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特許7293841透析排液流路を流れる排液の中和システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】透析排液流路を流れる排液の中和システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
A61M1/16 185
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019082710
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020178813
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 順司
(72)【発明者】
【氏名】須藤 良庸
(72)【発明者】
【氏名】有吉 慶志
(72)【発明者】
【氏名】山下 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】上田 満隆
(72)【発明者】
【氏名】谷口 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 篤
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 夕起夫
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-158518(JP,A)
【文献】特開2006-280776(JP,A)
【文献】特開2010-088759(JP,A)
【文献】特開2005-245516(JP,A)
【文献】国際公開第2005/092397(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38;60/00-60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析装置に接続されており、排液が流れる透析排液流路と、
透析液が流れる透析液流路に接続されており、該透析液流路を洗浄する洗浄液を供給する洗浄液供給部と、
前記透析液の溶質成分の一部が溶解していることにより、前記洗浄液とは逆の液性を有する原液を貯える貯液部と、
前記透析排液流路に接続されており、前記貯液部から前記原液を前記透析排液流路に注入する原液注入部と、
前記透析排液流路において前記原液注入部との接続位置より下流側に位置して、前記洗浄液と前記原液とを混合させる混合部と、
前記洗浄液供給部および前記原液注入部の各々と電気的に接続された制御部とを備え、
前記制御部は、前記洗浄液供給部から供給される前記洗浄液のpHおよび流量に応じて、前記原液注入部から前記透析排液流路に注入される前記原液の濃度および流量を決定するとともに、前記洗浄液供給部からの前記洗浄液の供給が開始されたあと、予め設定された中和開始条件に応じて、前記原液注入部から前記原液を前記透析排液流路に注入させる、透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項2】
前記洗浄液供給部は、互いに液性の異なる洗浄液を選択的に供給可能に構成されており、
前記原液注入部は、前記原液として互いに液性の異なる第1原液および第2原液を選択的に前記透析排液流路に注入可能に構成されており、
前記制御部は、前記第1原液および前記第2原液のうち、前記洗浄液とは異なる液性を有する方を前記原液注入部から前記透析排液流路に注入させる、請求項1に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項3】
前記透析排液流路における前記原液注入部との接続位置である原液注入位置より上流側の位置に、前記排液のpHを測定する第1測定部が設けられており、
前記制御部は、前記第1測定部から測定結果を入力される、請求項1または請求項2に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項4】
前記透析排液流路における前記混合部より下流側の位置に、前記排液のpHを測定する第2測定部が設けられており、
前記制御部は、前記第2測定部から測定結果を入力される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記洗浄液供給部からの前記洗浄液の供給開始後、前記透析液流路における前記洗浄液供給部との接続位置である洗浄液注入位置から供給された前記洗浄液が前記透析排液流路における前記原液注入部との接続位置である原液注入位置に流れ着くのに要する時間を経過した時点から、前記原液注入部から前記原液を前記透析排液流路に注入させる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1測定部によって測定された前記排液のpHが第1設定範囲を超えた時点から、前記原液注入部から前記原液を前記透析排液流路に注入させる、請求項3に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1測定部によって測定された前記排液のpHが前記第1設定範囲を包含する第2設定範囲を超えた時点から、前記原液注入部からの前記原液の流量を増加させる、請求項6に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1測定部によって測定された前記排液のpHが前記第2設定範囲を超えた時点から、前記第1測定部によって測定された前記排液のpHが前記第2設定範囲から超えた値に比例して、前記原液注入部からの前記原液の流量を増加させる、請求項7に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記第2測定部によって測定された前記排液のpHが第3設定範囲を超えた時点から、前記原液注入部からの前記原液の流量を増加させる、請求項4に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記第2測定部によって測定された前記排液のpHが前記第3設定範囲を超えた時点から、前記第2測定部によって測定された前記排液のpHが前記第3設定範囲から超えた値に比例して、前記原液注入部からの前記原液の流量を増加させる、請求項9に記載の透析排液流路を流れる排液の中和システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析排液流路を流れる排液の中和システムに関する。
【背景技術】
【0002】
透析施設の水系システムの廃液処理方法について開示した先行文献として、特許第4249642号(特許文献1)がある。特許文献1に記載された透析施設の水系システムの廃液処理方法においては、透析排液を用いて洗浄排液を中和処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4249642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透析排液を用いて洗浄排液を中和する場合、透析排液のpHを調整することができないため、中和処理後の排液のpHを設定範囲内に維持できないことがある。洗浄排液を中和するために透析液とは異なる成分を含む中和液を別途準備する場合、中和システムの構成が複雑になる。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、中和処理後の排液のpHを設定範囲内に維持することができる、透析排液流路を流れる排液の中和システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づく透析排液流路を流れる排液の中和システムは、透析排液流路と、洗浄液供給部と、貯液部と、原液注入部と、混合部と、制御部とを備える。透析排液流路は、透析装置に接続されており、排液が流れる。洗浄液供給部は、透析液が流れる透析液流路に接続されており、透析液流路を洗浄する洗浄液を供給する。貯液部は、透析液の溶質成分の一部が溶解していることにより、洗浄液とは逆の液性を有する原液を貯える。原液注入部は、透析排液流路に接続されており、貯液部から原液を透析排液流路に注入する。混合部は、透析排液流路において原液注入部との接続位置より下流側に位置して、洗浄液と原液とを混合させる。制御部は、洗浄液供給部および原液注入部の各々と電気的に接続されている。制御部は、洗浄液供給部から供給される洗浄液のpHおよび流量に応じて、原液注入部から透析排液流路に注入される原液の濃度および流量を決定するとともに、洗浄液供給部からの洗浄液の供給が開始されたあと、予め設定された中和開始条件に応じて、原液注入部から原液を透析排液流路に注入させる。
【0007】
本発明の一形態においては、洗浄液供給部は、互いに液性の異なる洗浄液を選択的に供給可能に構成されている。原液注入部は、原液として互いに液性の異なる第1原液および第2原液を選択的に透析排液流路に注入可能に構成されている。制御部は、第1原液および第2原液のうち、洗浄液とは異なる液性を有する方を原液注入部から透析排液流路に注入させる。
【0008】
本発明の一形態においては、透析排液流路における原液注入部との接続位置である原液注入位置より上流側の位置に、排液のpHを測定する第1測定部が設けられている。制御部は、第1測定部から測定結果を入力される。
【0009】
本発明の一形態においては、透析排液流路における混合部より下流側の位置に、排液のpHを測定する第2測定部が設けられている。制御部は、第2測定部から測定結果を入力される。
【0010】
本発明の一形態においては、制御部は、洗浄液供給部からの洗浄液の供給開始後、透析液流路における洗浄液供給部との接続位置である洗浄液注入位置から供給された洗浄液が透析排液流路における原液注入部との接続位置である原液注入位置に流れ着くのに要する時間を経過した時点から、原液注入部から原液を透析排液流路に注入させる。
【0011】
本発明の一形態においては、制御部は、第1測定部によって測定された排液のpHが第1設定範囲を超えた時点から、原液注入部から原液を透析排液流路に注入させる。
【0012】
本発明の一形態においては、制御部は、第1測定部によって測定された排液のpHが第1設定範囲を包含する第2設定範囲を超えた時点から、原液注入部からの原液の流量を増加させる。
【0013】
本発明の一形態においては、制御部は、第1測定部によって測定された排液のpHが第2設定範囲を超えた時点から、第1測定部によって測定された排液のpHが第2設定範囲から超えた値に比例して、原液注入部からの原液の流量を増加させる。
【0014】
本発明の一形態においては、制御部は、第2測定部によって測定された排液のpHが第3設定範囲を超えた時点から、原液注入部からの原液の流量を増加させる。
【0015】
本発明の一形態においては、制御部は、第2測定部によって測定された排液のpHが第3設定範囲を超えた時点から、第2測定部によって測定された排液のpHが第3設定範囲から超えた値に比例して、原液注入部からの原液の流量を増加させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で、中和処理後の排液のpHを設定範囲内に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムの構成を示す系統図である。
図2】本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムが備える制御部の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムの構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施形態に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムについて図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0019】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムの構成を示す系統図である。図2は、本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムが備える制御部の構成を示すブロック図である。
【0020】
図1および図2に示すように、本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム100は、透析排液流路120と、洗浄液供給部130と、貯液部と、原液注入部180と、混合部123と、制御部10とを備える。
【0021】
図1に示すように、透析排液流路120は、透析装置110に接続されており、排液が流れる。排液としては、使用済みの透析液である透析排液、および、透析液流路171を洗浄した後の洗浄液である洗浄排液がある。
【0022】
洗浄液供給部130は、透析液が流れる透析液流路171に接続されており、透析液流路171を洗浄する洗浄液を供給する。具体的には、洗浄液供給部130は、透析液流路171の洗浄液注入位置172に接続されている。なお、洗浄液供給部130は、後述する透析液調製装置170または透析装置110に設けられていてもよい。
【0023】
本実施形態においては、洗浄液供給部130は、互いに液性の異なる洗浄液を選択的に供給可能に構成されている。具体的には、洗浄液供給部130は、酸洗浄およびアルカリ洗浄に用いられる洗浄液を選択的に供給可能に構成されている。なお、洗浄液供給部130は、酸洗浄およびアルカリ洗浄に用いられるいずれか一方の洗浄液のみを供給可能に構成されていてもよい。
【0024】
酸洗浄に用いられる洗浄液としては、たとえば、0.5%以上2.0%以下の濃度の、酢酸水溶液、過酢酸水溶液またはクエン酸水溶液などがある。アルカリ洗浄に用いられる洗浄液としては、たとえば、100mg/L以上1000mg/L以下の濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液がある。
【0025】
洗浄液供給部130は、酸洗浄液を貯液する酸タンク、アルカリ洗浄液を貯液するアルカリタンク、並びに、酸タンクおよびアルカリタンクのいずれか一方から選択的に洗浄液を送出するポンプを内蔵している。
【0026】
貯液部は、透析液の溶質成分の一部が溶解していることにより、洗浄液とは逆の液性を有する原液を貯える。本実施形態においては、貯液部として、第1貯液部141および第2貯液部151が設けられている。
【0027】
原液として、第1原液および第2原液が生成される。第1原液は、透析液の溶質成分の一部である、たとえば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩およびナトリウム塩およびブドウ糖などの少なくともいずれかを含む第1粉末が水に溶解することにより調製された液体製剤である。第2原液は、透析液の溶質成分の他の一部である炭酸水素ナトリウムを少なくとも含む第2粉末が水に溶解することにより調製された液体製剤である。第1原液は、第1粉末溶解装置140にて生成される。第2原液は、第2粉末溶解装置150にて生成される。
【0028】
第1貯液部141は、第1粉末溶解装置140と接続されている。第1粉末溶解装置140は、第1原液を貯液する第1タンクおよび第1原液を第1タンクから送出する第1ポンプを内蔵している。第1粉末溶解装置140は、第1原液を所望の濃度で生成可能に構成されている。
【0029】
第2貯液部151は、第2粉末溶解装置150と接続されている。第2粉末溶解装置150は、第2原液を貯液する第2タンクおよび第2原液を第2タンクから送出する第2ポンプを内蔵している。第2粉末溶解装置150は、第2原液を所望の濃度で生成可能に構成されている。
【0030】
第1粉末溶解装置140は、第1開閉弁182を介して透析液調製装置170と接続されている。第2粉末溶解装置150は、第2開閉弁184を介して透析液調製装置170と接続されている。透析液調製装置170は、逆浸透水生成装置160と接続されている。
【0031】
透析液調製装置170において、逆浸透水生成装置160から供給された逆浸透水と、第1粉末溶解装置140から供給された第1原液および第2粉末溶解装置150から供給された第2原液とが混合されることにより、透析液が調製される。透析液調製装置170は、透析液流路171を通じて透析装置110と接続されている。
【0032】
原液注入部180は、透析排液流路120に接続されており、貯液部から原液を透析排液流路120に注入する。具体的には、原液注入部180は、第1貯液部141と透析排液流路120との間に設けられた第3開閉弁183、第2貯液部151と透析排液流路120との間に設けられた第4開閉弁185、および、ポンプ181を含んでいる。
【0033】
ポンプ181は、たとえば、ギアポンプまたは定量ポンプである。本実施形態においては、第1貯液部141および第2貯液部151の各々から、1つのポンプ181によって透析排液流路120に原液が注入されるが、第1貯液部141および第2貯液部151に1対1で対応するように、2つのポンプが設けられていてもよい。
【0034】
第1貯液部141は、第3開閉弁183およびポンプ181を介して透析排液流路120に接続されている。第2貯液部151は、第4開閉弁185およびポンプ181を介して透析排液流路120に接続されている。原液注入部180は、透析排液流路120の原液注入位置122に接続されている。このように、原液注入部180は、原液として互いに液性の異なる第1原液および第2原液を選択的に透析排液流路120に注入可能に構成されている。
【0035】
混合部123は、透析排液流路120において原液注入部180との接続位置である原液注入位置122より下流側に位置して、洗浄液と原液とを混合させる。本実施形態においては、混合部123は、透析排液流路120がU字状に曲折した部分である。
【0036】
透析排液流路120において混合部123の下流側に、排液の中和反応によって発生したガスを排液から分離するためのガス分離部124が設けられている。ガス分離部124には、ガスを放出するための排気ファン194が取り付けられている。なお、ガス分離部124に、排気ファン194の代わりに、ガス分離部124の内部の圧力が閾値を超えた際にガスを放出するベントが取り付けられていてもよい。
【0037】
透析排液流路120においてガス分離部124の下流側に、バッファ部125が設けられている。バッファ部125には、石灰石193が収容されている。石灰石193は、酸と反応すると炭酸塩になり、二酸化炭素と反応すると酸化カルシウムになり、アルカリと反応すると水酸化カルシウムになる。
【0038】
バッファ部125の出口には、石灰石193の流出を防止するためのメッシュ126が配置されている。バッファ部125の出口は、上方に偏心した偏心ソケットと接続されており、バッファ部125の底部上に石灰石193を蓄えることができるように構成されている。なお、バッファ部125は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0039】
透析排液流路120の末端129から排出された排液は、下水道に流される。下水道に排出される排液は、環境負荷の観点から、排出基準を満たしていなければならない。排出基準において、排液のpHは、たとえば、5.8以上8.6以下でなければならない。
【0040】
本実施形態においては、透析排液流路120における原液注入部180との接続位置である原液注入位置122より上流側の位置に、排液のpHを測定する第1測定部である第1pHセンサ191が設けられている。第1pHセンサ191は、透析排液流路120の第1測定位置127における排液のpHを測定する。なお、第1pHセンサ191は、透析液流路171の洗浄中における洗浄液の流量が一定である場合は、設けられていなくてもよい。
【0041】
透析排液流路120における混合部123より下流側の位置に、排液のpHを測定する第2測定部である第2pHセンサ192が設けられている。第2pHセンサ192は、透析排液流路120の第2測定位置128における排液のpHを測定する。
【0042】
図2に示すように、制御部10は、洗浄液供給部130および原液注入部180の各々と電気的に接続されている。また、制御部10は、第1pHセンサ191および第2pHセンサ192の各々と電気的に接続されている。制御部10は、第1pHセンサ191から測定結果を入力される。制御部10は、第2pHセンサ192から測定結果を入力される。制御部10は、記憶部11および演算部12を含んでいる。
【0043】
以下、本発明の実施形態1に係る透析排液流路120を流れる排液の中和システム100の動作について説明する。
【0044】
透析装置110による透析治療終了後、洗浄液供給部130から洗浄液が透析液流路171に供給される。なお、透析装置110による透析治療中は、第1開閉弁182および第2開閉弁184の各々は開いており、第3開閉弁183および第4開閉弁185の各々は閉じている。透析液流路171の洗浄開始時に、制御部10によって、第1開閉弁182および第2開閉弁184の各々は閉じられ、第3開閉弁183および第4開閉弁185の各々は開かれる。
【0045】
酸洗浄する場合は、洗浄液供給部130から、0.5%以上2.0%以下の濃度の、酢酸水溶液、過酢酸水溶液またはクエン酸水溶液などが洗浄液として供給される。この酸洗浄液のpHは、およそ2.6以上3.0以下となっている。酸洗浄液は、透析液流路171内に付着した炭酸塩などと反応し、およそpH2.8以上3.2以下の洗浄排液となる。
【0046】
アルカリ洗浄する場合は、100mg/L以上1000mg/L以下の濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液が洗浄液として供給される。このアルカリ洗浄液のpHは、およそ9.0以上10.0以下となっている。アルカリ洗浄液は、透析液流路171内に付着した蛋白成分およびケイ素含有成分などと反応し、pHが反応前に比べて中性寄りの洗浄排液となる。
【0047】
制御部10は、第1原液および第2原液のうち、洗浄液とは異なる液性を有する方を原液注入部180から透析排液流路120に注入させる。具体的には、洗浄液供給部130から酸洗浄液が供給される場合は、制御部10は、原液注入部180から第2原液を透析排液流路120に注入させる。逆に、洗浄液供給部130からアルカリ洗浄液が供給される場合は、制御部10は、原液注入部180から第1原液を透析排液流路120に注入させる。
【0048】
制御部10は、洗浄液供給部130から供給される洗浄液のpHおよび流量に応じて、原液注入部180から透析排液流路120に注入される原液の濃度および流量を決定する。
【0049】
制御部10の記憶部11には、洗浄液供給部130から供給される洗浄液の種類、および、洗浄液のpHまたは濃度が、あらかじめ入力されて記憶されている。また、制御部10の記憶部11には、洗浄液供給部130から供給される洗浄液の種類、洗浄液のpHまたは濃度、および、洗浄液の流量から、洗浄液を中和するために必要な原液の流量を算出するための演算式が記憶されている。制御部10は、洗浄液の種類、および、洗浄液のpHまたは濃度、並びに、洗浄液を中和するために必要な原液の流量を算出するための演算式などの記憶部11に記憶されている情報に基づいて、演算部12において、原液注入部180から透析排液流路120に注入される原液の濃度および流量を算出する。
【0050】
ここで、制御部10の演算部12において行なわれる演算について例示する。
酢酸、過酢酸およびクエン酸などの弱電解質は、水溶液のpHによって乖離度が異なるので、弱電解質の濃度と乖離定数から中和に必要な原液の濃度を算出する。
【0051】
弱電解質の濃度から水溶液のpHを算出するには、弱電解質の濃度と分子量とからmol濃度aを算出し、mol濃度aと乖離定数pKaから、乖離度α=(exp(ln(0.1)×pKa)/a)1/2を算出する。mol濃度aと乖離度αとから、pH=log(1/aα)を算出する。
【0052】
特定のpH時の弱酸の濃度は、exp(ln(0.1)×pH)×POWER(0.1,(pH-pKa))の演算により算出される。
【0053】
中和反応は、乖離度とは関係がなく、水素イオン濃度[H+]によるので、洗浄液の酸当量-中和後の洗浄排液の所望の酸当量から、中和に必要なアルカリ当量を算出することができる。
【0054】
以下、1%W/Vの濃度で20Lの量の酢酸水溶液を、7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウムを用いて中和する場合について詳述する。
【0055】
酢酸(CH3COOH)は、水溶液中でH+とCH3COO-に乖離するが、乖離定数(pKa)が4.76である酸性弱電解質である。酢酸の分子量は、約60である。そのため、1%W/Vの濃度の酢酸水溶液のモル濃度は、0.167(=10g/60g)mol/Lとなる。
【0056】
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は、水溶液中でNa+とHCO3 -に乖離する。炭酸水素ナトリウムは、両乖離性であり、酸側乖離定数(pKa)が6.35であり、アルカリ側乖離定数(pKb)が10.33である塩基性弱電解質である。炭酸水素ナトリウムの分子量は、約84である。7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液のモル濃度は、0.833(=70g/84g)mol/Lとなる。
【0057】
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)と酢酸(CH3COOH)の中和反応式は下記となる。
NaHCO3+CH3COOH→CH3COONa+CO2+H2
中和により生成した二酸化炭素(CO2)は、炭酸ガスとして放出されるが、一部は水に溶解し、H2CO3(H++HCO3 -)となり、中和後の水溶液は、1atm,25℃の雰囲気中において、pH5.6前後の弱酸性を示す。
【0058】
1%W/Vの濃度の酢酸水溶液のモル濃度は0.167mol/Lであり、酢酸イオンおよび水素イオンは共に1価なので、酢酸水溶液の規定度は、0.167(mol/L)×2(Eq)=0.333(Eq/L)となる。
【0059】
7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液のモル濃度は0.833mol/Lであり、Na+およびHCO3 -は共に1価なので、炭酸水素ナトリウム水溶液の規定度は、0.833(mol/L)×2(Eq)=1.67(Eq/L)となる。
【0060】
20Lの量の酢酸のEqは、20(L)×0.333(Eq/L)=6.67(Eq)となる。中和に必要な炭酸水素ナトリウムの量は、6.67(Eq)÷1.67(Eq/L)=4.0(L)となる。
【0061】
酢酸と炭酸水素ナトリウムとを混合して中和すると、二酸化炭素が生成されるため、水溶液中の溶存二酸化炭素により、水溶液のpHが酸性側に傾くので補正が必要になる。
【0062】
1%W/Vの濃度で20Lの量の酢酸水溶液を、7%W/Vの濃度で4.0Lの量の炭酸水素ナトリウムを用いて中和すると、pH5.6の水溶液が24.0L生成される。この水溶液に、7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウムを追加することにより、pHが7付近になるまで中和する。
【0063】
pH5.6の水溶液の水素イオン濃度は、2.516×10-6mol/Lなので、24Lの水溶液中には、6.0×10-5molの水素イオンがあることになる。そのため、6.0×10-5mol当量の炭酸水素ナトリウムを用いて中和すればよいが、乖離度を補正をする必要がある。
【0064】
炭酸水素ナトリウムのアルカリ側乖離定数(pKb)は10.33であるため、pHが7~8付近の乖離度は、およそ0.54程度になる。すると、6.0×10-5÷0.54=1.12×10-4molの炭酸水素ナトリウムが必要になる。
【0065】
7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液のモル濃度は0.833mol/Lであるため、1.12×10-4(mol)÷0.833(mol/L)=0.13(mL)の補正が必要になる。
【0066】
中和後のpHが7以外の場合は、添加する炭酸水素ナトリウム水溶液により、溶媒量が増えるので、溶媒量の増加による補正が必要になる。pH3.0である酢酸水溶液(pKa=4.76)の20Lを、7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウム(pKa=6.31)を用いてpH5.0付近まで中和する。
【0067】
この場合、炭酸水素ナトリウムは全て中和反応によって消費されるため、乖離度の考慮は不要である。pH3.0の酢酸水溶液のモル濃度は、57.545mmol/Lであり、pH5.0の酢酸水溶液のモル濃度は、0.00575mmol/Lである。
【0068】
これらのモル濃度の差は、57.545(mmol/L)-0.00575(mmol/L)≒57.539(mmol/L)である。7%W/Vの濃度の炭酸水素ナトリウムのモル濃度は、833.23mmol/Lである。
【0069】
よって、炭酸水素ナトリウム水溶液の必要量Xは下記の方程式を満たしている。
57.539(mmol/L)×20(L)-833.23(mmol/L)×X(L)≒0.00575(mmol/L)×(20+X)(L)
上記の方程式から、X≒1.381Lが求まる。よって、pH5.0付近まで中和するためには、1.381Lの炭酸水素ナトリウム水溶液が補正に必要になる。
【0070】
上記のように演算部12によって算出された原液の濃度および必要量の情報が、原液注入部180に送られる。その情報に基づいて、第1貯液部141内の第1原液の濃度、第2貯液部151内の第2原液の濃度、および、ポンプ181の出力が調整される。
【0071】
制御部10は、洗浄液供給部130からの洗浄液の供給が開始されたあと、予め設定された中和開始条件に応じて、原液注入部180から原液を透析排液流路120に注入させる。
【0072】
原液注入部180から原液を透析排液流路120に注入させる際には、制御部10によって、第1開閉弁182および第2開閉弁184の各々が閉じられ、第3開閉弁183および第4開閉弁185の各々が開かれるとともに、ポンプ181が稼働する。
【0073】
本実施形態においては、制御部10は、洗浄液供給部130からの洗浄液の供給開始後、透析液流路171における洗浄液供給部130との接続位置である洗浄液注入位置172から供給された洗浄液が透析排液流路120における原液注入部180との接続位置である原液注入位置122に流れ着くのに要する時間を経過した時点から、原液注入部180から原液を透析排液流路120に注入させる。この場合、酸洗浄液が原液注入位置122に流れ着いたことが中和開始条件となる。このように、原液注入部180は、洗浄液供給部130の稼働開始時から遅れて、洗浄排液が原液注入位置122に流れ着く頃に稼働開始してもよい。
【0074】
これにより、洗浄排液が原液注入位置122に流れ着く前に原液注入部180から原液が供給されることにより、洗浄排液の液性が原液の液性側に傾くことを抑制することができる。
【0075】
また、他の中和開始条件を設定してもよい。この場合、制御部10は、第1pHセンサ191によって測定された洗浄排液のpHが第1設定範囲を超えた時点から、原液注入部180から原液を透析排液流路120に注入させる。第1設定範囲としては、たとえば、上記排出基準の許容範囲であり、pH6.0以上8.4以下である。すなわち、第1pHセンサ191によって測定された洗浄排液のpHが第1設定範囲を超えたことが、中和開始条件となる。これにより、排出基準を満たすために中和が必要となった時点から中和を開始することができる。
【0076】
また、制御部10は、第1pHセンサ191によって測定された洗浄排液のpHが第1設定範囲を包含する第2設定範囲を超えた時点から、原液注入部180からの原液の流量を増加させてもよい。第2設定範囲としては、たとえば、予め想定された洗浄排液のpHの範囲であり、pH5.8以上8.6以下である。ポンプ181の出力を上げることにより、原液注入部180からの原液の流量を増加させることができる。これにより、中和に要する原液の量の増加に対応して、原液注入部180から原液を注入することができる。
【0077】
上記のように、第2設定範囲として、第1設定範囲より上限および下限の各々を0.2程度広くすることにより、洗浄排液の濃度のばらつき、および、pHセンサの測定精度のばらつきなどによって、制御部10が過剰反応しないようにすることができる。すなわち、制御部10によるポンプ181の出力変動が過度になりすぎることを抑制できる。
【0078】
さらに、制御部10は、第1pHセンサ191によって測定された排液のpHが第2設定範囲を超えた時点から、第1pHセンサ191によって測定された排液のpHが第2設定範囲から超えた値に比例して、原液注入部180からの原液の流量を増加させてもよい。これにより、安定して洗浄排液を中和することができる。
【0079】
また、制御部10は、第2pHセンサ192によって測定された排液のpHが第3設定範囲を超えた時点から、原液注入部180からの原液の流量を増加させてもよい。第3設定範囲としては、たとえば、上記排出基準の許容範囲であり、pH6.0以上8.4以下である。これにより、下水道に排出される洗浄排液のpH値が、酸性側に傾きすぎないようにすることができる。
【0080】
さらに、制御部10は、第2pHセンサ192によって測定された排液のpHが第3設定範囲を超えた時点から、第2pHセンサ192によって測定された排液のpHが第3設定範囲から超えた値に比例して、原液注入部180からの原液の流量を増加させてもよい。これにより、下水道に排出される洗浄排液のpH値をフィードバックして、原液注入部180から注入する原液の量を増加させることができる。
【0081】
上記の制御部10による制御は、組み合わせ可能な範囲で適宜組み合わせて行なわれてもよい。
【0082】
本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム100においては、原液を用いて洗浄排液を中和しているため、簡易な構成で、中和処理後の排液のpHを設定範囲内に維持することができる。
【0083】
また、酸洗浄時には第2原液を用いて中和し、アルカリ洗浄時には第1原液を用いて中和することにより、酸洗浄およびアルカリ洗浄の両方の洗浄排液を中和することができる。
【0084】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムについて説明する。本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムは、第1粉末溶解装置140および第2粉末溶解装置150によって原液注入部が構成されている点、および、第1測定部が設けられていない点のみ、本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム100と異なるため、本発明の実施形態1に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム100と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0085】
図3は、本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システムの構成を示す系統図である。なお、図3においては、透析排液流路120に接続されている部分のみ図示している。
【0086】
図3に示すように、本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム200においては、透析排液流路120において、混合部223およびバッファ部225が設けられている。混合部223およびバッファ部225の各々は、透析排液流路120に接続されている槽で構成されている。
【0087】
本実施形態においては、第1貯液部として、第1粉末溶解装置140に内蔵されている第1タンクを用いている。第2貯液部として、第2粉末溶解装置150に内蔵されている第2タンクを用いている。
【0088】
原液注入部180は、第1粉末溶解装置140に内蔵されている第1ポンプ、および、第2粉末溶解装置150に内蔵されている第2ポンプを用いている。本実施形態においては、第1pHセンサ191は設けられていない。
【0089】
本発明の実施形態2に係る透析排液流路を流れる排液の中和システム200においても、原液を用いて洗浄排液を中和しているため、簡易な構成で、中和処理後の排液のpHを設定範囲内に維持することができる。また、酸洗浄時には第2原液を用いて中和し、アルカリ洗浄時には第1原液を用いて中和することにより、酸洗浄およびアルカリ洗浄の両方の洗浄排液を中和することができる。
【0090】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0091】
10 制御部、11 記憶部、12 演算部、100,200 中和システム、110 透析装置、120 透析排液流路、122 原液注入位置、123,223 混合部、124 ガス分離部、125,225 バッファ部、126 メッシュ、127 第1測定位置、128 第2測定位置、129 末端、130 洗浄液供給部、140 第1粉末溶解装置、141 第1貯液部、150 第2粉末溶解装置、151 第2貯液部、160 逆浸透水生成装置、170 透析液調製装置、171 透析液流路、172 洗浄液注入位置、180 原液注入部、181 ポンプ、182 第1開閉弁、183 第3開閉弁、184 第2開閉弁、185 第4開閉弁、191 第1pHセンサ、192 第2pHセンサ、193 石灰石、194 排気ファン。
図1
図2
図3