(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電気化学反応装置および人工光合成装置
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20230613BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230613BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20230613BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230613BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B1/04
C25B3/26
C25B9/00 A
C25B9/00 G
(21)【出願番号】P 2019027220
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藏薗 功一
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】野尻 菜摘
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-102586(JP,A)
【文献】特開平08-158084(JP,A)
【文献】特開平11-106977(JP,A)
【文献】特開2004-225148(JP,A)
【文献】特開2004-298807(JP,A)
【文献】特開2016-003391(JP,A)
【文献】特開2018-122212(JP,A)
【文献】国際公開第2007/140544(WO,A1)
【文献】米国特許第04036717(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0164152(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319680(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極とカソード電極とが離間されて対向する位置に配置され、前記アノード電極とカソード電極との間を、反応基質を含む電解液が流れる流路を有する電気化学反応装置であって、
前記流路内に、前記電解液の流れの一部を遮って縮流部を形成するための遮流板が複数配置されており、
前記アノード電極と前記遮流板との間に液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とするセパレータが配置されて
おり、
前記遮流板の配置間隔pに対する前記遮流板の厚みtの比t/pは、0.16以下であることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応装置であって、
前記遮流板は、前記流路の断面の中央に配置されていることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気化学反応装置であって、
前記遮流板の断面形状は、矩形、電極側端部の厚みが中心部に比べて薄い、または電極側一端部の厚みが他端部に比べて薄いことを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学反応装置であって、
前記遮流板は、前記セパレータと前記カソード電極との間の流路断面の中央か、または、前記セパレータに接する位置に配置されていることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の電気化学反応装置であって、
前記遮流板の配置間隔pは、60mm以下であることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の電気化学反応装置であって、
前記遮流板と前記アノード電極および前記カソード電極との隙間は、0.5mm以上3mm以下であることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の電気化学反応装置であって、
前記流路内の電解液流れ方向に平行に整流板が複数配置されていることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の電気化学反応装置であって、
前記整流板の配置間隔p1は、10mm以上100mm以下であることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項9】
請求項
7または
8に記載の電気化学反応装置であって、
前記整流板の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の電気化学反応装置と、
前記アノード電極および前記カソード電極に供給される電力を生成する太陽電池セルと、
を備えることを特徴とする人工光合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応装置、およびそれを用いた人工光合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを用いて水(H2O)から水素(H2)、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)等を合成する人工光合成の技術が開示されている。人工光合成を実現するために、酸化反応用電極(アノード電極)-還元反応用電極(カソード電極)間に例えば2~3Vの電位差を印加することが必要であり、これを実現するための電気化学反応装置が提案されている。
【0003】
電気化学反応装置としては、例えば二酸化炭素を還元する還元触媒を有するカソード電極と、水を酸化する酸化触媒を有するアノード電極とを備え、これらの電極を二酸化炭素が溶解した水中に浸漬させ、各電極を電気的に接続させた装置が知られている。酸化触媒を有するアノード電極においては、水を酸化して酸素を得るとともに、電位を得る。還元触媒を有するカソード電極においては、酸化反応を生起する電極から電位を得ることによって、二酸化炭素を還元してギ酸等を生成する。
【0004】
例えば、特許文献1には、二酸化炭素を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部と、水を含む第2の電解液を収容するための第2の収容部と、を備える電解液槽と、第1の収容部に配置され、還元触媒を含む第1の面を有する還元電極と、第2の収容部に配置され、酸化触媒を含む第2の面を有する酸化電極と、還元電極および酸化電極に電気的に接続された電源と、を具備し、第1の収容部における第1の面と第1の収容部の内壁との間の領域は、第1の電解液を送液するための電解液流路であり、電解液流路は、電解液流路の長さ方向に垂直な断面の長さ方向上の一端から他端までの面積分布の極大値を有する極大部と、面積分布の極小値を有する極小部と、を有する、電気化学反応装置が記載されている。この電気化学反応装置における流路構造は、セル外周部を電解液が流れる構造となっている。
【0005】
例えば、特許文献2には、第1の基材と第1の光触媒層を含み、電気的に接続された複数の第1の電極部を持つ水素発生電極と、第2の基材と第2の光触媒層を含み、電気的に接続された複数の第2の電極部を持つ酸素発生電極と、水素発生電極と酸素発生電極との間に設けられた隔膜とを有し、水素発生電極と酸素発生電極とが電気的に接続された人工光合成モジュールであって、酸素発生電極が隔膜を挟んで水素発生電極とは反対側に存在し、水素発生電極の複数の第1の電極部は隙間をあけて並んで配置されており、酸素発生電極の複数の各第2の電極部が、隔膜に対して水素発生電極側から見た場合、それぞれ水素発生電極の第1の電極部の隙間に配置されており、水素発生電極の少なくとも1つの第1の電極部の第1の光触媒層もしくは酸素発生電極の少なくとも1つの第2の電極部の第2の光触媒層が電解水溶液の流れ方向に対して傾斜しているか、または水素発生電極の少なくとも1つの第1の電極部の第1の光触媒層の表面もしくは酸素発生電極の少なくとも1つの第2の電極部の第2の光触媒層の表面に突出部が設けられている、人工光合成モジュールが記載されている。特許文献2の技術では、電極を流路中央に設置した場合、電極を分割化し、さらに複雑な形状の加工が必要であり、配線の複雑化やコストが増大する。また、電極を両サイドに配置し、凹凸構造とした場合、凹部がよどみ点となり、反応が低下するとともに、流速の向上にも寄与しないことから、性能向上には至らない。
【0006】
これらの電気化学反応装置では、カソード電極で二酸化炭素等の反応基質が還元されてギ酸導電体層を生成するために、カソード電極とアノード電極との間の流路に二酸化炭素等の反応基質を飽和させた電解液を供給、循環させている。この際、流路への流入のときの電解液の二酸化炭素等の反応基質の濃度は、ほぼ飽和状態にすることができるものの、カソード電極で二酸化炭素等の反応基質が消費されることで流路内の後流側ではカソード電極表面の二酸化炭素等の反応基質の濃度は急激に低下することがある。これは、二酸化炭素等の反応基質の拡散律速が原因であり、二酸化炭素等の反応基質の濃度の低下は電気化学反応装置の反応効率の低下に直結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-155337号公報
【文献】国際特許出願公開第2017/094484号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、反応効率の低下を抑制することができる電気化学反応装置、およびそれを用いた人工光合成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アノード電極とカソード電極とが離間されて対向する位置に配置され、前記アノード電極とカソード電極との間を、反応基質を含む電解液が流れる流路を有する電気化学反応装置であって、前記流路内に、前記電解液の流れの一部を遮って縮流部を形成するための遮流板が複数配置されており、前記アノード電極と前記遮流板との間に液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とするセパレータが配置されており、前記遮流板の配置間隔pに対する前記遮流板の厚みtの比t/pは、0.16以下である、電気化学反応装置である。
【0010】
前記電気化学反応装置において、前記遮流板は、前記流路の断面の中央に配置されていることが好ましい。
【0011】
前記電気化学反応装置において、前記遮流板の断面形状は、矩形、電極側端部の厚みが中心部に比べて薄い、または電極側一端部の厚みが他端部に比べて薄いことが好ましい。
【0013】
前記電気化学反応装置において、前記遮流板は、前記セパレータと前記カソード電極との間の流路断面の中央か、または、前記セパレータに接する位置に配置されていることが好ましい。
【0015】
前記電気化学反応装置において、前記遮流板の配置間隔pは、60mm以下であることが好ましい。
【0016】
前記電気化学反応装置において、前記遮流板と前記アノード電極および前記カソード電極との隙間は、0.5mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0017】
前記電気化学反応装置において、前記流路内の電解液流れ方向に平行に整流板が複数配置されていることが好ましい。
【0018】
前記電気化学反応装置において、前記整流板の配置間隔p1は、10mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0019】
前記電気化学反応装置において、前記整流板の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明は、前記電気化学反応装置と、前記アノード電極および前記カソード電極に供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える、人工光合成装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、反応効率の低下を抑制することができる電気化学反応装置、およびそれを用いた人工光合成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図1の電気化学反応装置の正面模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置で用いられる遮流板の一例を示す概略構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置で用いられる遮流板の他の例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置で用いられる遮流板の他の例を示す概略構成図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の他の例を示す断面模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置で用いられる遮流板の他の例を示す概略構成図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置で用いられる遮流板の他の例を示す概略構成図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の他の例を示す正面模式図である。
【
図10】
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合と遮流板を用いない場合のカソード電極表面の二酸化炭素(CO
2)濃度を示すグラフである。
【
図11】
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合のプロトン拡散抵抗と遮流板の厚み・ピッチ比との関係を示すグラフである。
【
図12】
図1の電気化学反応装置において
図3,4,5の遮流板を用いた場合、遮流板を用いない場合、
図6の電気化学反応装置において
図7の遮流板を用いた場合の遮流板の効果を示すグラフである。
【
図13】
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合の遮流板の間隔の影響を示すグラフである。
【
図14】
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合の流路断面の流線図である。
【
図15】
図6の電気化学反応装置において
図7の遮流板を用いた場合の流路断面の流線図である。
【
図16】
図9の電気化学反応装置における流量分布に対する整流板の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の一例の概略を
図1,2に示し、その構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る電気化学反応装置の一例を示す断面模式図である。
図2は、
図1の電気化学反応装置の正面模式図であり、
図1は、
図2におけるラインA-Aに沿った断面図である。
【0025】
電気化学反応装置1は、収容部10内に例えば板状の部材であるアノード電極14とカソード電極16とが離間されて対向する位置に配置され、アノード電極14とカソード電極16との間を、二酸化炭素等の反応基質を含む電解液が流れる流路12を有し、流路12内に、電解液の流れの一部を遮って縮流部を形成するための遮流板18が、電解液の流れ方向に対して略垂直に、離間されて複数配置されている。アノード電極14とカソード電極16とは電線等によって電気的に接続されている。
【0026】
電気化学反応装置1は、流路入口20からアノード電極14とカソード電極16との間の流路12に二酸化炭素等の反応基質を含む電解液が導入されることによって機能する。電解液は流路出口22から排出され、流路入口20へ循環されてもよい。アノード電極14においては、水(H2O)が酸化されて酸素(1/2O2)が得られるとともに、電位が得られる。カソード電極16においては、酸化反応を生起する電極から電位を得ることによって、例えば二酸化炭素が還元されてギ酸(HOOOH)等が生成される。
【0027】
上記の通り、流路入口20からの流入のときの電解液の二酸化炭素等の反応基質の濃度は、ほぼ飽和状態にすることができるものの、従来の電気化学反応装置ではカソード電極16で二酸化炭素等の反応基質が消費されることで流路12内の後流側(流路出口22側)ではカソード電極16の表面の二酸化炭素等の反応基質の濃度が急激に低下し、反応効率が低下することがあった。
【0028】
本実施形態に係る電気化学反応装置1では、流路12内に、電解液の流れの一部を遮って縮流部を形成するための遮流板18が複数配置されているため、カソード電極16の表面における二酸化炭素等の反応基質の濃度が向上し、二酸化炭素等の反応基質の濃度低下による反応効率の低下を抑制することができる。
【0029】
カソード電極16の表面の二酸化炭素等の反応基質の濃度は、反応基質の反応速度と電解液中の反応基質の濃度拡散のバランスにより決まる。流路12内の流れは流速が遅く、ほぼ層流状態のため、乱れによる移流拡散の効果は小さい。そこで、流路12内に複数の遮流板18を設置し、カソード電極16の表面近傍に縮流部を形成することにより、電解液の流れをカソード電極16の表面へ導くとともに、流速が上がることによる境界層の狭層化によりカソード電極16の表面における反応基質濃度が向上すると考えられる。その結果、カソード電極16の表面の反応基質の反応量が増加し、ギ酸等の生成量も増加すると考えられる。
【0030】
電気化学反応装置1において、
図1に示すように遮流板18は、流路12の断面の中央に配置されていること、すなわち、カソード電極16のアノード電極14と対向している側の面と遮流板18のカソード電極16側の端部との距離と、アノード電極14のカソード電極16と対向している側の面と遮流板18のアノード電極14側の端部との距離とがほぼ等しいことが好ましい。これによって、反応効率低下の抑制効果が高くなる。
【0031】
図6は、本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の他の例を示す断面模式図である。
図6の電気化学反応装置3では、アノード電極14と遮流板18との間に液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とするセパレータ24が配置されている。
【0032】
アノード電極14から発生する酸素の気泡がカソード電極16へ接触し、酸素が還元されることによってギ酸等の生成が抑制される可能性があるが、セパレータ24が配置され、流路12内の電解液の流れがアノード電極14側とカソード電極16側とに分離されることによって、アノード電極14から発生する酸素の気泡のカソード電極16への接触が抑制され、酸化反応が抑制され、反応効率低下が抑制されると考えられる。
【0033】
電気化学反応装置3において、
図6に示すように遮流板18は、流路12の断面の中央に配置されていること、すなわち、カソード電極16のアノード電極14と対向している側の面と遮流板18のカソード電極16側の端部との距離と、アノード電極14のカソード電極16と対向している側の面と遮流板18のアノード電極14側の端部との距離とがほぼ等しいことが好ましい。また。遮流板18は、セパレータ24に接する位置に配置されていることが好ましい。これらによって、反応効率低下の抑制効果が高くなる。
【0034】
電気化学反応装置1,3において、遮流板18の断面形状は、例えば、正方形、長方形等の矩形(
図3,7参照)、電極側端部の厚みが中心部に比べて薄い、例えば二等辺三角形等の三角形(
図4,5参照)、電極側一端部の厚みが他端部に比べて薄い(
図8参照)、例えば直角三角形等が挙げられ、プロトン移動抵抗の軽減または流体抵抗の軽減等の点から、電気化学反応装置1においては、矩形または電極側端部の厚みが中心部に比べて薄いことが好ましく、電気化学反応装置3においては、矩形またはカソード電極16電極側一端部の厚みがアノード電極14他端部に比べて薄いことが好ましい。
【0035】
電気化学反応装置1,3において、
図3,4,5,7,8に示す、遮流板18の配置間隔pに対する遮流板18の厚みtの比t/pは、0.5以下であることが好ましく、0.16以下であることがより好ましい。遮流板18の配置間隔pに対する遮流板18の厚みtの比t/pが0.5を超えると、反応効率低下の抑制効果が発揮されない場合がある。t/pの下限は、例えば、0.01である。
【0036】
電気化学反応装置1,3において、遮流板18の配置間隔pは、60mm以下であることが好ましく、20mm以下がより好ましい。遮流板18の配置間隔pが60mmを超えると、反応効率低下の抑制効果が発揮されない場合がある。遮流板18の配置間隔pの下限は、例えば、5mmである。
【0037】
電気化学反応装置1,3において、遮流板18とアノード電極14およびカソード電極16との隙間(例えば、遮流板18が流路12の断面の中央に配置されている場合は、
図3,4,5,7,8における(w-d)/2、w:カソード電極16とアノード電極14の間隔、d:遮流板18の幅)は、0.5mm以上3mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。遮流板18とアノード電極14およびカソード電極16との隙間が0.5mm未満の場合は、流体抵抗の増大を招く場合があり、1.5mmを超えると、反応効率低下の抑制効果が発揮されない場合がある。
【0038】
図9は、本発明の実施形態に係る電気化学反応装置の他の例を示す正面模式図である。
図9の電気化学反応装置5では、整流板26が、流路12内の電解液の流れ方向に対して略平行に、離間されて複数配置されている。
【0039】
整流板26は、例えば四角柱形状を有する部材であり、複数の整流板26が、収容部10の流路出口22側の一端からそれに対向する側である流路入口20側の他端に向かう方向に離間されて配置されている。整流板26により、流路12内の流量分布がより均一化される。
【0040】
電気化学反応装置5において、整流板26の配置間隔p1(
図9参照)は、10mm以上100mm以下であることが好ましく、20mm以上50mm以下であることがより好ましい。整流板26の配置間隔p1が10mm未満の場合は、電極反応面積の減少を招く場合があり、100mmを超えると、流路12内の流量分布の均一化効果が低減する場合がある。
【0041】
電気化学反応装置5において、整流板26の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、0.5mm以上2mm以下であることがより好ましい。整流板26の厚みが0.5mm未満の場合は、整流板の強度が低下する場合があり、10mmを超えると、電極反応面積の減少を招く場合がある。
【0042】
遮流板18、整流板26は、例えば、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0043】
電気化学反応装置1,3,5において、流路入口20および流路出口22の数は1ヶ所でもよく、複数でもよい。
【0044】
カソード電極16(還元反応用電極)は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。カソード電極16は、例えば、基板上に順に形成される導電層および導電体層を含んで構成される。
【0045】
基板は、カソード電極16を構造的に支持する部材である。基板は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等が挙げられる。基板は、例えば、金属または半導体を含むものとしてもよい。基板として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、例えば、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)等が挙げられる。基板として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等が挙げられる。基板を金属または半導体を含むものとした場合、カソード電極16と基板との間には絶縁層を形成することが好ましい。絶縁層は、特に限定されるものではないが、半導体の酸化物、窒化物や樹脂等が挙げられる。金属基板とカソード電極16とが電気的に直接接続されている構成としてもよい。
【0046】
導電層は、カソード電極16における集電を効果的にするために設けられる。導電層は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層等が挙げられる。特に、熱的および化学的な安定性を考慮すると、フッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0047】
導電体層は、還元触媒機能を有する材料を含む導電体を含んで構成される。導電体は、カーボン材料(C)を含む材料を含んで構成することができる。カーボン材料の構造体の単体のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つ等が挙げられる。グラフェンおよびグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、例えば、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0048】
還元触媒機能を有する材料として、錯体触媒等を用いることができる。錯体触媒は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2]n、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CH3CN)Cl2]等が挙げられる。
【0049】
錯体触媒による修飾は、例えば、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体層の導電体の上に塗布することで作製することができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。例えば、作用極として導電体層の導電体の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag+電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag+電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag+電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電体層の導電体上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、例えば、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、例えば、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0050】
このように形成された導電体層は、カソード電極16を構成する導電層上に担持、塗布または貼付される。これにより、基板上に、順に導電層および導電体層を有するカソード電極16が形成される。
【0051】
アノード電極14(酸化反応用電極)は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。アノード電極14は、例えば、基板上に順に形成される導電層および酸化触媒層を含んで構成される。
【0052】
基板は、アノード電極14を構造的に支持する部材である。基板は、カソード電極16に用いられる基板と同様の材料とすることができる。
【0053】
導電層は、アノード電極14における集電を効果的にするために設けられる。導電層は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。特に、熱的および化学的な安定性を考慮すると、フッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0054】
酸化触媒層は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料等が挙げられる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015)参照)。
【0055】
例えば、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成する。次に、2mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(K2IrCl6)水溶液50mLに10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH13に調整した黄色溶液を、ホットスターラを用いて90℃で20分加熱する。これによって得られた青色溶液を氷水で1時間冷却する。そして、冷やした溶液(20mL)に3M硝酸(HNO3)を滴下してpH1に調整し、80分撹拌し、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得る。さらに、この溶液に1.5wt%NaOH水溶液(1-2mL)を滴下してpH12に調整する。このようにして得られた酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を、導電層上にpH12で塗布し、乾燥炉内において60℃で40分間保持して乾燥させる。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、アノード電極14を形成することができる。なお、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液の塗布および乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0056】
電解液に含まれる反応基質は、例えば、炭化化合物が挙げられ、例えば、二酸化炭素(CO2)とすることができる。また、電解液は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、例えば、二酸化炭素(CO2)飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによってこの溶液をカソード電極16とアノード電極14との表面に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)や酸素(O2)等を外部の燃料タンクに回収する。
【0057】
収容部10は、アノード電極14およびカソード電極16を支持するとともに、電解液が流れる流路12を構成する部材である。収容部10は、電気化学反応装置をセルとして構成するために必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、収容部10は、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0058】
セパレータ24は、液体と気体を分離し、プロトンを移動可能とする材料のものであればよく、特に制限はないが、例えば、固体高分子電解膜であるナフィオン(登録商標)等を使用することができる。
【0059】
カソード電極16とアノード電極14との間を電気的に接続し、適切なバイアス電圧を印加した状態とする。バイアス電圧を印加する手段は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池等が挙げられる。このとき、アノード電極14に正極が接続され、カソード電極16に負極が接続される。
【0060】
バイアス電圧を印加する手段として太陽電池セルを用いることにより、上記電気化学反応装置と、アノード電極およびカソード電極に供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える人工光合成装置とすることができる。バイアス電圧を印加する手段として太陽電池セルを用いる場合、太陽電池セルは、例えば、アノード電極14およびカソード電極16に隣接して配置することができる。例えば、カソード電極16の背面に太陽電池セルを配置し、太陽電池セルの正極をアノード電極14に接続し、負極をカソード電極16に接続すればよい。
【0061】
二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(H2O)は酸化されて二酸化炭素(CO2)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(H2O)の酸化電位は0.82V、還元電位は-0.41V(いずれも標準水素電極(NHE))である。また、二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CH3OH)への還元電位はそれぞれ-0.53V,-0.61V,-0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20~1.43Vである。炭化化合物である二酸化炭素(CO2)を還元する場合、太陽電池セルは、4枚の結晶系シリコン太陽電池を直接に接続した構成や3枚のアモルファス系シリコン太陽電池を直列に接続したアモルファスシリコン系3接合太陽電池とすることが好適である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合(実施例1)と遮流板を用いない場合のカソード電極表面の二酸化炭素(CO
2)濃度を計算した。結果を
図10に示す。
図10において、横軸は、流路の距離L(アノード電極14とカソード電極16とが対向する部分の流路12の距離、
図1参照)に対するカソード電極16の流路入口側端部からの距離xの比(x/L[-])であり、縦軸は、CO
2濃度[kg/m
3]を示す。
【0064】
このように、実施例1のように遮流板を用いることによって、カソード電極表面の二酸化炭素(CO2)濃度が高くなることがわかる。
【0065】
遮流板の挿入によりアノード電極からカソード電極へのプロトンの移動が阻害される可能性があり、遮流板の配置間隔pに対する遮流板の厚みtの比(t/p)に対するプロトンの拡散抵抗を算出した。
図11に、
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合のプロトン拡散抵抗と、遮流板の配置間隔pに対する遮流板の厚みtの比(t/p)との関係を計算した結果を示す。
【0066】
図11より、プロトン拡散抵抗が、遮流板がない場合の1.1倍以下となるためには、t/pは0.16以下であることが好ましいことがわかる。
【0067】
図12に、
図1の電気化学反応装置において
図3,4,5の遮流板を用いた場合(それぞれ実施例1,2,3)、遮流板を用いない場合、
図6の電気化学反応装置において
図7の遮流板を用いた場合(実施例4)の遮流板の効果を計算した結果を示す。
図12の縦軸は、カソード電極における二酸化炭素(CO
2)の消費率(η)を示す。
【0068】
二酸化炭素(CO2)消費率(η)は、二酸化炭素の飽和濃度に対する二酸化炭素の消費量の比であり、下記式で求められる。
【0069】
【数1】
η:CO
2消費率[-]
ω
0:CO
2飽和濃度[kg/m
3]
ω
x:局所CO
2濃度[kg/m
3]
j
0:CO
2消費量(飽和濃度時)[kg/m
2/s]
L:セル流路長さ[m](
図1参照)
【0070】
このように、実施例1~4のように、遮流板を用いることによって、二酸化炭素の消費率が向上した。
【0071】
図13に、
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合の遮流板の配置間隔pの影響を計算した結果を示す。
図13の横軸は、遮流板の配置間隔[mm]を示し、縦軸は、カソード電極における二酸化炭素(CO
2)の消費率(η)を示す。
【0072】
このように、遮流板の配置間隔pは、60mm以下であることが好ましく、20mm以下がより好ましいことがわかる。
【0073】
図14に、
図1の電気化学反応装置において
図3の遮流板を用いた場合の流路断面の流線図を示し、
図15に、
図6の電気化学反応装置において
図7の遮流板を用いた場合の流路断面の流線図を示す。
【0074】
図14より、遮流板18を設置することによって、電解液の流れがカソード電極16の表面へ導かれやすくなることがわかる。また、
図15より、セパレータ24を設置することによって、電解液がカソード電極16の表面を流れやすくなることがわかる。
【0075】
図16に、
図9の電気化学反応装置における流量分布に対する整流板の効果を計算した結果を示す。
【0076】
このように、整流板を設置することによって、流路12内の流量分布がより均一化されることがわかる。
【0077】
【0078】
このように、遮流板とアノード電極およびカソード電極との隙間は、0.5mm以上3mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であることがより好ましいことがわかる。
【0079】
以上の通り、遮流板を用いることによって、二酸化炭素等の反応基質の濃度低下による反応効率の低下を抑制することができることがわかった。
【符号の説明】
【0080】
1,3,5 電気化学反応装置、10 収容部、12 流路、14 アノード電極、16 カソード電極、18 遮流板、20 流路入口、22 流路出口、24 セパレータ、26 整流板。