(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 15/02 20060101AFI20230613BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20230613BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230613BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20230613BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08L15/02
B60C5/14 A
C08K3/34
C08K9/06
C08L23/22
(21)【出願番号】P 2019024268
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532923(JP,A)
【文献】特開2001-011245(JP,A)
【文献】特開2011-063692(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132666(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185545(WO,A1)
【文献】特開昭63-125576(JP,A)
【文献】特開2011-116810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム
およびハロゲン化ブチルゴ
ムからなる群から選ばれる少なくとも1種を50質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、タルクを10質量部~100質量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記タルクは0.1質量%~20質量%のシランカップリング剤で前処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤がアミノ基を有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記タルクのBET比表面積が1m
2 /g~50m
2 /gであることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物で構成されたインナーライナー層を備えた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として空気入りタイヤの空気透過防止層として用いられるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの最内層には、空気圧の低下の抑制やタイヤ構成部材の劣化抑制のために空気透過防止層(インナーライナー層)が設けられる。このようなインナーライナー層としては、一般的に、空気透過防止性に優れるブチル系ゴムが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。近年、インナーライナーにおいて、空気透過防止性以外に例えば低転がり抵抗性などの他の性能を向上することも求められている。そのため、インナーライナー層に適したブチル系ゴムを主体としたゴム組成物において、空気透過防止性を維持しながら、低転がり抵抗性を従来レベル以上に向上することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、主として空気入りタイヤの空気透過防止層として用いられるタイヤ用ゴム組成物であって、空気透過防止性を維持しながら、低転がり抵抗性を向上したタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種を50質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、タルクを10質量部~100質量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記タルクは0.1質量%~20質量%のシランカップリング剤で前処理を施されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、インナーライナー層の空気透過防止性と低転がり抵抗性の両立について鋭意研究した結果、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムのいずれかを主体としたゴム成分に対してシランカップリング剤で前処理を施したタルクを配合することで、空気透過防止性を良好に維持しながら、転がり抵抗を低減することができることを知見し、本発明に至った。即ち、本発明のタイヤ用ゴム組成物では、前述のゴム成分に対してタルクを配合するにあたって、予め0.1質量%~20質量%のシランカップリング剤で前処理を施したタルクを用いているので、タルクが適度な反応性を有しており、空気透過防止性を良好に維持しながら、低転がり抵抗性を向上することができる。
【0007】
本発明においては、シランカップリング剤がアミノ基を有することが好ましい。また、タルクのBET比表面積が1m2 /g~50m2 /gであることが好ましい。このような構成にすることで、空気透過防止性を良好に維持しながら、低転がり抵抗性を向上するには有利になる。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのインナーライナー層として用いることが好ましく、本発明のタイヤ用ゴム組成物で構成されたインナーライナー層を備えた空気入りタイヤは、優れた空気透過防止性と低転がり抵抗性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、およびイソブチレン‐パラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を必ず含む。これらのゴムを配合することで、優れた空気透過防止性を確保することができる。これらのゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に50質量部以上、好ましくは80質量部~100質量部である。尚、これらのゴムを2種以上併用する場合は、その配合量の合計が前述の範囲を満たすものとする。これらのゴムの配合量が50質量部未満であると、空気透過防止性が充分に得られない虞がある。ハロゲン化ブチルゴムとしては、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム等を例示することができる。イソブチレン‐パラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物としては、Exxonmobil chemical社のExxpro3433、Exxpro3745等を例示することができる。
【0010】
本発明では、ゴム成分として、上述の群から選ばれるゴム以外のジエン系ゴムを含んでもよい。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムのなかでも、特に、天然ゴム、スチレン‐ブタジエンゴムを好適に用いることができる。これら他のジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、後述のシランカップリング剤で前処理が施された無機充填剤(以下、「処理済充填剤」と言う)を必ず含む。ここでいう前処理とは、無機充填剤をミキサーに投入する前に、無機充填剤に対して後述のシランカップリング剤を添加して、後述の条件で撹拌する処理である。前述のゴム成分に対して、通常の無機充填剤ではなく処理済充填剤を用いることで、空気透過防止性を良好に維持しながら、発熱性を低減することができる。また、ゴム組成物のモジュラスを増加して、空気入りタイヤのインナーライナー層として用いたときの耐クラック性を向上することもできる。処理済充填剤として配合される無機充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して10質量部~100質量部、好ましくは15質量部~30質量部である。無機充填剤の配合量が10質量部未満であると空気透過防止性が低下する。無機充填剤の配合量が100質量部を超えると未加硫ゴム組成物の強度が低下する。尚、「処理済充填剤として配合される無機充填剤の配合量」とは、処理済充填剤の配合量からシランカップリング剤分を除いた無機充填剤自体の配合量、即ち、シランカップリング剤で前処理を施す前の無機充填剤の量である。
【0012】
処理済充填剤を構成する無機充填剤としては、BET比表面積が好ましくは1m2 /g~50m2 /g、より好ましくは1m2 /g~30m2 /gであるものを用いるとよい。このようにBET比表面積を設定することで、空気透過防止性を良好に維持しながら、発熱性を低減するには有利になる。BET比表面積が50m2 /gを超えると空気透過防止性が低下する。
【0013】
特に、前述のBET比表面積を満たす無機充填剤のなかでも、下記式(1)で表される無機充填剤を用いることが好ましい。このような無機充填剤を用いることで、処理済充填剤の物性が良好になり、空気透過防止性を良好に維持しながら、発熱性を低減するには有利になる。
【化2】
(式中、MはAl,Fe,Mg,Ca,Na,Kのいずれかの金属原子であり、aは0~7の整数、bは1~4の整数、cは1~10の整数、dは0~8の整数、nは0~4の整数である。)
【0014】
上記式(1)を見たす無機充填剤としては、タルク(化学式が例えばMg3 Si4 O10(OH)2 であり、M=Mg、a=3、b=4、c=10、d=2、n=0である)や、クレー(化学式が例えばAl2Si2 O5 (OH)4 であり、M=Al、a=2、b=2、c=5、d=4、n=0である)等を例示することができる。これらのなかでも、特に、タルクを好適に用いることができる。
【0015】
前述の前処理に用いるシランカップリング剤としては、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス‐(3‐(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス‐(3‐(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。なかでもアミノ基を有するシランカップリング剤(例えば、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン等)が好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。前処理におけるシランカップリング剤の添加量は、無機充填剤の0.1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%である。シランカップリング剤の添加量が無機充填剤の0.1質量%未満であると、シランカップリング剤が微量すぎて、実質的に前処理を行っていない場合と同等になり、上述の効果が得られない。シランカップリング剤の添加量が無機充填剤の20質量%を超えると、シランカップリング剤が過剰になり空気透過防止性が低下する。
【0016】
前述の前処理では、無機充填剤に対してシランカップリング剤を添加して80℃~150℃、好ましくは100℃~140℃の温度条件で、1分~20分間、好ましくは5分~15分間撹拌を行う。温度条件が前述の範囲から外れたり、撹拌時間が前述の範囲から外れると、適切な前処理を行うことができず、空気透過防止性を良好に維持しながら、発熱性を低減する効果が充分に見込めなくなる。尚、前処理を行わずに、無機充填剤とシランカップリング剤とを別々に投入・混合した場合、正常な加硫ゴムが得られなくなる虞がある。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することもできる。他の配合剤としては、カーボンブラック、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、主として空気入りタイヤのインナーライナー層に用いることを意図したものである。そのため、上述のタイヤ用ゴム組成物で構成されたインナーライナー層を備えた空気入りタイヤは、上述のタイヤ用ゴム組成物の優れた空気透過防止性と低い発熱性によって、空気透過防止性と低転がり抵抗性を高度に両立することができる。また、モジュラスを適度に高めて、タイヤの屈曲変形に対する耐クラック性を向上することもできる。
【0019】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
表1に示す配合からなる6種類のゴム組成物(標準例1、比較例1、実施例1~4)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混合することにより、6種類のタイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0021】
得られた6種類のタイヤ用ゴム組成物を使用して、所定形状の金型中で、180℃、10分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法によりモジュラス(M100,M300)、60℃におけるtanδ、空気透過防止性の評価を行った。
【0022】
モジュラス(M100,M300)
得られた加硫ゴム試験片から、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片を切り出し、100%変形応力(100%モジュラス)と300%変形応力(300%モジュラス)をそれぞれ測定した。評価結果は、100%モジュラスについては表1の「M100」の欄に示し、300%モジュラスについては表1の「M300」の欄に示した。この値が大きいほど、耐クラック性に優れることを意味する。
【0023】
60℃におけるtanδ
得られた加硫ゴム試験片の60℃におけるtanδを、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で測定した。評価結果は、表1の「tanδ(60℃)」の欄に示した。この値が小さいほど、低転がり抵抗性に優れることを意味する。
【0024】
空気透過防止性
得られたゴム組成物の加硫試験片を用いて、JIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」のA法(差圧式)に準拠して、試験気体を空気相当(窒素:酸素=8:2)とし、試験温度30℃で空気透過係数を測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数にして、「空気透過防止性」の欄に記載した。この指数が小さいほど、空気透過係数が小さく、空気透過防止性に優れることを意味する。
【0025】
【0026】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ハロゲン化IIR:臭素化ブチルゴム、Exxonmobil chemical社製Exxon bromobutyl 2255
・CB:カーボンブラック、新日化カーボン社製ニテロン#55S
・無機充填剤:タルク、Imerys社製HARtalc:Mistron HAR
・シランカップリング剤:3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、関東化学社製
・処理済充填剤1:下記の方法で前処理を施した無機充填剤(タルク)
・処理済充填剤2:下記の方法で前処理を施した無機充填剤(タルク)
・加硫促進剤:三新化学工業社製サンセラー DM-PO
・硫黄:軽井沢精錬所社製 油処理硫黄
【0027】
処理済充填剤1の前処理方法
タルク(Imerys社製HARtalc:Mistron HAR)に対して、シランカップリング剤としてビス‐(3‐(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(エボニックデグッサ社製Si69)を添加し、115℃の温度条件で、10分間撹拌した。タルクとシランカップリング剤の量(質量部)は表1の処理済充填剤1の欄に括弧を付して(無機充填剤+シランカップリング剤)の順に示した。
【0028】
処理済充填剤2の前処理方法
タルク(Imerys社製HARtalc:Mistron HAR)に対して、シランカップリング剤として3‐アミノプロピルトリエトキシシラン(関東化学社製)を添加し、115℃の温度条件で、10分間撹拌した。タルクとシランカップリング剤の量(質量部)は表1の処理済充填剤2の欄に括弧を付して(無機充填剤+シランカップリング剤)の順に示した。
【0029】
表1から明らかなように、実施例1~4のタイヤ用ゴム組成物は、空気透過防止性を良好に維持しながら、60℃におけるtanδ(発熱性)を低減した。また、モジュラス(M100,M300)を適度に増加した。一方、比較例1のタイヤ用ゴム組成物は、シランカップリング剤を無機充填剤の前処理に用いるのではなく、ミキサーに直接投入・混合したため、正常な加硫ゴムが得られず、モジュラス(M100,M300)、60℃におけるtanδ、空気透過防止性の各測定を行うことができなかった。