレルモードのときとEVモードのときとでは、同じサーモスタット20の故障と言えども、水温推定値に対して図3に示すように実水温の変動は異なることとなる。
【0028】
そこで本実施形態においては、故障判定手段30は、かかる水温推定値と実水温との偏差ΔTを用いてサーモスタット20が故障しているか否かを判定するものであり、かかる故障判定手段30が故障を判定する基準値は、車両100の運転状態によって変化する。
【0029】
運転状態判定手段40は、図5に示すように、車両100の運転状態が第1状態たるEVモードか、第2状態たるパラレルモードか、第3状態たるシリーズモードか、を判別する(ステップS001)。
【0030】
ステップS001において、第1状態~第3状態の何れであるかを判別すると、ECU90がそれぞれの状態に合わせて異なるサブルーチン処理へと移行する。以降の説明では、最も単純と考えられる第2状態から先に説明を行う。
まずサーモスタット20が故障した場合に、車両100がフューエルカット処理に入った状態で故障判定手段30が故障を判定する方法について、図4図6を用いて説明する。
本実施形態においては、車両100がフューエルカット処理に移行するときはパラレルモード走行時であって、エンジン11が回転して冷却水Qの温度が所定値以上に維持されている状態からスタートすると考えられる。
そこで図4では説明の簡単化のために、車両100が走行状態であって冷却水Qの水温推定値、実水温何れも高い走行状態からスタートし、アクセルが踏まれなくなってフューエルカット処理が開始された時刻t0を基準として説明を行う。すなわち、図4はエンジン走行モードたるパラレルモード走行中に、フューエルカット処理が開始されてエンジン11が停止状態となった第2切替状態での制御を示している。
【0031】
初期状態において、車両100は走行状態であり、冷却水Qの実水温は十分高いためにサーモスタット20は開状態である。かかる冷却水Qの実水温は、フューエルカット処理中には既に述べたようにエンジン11が停止しているから、徐々に下降していく。
ECU90は水温推定値がサーモスタット開弁温度T1を下回ったことを検知する(ステップS201)と、サーモスタット20の閉弁を指示する(ステップS202)。
【0032】
さて、サーモスタット20が正常に動作している場合には、ステップS202において閉弁を指示されたあとは水温推定値及び実水温は正常時として一点鎖線で示すように推移すると考えられる。
しかしながら、サーモスタット20の故障が生じている場合には、本来は流れないはずのラジエータ13に冷却水Qが流入するから、図4に実線で示すように、水温推定値と実水温との偏差ΔTが徐々に広がっていく。
そこで、故障判定手段30は、冷却水Qの水温推定値がサーモスタット開弁温度T1以下となってから、かかる偏差ΔTが判定値ΔTよりも大きくなったことを条件として、故障判定手段30が故障判定を行う(ステップS203)。かかる故障判定が行われた時刻を、第1故障判定時刻t1とする。
なお、ここでは冷却水Qの水温推定値を「実温度に相関のある判定値」として故障判定を行うこととしたが、かかる構成に限定されるものではない。
例えば実水温の温度変化を計測し、予め得ておいた基準となる温度推移との偏差に基づいて故障判定を行うこととしても良い。その場合には、かかる基準となる温度推移が「実温度に相関のある判定値」である。
【0033】
ステップS203において、実水温と水温推定値との偏差ΔTが所定値以上の場合には、サーモスタット20が開固着状態になっていると判定する。故障判定に用いられる判定値として機能する偏差ΔTは、冷却水Qの量やエンジン11から生じる熱量等に応じて種々の設計値をとることができる。
ステップS203において故障判定が確定したときには、ECU90が運転者に表示器などを点灯させることでサーモスタット20が故障状態であることを知らせる等しても良い(ステップS204)。
かかる故障判定の結果は、車両100に搭載された非図示の表示器等によって運転者に通知されるとしても良いし、故障通知をネットワーク経由等で連絡するとしても良い。
かかる故障判定処理が終わると、ECU90は通常の制御状態へと戻るとともに、故障判定処理を終了する(ステップS205)。
なお、ステップS203において、実水温と水温推定値との偏差ΔTが所定値よりも小さい場合には、故障判定手段30はサーモスタット20が正常に動作していると判断して通常状態の処理・制御を継続する(ステップS206)。
【0034】
次に、車両100の運転状態が第1状態のEVモード走行時における故障判定について説明する。
すなわち以降の説明においては、図5のステップS001において、EVモード走行であると判断された後、図8に示すようにECU90がエンジン11の停止を確認する(ステップS101)。
さて、EVモード走行時には、既に述べたようにエンジン11が完全に停止しているから、冷却水Qの循環も停止した状態である。すなわち、図8に示した制御は、エンジン11を停止させてモータ17の駆動力で車両100を走行させるモータ走行モードへと切り替える第1切替状態であることを示している。
そのため、かかるEVモード走行時においては、冷却水Qの温度は図4に示すように、フューエルカット処理を行う第2状態と比較して低下しにくいものと考えられる。
したがって、故障判定手段30は、冷却水Qの水温推定値がサーモスタット開弁温度T1以下となってから、水温推定値と実水温との偏差ΔTが所定値ΔTよりも大きくなったことを条件として、故障判定手段30が故障判定を行う(ステップS103)。かかる故障判定が行われた時刻を時刻t2として図7に記載する。
【0035】
ステップS103及び図7からも明らかなように、故障判定手段30は、かかる故障判定に用いる閾値である所定値ΔTを、第2状態における故障判定の閾値たる所定値ΔTとは異なる値となるように設定する。
かかる構成により、エンジン11が完全停止して冷却水Qの温度が下がりにくい場合であっても、より正確な故障判定を行うことができる。
【0036】
このように、運転状態判定手段40が車両100の運転状態を判別するとともに、かかる運転状態に応じて、故障判定手段30が故障判定に用いる閾値を変更するから、運転状態が複数あって冷却水Qの正確な水温推定値を算出しにくい場合であっても正確にサーモスタット20が故障しているか否かを判定することができる。
【0037】
また、本実施形態では冷却水Qの循環が仮に停止してしまっている場合にも正確な故障判定を行うべく、ΔT<ΔTとなる構成としたが、かかる構成に限定されるものではない。
さらに故障判定の精度を向上させるため、図8に示すように、ステップS101を行うと同時に、駆動制御部91が発電機18を用いてエンジン11を回転させるように指示を出し、診断用モータリング処理がスタートする(ステップS102)こととしても良い。
診断用モータリング処理とは、エンジン11を発電機18の電力を用いて回転させることで冷却水Qの循環を促す方法であり、かかるモータリング処理によって冷却水Qに流れが生じる。
【0038】
このようにモータリング処理を行うこととすれば、冷却水Qは循環するため、図7において実線で示すように、第2状態におけるフューエルカット処理中よりは緩やかに、第1状態のEV走行モードよりは大きく、温度が低下していくと考えられる。
【0039】
このようにモータリング処理を行う場合には、故障判定手段30は、かかる故障判定に用いる閾値である判定値ΔTEMを、EV走行モード時の判定値ΔTとは異なる値となるように設定するとしても良い。
なお、モータリング処理を行う場合には、実水温は第2状態におけるフューエルカット処理中よりは緩やかに、第1状態のEV走行モードよりは大きく、温度が低下していくと考えられるので、ΔT<ΔTEM<ΔTとなるように判定を行うことがより好ましい。
このように、冷却水Qの流れをモータリング処理によって形成することとすれば、ステップS103の故障判定ステップにおいてより精度よくサーモスタット20が故障しているか否かを判別することができる。
本実施形態においては判定値ΔTEMは判定値ΔTとは異ならせるとしたが、例えば同一の閾値として判定値ΔTを用いるとしても良い。
既に述べたように、モータリング処理を行う場合には実水温の下がり方が大きくなるため、このように同一の閾値を用いるとすれば、故障判定にかかる時間が少なくなるという利点がある。
【0040】
また、ステップS102においてモータリング処理を行ったついでに、モータリング処理を伴う各種故障診断、具体的には排気系センサの故障診断(ステップS104)やEGRの故障診断(ステップS105)を行うこととしても良い。
ステップS104のように『発電機18がエンジン11を回転させる条件が成立したときには、故障判定手段30はエンジン11の排気系センサの故障判定を行う』こととすれば、サーモスタット20が故障しているか否かを判定するためのモータリング処理を行うついでに、その他の部分についても同時に故障判定を行うことができるので、より効率よく故障判定を行うことができる。
なお、故障判定は排気系センサ等に限定されるものではなく、ステップS105に記載したように、EGRの故障判定に用いたとしても良い。
【0041】
かかる故障判定処理が終わると、ECU90は通常の制御状態へと戻るとともに、故障判定処理を終了する(ステップS106)。
なお、ステップS103において、実水温と水温推定値との偏差ΔTが所定値ΔTあるいはΔTEMよりも小さい場合には、故障判定手段30はサーモスタット20が正常に動作していると判断して通常状態の処理・制御を継続する(ステップS108)。
【0042】
なお、第3状態たるシリーズ走行モードにおいては、エンジン11は発電機18を回転させることでバッテリーに充電し、かかる発電機18によって供給される電力を用いてモーター17を駆動させるため、第1状態におけるモータリング処理を行う場合と略同様の温度変化となると考えられる。
そのため、詳細な制御については省略する。
【0043】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、本実施形態では、故障判定に用いるパラメータとして、水温推定値と実水温との偏差ΔTを用いて説明したが、例えばかかる偏差の時間積算などのパラメータを代わりに、あるいは併せて用いるとしても良い。
【0044】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
11…エンジン、12…流路、12a…ラジエータを経由する流路、12b…ラジエータを経由しない流路、20…サーモスタット、21…グリルシャッター、30…故障判定手段、40…運転状態判定手段、100…車両
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