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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】回転角検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/12 20060101AFI20230613BHJP
   G01D 5/04 20060101ALI20230613BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
G01D5/12 K
G01D5/04 C
G01B7/30 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019006961
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020118450
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉瀬 浩
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-241411(JP,A)
【文献】特開2003-42810(JP,A)
【文献】特開2004-340677(JP,A)
【文献】実開平4-96016(JP,U)
【文献】国際公開第03/036237(WO,A1)
【文献】特開2017-129527(JP,A)
【文献】特開2013-152092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/252
G01B 7/00-7/34
G01L 3/00-3/26
B62D 5/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転検出対象と一体回転する主動歯車と、
前記主動歯車に噛合する歯数の異なる2つの従動歯車と、
前記2つの従動歯車の回転角度を検出する2つのセンサと、
前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を有し、
前記演算回路は、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の差を演算する差分演算部と、
前記差分演算部により演算される前記差の値と、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較を通じて、前記2つの従動歯車の摩耗を検出する摩耗検出部と、を有し
前記演算回路は、前記主動歯車の回転角度の変化量に対する前記2つの従動歯車のいずれか一方の従動歯車の回転角度の変化量である第1の傾きと、前記主動歯車の回転角度の変化量に対する前記2つの従動歯車のいずれか他方の回転角度の変化量である第2の傾きとを同じ傾きに調整する傾き調整部を有し、
前記差分演算部は、前記傾き調整部により傾きが調整された後の前記2つの従動歯車の回転角度の差を演算し、
前記摩耗検出部は、前記差分演算部により演算される前記差の値と、前記傾き調整部により傾きが調整された後の前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較を通じて、前記2つの従動歯車の摩耗を検出する回転角検出装置。
【請求項2】
前記摩耗検出部は、前記差分演算部により演算される前記差の値が、前記理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、前記2つの従動歯車に摩耗が発生していることを検出する請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記主動歯車、および前記2つの従動歯車は、合成樹脂製である請求項1または請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1の回転角検出装置は、シャフトと一体的に回転する主動歯車と、この主動歯車に歯合する2つの従動歯車とを備えている。2つの従動歯車の歯数は互いに異なっているため、主動歯車の回転に伴う2つの従動歯車の回転角度も互いに異なる。回転角検出装置は、2つの従動歯車にそれぞれ対応して設けられたセンサを通じて2つの従動歯車の回転角度を検出し、これら検出される回転角度に基づいて主動歯車の回転角度を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平11-500828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の回転角検出装置では、通常の使用に伴い従動歯車の歯が経年変化的に摩耗するおそれがある。回転角検出装置は、従動歯車の回転角度に基づき主動歯車の回転角度を演算するものであるため、従動歯車の摩耗に起因して従動歯車、ひいては主動歯車の回転角度の演算精度が低下することが懸念される。
【0005】
本発明の目的は、従動歯車の摩耗を検出することができる回転角検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る回転角検出装置は、回転検出対象と一体回転する主動歯車と、前記主動歯車に噛合する歯数の異なる2つの従動歯車と、前記2つの従動歯車の回転角度を検出する2つのセンサと、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を有している。前記演算回路は、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の差を演算する差分演算部と、前記差分演算部により演算される前記差の値と、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較を通じて、前記2つの従動歯車の摩耗を検出する摩耗検出部と、を有している。
【0007】
2つの従動歯車の摩耗が進行した場合、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度には摩耗に起因する誤差が生じる。この場合、2つの従動歯車の差の値にも、2つの従動歯車の摩耗の程度に応じた誤差が生じる。したがって、上記の構成によるように、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度の差と、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較を通じて、2つの従動歯車の摩耗を検出することができる。
【0008】
上記の回転角検出装置において、前記摩耗検出部は、前記差分演算部により演算される前記差の値が、前記理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、前記2つの従動歯車に摩耗が発生していることを検出することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、2つの従動歯車に摩耗が発生している旨過剰に判定されることが抑制される。単に2つの従動歯車の回転角度の差と、2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較に基づき従動歯車の摩耗を判定するようにした場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、2つの従動歯車の寸法公差などに起因して2つの従動歯車の回転角度の差の値が理想値と異なる値になることがあるところ、このような場合であれ従動歯車に摩耗が発生している旨判定されるおそれがある。また、従動歯車の摩耗が製品仕様などに応じて許容される程度であることも考えられる。このため、上記の構成によるように、2つの従動歯車の回転角度の差の値が、その理想値を基準として定められる許容範囲内の値であるかどうかに基づき従動歯車の摩耗を判定することが好ましい。
【0010】
上記の回転角検出装置において、前記演算回路は、前記主動歯車の回転角度の変化量に対する前記2つの従動歯車のいずれか一方の従動歯車の回転角度の変化量である第1の傾きと、前記主動歯車の回転角度の変化量に対する前記2つの従動歯車のいずれか他方の回転角度の変化量である第2の傾きとを同じ傾きに調整する傾き調整部を有していてもよい。この場合、前記差分演算部は、前記傾き調整部により傾きが調整された後の前記2つの従動歯車の回転角度の差を演算することが好ましい。また、前記摩耗検出部は、前記差分演算部により演算される前記差の値と、前記傾き調整部により傾きが調整された後の前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差である理想値との比較を通じて、前記2つの従動歯車の摩耗を検出することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、傾き調整部により傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度の差の値は、傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度が主動歯車の回転角度の変化に対して立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す周期ごとに、主動歯車の回転角度に対して固有の値となる。また、傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度の差の値は、主動歯車の回転角度の変化に対して矩形波状に変化する。このため、摩耗検出部は、傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度の差の値をパターンとして認識しやすくなり、ひいては傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度の差の値とその理想値との比較を行いやすくなる。したがって、傾きが調整された後の2つの従動歯車の回転角度の差の値は、2つの従動歯車の摩耗を検出する用途に好適である。
【0012】
上記の回転角検出装置において、前記主動歯車、および前記2つの従動歯車は、合成樹脂製であってもよい。
この構成によれば、歯車の噛合に伴う異音の発生を抑えることができる反面、2つの従動歯車が摩耗しやすい。したがって、2つの従動歯車の摩耗を検出することが特に要求される。
【0013】
上記の回転角検出装置において、前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転角検出装置によれば、従動歯車の摩耗を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】回転角検出装置の一実施の形態の概略構成を示すブロック図。
図2】一実施の形態のマイクロコンピュータのブロック図。
図3】一実施の形態の第1の従動歯車と主動歯車の回転角度との関係、および第2の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図4】一実施の形態において、傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係、および傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図5】一実施の形態において、傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度との差と、主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図6】一実施の形態における実際の主動歯車の回転角度と主動歯車の回転角(絶対値)との関係を示すグラフ。
図7】一実施の形態における傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度との差の許容範囲を示すグラフ。
図8】一実施の形態における主動歯車の回転角度を演算する際に使用するテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、回転角検出装置を具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、回転角検出装置10は、主動歯車11、第1の従動歯車12,および第2の従動歯車13を有している。これら主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、合成樹脂材料により形成されている。主動歯車11は、検出対象であるシャフト14に対して一体回転可能に嵌められる。第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、主動歯車11と噛み合っている。第1の従動歯車12の歯数と第2の従動歯車13の歯数とは互いに異なっている。このため、シャフト14の回転に連動して主動歯車11が回転した場合、主動歯車11の回転角度θに対する第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは互いに異なる値となる。たとえば主動歯車11の歯数を「z」、第1の従動歯車12の歯数を「m」、第2の従動歯車13の歯数を「n」とした場合、主動歯車11が1回転したとき、第1の従動歯車12は「z/m」回転、第2の従動歯車13は「z/n」回転する。
【0017】
また、回転角検出装置10は、第1の磁石15、第2の磁石16、第1の磁気センサ17、第2の磁気センサ18、およびマイクロコンピュータ19を有している。
第1の磁石15は、第1の従動歯車12に対して一体回転可能に設けられている。第2の磁石16は、第2の従動歯車13に対して一体回転可能に設けられている。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15の近傍に設けられていて、第1の磁石15から発せられる磁界を検出する。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16の近傍に設けられていて、第2の磁石16から発せられる磁界を検出する。
【0018】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18としては、たとえば4つの磁気抵抗素子がブリッジ状に接続されてなるMRセンサが採用される。磁気抵抗素子の抵抗値は、与えられる磁界の向きに応じて変化する。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15から発せられる磁束の方向の変化に基づき第1の従動歯車12の回転角度αを検出する。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16から発せられる磁束の方向の変化に基づき第2の従動歯車13の回転角度βを検出する。具体的には、つぎの通りである。
【0019】
第1の磁気センサ17は、第1の従動歯車12の回転角度αに応じて連続的に変化する2つのアナログ信号である第1の正弦信号および第1の余弦信号を生成する。第1の正弦信号および第1の余弦信号は、第1の従動歯車12が第1の磁気センサ17の検出範囲Ωだけ回転したとき、すなわち主動歯車11が「(m/z)Ω」だけ回転したときに1周期となる。第1の余弦信号の位相は、第1の正弦信号に対して1/4周期だけずれる。第1の磁気センサ17は、第1の正弦信号および第1の余弦信号に基づく逆正接を演算することにより、第1の磁気センサ17の検出範囲(1周期)Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αを求める。
【0020】
第2の磁気センサ18は、第2の従動歯車13の回転角度βに応じて連続的に変化する2つのアナログ信号である第2の正弦信号および第2の余弦信号を生成する。第2の正弦信号および第2の余弦信号は、第2の従動歯車13が第2の磁気センサ18の検出範囲Ωだけ回転したとき、すなわち主動歯車11が「(n/z)Ω」だけ回転したときに1周期となる。第2の余弦信号の位相は、第2の正弦信号に対して1/4周期だけずれる。第2の磁気センサ18は、第2の正弦信号および第2の余弦信号に基づく逆正接を演算することにより、第2の磁気センサ18の検出範囲(1周期)Ωにおける第2の従動歯車13の回転角度βを求める。
【0021】
主動歯車11の回転角度θの変化に対して第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは、図3のグラフに示されるように変化する。図3のグラフにおいて、横軸は主動歯車11の回転角度θを示す。また、図3のグラフにおいて、縦軸は第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βを示す。
【0022】
図3のグラフに示されるように、主動歯車11の回転角度θの変化に伴い第1の従動歯車12の回転角度αは、歯数mに応じて所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度αは、第1の従動歯車12が第1の磁気センサ17の検出範囲Ωだけ回転する毎に、換言すれば主動歯車11が「mΩ/z」だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。また、第2の従動歯車13の回転角度βは、第2の従動歯車13の歯数nに応じて、所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度βは、第2の従動歯車13が第2の磁気センサ18の検出範囲Ωだけ回転する毎に、換言すれば主動歯車11が「nΩ/z」だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。
【0023】
ここでは一例として、主動歯車11の歯数zを「48」、第1の従動歯車12の歯数mを「26」、第2の従動歯車13の歯数nを「24」、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωを360°とした場合について検討する。この場合、第1の従動歯車12の回転角度αは主動歯車11が195°だけ回転する毎に立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。また、第2の従動歯車13の回転角度βは主動歯車11が180°だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。
【0024】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βの位相差は、主動歯車11の回転角度θが所定値に達したときに無くなる。このため、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θの演算範囲(演算できる範囲)は、第1の従動歯車12の歯数m、第2の従動歯車13の歯数n、ならびに主動歯車11の歯数zの比により決まる。主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raは、たとえば次式(A)で表される。
【0025】
Ra=mnΩ/z(m-n) …(A)
ただし、「m」は第1の従動歯車12の歯数、「n」は第2の従動歯車13の歯数、「z」は主動歯車11の歯数である。また、「Ω」は第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。
【0026】
前述と同様に、主動歯車11の歯数zを「48」、第1の従動歯車12の歯数mを「26」、第2の従動歯車13の歯数nを「24」、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωを360°とした場合、主動歯車11の回転角度θの演算範囲は、2340°となる。
【0027】
図3のグラフでは、主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raの中点を原点(回転角度θ=0°)としている。ここでは主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raが2340°であることから、演算範囲Raの上限値は+1170°、下限値は-1170°となる。すなわち、この例では、「-1170°~+1170°」の範囲で主動歯車11の回転角度θを絶対値で演算することができる。この演算範囲Raは、シャフト14の6.5回転(±3.25回転)に相当する。また、主動歯車11の回転角度θは、シャフト14が原点である0°を基準として正方向へ回転するときにはプラス方向へ増大し、逆方向へ回転するときにはマイナス方向へ増大する。
【0028】
マイクロコンピュータ19は、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18により検出される第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βを使用して主動歯車11、ひいてはシャフト14の360°を超える多回転の回転角度θを絶対値で演算する。
【0029】
つぎに、マイクロコンピュータの構成を詳細に説明する。
図2に示すように、マイクロコンピュータ19は、傾き調整部21、差分演算部22、回転演算部23、絶対角度演算部24、および摩耗検出部25を有している。
【0030】
傾き調整部21は、主動歯車11の回転角度θの変化量に対する第1の従動歯車12の回転角度αの変化量の比率である第1の傾き、および主動歯車11の回転角度θの変化量に対する第2の従動歯車13の回転角度βの変化量の比率である第2の傾きを、これら傾きが同じ値になるように調整する。
【0031】
図4のグラフに示すように、主動歯車11の回転角度θの変化に対する傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′の変化を示す第1の波形の傾きと、主動歯車11の回転角度θの変化に対する傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′の変化を示す第2の波形の傾きとは互いに平行となる。
【0032】
差分演算部22は、傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβを演算する。主動歯車11の回転角度θと差Δαβとの関係は、つぎの通りである。
【0033】
図5のグラフに示すように、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の回転角度αあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。すなわち、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の回転角度αあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′の周期数に対して固有の値となる。
【0034】
また、差Δαβの値は、第2の従動歯車13の回転角度βあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。すなわち、差Δαβの値は、第2の従動歯車13の回転角度βあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′の周期数に対して固有の値となる。
【0035】
回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値に基づき第1の従動歯車12の周期数γを演算する。周期数γとは、第1の磁気センサ17により生成される第1の正弦信号および第1の余弦信号の何周期目か、すなわち第1の磁気センサ17の検出範囲(1周期)を何回繰り返しているかを示す整数値をいう。
【0036】
回転演算部23は、図示しない記憶装置に格納されるテーブルを参照することにより第1の従動歯車12の周期数γを演算する。
図8に示すように、テーブルTBは、3つの項目、すなわち傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの値の後述する許容範囲、差Δαβの理想値、および第1の従動歯車12の周期数γの関係を規定する。図8の例では、分類番号TN1~TN27で示されるように、主動歯車11の回転角度θの演算範囲の全域において、第1の磁気センサ17の検出範囲である360°毎に前述の3つの項目が規定されている。
【0037】
ただし実際には、テーブルTBとして、第1の磁気センサ17の分解能および第1の従動歯車12の歯数mなどに応じて決まる第1の従動歯車12の回転角度αの最小検出角度(たとえば2°)ごとに、前述の3つの項目を分類番号TN1~TN27に振り分けて設定したものを採用する。
【0038】
回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値が属する分類番号TN1~TN27を判定し、その判定される分類番号に対応する第1の従動歯車12の周期数γを検出する。たとえば、差分演算部22により演算される差Δαβの値が「-2160°」である場合、この差Δαβの値は分類番号TN7に属するため、第1の従動歯車12の周期数γ1が「-6」であることが分かる。
【0039】
絶対角度演算部24は、第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度αおよび回転演算部23により演算される第1の従動歯車12の周期数γに基づき、主動歯車11の回転角度θを絶対角で演算する。主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θは、たとえば次式(B)に基づき求められる。
【0040】
θ=mα/z+(m/z)Ωγ …(B)
ただし、「m」は第1の従動歯車12の歯数、「n」は第2の従動歯車13の歯数、「z」は主動歯車11の歯数である。「Ω」は第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。「α」は第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度である。「mα/z」は、第1の磁気センサ17の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αに対する主動歯車11の回転角度を示す。
【0041】
主動歯車11の実際の回転角度θと、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)との関係は、図6のグラフに示される通りである。
図6のグラフにおいて、横軸は主動歯車11の実際の回転角度θ、縦軸は絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)を示す。図6のグラフに示すように、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)は、主動歯車11の実際の回転角度θの変化に伴い直線的に変化する。主動歯車11の実際の回転角度θと、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)とが比例関係にあることから、主動歯車11の実際の回転角度θと主動歯車11の回転角度θ(絶対角)とは1対1で対応する。すなわち、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)、すなわちシャフト14の絶対回転角度を即時に検出することが可能となる。
【0042】
摩耗検出部25は、差分演算部22により演算される傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの値に基づき第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出する。摩耗検出部25は、差Δαβの値が理想的な差Δαβの値である理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13に摩耗が発生している旨判定する。
【0043】
図7のグラフに示すように、差Δαβの許容範囲は、上限値εと下限値-εとで規定される。上限値εは、差Δαβの理想値である「0」を基準とする正の値に設定される。下限値-εは、差Δαβの理想値である「0」を基準とする負の値に設定される。これら上限値εおよび下限値-εは、製品仕様などに応じて許容される摩耗の程度、ひいては回転角度θの検出精度に応じて設定される。
【0044】
摩耗検出部25は、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値が、その理想値に対して「±ε」の範囲内の値であるとき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は摩耗していない旨判定する。摩耗検出部25は、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値が、その理想値に対して「±ε」の範囲外の値であるとき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は摩耗している旨判定する。
【0045】
ちなみに、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出することの技術的な意義はつぎの通りである。
すなわち、回転角検出装置10では、主動歯車11に第1の従動歯車12および第2の従動歯車13噛み合わせた構成とされている。このため、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13が摩耗した場合、第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度α、および第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度βには、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗の程度に応じた誤差が生じる。したがって、第1の従動歯車12の回転角度αまたは第2の従動歯車13の回転角度βに基づき演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)についても、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗に起因する誤差の影響を受けた値となる。このため、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出することが好ましい。
【0046】
たとえば、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗が検出される場合、その旨報知することにより、回転角検出装置10を修理するなどの何らかの対処を促すことが可能となる。また、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗が検出される場合、主動歯車11の回転角度θの演算を中止したり、演算される回転角度θを使用しないようにしたりすることによって、回転角検出装置10の検出信頼性を確保することも可能となる。
【0047】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値に基づき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13が摩耗していることを判定することができる。これはつぎの理由による。すなわち第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βに摩耗に起因する誤差が生じた場合、これら回転角度α,βに基づき演算される傾き調整後の回転角度α′,β′、ひいては回転角度α′と回転角度β′との差Δαβにも、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗の程度に応じた誤差が生じる。したがって、傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの値に基づき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出することが可能である。
【0048】
(2)摩耗検出部25は、差分演算部22により演算される差Δαβの値が、その差Δαβの理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13に摩耗が発生している旨判定する。このため、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13に摩耗が発生している旨過剰に判定されることが抑制される。単に差Δαβの値と、その理想値との比較に基づき第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を判定するようにした場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の寸法公差などに起因して差Δαβの値が理想値と異なる値になることがあるところ、このような場合であれ第1の従動歯車12および第2の従動歯車13に摩耗が発生している旨判定されるおそれがある。また、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗が製品仕様などに応じて許容される程度であることも考えられる。このため、差Δαβの値が、その理想値を基準として定められる許容範囲内の値であるかどうかに基づき第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を判定することが好ましい。
【0049】
(3)図5のグラフに示されるように、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値は、傾き調整後の回転角度α′,β′が主動歯車11の回転角度θの変化に対して立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。このため、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の周期数γあるいは第2の従動歯車13の周期数γ、ひいては主動歯車11の回転角度θを検出する用途に好適である。また、図5のグラフに示されるように、差Δαβの値は、主動歯車11の回転角度θの変化に対して矩形波状に変化する。このため、摩耗検出部25は、差Δαβの値をパターンとして認識しやすくなり、ひいては差Δαβの値とその理想値との比較を行いやすくなる。したがって、差Δαβの値は、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出する用途に好適である。ちなみに、傾き調整前の回転角度α,βの差の値は、たとえば主動歯車11の回転角度θの変化に対して直線状に変化する。
【0050】
(4)主動歯車11、第1の従動歯車12、および第2の従動歯車13は、合成樹脂材料により形成されている。このため、歯車の噛合に伴う異音の発生を抑えることができる反面、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13が摩耗しやすい。したがって、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出することが特に要求される。
【0051】
(5)第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出するための特別な構成を回転角検出装置10に設ける必要がない。このため、回転角検出装置10の構成が複雑になることもない。
【0052】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、金属材料により形成してもよい。この場合であれ、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は経年変化的に摩耗する。
【0053】
・回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値に基づき第2の従動歯車13の周期数γを演算するようにしてもよい。この場合、テーブルTBとしては、差Δαβと第2の従動歯車13の周期数γとの関係を規定するものを採用する。回転演算部23により第2の従動歯車13の周期数γが演算される構成が採用される場合、絶対角度演算部24は、第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度βおよび回転演算部23により演算される第2の従動歯車13の周期数γに基づき、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θを絶対値で演算する。このようにしても、主動歯車11の回転角度θ、すなわちシャフト14の絶対回転角度を即時に検出することが可能である。
【0054】
・マイクロコンピュータ19として、傾き調整部21を割愛した構成を採用してもよい。第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度αと第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度αとの差の値と、当該差の理想値との比較を通じて第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の摩耗を検出することも可能である。
【0055】
・第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは、マイクロコンピュータ19、具体的には絶対角度演算部24により演算するようにしてもよい。
・シャフト14の一例としては、車両の操舵装置において、ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフト、あるいはラックアンドピニオン機構を構成するピニオンシャフトなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0056】
10…回転角検出装置、11…主動歯車、12…第1の従動歯車、13…第2の従動歯車、14…シャフト(回転検出対象、ステアリングシャフト、ピニオンシャフト)、17…第1の磁気センサ、18…第2の磁気センサ、19…マイクロコンピュータ(演算回路)、21…傾き調整部、22…差分演算部、25…摩耗検出部。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8