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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】人工肺装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/18 510
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019013112
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020120737
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安村 直朗
(72)【発明者】
【氏名】簑原 瑠威
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144857(JP,A)
【文献】特開2013-192711(JP,A)
【文献】特開2011-161147(JP,A)
【文献】特表2018-518236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触れた血液に対してガス交換を行うガス交換器と、
前記ガス交換器が収容される中空のハウジング本体と、前記ガス交換器とガス交換を行わせるべく前記ハウジング本体中に血液を流入させるべく前記ハウジング本体に形成される血液流入ポートと、前記ハウジング本体内の血液を排出させる円筒状の血液流出ポートと、前記血液流出ポートが取り付けられる取付部と、を有するハウジングとを備え、
前記血液流出ポートの基端側部分は、その軸線を中心に回動可能に前記取付部に取り付けられており、かつ、前記取付部に取り付けられた状態では、前記取付部および前記基端側部分は一方の内孔に他方が挿入されて、前記軸線を中心とする回動時に前記軸線に沿った方向への移動が規制されており、
前記血液流出ポートは、その先端側部分が前記基端側部分の軸線に対して所定の角度を成すように屈曲している、人工肺装置。
【請求項2】
前記取付部は、大略円筒状に形成され、且つその内周面に係合部を有し、
前記血液流出ポートの基端側部分は、前記取付部に取り付けられ、取り付けられた状態にて前記係合部に係合する被係合部を有する、請求項1に記載の人工肺装置。
【請求項3】
前記取付部は、前記ハウジング本体の下部において下方へ突出して設けられ、前記血液流出ポートの基端側部分は前記取付部に対して下方から取り付けられており、
前記係合部及び前記被係合部の一方は、周方向に互いに間隔をあけて配置される複数の係合片によって構成され、
前記係合片は、上方に進むにつれて半径方向内側に突出するようにテーパ状に形成され、
前記係合部及び前記被係合部の他方は、前記係合片と位置を対応させ且つ半径方向外方に突出させて形成され、前記複数の係合片より上側に位置している状態にて前記複数の係合片と係合するようになっている、請求項2に記載の人工肺装置。
【請求項4】
前記基端側部分の外周面と前記取付部の内周面との間を封止する第1シール部材及び第2シール部材を更に備え、
前記第1シール部材は、前記血液流出ポートの基端側部分の外周面において前記第2シール部材より基端側に配置され、
前記第2シール部材は、前記第1シール部材より潰し率が大きくなっている、請求項1乃至3の何れか1つに記載の人工肺装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加する人工肺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術のように患者の心臓の動きを止めてから行われる手術では、止められた心臓及び肺の機能を代替させるべく人工心肺回路が用いられている。この人工心肺回路において、肺の役割を果たしているのが人工肺であり、人工肺としては例えば特許文献1のようなものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の人工肺は、ハウジング及びガス交換器を備えている。ハウジングには、その底部に血液入口ポートが形成され、その外周面に血液出口ポートが形成されている。また、ハウジングには、ガス交換器が収容されており、ガス交換器によってハウジング内を流れる血液に酸素を付加している。また、各ポートには、血液を流入及び流出させるべく静脈血チューブ及び動脈チューブが夫々取り付けられている。このように構成されている人工肺では、静脈チューブから血液入口ポートを介してハウジング内に血液が導かれる。導かれた血液は、ハウジング内のガス交換器を通って血液出口ポートから動脈チューブへと排出され、ガス交換器を通過する際に血液に酸素が付加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5418274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の人工肺では、ハウジングの上部に吊下げ部が形成されており、人工肺は、吊下げ部を吊下げ装置等に掛けることによって吊下げて使用される。このように構成されている人工肺は、人工心肺回路の一部を構成しており、各ポートに取り付けられている静脈チューブ及び動脈チューブを対応する機器に夫々接続して使用される。人工心肺回路では、その回路内にて血液を流すので、事前準備として回路の血液流路を補液で充填するが、補液の分だけ患者の血液が希釈される。血液量は患者の体重、体格等の因子によって個人差があるが、血液量に対して補液が多い場合、血液が希釈され血液成分の必要濃度を保てなくなるため、輸血を行い血液成分を補う必要がある。それ故、輸血する血液量を少なくするべく、人工肺回路の血液流路の長さをできるだけ短くする必要があり、例えばチューブの長さを短くすることによって実現することができる。
【0006】
他方、人工肺と各装置との配置関係に応じた取り回しの兼ね合いからチューブが長くなる。例えば、血液入口ポートが、それに繋がれる機器に向かず反対方向に向いている場合、U字状に折り返す等して静脈チューブの向きを変えて機器に向かわせる必要があり、折り返した分だけ静脈チューブが長くなる。これに関して、特許文献1では吊下げ装置に対して吊下げ部を回動させる等して血液入口ポートの向きを変えて静脈チューブが折り返さなくてもよいようにする等して静脈チューブをできるだけ短くしている。
【0007】
同様に動脈チューブもできるだけ短くすることが好ましいが、特許文献1の人工肺の場合、以下のようなことが生じる。即ち、特許文献1の人工肺では、血液入口ポート及び血液出口ポートが互いに反対方向に延在しているので、吊下げ装置に対して人工肺をいくら回しても2つのポートが同じ方向を向くことはない。それ故、血液入口ポート及び血液出口ポートの各々に接続すべき装置が人工肺に対して同じサイドに配置されている場合には、やはり血液入口ポート及び血液出口ポートに取り付けられたチューブの少なくとも一方を折り返す等する必要があり、その方のチューブが長くなる。また、チューブを折り返す場合、その折返す度合いが大きいと、その部分にて流路抵抗が大きくなる。そうすると、チューブ内の血圧が上昇したり、血流が止まったりすることが考えられる。それ故、2つのチューブの取り回しに工夫を要する。
【0008】
そこで本発明は、血液流入ポート及び血液流出ポートと機器とを接続するチューブの取り回しを容易にすることができる人工肺装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の人工肺装置は、触れた血液に対してガス交換を行うガス交換器と、前記ハウジングは、前記ガス交換器が収容される中空のハウジング本体と、前記ガス交換器とガス交換を行わせるべく前記ハウジング本体中に血液を流入させるべく前記ハウジング本体に形成される血液流入ポートと、前記ハウジング本体内の血液を排出させる円筒状の血液流出ポートと、前記血液流出ポートが取り付けられる取付部と、を有するハウジングとを備え、前記血液流出ポートの基端側部分は、その軸線を中心に回動可能に前記取付部に取り付けられており、前記血液流出ポートは、その先端側部分が前記基端側部分の軸線に対して所定の角度を成すように屈曲しているものである。
【0010】
本発明に従えば、血液流出ポートが屈曲し且つ回動可能にハウジング本体に設けられているので、ハウジング本体及び血液流入ポートの向きに関わらず、血液流出ポートを回動させることで血液流出ポートの向きを変更することができる。これにより、人工肺装置が配置される位置や向き等が制限されることを抑制することができ、血液流入ポート及び血液流出ポートと機器とを接続するチューブの取り回しを容易にすることができる。
【0011】
また、上記人工肺装置において、前記取付部は、大略円筒状に形成され、且つその内周面に係合部を有し、前記血液流出ポートの基端側部分は、前記取付部に取り付けられ、取り付けられた状態にて前記係合部に係合する被係合部を有していてもよい。
【0012】
血液流入ポートは、その中を流れる血液やそこに導かれる血液から、取付部から取り外されるような荷重を受けることになるが、上記構成のように係合部と被係合部とを係合させることで、血液流入ポートが取付部から容易に外れることを抑制することができる。
【0013】
また、上記人工肺装置において、前記係合部及び前記被係合部の一方は、周方向に互いに間隔をあけて配置される複数の係合片によって構成され、前記係合片は、上方に進むにつれて半径方向内側に突出するようにテーパ状に形成され、前記係合部及び前記被係合部の他方は、前記係合片と位置を対応させ且つ半径方向外方に突出させて形成され、前記複数の係合片より上側に位置している状態にて前記複数の係合片と係合するようになっていてもよい。
【0014】
このような構成により、血液流出ポートを取付部に取付ける際、テーパ状に形成される複数の係合片によって被係合部を案内させることができる。これにより、血液流入ポートが取付けやすく、人工肺装置を容易に製造することができる。
【0015】
また、上記人工肺装置において、前記基端側部分の外周面と前記取付部の内周面との間を封止する第1シール部材及び第2シール部材を更に備え、前記第1シール部材は、前記血液流出ポートの基端側部分の外周面において前記第2シール部材より基端側に配置され、前記第2シール部材は、前記第1シール部材より潰し率が大きくなっていてもよい。
【0016】
この場合、第2シール部材が第1シール部材より潰し率が大きいので、仮に第1シール部材から血液が漏れ出ても、第2シール部材によって外側に漏れ出ることを防ぐことができる。また、第1シール部材の潰し率を小さくすることで、血液流出ポートを回動させる際の摺動抵抗の増加を抑えることができる。
【0017】
また、上記人工肺装置において、前記血液流入ポートの基端側部分は、前記ハウジング本体から上下方向一方に突出し、前記血液流入ポートの先端側部分は、屈曲部を介して前記基端側部分に繋がり、前記基端側部分に対し上下方向一方に向かうように径方向外側に傾斜しており、前記血液流出ポートは、前記屈曲部から上下方向一方に突出するように前記屈曲部に形成された把持部を有していてもよい。
【0018】
このような構成により、把持部により血液流入ポートを回動させやすくすることができる。また、把持部を突出させるように形成しているので、把持部がリブとしての役割を果たし、血液流入ポートの剛性を向上させることができる。更に、血液流入ポートを下側にして人工肺装置を落とした際、把持部を床等に当てることができる。これにより、落下時の衝撃を基端側部分の軸線方向に作用させることができる。基端側部分は、その軸線方向に沿って形成されているので、高い剛性を有している。それ故、落下時に把持部から着地させることによって、血液流入ポートの破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、血液流入ポート及び血液流出ポートと機器とを接続するチューブの取り回しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の人工肺装置の外嵌を示す正面図である。
図2図1の人工肺装置を切断してみた断面図である。
図3図2の領域X1を拡大して示す拡大断面図である。
図4図2の人工肺装置に関して、血液流出ポートの先端を紙面右側に向けた状態を示す断面図である。
図5図1の人工肺装置に関して血液流出ポートを種々の方向に向けた状態を示す正面図であり、(a)は、血液流出ポートの先端を手前側に向け、(b)は、血液流出ポートの先端を奥側に向けた状態を示す正面図である。
図6】他の実施形態の人工肺装置における血液流出ポート付近を拡大して示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態の人工肺装置1について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する人工肺装置1は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0022】
心臓外科手術のように患者の心臓の動きを止めてから行われる手術では、患者の肺の機能を代替させるべく、図1に示すような人工肺装置1が用いられる。人工肺装置1は、患者の血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加する、即ちガス交換機能を有している。また、人工肺装置1は、ガス交換と共に血液の温度を調整するべく熱交換機能も有している。このような機能を有する人工肺装置1は、いわゆる横型タイプの人工肺装置であって、図2に示すようにハウジング2と、熱交換器3と、ガス交換器4と、フィルター部材5とを備えている。
【0023】
ハウジング2は、大略中空円筒状に形成されており、その中に2つの交換器3,4を収容すべく内部空間2aを有している。更に詳細に説明すると、ハウジング2は、主にハウジング本体11と、吊下げ部13と、2つのキャップ部14,15とを有している。ハウジング本体11は、大略円筒状に形成されており、その中に前述する2つの交換器3,4を収容している。また、ハウジング本体11の外周面に吊下げ部13が設けられている。吊下げ部13は、ハウジング本体11の軸線方向中央部分に配置されており、ハウジング本体11の外周面から半径方向外側に延在している。また、吊下げ部13は、例えば大略柱状に形成されており、その先端側部分が図示しない吊下げ装置に取り付けて吊下げられるようになっている。即ち、ハウジング本体11は、吊下げ部13を介して吊下げることができるようになっており、吊下げられたハウジング本体11は、その軸線L1が水平方向に延在するように構成されている。このように配置されるハウジング本体11では、その外周面の上部に吊下げ部13が配置され、また軸線方向両側に位置する開口端部が2つのキャップ部14,15によって塞がれている。
【0024】
2つのキャップ部14,15は、大略円板状に形成されており、第1キャップ部14がハウジング本体11の一方の開口端部を塞ぎ、第2キャップ部15がハウジング本体11の他方の開口端部を塞いでいる。即ち、第1キャップ部14は、ハウジング2の一端部を構成し、第2キャップ部15は、ハウジング2の他端部を構成している。また、第1キャップ部14には、その中心軸付近(即ち、軸線L1付近)に血液流入ポート16が形成されている。血液流入ポート16は、大略円筒状に形成されており、第1キャップ部14の中心軸の下側から斜め下方に突出している。このような形状を有する血液流入ポート16には、図示しない静脈血チューブが接続されるようになっており、静脈血が静脈血チューブ及び血液流入ポート16を介してハウジング本体11の中に導かれる。また、ハウジング本体11の外周面には、その下部(即ち、吊下げ部13の反対側)に血液流出ポート17が形成されている。血液流出ポート17は、大略円筒状に形成されており、下方に突出し、その先で斜め下方に屈曲している。このような形状を有する血液流出ポート17には、図示しない動脈血チューブが接続されるようになっており、人工肺装置1にて生成される動脈血を動脈血チューブに排出させる。
【0025】
また、第1キャップ部14には、図1に示すようにガス吸入ポート18が形成されている。ガス吸入ポート18は、大略円筒状に形成されており、第1キャップ部14の外周縁付近から軸線方向に突出している。このような形状を有するガス吸入ポート18は、大気に開放されており、大気から酸素を含むガス(即ち、空気)をハウジング2内に取り込む。他方、第2キャップ部15には、図1に示すようにガス排出ポート19が形成されている。ガス排出ポート19は、大略円筒状に形成されており、第2キャップ部15の外周縁付近から軸線方向に突出している。このような形状を有するガス排出ポート19は、ガス吸入ポート18からハウジング2内にガスを大気に排出する。なお、ガス排出ポート19には、チューブ等を介してガス濃度測定装置が接続され、排出されるガスの二酸化炭素濃度を測定するように構成されていてもよい。
【0026】
更に、第2キャップ部15には、2つのポート20,21が形成されている。2つのポート20,21は、第2キャップ部15の中心軸(即ち、軸線L1)付近であって、中心軸を挟んで上下に離して第2キャップ部15に設けられている。なお、2つのポート20,21は、必ずしも上下に離す必要はなく、左右(紙面の手前及び奥側)に離してあってもよく、また斜めに離してもよい。2つのポート20,21は、大略円筒状に形成されており、第2キャップ部15から軸線方向に突出しているが、軸交差方向に突出していてもよい。2つのポート20,21のうちの一方である媒体流入ポート21は、図示しない媒体供給チューブに接続され、温水又は冷水等の媒体をハウジング2内に導くことができる。また、他方のポート21である媒体流出ポート20は、媒体排出チューブに接続され、媒体流出チューブを介してハウジング2内の媒体をハウジング2外に排出するようになっている。このように複数のポート16~21が形成されたハウジング2内には、図2に示すようにそこに導かれる静脈血の温度を調整すべく熱交換器3が設けられている。
【0027】
熱交換器3は、大略円筒状に形成されており、筒状コア31と、管群32と、ケーシング部33と、媒体流入出部34と、を有している。筒状コア31は、大略円筒状に形成されており、第1キャップ部14の内側面から第2キャップ部15に向かって軸線L1に沿って突出している。また、筒状コア31の中には、管群32が挿通されて配置されている。管群32は、大略円柱状に形成されており、一対の管支持体32a,32aと、複数の伝熱管32bとを有している。一対の管支持体32a,32aは、共に大略円板状に形成されており、その外径が筒状コア31の内径と略一致している。このように形成されている一対の管支持体32a、32aは、筒状コア31の両側の開口端部にシールを達成した状態で夫々挿入されている。また、一対の管支持体32a,32aには、軸線L1に沿った方向に貫通する複数の貫通孔が軸線L1を中心にして放射状に配設されている。貫通孔の各々は、一方の管支持体32aに形成されたものと他方の管支持体32aに形成されたものと互いに対応付けられており、対応する貫通孔に伝熱管32bが夫々挿通されている。
【0028】
伝熱管32bは、例えばステンレス鋼等の熱伝導率が高い材料によって構成される長尺且つ微細な円筒管であり、その中に血液を流すことができるようになっている。また、伝熱管32bは、その両端部を一対の管支持体32a,32aにおける対応する貫通孔に夫々挿通させており、これによって一対の管支持体32a,32aに架け渡されている。また、対応する2つの貫通孔は、軸線方向に対向しており、それらに挿通される伝熱管32bが軸線方向に延在にするように配置されている。これにより、管群32では複数の伝熱管32bが軸線方向に延在し且つ例えば放射状に配置され、管群32が大略円柱状に形成されている。このような形状を有する管群32は、一対の管支持体32a、32aによって筒状コア31の両側の開口端部をシールしている状態にて筒状コア31内に収容されている。
【0029】
また、筒状コア31は、第1キャップ部14の内側面であって互いの軸線が略一致するように第1キャップ部14の中心軸周りに設けられている。また、第1キャップ部14の中心周りの部分は、残余の部分に対して軸線方向外側に膨らんだ膨出部分14aを構成している。この膨出部分14aは、筒状コア31の開口端部に対応させて形成されており、そこには血液流入ポート16が形成されている。このように形成されている膨出部分14aには、その中に血液流入空間14bが形成され、血液流入空間14bには、血液流入ポート16に導かれてくる血液が流入するようになっている。また、筒状コア31に収容されている管群32は、その一端が血液流入空間14bに臨んでおり、血液流入空間14bの血液は複数の伝熱管32bを介して管群32の他端側へと導かれる。他方、血液流入空間14bは、一方の管支持体32aによって筒状コア31内と隔離されており、筒状コア31内であって管群32の周りの空間には血液流入空間14bの血液が導かれないようになっている。そして、筒状コア31内には、血液の代わりに媒体が導かれるようになっており、媒体によって複数の伝熱管32b内を流れる血液の温度を調整できるようになっている。また、第1キャップ部14には、筒状コア31内に媒体を導くべくケーシング部33が設けられている。
【0030】
ケーシング部33は、大略円筒状に形成されており、その内径が筒状コア31の外径より大径に形成されている。このような形状を有するケーシング部33は、その軸線がハウジング本体11の軸線L1に一致するように第1キャップ部14の内面に設けられ、また第1キャップ部14の内側面から第2キャップ部15に向かって軸線L1に沿って延在している。このような形状を有するケーシング部33は、軸線方向において筒状コア31と略同じ長さに形成されている。また、筒状コア31の第2キャップ部15側の端部である開口端部分には、半径方向外側に突出するフランジ31dが形成されている。フランジ31dは、筒状コア31において周方向全周にわたって形成されており、その外周縁がケーシング部33の開口端部分まで延在している。また、ケーシング部33は、前述の通り筒状コア31より大径に形成されており、それらは互いに半径方向に離れて配置されている。これにより、それらの間には、閉塞された大略円環状の内側環状空間37が形成されている。このように形成されている内側環状空間37には、一対の隔壁(図示せず)が配置されている。
【0031】
一対の隔壁は、内側環状空間37において互いに等間隔をあけて、即ち周方向に180度離して配置されている。一対の隔壁は、筒状コア31の外周面からケーシング部33の内周面に架け渡すように内側環状空間37に設けられおり、内側環状空間37を2つの通路37a,37bに分けている。即ち、筒状コア31とケーシング部33との間には、一対の隔壁によって互いに隔離された2つの通路37a,37b(即ち、媒体流入通路37a及び媒体流出通路37b)が形成されている。また、この2つの通路37a,37bと筒状コア31の内空間31aとを連通すべく、筒状コア31の外周面には一対の連通部31b,31bが形成されている。
【0032】
一対の連通部31b,31bの各々は、媒体流入通路37a及び媒体流出通路37bに対応させて筒状コア31の外周面に形成されている。なお、本実施形態において、一対の連通部31b,31bは、一対の隔壁と同じく周方向に互いに等間隔をあけて、即ち180度離すように筒状コア31の外周面に配置され、各々が媒体流入通路37a及び媒体流出通路37bに臨んでいる。このように配置されている連通部31bは、複数の連通孔31cを有している。複数の連通孔31cは、筒状コア31を半径方向に貫通するように形成されており、媒体流入通路37a及び媒体流出通路37bが複数の連通孔31cを介して筒状コア31の内空間31aと連通するようになっている。即ち、媒体流入通路37a及び媒体流出通路37bが一対の連通部31b,31b及び内空間31aを介して繋がっている。また、第2キャップ部15には、媒体流入通路37aに媒体を供給し、媒体流出通路37bから媒体を流出させるための媒体流入出部34が設けられている。
【0033】
媒体流入出部34は、第2キャップ部15の内面から筒状コア31の方に向かって突出させるように第2キャップ部15に設けられている。更に詳細に説明すると、媒体流入出部34は、第2キャップ部15の中心軸周りに配置されており、大略ドーム状に形成されている。即ち、媒体流入出部34内には、ドーム内空間39が形成されており、ドーム内空間39は、第2キャップ部15に形成される媒体流入ポート20及び媒体流出ポート21と連通している。また、媒体流入出部34のドーム内空間39には、隔壁板34aが配置されている。隔壁板34aは、大略板状に形成されており、ドーム内空間39を媒体流入空間39a及び媒体流出空間39bの2つの空間に隔てるべくドーム内空間39に配置されている。また、隔壁板34aは、ドーム内空間39に配置されており、媒体流入空間39aが媒体流入ポート20に繋がり、媒体流出空間39bが媒体流出ポート21に繋がるように各空間39a,39bを区画している。また、媒体流入出部34には、フランジ31dとの間に一対の架設部40が架け渡すように設けられている。一対の架設部40は、例えば互いに180度ずれた位置に配置されており、各々に流入側通路40aと流出側通路(図示しない)とが形成されている。流入側通路40aは、媒体流入空間39aと媒体流入通路37aとを繋ぎ、流出側通路は、媒体流出通路37bと媒体流出空間39bとを繋いでいる。
【0034】
このように構成されている熱交換器3では、媒体供給チューブを介して媒体流入ポート20に媒体が供給される。供給された媒体は、媒体流入空間39a及び流入側通路40aを介して媒体流入通路37aに導かれ、更に一方の連通部31bを介して筒状コア31の内空間31aに導かれる。内空間31aには、前述の通り、複数の伝熱管32bが配置されており、媒体がそれらの間を通って他方の連通部31bに向かって流れていく。この際、媒体は、伝熱管32b内を流れる血液と熱交換を行う(具体的には、温水の場合には血液に熱を与え、冷水の場合には血液から熱を奪う)。これにより、伝熱管32bを流れる血液の温度が所定の温度へと調整される。熱交換が行われた媒体は、連通部31bを介して内空間31aから媒体流出通路37bに流出し、更に流出側通路及び媒体流出空間39bを介して媒体流出ポート21に導かれる。その後、媒体は、媒体排出チューブを介してハウジング2外に排出される、具体的には媒体供給装置に戻され、再度温度調整された後、媒体供給チューブを介して媒体流入ポート20に戻される。このように熱交換器3では、内空間31aと媒体供給装置との間で媒体が循環するようになっており、伝熱管32b内、即ち管群32内を流れる血液がこの媒体との間で熱交換が行われる。それにより、血液の温度が調整されている。このようにして血液は、温度調整されながら管群32を通ってその他方側の端部へと導かれる。
【0035】
管群32の他方側の端部は、媒体流入出部34から軸線方向に離して配置されており、一対の架設部40は、周方向に互いに離して配置されている。これにより、管群32と媒体流入出部34との間には、中心から半径方向外側(本実施形態では上下方向)に夫々延びる一対の径方向通路41が形成されている。血液は、この一対の径方向通路41を通って管群32の他方側の端部からケーシング部33の径方向外側へと流出する。ケーシング部33は、その外径がハウジング本体11の内径より小さくなっており、ケーシング部33とハウジング本体11との間は、大略円環状の外側環状空間42が形成されている。この外側環状空間42は、その一部分として環状通路43が形成されており、径方向通路41から流出した血液は、この環状通路43に導かれるようになっている。また、外側環状空間42には、ガス交換器4が収容されている。
【0036】
ガス交換器4は、血液に含まれる二酸化炭素を除去し、そして酸素を付加する機能を有している。更に詳細に説明すると、ガス交換器4は大略円筒状に形成されており、2つのシール部材45,46と、中空糸体47とによって構成されている。2つのシール部材45,46は、共に大略円環状に形成されており、外側環状空間42に軸線方向に互いに離して配置されている。即ち、第1シール部材45は、外側環状空間42の第1キャップ部14側において、ケーシング部33とハウジング本体11との間を周方向全周にわたってシールしている。また、第1シール部材45は、第1キャップ部14の内面から第2キャップ部15側へと離して配置されており、第1キャップ部14との間にガス流入空間48を形成している。また、第2シール部材46は、外側環状空間42の第2キャップ部15側において、ケーシング部33とハウジング本体11との間を周方向全周にわたってシールしている。更に、第2シール部材46は、第2キャップ部15の内面から第1キャップ部14側へと離して配置されており、第2キャップ部15との間にガス流出空間49を形成している。更に、2つのシール部材45,46は、互いに軸線方向にも離して配置されており、外側環状空間42であって2つのシール部材45,46の間には、2つの空間48,49から隔離された前述する環状通路43が形成されている。このように形成されている環状通路43には、中空糸体47が設けられている。
【0037】
中空糸体47は、大略円筒状に形成されており、複数の中空糸によって構成されている。更に詳細に説明すると、中空糸体47は、複数の中空糸を互いに交差させて積層して構成されるマット状の中空糸膜(バンドル)をケーシング部33の外周面に巻き付けることによって構成されている。中空糸膜は、中空糸体47の厚みがケーシング部33とハウジング本体11との間の間隔と略一致するまで巻き付けられている。即ち、中空糸体47は、その外周面がハウジング本体11の内周面に全周にわたって当接しており、ハウジング本体11の内周面に沿って形成されている。このように構成されている中空糸体47では、その一端側部分が第1シール部材45を貫通し、他端側部分が第2シール部材46を貫通している。即ち、2つの空間48,49が中空糸体47を構成する複数の中空糸の内孔によって連通している。
【0038】
また、中空糸体47では、それを構成する複数の中空糸の各々の間に隙間が形成されており、この隙間を血液が流れるようになっている。即ち、環状通路43に導かれた血液は、中空糸体47内の隙間を通って軸線方向一方(即ち、第2キャップ部15から第1キャップ部14の方)に流れていく。また、血液を隙間に流すことによって、血液を中空糸に触れさせることができる。中空糸の内孔は、前述の通り2つの空間48,49に繋がっている。ガス流入空間48には、それに対応させて形成されるガス吸入ポート18が繋がっており、ガス吸入ポート18を介してガスが導かれる。導かれたガスは、複数の中空糸内を通ってガス流出空間49に流れ出る。また、ガス流出空間49には、それに対応させて形成されるガス排出ポート19が繋がっており、中空糸から流れ出たガスがガス排出ポート19を介して大気に放出されるようになっている。
【0039】
ガス吸入ポート18から取り込まれたガスには多くの酸素が含まれている。それ故、二酸化炭素の濃度が大きくなった血液を中空糸に触れさせると血液と中空糸との間でガス交換が行われる。即ち、血液から二酸化炭素が除去されると共に酸素が付加される。これにより、血中における二酸化炭素の濃度が減少すると共に酸素の濃度が増加する。このように、血液は、ガス交換器4によってガス交換が行われながら環状通路43を軸線方向一方に流れている。また、環状通路43の下流側、より詳しくは外側環状空間42の軸線方向一方側部分(即ち、第1キャップ部14側の部分)は、残余の部分に比べて半径方向外側に拡径している。
【0040】
より詳細に説明すると、図3に示すように、ハウジング本体11の内周面には、半径方向外側に凹む凹部50が形成されている。この凹部50は、内周面において第1キャップ部14に寄せるようにして周方向全周にわたって形成されている。また、凹部50の軸線方向他方側の部分は、軸線方向他方に向かうにつれて先細りになっており、テーパ状に形成されている。他方、凹部50の軸線方向中間部分から一方側の部分にかけては軸線L1に平行に形成されており、中央分部分に第1シール部材45が配置されている。このように構成される凹部50は、中空糸体47の外周面とハウジング本体11の内周面との間に大略環状の外周空間52を形成しており、環状通路43を流れる血液が外周空間52に導かれる。また、外周空間52には、中空糸体47が介在しておらず、血液に含まれる異物を取り除くべくフィルター部材5が配置されている。
【0041】
フィルター部材5は、大略円錐台状に形成されており、フィルター54を有している。フィルター54は、血液を透過可能であるが、血中に含まれる異物(例えば血液の凝集塊)を取り除くことができるように構成されている。即ち、フィルター部材5は、そこを透過する血液から異物を除去するようになっている。
【0042】
このように構成されているフィルター部材5は、前述の通り外周空間52に配置されており、配置されることによって外周空間52が気泡貯留空間55及び排出通路56の2つの領域に分けられている。即ち、外周空間52は、フィルター部材5によってその上流側領域であって中空糸体47に臨む気泡貯留空間55と、その下流側領域(即ち、気泡貯留空間55の半径方向外側の領域)である排出通路56とに分けられる。それ故、環状通路43から外周空間52に導かれる血液は、まず気泡貯留空間55に入り、その後フィルター部材5を通って排出通路56に進むようになっている。
【0043】
このような流れる血液は、血液流入ポート16からハウジング2へ導かれる際に気泡を運んでくることがあり、気泡は、血液の流れに乗って伝熱管32b、径方向通路41を通って環状通路43まで運ばれてくる。後述するように、気泡は、基本的に中空糸体47に取り込まれるが、必ずしも全部を取り込むことができない。それ故、取り込めなかった気泡が血液によって気泡貯留空間55まで運ばれてくる。また、血液は、気泡貯留空間55からフィルター部材5を通って排出通路56に進むが、運ばれてくる気泡は、フィルター部材5の目開きが細かいが故に大多数がフィルター部材5を通過できずに堰き止められる。即ち、気泡は、フィルター部材5の手前で止められてフィルター部材5に沿って浮上する。浮上した気泡は、気泡貯留空間55の最も高い部分、即ち頂部59aの周辺に集まって溜まる。このようにして気泡貯留空間55にて気泡が捕捉される。また、フィルター部材5もまた全ての気泡に関して透過を阻止するということは難しく、不意に気泡が通過することがある。このような気泡に関しては、凹部50の最も高い部分である頂部59aの周辺に集められるようになっている。このように集められた気泡を排出すべく、ハウジング本体11の上部には第1エア抜きポート57及び第2エア抜きポート58が形成されている。
【0044】
第1エア抜きポート57は、大略円筒状になっており、第1エア抜きポート57の内孔は、頂部59a付近にて開口している。また、第1エア抜きポート57には、図示しないチューブが接続され、チューブにはその途中にピンチ又は開閉可能なコックが設けられている。このピンチを外す又はコックを開けることによって、頂部59aの周辺に溜まった気泡の略全てを第1エア抜きポート57から排出することができる。第2エア抜きポート58は、第1エア抜きポート57と同様に、大略円筒状になっており、第2エア抜きポート58の内孔は、頂部50b付近にて開口している。また、第2エア抜きポート58には、図示しないチューブが接続され、チューブにはその途中にピンチ又は開閉可能なコックが設けられている。このピンチを外す又はコックを開けることによって頂部50bの周辺に溜まった気泡の略全てを第2エア抜きポート58から排出することができる。このように気泡と分離された血液は、排出通路56に沿って下方に流れていく。このようにして分離された血液をハウジング2外へと排出すべく、ハウジング本体11にはその外周面の下部であって排出通路56に対応する位置に血液流出ポート17が設けられている。これにより、排出通路56に沿って下方に流れる血液が血液流出ポート17を介して血液排出チューブに排出される。以下では、血液流出ポート17の構成について図3も参照しながら更に詳細に説明する。
【0045】
血液流出ポート17は、前述の通り、ハウジング本体11の外周面の下部に設けられており、ハウジング本体11の外周面の下部には、血液流出ポート17を設けるべくポート取付部22が一体的に設けられている。ポート取付部22は、大略円筒状に形成されており、ハウジング本体11から下方に突出している。なお、ポート取付部22は、必ずしも鉛直下方に延在している必要はなく、下方に延在し且つ前後左右の何れの方向に傾いていてもよい。また、ポート取付部22は、その外周面及び内周面が共に基端側部分22bに対して先端側部分22cが拡径しており、基端側部分22bと先端側部分22cとの間にテーパ部分22dが形成されている。テーパ部分22dは、基端側部分22b側から先端側部分22c側に進むにつれて拡径しており、基端側部分22b及び先端側部分22cは、外周面及び内周面共にテーパ部分22dによって滑らかに繋がっている。このように形成されているポート取付部22には、血液流出ポート17が挿入されている。
【0046】
血液流出ポート17は、大略円筒状であって屈曲するように形成されており、その中間部分である屈曲部17bにて曲がっている。即ち、血液流出ポート17は、屈曲部17bより先端側の部分(即ち、先端側部分)である下側部分17cが屈曲部17bより基端側の部分(即ち、基端側部分)である上側部分17dに対して角度αを成している。ここで角度αは、例えば30度以上120度以下であり、本実施形態では60度である。なお、血液流出ポート17では、人工肺装置1を床等に置いたり近づけたりして設置する際にチューブが折れ曲がることを防ぐべく角度αを30度以下とし、また血液流出ポート17の先端にある流出口17aがハウジング本体11に近づきすぎてチューブが取り付けられなくなることを防ぐべく角度αを120度以下としている。
【0047】
このような形状を有する血液流出ポート17では、上側部分17dがポート取付部22に挿入され、上側部分17dの軸線L2を中心に回動可能に構成されている。即ち、血液流出ポート17は、ポート取付部22に回動可能に取り付けられており、回動させることによって血液流出ポート17の流出口17aを様々な方向に向けることができる。また、ポート取付部22の内孔22aは、ハウジング本体11に形成される連通路11aを介して外周空間52(より詳しくは、排出通路56)と連通している。それ故、排出通路56に沿って下方に流れてくる血液は、連通路11aを通って血液流出ポート17に入り、更に流出口17aから動脈血チューブに排出される。
【0048】
このように構成されている血液流出ポート17は、前述の通り、回動可能にすべくポート取付部22に挿入して取り付けられている、即ちハウジング本体11と別体で構成されている。それ故、血液流出ポート17とポート取付部22との間から血液が漏れ出たり、また血液流出ポート17がポート取付部22から外れたりすることに対する対策を講じる必要がある。これらの対策を講じるべく血液流出ポート17は、以下のように構成されている。
【0049】
血液流出ポート17は、血液が漏れ出ないようにすべく、上側部分17dの上端付近にシール取付部61を有している。シール取付部61は、上端部分17eの周方向全周にわたって形成されており、残余の部分より半径方向外方に突出している。このような形状を有するシール取付部61には、2つのシール溝61a,61bが形成されている。2つのシール溝61a,61bは、互いに軸線L2に沿う方向、本実施形態では上下方向に離れており、シール取付部61において周方向全周にわたって延在している。即ち、2つのシール溝61a,61bは、円環状に形成されており、各々にはシール部材62,63が収まっている。シール部材62,63は、例えばOリングであり、圧縮された状態にてシール溝61a,61bに収容されている。これにより、シール部材62,63が血液流出ポート17の外周面とポート取付部22の内周面との間に介在し、シール部材62,63によってそれらの間が封止されている。
【0050】
また、2つのシール溝61a,61bは、互いに径方向の長さ、即ち深さが異なっている。具体的に説明すると、上側(即ち、基端側)に位置する第1シール溝61aは、下側(即ち、先端側)に位置する第2シール溝61bに対して深く形成されている。他方、2つのシール部材62,63としては、略同じ寸法のものが採用されている。それ故、血液流出ポート17をポート取付部22に取り付けた際には、第1シール溝61aに嵌められた第1シール部材62に対して、第2シール溝61bに嵌められた第2シール部材63の方が潰し率が大きくなる。即ち、第2シール部材63は、第1シール部材62より高い密閉性を実現することができ、そのような第2シール部材63をポート取付部22の開口側に配置することができる。これにより、仮に第1シール部材62とポート取付部22との間からポート取付部22の開口側に血液が漏れ出ても、更に開口側に漏れ出ることを第2シール部材63によって防ぐことができる。また、2つのシール部材62,63のうち一方だけの潰し率を大きくしているので、血液流出ポートを回動させる際のシール部材による摺動抵抗の増加を抑えることができる。なお、本実施形態では、2つのシール溝61a,61bの深さによって2つのシール部材62,63の潰し率が異なるように構成されているが、必ずしもこのような構成である必要はない。例えば、2つのシール部材62,63を異なる寸法にして潰し率が異なるようにしてもよく、また2つのシール部材62,63を異なる形状にして潰し率が異なるようにしてもよい。また、潰し率が同程度になるように構成されていてもよい。
【0051】
また、血液流出ポート17は、ポート取付部22から外れないようにすべく、上側部分17dであってシール取付部61以外の残余の部分に2つのフランジ64,65が形成されている。2つのフランジ64,65は、共に上側部分17dの外周面において周方向全周にわたって形成されており、上側部分17dの外周面から半径方向外方に突出している。また、2つのフランジ64,65は、互いに上下方向に離して配置されて、2つのフランジ64,65のうち上側に配置される第1フランジ64は、シール取付部61から少し下方に離れた位置に形成されている。更に、第1フランジ64は、血液流出ポート17をポート取付部22に取り付けた際にポート取付部22のテーパ部分22dより下方に位置するように配置されている。また、ポート取付部22の内周面には、第1フランジ64に対応する位置に係合部23が形成されている。
【0052】
係合部23は、第1フランジ64を係合させて、血液流出ポート17がポート取付部22から外れることを防ぐようになっており、本実施形態では一対の係合片22e,22eによって構成されている。一対の係合片22e,22eは、互いに周方向に等間隔をあけて、即ち約180度離して配置されており、ポート取付部22の内周面において周方向に延在している。また、一対の係合片22e,22eは、ポート取付部22の内周面から半径方向内側に突出し、また下方から上方に向かうに連れて突出量が大きくなるようにテーパ状に形成されている。即ち、ポート取付部22の内周面は、一対の係合片22e,22eが係合されている部分において下方から上方に向かうにつれて縮径している。それ故、血液流出ポート17をポート取付部22に取り付けるべく血液流出ポート17をポート取付部22の開口から挿入すると、やがて第1フランジ64が一対の係合片22e,22eの内面、即ちテーパ面22f,22fに当たることになる。更に血液流出ポート17をポート取付部22に取り付けるべく上方に押し込むと、第1フランジ64が一対の係合片22e,22eを外側へと押し退けながらテーパ面22f上を摺動する。それ故、血液流出ポート17を更にポート取付部22の基端側へと挿入することができる。なお、第1フランジ64では、第1フランジ64がテーパ面22f上を摺動しやすいように、第1フランジ64の上側の外周縁が大きく面取りされている。そうすることで、第1フランジ64を下方に撓ませ且つテーパ面22f上を摺動させ、血液流出ポート17をポート取付部22の基端側へと押し込むことができる。
【0053】
また、押し込んでいくと、やがて第1フランジ64全体が一対の係合片22e,22eの上面より基端側に達する、即ち第1フランジ64全体が一対の係合片22e,22eを乗り越える。そうすると、第1フランジ64が弾性復帰して拡がり、第1フランジ64が一対の係合片22e,22eの上面に載り上げて係合する。このように第1フランジ64と一対の係合片22e,22eとを係合させることによって、第1フランジ64が一対の係合片22e,22eによって支えられ、血液流出ポート17に対して下方の力が作用してもポート取付部22から外れることを抑制することができる。なお、血液流出ポート17は、排出通路56を介して導かれる血液から下方の荷重を受けており、使用中においては常時下方に押されている。前述のように第1フランジ64が一対の係合片22e,22eによって支えることで、使用中において血液流出ポート17がポート取付部22から外れることを抑制することができる。このように構成されているポート取付部22の外周面、より詳細には先端側部分22cの内周面には、一対の窓66,66が形成されている。
【0054】
一対の窓66,66は、先端側部分22cを径方向に貫通させて形成されており、一対の係合片22e,22eの各々に対応するように配置されている。即ち、一対の窓66,66の下端縁が一対の係合片22e,22eの上面と略面一となっており、また高さが第1フランジ64の高さと略一致している。更に、一対の窓66,66は、周方向に延在しており、その周方向の両端縁の位置は、対応する係合片22e,22eの両端縁の位置と略一致している。このように形成される一対の窓66,66は、ポート取付部22において一対の係合片22e,22e周りの変形を促すことができる。これにより、血液流出ポート17をポート取付部22に押し込んだ際に、血液流出ポート17の第1フランジ64によって一対の係合片22e,22eを多少なりとも押し広げるが可能になり、血液流出ポート17をポート取付部22を押し込みやすくなる。また、一対の係合片22e,22eに支持される第1フランジ64が一対の窓66,66を介して外側から見ることができるので、外側から第1フランジ64の係合状態を視認させることができる。このようにして係合されている血液流出ポート17は、一対の係合片22e,22eに第1フランジ64を載せて係合する構造であるので、ポート取付部22に対して前後左右に揺動することによって第1フランジ64が一対の係合片22e,22eの一方から外れる場合がある。そのような事態を防ぐべく、上側部分17dには、第1フランジ64に加えて第2フランジ65が形成されている。
【0055】
第2フランジ65は、上側部分17dの屈曲部17b付近に形成されており、第1フランジ64が一対の係合片22e,22eに係合している状態でポート取付部22内に入り込んでいる。また、第2フランジ65の外径は、ポート取付部22の先端側部分22cの内周面と略同一又は若干小さくなっている。それ故、血液流出ポート17がポート取付部22に対して前後左右に揺動しようとすると第2フランジ65がポート取付部22の内周面に当たり、血液流出ポート17の揺動が規制される。これにより、血液流出ポート17は、ポート取付部22に対して前後左右に揺動して第1フランジ64が一対の係合片22e,22eの一方から外れることを防ぐことができる。
【0056】
なお、ポート取付部22の内孔22aは、連通路11aより大径に形成されており、それによって連通路11aの周りに大略円環状の環状面11bが形成されている。また、血液流出ポート17の内径は、連通路11aと略同一となっている。それ故、血液流出ポート17は、その上端を環状面11bと対向させるようにポート取付部22に取り付けられており、環状面11bによって上方への移動が規制されている。このようにして、血液流出ポート17は、上下左右前後への移動が規制されつつ、回動可能にポート取付部22に取り付けられている。また、血液流出ポート17には、それを軸線L2周りに回動させるべく屈曲部17bに把持部67が一体的に設けられている。
【0057】
把持部67は、使用者が指等で把持可能に構成されている。このように構成されている把持部67は、屈曲部17bの外周面の外側部分(図3において曲率半径が大きい側の部分)に一体的に設けられており、屈曲部17bの外周面の外側部分においてそこから離れるように斜め下方(図3では、右斜め下方)に突出している。また、把持部67は、屈曲部17bだけでなくその両端部が下側部分17c及び上側部分17dまで夫々延びており、大略扇状に形成されている。また、把持部67は、板状に形成されており、前述の通り使用者が指等で把持できるようになっている。また、把持部67を把持してそれを軸線L2周りに回動させることによって、血液流出ポート17を軸線L2周りに回動させることができる。
【0058】
このように構成されている把持部67は、屈曲部17bから突出させるように形成することによってリブの役割を果たしており、血液流出ポート17の剛性を向上させている。また、把持部67が下方に突出して血液流出ポート17の流出口17aの下端と同じ高さ水準まで延在しているので、人工肺装置1が吊下げ装置等から落下した際に把持部67から着地させることができる。把持部67は、斜め下方に延在する板状の部材であり、着地した際の荷重に対して大きな剛性を有している。それ故、落下時において把持部67から着地しても把持部67は破損しにくい。また、落下時において把持部67から着地した際、把持部67の最も下方位置から着地し、その衝撃は把持部67に対して上方に作用する。即ち、落下時の衝撃は、血液流出ポート17に対して軸線L2に沿う方向に作用する。血液流出ポート17では、上側部分17dが軸線L2に沿って形成されているので、軸線L2に沿う方向に作用する荷重に対して高い剛性を有している。それ故、落下時に把持部67から着地させることによって、血液流出ポート17が破損することを抑制することができる。
【0059】
このように構成されている人工肺装置1では、静脈から取り出される静脈血が血液流入ポート16介してハウジング2内の血液流入空間14bに流入する。血液流入空間14b内の血液は、管群32の伝熱管32b内へと流れ込み、伝熱管32bを通って一対の径方向通路41へ進む。伝熱管32bを通る際には、血液は内空間31a内の媒体と熱交換が行われ、血液の温度が調整される。温度調整された血液は、一対の径方向通路41を通って環状通路43に進み、また環状通路43に配置される中空糸体47内の隙間を通って軸線方向一方にある排出通路56の方へと更に進んでいく。中空糸体47の各中空糸内には、酸素を多く含むガスが流されており、血液が隙間を通る際に中空糸体47の中空糸に触れることによって血液から二酸化炭素が除去され且つ血液に酸素が付加される。これにより、血液の酸素濃度が増加させることができる。その後、血液は、気泡貯留空間55からフィルター部材5を通って排出通路56に流れる。このように流れる血液は、凝集塊等の異物も運んでくることがあり、血液をフィルター部材5に通すことによってこのような異物が排出通路56に入る前に捕捉される。そして、異物が捕捉された血液は、排出通路56に沿って下方に進み、血液流出ポート17から血液排出チューブに排出され、血液排出チューブを介して動脈に戻される。
【0060】
このような機能を有する人工肺装置1では、前述の通り、血液流出ポート17がポート取付部22に回動可能に取り付けられている。それ故、血液流出ポート17を回動させることでハウジング本体11及び血液流入ポート16の向きに関わらず、血液流出ポート17の向き(即ち、流出口17aの向き)を変更することができる。例えば、図4に示すように流出口17aを血液流入ポート16と反対側(即ち、右側)に向けることができる。また、血液流出ポート17を回動させることで図5(a)に示すように左に向いて配置されている血液流入ポート16に対して流出口17aを紙面手前側に向けたり、また図5(a)に示すように流出口17aを紙面奥側に向けたりすることができる。このように流出口17aの向きを360度変えることができるので、人工肺装置1の配置位置や向き等、又は人工肺装置1が取り付けられる機器の配置位置や向き等の自由度が向上する。即ち、血液流入ポート16及び血液流出ポート17と機器とを接続するチューブの取り回しを容易にすることができる。
【0061】
また、人工肺装置1では、一般的に血液流入ポート16に対して血液流出ポート17の方が各々を流れる血液の圧力が低い。それ故、血液流出ポート17を回動可能に構成することによって、血液流入ポート16を回動可能に構成する場合より血液の漏れをより確実に防ぐことができる。また、血液流出ポート17を回動可能に構成することによって、耐圧性能が低いシール構造にて血液漏れの防ぐことができるので、人工肺装置1のコストを低減することができる。
【0062】
<その他の実施形態について>
本実施形態の人工肺装置1では、血液流出ポート17において2つのシール部材62,63が設けられているが、必ずしも2つ設けられている必要はない。例えば、図6に示す人工肺装置1Aのように第1シール部材62だけが設けられてもよく、また第3シール部材を設けるようにしてもよい。また、血液流出ポート17における第2フランジ65もまた必ずしも必要ではなく、また2つのフランジ64,65に加えて第3フランジを新たに形成してもよい。更に、係合部23は、必ずしも一対の係合片22e,22eによって構成されている必要はなく、一対の係合片22e,22eと同様にポート取付部22の内周面の周方向全周にわたってテーパ状に形成することによって構成されていてもよい。
【0063】
また、本実施形態の人工肺装置1では、ハウジング本体11が大略円筒状に形成されているが、必ずしもこのような形状である必要はない。例えばハウジング本体11は、大略四角筒状に形成されてもよく、筒形であって使用時においてその軸線が略水平方向に平行となるように配置されるものであればよい。また、血液流出ポート17が適用される人工肺装置1は、本件実施形態の横型タイプのものに限定されず、例えば、ハウジング2の両端部が上下方向に配置される縦置きタイプの人工肺装置にも適用することができる。
【0064】
また、本実施形態の人工肺装置1では、血液流出ポート17がポート取付部22の内孔22aに挿入されているが、必ずしもこのような構成である必要はない。即ち、血液流出ポート17の基端側部分が、ポート取付部22を挿入可能な内孔を有し、その内孔に対してポート取付部22を挿入するようにしてもよい。また、本実施形態の人工肺装置1では、ポート取付部22が上下方向に延在するようにハウジング本体11に設けられているが、必ずしもこのような構成である必要はない。例えば、ポート取付部22は、ハウジング本体11の軸線L1と平行に延在するように第1キャップ部材14に一体的に設けられてもよい。そうすることで、血液流出ポート17は、その基端側部分が軸線L1と平行に延在するように配置され、またその先端側部分が基端側部分に対して上下左右の何れかの方向に所定の角度を成して傾斜する。それ故、血液流出ポート17をその基端側部分の軸線を中心に回動させることによって、流出口17aを上下左右の何れ方向にも向けることができる。
【0065】
また、本実施形態の人工肺装置1では、ポート取付部22がハウジング本体11の下部に設けられているが、必ずしもこのような構造である必要はない。例えば、ポート取付部22は、大略筒状に形成されてハウジング本体11の一方の開口端部に外装される。ポート取付部22には、挿通孔又は挿通部が形成され、そこに血液流出ポート17が回動可能に取り付けられる。また、本実施形態の人工肺装置1では、血液流出ポート17が回動可能に構成されているが、血液流入ポート16が回動可能に構成されていてもよい。
【0066】
また、本実施形態の人工肺装置1では、把持部67は下方に突出して血液流出ポート17の流出口17aの下端と同じ高さ水準まで延在しているが、このような態様に限定されたものではなく、把持部67は下方に突出して血液流出ポート17の流出口17aの下端にまで至っていなくてもよい。把持部67が下方に突出するように構成されることで、血液流出ポート17の剛性が高くなり、落下時の衝撃に対する耐性が高くなるように構成できる。
【符号の説明】
【0067】
1 人工肺装置
2 ハウジング
4 ガス交換器
11 ハウジング本体
16 血液流入ポート
17 血液流出ポート
17b 屈曲部
17c 下側部分(先端側部分)
17d 上側部分(基端側部分)
22 ポート取付部(取付部)
22a 内孔
22e 係合片
23 係合部
62 第1シール部材
63 第2シール部材
64 第1フランジ(被係合部)
67 把持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6